ページ番号1009566 更新日 令和4年12月14日

G7、EU及び豪州がロシア産石油禁輸に併行して60ドルの価格上限設定を発動

レポート属性
レポートID 1009566
作成日 2022-12-12 00:00:00 +0900
更新日 2022-12-14 10:57:35 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場基礎情報
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 28
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 欧州
国2
地域3 北米
国3 米国
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア欧州北米,米国
2022/12/12 原田 大輔
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概要

  • 5月8日、G7首相はオンライン会合を開催し、ロシア産石油(oil)輸入の段階的廃止又は禁止を含むロシア産エネルギーへの依存を順次廃止していくことを盛り込んだ首脳声明を発表した。EUも3週間余りの調整の末、6月3日、第6次制裁パッケージを発表し、ロシア産原油及び特定の石油製品(crude oil and certain petroleum products)の輸入、転売、第三国への海上輸送に係る保険及び再保険の禁止を行うことが盛り込まれた。原油については6カ月(年内)で段階的に廃止し、石油製品は8カ月で段階的に廃止すると規定された。
  • ロシア産石油禁輸に向けた動きと併行して、その抜け道となってきた、①ディスカウントされても原油価格高止まりによるロシアの収入増加、②制裁を課していない「友好国」によるディスカウントされたロシア産原油の購入継続という2つの問題を解決し、対露制裁の実効性を確保していくことについての議論が急速に高まってきた。そこで米国が中心となってロシア産石油に対して価格上限設定を行うことが提案された。売り手が生産調整を行い、価格コントロールを行うOPECに代表されるカルテルは存在してきたが、買い手がある特定の国を指定し、その販売価格に上限を設けることで、その国の収入を断つという制裁手段が果たして実効力を持つのかどうか。特定制裁対象国に対する「買い手カルテル」とも言える史上初の試みとなる。実装方法はEU第6次制裁パッケージにも盛り込まれたロシア産石油の海上輸送に対する、「海運サービス」、「通関サービス」、「金融サービス」及び「保険サービス」について、価格上限を超える取引に対して、提供を禁止することである。
  • 6月28日にはドイツ・エルマウでG7首脳会合が開催され、ロシア産石油の取引価格に上限を設定する新たな制裁を検討する方針が遂に公式に示され、9月2日、ベルリンで開催されたG7財務相会合にてロシア産石油に対する価格上限設定を制度化し、実装することで合意に至った。
  • 12月2日、EUは価格上限を60ドルに設定すると共に、12月5日の価格上限設定が法制化され、実装されることになった。EUでの最終合意を受けて、G7も同様に60ドルを価格上限として設定する措置を相次いで発表。条件として、①価格上限見直しでは、ロシアの石油収入を削減するという目的と価格上限はロシア産石油(Russian oil and petroleum products)の平均市場価格を少なくとも5%下回るべきであるという原則を考慮し、平均市場価格は国際エネルギー機関(IEA)と協力して計算する必要があること。②市場の動向をタイムリーに評価するためにレビューは2023年1月中旬の時点で実施される。その後2カ月毎に実施することが盛り込まれた。
  • ロシア政府は独自の保険、独自のタンカー傭船を組織立てることで、この措置に対抗しようとしている動きが見られる。また、故意に供給途絶を引き起こすことも価格高騰を誘引し、ロシアの供給者の重要性を欧米諸国に理解させる上でロシアにとって実効性のある手段となる可能性がある。ノヴァク副首相は「ロシア産石油に価格上限を設定する国には石油及び石油製品の輸出を行わない。また、原油を減産する可能性がある。価格上限が導入されれば、供給量の減少を引き起こす」と述べている。
  • IEAは石油禁輸による影響について、世界の原油・石油製品の供給量は日量240万バレル減少するとの見通しを示している。また、ロシアの総原油生産量は2023年2月までに日量950万バレルまで減少し、EUに必要な代替調達規模は原油が日量100万バレル、石油製品が同110万バレルで、特にディーゼルが不足し価格が上昇すると予想している。ビロルIEA事務局長はOPECプラスが減産に関して決定を下す際には世界経済がかなり脆弱な状況を考慮することを期待するとし、また市場の混乱を避けるためには、供給余力のある中東産油国の増産が重要という認識を示した。
  • 12月4日、市場の増産への期待を受けたOPECプラス閣僚級会合が開催されるも、原油価格が下落基調にあり、中国をはじめとする世界経済の不透明感と景気減速による原油需要の鈍化を警戒し、10月に決定した現行の協調減産(2023年12月までに10月比で日量200万バレル減産)を維持することを再確認するという結果となった。他方、声明では「必要があれば市場安定のため直ちに追加措置を執る」ことも強調している。

 

1. ロシア財政の本丸・石油禁輸に至る経緯

ロシアによるウクライナ侵攻直後から、カナダ(2月28日)、米国・英国(3月8日)がエネルギーに関する禁輸措置を発表してきた。欧州委員会でも検討が始まったが、エネルギー禁輸制裁は加盟国のエネルギーミックスの多様性による調整の難しさもあり、最終的に共同コミュニケ(3月8日)として、「ロシア産化石燃料の依存低減を目指す」という、加盟国に対する欧州委員会からのガイドラインという形に留まった。3月11日には豪州がロシア産石油、精製石油製品、天然ガス、石炭及びその他のエネルギー製品と最も範囲の広い禁輸対象を発表した。

(表1)対露エネルギー禁輸・依存低減ガイドラインを発表した各国の内容と状況の違い
国・地域 内容 ロシア依存度 方法
カナダ 石油(petroleum)
注:当初原油だった。
原油・石油製品:0% 自国生産
米国 原油、石油、石油燃料、油及びそれらの蒸留製品、LNG、石炭及び石炭製品 原油:3.3%
石油製品:20.1%
LNG:0%
代替供給源模索。
(ベネズエラ制裁解除か)
英国 石油(oil/石油製品を含む) 石油:8% 代替供給源模索
豪州 石油、精製石油製品、天然ガス、石炭及びその他のエネルギー製品の禁輸 依存度:0% 自国生産
日本 石油の原則禁輸 原油:3.6%
LNG:8.8%
代替供給源模索
       
EU
括弧内:
拡大欧州の数字
ロシア産化石燃料への依存からの脱却
(共同コミュニケ)
原油:28.2%(53.5%)
天然ガス:32.9%(75.5%)
省エネ・代替供給源・燃料ミックスを模索。
  • 第5次パッケージ(4月8日):石炭・固形燃料・ジェット燃料の輸入制限。LNG・液化プロセス関連製品禁輸。
  • 第6次パッケージ(6月3日):ロシア産原油及び特定の石油製品の輸入、転売、第三国への海上輸送に係る保険及び再保険の禁止。

(出所:公開情報よりJOGMEC取り纏め)

 

表1の通り、カナダ、米国、英国、豪州とも産油ガス国であるという特徴がある。欧州も域内に生産油ガス田を持っているが、既に減退中であり、その事情の違いも各国の制裁内容の違いに表れている。

4月初旬に発生したブチャ虐殺はG7の対露結束を強化し、4月7日にベルリンで開催された首脳サミットにて共同声明発出に至った。7つの優先事項が掲げられ、ロシア産石炭がターゲットとなり、禁輸政策は共同コミュニケに留まっていたEUも加わり(第5制裁パッケージ)、各国が段階的廃止や禁輸を行っていくことが謳われた。また、ロシア産エネルギー全般についてもその依存を減らすべく各国が方策を練り、特に石油について加速していくことが発表され、踏み込んだ内容となった。他方、ロシア産石油天然ガスというロシアに打撃を与える「本丸」についてはその彼我への影響に鑑み慎重となったと推察される一方、石炭の次の制裁の可能性として温存しながら、徐々にロシア産依存を下げるという方向性を堅持したことが特筆される。

<参考> ブチャ虐殺を受けたG7首脳声明の骨子(2022年4月7日/ベルリン)

  • エネルギー部門を含むロシア経済の主要部門への新規投資を禁止。
  • 高度技術物品や特定サービスの貿易輸出禁止を拡大。ロシアの収益に結び付く輸入制限強化。
  • ロシア銀行の国際金融システムからの孤立を維持。
  • ロシア経済の主要な推進力を構成する国有企業をターゲットとした圧力を拡大。
  • ロシア国民の資源を浪費するエリートとその家族に対する制裁継続と強化。
  • ロシア軍事産業に対する追加の制裁の発動。
  • ロシア産石炭輸入の段階的廃止や禁輸を含む、ロシア産エネルギー依存を減らす計画を促進。
    ロシア産石油(oil)への依存を減らすための作業を加速。

5月8日、G7首相はオンライン会合を開催し、遂にロシア産石油(oil)輸入の段階的廃止又は禁止を含むロシア産エネルギーへの依存を順次廃止していくことを盛り込んだ首脳声明を発表した。翌日はロシアの祝日である対独戦勝記念日があり、赤の広場での大規模な軍事パレードが予定されていた。ロシアが勝利宣言や東部地域の編入を行う噂が流れており、その牽制としての意味もあったと考えられる(実際にはロシア側では大きな動きは生じなかった)。

