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サウジアラビアの石油・ガス・エネルギーをめぐる最近の動向 ―OPECプラス大幅減産の背景と市場への安定供給を標榜するサウジアラビアの思惑、上流開発の課題等―

レポート属性
レポートID 1009551
作成日 2022-11-30 00:00:00 +0900
更新日 2022-11-30 14:10:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場探鉱開発
著者 猪原 渉
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 19
抽出データ
地域1 中東
国1 サウジアラビア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中東,サウジアラビア
2022/11/30 猪原 渉
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概要

  1. 需要回復、高油価を受けサウジアラビア経済は好調を維持。アラムコも2022年第2四半期に上場企業としての最高益をたたき出し、第3四半期も高水準の利益確保。
  2. OPECプラスの200万b/d減産決定に対し、米バイデン政権は、ロシアを利する政治的決定であると反発。減産を主導したサウジアラビアへの対抗措置を検討するとしたが、安全保障での連携の重要性から、両国関係の更なる悪化は避けられる見通し。
  3. サウジアラビアは、緊急時対応のための余剰生産能力の確保、適切な価格水準のもと世界の上流開発投資の促進、石油生産能力の拡大を狙う。アジアの需要国に対しては安定的且つ持続的な原油供給を約束。
  4. アラムコは、2027年生産能力1,300万b/dの達成に向けたロードマップを公表。複数の海洋油田の拡張を進め、2025年以降2027年まで、段階的に能力増強。
  5. サウジアラビアは国内ガス需要拡大への備えと、発電用原油の輸出転換を促進する観点から、Jafurah非在来ガスの開発をメインに天然ガス生産能力の拡大を狙う。
  6. COP27開催に合わせ、サウジアラビアは気候変動問題への新たな取り組み方針を発表。アラムコは引き続き石油ガス開発に注力する姿勢だが、脱炭素関連事業も積極的に推進。

 

1. はじめに

2022年10月5日、OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、閣僚級会合を開催し、2022年11月から2023年12月にかけて、原油生産目標を2022年10月比で200万b/d削減(減産)することを決定したが、米バイデン政権は、OPECプラスの減産は、ウクライナ侵攻による制裁を課されているロシアを利する「政治的決定」であると非難し、OPECプラスを主導するサウジアラビアへの対抗措置の検討を宣言する事態となった。米国とサウジアラビアの対立は、その後、大きな動きは見られず、小康状態となっているが、両国関係が今後のエネルギー動向に与える影響の大きさに鑑み、引き続き、状況を注視する必要がある。

サウジアラビアは、世界最大の原油輸出国であり、産油国として最大の余剰生産能力を保持するエネルギー大国であるが、本稿では、エネルギー分野のみならず、国際政治の面でも大きな存在感を持つようになったサウジアラビアの石油・ガス・エネルギーをめぐる最近の動向について取り纏めることとする。

 

2. サウジアラビア経済は好調を維持

サウジアラビアの石油・ガス・エネルギー戦略を見るうえで重要なファクターとなる同国の経済情勢について概説する。

新型コロナウイルスの影響で湾岸産油国の経済は2020年にマイナス成長に落ち込んだが、その後の石油需要回復、油価上昇により石油・ガス収入が急増したことから、2021年にはプラス成長に転じ、2022年以降も高い成長率を維持するとみられている。サウジアラビアについては、IMFによると、2020年の成長率はマイナス4.1%であったが、2021年はプラス3.2%に転じ、2022年はプラス7.6%と、2010年以降では2011年の10%に次ぐ高い成長率が予想されている。2023年、2024年についても3%前後の成長率が見込まれ、同国の経済は好調を維持する見通しである(表1)。

(表1)湾岸産油国成長率IMF予測(実質GDP、前年比増減率、%)
(表1)湾岸産油国成長率IMF予測(実質GDP、前年比増減率、%)
(出所:IMF World Economic Outlook, October 2022)

サウジアラビアの財政収支も大幅な改善が見込まれている。2022 年当初予算は歳出2,547億ドル、歳入2,787億ドルを見込み、同国としては実に2013 年以来9 年ぶりとなる財政黒字240億ドルを見込んでいる。同国財務省によると、2022年の実勢見通しとしては、石油収入の増加を背景に歳入は対予算比17%増の3,259億ドルに拡大し、歳出も8年ぶりの高水準となる3,019億ドルに達する見込みであるが、収支額は予算額の240億ドルを維持する見通しである(表2、図1)。

