ページ番号1009618 更新日 令和5年2月8日
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- EU加盟国は2月3日、5日から発動することとなっていたロシア産石油製品の海上輸出における価格上限設定措置について、ガソリンや軽油等の原油に比して市場価値の高い製品は、1バレル当たり 100 ドルに、重油等の原油に比して市場価値の低い製品は同45 ドルに設定することで合意したことを発表。
- “Premium to Crude”キャップ:バレル当たり100ドルと設定する。
…対象:ガソリン(gasoline)、潤滑油(motor oil)、石油製品製造用のブレンディング・ストック(blending stock)、軽油(gasoil)、ディーゼル燃料(diesel oil)、灯油(kerosene)、シェット燃料(kerosene-type jet fuel)及び減圧軽油(vacuum Gas Oil)
- “Discount to Crude”キャップ:バレル当たり45ドルと設定する。
…対象:ナフサ(naphtha)、残渣燃料油(residual fuel oil)及び廃油(waste oil)
- EU以外の「価格上限連合(Price Cap Coalition)」であるG7諸国及び豪州は、石油製品に対する価格上限の設定について、ウクライナの侵攻前からロシア産石油製品の主要な輸出市場であるEUに委ねていた。EUの決定を受けて、米国、英国、カナダも同日同じ内容の措置をリリースしている。日本政府も2月6日に同様の措置を発表したが、発効日は他諸国と異なり、6日となっている。
- 猶予期間については、発効日の2月5日(日本は2月6日)より前に積み込まれ、4月1日までに荷降ろしされたロシア産石油製品については、55日間の猶予期間が与えられることとなった。
- なお、この措置の例外としてロシア産原油の取り扱いと同様に、米国政府は2022年6月3日付欧州理事会規則(EU2022/879)に記載されている、ブルガリア、クロアチア、内陸のEU加盟国へのロシア産石油(oil)の輸入に関連する取引については次の条件で石油製品輸入の継続を認めている。
ブルガリア: | 2022年12月5日から2024年12月31日まで、2022年6月4日より前に締結された契約を対象。 |
クロアチア: | 2022年12月5日から2023年12月31日まで、減圧軽油(vacuum Gas Oil)を対象。 |
内陸のEU加盟国: | ロシアからのパイプライン経由の原油供給がその国の管理外の理由で中断された場合には、その供給が再開されるまで、又は欧州理事会がその国に対する免除を終了することを決定するまでのいずれか早いタイミングまでを対象。 |
- また、12月5日から発動されたロシア産原油の価格上限である60ドルについては、当初2カ月おきに行うこととなっており、このタイミングでの見直しが予定されていたが、ロシア産原油の実勢価格が価格上限を下回っている市況に鑑み、3月に先送りすることでも合意した。
- ビロルIEA事務局長は、価格上限設定への支持を表明し、「いくつかの移行上の問題があるかもしれないが、今年の下半期には、かなりの量の新規製油所能力が世界で稼働し、石油製品の多くのルート変更が見られるだろう」とし、今回の措置が大きな問題や混乱を引き起こすとは考えていないと述べている。
- 例えば、欧州市場の低硫黄軽油価格(参考②参照)はウクライナ侵攻後上昇し、6月には最高値である100メトリックトン当たり1,100ドル(バレル当たり147ドル)近くまで値を付けたが、その後下落し、2月3日時点では同819ドル(同110ドル)まで下がっている。他方、ロシア産ディーゼル燃料は同国産原油同様に制裁リスクからディスカウントされており、価格は1バレル90ドル前後で取引されている模様。従って、今回の価格設定はロシア産原油に対する価格設定同様に、市場の混乱を招かないレベルを設定しながら、それでも利ざやを意識し、安価な石油製品を求める「友好国」やトレーダーにロシア産石油製品をさらに買い叩く材料を与えるように設定されたと考えられる。
- ロシア産石油製品、特にディーゼル燃料への依存が高い欧州は、今後主に中東と米国に供給の代替を図っていくことになるだろうと予想されている。中東ではクウェート(アル・ズール製油所/日量61.5万バレル)、オマーン(ドゥクム製油所/日量23万バレル)が夏に始動し、サウジアラビアもディーゼル燃料生産拡大の可能性が高い。
- また、今回の措置では米国及び欧州両制裁文書でも「仕向け地でロシア産原油が精製され、新たな石油製品となれば、ロシア産起源とは見做されず、その後海上輸送で輸出されても適用されない」ことが明記されている。「友好国」が大幅にディスカウントされたロシア産原油を輸入し、国内で精製された石油製品が欧州市場へ還流されることも織り込まれた措置となっている。十分な精製能力を持つ国が、ロシア産原油及び石油製品を低価格で購入し、国内で精製した石油製品を国内向けはもちろん欧州に販売することもできるだろう。石油製品専用タンカーの傭船キャパシティの問題はあるにせよ、中東、インド、そして石油製品輸出を増加する中国からの新たな欧州向けフローが出てくる可能性がある。
- ロシアは欧州を代替する市場として、既に比較的輸送距離の短い北アフリカ及びトルコへの転換を図り始めている。ラテンアメリカは構造的に石油製品が不足しているが、そこまで移動するカーゴは限定的と見られている。また、石油製品市場は原油市場よりも複雑で、地域毎に異なる燃料仕様があり、高価な混合や再処理が必要となる。輸送方法(石油製品専用のタンカー数の限界)が最大の障害になる可能性も指摘されている。
- Energy Intelligenceの試算では、ロシアの石油製品売上高は2022年に合計900億ドルに達したという(2021年ロシア政府の貿易統計では1,215億ドル)。これは、同原油売上高試算額である1,460億ドル(2021年は1,101億ドル)を下回るが、依然としてロシアにとって重要な取引だったと言える。欧州は2022年に日量平均140万バレルのロシア産石油製品を輸入し、今年1月初旬にはまだ約日量100万バレル(ディーゼル燃料:日量54万バレル/ガソリン及びナフサ:同39万バレル/燃料油:同6.5万バレル)を輸入していた。月末には半分にまで減少しており、2023年の輸出量は全体で日量65万バレル減少すると見ている。