<参考> G7首脳声明の骨子(2022年5月8日/オンライン)

  • ロシア産石油(oil)の輸入を段階的に廃止又は禁止することを含むロシア産エネルギーへの依存を段階的に廃止する。
  • ロシアが依存する主要なサービスの提供を禁止又はその他の方法で防止するための措置を講じる。
  • ロシアの金融システムにとって重要なロシアの銀行に対して引き続き行動を起こす。
  • ロシア政権のプロパガンダを広めようとする試みと戦う。
  • プーチン大統領の戦争努力を支援し、ロシア国民の資源を浪費する金融エリートと家族に対するキャンペーンを継続・強化する。

G7による石油禁輸措置を含んだ首脳声明を受け、3週間余りの調整の末、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は5月31日に加盟国が第6次制裁パッケージに向け原則合意したことを発表し、6月3日、第6次制裁パッケージを発表した。複数ある新たな制裁措置の中で、石油禁輸に関しては、ロシア産原油及び特定の石油製品(crude oil and certain petroleum products)の輸入、転売、第三国への海上輸送に係る保険及び再保険の禁止を行うことが盛り込まれ、原油については6カ月(年内)で段階的に廃止し、石油製品は8カ月で段階的に廃止すると規定された。また、契約上の例外とロシアからの原油パイプライン・石油製品供給に高く依存する中東欧諸国に対して、輸入継続を認める規定も盛り込まれた。

<参考> 欧州委員会による石油禁輸措置における例外内容

  • 2022年6月3日以前の契約は2022年12月5日(原油)、2023年2月5日(石油製品)まで対象とならない。
  • ロシアに特定のパイプライン依存関係があり、実行可能な代替案がない加盟国は、パイプライン原油輸送の一時的な免除を認められており、この免除は、欧州理事会が別の決定を下すまで有効。
  • チェコ:特定の石油製品の再輸出を10カ月間許可。
  • ブルガリア:2024年末まで原油と石油製品の海上輸入を継続する。
  • クロアチア:2023年末までロシア産減圧軽油輸入を許可する。

これらロシア産石油禁輸に向けた動きと併行して、その抜け道となってきた、(1)ディスカウントされても原油価格高止まりによるロシアの収入増加、(2)制裁を課していない「友好国」によるディスカウントされたロシア産原油の購入継続という問題を解決し、対露制裁の実効性を確保していくことについての議論が既に5月頃から急速に高まってきた。

そこで考え出されたアイデアがロシア産石油に対する価格上限設定という妙案である。売り手が生産調整を行い、価格コントロールを行うOPECに代表されるカルテルは存在してきたが、買い手がある特定の国を指定し、その販売価格に上限を設けることで、その国の収入を断つという制裁手段が果たして実効力を持つのかどうか。特定制裁対象国に対する「買い手カルテル」とも言える史上初の試みとなる。

図1 ロシア産石油の供給先(棒グラフ/左軸)とロシアの収入推移(赤実線/右軸)
(図1)ロシア産石油の供給先(棒グラフ/左軸)とロシアの収入推移(赤実線/右軸)
(出所:IEA石油月報からJOGMEC作成)

2. 石油価格上限設定の実装に向けた動き

5月19日、イエレン米財務長官はドイツで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議で、エネルギー価格への影響を最小化しつつ、ロシアの石油収入を制限する方法としてロシア産原油価格の上限設定を検討しており、二次制裁を活用する可能性についても関係者で協議したことを明らかにした。他方、同氏もその時点では「自分を含め多くの人が一般的な経済的視点から興味深いとは見ているが、実際にこれを運用可能にするのは難しく、問題全てが整理されているわけではない」とも述べている。

一方、このイエレン財務長官の発言に先立って、EUでは4月下旬に「ロシア産石油に対して一定の価格上限を超える輸出に対する関税賦課」が議論されていた。通商担当のドムブロフスス上級副委員長が明らかにしたもので、第6次制裁パッケージに盛り込むアイデアのひとつとして、ロシアに最大限の圧力をかける一方でEU側の経済的打撃を最小限にすることができる、ロシア産石油に対する「スマートな制裁」措置を準備していると述べていた。この時点でも欧州では強硬派であるポーランド及びバルト三国が石油禁輸を強く唱える一方、慎重なドイツはそのような措置が(ロシアとの)契約義務に違反し、他の問題を引き起こすと問題視していた。

6月14日、アデエモ米財務副長官は記者会見で、「ロシアは原油輸出が減少する一方で石油収入は増加している可能性が高い。米国や同盟国は価格の上限設定などを通じてロシアの石油収入を減らす必要がある。米政府はロシア産原油に支払われる価格に上限を設ける方法について欧州とアジアの同盟国と協議している」と述べ、20日にはイエレン米財務長官も同盟国とロシア産原油価格を抑制する方法を巡って協議が続いていると明らかにした。「欧州や米国、英国などが最近提案したエネルギー規制を増進・強化するような価格上限又は例外価格について協議している」と述べており、欧州の保険契約禁止の例外になるもの(つまり、価格上限以下でのロシア産石油取引価格)と語っている。

6月28日にはドイツ・エルマウでG7首脳会合が開催され、共同声明ではロシアのウクライナ侵攻をめぐり「プーチン政権に厳しい経済的損失を課し続ける」と宣言。ロシア産石油の取引価格に上限を設定する新たな制裁を検討する方針が遂に公式に示された。2023年のG7サミットを広島で控える岸田首相も記者会見では石油価格の上限設定について「ロシアの石油販売収入を減らす取り組み。日本の国益を守りつつ、各国と緊密に連携していく」と表明している。

<参考> 2022年6月28日ドイツ(エルマウ)・G7首脳声明の骨子(エネルギー関連抜粋)

  • 石炭及び石油禁輸を含め、ロシア産エネルギー依存度を段階的に廃止することに妥協しない。
  • 生産国がエネルギー市場の緊張を緩和するために生産を増やすことを奨励。国際市場の逼迫に対するOPECの最近の対応を歓迎。
  • 石油価格上限(1):必要に応じて、一時的な輸入価格の上限を導入する可能性を含め、エネルギー価格の上昇を抑制する方法を国際的なパートナーと検討するというEUの決定を歓迎。
  • 石油価格上限(2):合意された石油価格以下での購入のみ、ロシア産石油(oil)の海上輸送を可能にするべく、ありとあらゆるサービスを包括的に禁止するオプションを含む、様々なアプローチを国際パートナーと検討する。最も脆弱で影響を受ける国がロシアを含むエネルギー市場へのアクセスを維持できるようにするための緩和メカニズムも検討する。
  • LNG投資:ロシア産エネルギーへの依存の段階的廃止を加速する目的で、LNGの供給増加が果たす重要な役割を強調し、現在の危機に対応してこのセクターへの投資が必要であることを確認。
  • 中国に対し、ロシアによるウクライナ侵攻に対し、2022年3月16日の国際司法裁判所の法的拘束力のある命令を直ちに遵守し、国連総会の関連決議を遵守するよう、ロシアに圧力をかけるよう要請。

この時点では実装ではなく、まずは検討するというレベルであった点が注目される。その理由は、価格上限設定には実装において多くの課題に直面することが分かっていたためだろう。まず、価格上限設定にはロシア産石油の輸入量を増やしているインドと中国を含め、全ての国が従わなければ有効ではない。このような共同アプローチを調整することの難しさは、ドイツをはじめとする慎重派が前向きではないことにも現れている。もし全員が従わない場合、ロシア産石油貿易が世界の石油市場において闇市場を発展させる可能性も指摘されていた。

IEAのビロル事務局長は、7月時点ではロシア産原油に対する価格上限設定について、石油製品も含めるべきだと発言している。「この提案は世界経済への影響を最小限に抑えるために重要で、複数の国が賛同することを希望する。提案を進める場合は対象を原油に絞るべきでない。各国にとって精製品も重要で今後数カ月でより大きな課題となると予想される」と指摘している。

9月2日、G7はベルリンで財務相会合を開催し、ロシア産石油に対する価格上限設定を制度化し、実装することで合意したと発表した。しかし、より詳細については、依然解決する問題があり、価格上限が設定されるレベル、免除される製品、それを実装する各国の上限の正確な仕組みについては今後議論を重ねることとされた。米財務省高官は、方策として、ウラルブレンドに1つ、製品に2つ(重質・軽質と推察される)、合計3つの価格上限が必要であると述べている。また、価格上限は定期的に見直され、都度公表される。価格レインジはまだ確定していないが、計画を支持している国々は価格上限をウラルブレンドの生産コストより高く、自由市場価格より低く設定することを望んでいるとされた。

<参考> 2022年9月2日ベルリン・G7財務相声明の骨子(プライスキャップ関連抜粋)

