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チリのグリーン水素・アンモニア事業に関する現状、 課題及び将来予測

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レポートID 1009619
作成日 2023-02-08 00:00:00 +0900
更新日 2023-02-08 10:00:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 エネルギー一般
著者
著者直接入力 兵土 大輔
年度
Vol
No
ページ数 33
抽出データ
地域1 中南米
国1 チリ
地域2
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地域5
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国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,チリ
2023/02/08 兵土 大輔
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JOGMECサンチャゴ事務所兵土副所長が2022年9月16日にJOGMEC金属資源情報に寄稿したレポート(https://mric.jogmec.go.jp/reports/mr/20220916/169816/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます)を先方了承のもと掲載する。

 

はじめに

世界では、脱炭素化の流れが加速しており、各業界は大きな転換期を迎えている。カーボンニュートラル(CN)への取り組みは、企業の社会的責任(CSR)のみならず、企業の成長戦略として重要な要素として定着しつつある。

1997年12月、京都府で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)において、日本ほか先進国に温室効果ガス(GHG)排出削減目標を課す京都議定書が採択された。日本は、2008~2012年の間までにGHG排出量を1990年比で6%削減するという目標に対し8.4%削減を達成しており、GHG削減への取り組みの第一歩となった。それから10年後の現在、世界では脱炭素化への取り組みがより一層進展しており、鉱業カンファレンス等ではESG(環境・社会・ガバナンス)や持続可能な鉱業に並んで低炭素社会及びCNに関する話題が尽きない。具体的には、2050年までにCN達成を目指す国ないし企業が増えており、鉱山では化石燃料から再生可能エネルギー(再エネ)等のクリーンエネルギー由来の電力利用へ転換する動きが加速している。その中で、将来的に水素及びアンモニアは脱炭素化に向け必要不可欠なエネルギー源として注目されている。

チリには再エネの豊富な資源ポテンシャルがある。近年、チリでは太陽光及び風力発電所の普及が促進しており、またそれらをエネルギー源としたグリーン水素・アンモニア生産プロジェクトが立ち上がっている。チリのグリーン水素・アンモニア生産プロジェクトは、2021年6月時点で15件[1]から2022年4月までに22件[2]へと増加している。チリは、世界的に見るとグリーン水素・アンモニア生産技術開発に関し先行していると言える。

本稿は、チリのグリーン水素・アンモニア事業に関する現状、課題及び将来予測について情報収集を行い取りまとめたものである。

 

1. 水素の概要

水素は、原子番号1の元素であり、宇宙で最も豊富に存在する。また様々な元素と水素結合し化合物として地球上に存在している。その代表的な化合物が水である。また、水素と窒素で構成された化合物がアンモニアである。水素の特性としては、最も軽い気体であり拡散速度が速い、燃焼すると酸素と反応して水になる、-253℃で液化する等が挙げられ、従来工業用途やエネルギー源として利用されてきた。鉱業では脱炭素化への取り組みとして、製鉄のエネルギー源としての利用、鉱石運搬トラックの燃料をディーゼルから水素へ転換する技術開発等が進められている。今般、水素生産の技術開発段階でありかつ需要が不透明である一方で、数年ないし数十年後には需要の増加及び市場の拡大が予測されており、メジャーなエネルギー源になると言っても過言ではない。

水素はその生産に利用されるエネルギー源や製造工程の違いにより、3つの色で表現される[3]。化石燃料をベースとしてつくられた水素を「グレー水素」、また水素の製造工程で排出されたCO2について、回収して貯留ないし利用したりするCCS(Carbon Capture and Storage)及びCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)技術と組み合わせることで、CO2排出量を抑えた水素を「ブルー水素」、再エネ等を利用して、製造工程においてCO2排出せずに生産された水素を「グリーン水素」と呼ぶ。本稿においても、同分類を参考にした。

 

2. チリ政府のグリーン水素に関する政策と取り組み

2-1. チリ政府のグリーン水素に関する政策

2019年6月に大阪で開催されたG20サミットにチリはゲスト国として参加し、2050年までにCNを達成する目標を発表し気候変動対策に意欲的な約束をした。2020年、チリは国家的決定貢献[4]を更新し、南米で初めて、2015年パリ協定の気候変動対策の約束更新の第1サイクルを遵守する国となった。

クリーンな発電と効率的なエネルギー利用は、気候変動対策の目標を達成するための重要な要素である。チリでは、2010年にエネルギー効率を専門に扱う「エネルギー持続可能性庁」[5]が設立されて以来、大きな進展があった。再エネ電源の参入拡大に基づく全国の電力構成の近代化は、2007年の再エネ法の制定を皮切りに、2015年から実施された価格規制の対象となる需要家の電力供給入札制度の改善に端を発している。2015年1月29日、法律第20,805号が官報に掲載され、配電事業者の供給入札制度を変更し、時間単位の供給ブロック制度を設け、太陽光及び風力発電の変動電源と従来電源(ガス、石炭、石油、容量20MW超の水力)が平等に競合するようになった。他方、エネルギー貯蔵の課題、コスト効率及びアクセス等、脱炭素化を達成するためには、補完的なソリューションを開発する必要があり、その中でグリーン水素は、課題解決のための重要な役割を担っている。

豪州、サウジアラビア及びヨーロッパ大陸の国々とは異なり、チリにはブルー水素の大規模生産を可能とする化石燃料等の資源がない。その代わりに、チリには、最南端のMagallanes地方に優れた風力発電ポテンシャルを持つ広大な地域があり、また北部のAtacama砂漠には太陽光発電ポテンシャルが認められているため、グリーン水素が唯一の選択肢となる。このような背景から、チリでは「グリーン水素国家戦略[6]」が生まれた。

2019年半ば、チリ産業開発公社(CORFO)は、チリにおける水素ロードマップを定義するための調査を実施した。さらに、エネルギー省は、公共政策の専門家からなる諮問委員会を招集し、戦略の横断性と継続性を保証する戦略的ガイドラインを提供するようにした。このように、戦略の策定にあたっては、諮問委員会に加えて、企業、大学、研究所の代表者による技術円卓会議、NGO及び市民団体の代表者による市民ワークショップ、各省庁及びCORFO、ドイツ国際協力公社(GIZ)が参加した組織間円卓会議を開催し議論した。また、戦略文書の最終版は、同省のウェブサイトを通じてパブリックコンサルテーションに提出された。最後に、エネルギー省は米McKinsey & Company(McKinsey)社の助言を受け、チリにおけるグリーン水素の市場・生産予測を行った。このコンサルタントは、チリにおけるグリーン水素の中長期的な平準化エネルギーコスト(LCOE)、グリーン水素及びその化合物の現地市場、2050年のグリーン水素の潜在的な市場について予測を行った。

表1.チリにおけるグリーン水素に関する規制の進捗状況
規定 手続きの状況
チリにおける省エネに関する法律第21,305号 発布済み[7]
H2V 及びその化合物の規制のためのロードマップ 作成中
H2V 安全規制 公聴会中[8]
H2V 促進法:天然ガスとの混合 憲法議会最初の手続き[9]
蓄電促進法:エネルギーの出し入れを行うH2V事業に対する発電-消費スキームを盛り込む 憲法議会二度目の手続き[10]

 

さらに、エネルギー省は、グリーン水素国家戦略の一環として、国内の水素プロジェクトの保有者や開発者に対して、地域及び環境変数に関する監視、支援、指導を強化する「Plan+Energía: Hidrógeno Verde」プログラムを実施している。これは、基本的な情報へのアクセスを簡素化するために、誰もがアクセスできるオープンなプラットフォームによって、ガイダンスとサポートを提供する。「プラットフォーム・アクセス」ルートの詳細は、エネルギー省のホームページで公開している[11]

