ページ番号1009514 更新日 令和4年10月25日

ロシアのウクライナ侵攻でカナダ東海岸の探鉱・開発やLNG輸出プロジェクト復活か

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レポートID 1009514
作成日 2022-10-25 00:00:00 +0900
更新日 2022-10-25 10:30:11 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 11
抽出データ
地域1 北米
国1 カナダ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
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地域9
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地域10
国10
国・地域 北米,カナダ
2022/10/25 舩木 弥和子
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概要

  • 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、石油・ガス供給に対する懸念が高まり、油・ガス価格が上昇したことで、頓挫していたカナダ東海岸の探鉱・開発やLNG輸出プロジェクトが息を吹き返す可能性が浮上してきた。
  • 探鉱・開発に関しては、Equinorが数年以内にBay du Nordプロジェクトの最終投資決定を行い、2028年後半に生産開始を計画、Cenovus EnergyとSuncor EnergyがWest White Rose油田開発プロジェクト再開に合意、2026年前半に生産開始を予定、ExxonMobilもFlemish Pass Basinでの試掘を再開するとしている。
  • LNG輸出プロジェクトについては、Pieridae EnergyがGoldboro LNG輸出プロジェクトを再検討、RepsolがSaint John LNGプロジェクトから欧州にLNGを輸出することを提案、Énergie Saguenayプロジェクトは2027年からNaftogaz UkrainyにLNGを供給することで覚え書きを締結した。
  • カナダとドイツは、8月23日にカナダ・ドイツ水素アライアンス設立に関する共同意思表明に調印、水素プロジェクトへの投資実現、安全な水素サプライチェーンの開発支援、2025年までにカナダからドイツへの水素輸出開始、そのための大西洋横断カナダ・ドイツ供給回廊の形成に取り組むことで合意した。一方、カナダ東海岸のドイツ向け新規LNG輸出プロジェクトの可能性については、ビジネスケースを検討することを約束し、LNG輸出プロジェクトに関する手続きを緩和することを検討する意思があることを表明した。

 

1 カナダ東部沖合での探鉱・開発状況

カナダ石油生産者協会(Canadian Association of Petroleum Producers:CAPP)によると、カナダ東部の2021年の原油生産量は日量25.8万バレルで、カナダの原油生産量の約5%を占めている。カナダ東部の原油生産量は2007年の日量38.2万バレルをピークに減少していたが、主にHebron油田の生産開始により2015年を底に増加に転じていたところ、2021年は2020年の日量28.4万バレルから9%減少した。

オンタリオ州とニューブラウンズウィック州でも少量の原油を生産しているが、カナダ東部の原油の大部分は、ニューファンドランド・ラブラドール州沖合Jeanne d'Arc BasinのHibernia、Terra Nova、White Rose、Hebronの4油田で生産されている。生産された原油は、ケベック州以東のカナダと米国PADDⅠ(東海岸)に供給されている。

図1 カナダ東部原油生産量推移(単位:千バレル/日)
図1 カナダ東部原油生産量推移(単位:千バレル/日)
出所:https://www.capp.ca/wp-content/uploads/2022/07/Frequently-Used-Stats-June-2022.pdfを基に作成

カナダ東部沖合での油田開発は、2019年12月にTerra Nova油田が生産を停止したのを手始めとして、2020年は、COVID-19感染拡大の影響と世界的な石油需要減退を受けて、West White Roseプロジェクトの開発中断、Bay du Nordプロジェクトの最終投資決定延期、低調なリースセールと厳しい状況が続いていた。増加を続けるHebron油田の生産に対しても、プロジェクトの順調な進展がなければ、10年以内に急激に減少に転じる可能性があると見る向きもあった。

