ページ番号1009498 更新日 令和4年10月17日

原油市場他: OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が原油生産目標を日量200万バレル削減する旨決定したことにより、反発する場面を見せる原油価格

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レポートID 1009498
作成日 2022-10-17 00:00:00 +0900
更新日 2022-10-17 12:20:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 37
抽出データ
地域1 グローバル
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国・地域 グローバル
2022/10/17 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより、製油所での石油製品製造活動が鈍化したこと等もあり、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となり、ガソリンは平年幅上限付近に位置する、そして、留出油在庫は平年幅を下回る、それぞれ量となった。また、米国戦略石油備蓄(SPR)からの原油供給等もあり原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は維持されている。
  2. 2022年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴うロシアから欧州方面への石油製品の流れの減少懸念により、欧州での軽油価格が上昇するとともに製油所での軽油製造利幅が拡大したこともあり、製油所での原油精製処理が進んだ結果、同地域の在庫は減少した。ただ、米国では当該在庫は増加した他、日本でも、9月の連休時に台風が来襲したことに伴い個人の外出が敬遠されたことによりガソリン需要が下振れしたこと等もあり、製油所の稼働が低下するとともに原油在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリン等を中心として在庫は減少した。ただ、欧州では、製油所の稼働が上向いたこともあり、石油製品在庫は若干の減少にとどまった。また、日本では、冬場の暖房シーズンに伴う需要期に向け灯油在庫の積み上げが進んだこと等により、石油製品在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となったものの、平年幅下限付近に位置する量となっている。
  3. 2022年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、9月20~21日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において0.75%の政策金利引き上げが決定された等により、9月16日には1バレル当たり85.11ドルであった原油価格(WTI)は下落傾向となり、9月26日には76.71ドルと2022年1月3日以来の低水準に到達する場面が見られた。しかしながら、2023年12月にかけての日量200万バレルの減産措置強化が10月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定されたこと等が、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、10月7日には原油価格は1バレル当たり92.64ドルと8月29日以来の高水準の終値にまで反発した。それでも、10月11日に国際通貨基金(IMF)が2023年の世界経済成長率見通しを下方修正した旨発表したこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、10月14日の終値は1バレル当たり85.61ドルとなっている。
  4. この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期接近を市場が意識し始める等の要因により、原油価格に上方圧力が加わる可能性がある。他方、世界各国等による物価上昇沈静化のための金融引き締め策の推進等を通じた、経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が原油価格を抑制するものと考えられる。ただ、原油相場の下落継続もしくは急落の兆候に対しては、サウジアラビア等を含むOPECプラス産油国が口先介入を含め、原油価格下落抑制を試みるものと見られる。一方、OPECプラス産油国減産措置強化方針を巡り米国がサウジアラビア等に対しどのように働きかけを強めていくか、といったことが今後の石油市場における注目点になろう。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国が2022年11月から2023年12月にかけての原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定

(1) 協議内容等

2022年10月5日にOPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は閣僚級会合を対面形式で開催し(対面形式でのOPECプラス産油国閣僚級会合開催は2020年3月5日以来のことであった)、2022年11月から2023年12月にかけてのOPECプラス産油国の原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定した(表1参照)。

表1 OPECプラス産油国の減産幅

この決定の背景には、世界経済及び石油市場を巡り不確実性が強まったことに加え、石油市場に対しOPECプラス産油国が長期的な対処方針の表明を強化する必要があったことがある旨当該会合後に発表された声明で示唆された。

さらに、生産目標の完全遵守に固執することが極めて重要であることを当会合で再確認し、(これまで生産目標を達成できていない産油国は生産目標を完全に達成するための)追加生産調整計画(当該調整期間は2023年3月31日までとする)を速やかに提出するよう、会合で要請された。

なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は12月4日に開催される予定である。また、OPECプラス産油国閣僚級会合はOPEC総会とともに6ヶ月毎に開催することを今回の会合で決定した他、市場の動向により必要とされる場合にOPECプラス産油国閣僚級会合を含めた追加の会合を開催する権利をOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)に付与することとした(なお、JMMCは2ヶ月毎に開催される予定である旨、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が会合開催後の記者会見で明らかにしている)。

今回のOPECプラス産油国閣僚級会合後の記者会見で、サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、西側諸国等による金融引き締め政策推進(に伴う原油相場への下方圧力)に対し先制的に行動する必要があった旨説明した。

他方、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合での決定に対し、10月5日に米国のバイデン大統領は減産措置の強化は必要ないものであるとして批判した。また、米国バイデン政権のジャン-ピエール報道官も、10月5日の記者会見の場において、OPECプラス産油国はロシアと歩調を合わせており、今回の閣僚級会合での決定はOPECプラス産油国の利害に沿ったものであり、その決定は誤りである旨非難した。さらに、10月5日に米国バイデン政権の国家安全保障担当顧問のサリバン氏と国家経済会議(NEC: National Economic Council)委員長のディーズ氏が声明を発表しており、その中で、ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵略に伴う継続的な負の影響と世界経済が格闘する中でのOPECプラス産油国による短絡的な減産の決定に失望した旨バイデン大統領が表明している。また、バイデン大統領は、米国民を防衛しエネルギー安全保障を増進するため適切な戦略石油備蓄放出(SPR)を指示し続ける意向である他、エネルギー省長官に対し中期的な国内(原油)生産の増加を継続させるための追加の責任ある行動を検討するよう指示するとした。また、バイデン政権は、米国エネルギー企業に対しガソリン小売価格を引き下げ続けるよう要請した他、OPEC産油国のエネルギー価格に対する支配力を低減させるための追加方策と権限につき議会と協議する方針である旨明らかにした(後述)。

なお、10月5日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催後の記者会見においてサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は、米国バイデン政権の声明について意見を求められたが、「そのような立場にない」として発言を拒否している。

 

(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

8月3日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合において、OPECプラス産油国は、2022年9月につき前月比で日量10万バレルの原油生産目標引き上げを決定したが、当該会合開催以降、石油市場では、米国ガソリン需要低迷を巡る懸念の増大が、原油価格に下方圧力を加えた(図1参照)。また、中国での新型コロナウイルス感染抑制のための一部都市における封鎖措置等の実施及び中国経済が減速しつつあることを示唆する指標類の発表も、原油価格を押し下げた。さらに、物価上昇を抑制するための政策金利引き上げを支持する旨の欧米金融当局者の発言等により、この先の世界経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことでも、原油価格は下振れした。このため、前々回閣僚級会合開催直前の8月2日には1バレル当たり94.42ドルの終値であった原油価格(WTI、以下油種が特定されていない場合は同様)は前回閣僚級会合直前の9月2日には同86.87ドルの終値へと下落したうえ、8月16日には同86.53ドルの終値と、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始(2月24日)以前の1月25日以来の低水準に到達する場面が見られた他、特に8月29日から9月1日にかけては、1バレル当たり10.40ドル下落するなど、原油価格の下げ足が速まる兆候が見られた。

図1 原油価格の推移(2021~22年)

このようなことから、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は、原油価格のさらなる下落による原油収入減少を防止するために先制的に行動することを優先させたものと見られ、市場での石油需給緩和感の抑制を図るべく、10月の原油生産目標を前月比で日量10万バレル引き下げる旨9月5日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合で決定したものと見られる。

ただ、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降においても、米国等での夏場ドライブシーズンに伴うガソリン需要期終了による季節的なガソリン需給の緩和感が石油市場で増大したことが、原油相場に下方圧力を加えた。また、9月20~21日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の政策金利の引き上げが決定された他、この先の政策金利予想が2022年末時点で4.4%、2023年末時点で4.6%と、6月14~15日のFOMC開催の際に発表された前回予想である2022年末時点で3.4%、2023年末時点で3.8%から引き上げられた旨9月21日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が明らかにしたこと、FOMC開催後の記者会見でパウエルFRB議長が、物価上昇沈静化のため経済成長がある程度犠牲になる恐れがある旨明らかにしたことや、米国のクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁及びボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁を初めとして複数の米国金融当局関係者が積極的な金融引き締め政策推進を支持する旨示唆したことにより、米ドルが上昇したり、政策金利の引き上げを含む積極的な金融引き締め政策に伴い経済が減速するとの懸念が市場で増大したことを通じ米国株式相場が下落したりしたことでも、原油価格は押し下げられた。さらに、米国に続き、9月22日に英国、スイス、ノルウェー及び南アフリカ等の中央銀行が政策金利引き上げを発表したことにより、世界的な景気後退発生に対する懸念が市場で増大したことでも、原油価格は下落した。加えて、1972年以来の大型減税を実施する旨9月23日に英国のトラス首相及びクワーティング財務相が発表したことにより、英国政府財政状況悪化懸念から英ポンドが大幅に下落したことに対し、前年比2%の物価上昇目標を達成するために必要とされる政策金利の調整を躊躇なく実施する方針ではあるものの、(英ポンド下落防止のための)緊急対策を講ずるつもりはない旨9月26日に英国イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁が示唆したことにより、英国経済混乱観測が市場で強まるとともに英ポンドが下落し続けた反面米ドルが上昇したことでも、原油価格は下振れした。

このようなことから、前回閣僚級会合直前の9月2日には1バレル当たり86.87ドルの終値であった原油価格は9月26日には同76.71ドルの終値と、ロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始以前の1月3日(この時の終値は同76.08ドル)以来の低水準に到達する場面が見られた。

そして、原油価格下落により、増産余地のない産油国を中心として原油収入が減少する可能性が増大したことへの懸念がOPECプラス産油国間で強まったものと見られる。特にロシアについては、2022年1月に日量1,007万バレルであった原油生産量(コンデンセート除く)が2022年9月には同974万バレルへと減少した(なお、同国の2022年9月の原油生産目標は日量1,103万バレルであったが、同国のウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う西側諸国等による対ロシア制裁発動及びロシア産石油を購入することに伴う西側諸国等の石油企業に対する評判リスク(Reputation Risk)への懸念による同国産石油購入敬遠の動き等もあり、同国は原油生産目標を大きく下回った水準での生産を余儀なくされていた)(図2参照)。

