ページ番号1009640 更新日 令和6年10月21日
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概要
- 東アフリカ原油パイプライン(East African Crude Oil Pipeline: EACOP)プロジェクトは、ウガンダの未開発の原油資源を収益化することを目的とした、アルバート湖開発プロジェクトの中流部門を構成するものである。上流を構成するKingfisherプロジェクトは2023年1月24日に石油生産井の竣工式を行い、その後、初の石油掘削作業を開始し、Tilengaプロジェクトは2023年3月に掘削開始を予定する。
- 欧州議会は2022年9月15日に採択した決議において、人権・社会・環境的影響への対処がなされていないことを理由に、ウガンダとタンザニアの両政府に対してアルバート湖畔等での採掘活動を中止し、TotalEnergiesに対し、EACOPプロジェクトを1年間保留し、より環境に優しいルート・代替案を探すよう求めた。しかし、EU決議後も、ウガンダ政府を始め、タンザニア政府、TotalEnergies、CNOOC等はIFCスタンダートや赤道原則などの国際基準に則ってプロジェクトを計画・実施していると主張し、毅然とした態度を示し、着々とプロジェクトを推進している。
- 2019年10月、Friends of the Earth FranceやSurvie、AFIEGO、CRES、NAPE/Friends of the Earth Uganda、NAVODAの6つの人権及び環境団体は、TotalEnergiesはウガンダとタンザニアにおけるTilengaとEACOPプロジェクトの人権・社会・環境的影響を十分に特定・管理していないと主張し、フランスの「注意義務法」に基づき、フランスの裁判所にTotalEnergiesを提訴した。本件は2017年の注意義務法に関する初の裁判であり、規定も具体的でないことから、詳細は裁判所次第であると考えられる。ウガンダとの契約の当事者はTotalEnergiesではなく、その子会社であることから、親会社の子会社の行為に対する責任範囲(法人格同一性の範囲)という観点において、重要な判決となる。なお、当該訴訟は2023年2月28日までフランスの裁判所で審議される。
- EACOP建設に係る費用は50億ドルと見積もられ、その内30%~40%をプロジェクト出資者(政府・企業)が支出し、残りの60%~70%の費用を金融機関等により調達する予定である。元来、エネルギートランジションの潮流に加え、EACOPプロジェクトは、上流プロジェクトと密接に関係する環境・地域社会への配慮が必要なプロジェクトであったことから、ファイナンスのハードルが高いとされており、融資先の交渉が難航していた。2022年9月、10月にレンダー2行から3億ドル(IsDB 1億ドル、Afreximbank 2億ドル)の資金を確約したものの、更なる資金調達が必要である。現在は当該決議の影響も相まって、現在はESGによる制約の程度が低い非欧米系の金融機関との交渉に重点を置いているものと考えられる。また、「企業持続可能性デューデリジェンス指令案」も当該プロジェクトの進退を左右するものと考えられる。本指令案の正式な成立は2023年から2024年後半と見通されており、その後、EU加盟国の国内法に反映・施行されるのは2025年から2026年になると考えられる。施行された際には、EUに拠点を置く、特に国際石油企業(IOC)にとって、規制面・財務面で大きな影響を与え、アルバート湖石油開発プロジェクトを始めとする環境負荷の高いプロジェクトはさらに複雑なものになることが想定される。
- EACOPの建設期間は2-3年を要するため、資金調達の課題が継続した場合、パイプラインの完成は政府目標の2025年より遅れることになる。プロジェクトの着工が遅れれば遅れるほど、EU決議や企業持続可能性デューデリジェンス指令の介入によって進捗が妨げられる可能性が高くなり、ウガンダのアルバート湖石油開発プロジェクトの収益化能力に大きな不確実性を与えている。
1. はじめに
