ページ番号1009596 更新日 令和5年1月16日
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概要
- 米国では、12月下旬を中心に寒波が南下したため、メキシコ湾岸地域等の製油所の稼働が低下、石油製品製造活動が不活発化したことから、留出油在庫は減少傾向となり平年幅下方付近に位置する量となったが、年末の休暇シーズン以降ガソリン需要が低迷したこともあり、ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上方付近に位置する水準となった。また、寒波到来に伴い製油所の原油精製処理量が低下したこともあり、原油在庫は増加傾向となり平年幅上限を超過する状態を維持している。
- 2022年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、フランスの製油所でのストライキが終了したとされたこともあり、原油精製処理活動回復とともに欧州の在庫は減少した。しかしながら、米国では原油在庫は増加した。日本でも年末の個人の往来活発化による石油需要の拡大に向けた製油所での稼働上昇に備え原油在庫の積み増しが進んだことにより、かえって原油在庫は増加した。このため、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では、冬場の気温の低下に伴い暖房向けのプロパン需要が喚起されるとともに当該製品在庫が減少した他、その他石油製品の在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫も減少した。また、米国での休暇シーズンにおけるガソリン需要の盛り上がりを見込んで欧州から米国北東部等に向けガソリンが輸出されたことが一因となり、欧州での石油製品在庫は減少した。日本においても、冬場の気温低下により暖房向けの灯油需要が旺盛となったこと等もあり、石油製品全体の在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下方付近に位置する量となっている。
- 2022年12月中旬から2023年1月中旬にかけての原油市場においては、中国での新型コロナウイルス感染が拡大する様相を呈したことに伴い米国等において中国からの渡航者に対する規制を強化する動きが見られたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた反面、中国での新型コロナウイルス感染抑制策緩和もあり春節前後の期間の個人の往来が活発化する旨の見通しが示されたこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり72~80ドルを中心とする範囲で推移した。
- 今後、石油市場では冬場の暖房シーズンの終了が視野に入り始めるとともに春場の石油不需要期が意識されることから、この面で原油相場に下方圧力が加わりやすいものと考えられる。しかしながら、欧米諸国等のロシア産石油購入の原則禁止措置等が実施されつつあることに伴い、ロシアの石油供給が混乱するとの懸念が発生しやすいこと、中国の新型コロナウイルス感染抑制策の緩和等に伴う同国石油需要回復期待が増大しやすいこと、米国金融当局による金融引き締めペースの減速に伴う同国等の経済持ち直しに対する観測が広がりやすいこと等から、この先石油需給引き締まり感が市場で醸成されること等を通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。ただ、中国での新型コロナウイルス感染抑制策緩和に伴い同国での新型コロナウイルス感染拡大への懸念が強まるようであれば、かえって中国及び世界経済に負の影響が及ぶことに伴う石油需給緩和観測が市場で増大するとともに原油価格が抑制される、といったリスクも抱えているものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2022年10月の米国ガソリン需要(確定値)は日量883万バレル、前年同月比2.2%程度の減少と、9月の当該需要である同882万バレル、同1.3%程度の減少から、需要量はほぼ横這いであった一方、前年同月比での減少率は拡大した(図1参照)。また、当該需要は速報値(前年同月比3.7%程度減少の日量870万バレル)から上方修正された。9月の同国ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.817ドルであった反面10月は同3.935ドルへと上振れしたことから、10月の同国自動車運転距離数も1日当たり92億マイルと9月の当該距離数である同94億マイルから減少したことが、10月のガソリン需要に影響しているものと見られる。また、2021年9月の自動車運転距離数が1日当たり93億マイルと同年8月と同水準であったにもかかわらず同年9月のガソリン需要が前月比で落ち込んだ反動で同年10月の当該需要が前月比で上振れした格好となった(また、2021年10月の米国ガソリン需要は前年同月比で8.6%の増加と同年9月の4.6%の増加から増加率が拡大した)ことから、さらにその反動で2022年10月のガソリン需要の減少率が拡大した格好となった可能性もある。なお、2022年10月の米国ガソリン需要は2019年同月の当該需要(日量931万バレル)(確定値)を5.2%程度下回っている。他方、2022年12月の同国ガソリン需要(速報値)は日量839万バレル、前年同月比で5.5%程度の減少となっており、11月の当該需要である同850万バレル(速報値)から需要量が下振れしたが、11月の前年同月比の当該需要減少率である5.8%程度からは減少率が縮小した。2022年12月の全米ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.324ドルと11月の同3.799ドルから相当程度下落した他、前年同月の同3.406ドルも下回ったことが、同国のガソリン需要を刺激した側面がある反面、2022年12月はクリスマスの時期を中心として全米に寒波「エリオット(Elliott)」が来襲したこともあり、気温が大幅に低下したうえ、大雪がもたらされるなどしたことにより、道路交通に支障が発生するとともに個人の外出が敬遠されたことから、同月の自動車運転距離数が抑制された(ただ、12月の推定自動車運転距離数は1日当たり87マイルと11月の同88マイルから減少したものの、12月の当該距離数は前年同月比では0.3%の増加と11月の同1.5%の減少から増加に転換した)ことが、2022年12月の米国ガソリン需要量及び前年同月比での伸び率に反映されているものと考えられる。なお、2022年12月の米国ガソリン需要は2019年の当該需要(日量897万バレル)(確定値)を6.5%程度下回っている。そして、12月下旬に米国メキシコ湾岸にまで厳しい寒波が南下したことにより、同国メキシコ湾岸や中西部の各地域において製油所の装置の稼働に支障が発生した結果、例えば12月30日の週の同国製油所の原油精製処理量は日量1,382万バレルと前週(同1,615万バレル)から日量233万バレル、14.4%程度の大幅減少となった(図2参照)が、うち同170万バレルの減少がメキシコ湾岸において、同50万バレルの減少が中西部において、それぞれ発生していた。このため、米国への寒波来襲により製油所でのガソリン生産が下振れしたものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)一方、米国のクリスマス及び年末の休暇シーズン直前にはガソリンの出荷が堅調となる場面が見られたものの、休暇シーズン中及び休暇シーズン後はガソリンの出荷が落ち込んだこともあり、12月上旬から1月上旬にかけ同国ガソリン在庫は総じて増加傾向となり、平年幅上方付近に位置する量となっている(図4参照)。
2022年10月の米国留出油需要(確定値)は日量410万バレルと前年同月比で3.3%程度の増加となり(図5参照)、9月の同401万バレル(前年同月比0.6%程度の減少)から需要量が増加した他、前年同月比で増加に転じた。ただ、当該需要は速報値(前年同月比4.3%程度増加の日量414万バレル)からは下方修正されている。10月は米国北東部が前月及び前年同月に比べ寒冷となったことにより暖房用の留出油需要が増加したことから、10月の米国留出油需要が前月比及び前年同月比で増加したものと考えられる。なお、2022年10月の米国留出油需要は2019年の当該需要(日量422万バレル)(確定値)を3.0%程度下回っている。また、2022年12月の留出油需要(速報値)は日量363万バレルと前年同月比で8.2%程度の減少となり、11月の当該需要量(速報値)の日量377万バレル、前年同月比9.8%の減少から、需要量は減少したものの、前年同月比の減少率は縮小した。12月は年末の休暇シーズンを含んだため、米国の経済活動が11月に比べ減速したとみられることが、同国の留出油需要の前月比での減少をもたらしているものと見られる。ただ、2022年12月は前年同月に比べ同国北東部の気温が低下気味であったことにより、暖房向けに留出油需要が喚起されたことが、当該需要の前年同月比での減少率を抑制する格好となったものと考えられる。なお、2022年12月の米国留出油需要は2019年の当該需要(日量393万バレル)(確定値)を7.7%程度下回っている。そして、このように年末の休暇シーズンであったということもあり同国の留出油需要がもたつき気味であったことが同国の留出油在庫を増加させる格好となった一方、下旬を中心として米国で寒波が南下したことにより、同国の製油所の操業が影響を受けた結果留出油生産が相当程度減少した(図6参照)ことが、当該製品在庫を減少させる形で作用したことから、12月上旬から1月上旬にかけ同国の留出油在庫は比較的限られた範囲内での変動となった他、平年幅下方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2022年10月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比0.2%程度増加の日量2,042万バレルとなり(図8参照)、9月の同2,047万バレルから需要量はほぼ横這いとなったが、同月の前年同月比1.6%程度の増加から増加率は縮小した。これは、10月のガソリン需要の前年同月比での減少率が9月のそれよりも拡大していることが一因となっている。ただ、10月は米国留出油需要が前年同月比で相当程度増加したことに加え、その他の石油製品が前年同月比で日量25万バレル増加したことが、同月の米国石油需要を前年同月比で増加させた主要因となっている(米国ペンシルバニア州モナカ(Monaca)において建設中であった石油化学工場(操業者:シェル、エタン分解能力年間160万トン)が2022年8月上旬に工事を完了(8月8日に建設施行者であるベクテルが発表)したこともあり、操業開始(実際には11月15日に行われた)に向け、原料在庫積み増しのためエタンの購入が活発化したことが寄与した可能性がある)。