出所:IEA-OMRからJOGMEC取り纏め

出所:ICE公開データを元にJOGMEC作成


注) 官報については執筆時点で発表待ち。

その他、執筆時点で以下の国が同措置をリリース。
- 英国:https://www.gov.uk/government/news/uk-and-coalition-partners-announce-price-caps-on-russian-oil-products(2月3日)(外部リンク)
- カナダ:https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2023/02/g7-and-australia-expand-russian-oil-price-cap-to-petroleum-products-further-reducing-russias-revenues.html(2月3日)(外部リンク)
参考文献等
欧州委員会HP
リリース https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_602(外部リンク)
ガイダンス https://finance.ec.europa.eu/system/files/2023-02/guidance-russian-oil-price-cap_en.pdf(外部リンク)
Q&A https://finance.ec.europa.eu/system/files/2023-02/faqs-sanctions-russia-oil-imports_en.pdf(外部リンク)
米国財務省HP
リリース https://home.treasury.gov/policy-issues/financial-sanctions/recent-actions/20230203_33(外部リンク)
ガイダンス https://home.treasury.gov/system/files/126/price_cap_guidance_combined_20230203.pdf(外部リンク)
一般ライセンス(56A) https://home.treasury.gov/system/files/126/russia_gl56a.pdf(外部リンク)
一般ライセンス(57A) https://home.treasury.gov/system/files/126/russia_gl57a.pdf(外部リンク)
ロイター(2023年2月2日)
PIW(2023年2月2日)
ロイター(2023年2月3日)
IOD(2023年2月3日)
Bloomberg(2023年2月4日)
以上
(この報告は2023年2月6日時点のものです)