ジャダーン財務相は4月、2022年の歳出は石油収入の増減に関わらず変更しないと語っていたが、実際は大幅な増額となっており、サウジアラビアは支出抑制方針を撤回した形となっている。増額分の多くは経済の多様化を目的とした資本支出にあてられる見込みである。

(表2)サウジアラビア財政収支推移(実績、予算、予測)
(表2)サウジアラビア財政収支推移(実績、予算、予測)
(出所:サウジアラビア財務省、MEESよりJOGMEC作成)
(図1)サウジアラビア財政収支バランス(単位:10億USD)
(図1)サウジアラビア財政収支バランス(単位:10億USD)
(出所:サウジアラビア財務省、MEES等よりJOGMEC作成)
(図2)サウジアラビア歳入(石油及び非石油収入)推移(単位:10億USD)
(図2)サウジアラビア歳入(石油及び非石油収入)推移(単位:10億USD)
(出所:サウジアラビア財務省、MEES等を基にJOGMEC作成)

一方、2022年上半期(1-6月)の石油収入は1,158億ドルとなり、2021年上半期(663億ドル)比で、記録的な495億ドルの大幅増となった。非石油収入についても、2022年上半期は571億ドルを記録し、2021年上半期(544億ドル)から27億ドルの増加となったが、石油収入の増加に比べると小規模な増加にとどまっている(図2)。

 

3. アラムコは過去最高水準の利益計上

国営石油会社Saudi Aramco(アラムコ) の業績も2020 年第2 四半期に底を打ってからは堅調に成長し、需要回復に伴う原油輸出の増加、油価高止まり等により、2022第2四半期には484億ドルという上場企業として過去最高の四半期純利益を計上した。2022年第3四半期の純利益は油価下落を反映して424億ドルに低下したが、依然、過去最高水準の利益を確保している(図3)。

2019年12月にTadawul(リヤド証券取引所)に上場したアラムコの株価は、原油価格が急落した2020 年3 月に最安値を記録したが、その後上昇に転じ、2021 年10 月には、IPO実施前にムハンマド皇太子が目標として掲げていた時価総額2 兆ドルの大台に達した。その後、2022年前半には時価総額2.3兆ドルを超えるレベルまでアラムコの株価は上昇したが、9月以降、株価は下落基調となっている(図4)。

(図3)アラムコの四半期純利益及び部門別利払い前・税引前利益推移(単位:10億ドル)
(図3)アラムコの四半期純利益及び部門別利払い前・税引前利益推移(単位:10億ドル)
*EARNINGS BEFORE INTEREST, INCOME TAX AND ZAKAT
(出所:アラムコ資料、MEESを基にJOGMEC作成)
(図4)Tadawul(リヤド証券取引所)でのアラムコ株価推移(単位:SAR(サウジリアル))
(図4)Tadawul(リヤド証券取引所)でのアラムコ株価推移(単位:SAR(サウジリアル))
(出所:Google Finance(2022年11月))

4. OPECプラスの大幅減産とサウジアラビアの思惑、方針

2022年10月5日、OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は、閣僚級会合を開催し、2022年11月から2023年12月にかけて、原油生産目標を2022年10月比で200万b/d削減(減産)することを決定した。大幅減産の決定に反発した米バイデン政権が、OPECプラスを主導するサウジアラビアとの関係の見直しと、適切な対抗措置を検討する旨表明し、サウジアラビアが即座に反論声明を発出するなど、米国・サウジアラビア関係は一気に冷え込むこととなった。

米国議会からは、サウジアラビアへの武器売却の禁止やOPECプラスをターゲットにした反トラスト法(「NOPEC法」)の制定を求める声が上がるなど、強硬論が相次いだが、その後、中間選挙による議会の休会をはさんで、関連法案の検討は進んでいない模様である。しかしながら2016年に発足したOPECプラスを主導するサウジアラビアとエネルギーの大消費国でもある米国の関係がさらに悪化すれば、OPECプラスの市場での影響力は低下し、市場の混乱が増幅されることになりかねない。今後の2国間関係の成り行きが注目される。

以下では、2020年以降のOPECプラス供給政策の経緯を振り返るとともに、米国とサウジアラビアの対立の背景及び今後の見通しについて、探ることとしたい。

 

(1) OPECプラス供給政策の経緯(2020年以降)

 

