ページ番号1009665 更新日 令和5年5月9日
中国のエネルギー需給・調達の現状と今後の方向性 ―「保供」(供給確保)政策のもと、石炭とクリーンエネルギーを増強、不足は「長期契約」で確保し、「自立自強」へ邁進―
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
概要
- 中国のエネルギー需要が今年増加することは確実である。しかし同国は石炭をはじめとするエネルギー増産・貯蔵と長期契約を軸とするエネルギー「保供」(供給確保)政策を進めており、21年の電力危機の再来や欧州とスポットLNGを奪い合うようなエネルギー需給ひっ迫が起きる可能性は高くはない。
- 22年はエネルギーの輸入を抑制し、増産と再エネ増強で「保供」(供給確保)を実現。石炭消費は微増したが、ゼロコロナによる産業活動の停滞に加え、太陽光や原子力などクリーンエネルギー発電の増強とEV販売の相乗効果でエネルギー関連のGHG排出は前年比0.2%減少した。
- 石炭消費は10年ぶりに増加、21年の電力危機や22年10月の党大会における習近平総書記の発言が石炭の増産・貯蔵を助長し、需給は緩和傾向にある。
- 石油消費は前年割れから一転、23年は世界の需要増の5割を占める見通し。原油生産は「保供」で政府が目指す日量400万バレル超を達成。石油製品油輸出拡大は政策変更による不確実性が伴う。
- 天然ガス消費は高ガス価格と石炭回帰による需要減退で初の前年割れ、LNGは市場(スポット)からの輸入は敬遠され8割は長期契約による。
- 石炭は豪州からの輸入を再開したが需給緩和や政策変更により輸入拡大には不確実性が伴う。
- 原油はロシアと中東からの輸入が増加。7割を輸入に頼る中国は需要ピークを迎えつつも制裁対象国からの輸入が多いことがもろ刃の剣、湾岸産油国への接近を図る。中国のイランとサウジラビアの関係正常化の仲介は中東におけるプレゼンス拡大を印象づけた。
- 天然ガスは長期契約に基づく輸入が増加。LNG長期契約は減速するが継続、30年には米国とカタールが二大LNG供給国となる見込み。
- ロシアはPower of Siberia 1、極東パイプラインで30年に最大のガス供給国となる可能性。Power of Siberia 2の交渉が進まない理由は買い叩きよりも一国への過度の集中を避けたい思惑か。
- LNG市場価格が手頃(Affordability)でも中国が都合よく余剰LNGを吸収するとは限らない。
- 世界はエネルギートリレンマを同時に追求する困難さを痛感しているが、中国はその全てを追求し「自立自強」に邁進。国内は豊富な石炭依存に回帰し、「安全保障(Energy Security)」を最優先に国有企業にエネルギーの供給確保(増産)と長期契約を働きかけ、需給緩和と「手頃な価格(Affordability)」を演出。太陽光や風力などのバリューチェーンにおける優位性を活かし、設備輸出により自国のみならず世界の排出抑制、「持続可能性(Sustainability)」に貢献しているとして石炭消費拡大、GHG排出増加に対する国外からの批判をかわそうとしている。
はじめに
22年に中国の石炭消費は10年ぶりに増加に転じたが、石油、天然ガスの消費はいずれも前年割れした。また、エネルギーの輸入は軒並み減少し、特にLNG輸入量が前年比15MTと大幅に減少した。中国が企図したことではないが、これは欧州がロシアのガス供給減少に対し米国などからLNGの輸入を大量に増加する上でプラスに働いた。
中国は22年12月にゼロコロナ政策を解除、23年は経済活動が活性化、エネルギー需要が急増する見込みであり、国際エネルギー価格の上昇や世界のインフレ抑制の妨げにつながることへの懸念がくすぶっている。
中国は世界最大のエネルギー消費国であり、消費規模が大きいことはもちろんだが、政策によりエネルギー貿易量が短期間で大きく変動することが問題だ。先日、日本を代表するエネルギーの専門家が「国際会議における中国の存在感の低下が(同国のエネルギー状況を)より分かりにくくしている」と指摘された。ゼロコロナ政策下の中国では出入国が厳しく規制され、22年3月に開催されたCERA Week(ヒューストン)や9月のGastech(ミラノ)においても中国の展示ブースや講演者は目立たなかった。今年3月のCERA Weekも中露の存在感は高いとは言えない。
しかし中国の需要とロシアの供給の不確実性は23年の世界のエネルギー市場における二大リスク要因である。本稿では中国のエネルギー需給・調達の現状と今後の方向性について、3月5日に開幕した全人代を含む中国政府や内外エネルギー専門家の見方を示すことで分析を試みる。
1. 中国のエネルギー需給の現状
ゼロコロナ政策を解除し、経済振興を掲げる中国において23年にエネルギー需要が増加することは確実だ。しかし同国はエネルギーの増産・貯蔵と長期契約を軸とするエネルギー「保供」(供給確保)政策を進めており、21年に起きた工場操業停止を伴うような電力危機や欧州とスポットLNGを奪い合うようなエネルギー需給のひっ迫が起きる可能性は高くはないと思われる。
3月5日開幕の全人代政府活動報告ではエネルギー供給確保と価格の安定(「保供穏価」)、科学的で秩序のある排出ピーク、カーボンニュートラルの推進、石炭のクリーン・高効率利用が示された(数値目標はなし)。
22年のエネルギー需給の実績と足元の状況は以下の通りである。なお、政府機関とコンサルタントで若干数値が異なるがそれぞれ記載する。
中国は22年にエネルギー輸入を抑制、増産と再エネ増強で「保供」(供給確保)を実現
中国国家発展改革委員会(NDRC)によると22年の中国のエネルギー消費(速報値ベース)は前年比2.9%増加した。国家統計局の21年消費量石油換算36.6億トン(以下toe)に基づき計算すると37.7億toeとなる。
石炭消費は前年比0.2%増加しエネルギー消費の56.2%を占めた。石炭消費の増加は実に10年ぶりのことである。石油は同0.6%減(同17.9%)、天然ガスは0.4%減(同8.5%)でいずれも20年ぶりの減少であった。原子力・再生可能エネルギーは0.8%増加し、エネルギー消費の17.4%を占めた(図1)。

(出所:NDRC、Energy Intelligence等に基づきJOGMEC作成)
昨年中国はエネルギーの輸入を抑制し、増産により「保供」(供給確保)を実現した。2022年国民経済・社会発展統計公報(以下、「22年統計公報」)および通関統計によると、石炭(原炭)生産は前年比10.5%(4.3億トン)増加の45.6億トン、輸入は同9.3%(0.3億トン)減少の3.2億トン。原油生産は同2.9%(日量11.7万バレル)増加の2億472.2万トン(日量409万バレル)、輸入は0.9%(日量9.2万バレル)減少の日量1,026万バレルである。天然ガス生産は同6%(915万トン)増加の220Bcm(160MT)、パイプラインガスとLNGを合わせた輸入は同10%(12.2MT)減少の166Bcm(121MT)である。石炭は増産に対し輸入減少は限定的、石油はほぼ相殺しているが、天然ガスは輸入の減少が著しい(図2)。

(出所:22年統計公報および通関統計に基づきJOGMEC作成)
22年の発電量は3.7%(314TWh)増加の8,849TWhである。特に太陽光が前年比31%増の427TWh(発電量の4.8%)、風力が同16%増の763TWh(同8.6%)と躍進している。発電量増加の4分の3を原子力と再生可能エネルギーが占めた(図3)。
中国電力企業連合会(CEC)によると、水力発電は22年第3四半期(9-12月)に渇水で発電量が低下し同1%増の1,352TWh(同15.3%)にとどまった。水力発電の出力低下と熱波による需要増を石炭火力が補った。近年調整電源としての水力への信頼性が揺らぎ、石炭火力への信頼が高まっている。原子力は同2.5%増の418TWh(同4.7%)で太陽光がわずかに原子力を上回っている。発電量における原子力・再エネの比率は前年より1.5%増加の33.5%となった。