最近では、グリーン水素国家戦略及び英国Scotland・Glasgowで開催されたCOP26にてチリが約束した枠組みの中で国家資産省は、チリにおけるグリーン水素生産のための国有地の割り当てからなる「国有地におけるグリーン水素生産促進のための国家計画」を承認した[12]

 

2-2. チリ政府が策定したグリーン水素国家戦略及び法律

グリーン水素・アンモニアに関する戦略及び法律について紹介する。

グリーン水素国家戦略の策定(2020年11月)

2020年11月、エネルギー省は、グリーン水素産業を発展させ、2040年までにチリをこの再生可能燃料の世界有数の生産国にすることを目的とした「グリーン水素国家戦略」を打ち出した。この最初のステートメントとともに、戦略は3つの主要な目標に基づいて提示されている。

  • 2025年までに5GWの電解設備を開発する。
  • 2030年までに世界で最も安価なグリーン水素の生産を目指す。
  • 2040年までに水素輸出国トップ3入りを目指す。

戦略は3つのステージで策定される。

ステージⅠ(2020~2025年)

チリで優先課題とされている6つの主要用途(精油所での使用、国産アンモニア、鉱山用トラック(CAEX)、大型トラック、長距離バス、ガス供給網への注入(20%まで))の展開に向け、国内市場を活性化させ、輸出を開拓する。

  • 精油所での使用:石油精製において、水素化脱硫及び水素化分解等の工程で水素が使用される。前者は、水素を使って燃料中の硫黄分を低減するものである。最終的な硫黄含有量に関する環境規制の強化により、この目的のための水素の消費量が増加している。一方、水素化分解は、水素を使って重い炭化水素分子を軽い燃料に分解するものである。
  • 国産アンモニア:水素は、空気中から窒素分子を取り込むハーバー・ボッシュ法(HB法)によるアンモニア製造に使用される。現在、チリのアンモニアは輸入品のみで、主に鉱山用火薬の製造に使用されている。
  • 鉱山用トラック(CAEX):チリにはCAEXと呼ばれる世界最大級の大型トラックが多数あり、銅及び鉄鉱石を中心とした大型露天掘り鉱山での鉱石の積み出しや採掘に従事している。CAEXトラック1台あたり、平均して120万L/年以上のディーゼルを消費し、CO2換算3,300t以上を発生させていることになる。2017年、CORFOはCAEXトラックの水素とディーゼルの混合デュアル燃焼への転換を実現することに特化した技術コンソーシアムの設立を呼びかけた。現在、チリでCAEXトラックの車両が使用しているエンジンを採用し、ディーゼルを40〜70%水素に置き換えることを目標としている。
  • 大型トラックと長距離バス:燃料電池を搭載した電気バスやトラックを長距離走行させるには、燃料の物流、貯蔵、流通に加え、この技術特有のいくつかの課題がある。国際的な経験からこの分野では進歩が見られ、その技術的な規模から2025年には長距離での燃料電池のオプションがコスト競争力を持つようになると推測される。
  • ガス供給網への注入:既存のガスネットワークへの水素の統合や追加は、欧州で成功した経験があり、混合率は主にパイプラインの圧力とスチールの質によって20~30%の範囲になる。エネルギー省、国家エネルギー委員会(CNE)[13]、電力・燃料監督庁(SEC)[14]は、2021年5月、ガスネットワークにおける水素割当に関する法案の起草に向けた共同作業を開始したと言われている。
ステージⅡ:2025~2030年

この段階での主な目的は、地元の経験を生かし、設置電力がGWクラスの大規模なコンソーシアムを誘致・推進することにより、グリーン水素・アンモニア生産及び輸出産業を構築し、国際市場へ参入することである。同時に、チリから様々な国への水素輸出の開発を加速させるべく、協定を結ぶための政府交渉を進めることも提案されている。

ステージⅢ:2030年以降

クリーンエネルギーのグローバルサプライヤーとしての地位を確立するため、シナジーとスケール経済を追求するための探索段階である。今後、より多くの国で脱炭素化への取り組みが強化され、新技術の開発が進めば、海運におけるグリーンアンモニアや航空における合成燃料の利用を中心に、市場の拡大が見込まれる。

 

チリ初のエネルギー効率化法(2021年2月)

2021年2月、チリのエネルギー効率化に関する法律第21,305号が承認された[6]。これは、エネルギー資源の合理的かつ効率的な利用を促進し、生産性、経済競争力、人々の生活の質の向上に貢献するとともに、汚染物質の排出を削減するものである。この規制の重要性は、水素を燃料として明示的に宣言し、エネルギー省に規制の権限を与え、エネルギー資源として扱えるようにしたことである。また、この法律はSECに特別な権限を与えており、特定の規制がない場合、チリで開発された水素及びその化合物の分野における様々な取り組みを受け入れることができるようになっている。

 

SECに与えられた、水素関連の新規プロジェクト承認手続きのための権限

チリでは、エネルギー効率法の制定時点で、水素設備の設計、建設、試運転、運転、保守、検査、設備の最終的な停止に関して、特別な規制がなかったことを考慮し、法律第21,305号において、チリは、水素及びその化合物のように規制されていない技術の使用を許可するために、「特別プロジェクト[15]」の審査及び許可に関する独自の独占権をSECに付与した。

エネルギー施設に関しては、現行の規制[16]により、石油系燃料、液体バイオ燃料、水素及び水素系燃料、液化ガス燃料、天然ガス、幹線ガス、バイオガス等の全ての可燃性ガス状流体を生産、輸入、輸出、精製、輸送、流通、貯蔵、供給、再ガス化、販売する施設を登録する義務が所有者に課せられている。そのため、水素施設を設置する場合は、SECへの登録が必要である。

水素とその化合物のように規制されていない技術の使用は、特別プロジェクトの許可が必要になる。この特別プロジェクトに対して、エネルギー省は、SECを通じて「水素特別プロジェクト認可申請のためのサポートガイド」を公表している[17]。同ガイドは、デザイン、安全性、品質等に関するプロジェクトの説明に基づいて、申請手続きと認可の取得を簡素化するための行政的性質を持つ簡潔な文書となっている。また、特別プロジェクトの申請には、安全性を保証するために、外国の国際的に認められた規格(ASEM、CSA、NFPA、ISO、EIC等)、または特定の技術的な研究によってサポートされている必要がある。さらに、想定される地震に対する設備、システム、機器の構造解析時に考慮された技術的考察を明記しなければならず、それについては、チリ規格NCh2369.Of2003「耐震構造設計と産業設備」への準拠を証明する計算書を提出しなければならない。

SECはこれまで、グリーン水素プロジェクトの保有者及び開発者と一元的に交流し、ウェブサイト(https://www.sec.cl/oficina-de-partes-virtual(外部リンク)新しいウィンドウで開きます)の「バーチャル当事者オフィス」を通じた電子的な情報入力を推奨している。

 

2-3. チリ政府が締結した水素分野の国際協定

チリ政府が締結した水素分野に関する国際協定を紹介する(表2)。

表2.チリ政府が締結した水素に関する国際協定の概要
No. 締結日 協定の種類(注) チリ・エネルギー省との署名当事者(複数)
1 2021年6月29日 JD ドイツ
2 2021年2月15日 MOU シンガポール共和国
3 2021年3月23日 MOU オランダRotterdam港
4 2021年6~7月 JD 英国、フランス、オランダ
5 2021年11月4日 MOU ベルギーAntwerp港、Zeebrugge港
6 2021年11月9日 MOU 韓国
7 保留中 MOU Hamburg港とFreie und Hansestadt Hamburg(ハンブルグ自由ハンザ都市)

(注) MOU(Memorandum of Understanding)、JD(Joint Declaration)