東アフリカ原油パイプライン(East African Crude Oil Pipeline: EACOP)プロジェクトは、ウガンダの未開発の原油資源を収益化することを目的とした、アルバート湖開発プロジェクトの中流部門を構成するものである。同計画では図1の通り、ウガンダ西部のホイマからタンザニアのインド洋沿岸のタンガ港まで1,443キロメートル(ウガンダ296キロメートル、タンザニア1,147キロメートル)・24インチの絶縁埋設式の電気加熱式パイプライン並びに6つのポンプステーション(ウガンダで2つ、タンザニアで4つ)、貯蔵ターミナル、2つの減圧ステーション、国際市場向けの海上輸出ターミナルを建設することが計画されている。光ファイバーによりパイプラインの温度や振動を監視することにより漏洩、流出を防ぎ安全な操業を計画している。また、パイプラインに使用する電力はTilengaプロジェクトとKingfisherプロジェクトでの余剰電力、また、水力発電所(ナショナルグリッド経由)、5つの太陽光発電施設(計90MWp)から賄う予定である[1]。
当該プロジェクトは、ウガンダでは、主にウガンダ石油協会(Petroleum Authority of Uganda: PAU)と国家環境管理局(National Environment Management Authority: NEMA)によって規制されている。また、タンザニアでは、主に電力・水・公益事業規制庁(Energy and Water Utilities Regulatory Authority: EWURA)と国家環境管理評議会(The National Environmental management Council: NEMC)により規制されている[2]。
EACOPプロジェクトは、TotalEnergiesとCNOOCが2025年に稼働させる予定のTilengaプロジェクトとKingfisherプロジェクトの原油を輸送し、原油のワックス分が高い性質により、電気加熱式パイプライン(絶縁・埋設)となっている。TilengaプロジェクトとKingfisherプロジェクトは、図2、図3の通りプラトー生産量は計25万b/dに達し、EACOP経由で21.6万b/d輸出される。ウガンダの製油所が両プロジェクトにおける生産原油の6万b/dの優先引取権を保持しており、操業開始後は、地元や地域の市場での消費が優先される仕組みとなっている。パイプラインの建設には2-3年を要する見込みであり[3]、2025年から操業を開始する構えである。
出所:NEMA[4]
出所:NEMA[5]
2. これまでの経緯
アルバート湖開発プロジェクトは以下の通り推進されてきた。
アルバート湖石油開発プロジェクト | FID | 費用 |
Kingfisher (CNOOC 28.33%、TotalEnergies 56.67%、UNOC 15.00%) |
2021年11月4日 | 25億ドル |
Tilenga (TotalEnergies 56.67%、CNOOC 28.33%、UNOC 15.00%) |
2022年2月1日 | 40億ドル |
EACOP (TotalEnergies 62.00%、TPDC 15.00%、UNOC 15.00%、CNOOC 8.00%) |
2022年2月1日 | 50億ドル (注)当初は35億ドルも上昇 |
製油所 (Albertine Graben Refinery Consortium 60%、Uganda Refinery Holding Co. 40%) |
(目標)2023年6月 | 40億米ドル程度 |
出所:各種資料によりJOGMEC作成
日程 | 主要行事 |
2006年 | ウガンダ・アルバート湖付近にて石油を発見 |
2014年 | 探鉱と評価を完了 |
2016年4月 | タンザニア経由のパイプラインルートを確認 (注)当初はケニアからのルートを検討していた |
2017年5月25日 | ウガンダ・タンザニア間でHGA(政府間協定)を締結 |
2017年11月6日 | 建設開始式典を挙行 |
2019年11月29日 | タンザニアにてESIA(環境・社会影響評価)が承認 |
2020年9月11日 | HGAを締結 |
2020年10月26日 | HGAを締結 |
2020年12月3日 | ウガンダにてESIAが承認 |
2021年4月11日 2021年5月20日 |
HGAを締結 法的・商業的枠組み(土地、健康、社会、安全基準、人権、現地コンテンツ、財政体制、認可、紛争メカニズム等)につき合意 |
2022年2月15日 | EACOP Shareholders Agreementを有効化 |
出所:各種資料を参考にJOGMEC作成