図2 ロシア原油生産量とウラル原油価格(2022年)

また、西側諸国の石油企業等がロシア産石油の購入を敬遠するようになったこともあり、ロシアの主要原油であるウラル(Urals)の原油価格が他の原油に比べ大幅に下落、4月18日には欧州の指標原油であるブレントの価格を1バレル当たり40ドル強下回る場面も見られた(なお、ここではブレント原油価格はタンカーへの積載地での引き渡し価格であることに対し、ウラル原油価格はロッテルダムでの引き渡し価格である)。

9月26日時点ではウラル原油価格がブレント原油価格を下回る幅は1バレル当たり23.36ドルと、4月18日に比べれば価格差は縮小したものの、4月18日から9月26日に至るまでに原油価格自体が下落した(4月18日には1バレル当たり113.16ドルの終値であったブレント原油価格は9月26日には84.06ドルの終値となった)ことにより、9月26日のウラル原油価格も1バレル当たり60.70ドルと4月18日の水準(同72.25ドル)から13.6%下落、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始の相当以前の時点である2021年4月13日(この時は同60.63ドル)以来の低水準となった。

このようにロシアでは、原油生産量が減少気味で推移したうえ、原油販売価格も下落したことから、ロシアの原油収入は2022年初頭に比べ相当程度減少しているものと推測される。このため、ウクライナへの事実上の侵攻実施に際しその戦費を捻出する必要のあるロシアは、国家予算の主要な部分を占める原油収入を確保する必要があるものの、同国は原油販売量を拡大することが困難であったこともあり、下落しつつあった原油価格の持ち直しに向けた方策の遂行を希望したものと見られ、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際し日量100万バレルの原油生産目標の引き下げを同国が主張する可能性が高い旨9月27日に伝えられた。

なお、前述の通りロシアの原油生産量は、従来から原油生産目標を下回っていたことにより、OPECプラス産油国全体として原油生産目標を引き下げたとしても、それは、原油生産目標近辺で生産するサウジアラビア等一部の産油国の原油生産には影響するものの、ロシアの原油生産には実質的には殆ど影響がないものと考えられた。

また、原油生産拡大に苦慮する他のOPECプラス産油国も、原油価格の引き上げが望ましい旨考えていたものと思われ、足元の原油価格が既に一部のOPECプラス産油国の予算に影響を与えつつあることにより、これ以上価格が下落するようであれば、OPECプラス産油国は減産措置の強化を検討するかもしれない旨9月22日にナイジェリアのシルバ石油資源相が発言した。

他方、米国では、9月3~5日の連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が発表する週間全米平均ガソリン小売価格は、6月13日に到達した1993年4月以降の週間統計史上最高水準である1ガロン当たり5.107ドルから折り返し、10月3日には同3.909ドルへと下落したことから、この面ではガソリン小売価格引き下げのための米国によるサウジアラビア等主要OPECプラス産油国に対する原油価格引き下げを巡る働きかけを強める必要性は相対的に後退する格好となった(図3参照)。

図3 米国ガソリン平均小売価格(2019~22年)

しかしながら、11月8日に予定される米国連邦議会中間選挙投票を控え、依然として米国のガソリン小売価格は低水準とは言い難い状況であったことから、原油価格の安定化を目指し、2022年10月に終了する予定であった米国連略石油備蓄(SPR)からの原油供給につき、当初予定された1.8億バレルの原油供給量に対し9月19日時点での実際の供給量が1.55億バレルにとどまっていたこともあり、11月も最大1,000万バレルの原油をSPRから供給する方針である旨9月19日に米国エネルギー省(DOE)が明らかにした他、米国国務省のエネルギー安全保障担当顧問であるホクスタイン(Hochstein)氏と米国バイデン政権の中東政策調整官であるマクガーク(McGurk)氏が9月23日にサウジアラビアのムハンマド皇太子との間でエネルギー安全保障やイエメン問題等の中東情勢を含む内容に関しサウジアラビアのジェッダで会合の機会を持った旨同日国営サウジ通信が伝えたうえ、10月5日のOPECプラス産油国閣僚級会合開催直前の時点においても、米国政府関係者が中東湾岸OPECプラス産油国関係者に対し電話連絡を通じ減産措置を撤回させようとしたと伝えられる(10月2日にはOPECプラス産油国が日量100万バレル超、10月4日には最大同200万バレルの、それぞれ減産措置強化を検討している旨報じられていた)など、引き続き米国はサウジアラビアに対し原油価格安定を巡る働きかけを行っていたものと見られる。

それでも、特にOPECプラス産油国の重要な構成国であるロシアを初めとする原油生産拡大余地の少ないOPECプラス産油国の原油収入の減少への懸念が増大したことに加え、原油相場下落拡大の兆候に対しOPECプラス産油国が市場での石油需給引き締まり感の醸成への行動で後手に廻るようだと、石油需給緩和観測の強まりによる原油価格の下落に対しOPECプラス産油国は寛容な姿勢を示していると市場に受け取られることから、原油相場にさらなる下方圧力が加わり続ける結果、全てのOPECプラス産油国にとって原油収入が減少し続けることにより、各産油国の財政運営面での支障が増大する恐れがあったこともあり、そのような市場での認識の拡大を防止すべく石油需給の引き締まり感の醸成を図るため、日量200万バレルの原油生産目標削減を決定したものと考えられる。

なお、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合における2022年10月比での日量200万バレルの原油生産目標の引き下げは、OPECプラス産油国の相当部分が原油生産目標を下回る水準で原油生産を行っている状況からすると、実質的な減産規模は主要中東湾岸OPECプラス産油国(サウジアラビア、UAE及びクウェート等)を中心として日量100万バレル程度にとどまるものと見られる(今回のOPECプラス産油国閣僚級会合後の記者会見でサウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相は実質的な減産規模は日量100~110万バレルと説明していた)。

OPECプラス産油国が2022年11月以降同年10月比で実質日量100万バレルの減産を実施した場合、2022年第4四半期は日量10万バレル程度世界石油需要が供給を上回るものと見られることから、直近では石油需給はほぼ均衡することとなる(表2参照)。

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2022年)(2022年10月5日時点)

しかしながら、今回決定された減産措置強化の期限は2023年12月末となっており、OPECプラス産油国が実質日量100万バレルの減産措置を2023年12月末まで実施した場合、2023年全体では日量140万バレル超程度世界石油需要が供給を上回ることになる(表3参照)など、石油需給引き締まり展望が相当程度強まる格好となっており、この面ではサウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国による原油価格回復に対する強い意志が現れているものと言えよう。

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2023年)(2022年10月5日時点)


(3) OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日の原油価格の動き等

今回の閣僚級会合開催に際し、OPECプラス産油国が原油生産目標を2022年10月比で最大日量200万バレル削減する旨検討していると10月4日に報じられたことを受け、同日の原油価格が前日終値比で1バレル当たり2.89ドル上昇するなど(また、OPECプラス閣僚級会合で日量100万バレル超の減産措置強化が検討される旨10月2日に伝えられたことから、10月3日の原油価格も前週末終値比で1バレル当たり4.14ドル上昇していた)、閣僚級会合を前にして、日量200万バレルの減産は市場関係者の心理に織り込まれる格好となっていた。

そして、実際OPECプラス産油国が日量200万バレルの減産措置実施を決定したとの情報が流れたことにより、同規模の減産措置検討の報道により上昇していた原油価格に対し、利益確定の動きが発生し始め、10月5日午前中(米国東部時間)には原油価格は一時1バレル当たり85.42ドル(前日終値比同1.10ドルの下落)にまで下落する場面が見られた。

しかしながら、その後OPECプラス産油国の減産措置が2022年11月のみならず(これまで1ヶ月毎に減産措置を調整してきたことから、市場では日量200万バレルの減産措置強化は短期的なものであるとの認識があったものと見られる)2023年12月まで実施する方針であることが明らかになった。

この場合、実質的に日量100万バレル規模の減産措置が実施されるとしても、2023年全体では日量140万バレル超程度世界石油需要が供給を上回ることから、より長期間石油需給が引き締り続けるとの観測が市場で広がったうえ、西側諸国等で検討されている、ロシア産石油に対し実質的に価格上限を設定する方策に対し、ロシアの原油生産を一時的に削減する可能性がある旨10月5日にロシアのノバク副首相が明らかにしたことにより、この先の一層の石油需給引き締まり感を市場が意識したことが、改めて原油相場に上方圧力を加えた。

また、この日EIAから発表された米国石油統計(9月30日の週分)で、原油在庫が前週比136万バレル、ガソリン在庫が同473万バレル、留出油在庫が同344万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫210万バレル程度の増加、ガソリン在庫同130万バレル程度の減少、留出油在庫同140万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことも、原油相場にとって支援材料となった。

この結果、OPECプラス産油国閣僚級会合開催当日である10月5日の原油価格は前日末終値比で1バレル当たり1.24ドル上昇し、87.76ドルと、9月14日(この時の終値は88.48ドル)以来の高水準の終値に到達した。

 

