ページ番号1009508 更新日 令和4年10月20日

オーストラリア東海岸の電力危機に端を発するLNG輸出規制問題

レポート属性
レポートID 1009508
作成日 2022-10-19 00:00:00 +0900
更新日 2022-10-20 15:38:47 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNGエネルギー一般
著者 加藤 望
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 23
抽出データ
地域1 大洋州
国1 オーストラリア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 大洋州,オーストラリア
2022/10/19 加藤 望
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概要

豪州東海岸では2022年6月に、寒波と石炭火力発電所の一時停止をきっかけに電力供給が逼迫し、オーストラリアエネルギー市場オペレーター(AEMO: Australian Energy Market Operator)は初めて電力取引所での取引を停止し、自ら電力供給の調整に乗り出した。また、2022年7月には、オーストラリア競争・消費委員会(ACCC: Australian Competition & Consumer Commission)がガス中間報告(Gas Inquiry 2017-2025 interim report)を公表。これによると2023年には国内向けガスが56PJ(ペタジュール)(LNG換算103万トン)不足するという。ACCCは、同時に2023年に豪州国内ガス安全保障メカニズム(ADGSM: Australian Domestic Gas Security Mechanism)を発動するように資源大臣に対して検討すべきと勧告。ADGSMが発動されるとクイーンズランド州にある3カ所のLNG液化設備からスポットで輸出しようとする場合、国内向けに優先してガスを供給することになるよう輸出規制が働く。

最終的に東海岸LNG輸出業者と政府との間で2022年9月29日に基本合意書(Heads of Agreement)が締結され、LNG輸出業者はACCCのガス不足予想を上回る157PJ(LNG 289万トン)の国内向けガスを用意することで決着が図られた。この結果、ADGSMの発動は回避された。

本レポートでは、豪州東海岸における電力危機の構造的な問題と、これとどのように上流ガス生産業者とLNG輸出業者が関わっているのか背景に迫ってみる。最後に2023年以降もエネルギー危機が起きるかどうかの可能性を探る。

 

はじめに

豪州東海岸三州、即ちクイーンズランド州(QSL)、ニューサウスウェールズ州(NSW)およびビクトリア州(VIC)において、2022年6月に電力需給が逼迫し、AEMOは初めて電力取引所での取引を停止し、自ら電力供給の調整に乗り出した。今回電力危機に至った原因について現時点では以下の複数の要因が重なったと見られている。

  1. 2022年6月初旬から何十年ぶりという寒波が3回にわたって襲来した。電力需要が一気に増加した(図1参照)。また、2022年2月から3月にかけての東海岸沿いで起こった大雨と洪水も石炭の供給に関係しているといわれている。
  2. 豪州東海岸の電源構成は、図3の通りである。2015年以降、現在では主力電源と言っても差し支えないほど太陽光と風力発電による再生可能エネルギーが増加してきているものの老朽化した石炭火力発電の閉鎖や運転停止による減少を補えるほどには至っていない。即ち、太陽光や風力発電への新規投資が思ったほど伸びなかったなかで、石炭火力は予定通り閉鎖や停止が進んでいる。また、メンテナンスにも十分な資金を投入せず、一部の火力発電所で計画外の突発的な運転停止が起き、電力供給にアンバランスが生じた。エネルギー移行が円滑に進まなかった結果ともいえる。
  3. 2022年6月は天候がすぐれず、太陽光と風力発電は低調であった。特に、冬季の夕方午後7時頃に電力消費量が増えるが、太陽光発電が働かない時間帯に需要のピークを迎えた。豪州では各地に充電設備を設けているが、基本的に送電網から離れた地域に置かれている。また充電設備の大型化は世界的な課題でもありその整備も十分行き渡っているとは言い難い状態である。
  4. その結果、6月に入り電力供給が逼迫し、送電網も余裕がなくなったことに加え世界的なガスと石炭の価格急騰もあり発電用燃料価格は高騰した。13日には価格抑制のためAPC(administered price cap)が導入され、電力市場NEM(National Electricity Market)は1998年の設立以降初めて市場を停止。AEMOが直接介入した。
  5. その後、操業を停止していた火力発電所が復旧し、APC措置は6月23日に解除された。

2017年2月に起きた豪州初の電力危機の原因は豪州全体を襲った熱波であった。南オーストラリア州アデレード市では40℃を超え、冷房需要が急増したが、地元のガス発電所は天然ガスをすぐには調達できないとし、市からの稼働率の引き上げ要請を断った。既に、東海岸の3つのLNG液化設備は稼働していたが、長期契約に基づき輸出しており、政府は国民のために十分なガスを確保できず、一部の州政府は老朽化した石炭発電所が閉鎖するに任せ、環境懸念に対応する再生可能エネルギーの推進を加速させた。そうした地域ではガス発電への依存度が高まったが、風力・太陽光といった断続的なエネルギー供給が不足したときに重なった。後ほど検証するが、それから5年経過した今日も、状況は変わっていないように思える。

図1と図2は、2022年6月に豪州東海岸を襲った寒波と使用電力量を示す。

図1 2022年5月下旬から6月中旬にかけての寒波(Cold Snap)の到来と発電量とその電源構成
図1 2022年5月下旬から6月中旬にかけての寒波(Cold Snap)の到来と発電量とその電源構成
出所 Wood MackenzieがAEMOデータから作成
図2 2022年6月豪州東海岸の寒波
図2 2022年6月豪州東海岸の寒波
出所 Australian Bureau of Meteorology