ニューファンドランド・ラブラドール州政府は2020年5月に、このような状況にある同州沖合の石油開発を支援するよう連邦政府に要請した。連邦政府は同年9月25日に、これを支援するため3億2,000万カナダドル[1]を提供すると発表した。ニューファンドランド・ラブラドール州政府は、このうち2億8,800万カナダドルを沖合石油開発事業者に、また3,200万カナダドルをサービス提供部門に割り当てるとした。そして、West White Rose油田に4,150万カナダドル、Terra Nova油田に2億500万カナダドルが割り当てられることとなった。政府支援については業界の求める金額には達していないとの批判もあったが、原油価格上昇と相まって、2021年中ごろ以降、一部のプロジェクトに進展が見られるようになっていた。

そして、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、石油・ガス供給に対する懸念が高まり、油・ガス価格が上昇したことで、これらのプロジェクトの進展に弾みがついた。ニューファンドランド・ラブラドール州政府は、2030年までに100坑以上の新規探鉱井が掘削され、原油生産量を日量65万バレルまで増加させることを目標としているという。

 

(1) 開発へ向け前進するBay du Nordプロジェクト、BPも参入

EquinorとHusky Energyは、St. John'sの北東500キロメートル、Flemish Pass Basinの水深約1,200メートルの海域に位置するBlock EL1112で2013年にBay du Nord油田を、2015年にBay de Verde油田を、Block EL1143で2016年にBaccalieu油田を発見した。可採埋蔵量は合計で原油換算3億バレルと推定され、2020年に開発を開始、2025年に浮体式生産貯蔵積出設備(Floating Production Storage and Offloading System:FPSO)を用いて生産を開始する計画であった。ところが、COVID-19感染拡大による石油需要低迷、原油価格下落により、2020年3月に両社はこれらの油田を併せて開発するBay du Nordプロジェクトの開発開始を延期することとした。これらの鉱区の権益保有比率はオペレーターのEquinorが65%、Cenovus Energyが35%となっている。

しかし、その後もEquinorはFlemish Pass Basinでの探鉱を継続している。

2020年6月には、Block EL1143の水深1,000メートルの海域でCappahayden油田を、10月に同じくBlock EL1143の水深600メートルの海域でCambriol油田を相次いで発見した。Equinorによると、Cappahayden油田とCambriol油田の発見により、Bay du Nordプロジェクト周辺の6油田の可採埋蔵量は7億1,500万バレルとなった。両油田は、Bay du Nord油田からそれぞれ西に17キロメートル、42キロメートル離れた海域に位置しており、Bay du Nordプロジェクトに繋ぎこまれ開発される可能性があるとされた。同鉱区の権益保有比率はオペレーターのEquinorが60%、BPが40%となっている。

Equinorは、FPSOを使用してBay du Nord油田を開発するにあたり、タイバックできる石油、ガスを追加発見することを目的とし、2022年8月に、Block EL1156のCambriol East油田の東25キロメートルの海域で試掘井Sitka O-02号井を掘削、また、Cambriol油田の評価井J-31A号井を掘削、仕上げを行った。

一方、2022年4月には、連邦政府が、Equinorが提出したBay du Nordプロジェクトの環境評価報告書を承認し、同プロジェクトを推進することを許可した。Equinorは数年以内に最終投資決定を行い、生産能力、日量20万バレルのFPSOを用いて、2028年後半に生産を開始することを目指すとしている。開発費用は94億ドルとされている。

なお、同年6月には、BPとCenovus Energyが、BP保有のSunriseオイルサンドプロジェクトの権益50%とCenovus Energy保有のBay du Nordプロジェクトの権益35%および現金6億カナダドル、今後2年間でさらに最大6億カナダドルをスワップすることで合意した。

BPは現在生産を行っていないTerre de Graceオイルサンドプロジェクトを所有、操業しているものの、同オイルサンドプロジェクトの権益に関しても売却等の選択肢を検討中であり、事実上、オイルサンドプロジェクトから撤退することとなった。すでに、ニューファンドランド・ラブラドール州沖合の6鉱区の権益を保有していたBPは、カナダにおける炭化水素事業の焦点をニューファンドランド・ラブラドール州沖合のプロジェクトに絞るとしている。

