ページ番号1009670 更新日 令和5年3月27日
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概要
- 米国では、製油所の稼働は低調であった一方需要も限定的であったこともありガソリン在庫は限られた範囲内で推移したが、平年幅上限を上回る量となっている。また、留出油需要も軟調であった一方、製油所ではガソリン製造が優先された結果留出油製造が劣後したこともあり、留出油在庫は限られた領域内で変動した他、平年幅上方付近に位置する量となっている。また製油所での原油精製処理活動が低迷したことが一因となり、原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は継続している。
- 2023年2月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、日本のみならず欧州でも一部製油所が春場のメンテナンス作業を実施中もしくは実施する方向であったものの、それに併せて原油調達が調整されたこともあり、これら地域では当該在庫はほぼ横這いか若干の増加となった。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国では冬場の暖房向け需要が発生したことによりプロパン在庫が減少したことが一因となり石油製品全体の在庫も若干ながら減少した。また欧州においても、製油所の稼働が低下したことに伴い石油製品の製造が鈍化したこともあり在庫が減少した。日本においても、冬場の暖房向けの灯油需要の発生により当該製品在庫が減少したこと等から、同国の石油製品全体の在庫水準も低下した。このようなことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少したものの平年並みの量となっている。
- 2023年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場においては、2月中旬から3月上旬にかけては、中国経済が回復する兆候を示す経済指標類が発表されたことにより同国石油需要回復期待が市場で増大したこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、状況次第では政策金利の引き上げペースを加速する用意がある旨米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が発言したこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格は1バレル当たり74~80ドルを中心とする領域で上昇及び下落の傾向を示すことなく推移した。しかしながら、3月中旬初頭頃以降はスイス大手金融機関クレディ・スイスの経営不安が増大したこともあり、欧米株式相場が下落したこと等が原油相場に影響を及ぼした結果、3月17日の原油価格は1バレル当たり66.74ドルと、2021年12月3日以来の低水準にまで下落した。
- この先夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入り始める他、中国の経済と石油需要の回復期待、OPECプラス産油国の慎重な原油生産方針の維持等が原油相場を支持する方向で作用するものの、欧米金融機関等の信用不安がさらに広がり続けるようであれば、米国株式相場が下落すること等を通じ原油相場に下方圧力を加える可能性があるため、注意する必要があろう。そのような中、2月5日に実施されたEUによるロシア産石油製品の事実上の購入禁止措置等に伴うロシアから欧州方面等への軽油等石油製品供給の減少に対し、どの程度円滑に供給が再配分されるとともに需給が平準化されるかといったこと等が、原油相場に影響を与えることになろう。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2022年12月の米国ガソリン需要(確定値)は日量857万バレル、前年同月比で3.5%程度の減少となり(図1参照)、11月の当該需要である同885万バレルから需要量が下振れした他、11月の前年同月比の当該需要減少率である1.9%程度からも減少率が拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比5.5%程度減少の日量839万バレル)からは上方修正されている。2022年12月は前年同月に比べ1人当たり実質可処分所得が減少したことに加え、前月及び前年同月比で冷え込んだ他一部地域には大雪がもたらされた(12月下旬頃には同国南部にまで大寒波「エリオット(Elliott)」が来襲した)こともあり、道路往来に支障が発生するとともに個人の外出が敬遠されたことから、同月の同国自動車運転距離数は1日当たり83億マイルと11月の同86億マイルから減少した他、前年同月(同84億マイル)も下回る状態となったことが、12月の米国ガソリン需要量の前月比及び前年同月比での伸びに反映されているものと考えられる。なお、2022年12月の米国ガソリン需要は2019年の当該需要(日量897万バレル)(確定値)を4.5%程度下回っている。他方、2023年2月の同国ガソリン需要(速報値)は日量871万バレル、前年同月比で1.2%程度の増加となっており、1月の当該需要である同815万バレル(速報値)から需要量は上振れしたものの同月の前年同月比2.1%程度の増加からは増加幅が縮小した。12月のクリスマスを含む年末の休暇シーズンの反動で1月は個人の外出が不活発化したことにより同月の同国自動車運転距離数は1日当たり推定78億マイルと12月の同86億マイルから減少したものの、2月は個人の生活が平常化したことに加え、2023年2月は同年1月に比べ温暖であったこともあり、自動車運転距離数が1日当たり推定83億バレルと1月から増加したことが、2月のガソリン需要が前月比で増加した背景にある。ただ、2022年1月は米国では新型コロナウイルスのオミクロン変異株による感染が流行していた(2022年1月10日には感染者数が1,364,532人の史上最高水準に到達した)ことに伴い個人の外出が低迷したこともあり、同月の自動車運転距離数が1日当たり76億マイルであったところ、2022年2月は同新型コロナウイルス感染が沈静化しつつあったこともあり、個人の外出が回復した結果、同月の同国自動車運転距離数が同82億マイルへと増加した反動で、2023年2月の推定自動車運転距離数の前年同月比での増加幅が1月に比べ抑えられるとともに、石油需要の伸びにも同様の傾向が見られたものと考えられる。なお、2023年2月の米国ガソリン需要は2020年2月の当該需要(日量905万バレル)(確定値)を3.9%程度下回っている。また、2月も1月に続き米国の一部製油所において春場のメンテナンス作業が実施された(2020~22年は新型コロナウイルス感染防止に伴う労働力不足等により製油所での春場のメンテナンス作業が限定的な規模となった分、2023年春場の製油所メンテナンス作業が大規模に実施されていると指摘する向きもある)こともあり、原油精製処理量は総じて低調であった(図2参照)ものの、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入り始めていることにより製油所ではガソリンの製造に傾斜しつつあることもありガソリンの生産は底堅く推移したものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)一方、2月の米国ガソリン需要は1月からは増加したものの、なお米国はガソリン需要期ではなかった(ガソリン需要期は夏場の行楽シーズンである)ため、ガソリン需要の盛り上がりに欠けたこともあり、2月上旬から3月上旬にかけての米国ガソリン在庫は比較的限られた範囲内で変動したが平年幅上限を超過する状態となっている(図4参照)。