EACOPの敷設については、2017年5月にウガンダ・タンザニア間で政府間協定が締結されたが、上流プロジェクトの停滞を背景に、同様に停滞してきた。しかし、TotalEnergiesのTullow Oil権益買収の話が立ち上がり原油価格の低迷が一服した後には、パイプライン敷設についても進展を見せ始めた[6]。また、原油輸出関税に関する合意や法律改正、パンデミックやロシア制裁もプロジェクト進展の足枷となった。報道によると、2023年1月17日にウガンダ政府はEACOPの建設申請を承認した[7]。一方でEACOPにおいては幅30mの通行権(right-of-way)が必要であり[8]、ウガンダの通行権は取得申請中とのことである。なお、タンザニア政府は既に建設を承認済みで、近日中にライセンスが発効されると報じられた[9]。EACOPは2023年11月の建設開始を見込む。
Kingfisherプロジェクトは2023年1月24日に石油生産井の竣工式を行い、その後、初の掘削作業を開始した。なお、UNOCのPeter Muliisa Chief Legal Officer は2023年1月19日に、CNOOCはウガンダの商業生産目標の2025年より早い2024年後半までに同油田からの生産が可能とのこと述べている。また、同氏はTilengaプロジェクトにつき2023年3月に掘削開始予定とのこと述べ、輸出用原油パイプラインの準備が整わない場合、初期の原油フローは鉄道やトラックで輸出される予定であることも付け加えた。
図5の通りすべてが計画通りに進めば、TilengaとKingfisherからの生産は2025年初頭に開始されることとなる。
また、ナンカビルワ・エネルギー相は2023年1月20日にアルバート湖開発プロジェクトの確実性をさらに高めるために、日産6万バレル製油所計画も2023年6月までに承認する必要があると述べた。操業は2025年を予定するものの、現在は環境・社会影響評価(ESIA)が進行中である。
3. 欧州議会の決議内容について
欧州議会は2022年9月15日に採択した決議において、以下の通り、ウガンダとタンザニアの両政府に対し、アルバート湖畔等での採掘活動を中止し[10]、TotalEnergiesに対し、EACOPプロジェクトを1年間保留し、より環境に優しいルート・代替案を探すよう求めた[11]。
本決議では(1)前回の決議(2021年2月9日、2018年12月3日)、(2)人権擁護者に関するEUガイドラインおよびオンラインとオフラインの表現の自由に関するEU人権ガイドライン、(3)ウガンダが署名している1948年の世界人権宣言、(4)ウガンダが1995年6月21日に批准した1966年12月16日の市民的及び政治的権利に関する国際規約、(5)1998年12月9日に採択された、人権擁護者に関する宣言、(6)2015年12月12日にパリで開催された第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議において採択され、2016年4月22日にすべてのEU諸国、ウガンダ、タンザニアなどが署名したパリ協定、(7)EU-アフリカ共同戦略、(8)清潔で健康的な環境へのアクセスを普遍的人権との宣言。2022年7月28日に国連総会で採択され、すべてのEU加盟国を含む161カ国の投票により、清潔で健康的な環境へのアクセスを普遍的人権と宣言した決議、(9)手続規則144(5)及び132(4)に触れつつ、以下の8つの問題点を指摘し、8つの要求を述べた。
問題点
- Tilengaプロジェクトの一部がマーチソンフォールズ国立公園内に位置すること。
- タンザニア沿岸のEACOP関連施設が津波リスクの高い地域に建設され、海洋保護区を危険にさらすこと。また、オランダ環境アセスメント委員会が「再提出されたEACOPの環境・社会影響評価の諮問レビュー」で指摘した通り、水域と湿地の横断のために提案された技術(オープン トレンチ)が、特に湿地において大きな負の影響を与える可能性があること。
- 自然保護区と生息地を危険にさらすと予測されていること並びにリスクと経済・雇用の利益の不均衡について。
- 気候変動目標の達成へのリスクと環境・社会影響評価の重大な欠陥によりEACOPからの油漏洩が不可避であると考えられること
- ウガンダの石油・ガス部門で働く人権擁護者と非政府組織(NGO)に対する逮捕、脅迫、司法上の嫌がらせに関する懸念を表明する22年1月24日付の国連報告書について。
- 2019年以降、TotalEnergiesの、TilengaプロジェクトおよびEACOPプロジェクトとその人権への影響に関連して、フランスの「親会社と発注企業の注意義務に関する法律(以下、注意義務法)」が要求する、健康、安全、環境、人権のリスクに対する対応。
- EU代表団とフランス、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、オランダの大使館員が、2021年11月9日に油田地帯への立ち入りを禁じられたこと。
