ページ番号1009637 更新日 令和5年2月20日
原油市場他:ロシアの原油生産、米国金融政策、中国経済回復を巡る要因等により、上下に変動するも、若干ながら下落傾向を示す原油価格
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概要
- 米国では、メンテナンス作業実施等により製油所での原油精製処理活動が低迷したことから、原油在庫は増加傾向となり平年幅上限を超過する水準は継続している。他方、ガソリン及び留出油需要が必ずしも好調でなかったこともあり、両製品在庫は増加傾向となった他、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅下方に位置する、それぞれ量となっている。
- 2023年1月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では製油所での原油精製処理活動が活発化したこともあり、原油在庫は減少した。また、日本では、12月に一部地域で気温が平年を下回って低下したことから暖房向け需要が喚起されたことにより灯油在庫が相当程度減少したこともあり、当該製品等の製造を活発化させるべく製油所の稼働が上昇、原油精製処理が進んだことに伴い、原油在庫は減少した。しかしながら、米国の原油在庫が増加したことにより相殺されて余りあったことにより、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本においては、灯油在庫が減少したこと等もあり石油製品全体の在庫水準も低下した。他方、米国では、プロパンやその他石油製品の在庫が減少したものの、ガソリン在庫の増加で相殺されたことから、同国の石油製品全体の在庫は若干の減少にとどまった。また、EUによる2月5日の海上輸送経由のロシア産石油製品購入の原則禁止等を控え、欧州では製油所の稼働上昇や輸入の増加を通じ軽油を中心として石油製品在庫の積み上げが進んだこともあり、当該地域の石油製品在庫は増加した。このようなことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅下方付近に位置する量となっている。
- 2023年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場においては、米国金融当局による金融引き締め政策減速への市場の期待増大による米ドル下落や米国株式相場上昇、G7及びEU等によるロシア産石油製品に対する販売価格上限設定等に伴うロシアからの石油製品供給を巡る懸念の増大等が原油相場に上方圧力を加えた反面、米国経済が堅調であることを示唆する指標類の発表及び米国金融当局関係者による政策金利引き上げ継続もしくは引き上げ幅拡大の主張等による米ドル上昇と米国株式相場下落等が原油相場に下方圧力を加えたことにより、原油価格(WTI)は終値ベースで1バレル当たり73~82ドルを中心とする範囲内で変動しつつも、若干ながら下落傾向を示した。
- 今後は、冬場の石油需要期の終了が視野に入りつつあることが原油相場を抑制する方向で作用すると見られるものの、早ければ3月初頭にも夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が市場で意識されるようになる可能性がある他、新型コロナウイルス感染抑制策終了に伴う中国の経済回復や個人の往来の活発化による石油需要の上振れ期待が、原油相場に上方圧力を加えやすいものと考えられる。他方、G7やEUによる原油や石油製品の購入の原則禁止及び上限価格設定の石油供給への影響、3月のロシアの原油生産削減の実際の状況やロシアによる石油を含むさらなるエネルギー供給を巡る措置実施の可能性、及び米国金融当局による金融引き締め政策を巡る関係者による発言等に対し、市場が神経質になる結果、それらの動向の影響が原油相場に織り込まれる場面が見られることもありうる。
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2022年11月の同国ガソリン需要(確定値)は日量885万バレル、前年同月比1.9%程度の減少(図1参照)と、需要量は10月(同883万バレル、同2.2%程度の減少)とほぼ同水準となった一方、前年同月比での減少率は若干ながら縮小した。また、当該需要は速報値(日量850万バレル、前年同月比で5.8%程度の減少)から上方修正されている。11月は中旬を中心として気温が平年を割り込んだ時期が見られた他、10月に比べても相対的に寒冷となったことから、11月の同国自動車運転距離数は1日当たり88億マイルと10月の同95億マイルから減少しているにもかかわらず、11月のガソリン需要は10月とほぼ同水準を維持した格好となったことから、この反動で12月の当該需要が相対的に押し下げられる可能性があるものと考えられる(なお、12月の同国ガソリン需要(速報値)は日量845万バレルと11月からそれなりに減少している)。また、2021年は同国の1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が9月7日に301,138人で頭打ちとなった後、11月にかけ感染が沈静化していったことにより同国での個人の外出が促進されたことが、同年11月の同国ガソリン需要を押し上げる格好となっていた(同月の自動車運転距離数は前年同月比で12.4%程度、ガソリン需要は同12.8%程度の、それぞれ増加となっていた)こともあり、その反動で、2022年11月の同国自動車運転距離数は前年同月比で1.3%の低下となった他、ガソリン需要も前年同月比で減少したものと見られる。なお、2022年10月の米国ガソリン需要は2019年同月の当該需要(日量931万バレル)(確定値)を3.9%程度下回っている。他方、2023年1月の同国ガソリン需要(速報値)は日量815万バレル、前年同月比で2.1%程度の増加となっており、2022年12月の当該需要である同839万バレル(速報値)から需要量は下振れしたが、前年同月比5.5%程度の減少からは増加に転じた。12月のクリスマスを含む年末の休暇シーズンが終了したことに伴い個人の外出が不活発化したことにより、同月の同国自動車運転距離数は1日当たり推定78億マイルと12月の同86億マイルから減少した一方、2023年1月は米国が前年同月に比べ総じて温暖であったこともあり個人の外出が前年同月よりも促された結果、同国の推定自動車運転距離数が前年同月比で1.0%程度の増加となったことが、ガソリン需要の前年同月比での伸びに反映されているものと見られる。なお、2023年1月の米国ガソリン需要は2020年1月の当該需要(日量872万バレル)(確定値)を6.6%程度下回っている。また、1月に入って以降米国の一部製油所において春場のメンテナンス作業が実施された(2020~22年は新型コロナウイルス感染防止に伴う労働力不足等により製油所の春場のメンテナンス作業が限定的な規模となった分、2023年春場の製油所メンテナンス作業は大規模に実施されていると指摘する向きもある)こともあり、原油精製処理量は総じて低迷した(図2参照)ことに伴いガソリン製造活動も不活発化していたと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ものの、冬場はガソリン需要期ではない(ガソリン需要期は夏場の行楽シーズンである)ため、ガソリンの需要が抑制された結果、1月上旬から2月上旬にかけての米国ガソリン在庫は増加傾向となった(図4参照)他平年幅上限を超過する状態となっている。
2022年11月の米国留出油需要(確定値)は日量406万バレルと前年同月比で3.1%程度の減少となり(図5参照)、10月の同410万バレル(前年同月比3.3%程度の増加)から需要量は若干減少となった一方、前年同月比では減少に転じた。ただ、当該需要は速報値(前年同月比9.8%程度減少の日量378万バレル)からは上方修正されている。新型コロナウイルス感染沈静化の過程における米国の供給体制上の隘路の発生もあり、11月の鉱工業生産は10月から減少した他、前年同月比での増加率も2.0%と10月の同3.2%から伸びが縮小するとともに、11月の同国の物流活動も10月比で1.9%低下した他前年同月比では0.1%の拡大と10月の同2.6%の拡大から伸びが大幅に鈍化した。加えて、10月は米国北東部が前月及び前年同月に比べ寒冷となったことにより暖房用の留出油需要が喚起された一方、11月は当該地域が前月からは寒冷となったものの前年同月に比べ温暖であったことから、暖房用の留出油需要も前年同月に比べ抑制される格好となった。このような要因が、11月の同国の留出油需要の前月比及び前年同月比の増加率に影響を与えたものと考えられる。なお、2022年11月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量420万バレル)(確定値)を3.3%程度下回っている。他方、2023年1月の留出油需要(速報値)は日量384万バレルと前年同月比で5.9%程度の減少となり、2022年12月の当該需要量(速報値)の日量363万バレル、前年同月比8.2%程度の減少から需要量は上振れしたうえ前年同月比の減少率も縮小した。1月の同国鉱工業生産は前年同月比で0.8%の増加と12月の同1.1%の増加から伸びが鈍化したが、1月は総じて気温が高めに推移したことにより暖房需要が不振であったことから公益事業部門の活動が低調であったことが背景にあるとされる一方、同月の製造業生産指数は前年同月比で0.3%の増加と12月の同1.0%の減少から増加に転じた(供給体制の改善と需要の回復が示唆されると見る向きもある)こともあり、物流活動も回復したものと見られる(1月の米国輸送担当者指数(LMI: Logistics Manager Index、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が57.6と12月の54.6から上昇している)ことが、米国留出油需要の上振れに寄与しているものと考えられる。なお、2023年1月の米国留出油需要は2020年同月の当該需要(日量402万バレル)(確定値)を4.5%程度下回っている。他方、1月上旬から2月上旬にかけてはメンテナンス作業の実施や装置の不具合の発生等もあり米国の製油所の稼働が抑制されるとともに留出油を含む石油製品製造活動がもたつき気味となった(図6参照)ものの、需要も前年同月を割り込むなど好調とは言い切れなかった結果、同時期の留出油在庫は若干増加した他、平年幅下方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2022年11月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比0.1%程度増加の日量2,059万バレルとなり(図8参照)、10月の同2,042万バレルから需要量は拡大したものの、同月の前年同月比0.2%程度の増加から伸びは若干鈍化した。