次に、東海岸三州における2021年6月から2022年6月にかけての一年間の日々の発電量における電源構成を図3に示す。2022年6月に電力危機が起きてから石炭火力および再生可能エネルギーによる発電量の落ち込みを補ったのは、ガス火力発電であることが見て取れるものの、東海岸三州の電源構成においてガス火力発電が占める割合は10%を下回っていることが分かる。総発電量に対するガス火力発電の貢献は僅かである。

図3 東海岸三州における2021年6月~2022年6月までの日毎の発電量に占める電源構成
図3 東海岸三州における2021年6月~2022年6月までの日毎の発電量に占める電源構成
出所 Rystad Energy, Gas Market Analytics(2022年6月)
注:Carrying the team(他を補いチームを牽引する):ガスと水力発電が石炭火力の減少を補っている。

1. オーストラリア天然ガス資源量、生産量、発電量および電源構成

このように、東海岸三州においてガス発電の比率は小さいにもかかわらず、電力危機勃発後ガス業界に対するマスコミや世論は厳しいものがあった。理由としては、東海岸で発電に使われているガスは、炭層ガスともコールベッドメタンとも呼ばれるCSG(Coal Seam Gas)であり、2009年以降にSantosがBowen BasinやSurat Basinの開発に着手した。それ以前は、東海岸三州はビクトリア州沖のGippsland BasinやBass /Otway Basinsからの天然ガスに依存していた。

一方、Queensland州にある3つのLNG液化設備、即ちAsia Pacific LNG(APLNG)、Queensland Curtis LNG(QCLNG)およびGladstone LNG(GLNG)は2014年から2016年に掛けて次々と操業を開始したが、すべてCSGを原料ガスとしている。当初からCSGはLNG輸出用として開発され、そのように政府にも説明していた。輸出の余剰分が国内使用分に回されていた構造であった。中にはCSG供給ガス田におけるガス生産量が最初から十分に確保されずにスタートしたGLNGのような液化設備もあった。これは想定よりもCSGの供給量が増えなかったことによる。従い、特に長期輸出契約の供給義務の履行を優先せざるを得ないため、国内では、第三者の開発業者が保有するガスを買い取り、輸出分を満たしてきた。ガス利用に向けられるCSGに十分な生産余力はないのが現状である。

因みに、オーストラリアにおいてガスの生産業者に対して国内供給義務を課しているのは西オーストラリア州だけであり、その比率は15%である。

図4は、2019年末時点の豪州のガス資源量を表している。このなかで東海岸において紫色で表されているのがCSGの資源量である。

図4 オーストラリアのガス資源量(2019年末)
図4 オーストラリアのガス資源量(2019年末)
出所 Geoscience Australia、Australian Government

オーストラリアにおけるCSGの生産量は、2020年~21年に掛けて、図5の通り天然ガスの全生産量の26%を占めている。

図5 オーストラリアのガスフロー(2020‐2021)単位:ペタジュール(PJ)
図5 オーストラリアのガスフロー(2020‐2021)単位:ペタジュール(PJ)
出所 DCCEEW “Australian Energy Update 2022”
注:1 ペタジュール(PJ)= 10億 MJ = LNG 18,382.35トン
CSG1,510 PJ = 1,510 x 18,323.25 = LNG換算 2,776万トン

2022年9月にDepartment of Climate Change, Energy, the Environment and Water(DCCEEW)が発表した”Australian Energy Update 2022”から表1と図6において豪州全体のエネルギー生産量と輸出量と国内消費のバランスを示す。特に、図6においてオーストラリアで生産されるエネルギー資源の内4分の3が輸出されていることが分かる。このことは国内のエネルギー価格が輸出価格(国際価格)にリンクしていることになり、資源大国オーストラリアの市民がエネルギー価格において国際価格に準じた価格で購入することになり、自国産の恩恵を受けることが少ないと指摘される要因となっている。

表1 オーストラリアのエネルギー資源別生産量(単位 ペタジュール)
表1 オーストラリアのエネルギー資源別生産量(単位 ペタジュール)
出所 DCCEEW “Australian Energy Update 2022”
図6 オーストラリアのエネルギー資源生産量およびその輸出と国内消費割合の推移
図6 オーストラリアのエネルギー資源生産量およびその輸出と国内消費割合の推移
出所 DCCEEW “Australian Energy Update 2022”
注:オーストラリア政府の会計年度は7月に始まり翌年6月末に終わることより2021‐2022という表示になる

次に、オーストラリアにおける2021年発電量とその内訳を以下に示す。

表2 オーストラリアの2021年(暦年)の発電量(推定)電源構成
表2 オーストラリアの2021年(暦年)の発電量(推定)電源構成
出所 DCCEEW “Australian Energy Update 2022”

豪州全体の火力発電に関しては、石炭火力が褐炭を含め発電量の51.4%になりガス火力が17.8%を占めている。また、再生可能エネルギーが29.1%を占めていることが特徴的である。過去10年で太陽光発電の伸びが顕著で平均で年率33.6%の伸びであるが、この3年間だけを取り上げると約3倍と急伸している。

図7 オーストラリアにおける太陽光発電の伸び
図7 オーストラリアにおける太陽光発電の伸び
出所 DCCEEW “Australian Energy Update 2022”