No.1:ドイツ経済・エネルギー省とグリーン水素協力強化のためのJDを締結

協定の種類:JD

署名当事者:ドイツ経済・エネルギー省/チリ・エネルギー省

協定締結日:2021年6月29日

参考:https://energia.gob.cl/noticias/nacional/chile-y-alemania-firman-acuerdo-para-impulsar-el-hidr%C3%B3geno-verde

2019年4月9日に独Berlinで運用が開始されたチリ・ドイツ・エネルギーパートナーシップ(CHP)の枠組みの中で、2021年6月29日に署名された同JDは、同パートナーシップのための当事者間のプロジェクト活動の調整、グリーン水素の関連問題についての情報共有、さらに政策対話確立のための旗艦プロジェクトの生成と勧告を目的として、グリーン水素に関するワーキンググループを設立することを目的としている。

グリーン水素ワーキンググループは、両国の政府、産業界、研究機関の間で緊密なネットワークを構築することにより、その効果を実現することを目的とする。

ワーキンググループは、以下の優先課題に焦点を当てる:

  • グローバルなサプライチェーンの構築を促進する。
  • セキュリティ標準や手順に関する経験や知識を共有する。
  • 低炭素認証制度の確立に協力する。
  • 政策策定における知識・経験を共有する。
  • パイロットプロジェクトや実証プロジェクトの実施を共同で推進する。
  • 建設・投資コンソーシアム設立の機会を特定する。
  • 民間企業とのネットワークとパートナーシップを深める。

 

No.2:シンガポール共和国通商産業省とのMOU締結

協定の種類:MOU

署名当事者:シンガポール共和国通商産業省/チリ・エネルギー省

協定締結日:2021年2月15日

参考:https://minrel.gob.cl/news/chile-and-singapore-sign-a-memorandum-of-understanding-mou-to

同MOUは、水素産業の発展に向けた行動や取り組みについて、両者が協力することを想定している。協力の分野には、特に、相互利益と関心のあるイニシアチブ及びプロジェクトに関する情報、知識、ベストプラクティスの交換が含まれる。当事者は、産学官民の関係者・団体のレベルで、これらの共同活動を追求することになる。当事国は、さらに、水素に関する相互協力を、二国間及び両国が参加する地域的並びに国際的な組織を通じて強化することを約束する。

 

No.3:Rotterdam港との覚書

協定の種類:MOU

署名当事者:オランダRotterdam港/チリ・エネルギー省

協定締結日:2021年3月16日

参考:https://chile.gob.cl/paises-bajos/noticias/chile-firma-memorandum-de-entendimiento-con-el-puerto-mas-grande-de

同MOUは、チリからRotterdam港までの水素サプライチェーンの確立を促進するために、以下のような複数のプロジェクト及び具体的な問題について共同で議論・分析することを検討し、下記が含まれている:

  • 規制、貿易、技術、労働力の問題解決を同時に進める。
  • 商業的利害関係者との連携構築に関する課題の探求と協力。
  • 取り組みを支援するために、関係する公共団体への協力要請。
  • チリ-Rotterdam港間の水素回廊を確立するためのファストトラック・イニシアチブを開始する。
  • 港湾における水素の安全な貯蔵、取り扱い、積み下ろしのための基準や能力に関する知識の共有を含む、港湾の開発及び管理に関する助言。
  • 港湾インフラの整備や、様々な形態の水素輸送に適した船舶技術の活用に参画する。
  • 低排出ガス水素認証の共同検討。
  • 協定に関わる活動を支援するための情報、経験、ベストプラクティスを共有する。

当事者は、協力に関連する活動を計画及び実施するために、共同で年次作業計画を策定する。当事者は、同計画に定める頻度に従って、定期的に会合を開くことにする。

 

No.4:英国、フランス、オランダとのJD締結

協定の種類:JD

署名当事者:英国、フランス、オランダ/チリ・エネルギー省

  • 英国ビジネス・エネルギー・産業開発省(BEIS)(2021年6月24日)
  • フランス生態系移行省(2021年6月30日)
  • オランダ経済・気候政策省(2021年7月1日)

協定締結日:2021年6月7日

同JDは、英国、フランス、オランダが脱炭素化戦略の中で、ブルー及びグリーン水素が産業からのGHG排出を削減する上で重要な役割を果たすと発表している。もう一つは、3か国とも世界有数の経済大国である一方で、水素やその化合物を他のプレーヤーと競争して生産する能力を持たず、輸入に頼ることになる。このため、チリにとっては、3か国との協力を通じて、チリからグリーン水素を輸出するための契約締結を促進するためのものである。

同JDの4つの柱は以下のとおり:

  • 技術開発
  • 公共政策、規則、規制
  • 貿易協力(特に海外投資促進を中心としたもの)
  • 科学と研究開発

 

No.5:Antwerp港、Zeebrugge港とのMOU締結

協定の種類:MOU

署名当事者:Antwerp港、Zeebrugge港(ベルギー)/チリ・エネルギー省

協定締結日:2021年11月4日

参考:https://energia.gob.cl/noticias/nacional/chile-firma-mou-con-dos-puertos-estrategicos-de-europa-para-fomentar-la-produccion-de-hidr%C3%B3geno-verde

同MOUの主な目的は、チリからのグリーン水素サプライチェーンを確立することであり、そのために両者は、規制、商業、技術、労働力の問題に対処する複数のプロジェクトを共同で分析することになる。同時に、様々な関係公共団体が支援的に関与するための水素輸入連合を設立することを視野に入れ、更なる協力関係を模索する予定である。

具体的には、以下のような契約内容となっている:

  • 港湾開発・管理に関する助言、港湾における水素貯蔵・積み下ろしの安全な取り扱いのための基準・規制・能力に関する知識・経験の交換。
  • アンモニア及び液体水素等、様々な水素輸送の選択肢に関連する新規港湾インフラと既存インフラの再利用の両方への参画(チリとの水素輸送回廊に必要な輸出入インフラを含む)。
  • 計画されている輸出入回廊の実行可能性を確保するため、港湾の持続可能性戦略と連動したCN計画の策定に参加する。
  • 水素の直接供給とその化合物の両方について、低排出ガス水素の認証メカニズムを検討する。

協力活動の実施と計画において、当事者は、目的、目標、成果物、期待される結果、関連する期限を含む年次作業計画を作成することに同意するものとする。

 

No.6:韓国通商産業エネルギー省とMOUを締結

協定の種類:MOU

署名当事者:韓国通商産業エネルギー省/チリ・エネルギー省

協定締結日:2021年11月9日

参考:https://energia.gob.cl/noticias/nacional/chile-y-corea-firman-memorandum-de-entendimiento-para-el-desarrollo-de-hidr%C3%B3geno-verde

同MOUは、当事者が低炭素型水素経済・低炭素型エネルギー技術の確立に向けた行動を強化し、両国の経済発展に対等かつ相互に貢献できるよう努力する契約となっている。各参加者は、産業界、学術界、その他のステークホルダー、官民イニシアチブと協力的な活動を行い、二国間ベース、地域・国際機関、多国間プラットフォームを通じて低炭素型水素経済・低炭素型エネルギー技術に関する協力関係の強化を図る。

 

No.7:Hamburg港とFreie und Hansestadt Hamburg(ハンブルク自由ハンザ都市)とのMOUの締結(保留中)

協定の種類:MOU

署名当事者:Hamburg港とFreie und Hansestadt Hamburg/チリ・エネルギー省

協定締結日:未定

エネルギー省は、MOU締結に成功したオランダRotterdam港とAntwerp港に基づいた協定の第1案をHamburg港とFreie und Hansestadt Hamburgに提出した。現在、カウンターパートによる草稿のレビューが行われている。

 