前月比での需要量の増加は、11月に入り気温が低下してきたため暖房向けのLPG需要が喚起されたことが主要因である。また、11月のその他の石油製品が前年同月比で日量30万バレル増加した(米国ペンシルバニア州モナカ(Monaca)において建設中であった石油化学工場(操業者:シェル、エタン分解能力年間160万トン)が2022年8月上旬に工事を完了(8月8日に建設施行者であるベクテルが発表)したこともあり、操業開始(実際には11月15日に行われた)に向け、原料在庫積み増しのためエタンの購入が活発化したことが寄与した可能性がある)ものの、ガソリンや留出油需要が前年同月比で減少していることで相殺されたことが、同国石油需要が前年同月比で若干の伸びにとどまった背景にあるものと考えられる。そして、ガソリンや留出油に加え液化石油ガス(LPG)等の需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことにより、同国石油需要は速報値(前年同月比1.8%程度減少の日量2,021万バレル)から確定値に移行する段階で上方修正されている。なお、2022年11月の米国石油需要は、2019年11月の当該需要(日量2,074万バレル)を0.7%程度下回っている。他方、2023年1月の米国石油需要(速報値)は日量1,967万バレルと前年同月比で0.3%程度の減少となり、12月の同国石油需要(速報値)である日量2,026万バレルから需要量は減少したものの、同月の前年同月比1.9%の減少からは減少幅が縮小した。これは、ガソリン需要が前月比で減少しているものの前年同月比では増加していることが一因となっている。なお、2023年1月の米国石油需要は、2020年1月の当該需要(日量1,993万バレル)(確定値)を1.3%程度下回っている。また、1月上旬から2月上旬にかけ、メンテナンス作業実施等に伴い製油所の原油精製処理量が低迷した一方、1月6~1月27日の週には日量1,220万バレルであった米国原油生産量が2月3日の週には同1,230万バレルへと増加したこともあり、1月上旬から2月上旬にかけ同国の原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2023年1月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、EUによる2月5日の海上輸送経由のロシア産石油製品の原則購入禁止等を控え、欧州では石油製品を増産すべく製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理活動が活発化したこともあり、原油在庫は減少した。また、日本では、12月に一部地域で気温が平年を下回って低下したことから暖房向け需要が喚起されたことにより灯油在庫が相当程度減少したうえ、国外において軽油を中心とする石油製品の販売を巡る利幅が堅調であったこともあり、当該製品等の製造を活発化させるべく製油所の稼働が上昇、原油精製処理が進んだことに伴い、原油在庫は減少した。しかしながら、米国の原油在庫が増加したことにより相殺されて余りあったことにより、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本においては、冬場の気温低下により暖房向けの灯油需要が旺盛となったことにより当該製品在庫が減少した他、通信販売のための物流活動等が活発化したことで軽油の需要が支持されたことに加え、国外での販売を巡る利幅が堅調になったこともあり軽油の輸出が促されたことに伴い当該製品在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫水準は低下した。他方、米国では、冬場の気温の低下とともに暖房向けのプロパン需要が喚起されるようになったことに伴い当該製品在庫が減少した他、その他石油製品の在庫が減少した(冬用ガソリンに混入するため、その他の石油製品に分類されるブタンの需要が増加したことが寄与しているものと見られる)ものの、ガソリン在庫の増加で相殺されたことから、同国の石油製品全体の在庫は若干の減少にとどまった。また、EUによる2月5日の海上輸送経由のロシア産石油製品購入の原則禁止等を控え、欧州では軽油を中心として石油製品在庫の積み上げが進んだ(この結果、2月16日時点の欧州アムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ地域の軽油在庫は2021年3月4日以来の高水準に到達した)こともあり、当該地域での石油製品在庫が増加した。このようなことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加となり、平年幅下方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっている一方、石油製品在庫が平年幅下方付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2023年1月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.7日と2022年12月末の推定在庫日数(60.1日)から増加している。
1月11日に1,600万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は1月18日には1,700万バレル強程度の量へと増加したが、1月25日には1,500万バレル台後半程度の水準へと相当程度減少した。それでも、2月1日には1,700万バレル台前半程度の量へと回復した。また、2月8日には1,600万バレル台後半へと減少したものの、2月15日には1,700万バレル台半ば程度の量へと増加した結果、1月11日の水準を上回る状態となっている。2022年末の期限に向け中国政府から付与された輸出枠(ガソリン、ジェット燃料、軽油及び低硫黄重油で合計1,500万トン(うち175万トンが低硫黄重油と見られる)の輸出枠付与を中国政府が最終決定した旨9月30日に報じられていた)を消化すべく中国石油会社により活発に輸出されたガソリンがシンガポールに流入したことが、同国での軽質留分在庫を押し上げる方向で作用したものと見られる。他方、2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことにより、個人の外出が促進されるとともに自動車用燃料であるガソリンの需要増加観測が市場で拡大したことに伴い、中国からシンガポール方面へのガソリン輸出が削減されるとの見方が市場で増大したことに加え、3月以降韓国や台湾等を含めた国及び地域において製油所が春場のメンテナンス作業を実施する方向であることに伴いガソリンを含む石油製品の生産が減少することにより、アジア諸国等におけるガソリン輸出の減少及び輸入の増加に対する見方が市場で発生したものと見られる他、1月は米国においても製油所の稼働が低迷したこともありガソリン供給を巡る懸念が市場で発生したと思われることや、1月25日にシンガポールの軽質留分在庫が相当程度減少したこと等が、米国及びアジア含めた地域のガソリン価格に上方圧力を加えたことから、1月中旬から下旬にかけてはアジア市場のガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向が見られた。しかしながら、2月に入りシンガポールの軽質留分在庫が回復する傾向を示したことから、アジア市場のガソリンとドバイ原油との価格差は縮小する格好となっている。
また、韓国や台湾においてナフサ分解装置のメンテナンス作業が予定されていることに伴い原料となるナフサ需要の減少観測が市場で発生したことがアジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えたうえ、原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかった結果、1月中旬から1月下旬にかけてのアジア市場のナフサとドバイ原油の価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する場面が見られた。しかしながら、中国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の緩和で同国経済活動が再開することによる石油化学製品需要回復に伴う原料となるナフサの需要増加や、同国における個人の往来の活発化に伴う自動車向けのガソリンに混入するためのナフサの需要増加への期待が市場で発生したことに加え、2月5日にEUが海上輸送経由によるロシア産石油製品の購入を事実上禁止することにより、欧州諸国がロシア産に代えて中東産ナフサの購入を活発化させつつあることもあり、中東からアジア方面へのナフサの流れが低下するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場のナフサ価格に上方圧力を加えたことにより、1月下旬から2月中旬にかけては、アジア市場でのナフサとドバイ原油との価格差は縮小傾向を示した。
1月11日には800万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、1月18日には800万バレル台前半程度の量へと減少した。しかしながら、1月25日には800万バレル台後半程度の量へと回復したうえ、2月1日には900万バレル強程度の水準へと増加した。ただ、2月8日及び2月15日には700万バレル台半ば程度の量へと減少している。2022年末を期限とした中国の石油製品輸出枠を利用すべく、中国からシンガポール方面への軽油輸出が活発化した結果、1月末にかけシンガポールに軽油が流入したことが、同国での中間留分在庫を押し上げる格好となったものの、中国における厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が事実上解除されたことにより、国内経済再開と製造業を含む産業活動が回復するとの観測が市場で発生したこともあり、中国からシンガポールに向けた軽油輸出は継続はしたものの、その勢いが低下してきていることが、シンガポールにおける中間留分減少に影響しているものと考えられる。そして、シンガポールにおける中間留分在庫の増減により、1月中旬から下旬にかけては、アジア市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大したり縮小したりしたが、EUが2月5日に海上輸送経由のロシア産石油製品の事実上の購入禁止措置を実施することを控え、欧州地域において軽油在庫を積み増す動きが見られた結果、欧州の軽油在庫が高水準に到達するとともに、インド等のアジア諸国から欧州方面への軽油の流出が低減するとの見方が市場で発生したことにより、アジア市場での軽油需給の緩和感が市場で意識されるようになったことから、2月上旬以降軽油とドバイ原油の価格差は縮小する傾向が見られる。