一方、Cenovus Energyは、2021年のHusky Energy買収時にSunriseオイルサンドプロジェクト(生産量:日量5万バレル)の権益を取得し、同プロジェクトのオペレーターを務めてきたが、今回の取引により同プロジェクトの単独所有者となった。この資産交換は、オイルサンド資産の統合というCenovus Energyの戦略に沿ったものであり、今後、Sunriseオイルサンドプロジェクトの増産とコスト構造の改善が進む可能性があると見られている。

図2 カナダ東部沖合主要油田図
図2 カナダ東部沖合主要油田図
https://www.equinor.com/en/where-we-are/canada-bay-du-nord.html

(2) West White Rose油田開発プロジェクト、2023年に最終投資決定を予定

Husky Energyは、1984年にSt. John'sの東350キロメートル、水深120メートルの海域でWhite Rose油田を発見し、2005年11月にSea Rose FPSOを用いて生産を開始、2007年4月にピーク生産、日量12.6万バレル強に達した。

Husky Energyは、Jeanne d'Arc Basinに位置する同油田の生産期間を長期化するため周辺油田を併せて開発することとし、その後の探鉱により発見されたNorth Amethyst油田とSouth White Rose拡張プロジェクトをSea Rose FPSOに繋ぎこんで、2010年と2015年にそれぞれ生産を開始した。

さらに、Husky Energyは2017年5月、2011年中ごろに生産開始予定だったがコスト上昇と原油価格下落で最終投資決定が遅れていたWest White Rose油田開発プロジェクトに着手することを明らかにした。Husky Energyは、West White Rose油田をSea Rose FPSOに繋ぎこみ、2022年末に生産を開始し、2025年に生産量を日量7万5,000バレルとすることを計画した。

ところが、2020年3月、COVID-19感染拡大を防止するため、60%完成したところでWest White Rose油田開発プロジェクトのインフラ建造が中止された。その後、Husky Energyは同プロジェクトの再評価を行っていると伝えられていたが、10月にCenovus EnergyがHusky Energyを買収することになり、その発表の翌日、Husky Energyは2021年中の建造再開はないとした。

一方、ニューファンドランド・ラブラドール州政府は同年12月に、連邦政府から提供された石油・ガス産業への支援金で設立した基金から、Husky EnergyにWest White Roseプロジェクト開発資金として同プロジェクトで必要とされる資金の50%にあたる4,150万カナダドルを提供して開発を支援すると発表した。

2021年9月、Suncor Energyは、Terra Novaプロジェクトの権益保有比率再編と資産延命プロジェクト推進について合意した際に、White Roseプロジェクトについても権益を再編する契約を締結したことを明らかにした。これによると、West White Rose油田開発プロジェクトの再開が承認された場合には、Cenovus EnergyはWhite Rose油田の権益を72.5%から60%に、West White Rose油田開発プロジェクトの権益を68.875%から56.375%に減らし、Suncor Energyがより多くの権益を取得することになるという。

これを受けて、2022年5月、Cenovus EnergyとSuncor Energyは、West White Rose油田開発プロジェクトの再開に合意した。2023年に最終投資決定を行い、2026年前半に生産を開始、2029年末までにピーク生産量、日量8万バレルに達する見通しである。West White Rose油田開発により近年は日量2万バレル弱で生産中のWhite Rose油田の寿命が14年延びることになる。

 

(3) ExxonMobil、Flemish Pass Basinでの試掘を再開

ExxonMobilは、St. John'sから440キロメートルに位置するFlemish Pass Basin、Block EL1165A(面積1,465平方キロメートル)で2020年5月に中断した試掘井Hampden K-41号井の再掘削の準備を進めている。2022年7月には、ExxonMobilが同井掘削のため、ドリルシップStena Forthを契約したことが明らかにされた。

