ページ番号1009507 更新日 令和4年10月18日
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概要
- ロシア連邦大統領令「複数の非友好国と国際組織の非友好的活動に関連した燃料エネルギー分野における追加的特別経済措置について」(第723号/10月7日)の発表に続き[1]、10月12日、ロシア政府はサハリン1の権利・義務を移管する新たなロシア法人の設立に関する政府令第1808号を発表。内容はサハリン2に対して、8月2日に出された新ロシア法人設立[2]を指示する政府令をほぼ踏襲するものとなっている。
- サハリン2のケースと同様に、大統領令では新ロシア法人設立から1カ月以内に、既存権益保有者(但し、新ロシア法人の管理者と指定されたRosneft子会社は除く)が、ロシア政府に対して新ロシア法人移行に対する同意を通知しなければならない。新ロシア法人である有限責任会社「サハリン1」(ООО "САХАЛИН-1"/SAKHALIN-1 LIMITED LIABILITY COMPANY)も10月14日に統一国家法人登録簿に同社設立に関する情報が登記された[3]。今回の政府令と新ロシア法人設立によって、ロシア政府が示す1カ月以内という時計が動き出すことになる。
- 今次政府令では、サハリン2に対する政府令では指示のなかった、オペレータ(Exxon Neftegaz Limited)に対するスタッフの異動及び締結された全ての契約の移管やグランドファーザーリング(既得権益条項)について、PSA法だけでなく、連邦法「ガス輸出について」(所謂ガス輸出法と呼ばれ、パイプラインによる天然ガス輸出をGazpromに限定する法律。LNG輸出についてはその例外として認めている)についても言及が為されている。
- サハリン2では、大統領令発出(6月30日)から新ロシア法人設立の政府令発出(8月2日)まで37日間の猶予があった(会社設立は政府令から3日後の8月5日)。サハリン1については政府令発出まで1週間弱と短い。すなわち、10月14日から1カ月(サハリン2のケースでは8月5日から31日後の9月4日)、11月14日前後がサハリン1既存権益保有者による新ロシア法人への移管承認とロシア政府への申請期限となる。
<参考>政府令(第1808号)[4]抄訳
(注)及太字は筆者加筆。
2022年10月12日付ロシア連邦政府令第1808号
モスクワ
2022年10月7日付ロシア連邦大統領令第723号の実施措置について
2022年10月7日付大統領令第723号「複数の非友好国と国際組織の非友好的活動に関連した燃料エネルギー分野における追加的特別経済措置について」の遂行のために、ロシア連邦政府は、以下を定める。
- 2022年10月7日付ロシア連邦大統領令第723号「複数の非友好国と国際組織の非友好的活動に関連した燃料エネルギー分野における追加的特別経済措置について」(以下、「ロシア連邦大統領令」という)の第1項(ア)に従って、有限責任会社「サハリン-1」(以下、「会社」という)を設立する。
- 会社は、統一国家法人登録簿に会社設立に関する情報が登記された日から設立されたものとみなされる。
- 会社の管理者は、統一国家法人登録簿に会社設立に関する情報が登記された日以降に、1995年6月30日に締結されたチャイヴォ、オドプトゥ、アルクトゥン・ダギの各鉱床の開発に関する生産物分与協定に関与する投資家コンソーシアム(共同活動に関する契約に基づき法人を設立することなく、自らの活動に従事する複数の法人の集合体)に対し、有限責任会社設立に関する情報をしかるべき方式に従い正式に通知する。
- 以下を設定する:
会社の定款資本金は1万ルーブル。同時に、会社の定款資本金は全額支払い済みであるとみなす;
会社の所在地はユジノサハリンスク市。 - ロシア連邦税務局は、本政府令の発効日から1日以内(注:サハリン2に対する政令では3日以内だった)に、会社の参加者(設立者)に関する情報へのアクセスを制限した上で、統一国家法人登録簿へ以下の情報の登記を確実に行わなくてはならない:
会社の参加者(設立者)に関する情報;
会社設立に関して;
株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」が有限責任会社の定款資本の11.5%(額面価格で1,150ルーブル)を出資したことに関する情報;
株式会社「RN-Astra」が会社の定款資本の8%(額面価格で850ルーブル)を出資したことに関する情報;
会社の定款資本における当該会社の持ち株比率が80%(額面価格で8,000ルーブル)になることに関する情報。 - 添付されている有限責任会社「サハリン1」の定款を承認する。
- 有限責任会社の管理・運営者として株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」を指名する。同時に、株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」が、協定遂行のための契約の締結や人員の雇用を含む、協定の枠内での全作業の実施及びオペレーションの管理に関する活動に取り組むことを定めるが、同株式会社の活動は協定の枠内でのものに限定されるわけではない。
- 会社は、その設立日から14日以内に、コンソーシアムのバランスシートに基づく会社のバランスシートを作成する。その際、現金を含めコンソーシアムに帰属する資産(ロシア連邦大統領令第1項(イ)に従いロシア連邦に引き渡さなければならない資産を除く)の会社への譲渡適時に行われることが前提となる。その際、コンソーシアムと会社の間での資産の受領納品書の作成と署名は不要とする。
