ページ番号1009562 更新日 令和4年12月9日
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概要
- 米国の中堅上流専業企業Occidental(石油天然ガス生産量日量118万boe)は、他石油企業に比べてきわめて野心的なネットゼロ目標を2020年に発表した。その内容は、2040年までにScope 1及びScope 2のネットゼロの目標を掲げ、さらにScope3についても2050年までにネットゼロを目指すとした。またメタン排出強度について2025年までに生産・販売ガスのメタン排出係数を0.25%以下とする目標を設定している。
- 2022年3月、2050年ネットゼロに向けて具体的な低炭素戦略を公表。米国のCO2地下貯留への支援策(税控除45Q)を利用しながらCO2削減の商業化ならびに循環的な社会への転換を目指すものである。米国では、2022年8月にインフレ削減法(IRA)が成立し気候変動関連の助成制度がさらに拡充された。こうしたCO2削減の商業化の期待が飛躍的に高まっている。
- 同社は、米国Permian Basinにおける石油生産のシェア約1割を占める上流事業者である。同社は、地下へのCO2圧入のノウハウやCO2管理、また保有する輸送網を活用し、他技術との連携・統合によりCO2削減を商業化する構想である。具体的には、他社と共同で、大気からCO2を回収する直接大気回収(DAC: Direct Air Capture)やCO2が外部に排出しない天然ガス発電プラント(NET Power)の建設により、自前のEORやCCSのノウハウと組み合わせてCO2削減のバリューチェーンを構築する。加えて、ネットゼロのオイルの販売や低炭素の合成油の商品化を進める。
- いずれの技術もスケールアップやコストダウンの課題は大きいものの、同社は自らの専門のノウハウと先行的な投資でもって低炭素な社会の実現を後押しようとする戦略である。
1. はじめに
現在、欧米メジャーズが自ら先頭に立って低炭素社会への移行を推進するため、再生エネルギー会社の買収や、水素製造の開発やCCS等の開発を相次いで着手した。
本稿では、E&P専業の石油天然ガス企業であるが、ExxonMobilやChevronのメジャー以上に気候変動問題の解決に積極的な、米国のOccidental Petroleum社(本稿ではOccidentalと表記)を紹介する。
2. Occidentalのネットゼロ宣言
同業他社が明確なネットゼロ宣言を後回しにする中で、米国の中堅上流専業企業Occidentalは、欧米メジャーよりも高い目標を掲げ、積極的な姿勢を示している。欧米メジャーはいずれも2050年をターゲット年に設定している(表1)のに対して、同社は、自社操業で排出するGHGを指すScope 1(自社の直接排出)+2(外部調達した電気・熱等に関わる自社の間接排出)に関して2040年までのネットゼロ目標を宣言、かつ、2035年までの早期実現を目指すと宣言した(2020年11月)。同社は、米国メジャーのExxonMobilやChevronが踏み込まなかったScope 3(Scope 1、Scope 2以外の自社の調達・輸送・物流・販売活動や廃棄等バリューチェーン全体に関わる排出)に関しても2050年までのネットゼロを目指すと宣言した。同業他社のDevonやEOGなどもScope 3には触れず、Scope 1、Scope 2の自社操業時のGHG排出の削減・全廃が目標である(表2、表3-1、表3-2、表3-3)。
宣言を出した2020年は、Occidentalにとっては、同業のAnadarkoを買収[1]した直後であり財務的には負債比率が高く、また突発的に起きた世界的なパンデミックのため収入減少、投資削減を余儀なくされた時期であった。また欧米メジャー各社が次々にエネルギートランジションやGHG排出量の目標を示し始めた時期であり、Occidentalも同様に低炭素社会の実現に向けた自社の方針を表明した。ただ、相違点として、欧州メジャー系が石油ガスの探鉱投資や再生エネルギーの売上比の引き上げに言及したのに対して、Occidentalは上流事業からのトランジションや事業縮小に触れるわけではなく、石油・ガス開発への投資継続の姿勢は崩さず、自らの強みをいかに活かして低炭素化を行うのかに焦点をあてた。
表1.欧米メジャーのネットゼロ宣言[2]
ExxonMobil(米) | Chevron(米) | Shell(英) | bp(英) | TotalEnergies(仏) | |