  1. 2020年3月6日、OPECとロシアなどの非OPEC産油国の追加減産をめぐる協議が決裂し、サウジアラビアは大幅な増産(供給拡大)の方針を表明。一時、OPECプラス産油国間で原油増産合戦(「価格戦争」)が繰り広げられ、油価は大幅に下落。
  2. 2020年4月9日、OPECプラス閣僚級会合において970万b/dの大幅な協調減産で合意。
  3. 2021年1月4-5日、サウジアラビアが100万b/dの自主的追加減産表明(21年2-4月まで100万b/dの自主的追加減産実施、21年5-7月まで段階的に減産縮小し自主的追加減産を終了)。
  4. 2021年7月18日、8月以降の増産(段階的な減産措置縮小、毎月40万b/d)で合意(UAE等5か国の基準生産量引き上げ、22年末まで減産措置延長、市場の状況により22年9月末減産措置終了すべく努力で合意)。
  5. 2022年3月31日、5月に43.2万b/dの増産(減産措置縮小)で合意。6月も43.2万b/dの増産継続。
  6. 6月2日、7月・8月に各64.8万b/dの増産(7~9月分の減産措置縮小を前倒しで実施)を決定。
  7. バイデン大統領のサウジアラビア訪問(増産を要請)後の8月3日、9月の前月比10万b/d増産で合意。
  8. 9月5日、10月の前月比10万b/d減産を決定。
  9. 10月5日、2022年11月から2023年12月にかけて原油生産目標を2022年10月比で200万b/d削減することを決定。(英米の政策金利引き上げ等による原油価格の下落傾向を受け、OPECプラスが油価下落に寛容であるという市場での認識を防ぐため、長期的な減産を決定した模様。)

注:OPECプラス産油国では、技術的問題等により生産割当を達成できない産油国が多く、OPECプラスの生産量は、目標生産量を300万b/d以上下回る状況が続いている。今回、OPECプラスは200万b/dの減産を打ち出したが、減産を行うのはサウジアラビアやUAEなど湾岸産油国が中心で、実際の減産量は100万b/d程度にとどまるとみられている。

(図5)OPEC・サウジアラビア原油生産量推移(単位:万b/d)
(図5)OPEC・サウジアラビア原油生産量推移(単位:万b/d)
(出所:IEAデータ等を基にJOGMEC作成)

(2) OPECプラスの減産をめぐり、米国とサウジアラビアが対立

OPECプラスは減産方針を明らかにした10月5日、プレスリリースを発表し、「世界経済及び石油市場の見通しが不透明な中、石油市場の長期的な方向性を強く示す必要性に鑑み、OPEC及び非OPEC参加国が一貫して採用してきた先手を打つアプローチに則り、方針を決定」したことを明らかにした。

サウジアラビアに減産先送りを水面下で働きかけていた米国バイデン政権は不快感を表明し、減産はウクライナ侵攻で制裁を課されたロシアを利する「政治的決定」と非難した。バイデン政権は、減産を主導したサウジアラビアとの関係を見直すことと、適切な対抗措置を検討する旨、表明した。バイデン大統領自身も「(サウジアラビアに対し)結果が示されよう」とサウジアラビアを牽制する発言を行った。

これに対し、サウジアラビア外務省は10月12日、公式声明を発表し、「減産は純粋に経済的な観点からの決定」であり、サウジアラビアが一方的に決めたのではなく、「23の加盟国が一致して決定した」と述べた。サウジアラビアは過去80年にわたる米国との戦略的関係を重視しており、米国と敵対する意図はないことも強調した。

オマーン、バーレーン、UAE、アルジェリア、クウェート、イラクのOPECプラス産油国も相次いでサウジアラビアを支持する声明を発出した。各国は、今回の減産はサウジアラビアの独断ではなく、23の加盟国の満場一致での決定であり、減産への支持を強要された国があるとする米政府の見方を否定した。

これに関し、OPECプラス閣僚会合の前にUAEが大統領弟のタフヌーン国家安全保障顧問をサウジアラビアに派遣し、減産への反対を表明したとする関係筋情報が伝えられたが(Wall Street Journal, 2022年11月2日)、UAEの報道官は、記事は正確ではないとして報道内容を否定した。

 

(3) 米国のサウジアラビアへの対抗措置

OPECプラスが石油供給の大幅削減を決定したことで、米国議会からは強い反発の声が上がり、一部議員は、OPECプラスのリーダーであるサウジアラビアへの強力な対抗措置を主張している。バイデン政権としては、サウジアラビアとの関係を「再評価」し、石油供給制限の影響に対抗するために、どのような選択肢を持っているのだろうか。

アナリストによると、(1)外交関係の格下げ(首脳間交流の停止等)、(2)武器売却の停止、(3)米軍のサウジアラビアや中東からの撤退、(4)戦略石油備蓄の放出、(5)OPECプラスをターゲットに反トラスト法(NOPEC法)の制定、(6)米国石油製品の輸出制限、(7)米国での原油増産、(8)ベネズエラ制裁の緩和による原油供給の増加、(9)イラン制裁の緩和による原油供給の増加、など非現実的と思われるような案も含めて様々な選択肢が上がっているようであるが、議会が中間選挙に向けた休会に入ったこともあり、その後、検討は進んでいない。

現時点では、米政府が実施方針を明らかにしているSPR放出(4)を除き、いずれの案も当面実現の可能性は低いとみられている。

 

(4) 二国間関係の更なる悪化にはつながらない?