  1. エルマウでのサミット(6月28日)において、ロシアが侵略戦争から利益を得ることを防ぎ、世界のエネルギー市場安定を支援し、特に低・中所得国におけるマイナスの経済波及を最小限に抑えるというG7首脳による共通のコミットメントを再確認した。このコミットメントを実現するため、本日、我々は、ロシア産原油(crude oil)と石油製品(petroleum products)の海上輸送を世界的に可能にするサービスの包括的な禁止を最終決定し、実施するという共同の政治的意思を確認する。石油(oil)と石油製品(petroleum products)が、石油価格上限設定を遵守・実装する国々の幅広い連合によって決定された価格(プライスキャップ)を下回って購入される場合(その価格も含む)にのみ、そのようなサービスの提供が認められる
  2. プライスキャップは、サービス提供者がプライスキャップ以下の価格で販売されるロシア産の海上輸送原油及び石油製品についてのみビジネスを継続することを認めることによって、特に低・中所得国に対する世界のエネルギー価格へのロシアの戦争の影響を制限しながら、ロシアの歳入と侵略戦争に資金を提供するロシアの能力を削ぐように特別に設計されている。従って、この措置は既存の制裁、特にEU第6次制裁パッケージを基盤とし、その影響範囲を拡大し、強力なグローバルな枠組みを通じて一貫性を確保するである。我々は一時的な輸入価格上限の導入の実現可能性を含め、エネルギー価格の上昇を抑制する方法について国際パートナーと共に検討するという欧州連合の決定を歓迎する。
  3. 多様な国や主要な利害関係者との広範かつ継続的な関与に則って、我々は全ての国にプライスキャップ設計について通知し、この重要な措置を実施するよう要請する。我々は、効果を最大化するための広範な連合を形成し、ロシア産石油(oil)及び石油製品(products)を輸入しようとしている全ての国に対し、上限を下回る価格でのみ輸入することを約束するよう促す。我々は、我々の国内市場からロシア産石油及び石油製品を段階的に廃止する措置を再確認し、プライスキャップ措置が世界の石油価格への圧力を緩和し、価格上限以下でのロシア産石油の輸入を続ける国が継続的にアクセスできることにより、世界の石油輸入国を支援することを目的としていることを強調する。この措置は、ロシアの侵略戦争によって悪化したエネルギ ーと食料価格の高騰に苦しんでいる国、特に脆弱な低中所得国にとって特に有益である可能性がある。
  4. 我々は、それぞれの国内及び法的手続きを通じて、また我々のパートナーと共に、我々自身の管轄区域におけるこの措置の最終決定及び実施に緊急に取り組むことを約束する。EUに関してはEU加盟27カ国の全会一致が必要であることを認識している。我々はEUの第6次制裁パッケージにおける関連措置のタイムライン(原則12月5日に石油禁輸を実現)に合わせて実装することを目指している
  5. 初期の価格上限(initial price cap)は技術的インプットの範囲に基づいたレベルで設定され、各国での実装に先立って、全ての国のよる連合によって決定される。価格上限は明確かつ透明性のある方法で公開される。プライスキャップの有効性と影響を注意深く監視し、必要に応じて価格水準を見直す。
  6. プライスキャップの実装は、関連する全ての契約をカバーする記録管理と、証明モデルに基づくものになると考える。我々は法域全体で一貫した実施を確保することを目指している。実施にあたっては、プライスキャップ制度を回避する可能性を制限すると同時に、市場参加者の管理負担を最小限に抑えることを目指す。最終的な設計と実装を視野に入れ、我々は多様な国や利害関係者のグループと引き続き協議し、明確さとコンプライアンスを強化し、想定された価格上限以下で取引が継続できるようにする。我々は国家連合がコンプライアンスを確保し、監視と監督を可能にするために、管轄区域を超えた協力フレームワークを確立することを想定している。運用開始後、国家連合は価格上限の有効性を確保するために更なる行動を検討する可能性があり、プライスキャップ措置は必要に応じて見直され、再検討される。
  7. エルマウでのG7首脳コミットメントに則って、我々は産油国に対し、エネルギー市場のボラティリティを低下させるために増産することを引き続き奨励しており、逼迫した供給状況の中で増産するというOPECの最近の決定を歓迎する(注:8月3日の決定を指す。9月5日のOPECプラス会合では減産を決定)。我々はこの点で行動を継続するよう呼び掛けていく。我々はエネルギー市場の効率性、安定性及び透明性を強化することにコミットしているパートナーとの調整を強化する。

その直後の9月9日、米財務省はロシア産石油に価格上限を設定する計画のガイドラインを発表した。Q&A形式で、民間企業が価格制限を順守するのに必要な文書作成の説明に重点が置かれており、ロシア産石油の取引に携わる企業(同貿易を支える保険会社や金融機関等)に対し、上限設定価格以下でロシア産石油が売却されるという証明を求めることで、同措置の執行を担わせる内容となっている。措置の導入は6月3日にEUが発動した第6次制裁パッケージのタイミングに合わせ、原油が2022年12月5日、石油製品が2023年2月5日までと規定した。

<参考> 米国財務省OFACによるプレリミナリー・ガイダンス
「ロシア産石油(oil)に対する海事サービス政策の実施と関連する価格例外」
(2022年9月9日)

  • 米国は、G7及びEU等とのアライアンス(coalition)の一員として、ロシア産原油及び石油製品(crude oil and petroleum products)の海上輸送(=ロシア産石油の海上輸送)に関連する幅広いサービスに関する政策(「海事サービス政策/maritime services policy」)を実施する。
  • この禁輸政策(ban)は原油海上輸送に関しては2022年12月5日、石油製品海上輸送に関しては2023年2月5日に発効する。
  • 但し、重要な例外がある。アライアンスによって設定された価格上限以下でロシア産石油を購入する法域又は関係者(「価格例外」/price exception」)は明示的に海事サービスを享受できる
  • この政策の目的は3つ:(1)世界市場へのロシア産石油海上輸送の信頼できる供給を維持する。(2)エネルギー価格の上昇圧力を軽減する。(3)ロシアがウクライナで選択した戦争によって生じた世界のエネルギー価格高騰からロシアが得ている石油収入を減らす。
  • 許可事例を具体的に提示

図 許可事例の具体例

参考 EUによる第8次制裁パッケージの発動(2022年10月6日)
<参考>EUによる第8次制裁パッケージの発動(2022年10月6日)
(出所:JOGMEC作成)

このようなG7及び米国の動きを受けて、10月6日、第三国へのロシア産石油の海上輸出に対する価格上限設定を含む第8次制裁パッケージを発動した。但し、加盟国との合意にはギリシャ、キプロス、マルタ等大規模な海運業を抱える国への制裁の影響を和らげる措置も盛り込まれた。また、特筆すべき点として、この措置の例外としてサハリン2プロジェクトから生産されるコンデンセートについて、日本向けの分については、2023年6月5日までは対象とならないことが明記されたことが挙げられる。

措置導入に過渡期に予想される混乱を避けるべく、免除(ウィンドフォール)期間についても、米国財務省は10月31日、明らかにした。内容は12月5日までに積み出され、1月19日までに目的地で荷降ろしされた船は対象外になった。この段階では、オブライエン制裁調整官は、価格の上限設定やガバナンスに関する技術的な協議が関係国と続いているとした上で、「重要な日程は12月5日。価格上限は既に十分に長く議論されてきているため、市場参加者は理解し、導入に向けた最善の方策について意見を出している。12月5日までに確実に準備は整うだろう。保険・輸送会社などが示している懸念にも対処できる見通し」と述べている。

11月14日、英国財務省がガイダンス「英国海事サービス 禁止事項及び石油価格上限設定ガイダンス」を発表した。ロシア産石油の輸出に対する価格上限設定措置の実施とそれらの輸出品の配送サービスの提供に関する禁止事項を説明するもので、34ページからなる文書では、ロシア産石油に支払った価格を正直に報告する責任は石油トレーダーと精製業者にあると述べている。規則に違反すると、最大100万ポンド(120万ドル)又は問題の取引額の50%の罰金が科せられる可能性についても明記されている。英国は国際海事保険における市場シェアが大きく、英国財務省も同文書の中で、世界の海運業界に約60%のサービス(protection and indemnity coverage)を提供していると述べている。英国のガイダンスでは、銀行、保険会社、海運会社は、ロシア産石油が取得された価格を確認するよう努めなければならないが、提供された誤った情報に基づいて行動したことが判明した場合、責任を問われることはないとされている。法律の遵守は、英国財務省の金融制裁実施局(UK Treasury's Office of Financial Sanctions Implementation)によって監督される。図2にガイダンスによって規定、関係する企業の求められる内容を示す。従うために必要となる時間と労力、違反のコストを考えると一部の企業はロシア産石油取引への関与を避けるようになる可能性がある内容とも言えるだろう。

参考 英国財務省による「英国海事サービス 禁止事項及び石油価格上限設定ガイダンス」(2022年11月14日) その1

参考 英国財務省による「英国海事サービス 禁止事項及び石油価格上限設定ガイダンス」(2022年11月14日) その2
<参考>英国財務省による「英国海事サービス 禁止事項及び石油価格上限設定ガイダンス」(2022年11月14日)
(出所:JOGMEC作成)
図2 石油価格上限設定システム・スキーム(米英ガイドラインベース)
(図2)石油価格上限設定システム・スキーム(米英ガイドラインベース)
(出所:JOGMEC作成)