次の図8は、オーストラリア各州の2021年電源構成を示している。ビクトリア州、ニューサウスウェールズ州およびクイーンズランド州の豪州東海岸における電源構成は、石炭が平均して70%、再生可能エネルギーが20数%、そしてガスが僅か7%程度であることが分かる。ただし、2022年の6月時点では稼働率の低下もあるがそれでも石炭火力は60%を超えている。今年6月に起きた東海岸電力危機の原因がガス上流業者の国内供給不足にあるといった批判があるが、彼らの供給率は約7%に過ぎない。それでもADGSMの発動に繋がりかねない状況に追い込まれた。この点については改めて検証する。

図8 オーストラリア各州における2021年電源構成
図8 オーストラリア各州における2021年電源構成
出所 DCCEEW “Australian Energy Update 2022”

2. 東海岸LNG設備について

CSGを原料とした3つのLNG液化設備は、クイーンズランド州のGladstone市沖のCurtis Islandに集中して造られている。これらの概要を以下の表に示す。

表3 オーストラリア東海岸のLNG液化設備
表3 オーストラリア東海岸のLNG液化設備
出所 Wood Mackenzieデータを基にJOGMEC作成
注 Shellは2020年にQCLNGの桟橋、タンク等共用設備の26.25%をGlobal Institute Partnersに売却、残りの73.75%は引き続きShellが保有。

QCLNGの権利関係は、複雑である。QCLNGの上流供給ガス田はQCLNG Upstream(Shell 73.75 % , CNOOC 25% およびTokyo gas 1.25%)が47%を供給。また、ShellとPetroChinaが半分ずつ出資するArrow EnergyのSurat Gas ProjectおよびConocoPhillips主導のAPLNGから供給を受けている。液化プラントではQCLNGのTrain 1とTrain 2で出資構成が変わっている。

GLNGについては、Santosの自主開発ガス田からの供給は45%である。残り55%は、第三者であるOrigin EnergyとAGL Energyから購入している。2009年のFID時に第三者供給の確保が十分でないままFIDに移行したと思われる。米国のシェールガスを供給源とする米国LNGはガス供給源が多数あり、また生産量も大きいが、米国を除けば、LNG液化設備のFID時に100%供給ガスを確保していないのは異例のことである。生産量が増加する見通しを持っていたようである。それ故、これらQCLNGとGLNGが輸出優先のために国内向けガスを利用していると批難される所以であるが、この批難は、長期輸出契約に対してではなく、長期契約での出荷量を超えるスポット契約による輸出、この表では年間約100万トンになるが、に向けられている。この点についてもADGSMの項で検証する。

参考までに、豪州のLNG液化設備および東部のガス堆積盆地、ガスパイプラインと貯蔵施設を以下図9と図10に図示する。

図9 オーストラリアのLNG液化設備位置図
図9 オーストラリアのLNG液化設備位置図
出所 Geoscience Australia
図10 オーストラリア東部のガス堆積盆地、市場、主要ガスパイプラインと貯蔵施設
図10 オーストラリア東部のガス堆積盆地、市場、主要ガスパイプラインと貯蔵施設
出所 AER(Australian Energy Regulator)”Gas Markets in Eastern Australian”

3. 石炭火力発電所の減少

資料は少し古いが、稼働中の石炭火力発電所を以下表4に示す。

表4 オーストラリアの石炭火力発電所(2016年末時点)
表4 オーストラリアの石炭火力発電所(2016年末時点)
出所 Australian Energy Council, Submission 44 (10/11/2016)

2015年のパリ協定以降、年代の古い発電所から解体の対象となった。仏 EngieのHazelwood power stationは2017年に運転を停止し、解体作業の完了は2022年である。

また、AGLの200万kWのLiddell発電所は最初のユニットが2022年4月に停止し、すべて停止するのは2023年4月の予定である。Liddell火力発電所の後は、ガス火力発電に置き換わるとのことであるが、原子力発電所の候補地でもあるようだ。また、AGLはビクトリア州のLoy Yang A発電所を2048年に廃止する計画を前倒しし2035年に閉鎖することを2022年10月に発表した。

火力発電所の停止とメンテナンスに資金が回っていないことは冒頭に述べたが、2022年4月から6月末までの石炭火力発電所の計画および計画外停電を図11に示す。電力危機が起きた6月13日の火力発電の非稼働率は、それ以前の4月頃と比べて変わらないが、計画外停電の割合が大きかった。

図11 石炭火力発電の2022年第二四半期における停止状況
図11 石炭火力発電の2022年第二四半期における停止状況
出所 AEMO “Quarterly Energy Dynamics Q2 2022”
注:APPは、Administered Price Periodを意味する

APC(Administered Price Cap)適用開始時点で、火力発電所の発電能力21,111.25 MW(表4から西オーストラリア州、HazelwoodおよびLiddell発電所を控除した値)のうち6,000MWが発電できなかった。即ち、発電能力のうち約25%が使用できない状態になった。停電比率は4月から比較的高い水準にあったが、その時はメンテナンスによる計画停電の比率が高かった。6月に入って計画外停電が増加したことが分かる。

 