Block EL1165Aの北に位置するBlock EL1165Bでは、2020年4月に試掘井Harp L-42号井の掘削が中断されたが、結果は未発表のままとなっている。Block EL1165Aには2021年9月にQatarEnergyがファームインし、権益保有比率はオペレーターのExxonMobilが60%、QatarEnergyが40%となっている。両社はアルゼンチン、ブラジル、モザンビーク等のさまざまな鉱区でパートナーとなっている。Block EL1165AはQatarEnergyにとってカナダ沖の唯一の資産となる。

 

(4) BPとEquinor、ノバスコシア州沖合鉱区を放棄、撤退

しかし、カナダ東部沖合の全てのプロジェクトが進展を始めたというわけではない。

カナダ・ノバスコシア沖石油委員会(Canada Nova Scotia Offshore Petroleum Board:CNSOPB)は2022年1月20日、BPとEquinorがノバスコシア州沖合の3鉱区で1月14日の期限までに掘削を行わなかったことから、3鉱区の契約を失効させると発表した。

BPはBlock EL2334Rを返還し、2021年に1年間の期間延長のために支払った300万カナダドルの保証金を没収されることとなった。同社は同鉱区で、2018年に試掘井Aspy D-41号井を掘削したが、ドライであった。同鉱区の権益保有比率はBP50%、Hess50%となっていた。

Equinorは、2016年にBlock EL2436とBlock EL2435を取得し、両鉱区併せて8,200万カナダドルの作業コミットメントを提示していたが、掘削を行うことなく、両鉱区を放棄することとなった。

2021年11月に実施されたノバスコシア州沖合を対象とした鉱区入札にも応札した企業はなく、これにより、同州沖合について有効な探鉱・開発契約はなくなった。同州のDeep Panukeガス田およびSableガス田も2021年に生産を停止しており、同州沖合で生産を行っている油・ガス田もない。

 

(5) CNOOC、ニューファンドランド・ラブラドール州沖合Flemish Pass Basinの鉱区を放棄、撤退

CNOOCは、2022年4月、ニューファンドランド・ラブラドール州沖合Flemish Pass Basinから撤退することを明らかにした。CNOOCは2021年にFlemish Pass BasinでPelles井を掘削したが、同年半ばに、詳細を明らかにすることなく、同井を塞いで放棄すると発表した。今回の撤退は、Flemish Pass Basinでの掘削が失敗に終わったことを受けたものだと見られている。

CNOOCは、2013年にNexenを150億ドルで買収したことにより、カナダ、米国、英国の資産を取得したが、同月、これらの国の事業からの撤退を計画していると報道されていた。アルバータ州でのオイルサンド事業については現在も操業を継続している。

 

(6) Woodside Energy、Orphan Basinの探鉱ライセンスを放棄するとの報道

2022年9月には、Woodside Energyが、ニューファンドランド・ラブラドール州沖合Orphan BasinのBlock8とBlock12の探鉱ライセンスを放棄するとの報道がなされた。両鉱区は、2018年に実施された入札でBHPが8億2,200万カナダドルで落札した鉱区で、Woodside Energyは、6月にBHPの石油・ガス事業を買収した際に、これらの鉱区も取得した。しかし、Woodside Energyは探鉱井の掘削を米国メキシコ湾に集中させる計画で、これらの鉱区は中核資産とはならず、落札額の約25%とされる違約金を支払ってでも手放したいと考えていると伝えられている。

ニューファンドランド・ラブラドール州政府は、原油価格の上昇と、EquinorのBay du Nordプロジェクトの進展が、この地域にさらなる探鉱を呼び込むことを引き続き期待しているとしているが、Woodside Energyが撤退することになれば、同州にとっては打撃となると見られている。

 

2 カナダ東部のLNG輸出プロジェクト

カナダ東海岸では、2021年から2022年初にかけ、環境面への配慮やコスト等の観点から、新規LNGプロジェクトの立ち上げが順調に進まないという事例が見られた。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻で欧州へのガス供給に不安が生じると、豊富な埋蔵量とヨーロッパへの近接性から、新たな信頼できるLNGサプライヤーとしてカナダへの注目が高まり、一旦は頓挫したと見られたLNGプロジェクトの復活が検討されるようになった。2022年5月には、Jonathan Wilkinson天然資源相が、連邦政府が東海岸のLNG輸出プロジェクト候補の企業2社、Pieridae EnergyとRepsolと、プロジェクトを加速させ、欧州への供給を増やすためにどうすればよいか協議中であることを明らかにした。