2022年12月の米国留出油需要(確定値)は日量372万バレルと前年同月比で5.9%程度の減少となり(図5参照)、11月の同406万バレル(前年同月比3.1%程度の減少)から需要量が減少した他、前年同月比での減少幅も拡大した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比8.2%程度減少の日量363万バレル)からは上方修正されている。12月は年末の休暇シーズンを含んだため、米国の経済活動が11月に比べ減速したことが、同国留出油需要の前月比での減少をもたらしたものと見られる。また、同月の米国鉱工業生産が前年同月比で0.6%の増加率と11月の同1.8%の増加率から伸びが3分の1程度になるとともに、12月の物流活動も前年同月比で横這いとなるなど、11月(同0.1%の増加)から鈍化していることが、製造業及び物流で利用される留出油需要を抑制したものと考えられる。なお、2022年12月の米国留出油需要は2019年12月の当該需要(日量393万バレル)(確定値)を5.3%程度下回っている。他方、2023年2月の留出油需要(速報値)は日量377万バレルと前年同月比で9.7%程度の減少となり、1月の当該需要量(速報値)の日量384万バレル、前年同月比5.9%程度の減少から需要量が下振れしたうえ前年同月比の減少率も拡大した。2月の同国鉱工業生産は前月からほぼ横這いとなったうえ物流活動も不活発化した(2月の米国輸送担当者指数(LMI: Logistics Manager Index、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)も54.7と1月の57.6から低下している)他、同月は1月に比べ米国の暖房油需要の中心である北東部が相対的に温暖であったことから、留出油需要が前月から減少したものと見られる。また、同国の鉱工業生産は前年同月比でも0.2%減少したこともあり、物流活動も前年同月に比べ不振であった(因みに2022年2月のLMIは75.2であった)他2023年2月は前年同月比でも温暖であったことから、同月の留出油需要が前年同月を下回ったものと考えられる。なお、2023年2月の米国留出油需要は2020年同月の当該需要(日量408万バレル)(確定値)を7.4%程度下回っている。また、2月上旬から3月上旬にかけてのメンテナンス作業の実施等もあり米国の製油所の稼働が抑制された他、製油所では需要期を控えてガソリン製造を優先しつつあったことにより留出油製造が相対的に劣後したこともあり(図6参照)、需要も前年同月を割り込むなど好調とは言い切れなかったものの、同時期の留出油在庫は比較的限られた範囲内で変動した他、平年幅上方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2022年12月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比5.6%程度減少の日量1,949万バレルとなり(図8参照)、11月の同2,059万バレルから需要量が減少した他、同月の前年同月比0.1%程度の増加から減少に転じた。ガソリン及び留出油の需要が前月比に加え前年同月比で減少した他、その他の石油製品の需要も前月比のみならず前年同月比で減少したことが背景にあるが、その他の石油製品の需要減少はエタンの需要減少が主要因となっており、12月下旬を中心として米国メキシコ湾岸地域等に寒波「エリオット」が来襲したことに伴い当該地域の石油化学工場において操業に支障が発生したことからエタン分解装置の稼働にも影響が及んだことによるものであると見られる。そして、その他の石油製品の需要が速報値の日量504万バレルから確定値では同404万バレルへと下方修正されたこともあり、同国石油需要は速報値(前年同月比1.9%程度減少の日量2,026万バレル)から確定値に移行する段階で下方修正されている。なお、2022年12月の米国石油需要は、2019年12月の当該需要(日量2,044万バレル)を5.6%程度下回っている。他方、2023年2月の米国石油需要(速報値)は日量1,985万バレルと前年同月比で2.9%程度の減少となり、1月の同国石油需要(速報値)である日量1,967万バレルから需要量は増加したものの、同月の前年同月比0.3%の減少からは減少幅が拡大した。これは、ガソリン需要が前月比では増加しているものの前年同月比では伸びが鈍化していることに加え、留出油需要の前年同月比での減少幅が1月から拡大していることが一因となっている。なお、2023年2月の米国石油需要は、2020年2月の当該需要(日量2,013万バレル)(確定値)を1.1%程度下回っている。また、2月上旬から3月上旬にかけ、メンテナンス作業実施等に伴い製油所の原油精製処理量が低迷した続けた一方、原油供給が堅調であったと見られる(ものの、実際の原油生産量としては把握できなかったことから「調整項目(Adjustment)」で計上される格好となった)等の要因により、同国の原油在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、留出油在庫が平年幅上方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2023年2月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加となった他、日本のみならず欧州でもドイツ及びフランス等において一部製油所が春場のメンテナンス作業を実施中もしくは実施する方向であったものの、それに併せて原油調達が調整されたこともあり、これら地域では当該在庫はほぼ横這いか若干の増加となった。この結果、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では冬場の暖房向け需要が発生したことによりプロパン在庫が減少したことが一因となり石油製品全体の在庫も若干ながら減少した。また欧州においても、製油所の稼働が低下したことに伴い石油製品の製造が鈍化したこともあり在庫が減少した。日本においても、一部製油所が春場のメンテナンス作業を実施する方向であったこともあり精製処理活動が鈍化しつつあったことに伴い石油製品製造活動が相対的に不活発化したことに加え、冬場の暖房向け灯油需要の発生により当該製品在庫が減少したことから、同国の石油製品全体の在庫水準も低下した。このようなことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少したものの平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過している一方、石油製品在庫が平年並みの量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2023年2月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は62.6日と1月末の推定在庫日数(61.6日)から増加している。
2月15日に1,700万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は2月22日には1,500万バレル台半ば程度の量へと減少した。3月1日には1,700万バレル台前半程度の水準へと回復したものの、3月8日には再び1,500万バレル台半ば程度の量へと減少した。そして、3月15日には1,700万バレル弱の水準へと増加しているものの、2月15日の量を下回る状態となっている。2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことから、個人の外出が促進されるとともに自動車用燃料であるガソリンの需要が増加しつつあることもあり、その需要を満たすべく同国からのガソリン輸出が抑制され始めたことによりシンガポールのガソリン等の流入がもたつき気味となった一方、東南アジアにおける主要ガソリン消費国であるインドネシアで断食月(ラマダン、2023年は3月22日~4月21日)及び断食月明け大祭(レバラン、2023年は4月22~23日であるが、4月21~26日が事実上の休暇期間となる)における個人の帰省等に伴う往来の活発化を控えてガソリン調達活動が堅調であったことにより、シンガポールから同国等へのガソリンが流出したことが、シンガポールの軽質留分在庫の減少傾向を創出させたものと考えられる。そしてこのようなシンガポールにおける軽質留分在庫の減少に加え、韓国において製油所が春場のメンテナンス作業実施シーズンに突入しつつあることにより同国からのガソリン供給が減少するとの観測が市場で発生したこと、世界最大のガソリン消費国である米国において夏場のドライブシーズン(2023年は5月29日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月27~29日)から9月4日の労働者の日に伴う連休(9月2~4日)まで)に伴うガソリン需要期が視野に入りつつあることもあり、米国、及び米国にガソリンを輸出する欧州においてガソリン需給の引き締まり感が強まり始めていることが、アジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えたこともあり、2月下旬から3月中旬にかけアジア市場のガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)はどちらかというと拡大する傾向を示した。