また、留出油に加え液化石油ガス(LPG)の需要が速報値から確定値に移行する段階で下方修正されたことにより、同国石油需要は速報値(前年同月比0.3%程度増加の日量2,044万バレル)から確定値に移行する段階で下方修正されている。なお、2022年10月の米国石油需要は、2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル)を1.4%程度下回っている。他方、2022年12月の米国石油需要(速報値)は日量2,026万バレルと前年同月比で1.9%程度の減少となり、11月の同国石油需要(速報値)である日量2,021万バレルから需要量が若干増加した一方、11月の前年同月比1.8%の減少から減少率はほぼ横這いとなっている。冬場の暖房向けにプロパン需要が増加した他、休暇シーズンにおける個人の移動に向けたガソリン出荷の活発化が、同国石油需要の前月比での増加の背景にあるものと考えられる。一方、12月のガソリン及び留出油需要の前年同月比での減少率が11月に比べ低下した一方、2021年12月のその他の石油製品需要が同年11月のそれから増加していたことから、2022年12月の当該製品需要の前年同月比での伸びが圧縮された格好となったため、双方の要因が相殺し合ったことが、12月の米国石油需要の前年同月比での減少率が11月に比べほぼ横這いとなっていることに反映されているものと考えられる。なお、2022年12月の米国石油需要は、2019年12月の当該需要(日量2,044万バレル)(確定値)を0.9%程度下回っている。また、欧州の代表的な原油指標であるブレントの価格が米国の代表的な原油指標であるWTIの価格を相当程度上回っていたこともあり(ロシアのウクライナに対する事実上の侵攻実施に伴う、海上輸送によるロシア産原油の原則購入禁止を12月5日に控え、ロシア産原油供給減少に伴う市場での欧州石油需給引き締まり懸念が強まったことが背景にあるものと見られる)、米国から欧州方面等に向け原油が高水準で輸出されたことに加え、12月7日に米国カンザス州においてキーストーン・パイプライン(操業者:TCエナジー、カナダ・アルバータ州ハーディスティ~米国オクラホマ州クッシング他、原油輸送能力日量86万バレル)から14,000バレルの原油漏洩が発生したことにより同パイプラインが操業を停止したこともあり、カナダからの原油輸入が減少したことが一因となり、同国の原油輸入が不安定となったこと等により、同国原油在庫は減少する場面が見られた。しかしながら、12月下旬における同国での寒波の南下に伴い製油所の操業上の支障により原油精製処理量が減少したことが一因となり、1月上旬を中心として原油在庫が大幅に増加した(1月6日の原油在庫は前週比で1,896万バレルの増加と2021年2月26日の週(この時は前週比2,156万バレルの増加)以来の大幅増加となった)こともあり、12月上旬から1月上旬にかけ原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を上回る状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となったが、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2022年12月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、欧州においては、9月22日以降フランスの労働者による製油所ストライキが拡大、10月4日時点で日量74万バレル程度の原油精製能力を保有する製油所の稼働が停止したものの、10月19日以降同国での製油所ストライキは収束に向かい初め、11月8日に全ての製油所でのストライキが終了したとされたこともあり、当該地域での製油所の原油精製処理活動が回復したことに伴い、原油在庫は減少した。しかしながら、米国においては11月上旬~12月上旬頃に石油製品在庫が積み上がったことにより精製利幅が圧迫されたこともあり製油所での原油精製処理量が減少したことに加え、12月下旬の同国での寒波の南下に伴う製油所の操業上の支障に伴う原油精製処理活動のさらなる不活発化により、原油在庫は増加した。また、日本でも年末の個人の往来活発化による石油需要拡大に向けた製油所での稼働上昇に備え原油在庫の積み増しが進んだことにより、かえって原油在庫は増加した。このため、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では、冬場の気温の低下とともに暖房向けのプロパン需要が喚起されるようになったことに伴い当該製品在庫が減少した他、その他石油製品の在庫が減少した(冬用ガソリンに混入するため、その他の石油製品に分類されるブタンの需要が増加しつつあることが寄与しているものと見られる)ことから、同国の石油製品全体の在庫も減少した。また、米国でのクリスマス及び年末の休暇シーズンにおける季節的な個人の移動の活発化と自動車向けガソリン需要の盛り上がりを見込んで欧州から米国北東部等に向けガソリンが輸出されたことが一因となり、欧州でのガソリンを含む石油製品在庫は減少した。さらに、日本においても、冬場の気温低下により暖房向けの灯油需要が旺盛となった他、年末年始の休暇シーズンにおける個人の往来の活発化に伴いガソリンやジェット燃料の需要が堅調となったこともあり、それら製品在庫の水準が低下したことにより石油製品全体の在庫も減少した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少となり、平年幅下方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっている一方、石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2022年12月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.4日と11月末の推定在庫日数(59.6日)から減少している。
12月14日に1,300万バレル台後半程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は、12月21日には1,500万バレル台後半程度の量へと増加したが、12月28日には1,400万バレル台半ば程度の水準へと減少した。それでも、1月4日には1,500万バレル台半ば程度の量へと回復したうえ、1月11日には1,600万バレル台半ば程度の量へと増加した。11月末にかけ中国において新型コロナウイルス感染拡大による当該感染抑制のための都市封鎖措置を含む個人の外出規制が強化されていたこと等により、同国国内でのガソリン需要が不振になるとともに在庫が積み上がったこともあり、新規石油製品輸出枠が付与された(ガソリン、ジェット燃料、軽油及び低硫黄重油で合計1,500万トン(うち175万トンが低硫黄重油と見られる)の輸出枠付与を中国政府が最終決定した旨9月30日に報じられていた)ことに伴い、12月末までの利用期限を前にして輸出枠を消化するため中国からシンガポール方面へのガソリン輸出が活発化したことが、シンガポールでの軽質留分在庫を増加させた一因となったものと考えられる。そしてこのように、シンガポールにおける軽質留分在庫が増加傾向となったことが、アジア市場でのガソリン価格を抑制する形で作用した一方、米国のクリスマス及び年末の休暇シーズンを前にしたガソリン出荷の拡大により同国のガソリン在庫が相当程度減少する場面が見られたことが、米国のみならずアジアの市場におけるガソリン価格に上方圧力を加える格好となったことから、12月中旬から下旬前半頃にかけてはアジア市場のガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲内で推移した。しかしながら、12月23日を中心として米国で寒波が南下した結果、同国メキシコ湾岸等での製油所の稼働に支障が発生したことにより、石油製品生産活動が不活発化するとともにガソリン相場に上方圧力を加えたことが、アジア市場のガソリン価格にも影響を及ぼしたうえ、1月に入ってからは原油価格の下落にガソリン価格の下落が追い付かない場面が見られた他、韓国等において春場の製油所メンテナンス作業実施が予定されることに伴いガソリン製造活動が不活発化する結果当該製品供給が抑制されるとの観測が市場で発生し始めたことから、12月下旬半ば頃から1月中旬にかけてはアジア市場におけるガソリンとドバイ原油の価格差は拡大して推移している。
また、11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けていることもあり、将来的な中国の経済活動回復による石油化学製品消費拡大に伴う原料となるナフサの需要増加に対する観測が増大したことが、アジア市場におけるナフサ価格を下支えした一方、中国での新型コロナウイルス感染抑制策の緩和により、かえって感染が拡大することを通じ、少なくとも短期的には同国経済がもたつくとともに石油化学製品需要が低迷し続けるとの見方が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格を抑制する格好となったことから、12月中旬から1月初頭にかけては、アジア市場でのナフサとドバイ原油との価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は概ね限られた範囲内で変動した。しかしながら、1月初頭以降はドバイ原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かなかったことに加え、中国の新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制及び経済活動制限がさらに緩和され続けた(そして、1月8日には中国への渡航者に対する隔離義務が撤廃された)ことにより、同国経済活動が活発化するとともに石油化学製品需要が回復するとの期待が一層増大したことから、石油化学製品の原料となるナフサ需要増加観測とともに当該製品価格が押し上げられたことに伴い、ナフサとドバイ原油との価格差が縮小する場面が見られた。