- (注:サハリン2に対する政令には無かった条項)生産施設の活動の連続性と安全性を確保するためコンソーシアムとコンソーシアムのオペレータ(Exxon Neftegaz Limited)は以下の措置を実施しなければならない:
スタッフを異動させること。一方、株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」は、コンソーシアムのオペレータ(同社のロシア支社とロシア事務所)のそれらスタッフを自社で引き受けなければならない;
協定の実現のために締結された全ての契約を株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」に移管すること。 - 以下を規定する。
ロシア連邦大統領令第1項(ア)の規定に従い、協定のコンソーシアムの権利と義務が有限責任会社に譲渡される;
協定は、連邦法「生産物分与契約について」第2条第7項[5](注:所謂グランドファーザリング条項)に従って、同法の施行前に締結された協定として、同協定に定める条件に従って遂行されなければならない。
(注:サハリン2に対する政令には無かった条項)同様に、ロシア連邦法「ガス輸出について」が発効する前に締結された協定であり、その遂行に当たっては、同連邦法の第2条第2項[6]に示された規定に従いロシア連邦大統領令の諸規定を考慮する必要がある;
会社は、その設立時から、本項に示されることを考慮し、協定に従って、また本政府令第14条の規定を考慮して、その活動を行うものとする;
(注:サハリン2に対する政令には無かった条項)設立後、有限責任会社とその出資者は協定に示された方式に従い、協定の枠内で生産され自らの取り分となる量の炭化水素資源を、輸出等を通じ、全量販売することができる;
知的財産の利用権並びに現金を含むコンソーシアムの全ての資産の所有権が有限責任会社に譲渡される。その際、株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」は、協定の枠内での全作業の実施及びオペレーションの管理に関連する活動の実現のために会社の知的財産対象物と資産を無償で利用する権利を有する;
(注:サハリン2に対する政令には無かった条項)各金融機関は有限責任会社から申請が届いてから1日以内に、有限責任会社のために決済用口座及びその他の口座を開設しなければならない;
(注:サハリン2に対する政令には無かった条項)コンソーシアム及び(もしくは)オペレータが決済用口座及びその他の口座を開設していた金融機関は、会社からの書面での申請があった場合、1日以内にそれらの口座の資金を全て会社の口座に振り込まねばならない。コンソーシアム及びその参加者のいずれかの義務に関連しロシア連邦法に基づく差し押さえ(もしくは、銀行口座の使用禁止措置)が実施されていたとしても、そのことは、有限責任会社への資金の振り込みの妨げとはならず、問題なく振り込みを実施することができる;
(注:サハリン2に対する政令には無かった条項)コンソーシアム及び(もしくは)コンソーシアムのオペレータとの間で、会社設立の時点で有効な契約を結んでいる自然人・法人は、本政府決定が発効してから2日以内に会社及び株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」に、当該の自然人・法人が締結した契約書(全ての添付文書を含む)の公証されたコピーと、契約の遂行に関連する規定文書、書類、通知書類のコピーを提出しなければならない。同様に当該の自然人・法人は、契約の遂行状況に関する情報(決済の状況に関する情報も含む)も提出しなければならない。 - ロシア連邦国家資産管理庁は、協定の枠内で構築・取得されたコンソーシアムの資産(コンソーシアムが資産の構築もしくは取得のために投下した資金に対するロシア連邦政府の補償義務を遂行するため)を直ちにロシア連邦の所有として受け入れ、同時に、協定に定められる期限まで、引き渡し文書に基づき、会社に無償での利用を念頭に譲渡する。
- ロシア連邦地下資源利用庁は、会社からコンソーシアムに供与された地下資源利用ライセンスの名義の変更要請があってから3日以内に、ライセンスの名義を会社に変更しなければならない。
- 各連邦行政当局は(その権限の範囲内で)、その他の国家機関、地方行政機関並びに諸組織は、会社及び(もしくは)株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」から申請があってから3日以内に、協定の枠内での炭化水素資源の採掘・アップグレード・輸送に係わる作業の実施とオペレーションの管理に関連する活動の実現に必要となる、コンソーシアム及び(もしくは)コンソーシアムのオペレータに交付済みの特別許可(ライセンス)及びその他の文書の名義を会社及び(もしくは)株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」に変更しなければならない。
- ロシア連邦エネルギー省、ロシア連邦財務省及びロシア連邦経済発展省は、その他関係する連邦行政機関と共に、速やかに、現在実施中もしくは2022年末までに実施予定の探査関連の鑑定作業(地下資源利用庁の有用鉱物埋蔵量に関する国家委員会及び炭化水素資源鉱床の開発の技術計画書及びその他の計画文書の調整に関する中央委員会の鑑定作業)、環境及びその他の問題に関する鑑定作業の連続性を維持するための措置を講じなければならない。