また、中国において厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されたことに伴い、同国の経済活動が上向きつつあることにより、石油化学製品製造のためのナフサ分解装置の稼働が上昇するとともに原料となるナフサの投入が活発化しつつあることに加え、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期を控えガソリンを製造するためのナフサの混入が拡大しつつあることもあり、ナフサ需要が回復してきている一方、2月5日にEU加盟国による海上輸送経由のロシア産石油製品購入の事実上禁止等に伴い、欧州諸国等の石油会社等が代替として中東産ナフサの購入を促進し始めていることから、従来から中東産ナフサを購入していたアジア諸国及び地域との間でナフサを巡る競合が激化するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格を下支えする形となった。しかしながら、その後韓国及び欧州等においてナフサ分解装置が春場のメンテナンス作業に突入しつつある結果原料となるナフサの需要が抑制されたこともあり当該製品の需給引き締まり感が市場で感じられなくなったことが、ナフサ価格に下方圧力を加えるようになったこともあり、2月下旬から3月中旬にかけては、同市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は多少なりとも拡大する傾向となった。
2月15日には700万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、2月22日には800万バレル台前半程度の量へと増加した。3月1日には700万バレル台前半程度の量へと減少したものの、3月8日には900万バレル弱程度、3月15日には900万バレル台半ば程度の、それぞれ水準へと回復した。ガソリンと異なり中国からシンガポールに向けた軽油輸出は堅調な状態がある程度の期間維持されたことが、シンガポールにおける中間留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そしてこのようにシンガポールにおける中間留分在庫が増加傾向となっていることに加え、海上輸送経由のロシア産石油製品の購入を事実上禁止したEU加盟国において軽油在庫が維持されたことや、東南アジア諸国においても物価上昇を抑制すべく政策金利を引き上げた結果経済活動が減速気味となったことにより、製造業や物流等で利用される軽油に対する消費国等の購入意欲が盛り上がらなかったこと等が、例えばアジア市場における軽油価格を抑制する形で作用したものの、この先の中国経済回復に伴う同国の産業や物流活動の活発化による軽油需要の増加、もしくは韓国等において製油所が春場のメンテナンス作業実施シーズンに突入しつつあることから製油所での軽油製造活動が不活発化することにより、これら諸国等からの軽油の輸出減少観測の発生が、アジア市場における軽油価格を下支えする格好となったことから、2月下旬から3月中旬にかけては、アジア市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲内で推移した。
2月15日に2,000万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、2月22日には2,200万バレル台後半程度の量へと増加した。ただ、3月1日には2,000万バレル半ば程度、3月8日には2,000万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと低下している。それでも、3月15日は2,100万バレル強程度の量へと増加しており、当該在庫量は概ね限られた領域内で推移している。2月5日以降EU加盟国が海上輸送経由のロシア産石油製品の購入を事実上禁止したこともあり、ロシア産重油がシンガポールを含むアジア方面に流入している他、一部の製油所では春場のメンテナンス作業を実施していることもあり、重油からガソリンを製造する装置の稼働が停止した結果、重油の供給が拡大した一方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入りつつあることにより、アジア地域において操業中の製油所が相対的に利幅の確保が容易であるガソリンの製造を優先する反面重油の製造が劣後していること、政府により付与される原油輸入枠の不足する中国の独立系製油所において石油製品を製造するため高硫黄を中心とした重油の需要が発生していることにより、シンガポールへの重油の流入が抑制される格好となっていることが、同国における重油在庫の動向に影響する形となっている。それでも、この先の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入るとともに、製造を巡る利幅の確保が相対的に容易であるガソリンの製造に注力する結果、重油の製造が伸び悩むとの観測が市場で発生しつつあることもあり、2月下旬から3月上旬にかけてはアジア市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、冬場の暖房向けの電力供給のための発電部門での燃料需要が気温の上昇とともに低下しつつある中、スポットLNG価格が下落傾向になるとともに値頃感が強まったことにより当該部門等においてLNG購入への関心が相対的に強まっていることが低硫黄重油に対する需要を抑制する形となっていることもあり、低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向となった。
2. 2023年1月中旬から2月中旬にかけての原油市場等の状況
2023年2月中旬から3月中旬にかけての原油市場においては、2月中旬から3月上旬にかけては、ロシアが3月の原油輸出を削減する方針である旨2月22日に報じられこと、及び中国経済が回復する兆候を示す経済指標類が発表されたことにより同国石油需要回復期待が市場で増大したこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、状況次第では政策金利の引き上げペースを加速する用意がある旨米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が発言したこと等が原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格は1バレル当たり74~80ドルを中心とする領域で上昇及び下落の傾向を示すことなく推移した。しかしながら、3月中旬初頭頃以降は複数の米国中堅金融機関が破綻したうえ、スイス大手金融機関クレディ・スイスの経営不安が増大したこともあり、欧米株式相場が下落したこと等が原油相場に影響を及ぼした結果、3月17日の原油価格は1バレル当たり66.74ドルと、2021年12月3日以来の低水準にまで下落した(図15参照)。