12月14日には700万バレル弱半程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、12月21日には700万バレル台前半程度、12月28日には700万バレル台後半程度、1月4日には800万バレル台前半程度、そして、1月11日には800万バレル台後半程度の量へと、それぞれ増加した。中国で付与された軽油を含む石油製品輸出枠の利用期限を12月末に控え、同国からシンガポール方面への軽油輸出が活発化したことが、シンガポールでの中間留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そして、12月23日を中心とした時期に米国において寒波が南下した結果同国の製油所の稼働に支障が発生したこともあり、欧米諸国等を中心として冬場の暖房向けに消費される軽油の需給引き締まり感が強まったことが、アジア市場での軽油価格にも影響を与えた結果、12月下旬には一時的に軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)が拡大する場面が見られた。しかしながら、シンガポールにおける中間留分在庫の増加に加え、欧州においても12月下旬以降概ね気温が平年を上回るといった温暖な気候となったことにより、暖房向けの民生部門を中心とする部門における軽油需要が低迷した一方、2023年2月5日に予定されるEU諸国によるロシア産石油製品購入の原則禁止実施を前にしてロシア産軽油の購入が活発化していることから、同地域における軽油在庫が増加したことにより、欧州の軽油価格のアジアの軽油価格を上回る幅が限定的となったこともあり、アジアから欧州方面への軽油輸出が抑制される格好となったことが、アジア市場での軽油価格を抑制したものと見られる結果、12月中旬から1月中旬にかけては、軽油とドバイ原油の価格差は総じて縮小する傾向を示した。
12月14日に2,000万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、12月21日には2,100万バレル台半ば程度の量へと増加した。12月28日には2,100万バレル弱の水準へと減少したものの、1月4日には2,100万バレル台前半程度の量へと回復した。1月11日には2,000万バレル台後半の量へと減少したものの、それでも12月14日の水準は上回っている。中国においては新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されつつあるものの、かえって感染が拡大する場面が見られると伝えられたこともあり、同国経済が完全に回復しているわけではない旨示唆されることに加え、11月は北東アジア諸国等の気候が総じて温暖であったことにより、発電部門向けLNG需要が低調であったこともあり、発電部門におけるLNGの代替燃料としての重油の需要も盛り上がりを欠く状況であったことが、シンガポールにおける重油在庫を増加させる方向で作用したものと考えられる。一方、欧州においても、10~11月は総じて気候が温暖であったことに加え、エネルギー価格の高騰や政策金利の引き上げ等を背景として経済が減速気味であったことにより、発電部門や産業部門等における重油需要が不振であったと見られることもあり、ロシア産重油の欧州での引き取りが低迷した結果、そのようなロシア産重油がインドを初めとするアジア諸国に流入しているとされることに加え、現在試運転中とされるクウェートのアル・ズール(Al Zour)製油所(操業者:クウェート石油公社(KPC: Kuwait Petroleum Company)、原油精製能力日量61.5万バレル)から、今後低硫黄重油を中心とした重油の供給が拡大するとの観測が発生していることにより、アジア市場での重油需給緩和感が意識される一方、12月に入り北東アジア諸国等において気温が平年を下回って低下するなどしたことから、暖房のための発電部門や民生部門向け重油需要の増加観測が市場で発生したことがアジア市場での重油価格を支持した結果、12月中旬から下旬にかけてのアジア市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は比較的限られた範囲内で変動した。しかしながら、1月初頭以降は原油価格の下落に高硫黄重油価格の下落が追い付かなかったことや、シンガポールでの重油在庫が減少したことが重油価格に上方圧力を加えたこと等もあり、当該価格差は縮小する場面も見られた。また、12月中旬から下旬にかけてのアジア市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)も比較的限られた範囲内で変動した。しかしながら、1月初頭以降は原油価格の下落に低硫黄重油価格の下落が追い付かなかったことや、シンガポールでの重油在庫が減少したことが重油価格に上方圧力を加えたこと等もあり、当該価格差が拡大する場面も見られた。
2. 2022年12月中旬から2023年1月中旬にかけての原油市場等の状況
2022年12月中旬から2023年1月中旬にかけての原油市場においては、中国での新型コロナウイルス感染が拡大する様相を呈したことに伴い、米国等において中国からの渡航者に対する規制を強化する動きが見られたことや、中国石油会社に付与された2023年第1回目の石油製品輸出枠の規模が2022年第1回目の当該輸出枠よりも拡大されている旨判明したこと、2023年の世界経済が2022年以上に厳しい状況となる可能性がある旨国際通貨基金(IMF)により指摘がなされたこと等が、原油相場に下方圧力を加えた反面、中国での新型コロナウイルス感染抑制策緩和もあり春節前後の期間の個人の往来が活発化する旨の見通しが示されたこと、12月の中国の原油輸入が増加した旨判明した他中国石油会社が積極的に国外からの原油調達を行っている旨報じられたこと、12月の米国消費者物価指数(CPI)の伸びが11月から鈍化している旨判明したことにより、米国金融当局による金融引き締め政策減速期待が市場で増大したこと等により米ドルが下落したこと、物価上昇予想の低下等もあり米国株式相場が上昇したこと等が原油相場に上方圧力を加えた結果、原油価格は1バレル当たり72~80ドルを中心とする範囲内で推移した(図15参照)。
これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが12月19日の市場で発生したことに加え、12月15~16日に開催された中国中央経済工作会議(2023年の同国の経済政策方針につき検討することを主目的とする)において、新型コロナウイルスとの共生を図りつつ、経済成長を促進すべく金融及び財政面からの景気刺激策を推進する旨の方針が打ち出されたことにより、同国経済及び石油需要回復期待が12月19日の市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.90ドル上昇し、終値は75.19ドルとなった。また、前週に来襲した寒波の影響で米国ノースダコタ州の原油生産が最大日量30万バレル停止しており、気温低下により操業再開には数週間を要する旨同州鉱物資源省が明らかにしたと12月19日夕方(米国東部時間)に報じられたことにより、同国石油需給引き締まり感を12月20日の市場が意識したことに加え、許容される長期金利変動幅を従来の0.25%から0.50%へと拡大する旨12月20日に日本銀行が決定したこともあり日本円が上昇するとともに米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.09ドルと前日終値比で0.90ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2023年1月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり76.23ドル(前日終値比0.85ドルの上昇)であった)。12月21日には、この日米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(12月16日の週分)で原油在庫が前週比で590万バレルの減少と市場の事前予想(同166万バレル程度の減少~250万バレル程度の増加)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している他、留出油在庫が同24万バレルの減少と市場の事前予想(同34~150万バレル程度の増加)に反して減少している旨判明したことに加え、12月20日夕方(米国東部時間)に発表された米国スポーツ用品大手ナイキの2022年9~11月期業績が市場の事前予想を上回ったうえ、12月21日に米国非営利民間調査機関コンファレンス・ボードから発表された12月の同国消費者信頼感指数(1985年=100)が108.3と11月の101.4から上昇した他市場の事前予想(101.0)を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.20ドル上昇し、終値は78.29ドルとなった。この結果原油価格は12月19~21日の3日間で1バレル当たり合計4.00ドル上昇した。ただ、12月21日夕方(米国東部時間)に発表された米国半導体大手マイクロン・テクノロジーの2022年9~11月期業績が市場の事前予想を下回っていた旨判明したうえ、12月22日に米国商務省から発表された2022年7~9月期の同国国内総生産(GDP)(確定値)が前期比年率3.2%の増加と11月30日に発表された改定値である同2.9%増加から上方修正された他市場の事前予想(同2.9%)を上回った旨判明したこと、同じく同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(12月17日の週分)が21.6万件と市場の事前予想(22.2万件)を下回ったことにより、この先米国金融当局が金融引き締め政策の継続姿勢を強めるとの観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことに加え、12月23~24日を中心として、米国の広い範囲で大雪に見舞われると予想されることにより航空便2,000便が欠航する見込みである旨12月22日に報じられたこともあり、陸路及び空路での往来に支障が発生することにより、ガソリン及びジェット燃料の需要が低迷するとの観測が市場で増大したこと、中国における新型コロナウイルス感染者数の報告が世界保健機関(WHO)になされていない他、中国で1日当たり5,000人が死亡しているとの推定が明らかになった旨12月22日に報じられたことにより、同国における新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出及び経済活動低迷が石油需要に負の影響を与えるとの懸念が市場で増大したことから、この日(12月22日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.80ドル下落し、終値は77.49ドルとなった。それでも、主要7ヶ国政府(G7)及び欧州連合(EU)等によるロシア産石油販売価格上限設定への対応策につき、12月26~27日にもロシアのプーチン大統領が大統領令に署名する旨12月22日午前遅く(米国東部時間)に報じられた流れを12月23日の市場が引き継いだうえ、2023年初頭以降ロシアが石油生産量を日量50~70万バレル(自国の生産量の5~7%)削減するかもしれない同国のノバク副首相が明らかにしたと12月23日に伝えられたことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、米国の広い範囲に寒波(「エリオット(Elliott)」)が来襲したことに伴い、同国ノースダコタ州の原油生産が日量30~35万バレル落ち込んでいるうえテキサス州でも原油生産が削減されている旨12月23日に報じられたことにより、同国の原油需給の引き締まり感を市場が意識したこと、12月23日に米国商務省から発表された11月の同国個人消費支出(PCE)価格指数が前年同月比4.7%の上昇と10月の同5.0%の上昇から伸びが鈍化した他、同じく同日に米国ミシガン大学により発表された12月の1年先期待インフレ率(確定値)が4.4%と12月9日に発表された速報値である4.6%から下方修正され2021年6月(この時は同4.2%)以来の低率となったことに伴い、米国金融当局による金融引き締め政策の減速期待が市場で増大したことにより、米国株式相場が上昇するとともに、投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.56ドルと前日終値比で2.07ドル上昇した。