- これらのプロジェクトにより、約118,000人が影響を受け、公正かつ適切、事前に十分な補償がなされることなく、生活基盤を失っていること。
要求・表明等
- 人権擁護者やNGOへの不当な扱い、プロジェクト影響者への人権侵害に対して、重大な懸念を表明。人権擁護者、ジャーナリスト、市民社会グループが自由に活動が行えるようにすること、任意逮捕されたすべての人権擁護者を直ちに解放することを要求。
- 治安部隊および政策が人権基準を尊重し遵守することを確保するための具体的措置を要求。ウガンダ政府に対し、恣意的に活動を停止された54のNGOを再承認し、公正かつ適切な補償を受けることなく移転させられた人々に土地へのアクセスを認めるよう要求。
- 迅速かつ公正で適切な補償を行うよう要求。両政府に対し、失った財産や土地を適切に補償し、健康、環境、生活、市民への自由に対する地域社会の権利を保護し、過去数十年の石油操業の影響を受けた人々に救済措置を提供するためのさらなる措置をとるよう要求。両政府に対し、土地取得、評価、再定住に関する国内法を更新し、地域および国際基準との整合性を確保するよう要求。
- ウガンダ当局に対し、市民社会組織、独立ジャーナリスト、国際的なオブザーバーや研究者のために、自由で有意義かつ妨げられない油田地帯へのアクセスを許可するよう再度要求。
- 企業のデューデリジェンス義務に関連し、人権、環境、気候の義務に対処する旨の法的拘束力のある国際文書の要求を再表明。
- EU及び国際社会が、ウガンダ・タンザニア当局、およびプロジェクトパートナー等に対して、環境を保護し、アルバート湖畔を含む保護された敏感な生態系での採掘活動を停止させ、影響を受けるコミュニティの文化、健康、未来を守るために利用できる最善の手段を用い、気候および生物多様性の国際的な約束に沿った代替案を模索するよう最大限の圧力をかけることを要求。プロジェクトに係る紛争の解決と、TotalEnergiesに対し、EACOPプロジェクト開始前に1年間、ウガンダとタンザニアの生態的環境を考慮した代替ルートの実現可能性を研究し、アフリカ大湖地域の流域の脆弱性を軽減(克服)し、よりよい経済発展のために再生可能エネルギーに基づく代替プロジェクトを模索するよう要求。
- 中国及びロシアの経済的影響力の増大、特にエネルギー部門、さらにウガンダがロシアの支援を得て原子力発電所を開発することに関心を持っていることについて懸念を表明。
なお、2019年10月に開催された第1回ロシア・アフリカサミットの宣言において民生用原子力の共同プロジェクト実施について言及がなされている。2023年7月に第2回ロシア・アフリカサミットを開催予定である。 - 理事会、欧州委員会、欧州委員会副委員長/外務・安全保障政策上級代表、欧州連合人権特別代表、ウガンダ共和国大統領、タンザニア共和国大統領、ウガンダ議会およびタンザニア議会の議長に本決議を送付するよう要求。
上記の決議がなされた後、ウガンダ政府を始め、タンザニア政府、TotalEnergies、CNOOC等はIFCスタンダートや赤道原則などの国際基準に則ってプロジェクトを計画・実施していると主張し、毅然とした態度を示し、着々とプロジェクトを推進している。
4. TotalEnergiesと環境団体との紛争
2019年10月、Friends of the Earth FranceやSurvie、AFIEGO、CRES、NAPE/Friends of the Earth Uganda、NAVODAの6団体は、当社がウガンダとタンザニアにおけるTilengaとEACOPプロジェクトの人権・社会・環境的影響を十分に特定・管理していないと主張し、フランスの「注意義務法」に基づき、フランスの裁判所にTotalEnergiesに対する訴訟手続きを提起した。その後、3年の手続きを経て、2022年12月7日から本格的な審理が行われた[12]。2017年に施行されたフランスの注意義務法は、一定規模の企業に対し、自社だけでなく、商業関係が成立している下請け業者やサプライヤーの活動についても、リスクを特定し、人権や基本的自由、人間や環境の健康や安全に対する深刻な侵害の可能性を防ぐために講じた合理的な措置に関する警戒計画を経営報告書で公表するよう求めているものである。
なお、本件は2017年の注意義務法に関する初の裁判であり、規定も具体的でないことから、詳細は裁判所次第であると考えられる。ウガンダとの契約の当事者はTotalEnergiesではなく、その子会社であることから、親会社の子会社の行為に対する責任範囲(法人格同一性の範囲)という観点において、重要な判決となる。