---|---|---|---|---|---|
Scope 1, 2 ネットゼロ | 2050年 | 2050年 | 2050年 | 2050年 | 2050年 |
Scope 3 ネットゼロ |
- |
- | 2050年 | 2050年 | 2050年 |
各種資料よりJOGMEC作成
Occidental | Devon | EOG | Marathon Oil | Murphy Oil | |
---|---|---|---|---|---|
Scope 1, 2 ネットゼロ |
2040年 | 2050年 | 2040年 | -(削減目標のみ) | -(削減目標のみ) |
Scope 3 ネットゼロ |
2050年 | - | - | - | - |
Scope目標 | 2040年までにScope 1, 2のゼロエミッション達成、2035年の早期実現 2050年までにScope 1, 2, 3ゼロエミッション達成 |
2050年までにScope 1, 2のゼロエミッション達成 | 2040年までにScope 1, 2ゼロエミッションの達成 | 2022年までに炭素強度40% , 2025年までに同50%、2030年までに70%減 (2019比) | 2030年までにScope 1, 2の炭素強度15–20%減(ただし マレーシア除く(2019比)) |
メタン排出強度削減目標 | 世界銀行の2030年までにゼロフレアリングに参加 2025年までに販売ガスに対してメタン排出強度0.25%以下を目標 |
2030年までにメタン排出量を2019年度比で65%に削減。 | 2025年までにメタン排出強度0.06%の目標達成 | 世界銀行の2030年までにゼロフレアリングに参加 2022年の天然ガス回収率99%目標 |
各社発表資料等よりJOGMEC作成
対象範囲 | 目標年 | タイプ | 内容 |
---|---|---|---|
Scope 1+2 | 2024 | 絶対量 | Scope 1+2として全社でCO2排出量を2024年までに2021年比で年368万t相当を削減 |
Scope 1+2 | 2025 | 炭素強度 | Oil & Gas部門のScope 1+2のGHG排出強度0.02tCO2e/boe削減 |
Scope 1+2 | 2025 | 絶対量 |
OxyChem部門のScope1+2のGHG排出量187,990tCO2e相当を削減 OxyChem Scope 1+2のGHG排出量 2.33%相当を削減 |
Scope 1+2 | 2025 | 排出強度 | OxyChem Scope 1+2のGHG排出強度 2.7%相当を削減 |
Scope 1 | 2025 | メタン排出強度 | 生産販売ガス量のメタン排出強度0.25%目標 |
Occidentalの2021 Climate Report[3]よりJOGMEC作成
目標年 | タイプ | 内容 | |
---|---|---|---|
Scope1 | 2030 | 絶対量 | 2030年までに通常操業のフレアリング全廃 |
Scope1+2+3 | 2032 | 絶対量 | 2032年までに自社バリューチェーンの中でCCUS 25百万t/年 |
Scope1+2 | 2035 | 絶対量 | 2035年までにScope1+2ネットゼロ早期実現 |
Occidentalの2021 Climate Report[4]よりJOGMEC作成
目標年 | タイプ | 目標 | |
---|---|---|---|
Scope1+2 | 2040 | Net-Zero 目標 | 2040年までにScope1+2ネットゼロを達成 |
Scope 3 | 2050 | Net-ZeroAmbition | Carbon Inventory全量に対してネットゼロ達成 |
Scope 3 | +2050 | Net-ZeroAmbition | CCUS、DAC、その他解決策でもって推進 |
Occidentalの2021 Climate Report[5]よりJOGMEC作成
現在、同社は、主要石油・ガス会社初の女性CEOであるVicki Hollub氏が率いている。同氏(図1)は、2050年に手遅れにならないよう、パリ協定の気温上昇1.5度内の抑制に向けて2050年のScope3ネットゼロを宣言に盛り込んだ。

