ページ番号1009540 更新日 令和4年11月21日

Lula元大統領の返り咲きによるブラジル石油開発への影響

レポート属性
レポートID 1009540
作成日 2022-11-21 00:00:00 +0900
更新日 2022-11-21 10:00:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 中南米
国1 ブラジル
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,ブラジル
2022/11/21 舩木 弥和子
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概要

2022年10月に実施されたブラジル大統領選挙で左派のLuiz Inácio Lula da Silva元大統領が、現職のJair Bolsonaro大統領を破り、次期大統領に選出された。Lula氏は、過去数年間、プレソルトの探鉱・開発に注力してきた国営石油会社Petrobrasを、総合エネルギー企業に戻し、精製事業を再び拡大するとともに、エネルギー転換に貢献できる企業とするとしている。Petrobrasやブラジルの探鉱・開発に大きな変化がもたらされる可能性がある。

 

1. はじめに

ブラジルでは、2022年10月2日に、大統領選挙の第1回投票が行われ、左派、労働者党のLuiz Inácio Lula da Silva元大統領が48.4%、右派で、現職のJair Bolsonaro大統領が43.2%の票を獲得した。Lula元大統領が第1回投票で圧勝するとの見方もあったが、Bolsonaro大統領が追い上げ、Lula元大統領は有効票の過半数を獲得することができなかった。

第1回投票で過半数の票を獲得する候補がいなかったため、10月30日に決選投票が行われることとなった。決選投票では、Lula元大統領が50.9%の票を獲得し、得票率49.1%のBolsonaro大統領を破り、12年ぶりに大統領に返り咲くこととなった。2023年1月1日に大統領に就任する予定だ。

Lula元大統領は、北東部Pernambuco州出身の77歳で、2003年から2期8年にわたって大統領を務めた。しかし、在任中に賄賂を受け取ったとされる汚職事件で有罪判決を受け、2018年4月から1年7か月にわたって収監されていた。そのため、前回の2018年の大統領選挙では裁判所から立候補の資格を停止されていた。その後、最高裁判所がLula元大統領に対する有罪判決を無効とする判断を示したことから、今回の大統領選挙に立候補することとなった。

Lula元大統領と、それを引き継ぎ、2011年に大統領に就任した同じく労働者党のDilma Vana Rousseff元大統領の下では、国営石油会社Petrobrasを中心に探鉱・開発を進める政策がとられた。特に、沖合プレソルトの開発については、契約形態をPS契約とし、Petrobrasが鉱区権益の最低30%を保有し、オペレーターを務めるとするプレソルト開発法が定められた。Petrobrasは汚職の温床となり、また、輸入した石油製品をブラジル国内において割引価格で販売し、その逆ザヤを負担することを求められ、多額の負債を背負わせられた。

続くTemer前政権は、ビジネス志向、市場志向の探鉱・開発政策をとり、プレソルト開発法を改正、ローカルコンテンツに関する規則を改善、ユニタイゼーションに関する問題点を解決する等、石油産業の改革を進めた。2017年以降、鉱区入札も頻繁に実施されるようになり、メジャーを中心にプレソルトエリアやその周辺鉱区を落札、外資参入が進んだ。

2019年に就任したBolsonaro大統領の下では、外資呼び込みを図るため、Open Acreage方式の鉱区入札制度が導入された。Open Acreage方式の入札は、当初、成熟油田や過去の入札で落札されなかった鉱区、返還された鉱区を対象に、企業の要請に基づいて実施されていたが、今後は、対象をプレソルトの新規鉱区まで広げ実施されることとなった。

Petrobrasについても、石油製品価格を国際市場価格に連動した価格にすること(policy of international parity:PPI)や、プレソルトの油田開発に注力し、製油所や、国外資産、陸上や浅海の鉱区権益等を売却することで、債務削減を図ってきた。

 