2022年10月12日のTotalEnergiesのプレスリリースによると表3の通り補償金を支払っており、表4の居住地が被害を受ける世帯に対しては補償金を受け取るまでその土地に住み続けることができるとしている[13]。
ウガンダ | タンザニア | |||
Tilenga | 4,929世帯 | 2%、補償契約を締結 88%、補償金支払い |
- | - |
EACOP | 3,648世帯 | 74%、補償契約を締結 60%、補償金支払い |
9,510世帯 | 67%、補償契約を締結 15%、補償金支払い |
出所:各種資料を参考にJOGMEC作成
ウガンダ+タンザニア | ||
Tilenga + EACOP | 723世帯、約5,000人 | 92%、補償契約を締結 88%、補償金支払い |
出所:各種資料を参考にJOGMEC作成
また、Tilengaプロジェクトに係る、マーチソンフォールズ国立公園への環境影響については、図4の通りマーチソンフォールズ国立公園の10%において開発許可を得ているが、約0.05%、かつ井戸も10か所と同公園内での開発を意図的に制限している。また、同公園において生物多様性等の森林生息地の保全促進に係る活動を実施しているという。
なお、当該訴訟は2023年2月28日までフランスの裁判所で審議される。
5. 各金融機関の撤退
プロジェクトの資金は、プロジェクト出資者による支出と金融機関からの借入金で賄われる予定である。銀行および金融機関は、EACOPプロジェクトの資金調達の60%(~70%)を提供する予定である。残りの30%(~40%)は、プロジェクト出資者(ウガンダ、タンザニア両政府、上流パートナーであるTotalEnergiesとCNOOC)が資金を提供する予定である。
当プロジェクトのファイナンシャルアドバイザーはStandard Bank(南アフリカ)、SMBC(日本)、ICBC(中国)であり、現在レンダーとして確認されているのはAFREXIMBANK、IsDBである。2022年9月と10月にレンダー2行から3億ドル(IsDB 1億ドル、Afreximbank 2億ドル)の資金を確約したものの、更なる資金調達が必要である。このまま、他の銀行、金融機関からの融資が確保できない場合はファイナンシャルアドバイザーが残りの資金の大半を提供する可能性が考えられる。
同プロジェクトは、環境活動家が国際金融公社(IFC)の環境基準と赤道原則に違反するとし、金融機関に圧力をかけている。これに伴い、2022年2月初め、南アフリカの4つの銀行(ABSA、FirstRand、Nedbank、Investec)がこのプロジェクトに参加しない旨、伝えられている。また、2022年4月6日、再保険会社ミュンヘン再保険は、当該プロジェクトが同社のESG評価に適合しないとして保険をかけない旨決定したと述べている。2022年11月下旬、保険会社のブリタム、アーチ保険、エイジス・ロンドンが、環境・社会リスクの検証を行った結果、EACOPプロジェクトから撤退したと報道された。上記の動向に伴い、今後プロジェクトの関係者は、開発計画を進めるために新たな保険会社を探す必要があるだろう。
現在世界はこれまでに経験したことのないようなエネルギー危機に直面しており、必要なエネルギーから取り残される人々が出ないよう、持続可能性に配慮した石油開発プロジェクトを推進する機運が高まっている。その一方で、プロジェクト遅延によるコスト増加や需要見通しの不確実性、エネルギートランジションによる座礁資産化を避ける観点からパートナーは、できるだけ予定通りのスケジュールでプロジェクトを進めたいと考えていると思われる。しかし、資金調達の難化により、最初の輸出が政府の目標である2025年より遅れることになる可能性が高い。
プロジェクトの着工が遅れるほど、EU決議のような介入によって進捗が妨げられる可能性が高くなり、ウガンダのアルバート湖石油の収益化能力にかなりの不確実性を与えている。一方で、プロジェクトの遅延に伴い規制面、財務面での影響は増大し、アルバート湖石油開発プロジェクトやEACOPプロジェクトの進展を妨げるものとなる。
6. おわりに
欧州議会の決議に法的拘束力はないものの、大きな影響力を有する機関による決議である。プロジェクト出資者への直接的な影響は少なく、欧州企業であるTotalEnergiesが本決議に基づいてこの段階で撤退する可能性は極めて低いものの、欧州の銀行の融資への抑止力として機能する可能性が高く、プロジェクトを進めるうえでこの影響は重くのしかかるだろう。