(出所:国家統計局、中国電力企業連合会に基づきJOGMEC作成)
「22年統計公報」によると、発電設備容量は7.8%増加し2,564GWとなった。
最も増えたのは太陽光(グリッド接続)で、前年比28.1%増(86GW増)の393GW(発電設備容量の15%)に達した(図4)。中国では設備過剰でグリッドに接続できない太陽光・風力発電設備が存在し、棄光・棄風問題と呼ばれるが近年はグリッド接続が増加している。
次いで風力(グリッド接続)は同11.2%増(37GW増)の365GWである(同14%)。このうち洋上風力の設備容量が30GWに増加しているのが驚きである。World Forum Offshore Wind(WFO)が発表した「Global Offshore Wind Report 2022」によると2022年に世界で42件、計9.4 GWの洋上風力発電所が稼働したが、中国がその内29件、計6.8GWを占め、全体をけん引し、累計でも全体の44%を占めるという。
水力は5.8%増の414GW、原子力は2基(遼寧省紅沿河6号機、広西・防城港3号機)が稼働し4.3%増の56GW(同2%)となった。
火力は2.7%増(35.6GW増)の1,332GW(同52%)である。発電設備容量における原子力・再エネ比率は1,232GW(同48%)に達し、火力と肩を並べた。
全人代では、李克強首相が政府活動報告を行った際に超低排出の火力発電設備が10,500GWに、再エネ発電設備は12,000GWを超え、クリーンエネルギー消費が25%に増加したと指摘した。低排出火力発電設備とは石炭火力を指す。数年前に低排出の基準を確認した際には標準酸素濃度(ON)6%の条件下で、1m3Nあたり煤塵10mg、硫黄酸化物(SO2) 35mg、窒素酸化物(NOx) 50mgを超えないとあった。「中国電力業界年度発展報告2022」によると21年の中国の火力発電単位発電量あたり(kWh)の煤塵排出は22mg、SO2は101mg、NOxは152mgとあり、超低排出火力発電設備の大気汚染物質の排出は平均の3~5割以下という状況のようだ。

(出所:中国電力企業連合会に基づきJOGMEC作成)
22年はゼロコロナによる経済低迷と原発・再エネ・EVの相乗効果でエネルギー由来CO2排出は0.2%減少
IEAが23年3月に公表した“CO2 Emissions in 2022”によると、2022年に世界のエネルギー由来CO2排出量は0.9%(3.21MT)増加、36.8GTに達し記録を更新した。しかし中国は石炭生産・消費の増加にも関わらずエネルギー由来のCO2排出は前年比0.2%減(23MT減)の12.1GTであった。その理由としてIEAはロックダウンと不動産不況による産業部門の排出が減少したこと、太陽光と風力発電の増加をあげた。また世界では輸送部門の排出が増加したが、中国ではゼロコロナによる移動規制とEVの販売増加により、同部門の排出が3.1%低下したと指摘した。
中国の22年の新車販売台数は前年比2.2%増の2,686万台であったが、NEV(中国では新エネルギー自動車、NEVと称す)の販売台数は同94%増の689万台で新車販売の26%を占めた(なお22年末のNEV保有台数は1,310万台で自動車保有台数の4%に達している)。
石炭消費は10年ぶりに増加。21年の電力危機や22年党大会における習近平総書記の発言が石炭の増産・貯蔵を助長、需給緩和、輸入抑制へ
中国の22年の石炭消費は前年比0.2%増と10年ぶりに増加に転じた。生産は前年比10.5%増の45.6億トンに増加、輸入は9.2%減の2.9億トンと過去4年で最低を記録した(図5)。
石炭消費は発電と鉄鋼、セメント向けが占める比率が高いが22年はゼロコロナ政策による経済活動の低迷(不動産不況も含む)により石炭火力発電量は前年比1.4%増にとどまった。中国電力企業連合会(CEC)によると電力消費の6割超を占める製造業の需要は0.9%増にとどまった。「22年統計公報」によると粗鋼生産量は前年比1.7%減の10.18億トン、セメント生産量は同10.5%減の21.3億トンといずれも前年比で減少している。このように22年はゼロコロナで需要が伸び悩む中、増産と在庫の強化で石炭需給は緩和し、輸入は4年ぶりの低水準となり、再び3億トンを割り込んだ。中国の石炭需給は増産・在庫増強政策により緩和傾向が続くと思われる。

(出所2022年中国国民経済社会発展統計公報、通関統計に基づきJOGMEC作成)
中国政府は大気汚染改善と排出抑制の観点から過去10年以上石炭生産の抑制、合理化政策を図り、老朽化炭鉱の淘汰による過剰生産能力の抑制や炭鉱数の減少を進めてきた。2016年には石炭消費抑制のために炭鉱操業規制(年間276日)を導入し生産は減少したが需給がひっ迫、国内価格が急騰し、輸入の急増を招いた。政府は同規制を解除し、生産は2020年に微増に転じた。
21年は炭鉱事故頻発による安全検査の強化や反汚職調査、共産党創立100周年記念式典に伴う炭鉱の一時的な閉鎖などにより石炭の生産が低迷し、需給ひっ迫と価格高騰を招いた。李克強首相が同年5月の国務院常務会議において主要な石炭企業に生産と供給を増やすよう指示したがプラスに転じたのは8月以降であった。
21年夏から秋にかけて中国各地で電力供給制限、工場の操業停止が相次いだ。これはCOVID-19からの急速な経済復調や気温上昇による電力需要増加が生じたが、石炭需給のひっ迫と価格高騰、電力価格統制のもとで、排出抑制・省エネ目標の厳格な遂行を求める中央政府と地方政府の対応に齟齬が起きたことが事態を悪化させた。
21年10月9日に李克強首相主催で国家能源(エネルギー)委員会が開催された。李首相は「エネルギー安全保障は国家の安全保障」と指摘し石炭生産の最適化を図り、老朽化石炭火力を秩序立てて淘汰すること、石油・天然ガスの探鉱開発強化し、シェールガスや炭層ガス(CBM)などの非在来型資源を積極的に開発し、石油と天然ガスの国際協力(対外投資、輸入)を多角化すること、石炭、石油、天然ガスの備蓄(在庫)を増強することを指示した。また李首相は「2030年のCO2排出ピークアウトと2060年のカーボンニュートラルの達成は中国の経済改革の基本要件」としつつ、科学的かつ秩序ある方法で達成するには長く困難な努力が必要であると指摘した。その上で最近の電力と石炭の矛盾を踏まえ、綿密な計算と調査を行い、段階的な達成に向けたタイムテーブルやロードマップを提案すべきであると指摘した。また各地方の「一律」の電力制限やキャンペーン型の排出抑制を是正し、北部民衆が冬を温かく過ごすこと、産業サプライチェーンの安定と経済の持続的発展を確保した上で石炭のクリーン利用、クリーンエネルギー利用拡大、省エネ・排出削減を進めるよう求めた。
このように政府は石炭生産・輸入の増加を含むエネルギー供給・貯蔵増強による電力・エネルギー供給の保障とともに、各地方の「一律」の電力供給制限やキャンペーン型の排出抑制の是正を指示するなど事態の収拾を図ったことで同年11月までに電力危機は収束した。21年通年の石炭生産量は前年比5.7%増の41.3億トンで40億トンの大台を超えた。