少なくとも米国の専門家の間では、下記の事情から、両国当局者は二国間関係の更なる悪化につながるような行動は取らないとの見方が有力となっている。

  • バイデン政権はサウジアラビアとの関係の見直しを宣言したが、見直しの完了時期を示さず、サウジアラビアに懲罰を課す議会法案を支持することも表明していない。
  • リヤドで開かれた、ムハンマド皇太子肝いりの「未来投資イニシアティブ」に多数の米国の金融機関、投資銀行が参加。米経済界のサウジアラビアへの関心は高く、同国への投資意欲も旺盛とみられている。
  • (OPECプラスの減産決定よりも前であるが)2022年8月2日、バイデン政権は30.5億ドル相当の防衛関連兵器システムをサウジアラビアに売却する契約を承認。イランがサウジアラビア及びイラクのクルド地区への攻撃を計画しているとの未確認情報を受け、サウジアラビアが警戒態勢を強めているとの情報もあり、サウジアラビアと米国の安全保障面での連携の重要性が再認識されている。

 

(5) サウジアラビアの立場・方針はゆるがず

エネルギー相やアラムコCEOの発言等から、OPECプラスの供給政策を含む石油・ガス・エネルギー政策に係るサウジアラビアの立場・考え方・方針を整理すると、以下の通りとなる。いずれもサウジアラビアが従来から繰り返し主張してきたことであり、サウジアラビアの立場・方針は不変といえよう。

  1. OPECプラスの枠組みのもと、石油市場の安定化を目的として、石油政策の策定・調整を行う。
  2. 情勢変化により世界の原油フローが変化する中、サウジアラビアは引き続き市場(特に日本、中国、韓国、インド等のアジアの大需要国)に対する供給責任を果たしていく。需要拡大時は、増産を検討。
  3. OPECプラスは、余剰生産能力の確保と一定の価格水準維持を目的として、200万b/dの減産を決定。今回の減産により、サウジアラビアの余剰生産能力は過去最低レベルの約120万b/dから170万b/d程度に回復し、緊急時対応力が向上。
  4. 原油価格が大きく変動する要因として、世界的な余剰生産能力の不足があげられる。増産余力が乏しいのは、サウジアラビアやUAE以外での上流開発投資が低迷していることが要因であり、油価については、新たな開発投資を促すような価格水準となることが望ましい。
  5. 本来、供給途絶などの緊急時の備えとして保持すべき戦略石油備蓄(SPR)を、価格引き下げを目的に放出するのは間違ったやり方であるとして、アブドゥルアジズエネルギー相が、SPR放出を進める米国を非難。
  6. 脱炭素が進む中でも石油需要は今後も増加し続けるとの認識のもと、世界の石油生産能力の更なる拡張が必要。アラムコは引き続き1,300万b/dへの拡張計画を進めるが、サウジアラビア1国で将来の石油需要に応えることはできず、石油業界全体での開発投資の拡大が求められる。
  7. 外交に関しては、サウジアラビアとしては、安全保障上のパートナーである米国との関係を基軸としつつ、2016年のOPECプラス設立時からサウジアラビアとともに同組織を主導してきたロシアや、サウジアラビア原油の最大の輸入国となった中国との関係を重視。上海協力機構(SCO)への参加・地位取得や、BRICSへの参加打診など、ムハンマド皇太子は全方位外交を推進。

 

(6) アジアの大需要国への安定供給を約束

(図6)サウジアラビアの国・地域別原油輸出量推移
(図6)サウジアラビアの国・地域別原油輸出量推移
注:「欧州」は、直送分(スエズ運河経由)とエジプト経由分(Sumed P/L→Sidi Kerir出荷)の合計
(出所:各種資料を基にJOGMEC作成)

上記(5) b. に関し、「サウジアラビアの国・地域別原油輸出量推移」(図6)によると、サウジアラビア原油の欧州向け輸出は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機に、増加基調にあり、特に22年6月以降は、アジアの大需要国の日本、韓国、インド向けの輸出量に匹敵するレベルにまで増加していることが確認できる。