2月20日は米国ワシントン大統領誕生記念日(President's Day)による休日に伴い同国原油先物契約の終値は計上されなかったが、2月10日に発表したロシア原油生産の日量50万バレルの削減は今のところ3月にのみ適用される旨ロシアのノバク副首相が明らかにしたと2月21日に報じられたことで、同国の原油供給減少による世界石油需給引き締まり感が市場で後退したことに加え、2月21日に米国経済調査会社S&Pグローバルから発表された2月の米国総合購買担当者指数(PMI)(50が同国経済拡大と縮小の分岐点)が50.2と2022年6月(この時は52.3)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(47.5)を上回ったことにより米国金融当局による政策金利引き上げ政策継続観測が市場で発生したこともあり、米ドルが上昇したうえ、予想を上回る米国総合PMIの他、米国建設関連小売大手ホームデポ及び同国小売大手ウォルマートの2024年1月期年間業績が減益になるとの見通しを2月21日に両社が明らかにしたこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.18ドル下落し、終値は76.16ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2023年3月渡し原油先物契約は取引を終了したが、4月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり76.36ドル(前週末終値比同0.19ドルの下落)であった)。また、9月にかけて開催される全ての理事会において政策金利を引き上げる決定を行う義務を欧州中央銀行(ECB)が負っているわけでは全くない旨、ECB理事会委員のビルロワドガロー氏(フランス銀行(中央銀行)総裁)が2月22日に表明したここにより、ECBの金融引き締め政策の積極的な推進に対する市場の期待が後退したこともあり、ユーロが下落したうえ、景気後退よりも物価の高騰が金融政策を決定するうえで重要であり、物価上昇率が明確に2%に向かうまで景気を抑制するような金融政策実施姿勢を堅持することが妥当である旨、多くの米国金融当局関係者が認識していると、2月22日に発表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(1月31日~2月1日開催分)で明らかになったことにより、米ドルが上昇したことに加え、2月23日にEIAから発表される予定である米国石油統計(2月17日の週分)で原油在庫が増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.95ドルと前日終値比で2.21ドル下落した。この結果原油価格は2月21~22日の2日間で1バレル当たり合計2.39ドルの下落となった。ただ、2月23日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、ロシアが3月の大西洋岸出荷港からの原油輸出を1月(推定日量320万バレル)比で最大25%(日量80万バレル程度に相当するものと推定される)削減する方針である旨2月22日に報じられ、それが2月10日に同国のノバク副首相が発表した当該月の日量50万バレルの原油生産削減を上回っている可能性がある旨示唆されたことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.39ドルと前日終値比で1.44ドル上昇した。2月24日も、3月にロシアが大西洋岸の出荷港からの原油輸出を1月比で最大25%削減する方針である旨2月22日に報じられたことにより世界石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、2月24日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で600基と前週比で7基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は585基と同5基減少)した旨判明したことにより、この先の米国におけるシェールオイルを含む原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.93ドル上昇し、終値は76.32ドルとなった。この結果原油価格は2月23~24日の2日間で1バレル当たり合計2.37ドル上昇した。
2月27日は、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きに加え、3月1日にEIAから発表される予定である米国石油統計(2月24日の週分)において原油在庫が前週比で増加している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.64ドル下落し、終値は75.68ドルとなった。しかしながら、3月1日に中国国家統計局から発表される予定である2月の同国製造業購買担当者指数(PMI)が1月から上昇しているとの観測が2月28日の市場で発生したことから、この日(2月28日)の原油価格の終値は1バレル当たり77.05ドルと前日終値比で1.37ドル上昇した。3月1日も、この日中国国家統計局から発表された2月の同国製造業PMI(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が52.6と前月の50.1から上昇し、2012年4月(この時は53.3)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(50.5~50.6)を上回ったうえ、同月の同国非製造業PMIも56.3と1月の54.4から上昇した旨判明したことにより、同国経済及び石油需要の回復に対する期待が高まったことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.64ドル上昇し、終値は77.69ドルとなった。3月2日も、3月1日に中国国家統計局から発表された2月の同国製造業PMIが2012年4月以来の高水準に到達した他市場の事前予想を上回ったうえ、同月の同国非製造業PMIも前月比で上昇した旨判明したことにより、同国経済及び石油需要の回復に対する期待が高まった流れを引き継いだことに加え、3月1日夕方(米国東部時間)に米国顧客情報管理ソフトウェア製造・販売大手セールスフォースが明らかにした2024年1月通期の業績見通しが市場の事前予想を上回っている旨判明したうえ、3月21~22日に開催される予定である次回FOMCにおいて0.25%の慎重な政策金利引き上げを強く支持する他、2023年夏の後半までには米国金融当局が政策金利引き上げを停止する可能性がある旨同国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁(通常同氏は通常積極的な金融引き締め論者として知られる)が3月2日に示唆したことにより、米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.16ドルと前日終値比で0.47ドル上昇した。さらに、3月3日も、この先の政策金利引き上げペース減速の可能性を同国アトランタ連邦準備銀行のボスティク総裁が3月2日に示唆した流れを引き継いで米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日(3月3日)の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.52ドル上昇し、終値は79.68ドルとなった。この結果原油価格は2月28日~3月3日の4日間で1バレル当たり合計4.00ドル上昇した。
また、サウジアラビアが4月のアジア及び欧州向け原油販売価格の大半を引き上げた旨3月5日に報じられたことにより、それら地域における石油需要増加期待が3月6日の市場で発生したことに加え、3月16日に開催される予定である欧州中央銀行(ECB)理事会後もデータ次第ではあるが政策金利を引き上げ続ける必要がある旨ECBのレーン理事が3月6日に発言したこともあり、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、3月6日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.78ドル上昇し、終値は80.46ドルとなった。しかしながら、従来予想していたよりも物価上昇圧力が強いこともあり、今後明らかになる経済指標類によって妥当と見做されるのであれば、政策金利引き上げ幅を拡大する用意があるとともに、これまで見込んでいたよりも高い水準にまで政策金利が上昇する可能性がある旨、3月7日にFRBのパウエル議長が同国連邦議会上院銀行委員会公聴会で証言したことにより、同国金融当局による金融引き締めペース加速に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したこともあり、米ドルが上昇するとともに米国株式相場が下落したことに加え、3月7日に中国税関総署から発表された2023年1~2月の同国貿易統計において、原油輸入が8,406万トン(推定日量1,043万バレル)と前年同期(8,514万トン(同1,056万バレル))比で1.3%減少したことにより、同国の石油需要回復に対する楽観的な見方が後退したことから、3月7日の原油価格の終値は1バレル当たり77.58ドルと前日終値比で2.88ドル下落した。