ページ番号1009639 更新日 令和5年2月21日
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概要
CO2地下貯留(CCS)事業においては、地下に圧入したCO2の貯留層内での挙動を把握することや、貯留層からのCO2漏洩という潜在的なリスクを監視することが不可欠です。CCS事業では、貯留サイトの開発、CO2圧入期間中だけではなく、貯留サイト閉鎖後も含めて長期間のモニタリングの実施が求められるため、費用対効果の高いモニタリング手法が求められます。近年、比較的安価、長期的かつ効率的に地下における物理現象の観測ができる光ファイバーセンシング技術がこのモニタリングに適用できるのではないかと注目されています。本コラムでは、この光ファイバーセンシング技術の一つである分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing:DAS)技術の基本原理および機構が取り組むプロジェクトについてご紹介します。
1. Distributed Acoustic Sensing (DAS)技術とは
光ファイバーセンシング技術は、光ファイバーケーブルをデータ通信だけではなく、物理現象を観測するセンサーとしても用いる計測技術です。光ファイバーセンシングは、インテロゲーターユニット(光信号の送受信機)と光ファイバーケーブルから構成されます。インテロゲーターユニットから射出されたレーザー光によるパルス信号は、ケーブル内のあらゆる場所の不純物や分子振動との相互作用等が原因で後方散乱され、インテロゲーターユニットへ戻ってきます(図1)。その後方散乱光の周波数ごとのエネルギー分布は(図2)のようになっており、ラマン散乱光、ブリルアン散乱光、レーリー散乱光の主に3つに分類されます。このうち、ラマン散乱光のエネルギーが温度によって変化することを活用し、分布型温度センシング(Distributed Temperature Sensing, DTS)が1984年に提案・実証されました[1]。その後、ケーブルにひずみが生じた際にレーリー散乱光が変化する現象を利用して、外力によって生ずるひずみを計測する技術が開発されました。これは一般的に、分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing)、通称DASと呼ばれます。DASを活用した地震探査においては、地震波によりファイバーの一部に生じるひずみを計測することで、地震波の受振センサーとしての活用が進んでいます。地震波によりひずみがファイバーのとある箇所に生じると、ひずみが生じる前と比較して後方散乱光の信号の一部が変化するため、そこから地震波の振動を計測します。更に、地震探査においては、地震波を受振した場所と時刻を正確に知る必要がありますが、インテロゲーターユニットからひずみが生じた場所までのパルス信号の往復時間により、ひずみがファイバーのどの位置で生じたかが判別できます(図3)。
従来の地震探査においては、ハイドロフォンやジオフォンといった地震計を数m~数十m間隔で設置し観測が行われてきました。これに対し、DASでは設置された光ファイバーケーブル自体が地震計のような役割を果たし、ケーブルに沿って一定の間隔(数10cm~数m程度)で観測が可能であるため、低コストで広範囲かつ高密度なデータ取得が実施できるという利点があります。そのため、低コストで長期的なモニタリングが求められているCO2地下貯留事業においては、要の技術として期待されています。一方で、地震波を直接計測するハイドロフォンやジオフォンと比較して、ノイズレベルに対する、地震波によるひずみから計測される信号の大きさ(Signal to Noise ratio, S/N比)が小さい、ケーブルと垂直な方向に生じるひずみは検出できない、といった欠点が存在します[2]。

(出所:原田産業ウェブサイト、OptaSense 社より改変[3])

(出所:SENS-AITプロジェクトウェブサイト[4])

(出所:地震予知連絡会 第228回定例会資料[5])
2. 機構での取り組み
次にDAS技術を活用した地震探査に関連する機構が取り組む事例についてご紹介します。
アラスカ陸上で取得されたDASデータへのFull Waveform Inversion (FWI) 適用スタディ
機構は、米国エネルギー省(United States Department of Energy, USDOE)傘下の国立エネルギー技術研究所(National Energy Technology Laboratory, NETL)と共同で、米国アラスカ州におけるメタンハイドレート長期陸上産出試験に向けて準備を進めています。その一環で、2019年3月に、断層の有無の確認およびメタンハイドレートの産出における貯留層内の挙動のモニタリングを目的とし、井戸(Hydrate-01)に設置された光ファイバーケーブルを用いてDASによる地震探査データが取得されました(図4(a))。従来は地震計を井戸の中にぶら下げて、一定深度ごとに収録していたため、データ取得に長い時間を要しましたが、DASを用いることで浅部から深部までのデータを1回の収録で取得することが可能になり、データ取得は非常に効率的に行われました。
機構は2020年より、このDASにより観測されたデータに対し、地下の速度構造を詳細に推定(つまり地層の重なり具合を詳細に反映)できる解析技術の1つであるFull Waveform Inversion (FWI) [6]の適用を検討しています。前述の通り、DASデータは従来の地震計との測定原理の違いから、地震計とは異なる特徴を有するため、本検討の取り掛かりとして、地震計で取得されたデータに対して適用されてきたFWI解析が、DASデータにも適用可能か検証しました。
本DASデータに対するFWI解析の結果から、坑井の音波検層のトレンドと一致する速度モデルが得られ(図4(d))、貯留層(D-hydrate、B-hydrate)深度において、坑井から200~300m離れた場所まで速度モデルが推定できていることが分かります(図4(b), (c))。このことから、DASデータとFWIの組合せが地下の速度構造の推定に有用であることが分かりました。一方で、貯留層の位置で音波検層により観測された高速度層を推定することができておらず、DASデータを適切に解析するためには、今後、解析手法の改良が必要であると考えられます。