2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2022年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量875万バレル、前年同月比5.9%程度の減少と、6月の当該需要である同913万バレル、同2.5%程度の減少から、需要量が下振れしたうえ前年同月比での減少率も拡大した(図4参照)。ただ、当該需要は速報値(前年同月比7.0%程度減少の日量863万バレル)からは上方修正されている。米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)の調査による全米平均ガソリン小売価格が6月13日時点で1ガロン当たり5.107ドルと、1993年4月以降の週間統計史上最高水準に到達した他、6月の同国消費者物価指数(CPI)が、前年同月比で9.1%の上昇と、1981年11月(この時は同9.6%の上昇)以来の大幅な伸びとなったことにより、7月の実質個人可処分所得が前年同月比で3.7%程度減少したこともあり、同月の自動車運転距離数が前年同月比で3.3%の減少と、6月の同1.6%の減少から減少率が拡大したことが、同月のガソリン需要に反映されているものと考えられる。なお、2022年7月の同国ガソリン需要は2019年7月の当該需要(日量953万バレル)(確定値)を8.2%程度下回っている。他方、2022年9月の同国ガソリン需要(速報値)は日量876万バレル、前年同月比で2.0%程度の減少となっており、8月当該需要である同882万バレルから需要量が減少したものの、8月の前年同月比3.9%程度の当該需要の減少からは減少率が縮小している。9月3~5日の米国労働者の日(レイバー・デー)の休日(9月5日)に伴う連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、季節的にガソリン需要が低下したことが、前月比での需要量の減少の背景にあるが、8月時点では1ガロン当たり3.938~4.304ドルであった全米平均ガソリン小売価格は、9月時点では同3.771~3.859ドルへと下落したこともあり、9月の米国CPIも前年同月比で8.2%の上昇と8月の同8.3%の上昇から上昇率が低下するとともに9月の同国推定実質個人可処分所得も前年同月比1.9%の減少と8月の同3.6%の減少から減少率が縮小したこともあり、9月の推定自動車運転距離数が前年同月比で0.3%程度の減少と8月の同0.4%の減少から減少率が低下したことが、9月のガソリン需要の前年同月比での減少率が8月の前年同月比での減少率から縮小した一因であるものと考えられる。なお、2022年9月の米国ガソリン需要は2019年同月の当該需要(日量920万バレル)(確定値)を4.6%程度下回っている。そして、9月上旬に夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに秋場の不需要期に突入したことから、メンテナンス作業実施等により米国の製油所は原油精製処理量を減少させた(図5参照)。そしてそれとともに、製油所等でのガソリン製造活動も不活発化した(ガソリン最終製品生産量は図6参照)ことが、同国ガソリン需要の前月比での減少を相殺して余りあったことにより、9月上旬から10月上旬にかけ同国ガソリン在庫は減少傾向となったが、平年幅上限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図4 米国ガソリン需要の伸び(2006~22年)

図5 米国の原油精製処理量(2009~22年)

図6 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~22年)

図7 米国ガソリン在庫推移(2003~22年)

2022年7月の米国留出油需要(確定値)は日量372万バレルと前年同月比で1.2%の増加となり(図8参照)、6月の同399万バレル(前年同月比1.2%程度の増加)から需要量は減少したものの前年同月比の増加率はほぼ同水準となった。また、当該需要は速報値(前年同月比0.1%程度増加の日量368万バレル)から上方修正されている。7月も6月同様米国では実質個人可処分所得が前年同月比で減少するなど、経済情勢は必ずしも良好ではなかったものの、2022年4月の米国新築住宅着工件数が年率181万戸と2006年5月(この時は同194万戸)以来の高水準に到達するなどしたことから、7月も6月とともに建築中の住宅等向けのセメントやガラス等を含む資材の製造及び建築現場への輸送(そして活発化した建築活動を支援する製造業及び製造品等の輸送)活動が活発化したものと見られること等が、7月の同国留出油需要の伸びに寄与したものと考えられる(なお、7月の米国物流活動は前年同月比で3.9%の増加と6月の同3.2%の増加を上回り2022年2月(同4.6%の増加)以来の高水準の増加となった)。なお、2022年7月の米国留出油需要は2019年7月の当該需要(日量399万バレル)(確定値)比でほぼ横這いとなっている。また、2022年9月の留出油需要(速報値)は日量373万バレルと前年同月比で7.6%程度の減少となり、8月の当該需要量(速報値)の日量375万バレル、前年同月比5.9%の減少から、需要量が若干ではあるが下振れした他、前年同月比での減少率も拡大した。ただ、同月の推定実質個人可処分所得は前年同月比で1.9%減少しているものの、8月の同3.6%減少よりも減少率が縮小しているうえ、9月の同国推定鉱工業生産は前年同月比5.1%程度の増加と8月の同3.7%の増加から増加率が上振れしている。加えて、2022年9月の米国輸送担当者指数(LMI: Logistics Manager Index、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が61.4と8月の59.7から上昇するなど、物流活動は持ち直しつつあるものと見られる。このようなことから、9月の同国留出油需要は速報値から確定値に移行する段階で上方修正されるか、もしくは10月の当該需要が反動で上向くといった展開となる可能性もある。なお、2022年9月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量392万バレル)(確定値)を5.0%程度下回っている。また、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに製油所の稼働率が低下した結果、石油製品製造活動が不活発化したことにより製油所での留出油生産ももたつき気味となった(図9参照)一方、8月時点で欧州の中間留分在庫が前月及び前年同月を下回るなどする中、ロシアのウクライナに対する事実上の侵攻実施に伴い2022年12月5日を以てロシア産原油の、2023年2月5日を以て同国産石油製品の、それぞれ輸入を原則禁止する旨の制裁を実施することを欧州連合(EU)が6月3日に決定(即日発効)したこともあり、この先冬場に向けた留出油在庫の一層の積み上げの必要性に迫られたことにより、例えば欧州の軽油価格の米国の軽油価格を上回る幅が9月に入り拡大したことに伴い、米国から欧州方面等への軽油輸出が堅調に推移したことから、9月上旬から10月上旬にかけ米国の留出油在庫は減少傾向となった結果、平年幅下限を割り込む量となっている(図10参照)。

図8 米国留出油需要の伸び(2006~22年)

図9 米国の留出油生産量(2009~22年)

図10 米国留出油在庫推移(2003~22年)

2022年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で0.9%程度増加の日量2,034万バレルとなり(図11参照)、6月の同2,077万バレル、前年同月比0.9%程度の増加から、需要量は減少したものの増加率はほぼ同水準となった。その他の石油製品の需要が前年同月比で日量59万バレル増加していることが、石油製品需要の増加に寄与する格好となっているが、このうちエタン需要が同37万バレル増加しており、これは、2021年末頃に稼働を開始した米国テキサス州コーパス・クリスティにおけるエクソンモービルとサウジアラビア基礎産業公社(SABIC: Saudi Basic Industries Corporation)との合弁によるエタン分解装置(エチレン製造能力年間180万トン)(2022年1月20日発表)、及び米国テキサス州ポート・アーサーにおけるトタルエナジーズとボレアリス(Borealis)との合弁によるエタン分解装置(エチレン製造能力年間100万トン)(7月21日操業開始発表)による在庫積み上げを含むエタン購入の活発化が寄与しているものと考えられる。また、ガソリン、留出油、プロパン/プロピレン等の需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことにより、同国石油需要も速報値(前年同月比1.5%程度減少の日量1,987万バレル)から確定値に移行する段階で上方修正されている。なお、2022年7月の米国石油需要は、2019年7月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を1.9%程度下回っている。他方、2022年9月の米国石油需要(速報値)は日量1,994万バレルと前年同月比で1.0%程度の減少となり、8月の同国石油需要(速報値)である日量2,006万バレルは下回るものの、8月の同2.5%の減少から減少率が縮小している。ガソリン及び留出油等の需要が前月比で減少していることが、同国石油需要の前月比での減少の一因になっているものと見られるが、その他の石油製品の需要が前年同月比で10.3%程度増加していること(米国でのエタン分解装置の新規稼働によりエタン需要が押し上げられていることが背景にあるものと考えられる)が、前年同月比の減少率を縮小させる方向で作用している。なお、2022年9月の米国石油需要は、2019年9月の当該需要(日量2,025万バレル)(確定値)を1.4%程度下回っている。他方、欧州の代表的な原油指標であるブレントの価格が米国の代表的な原油指標であるWTIの価格を相当程度上回っていたこともあり(ロシアのウクライナに対する事実上の侵攻実施に伴う、ロシア産を中心とする原油供給減少による欧州での石油需給引き締まり懸念の強まりが背景にあるものと見られる)、米国から欧州方面等に向け原油が高水準で輸出されたものの、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに米国製油所での原油精製処理量が減少したうえ、同国の戦略石油備蓄(SPR)から原油が供給され続けた(9月9日の週から10月7日の週にかけ1週当たり458~841万バレルの原油が供給された)ことで相殺されて余りあったことから、9月上旬から10月上旬にかけ原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を上回る状態は継続している(図12参照)。そして、留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となったものの、原油在庫が平年幅上限を超過する量、ガソリン在庫が平年幅上限付近に位置する量、留出油在庫が平年幅下限を割り込む量となったが、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図13及び14参照)。

図11 米国石油需要の伸び(2006~22年)

図12 米国原油在庫推移(2003~22年)

図13 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~22年)

図14 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~22年)

2022年9月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う欧州諸国による対ロシア制裁の発動や欧州の企業がロシア産石油を購入することを巡る評判リスクへの懸念からロシア産石油購入が敬遠されたことに伴う、ロシアから欧州方面への石油製品の流れの減少懸念により、特に欧州での石油製品需要の中心である軽油の価格が上昇するとともに製油所での軽油製造利幅が拡大したこともあり、製油所の稼働が堅調に推移するとともに原油精製処理が進んだ結果、当該地域での在庫は減少した。ただ、米国では当該在庫は増加した他、日本でも、9月の連休時に台風が来襲したことに伴い個人の外出が敬遠されたことにより、ガソリン需要が下振れした他、物価上昇による経済への負の影響と見られる要因等により軽油需要が抑制されたこともあり、同月の製油所の稼働が低下するとともに原油在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図15参照)。石油製品については、米国では、ガソリンを中心として在庫は減少した。ただ、欧州では、製油所の稼働が上向いたことに伴い石油製品生産活動が活発化したこともあり、石油製品在庫は減少したもののその幅はごく小さいものにとどまった。また、日本では秋場のメンテナンス作業実施や装置の不具合により石油化学工場のナフサ分解施設の稼働が低下したと見られることによりナフサ在庫が増加した他、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用の灯油需要期に向け灯油在庫の積み上げが進んだことにより、石油製品在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となったものの、平年幅下限付近に位置する量となっている(図16参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっている一方、石油製品在庫が平年幅下限付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上方付近に位置する量となっている(図17参照)。なお、2022年9月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は58.8日と8月末の推定在庫日数(58.9日)から減少している。