4. 太陽光発電について

6月は厳冬により、太陽光発電も影響を受けたと言われている。オーストラリアでは、広い国土に都市や町村が点在しており、いまだに送電網に接続していないオフグリッドの地域が多く残されている。都市の近傍には、石炭火力やガス火力発電所があり、一方遠隔地域は太陽光および風力発電と蓄電池の組み合わせを導入することで費用対効果が期待され導入が進んでいる。しかし、送電網の新設や更新に掛かる設備投資が電気料金に転嫁され、利用者に重い負担となっている。今回の寒波で、太陽光と風力発電がどの程度電力ネットワークに接続し影響を被ったか、またネットワークから独立した太陽光・風力+蓄電池がどのように機能したのかどうか細かい検証には至っていない。

 

5. 電気料金およびガス料金

  1. 電気料金

上記のような原因が種々重なり電気料金は、週平均でも以下の通り大きく変動上昇した。

図12 NEM(National Electricity Network)2021年7月から2022年7月までの各州の平均電力料金
図12 NEM(National Electricity Network)2021年7月から2022年7月までの各州の平均電力料金
出所 Australian Energy Regulator
図13 2022年6月7日から26日まで豪州5州の5分ごとの電力スポット価格
図13 2022年6月7日から26日まで豪州5州の5分ごとの電力スポット価格
出所 AEMO “Quarterly Energy Dynamics Q2 2022”
注:APC(A$300/MWh)がAPP期間中継続した

APCが発動されるためには、過去7日間における30分ごとの電力スポット価格の累計(計336ポイント)が事前に定められた上限閾値のA$1,359,100を超える必要があるが、6月12日にクイーンズランド州で、翌13日には、ニューサウスウェールズ州、南オーストラリア州とビクトリア州がこの閾値を超え自動的にAEMO(Australian Energy Market Operator)が市場介入し、A$300/MWhの上限が適用となった。ガスやディーゼルを使う発電業者に電力供給を行うよう強制し、石炭火力発電の不足分を補わざるを得なかった。

AEMOは22日、石炭火力発電の一部が復旧し、徐々に出力を通常状態まで回復させていると発表。上限は、6月23日から段階的に解除されることになった。

このAPP(Administered Price Period)期間にA$300を超えて発電用燃料を調達した発電業者には、国家電力ルール(National Electricity Rules)に基づき市場参加者が積み立てたファンド(security deposit fund)から後日損失補填を受けることになっている。補填金額については公表されていない。

2022年第2四半期の電気料金の平均は、A$264/MWh(1A$=95円として円換算すると約25円/kWhである)であった。これは、干ばつと熱波が襲来した過去の最高値料金である2019年第1四半期のA$130の倍である。

  1. ガス価格

2022年第2四半期において、図10に示すWallumbia Hubにおけるガス卸売価格は平均でA$29.23/GJであったが、一年前の約2.5倍、昨年9月のそれまでの記録である$10.74/GJの三倍となった。下の図14は、クイーンズランド州の州都ブリスベーンにおける短期取引市場における2022年上期の値動きを示している。

図14 ブリスベーンにおける短期取引市場における2022年上半期の値動き
図14 ブリスベーンにおける短期取引市場における2022年上半期の値動き
出所 COAG Energy Council (政府エネルギー評議会)(25/8/2022)
AEMO Market Suspension Report: Anatomy of a Crisis
注:1GJ = 0.947mmBtu; A40$/GJ = 40 x 0.68(米ドル換算)x 0.947 = US$25.75/mmBtu

6. 豪州国内ガス安全保障制度(ADGSM)発動に向けての動き

2017年の電力危機を契機に同年7月に導入されたのが、ADGSMである。ADGSMは輸出規制のガイドラインであるが、1901年関税法の追加規定である関税法1958(輸出禁止)Division 6(LNG)Section 13GF(輸出禁止条項)を根拠として法的強制力を有する。Section 13 GCでは天然ガスの国内供給が不足する年においてLNGの輸出は禁止とすること、Section 13 GFでは、関係する大臣は輸出禁止に関するガイドラインを作成することが出来ると規定されており、ADGSMはこれに該当する。発動された場合は、LNG輸出業者は輸出許可がなければ輸出禁止措置を受ける。ADGSMのメカニズムについての詳細は、石油・天然ガス資源情報の2017年7月25日付「豪州東海岸におけるLNG輸出増と豪国内ガス安定制度(ADGSM)の導入」および2018年11月26日付「豪州のLNG開発の現状と課題」を参照願う。

現在のADGSMは5年間の時限的措置であり2023年1月1日に失効することになっていたが、2022年7月にこれを2030年まで延長することが決定された。一方、東海岸LNGの三輸出事業者は、豪州政府とHeads of Agreement(HoA)を2018年9月から締結しているが、2020年12月30日に更改した。その内容は、

  • 不足に対応するため、リーゾナブルな条件で国内市場に十分なガスを供給。
  • 未契約のガスは、まずは競争的な条件で国内市場に提供する。価格は、海外のスポット価格をベースにネットバック価格とする。
  • 不足量の状況はAEMOと調整し、取るべき措置について詰めていく。
  • これらの遵守状況をACCCに定期的に報告。ACCCが上記のモニターを実施する。

このHoAは、2023年1月1日まで有効である。これらHoAの法的な性格は強制力を持たない(non-biding)と解釈されるが、政府との合意事項であることに違いなく東海岸LNG輸出業者によって遵守されてきた。このHoA締結により、罰則を伴う強制力を持つADGSMはこれまで発動されてこなかったと思われる。

  1. オーストラリア競争・消費委員会(ACCC: Australian Competition & Consumer Commission)ガス調査中間報告(Gas Inquiry 2017-2025 interim report)