11月22日、米財務省は9月のプレリミナリー・ガイドラインに続く、詳細なガイダンス「大統領令第14071号第1章(a)(ii)に基づく決定:ロシア連邦を起源とする原油(Crude Oil)の海上輸送に関連したサービスの禁止」、「ロシア連邦を起源とする原油(Crude Oil)に対する価格上限(Price Cap)ポリシーの実施に関するOFACガイダンス」及び同措置からは例外となる一般ライセンス2つ(「サハリン2に関連するサービス提供の許可」及び「緊急時の船舶に関連したサービス提供の許可」)を発表した。ここでもEUでの例外措置に続き、日本企業が参画するサハリン2から調達する原油には、EUの例外期間をさらに4カ月弱延長させた2023年9月30日午前0時1分(米東部時間)までの期限付きで、価格上限を設けずに例外扱いとする方針が記された。

参考 財務省OFACによる石油価格上限設定(プライスキャップ)に関するガイダンス(2022年11月22日)
<参考>財務省OFACによる石油価格上限設定(プライスキャップ)に関するガイダンス(2022年11月22日)
(出所:JOGMEC作成)

12月5日の措置発動期日が迫る中、市場の混乱を避けるべく、出されてきたガイダンスだが、直前となって暗礁に乗り上げることとなった。EUにおいて、加盟国の一部が設定される原油価格レベルが寛大すぎるとして、反対に回った結果、実装まで1週間を切った段階で議論が凍結される事態が発生したのだった。具体的にはポーランドとバルト諸国がロシアに対して設定される価格が高過ぎると反対した。当初は11月25日には欧州加盟国で合意が成立すると予想されていたが、ポーランドとバルト諸国は設定価格が1バレル当たり65ドルに制限するという提案を認めず、さらにポーランドは追加制裁、審査メカニズム、市場水準を下回る価格を要求として出したと見られている。1週間を切った段階での外交筋の情報では「依然合意には至っていない。法的文書は合意されたが、価格について合意していない」と述べている。海運業界を保護するために高い価格帯を好むギリシャ、キプロス、マルタと、遥かに低い価格帯を好むポーランド及びバルト三国間の隔たりは大きい。最初に提示された1バレルあたり65~70ドルよりも低い価格帯を引き続き求めている。ポーランドの当局者はゼレンスキー大統領が提案した30ドルから40ドルの範囲に近づけたいと考えている。一部の報道では、最終価格は60ドルから63ドルの間になる可能性が高いと示唆されている。ポーランド政府は12月5日までに価格上限で合意できなくとも、同日からロシア産原油、来年2月5日からロシア産石油製品の輸入を全面禁止するという今年5月に合意した措置を実行することになると述べた。11月30日、EUは価格上限について、62ドル台に設定することを提案した。

最終的には、12月2日、価格上限を60ドルに設定すると共に、次の条件を付記する形で、ポーランドやバルト三国等強硬派が納得しEU加盟国全てが同意する形で、12月5日の価格上限設定が法制化され、実装されることになった。EUでの合意を受けて、G7も同様に60ドルを価格上限として設定する措置を相次いで発表した。

  1. 価格上限は最大価格を1バレル当たり60ドルに設定する。市場の動向に対応するために将来的に調整される。
  2. 価格上限見直しでは、ロシアの石油収入を削減するという目的と価格上限はロシア産石油(Russian oil and petroleum products)の平均市場価格を少なくとも5%下回るべきであるという原則を考慮する必要がある。平均市場価格は国際エネルギー機関(IEA)と協力して計算する必要がある。
  3. 市場の動向をタイムリーに評価するためにレビューは2023年1月中旬の時点で実施される。その後2カ月毎に実施する。

 

3. 中国、インド他の動向

価格上限設定措置は、対露制裁の抜け道となっている中国やインドを引き込むことに意味がある。そして、制裁に参加していない中印他諸国は現在ディスカウントされている原油価格を謳歌しながら、理論的には価格上限の設定によって、さらに安い価格を享受できる可能性がある。

この構想が6月に出された直後の7月の時点で既に、中国は米国とロシア産石油価格上限設定について協議していることを認めた。中国商務省は米国財務省のイエレン長官とロシア産石油の価格上限について話し合っていることを確認し、「7月5日、イエレン財務長官とオンライン会議を行い、米国側は石油価格上限を設定するという考えを提示した。関係する全ての者が緊張を緩和するために努力する必要があるため、この問題は非常に複雑である。問題を解決するための前提条件は、全ての関係者が和平を図り、交渉を促進し、エスカレーションではなく、ウクライナ危機の緊張を緩和することに貢献すること」であると述べている。

また、インドとも交渉を行っていることをイエレン米財務長官が明らかにし、協議は「心強い」内容だったと述べている。財務省高官によれば、7月段階でインドは原油価格の上限設定について約束はしていないが、米国と協力しており「構想に敵意を示していない」とのことだった。対して、インド政府はロシア産石油に価格上限を設ける措置の導入に関して、欧米諸国からの圧力はないと述べている。インド財務省高官によると、インドは原油価格の上限設定について何ら約束はしていないが、米国と協力していると言う。他方、インド外務省報道官は、会見で「石油購入やそれに関連する決定は、エネルギー安全保障要件によって為される」と述べ、価格上限設定について、特定の提案は認識していないと説明している。

侵攻直後から欧米制裁に参加はするも、その後大きな反露政策を出していない韓国だが、聯合ニュースは韓国の秋慶鎬財務相の発言を引用し、韓国がロシアの石油の価格上限を課すことに参加する準備ができていると報じている。同財務相はイエレン長官との会談で、世界の石油価格を安定させ、インフレ圧力を緩和するために、価格上限制度を効果的に設計する必要があると述べたとされている。

しかし、9月に入り、米英からガイダンスが出され、具体化するにつれ、石油価格上限設定に懐疑的な見方が噴出し始める。ジャイシャンカル・インド外相はブリンケン米国務長官との記者会見で、インド政府は燃料市場が数ヶ月間深刻な圧力に晒されると考えており、ロシア産石油価格上限設定に懸念を抱いていると述べた。「エネルギー市場が既に大きな圧力に晒されていることを理解することが重要であり、(インドを含む)南半球の国々は、価格と入手可能性の両方の観点から、エネルギー資源の限られた埋蔵量へのアクセスで既に困難に直面している」と述べた。インド現地報道では、10月に入り、政府も企業も石油価格上限設定への参加に熱心ではなく、既にロシアからの原油出荷の大幅な割引を受けているため、ロシアの石油に価格上限を課す世界的なイニシアチブに参加しようという動きにはないと報じられている。「全体として、米国が提案しているイニシアチブはインドにとってポジティブなものだが、ロシアはこの計画に参加している全ての人への供給を停止すると脅迫している。それはインドを追い詰めるものである。その場合、なぜインドが石油価格上限設定に参加するのかという疑問を投げかける。インドは利益上のバランスを取る必要がある」と政府関係者が述べたとされている。

また、欧州連合の中でもロシア産石油への依存度の高いハンガリー、海運が経済の屋台骨となっているキプロス、ギリシャ、マルタが海上輸送の石油価格上限設定に反対していることも明らかになった。

日本は、11月25日、西村経済産業大臣が「サハリン1から生産される原油価格に上限を設定する。価格上限は、サハリン1で生産されたものを含む全てのロシア産石油に適用されるが、唯一の例外はサハリン 2生産原油である。サハリン2は、原油は他のエネルギー資源(天然ガス)と合わせ、安定した輸出の実行が不可欠。日本はこの立場を他のG7諸国に提示する予定」であることを明らかにしている。原油生産量ではサハリン1の方がサハリン2よりも遥かに大きく、価格上限設定の影響を受けるという意味では、そのインパクトも大きい。しかし、日本政府は既にG7として石油禁輸を打ち出し、その量も他ソースから代替可能な規模であること、そして、最も重要な点として、随伴するコンデンセートの生産が滞ると、これから冬場の需要期にLNGの生産にも支障が出る可能性があるということから、サハリン2を特出しして、欧米諸国の理解を求めたということだろう(既にEUは10月6日の第8次制裁パッケージで、米国は11月22日のガイダンスの中で、サハリン2を時限的に例外とすることを公表している)。

11月29日、ロシア運輸省のポシヴァイ次官は、中国がロシアの保険会社が船主に対して発行した保険及び再保険の証券を今のところ認めていないことを明らかにした。欧米による石油禁輸措置の発動を受けて、主要保険企業(Zurich Insurance Group、Swiss Re、Allianz、Munich Re、Willis Towers Watso等)に保険提供を拒否されたロシア船籍の船舶については、ロシア国内の保険会社が保険を提供し、ロシア国立再保険会社(RNRC)が再保険を引き受けることで対応しようとしている。同次官は「トルコは海上輸送に対するロシア企業による保険を認めており、インドも全てではないが大部分を認めていることも明らかにした。

 