(出所:SHPGX)
石炭輸入について政府は2018年以降輸入割当制を導入し輸入量を年間3億トン以内に抑制していた。輸入割当は1年限りのため年末にかけて割当量を使い切ってしまうと輸入量が落ち込み、沖合で石炭積載船が越年し、輸入割当が更新される1月の輸入が急増することが常態化していた。
20年は年初にCOVID-19の感染拡大による国内炭の供給不安から輸入量が急増し、5月以降に政府が輸入管理を強化した。需給がひっ迫し政府は年末に規制を緩和し石炭の輸入を増加させた。
21年も需給タイト化を受け政府は石炭輸入増量を指示した。同年の石炭輸入は前年比6.6%増加の3.2億トンと政府が抑制目標と設定した3億トンを上回った。
22年も増産、輸入による「保供」政策が続いた。さらに10月の共産党大会で3選を果たした習近平総書記は「中国のエネルギーと資源の恵みに基づき、古いもの(石炭火力)を捨てる前に新しいもの(自然エネルギー、水力、原子力)を作る原則に沿い、計画的かつ段階的に炭素排出をピークアウトさせる取り組みを進める」と述べ、他のエネルギー源が石炭を代替できるようになるまで、石炭を利用すると明言した。この発言がさらに石炭の増産・貯蔵を促し、需給緩和、輸入抑制につながっている。
石油消費は前年割れから一転23年は世界の需要増の5割を占める。生産は「保供」(供給確保)政策で政府が目指す2億トン(日量400万バレル)超を達成
IEAは石油市場報告(23年2月)において、中国の22年の石油消費を前年比2.5%減の日量1,504万バレルとした(図6)。石油消費はゼロコロナ政策による経済活動の低迷や移動制限等により前年を割り込んだ。
中国の22年の国内総生産(GDP)は3%にとどまり、コロナの感染が拡大した2020年の2.3%を除き1976年以来の低さであった。しかし3月5日に開幕した全人代政府活動報告では23年のGDP目標を5%前後と設定し(22年の目標5.5%から引き下げた)、収入の増加と経済成長の同一歩調や、消費者物価上昇率を3%に抑える目標を掲げている。IMFは1月31日に中国の23年GDPを前回予測(22年10月)の4.2%からに5.2%に上方修正している。
中国が22年12月に“ゼロコロナ”規制を解除し、旧正月の移動で感染爆発が起きなかったことで23年は中国の需要が増加に転じ、世界のインフレ抑制の妨げとなることやエネルギー国際価格の上昇につながることへの懸念がくすぶっている。
IEAは23年の中国の石油消費を前年比日量90万バレル増の日量1,591万バレルとした。世界の石油消費増加日量196万バレルの46%が中国である(図7)。中国が経済刺激政中を維持し、需要増加ペースが安定的で、OPECプラスが供給増加に対応することができれば石油市場に問題は生じないが、3月以降日量50万バレルの自主減産を行うロシアの今後の原油生産や輸出には不確実性があり、当面注視する必要がある。

(出所:IEAに基づきJOGMEC作成)

(出所:IEAに基づきJOGMEC作成)
国家統計局によると中国の2022年の原油生産量は前年比2.9%増の2億472.2万トン(日量409万バレル)である(図8)。2015年から2018年にかけて低油価に伴う投資縮小とコストの高い成熟油田の生産を抑制したことで生産は減少していたが、2018年に政府はエネルギー安全保障強化の観点から国有石油企業に供給強化を働きかけ、企業が探鉱開発投資を増加させたことで2019年以降増加に転じ、4年連続で増加、22年は2016年以来の2億トン(日量400万バレル)超となった。IEAは23年の生産を微増(日量427万バレル程度)と見ている。

(出所:中国国家統計局(22年国民経済・社会発展統計公報)に基づきJOGMEC作成)
22年の原油輸入量は前年比0.9%減の日量1,017万バレル、精製処理量は同3.9%減の1,352万バレルであった(図9、10)。原油輸入は製油所新増設や地方製油所への原油輸入割当の増加、民間企業を含む貯蔵設備の増強に伴い近年10%前後伸びていたが、21年は政府が排出抑制や過剰生産抑制の観点から原油輸入・石油製品輸出割当を抑制し、20年ぶりに前年割れした。22年は政府が原油輸入・石油製品輸出割当の抑制政策を継続したことに加え、ゼロコロナ政策に伴い経済活動が鈍化したことや移動制限で輸送部門を中心に内需が低迷し、21年に続き前年を割り込んだ。しかし政府は需給調整や景気刺激策の観点から秋に原油輸入・石油製品輸出割当抑制政策を転換した。

(出所:中国通関統計に基づきJOGMEC作成)

(出所:中国国家統計局に基づきJOGMEC作成)
原油輸入割当についての経緯について以下の通りである。
山東省他に位置する地方製油所は2015年まで輸入原油使用権を取得できず輸入原油の使用は限定的で、主に硫黄分の高い重油を加工し、環境負荷の高い軽油を生産、販売していた。また小規模・老朽化設備による非効率で環境負荷の高い操業が問題となっていた。政府は国有石油企業の独占打破と環境負荷軽減の観点から、老朽化設備の淘汰など条件を満たした地方製油所に対し2016年以降輸入原油使用権(原油輸入割当)を発行した(発給は1年単位で繰越なし)。地方製油所への輸入原油割り当ては16年の20社に対し日量150万バレルから20年には44社、日量364万バレルにまで拡大、同年地方製油所は中国原油輸入の34%、精製処理量の3割を占める存在にまで成長した。
しかし地方製油所は非課税の芳香族炭化水素混合物(Mixed Aroma ; MA)や、ライトサイクルオイル(Light Cycle Oil ; LCO)を輸入し、ガソリンや軽油にブレンドし、国有石油企業よりも安く販売していた。
政府は需給調整のため国有石油企業に輸出割り当てを発給。地方製油所の台頭により、中国は原油輸入量増加の一方ガソリンや軽油に余剰が生じ、2016年以降ガソリン、軽油輸出が増加した(図11)。
LCOは硫黄や残留炭素を含み、標準的な軽油と比較して消費に伴うCO2排出量が多いが、石油化学原料と見なされ燃料税の課税対象外であった。地方製油所は他にも課税逃れや違法な操業が問題視され、21年4月以降政府は地方製油所の操業や輸入に関する調査を実施した。同年6月にLCO、MA、希釈ビチューメンなどの輸入に1リットルあたり1.2~1.52元(20~26円)の消費税を課すとともに、過剰生産抑制の観点から地方製油所への原油輸入割り当て抑制に転じた。2021年は4期に分け計日量354万バレルを割り当てたが、年間割当上限の486万バレルを大幅に下回り、前年より減少した。
政府は22年も引き続き原油輸入割り当てを日量377万バレルに抑制していたが、経済振興と輸送燃料供給拡大の観点から10月に23年1期の原油輸入割当を前倒しで23製油所に計3,349万トン(244百万バレル)発行した。原油引き渡しは23年1月以降だが調達を事前に行うことが可能となる。さらに23年1月に2期輸入割当を33製油所に計1億878万トン(794百万バレル)発行した。23年通年の割当上限は前年比7%増の1億9,634万トン(日量393万バレル)に拡大した。
政府は排出や過剰生産抑制の観点から21年以降石油製品輸出割当についても抑制に転じており、ガソリン・軽油の輸出は21年に前年を割りこんでいた。22年もガソリン・軽油・ジェット燃料の輸出割当は前年比1%減の37.25百万トンに抑制されていた。しかし9月に政府は需給調整や経済振興の観点から5期輸出割当(1,500万トン)を追加発行し、12月のガソリン、軽油、ジェット燃料輸出量は600万トンと22年中最高を記録した。23年1期割当は前年同期比46%増の18.99百万トンに増加している。
23年の原油輸入、石油製品輸出は順当に行けばいずれも増加することが見込まれるが、政府が過剰生産抑制・排出削減を優先し、政策を変更するリスクと企業がそれを見越し慎重に振舞う可能性があり不確実性が高い。