1月11日に2,000万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、1月18日には2,000万バレル台前半程度、1月25日には1,900万バレル半ば程度の量へと、それぞれ減少した。それでも、2月1日には2,000万バレル台後半程度の水準へと回復したうえ、2月8日も2,100万バレル台前半程度の量へと増加した。ただ、2月15日には2,000万バレル台後半と1月11日とほぼ同水準となっている。欧州において製油所の稼働が上昇したことから、2022年12月から2023年1月に至るまで当該地域の重油在庫が増加傾向となったこともあり、欧州の重油価格がアジアの重油価格に比べ割安になる場面が見られたことにより、相対的に割高となったアジア方面に向け中東等で生産される重油が流入したことが、シンガポールにおける重油在庫を増加させる形で作用した。しかしながら、12月から1月にかけ生産を巡る利幅が堅調になりつつあったガソリンの製造にアジア地域の製油所が注力するようになった反面、重油の製造が劣後する格好となったことが、シンガポールにおける重油在庫を減少させる形で作用した。この結果、シンガポールの重油在庫は増加もしくは減少傾向を明確に示すことなく推移した。そしてこのようなシンガポールの重油在庫の状況を反映し、1月中旬から2月中旬にかけてのアジア市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)及び低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)も、概して限られた範囲内で変動した。
2. 2023年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況
2023年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場においては、米国金融当局による金融引き締め政策減速への市場の期待増大による米ドル下落や米国株式相場上昇、中国の新型コロナウイルス感染抑制策転換に伴う同国経済と石油需要の回復に対する楽観的な見方の発生、G7及びEU等による海上輸送経由のロシア産石油製品に対する販売価格上限設定に伴うロシアからの石油製品供給を巡る懸念の増大、2月10日のロシアによる3月の自国の原油生産削減方針の表明等が原油相場に上方圧力を加えた反面、12月5日に実施されたG7及びEU等による海上輸送経由のロシア産原油販売価格上限設定等にもかかわらずロシア産原油供給がそれほど減少していないことを示唆する情報や米国経済が堅調であることを示す指標類の発表及び米国金融当局関係者による政策金利引き上げ継続もしくは引き上げ幅拡大の主張等による米ドル上昇と米国株式相場下落等が原油相場に下方圧力を加えたことにより、原油価格(WTI)は終値ベースで1バレル当たり73~82ドルを中心とする範囲内で変動しつつも、若干ながら下落傾向を示した(図15参照)。
1月16日は、米国キング牧師誕生記念日(Martin Luther King Day)に伴う休日により米国原油先物契約の終値は計上されなかったが、1月17日は、この日中国国家統計局から発表された2022年10~12月の国内総生産(GDP)が前年同期比2.9%の増加、12月の同国鉱工業生産が前年同月比1.3%の増加と、市場の事前予想(GDP前年同期比1.6~1.8%の増加、鉱工業生産前年同月比0.1~0.2%の増加)を上回って増加している他、12月の同国小売売上高が前年同月比1.8%の減少と市場の事前予想(同8.6~9.0%の減少)程減少していない旨判明したことにより、同国経済と石油需要の伸びに関する楽観的な見方が市場で増大したことに加え、1月17日に発表された12月のニューヨーク連邦準備銀行製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)がマイナス32.9と12月のマイナス11.2から低下、2020年5月(この時はマイナス48.5)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(マイナス8.6)を下回ったこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.18ドルと前週末終値比で0.32ドル上昇した。ただ、1月18日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月18日に米国商務省から発表された12月の同国小売売上高が11月比1.1%の減少と市場の事前予想(同0.8~0.9%の減少)を上回って減少している他、同日米国連邦準備制度理事会(FRB)から発表された12月の同国鉱工業生産が前月比1.3%の減少と市場の事前予想(同0.1~0.3%の減少)を上回って減少している旨判明した一方、同日米国セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁及びクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が政策金利を引き上げ続ける必要がある旨示唆したことにより、この先の米国金融引き締め政策継続観測と同国の景気減速懸念が市場で広がったこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.70ドル下落し、終値は79.48ドルとなった。それでも、2023年の世界エネルギー市場は一部の市場関係者が予想するよりも引き締まる恐れがある旨1月19日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が明らかにしたうえ、2023年の中国石油需要増加量予想を以前の以前よりも日量23万バレル上方修正し同77万バレルとする結果同年の同国石油需要が同1,600万バレルに到達すると見込まれる旨米国大手金融機関JPモルガンが明らかにしたと1月19日に報じられたことにより、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、1月19日の原油価格の終値は1バレル当たり80.33ドルと前日終値比で0.85ドル上昇した。また、1月20日も、この日米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で613基と前週末比で10基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は592基と同6基減少)と、2021年9月3日(この時は同国石油坑井掘削装置稼働数が前週末比で16基、石油水平坑井掘削装置稼働数が同17基の、それぞれ減少)以来の大幅減少を示したことにより、この先の米国におけるシェールオイルを含む原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことに加え、2022年10~12月において有料新規契約者数が市場の事前予想を上回って増加した旨1月19日夕方(米国東部時間)に米国動画配信大手ネットフリックスが明らかにしたうえ、次回の米国連邦公開市場委員会(FOMC)(1月31日~2月1日開催予定)において0.25%の政策金利引き上げと、前回のFOMC(12月13~14日開催)の0.50%から当該金利引き上げ幅を縮小することを支持する旨1月20日にFRBのウォラー理事が明らかにしたことにより、米国での景気後退懸念が低下したこともあり、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.98ドル上昇し、終値は81.31ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2023年2月渡し原油先物契約は取引を終了したが、3月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり81.64ドル(前日終値比1.03ドルの上昇)であった)。この結果原油価格は1月19~20日の2日間で1バレル当たり合計1.83ドル上昇した。
1月23日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.31ドル上昇し、終値は81.62ドルとなったが、3月渡しWTI先物契約間では、前週末終値比で0.02ドルの下落にとどまった。これは、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、1月13~17日において米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が160万バレル程度増加した旨英国石油関連情報サービス会社ウッド・マッケンジーが明らかにした旨1月23日に伝えられたことにより米国原油先物契約受け渡しにおける原油需給緩和感を市場が意識したことが、原油相場に下方圧力を加えた一方、1月31日~2月1日に開催される予定であるFOMCにおいて、2023年春の政策金利引き上げ停止に向けた検討を開始する可能性がある旨1月22日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたことにより同国景気減速懸念が市場で後退したこともあり米国株式相場が上昇したことが原油相場に上方圧力を加えたことによる。ただ、1月24日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生した流れを引き継いだことに加え、1月24日に米国経済情報サービス会社S&Pグローバルから発表された1月の米国総合購買担当者指数(PMI)(50が景気拡大と縮小の分岐点)(速報値)が46.6と7ヶ月連続で50を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.13ドルと前日終値比で1.49ドル下落した。