12月26日は、米国クリスマスの休日(12月25日)の振替休日に伴い同国原油先物市場は休場となったが、12月27日には、米国の広範囲に来襲した厳しい寒波が解消するとともに、寒波で稼働を停止した同国の油田関連施設において操業再開に向けた作業が実施されつつあることにより、石油需給の引き締まり感が市場で後退したことが、原油相場に下方圧力を加えた反面、2023年1月8日以降中国入国直後の隔離等の措置(ホテル等の隔離施設5日に加え自宅監視3日)が必要なくなる(別途出発前48時間以内の新型コロナウイルス感染陰性証明が必要)旨12月26日に同国国家衛生健康委員会が発表したことにより、中国経済と石油需要回復期待が市場で増大したことに加え、ロシア産石油販売価格上限を設定する顧客に対し2023年2月1日よりロシア産原油供給を停止(少なくとも7月1日まで継続)する他、同国からの石油製品供給も停止(最終購入者の段階まで適用)する(石油製品供給停止措置実施開始日は別途ロシア政府が決定するため、2月1日よりも遅い時期になる可能性があるとされる)旨の大統領令にロシアのプーチン大統領が署名したと12月27日に発表されたことにより、ロシア産石油供給を巡る市場の混乱に対する懸念が市場で増大したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.53ドルと前週末終値比で0.03ドルの下落にとどまった。ただ、中国からイタリアに空路経由で到着した旅客の半数が新型コロナウイルス感染検査で陽性である旨判明したことを受け、中国から航空機で到着する旅客全員に対し新型コロナウイルス感染検査実施を義務付ける旨12月28日にイタリアのスキッラーチ保健相が明らかにしたことにより、中国での新型コロナウイルス感染拡大の同国及び世界の個人の往来及び経済活動への影響に対する懸念が増大したこともあり、米国株式相場が下落するとともに、投資家のリスク許容度が縮小したことを受け米ドルが上昇したことから、この日(12月28日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.57ドル下落し、終値は78.96ドルとなった。また、2023年1月5日午前0時1分(米国東部時間)以降、中国からの空路での渡航者に対し、新型コロナウイルス感染陰性証明等の提示を義務付ける旨米国連邦政府保健当局が12月28日に明らかにしたと同日午後遅く(同)に伝えられた他、インドでも1月1日より中国等からの渡航者に対し新型コロナウイルス感染陰性証明の提示を要求する旨12月29日に報じられるなど、新型コロナウイルス感染を巡り中国等からの渡航者に対する入国規制を強化する動きが強まる兆候が見られたことにより、世界の個人の往来及び経済活動に対する制限強化と石油需要への影響に対する懸念が市場で増大したことに加え、12月29日にEIAから発表された米国石油統計(12月23日の週分)で、原油在庫が前週比72万バレル、留出油在庫が同28万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同150万バレル程度、留出油在庫同200万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.40ドルと前日終値比で0.56ドル下落した。この結果原油価格は12月28~29日の2日間で1バレル当たり合計1.13ドルの下落となった。しかしながら、12月30日には、四半期末を控えた持ち高調整が発生したことにより米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.26ドルと前日終値比で1.86ドル上昇した。
1月2日は米国新年の休日(1月1日)の振替休日に伴い同国原油先物市場は休場となったが、12月31日に中国国家統計局から発表された12月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)が47.0と11月の48.0から低下した他、市場の事前予想(47.8~48.0)を下回ったうえ、同日中国国家統計局から発表された12月の同国非製造業PMI(50が当該部門拡大及び縮小の分岐点)が41.6と11月の46.7から低下した他市場の事前予想(45.0)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、中国政府が1,899万トンのガソリン、軽油及びジェット燃料の2023年第1回輸出枠を石油会社に対し付与した他800万トンの同年第1回低硫黄重油輸出枠を石油会社に対し付与した旨1月3日に報じられ、これらが2022年第1回輸出枠(ガソリン、軽油及びジェット燃料1,300万トン、低硫黄重油650万トン)よりも拡大されていた旨判明したことにより、同国の石油需要不振観測が市場で発生したこと、米国、欧州連合(EU)及び中国の三大経済圏が併せて経済減速に直面することにより、2023年は世界経済の3分の1が景気後退に突入するなど2022年以上に厳しい状況となる可能性がある旨1月1日に国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事が明らかにしたことにより、世界経済減速の石油需要への負の影響に対する不安感が市場で拡大したこと、2022年末頃以降米国北東部(同国の暖房油消費中心地)の気温が全般的に平年を上回ったことにより、暖房油需要低迷観測が市場で発生したこともあり米国暖房油先物相場が下落(前週末終値比で6.33%下落)したこと、1月2日に発表された米国電気自動車製造大手テスラ・モーターズの2022年10~12月の世界納車台数が41万台と市場の事前予想(42~43万台)を下回った他、米国情報技術(IT)機器販売大手アップルが部品製造業者数社に対し需要低迷を理由に部品供給を削減するよう要請した旨1月2日に報じられたこともあり、米国株式相場が下落したこと、1月3日にドイツ連邦統計局から発表された12月の同国消費者物価指数(CPI)(EU基準、速報値)が前年同月比9.6%の上昇と11月の同11.3%の上昇から伸びが鈍化した他、市場の事前予想(同10.2~10.7%の上昇)を下回ったこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、1月3日の原油価格の終値は1バレル当たり76.93ドルと、前週末終値比で3.33ドル下落した。また1月5日にEIAから発表される予定である米国石油統計(12月30日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が1月4日の市場で発生したことに加え、新型コロナウイルス感染が拡大しているとされる中国で死者数も大幅に増加していると見られる(なお、中国政府による死者数は過小評価されていると世界保健機関(WHO)幹部が指摘している)旨1月4日に報じられたことにより、同国の経済及び石油需要回復に対する楽観的な見方が市場で後退したこと、1月4日に公表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(12月13~14日開催分)において、物価上昇が根強い可能性があることを理由として政策金利引き下げへの方針転換につき消極的な姿勢が委員により示されていた旨示唆されたことにより、同国経済と石油需要の回復に対する期待が市場で低下したこと、12月のOPEC産油国原油生産量が前月比で日量12万バレル増加したものと推定される(ナイジェリアでの主要原油輸送パイプライン周辺での治安状況改善に伴い同国での原油生産量が前月比で日量17万バレル増加したことが一因とされる)旨1月4日にロイター通信が報じたことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、1月4日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり4.09ドル下落し、終値は72.84ドルとなった。この結果原油価格は1月3~4日の2日間で1バレル当たり合計7.42ドル下落した。しかしながら、1月5日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、1月4日に米国コロニアル・パイプラインの石油製品パイプライン(操業者:コロニアル・パイプライン、ノースカロライナ州グリーズボロ(Greensboro)~ニュージャージー州リンデン(Linden)、輸送能力日量88.5万バレル)が、バージニア州ダンビル(Danville)付近で60バレル程度の軽油漏洩が発生した結果、操業を停止した旨同日夜(米国東部時間)に報じられた(1月7日に操業再開の予定と1月5日に伝えられる)ことにより、米国北東部を中心とする地域の石油供給混乱に対する懸念が市場で増大したこと、1月5日にEIAから発表された米国石油統計で留出油在庫が前週比143万バレルの減少と市場の事前予想(同40~117万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.83ドル上昇し、終値は73.67ドルとなった。また、1月22日の中国の春節(旧正月)前後40日間の期間中の個人の移動が延べ20.95億人と、2022年の春節時の10.5億人程度から倍増すると予想される旨1月6日に中国交通運輸省が明らかにしたことにより、中国の個人の往来の活発化と石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことに加え、1月6日に米国労働省から発表された12月の同国雇用統計で労働者平均時給が前年同期比4.6%の増加と1月の同4.8%の増加から伸びが鈍化したうえ、同日米国供給管理協会(ISM)から発表された12月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.6と2020年5月(この時は45.2)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(55.0)を下回った旨判明したこと、米国雇用統計の内容は同国経済の伸びが鈍化しつつあることを示唆しており、この状態が継続するようであれば次回FOMC(1月31日~2月1日開催予定)においては0.25%へと政策金利引き上げペースを減速すること(12月13~14日に開催されたFOMCでは0.50%の政策金利引き上げが決定された)が可能になると考えられる旨1月6日に米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにしたこともあり、同国金融当局による金融引き締め政策の減速観測が市場で拡大したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、1月6日の原油価格の終値は1バレル当たり73.77ドルと前日終値比で0.10ドル上昇した。この結果原油価格は1月5~6日の2日間で1バレル当たり合計0.93ドル上昇した。