ただし、サウジアラビア原油輸出先上位国の中国、日本、韓国、インドに対しては、欧州向け増加の影響も少なく、ターム契約主体ということもあり、概ね(月毎の変動はあるものの)、従来並みレベルで安定的供給を続けている。

(図7)中国、インドのサウジアラビア原油輸入状況
(図7)中国、インドのサウジアラビア原油輸入状況
(出所:中国の石油関連統計サイト百川のデータ、インド商工省貿易統計に基づきJOGMEC作成)

中国、インドのサウジアラビア原油輸入状況(図7)をみると、中国については、2022年1-9月は、割安なロシア原油が急増(前年同期比9%増)する中、サウジアラビア原油は前年同期比マイナス1%の微減にとどまった。数量面では、当該期間のサウジアラビア原油輸入量は176万b/dと、ロシア原油(172万b/d)を上回り、今期も第1位を占めている。

インドについては、22年1-8月は、安価なロシア原油が前年同期比6倍以上の50万b/dに急伸したのに対し、サウジアラビア原油輸入量も29%増の88万b/dとなり、イラク原油(116万b/d)に次ぐ第2位となった。

サウジアラビアのアブドゥルアジズエネルギー相は10月、サウジアラビア原油輸入上位国の中国、インド、日本のエネルギー担当大臣と相次ぎオンラインを含めた会談を行い(11月には韓国大臣とも会談)、アジア市場に対する安定的かつ持続的な原油供給の確保を約束し、アジア重視の姿勢を強調した。

 

(7) サウジアラビアの余剰生産能力

上記(5) c. で記したサウジアラビアの余剰生産能力について、概説する。

サウジアラビアは、石油生産能力の維持・拡大により産油国最大のスペアキャパシティ(余剰生産能力)を確保することにより、引き続き生産調整の主役を担う方針である。

OPECプラスの大規模な協調減産が終了した2022年9月のサウジアラビアの原油生産量は1,103万b/dと、2020年4月以来の1,100万b/d超を記録したが、増産に伴いサウジアラビアの余剰生産能力は過去最低レベルの120万b/d弱まで低下し、緊急時の追加供給能力の不足が懸念される状況になっていた。

今回、OPECプラスの200万b/dの減産方針に伴い、サウジアラビアの11月の生産目標(割当)は前月の1,100万b/dから1,048万b/dに減少し、11月末の余剰生産能力は、前月の約120万b/dから170万b/d程度にまで回復する見通しであり、緊急時の対応能力の改善が見込まれる。

(図8)OPECプラス及びサウジアラビアの余剰生産能力
(図8)OPECプラス及びサウジアラビアの余剰生産能力
注:サウジアラビアのみ余剰生産能力を数値でも表示
(出所:OPEC及びIEAデータにより推定)

(8) 今後のOPECプラス石油供給政策の注目点

主要7カ国(G7)の主導により、12月5日からロシア産原油に「価格上限」(プライスキャップ)が設定されるのに伴い、原油の市場供給量の減少が懸念される中、OPECプラスが増産方針を打ち出すことになるかどうかについて、関心が集まっている。

価格上限の運用方法については、徐々に内容が明らかになってきているが、現時点でOPECプラス及びサウジアラビア等から、価格上限への対応方針等について発表はされていない。また、次回閣僚級会合(12月4日開催予定)に向け、OPECプラスが最大50万b/dの増産を検討している旨、11月21日にWall Street Journalが報じたのに対し、アブドゥルアジズエネルギー相が同日、当該報道を否定したうえ、200万b/dの減産措置は2023年12月まで有効であると述べ、必要であれば減産を強化する旨表明した。

OPECプラスとしては、12月5日の価格上限運用開始後の市場へのインパクトについて、データ分析に基づく評価を行いたい考えとみられるが、OPECプラス代表への政策提言を行う合同閣僚監視委員会(JMMC)による調査の時間も必要であり、現状では、12月4日の閣僚級会合の場で増産が議論される可能性は低いとみられる。

なお、今後、OPECプラス閣僚級会合は6か月毎の開催となり、合同閣僚監視委員会も2か月毎の開催となることが決まっている。いずれの会合も、従来(2022年10月まで)は原則、毎月開催であったので、開催頻度が減少することで、OPECプラスとしては、市場の状況に応じた機動的な対応が取りづらくなる恐れもある。

 