1月25日には、この日EIAから発表された米国石油統計(1月20日の週分)で原油在庫が前週比53万バレル程度の増加と市場の事前予想(同100万バレル程度の増加)ほど増加していない旨判明したことに加え、1月25日にドイツIFO経済研究所から発表された1月の同国企業景況感指数(1991年=100)が90.2と12月の88.6から上昇したこともあり欧州経済に対する楽観的な見方が市場で広がるとともにユーロが上昇した反面米ドルが下落したことが、原油相場に上方圧力を加えた一方、1月24日夕方(米国東部時間)に発表された米国ソフトウェア販売大手マイクロソフトの2023年1~3月期売上高見通しが市場の事前予想を下回ったうえ、1月25日に発表された米国航空機製造大手ボーイングの2022年10~12月期業績が市場の事前予想に反し赤字であったこともあり、米国株式相場が一時下落したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.02ドルの上昇にとどまり、終値は80.15ドルとなった。ただ、1月25日にEIAから発表された米国石油統計で原油在庫が市場の事前予想ほど増加していない旨判明した流れが1月26日の市場に引き継がれたことに加え、1月26日に米国商務省から発表された2022年10~12月の同国国内総生産(GDP)(速報値)が前期比年率2.9%の増加と市場の事前予想(同2.6%の増加)を上回って増加していた旨判明したこともあり、同国経済と石油需要の伸びの回復に関し楽観的な見方が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.01ドルと前日終値比で0.86ドル上昇した。1月27日は、2月1~10日における、ロシアのバルト海沿岸港であるウスチ・ルーガ(Ust-Luga)からのロシア産ウラル原油及びカザフスタン産KEBCO(Kazakhstan Export Blend Crude Oil)原油の出荷量が日量100万バレルと1月同時期の同90万バレルから増加する見込みである旨この日報じられたことにより、12月5日以降主要7ヶ国政府(G7)及び欧州連合(EU)等により実施されているロシア産原油に対する販売価格上限設定等の措置に伴うロシア産原油供給減少への懸念が後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.33ドル下落し、終値は79.68ドルとなった。
1月30日も、ロシアのバルト海沿岸港であるウスチ・ルーガからの2月1~10日におけるロシア産ウラル原油及びカザフスタン産KEBCO原油の出荷量が1月同時期から増加する見込みである旨1月27日に報じられたことにより、G7及びEU等により実施されているロシア産原油販売価格上限設定等の措置に伴うロシア産原油供給減少への懸念が後退した流れを引き継いだことに加え、1月31日~2月1日に開催される予定であるFOMC、そして2月2日に開催される予定である欧州中央銀行(ECB)理事会及び英国イングランド銀行(中央銀行)金融政策委員会を控えた持ち高調整が発生したこともあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.90ドルと前週末終値比で1.78ドル下落した。1月31日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、1月31日に中国国家統計局から発表された1月の同国製造業及び非製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)がそれぞれ50.1及び54.4と2022年9月(この時は製造業PMIが50.1、非製造業PMIが50.6)以来の50超過となったことにより、中国経済及び石油需要の回復に対する楽観的な見方が市場で増大したこと、2022年11月の米国石油需要が前月比で日量17.8万バレル増加し同2,059万バレルと2022年8月(この時は同2,060万バレル)以来の高水準に到達した旨1月31日にEIAが明らかにしたことにより、同国石油需要回復観測が市場で増大したこと、1月31日に米国労働省から発表された2022年第4四半期における同国雇用コスト指数(ECI: Employment Cost Index)が前期比で1.0%の上昇と、同年第3四半期(同1.2%の上昇)から鈍化した他、市場の事前予想(同1.1%の上昇)を下回ったことにより、この先の米国金融当局による金融引き締め政策減速と同国経済回復に対する期待が市場で増大したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.97ドル上昇し、終値は78.87ドルとなった。しかしながら、2月1日には、この日EIAから発表された米国石油統計(1月27日の週分)において、原油在庫が前週比で414万バレル、ガソリン在庫が同258万バレル、留出油在庫が同232万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同40万バレル程度の増加、ガソリン在庫同140万バレル程度の増加、留出油在庫同130万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、同国石油需要の弱さを市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.41ドルと前日終値比で2.46ドル下落した。2月2日も、2月1日にEIAから発表された米国石油統計において、原油、ガソリン及び留出油の各在庫が市場の事前予想に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、同国石油需要の弱さを市場が意識した流れを引き継いだことに加え、英国を含め世界の物価上昇は頭打ちになった模様である旨2月2日に同国イングランド銀行が明らかにしたうえ、3月16日に開催される予定である次回ECB理事会においては0.5%の政策金利引き上げを実施する見込みではあるものの、その後の政策金利の引き上げ方針については改めて検討する旨2月2日にECBが示唆したことにより、英国等の政策金利引き上げペースの減速に対する観測が市場で発生したこともあり、英ポンド及びユーロが下落した反面米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.53ドル下落し、終値は75.88ドルとなった。また、2月3日も、この日米国労働省から発表された1月の同国非農業部門雇用者数が前月比で51.7万人の増加と2022年12月の同26.0万人の増加から増加幅が拡大した他、市場の事前予想(同18.5~18.8万人の増加)を相当程度上回ったうえ、失業率も3.4%と前月の3.5%から低下、1969年5月(この時の失業率は3.4%)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(3.6%)を下回ったことにより、この先の同国金融当局による金融引き締め政策継続への観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.39ドルと前日終値比で2.49ドル下落した。この結果原油価格は2月1~3日の3日間で1バレル当たり合計5.48ドルの下落となった。
2月6日には、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、中国経済が当初予想を上回って回復することに伴い同国の石油需要が拡大する可能性がある旨2月5日に国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が明らかにしたことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、2月6日に発生したトルコにおける地震により、同国のジェイハン(Ceyhan)石油輸出ターミナル(従来アゼルバイジャンから日量65万バレル程度及びイラクから日量47.5万バレル程度の原油がパイプラインにより輸送されてきていた)が予防的に操業を停止した旨同日伝えられた(なお、2月7日夜(現地時間)にイラク産原油について、2月12日にアゼルバイジャン産原油について、それぞれ出荷を再開した)ことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、ノルウェーのヨハン・スベルドルップ(Johan Sverdrup)油田第1段階(Phase1)(原油生産量日量50万バレルとされる)が技術的な要因により操業を停止し修理中である旨2月6日に伝えられたことにより、欧州を中心として石油需給引き締まり懸念が市場で発生したこと、2月5日に主要7ヶ国政府(G7)及びEU加盟国等がロシア産軽油等につき1バレル当たり100ドル、重油等につき同45ドルの、それぞれ販売上限価格を設定したことにより、ロシアからの石油製品供給混乱に対する懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.11ドルと前週末終値比で0.72ドル上昇した。2月7日も、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で継続したことに加え、2023年は米国の物価上昇ペースが大幅に鈍化する見通しである旨2月7日にパウエルFRB議長が明らかにするとともに、2月3日に発表された米国雇用統計の内容が極めて良好であったにもかかわらず、より積極的な同国金融引き締め政策の実施方針を同氏が示唆しなかったこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.03ドル上昇し、終値は77.14ドルとなった。また、2月8日も、2月7日のパウエルFRB議長の発言の流れを引き継いだこともあり、米ドルが一時下落したことに加え、2月6日に発生したトルコにおける地震に伴い、同国ジェイハン港からのアゼルバイジャン産原油の出荷に対する不可抗力条項の適用を操業者であるBPアゼルバイジャンが宣言した旨2月8日に伝えられたことにより、欧州を中心とする地域の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.47ドルと、前日終値比で1.33ドル上昇した。この結果原油価格は2月6~7日の8日間で1バレル当たり合計5.08ドルの上昇となった。2月9日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、アゼルバイジャンのバクーからトルコのジェイハンに原油を輸送するBTC(Baku-Tbilisi-Ceyhan)パイプラインは原油輸送を継続している旨2月9日に操業者であるBPアゼルバイジャンが明らかにしたことにより、アゼルバイジャンからの石油供給途絶に関する市場の懸念が後退したこと、物価上昇目標を達成するには政策金利引き上げ継続が肝要である旨2月9日に米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにしたこともあり、当該金利引き上げ継続に伴う米国経済減速懸念が市場で拡大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.06ドルと前日終値比で0.41ドル下落した。しかしながら、12月5日及び2月5日に実施したG7及びEU等によるロシア産原油及び石油製品販売価格上限設定に対抗するために、3月のロシアの原油生産量を日量50万バレル自主的に削減する旨2月10日にロシアのノバク副首相が発表した一方、OPECプラス産油国はロシアの原油生産削減に対し増産による対応を行うつもりはない旨関係者が示唆したと2月10日に伝えられたことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.66ドル上昇し、終値は79.72ドルとなった。