4. 価格レベルを巡る議論

どのような価格帯・価格を設定するのかは、この新たな措置の要であり、最も難しい問題であることは明らかだった。この措置はロシアに対する収入を削ぐことという目標を持ちながら、国際市場に混乱を生じさせないように、ロシアには原油生産・輸出を継続させなければならないというある意味相反する目的を両立させる必要がある。OPECを中心とする供給余力を有する産油国が、11月以降の国際市場の下落傾向によって、増産よりも維持・減産に傾く中では尚更、ロシア産原油の継続的な市場供給は重要となる。

既に制裁プレミアムが乗り、国際原油価格に対して大幅なディスカウントとなっているロシア産原油について、余りにも低い価格設定であれば、ロシアは原油供給を止めるかもしれない。そうでなくとも「我慢比べ」に入ることになり、国際市場の混乱は避けられない。実際、ロシアは価格上限設定を受け入れる国には供給を止めることを仄めかしている。また、高過ぎる価格設定であれば、前述のポーランドやバルト諸国の要求の通り、この措置自体が意味を為さないものとなってしまう。この構想が出てきた5月以降、既に議論は始まり、鍵となるものはロシアの生産コストであり、さらに国際市場におけるロシア産原油の実勢価格(ディスカウント後の価格)となると考えられてきた。図3の通り、ロシアの所謂生産コストは様々な油田の平均を取れば、バレル当たり40ドル程度と考えられてきた。これが下限値のスタートポイントとなる。なお、これとは別に、ロシア政府が3カ年予算を策定する際の原油価格・政府予算均衡点が存在するが、この数値は恣意的に歳入・歳出見通しの影響も受け、変わるものであり、今回の国際市場に影響を受ける価格上限設定とは距離を置くものである。図4の通り、ウクライナ侵攻直後からロシア産原油であるウラルブレンドは欧州市場の国際指標原油であるブレント原油との価格スプレッドが拡大し、最大では41ドル、平均で23~27ドルで推移している。つまり、生産コスト割れする分岐価格は、40ドル+ディスカウント分27ドルであり、67ドルということになる。一方、変動する国際市場価格の観点から見れば、67ドルという設定値は国際市場が94ドル(67ドル+27ドル)前後で推移する場合には現状を追認することにしかならない。市場価格がそれより下落すれば、ディスカウントによっていずれにせよロシア産石油は設定価格である67ドルを下回り、94ドルより上昇すれば、制裁を行っていない国はさらに安価な原油を獲得できる価格上限設定に魅力を感じることになる。

ここでの問題・落とし穴はディスカウント幅も国際価格も変動していくものであり、そのコントロールはできないということにある。現在価格上限はある一定期間(四半期等)で見直すことが前提になっているのも、そのことが背景にある。

図3 産油国別政府予算・収支均衡点の比較
(図3)産油国別政府予算・収支均衡点の比較
(出所:IEA資料をベースにJOGMEC加筆・作成)
図4 ウラル原油とブレント原油の価格推移(2021年9月~)
(図4)ウラル原油とブレント原油の価格推移(2021年9月~)
(出所:JOGMEC作成)

価格上限設定の検討が始まった直後、JPモルガンは、価格上限設定を実装すれば、ロシアが報復措置として原油生産を日量500万バレル削減する「最も極端なシナリオ」において、ブレント価格がバレル当たり380ドルに急騰する可能性があるとの見方を示した。「価格上限を1バレル=50~60ドルに設定すれば、ロシアの石油収入を減らすことができる一方、引き続き石油の流通を確保するというG7の目的も達成できるだろう。最も明白で可能性の高いリスクは、ロシアが協力せず、報復措置として石油の輸出を減らすことである。ロシアは経済的利益を過度に損なわずに最大日量500万バレルまで減産できる。石油市場のストレスの高さを考えると、日量300万バレルの減産でブレント価格が1バレル当たり190ドルに高騰する可能性がある。最悪のシナリオである日量500万バレルの減産では原油価格が380ドルに跳ね上がる可能性がある」と分析した。

6月28日のG7首脳会合では、その議論の中で、石油価格上限設定を1バレル当たり40~60ドルの範囲内とする案が浮上したとされている。そして、9月のG7財務大臣会合において、そのレインジ(40~60ドル)に設定することに合意したとされている。「範囲はロシアの限界生産コストと信じられているものから、2月24日以前の石油価格にまで及ぶ。バイデン政権は40ドルの上限は低過ぎると考えている。目標はモスクワの歳入を削減することだが、対策が不十分であると石油価格の急騰に繋がるリスクがある」と議論に参加した政府高官は述べている。また、措置の導入を計画している国々は、原油価格に個別の制限を設ける可能性が高く、石油製品価格にさらに2種類の制限を設ける可能性が高いと米国当局者は明らかにしている。

その直後、アデエモ米財務副長官はロシア産石油の価格上限が順守される体制を目指すため、ロシアの石油生産コストである1バレル当たり44ドルを参考にすると述べている。また、ロシアの生産価格を下回る水準に設定するつもりはないとし、ロシアに生産を促す水準で、なおかつロシアが利益を得られない水準に設定すると語っている。また、米国財務省のエリザベス・ローゼンバーグテロ資金供与金融犯罪担当次官補は、価格上限はロシアの限界生産コストよりも高くなるだろうと述べた。

10月に入り、ハリス米財務次官補(経済政策担当)は、石油と石油製品に価格上限を導入し、3段階((1)ロシア産原油、(2)軽油、(3)ナフサ等その他石油製品)に焦点を当てるとの説明を行った。ロシア産石油の価格上限はまだ決定していないが、ロシアが生産を維持するインセンティブになり、かつ同国で最も高コストな油田の限界生産コストを上回る水準になる見通しであることを明らかにした。

10月12日、イエレン米財務長官はロシア産石油輸出価格の上限を1バレル当たり60ドル台に設定すれば、同国のエネルギー収入を減らすには十分との見解を示した。この水準であれば、ロシアは利益ある石油生産が可能だと付け加えている。ロシアは石油生産を維持したい考えで、過去5~7年に亘りバレル当たり60ドル台で販売していたと説明。「この範囲内の価格設定は、ロシアが利益を上げながら石油生産と販売が可能だと感じるには十分だろう」と述べた。

その後、G7及びEUでは協議が継続され、11月15日~16日にインドネシアで開催されたG20サミットで価格上限をどのレベルに設定するかを発表することを目指していた。1バレル当たり64~70ドルで設定することを検討していることをEU外交筋が明らかにしている。しかし、ポーランド、リトアニア、エストニアは生産コストでの価格設定を望んでおり、この価格上限は高過ぎると考えている一方、キプロス、ギリシャ、マルタは海運業に及ぼすリスクからこの価格上限では低過ぎると見ており、最終的に発表には至らなかった。

その後、ポーランドは価格上限について1バレル30ドルを提案していることが明らかになる。欧州諸国の殆どが1バレル当たり65~70ドルに設定することを支持しているとポリティコ紙は24日報じた。価格上限を巡る欧州加盟国間協議は長引いており、ポーランドなど一部の国は65ドルではロシアに甘過ぎると主張。一方で、世界有数のタンカー保有国であるギリシャ等海運業で栄える地中海諸国が70ドルを下回る価格では合意したくない考えを示していることがその根底にある。また、ゼレンスキー大統領は26日、価格上限をバレル当たり30~40ドルに設定するべきだとの考えを示した。「現在検討されている60ドル前後の価格上限は上辺だけの措置に思える」との見解を示し、「我々は大きな成果をもたらす制裁措置を望んでいる。価格上限を30~40ドルに設定すれば、ロシアは思い知る」と語った。65~70ドルではロシア産原油は足元の市場では既にこの水準以下で取引されているため、ポーランドやバルト諸国がロシアの収入減少に繋がらないという主張に繋がっている。また、ロシアの生産コストに関して、1バレル当たり40ドルではなく、約20ドルとの推定値が出てきた結果、ポーランドを中心に価格上限を30ドルに設定するよう求める動きに繋がってきた。他方、マルタ、キプロス、ギリシャは自国の海運産業への打撃を懸念し、G7の提案では逆に低過ぎるとしていたが、法的文書で一定の譲歩を得たことから、29日時点で妥結したとされている。

11月29日、ブルームバーグはEUが価格上限について、62ドルで議論していることを報じている。他方、ロイターは交渉が再び失敗したとも報じた。しかし、30日には再度協議が開始され、一部の報道では最終価格は60ドルから63ドルの間になる可能性が高いとされた。リトアニア及びエストニアの当局者は価格上限設定の必要性に同意すると共に、価格レベルとその見直し、調整メカニズムについては更なる交渉が必要だと考えていると語った。

米政府当局者はEUで議論されている価格上限設定を巡り、一部で取引されているかなり低い価格を参照することには注意が必要だと警告を発した。ウラル原油取引で足元では1バレル当たり約52ドルという価格が出ているが、それは市場における広範な価格設定を示すものではないと指摘。過去2カ月間でブレント先物価格に対するウラル原油のディスカウントは23ドル~17ドルまで縮小したという外部の情報を引用し、30日のブレント先物価格が1バレル当たり85ドルで取引されたことからこのディスカウント幅はウラル原油の価格が62ドル~68ドル程度であることを示している。つまり、提案されている上限レインジに近い。また、ロシア産原油のほんの一部の販売価格を使用することに懸念を表明し、52ドル前後という提示価格には輸送費等のコストが含まれていないことも指摘した。2022年3月以降の推定平均価格が1バレル当たり78ドルであることから、ロシア産原油に65ドルの価格上限が設定されれば、現下の価格から意義ある引き下げとなると述べている。