2. Lula政権下で予想される石油産業への影響

Lula次期政権下では、探鉱・開発やPetrobrasに関してどのような政策がとられ、石油産業にどのような影響が及ぶのだろうか。

Bolsonaro大統領は再選された場合にはPetrobrasの民営化を行いたいとしていたが、Lula氏はこれに強い反対を示しており、阻止するとしていた。そして、Petrobrasを探鉱、生産、精製、販売に投資する総合エネルギー企業に戻すとしている。Lula氏は、Petrobrasはプレソルトの開発にのみ注力すべきではなく、その代わりに、精製部門の拡大、国際事業の再構築を行うとともに、バイオ燃料の生産に重点を置き、世界的なエネルギー転換に貢献する新たな機会を追求すべきだと考えているという。さらに、ガス、肥料、再生可能エネルギー等、エコロジーとエネルギー転換につながる分野、Bolsonaro政権下では撤退するとされていた分野へ、Petrobrasが復帰することを考えているとされる。Lula氏は、Petrobrasはプレソルトの油田開発に集中することで収益を上げることに成功したが、世界的な脱炭素化の流れの中でエネルギーセクターが迎える転換には十分に備えられていないとし、高い利益や配当を生み出す効果が低くても、これらの業務をより優先度の高いものとするとしている。

特に、精製部門に関してLula氏は、Petrobrasの下流資産の売却には賛成していないと繰り返し発言、Petrobrasはブラジルの精製部門を支配し続けるべきだとしている。そのための具体的な方策は語られていないが、同氏のアドバイザーからは、売却した製油所を買い戻すか、あるいは、新たにPetrobrasから独立したこれらの製油所の取締役を任命する権利を政府やPetrobrasが確保すること等が提案されているとの報道もある。

Petrobrasは、所有する13の製油所のうち8製油所を売却することを決定、2021年には東部Bahia州São Francisco do CondeのLandulpho Alves製油所(RLAM)を18億ドルでUAEのMubadala Capitalに売却した。RLAMは現在、Mataripe製油所に名称を変更し、Mubadala Capitalの系列会社であるAcelenが操業を行っている。Acelenは、同製油所の稼働率を買収当初の70%からほぼ100%に引き上げることに成功したという。Petrobrasによる同製油所の買い戻しについては、Petrobrasが交渉を開始しようとすれば、Acelenが拒否する可能性はないだろうとの見方と、Acelenは投資計画を実施している最中であるため、同製油所の売却は考えていないとの見方が並立している。

Petrobrasはまた、2022年11月4日に、南部Paraná州São Mateus do Sulに位置するUnidade de Industrializacao de Xisto(SIX)製油所をカナダのForbes & Manhattanに4,160万ドルで売却した。

Petrobrasは他にも、ブラジルの燃料販売会社Atem Distribuidoraと北西部Amazonas州Manausに位置するRefinaria Isaac Sabba(REMAN)製油所、ファンドGrepar Participaçõesと東部Ceará州Mucuripe Fortalezaに位置するRefinaria Lubrificantes e Derivados do Nordeste(LUBNOR)製油所の売却契約を締結している。

残りの4製油所、Abreu e Lima(Rnest)、Presidente Getúlio Vargas(Repar)、Alberto Pasqualini (Refap)、Gabriel Passos(Regap)については今後売却予定とされているが、すぐに契約が結ばれない場合、Petrobrasを経済発展の道具として活用することを目指すLula新政権によってその売却プロセスが停止される可能性が高いと見られている。

Petrobrasは、天然ガスパイプライン事業者のNova Transportadora do Sudeste(NTS)とTransportadora Associada de Gás(TAG)についても、それぞれ約70億ドルでBrookfield/ItaúsaとEngie/CDPQに売却した。現在、ボリビアとブラジル間のGasbolパイプラインを運営するTransportadora Brasileira Gasoduto Bolívia-Brasil(TBG)の売却を進めているところだ。