DASと地表固定型震源ACROSSを組み合わせた貯留層モニタリング手法の開発
機構では、地表固定型震源Accurately Controlled Routinely Operated Signal System (ACROSS)を用いた貯留層モニタリング手法の開発研究を2012年度より実施しており、2014年度からはカナダ、サスカチュワン州に位置するアクイストアCO2地下貯留サイトにおいてACROSSを用いたCO2地下貯留モニタリングの実証試験を実施しています(図5)。本サイトでは、2015年よりCO2の圧入が開始されており、2022年9月時点において累積圧入量が約45.9万トンに至り、日量約400トンのCO2圧入が継続されています。その中で、観測井内に設置された光ファイバーを用いたDASとACROSSを用いたデータ収録を行っており、2016年12月(累積圧入量:約10.4万トン)に「ベースライン調査」、2018年3月(累積圧入量:約14.0万トン)に「モニタリング調査1」、2019年4月(累積圧入量:約19.7万トン)に「モニタリング調査2」、2020年1月(累積圧入量:約27.2万トン)に「モニタリング調査3」が実施されました。CO2の圧入に伴う地下の物性の変化が非常に小さい場合には、それ以外に起因する変化を可能な限り小さく抑え、CO2圧入による物性変化を強調することが重要になります。ACROSSおよびDASは共に調査期間中同じ位置に固定されており、調査機器の設置場所が調査間でずれることがないため、このようなモニタリングが困難な状況においても、利用できる可能性があります。

(出所:令和3年度JOGMEC石油天然ガス開発技術本部年報[9])
2016年のベースライン調査と2018年のモニタリング調査1で取得されたデータを比較すると、1.2秒以深の、収録季節の違いに依拠する差異を除き、両データの差は小さいことが分かりました。よって、同じ位置に設置された震源装置とDASによる2つの調査間の再現性の高さが示されました(図6)。

(出所:石油技術協会誌 第87巻[10])
3. おわりに
機構ではこれからもDAS技術の資源・エネルギー関連分野への応用について検討を進めてまいります。DASには低コストで広範囲・高密度なデータ取得が可能という利点がある一方で、低いS/N比や感度の制限があります。このような利点・欠点がある中で、どのような応用が可能かを探る、機構の取り組みの一つに、新潟県南阿賀油田におけるDASを用いた坑井間地震探査に関するスタディがあります。
株式会社INPEXと機構は、株式会社INPEXの保有する南阿賀油田(新潟県阿賀野市)において、CO2を油層に圧入し、原油の回収率の促進効果およびCO2貯留メカニズムを検証するための実証試験を実施しております。その一環として、DASと坑内震源を用いた坑井間地震探査が行われています(図7)。このようなDASを用いた坑井間地震探査は世界でもまだ例が少ない試みで、今後取得されたデータに対しFWI解析等を適用し、実用可能性を探ってまいります。

(出所:JOGMEC CCS関連資料より抜粋)
[1] J. P. Dakin, D. J. Pratt, G. W. Bibby and J. N. Ross: “Distributed optical fibre Raman temperature sensor using a semiconductor light source and detector,” Electron. Lett., 21(1985) 569―570.
[2] Miller, D. E., Daley, T. M., White, D., Freifeld, B. M., Robertson, M., Cocker, J. and Craven, M., 2016 : Simultaneous Acquisition of Distributed Acoustic Sensing VSP with Multimode and Single-mode Fiber-optic Cables and 3C-Geophones at the Aquistore CO2 Storage Site. CSEG Recorder, 41(6), 28–33.
[3] https://infocom.haradacorp.co.jp/railway/das
[4] http://sensait.jp/15157/
[5] https://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/activity/228/image228/228.pdf
[6] 中村悠希(2017)「石油開発最新事情:フルウェーブフォームインバージョンを用いた地下イメージング」 JOGMEC石油・天然ガス資源情報 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1004689/1007483.html
[7] Lim, T. K., Fujimoto, A., Kobayashi, T., Kawaguchi, K., Mondanos, M. (2020) : DAS-3DVSP Data Acquisition at 2018 Hydrate-01 Stratigraphic Test Well. 10th International Conference on Gas Hydrates (ICGH10)
[8] 北脇裕太・毛利拓治・藤本暁・平亨・清水英彦 (2022)「DASを用いたVSPデータへのFWI適用②:フィールドデータ解析」、令和3年度石油天然ガス開発技術本部年報、JOGMEC
[9] 北脇裕太・清水英彦・下田直之・中山貴隆(2022)「アクイストアCO2貯留サイトにて取得されたACROSSとDASを用いたVSPデータの解析」、令和3年度石油天然ガス開発技術本部年報、JOGMEC
[10] 市川大・北脇裕太・下田直之・中山貴隆・加藤文人・ホワイトドン・ニッケルエリック・デーリートーマス(2021)「固定式震源ACROSSを活用したDAS-VSP方式による貯留層モニタリングシステムの実証試験成果と今後の展望」、石油技術協会誌、87(1)、27-39.
以上
(この報告は2023年2月21日時点のものです)