ただし、課題は多く、特に、カナダ西部から東部、大西洋岸にガスを輸送するパイプラインの輸送能力が限られており、これが欧州へのLNG輸出計画にとって大きな障害となると見られる。

なお、9月29日には、西村経済産業大臣がFrançois-Philippe Champagne科学・科学・産業大臣とエネルギー・トランジションやLNG等のエネルギー安定供給について会談を行った。ただし、カナダ東海岸のプロジェクトから日本等アジアへのLNG輸出ということになると、これらは、もともと、距離的に近い欧州をターゲットとしたものであるうえに、カナダ西部から東部にパイプラインでガスを輸送して液化し、アジアまで輸送するということになれば、LNGの輸送距離も長くなり、経済合理性がなく、可能性は低くなると考えられる。カナダからアジア向けにLNGを輸出するプロジェクトを復活させる兆しがあるとの報道はあるものの、いずれもカナダ西海岸のプロジェクトを取り上げたものとなっている。

図3 LNGプロジェクト等関連地図
図3 LNGプロジェクト等関連地図
出所:JOGMEC調査部 天然ガス・LNGデータハブ2022に加筆、修正

(1) Pieridae Energy、Goldboro LNG輸出プロジェクトを再検討

Pieridae Energyは、ノバスコシア州東海岸に建設予定のGoldboro LNG輸出プロジェクトの最終投資決定を2021年6月30日に行うとしていたが、叶わず、同プロジェクトは棚上げされていた。ところが、2022年5月、ロシアによるウクライナ侵攻でLNG市場を巡る状況が変わったことで、同プロジェクトが再度検討されていることが明らかになった。

Pieridae Energyは、2011年に設立され、天然ガスの探鉱・開発から、LNG輸出プロジェクトの開発・建設・操業まで、総合的なエネルギー関連事業に従事しているCalgaryの企業である。

Pieridae Energyは、2019年10月にShellからアルバータ州上流、中流資産を取得し、もともと保有していた同州の資産と併せた生産拠点から、Maritimes & Northeastパイプライン等既存のパイプラインでGoldboro LNG輸出プロジェクトまでガスを輸送し、年間1,000万トンのLNGを生産することを計画していた。また、敷地内にLNGを69万立方メートル貯蔵できる施設を建設するとしていた。そして、2025年から2026年にLNG輸出を開始するとしていた。

Pieridae Energyは、Goldboro LNG輸出プロジェクトについて、坑井から欧州へのLNG輸出までのバリューチェーン全体の中で二酸化炭素排出を削減するとし、排出される二酸化炭素を相殺するために、アルバータ州Carolineに二酸化炭素回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage:CCS)の設備を付設した火力発電所を建設するとしていた。同社はCaroline油・ガス田の枯渇した天然ガス埋蔵層に、Goldboro LNG輸出プロジェクトの年間排出量に匹敵する年間300万トンの二酸化炭素を貯留する計画であった。また、周辺地域のコミュニティ、先住民族、ステークホルダーと継続的な対話と関与を積極的に実施していた。

Goldboro LNG輸出プロジェクトは、特に欧州の主要市場までの距離が近く、LNG輸送距離が短いという点がメリットとして挙げられる。これを活かし、ドイツのUniperと20年間のLNG供給契約(年間約500万トン)を締結し、LNGをWilhelmshaven輸入ターミナルに供給する計画としていた。ところが、Wilhelmshaven輸入ターミナルにはLNG受け入れターミナルではなく、グリーン水素ハブが導入されることになった。