Lula新政権は、既存の契約を破棄することはなく、すでに売却された資産について再度取得することはないが、今後、これら精製、天然ガス部門に加え、中流部門の資産売却についても実施されない可能性が高いと見る向きが多い。

(表1)Petrobrasが売却あるいは売却契約を締結した製油所
製油所 所在州 精製能力 売却先 売却額 状況
Landulpho Alves(RLAM) Bahia 323,000b/d Mubadala Capital 18億ドル 売却完了
Unidade de Industrializacao de Xisto(SIX) Paraná 6,000b/d Forbes & Manhattan 4,160万ドル 売却完了
Refinaria Isaac Sabba(REMAN) Amazonas 46,000b/d Atem Distribuidora 1億9,000万ドル 契約締結
Refinaria Lubrificantes e Derivados do Nordeste(LUBNOR) Ceará 8,000b/d Grepar Participações 3,400万ドル

契約締結

(出所:各種資料を基にJOGME作成)

 

Bolsonaro政権下で、Petrobrasは原油とガスの生産に集中、事業の効率化と二酸化炭素排出量の削減に焦点を当ててきた。しかし、Lula次期大統領は、Petrobrasが再生可能エネルギー分野でより積極的な役割を果たすことを望んでいるとしており、ブラジルの再生可能エネルギー分野での役割見直しを迫られる可能性がある。

Lula次期大統領が、石油製品価格を国際市場価格に連動した価格にするPPIシステムを修正すると見る向きは多い。しかし、Petrobrasを舞台とした大規模な汚職事件以降、同社の内部統制やコンプライアンスは強固なものとなっており、政府からの干渉にも強くなっている。Bolsonaro大統領も、ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が高騰したことにより、ブラジル国内の石油製品価格が上昇することを避けようと試み、Petrobrasと対立することとなった。PPIシステムが比較的新しいものであることから、Lula次期政権は、時間をかけることによって、同システム修正を実現する可能性もある。

このようにLula次期政権下で、Petrobrasが資産売却を停止し、これまでの探鉱・開発中心の活動から事業を拡大することになれば、必然的に探鉱・開発への投資額は削減され、探鉱・開発は停滞することになろう。Petrobrasは毎年、5年間の事業計画を発表している。2022年末に発表される予定の事業計画については、Lula氏が大統領に復帰することによる影響はほとんどないと思われるが、今後、具体的な計画や行動につながっていくものと考えられる。

また、以前のLula政権下では、Petrobras中心にプレソルトの開発を進めようとしたことで、鉱区入札が停滞し、外資参入が滞った。同じような状況が生じる可能性は否定できない。

 

3. 好調な原油、天然ガス生産

ブラジル国家石油庁(National Agency of Petroleum, Natural Gas and Biofuels:ANP)によると、2022年9月のブラジルの炭化水素生産量は、8月より2.0%、2021年9月より5.4%増加し、原油換算で日量404.8万バレルとなった。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、原油、天然ガスともに生産が伸び悩んでいたが、2022年7月以降は生産が増加し、それ以前の生産記録である2020年1月の日量404.1万バレルを上回り、過去最高を更新したことになる。ブラジルの炭化水素生産量が日量400万バレルを超えたのは、この2度のみである。

2022年9月の原油生産量は、8月との比較で2%、2021年9月比で4.9%増加し、日量314.8万バレルとなった。ガスを含めた生産量では今回が過去最高となったが、原油のみでは2020年1月の日量316.8万バレルに次ぐ過去2番目の数字となった。このうち、プレソルトの原油生産量は日量235.9万バレルとブラジルの原油生産量の75%を占めた。

9月の天然ガス生産量は、前年同月比7.5%増の日量1億4307万立方メートルとなった。天然ガス生産量の過去最高記録は2022年8月の日量1億396万立方メートルであったが、9月はこれを2.2%上回り、過去最高を記録した。このうち、プレソルトの天然ガス生産量は日量1億185万立方メートルと全体の71%を占めた。