図15 OECD諸国原油在庫推移(2005~22年)

図16 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~22年)

図17 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~22年)

9月14日に1,500万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は、9月21日には1,500万バレル台前半程度の量へと減少した。しかしながら、9月28日には1,500万バレル台半ば程度の水準へと回復したうえ、10月5日には1,600万バレル台前半程度、10月12日には1,600万バレル台半ば程度の量へと、それぞれさらに増加した。北半球における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了後の秋場のガソリン不需要期の到来が、アジア地域の製油所でのガソリン製造利幅を圧迫した他、製油所でのメンテナンス作業の実施時期に突入しつつあったこともあり、製油所の稼働が低下した結果石油製品生産活動が鈍化したものと思われることから、シンガポールの軽質留分輸入はもたつき気味となった。しかしながら、季節的なガソリン不需要期に突入に加え夏場のガソリン小売価格上昇が東南アジア等の消費国における当該製品需要を抑制する格好となったことがシンガポールからの軽質留分輸出を抑制する格好となったことにより相殺されて余りあったことから、シンガポールでの軽質留分在庫が増加したものと考えられる。そして、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期終了等に伴うシンガポールでの軽質留分在庫の増加に加え物価上昇等に伴うアジア地域経済の減速及びガソリン需要の伸びの鈍化懸念がアジア市場のガソリン価格に下方圧力を加えた結果、9月中旬から10月中旬にかけてのガソリンとドバイ原油との価格差(この場合従来ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っていた)は、ドバイ原油価格がガソリン価格を上回る場面がしばしば見られた他、ガソリン価格がドバイ原油価格を上回ったとしても、その幅が限定的なものにとどまる状態となった。

また、9月1日に実施された中国四川省成都市での新型コロナウイルス感染抑制のために都市封鎖措置(同市の約2,100万人の居住者が外出規制等の対象となった)が9月19日に全域で解除となって以降、同国では大規模都市封鎖実施が目立つ状況にはなっていない(但し10月4日に中国雲南省や新疆ウイグル自治区等で新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖が一部都市で実施された他、同国上海市でも新型コロナウイルス感染者数が増加しつつあるため学校の閉鎖や経済活動の制限が行われていると10月13日に伝えられるなど、新型コロナウイルス感染が完全に収束しているわけではない)。このような面で、同国を中心として石油化学製品需要が持ち直しつつある結果、原料となるナフサの需要が下支えされるようになってきているものと見られることが、ナフサ価格の下落を抑制しているものと考えられる。しかしながら、8月末以降に実施されつつある日本や韓国を含むアジア諸国等におけるナフサ分解装置のメンテナンス作業に伴う、それら施設からのナフサ需要の下振れ可能性を市場関係者が意識しつつあったことが、アジア市場でのナフサ価格の上昇を抑制したことから、9月中旬から10月中旬にかけてのナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は比較的限られた範囲内で推移した。

9月14日には800万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、9月21日には800万バレル台前半程度、9月28日には700万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと低下したものの、10月5日には700万バレル台後半程度、10月12日には800万バレル台前半程度の、それぞれ量へと回復した。ただ、それでも9月14日の水準は下回っている。夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、メンテナンス作業実施等を含め製油所の稼働が低下したことに伴い軽油を含む中間留分製造活動が不活発化したことに加え、9月22日以降フランスで給与水準引き上げ等の労働条件改善を要求した労働者によるストライキが拡大、10月4日時点で同国の原油精製能力(2021年時点で日量114万バレルとされる)の65%程度に相当する日量74万バレル程度の原油精製能力を保有する製油所の稼働が停止したことより、欧州における石油製品需要の中心である軽油の需給引き締まり感が強まったこともあり、特に欧州方面への軽油輸出が活発化したことが、シンガポールでの中間留分在庫減少傾向の背景にあるものと考えられる。そして、シンガポールでの中間留分在庫が減少傾向となったことが、アジア市場の軽油価格に上方圧力を加えたものの、インドでは、雨季(モンスーン)到来により軽油需要が抑制されている(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前の軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路及び建設工事の進捗が減速することなどにより物流や製造業等での軽油の利用が鈍化すること等による)ことに加え、物価上昇とその沈静化のための世界各国及び地域の中央銀行による政策金利引き上げの動きにより経済が減速しつつあることが軽油等の需要を抑制する形で作用したうえ、中国政府が2022年の最後に付与する予定である石油製品輸出枠(ガソリン、ジェット燃料及び軽油とされる)の規模を最終的に1,325万トンで決定した旨9月30日に報じられたことが、アジア市場での軽油需給等の緩和感を拡大させる格好となったことにより軽油価格に下方圧力を加えたことから、9月中旬から10月中旬にかけては、アジア市場での軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲で変動したものの、8月中旬から9月中旬に比べ価格差は縮小する傾向が認められる。

9月14日に1,900万バレル半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、9月21日には2,300万バレル台後半程度の量へと増加した。9月28日には2,200万バレル台前半程度の量へと減少したものの、10月5日には2,200万バレル台後半程度の水準へと回復した。また、10月12日には2,000万バレル台前半程度の量へと減少したものの、それでも9月14日の水準は上回っている。9月から10月にかけ、世界各地域では気温が低下するとともに、夏場の空調向け電力供給のための発電部門での重油需要が減少してきたものと見られる反面、製油所における軽油製造を巡る利幅が比較的底堅かったことが原油精製処理活動の不活発化を抑制する格好となったことにより、かえって製油所での軽油生産とともに重油生産が促されたことが、シンガポールでの重油在庫増加傾向の背景にあるものと考えられる。そしてこのように重油在庫が増加傾向となった他、中国政府が2022年最後に付与する予定である低硫黄重油輸出枠の規模を最終的に175万トンとする旨決定したと9月30日に報じられたことが、アジア市場での重油価格に下方圧力を加えた結果、9月中旬から10月中旬にかけアジア市場での高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、冬場の空調のための発電部門での燃料需要期に向け、価格が高水準で推移する天然ガスから比較的安価である低硫黄重油への燃料転換が促進されることを含め発電部門向け重油需要が増加するとの観測が市場で広がり始めたことが、アジアでの低硫黄重油価格に上方圧力を加えたことから、低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は若干ながら拡大する傾向を示した。

 

3. 2022年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況

2022年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、9月20~21日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において0.75%の政策金利引き上げが決定された他、2023年にかけての政策金利予想が上方修正された旨9月21日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が明らかにしたこと、英国のトラス政権が大型減税方針を発表したことにより同国財政状況悪化懸念が市場で増大するとともに英ポンドが下落した反面米ドルが上昇したこと等により、9月16日には1バレル当たり85.11ドルであった原油価格(WTI)は下落傾向となり、9月26日には76.71ドルと2022年1月3日(この時の終値は76.08ドル)以来の低水準に到達する場面が見られた。しかしながら、その後OPECプラス産油国による大幅減産措置強化検討の動きが報じられた他、実際2023年12月にかけての日量200万バレルの減産措置強化が10月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定されたこと等が、原油相場に上方圧力を加えたこともあり、10月7日には原油価格は1バレル当たり92.64ドルと8月29日(この時は97.01ドル)以来の高水準の終値にまで反発した。それでも、10月10日に発表された9月の米国非農業部門雇用者数の前月比での増加が市場の事前予想を上回っていた旨判明したこともあり米ドルが上昇したこと、10月11日に国際通貨基金(IMF)が2023年の世界経済成長率見通しを下方修正した旨発表したこと、中国での厳格な新型コロナウイルス感染抑制策実施方針維持が示唆されたこと等が原油相場に下方圧力を加えた結果、10月14日の終値は1バレル当たり85.61ドルとなっている(図18参照)。

図18 原油価格の推移(2003~22年)