2022年3月に公表した低炭素投資戦略Oxy Low Carbon Venture(OLCV)[6]では、DAC建設やCCSハブ開発に投資を進めることを盛り込んだ。発表当時はインフレ削減法(IRA)成立前であり、Vicki Hollub氏は、政府のCCSへの税控除措置(通称45Q)を活用しながらCO2削減事業を商業化する意向を示していた。
しかし、2022年8月にインフレ削減法(IRA)が成立したことで、CO2削減(CO2-EOR, DAC等)への税控除が大幅に拡充(表4)された。例えば、CCSによるCO2削減の税控除が50ドル/tから最大85ドル、EORによるCO2削減は35ドル/tから最大60ドル/tに拡大。またDACによるCO2削減が控除対象に新たに認められ、CCSの場合は最大180ドル/t、EORの場合には最大130ドル/tの税控除が受けられることとなった[7]。こうした支援拡大によって米国ではCO2削減の商業化に一段と近づいた。

詳しくは、石油・天然ガス資源情報:米国インフレ削減法成立と石油・天然ガス上流開発産業に対する影響
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009474.html
Occidentalは1920年にカリフォルニアで創業、当時化学製品の会社であったが大富豪のArmand Hammerが経営権を握ると1960年代、国外の石油ガス開発に進出した。同社は、創業100年を超えるメジャー並みの歴史と探鉱開発の実績を有する老舗企業である。2014年に前CEOがカリフォルニア資産を分社化させ、Permianに集中するため本社をヒューストンに移転させた。現在、米国Permian Basinのほか、ロッキー山脈エリア、米国メキシコ湾、中東・北アフリカ(アブダビ、オマーン、アルジェリア)に上流・中流資産を有し、国内外で石化分野にも投資する。歴史的に、米国の石油ガス会社は吸収・合併を繰り返しながら最終的に欧米メジャーに吸収されるケースが多いが、OccidentalはMarathon Oil、HessやMurphy Oilと並び現在も独立して操業する数少ない企業である。
Occidentalは、米国内の原油生産及び開発コストが安い中東での操業を中心とする上流事業者(後掲の表5を参照)であり収益性の高い企業としても知られる。2022年上半期、投資家バフェット氏のBerkshire Hathawayが同社株式を大幅に買い増しし、現在約20%所有の大株主である。
3. Scope 3のネットゼロに向けた具体的な取り組み
本稿ではScope1、2に関連した、油・ガス田開発・生産事業や石油化学プラント操業における従来の操業の中でのCO2削減の取り組みは割愛する。主に、Scope3対応に関してCO2削減の商業化を念頭にした取り組みを紹介する。
Occidentalは、自らの強みであるCO2の地下貯留を含めた管理能力を生かし、その周辺の技術を戦略的に統合してバリューチェーン化し、CO2削減の商業化を目指すものである。先駆的な研究投資は、いずれも実証段階からのスケールアップとコストダウンが求められるが、長期的スタンスに立ってファーストムーバーとしての先行利益を狙っている。
その内容について、2022年3月のOxy Low Carbon Venture(OLCV)[8]等の公表資料から自社のコア技術、バリューチェーン化、具体的な投資先に関して紹介する。
(1) Occidentalのプラットフォームとなる技術・アセット
まず、自社のコア技術、得意分野に関して。Occidental(米)は、米国Permian Basinにおいて生産操業を大規模に行う上流事業者で在来型の油田においてCO2圧入による生産量の増進を目的としたEnhanced Oil Recovery(EOR)を行う地場企業である。近年では、同Basinにおいて非在来型のシェール開発が盛んで、同社の2021年生産実績ではPermian Basin約50万boe/dであり、同Basinの石油生産の約10%を占める。Occidentalの生産量118万boe/dに対してPermianは4割を占め(表5)、また投資額ベースでは2022年計画40億ドルのうちPermian Basinは17~19億ドルと全体の約5割(図2)を占め、2022年は最大9基の掘削リグを稼働させて300~330坑の生産開始を予定している。
石油・ガス生産量 | 2019 | 2020 | 2021 |
---|---|---|---|
石油 | 787 | 1,004 | 887 |
天然ガス | 1,451 | 2,064 | 1,779 |