ACCCは、2012年から2014年頃にかけて、工業用ガス需要家が2016年以降の長期・大口ガス契約を検討する際に、高価格・柔軟性が低く・短期の提案しか得られない状況にあったため、The Competition and Consumer Act 2010(CCA)に基づき、供給可能性と競争条件について半年に一度調査を実施し、レポートを公表してきた。7月に公表されたガス調査中間報告によると、2023年の豪州東海岸のガス需要予測を立て、図15の通り国内需要向けのガス量が56PJ(LNG 103万トン)不足するという。

この前提は、LNG事業者のスポット市場への輸出を167PJ(LNG 307万トン)と仮定していることである。167PJは2021年のスポット市場への輸出量である。2022年は、スポット輸出量を101PJ(LNG 186万トン)と予測しているので、2022年と比べると65%増となる。仮定の上に仮定を重ねる話になるが、2023年も2022年と同量の101PJのスポット輸出だとすると、ガスは不足しないことになる。ガス不足に備えては、

  • 炭層ガス田からの生産量を増やす
  • 北部準州でのガス生産増加と2019年に開通した北部準州からの豪州東海岸へのガスパイプライン(NGP: Northern Gas Pipeline)による豪州東海岸への輸送
  • ガス貯蔵からの引き出し、または
  • LNG輸出業者の輸出から国内市場へのガスの供給転換

などが考えられるが、過不足はギリギリの状況である。過不足の決定がLNG輸出業者に委ねられていることから、ACCCはLNG輸出業者に海外スポット市場に輸出するときは、従来のHoAによる届け出とACCCのチェックではなく正式に輸出許可を取るべきという姿勢である。それ故ADGSMの発動を決断する資源大臣に対して、発動を要請しているものと思われる。

図15 オーストラリア東海岸における2023年の需給バランス予測
図15 オーストラリア東海岸における2023年の需給バランス予測
出所 ACCC Gas Inquiry 2017-2025 interim report (2022年7月)

ACCCによる豪州東海岸におけるLNG輸出業者の国内市場に対して、供給が多いのか(net-contribution)それとも供給がマイナス、即ち国内市場からのガスの調達の方が多いのか(net-deficit)を2017年から2021年までの実績と2023年までの予測を示したのが図16である。

図16 LNG輸出業者の豪州東海岸における国内市場への供給と第三者からのガスの買い取り推移
図16 LNG輸出業者の豪州東海岸における国内市場への供給と第三者からのガスの買い取り推移
出所 ACCC Gas Inquiry 2017-2025 interim report (2022年7月)

この図から分かる通り、2022年からは国内への供給よりも国内からの調達の方が多い、即ちnet-deficitに陥ると予測されている。また、同レポートによれば、net-deficitに陥るLNG設備は、GLNGとQCLNGだという。

  1. ADGSMについて(石油・天然ガス資源情報2017年7月25日付「豪州東海岸におけるLNG輸出増と豪国内ガス安定制度(ADGSM)の導入」を参照の上追加、修正)
     

前述した通り、ADGSMは、2017年の熱波による電力危機によって、同年7月に導入されたガイドラインである。ガイドラインにおいて、示されている手続きの主要点は、以下の通り。

  • 資源大臣は国内のガス市場での不足が懸念される場合、その旨を“通知(Notification)”し、市場関係者(AEMO、ACCC等)、LNG輸出業者、関係大臣等との協議を開始する。この“通知”は、通常7月1日までに実施されるが、遅くとも、10月1日までに通知される(本レポートの執筆の時点では通知は出されていないが、公表された時点では通知が出されたかどうか判明している)。
  • 資源大臣の要請により、市場関係機関は、輸出による国内ガス不足への影響可能性等に関する情報を提供する。ガス不足の可能性の推定を行うに際しては、豪州のガス消費者(卸売り)の平均支払い額が輸出向けのガスのネットバック価格(注)より安価となるような価格で評価する。

    (注)ネットバック価格については、国際的なLNG価格から、変動費(LNG船による輸送費、液化費用、豪州域内パイプライン費用)、固定費(液化基地初期投資)を減じたものが想定されるがADGSMでは、明確には定義されていない。