9月19日には、同月20~21日に開催される予定である米国連邦公開市場委員会(FOMC)を控えた持ち高調整が市場で発生したことに加え、OPECプラス産油国の8月の原油生産量が生産目標を日量358万バレル(7月は同289万バレル)下回っている旨内部文書が示していると9月19日に報じられたことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.62ドル上昇し、終値は85.73ドルとなった。ただ、FOMCにおいて0.75%の政策金利引き上げが決定される可能性が高いとの観測が市場で増大したことにより9月20日に米ドルが上昇したうえ、FOMCにおける0.75%の政策金利引き上げ決定観測に加え、9月19日夕方(米国東部時間)に米国自動車製造大手フォード・モーターの2022年7~9月期業績が発表された際、当初見込みよりも原材料費等が10億ドル上振れしている旨同社が明らかにしたこともあり、物価上昇が米国製造業部門を圧迫しつつある旨の懸念が市場で拡大したこともあり、9月20日の米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり84.45ドルと前日終値比で1.28ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2022年10月渡し原油先物契約は取引を終了したが、11月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり83.94ドル(前日終値比1.42ドルの下落)であった)。9月21日も、中国政府が1,500万トンの石油製品輸出枠付与を承認した旨9月21日に報じられたことにより、アジア市場を中心として石油製品需給緩和感を市場が意識したことに加え、9月21日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(9月16日の週分)で、ガソリン在庫が前週比157万バレル、留出油在庫が同123万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(ガソリン在庫同43~45万バレル程度の減少、留出油在庫同5万バレル程度の減少~同42万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したこと、9月20~21日に開催されたFOMCにおいて0.75%の政策金利引き上げが決定されたうえ、この先の政策金利予想が2022年末時点で4.4%、2023年末時点で4.6%と、6月14~15日時点の前回予想である2022年末時点で3.4%、2023年末時点で3.8%から引き上げられた旨9月21日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が明らかにしたこともあり、米ドルが上昇した他、FOMC開催後の記者会見でパウエルFRB議長が物価上昇沈静化政策のため経済成長がある程度犠牲になる恐れがある旨示唆したことにより、この先の同国等の経済減速の可能性を市場が意識したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.51ドル下落し、終値は82.94ドルとなった。この結果原油価格は9月20~21日の2日間で1バレル当たり合計2.79ドル下落した。ただ、9月22日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、足元の原油価格が既に一部のOPECプラス産油国の予算に影響を与えつつあることもあり、これ以上価格が下落するようであればOPECプラス産油国は減産措置の強化を検討するかもしれない旨9月22日にナイジェリアのシルバ石油資源相が発言したことにより、この先のOPECプラス産油国による減産強化と石油需給の引き締まりの可能性を市場が意識したこと、9月22日に開催された欧州連合(EU)臨時外相会合で、9月21日にロシアのプーチン大統領がウクライナへの事実上の侵攻に対応するために部分的動員令を発令したことに対応し、さらなる対ロシア制裁発動を用意することで合意したことにより、西側諸国等とロシアとの対立の高まりに伴うロシアからのエネルギー供給への影響を巡る懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.55ドル上昇し、終値は83.49ドルとなった。しかしながら、9月20~21日に開催されたFOMCにおいて0.75%の政策金利引き上げが決定されたうえ、この先の政策金利予想が前回予想時よりも引き上げられた旨9月21日にFRBが明らかにした流れを引き継いだこともあり、9月23日に米ドルが上昇した他、FOMC開催後の記者会見でパウエルFRB議長が、物価上昇沈静化政策のため経済成長がある程度犠牲になる恐れがある旨示唆したことにより、この先の同国等の経済減速の可能性を市場が意識した流れを引き継いだこともあり、9月23日の米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.74ドルと前日終値比で4.75ドル下落した。なお、9月23日の原油価格の終値は2022年1月10日(この時は1バレル当たり78.23ドル)以来の低水準であった。

また、1972年以来の大型減税を実施する意向である旨9月23日に英国のトラス首相及びクワーティング財務相が発表したことにより、英国政府財政状況悪化懸念が発生したこともあり、同日英国国債が急落するとともに英ポンドが下落したことに対し、9月26日に英国イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁は英ポンド下落防止のための緊急対策を実施することはしない旨示唆したことにより、この日再び英ポンドがさらに下落した他、米国のクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁及びボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が積極的な金融引き締め政策推進を支持する旨9月26日に表明したことにより、米ドルが上昇したことに加え、米ドル上昇により米国輸出志向型企業業績に悪影響が及ぶとの観測が市場で発生したこともあり米国株式相場が下落したことから、9月26日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり2.03ドル下落し、終値は76.71ドルとなったが、この終値は2022年1月3日(この時の終値は76.08ドル)以来の低水準なものであった。ただ、9月27日には、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、ハリケーン「イアン(Ian)」が米国メキシコ湾東部に進入しつつあったことに伴い、米国メキシコ湾沖合の原油生産(日量170万バレル程度)のうちの約11%に当たる日量19万バレル超が停止している旨9月27日に米国安全環境執行局(BSEE: Bureau of Safety and Environmental Enforcement)が明らかにしたことにより、当該地域からの原油供給減少による石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、イラクのアブドルジャバル石油相が、(最近の原油価格下落に対し)原油価格の状況を監視するとともに石油需給均衡を希望する旨発言したと9月26日午後遅く(米国東部時間)に伝えられた他、10月5日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合においてロシアが日量100万バレル程度の減産措置強化を提案する可能性がある旨9月27日にロイター通信が報じたことにより、この先の石油需給引き締まり懸念を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.50ドルと前日終値比で1.79ドル上昇した。また、欧州連合(EU)が、ロシア製品の購入やロシア軍に資するような重要技術の供与の禁止等を内容とした新たな対ロシア制裁を提案する意向である旨欧州委員会のフォンデアライエン委員長が9月28日に表明したことにより、ウクライナ問題を巡る西側諸国等とロシアとの対立の強まりに伴うロシアからのエネルギー供給への影響に対する懸念が市場で増大したことに加え、英国イングランド銀行が英国長期国債を購入する意向である旨9月28日に発表したことにより、英国債券相場の下落が沈静化するとともに英ポンドが上昇したこともあり、米ドルが下落した他、米ドルの下落に伴い米国輸出志向型企業の業績が改善するとの期待が市場で発生したこともあり米国株式相場が上昇したこと、9月28日にEIAから発表された米国石油統計(9月23日の週分)で、原油在庫が前週比22万バレル、ガソリン在庫が同242万バレル、留出油在庫が同289万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同44~200万バレル程度の増加、ガソリン在庫同50~71万バレル程度の増加、留出油在庫同7万バレル程度の減少~同60万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.65ドル上昇し、終値は82.15ドルとなった。この結果原油価格は9月27~28日の2日間で1バレル当たり合計5.44ドル上昇した。しかしながら、9月29日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、9月29日に米国セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁及びクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が、この先も政策金利引き上げを含む積極的な金融引き締め政策の推進が行われる見込みである旨示唆したこともあり、米国株式相場が下落したこと、ハリケーン「イアン」が米国メキシコ湾沖合を通過したことにより、今後ハリケーン来襲に備え操業を停止した米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設の操業が再開されるとともに原油供給が回復するとの観測が市場で発生したこと、中国政府による厳格な新型コロナウイルス感染抑制策のため、10月1~7日の中国国慶節の休暇期間において、個人の往来が低調なものとなると予想される旨9月29日に報じられたことにより、同国石油需要低迷観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル下落し、終値は81.23ドルとなった。9月30日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で継続したことに加え、減産措置に参加するOPECプラス産油国10ヶ国の9月の原油生産量が前月比で日量13万バレルの増加と、8月3日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で規定されたOPEC産油国の増産目標(日量6.4万バレル)を上回って増加している旨9月30日にロイター通信が報じたことにより、石油需給緩和感が市場で醸成されたこと、2022年末にかけ米国金融当局はさらに政策金利を引き上げる方向である旨9月30日にブレイナードFRB副議長が示唆したことにより、この先の米国経済減速懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したこと、9月30日に米国商務省から発表された8月の個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)が前月比で0.4%の増加と市場の事前予想(同0.2%の増加)を上回っていた他、同日同国商務相から発表された8月のPCE総合価格指数(米国金融当局が物価上昇の指標として重視しているとされる)が前月比0.3%の上昇と市場の事前予想(同0.1%の上昇)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ観測が市場で強まったこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.49ドルと前日終値比で1.74ドル下落した。この結果原油価格は9月29~30日の2日間で1バレル当たり合計2.66ドルの下落となった。

しかしながら、10月5日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合において日量100万バレル超の減産措置強化が検討される旨10月2日に報じられたことにより、この先の石油需給引き締まり感を10月3日の市場が意識したことに加え、10月3日に英国政府が大型減税策実施方針を撤回したことにより英ポンドが上昇したうえ、10月9日に米国供給管理協会(ISM)から発表された9月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.9と8月の52.8から低下、2020年5月(この時は43.5)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(52.0~52.3)を下回ったこともあり、米国金融当局による積極的な金融引き締め政策の推進姿勢が後退するとの観測が市場で広がったことにより、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、10月3日の原油価格の終値は1バレル当たり83.63ドルと前週末終値比で4.14ドル上昇した。また、10月5日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合に向け最大日量200万バレルの原油生産削減策が検討されている旨10月4日にブルームバーグ通信が報じたことにより、この先の石油需給引き締まり観測が10月4日の市場で増大したことに加え、10月4日に豪州準備銀行(中央銀行)が0.25%の政策金利引き上げを決定したものの、市場の事前予想の主流である0.50%の引き上げを下回っていた旨判明したことにより、世界的に政策金利引き上げペースが鈍化するとの観測が市場で発生したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことから、10月4日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.89ドル上昇し、終値は86.52ドルとなった。10月5日は、この日開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、2022年11月から2023年12月にかけての原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定したため、石油需給引き締まり観測が市場で強まったことに加え、西側諸国等で検討されている、ロシア産石油に対し実質的に価格上限を設定する方策に対し、ロシアは原油生産を一時的に削減する可能性がある旨10月5日にロシアのノバク副首相が明らかしたことにより、この先の一層の石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、10月5日にEIAから発表された米国石油統計(9月30日の週分)において、原油在庫が前週比136万バレル、ガソリン在庫が同473万バレル、留出油在庫が同344万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫210万バレル程度の増加、ガソリン在庫同130万バレル程度の減少、留出油在庫同140万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり87.76ドルと前日終値比で1.24ドル上昇した。10月6日も、10月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、2022年11月から2023年12月にかけての原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定したため、石油需給引き締まり観測が市場で強まった流れを引き継いだことに加え、10月5日にEIAから発表された米国石油統計で、原油、ガソリン及び留出油の各在庫が市場の事前予想に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明した流れを引き継いだこと、10月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において11月以降日量200万バレルの原油生産目標削減を決定したことを受け、2022年第4四半期のブレント原油価格予想を1バレル当たり10ドル引き上げ110ドルとする旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックス明らかにしたと10月5日午後遅く(米国東部時間)に報じられたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.69ドル上昇し、終値は88.45ドルとなった。さらに、10月7日も、10月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において、2022年11月から2023年12月にかけての原油生産目標を2022年10月比で日量200万バレル削減する旨決定したため、石油需給引き締まり観測が市場で強まった流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり92.64ドルと前日終値比で4.19ドル上昇した(因みにこの日の終値は8月29日(この時は97.01ドル)以来の高水準のものであった)。この結果原油価格は10月3~7日の5日間で1バレル当たり合計13.15ドルの上昇となった。