(表2)石油価格上限設定に関する議論
6月28日 40~60ドル G7首脳会合での議論
9月7日 生産コスト44ドルを参考 アデエモ米財務副長官
10月12日 60ドル台 イエレン米財務長官
11月15日~16日 64~70ドル G20サミット(EU外交筋)
11月下旬 欧州諸国一般:65~70ドル
ポーランド・バルト諸国:30ドル
地中海諸国:70ドル
EU内での議論
11月29日 欧州諸国一般:62ドル
11月30日 欧州諸国一般:60~63ドル
12月1日(最終合意) 60ドル
+市場価格を5%下回る水準に維持する条件
+調整メカニズム
(1月中旬、2カ月毎の価格見直し)

(出所:JOGMEC作成)

 

12月1日、外交筋の情報として、EU各国政府が価格上限を60ドルに設定すると共に、市場価格を5%下回る水準に維持する条件を設ける方針で合意したことが明らかになった。価格上限をできるだけ低い水準に設定するよう求めていたポーランドについて、この合意案を支持するかどうかについては依然不明。これまで、調整メカニズムについてはリトアニア及びエストニアがその必要性を主張してきた。価格上限はまず1月中旬、それ以降は2カ月毎に見直されることが盛り込まれているとされた。G7政府関係者もEUが協議している方向性で合意に近いことを確認していた。

12月2日、EUは価格上限を1バレル60ドルとすることで遂に合意に至る。内容については、設定価格に加え、条件が加えられ、まず2023年1月中旬に見直し、2カ月毎に市場の動向をタイムリーに評価・点検することになった。また、価格上限を見直すに当たっては、平均市場価格よりも少なくとも5%低くすることになった。

<参考> 欧州委員会による石油価格上限設定に関する発表・Q&A・官報
(2022年12月3日付)における特記事項

<プレスリリース>

  • 価格上限は最大価格が1バレル当たり60ドルに設定。市場の動向に対応するために将来調整される。
  • ロシアの海上輸送原油と石油製品(Russian seaborne crude oil and petroleum products)に対するEUの禁輸措置は引き続き実施されているが、価格上限設定により、欧州の事業者はロシア産石油(Russian oil)を第三国に輸送することが可能となる。
  • 価格上限は、原油(crude)については2022年12月5日以降、石油製品(refined petroleum products)については2023年2月5日以降に発効する。(注)精製製品(refined products)の価格はまもなく決定される
  • 12月5日より前に船に積み込まれ、2023年1月19日より前に荷降ろしされた(45日間)、購入された石油(oil)には適用されない。

<Q&A>

Q:価格上限はどのように設定されるのか?

A:欧州理事会によって法制化され(全会一致によって承認)、国際「価格上限連合」によって合意される。変更には理事会決定と委員会実施法制等同じ手続きが必要となる。

Q:価格上限は永続的に固定されるのか?

A:いいえ、価格上限は現在は固定されているが、今後調整されていく。レビューでは措置の有効性、その実施、国際的な遵守と連携、連合メンバーとパートナーへの潜在的な影響、市場の発展等様々な要因を考慮に入れる必要がある。

Q:どのような例外があるのか?

A:既に規定された特例に影響を与えない。特定の加盟国は特定の状況に応じてロシアからの原油及び石油製品の輸入を継続できる。また、ロシアからのパイプラインによる原油供給が制御できない理由で中断された場合にはロシアから海上原油を輸入したりすることができる。特定の第三国のエネルギー安全保障に不可欠な特定のプロジェクトは価格上限から免除される例もある。

Q:船舶が価格上限措置を軽視するとどうなるか?

A:EU籍船等のEU船が価格上限に違反した場合、各加盟国の国内法に基づく処罰の対象となる。

<官報>

  • 価格上限見直しでは、ロシアの石油収入を削減するという目的と価格上限はロシア産石油(Russian oil and petroleum products)の平均市場価格を少なくとも5%下回るべきであるという原則を考慮する必要がある。平均市場価格は国際エネルギー機関(IEA)と協力して計算する必要がある。市場の動向をタイムリーに評価するためにレビューは2023年1月中旬の時点で実施される。その後2カ月毎に実施する(COUNCIL REGULATION (EU) 2022/2367(10))。

EUでの合意を受け、「価格上限連合(Price Cap Coalition)」に現時点で参加するG7及び豪州の内、米国、英国、カナダ、そして日本も価格上限を60ドルとする内容を柱とする発表を相次いで行った。

参考 米国による石油価格上限設定に関する発表(12月2日付)における特記事項
<参考>米国による石油価格上限設定に関する発表(12月2日付)における特記事項
(出所:JOGMEC作成)
参考 英国による石油価格上限設定に関する発表(12月2日付)における特記事項
<参考>英国による石油価格上限設定に関する発表(12月2日付)における特記事項
(出所:JOGMEC作成)
参考 カナダによる石油価格上限設定に関する発表(12月2日付)における特記事項
<参考>カナダによる石油価格上限設定に関する発表(12月2日付)における特記事項
(出所:JOGMEC作成)

これらの発表の中で注目されるのは、日本政府が外務省・財務省・経済産業省・金融庁・国土交通省連名で発表した「ロシア産原油等に係る上限価格措置(プライス・キャップ制度)のQ&A」である。この中では他国ではまだ明らかになっていなかった(又は解釈の余地があった)2つの点についての考え方が明らかにされている。1つ目は、価格上限である60ドルはFOB(本船渡し)ベースなのかCIF(運賃保険料込み)ベースなのかという点である。この点は「ロシア産原油等の上限価格には、当該原油等の輸送費や保険料等の中間費用は含まれない。当該原油等の購入契約についてCIF条件やCFR(注:運賃込み)条件で締結する場合には、インボイス等において上記中間費用を控除した金額を別途算出することが必要」とされており、ベースはFOBベースとされている。また、2つ目の点はドル以外の通貨が決済通貨となっている場合については、「米ドル以外の通貨で取引を行う場合の価格の換算の方法については、米国Federal Reserve H.10の換算レートを使用し、取引価格が決定した日(通常は契約日)に先立つ30日間の平均を用いること」と明確にされた。

参考 日本による石油価格上限設定に関する発表(12月5日付)における特記事項 その1

参考 日本による石油価格上限設定に関する発表(12月5日付)における特記事項 その2
<参考>日本による石油価格上限設定に関する発表(12月5日付)における特記事項
(出所:JOGMEC作成)

G7、EU及び豪州によって遂に価格上限設定が発動することに対し、ロシア大統領府・ペスコフ報道官は「我々はこの価格上限を受け入れない。世界第2位の原油輸出国として今回の動きを分析している」と述べた。ノヴァク副首相は価格上限を設定する国には原油を輸出しない方針を改めて示した。減産も辞さない姿勢を表明した。市場の原理や自由貿易の規範に反する介入であると批判した。また、価格上限設定を禁止する手段をロシア政府内で検討していることも明らかにしたが、詳しい内容には触れなかった。「EUの石油禁輸は12月のロシアの石油生産に影響を与えない。12月の契約は既に締結されている。1月に関しては、契約が進行中。多くの不確実性があるが、ロシア産石油は世界市場に需要がある。ポーランドも2023年に300万トンのロシア石油の供給を受け入れる予定」とも述べていた。また、「ロシアは、EUによって課せられた石油価格上限設定を実行する多くの国に対し石油生産をわずかに削減する用意さえある。この措置は非市場的・非効率的であり、市場手段を著しく妨害し、全ての規則、例えばWTOとも矛盾していると考えている。どのようなレベルのプライスキャップであろうとその適用を禁止するメカニズムを検討している。たとえ生産量を多少削減しなければならないとしても、市場条件で協力してくれる国に石油と石油製品を販売する」と語った。

ウクライナ政府は価格上限設定の発動を歓迎する一方で、ゼレンスキー大統領は、60ドルという価格設定はロシア経済に打撃を与えるには不十分であり、「真剣さ」が見られないと不満を表明した。「ロシアは意図的にエネルギー市場を不安定化させ、既に世界中の国々に多大な損失を与えている」と述べ、合意された価格上限を「弱腰」と評し、「より強力な対応を迫られるのは時間の問題だ」と述べている。

 

5. ロシア政府の対応

ロシアは、まずEUが盛り込んだ第6次制裁パッケージにおける「第三国への海上石油輸送の保険に関する禁止措置」について、国家保証を活用することで回避できると表明した。メドヴェージェフ国家安全保障会議副議長は「この問題は解決できる。第三国との国家間協定の枠組みの中で政府保証を活用することで、供給を確保することができる。欧州もそのことを認識している」と述べた。