3. チリのグリーン水素・アンモニア生産におけるコスト、需給及び将来予測

3-1. グリーン水素生産コスト及び将来予測

チリは、将来的なグリーン水素・アンモニアの生産国として世界的に注目されている。太陽光、風力、水力の低コストで電力を生産できる再エネポテンシャル及び整備されたインフラ環境により、世界のグリーン水素産業及びその化合物産業に関しチリは有利な点が多いと言える。G20サミットに際して、国際エネルギー機関(IEA)[18][19]は、チリは将来的にグリーン水素を生産コスト2US$/kg以下で160百万t/年生産することが可能であり、これは現在の世界の水素生産量の2倍に相当すると言及している。2020年のMcKinsey社[6]による予測等では、チリは2050年までに輸出能力24bUS$/年、国内消費9bUS$/年をベースに、水素製造とその化合物で33bUS$/年相当の生産能力を持ち、市場のかなりの部分を供給できると発表されている。

本項の前半では、各国のグリーン及びブルー水素の中長期的な生産量予測について、IEA及び一般財団法人日本エネルギー経済研究所(IEEJ)[20]等の様々な研究結果を紹介する。本項の後半では、チリのグリーン水素及びその化合物の生産における比較優位性に焦点を当てる。

IEAが発表した調査によると、世界的には再エネのコストが水素生産を支配し、その過程で従来の燃料供給会社の新しいマッピングを定義することになるとされている。IEAが「The Future of Hydrogen 2019」で発表したインフォグラフィックでは、チリのAtacama地域とMagallanes地域の他、北米、インド、モンゴルの地域で水素生産コストが低いことが紹介されている。

図1.長期的なハイブリッド太陽光発電及び風力発電による水素生産コスト
図1.長期的なハイブリッド太陽光発電及び風力発電による水素生産コスト
出典:IEA (2019), The Future of Hydrogen 2019.
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さらに、IEAは「2021 Global Hydrogen Review」において、水素コストの下限を1.6US$/kg-H2から1.5US$/kg-H2に調整するとともに、中東のサウジアラビア、イラン、パキスタン、ナミビアを水素生産コストが低い地域として改正している。

図2.2030年のハイブリッド太陽光発電及び風力発電による水素生産コスト
図2.2030年のハイブリッド太陽光発電及び風力発電による水素生産コスト
出典:IEA (2021), Global Hydrogen Review 2021.
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The Future of Hydrogen 2019は、IEAが2014年のRefie et al.の風力データベースと2019年のRenewables.ninjaの太陽放射データベースの分析を使用している。また2021 Global Hydrogen Reviewについては、IEAがCopernicus Climate Change Service及びRenewables.ninjaが提供する風力と時間当たり日射量の最新データが使用されている。その結果、2021年予測では、2019年に比べて水素生産コストの低域が減少傾向にあることがわかっている。2019年は水素生産コストの下限レンジが1.5US$/Kg-H2前後で推移していたが、2021年には中国、チリ及び中東で1.0US$/kg-H2前後まで低下している。

他方、水素協議会と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の2020年からのデータを基に、IEAが2021年に公表した再エネ由来の水素生産コストの長期予測を行っている(図3の上枠)。また、IEAが2019年に独自データに基づき、炭素税[21]を短期的には25US$/tCO2e、長期的には100US$/tCO2eの価格を考慮した再エネ他からの水素生産コスト予測を行っている(図3の下枠)。

チリ・エネルギー省は、グリーン水素国家戦略において、中長期的なチリにおけるグリーン水素のLCOE、グリーン水素及びその化合物の現地市場、2050年のチリにおけるグリーン水素の潜在市場に関する予測等を公表した。また、2020年12月、McKinsey社は「チリの水素経路」[22]を発表し、2030年までにチリが水素生産において世界で最も競争力のあるシナリオとし、LCOEは中東や豪州等を20%以上上回る1.3~1.4US$/kgH2の範囲に位置づけると提言している(図4)。

図3.再エネ他からの水素の均等化コスト 1

図3.再エネ他からの水素の均等化コスト 2
図3.再エネ他からの水素の均等化コスト
出典:IEA (2019), The Future of Hydrogen 2019.
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IEA (2021), Global Hydrogen Review 2021.
https://iea.blob.core.windows.net/assets/5bd46d7b-906a-4429-abda-e9c507a62341/GlobalHydrogenReview2021.pdf.All rights reserved.
図4. チリ及びその他水素生産国の水素生産のLCOE
図4.チリ及びその他水素生産国の水素生産のLCOE

出典:Ministry of Energy, Government of Chile, National Green Hydrogen Strategy[6]

 

グリーン水素国家戦略では、2050年にチリのグリーン水素のLCOEが1.1US$/kg-H2以下になると予測される。なお、本LCOEを決定する際は、圧縮、輸送、貯蔵、分配に関連するコストを組み込んでいない。この予測で興味深いのは、2030年以降、チリ北部の太陽光発電によるグリーン水素のLCOEが風力発電と同等ないしそれ以下になることである。2021年8月に国家エネルギー委員会が実施した規制対象顧客向けの最終電力入札では、全ての時間帯のブロックを再エネで完全にカバーし、蓄電システムを備えた太陽光発電の供給を考慮すれば、この数字はさらに改善される可能性がある。また、ストレージ(貯蔵・蓄電)システム問題の進展は、国内マトリックスにおける自然エネルギーの普及率向上において戦略的に貢献するものである。ストレージシステムに関する法案は、現在、下院において全会一致で承認され、第二次立法手続きに入っている。

最近では、2021年10月にIEEJが「グリーン水素国際サプライチェーンの経済性に関する研究」[20]の結果を発表し、チリはグリーン水素及びアンモニア生産において世界で最も競争力のあるシナリオと位置づけている(「5.チリのグリーン水素・アンモニアにおける日本への輸出に関する供給課題」参照)。両者の生産コストは、サウジアラビア及び豪州が生産するブルーアンモニアに次ぐものである。この研究は、チリ・エネルギー省が提供するエネルギー価格予測に基づいて行われたもので、再エネが時間ブロックの100%をカバーすることが考慮されていないことに注意する必要がある。チリのエネルギー価格は、2021年8月に国家エネルギー委員会が実施した規制対象顧客向けの最終入札で、過去最高を記録した。2015年の電力供給入札制度の精緻化以降、チリのエネルギーコストは一貫して低下している。約9年間で平均受注電力コストは85.5%低下し、現在では24US$/MWhを下回っている(図5)。

図5.チリのエネルギー入札の平均単価
図5.チリのエネルギー入札の平均単価
出典:CNEの情報を基にJOGMECにて作成

実際、2021年8月の入札では、太陽光発電とストレージを組み合わせたプロジェクトの落札価格が15US$/MWhを下回る等、全時間帯で再エネ100%供給の場合の平均落札価格は23.78US$/MWhであった(表3)。また、入札されたブロックは2,310GWh/年であったが、太陽光、風力及び水力を中心に16千GWh/年以上の入札があり[23]、チリは再エネ市場が高い競争力を持っている。

表3.チリでの2021年8月エネルギー入札結果
落札者 電源種別 落札電力量
(GWh/年)
平均落札単価
(US$/MWh)
落札電力量比率
(%)
Candian Solar 太陽光発電+ストレージ 209.2 14.84 9.1
Opde SpA 太陽光発電+風力発電 819 21.277 35.5
Parque Eólico San Andrés SpA 風力発電 273 25.2 11.8
Sonnedix PPA Holding SpA 太陽光発電+風力発電 903 26.8 39.1
Racó Energía SpA 太陽光発電+風力発電 105.8 21.431 4.6
2,310 23.782