Pieridae Energyは、2021年6月30日までに同プロジェクトの最終投資決定を行う計画であった。しかし、同年7月2日、COVID-19の影響でコスト見積もりが大幅に上昇し、想定していたスケジュールで同プロジェクトを立ち上げることが難しいこと、また、計画どおりに同プロジェクトを構築することは現実的ではないことが判明したため、これを棚上げすると発表した。そして、欧州の旺盛なLNG需要と世界的なLNG価格の高騰、先住民族の参加、ネット・ゼロ・エミッションへの道筋、カナダ全土の司法機関からの支持など、プロジェクトの基本的な条件は引き続き強固だとし、今後は、現在の環境に適合したLNGプロジェクトを実現するための選択肢を検討し、戦略的な分析を行っていくとした。また、二酸化炭素の回収・隔離や電力の開発など、保有する広範な資源や中流の資産の運用・開発をさらに最適化するための取り組みを続けていくとした。

その後、Pieridae Energyは、より小規模で低コストで建造可能な浮体式LNGプロジェクトを検討することを発表、資本コストを大幅に削減できるとともに、クリーンな電気駆動のタービンを使用することで温室効果ガスの排出を大幅に削減できるとアピールしていた。

2022年5月、Jonathan Wilkinson天然資源相は、欧州の天然ガスニーズに対応するためにカナダからのLNG供給に関心が高まっていることから、Goldboro LNG輸出プロジェクト開発計画の可能性が再燃していることを明らかにした。

Pieridae Energyは、約30億ドルを投じて、液化能力が年間240万トンのLNG輸出ターミナルを建設することを提案しており、2023年に着工し、2027年にLNGの出荷を開始する計画であるという。Pieridae Energyによると、調達、建設、パートナーの確保、先住民との和解等さまざまな問題に対処する必要があるが、カナダ西部から東海岸へのパイプライン・アクセスを容易にすることがより重要な課題であり、この点に関しては連邦政府による協力が必要だという。TC Energyの既存のパイプライン網は、必要とされる量のガスを出荷するのに十分な規模ではなく、Pieridae Energyは、TC Energyが既存のパイプラインネットワークの輸送能力を拡大することによってのみ、Goldboro LNGプロジェクトを進めることができるとしている。そして、2022年9月には、TC Energyが提案するガスパイプラインの規制認可プロセスが円滑に進むよう協力するよう連邦政府に要請した。

 

(2) Repsol、Saint John LNGプロジェクトから欧州にLNGを輸出することを提案

ニューブランズウィック州Saint Johnで、Saint John LNGプロジェクトを運営するRepsolは、2022年8月、再ガス化施設として稼働している同プロジェクトに液化設備を併設し、欧州にLNGを輸出するために協議を進めていることを明らかにした。

Saint John LNGプロジェクトは、カナダ初のLNG受け入れターミナル(受入能力:年間750万トン)で、当初、Canaport LNGプロジェクトという名称であった。2005年に建設が開始され、2009年にLNGを初めて受け入れた。2021年11月に、施設開業以来、同プロジェクトを運営してきたRepsolが所有権の100%を取得し、これを記念して名称をSaint John LNGプロジェクトに変更した。Saint John LNGプロジェクトは、現在、再ガス化されたガスを、Brunswickパイプラインを通じて、米国北東部とカナダ東部に送るシステムとなっており、これらのエリアで必要とされるガスの20%にあたる1.2Bcf/d(28MMm3/d)を供給することが可能であるという。2050年までにゼロネット排出を達成するというRepsolの戦略を視野に入れ、これに沿って将来の開発を進めることを目指している。

しかし、既存のガスパイプラインの輸送能力を考えると、Goldboro LNG輸出プロジェクトとSaint John LNGプロジェクトのいずれか1カ所に供給できるフィードガスしかないだろうとの見方がなされており、さらに、国内のガス需要が高い場合には、LNG輸出ターミナル1カ所分のフィードガスすら供給できない可能性もあるという。TC Energyは、ガス需要が高いため同社のパイプラインに実質的なガス供給余力はないとしている。