また、1月8日を以て中国が国外及び香港からの渡航時の隔離措置を終了したこともあり、1月7日に突入した中国の春節(旧正月、1月22日)に伴う個人の移動時期において個人の往来及び中国の経済活動等が活発化するととともに石油需要が回復するとの期待が市場で拡大したことが、原油相場に上方圧力を加えたうえ、2,000万トンの中国企業向け2023年第1回原油輸入枠(2022年10月7日に付与が報じられた)に加え、1.12億トンの原油輸入枠が付与された旨1月9日に報じられたが、それが2022年同時期に付与された原油輸入枠1.09億トンに比べ21%程度拡大している旨判明したことにより、同国石油需要増加に対する期待が市場で増大したこと、1月6日に発表された、米国経済が減速しつつあることを示唆する同国ISM非製造業景況感指数等の経済指標類に基づく、米国金融当局による政策金利引き上げペースの鈍化への期待増大の流れを引き継いだ他、1月9日にニューヨーク連邦準備銀行から発表された1年先の物価上昇期待が5.0%と12月12日発表時点の前回の物価上昇期待である5.2%から低下したこともあり、米ドルが下落したことから、1月9日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.86ドル上昇し、終値は74.63ドルとなった。また、1月11日にEIAから発表される予定である米国石油統計(1月6日の週分)で、原油及び留出油各在庫が前週比で減少しているとの観測が1月10日の市場で発生したことに加え、1月10日にEIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO:Short-Term Energy Outlook)において、中国及びインドが先導することにより2024年の世界石油需要が日量1.03億バレルと史上最高水準に到達する旨の見通しが明らかになったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.12ドルと前日終値比で0.49ドル上昇した。1月11日も、中国国際石油化工連合(ユニペック(Unipec):中国石油化工集団(シノペック(Sinopec))の子会社)が3~4月に中国に到着するための300~400万バレルの米国産原油(中質高硫黄原油であるマーズ(Mars)原油)を購入した他、同社が西アフリカ産原油の購入を活発化している旨1月11日に報じられたことにより、新型コロナウイルス感染抑制策緩和に伴う中国の経済回復等による石油需要増加に対する期待が市場で増大したことに加え、1月12日に米国労働省から発表される予定である12月の同国消費者物価指数(CPI)が同国の物価上昇ペース鈍化を示唆している旨判明するとの観測が市場で発生したこともあり、米国金融当局による金融引き締め政策ペースの減速期待が市場で拡大したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大したことにより、米ドルが下落したことから、1月11日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.29ドル上昇し、終値は77.41ドルとなった。1月12日も、中国による国外産原油購入活発化に伴う同国石油需要増加期待が市場で増大した流れを引き継いだことに加え、1月12日に米国労働省から発表された12月の同国CPIが前月比で0.1%の低下と2020年5月(この時は同0.1%の低下)以来の前月比での低下となった他、前年同月比での上昇率が6.5%と11月の7.1%から伸びが鈍化した旨判明したことにより、米国金融当局による政策金利引き上げペース減速期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.27ドルと前日終値比で0.86ドル上昇した。1月13日も、この日中国税関総署から発表された2022年12月の同国原油輸入が4,807万トン(日量1,135万バレル)と前年同月(4,614万トン、日量1,089万バレル)比で4.2%増加したことにより、同国石油需要増加期待が市場で増大したことに加え、同じくこの日米国ミシガン大学から発表された2023年1月の1年先物価上昇予想(速報値)が4.0%と2022年12月時点の予想である4.4%から低下、2021年4月(この時は3.4%)以来の低水準となった他、市場の事前予想(4.3%)を下回ったことにより、米国金融当局による金融引き締め政策減速への期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したこと、1月13日に米国ミシガン大学から発表された2023年1月の1年先物価上昇予想が前月比で低下したこと等により米国金融当局による金融引き締め政策減速への期待が市場で増大したうえ、米国大手金融機関JPモルガン及びバンク・オブ・アメリカ等の2022年10~12月期業績が市場の事前予想を上回ったこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.47ドル上昇し、終値は79.86ドルとなった。この結果原油価格は1月9~13日の5日間で1バレル当たり合計6.09ドル上昇した。
3. 原油市場における主な注目点等
G7とEUは12月2日にロシア産原油販売価格上限の設定(1バレル当たり60ドル)につき合意、12月5日に発動した(実際に適用されるのは45日後の2023年1月19日、なお石油製品販売価格上限の設定は2023年2月5日の予定)。これに対し12月27日にロシアのプーチン大統領が、ロシア産石油販売価格上限を設定したロシア産石油購入予定者に対しロシア産石油の販売を制限する大統領令に署名した。大統領令によると、2023年2月1日から7月1日にかけ、ロシア産原油販売価格上限を設定する購入予定者への原油販売を禁止することとなっている。また、ロシア産石油製品についても上限価格を設定する購入予定者(最終購入予定者まで適用されるとされる)に対し、石油製品販売を禁止することになっているが、販売禁止開始日は別途ロシア政府が決定することとなっている(従って2月1日よりも遅い時期となる可能性がある)。既に、米国や英国、EU加盟国を含む西側諸国等においては、海上輸送によるロシア産原油及び石油製品の購入を事実上停止するか、停止する予定となっている、もしくは購入量を大幅に削減する方向となっていることから、ロシア産石油販売価格上限を設定する顧客に対する販売禁止を内容とするロシアによる措置が、上限価格を設定する西側諸国等への石油供給をさらに大幅に削減する可能性はそれほど高くはないものと考えられる。ただ、今般ロシアが発表した措置には、「海上輸送」により供給される原油もしくは石油製品といった、輸送形態を限定するような説明は現時点ではなされていないように見受けられる(ロシアのエネルギー省は大統領令の適用方法につき間もなく公表する旨1月10日に明らかにしている)ところからすると、例えばロシアからドルジバ(Druzhba)パイプライン経由で欧州方面に輸出される原油(通常日量80万バレル程度とされる)の供給が事実上追加で削減される可能性がある。このため、この分の原油につき、西側諸国等ロシア産石油販売価格上限を設定しない中国やインドを初めとする消費国に向け供給が円滑に行うことが出来るかどうかによって、世界石油需給引き締まり観測が市場で変化する結果、原油相場が影響を受けるといった展開となることはありうる。
また、2月5日を以てEU加盟国はロシア産石油製品の購入を原則禁止する措置を実施することとなる。従来EU加盟国を含む欧州諸国はロシアから軽油等の石油製品を輸入していた。現在欧州諸国は2月5日のロシア産石油製品購入禁止を控えロシア産軽油の購入を活発化させていると言われているが、ロシア産石油製品購入禁止措置発動後は、早晩ロシア以外からの石油製品生産国から石油製品の調達を拡大しなければならない事態に直面することとなろう。その場合、原油の場合と同様、例えばロシア産石油製品が購入規制を実施していない消費国に向かうことに伴い、ロシア産石油製品を引き取る消費国が従来引き取っていたロシア産以外の石油製品を引き取らなくなること等を通じ、そのような石油製品が西側諸国等に円滑に向かうかどうか、ということが短期的な注目点となろう。もし円滑に石油製品の再配分が行われるようであれば、石油製品価格及び原油価格への影響は限定的なものとなる可能性があるが、再配分の過程において輸送面等で支障が発生するようであれば、石油製品供給混乱(もしくは混乱懸念)が市場で発生することにより石油製品価格が上昇するとともに原油相場がその影響を受けるといた展開となることも想定される。