(出所:中国通関統計に基づきJOGMEC作成)
天然ガス消費は高ガス価格と石炭回帰による需要減退で初の前年割れ、LNGは割高なスポットが敬遠され輸入の8割は長期契約
国家統計局によると中国の22年の天然ガス消費は前年比1.7%減の366Bcm(267MT)で初の前年割れであった。ゼロコロナ政策で工商業向けのガス需要が低迷したことに加え、国際ガス価格の高騰により発電や家庭用の需要が減退した。また比較的温暖な気候で、石炭を含む代替エネルギーの供給が十分にあったことも理由にあげられる。
生産は前年比6.4%増の218Bcm(159MT)、輸入は前年比9.9%減の150Bcm(110MT)であった。LNG輸入は前年比19.5%減(15.5MT)の87Bcm(63.4MMt)、パイプラインガス輸入は同23%増(3.4MT増)の63Bcm(45.8MMt)であった(図12)。LNGはガス輸入の58%、パイプラインガスは同42%を占めた。割高なスポットLNGは敬遠され、国産やパイプラインガスなどより安価に調達できるガスが選好された。SIA Energyによると、22年に中国は11.8MTのスポットLNGを輸入、最適化を図ったが前年に比べ19MT減少し、シェアも前年の4割から18.5%に低下した。また地方政府や都市ガス会社による調達比率も昨年の18%から10%(7.6MT)に減少した。

(出所:SIA Energyに基づきJOGMEC作成)

(出所:SIA Energyに基づきJOGMEC作成)
コンサルタントのSIA Energyによると23年の天然ガス需要は前年比8.2%増(30Bcm≒22MT増)の395Bcm(288MT)である(図13)。需要増の国内生産と輸入で2分の1ずつ補う。また需要増の6割をゼロコロナ政策の解除で需要が回復する工商業が占める見通しである。
生産は前年比6.7%(15Bcm)増の233Bcm(170MT)、輸入は前年比10%(15Bcm)増の165Bcm(120MT)である。LNG輸入は同10%(7MT)増の96Bcm(70MT)、パイプラインガス輸入は同9%増(6Bcm≒4.4MT増)の69Bcm(50.4MT)の見通しである。
LNG輸入は米国などからの新たな長期契約に基づく供給が始まり、前年比7MT増の70MTの見通しである。パイプライン輸入は主にロシアからの輸入が増加する。ロシアからの輸入は長期契約に基づき5.1MT増の22Bcm(16.1MT)の見通しである。トルクメニスタンからの輸入増加は期待できない。ウズベキスタンは内需増加で契約を下回る供給が続く見通しである。カザフスタンと中国の契約期間は23年10月までで延長はないと見られる。ミャンマーは内需増加等で契約を下回る供給が続く見通しである。
2. 中国のエネルギー調達と今後の方向性
石炭は豪州からの輸入を再開したが需給緩和で輸入拡大には不確実性が伴う
23年1月23日の国務院新聞弁公室プレス発表において国家能源(エネルギー)局の章建華局長は「安全を確保した上で石炭の安定生産と供給確保を図っている。政府が配給可能な石炭在庫は5,000万トンあり、全国の統調(調整型)発電所の石炭在庫は1億7500万トンを維持している。旧正月期間中も石炭の生産を継続し安定供給を行うよう指導した」と述べた。
23年の旧正月休暇前後の中国国内石炭価格急落はこの「保供」政策による需給緩和(ミスマッチ)に起因している。中国石炭市場網によると通常旧正月後に工場などの操業が再開し需要が回復するのに数週間かかるが、政府が炭鉱に供給継続を求めた結果、石炭の供給が需要回復を上回るペースで増加、発電事業者と石炭供給側がターム契約を増やしていたこともあり、在庫がはけず、港湾の供給圧力が高まる中トレーダーがパニック値引きに走ったということのようだ。
22年4月に欧州、日本などがロシアの石炭輸入を禁止したが、中国やインドがロシアからの輸入を増やした。中国は21年から豪州炭の輸入を非公式に停止し、ロシアやモンゴルからの輸入を増やしており、22年はさらに輸入量が増加した。
23年2月下旬に中国国有大手4社(CEI、Datang、Baowu Steel、Huaneng)が政府から豪州炭の輸入許可を得て輸入を再開し、一般炭数カーゴの通関が実施されたと報じられた。23年3月、中国の石炭生産の3割をしめる山西省は2025年までの鉱山資源の開発計画で国家のエネルギー資源の安全戦略に基づき石炭の安定生産を確保する方針を示した。石炭の年産能力を15億6,000万トンの水準とし、生産量は年14億トンを維持するとのことである。石炭は25年までは増産が続くと思われる。
中国向け豪州一般炭の供給が増加すると他の産地の出荷を圧迫し、貿易の流れや国際一般炭の価格にも影響を与えることへの懸念もあるが、石炭需給の緩和、国内石炭価格の低迷、今後の豪州炭の通関方針が読めないことから中国が豪州炭の輸入を拡大するかについては不確実性が伴う。

(出所:石炭年鑑に基づきJOGMEC作成)
原油はロシアと湾岸産油国からの輸入が増加
22年はロシアのウクライナ侵攻に伴い世界の原油貿易フローが変化した。欧州はロシアからの原油輸入を減らしノルウェー、ブラジル、アンゴラなど欧州、南米、西アフリカ原油への切り替えを図った。ロシア原油は値引きされた状態で中国やインドが輸入を増やした。中国はターム契約主体の中東(サウジアラビア・UAE他)、ロシアからの輸入を増やした一方で、欧州と反対にアンゴラ、ノルウェー、英国、ブラジル、米国など欧州、南米、西アフリカの非ターム契約原油の輸入を減らした。中東のオマーンもターム契約ではなく前年比で減少している。
22年に中国の原油輸入量は前年割れしたが、原油輸入相手先は前年に続きサウジアラビアが首位を維持し、輸入量は前年とほぼ同じ日量175万バレル(輸入の17.2%)であった(図15)。
2位ロシアからの原油輸入は前年比8.3%増(日量13万バレル増)の日量173万バレル(同17%)で過去最高を記録した(図16)。しかし22年に中国の原油輸入で最も増えたのはロシアではなくマレーシアである。同国からの原油輸入は前年比90%増(日量34万バレル増)の71万バレルとなった。マレーシアからは生産量を上回る原油が輸入されているがその多くはイラン原油とされる。主に中国山東省に位置する地方製油所が水面下でイラン原油の輸入を行い、中東、シンガポール、マレーシアなどの沖合などで積み替え、ブレンドするなどの手法で原産地を偽装している模様である。イランからの輸入は、通関統計上21年が26万トン(日量0.5万バレル)、22年は78万トン(日量1.6万バレル)が計上されている。UAEからの輸入も前年比日量22万バレル増とロシアを上回る増加であった。中東輸入比率は通関統計上前年の50%から53%に上昇したが、イランを加味すると6割前後に上昇している可能性がある。
逆に22年に輸入を減らした国の筆頭はアンゴラで、前年比で日量18万バレル減少した。次いでノルウェー(同14万バレル減)、オマーン(同13万バレル減)、英国(同11万バレル減)、ブラジル(同11万バレル減)、米国(同7万バレル減)と続く。