5. 上流開発の動向、課題等

(1) アラムコの石油生産能力増強に向けた取り組み

サウジアラビアの石油生産(中立地帯除く)を一手に担うアラムコは、サウジアラビアの余剰生産能力の拡大に寄与すべく、石油生産能力を1,300万b/dに引き上げる方針である。

以下では、これまでのアラムコの石油生産能力増強に向けた経緯と現状の能力増強計画の概要を整理することとする。

 

アラムコの原油生産能力増強の経緯

  • クライス油田、AFK(アブハドゥリヤ、ファディリ、クルサニヤ)油田の生産開始等により、2009年の時点で生産能力1,200万b/dを達成。
  • 以後、2013年のマニファ油田増強(+50万b/d)、2016年のシャイバ油田増強(+25万b/d)等は、ガワール油田等既存油田の生産能力自然減退分の相殺(off-set)にあてられ、生産能力1,200万b/dの維持に寄与。
  • 2020年3月、サウジアラビア政府(エネルギー省)はアラムコに対し、持続可能な最大生産能力を1,200万b/d(中立地帯除く)から1,300万b/dに引き上げるよう指示。
  • 2021年10月、アラムコのアミン・ナセルCEOが、2027年までに生産能力が1,300万b/dまで引き上げられる見込みであると述べ、能力拡大の達成時期について初めて言明。(図9)
  • 2022年3月、アラムコは「2027年生産能力1,300万b/d」の達成に向けたロードマップを明らかにした。今後、海上油田のベリー油田(+25万b/d)、マルジャン油田(+30万b/d)、ズルーフ油田(+60万b/d)等の増強を順次進め、持続可能な最大生産能力は、老朽油田の生産能力減退分も反映し、25年に1,230万b/d、26年に1,270万b/d、27年に1,300万b/dと段階的に引き上げる計画。(図10)

海上油田の拡張については、アラムコが好業績を背景に上流部門を中心に大幅な投資拡大を進めていると伝えられ、対象油田のEPC契約に関する報道もあり、拡張事業は順調に進んでいるとみられる。

また、ナセルCEOは8月、(生産能力増強が実現した)2027年後半以降、世界最大の海上油田サファニア油田の生産能力を70万b/d拡張すると表明したが、ムハンマド皇太子が7月に行った、生産能力は1,300 万b/d以上には引き上げないとする発言との矛盾も指摘されている。アラムコは今後、石油需要の更なる拡大を想定して、余剰生産能力の増大につながる1,300万b/dを超える能力拡大に踏み切るかどうかについて、明確な説明を行うことが求められており、それによって将来の供給不安に対する市場の懸念が幾ばくかは払拭されることが期待される。

(図9)アラムコは2027年までに最大生産能力を1,300万b/dに引き上げへ
(図9)アラムコは2027年までに最大生産能力を1,300万b/dに引き上げへ
(出所:アラムコ2021年度決算報告資料)
(図10)「2027年1,300万b/d」に向けたロードマップ(単位:百万b/d)
(図10)「2027年1,300万b/d」に向けたロードマップ(単位:百万b/d)
(出所:アラムコ資料、MEES等によりJOGMEC作成)
(図11)サウジアラビア主要油田位置図
(図11)サウジアラビア主要油田位置図
(出所:各種資料を基にJOGMEC作成)
(表3)サウジアラビア主要油田概要
(表3)サウジアラビア主要油田概要
(出所:アラムコ資料等を基にJOGMEC作成)

(2) 中立地帯の油ガス田開発状況

中立地帯の原油生産は2020年に5年振りに再開され、その後、順調に操業を行っている。

中立地帯の油田(カフジ沖合油田、ワフラ陸上油田)はサウジアラビア・クウェートの共同保有・共同操業の油田であるが、特にクウェートは原油生産能力の低下が指摘されており、中立地帯の生産増加への期待が大きい。クウェートは2025年までに中立地帯から35万b/dの原油供給を計画している。クウェートの計画では2025年に中立地帯の総生産能力は70万b/dが必要となるが、現状の生産量が20万~27万b/d程度であること、生産停止前の2014年頃の生産量は40万b/d程度であったことから、70万b/d達成のハードルは高いとみられる。

今年3月にイランとサウジアラビア・クウェートの確執が伝えられたDorraガス田(イラン名Arashガス田)については、その後、報道が途絶えており、最新状況は不明である。

カフジ沖合油田

Aramco Gulf Operations Co.(AGOC)とKuwait Gulf Oil Co(KGOC)が折半出資するAl-Khafji Joint Operations (KJO)が操業。