石油比率 | 76% | 74% | 75% |
米国内 | |||
石油 | 565 | 782 | 715 |
天然ガス | 893 | 1,529 | 1,308 |
米国内地域別(石油ガス合計) | |||
Permian | 509 | 575 | 487 |
Rockies他陸上 | 147 | 332 | 302 |
メキシコ湾 | 58 | 130 | 144 |
米国全体 | 714 | 1,037 | 933 |
米国以外 | |||
南米 | 34 | 32 | 1 |
アルジェリア他北アフリカ | 24 | 44 | 43 |
ガーナ | 9 | 28 | 16 |
中東(カタール、UAE、オマーン) | 248 | 207 | 190 |
Occidental合計 | 1,029 | 1,348 | 1,184 |
2019 | 2020 | 2021 | |
---|---|---|---|
純利益 | -985 | -15,675 | 1,522 |
(部門別) | |||
上流部門 | 2,520 | -9,632 | 4,145 |
ケミカル部門 | 799 | 664 | 1,544 |
Mid-Marketing部門(OLCV含む) | 241 | -4,175 | 257 |
注 2019年、Anadarkoを買収、Occidental財務資料よりJOGMEC作成

Occidentalの発表資料よりJOGMEC作成
同社のアニュアルレポート等によれば、Permian Basinの開発はシェール開発を含むPermian Resourcesユニットと、EOR開発を専門とするPermian EORユニットの2部門を通じて操業され、増進回収のため水攻法やCO2圧入等を行っている。これらのCO2輸送・貯留には50年以上の操業経験を有し、2021年時点でPermian Resourcesユニットはグロスで6,000か所の井戸で生産し、EORのためにCO2のパイプライン輸送及びCO2の油田圧入を35か所で行っている。これらEORにより最終的な石油の回収量は10-25%改善する。今後も、条件次第であるものの20年以上はその投資機会があると説明している。
(2) CO2削減のバリューチェーン化
事業化に向けてはバリューチェーンの構築が重要となる。
Occidental社は、バリューチェーンを上流から(1)低炭素の電力、(2)CO2回収、(3)CO2輸送、(4)CO2貯留、(5)CO2商品化と定義し、(3)輸送、(4)貯留は自社の長年の経験が生かせる部分であり、その周辺技術について連携および統合を図っている。
バリューチェーン構築に向けて以下の技術開発に参画する(表6)。
- 低炭素の電力
- NET Power:CO2を内部で回収する天然ガス火力発電所
- CO2の回収
- DAC(Direct Air Capture):大気からのCO2回収
- NET Power:(1)に同じ
- Point source capture:大規模排出源でのCO2回収
- CO2の輸送
- 同社の長年保有するノウハウ。
- CO2の貯留
- 同社の長年保有するノウハウ。
- CO2-to-product(商品化)
政府資金を利用しながら、CO2を再び価値ある商品に循環させる仕組みづくり。その方法としてCO2回収・貯留を利用した排出権クレジットの販売、回収CO2を利用した合成油の製造販売(Air to FuelsMT)。

下線は4.参照 Occidentalの発表資料を参考にJOGMEC作成
(3) CO2削減のバリューチェーン構築のための要件
バリューチェーンを構築していくための要件として、上流開発事業でも同様であるが、技術力、商業性(販売力)や資金力が挙げられる。
Occidentalの説明によれば、この技術力を向上させるには、スケールアップやサプライチェーン構築によるコストダウンだけでなく、十分な低炭素の電力供給が必要であり、かつ自社が得意なCO2圧入の安全操業の経験とデータの蓄積が不可欠と指摘。
また、商業性を高めるためには、政策サイドのサポートと市場創出の両面が必要であり、米国では、税控除(通称45Q)による投資インセンティブ、2021年に成立したインフラ投資法によってパイプライン敷設に関する支援策を挙げている。前述の通り、その後2022年8月にインフレ削減法(IRA)成立でCCS、DAC等を対象に税控除が拡大した。

JOGMEC作成
(4) 同社が目論む脱炭素ビジネス市場とは