(出所:百川に基づきJOGMEC作成)

(出所:百川に基づきJOGMEC作成)
ロシアのウクライナ侵攻直後の22年3月時点ではロシア産原油の欧州向けの輸出400万バレル強が止まり、原油市場は混乱に陥り油価は最悪200ドル/バレル超に上昇するという見方があった。しかし中国の増加よりもインドが4月以降ロシアからの原油輸入を増やし(22年平均で日量61万バレル増加)させたことで原油価格は一時120ドル超に上昇したが、世界の原油貿易フローは調整され、現在は80ドル前後で推移している。ちなみにCOVID-19から立ち直ったインドの2022年の原油輸入量は前年比10%増(日量44万バレル増)の473万バレルである。ロシアからの原油輸入は前年比61万バレル増の70万b/d(輸入の15%)。首位のイラクは同日量4万バレル増の108万b/d(輸入の23%)。サウジアラビアは同日量16万バレル増の84万バレル(輸入の18%)である。ノルウェー、ガボン、ブラジルなどターム契約以/の欧州/西アフリカ、南米からの原油輸入が減少している(図17)。

(出所:インド商務省貿易統計に基づき作成)
石油の7割を輸入に頼る中国は需要ピークを迎えつつあるが制裁対象国からの輸入が多いことがもろ刃の剣、湾岸産油国との関係強化により必要量確保へ
中国は一見中東やロシア、アフリカ、南米からバランス良く原油を輸入しているように見える。また制裁対象のイランやベネズエラからの原油輸入を行っており、原油調達には苦労しておらず割安な原油輸入による恩恵を受けているように見える。
また中国国有石油会社CNPC・SINOPEC傘下のシンクタンクはいずれも同国の輸送部門における石油消費ピークを2025年頃と見ている。
IEAは中国の石油需要についてゼロコロナ政策の制約がない21年と比べた場合、23年の消費は日量48万バレル増で2007-09以来の低さであると指摘している。また経済成長、石化、ジェット燃料は増加要因だが、燃費改善で日量17万バレル、EV販売の増加で日量20万バレル減少しているという。確かに中国は22年に新車販売に占めるEVの販売台数が3割、自動車保有に占めるEVのシェアが4%に達している。この他全体を補足できないが、電動バイクの増加も石油需要の抑制につながっていると思われる。
しかし中国は現時点では石油消費の7割を輸入に頼っており、制裁対象国からの輸入が多いことをリスクととらえていると思われる。特に原油輸入の17%を占めるロシアからの調達は懸案事項と思われる。ロシアは23年3月に日量50万バレルの自主減産を発表したが、中国やインド向けの輸出を控えることはないと思われる。ただし制裁により欧米からの資機材提供が止まり、ロシアの油田操業に支障が生じ、生産が先細るリスクは否定できない。OPECが迅速に対応できなければ市場に混乱が生じる恐れがある。これに対し中国はイラン、ベネズエラといった制裁対象国との関係や貿易を維持しつつ、サウジアラビアやUAEなど湾岸産油国との関係強化により必要量を確保しようとしているように見える。
中国がイランとサウジラビアの関係正常化を仲介したことは中東におけるプレゼンス拡大を印象づけた
産油ガス国ロシアは欧米日等の制裁でエネルギー輸出収入がダメージを受けた。しかし中国向けの原油供給を制限する制裁に湾岸産油国が応じることは難しいと思われる。中国の22年の原油輸入金額はサウジアラビアが647億ドル、UAEは320億ドルである。
中国はロシア、イラン、ベネズエラとは既に人民元建てで原油貿易決済を行っている模様だが、サウジアラビアやUAEなどとも原油貿易における人民元決済の可能性を模索しているようだ。
習近平国家主席は22年12月にサウジアラビアを訪問した際、湾岸諸国からの原油輸入を今後も拡大するとして原油を含む二国間貿易を人民元に切り替えることを訴えた。上海石油天然ガス取引所(SHPGX)をプラットフォームとして人民元決済に活用することを提案した模様だ。上海国際エネルギー取引所(INE)は2018年に中東原油先物取引を開始したが、主な参加者は中国の短期投資家であり、指標価格となるには力不足である。SHPGXはガスとLNGの契約のみで石油は取引されていない。習主席の発言が意味するところは同取引所を現物決済に使うのではなく、取引をヘッジするための人民元建ての契約を開発し同取引所を利用するという見方がある。
サウジアラビアの財務相は23年1月にBloombergに対しドル以外の通貨で貿易決済を行うことに前向きであると語った。サウジアラビアがドル以外の通貨で貿易決済を行うことは米国に対し「選択肢がある」ことを示すことになるという見方がある。しかしサウジアラビアを含む湾岸諸国の通貨はドルペッグで人民元の取引量は限られており、石油以外の貿易における部分的な切り替えはあっても、ドルから大きく離れることはないという見方が一般的だ。中国が積極的に進めている中央銀行デジタル通貨(CBDC)は人民元による貿易決済を促進する可能性があり、UAEなどが中国のCBDC実証に参加している。
3月10日に、7年前から断交しているサウジアラビアとイランが中国の仲介により外交関係を正常化することで合意した。サウジアラビアとイランは同日北京で協議後共同声明を発表し、2か月以内に双方の大使館を再開する予定と述べた。中国の緊張緩和、和平の演出は対露支援で中国を追い込もうとしていた米国にとり、出鼻をくじかれることになったのではないかと思われる。
中国は基軸通貨のドルに挑戦するというよりは、ロシアと同様の金融制裁が自国に課されることを警戒し、人民元決済が使える国・地域の拡大を試みようとしているように見えるが、米国との緊張関係をさらに強めることにつながらないのだろうか。
天然ガスは長期契約に基づくロシアのパイプラインとカタールからのLNG輸入が増加
22年はロシアから欧州向けのパイプラインによるガス輸出が一段と減少し、欧州のガス市場価格が高騰する中、米国を筆頭に世界のスポットLNGはアジアからプレミアム市場の欧州に向かった。
ガスの輸入相手先首位はトルクメニスタンで前年比7%増の25.8MT(輸入の24%)である(図18)。
LNGに限ると輸入首位は豪州だが、前年比30%減の21.9MT(輸入の20%)であった(図19)。豪州と中国は関係が悪化しており、長期契約に基づくLNGの輸入は継続しているがスポットの輸入や新規契約交渉は進んでいない。一方、カタールからの輸入は長期契約による供給増加で前年比1.7倍の15.7MT(輸入の14%)に増加した。
ロシアからの天然ガス輸入はパイプライン(11MT)とLNG(6.5MT)を合わせ同45%増の17.5MT(輸入の16%)に増加した。パイプラインはPower of Siberia 1(中露天然ガスパイプライン)の契約に基づく増加である。Power of Siberia 1の中国への供給は2025年までに38Bcm(28MMt)に増加させる契約で、23年は22Bcm(16MT)に増加する見込みである。中国はロシアからのスポットLNGを前年比2MT増加(主にサハリン2、少量がYamal)させた。ロシアのLNGは制裁の対象外だが評判リスクから買い控えが起きており、原油のような値引きはされていないようだが、前年より月1カーゴ程度多めに引き取っている。

(出所:SIA Energyに基づきJOGMEC作成)