ワフラ陸上油田

KGOCとSaudi Arabian Chevron(SAC)により操業。Chevronはサウジアラビア側(50%)の権益を保有(2008年に30年間の権益延長で合意)。サウジアラビア上流開発事業では唯一の外資参加事業。

(図12)中立地帯油ガス田
(図12)中立地帯油ガス田
(出所:アラムコ資料等を基にJOGMEC作成)

(3) 天然ガス開発の推進

サウジアラビアは国内ガス需要(発電、海水淡水化、石油化学向け等)の急増が見込まれており(図13)、天然ガスの開発が急務となっている。サウジアラビアとしては、天然ガス生産の拡大により、ガス火力発電を拡大することで、石油火力発電を削減し、発電用燃料のガスへの転換を進め原油の輸出拡大を進めたい考えである。

アラムコは、ガス生産量を2030年までに50%以上(最大70%)引き上げる計画である。アラムコの販売ガス量は2021年に過去最高の92億cfdを記録したが、アラムコのナセルCEOは「2030年までに、ガス生産量を50%以上、50~70%増加させたいと考えている。これにより、約100万b/dの発電用燃料が不要になり、発電用燃料のガス転換と原油の輸出拡大により多くの価値を生み出すとともに、排出量も大幅に削減できる」と2021年度の決算報告会で述べている。

アラムコは、Jafurah非在来ガスの開発推進を重要テーマとして掲げている。アラムコとしては今後、Haradh及びHawiyahのガス処理プラントの能力増強により、2023年めどで随伴ガス10.7億cfdの増産を見込み、さらにその後のJafurah非在来ガスの生産開始・拡大により、ガス生産量を2030年までに50% 以上引き上げる計画の達成を図る。Jafurahガス田生産ガスは当初計画では発電用等の従来用途に加え、サウジアラビアが新設を模索していた(その後、計画は頓挫)LNG燃料用と見込まれていたが、脱炭素の潮流を受け、水素・アンモニア燃料用に変更された。

Jafurahガス田の推定埋蔵量は200tcfとされ、アラムコによると、天然ガス2.2bcfd、エタン4.25億cfd、NGL 55万b/dの生産能力を有する。アナリストによると、Jafurah非在来ガスの本格的な開発には約2,000本の井戸が必要とされ、開発コストの高さが指摘されている。水圧破砕が必要となるが、サウジアラビアの水不足により、掘削コストは米国シェールよりも割高との見方もある。アラムコは、シェール開発の経験・技術力があるIOCとの連携を探っているとの見方もあり、Jafurah非在来ガスの今後の開発体制については注視が必要である。

(図13)セクター別天然ガス需要実績・予測(2010~2030)
(図13)セクター別天然ガス需要実績・予測(2010~2030)
(出所:アラムコ債権目論見書(2020年11月))
(図14)Jafurah非在来型ガス田
(図14)Jafurah非在来型ガス田
(出所:各種資料を基にJOGMEC作成)

(4) 気候変動問題への対応

サウジアラビアは、COP27(第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議)会場のシャルムエルシェイクで、ホスト国のエジプトと共催でサウジアラビアが提唱する「中東グリーンイニシアティブ」関連フォーラムを開催し、11月14日に下記の通り、気候変動問題に対するサウジアラビアの新たな取り組み方針を発表した。サウジアラビアは、COP27及び来年のCOP28 の開催地を、中東の盟友国エジプト、UAEに譲った形であるが、両国に劣らず気候変動問題への積極的な対応を行っていると自負しており、あらゆる機会を捉えて自国のクリーンエネルギー政策のアピールを行っている。

シャルムエルシェイクで発表された、気候変動問題に対するサウジアラビアの新たな取り組み方針

  • 温室効果ガスのクレジットとオフセットの国家的スキームを確立し、来年初頭に開始する。
  • 炭素回収・貯留(CCS)の目標を大幅に拡大し、2035年までに年間4,400万トン、2027年までに年間900万トンの回収・貯留(Phase-1)を実施することを目標に掲げる。
  • 2030 年までに発電量の 50%を再生可能エネルギーで賄うというサウジアラビアの取り組みの一環として、合計 11.4GW の容量を持つ 13 件の新規再生可能エネルギープロジェクト(推定投資額 90 億ドル)を計画。
  • サウジアラビアの政府系ファンドである公共投資ファンド(PIF)は、国家目標より10年早い2050年までのネットゼロを目標に掲げた。(※アラムコは昨年既に「2050年ネットゼロ」の方針を表明)
  • サウジアラビア・グリーン・イニシアティブの植林プログラムを加速する。2030年までに6億本の植林が予定されており、従来の目標より1億5千万本増加する。
  • サウジアラビア初の電気自動車(EV)ブランド「Ceer」の立ち上げ。米EV企業のルシード(Lucid)が、米国以外で初の工場をサウジアラビアに建設。PIF会長(兼アラムコ会長)であり、政府系ファンドとしては初のグリーンボンド発行の推進者であるヤシール・アル・ルマイヤン氏によれば、工場が稼働すれば、サウジアラビアは年間32万8000台のEVを生産できる見通し。