100

出典:CNEの情報を基にJOGMECにて作成

この点は、グリーン水素とその化合物の生産において、チリの主要な比較優位の一つであるため、非常に重要である。2021年第1四半期には、2020年全体と比較してほぼ同量の再エネ容量をエネルギー構成に組み込んでいる。これは、CNEが提供するデータによると、チリが2050年までにCNになることを目指した政策を制定する際に、再エネの貢献が急速に増加していることが強調されている[24]。2022年4月、非従来型再エネ(NCRE)の設備容量は12,373MWに達した[25](図6)。同日、全国電力システム(SEN)の総設備容量は29,267MWとなっていることから、再エネが全体の40%以上を占めることになる。

図6.2022年4月に稼働中の累積設備容量、NCREの変遷
図6.2022年4月に稼働中の累積設備容量、NCREの変遷
出典:ACERA

さらに、NCREの合計に20MW以上の水力発電所とダム発電所を加えると、設備容量は16,646MWに達し、これは国の電力構成の56%以上に相当することになる。加えて、2022年4月現在、SENには建設段階の発電プロジェクトが225件登録されており、これらを合計すると4,965MWの発電容量に相当する(図7)。それらのプロジェクトのほとんどは、Antofagasta州とMagallanes州に集中しており、運転開始は、2025年5月以降になるとされている[26]

図7.チリのエネルギー別設備容量
図7.チリのエネルギー別設備容量
出典:CNE

3-2. グリーン水素・アンモニアの需要の将来予測

「2.チリ政府のグリー水素に関する政策と取り組み」で述べたとおり、チリにおけるグリーン水素・アンモニアの国内消費は、主に6つの分野によって牽引されており、中でも鉱山向けのオフロード輸送(CAEX)と重量物運搬が大きな市場ポテンシャルを秘めている(図8)。前者が2050年までに1.6bUS$、後者が2.0bUS$の市場規模が予測されている。

しかしながら、将来的に国内需要は海外輸出に対しマイノリティであるため、海外のグリーン水素・アンモニア需要先を確保することが極めて重要になる。世界の水素・アンモニア需要[27]は、2030年までに23~80bUS$、2040年までに94~218bUS$の範囲になる可能性があることを考慮すると、政府が策定したグリーン水素国家戦略の市場予測は現実的な数値であると言える(図9)。

図8. チリ国内におけるグリーン水素の立ち上げと輸出に関するロードマップ
図8.チリ国内におけるグリーン水素の立ち上げと輸出に関するロードマップ

出典:Ministry of Energy, Government of Chile, National Green Hydrogen Strategy[6]

図9. チリのグリーン水素とその化合物(bUS$)の市場予測
図9.チリのグリーン水素とその化合物(bUS$)の市場予測

出典:Ministry of Energy, Government of Chile, National Green Hydrogen Strategy[6]

 

4. チリのグリーン水素・アンモニア生産プロジェクト

現在、チリでは様々なグリーン水素及びアンモニア生産プロジェクトの開発が進められており、既に20bUS$を超える投資額となっている(表4)。本章では、各プロジェクトの概要について紹介する。

2021年9月、CORFOはチリでグリーン水素プラントを開発するための提案を受け付けた。合計10社(コンソーシアムを含む)の応募があり、そのうち6社が受賞した。受賞した6社が受け取る助成金支援額の合計は50mUS$である(表1の「CORFOの助成金支援額」参照)。それら6つのグリーン水素プロジェクトは、合計で388MWの電解能力を持ち、総投資額は1bUS$と推定され、45千t/年以上のグリーン水素を生産、遅くとも2025年末には操業を開始する予定である。

表4.チリのグリーン水素・アンモニアプロジェクト
No. プロジェクト名 風力
発電
(MW)
太陽光
発電
(MW)
投資
金額
(mUS$)
NH3
生産量
(千t/年)
H2
生産量
(千t/年)

e-fuels
生産量
(m3)

CORFOの
助成金
支援額
(mUS$)
操業
開始年
1 HIF Magallanes 303.4   800     70,000 16.89 2024
2 HNH ENERGY Magallanes 1,800   3,000 850 150     2026
3 AES ANDES Antofagasta   800 1,500 250 50     2025
4 HyEx Antofagasta   2,000 2,200 700     9.53 2030
5 ATACAMA HTDROGEN HUB Antofagasta     18   0.55     2022
6 ACH – MRP Antofagasta   3,000 5,000 1,000 180     2027
7 GREEN STEEL Biobío     36   1.15   3.63 2025
8 H1 MAGALLANES Magallanes 2,200     1,000 170     2028
9 QUINTERO BAY H2 HUB Valparaíso     40   0.5   5.73  
10 SAN PEDRO DE ATACAMA Antofagasta     10   0.143     2023
11 HOSIS Antofagasta     3,700 250 102     2024
12 H2 SOLAR Antofagasta   1.2 10  

0.048

    2022
13 SELKNAM Antofagasta 1,150   2,000 500 85     2026
14 HYDRA Antofagasta     42         2022
15 H2GN Coquimbo     1         2022
16 VIENTOS MAGALLÀNICOS Magallanes 700   1,850 350 63     2030
17 HYDROGEN FORKLIFTS Metropolitana de Santiago     15   0.095     2022
18 UCSC Biobío     0.8         2022
19 ZORZAL Biobío 10.5 9 30   0.11     2023
20 RENEWSTABLE KOSTEN AIKE Aysén 36   190   0.9     2025
21 AMER Antofagasta           60,000 11.79 2023
22 HYPRO ACONCAGUA Valparaíso       3     2.42  
      6,200 5,810 20,443 4,903 803.496 130,000 50  

出典:Government of Chile, Chile's Green Hydrogen Strategy and investment opportunities[28]

図10. 主要なグリーン水素・アンモニアプロジェクトの位置図
図10.主要なグリーン水素・アンモニアプロジェクトの位置図

出典:Ministry of Energy, Government of Chile[29]にJOGMECにて一部加筆

 

No.1:HIF PROJECT

概要:再エネを利用し水を電気分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素を大気中から取り出した二酸化炭素と合わせてメタノールを作り、その一部を合成燃料(e-fuel)にする。

関連企業:AME(Owner)/Siemens社、Gasco社、Porsche社Enel社、ENAP(team of companies)との協力。

プロジェクト位置:Magallanes州

プロジェクト目標:輸出向けe-fuelの生産

プロジェクト段階:パイロットプラント建設中。2022年5月よりパイロット開始予定。

投資金額:パイロット:51mUS$
フェーズ1:755nUS$

風力発電量出力:パイロット3.4MW
フェーズ1:300MW

e-fuelの年間生産量:パイロット:131m3
フェーズ1:70千m3

オフテイカー:Porsche、MABANAFT

操業開始:パイロット:2022年
フェーズ1:2024年

 

No.2:HNH ENERGY PROJECT

概要:風力エネルギーと海水淡水化を利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素と空気中の窒素をHB法で結合させ、グリーンアンモニアを生産する。なお、輸出用の港湾インフラの建設も含まれている。

関連企業:Austria Energy (Owner)社、ÖKOWind社

プロジェクト位置:Magallanes州

プロジェクト目標:輸出向けグリーン水素・アンモニアの生産

プロジェクト段階:コンセプトエンジニアリングの段階と土地取得の段階。風力ポテンシャル評価段階と環境ベースライン調査。

投資金額:3,000mUS$

風力発電量出力:1,800MW

グリーン水素の年間生産量:150千t

グリーンアンモニアの年間生産量:850千t

オフテイカー:Trammo DMCC社

操業開始:2026年

 

No.3:AES ANDES PROJECT

概要:海上輸送用燃料として輸出されるグリーンアンモニアの生産。

関連企業:AES Andes社

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:輸出向けグリーンアンモニアの生産

プロジェクト段階:現在、海水淡水化プラントと生産プラントの適切なセットアップを定義するための研究が進められている。またターゲット市場の評価を実施中。

投資金額:1,500mUS$

太陽光発電量出力:800MW

グリーンアンモニア年間生産量:250千t

オフテイカー:未定

操業開始:2025年

 