2月13日には、この日ニューヨーク連邦準備銀行から発表された1月の消費者調査で3年先の期待物価上昇率が2.7%と12月の当該調査(1月9日発表)時の3.0%から低下したこともあり、米国金融当局による金融引き締め政策の減速期待が市場で拡大したこともあり、米国株式相場が上昇したことに加え、2月13日にEU欧州委員会(EC)が2023年のユーロ圏の予想経済成長率を0.9%と11月11日時点の2023年見通しである0.3%から上方修正したこともあり、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことしたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.14ドルと前週末終値比で0.42ドル上昇した。しかしながら、2月14日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、米国エネルギー省が4月1日~6月30日に2,600万バレルの低硫黄原油の販売を予定している(2月28日入札締切)旨2月13日午後遅く(米国東部時間)に報じられたことにより石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.08ドル下落し、終値は79.06ドルとなった。2月15日も、この日EIAから発表された米国石油統計(2月10日の週分)において、原油在庫が前週比で1,628万バレル、ガソリン在庫が同232万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(原油在庫同120万バレル程度、ガソリン在庫同150万バレル程度の、それぞれ増加)を上回って増加した他、特に原油在庫は4.71億バレルと2021年6月4日(この時は4.74億バレル)以来の高水準に到達した旨判明したこともあり、石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、2月15日にニューヨーク連邦準備銀行から発表された2月のニューヨーク地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)がマイナス5.8と1月のマイナス32.9から上昇した他市場の事前予想(マイナス18.0)を上回ったうえ、同日米国商務省から発表された1月の同国小売売上高(速報値)が前月比で3.0%の増加と市場の事前予想(同1.8~2.0%の増加)を上回ったこともあり、米国金融当局による金融引き締め政策継続観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.59ドルと前日終値比で0.47ドル下落した。2月16日も、この日米国労働省から発表された1月の米国生産者物価指数(PPI)が前月比0.7%の上昇と2022年6月(この時は同0.9%の上昇)以来の大幅な上昇となった他市場の事前予想(同0.4%の上昇)を上回ったことに加え、同日同国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(2月11日の週分)が19.4万件と市場の事前予想(20.0万件)を下回ったこと、米国セントルイス連邦準備制度理事会のブラード総裁及び同国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が、1月31日~2月1日に開催されたFOMCにおいて0.25%の引き上げを決定した政策金利につき今後再び0.50%引き上げていくことが必要となる可能性がある旨示唆したことにより、米ドルが上昇するとともに、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.10ドル下落し、終値は78.49ドルとなった。さらに、3月のロシアの原油生産量を日量50万バレル自主的に削減する旨2月10日にロシアのノバク副首相が発表したことに対し、3月のロシアからの原油輸出量が大幅に減少する可能性は高くない旨2月17日にロシアのベドモスチ紙が報じたことにより、ロシアの原油生産削減による世界石油供給への影響に対する懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.34ドルと前日終値比で2.15ドル下落した。この結果原油価格は2月15~17日の3日間で1バレル当たり合計3.80ドルの下落となった。
3. 原油市場における主な注目点等
2023年2月4日にG7及びEU等はロシアで生産され海上輸送経由で販売される石油製品に対し、原油価格を上回る価格で販売されるもの(ガソリン及び軽油等が該当するとされる)については1バレル当たり100ドル、原油価格を下回る価格(ナフサ及び重油等が該当するとされる)については、1バレル当たり45ドルの、それぞれ上限を設定、原則2月5日を以て実施することで合意した(ただ、例えば、2月5日午前0時1分(米国東部時間)以前に船積みされた石油製品については4月1日午前0時1分(同)まで価格上限適用が除外される旨2月3日に米国財務省が発表するなどしている)。また、2月5日を以てEU加盟国はロシア産石油製品の購入を原則禁止する措置を実施した(2022年6月3日に当該措置を内容とする制裁は発動していたが、2月5日までは事実上の猶予期間であった)。このようなことから、EU加盟国(そして既に米国や英国等)では、ロシア産の石油製品(特に従来欧州諸国はロシアから軽油等を輸入していた)の購入を敬遠するようになっているものと考えられる。このため、EU諸国等で引き取られなくなった石油製品はアフリカや南米、及びインドを含むアジア諸国等に向かうことになるものと見られる(実際ブラジル、モロッコ、チュニジア及びアルジェリアに向けロシア産石油製品が向かいつつある旨2月17日に伝えられる)。そして、EU加盟国等以外の消費国がロシア産石油製品を引き取ることによって、それら諸国が引き取らなくなった石油製品がEU加盟国等に回り込む(もしくはEU加盟国等以外の諸国等が引き取ったロシア産石油製品が他の石油製品と混合されたうえで、EU加盟国等に向け輸出される)ことにより、石油製品供給自体は平準化に向かおうとするものと見られる。しかしながら、それまで比較的近距離であったEU加盟国等に輸送されていたロシア産の石油製品が、EU加盟国等による購入制限の実施に伴い、EU加盟国等以外の消費国等に向け相対的に遠距離輸送されることになるため、その分だけ石油製品を積載した状態となるタンカー隻数が増加する反面これから石油製品を積載しようとする際に必要となるタンカーの利用可能隻数が減少する結果、石油製品タンカー運賃が上昇する可能性がある。このため、ロシア産石油製品の消費国等の到着価格が割安でなくなることにより、そのような消費国等は従来から引き取っていたロシア産以外の石油製品の引き取りを継続しようとすることから、この面でロシア以外の生産国産の石油製品供給確保を模索するEU加盟国等との間での競合が強まることにより、石油製品相場に上方圧力が加わるとともに、原油価格がそれに引きずられるといった展開となることも想定されうる。
また、2022年12月5日に実施された、海上輸送経由でのロシア産原油の原則購入禁止及び海上輸送経由で販売されるロシア産原油に対しEU等が設定した上限価格(現時点では1バレル当たり60ドル)は、当初2ヶ月毎に見直す方針であった。その後当該上限価格は2023年3月に見直す予定である旨G7で合意したと1月20日に米国財務省が発表したが、次回以降このような販売価格上限を見直す際にどの水準で上限価格が設定されるかに関し、G7及びEU関係者間での議論がどのように進展するか次第で、ロシア産石油供給の増減を巡る観測が市場で発生する結果、それが原油等の価格に影響を及ぼす場面が見られることもありうる。
また、12月5日及び2月5日に実施したG7及びEU等によるロシア産原油及び石油製品販売価格上限設定に対抗するために、2月10日にロシアのノバク副首相が、3月の同国原油生産量を日量50万バレル削減する方針である旨発表した。ただ、例えば1月18日に明らかになっていたIEAの2023年見通しによれば、2022年12月時点で日量977万バレルであったロシアの原油生産(コンデセートを除く)は、2023年1月に同962万バレル、2月に同882万バレル、3月に同838万バレルへと、それぞれ減少するものと見込まれていた。他方、ロシアのノバク副首相は、同国の原油生産量(コンデセートは含まれていないものと推測される)は2022年12月~2023年2月において日量980~990万バレルの水準を維持するものと見込まれる旨明らかにしたと2月8日に報じられる。このため、2023年2月から3月にかけ日量50万バレル原油生産を削減しても、2023年3月の原油生産量は同930~940万バレル程度となり、IEAの見込みを上回ることになる(なお、2月15日に発表されたIEAの最新見通しでは、2023年3月のロシアの原油生産量(コンデンセートを除く)は日量888万バレルとなっている)。このようなことに加え、ノバク副首相は日量50~70万バレル同国の原油産出量を削減するかもしれない旨明らかにしたと既に2022年12月23日に伝えられていたこともあり、2月10日のノバク副首相の日量50万バレルの原油生産削減の発表は、石油市場関係者の心理にほぼ織り込み済となっていることから、この面では世界供給をさらに引き締めるような事態を引き起こしたり、引き起こすとの懸念を市場関係者間で発生されたりすることにより、原油相場に上方圧力を加え続ける可能性は高くないものと考えられる。また、3月にロシアからの原油輸出量が大幅に減少する可能性は高くない旨2月17日にロシアのベドモスチ紙が報じていることも、ロシアの原油生産削減による世界石油供給への影響に対する不安を市場で後退させる格好となっている。ただ、例えば、今後日量50万バレルの原油生産削減の影響がドルジバ・パイプライン経由で欧州に輸出される原油の供給の減少となって現れるようであれば、多少なりとも欧州の石油需給上の混乱を引き起こすことにより、その影響が原油相場に及ぶといった展開となることは否定できない。また、今後も発動される可能性がある西側諸国等による対ロシア追加制裁(2月24日にはロシアのウクライナ侵攻開始後1年を迎えることもあり、それに向け新たな対ロシア制裁を策定及び実施しようとする動きがEU等に見られる)に対し、ロシアが石油や天然ガスの供給をさらに削減するといった対抗措置を実施する可能性があることを、2月10日のノバク副首相の発表は示唆していることもあり、今後ロシアからの天然ガス供給のさらなる削減に伴う天然ガスの代替燃料としての石油需要の上振れを含め、ロシアからのエネルギー供給制限措置の発動等により世界石油需給の引き締まり感が市場で意識されることを通じ、原油相場に上方圧力が加わるといった場面が見られるといった展開が排除されるものではない。