10月10日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、10月8日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された9月の同国サービス業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.3と前月の55.0から低下した他、市場の事前予想(54.4)を下回ったことにより、同国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が10月10日の市場で増大したこと、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが少なくとも石油需要家7社に対し契約数量通りの原油供給を行う旨10月10日に伝えられたことにより、OPECプラス産油国の減産措置強化に伴う石油需給引き締まり懸念が市場で後退したこと、10月7日に米国労働省から発表された9月の同国非農業部門雇用者数が、前月比で26.3万人増加するとともに失業率が3.5%と市場の事前予想(非農業部門雇用者数前月比25.5万人増加、失業率3.7%)を雇用者数は上回り、失業率は下回ったこともあり、米国金融当局による政策金利引き上げを含む積極的な金融引き締め政策推進観測が市場で増大した流れを引き継いだうえ、10月10日に米国のブレイナードFRB副議長及びシカゴ連邦準備銀行のエバンズ総裁が当面政策金利を引き上げるべきである旨示唆したことにより、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことから、この日(10月10日)の原油価格の終値は1バレル当たり91.13ドルと前週末終値比で1.51ドル下落した。また、中国上海市で新型コロナウイルス感染が拡大しつつあることにより、市内全域において新型コロナウイルス感染検査を11月10日までの間最低週2回へと強化する(従来は週1回)旨10月10日夜(現地時間)に上海市政府が発表した他、同国各地で新型コロナウイルス感染が拡大しつつある旨10月11日に報じられたうえ、中国はいわゆる「ゼロコロナ政策」に固執しなければならない旨10月11日に同国共産党機関誌である人民日報が論説で主張したことで、この先も同国でゼロコロナ政策が徹底して遂行されることによる同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化に対する懸念が市場で増大したことに加え、10月11日に国際通貨基金(IMF)から発表された世界経済見通し(WEO: World Economic Outlook)で、IMFが2023年の世界経済成長率見通しを7月26日発表時点の2.9%から2.7%へと下方修正した他、世界経済の3分の1程度が2四半期連続のマイナス経済成長(つまり景気後退)に直面している旨の見解を披露したことにより、世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で拡大したこと、9月28日より実施していた英国長期国債購入措置を当初予定通り10月14日で終了する旨10月11日に英国イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁が発表したことにより、英ポンドが下落するとともに米ドルが上昇したこと、10月12日にEIAから発表される予定である米国石油統計(10月7日の週分)で原油在庫が前週比で増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、10月11日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.78ドル下落し終値は89.35ドルとなった。10月12日も、中国は新型コロナウイルス感染抑制のため厳しい規制を維持するべきである旨の論説を、この日人民日報が掲載した(同趣の記事掲載は3日連続であった)ことにより、同国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策継続による同国の経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、10月12日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートで、中国での厳格な新型コロナウイルス抑制策、欧州OECD諸国の経済問題、主要国に対する物価上昇圧力等を理由として、OPECが2022年第4四半期の世界石油需要を前月から日量78万バレル下方修正した他、2022年全体の世界石油需要を同35万バレル、2023年全体の世界石油需要を同71万バレル、それぞれ下方修正した旨判明したこと、10月12日に米国労働省から発表された9月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比で8.5%の上昇と市場の事前予想(同8.4%)を上回ったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり87.27ドルと前日終値比で2.08ドル下落した。この結果原油価格は10月10~12日の3日間で1バレル当たり合計5.37ドルの下落となった。しかしながら、10月13日には、この日EIAから発表された米国石油統計で留出油在庫が前週比で485万バレル減少と市場の事前予想(同200万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことに加え、10月13日に米国労働省から発表された9月の同国CPI(食料及びエネルギーを除く)が前年同月比6.6%の上昇と1982年8月(この時は同7.1%の上昇)以来の高水準の上昇率となった他、市場の事前予想(同6.5%の上昇)を上回ったものの、かえってこれまでの米国株式相場下落に対する利益確定の動きが市場で発生したことにより、同国株式相場が反発したことから、10月13日の原油価格の終値は1バレル当たり89.11ドルと前日終値比で1.84ドル上昇した。それでも、中国政府が2023年春まで厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の実施を継続する意向である旨10月13日に報じられたことにより、この先の同国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が増大した流れを10月14日の市場が引き継いだことに加え、10月14日に発表された10月の米国ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)(50が景気拡大及び縮小の分岐点)が59.8と9月の58.6から上昇、2022年4月(この時は65.2)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(58.8~59.0)を上回ったことで、米国金融当局の政策金利引き上げを含む積極的な金融引き締め政策が遂行され続けるとの観測が市場で拡大したこともあり、米国株式相場が下落するとともに、投資家のリスク許容度が縮小したことにより米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.50ドル下落し、終値は85.61ドルとなった。

 

4. 原油市場における主な注目点等

今後の石油市場を展望するうえでの地政学的リスク要因での注目点として挙げられるのはウクライナ情勢であろう。10月8日にはロシアからウクライナ南部のクリミア半島(2014年3月18日にロシアのプーチン大統領が併合を宣言した)に通じる橋梁が大規模に爆破されたが、当該爆破はウクライナの情報機関が実施したものであると10月9日にロシアのプーチン大統領が表明した。また、10月10日以降、ウクライナの首都キーウを初めとする諸都市がミサイルで攻撃され、民間人が複数死亡したが、同日プーチン大統領はクリミア半島に通じる橋梁の爆破への報復措置としてウクライナの軍事、通信及びエネルギー等のインフラ破壊のため長距離ミサイルを発射するよう指示した旨明らかにした。他方、10月5日に、欧州連合(EU)加盟国は、ロシアに対し鉄鋼及び高度技術を要する製品等を巡る取引の制限に加え、保険付保規制等を通じたロシア産原油購入価格の事実上の上限設定等で合意した(主要7ヶ国(G7)は9月2日に開催された財務相会合でロシア産石油購入価格への事実上の上限設定で既に合意していた)。このような動きに対し、ロシアのノバク副首相は、ロシア産石油購入価格を設定する国や地域に対しては、減産で対応する(つまり、石油の販売を拒否する)旨10月5日に示唆した。

他方、8月16日には、ドイツ連邦ネットワーク庁のミュラー(Mueller)長官が、11月1日までに95%の自国の天然ガス貯蔵充填率目標を達成したとしても、ロシアからの天然ガス供給が全面的に停止してしまうのであれば、ドイツの天然ガス需要の2ヶ月半程度しか賄えない旨警告した。しかしながら、2022年初頭以降、欧州の天然ガス需要は産業部門を中心として前年を10%程度下回ると指摘されるなど不振な状態であり、このような需要の下振れにより、2022~23年の欧州の冬においては広範な天然ガス不足が発生する確率はそれほど高くないと見る向きもあった(ミュラー長官も、地域的な天然ガス不足が発生することはあっても、ドイツ全土に渡り天然ガス不足が発生するわけでは必ずしもない旨示唆したと8月18日に報じられる)。ただ、2022~23年の冬の気温が平年を大幅に下回って低下するようだと、暖房用需要が拡大することにより、天然ガス在庫が急速に減少する可能性がある(2022~23年の冬場はラニーニャ現象が居座る結果北半球は厳冬となると見る向きもある)他、2022~23年の冬場の天然ガス需要期を乗り切れても、ロシアからの天然ガス供給が途絶したままであれば、2023~24年の冬場の天然ガス需要期において供給面で困難を伴う恐れがあるなど、欧州天然ガス需給を巡っては不透明感も漂う。ドイツでは、10月14日に天然ガス貯蔵充填率が95%に到達したが、ミュラー長官は緊急事態を回避するためには近隣の産ガス国等の供給が安定していることに加え、消費を少なくとも20%削減する(どの基準からの削減かは明らかになっていない)必要がある他、2023年2月1日時点においても40%の貯蔵充填率が必要である旨明らかにしている(2023~24年の冬場の天然ガス需要期を想定しての発言と思われる)。

加えて、9月26日には、デンマーク沖合の海底において、ロシアからドイツに天然ガスを輸送する「ノルド・ストリーム1」及び「ノルド・ストリーム2」パイプラインで天然ガス漏洩が発生した(当初2ヶ所での漏洩とされたが、9月27日には3ヶ所から漏洩が発生している旨伝えられた他、9月29日には4ヶ所目の天然ガス漏洩箇所が発見された旨報じられた)が、過去天然ガスパイプラインの天然ガス漏洩が複数箇所においてほぼ同時に発生するような事例は見られなかったことにより、当該事故は破壊行為によるものであると欧州当局等では推測された(一方で当該破壊行為には西側諸国が関与している旨9月30日にロシア対外情報庁のナルイシキン(Naryshkin)長官が表明している)。「ノルド・ストリーム1」及び「ノルド・ストリーム2」両パイプラインは、今回の事故が発生する以前から事実上稼働していなかったことにより、今回の事象によっても、欧州向けの天然ガス供給が新たに途絶するわけではないため、欧州での天然ガス需給が一層引き締まるわけではない。しかしながら、今回の事象は、欧州等での石油及び天然ガスの生産、出荷及び輸送施設等が攻撃の対象となることにより欧州域内での石油及び天然ガス供給が阻止される恐れがあることを市場関係者に喚起する格好となった。既にノルウェー沖合では、石油・天然ガス生産関連施設周辺に所属不明の無人機が飛来する例があることが報告されており、ノルウェー政府は当該施設における警備を強化する方針を明らかにしたと9月30日に伝えられる。そして、ウクライナ(及び西側諸国等)とロシアとの間での対立激化が継続する様相を呈しつつある中で、欧州等での石油・天然ガス生産、出荷及び輸送施設等に対し破壊行為が行われようとした場合、もしくは実際に行われた場合、従来はそのような破壊行為による石油及び天然ガスの供給停止を想定していなかった(従来はロシアからの石油及び天然ガス供給の削減もしくは停止の可能性に対する懸念にとどまっていた)市場関係者が、欧州等を含めた地域におけるエネルギー等のインフラが攻撃の対象となる結果、石油及び天然ガス供給途絶が発生する可能性を一層大きく不安視するようになること等により、欧州を中心とする地域での天然ガス需給引き締まり感の拡大、そして天然ガス価格高騰に伴う天然ガスから石油へのさらなる燃料転換促進を含め、石油需給引き締まり感をさらに強く意識することを通じ、原油価格が押し上げられるといった展開となることもありうる。