プレソルトで最も生産が多かった油田はTupi油田とBuzios油田で、それぞれ原油換算で日量116万バレルと日量67.1万バレルを生産、次いでSapinhoa油田が日量25.6万バレル、Sepia油田が日量19.7万バレル、Atapu油田が日量19.4万バレルを生産した。原油について見てみると、生産量が最も多かったのはTupi油田で、日量88.8万バレルを生産した。最大の生産井はAtapu油田のP-70 FPSOに接続された7-ATP-6-RJS井で、原油換算で日量6.5万バレルを生産した。

(図1)ブラジルの原油生産量(単位:日量千バレル)
(図1)ブラジルの原油生産量(単位:日量千バレル)
(出所:ANPのwebsiteを基にJOGME作成)
(図2)ブラジルの天然ガス生産量(単位:日量百万立方メートル)
(図2)ブラジルの天然ガス生産量(単位:日量百万立方メートル)
(出所:ANPのwebsiteを基にJOGME作成)

では、ブラジルの原油、天然ガスの生産量は今後、どのように推移するのだろうか。

政府の研究機関Energy Research Co.(EPE)がまとめた2032年までのエネルギー見通しによると、PetrobrasやEquinor等がプレソルトの油田の生産を開始することにより、ブラジルの原油生産量は、2021年の日量290万バレルから2022年には日量300万バレル、2023年には日量330万バレルに増加、さらに2029年には日量540万バレルのピークに達するという。その後、生産量は徐々に減少し、2032年末には日量490万バレルになるとしている。生産量の約95%はすでに発見された資源によるものとされ、探鉱により生産量がさらに増加する可能性があるとしている。EPEは、プレソルトの原油生産量は2029年から2030年には日量430万バレルのピークに達し、ブラジルの原油生産量の80%を占めるとしている。

EPEは、前回発表した2031年までのエネルギー見通しでは、ブラジルの原油生産量は2022年に日量340万バレル、2023年に日量350万バレルまで増加すると見ていたが、新型コロナウイルス感染拡大がFPSO浮体式生産貯蔵積出設備等の設備納入に影響を及ぼしたことにより下方修正したという。前回の見通しでは、ブラジルの原油生産量のピークは日量520万バレルとしていた。

一方、天然ガス生産量は、2021年の日量1億3,400万立方メートル、2022年の日量1億4,400万立方メートルから、2032年には2倍以上の日量3億2,300万立方メートルになるとしている。これは、EPEが前回発表した2031年の見通しの日量2億7,700万立方メートルを上回るという。

 

4. おわりに

このように、ブラジルの原油、天然ガスの生産量は、プレソルトの油田開発により、増加傾向にあり、さらに順調に伸びていくことが期待されている。

Lula次期政権が、経済状況の改善、雇用の創出、貧困の緩和等の公約を実現するためには、原油は引き続き重要な収入源であり続けると考えられる。継続的な増産を見守っていかざるを得ないだろう。

しかし、ここまで見てきたように、ブラジルの石油・ガス部門への政府の関与は増加し、Petrobrasは上流、中流、再生可能エネルギーと多くの分野への投資を余儀なくされる可能性が高まっており、このような原油生産の傾向、見通しに影響が出かねない。

Lula氏はまた、ブラジルの環境政策を見直し、アマゾンの熱帯雨林の伐採を抑制するとしている。気候変動への取り組みは、ブラジル経済低迷やエネルギー価格の上昇を引き起こす可能性がある。

一方、ブラジル議会上下両院では、Bolsonaro氏が率いる自由党と右派勢力が過半数を占めており、Lula氏はエネルギー政策の法制化にあたっては、中道派の社会民主党などの政党と取引をすることが不可欠となる。

このような状況の中、Lula次期政権がどのような政策をとり、どのようにPetrobrasに対処していくのか、動向を注視していく必要があろう。

 

以上

(この報告は2022年11月17日時点のものです)

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