  • 資源大臣の“通知”および要請に基づき、LNG輸出業者は、生産量、消費量、第三者からの購入量、埋蔵量、販売量、輸出量および国内ガス市場への影響等に関する、現在および将来の見通しに関する情報を提供する。
  • 資源大臣は、関係大臣と輸出規制がなされない場合の国内ガス需給、輸出規制を行った場合の国内市場、消費者、LNG産業、豪州の国際的な評価、貿易および投資面面への影響等に関して協議を行い、利害関係者からのパブリックコメント等も考慮の上、LNG輸出がガス供給不足の原因であり、輸出規制がなされなければ十分なガス供給がなされないと判断される場合、次年を国内ガス不足(domestic shortfall year)とするかどうかを決定(Minister’s determination)する。
  • 上記の決定は、通常9月1日までになされるが、十分な情報がない場合等11月1日まで延期されることができる。
  • 国内ガス不足が宣言された場合、豪州全体でLNG輸出規制が課せられ、豪州すべてのLNG輸出業者は、輸出許可が必要となる。
  • ガスの不足が生じる地域にパイプライン網が接続していないLNG輸出業者には、無制限の輸出許可が与えられる(例:西オーストラリア州)。ただし、西オーストラリア州は、州法により生産ガスの15%の州内への供給義務をLNG輸出業者に課している。
  • ガスの不足が生じる地域においては、自社の生産量が輸出用に必要な原料ガスよりも多い場合は、net-contributorとして、事前に大臣に届け出た計画輸出量相当の輸出許可量(Allowable Volume: AV)が付与される。
  • 自社の生産量が輸出用に必要な原料ガスよりも少ない場合は、届け出た計画輸出量相当から、純不足分を上限に定められた数量を差し引かれた輸出許可量が付与される。
  • LNG輸出業者が複数でLNG設備を保有する場合、関係するLNG輸出業者(LNG Exporter)を特定し、それぞれの輸出許可量の配分を、政府に対して明らかにしなければならない。ADGSMの適用期間は暦年ベースで1月1日より1年間である。
図17 ADGSM決定の流れ(抜粋)
図17 ADGSM決定の流れ(抜粋)
出所 Department of Industry, Science and Energy
  1. 各LNGプラントについて
  • APLNGは、自主開発ガス田からの原料ガスの調達が82%であり、また国内向けにガスを供給していることから、net-contributorとしてACCCにも扱われている。
  • QCLNGについては、解釈が分かれるかもしれない。前述したように、供給ガス田はQCLNG上流ガス田が47%を供給。残りはShellとPetroChinaが半々で出資するArrow EnergyによるSurat Gas Projectガス田およびAPLNGから供給を受けている。ガスの長期販売契約は、Train 1およびTrain 2とも生産されたLNGはShellのポートフォリオ(注)に取り込まれる形で輸出されている。しかし、Shellが2015年にBGを合併する以前は、QCLNGはBGが資産の大部分を保有しており、合併前にBGはTrain 1でCNOOCに年間360万トン(20年間)の長期販売契約を締結しており、Train 2では、Shell Singaporeに年間270万トン(18年間)そして東京ガスに120万トン(20年間)のいずれも長期契約を結んでおり、Shellのポートフォリオはこれらの長期契約を包含しているものと考えられる。
  • APLNGからの原料天然ガスの供給が国内取引となるかどうかについて見解が分かれるかもしれない。APLNGの持つ供給ガス田がすべて輸出用と認められれば、QCLNGへの販売も輸出枠内と見做されるし、そうでない場合は国内の第三者からの調達となる。QCLNGがnet-deficitと認定された場合でも、東京ガスとShell間のガス売買契約がどのように規定されているか不明だが、Shellはポートフォリオ契約である以上他の国の自社取り扱い(それが不可能なら第三者から調達して)LNGを東京ガスに供給しなければならないと思われる。

    (注)ポートフォリオ契約とは、LNGの供給源を特定せず、欧米メジャーらが権益を持つ世界の複数のLNG供給源からバイヤーにLNGを出荷する契約。従来のLNG供給契約に比べ、出荷地の代替が可能なため、一部の液化プラントに支障が出ても安定的にLNGを調達できるメリットがある。

  • GLNGは、もしADGSMが発動されればNet-deficitとなる可能性が高い。それは表3から分かるように自主開発ガス田からの供給が45%と半分を下回り、不足分は豪州の総合エネルギー会社のOrigin EnergyとAGL Energy等から調達している。Santosの自主開発ガス田からの生産量の見通しが思ったほど伸びなかったと言われている。LNGの輸出分より国内からのガス買い取り量の方が多いと見做される可能性が大である。なお、GLNGに輸出規制が掛かったとしても、GLNGと長期のガス販売契約を締結している日本の企業はない。影響を被るのはKOGASとPetronasであろうか。

 

7. ADGSMに対する業界の反応

  • GLNGのオペレーターであるSantosは、2023年1月にADGSMが導入されるという動きについて、この問題はGLNGだけではなく、東海岸すべてのLNG輸出業者の問題であり、共同で対応を相談する必要があると述べた。
  • オーストラリアの業界団体である、オーストラリア石油生産開発協会(APPEA: Australian Petroleum Production and Exploration Association)は、ACCCが指摘する図15に示されている167PJ(LNG 307万トン)の未契約の余剰ガス(Excess Gas)は容易に国内に仕向けることが可能だと述べた。
  • 石炭火力業界、再生可能エネルギー業界の投資が不足したことがエネルギー不足の主たる要因であり、LNG輸出業者を非難するローカルメディアは筋違いではないかという意見。ローカルメディアは、ACCCの報告書が出た後に、クイーンズランド州のガスはオーストラリア国民のものであり、LNG輸出業者のものではないとの論戦を張った。
  • 反対に、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州は、クイーンズランド州を頼るのではなく、自らの州でガス田の探鉱と開発を禁じている法律を直ちに廃止すべきだとの反論が見られる。

 