イランについては、ヘジャブ(スカーフ)の着用方法を巡りイラン人女性が同国風紀警察に拘束された直後の9月16日に死亡したことにより発生した国内抗議活動の弾圧に対し、1月23日に、米国、英国及びEUが、イラン情報・治安省や軍隊等の幹部、そして同国革命防衛隊(IRGC: Iran Revolutionary Guard Corps)指揮官や関連団体及びその幹部に対し資産凍結を含む制裁を発動する旨発表した。これに対し1月24日にイラン外務省は英国とEUに対し報復措置を実施する意向である旨表明した。また、EUが革命防衛隊をテロ組織に指定する旨検討していると1月29日に伝えられる。さらに、ロシアのウクライナ侵攻の際に使用された無人機を製造したことを理由にとして1月31日に米国商務省がイランの7団体及び企業に対する輸出を規制する措置を実施する旨発表した。他方、1月29日深夜(現地時間)にイラン中部の都市イスファハンにある軍事関連工場で爆発が発生したが、それがイスラエルの無人機による攻撃に伴うものであった旨同日報じられるとともに、イランは報復措置の実施も排除しない旨明らかにしたと2月2日に伝えられる。また、1月21日に国際原子力機関(IAEA)がイラン中部フォルドゥにある原子力関連施設を査察したところ、IAEAに事前に説明することなく当該施設の装置に相当程度の変更が加えられていた旨判明したと2月1日にIAEAが発表した。さらに、2月9日には米国財務省が、イラン産石油及び石油化学製品のアジア等への販売に関与しているとされる企業9社に対し制裁を発動する旨発表した。このように、イランと西側諸国等との間での関係は、イランのウラン濃縮活動、ヘジャブ着用を巡る弾圧、ロシアのウクライナ侵攻の際のイランの無人機供給等を通じ複雑化する様相を呈している他、米国はイランからの石油等の国外への供給に関与した企業に対する制裁を強化するなど、イラン核合意正常化とは反対の方向に向かいつつあるように見受けられることから、この先イラン核合意の正常化を巡り両者が妥結する結果、イランの石油輸出に関する制裁を米国が緩和するとともにイラン産原油等の輸出が促進され、世界石油需給が緩和するといった展開となることは、少なくとも短期的には想定しにくいものと考えられる。むしろ、イランと西側諸国等との対立の強まりに伴い、ペルシャ湾におけるタンカー攻撃等を含め、中東情勢が不安定化することにより、当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で拡大することを通じ、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもありうる。
中国では、春節(旧正月)(2023年は1月22日)に伴う休暇シーズン(1月21~27日)が終了した。新型コロナウイルス感染検査態勢が緩和していることから中国国内の感染状況の詳細把握は困難であるものと見られる一方、春節に伴う休暇シーズンの終了とともに、中国石油会社が国外へのガソリンの輸出を抑制し始めていると伝えられる他、1月30日に国際通貨基金(IMF)により発表された世界経済見通しでは2023年の中国経済成長率が2022年10月11日に発表された前回の見通し時点から0.8%上方修正され5.3%となったこともあり、今後同国経済が回復するとともに個人の外出が活発化する(既に2023年1月27日までの1週間(つまり春節に伴う休暇シーズン中)において交通機関を利用して移動した個人は前年比で74%増加した旨1月28日に報じられている)との期待とともに、自動車向けのガソリンや航空機向けのジェット燃料等の石油製品の需要が増加するとの観測が市場で発生しやすい状況となっている。加えて、中国経済の再開に伴い石油化学製品の需要が拡大する結果、原料となるナフサの需要が増加する可能性もある。従って、この面でこの先の中国石油需要の上振れに伴う世界石油需給の引き締まり感が市場で強まることを通じて原油相場が上振れする可能性がある。ただ、依然として中国が順調に、かつ速やかに経済を回復できるかどうかについては不透明感を伴うこともあり、今後も中国の個人の往来活発化を巡る状況、経済回復状況、及び中国政府等による景気刺激策などの動向には注意する必要があろう。
1月31日~2月1日に開催されたFOMCでは、0.25%の政策金利引き上げと、12月13~14日に開催された前回のFOMCで決定された0.50%の政策金利引き上げから引き上げ幅が縮小した。ただ、2月3日に米国労働省から発表された1月の同国非農業部門雇用者数は前月比で51.7万人の増加と2022年12月の同26.0万人の増加から増加幅が拡大した他、市場の事前予想(同18.5~18.8万人の増加)を相当程度上回ったうえ、失業率も3.4%と前月の3.5%から低下、1969年5月(この時の失業率は3.4%)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(3.6%)を下回るなどしており、引き続き米国経済が減速しているようには見受けられないことが示唆された。加えて、2月16日に米国労働省から発表された1月の同国PPIが前月比0.7%の上昇と2022年6月(この時は同0.9%の上昇)以来の大幅な上昇となった他市場の事前予想(同0.4%の上昇)を上回るなど、物価上昇ペースが再び加速する兆候が見られた。他方、2月6日には米国のイエレン財務長官が物価上昇は大幅に減速しており、景気後退は回避可能である旨発言した他、2023年は米国の物価上昇ペースが大幅に鈍化する見通しである旨2月7日にパウエルFRB議長が明らかにするとともに、2月3日に発表された米国雇用統計の内容が極めて良好であったにもかかわらず、同氏はより積極的な同国金融引き締め政策の実施を示唆しなかった。また、2月10日には、米国フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁が、今後0.25%の政策金利の引き上げを2回程度実施したうえで引き上げを停止することを支持する旨明らかにした。しかしながら、米国金融当局は政策金利をこれまでの想定を上回って引き上げることが必要となる可能性がある旨2月6日にアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が表明した他、ニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁、ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁、FRBのウォラー理事及びクック理事(それぞれ2月8日)、米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁(2月9日)が、いずれも政策金利引き上げを継続すべきである旨主張した他、セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁及びクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁(ともに2月16日)、FRBのボウマン理事(2月17日)が、それぞれ政策金利引き上げ幅が現状の0.25%から0.50%へと拡大する可能性がある旨発言した(括弧内は各金融当局関係者の発言日もしくは報道日)こともあり、同国金融当局関係者による金融引き締め政策積極化が示唆されるようになってきている。このようなこともあり、米国において政策金利の引き上げが継続(もしくは拡大)するとともに同国経済が減速するとの懸念が市場に広がることにより、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落する結果、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られる可能性もあるため、今後の米国等における消費者及び生産者物価指数等の上昇具合、同国経済指標類の内容、金融当局関係者の発言等につき注目していくことが肝要であろう。
米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお暫く継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ものの、製油所の段階では暖房用石油製品の生産は峠を越えつつあることもあり、メンテナンス作業の実施等により製油所の稼働が低下するとともに原油精製処理量が減少することを通じ、製油所等の原油購入が不活発になることで、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることにより、この面では原油相場の上昇を抑制するものと考えられる。ただ、前述の通り冬場の暖房用石油需要期は最終消費段階では当面続くことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測が市場で発生する他、寒波が米国南部にまで及ぶようだと、テキサス州等における電力供給面に支障が生ずるとともに資機材の凍結により原油生産が減少することにより、石油需給引き締まり感が市場で意識される結果、原油価格が上昇する場面が見られることもありうる。また、早ければ3月初頭以降、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来と製油所の稼働の上昇及び原油購入の活発化が市場で意識されるとともに、ガソリン及び原油価格に上方圧力が加わるといった展開が見られることも想定されうる。