また、同制裁パッケージよりさらに前の、ウクライナ侵攻直後の3月、ロシア政府はロシア国立再保険会社(RNRC)がSovcomflot等ロシア商船会社の主要な再保険会社となることを想定していた。ロシア中銀は3月にRNRCの資本金を710億ルーブルから3,000億ルーブル(約6,000億円)に引き上げ、保証資本も7500億ルーブル(約1.5兆円)に引き上げている。これにより再保険を提供するのに十分な資金を既に確保していたのである。

さらに、実現性には不確実性が残るが、ロシア政府は7月、国営プラットフォームで石油取引を10月に開始し、独自のベンチマーク(指標銘柄)を来年スタートさせる計画を発表している(現時点でも実現には至っていない)。2023年3月から7月にかけてベンチマークの導入・確立を目指し、十分な売買高確保のため外国パートナーに購入を働き掛けているという。

供給途絶を引き起こすことも価格高騰を誘引し、ロシアの供給者の重要性を欧米諸国に理解させる上で実効性のある手段である。9月1日、ノヴァク副首相は、「我々は非市場的条件では取引しないため、制約を設ける企業や国に対して石油及び石油製品を供給しない」と述べた。OPECプラス、インド、中国の内、ロシア産石油の取引価格に制限を設けるという案を支持している国は一カ国もないと指摘し、「他の産油国からも、この不毛な議論に対する肯定的な反応は全く聞かれない」と発言した。さらに、ロシア企業はEUの石油禁輸措置に対応する準備ができており、従来と同水準の生産量を維持することができると述べ、2022年のロシアの石油生産量が2021年と並ぶ5億2,000万~5億2,500万トンとなる可能性がある(2021年は5億2,400万トン)と述べた。

ペスコフ報道官も同様に、ロシア産エネルギーに価格上限を設定する国には石油を売却しないと明言している。「価格上限を設定する企業はロシア産石油を受け取ることはできない。そうした企業と非市場的な原理で協力することはない」と述べた。欧米の動きに対して、代償を払うのは欧州市民だと指摘し、「エネルギー市場は最高潮に達している。特に欧州ではそうだ。反ロシア政策により、欧州は米国産LNGを高値で、正当化できない価格で買っている。米国企業は豊かになり、欧州の納税者は貧しくなる。ロシア産石油に対する価格上限の設定が経済にどのような影響を及ぼす可能性があるかを調査している。ひとつ自信を持って言えるのは、そうした措置で石油市場が著しく不安定化するということだ」と述べている。

シュルギノフ・エネルギー相はロシア産石油価格に上限を設ける措置に対しアジアへの輸出拡大で対応する考えを示した。「価格上限を設ける措置は、(実施国の)自国市場における供給不足に繋がり、価格変動を高める」と警鐘を鳴らした。

10月、ノヴァク副首相は再度、ロシア産の石油に価格上限を導入する予定の国への石油供給を停止すると述べている。「このような手段を導入して価格制限の恩恵を受ける消費者に供給を行うことは望ましくない。市場ベースの価格メカニズムを提供する国にのみ供給を継続する(6日)」、「ロシアは価格上限60ドルでは石油を輸出しない(14日)」、11月にも「ロシア産石油に価格上限を設定する国には石油及び石油製品の輸出を行わない。また、原油を減産する可能性がある。ロシアは依然として信頼できる石油供給国であり、価格上限が導入されれば、供給量の減少を引き起こす(22日)」と指摘している。

また、ロシア大統領府は、ロシア産石油の価格上限設定に参加する国や企業に対する販売を禁止する大統領令を準備しているということをブルームバーグが関係筋の話として報じている。ロシア大統領府が何をもって価格上限の設定に参加していると見なすのかについては明確にしていないが、ロシア産石油と石油製品を巡る契約に関する価格上限へのいかなる関与も対象になる可能性もある。

ペスコフ報道官は28日、ロシアの立場は価格上限に参加する国に石油ガスを販売しないと改めて記者会見での質問で回答している。「今のところ、プーチン大統領の声明の通り、価格上限を設定する国に原油、石油製品、ガスを販売しない。他方、明らかにいくつかの数値が明らかになりつつあり、分析している」と述べたが、上記9月の発言からは石油だけでなく、欧州で議論の進むガスの価格上限設定にも触れ、天然ガスも価格上限を設定する国には販売しないということを明らかにしている。

12月7日付けのヴェードモスチ紙は、ロシア政府が価格上限措置に対抗するため、3つの選択肢を検討していることを報じている。第一の選択肢は、価格上限設定を支持した全ての国への石油販売禁止であり、ロシアからの直接販売だけでなく、仲介者を通じた間接的な販売も禁止するもの。2つ目の選択肢は、どこが受け取り国であろうと、価格上限の条件を含む契約下での輸出を禁止するもの。そして、3つ目の選択肢は、ロシアの主要輸出油種の指標価格であるウラルブレンドの国際指標に対して、最大割引額を設定して販売を許可するというものである。

ノヴァク副首相は「価格上限措置に対するロシア政府の対応メカニズムが月内に発効する。その前にロシアは原油生産を減らすかもしれないが、規模は大きくないだろう」とも述べている。

 

6. 新たなロシア産石油オフテイカーの出現

制裁プレミアムが乗り、ディスカウントされたロシア産原油の利ざやは大きく、実際、欧米のトレーダーや石油メジャーが制裁リスク回避のためにロシア産石油の購入を縮小するにつれて、新しいオフテイカーが登場していることも報じられている。例えば、Bellatrix Energy、Sunrise、Livna等の新興企業やCoral Energyのような知名度のあるプレーヤーの名前もロシア産石油取引では挙がっている。これらの会社についてはほとんど知られていないのに加え、新しいオフテイカーが定期的に登場している模様で、ロシア産石油を誰が売買しているのか情報が今後さらに得にくくなる可能性がある。ドバイを拠点とするCoral Energyは、数年前からロシア産石油取引を増加させており、主に黒海経由で出荷されるRosneft産の石油を引き取っている。同社はアゼルバイジャンから大量の石油を購入することで2010年に誕生したニッチな商社と言われており、現在アゼルバイジャン人であるタヒル・ガラエフ氏が所有するドバイを拠点とする会社であるVetus Investmentsが100%所有している。4月中旬以来、Bellatrix Energyという企業がバルト海・プリモルスク港と黒海・ノヴォロシースク港からのロシア産原油の少なくとも半分を引き取ってきた。出荷データから仕向け地はインド、トルコ、最近ではアルジェリアのSonatrachが所有するイタリアのオーガスタ港の製油所に輸出していることが判明している。Bellatrix Energyが傭船しているタンカーの一部は、ロシア国営Sovcomflotが所有するもので、同社がロシアの国家機関からある程度の支援を受けていることを示唆している。Bellatrix Energyという会社が香港に登記されているが、電話番号や人員の詳細は不明となっている。Sunriseはこの数カ月でロスネフチ産原油のオフテイカーとして登場してきた。Livnaは2014年から存在している香港を拠点とする企業で、極東コジミノ港から定期的にESPO原油を調達している。5年以上に亘ってESPO原油の定期的なリフターとなっている。

 

7. 「影の船団」を巡る制裁回避:その有効性に対する見通し

10月27日~28日、バクーで開催された第15回ヴェローナ・ユーラシア経済フォーラムにて、国営銀行VTBのアンドレイ・コスチン頭取は、ロシア政府が保有する船団を拡大するべく、1兆ルーブル(160億ドル)を費やす予定であることを発表した。これは「影の船団(Shadow Fleet/Dark Fleet)」をロシア政府がバックアップし、拡大していくことで、ロシア産石油の海上輸送に対する制裁を回避し、石油輸出を維持する試みと考えられる。

資源商社大手Trafuguraのアナリストは「理論的には12月5日以降もロシア産石油の流れを継続させるのに十分な規模の「影の船団」が存在する。こうした船舶の多くは自前の保険に入るか、ロシアの船主責任(P&I)保険に加入することができる見通し」と分析している。JPモルガンは、ロシアが中国やインドから、さらには建造から20年近くと業界基準では古い自国の船をかき集めて、船団を形成するため、価格上限設定措置の影響は軽微だと見込む。

他方、今回の石油禁輸と価格上限設定措置が効果を表すという見方も為されている。タンカー市場は混乱に見舞われ、ロシアは「影の船団」を組織するが、S&Pは2022年10月から2023年2月までの間に日量110万バレルの供給低下が生じ、2023年第一四半期では日量150万バレルのロシア産原油が途絶する他、欧州向けのロシア産石油の日量約250万バレルが新たな市場を必要とするが、新たな買い手を見つけるのに苦労し、混乱する可能性があると分析する。

また、ロシア業界シンクタンクはロシアがヨーロッパから他の市場への石油供給を迅速にリダイレクトする可能性は低く、ロシア船の保険に対する制裁により、ヨーロッパに供給された石油の量を他の市場に迅速に転用することができない可能性が高いと見ている。EUの石油禁輸措置を背景に、12月のロシアの石油生産は、6月から10月までの平均生産レベルと比較して、14%、日量150万から170万バレル減少すると予測し、OPECプラスが11月から減産を決定したことも考慮に入れると、世界の原油価格は大幅に上昇すると予測している。