8. 今後の東海岸エネルギー危機克服への問題点、課題と見通し

  1. 問題点
  • オーストラリアの政治体制上連邦と各州は対等で、州内のエネルギー政策は基本的に各州が個別に所掌している。また、クイーンズランド州は労働党、ニューサウスウェールズ州は自由党、ビクトリア州は労働党が州の政権与党であり、各州のエネルギー規則や政策が異なり、また連邦政府の意向と州政府の政策連携が取れていないとの指摘がある。
  • 複雑な電力統制機関
    • AEMO(Australian Energy Market Commission)は、NEM(National Energy Market)の操業と需要と供給が整合するよう見通しについて責任を有している。
    • AEMC(Australian Energy Market Commission)は、NEMの操業に関する規則やフレームについての変更に責任を有している。
    • AER(Australian Energy Regulator)は、送配電のオーナーに対して最大電気料金を定めており、NEMの法と規則を遵守させることに責任を有している。
    • Council of Australian Governments(COAG)Energy Councilは、連邦政府と各州政府およびニュージーランドのエネルギーと資源大臣から構成されており、電力市場政策に関与している。
    • この他、2016年10月にCOAGがDr. Rinkelに委託し2017年6月に提出された「将来の国家電力市場の安全保障に関する独立レポート」(Finkel Report)の要請によって設けられた Energy Security Boardがあり、電力システム全体の監督を担っている。
図18 オーストラリアの電力規制各機関
図18 オーストラリアの電力規制各機関
出所 AEMC
  1. 課題と見通し

2017年のエネルギー危機の際に、国内天然ガスの置かれた状況が分析され、取るべき施策が述べられている。下の図は、2017年にAEMOが公表した”Gas Statement of Opportunities for eastern and south-east Australia”のなかで、新規ガス田が開発されなければ、2021年から2022年にかけて国内生産が落ち込むことが当時から予想されていた。

図19 オーストラリア南東部におけるガス生産予想(2017年)
図19 オーストラリア南東部におけるガス生産予想(2017年)
出所 AEMO Gas Statement Opportunities 2017

ガス火力発電所による電力増産に向けては、

  • 北部準州と東部と南部を結ぶパイプラインの建設。このパイプラインは2019年1月3日に操業を開始したが口径12インチ、輸送能力は84.88mmcfdと小規模なパイプラインである。北部準州で生産される天然ガスは、現在のところオフショアBonaparte堆積盆地の小型ガス田からである。
  • 北部準州内陸部のBeetaloo堆積盆地は、シェールガス田として米国Marcellusにも匹敵する大型ガス田と言われているが、北部準州ではフラッキングが環境へ及ぼす影響への懸念の高まりから探鉱・開発を一時停止するモラトリアムが2016年9月に発令された。その後、地域、産業を巻き込んで科学的検証を行った結果、フラッキングが解禁となったのは2019年7月であった。
  • 現在、北部準州ではOrigin Energy、Empire Energy、SantosおよびTamboran Resourcesがシェールガス田の探鉱開発に従事しているが、2021年1月にBeetaloo堆積盆地でガスが発見された。FIDは2023年、生産開始は2027年と予定されている。
  • 東海岸内陸部のガス生産量は落ち込みが続いている。従来のクイーンズランド州Cooper堆積盆地でSantosが増産に取り組んでいるが、増産量は減産量を下回る見込みで、かつ新規ガス田からの生産も2020年代半ばとなる見込みである。
  • Santosのニューサウスウェールズ州Narrabriガス田の開発は、潜在的な資源量は1 Tcfあるとされ有望視されているが、裁判所から開発停止命令が出されている。
  • ガス火力発電の方が石炭火力よりも発電開始に要する時間が短く、太陽光や風力発電の間欠性を補うには柔軟性があり、より適しているとされている。
  • ガス貯蔵に使用されている地下貯蔵施設から素早くガスを取り出しガス火力発電所に送るにはビクトリア州のSouth West Pipelineの拡張が必要であるが、2021年3月に建設が始まり2022年末に完成を目指している。
  1. LNG輸入について

LNGを輸入し再ガス化したうえでガス火力発電所に送る計画が7件あったが、2カ所の計画がキャンセルされ、また2カ所において進展が見られない。ロシアのウクライナ侵攻とそれに続くロシアからのガス供給の停止が迫るなか、欧州がFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化ユニット)のチャーターに積極的になっており、オーストラリアの出遅れ感は否めない。残り3件の内、1件のみ進捗が見られる。

  • Viva LNG:ビクトリア州で再ガス化Viva LNGプロジェクト計画を進めていたViva Energyは、HoeghとFSRUチャーターの仮契約まで至ったが、最終的にドイツに向かうことになった。また、仮契約していたWoodsideが西オーストラリアから供給するLNGによるガス価格は国内価格より高くなるため、ガスの買い手も現れなかった。
  • Outer Harbour FSRU:南オーストラリア州アデレードで進めているVenice EnergyによるOuter Harbour FSRUプロジェクトは、ギリシャでLNGタンカーを所有しているGasLog社と、LNGタンカーをFSRUに転換する話を進めているが、造船所の船台の空き次第という。
  • Port Kembla FSRU:ニューサウスウェールズ州でSquadron Energy(Australian Industrial Energy子会社)が進めているPort Kembla Energy Terminalの工事は始まった。Hoegh Galleon FSRUをチャーターし2023年末までに操業が開始される予定であるが、買い手次第だという。

これらを考慮すると、オーストラリアにおいて、LNGの輸入が開始されるのは2025年頃ではないかと思われる。

図20 豪州におけるLNG受入基地計画
図20 豪州におけるLNG受入基地計画
出所 Wood Mackenzie

9. ADGSMの改訂について

ADGSMについては、翌年が始まる半年前から情報分析やヒアリングが始まり、原則7月1日(遅くとも10月1日)に検討開始の通知(Notification)が発せられ、9月1日(遅くとも11月1日)に翌年LNGを輸出許可制にするかどうか発動の決定が下される。対象は、基本的には西オーストラリア州と北部準州を含むすべてのLNG輸出についてとなる。