他方、2月1日にはOPECプラス産油国閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)が開催され、2022年11月1日より2023年末にかけ実施中である2022年8月(及び10月)比日量200万バレルの原油生産削減措置を維持する方針を事実上決定した。それでも、このような方針決定は市場関係者により事前に予想されていたこともあり、同日の原油価格への影響は限定的であった。2月1日に開催されたOPECプラス産油国JMMCにおける減産措置を巡る方針決定の背景には、中国の新型コロナウイルス感染抑制策の転換及びG7及びEU等によるロシア産石油製品販売価格上限の設定の世界石油市場への影響が明確になるまで様子を見る必要があるとのOPECプラス産油国の認識があると見る向きもある(実際、中国経済回復が持続的なものであると確認できなければOPECプラス産油国原油生産拡大は困難である旨サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が示唆したと2月16日に伝えられる)。他方、12月5日及び2月5日に実施したG7及びEU等によるロシア産原油及び石油製品販売価格上限設定に対抗するために、3月のロシアの原油生産量を日量50万バレル自主的に削減する旨2月10日にロシアのノバク副首相が発表したことに対し、OPECプラス産油国は増産による対応を行う意向はない旨示唆したと2月10日に伝えられる。ロシアの原油生産削減については、既に足元市場では織り込み済であったものと見られる他、今後のロシアの原油生産の状況を巡っても不透明感が払拭できない状況であることから、OPECプラス産油国はさらなる行動を見送ったものと考えられる。ただ、現時点では2023年は特に後半において需要が供給を上回るとの見方が市場で発生している(表1参照)一方、中国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の事実上の終了による同国経済回復及び個人の往来の活発化に伴う石油需要の上振れが石油需給をさらに引き締める可能性がある一方、ロシアの原油供給が想定(2月15日に発表されたIEAの最新のロシア原油生産見通しに従えば、2022年12月時点で日量981万バレルの同国原油生産が2023年12月には同823万バレルへと同158万バレル減産するものと見られる)通りに低減しないかもしれないといった不透明感が残る。ただ、そのような不透明感をOPECプラス産油国が意識することにより、例えば中国の石油需要上振れやロシアの原油生産減少の兆候が見られたとしても、それが持続的なものなのかどうかを見極めようとするため、原油価格が上昇しつつあるような場面であっても、OPECプラス産油国は減産措置の緩和に対し慎重に対処しようとする結果、原油相場の上昇幅が拡大する場面が見られる可能性がある。反対に、中国の経済回復状況及び石油需要の上振れが比較的緩やかなものであったり、ロシアの原油生産減少も当初見込まれたほど速いペースではなかったりする(もしくは当該生産が下げ止まったり増加に転じたりする)こと等により、原油価格が下落し続ける、もしくは急速に下落する兆候が見られる、といった局面となった場合には、OPECプラス産油国は原油価格下落抑制に向け先制的に原油生産目標削減に言及する(いわゆる「口先介入」を行う)他、それでも原油価格の下落が抑制されないようであれば、原油生産目標引き下げを検討、そして、6月4日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合を待たずして、臨時のOPECプラス産油国閣僚級会合を開催することを含め協議の機会を設け(次回のOPECプラス産油国JMMCを4月3日に開催する旨2月1日に開催されたOPECプラス産油国JMMCで決定したが、市場の動向により必要とされる場合OPECプラス産油国閣僚級会合を含めた追加の会合を開催する権利がJMMCに付与されている)、原油生産目標等の再調整を実施することを通じ、原油相場下落の抑制を試みようとする可能性があるものと考えられる。
全体としては、今後は、冬場の石油需要期の終了が視野に入りつつあることが原油相場を抑制する方向で作用すると見られるものの、早ければ3月初頭にも夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来が市場で意識されるようになる可能性がある他、新型コロナウイルス感染抑制策終了に伴う中国の経済回復や個人の往来の活発化による石油需要の上振れ期待が、原油相場に上方圧力を加えやすいものと考えられる。他方、G7やEUによるロシアからの海上輸送による原油や石油製品の購入の原則禁止及び上限価格設定の石油供給への影響、3月からのロシアの原油生産削減の実際の状況やロシアによる石油を含むさらなるエネルギー供給を巡る措置実施の可能性、及び米国金融当局による金融引き締め政策を巡る関係者による発言等に対し、市場が神経質になる結果、それらの動向の影響が原油相場に織り込まれる場面が見られることもありうる。
4. 世界天然ガス市場動向
米国では、物価上昇とともに金融当局による政策金利の引き上げが継続したことにより、産業活動が減速気味であった(同国鉱工業生産は2022年8~10月においては前年同月比3.2~4.7%の増加となったが、2022年11月~2023年1月においては同0.8~2.0%の増加へと鈍化している)ことを反映し、同国の産業部門向け天然ガス需要は2022年8~10月においては前年同月比で増加していたが、2022年11月~2023年1月においては横這いか減少となった。他方、2022年12月は下旬を中心として大寒波「エリオット(Elliott)」がテキサス州にまで南下するなど気温が相当程度低下した(図16参照)こともあり、暖房向けに民生部門において、また空調のための電力供給向けに発電部門において、それぞれ天然ガス需要が喚起されたことが、同月の同国の天然ガス需要全体を牽引する格好となった(図17参照)。しかしながら、2023年1月においては、気温が平年を上回るなど総じて温暖な天候に転じたことにより、民生及び発電量部門における天然ガス需要が不振となったこともあり、同月の同国の天然ガス需要は全体として前年を割り込むこととなった。なお、2022年11月は米国の気温が前年同月とほぼ同水準であったこともあり、同国天然ガス需要は前年同月比で微増にとどまった。
他方、2022年の前半から夏場にかけ原油や天然ガスの価格が上昇したこともあり、2021年12月31日時点では石油坑井掘削装置稼働数が480基、天然ガス坑井掘削装置稼働数が106基であったものが、その後石油坑井掘削装置稼働数は2022年11月23日に627基、天然ガス坑井掘削装置稼働数は同年9月9日に166基へと、それぞれ増加した。それに伴い石油坑井からの原油生産に随伴して生産されるものを含め天然ガス生産は当初見込みを上回って拡大する格好した。例えば2022年1月時点における2023年1月の同国天然ガス生産見通しは日量966億立方フィートであったが、実際の2023年1月の同国天然ガス生産は同1,002億立方フィートとなっている。もっとも、2022年12月には米国のテキサス州を含め天然ガス生産地帯に大寒波が南下した結果、一部生産関連施設の操業に支障が発生したことから、同国の天然ガス生産が落ち込む場面が見られた(図18参照)。
また、2022年11~12月は総じて米国天然ガス価格が前年を上回って高水準で推移したことから、メキシコで米国からの天然ガスの輸入が敬遠された他、2023年1月においては米国天然ガス価格は前年同月を下回ったものの、メキシコ経済が減速気味となったものと見られることにより発電部門や産業部門で利用される天然ガス需要が抑制された結果、2022年11月~2023年1月の米国からメキシコへの天然ガス輸出は概して前年同月を下回る状態となった(図19参照)。さらに、2022年6月8日午前11時40分(現地時間)に、米国テキサス州にあるフリーポートLNG出荷基地(操業者:フリーポートLNG社、出荷能力年間1,500万トン)で火災が発生した(安全バルブに不具合があり、圧力過多となったことにより破損したパイプからLNG及びメタンが漏洩し炎上したものと米国運輸省パイプライン危険物安全局(PHMSA: Pipeline and Hazardous Materials Safety Administration)が暫定的に報告したと6月30日に伝えられる)が、当初少なくとも3週間程度当該施設の操業が停止する旨6月8日にフリーポートLNG社が発表していたものの、実際には操業停止は相当程度長期化、2023年1月26日に米国連邦エネルギー規制委員会(FERC: Federal Energy Regulatory Commission)が当該LNG出荷施設における操業再開に向けた作業の一部を承認した。その後、FERCはフリーポートLNG出荷施設におけるLNGの船積み作業再開を承認した旨2月9日に報じられる。このため、2月12日以降同LNG出荷施設からLNGを積載したタンカーが3隻出港している。ただ、タンカーに積載されたLNGは当該LNG出荷施設操業停止前に貯蔵施設で貯蔵されていたものであり、新たに液化されたものではないとされる他、当該LNG出荷施設操業再開計画を巡る地域住民を交えた公聴会が2月11日に実施されたと伝えられるため、依然として同LNG出荷施設の全面操業再開時期については不透明な状況となっている。このようなこともあり、2022年11月から2023年1月にかけては当該施設の天然ガス液化装置は完全に操業を停止し続けていたことにより、日量約20億立方フィート相当の天然ガスが米国から輸出できない状態となった(図20参照)が、かえってこの分だけ米国国内の天然ガス需給を緩和させることとなった。
このように、米国においては、天然ガス生産が増加した一方、需要は必ずしも好調ではなかったうえ、パイプライン経由でのメキシコへの輸出が抑制された他一部天然ガス液化施設の操業停止継続に伴いLNG輸出も削減され続けたことにより米国内に天然ガスがとどまりやすくなったことから、同国の天然ガス需給は緩和する方向に向かい、2022年11月4日時点では平年(過去5年平均)を2.1%下回っていた同国天然ガス貯蔵量は2023年2月10日時点では平年を8.8%上回る状態となった(図21参照)。それでも11月中~下旬においては、同月末に向け寒波が来襲するとの予報が発表された他、米国政府の仲介により労働者の給与引き上げを含む待遇改善を求める一部の鉄道労働組合と経営陣との間で到達した暫定合意案(9月15日米国ホワイトハウスが発表)に対し、11月21日に一部鉄道労働組合が否決したことから、12月上旬に同国の鉄道労働組合がストライキを実施することにより石炭輸送に支障が発生するとともに、発電向け石炭供給の不足が発生することに伴いその代替として天然ガス需要が増加するとの観測が市場で発生したりしたこともあり、11月中~下旬における米国天然ガス相場に上方圧力が加わった結果、11月11日には100万Btu当たり5.879ドルであった同国天然ガス価格は11月23日には同7.308ドルへと上昇した(図22参照)。また、12月上旬においても、同月中旬に向け気温が平年を下回る程度に低下するとの予報が発表されたり実際気温が低下したりしたこともあり、同月中旬には同国天然ガス価格が上昇する場面も見られた。しかしながら、米国鉄道労働組合のストライキは米国政府の介入により(ストライキ回避法案が11月30日に同国連邦議会下院で、12月1日には上院で、それぞれ承認され、12月2日にはバイデン大統領が法案に署名し法律として成立した)ストライキの実施が回避された他、12月下旬を中心として米国に寒波「エリオット」が南下するとともに、テキサス州等では気温が大幅に低下したことにより天然ガス生産に支障が発生したものの、寒波は長期間居座わらない旨の見方が示されるようになったこと、1月以降も気温が低下する時期はあったものの、概ね平年を上回る気温の状態が継続したことにより、暖房向けの民生部門において、もしくは空調用の電力供給向けの発電部門において、天然ガス需要が抑制されるとの観測が市場で強まったことが、冬場の暖房シーズンに伴う天然ガス需要期の終了が市場関係者の視野に入りつつあったことともに天然ガス相場に下方圧力を加えたこともあり、米国天然ガス価格は下落傾向となり、2月17日には100万Btu当たり2.275ドルと2020年9月28日(この時は同2.101ドル)以来の低水準に到達した。