 

(3) Énergie Saguenayプロジェクト、2027年からNaftogaz UkrainyにLNGを供給することで覚え書き締結

GNL Quebecは2014年より、ケベック州Saguenay港の工業地帯に天然ガス液化プラントを建設し、カナダ西部から供給される天然ガスを液化し、LNG年間1,100万トンを輸出することを目指すÉnergie Saguenayプロジェクトの開発を進めてきた。同プロジェクトの投資額は90億カナダドルとされ、当初、2026年の稼働を目指していた。天然ガスをカナダ西部から供給するために、ケベック州を拠点に北米で大規模な天然ガスパイプラインプロジェクトの開発にあたっているGazoduq inc.が、オンタリオ州北東部の既存の主要ガスパイプラインをSaguenay港に接続する全長780キロメートルのパイプラインを新たに建設する計画とされた。また、Hydro-Quebecが送電線(電圧345キロボルト、全長約40キロメートル)を敷設することで、水力発電を利用したカーボンニュートラルなLNG製造プラントを実現することが可能となり、温室効果ガス排出量を84%削減することができるとされた。ただし、資金面についてはSociete Generaleが、GNL Quebecへの支援を取りやめたため、問題が生じる可能性が懸念されていた。

GNL Quebecは、2021年6月、カナダからドイツへ低炭素LNGを輸出するためのサプライチェーン開発を目指して、Hanseatic Energy Hubと戦略的パートナーシップを提携した。このHanseatic Energy Hubは、2026年末までにドイツStadeにLNG受け入れターミナルを含むエネルギーハブを建設することを目指して、Dowの子会社Dow Deutschland AnlagengesellschaftやNiedersachsen Ports等により立ち上げられた企業だ。GNL QuebecはこのStadeのLNG受け入れターミナルにLNGを供給することで原則合意した。そして、増加するドイツのガス需要に対応することを目的に、輸出されるLNGに伴う温室効果ガスを削減するために、サプライチェーン全体で規制や技術的なソリューションを検討していくとしていた。

ところが、ケベック州政府は2021年7月、エネルギー転換や世界的な温室効果ガス排出削減の流れとの整合性が十分に証明されていないという理由で、Énergie Saguenayプロジェクトを承認しないことを決定した。

さらに、2022年2月7日には、カナダ影響評価庁(Impact Assessment Agency of Canada:IAAC)の環境評価報告書の結果に基づき、連邦政府が、温室効果ガス排出量の増加に関連し環境に著しい悪影響を及ぼすと指摘し、Énergie Saguenayプロジェクトを正当化することはできないとして、これを拒否した。GNL Québecは、関連する州および連邦政府の承認なしにプロジェクトを進めることはできないが、IAACは、連邦政府の決定はGNL Québecが新しいプロジェクト案を提出することを妨げるものではなく、最終的にプロジェクトの開発を排除するものでもない、としていた。

2022年6月、GNL Quebecの親会社Symbio Internationalとウクライナ最大のガス生産・輸入業者Naftogaz Ukrainyが、Naftogaz Ukrainyが2027年からÉnergie SaguenayプロジェクトよりLNGの引き取りを開始することを内容とする覚え書きを締結した。LNGはヨーロッパの再ガス化ターミナルで受け入れ、そこからパイプラインでウクライナに供給される計画だ。なお、この覚え書きには、ケベック州を拠点にネットゼロエネルギーのインフラプロジェクトに投資を行っているパートナーシップSymbio Infrastructureを通じてNaftogaz Ukrainyにグリーン水素を供給する計画も含まれている。この覚え書き締結によりÉnergie Saguenayプロジェクトは再び勢いを得たものの、環境面から同プロジェクトへの反対は続いているという。

 

3 水素輸出でドイツと協力、LNG輸出に関しては検討を約束

2022年6月26日から28日にかけて、ドイツElmauにて開催されたG7サミットで、ドイツのOlaf Scholz首相はJustin Trudeau首相に、カナダ東海岸からヨーロッパへのLNG輸出の可能性について提起した。