今年のように寒波が到来した場合や火力発電所が故障により突発的に停止した場合のエネルギー危機には、直ぐには対応できないことから、硬直的であり迅速性や柔軟性に欠けると指摘されており、ADGSMを見直す動きになっている。しかし、ADGSMは見てきた通り1958年関税法(輸出禁止)Division 6(LNG)Section 13GEに紐づけられたガイドラインであり、発動された場合は豪州全体に一年間有効となる。2017年は、通知は出されたが発動まで至らなかった。加えて、オーストラリアを含む英連邦諸国や米国は、伝統的に連邦政府は民間ビジネスにできる限り介入しないという原則が働いている。ADGSMを改訂するのであれば関税法の枠内で行われることになるが、法改正を伴うことから国会審議を経る必要がある。同様に、迅速性や柔軟性をもった新しい法律を施行する場合も同じである。

 

10. ADGSM発動の決着について

オーストラリア石油生産開発協会(APPEA)のマカロック代表は、9月に連邦政府が今年、LNGの輸出規制「オーストラリア国内ガス安全メカニズム(ADGSM)」を発動することはないとの見方を示していた。国内東海岸LNG輸出業者3社が、連邦政府とガス価格統制に関するHeads of Agreement(HoA 2023)の締結に向けて協力していることが背景となっている。

2022年9月28日に、豪州マスコミに流れたニュースでは、資源大臣は、10月1日にADGSMを発動するとの報道がなされた。しかし、これはADGSMの手続き上、”Notification”というプロセスを飛ばしたものになるため懐疑的であったが、翌9月29日に豪州政府と東海岸LNG輸出業者間でHoA 2023が締結され、2023年はADGSMの発動は回避された、

  1. 新たに締結されたHoA 2023の内容

従来のHoAに加え、HoA 2023は、

  • 契約未締結ガス(Uncontracted Gas)は、まず国内市場に提供すべく申し出するよう規定された。
  • 提供するガスは、157PJとなる。
  • 東海岸LNG輸出業者は、各社のWebsiteで契約未締結ガスの状況について情報を最低でも3月と9月の資源大臣との会合前には提供するように求められ、国内顧客がこれらの情報に基づき購買活動を行えるよう義務化した。
  • 東海岸LNG輸出業者は、三か月に一度、即ち3月(冬季に入る前)、6月(冬季需要期)、9月(冬季後かつ夏のピーク前)および12月(夏季の需要期)、に資源大臣に国内市場向け出荷見通しとHoAに基づく行動確認について報告書を上げなければならなくなった。また、資源大臣は四半期ベースで東海岸LNG輸出業者と面談を持つことが定められた。
  1. ANNEXES

更に、ANNEX “A”(定義)、ANNEX “B”(2023年追加ガス供給プラン)およびANNEX “C”(ガス供給業者と顧客間の交渉に関わる103 条から成る行動規範 ”Code of Conduct”)が新たに加わった。

ANNEX “B”では、ACCCの2023年予測のガス56PJ(LNG 103万トン)不足に対して、東海岸LNG輸出業者は、157PJ(LNG 289万トン)を供給することを確約している。

 

11. 今後の見通しについて

オーストラリアでは、特に2019年以降森林火災が多発しており、原因として気候変動の影響だろうと言われている。

2023年はADGSMの発動が無くとも、何とか凌げるかもしれないが、それ以降2020年代半ばまでは厳しい状況が続きエネルギー危機が再発してもおかしくはない。この一年でエネルギー供給構造が変わるとは思えない。石炭火力への投資が行われず、北部準州からのガスも短期的には大きな期待は持てず、内陸部のCSG開発もストップがかけられ増産の見通しがなく、ウラン鉱石の輸出国だが原子力発電所はなく(原子力潜水艦は保有しようとしているが)、LNGの再ガス化設備の建設やFSRUもしばらく実現できそうにないという「ないない尽くし」の状況で、やはり当面は太陽光と風力発電に頼っていくしかない。しかし、太陽光発電所は内陸部砂漠地帯に設置され、大都市に送電する送電網の整備が遅れ、また豪州における電力消費のピークである午後7時には稼働していないため、夜は蓄電地に頼るしかないが、現在の技術開発状況では大都市を賄えるほどの規模はない。

各エネルギー産業間において対話とバランスの取れた発展が不可欠と思われるが、これまでの保守連合(自由党と国民党)政権は、この問題に正面から取り組んできたとは思えない。2022年5月の総選挙で勝利し9年ぶりに政権を担う労働党政権は、下院でこそ過半数(定員151のうち77議席)を確保したが、上院では定員76の内労働党は26議席であり環境保護色の強いグリーンズ(12議席)の政策協力が必要である。化石燃料の復活に繋がる政策を取るのは難しい状況で言えよう。

人口約2,600万人弱の資源大国であるオーストラリア。移民の受け入れ制限を強めつつあり、今後人口の急増は考えられない。参考までに2040年までの電気消費量の見通しを以下の図21に示す。年間20万GWhの発電量から大きな成長は描かれていない。

図21 オーストラリアの電力消費量予測(2038‐39年まで)
図21 オーストラリアの電力消費量予測(2038‐39年まで)
出所 AEMO “2019 Electricity Statement of Opportunities (ESOO 2019)”

 

以上

(この報告は2022年10月19日時点のものです)

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