- ロシア連邦財務省、ロシア連邦税関庁、ロシア連邦エネルギー省及びその他の連邦行政機関(これらの機関の権限の範囲で)は、会社から申請があってから3日以内に、協定の遂行のためにコンソーシアム及び(もしくは)コンソーシアムのオペレータに関連して採択された文書に、コンソーシアムの権利及び義務の譲渡に伴う変更、並びに、以下に示す義務免除措置に係わる変更を加える:
会社及びその出資者に対し、協定の枠内で生産される及び(もしくは)生産された炭化水素資源の輸出に関連する輸出関税、税金及びその他の課徴金の支払いを免除すること;
会社、その出資者、有限責任会社の元請け業者と下請け業者に対し、協定の実現に必要なサービス、設備機器の輸入、並びに資機材のロシア連邦への持ち込みに伴う関税、税金及びその他の課徴金の支払いを免除すること;
会社は、協定の実現と関連して生じる分配利益に対する税金の支払い用の資金を留保する義務及び当該の税金を支払う義務を免除されること;
会社は、協定の枠内で生産される及び(もしくは)生産された炭化水素資源を、販売(輸出を含む)を目的として出資者に譲渡することに伴う税金及びその他の課徴金の支払い義務を免除されること。 - ロシア連邦国家登記・台帳・地図局は以下を実施する:
ロシア連邦による接収の対象となるコンソーシアムの資産の署名入りの引き渡し・引き受け文書をロシア連邦国有資産管理庁より受領してから3日以内に、しかるべき方式に従い登記されたコンソーシアムの不動産の所有権がロシア連邦に移った事実を、統一国家不動産登記簿に記録する。その際、コンソーシアムは所有権の変更に伴う国家登記関連の申請書、あるいは、その他の文書を提出する必要はない;
会社が所有権の国家登記に関する申請を行ってから3日以内に、本政府決定の第8項の遂行に伴い形成されたバランスシートに基づき会社に不動産に対する権利が生じた旨を統一国家不動産登記簿に記録する。 - ロシア連邦大統領令第1条(カ)項に従って、会社に帰属する権益の譲渡が行われるまでは、当該の権益の管理はロシア連邦政府、ロシア連邦政府議長の決定もしくは政府議長に委任に基づきロシア連邦第一副議長あるいは副議長が行う決定に基づき実施される。
- 本政府令は、公布日から施行するものとする。
ロシア連邦政府議長 M.ミシュースチン
(注)政府令に添付された定款等抄訳については割愛する。
政府令に関する特記事項
政府令は36ページから成り(サハリン2に対する政府令は41ページ)、最初の6ページがミシュースチン首相による政府令本体、残る部分は上記第6項でも触れられている有限責任会社「サハリン1」の定款となっている。サハリン2では同様に第6項で、定款の他に監査実施規則と定款資本金におけるシェアの評価実施及び売却実施規則が示されていた点が異なる。
また、サハリン2のケースと異なり、大統領令から政府令発出の期間が大幅に短くなった(37日→6日)のに加え、行政手続きの期間も短縮している。また、サハリン2では指示のなかった項目が複数盛り込まれている。
例えば、第9条ではオペレータであるExxon Neftegaz Limitedに対して、スタッフの株式会社「Sakhalinmorneftegaz-Shelf」への異動と締結された全ての契約の移管を指示している。この点は自らの法的権利維持を目指すExxon Mobilはその担保が得られないまま契約書類の移管を行うことに抵抗を示す可能性がある。また、サハリン2については連邦法であるPSA法のグランドファーザーリングを認めていたが、今次政府令では更に連邦法「ガス輸出について」(所謂ガス輸出法と呼ばれ、パイプラインによる天然ガス輸出をGazpromに限定する法律。LNG輸出についてはその例外として認めている)についても言及が為され、サハリン1プロジェクトはその適用対象外であること明確に示している。
今次政府令に基づく新ロシア法人設立(10月14日)によって、時計は動き出した。次の注目点は1カ月以内の外資株主による新ロシア法人への同意通知とロシア政府による受け入れ判断となる。そのプロセスの中では、大統領令で指摘されているサハリン1参画外資による「違反行為」について、そして、ロシア政府が最終的に何を求めようとしているのか明確になっていくだろう。
[1] 拙稿「サハリン1プロジェクトを対象にロシア法人への移管を求める大統領令を発出」(2022年10月11日)参照。
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009486.html
[2] 拙稿「サハリン2に関する新ロシア法人設立の政府令を発出」(2022年8月5日)参照。
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009433.html
[3] 統一国家法人登録簿検索サイト:https://egrul.nalog.ru/index.html(検索名に「САХАЛИН-1」を入力)(外部リンク)
[4] ロシア連邦政府令(第1808号):http://publication.pravo.gov.ru/Document/View/0001202210130034(外部リンク)
[5] (1)連邦法「PSA法」:第2条第7項(所謂グランドファーザリング条項)
「本連邦法(生産物分与法)の施行までに締結された生産物分与契約はその契約の条件に従って履行される。その場合に本連邦法は前記契約に、その契約条件に反しない限度で適用され、当該契約により投資家が取得し、行使する権利を制限するものではない」
[6] 連邦法「ガス輸出について」:第2条第2項
「本連邦法の要件は、本連邦法の発効日前に締結された生産物分与協定に従って生産されたガスの輸出には適用されない」
以上
(この報告は2022年10月18日時点のものです)