元来、エネルギートランジションの潮流に加え、EACOPプロジェクトについては、上流プロジェクトを含めた環境・地域社会への配慮が必要なプロジェクトであったことから、ファイナンスのハードルが高いとされており、融資先の交渉が難航していた。現在は当該決議の影響も相まって、現在はESGによる制約の程度が低い非欧米系の金融機関との交渉に重点を置いているものと考えられる。
また、「2.欧州議会の決議内容について・要求・表明等・(5)」の記載に関連し、今後EUに拠点を置く上流企業にとっては「企業持続可能性デューデリジェンス指令案」の施行時期がカギとなる。本指令案は、EUに拠点を置き、一定の適用要件を満たす企業[14]に対し、その活動が人権や環境に及ぼす悪影響を予防・是正する義務を課すものである。正式な成立は2023年から2024年後半と見通されており、その後、EU加盟国の国内法に反映・施行されるのは2025年から2026年になると考えられる。施行された際には、EUに拠点を置く、特に国際石油企業(IOC)にとって、規制面・財務面で大きな影響を与え、アルバート湖石油開発プロジェクトを始めとする環境負荷の高いプロジェクトはさらに複雑なものになることが想定される。
パイプラインの建設期間に2-3年を要すると見込まれることから、資金調達の課題が継続した場合、パイプラインの完成は政府目標の2025年より遅れることになる。プロジェクトの着工が遅れるほど、EU決議や企業持続可能性デューデリジェンス指令の介入によって進捗が妨げられる可能性が高くなり、ウガンダのアルバート湖石油開発プロジェクトの収益性に大きな不確実性を与えている。
迫るタイムリミットの中で現地政府並びにウガンダ・タンザニア政府並びにパートナーは当該プロジェクトを進展させるために焦慮していると考えられる。今後も同プロジェクトに注目したい。
[1] https://eacop.com/overview/(外部リンク)
“Overview”, East African Crude Pipe line, 8 Feb, 2023 閲覧
[2] https://eacop.com/project-brief-september-16th-2022/(外部リンク)
“Project Brief – September 16th 2022”, East African Crude Pipeline, 16 Sep, 2022
[3] https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009346.html
“アルバート湖開発プロジェクト ―ウガンダ産油国への道―”, JOGMEC, 10 May, 2022
[4]https://nema.go.ug/sites/all/themes/nema/docs/Vol_1b_CNOOC_Kingfisher_ESIA_FINAL_FINAL_print.pdf(外部リンク)
“ENVIRONMENTAL AND SOCIAL IMPACT ASSESSMENT FOR THE CNOOC UGANDA LTD KINGFISHER OIL DEVELOPMENT, UGANDA”, National Environment Management Authority, Sep 2018
[5] https://corporate.totalenergies.ug/sites/g/files/wompnd2271/f/atoms/files/esia_nts_tilenga_esia_28-02-19_reduced_size.pdf(外部リンク)
“Tilenga Project ESIA Non-Technical Summary”, National Environment Management Authority, Feb 2019
[6] https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008604/1008877.html
“(短報)Tullow Oil の Total への資産売却をウガンダ政府承認”, JOGMEC, 10 Nov, 2020
[7] https://www.ogj.com/pipelines-transportation/pipelines/article/14288579/uganda-approves-eacop-construction-to-start-late-2023(外部リンク)