他方、イラン核合意正常化に向けた西側諸国等とイランとの協議については、米国が二度と核合意から離脱しないよう保証すること、及び国際原子力機関(IAEA)によるイランでの核開発関連調査を終了させること(IAEAに未申請のイラン国内施設でウランの痕跡が認められたことに対しイランがIAEAに説得力のある説明をしていない状態が続いている旨の報告書を9月7日にIAEAが取り纏めている)が核合意正常化に向けた協議妥結の条件である旨9月22日にイランのライシ大統領が表明した一方、米国を含む西側諸国はそのような条件は受け入れられないとしており、交渉は事実上膠着状態となっている。そのような中、イランはナタンズにある核開発施設において高性能の遠心分離機を使用しウラン濃縮能力を高めつつある旨10月10日に報じられた。また、イランで製造された石油製品の供給に関与したとして中国(2社)、香港、アラブ首長国連邦(UAE)、インドを拠点とする企業5社を対象に制裁を発動する旨9月29日に米国国務省及び財務省が発表するなどしており、イラン核合意正常化に向けた協議妥結を見据えてイランからの石油供給拡大を事実上黙認するという姿勢を米国は転換しつつあるように見受けられる。

さらに、イラン西部クルディスタン州出身の女性が不適切にヘジャブ(スカーフ)を着用していたとして、9月13日に同国の風紀警察に逮捕された後9月16日に死亡したことに対し、同日以降抗議活動が同国各地で発生、一部は暴徒化し、指導体制批判を行うようになった他、抗議者と治安当局者が衝突した結果、死者が複数発生する事態となった。これに対し10月6日には、米国財務省が、抗議活動弾圧を指導したとしてバヒディ内相やザレプール通信情報技術相を含む、イラン政府や同国革命防衛隊の幹部7人に対し、米国内資産凍結や第三国を含む諸国等の法人及び個人との取引を禁止することを内容とする制裁を発動した。

このように、イランと米国との関係は、核合意正常化に向けた協議に加え、それ以外の分野においても複雑化する様相を呈しており、少なくとも短期的には、イラン核合意正常化による米国の対イラン制裁の緩和及びイランからの石油供給の拡大が実現する可能性はそれほど高くない状況となっているものと見られ、従って、この面では少なくとも短期的には原油相場に有意にかつ持続的に下方圧力が加わるといった展開とはなりにくいものと考えられる。

また、2021年10月10日に実施された選挙による国会議員選出後、大統領、首相及び国会議長が選出されず政権が樹立されないままとなっていたイラクでは、10月13日にクルド人のラシード(Rashid)元水利相を大統領に選出した。ラシード氏はスダニ(Sudani)元人権相を首相候補として指名した。スダニ氏はイスラム教シーア派で親イランとされ、国会議員選挙で選出され一時多数派を形成した、イスラム教シーア派ではあるが親イランではないサドル師を指導者とするサドル派勢力(2022年6月12日に政権が樹立されないことに抗議して一斉辞職)とは対立する関係にあり、サドル派勢力の国会議員辞職に伴い繰り上げ当選により議会内での勢力を拡大した親イランのイスラム教シーア派議員が首相選出手続きを進めようとしたことに反発したサドル師の支持者が7月27日に国会を占拠するなど同国情勢が不安定化した(8月30日にサドル師が抗議行動を中止するよう呼びかけたことにより沈静化したとされる)他、10月13日の大統領選出当日にも、ロケット弾攻撃が行われたりしている。他方、ヘジャブ着用を巡るイランでの抗議活動の激化に対し、クルド人勢力が関与しているとして、9月28日にイラン革命防衛隊がイラク北部のクルド人支配地域に対し、ミサイル及び無人機を発射し攻撃を行った結果、13人が死亡した(その中には米国人が含まれていた旨9月29日に米国国務省が発表している)。このように、イラクを巡っては、政権樹立に向けた作業が進展しつつあるものの、なお政情が不安定化する可能性が排除できない他、イランからの軍事攻撃も実施されるなどしているところから、今後もイラク国内での抗議行動の再燃を含め政治的な混乱、及びイランとイラクとの対立と軍事行動の活発化等が見られるようであれば、イラクからの石油供給に対する不安感が市場で高まる結果、その心理が原油相場に織り込まれる場面が見られることもありうる。

また、イエメンについては、ハディ暫定大統領派勢力(及び同政権を支援するサウジアラビアが主導する有志連合軍)とフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)との間での、国連の仲介による停戦(4月2日より2ヶ月間の予定で実施、6月2日に2ヶ月間延長)につき、さらに2ヶ月間延長する旨8月2日に国連が発表したものの、新たな期限とされた10月2日までに、両当事者はさらなる停戦延長につき合意できなかった(国連の仲介による交渉はなお継続しているとされる)。そして、フーシ派武装勢力はサウジアラビアの石油関連施設等に対する攻撃を再開する旨警告したと10月2日に伝えられることから、この面で中東産油国からの石油供給途絶懸念が市場で高まる結果、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。

石油市場における経済面での注目点は、まず中国の新型コロナウイルス感染を巡る動向であろう。9月1日に実施された中国四川省成都市での新型コロナウイルス感染抑制のために都市封鎖措置(同市の約2,100万人の居住者が外出規制等の対象となった)が9月19日を以て全域で解除となって以降、同国では大規模都市封鎖実施が目立つ状況にはなっていない。しかしながら、10月4日に中国雲南省や新疆ウイグル自治区等一部都市においてで新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖が実施されている他、同国内モンゴル自治区でも個人の外出規制等が強化されている旨10月4日に伝えられるうえ、10月1~7日の中国国慶節の休日後も新型コロナウイルス感染拡大が上海市で確認されたことにより、学校閉鎖が実施されたと10月13日に伝えられる。中国政府は早くても2023年春まで「ゼロコロナ政策」を取下げない方針である旨10月14日に報じられており、中国政府が余程強力な景気対策を講ずる姿勢を見せる等するようでなければ、今後も同国政府による強力な新型コロナウイルス感染抑制対策実施に伴う同国経済減速による石油需要の伸びの鈍化への不安感が市場で払拭できない結果、原油相場が抑制されやすいものと考えられる他、大都市圏で新型コロナウイルス感染拡大に伴い大規模な都市封鎖措置が実施される兆候が明確になるようであれば、同国の経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がる結果、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られることもありうる。

他方、9月20~21日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、0.75%の政策金利引き上げが決定されたうえ、この先の政策金利予想が2022年末時点で4.4%、2023年末時点で4.6%と、6月14~15日時点の前回予想である2022年末時点で3.4%、2023年末時点で3.8%から引き上げられた旨9月21日に米国連邦準備制度理事会(FRB)が明らかにしたこと他、FOMC開催後の記者会見でパウエルFRB議長が、物価上昇沈静化のため経済成長がある程度犠牲になる恐れがある旨示唆した。また、ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁(9月26日)、セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁(9月27日)、アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁(10月5日)、サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁(10月5日)、クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁(10月6日)、ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁(10月6日)、FRBのブレイナード副議長(9月30日)、クック理事(10月6日)及びウォラー理事(10月7日)等複数の米国金融当局関係者が、景気減速よりも物価上昇抑制のための政策金利引き上げ継続を重視する旨示唆した(括弧内はそのような発言を行った日)。また、10月14日には米国財務省のイエレン長官も、物価上昇抑制が最重要課題である旨発言している。さらに、10月12日に米国労働省から発表された9月の同国PPIが前年同月比で8.5%の上昇と市場の事前予想(同8.4%)を上回ったうえ、10月13日に米国労働省から発表された9月の同国CPI(食料及びエネルギーを除く)が前年同月比6.6%の上昇と1982年8月(この時は同7.1%の上昇)以来の高水準の上昇率となった他、市場の事前予想(同6.5%の上昇)を上回ったこともあり、11月1~2日に開催が予定されている予定であるFOMCにおいて0.75%の政策金利引き上げが決定される確率が10月14日時点で97.2%(残りの2.8%は0.50%の引き上げ)と極めて高水準となっている(因みに9月30日時点では0.75%の政策金利引き上げ確率が56.5%、0.50%の引き上げの確率が43.5%であった)。加えて、9月22日に英国、スイス、ノルウェー及び南アフリカ等の中央銀行が政策金利引き上げを発表した。また、9月28日には欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も物価安定を最重要課題として政策金利引き上げを継続する旨表明した。このように、世界各国及び地域で政策金利引き上げを含む積極的な金融引き締め政策が推進されつつあり、今後も世界各国及び地域において、政策金利の大幅引き上げが決定されたり、物価上昇の沈静化重視の姿勢を示唆する金融当局関係者の発言がなされたりするようだと、世界各国及び地域の経済減速懸念が市場で増大する結果、米国等の株式相場が下落したり、米国によるより迅速な政策金利引き上げ観測から米ドルが上昇したりすることにより、原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。