(出所:SIA Energyに基づきJOGMEC作成)
LNGの長期契約ラッシュは減速するが継続、30年には米国とカタールが二大LNG供給国となる
中国のLNG長期契約締結は過去2年間驚異的なペースで増加した。21年から22年にかけて米国、ロシア、カタールなどと47MTの長期契約を締結(21年27MT、22年20MT)した(図20)。
22年にはSINOPECがカタールのノースフィールド拡張LNGについて年4MT、27年間という業界最長期間の契約を締結した。CNPCがSINOPECと同様の契約をカタールと交渉中の他複数の契約が成立・交渉中である。今後LNG長期契約は過去2年に比べペースダウンする可能性はあるが一定のペースで続くと思われる。

(出所:SIA Energyに基づきJOGMEC作成)
CNPCがSINOPECと同規模の契約をカタールと締結した場合、2030年の中国のLNG長期契約量は100MTを超え、米国とカタールがそれぞれ23%(各25MT)を占める二大供給国となる可能性がある(図21)。
中国は緊張関係が高まる米国とのLNG長期契約を大量に契約しているがこれらはLNG船の通航に支障が生じるレベルでの有事とならなければ傭船契約通り継続する見込みである。
23年以降は過去2年に比べ、ペースダウンするが今後も一定のペースで続くと思われる。また石炭輸入再開に見られるように豪州と中国における関係改善がLNGの新たな長期契約やエネルギー投資拡大につながるか注目している。

(出所:SIA Energyに基づきJOGMEC作成)
ロシアはPower of Siberia、LNGと極東パイプラインにより2030年に最大のガス供給国となる可能性。Power of Siberia 2の交渉が進まない理由は買い叩きよりも一国への過度の集中を避けたいという思惑が働いているのではないか
中国のロシアからの天然ガス輸入は輸入の16%、17.5MTである。22年はパイプラインで11MT、LNGで6.5MTを輸入した(図22)。
ロシアのLNGは主にYamal LNGから輸入している。PetroChinaとNovatekの長期契約年3MTに加え、同事業出資(CNPC 20%、Silk Road Fund 9.9%)のオフテーク0.2MTがある。ロシアからのスポットLNGは前年比2MT増加した。主にサハリン2で少量がYamalからであった。
供給は始まっていないがPetroChinaとCNOOCがArctic LNG2にそれぞれ10%出資しており、オフテーク1.98MTがある。さらに民間や地方の都市ガス会社などのTier-2数社がNovatekとSPA計1.8MTを結んでいる。しかしこれらの供給には不確実性が伴う。
ロシアからのパイプラインによる輸入は現状Power of Siberia 1(中露天然ガスパイプライン)の1本のみである。CNPCとGazpromがクリミア併合の2014年5月に契約し、19年12月から供給を開始した。輸入量は契約に基づき2025年までに段階的に38Bcm(28MMt)まで増やすことになっている。23年は22Bcm(16MT)の計画である。

(出所:SIA Energyに基づきJOGMEC作成)
交渉中のパイプラインプロジェクトは複数ある。まず極東ルートである。これは2022年2月、プーチン訪中時CNPCとGazpromがロシア極東(経由)天然ガス購入販売取り決めで合意したが、期間25年、年10Bcm(7MT)という情報以外供給開始時期や価格フォーミュラなど詳細は不明であった。
23年2月に両国は本件についてあらためて政府間協定を締結した。今回はサハリン-ハバロフスク-ウラジオストク(SKV)パイプライン(輸送能力16Bcm)からロシア国境ダルネレチェンスク付近を通るルートで供給し、人民元決済と決まったようだが、供給開始時期や価格フォーミュラは引き続き不明である。SKVは輸送余力が10Bcm程度あり、供給源候補とされるサハリン3鉱区は米制裁で海底生産設備は入手ができないが一部エリアの開発が進んでおり、2020年代後半に供給開始となる可能性は否定できない。供給を開始すれば数年で10Bcmに達するだろう。
モンゴル経由中国北部向けのPower of Siberia 2(Soyuz Vostok)はまだ交渉中であり時間を要すると思われる。22年4月に露Gazpromが事業化調査(FS)を完了した。輸送能力は50Bcm(36.5MT)とされる。22年9月にロシアと中国と通過国モンゴルは上海協力機構の首脳会談(タシケント)においてパイプラインの建設計画推進で合意したが交渉状況は不明である。ロシアと中国が価格フォーミュラ等で折り合い、契約を締結し、順調に建設が進む場合でも、新たなルートでのパイプライン建設には時間を要し2030年前の供給開始は見込めない。
22年の供給実績17.5MTにPower of Siberia 1パイプラインの25年までの供給増加分17MTと極東パイプライン7MT、さらにArctic LNGの国有2社のオフテーク2MT、市場に供給されるロシア産スポットLNGの引取り増加を加味すると、2030年に中国のロシアからのガス輸入は45MTに達し、中国最大のガス供給国となる可能性がある。
2030年時点のLNG長期契約は米国とカタールがそれぞれ25MT、豪州も17MTある。現在首位のトルクメニスタン(25.8MT)はロシアが自国のガスを中国向けに輸送することについて働きかけているようだが帰趨は不明だ。
CNPC傘下のシンクタンクは最新のシナリオで天然ガス需要ピークを2035~2040年570~610Bcm(416MT~445MT)、生産は220MT前後で推移すると見ている。このシナリオに従えば天然ガス輸入量はパイプラインとLNGを合わせ200~225MTとなる。ロシアからの供給が45MTとしても輸入の2割を占めることになる。中国のPower of Siberia 2の交渉が進まない理由は、中国のロシアのガスの値踏みや長期のガス需給の見極めだけではなく、今般のエネルギー危機を踏まえ、一国への過度の依存を避けたいとい思惑が働いているのではないか。
LNG市場価格が手頃(Affordability)でも中国が都合よく余剰LNGを吸収するとは限らない
Shellは2023年2月に公表したLNG Outlookにおいて、欧州は脱ロシアガスでLNGの輸入を増加しており「LNG調整市場」(LNGに依存しないが、余剰カーゴの吸収可能)から「プレミアムLNG市場」になったと指摘した。そして中国は急速に成長する「輸入市場」から代替供給源や貯蔵設備を持ち、より柔軟性を持つ「調整市場」に進化し欧州が担ってきた「調整市場」を中国が引き継ぐ可能性があると指摘した。
しかし欧州と中国におけるガス市場構造の違いと中国の「保供」(供給確保)政策により、LNG市場価格が手頃(Affordability)であっても、都合よく中国が余剰カーゴを吸収するとは限らないのではないかと考えている。
なぜなら欧州は市場化を進めた結果、パイプラインガス輸入の8割、LNG輸入の4割を市場から調達している(LNGは中長期契約の比率が若干増えた可能性がある)。そして欧州は巨大なガス貯蔵容量を保有しており、23年2月中旬時点の天然ガス地下貯蔵量は722TWh(LNG48MT)である[1]。
一方中国はパイプラインガス輸入の全量、LNG輸入の8割が長期契約による。ガス貯蔵設備の拡張を進めているが、国家能源局長は2月13日のプレス報告会においてガス貯蔵・払い出し可能量(ワーキングガス量)は32Bcm(LNG23MT)、残存貯蔵量は20Bcm(LNG14.6MT)と述べており欧州の3分の1程度にとどまっている。
さらに中国は「保供」政策のもと21年秋から石炭の増産と貯蔵強化を進め、発電事業者と石炭生産者の長期契約を促しており、石炭から天然ガスへの転換は棚上げとなっている。
欧州のエネルギー専門家から欧州の脱ロシアガス、LNGのプレミアム市場化は中国のガス需要抑制あるいはピーク先送りの要因になるとの見方も出ている。オックスフォードエネルギー研究所(OIES)China Energy Research Directorの Meidan氏は、天然ガス消費を2030年に1次エネルギー消費の15%(600Bcm相当)に引き上げる中国政府の目標は野心的に見える。ガス需要のピークが低下するか、ピークは上がるが時期がずれ込むか現時点では不明」と最近のウェビナーで語っている。
中国は太陽光、風力などのバリューチェーンにおける優位性を活かし「自立自強」に邁進、設備輸出により内外の排出抑制、自国のみならず世界の「持続可能性(Sustainability)」に貢献しているとして石炭消費によるGHG排出増加に対する国外からの批判をかわそうとしている
全人代では23年のエネルギー関連主要目標として省エネとグリーン化(GDP単位あたりエネルギー排出と主要汚染物質の削減)、化石エネルギー消費の抑制、生態環境の安定的な質的改善を示した。
中国電力企業連合(CEC)は、電力需要はマクロ経済や天候などの影響により変動するが、通常の天候であれば、23年は6%増の9,150TWhになるとしている。また発電設備は250GW増強し、2,800GWとする。新設の7割、180GWは原子力・再生可能エネルギーで、これら非化石の発電設備容量は石炭を上回り5割を超える見通しである。23年に水力発電設備容量は420GW、太陽光(グリッド接続)は420GW、風力(グリッド接続)は430GW、原子力は58.46GW、バイオが5GWで太陽光と風力が水力発電の設備容量を上回る年になるとしている。
国務院が21年10月に公表した「2030年排出ピークアウトに向けた行動計画」において2030年に太陽光・風力の発電設備容量を1,200GWとする目標を設定しているが、同分野は政府が支援しており、収益環境も改善しているため投資が進むと見られる。発電大手の中国華能(Huaneng)は23年に新エネルギー事業に1000億元(約1兆9000億円)を投じ、30GW以上着工すると表明した。三峡集団は砂漠地帯などで大規模な太陽光・風力の増設を行う。中国広核集団は広東省沿岸に設置する洋上風力発電設備の入札を実施している。北京に本部がある再エネ関連企業、団体などで構成する組織「全球能源互聯網発展合作組織(GEIDCO)」は、35年に風力が1,100GW、太陽光が1,500GWと現在の3倍に拡大するとみている。