図5 世界の石油タンカー数に占める「影の船団」の割合
(図5)世界の石油タンカー数に占める「影の船団」の割合
(出所:報道情報からJOGMEC作成)

「影の船団」がロシアの貿易をカバーするために拡大することが見込まれる中、海上リスクが増大することも指摘されている。実際、今年は老朽船のタンカー販売が増加しており、ダークアクティビティ、船舶の動きを追跡する自動識別システム(AIS)に違法操作により、事故の可能性が高まる可能性がある。「影の船団」は適切なP&I保険を欠いていることも懸念されている。ロシアの侵攻以来、111のタンカーが非公開取引で民間企業に販売されており、これらのタンカーの大部分はロシアとの進行中の状況を商機と見なしている会社に売却されている模様。影の船団数は現時点でVLCC・119隻、スエズマックス・130隻、アフラマックス・71隻、LR2・15隻、パナマックス・17隻、LR1・33隻、MR・162隻に上る(全世界のタンカーシェアの6%)とされ、認可された取引が不確実であるため、不法な操業を行う者は寿命が限られている老朽船を好む傾向もある。少なくとも60隻のVLCC、42隻のスエズマックス、93隻のアフラマックスが1月から11月上旬の間に所有者を変更しており、これらの船の平均使用年数は15年を超えている。不法取引を行っている船主は旗国や船舶管理者にアクセスできないため、最小限のメンテナンスしか受けておらず、その結果、事故に巻き込まれた船舶のリスクが高まり、乗組員や海洋環境にかなりの損害を与える可能性もある。また、制裁当局のレーダーから逃れるために、AISをオフにすることにより、衝突・座礁等の事故の可能性が高くなる。ロシア水域での当該活動は増加傾向にあると見られており、「影の船団」は保険にアクセスできず、ロシア政府が政府保証を付けても、莫大な賠償事案に対する保証履行実績がないことから海事事故に関与した当事者が最終的に補償されないリスクもある。

国際エネルギー機関(IEA)は9月、石油禁輸による影響について、世界の原油・石油製品の供給量は日量240万バレル減少するとの見通しを発表した。内訳は原油が日量140万バレル、石油製品が日量100万バレルとなっている。また、ロシアの総原油生産量は2023年2月までに日量950万バレルまで減少すると予測している。これは前年同月比で日量190万バレル減少することになると分析した。また、EUによるロシア産原油・石油製品禁輸及び石油価格上限設定は、既に価格高騰と深刻な経済問題に直面している石油市場に前例のない不確実性をもたらすとも指摘し、EUの禁輸措置が「世界の石油需給、特に既に逼迫しているディーゼル市場に更なる圧力をかけることになる」と警鐘を鳴らしている。

11月の石油月報(IEA-OMR)では、価格上限設定は「緊張緩和の一助となるかもしれないが、多くの不確実性と物流上の課題が残っている」とし、ロシア産石油を避ける動きから来年の同国の産油量は日量140万バレル減少すると予想。また、EUに必要な代替調達規模は原油が日量100万バレル、石油製品が同110万バレルで、特にディーゼルは不足し価格が上昇すると予想している。さらに、ビロルIEA事務局長は、12月5日の石油禁輸措置・石油価格上限設定措置を目前に、ロシアの原油生産について、2023年第一四半期末までに日量約200万バレル減少するとの見通しを示した。「OPECプラスが減産に関して決定を下す際に、世界経済、特に中国経済の需要に加え、世界経済の脆弱な状況を考慮することを期待する」とし、市場の混乱を避けるためには、供給余力のある中東産油国の増産が重要という認識を示している。

図6 IEAによるロシアの石油及び天然ガス輸出量の見通し(2021年見通しとの比較)
(図6)IEAによるロシアの石油及び天然ガス輸出量の見通し(2021年見通しとの比較)
(出所:IEA)

8. 鍵を握るOPECの増産に向けた動き

5.ロシアの対応の通り、石油価格上限設定措置の実施に対して、ロシアはそのような国に対してはロシア産石油を販売しないことを明言してきた。つまり、国際石油市場に一時的・大規模な供給途絶が生じ、原油価格が急騰し混乱するリスクが高まる(それをロシアも高価格享受と対欧米戦略として活用する)。その解決策となるのが、ロシア以外の産油国の供給であり、彼らの供給余力である。図7の通り、主要産油国には現状日量7百万バレル程度の追加供給能力があり、それは現在のロシアの原油輸出量(足元で日量400万バレル程度)を十分にカバーできる規模である。

6月の段階では、サウジアラビアは欧米諸国による制裁でロシアの原油生産が大幅に落ち込んだ場合、増産の用意があると述べていた。史上最高値を記録するガソリン価格に頭を悩ませ、11月には中間選挙を控えるバイデン政権にとっても、中東産油国の増産と国際石油市場の鎮静化は重要だった。バイデン大統領は7月13日~16日の日程で中東歴訪に出発するが、その時の最大の目的のひとつが、サウジアラビアからの増産確約だったと考えられた。しかし、サウジアラビアから確約を得られず「手ぶら」での帰国となった。ムハンマド皇太子とは15日に初めて会談を行ったが、バイデン大統領は会談冒頭で2018年の米在住サウジ人記者カショギ氏の殺害事件を取り上げ「皇太子に責任がある」と指摘したとされている。

直後にはプーチン大統領がムハンマド皇太子と電話会談し、OPECプラス枠組みにおける協力強化の重要性を巡り討議した他、両国の貿易や経済関係の拡大やシリア情勢についても意見交換を行っており、米露首脳がサウジアラビアを取り込もうとしていることが浮き彫りとなった。

バイデン政権はサウジ訪問では増産に対するコミットメントは得られなかったが、8月2日、国務省はサウジ・UAEへの武器売却(サウジアラビアに地対空ミサイルシステム「パトリオット」等(30.5億)/UAEに高高度防衛ミサイル(THAAD)迎撃システム等(22.5億ドル))を承認している。これは当初、増産に対する見返りであり、今後OPECプラス閣僚会合において、更なる増産に対するサウジ、UAEによる働き掛けが期待された。しかし、図8の通り、米国中間選挙、そして石油価格上限設定に向けて、その結果は米国の思惑とは悉く反するものとなった。8月3日にはOPECプラスは増産を決定するも、その規模は史上最低の増産幅である日量10万バレルに留まり、9月5日にはその増産分を相殺する10万バレルの減産が発表された。そして、10月5日には世界経済の不透明感を理由に2022年11月~2023年12月の原油生産目標を10月比で日量200万バレルも削減するという決定に至っている。この発表を受け、米国議会では反OPEC法である「NOPEC法案」が提出され、ブリンケン国務長官は「OPECは目先のことしか考えていない」と批判し、盟主のサウジアラビアへの対抗措置を検討していることを明らかにしている。

図7 主要産油国の原油生産供給余力の推移(単位:日量100万バレル)
(図7)主要産油国の原油生産供給余力の推移(単位:日量100万バレル)
(出所:Rystad Energy資料にJOGMEC加筆)

石油価格上限設定が実行される直前、ハイサム・アルガイスOPEC事務局長は「石油市場のために介入する用意がある。世界の経済情勢を認識し、警戒し、監視している」と語った。

また、11月19日、10月には反サウジで鼻息の荒かった米国は、2018年に殺害されカショギ氏事件について、バイデン政権として、関与が疑われていたムハンマド皇太子は免責されるとの見解を裁判所に示した。これは皇太子が9月に首相に就任したため、国家元首は免責されるとの原則を適用した形だが、このタイミングでの判断は明らかにサウジアラビアに対する配慮と見られた。

21日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはサウジアラビアとOPEC加盟国が原油増産を協議していると報じている。12月4日に開かれるOPECプラス閣僚級会合(オンライン)に向け、日量50万バレルの増産が検討されているという。原油価格は11月に入って1割近く下げており、下落傾向の中での増産となれば異例となる。サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー大臣は「現行の日量200万バレルの減産は2023年末まで続く」と改めて表明した一方で、「需給均衡のため減産の更なる措置が必要な場合、常に準備はできている」と含みを持たせていた。

図8 バイデン大統領中東歴訪からこれまでのOPECプラス・サウジアラビアの動向
(図8)バイデン大統領中東歴訪からこれまでのOPECプラス・サウジアラビアの動向
(出所:JOGMEC作成)

12月4日、市場の増産への期待を受けたOPECプラス閣僚級会合が開催された。しかし、原油価格が下落基調にあり、中国をはじめとする世界経済の不透明感と景気減速による原油需要の鈍化を警戒し、10月に決定した現行の協調減産(2023年12月までに10月比で日量200万バレル減産)を維持することを再確認するという結果となった。他方、声明では「必要があれば市場安定のため直ちに追加措置を執る」ことも強調している。次回会合は半年後の6月4日に開催されることも明らかになった。ロシア産石油に対する禁輸・価格上限設定が発動し、市場のボラティリティが高まる中、OPECの対応が引き続き注目される。

 

以上

(この報告は2022年12月12日時点のものです)

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