3月8日も、妥当と見做されるのであれば政策金利引き上げ幅を加速する用意があるとともに、これまで見込んでいたよりも高い水準まで政策金利が上昇する可能性がある旨、3月7日にパウエルFRB議長が米国連邦議会上院銀行委員会公聴会で証言したうえ、3月8日に行なわれた同国連邦議会下院金融サービス委員会公聴会におけるパウエル議長の証言においても、3月21~22日に開催される予定である次回同国連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利引き上げ方針については何も決定しておらず、当該決定はその時点までに発表される経済指標類等の内容に依存する旨明らかにしたものの、前日の証言を覆すような内容の発言はなされなかったこともあり、同国金融当局による金融引き締めペース加速に伴う同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、3月8日に米国給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセシング(ADP)から発表された2月の同国民間雇用者数が前月比で24.2万人の増加と市場の事前予想(同20.0万人の増加)を上回って増加している旨判明したこともあり、次回FOMCにおいて政策金利の引き上げが加速する結果、同国経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル下落し、終値は76.66ドルとなった。3月9日も、3月10日に米国労働省から発表される予定である同国雇用統計が、同国金融当局による金融引き締め政策加速を裏付けるのではないかとの観測が市場で発生したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.72ドルと前日終値比で0.94ドル下落した。この結果原油価格は3月7~9日の3日間で1バレル当たり合計4.74ドルの下落となった。ただ、3月10日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、3月10日に米国労働省から発表された2月の同国非農業部門雇用者数が前月比31.1万人の増加と市場の事前予想(同22.5万人の増加)を上回って増加していたものの、同月の時間当たり平均給与が前月比で0.2%の増加と1月(同0.3%の増加)から増加率が縮小した他2022年2月(この時は同0.0%の増加)以来の低水準の伸びとなっていた旨判明したことで、労働市場の引き締まり感の緩和が示唆されたことにより、次回FOMCにおける政策金利引き上げ幅加速決定を巡る市場の観測が後退したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.68ドルと前日終値比で0.96ドル上昇した。
しかしながら、3月10日にシリコンバレー銀行、3月12日にシグネチャー銀行といった、米国中堅金融機関2行が破綻したことにより、同国の他の金融機関にこの影響が広がることに対する懸念が増大したこともあり、3月13日の同国株式相場が下落したことから、この日(3月13日)の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.88ドル下落し、終値は74.80ドルとなった。3月14日も、この日OPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、OPECが2023年の中国の石油需要を前月から日量16万バレル上方修正したものの、同年の米国の石油需要を日量12万バレル、欧州の石油需要を同13万バレル、それぞれ下方修正したことにより、世界石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.33ドルと前日終値比で3.47ドル下落した。また、スイス大手金融機関クレディ・スイス(過去数十年間数十億ドルの不正資金が預金されていた旨2022年2月20日に明らかになって以降経営不振に陥っていた)に対し新たに筆頭株主となっていたサウジ国立銀行(SNB)はこれ以上同行に出資する意向はない旨3月15日にSNBのフダリ会長が明らかにしたことをきっかけとして同行を含めた欧州金融機関株式価格が大幅に下落したことによりユーロが下落した反面米ドルが上昇したうえ、世界的な金融機関信用不安が市場で発生したこともあり、欧米株式相場が下落したことから、3月15日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.72ドル下落し、終値は67.61ドルとなった。なお、この日の終値は2021年12月3日(この時の終値は同66.26ドル)以来の低水準であった。また、この結果原油価格は3月13~15日の3日間で1バレル当たり合計9.07ドル下落した。3月16日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、この日開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において、金融機関を巡る信用不安とともに経済減速懸念が発生する中で市場の事前予想通り0.50%の政策金利引き上げが決定されたことにより、ECBが短期的な経済浮揚よりも物価上昇抑制を優先する姿勢が示唆されたことを市場が意識したこともあり、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したこと、必要であればクレディ・スイスに対し流動性を供給する旨スイス国立銀行(中央銀行)が表明したと3月15日午後遅く(米国東部時間)に伝えられたうえ、預金流出により経営不振に陥っていた米国の中堅金融機関ファースト・リパブリック銀行に対し同国大手金融機関11行が合計300億ドルの預金をファースト・リパブリック銀行に行なうことにより、両行を巡る信用不安が後退したこともあり、米国株式相場が上昇したこと、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相とロシアのノバク副首相がサウジアラビアのリヤドで会談を行ない、2022年8月比日量200万バレルの減産措置を2023年末まで実施し続けることを確認した旨3月16日に報じられたことにより、OPECプラス産油国による世界石油需給緩和抑制姿勢を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.74ドル上昇し、終値は68.35ドルとなった。それでも、3月10日に破綻した米国シリコンバレー銀行の親会社であるSVBファイナンシャル・グループが3月17日に同国連邦破産法第11条(日本の民事再生法に該当)の適用を申請したうえ、クレディ・スイスに対しフランスのソシエテ・ジェネラル及びドイツのドイツ銀行等欧州大手金融機関少なくとも4行が取引を制限した旨3月17日に伝えられたことにより、クレディ・スイスの経営を巡る懸念が市場で拡大したこともあり、金融部門を中心として米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり66.74ドルと前日終値比で1.61ドル下落した他、この日の終値は2021年12月3日(この時の終値は同66.26ドル)以来の低水準となった。
3. 原油市場における主な注目点等