No.4:HyEx PROJECT

概要:再エネと海水淡水化を利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素と空気中の窒素をHB法で結合させ、グリーンアンモニアを生産する。最初のパイロット第1段階では、輸入アンモニアの代替として、Mejillones港にあるEnaex社の工場にアンモニアをトラックで輸送する。工業プラント段階は、Enaex社の工場で使用、また輸出するためのアンモニアの大量生産を行う。

関連企業:Engie社、Enaex社

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:国内利用及び輸出向けグリーンアンモニアの生産

プロジェクト段階:FS

投資金額:パイロット:200mUS$
工業プラント:2,000mUS$

電解能力:パイロットプラント:26MW
工業プラント:2,000MW

グリーンアンモニアの年間生産量:パイロットプラント:18千t
工業プラント:700千t

オフテイカー:Enaex社(グリーンアンモニア350千t/年)

操業開始:パイロット:2025年
工業プラント:2030年

 

No.5:ATACAMA HYDROGEN HUB PROJECT

概要:太陽光エネルギーと海水淡水化を利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。パイロット段階では、電解設備に加え、専用のオフグリッド太陽光発電設備が設置される。生産された水素は、貨物列車のエネルギー源として使用される予定である。産業段階では、大規模な水素生産が検討されている。

関連企業:Humboldt Hidrógeno Verde H2V社、Complejo Portuario Mejillones社

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:国内向けグリーン水素の生産

プロジェクト段階:PFS

投資金額:18mUS$(フェーズ1)

電解能力:10MW(パイロットプラント)

グリーン水素の年間生産量:パイロット:550t
工業プラント:110千t

オフテイカー:未定

操業開始:パイロット:2022年
工業プラント:2030年

 

No.6:ACH-MRP PROJECT

概要:再エネと海水淡水化を利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素と空気中の窒素をHB法で結合させ、グリーンアンモニアを生産する。

関連企業:Aker Clean Hydrogen社、Mainstream Renewable Power社、AKER Clean Hydrogen社

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:輸出向けグリーンアンモニアの生産

プロジェクト段階:海水淡水化プラントの適切な能力を評価し、水の生産に向けた研究が進められている。

投資金額:5,000mUS$

太陽光発電出力:3,000MW

グリーンアンモニアの年間生産量:1,000千t

オフテイカー:非公開の投資家パートナーとMOUを締結済み

操業開始:2027年

 

No.7:GREEN STEEL PROJECT

概要:チリ中南部でグリーン水素を生産し、3つの目的で使用する。

  1. Compañía de Acero del Pacífico社(CAP)の高炉内で燃料を混合し、コークスの消費量を削減、最終的には完全に代替する。
  2. ペレットの直接還元(DRI製鋼法)に水素を使用しグリーンスチール生産を実現する。
  3. サプライチェーンにおける列車やトラックでの輸送を脱炭素化するために利用する。

関連企業:Compañía Siderúrgica Huachipato de CAP Acero社、Paul Wurth SMS Group

プロジェクト位置:Biobío州

プロジェクト目標:国内向けグリーン水素の生産

プロジェクト段階:FS

投資金額:2023~2024年:30mUS$
2025年:6mUS$

太陽光・風力発電出力:未定

グリーン水素の年間生産量:1.15千t

オフテイカー:CAP社

操業開始:2023~2025年

 

No.8:H1 MAGALLANES PROJECT

概要:風力エネルギーを利用し、水を電解分解することでグリーン水素とアンモニアを生産する。さらに、海水淡水化施設、電力バックアップのための水素貯蔵施設、アンモニア貯蔵施設、輸出施設も建設する予定である。

関連企業:CWP Global社

プロジェクト位置:Magallanes州

プロジェクト目標:輸出向けグリーン水素・アンモニアの生産

プロジェクト段階:FS

投資金額:未定

風力発電出力:2,220MW

グリーン水素の年間生産量:170千t

グリーンアンモニアの年間生産量:1,000千t

オフテイカー:未定

操業開始:2028年

 

No.9:QUITERO BAY H2 PROJECT

概要:生産されるグリーン水素は、単独または天然ガスとの混合で、産業プロセス、鉱業、港湾等において、石炭、ディーゼル燃料の代替として利用することを目的としている。将来的には、国内の様々な地域で産業用や家庭用の天然ガス配給網に注入される可能性がある。

関連企業:GNL Quintero社、Enagas社、Acciona社

プロジェクト位置:Valparaíso州

プロジェクト目標:国内向けグリーン水素の生産

プロジェクト段階:PFS

投資金額:40mUS$

電解能力:10MW

グリーン水素の年間生産量:430t

オフテイカー:未定

操業開始:未定

 

No.10:SAN PEDRO DE ATACAMA PROJECT

概要:San Pedro de Atacama電力組合(CESPA)が運営する孤立型発電システムに太陽光発電、水素技術を取り入れた発電、蓄電を導入して、San Pedro de Atacamaの文化・観光の中心地に再エネを供給するための改造を行うことを目的としている。

関連企業:Cummins Chile社、CESPA

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:国内向けグリーン水素の生産

プロジェクト段階:PFS完了

投資金額:10mUS$

電解能力:2.2MW

グリーン水素の年間生産量:143t

操業開始:2023年

 

No.11:HOASIS PROJECT

概要:肥料を生産するためにグリーン水素と酸素を大量に生産し、森林再生、精密農業、廃棄物回収等に使用し、地域産業との相乗効果に活用する。

関連企業:TCI GECOMP

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:国内向け肥料の生産

プロジェクト段階:PFS

投資金額:3,700mUS$

太陽光発電出力:未定

グリーン水素の年間生産量:102千t

オフテイカー:未定

操業開始:2024年

 

No.12:H2 SOLAR PROJECT

概要:太陽光エネルギーを利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素を燃料ステーションに貯蔵し、鉱山労働者の移動に使用するバスに供給する予定である。

関連企業:Air Liquide社、ATAMOSTEC社、Universidad de Antofagasta UAほか

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:国内向けグリーン水素の生産

プロジェクト段階:PFS

投資金額:10mUS$

太陽光発電出力:1.2MW

グリーン水素の年間生産量:48t

オフテイカー:未定

操業開始:2022年

 

No.13:SELKNAM PROJECT

概要:風力エネルギーを利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素と空気中の窒素をHB法で結合させ、グリーンアンモニアを生産する。

関連企業:Sociedad de Inversiones Albatros社、ALFANOR社、ENAP社

プロジェクト位置:Magallanes州

プロジェクト目標:輸出向けグリーンアンモニアの生産

プロジェクト段階:PFS

投資金額:2,000mUS$

風力発電出力:1,150MW

グリーンアンモニアの年間生産量:500千t

オフテイカー:未定

操業開始:2026年

 

No.14:HYDRA PROJECT

概要:大型鉱山用トラック(200t以上)の内燃機関の、水素燃料電池と最先端のバッテリーのハイブリッドシステムへの代替を検討するプロジェクト。

関連企業:Engie社、mining3社、三井物産、BALLARD社、REBORN社、CSIRO社、THIESS社、HEXACON社、LIEBHERR社

プロジェクト位置:Antofagasta州

プロジェクト目標:グリーン水素を鉱山用トラックの水素燃料電池に利用

プロジェクト段階:PFS

投資金額:フェーズ2:2mUS$
フェーズ3:40mUS$

太陽光発電出力:未定

グリーン水素の年間生産量:未定

オフテイカー:未定

操業開始:2022年

 

No.15:H2GN PROJECT

概要:再エネを利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素は貯蔵され、Coquimbo市とLa Serena市の天然ガスネットワークに注入される予定である。水素の含有量は、体積比で5~20%まで段階的に増加させる予定である。