欧州では、11月中旬から12月中旬にかけ全般的に気温が低下傾向となった(図23参照)ことにより、暖房のための民生部門及び空調用の電力供給のための発電部門において天然ガス需要が喚起されたことが一因となり天然ガス在庫が減少し始めた。このようなことから、2022年11月11日時点では100万Btu当たり推定29.673ドルであったオランダTTF天然ガス先物価格は同年12月7日には同45.699ドルへと上昇した。ただ、このように欧州天然ガス先物価格が高水準であった(因みに新型コロナウイルス感染流行前の2019年12月1日時点の当該価格は100万Btu当たり推定5.340ドルであった)ことから、当該地域では産業部門を中心として天然ガス需要が低迷し続けたものと見られる。さらに、12月下旬頃以降は、欧州各地域で気温が平年を上回るなど温暖になったことから、暖房のための民生部門及び空調用の電力供給のための発電部門において天然ガス需要が低調となったうえ、英国やドイツ等で風力発電がしばしば好調であったり(図24参照)、大規模なメンテナンス作業等を実施した結果稼働が大幅に低下していたフランスの原子力発電所が操業を再開したりした(2022年8月26日には総発電能力6,100万kW強程度のうち2,500万kW強程度であった同国の原子力発電稼働可能能力は2023年2月17日には4,600万kW弱の水準へと回復している)ことが、欧州の発電部門における天然ガス需要を抑制した。このようなことから、2022年11月~2023年1月における欧州天然ガス需要は前年同月を17~22%程度下回ったものと推測される(図25参照)(なお、2022年の欧州天然ガス需要は前年比で12%程度の減少となったものと推定される)。他方、ロシアからのパイプラインによる天然ガス供給はウクライナ及びトルコ・ストリーム等を経由したものに限定されたことから低迷し続けた(図26参照)ものの、アジアにおける天然ガス需要が低調であった(後述)こともあり、12月中旬頃まではアジアよりも欧州のLNG価格水準が相対的に高かった(図27参照)ことから米国を初めとする産ガス国から欧州にLNGが流入した(図28参照)。また、パイプライン経由による欧州への天然ガス出荷が低調であったロシアについても、LNGについては比較的安定した状態で欧州に向け供給が継続した。このように、天然ガス需要が盛り上がらなかったうえ、供給が比較的堅調であったこともあり、欧州の天然ガス在庫は通常冬場においては減少し続けるところ、2022~23年の冬場においては在庫水準の減少ペースが著しく鈍化するなどした(2022年12月下旬から2023年1月初頭にかけては当該在庫が増加する場面も見られた)ことにより、2022年2月4日時点では平年(過去5年平均)を29.5%下回っていた欧州天然ガス在庫は2023年2月17日時点では平年を47.2%上回る状態となった(図29参照)他、平年幅(過去5年幅)の上限付近に位置する量となっている。また、ノルウェーにおいて天然ガス生産及び処理関連施設等においてメンテナンス作業実施や装置不具合等のため操業停止が発生する場面が見られた他、2022年12月下旬頃以降はアジア向けLNG価格が欧州向けLNG価格を上回る場面が見られるようになったうえ、米国フリーポートLNG出荷施設の全面操業再開時期については不透明な部分はあったものの、同施設の操業再開に伴うLNG供給増加期待が市場で増大し始めた他、冬場の暖房シーズンに伴う暖房向けもしくは発電向け天然ガス需要期が残り少なくなり始めたこともあり、欧州において天然ガス需給緩和感が増大することとなった。このようなこともあり、欧州の天然ガス価格は下落傾向となり、2023年2月17日時点のオランダTTF価格は100万Btu当たり推定15.373ドルと2022年12月7日の価格水準から67%程度の下落となった他、2021年8月23日(この時は同14.347ドル)以来の低水準に到達した。それでも、価格が下落したことに伴う値頃感からアジアの一部諸国でLNGを購入しようとする動きが見られたり(後述)、2022~23年の冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期は暖冬に伴う暖房用及び発電用天然ガス需要が不振であったことが一因となって乗り切れた格好となったもの、2023~24年の冬場の暖房シーズンが暖冬となるという保証もない中、中国を初めとするアジア諸国及び地域でのLNG需要の状況及びロシアからの天然ガス供給の今後の見通しを巡る不透明感が市場関係者間で継続していることが、欧州(及びアジア)における天然ガス価格を下支えする形で作用している。
北東アジア地域においては、11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国での新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限は緩和され続けたものの、その後そう時期を経ないうちに同国は春節(旧正月、2023年は1月22日)に伴う休暇シーズンに突入したこともあり、産業活動が不活発なままとなるとともに天然ガス需要(中心は産業部門である)も顕著には回復しなかった。また、春節に伴う休暇シーズンが終了した後も、同国では産業活動の回復が比較的緩やかであるものと見受けられることもあり、天然ガス需要の伸びは限定的となっているようである。供給面では中国国内天然ガス生産、及び中央アジアやロシアからのパイプライン経由の天然ガス輸入が概ね堅調に行われた(図30参照)。この結果、同国ではしばしば天然ガス在庫が高水準である旨伝えられた他、2022年11月~2023年1月の同国LNG輸入は概して低調であった(図31参照)。他方、韓国では、2022年夏場後半以降LNG供給の確保を進めてきた(韓国産業通商資源部(省)は足元34%である同国の天然ガス貯蔵充填率を11月までには90%程度にまで引き上げることを目標とする他、韓国ガス公社(Kogas)はエネルギー危機を回避すべく2022年末までに1,000万トン(約4,800万立方フィート)のLNGを購入する必要がある旨8月8日に示唆された)うえ、2022年12月7日に新韓蔚(ハヌル)原子力発電所1号機(発で能力140万kW)が操業したこともあり、2022~23年の冬場においては韓国ではLNG追加調達活動がそれほど活発化するということはなかった。さらに、日本においても、九州電力川内原子力発電所1号機(発電能力89万kW)及び2号機(同)、四国電力伊方原子力発電所3号機(同89万kW)に加え、関西電力高浜原子力発電所3号機(同87万kW)(8月19日発表)及び4号機(同87万kW)(11月6日発表)、大飯原子力発電所4号機(同118万kW)(8月12日発表)、美浜原子力発電所の3号機(同82.6万kW)(9月26日発表)、が夏場以降に相次いで本格運転を再開した(括弧内の日付は再稼働開始発表日を示す)他、2022年12月12日には九州電力玄海原子力発電所3号機(発電能力118万kW)が操業を再開した。加えて、2022年3月16日に発生した福島県沖地震により操業を停止していた相馬共同火力発電新地石炭火力発電所1号機(発電能力100万kW)が2022年11月11日に、同2号機(同100万kW)が2023年1月13日に、それぞれ操業を再開した。このため、同国の天然ガス火力発電稼働に対する負担が軽減されたうえ、2022~23年の冬場が総じて温暖に推移したことにより、その分だけ、暖房向けに民生部門において、もしくは空調向けの電力供給のために発電部門において、天然ガス、そしてLNG需要が低下された格好となった。この結果、例えば日本の大手電力会社の保有するLNG在庫は2023年2月12日時点で256万トンと前年2月末(169万トン)及び2月末の過去5年平均(198万トン)の水準を相当程度上回る状態となっている。また、8月25日には100万Btu当たり69.955ドルに到達した北東アジアLNG先物価格は下落してきたとはいえ11月11日時点においてもなお同27.225ドルと、東南アジア及び南アジアのLNG受入国にとって見れば依然高水準のままであったことから、これら地域諸国におけるLNG購入意欲が低迷した(例えばバングラディシュでは天然ガス配給制を施行したり、タイではLNGを購入する代わりに軽油を購入して使用したりしていた他、インドにおいてもLNGのスポット購入がしばしば見送られた)。このような要因に加え、欧州において天然ガス及びLNG価格が夏場に比べ相対的に軟調に推移したことが、北東アジア市場等のスポットLNG価格に下方圧力を加える格好となった。このため、11月から12月中旬頃にかけては、冬場の気温低下に伴う暖房向けもしくは空調のための発電向け天然ガス需要増加懸念から、北東アジア市場のLNG先物価格は12月19日に100万Btu当たり36.490ドルにまで上昇する場面が見られたものの、その後は下落傾向となり、2月17日には同15.920ドルと2021年8月20日(この時は同15.575ドル)以来の低水準に到達する場面も見られた。ただ、スポットLNG価格が100万Btu当たり20ドルを割り込むようになってきていることから、これまでLNGが割高であると感じていた東南アジア及び南アジア等の一部諸国の需要家の間ではLNGを割安と感じるようになってきていることもあり、LNGの購買活動を活発化させる兆候を見せつつあることが、アジア市場でのスポットLNG価格を下支えする形で作用している。
以上
(この報告は2023年2月20日時点のものです)