2月5日を以て欧州連合(EU)加盟国は海上輸送経由のロシア産石油製品の購入を事実上禁止した他、同日主要7ヶ国政府(G7)及びEUは海上輸送経由のロシア産石油製品販売価格に上限を設定した。既に2022年12月5日にはEU加盟国が海上輸送経由のロシア産原油の購入を事実上禁止した他、同日G7及びEUが海上輸送経由のロシア産原油販売価格に上限を設定していた。また、3月のロシアの原油生産量を日量50万バレル自主的に削減する旨2月10日にロシアのノバク副首相が発表したが、それに対しOPECプラス産油国は増産による対応を行うつもりはない旨関係者が示唆したと2月10日に伝えられた他、ロシアが3月の同国大西洋岸出荷港からの(海上輸送経由の)原油輸出を1月(推定日量320万バレル)比で最大25%(日量80万バレル程度に相当)削減する方針である旨2月22日に報じられるなどした。しかしながら、これまでのところ、ロシアからの原油及び石油製品供給が大幅に減少するとともに世界石油需給が引き締まるといった兆候は見られない。原油については、欧州を含む西側諸国向けの輸出が大幅に縮小した反面、中国及びインド等に向けた輸出が拡大したことで相殺される格好となっている。一方、軽油(因みに当該地域で主に消費される石油製品は軽油であり、従来ロシアから欧州に輸出される主要石油製品は軽油であった)を含む石油製品は、ロシアのこれまでの仕向先であるEU加盟国に代わり、トルコ、アルジェリア、モロッコ、ガーナ、チュニジア及びブラジル等に向かっていると言われており、例えばこれらの6ヶ国に対する2月のロシア産軽油輸出量は推定で日量40万バレル弱と前年同月(同6万バレル程度)から相当程度増加している。ただ、同時期においてそれら6ヶ国から欧州方面に向け軽油輸出が増加した形跡は確認されず、実質的にそれら諸国の軽油輸入はロシアからのものが増加した分だけ拡大した格好となっている。今後このような軽油が欧州に向け再輸出されるか、もしくは他の消費国に輸出される代わりにそれら消費国が引き取らなくなった軽油が欧州に向かう等するようであれば、ロシアからの軽油供給先の変化に伴う軽油需給バランスへの影響が緩和される可能性がある。ただ、そのように円滑にロシア産石油製品供給の平準化が進まないようであれば、石油製品需給バランスが乱れることにより、石油製品及び原油の価格に上方圧力が加わる場面が見られることがありうる。他方、EU加盟国によるロシア産石油製品購入の事実上の禁止にもかかわらず、軽油等の石油製品需給の引き締まりが感じられない一因として、中国の影響が挙げられる。これまで中国が厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を実施していたことに伴い同国経済が減速したことにより軽油等の国内需要が抑制されるとともに需給が緩和したこともあり、中国政府は1,899万トンのガソリン、軽油及びジェット燃料の2023年第1回輸出枠を石油会社に対し付与した他800万トンの同年第1回低硫黄重油輸出枠を石油会社に対し付与したと2023年1月3日に報じられた(なお、これらの輸出枠は2022年第1回輸出枠(ガソリン、軽油及びジェット燃料合計で1,300万トン、低硫黄重油650万トン)よりも拡大されていた)。このため、特に軽油については中国からアジア市場に向け比較的活発に輸出が行なわれ、その結果アジア市場における軽油需給を巡る緩和感が強まったこともあり、インドや中東諸国はアジアの代わりに欧州に向け軽油を輸出する姿勢を強めた。このような動きがEU諸国によるロシア産軽油輸入の減少を相殺する形となった結果、当該地域での軽油需給引き締まり感を抑制したものと考えられる。しかしながら、既に中国は厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を事実上撤廃していることもあり、今後同国経済が回復軌道に乗るとともに、産業や物流部門において軽油需要が増加することにより、同国からの軽油輸出余力が低下するようであれば、アジア市場における軽油需給の引き締まり感が強まるものと予想されることから、前述の通りロシアからトルコ等に向かった軽油が直接的もしくは間接的に速やかに欧州に流入しないようだと、インド及び中東産軽油を巡り欧州とアジアの両市場が競合するようになることにより、欧州市場でも軽油需給の引き締まり感が強まる結果、石油製品相場及び原油相場に影響を及ぼす可能性があろう。
他方、現在2016年1月3日以降断交状態(サウジアラビアが2016年1月2日にテロ行為に関与した等の理由によりイスラム教シーア派指導者ニムル師の死刑を執行したことに対し、イランでデモ隊が抗議行動として在テヘランサウジアラビア大使館を襲撃したことが理由とされる)であるサウジアラビアとイランが、今後2ヶ月以内に大使館を再開させることを含め外交関係を回復させる旨3月10日に合意した(中国等の仲介努力によるものとされる)。このため、イエメンにおける、ハディ暫定大統領派勢力(サウジアラビアが主導する有志連合軍が支援)と、対立するフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)との間での内戦の終結※に向けた作業がより円滑に行なわれる結果、これまでしばしば見られた(特に2019年9月14日(現地時間午前3時30~40分頃と伝えられる)にはサウジアラビア東部にあるアブカイク(Abqaiq)原油処理施設(原油処理能力日量700万バレル超とされる)及びクライス油田(原油生産能力日量120万バレル程度と伝えられる)が攻撃され(9月14日にイエメンのフーシ派武装勢力が犯行声明を発表しているが、同日米国はイランが関与している旨示唆している)、施設が一部破壊された結果、日量570万バレル相当の原油供給に支障が発生するなどした)イエメンのフーシ派武装勢力によるサウジアラビアを含む中東産油国に対する攻撃が停止することにより、中東地域を巡る地政学的リスクが低下すると指摘する向きがある。
注: 2022年4月2日より2ヶ月間の予定で開始された当事者間の停戦は、6月2日及び8月2日にそれぞれ2ヶ月間延長したが、新たな期限とされた10月2日までにさらなる停戦延長につき合意できず、フーシ派武装勢力はサウジアラビアの石油関連施設等に対する攻撃を再開する旨警告したと10月2日に伝えられたが、国連の仲介による交渉はなお継続しているとされており、2023年1月18日にはサウジアラビアのファイサル外相が、依然として解決すべき問題は多いもののイエメンを巡る和平交渉は進捗しつつある旨明らかにしている。
しかしながら、イスラム教スンニ派の中心であるサウジアラビアとイスラム教シーア派の中心であるイランとの間では長期に渡り中東地域の覇権を争ってきた経緯がある他、イランの核開発合意の正常化につき西側諸国等とイランとの間での協議がもたつく間にイランの核開発活動は進展しているように見受けられ、それはサウジアラビアにとっても国家安全保障等の面で脅威となる可能性があることから、今後実際に当該地域における両国の対立が軽減されるかどうかについては状況を注視していく必要がある。他方、イランの核開発活動推進(イランは既に濃縮度60%の濃縮ウランを製造している他、国際原子力機関(IAEA)が同国フォルドゥにある核開発施設で濃縮度83.7%の濃縮ウランの存在を確認した旨2月28日に報じられた(濃縮度90%の濃縮ウランを用いれば核兵器が製造可能とされる))に反対するイスラエルとイランとの対立に伴うシリア(シリアからイスラエル領へ、またイスラエルからシリアにあるイラン関連施設等へとミサイル攻撃がしばしば行なわれていた)等を含む中東地域の不安定な情勢は継続することにより、例えば、ペルシャ湾内において石油を輸送するタンカーが攻撃されるといった可能性が皆無となるといった展開とはなりにくいことからすると、中東情勢と当該地域からの石油供給を巡る状況についてはなお注意し続けることが重要であろう。
3月7日にFRBのパウエル議長は、米国連邦議会上院銀行委員会公聴会において、従来予想していたよりも物価上昇圧力が強いこともあり、今後明らかになる経済指標類によって妥当と考えられるのであれば、政策金利引き上げ幅を0.25%から加速させる用意があるとともに、これまで見込んでいたよりもより高い水準にまで政策金利が上昇する可能性がある旨明らかにした。また、3月8日に行なわれた同国連邦議会下院金融サービス委員会公聴会におけるパウエル議長の証言においても、3月21~22日に開催される予定である次回同国連邦公開市場委員会(FOMC)における政策金利引き上げ方針については何も決定しておらず、当該決定はその時点までに発表される経済指標類等の内容に依存する旨説明したものの、前日の証言を覆すような内容の発言は見られなかった。このようなことから、1月31日~2月1日に開催されたFOMCの際には、物価上昇沈静化過程に突入したことにより政策金利引き上げペース減速を示唆したパウエルFRB議長が、当該金利引き上げペース加速へと方針を転換した旨示唆される格好となったこともあり、3月8日時点では、3月21~22日に開催される予定である次回FOMCにおいて0.50%の政策金利引き上げが決定される確率が79%、0.25%の政策金利引き上げが決定される確率が21%となった。