イランでは、同国西部クルディスタン州出身の女性が不適切にヘジャブ(スカーフ)を着用していたとして、9月13日に同国の風紀警察に逮捕された後9月16日に死亡したことに対し、同日以降抗議活動が同国各地で発生したことに際し、治安要員に危害を加えたことを理由として抗議活動参加者4人の死刑がこれまでに執行されている(12月8日、12月12日、及び1月7日に報じられる)。これに対し1月9日に英国、フランス、ドイツ及びEUはイラン大使を呼んで抗議した他、カナダ外務省は抗議活動弾圧による人権侵害により、イランの個人2人と団体3組織に対し制裁を発動する旨同日発表した。また、12月21日には米国財務省が、抗議活動弾圧に関与したとの理由により、イランのモンタゼリ検事総長を含む同国政府、軍及び治安当局関係者に対し制裁を発動した他、1月6日には同国国務省がロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施の際に使用されたとされる無人機を開発及び製造したとしてイラン関係者6人に対し制裁を発動している。他方、イランの最高指導者ハメネイ師は、抗議活動参加者は暴徒であり許されない旨1月9日に示唆したと伝えられる。また、1月9日には米国バイデン政権のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、イラン核合意正常化に向けたイランとの協議については、足元優先して取り組む状況にはない旨明らかにしている。このように、当該協議は、従来から国際原子力機関(IAEA)に対し未申告であったイラン国内施設でのウラン関連活動の痕跡に対しイランが西側諸国等を納得させるような説明を行っていないことに加え、イランでのスカーフの着用指導に伴う女性死亡をきっかけとして発生した抗議活動の弾圧、ロシアの無人機使用に対するイランによる支援等を巡り、西側諸国等とイランとの対立が高まりつつあったが、今般抗議活動参加者の処刑等により、さらにイランと西側諸国との対立が高まる格好となっていることから、早期にイラン核合意正常化に向けた協議が妥結することにより、米国によるイラン産石油等の輸出に対する制裁が緩和されるとともに、世界石油市場に向けたイランからの原油等の供給が増加するとの期待が市場で発生することを通じ原油相場に下方圧力が加わると言った展開となる可能性は一層低下したものと考えられる。むしろ、イランと西側諸国等との対立の強まりに伴い、ペルシャ湾におけるタンカー攻撃等を含め、中東情勢が不安定化することにより、当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で拡大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
ベネズエラにおいては、従来マドゥロ大統領と反体制派との間での対立が継続、米国を含む西側諸国等は反体制派を支持するとともに、ベネズエラ産原油の輸入を原則禁止する等の措置を講じていた(2019年1月10日にベネズエラのマドゥロ大統領選出方法が適正なものではなかったことを理由に2019年1月28日に米国は対ベネズエラ制裁を発表、内容は同年4月28日を以て米国石油会社のベネズエラ産原油輸入を原則禁止(PDVSAの米国子会社であるCitgoは7月28日に原則禁止)するというものであった)。しかしながら、11月26日には、マドゥロ政権側と反体制側との間で対立緩和を目指す協議が再開(当該協議は2021年10月16日に中断していた)、同協議において、トランプ前政権時代の米国による対ベネズエラ制裁実施により凍結されたベネズエラの海外保有資産につき、人道支援を目的として段階的に解除すべく当該資産を国連が管理するよう要請した。これに伴い、11月26日に米国政府は、大手国際石油会社シェブロンのベネズエラでの事業実施を6ヶ月の期間限定的ながら承認した。これによりシェブロンは、ベネズエラ国内での同社とベネズエラ国営石油会社PDVSAとの間での共同事業による原油を生産及び精製することや、ベネズエラ産石油を米国に持ち込んで販売することに加え、ベネズエラ産重質原油希釈のため希釈剤等をベネズエラへ持ち込むこと等が認められる。そして、シェブロンは1月にベネズエラ産原油80万バレルを2隻のタンカーに積載したうえ、米国ミシシッピ州に同社が保有するパスカグーラ(Pascagoula)製油所(原油精製能力日量約36.9万バレル)で処理すべく輸送する方向で準備中である旨1月5日に伝えられる(また3隻目のタンカーがベネズエラで原油を積載する方向である旨示唆されると1月5日に報じられる)。
しかしながら、ベネズエラでは、新規油田開発を含め、2019年1月28日時点で操業していた事業範囲を超えた事業の実施はシェブロンに対し認められない他、ベネズエラで生産された石油製品は米国にのみ輸入されるうえ、ベネズエラ政府に対するロイヤルティ(地代)及び税金の類の支払いは禁じられたままとなる(共同事業を通じて得られたPDVSAの収益もシェブロンの債務返済に充当されるためPDVSAは収益を得られないとされる)。ベネズエラは、マドゥロ大統領の就任前に大統領であったチャベス氏(大統領就任時期は1999年2月2日~2013年3月5日であった)の時代からおよそ20年超に渡り、原油収入を社会対策等に利用した反面石油探鉱・開発等の事業への再投資が低調であったこともあり、新規油田開発が進展していない他、製油所や港湾を含む輸送インフラ施設が著しく老朽化していることにより、改めて石油産業再建のための再投資を行う必要がある一方、今回のシェブロンによる石油事業の再開を以てしてもベネズエラ側が多額の追加収入を得られる可能性は高くないうえ、少なくとも現時点では同国は依然として国際金融市場からの資金調達に支障を来している状況であることから、この先短期的に同国の原油生産が大幅に拡大するとは考えにくく、その結果、世界石油市場への影響も限定的なものとなるものと見られる(シェブロンのワース(Wirth)会長兼最高経営責任者(CEO)も、米国の対ベネズエラ制裁が政治的に解決しても、シェブロンのベネズエラにおける原油生産回復には数ヶ月から数年を要する可能性がある旨2022年10月28日に明らかにしていた)。それでも、これまで同国はマドゥロ大統領派勢力と反体制派勢力との間での対立が膠着する状況が継続する中、同国の原油生産が減退し続けていた(2009年1月には日量294万バレルであった同国の原油生産量は既に2019年1月の段階で同128万バレルと半分以下へと減少していたが、2022年12月には推定日量65万バレルとさらにほぼ半減していた)状態について、少なくとも減産ペースが鈍化するか、もしくは原油生産が下げ止まる、ないしは多少なりとも持ち直す可能性が高まることにより、この面でのさらなる石油需給の引き締まり感は市場において後退する可能性もあるため、今後もマドゥロ政権と反体制派及び米国等との間の関係を含め、ベネズエラ情勢には注目する必要があろう。
中国では、従来隔離施設での隔離7日間と自宅での隔離3日間の合計10日間であった隔離期間を隔離施設での隔離5日間と自宅での隔離3日間の合計8日間に縮小する旨11月11日に同国国家衛生健康委員会が発表したが、12月27日には、2023年1月8日を以て中国入国直後の隔離は不要となる(出発前48時間以内の新型コロナウイルス感染陰性証明は必要)旨国家衛生健康委員会が発表、実際1月8日を以て中国が国外及び香港等からの渡航時の隔離措置(香港等は従来渡航直後5日間の自主隔離が必要であった)を終了した。併せて2023年1月22日の中国春節(旧正月)前後40日の期間中の個人の移動が延べ20.95億人と、2022年の春節時の同10.5億人からほぼ倍増する旨1月6日に中国交通運輸省が明らかにしたことにより、中国の個人の往来の活発化と石油需要の回復に対する期待が市場で増大したことから、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られた。また、2,000万トンの中国企業への2023年第1回の原油輸入枠(2022年10月7日に付与が報じられた)に加え、1億1,182万トンの原油輸入枠が付与された旨1月9日に報じられたが、これは2022年同時期の1億903万トンの当該輸入枠を21%程度上回っていた。ただ、別途中国政府は1,899万トンのガソリン、軽油及びジェット燃料の2023年第1回輸出枠を付与した他、800万トンの低硫黄重油の同年第1回輸出枠を付与した旨1月3日に報じられ、これらは2022年第1回輸出枠(ガソリン、軽油及びジェット燃料1,300万トン、低硫黄重油650万トン)よりも相当程度拡大していたことから、原油輸入枠の拡大がそのまま同国の石油需要に直結するわけではなく、むしろ中国からの石油製品輸出の増加によりアジア市場における石油需給が緩和する可能性も想定される。それでも、中国における新型コロナウイルス抑制のための厳格な個人の外出規制及び経済活動の制限が急速に緩和へと向かいつつあることと併せ、原油輸入枠拡大に伴い、同国の石油需要回復期待が市場で相対的に発生しやすい状況となっている(また、中国大手国営石油会社である中国石油化工集団(シノペック(Sinopec)の子会社である中国石油化工連合(ユニペック(Unipec))が米国産及びアンゴラを含む西アフリカ産原油を積極的に購入している旨1月11日に報じられたことも、中国石油需要増加期待を市場で増大させる格好となっている)。今後、特に1月以降の中国の原油輸入及び石油製品輸出の実態が明らかになることにより、中国の実際の国内石油需要状況に対する市場の見方が調整されることを通じ、そのような市場の認識が原油相場に織り込まれることになるといった展開もありうるが、その前に、中国の個人往来の活発化もしくは経済活動の回復を示唆する情報が明らかになるようであれば、同国の石油需要増加期待が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性がある。もっとも、短期的には新型コロナウイルス感染抑制策を急激に緩和したこと伴い、中国国外への渡航者が渡航先で感染している旨判明する等を通じ同国内での感染拡大が示唆されるなどすることにより、中国経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で再燃するとともに、原油相場に下方圧力を加わるといった展開となる可能性も否定は出来ないため、中国の新型コロナウイルス感染状況を巡る情報にも併せて注意する必要があろう。