Uganda approves EACOP, construction to start late 2023, OIL & GAS JOURNAL, 21 Jan, 2023
[8] https://eacop.com/route-description-map/(外部リンク)
“Route Description & Map”, 8 Feb, East African Crude Pipe line , 2023閲覧
[9] https://www.monitor.co.ug/uganda/news/national/govt-approves-eacop-construction-licence-4090004(外部リンク)
“Govt approves EACOP construction licence”, MONITOR, 18 Jan, 2023
[10] https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20220909IPR40149/human-rights-breaches-in-ukraine-uganda-tanzania-and-nicaragua(外部リンク)
“Human rights breaches in Ukraine, Uganda, Tanzania, and Nicaragua”, European Parliament, 15 Sep, 2022
[11] https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2022-0321_EN.html(外部リンク)
“European Parliament resolution of 15 September 2022 on violations of human rights in Uganda and Tanzania linked to investments in fossil fuels projects (2022/2826(RSP))”, European Parliament, 15 September, 2022
[12] https://www.amisdelaterre.org/communique-presse/totals-tilenga-and-eacop-projects-finally-a-court-hearing-in-france-on-the-merits-of-the-duty-of-vigilance-case/(外部リンク)
“Total’s Tilenga and EACOP projects: finally a court hearing in France on the merits of the duty of vigilance case”, Les Amis de la Terre France, 6 Dec, 2022
[13] https://totalenergies.com/media/news/press-releases/duty-vigilance-totalenergies-regrets-ngos-refusal-mediation-process(外部リンク)
“Duty of Vigilance: TotalEnergies Regrets NGOs' Refusal of the Mediation Process Proposed by the Paris Civil Court”, 10 December, 2022
[14] 「同指令案によって義務化の対象となるのは、EU域内で設立された企業のうち、(a)全世界での年間純売上高が1億5,000万ユーロ超、かつ、年間平均従業員数が500人超の企業、(b)全世界での年間純売上高が4,000万ユーロ超、かつ、人権・環境の観点からハイリスクと指定された繊維、農林水産、鉱業などの分野の売上高が年間純売上高の50%以上を占め、さらに年間平均従業員数が250人超の企業だ。EU域外で設立された企業の場合は従業員数の要件はなく、域内での売上高が(a)または(b)の年間純売上高の基準を満たす企業に限定される。」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/02/270ab8bbbd9b69d1.html(外部リンク)
“欧州委、人権・環境デューディリジェンスの義務化指令案を発表”, 吉沼啓介, JETROビジネス短信, 28 Feb, 2022より引用
以上
(この報告は2023年2月15日時点のものです)