しかしながら、3月10日にシリコンバレー銀行、3月12日にシグネチャー銀行といった、同国中堅金融機関2行が破綻するとともに、預金流出により同国中堅金融機関ファースト・リパブリック銀行を巡り経営不安が発生した。また、スイス大手金融機関クレディ・スイス(過去数十年間数十億ドルの不正資金が預金されていた旨2022年2月20日に明らかになって以降経営不振に陥っていた)に対し新たに筆頭株主となっていたサウジ国立銀行(SNB)が、これ以上同行に出資する意向はない旨3月15日にSNBのフダリ会長が明らかにしたことにより、同行を巡る経営危機が表明化した(また、3月14日にクレディ・スイスは自行の内部統制に重大な脆弱性が存在する旨明らかにしていた)。必要であればクレディ・スイスに対し流動性を供給する旨スイス国立銀行(中央銀行)が表明したと3月15日午後遅く(米国東部時間)に伝えられた(また、クレディ・スイスはスイス国立銀行から最大で500億スイスフラン(約540億ドル)の資金を調達する方針である旨3月16日に発表した)他、3月16日には米国大手金融機関11行が合計300億ドルの預金をファースト・リパブリック銀行に行なう旨報じられたことから米国等の金融機関を巡る経営不安は一旦落ち着いたように見えたものの、シリコンバレー銀行の親会社であるSVBファイナンシャル・グループが3月17日に米国連邦破産法第11条の適用を申請したうえ、クレディ・スイスに対しフランスのソシエテ・ジェネラル及びドイツのドイツ銀行等欧州大手金融機関少なくとも4行が取引を制限した旨3月17日に伝えられたことにより、クレディ・スイスの経営を巡る懸念が市場で拡大、3月17日の米国株式相場が下落するなど、金融機関に対する信用不安は継続する状態となっている。欧米諸国等において政策金利が上昇し続けてきたことが米国等の金融機関にとって負担となりつつあることもあり、今後も、このような欧米諸国等金融機関の経営を巡る問題が顕在化することにより、信用不安が市場で拡大するとともに米国株式相場等が不安定な動きを見せる展開となる可能性も排除できず、この面で米国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念の市場での増大により、原油相場に下方圧力を加えるといった場面が見られることも想定されうる。
他方、3月10日に米国労働省から発表された2月の同国非農業部門雇用者数が前月比31.1万人の増加と市場の事前予想(同22.5万人の増加)を上回って増加している旨判明したものの、同月の時間当たり平均給与が前月比で0.2%の伸びと1月(同0.3%の伸び)から鈍化した他2022年2月(この時は同0.0%の伸び)以来の低水準となっていたこと、2月の労働参加率が62.5%と1月の同62.4%から上昇した旨判明したことで、労働市場の引き締まり感の緩和が示唆された。また、3月14日に米国労働省から発表された2月の同国消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比で6.0%と1月の同6.4%から伸びが鈍化した(ただ、それでも依然として米国金融当局が目標としている年率2.0%の物価上昇目標を大きく上回っていた)。そのような中、米国金融機関の破綻に伴う経済減速懸念が市場で増大したことから、3月8日時点では79%であった次回FOMCでの0.50%の政策金利引き上げ決定確率が3月16日時点では0%となるとともに、0.25%の政策金利引き上げ決定確率が80%、政策金利据え置き決定確率が20%となるなど、政策金利引き上げ加速観測が大幅に後退する格好となっている。このような中で、実際FOMCにおいてどの水準で政策金利を決定するかが短期的な市場の注目点となるであろう。政策金利の据え置きを決定するようであれば、FRBは短期的にせよ金融緩和方向に方針を転換する姿勢を見せていると市場が受け取ることにより、米ドルが下落するとともに米国株式相場及び原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。他方、0.25%の政策金利引き上げが決定されれば、FRBは物価上昇抑制を考慮する姿勢を堅持していると市場から受け取られる結果、それが米ドル、米国株式相場及び原油相場に織り込まれるといった展開もありうる。もっとも、政策金利引き上げ幅のみならず、FOMC開催後の記者会見において示唆されるところのパウエルFRB議長の今後の政策金利や金融政策を巡る姿勢によっても、米ドル、米国株式相場及び原油相場が変動する可能性があるので、記者会見における同氏の発言にも注意する必要があろう。
また、4月に入ると米国主要企業等の2023年1~3月等の業績が発表される予定であるので、それら業績もしくは2023年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。
他方、中国では厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が事実上撤廃されたことに伴い、個人の外出規制及び経済活動の制限が緩和されるとともに、個人の往来が活発化したことによりガソリン需要が増加しているものと見られることから、シンガポール方面への同国のガソリン輸出が抑制されつつある様に見受けられる。他方、3月7日に中国税関総署から発表された2023年1~2月の同国貿易統計で、輸出が前年同期比6.8%減少(市場の事前予想同9.0~9.4%減少)、輸入が同10.2%減少(同5.5%減少)であった他、3月14日に同国国家統計局から発表された2023年1~2月の同国鉱工業生産が前年同期比で2.4%の増加と2022年12月の前年同月比1.3%の増加からは増加率が拡大したものの、市場の事前予想(前年同期比2.6%増加)を下回るなど、まちまちな状況となっており、同国経済の回復状況がまだら模様であることが示唆されたうえ、原油輸入が前年同期比で減少している旨判明したことにより、同国の石油需要回復に対する楽観的な見方が後退、原油相場に下方圧力を加える場面が見られた。ただ、それでも現時点では今後同国の経済が回復方向に向かうことに伴い石油需要が上振れする結果世界石油需給が引き締まるとの見方は石油市場関係者間で根強いこともあり、この先発表される中国の鉱工業生産や輸出入を含む経済指標類等で同国経済回復の兆候を見出して原油購入積極化のきっかけとする動きが市場で発生することが予想される一方、同国経済回復を示唆しない経済指標類等が明らかになっても、原油相場への下方圧力が限定的なものにとどまるといった展開となることもありうる。しかしながら、欧米諸国等の金融機関に対する信用不安が広がることにより当該地域の経済減速が深刻化する兆候が見られるようであれば、欧米諸国等との貿易関係を通じ中国経済も減速するとの懸念が市場で拡大することにより、同国の石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で増大する結果、原油相場の上昇が抑制されると言った場面が見られることも否定できない。
米国では、3月に入り、最終消費段階では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来にはまだ早いとの認識が強いが、製油所の段階では夏場のガソリン需要期が視野に入り始めるとともにガソリン先物価格が上昇しやすくなる一方、製油所の春場のメンテナンス作業実施も峠を越えるとともに稼働を上昇、原油精製処理活動を増進するとともに原油購入を活発化するようになるものと考えられる。このため、季節的な石油需給の引き締まり観測が市場で強まるとともに、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと思われる。他方、米国では、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期は最終消費段階ではなお若干は継続する(米国の暖房シーズンは概ね11月1日~翌年3月31日である)ことから、例えば米国の暖房用石油製品需要の中心地である同国北東部の気温が平年を割り込んで低下したり、低下するとの予報が発表されたりすれば、暖房用石油製品需要の増加観測と需給引き締まり感が市場で意識される結果、暖房油等の石油製品とともに原油の価格が上昇する場面が見られることもありうる。