ガス消費量、年間1,000億立方メートルの約55%をロシアから輸入するドイツは、ロシアのウクライナ侵攻後、エネルギー輸入の段階的削減を目指しており、ロシアからのガス輸送の代替にLNGを検討、LNGターミナル2基の建設を支援するとともに、浮体式LNG貯蔵・再ガス化装置(Floating Storage & Regasification Unit:FSRU)4基をレンタルすることとなった。一方、カナダでは、先述した通り、頓挫しかけていたGoldboro LNG輸出プロジェクトやÉnergie Saguenayプロジェクトが息を吹き返す可能性があり、Saint John LNGターミナルに液化設備を併設し、欧州にLNGを輸出することも検討されるようになっており、両国の思惑が合致したことがこの背景にあると考えられる。

同年8月23日、トロントで開催されたGerman-Canadian Economic Conferenceにおいて、Jonathan Wilkinson天然資源相とドイツのRobert Habeck副首相兼経済・気候保護相は、カナダ・ドイツ水素アライアンス設立に関する共同意思表明に調印したことを発表した。両国は、水素プロジェクトへの投資実現、安全な水素サプライチェーンの開発支援、2025年までにカナダからドイツへの水素輸出開始、そのための大西洋横断カナダ・ドイツ供給回廊の形成に取り組むことで合意した。この共同意思声明に法的拘束力はなく、進捗状況については、カナダの天然資源相とドイツの経済・気候変動対策相が確認する。

カナダ政府にとって、今回の共同意思表明調印は、2020年12月に発表し、2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロ達成を目指すとしたカナダ水素戦略に基づくものであり、世界的な水素のトップサプライヤーになるという目標への第一歩となるものだとされた。

ただし、2025年までに水素輸出を開始するという目標については、政府機関から許可が得ておらず、このスケジュールは非常に野心的であるとの見方がなされている。これについては、Wilkinson天然資源相も、非常に野心的な目標であることを認めたうえで、風力や水力等の再生可能エネルギーを動力源とする水素製造事業、約15件が開発段階にあることを把握しており、そのうちの少なくとも1つか2つは2025年までに稼働できるようにしたいと考えている」と語った。

Scholz首相によれば、2020年発表のドイツの国家水素戦略で、ドイツは2030年までに90~110テラワット時の水素が必要になると予測しており、ドイツ国内での生産能力増強計画はあるものの、多くは輸入で賄う必要があるという。そして、この予測はロシアのウクライナ侵攻前の数字に基づいており、ニーズはさらに高まる可能性があるとし、長期的には、風が強く人口が少ないカナダ大西洋岸の水素に可能性があると語った。

事前から、共同意思表明は主として水素にフォーカスしたものとなるとされていたが、Trudeau首相はカナダ東海岸のドイツ向け新規LNG輸出プロジェクトの可能性について排除しなかったものの、ビジネスケースを検討することを約束したにとどまった。Scholz首相が、「ドイツがロシアのエネルギーから極めて速い速度で脱却しつつある今、カナダはドイツのパートナーであり、現在、ドイツがLNGの輸入を増加させようとする中、カナダ産LNGが大きな役割を果たすことに期待する」と発言した。これに対し、Trudeau首相は、「世界のエネルギー供給に貢献しようとしている」と発言したが、「目標は、カナダを水素のようなクリーンエネルギーの主要供給国にすることである」と強調した。そして、同国の大西洋岸側での新たなLNG輸出プロジェクトの可能性に言及しながらも、世界的な脱化石燃料の動きの中で、プロジェクト完成までの時間と経済性の観点から実現の難しさを強調した。加えて、煩雑で負担が大きいLNG輸出プロジェクトに関する手続きを緩和することを検討する意思があることを表明した。

 

 

[1] 1カナダドル≒0.73米ドル

以上

(この報告は2022年10月24日時点のものです)

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