1月12日に発表された12月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で6.5%の上昇と11月の同7.1%の上昇から伸びが鈍化した。これを受け、米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁は、1月31日~2月1日に開催される予定である次回の同国連邦公開市場委員会(FOMC)において0.25%の政策金利引き上げをより強く支持しつつある旨1月12日夜(米国東部時間)に明らかにした。そして、次回FOMCにおいては0.25%と、前回のFOMC(12月13~14日開催)において決定された0.50%から幅が縮小されて政策金利引き上げが決定されるとの観測が市場で増大している(0.25%の政策金利引き上げ確率は1月13日時点で94%と、前回のFOMC終了日時点の61%から大幅に上昇している)。このような米国金融当局による政策金利引き上げペースの減速への期待増大に伴い、米国経済の伸びの鈍化懸念が市場で後退することにより同国株式相場が上昇する他、政策金利引き上げペースの減速に加え米国株式相場上昇に伴う投資家のリスク許容度の拡大により、米ドルが下落することで、足元原油相場が浮揚しやすい状況となっているものと考えられる。そのような中、今後は次回FOMCに向けパウエルFRB議長を初めとする米国等の金融当局関係者による、米国等の経済状況や金融政策を巡る発言、米国等の経済指標類の内容により、米国株式相場及び米ドルが変動するとともに、その影響が原油相場に織り込まれることとなろう。また、1月中には国際通貨基金(IMF)から世界経済見通しが発表される予定であるとされるため、その内容によっては、今後の世界経済と石油需要を巡る市場の見方が左右されることにより株式相場等の変動を通じその影響が原油相場に織り込まれる可能性がある他、2月に発表される予定であるEIA、国際エネルギー機関(IEA)及びOPEC等のオイル・マーケット・レポートの類において世界石油需要に修正が施される結果、原油相場がそのような修正に反応するといった展開となることも想定される。さらに、1月中旬以降、主要米国企業等の2022年10~12月期等の業績が発表されつつあるので、このような業績、及び一部企業から明らかにされる可能性のあるこの先の業績見通し等によっても米国株式相場とともに原油相場がその影響を受ける場面が見られることもありうる。
米国では1月後半以降も最終消費段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期はなお続く(暖房シーズンは概ね11月1日から翌年3月31日までである)ものの、製油所の段階では、既にある程度暖房用石油製品の生産が完了しつつあり、むしろ間もなく春場の石油不需要期(冬場の暖房用石油製品需要期が終了に向かう反面、夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期にはまだ早い)に突入するとともに、メンテナンス作業実施が視野に入ることで製油所は稼働を引き下げ始め、原油の購入を不活発にしてくる。このため、原油に対する需要がこの先低下するとの観測を含め、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることから、この面で原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。ただ、暖房用石油製品需要の中心地である米国北東部において、この先平年を割り込む気温が長期化したり、気温が平年を大きく割り込む旨の予報が発表されたりすると、一時的であれ、市場での暖房油を含む暖房用石油製品需給の引き締まり感の強まりから、暖房油価格、そして原油価格等が上昇する場面が見られることもありうる。また、12月23日を中心として、米国では大寒波(エリオット)が来襲したことに伴い、テキサス州を含むメキシコ湾岸及び中西部における製油所の装置の稼働に不具合が発生した結果、同国の石油需給が混乱する場面が見られた。この先も冬場の期間中、再び大寒波が南下することにより、製油所の操業に支障が発生したり、石油・天然ガス生産関連施設においてパイプ等の資機材に凍結が発生したりすることにより、原油、天然ガスもしくは石油製品等の供給が減少する結果、原油価格等が変動するといった事象が発生する可能性も否定できない。
OPECプラス産油国は次回の閣僚級会合を2023年6月4日に開催することとしており、現時点においてはそれまでは閣僚級会合を開催しない予定である。ただ、12月5日を以てロシアにより海上輸送経由で販売される原油の購入をEU諸国が原則禁止したことや、同じく12月5日に実施された、G7やEU等によるロシア産石油販売に対する事実上の上限価格設定に対するロシアによる石油販売制限の動き、そしてその後の世界石油供給の平準化に向けたプロセス、及び中国の新型コロナウイルス感染抑制策の縮小に伴う同国経済及び石油需要回復への期待拡大の反面同国における新型コロナウイルス感染拡大リスクの存在等を巡り、石油市場においては不透明感が強い状態が当面継続するものと考えられる。そして不透明要因の展開次第では、次回OPECプラス産油国閣僚級会合開催以前の段階で原油価格が乱高下するといった場面が見られる可能性もある。そして、仮に石油需給緩和感が市場で広がることにより、原油価格の下落が持続する、もしくは原油価格が急落する兆候が見られる、といった場合、OPECプラス産油国が原油生産を調整すべく速やかに行動しなければ、OPECプラス産油国は原油価格下落抑制への対応が後手に回るとの印象を市場に与える結果、原油価格が下落し続けるとともに、そのような事態に陥ってからOPECプラス産油国が原油生産調整方策を実施しても、原油価格が制御不能な状況になるとともにロシアを含め増産に苦慮する産油国を中心として原油収入の減少を招く恐れがある。このため、そのような事態に陥る前にOPECプラス産油国は原油価格下落抑制のために先制的に原油生産目標削減に言及する(いわゆる「口先介入」を行う)他、それでも原油価格の下落が抑制されないようであれば、原油生産目標引き下げを検討、そして、6月4日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合を待たずして、臨時のOPECプラス産油国閣僚級会合を開催することを含め協議の機会を設け(2月1日にはOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を開催する旨12月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合で決定されたとされるが、市場の動向により必要とされる場合にOPECプラス産油国閣僚級会合を含めた追加の会合を開催する権利がJMMCに付与されている)、原油生産目標等の再調整を実施することを通じ、原油相場下落の抑制を試みようとする可能性があるものと考えられる。
また、中国において新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制及び経済活動制限が大幅に緩和されつつあることに伴い、同国石油需要が回復するとともに世界石油需給が引き締まることにより2023年は原油価格が上昇するとの予想が米国等の金融機関により示されやすくなるものと見られる(既に米国大手金融機関ゴールドマン・サックスは2023年第3四半期までに、そしてモルガン・スタンレーは2023年末までに、ブレント原油価格が1バレル当たり110ドルに到達する可能性があるものと見ている旨1月11~12日に報じられる)が、これにより石油市場関係者の原油価格上昇期待が拡大する結果、実際に原油先物市場に資金が流入することを通じ、原油価格が上昇する場面が見られるといった展開となることもありうる。
全体としては、石油市場では冬場の暖房シーズンの終了が視野に入り始めるとともに春場の石油不需要期が意識されることにより、この面では、原油相場に下方圧力が加わりやすいものと考えられる。しかしながら、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴う、欧米諸国等のロシア産石油購入の原則禁止措置等が実施されつつあることに伴い、ロシア産石油供給が混乱するとの懸念が市場関係者間で発生しやすいこと、中国の新型コロナウイルス感染抑制策の緩和等に伴う同国石油需要回復期待が市場で増大しやすいこと、米国金融当局による金融引き締めペースの減速とともに同国等の経済持ち直しに対する観測が市場で広がりやすいこと等から、この先石油需給引き締まり感が市場で醸成されること等を通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。しかしながら、中国での新型コロナウイルス感染抑制策緩和に伴い同国での新型コロナウイルス感染拡大への懸念が強まるようであれば、かえって中国及び世界経済に負の影響が及ぶことに伴い石油需給緩和観測が市場で増大するとともに原油価格が抑制される、といったリスクも抱えているものと考えられる。
4. ロシアのウクライナへの事実上の侵攻以降の世界の原油の流れの変化に関する一考察
2022年は、特に2月24日のロシアのウクライナへの事実上の侵攻開始後、米国を初めとする西側諸国等による石油分野等における対ロシア制裁やロシア産石油を取引することに伴う西側諸国等の企業に対する「評判リスク(Reputation Risk)」発生への懸念等により当該取引を敬遠する動きが企業間で発生したこともあり、同年3月には4月以降ロシア産石油供給が日量300万バレル減少する可能性があるとの見方も示された。このようなことが一因となり、2021年平均では1バレル当たり68.11ドルであった原油価格は2022年3月から6月にかけ終値ベースで1バレル当たり120ドルを超過する場面が見られるなど高騰した。しかしその後原油価格は下落し、12月9日には1バレル当たり71.02ドルの終値と、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施開始以前である2021年12月20日の終値(この時は同68.23ドル)以来の低水準にまで下落した。その後多少原油価格は回復、2022年末には1バレル当たり80.26ドルと2021年末の終値(同75.21ドル)を若干上回ったものの2022年最高水準の終値(3月8日の1バレル当たり123.70ドル)を35%程度下回るなど、原油価格高騰は沈静化する格好となった。その背景としては、中国における新型コロナウイルス感染拡大とともに厳格な新型コロナウイルス感染抑制策(いわゆる「ゼロコロナ政策」)の実施に伴う同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念、原油を初めとするエネルギー価格高騰や労働力不足等に伴う物資製造及び輸送上の隘路の発生による物価高騰と各国等の金融当局による政策金利引き上げ等の積極的な金融引き締め策の推進、そしてそれに伴う景気後退(及び石油需要抑制)懸念の拡大等といった、いわゆる石油需要面に起因する要因も挙げられるが、米国の戦略石油備蓄(SPR)からの原油供給(2022年5月1日以降約半年に渡り合計で1.8億バレル(日量100万バレル相当)の原油を供給することを企図したものであった)に加えロシア等からの石油供給を巡る状況もあった。そこで、ここではロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施以降のロシア等からの原油供給の流れの変化を中心に考察することとしたい。
ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴い、まず3月8日に米国のバイデン大統領がロシアからの原油及び天然ガス等のエネルギー輸入を禁止する旨、また同日英国も2022年末にかけ段階的にロシア産原油輸入を停止する旨発表した。このような制裁の発動に伴い、米国(2021年8月には日量31万バレルのロシア産原油輸入していた)は2022年4月に日量2.4万バレルの原油を輸入して以降今日に至るまでロシアからの原油輸入はなされていない(図16参照)。また、英国(2020年10月には日量15万バレルのロシア産原油を輸入していた)も、2022年4月に日量2.5万バレルの原油を輸入して以降ロシアからの原油輸入は見られない(また、ロシアから米国へは2022年3月、英国へは同年4月の、それぞれ原油輸出が最後のものとなっている、図17参照)。
米国が輸入している原油の中心は中質もしくは重質高硫黄原油であり(同国輸入原油の約半分を占める)、米国が主に輸入していたロシア産原油は中質高硫黄原油であるウラル(Urals、API比重31度、硫黄含有分1.3%)原油であった。このロシアからの原油輸入も、米国の対ベネズエラ制裁発動に伴い米国がそれまで輸入していたベネズエラ産の重質高硫黄原油の輸入を禁止したことにより、その代替で輸入していた格好となっていたものであった。そして、中質高硫黄原油を主体とするロシア産原油の輸入を禁止した代わりに、重質高硫黄原油を中心とする、同国メキシコ湾岸地域で保有される戦略石油備蓄(SPR)からの原油が2022年5月1日以降米国市場に供給され、主に米国メキシコ湾岸地域を中心とするところに位置する製油所(従来ベネズエラ等の重質高硫黄原油を処理するために、施設が高度化されていた)において処理されたものと考えられる。他方、米国内でシェールオイル生産が増加したことに伴い、供給が拡大したWTI等の軽質低硫黄原油は、欧州等における高度化されていない製油所に向け輸出されたものと推測される。
他方、海上輸送を通じたロシアから供給される原油につき2022年12月5日を以て購入を原則禁止する旨の対ロシア制裁を発動すると6月3日にEUが発表した(同日発効)。当該制裁が発動される前の段階で、EU加盟国の中でもドイツ、フランス、フィンランド及びリトアニア等はロシアからの原油の受入を既に相当程度削減していた。しかしながら、ロシア大手民間石油会社ルクオイル(Lukoil)が自社製油所を所有していた(共同所有の場合あり)ブルガリア(ブルガス(Burgas)製油所、原油精製能力日量14万バレル)、ルーマニア(プロイェシュティ(Ploiesti)製油所、同日量5万バレル)、イタリア(イサブ(Isab)製油所、同28万バレル)及びオランダ(ゼーラント(Zeeland)製油所、同7万バレル)といったEU加盟国や、EU加盟国ではないトルコ等は、制裁発動前と比較して同水準か発動前を上回る水準でロシア産原油輸入を継続した(図18参照)。
それでも、EU諸国と重複する部分の大きい欧州OECD諸国のロシア産原油輸入は2022年を通じ全体として減少傾向を示した。しかしながら、これら地域における原油輸入総量自体は大幅に減少したわけではなく、むしろそれほど変化のない状況であった(図19参照)。従って、ロシアからの輸入が減少した代わりに他国産の原油が欧州OECD諸国に流入したことが示唆される(図20参照)。ロシア産のウラル原油の代わり流入した原油として挙げられるのは、まず、サウジアラビアのアラブライト原油を中心とする中質高硫黄原油であった。また、欧州でも英国、イタリア及びオランダはロシアからシベリアン・ライト原油(API比重38度、硫黄含有分0.6%)、ヴァランディ(Varandey)原油(API比重37.8度、硫黄含有分0.4%)、及びノヴィー・ポート(Novy Port)原油(API比重35度、硫黄含有分0.1%)といった軽質原油を輸入していた(高度化されていない製油所向けに供給されていたものと見られる)。このため、このようなロシア産原油を輸入していた欧州各国は代替として米国からWTIを含む軽質原油の輸入を活発化させたものと考えられる。さらに、欧州はアンゴラ及びブラジルからの原油輸入を拡大しているが、特にブラジルは新たな油田が生産を開始しつつあることもあり原油生産自体が増加している(図21参照)ことが寄与する格好となっている(アンゴラについては後述)。加えて、欧州諸国はノルウェーからの原油輸入を活発化させた(他方、ノルウェーは欧州諸国向けに原油供給を振り向ける代わりに、中国への原油供給を削減する格好となった、図22参照)。そして、2022年の夏場を中心として、欧州諸国は南米の新興産油国ガイアナで生産されるガイアナ・スイート(API比重32度、硫黄含有分0.5%)の輸入を拡大する場面も見られた。
日本や韓国、及び中国を含む北東アジア諸国では、欧州ロシア(同国のバルト海沿岸港や黒海沿岸港等)で出荷される原油は長距離の輸送を必要とすることにより、より長い輸送期間とより高水準の輸送費用が必要となることから、従来はロシアの大西洋圏向け輸出の主力原油であるウラル原油とほぼ同品質である一方、輸送距離が相対的に短い中東産の中質高硫黄原油を調達していたが、2009年12月28日には東シベリア-太平洋(ESPO:East Siberia-Pacific Ocean)パイプライン(原油輸送能力はタイシェット(Taishet)~スコボロジーノ(Skovorodino)日量160万バレル、スコボロジーノ~コズミノ(Kozmino)同100万バレル、スコボロジーノ~大慶(中国)同60万バレル)の開通により、サハリンで生産される原油(1999年7月8日にサハリン2プロジェクトが原油の生産を開始、2005年10月にサハリン1プロジェクトが原油生産を開始するとともに2006年10月に同プロジェクトで生産される原油の輸出を開始)と併せ、ロシアから北東アジア諸国方面へ同国産原油が相当程度の水準で供給されることとなり、これを以て同地域での供給源の多様化に寄与する格好となった。しかしながら、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴う、西側諸国等による対ロシア制裁やロシア産石油を引き取ることに伴う企業の評判リスクの発生への懸念等もあり、日本によるロシア産原油の引き取りは2022年5月を最後に一旦は停止した形となった(図23参照、ただ、12月5日に発効した、G7及びEU等によるロシア産石油販売価格上限設定の際、日本のサハリン2プロジェクトからの原油輸入が2023年9月30日午前零時1分(米国東部時間)まで対象外となった後、日本は2023年1月初頭にサハリン2プロジェクトからサハリン・ブレンド原油を輸入している)。また、韓国は減少してはいるものの現在に至るまでロシア産原油の輸入を継続している。
米国、英国を含む欧州OECD諸国、日本及び韓国がロシア産原油の購入を削減した一方、中国及びインドはロシア産原油の引き取りを相当程度拡大した。2021年時点で中国は原油輸入合計日量1,060万バレル中ロシアからの輸入は同160万バレルと同国原油輸入に占める割合は15%程度と決して小さくはなかった(図24参照)ものの、ロシアからの原油輸入を拡大する余地はあった。またインドについては、2021年時点の同国の原油輸入合計日量430万バレル中ロシアからの輸入は日量9万バレルと極めて限定的な規模にとどまっていた(図25参照)ことから、インドがロシアからの原油輸入を拡大する余地は相当程度存在した。このようなこともあり、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施後、西側諸国等がロシア産原油の引き取りを削減しつつある中、中国やインドはロシア産原油の引き取りを拡大する方向に向かった。そして、2022年のロシアの中国への原油輸出量は特に4月以降海上輸送経由のものが高水準となったこともあり日量170~180万バレル程度に到達したものと推定される一方、2022年のロシアのインド向け原油輸出量は同70万バレルとなったものと推定される他2022年11月には日量120万バレル程度の原油がロシアからインドに向かったものと見られる。そして、ロシアからの原油輸入を積極化した反面、中国はノルウェーに加えアンゴラ(従来中国企業が同国で石油探鉱・開発・生産活動を実施していた他、中国がアンゴラに対し提供した借款の返済が原油で行われていた側面があった)、及びナイジェリアからの原油輸入を、インドはナイジェリア及び米国からの原油輸入を、それぞれ削減している。例えば、2022年3月には日量37万バレルであった中国のノルウェーからの原油輸入は、同年8月には皆無となった。また、2022年2月には日量86万バレルであった中国のアンゴラからの原油輸入は同年10月には同48万バレルへと減少する場面が見られた他、2022年2月には日量8万バレルであった中国のナイジェリアからの原油輸入も以降はほぼ皆無となるなどした。また、2022年3月には日量34万バレルであったインドのナイジェリアからの原油輸入量は同年8月には日量6万バレル程度に減少した他、2022年2月には日量63万バレルであったインドの米国からの原油輸入は同年10月には同16万バレルへと減少したものと推測される。前述の通り従来中国に向かっていたアンゴラの原油はその代わりに欧州に向かうことになった。一方、インドで引き取らなくなった米国産原油も結果として欧州に向かう格好となった。ただ、ナイジェリア産原油が中国やインドに向かわなくなった背景には、中国やインドがロシア産原油の引き取りを拡大したことに加え、ナイジェリア国内で原油パイプライン等のインフラに対する破壊行為が発生したことに伴い同国の原油生産が減少した(図26参照)ことも挙げられる。
このようにロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴い、米国を含む西側諸国等においてはロシア産原油の引き取りを削減する動きが見られたが、他の産油国での生産が拡大したことや、米国SPRから原油が供給されたこと、中国及びインドがロシア産原油の引き取りを拡大したことに伴い、結果として中国及びインドで引き取らなくなった原油等が欧州等に向かうとともに、世界の原油供給の流れが平準化されたこと等により、市場での世界石油需給引き締まり感も限定的なものにとどまった。このため、2022年3月8日に1バレル当たり123.70ドルの終値と、2008年8月1日の終値(この時は同125.10ドル)以来の高水準に到達した原油価格は1月13日時点では同79.86ドルとロシアのウクライナへの事実上の侵攻以前の2022年1月時点とほぼ同水準で推移している他、2022年3月時点では日量300万バレル程度の石油供給が減少する恐れがあるとの見方も発生したロシアの原油生産量は2022年12月時点においても推定日量986万バレル(コンデンセートは含まれないものと見られる)と2022年2月比で同19万バレルの減少にとどまっているものと推定される。
以上
(この報告は2023年1月16日時点のものです)