(中国電力企業連合会に基づきJOGMEC作成)
風力・太陽光は間欠性が課題だが、中国は蓄電機能を持つ揚水発電設備の増強を進めている。国家能源局が21年9月に発表した「揚水発電の中長期発展計画(21~35年)」では、揚水発電の設備容量を30年までに120GW、35年に300GWとする目標を掲げている。中国水力発電工程学会によると、21年以降に政府から建設認可が下りた揚水発電所の発電設備容量は90GWを超えている。国有送電最大手の国家電網は23年に5カ所の揚水発電所の建設を開始、4カ所が供用を始める見通しである。
国家能源局長は2月13日のプレス報告会において中国のクリーンエネルギー発展が中国のみならず世界のGHG排出削減に大きく貢献していると述べた。自国については22年の再生可能エネルギー発電量がCO2排出量22億6000万トン削減を可能としたと述べた。さらに太陽光発電モジュール、風力発電機、ギアボックスなどのコア部品の世界シェアは7割に達しているとし、これらの輸出された風力、太陽光発電設備は、世界のCO2約5億7000万トン削減に貢献したと試算している。
エネルギー分野の著名な専門家である米テキサス州Rice大学のDr.メドロック教授は3月15日にJOGMECで開催した国際セミナーにおいてエネルギー移行における競争優位性を規定するのは技術、規模、賦存インフラと述べ、バリューチェーンの重要性を指摘したが、中国は太陽光と風力等クリーンエネルギーについて素材調達、設備製造、インフラから末端市場に至るまで強固なバリューチェーンを確立している。中国はこのクリーンエネルギーのバリューチェーンにおける優位性を活かし、設備輸出により自国のみならず世界の「持続可能性(Sustainability)」に貢献しているとして石炭消費によるGHG排出増加に対する国外からの批判をかわそうとしているように見える。
中国二大国有石油企業傘下のシンクタンクによるバックキャストシナリオにみるエネルギー安全保障が「外部環境」により脅かされるという強烈な危機意識
SINOPEC-EDRIによる「中国エネルギー展望2060」
2022年12月、SINOPEC傘下のシンクタンク中国石化経済技術研究院(SINOPEC-EDRI)が初めて中長期のエネルギー展望「中国エネルギー展望2060」を発表した。基準シナリオ(BAU)に加え国家のエネルギー安全保障が高度で敵対的な外部環境によって脅かされ、経済発展が大きな圧力にさらされる「安全保障課題シナリオ(SCS)」を策定しており、中国においてエネルギー安全保障における危機感が醸成されていることを示唆している。
なおBAU・SCSのいずれも中国政府による2030年排出ピークアウト、2060年カーボンニュートラルを実現する目標を前提とするバックキャスト型のシナリオであり、この通りになる保証はなく数値はあまり参考にしないで欲しいが、本稿では中国のエネルギーにおける注目点と今後の方向性を理解する上紹介することとしたい。
基準シナリオ(BAU)ではエネルギー消費ピークが政府目標通り2030年で石炭換算60.3億トン(以下tce、42.2億toeで60年に56億tce(39.2億toe)に減少する。SCSは消費ピークが政府目標より5年ずれ込み2035年61.4億tceである。エネルギー活動に伴うCO2排出はBAUではピークは30年(99億トンCO2)、60年に17億トンに削減する。CCUSやカーボンシンクなどによりカーボンニュートラルを実現するとある。しかしSCSではピークは30年99.1億tCO2だが60年が25.1億トンCO2でBAUに比べ48%増加している。
その他のBAUシナリオにおけるポイントは以下の通りである。
- 石炭:需要ピークは2024年40.8億トン
鉄鋼・建材分野の石炭需要は既にピークを迎えて減少に転じており、発電分野は25年頃にピークを迎える。化学分野におけるピークは30年頃になる。メタノールや合成アンモニアは着実に需要が伸長。 - 石油:需要ピークは2025年頃7億~8億トン(日量14~16百万バレル)
ガソリン需要は2025年にピークを迎えると。化学原料としての需要は35年頃にピーク。灯油・ジェット燃料需要は40年にピークを迎える。 - 天然ガス:需要ピークは2040年615.5Bcm(449.3MT)
足元の利益率の低さから製造業における石炭からガスへの転換は短期的には進まない。天然ガスの価格高騰の問題は25年頃まで続くと見る。25年から30年にかけて石炭からガスへの転換の実現性が高まる。多くの石炭火力発電装置が廃止され、発電構成における自然エネルギーの割合が増加するにつれ、自然エネルギーの間欠性に対処するために天然ガスがますます重要な役割を果たす - 水素:2040年以降天然ガスから水素に転換、脱炭素を進める
2040年以降に最終的に産業部門を脱炭素化し、天然ガスを段階的に削減するためには、水素が重要な代替として機能する必要がある。22年に一連の国家・省および直轄市レベルの政策が発表され、水素産業を規制することで「野蛮な成長」の時代が終息することが見込まれる。現在の中国における産業用投入物としての自然エネルギー由来の水素のコストは、石炭由来のグレー水素のコストの2倍以上ある。輸送用燃料としての自然エネルギー由来の水素のコストも、ディーゼルのコストの2倍近くありコスト削減が課題としている。
CNPC-ETRIによる「中国エネルギー展望2060」
2022年12月、CNPC傘下のシンクタンク中国石油経済技術研究院(CNPC-ETRI)は例年通り中長期エネルギー展望「世界・中国エネルギー展望」を発表した。
CNPC-ETRIは化石燃料の消費削減とクリーン利用の拡大、再生可能エネルギーや原子力、水素・CCUSなどを融合させ新たなエネルギーシステムを構築する「持続可能」を基準シナリオとした他、グローバルの経済・貿易協力が減少し、新エネルギーの発展が緩慢という前提のもと、エネルギー安全保障を重視し、CCUSの技術革新を図りつつ、石炭の利用を拡大し石油やガスの消費を減らし、60年のエネルギー自給を目指す「エネルギー自給自足」シナリオ、世界が気候変動対応で一致団結し、太陽光・風力・水素など再生可能・新エネルギーの技術革新と利用が加速する「新エネルギー加速」シナリオを示した。
CNPC-ETRIのシナリオでは経済・貿易分野のグローバル化が後退し、中国は自給率の高い石炭の利用を拡大し(GHGはCCUSで吸収)、輸入比率の高い石油と天然ガスの消費(輸入)を減らす「自給自足」シナリオを策定している点が興味深い。