関連企業:Gasvalpo社、Universidad de La Serena

プロジェクト位置:Coquimbo州

プロジェクト目標:国内の天然ガスネットワークへグリーン水素を注入する

プロジェクト段階:第3フェーズ(グリーン水素製造・注入システム用0.15MW電解槽の開発)

投資金額:1mUS$

電解能力:0.15MW

グリーン水素の年間生産量:未定

オフテイカー:未定

操業開始:2022年

 

No.16:VIENTOS MAGALLÀNICOS PROJECT

概要:風力エネルギーを利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素と空気中の窒素をHB法で結合させ、グリーンアンモニアを生産する。

関連企業:RWE社

プロジェクト位置:Magallanes州

プロジェクト目標:輸出向けグリーンアンモニアの生産

プロジェクト段階:PFS

投資金額:1.85mUS$

風力発電出力:700MW

グリーン水素の年間生産量:350t

オフテイカー:未定

操業開始:2030年

 

No.17:HYDROGEN FORKLIFTS PROJECT

概要:太陽光エネルギーを利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素は、水素をベースにした燃料電池により充電されるバッテリー駆動のスタッカークレーンに利用される。

関連企業:WALMART社、Engie Plug Power社

プロジェクト位置:首都州

プロジェクト目標:国内向けスタッカークレーンの燃料電池に利用されるグリーン水素の生産

プロジェクト段階:環境許認可手続き

投資金額:15mUS$

電解能力:0.6MW

グリーン水素の年間生産量:94.6t

オフテイカー:未定

操業開始:2022年

 

No.18:UCSC PROJECT

概要:Universidad Católica de Concepciónのマイクログリッドからの再エネを、小規模なグリーン水素生産に利用する予定である。生産されたグリーン水素は貯蔵され、バックアップシステムによる発電と水素燃料電池を搭載した電気自動車への燃料補給ステーションに利用される。

関連企業:Universidad Católica de Concepción

プロジェクト位置:Biobío州

プロジェクト目標:国内向け電気自動車に利用されるグリーン水素の生産

プロジェクト段階:計画段階

投資金額:0.8mUS$

電解能力:25kW

グリーン水素の年間生産量:未定

オフテイカー:未定

操業開始:2022年

 

No.19:ZORZAL PROJECT

概要:小規模分散型発電の余剰エネルギーを利用し、水を電解分解することでグリーン水素を生産する。生産されたグリーン水素は、工業用、農業用、林業に使用される予定である。

関連企業:TIKUNA Energía Circular社

プロジェクト位置:Biobío州

プロジェクト目標:国内向けグリーン水素の生産

プロジェクト段階:計画段階

投資金額:30mUS$

太陽光・風力発電出力:11.4MW

グリーン水素の年間生産量:109.5t

オフテイカー:未定

操業開始:2023年

 

No.20:RENEWSTABLE KOSTEN AIKE PROJECT

概要:風力エネルギーを利用し、水を電解分解することで水素を生産する。生産されたグリーン水素を貯蔵し、風力発電が停止した時間帯に燃料電池で電気エネルギーに再変換し、Aysén地方の孤立した送電網にエネルギーを供給する。

関連企業:HDF Energy社、Eólica Kosten Aike Spa社

プロジェクト位置:Aysén州

プロジェクト目標:国内向けグリーン水素の生産及び貯蔵

プロジェクト段階:計画段階

投資金額:190mUS$

風力発電出力:36MW

グリーン水素の年間生産量:900t

オフテイカー:未定

操業開始:2025年

 

5. チリのグリーン水素・アンモニア生産における日本への輸出に関する供給課題

グリーン水素の輸出産業が直面する様々な課題を分析する際、チリの場合、海上輸送コストは1つの課題と考えられる。日本までの海上輸送距離が短いサウジアラビアや豪州で生産された水素は、チリに比べ明らかに有利だからである(表5)。

表5.国際海上輸送ルート
生産国 生産国の輸出港 日本の輸入港

輸送距離
(nautical miles)

チリ(北部)

Mejillones(Antofagasta州)

横浜港 9,192
チリ(南部) Cabo Negro(Magallanes州) 横浜港 9,259
豪州 Melbourne 横浜港 4,907
米国 Houston 横浜港 9,254
サウジアラビア Ras Tanura 横浜港 6,593

出典:IEEJ 2021

IEEJの調査[20]では、3種類の水素キャリア(NH3、MCH、LH2)[30]を用いた各生産国から日本への海上輸送コストを含めた生産から輸送までの水素供給コストの比較を行っている(図11及び12)。同調査では、ブルー水素製造については技術が確立されていることから、将来的なコスト減少が限定的である一方で、グリーン水素製造に関しては電解槽のCAPEXが将来的に減少することを仮定したベースケース(Base)の700US$/kWと低コストケース(Low ELY Cost)の336US$/kWの2つのシナリオに分けている。さらに、炭素税(100US$/tCO2e)を適用した場合についても比較を行っている。

  • NH3:アンモニアの形で水素を輸送する。この場合、再変換または分解蒸留にかかる費用を仕向地に含める必要がある。
  • MCH:トルエンと水素から製造される液体メチルシクロヘキサン(MCH)としての水素は、安全かつ経済的に貯蔵・輸送することができる。
  • LH2:液体水素は二水素(水素分子、H2)であり、露点以下に冷却され、大気圧で-252.87℃となる。

 

水素キャリアを用いた水素供給コスト(炭素税抜きの場合)

チリは、日本へのグリーン水素の輸出において、海上輸送距離と技術的なコストという障壁があるにもかかわらず、分析したどのシナリオでも最も競争力がある(図11)。2030年には、電解槽のコストと輸送に利用されるキャリアの種類によって、風力発電由来(Chile_Wind)が3.4〜4.8US$/kg-H2、太陽光発電由来(Chile_PV)が3.4〜5.1US$/kg-Hの間で変動する。

サウジアラビア、豪州、米国及びチリの水素供給コストを比較すると、絶対値で最も競争力があるのは、サウジアラビアでNH3をキャリアとして生産するブルー水素(2.8US$/kg-H2)であることがわかる。豪州は、太陽光エネルギーを利用しグリーン水素を生産、MCHをキャリアとした場合、ベースケースではチリのChile_PVと、また低コストケースではチリのChile_PV及びChile_Windと同程度のコストになる。

チリは、グリーン水素のキャリアとしてMCHを使用することで、NH3と比較して日本へ輸出される水素の最終コストを8%以上削減することが証明されている。液体状態の水素やLH2を輸送するという選択肢は、まだ商業規模では実現されていない。MCHの輸送には、現在、コンテナ型の商船を使用することができる。

図11.水素キャリアを用いた水素供給コスト(炭素税抜き)
図11.水素キャリアを用いた水素供給コスト(炭素税抜き)
出典;IEEJ 2021の情報を基にJOGMECにて作成

水素キャリアを用いた水素供給コスト(炭素税込みの場合)

水素キャリアを用いた供給コストに炭素税(100US$/tCO2e)を適用した場合を図12に示す。低コストケースの場合、MCHをキャリアとするとブルー水素とグリーン水素の間で価格均衡を達成している。チリで生産されるグリーン水素のコストは3.9US$/kg-H2に達し、サウジアラビアで生産されるブルー水素及び豪州で生産されるグリーン水素と同じ値になる。再エネからグリーン水素・アンモニアを生産するチリにとって、炭素税の適用は強みと言える。

また、いずれのシナリオにおいても、チリのグリーンアンモニアの供給は、最も競争力があることが証明されている。日本では、短中期的に分解を伴わない直接利用型のアンモニアが最も需要が高いと思われる。これは、石炭火力発電所の一部代替燃料として使用されることを目的としている。石炭火力発電所でのいわゆる混焼は、アンモニアを変換せずに最終目的地で直接使用することを可能にする。将来的には、輸送船の燃料として直接使用することも可能である。