次にビジネス市場をどう定義するのか。以下のように、ターゲット市場(Our Targeted Market Opportunities)を明示している。
- 2050年までに1.5度上昇に抑えるための要件(Based on IPCC Special Report on Global Warming of 1.5°C)として、2050年までに炭素量10Gt-20Gt/年の炭素削減(Carbon Removal)が必要である。現時点ではDACを通じ最大5Gt/年の商業的なCO2削減ビジネス市場が存在し、将来における回収技術のコストダウンを通じて15Gt/年分の削減規模に市場が拡大する。
- 米国では、産業利用において炭素量2.6Gt/年を排出しているものの、2019年に大規模回収(Point source capture)として回収・貯留された炭素量は2200万t/年のみである。CCSによる地下貯留のニーズがあり、政策インセンティブやコストダウンを通じてCCSの事業化を行う。
- 2050年までに航空用燃料をSAF(Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料))に置き換える、あるいは炭素削減(Carbon Removal)する必要がある。「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation:CORSIA)」の脱炭素目標を基準にすれば、航空燃料分のCO2 1.2Gt/年は1200か所のDAC施設の回収量に相当し、DACは早期の解決策となる。
4. 具体的な事業
CO2削減のバリューチェーンの一角を成すいくつかの事業の現状について簡単に解説する。
(1) 低炭素な電力であるNET Power
Occidentalは、CO2が外部に排出されない発電技術NET Powerに着目しており、同社のPermian Basin(West Texas)の操業現場近くに最大30万kWeの発電プラントの建設を計画する[9]。2023年にFEED作業を開始し2024年第3四半期から建設開始、2026年操業開始を目指している。参加企業としては、全体の技術統合としてBaker Hughes、CO2の輸送・貯留についてOccidental、その他Constellation, 8 Riversが参加し、これらの企業が電力のオフテークを行う。NET Powerは、プロセスとしては純粋な酸素と天然ガスを燃焼させて発電するとともに、生成されたCO2は燃焼装置、タービン、熱交換器、コンプレッサーを介して循環的に利用され、余分なCO2は地下圧入あるいは合成油等に活用する仕組みである。
詳しくは、https://netpower.com/(外部リンク)
(2) DACとCO2-EOR
同社が推進するDAC(Direct Air Capture)は、技術エンジニアリング会社Carbon Engineering(加)と技術提携する、名前の通り、大気からCO2を直接回収する事業である。2022年11月、Permian Basinで第1基目の建設を開始した。2024年に操業開始を予定している。第1基目は初期段階で回収能力50万トン/年、最大100万トン/年まで能力を拡張する計画である。Occidentalは、2022年3月の発表当初、2035年までにDAC施設を最大70か所設置の目標であったが、8月の連邦政府のIRA成立により上方修正し、2035年までに北米、アジア、欧州、中東を中心に世界各地で回収能力50万~100万t/年の設備を最大135か所の建設及び操業する目標とした。

各種資料を参考にJOGMEC作成
既にいくつかの需要家との間でDACに対して資金コミットの話がまとまっている。例えば、2022年3月、航空機メーカーAirbus社との間で、第1基目のDAC施設から回収したCO2削減分を、排出クレジットとして40万トン(10万トン×4年間)を販売した[10]。また、韓国の石油会社の子会社SKトレーディングとの間では、DACで回収したCO2をEORに利用して生産されたOilをNet Zero Oilとして5年間販売することで合意した[11]。
詳しくは、https://www.oxy.com/(外部リンク)、https://carbonengineering.com/(外部リンク)
(3) 脱炭素商品の販売