SINOPEC-EDRIの「中国エネルギー展望2060」と同様にCNPC-ETRIも2030年排出ピークアウト、60年カーボンニュートラルを実現する目標を前提とするバックキャスト型のシナリオであり、この通りになる保証はない。仮にこのシナリオが現実のものとなると、60年に原油輸入は日量200万バレル、天然ガスはほぼ自給していることになる。政府は非在来型や新規油田の開発、2次・3次開発による回収率向上を行うことで2035年頃まで2億トン(日量400万バレル)の原油生産レベル維持を期待しており、CNPC-ETRIのシナリオもそれを反映したものとなっているが、油田の自然減退が進み、新規油田やシェールオイルなど非在来型の開発は地質難易度やコストが課題となり、生産水準の維持は容易ではないと思われる。本稿では同シナリオの数値ではなく、精製最大手のSINOPECと石油・天然ガス生産最大手CNPC傘下のシンクタンクそれぞれの異なる視点に注目して欲しい。
CNPC-ETRIは基準シナリオである「持続可能」において排出ピークアウトが政府目標の30年ではなく35年頃にずれ込んでいる。
持続可能シナリオにおいてエネルギー需要ピークは2030~35年に43~44億toe(62億tce)、その後2060年にかけて40~43億toe(59億tce)に減少する。エネルギー消費に占める原子力・再エネ比率は30年が25%、35年に石炭を上回り、60年に80%に到達する。エネルギー活動に伴うCO2排出はピークが25年頃110億トンCO2で35年に80億トンCO2、2060年に実質ゼロとなる。
その他のポイントは以下の通りである。
- 石炭:需要ピークは2025年頃43億トン
60年は「持続可能」10.4億トン、「エネルギー自給自足」3.9億トン、「新エネルギー加速」3.3億トン - 石油:需要ピークは30年7.8億トン(日量1,560万バレル)、60年2.4億トン(日量480万バレル)
交通輸送部門は2025年に3.7億トン(日量740万バレル)でピークに到達、30年代に代替が進み60年までに3億トン(日量600万バレル)減少。化学原料向けの需要は2045年頃以降も2億トン(日量400万バレル)台推移、60年には石油消費の6割(20年2割)を占める。原油生産は2022年に2億トン(日量400万バレル)に回復、40年頃まで新規油田、タイトサンドやシェールなど非在来型の開発、回収率向上により生産レベルを維持し2060年には1.4億トン(日量280万バレル)に減少。 - 新エネルギー車(NEV)の保有台数(ストック)
2040年までに新エネルギー車の保有台数が内燃機関自動車(ICE)を上回る。
自動車保有台数は2020年の2.8億台から2040年に5億台、2060年に4.5億台となりNEVの比率は2025年の10%から2032年30%、2038年50%、2050年80%に拡大する。 - 天然ガス:需要ピークは2040年に610Bcm(445.3MT)、60年370Bcm(270MT)
2035年まで需要は年16Bcm(11.7MT)程度増加し、40年頃ピークを迎えた後も緩やかに減少
「持続可能」(基準シナリオ)、「エネルギー自給自足」、「新エネルギー加速」により2035~40年で570Bcm~610Bcm(416~445MT)の幅がある。
天然ガス生産は増加を続け2035年に300Bcm(220MT)を超え、40年から60年にかけて310Bcm(226MT)程度で推移。
さいごに
エネルギー安全保障(Energy Security)、手頃な価格(Affordability)、持続可能性(Sustainability)、というエネルギーのトリレンマにおいて近年脱炭素という観点から持続可能性が強調されてきたが、今次のエネルギー危機に瀕し世界は再び安全保障に注目、エネルギートリレンマを同時に追求する困難さを痛感しているが、中国はその全てを体現していると考えているだろう。
中国は大気汚染やGHG排出抑制のため過去10年以上石炭抑制・合理化政策を進めてきたが、21年の電力危機後に石炭の増産・輸入の増加を容認した。習近平国家主席は22年10月の共産党大会で他のエネルギー源が石炭を代替できるようになるまで石炭を利用すると明言し、国産かつ自給率の高い石炭に依存し安全保障(Energy Security)を最優先する姿勢を内外に印象づけた。また、国有企業には供給確保(増産)と長期契約を働きかけ、需給緩和と手頃な価格(Affordability)を演出。太陽光や風力などのバリューチェーンにおける優位性を活かし、設備輸出により内外の排出抑制、自国のみならず世界の「持続可能性(Sustainability)」に貢献しているとして石炭消費によるGHG排出増加に対する国外からの批判をかわそうとしている。
中国は中ソ関係悪化でソ連に石油関連の資機材を持ち帰られエネルギーの自主独立を強く志向してきたが、鄧小平氏による「改革・開放」による経済発展に伴う需要増加で90年代に石油の、2000年代に天然ガスの純輸入国となり、(国内と海外の)二つの資源・市場を利用する政策のもとで、それらの輸入を拡大、発送電の分離を含むエネルギーの段階的な市場化を進めてきた。しかし今の中国はエネルギー安全保障が「外部環境」により脅かされるという強烈な危機意識のもと、資源国との関係強化や長期契約により不足するエネルギーは確保しつつ、将来的にはエネルギー安全保障(Energy Security)、手頃な価格(Affordability)、持続可能性(Sustainability)の全てを体現し、何者にも脅かされない「自強」を目指していると思われる。
[1] Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中、EU加盟国各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵
以上
(この報告は2023年3月13日時点のものです)
主な参考資料
2023年全国電力需給情勢分析予測報告(中国電力企業連合会2023年1月19日)
中華人民共和国2022年国民経済・社会発展統計公報(国家統計局2023年2月28日)
李克強首相政府活動報告(中国政府網 2023年3月5日)
政府活動報告中のエネルギーの視点(中国電力網 2023年3月6日)
中国電力業界年度発展報告2022(中国電力企業連合会編著、2022年8月)
Oil Market Report(IEA、Feb, 2023)
China Gas Marked Annual Report 2022(SIA Energy、Feb, 2023)
エネルギー保供確保と暖かな越冬に関するプレス発表(国務院新聞弁公室2023年1月13日)
不安のなかの習近平――中国の安全保障概念と外交政策への影響(IDE 2023年2月21日)
石炭価格の反発は持続可能か(中国煤炭市場網2023年2月16日)
How high could oil prices go? (Rystad Energy March 8,2022)
Is the Mideast Gulf Ready for Non-Dollar Trade ?(Energy Intelligence Feb 10, 2023)