図12.水素キャリアを用いた水素供給コスト(炭素税込み)
図12.水素キャリアを用いた水素供給コスト(炭素税込み)
出典:IEEJ 2021の情報を基にJOGMECにて作成

同調査の結果、チリは豪州及びサウジアラビアと海上距離の差は大きいものの、輸送は以下の一連の要因のうち最も影響力の少ないものであり、重要な課題ではないと考えらえる。

  • 生産・技術コスト
  • 水素パイプライン
  • 水素キャリアへの変換ないし水素への再変換
  • 輸出入ターミナル
  • 炭素税
  • 輸送距離

チリは、グリーン水素・アンモニア事業に関して、どの国より最も競争力がある。一方、チリが直面している最大の競争相手は、NH3をキャリアとして生産されるサウジアラビア(炭素税込み3.3US$/kg-H2)及び豪州(同3.9US$/kg-H2)のブルー水素である。サウジアラビア及び豪州で生産されるブルー水素は、化石燃料を燃焼させてガスにし、そのガスや天然ガス(メタン)と高温の水蒸気を反応させる改質法によって生成される[3]。現在、水素製造コストにおいては、電解槽を用いて大量の電力を消費して生産するグリーン水素に対し、改質法を用いて生産するブルー水素のほうが総合的に安価となっている。

同課題への取り組みの一つとしては、水素生産に関する電解槽の技術開発を促進させ、CAPEXを低減させることが重要になる。現在、水素生産に関する電解槽のCAPEXは900US$/kW[31]のオーダーであり、2030年は700US$/kW、長期的には450US$/kWまで減少すると予測されている。低コストケース(336US$/kW)に近づくことができれば、チリは水素・アンモニア市場に関して絶対的な地位が確立されるだろう。また、再エネは気象条件によって発電量が左右されるほか、特に太陽光発電は日照に依存し発電時間が限られているため、電解槽の設備利用率が低くなりCAPEXの高騰につながることから、24時間電力の安定供給できるシステムの構築が必要とされる。そのためには、他の再エネの併用またはストレージシステムの技術開発の促進ないし向上が重要であると考えらえる。

さらに、ブルーではなくグリーン水素・アンモニアを必要とする需要家を特定し、同需要家へ投資の誘致ないし供給契約を締結することがチリのグリーン水素・アンモニア事業の発展に繋がると考えられる。

 

おわりに

チリは太陽光及び風力発電等の再エネポテンシャルが高く、良好なインフラ環境及びグリーン水素・アンモニア生産促進のための政府の支援制度があり、2030年に世界で最も安価な水素生産(1.3〜1.4US$/kg-H2)を目指しており、将来的にグリーン水素・アンモニアの生産及び輸出国として期待される。またチリ政府は、水素サプライチェーンの構築を目指し各国関係機関とMOUを締結しており、2025年以降に欧州を中心としたグリーン水素・アンモニアの輸出を見据えた具体的なアクションを起こしている。

ブルー水素のエネルギー源となる化石燃料は有限であり、世界情勢の変化及び地政学リスクによりコモディティの市場価格は変動する。一方、グリーン水素のエネルギー源となる再エネは市場価格が安定しており、またチリにおいてはエネルギーコスト及び価格が年々低下していることから、新規水素・アンモニア事業への投資リスクを軽減させることが期待される。

日本は、グローバルなアンモニアサプライチェーンを構築する場合、輸入相手国の1つとしてチリを検討する余地がある。チリは、安価なグリーン水素・アンモニアを生産できる可能性を秘めている。また、アジア太平洋地域という地理的条件からエネルギー供給源の多様化を通じて、日本のエネルギー安全保障の強化に重要な役割を果たすことが期待される。

最後に、本稿によってチリのグリーン水素・アンモニア事業の現状、課題及び将来予測について理解する一助けになれば幸いである。

 

参考文献


[3] 経済産業省資源エネルギー庁「次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso_tukurikata.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[4] 環境省(2021). Policy Brief: https://mma.gob.cl/wp-content/uploads/2021/09/Policy-brief-NDC_Chile_final.pdf

[5] https://www.agenciase.org/

[6] McKinsey & Company, Chilean Hydrogen Pathway, 2020年12月
https://energia.gob.cl/sites/default/files/national_green_hydrogen_strategy_-_chile.pdf(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[7] http://bcn.cl/2nn0z

[8] https://energia.gob.cl/consultas-publicas/reglamento-de-seguridad-de-instalaciones-de-hidr%C3%B3geno

[9] https://www.camara.cl/legislacion/ProyectosDeLey/tramitacion.aspx?prmID=15247&prmBOLETIN=14756-08

[10] https://www.camara.cl/legislacion/ProyectosDeLey/tramitacion.aspx?prmID=15219&prmBOLETIN=14731-08

[11] https://energia.gob.cl/h2/visor-variables-ambientales-y-territoriales-h2

[12] https://www.bienesnacionales.cl/wp-content/uploads/2021/11/Resolucion-Plan-Hidrogeno-Verde-1.pdf

[13] 国家エネルギー委員会(CNE)は、独自の資産と権利・義務の取得・行使の全能力を持つ、公的かつ地方分権的な機関であり、エネルギー省を通じて共和国大統領に関連している。組織法としては、1978年政令第2.224号(2010年政令第20.402号で改正)に相当し、エネルギー省が設置されている。

[14] SEC(Superintendencia de Electricidad y Combustibles)は、チリ国家内の監督機関である。電気、ガス、燃料のサービスを安全、品質、価格の面で適切に運営することを監督することを使命としている。エネルギー省を通じて共和国大統領と関連している。SECは、1985年法律第18.410号により設立された。

[15] 特別プロジェクトとは、燃料としての水素の製造、調整、輸送、流通、貯蔵または消費に関連するすべてのプロジェクトを意味する。

[16] Comisión Nacional de Energía DFL. Nº1, MINERIA,1979 https://www.cne.cl/archivos_bajar/dfl1_1978.pdf

[17] https://energia.gob.cl/sites/default/files/guia_proyectos_especiales_hidrogeno_2021.pdf

[18] IEA, The Future of Hydrogen, 2019年

[19] IEA, Global Hydrogen Review, 2021年

[20] The Institute of Energy Economics of Japan (IEEJ), Study on the Economics of the Green Hydrogen International Supply Chain, 2021年10月(https://eneken.ieej.or.jp/data/9883.pdf)

[21] 本稿では、GHGのオフセットや削減に割り当てられる金銭的価値を、US$/tCO2e(二酸化炭素換算t当たりUS$)で測定したものを「炭素税」とする。炭素税は、カーボンプライス、炭素クレジット及び炭素コストとも呼ばれる。

[23] https://www.cne.cl/wp-content/uploads/2021/09/Acta-Apertura-de-Ofertas-Economicas_firmada.pdf

[24] https://www.senado.cl/despachada-ley-marco-de-cambio-climatico

[25] https://acera.cl/estadisticas/

[26] https://www.cne.cl/wp-content/uploads/2022/04/RMensual_v202204.pdf

[27] China renewable energy outlook 2018; Hydrogen roadmap South Korea 2018; Japan Strategy Energy Plan 2018; Roadmap to a US hydrogen Economy; Perspectives on hydrogen for APEC region; Hydrogen Council; EU strategic roadmap; The future of Hydrogen IAE.

[28] https://energia.gob.cl/sites/default/files/documentos/green_h2_strategy_chile.pdf

[29] Ministry of Energy, Government of Chile HP

[30] https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sympo1610/enekyari.pdf

 

以上

(この報告は2022年9月16日時点のものです)

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