また、10月11日にIMFが発表した世界経済見通し(WEO: World Economic Outlook)で、IMFが2023年の世界経済成長率見通しを7月26日発表時点の2.9%から2.7%へと下方修正した他、世界経済の3分の1程度が2四半期連続のマイナス経済成長(つまり景気後退)に直面している旨指摘しているが、時期的に見て10月12日に発表されたEIAの短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)、10月13日にOPECが発表した月刊オイル・マーケット・レポート及び10月14日にIEAが発表したオイル・マーケット・レポートにおける、各機関の世界石油需要見通しにはIMFによる世界経済見通しの下方修正が盛り込み切れていない可能性があり、これは次回の発表されるレポート(EIA:11月8日、OPEC:11月14日、IEA:11月15日を、それぞれ予定)における各石油市場展望に織り込まれることにより、それぞれの世界石油需要見通しがさらに下方修正される結果、原油相場に下方圧力が加わるといった展開となることもありうる。

また、10月中旬より主要米国主要企業の2022年7~9月期等の業績(及び今後の業績見通し)が発表され始めているが、今後も当面企業による業績発表等が継続する予定であり、それら発表内容等が株式相場とともに原油相場に影響を及ぼす可能性があるものと考えられる。

この先、米国では、冬場の暖房シーズン(11月1日~翌年3月31日)に伴う暖房用石油製品需要期到来を控え(なお、欧州では既に10月1日に暖房シーズンに突入しているとされる)、製油所が秋場のメンテナンス作業等の実施を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理活動が上向くととともに原油の購入を活発化させ始めるものと見られるため、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。そして、ここで市場関係者が注目する点は、足元の気温状況及び冬場に向けての気温予報であろう。10月13日に、米国海洋大気庁(NOAA)が、ラニーニャ現象(日付変更線付近から南米沿岸にかけての太平洋赤道域で海面の水温が平年より低くなる現象)が発生する確率が、2022年12月~2023年2月は75%、2023年2~4月は54%となると予想される旨発表した。前年同期の2021年9月9日にNOAAから発表された予報では2021~22年の冬の期間中のラニーニャ現象発生確率は70~80%、前々年同期の2020年9月10日に発表された予報では2020~21年の冬の期間中のラニーニャ現象発生確率は75%程度とされており、次の冬場も概ね過去2年と同様の確率で以てラニーニャ現象が発生するものと予想されている。ラニーニャ現象が発生すると、北半球の冬場において気温が平年を相当程度下回るなど厳冬になりやすいとされる(なお、夏場となる南米諸国は渇水となりやすいとされる)。米国、欧州及びアジア諸国の気温が大幅に低下すれば、暖房向け石油製品(日本や韓国では灯油が利用されるが、他の地域では暖房油(品質的には軽油に近い)が使用される)需要が増加したり、空調のための電力供給用に発電部門、そして暖房用に民生部門での天然ガス需要が拡大しようとしたりするが、既に天然ガス価格は石油製品価格を上回る水準となるなどしている(また、スポットLNGタンカーの利用可能性が低下するとともに傭船料も高騰しており、LNGを入手しようとしても、それを消費国に持ち込むための輸送面で支障が生じるといった展開もありうる)ことから、この場合天然ガスからより安価に入手できる軽油や重油等の石油製品へと燃料転換が発生しやすくなるものと考えられる。この結果、石油需給の引き締まり感が市場で増大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。

他方、2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴い、ロシアから欧州に向けた軽油輸出が影響を受けつつあるように見受けられる他、2022年12月5日に向けEU諸国はロシアからの原油輸入の相当部分を禁止する他、2023年2月5日に向けEU諸国はロシアからの石油製品の輸入の相当部分を禁止することに加え、9月22日以降フランスで給与水準引き上げ等の労働条件改善を要求した労働者によるストライキが拡大、10月4日時点で同国の原油精製能力(2021年時点で日量114万バレルとされる)の65%程度に相当する日量74万バレル程度の原油精製能力を保有する製油所の稼働が停止したことより、欧州における石油製品需要の中心である軽油の需給引き締まり感が強まっている(図19参照)他、米国やシンガポールでも軽油(もしくは留出油及び中間留分)在庫が低迷することにより、当該製品需給の引き締まり感が感じられるようになっていることから、この面で軽油及び原油価格に上方圧力が加わる格好となっており、冬場の暖房用軽油需要期に向かいつつある中、ストライキがさらに継続する(10月15日時点で労働組合がストライキを終結されるとの方向性は明確にはなっていない)ようであれば、軽油及び原油価格にさらなる上方圧力が加わるといった展開となることも否定できない。

図19 欧州中間留分在庫(2020~22年)

さらに、2020年以降の世界的な新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済混乱による、世界の石油及び天然ガス会社の業績悪化による事業合理化の影響もあり、例えば、事故、装置の不具合もしくはストライキ等により、石油及び天然ガス関連施設(油・ガス田、原油及び天然ガス処理施設、パイプライン、港湾、天然ガス液化施設、及び製油所等)の操業に支障が発生するようであれば、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用燃料需要期に向け石油及び天然ガス需給の引き締まり感が市場で広がることにより、原油及び天然ガス価格が影響を受ける可能性がある。

また、大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎつつあることから、ハリケーン等の暴風雨が米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設や陸上の製油所等の施設に影響を及ぼすこと等に伴う石油供給途絶懸念は市場では低下していくと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の石油等生産関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が遮断されることを通じ操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2021年には米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量52万バレル程度の原油を輸入した)。また、最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が上昇してきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2021年は当該地域で日量170万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体の約15%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動の中心地域である(2021年の当該地域の原油精製処理能力は日量817万バレルと米国原油精製処理能力全体の約47%を占めた)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

これまで述べてきたように、石油市場を巡っては、地政学的リスク要因等この先原油価格を押し上げる可能性のある要因も散見されるものの、反面各国及び地域における政策金利引き上げの動きに伴う景気後退懸念により原油相場を押し下げる可能性のある要因も見られることから、原油価格が下落することにより原油収入(そしてウクライナへの事実上の侵攻に伴い必要となる戦費)の減少可能性といった問題を抱えるロシアに配慮していると見られる、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は、特に原油生産目標の引き上げには慎重に対処するものと思われる。むしろ、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合に向け、原油価格が下落傾向となったり、もたつき気味となったり、もしくは急落する兆候が見られたりするようであれば、原油価格の下落が制御不能となる前に、サウジアラビア等は先制的に原油生産目標引き下げの可能性に言及する(つまりいわゆる「口先介入」を行う)場面が見られる他、実際に次回OPECプラス産油国閣僚級会合等に際しては原油生産目標のさらなる引き下げが検討及び決定する可能性があるものと考えられる。

なお、米国のバイデン大統領は、10月5日のOPECプラス産油国閣僚級会合における、2022年11月から2023年12月にかけての2022年10月比での日量200万バレルの決定は、米国の減産回避の働きかけにもかかわらず決定されたものであるとして、サウジアラビアとの関係の見直しにつき議会と協力していく旨10月11日に直接本人から、もしくは同国国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官を通じて明らかにしている。これに対し10月13日にサウジアラビア外務省は今回のOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置強化の決定は純粋に経済的な要因によるものである旨表明した。しかしながら、10月13日にNSCのカービー氏は、今回の閣僚級会合開催前に、減産措置強化を決定しなければならないような石油市場面での理由は存在しない旨サウジアラビアに対し説明していた旨反論、併せてサウジアラビアを除くOPEC産油国が減産措置強化につき同調するようサウジアラビアから圧力を加えられたという趣旨の連絡を米国に対し非公式に行ってきた旨明らかにした(また、10月14日には、米国国務省のパテル(Patel)副報道官も、サウジアラビア以外のOPECプラス産油国が今回の閣僚級会合での決定には同意していない旨米国に非公式に伝えてきた旨説明している)。このように今回のOPECプラス産油国閣僚級会合での減産措置強化の決定を巡り、米国とサウジアラビアとの対立が高まりつつあるが、サウジアラビアはOPECプラス産油国の重要構成国であるロシアの意向を含め、原油価格の下落継続もしくは急落を望んでいないと見受けられることもあり、この先米国がサウジアラビアに対し相当強い働きかけを講じるのでなければ、OPECプラス産油国による減産強化路線の修正が図られない可能性も残る。また米国がサウジアラビアに対し単純に強い対抗措置を講ずる(サウジアラビアへの武器提供を中断すべきである旨主張する米国連邦議会議員も見られる)というだけでは、かえってサウジアラビアが政治的にロシアに接近することになるなど、米国にとっては望ましくない展開となることも否定できないことから、米国のサウジアラビアとの関係の極度の悪化を回避しつつ減産措置の緩和を強く働きかけるといった、複雑な対応を米国は迫られる可能性もある。

全体としては、この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることに加え、同じく冬場の暖房シーズン到来に伴う天然ガス需給引き締まり感から暖房向けもしくは空調のための発電用天然ガス価格が上昇するとともに、相対的に安価な石油製品への燃料転換が発生する結果、石油製品及び原油の価格に上方圧力が加わる可能性がある。また、ウクライナ及びウクライナを支援する西側諸国等とロシアとの対立の高まりに伴い、欧州等でのエネルギーインフラにおいて破壊行為が行われる兆候が見られることによっても、石油供給途絶懸念等が市場で強まる結果、原油価格が押し上げられる場面が見られることもありうる。他方、中国の新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置等の対応を通じた、もしくは世界各国及び地域による、物価上昇沈静化のための政策金利引き上げを含む金融引き締め策の推進を通じた、経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が原油価格を抑制するものと考えられる。ただ、原油相場の下落継続もしくは急落の兆候に対しては、サウジアラビア等を含むOPECプラス産油国が口先介入を含め、原油価格下落抑制を試みるものと見られる。一方で、OPECプラス産油国減産措置強化方針を巡り米国がサウジアラビア等にどのように働きかけを強めていくか、といったことが今後の石油市場における注目点になろう。

 

以上

(この報告は2022年10月17日時点のものです)

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