Net Zero Oilに加えて、同社はDAC等で回収したCO2を水素と合成し、液体燃料を製造する合成油Air to FuelsMTにも投資している。合成油は従来のジェット燃料への混合や従来の原油への混合が可能である。DAC同様にAir to FuelsMTも、カナダのCarbon Engineering社の技術を用いて共同で開発し、スケールアップとコストダウンに取り組んでいる。
2022年3月発表のOLCVでは、石油という商品は、長い間、原油に含有する硫黄分や原油のAPI比重等により分類されてきたが、今後は、炭素強度(carbon intensity:CI)によって分類されると予測し、Lower-CI(炭素強度の低い燃料)の価値を認識した上でソリューションの提供を進めていくと述べている。その代表的な低炭素な石油としてNet Zero Oil(あるいはLow-carbon-fuel)やAir to FuelsMTの商品開発・販売である。
(4) OCLV投資
OCLVは子会社1PointFiveを通じて行う。1Point Five は、DACの商業開発、Air to FuelsMT、大規模排出源からの回収、輸送及び貯留サービス、貯留ハブ開発等、CCUSを開発する企業である。
OCLV事業への2022年投資計画額は1‐3億ドルとOccidental全体の10%未満で、2022年はDACの建設に1.75億ドル、地下貯留のハブ開発に1億ドルを計画している。ただし昨今のインフレにより建設コスト増額を余儀なくされる見通しである。
5. おわりに
米国中堅E&P企業のOccidental(生産規模118万boe/d)が2020年に宣言したネットゼロ目標は、他の石油企業に比べてきわめて野心的なものであり、2040年までにScope 1+2の達成目標、さらにScope 3についても2050年までのネットゼロ目標を盛り込んだ。
同社は、米国Permian Basinにおける石油・ガス開発をプラットフォームに、地下へのCO2圧入のノウハウ、CO2管理の知見、また保有する輸送網を活用し、CCSを利用したCO2削減を事業化する構想である。CO2貯留・管理の周辺技術となる大気直接回収(DAC)施設やCO2が回収される天然ガス発電所(NET Power)の建設を他に先駆けて投資し、CO2削減のバリューチェーン化を目指す。技術的には実証研究からのスケールアップと大幅なコストダウンが求められるものの、CCSやDACに対する強力な政府支援が後押しする。
最後に、Occidentalの低炭素戦略上の事業化投資はまだ始まったところであるものの、米国では現政権による資金支援を背景に脱炭素ビジネスの機運も上昇している。同社の事例は、欧米メジャーのような買収攻勢といった派手さはないが、自社の資産や知見を中核に据えた上流事業者としての低炭素化戦略を他社と連携しながら推進する一つの先行例である。
[1] 海外石油天然ガス動向ブリーフィング(2019年7月)アナダルコ社買収をめぐる米国上流 開発産業の動向(古藤 太平)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/808/20190718_Research3.pdf
[2] 海外石油天然ガス動向ブリーフィング(2022年4月)セキュリティとトランジションを追うエネルギー業界CERAWeek 2022報告(鑓田 真崇、石田 滋陽、菊池 豪人)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/335/20220421_Research3.pdf
[7] 石油・天然ガス資源情報(2022年11月)エネルギートランジションへの動きが活発化する米国 ―インフレ削減法はその動きを加速するかー(中島 学) https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009534.html
石油・天然ガス資源情報(2022年9月)米国インフレ削減法成立と石油・天然ガス上流開発産業に対する影響(古藤 太平)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009474.html
[9] https://netpower.com/net-power-announces-its-first-utility-scale-clean-energy-power-plant-integrated-with-co2-sequestration/(外部リンク) (2022年11月7日プレス発表)
以上
(この報告は2022年12月7日時点のものです)