 

アラムコは引き続き、石油・ガス開発に注力する姿勢を堅持しているが、昨年、「2050年ネットゼロ」を宣言した同社は、脱炭素関連事業(水素・アンモニア事業、CCS等)に対しても積極的な取り組みを行っている。

2022年10月8日、アラムコがJOGMECとの間で、水素・アンモニア分野における包括協力協定(MOC)を締結したこともその一例である。MOCに基づき、両者は、水素・燃料アンモニアの製造や貯留に係るプロジェクト支援・技術開発・人材育成での連携で合意し、JOGMECが公表したCCSや温室効果ガス排出量算定に係るガイドラインをふまえ、プロジェクトの実現に向けた協議を実施する方針である。

 

参考

6. 終わりに

最後に、エネルギー業界の関心も高いサウジアラビアの外交(特に対アジア外交)をめぐる最近の動向、トピックについて、報告する。

上述の通り、サウジアラビアの事実上の指導者とされるムハンマド皇太子は、安全保障上の重要なパートナーである米国との関係を重視しつつ、2016年のOPECプラス設立時からサウジアラビアとともに同組織を主導してきたロシアや、サウジアラビア原油の最大の輸入国となった中国との関係強化を進め、上海協力機構(SCO)への参加・地位取得や、BRICSへの参加打診など、「全方位外交」を展開している。

最近も、ムハンマド皇太子は、G20、APECなどの国際会議に合わせ、アジア諸国を歴訪するなど、アジア外交にも力を入れている。皇太子は、11月15日からインドネシアを訪問しG20サミットに参加、11月16日から韓国を訪問し尹錫悦大統領との首脳会談で二国間関係の強化について協議、17日にはタイに移動しAPECサミットにゲストとして参加した。

韓国では、皇太子と財界との会合で、サムスン、SK、現代など8大企業のトップが集められるなど、特に経済面での関係強化が協議され、サウジアラビアの投資機会についての意見交換も行われた。アラムコは、傘下にある韓国の石油会社S-Oilを通じて、蔚山の石油化学プラントなどに70億ドルを投資すると発表した。また、皇太子が主導する未来都市プロジェクト「NEOM」事業への韓国企業の参加も協議されたと伝えられている。

今回、タイ訪問後の11月19日には日本を訪問し、岸田首相と会談する予定と一部で報道されたが、最終的に訪日は中止となり、11月21日に予定されていた日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラムも中止となった。皇太子は代わりに、訪日予定日であった11月20日にカタールで同国のタミム首長とともにFIFAワールドカップの開会式に参加した。

元々、韓国訪問に続いて日本を訪問するという案もあったと思われるが、本来APECのメンバーではないサウジアラビアのムハンマド皇太子が、30年以上ぶりにサウジアラビアとの関係正常化が実現したタイ(APEC議長国)から、APECの特別ゲストとして招待されたという経緯があり、タイ訪問を優先せざるを得なかった(結果的に訪日は中止)という事情があったとも考えられる。一方で、サウジアラビアは、ムハンマド皇太子のタイ訪問の機会を捉え、両国エネルギー相がエネルギー協力及び再生エネルギー開発に関する合意に署名した。

サウジアラビアはエジプト、ギリシャとともに2030年のFIFAワールドカップの開催を招致しており、ワールドカップ開会式への参加を優先したという事情もあったが、ムハンマド皇太子は、タミム首長と並んで世界的イベントの開会式に出席することで、2017年から2021年まで続いた「カタール危機」が終結し、サウジアラビアとカタールの友好関係が完全に復活したことを世界にアピールする良い機会と考えた可能性がある。

皇太子の訪日中止を受け、日本としては、松野官房長官が記者会見で語ったように、両国首脳会談の早期実現に向け、調整を進めている状況である。サウジアラビアが中国、韓国との関係強化に動く中、日本としても、今後、サウジアラビアと両国との関係強化の動きに劣後しないような取り組みやアプローチが必要になってくると思われる。

 

以上

(この報告は2022年11月29日時点のものです)

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