他方、フランス政府による年金改革(年金受給開始年齢を従来の62歳から64歳へと引き上げる等)に抗議し、3月7日から同国において全土的及び産業横断的にストライキが実施されており、石油製品の配送やLNG受入施設の操業に支障が発生している。同国の製油所の操業は平常通りと言われてきたものの、石油製品の配送に支障が生じていることから、製造された(ものの出荷されない)石油製品等で製油所の貯蔵施設が満杯となれば、製油所の稼働は低下させざるをえない他、一部製油所ではストライキ実施が労働者に対し呼びかけられているとされる(同国のノルマンディー製油所(操業者:トタルエナジーズ、原油精製能力日量24万バレル)は貯蔵施設が満杯になることに伴い3月18~19日頃には操業が停止するであろう旨3月17日に示唆されたうえ、同国ポートジェローム(Port Jerome)製油所(操業者:エクソンモービル、原油精製能力日量27万バレル)は3月18日午後2時よりストライキに突入するよう労働者は呼びかけられている)。また、同国のパンリー(Penly)原子力発電所1号機のパイプに新たに亀裂が発見された旨3月7日に報じられる。このようなことから、欧州において石油の流通が混乱する可能性があることに対する懸念が市場で高まるとともに、混乱を回避すべく原油や石油製品を通常より多く確保しようとする動きが発生したり、LNG受入施設におけるストライキによる天然ガス供給の減少に伴う天然ガス火力発電所の稼働低下や、原子力発電施設の点検実施(ないしは渇水による河川の水位低下に伴う冷却水確保上の困難増大)による操業停止により、代替として石油火力発電等向けの石油需要が増加するとの観測が市場で発生したりすることにより、石油製品や原油価格に上方圧力が加わる可能性もある。
OPECプラス産油国は4月3日に共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を開催する予定である(市場の動向により必要とされる場合にOPECプラス産油国閣僚級会合を含めた追加の会合を開催する権利がJMMCに付与されている)。厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の事実の撤廃の伴い中国において経済回復と石油需要の増加が予想される(3月1日にはサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコのナセル(Nasser)最高経営責任者(CEO)も中国石油需要は非常に堅調である旨明らかにしていた)こともあり、2023年後半には世界石油需要が供給を上回るといったシナリオが描かれうる(表1参照)。このため、6月4日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合においては2023年後半の原油生産目標を引き上げる(つまり増産する)旨決定される可能性があると見る向きが市場関係者の中に見られる(米国大手金融機関ゴールドマン・サックスは2月26日付の報告でOPECプラス産油国は2023年後半に日量100万バレルの増産を実施するが、それでも2023年末にはブレント原油価格は1バレル当たり100ドルに到達するとの見通しを明らかにしていた)。しかしながら、例えば国際エネルギー機関(IEA)の2023年の石油需給見通しでは、ロシアの石油生産の相当程度の減少が織り込まれており、現時点では、2022年の同国石油生産日量1,109万バレルが2023年は同1,035万バレルとなり、結果として同74万バレルの生産が減少するものと見込まれている。もっとも、2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始するとともに西側諸国等による対ロシア制裁が実施される方向となった際にも、同年第2四半期以降ロシアの石油生産量は日量300万バレル減少するとの見方がなされたものの、実際には世界的な石油供給の平準化が発生したこともあり同30万バレル程度の減少にとどまるなど、当該生産量は大幅に上振れした。このようなこともあり、2023年のロシア石油生産量も足元の見通し通りには減少しない可能性がある。また、目標を超過する大幅な物価上昇を抑制すべく欧米諸国等は政策金利を引き上げ続けたが、それが一因となり米国では一部金融機関が破綻した他、クレディ・スイスを巡る経営不安も市場心理において台頭しつつあるなど、経済が混乱する兆候が見られるようになっている。このため、今後欧米諸国の経済減速とともに貿易相手国である中国の経済にも悪影響が及ぶことを通じ、中国の経済も減速するとともに同国石油需要の伸びが鈍化すると言った展開となることも否定できない。このように、この先の世界経済、そして石油需要及び供給を巡っては不透明感が強い状態となっている。このような不透明感が強い中、石油需給引き締まり観測等が市場で発生し原油相場に上方圧力を加える場面が見られても、OPECプラス産油国は、実際に世界石油需給が相当程度引き締まることにより原油価格が持続的に上昇し高水準を維持するといった状態を確認できるようでなければ、世界石油需給を緩和させる可能性があるような増産措置の実施決定を見送り続けるなど、増産措置の実施に対し慎重な姿勢で望むものと考えられる。なお、米国金融市場の混乱に伴い世界経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まる等する結果、原油価格が下落し続ける、もしくは急速に下落する兆候が見られる、といった局面となった場合には、OPECプラス産油国は原油価格下落抑制に向け先制的に原油生産目標削減に言及する(いわゆる「口先介入」を行う)他、それでも原油価格の下落が抑制されないようであれば、原油生産目標引き下げを検討、そして、6月4日に開催される予定である次回OPECプラス産油国閣僚級会合を待たずして、臨時のOPECプラス産油国閣僚級会合を開催することを含め協議の機会を設け、原油生産目標等の再調整を実施することを通じ、原油相場下落の抑制を試みようとする可能性があるものと考えられる。このようなことから、この面では原油価格は下振れのリスクよりも上振れのリスクの方が高くなるものと考えられる。
他方、最近外交面等においてサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)との間の関係が必ずしも良好あるとは言い切れなくなっていることもありUAEはOPEC脱退につき内部で検討している旨3月3日朝方(米国東部時間)にウォールストリート・ジャーナルが報じたことにより、OPECプラス産油国による減産措置を巡る結束の乱れから、石油需給が緩和する可能性があるとの観測が市場で発生したこともあり、3月3日午前の早い時間(同)に原油価格は一時1バレル当たり75.83ドル(前日終値比同2.33ドルの下落)にまで下落する場面が見られた。しかしながらその後、ウォールストリート・ジャーナルの報道は真実から大きく乖離している旨UAE関係筋が明らかにしたと、ウォールストリート・ジャーナルによる報道の1時間程度後にロイター通信が報じるなど、情報が錯綜した。OPECを脱退した場合には、UAEは、地球環境問題への対応に向けた脱炭素の流れの中で、保有する石油資源の価値が消失する前に積極的に原油を生産及び販売することにより収入を獲得しようとするものと考えられるが、一方、サウジアラビア等がそれに対抗すべくやはり積極的に原油の生産及び販売を行なおうとする結果、世界石油市場が供給過剰になるとの観測が広がることから、原油相場が大幅に下落するとともに、かえって両国等の原油収入が制限される恐れが高まる。このようなことから、UAEが直ちにOPECから脱退すると言った展開となる可能性はそれほど高くないものと考えられる。ただ、従来からUAEはOPEC加盟が同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに関する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)と2020年11月17日に伝えられていた。そのような背景もあり、2021年7月1日に開催されたOPECプラスJMMCの際、2018年10月時点での自国の原油生産能力日量316.8万バレルがこの時点で同384万バレルへと増強されたことにより、減産措置の基準となる原油生産量(この時点では2018年10月の原油生産量が採用されていた)を引き上げることをUAEは要求した。この結果、同年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2022年5月1日よりUAEの基準原油生産量をそれまでの日量316.8万バレルから同350万バレルへと引き上げる旨決定した(その他、サウジアラビア、イラク、クウェート及びロシアも併せて基準原油生産量を引き上げた)。従って、今回のUAEによるOPEC脱退の情報についても、UAEが直ちにOPECを脱退するといった展開となる可能性は高くはないと考えられるものの、UAEがこのような情報を利用して他のOPECプラス産油国に対し暗黙裏に圧力を加えること等を通じ、今後OPECプラス産油国閣僚級会合開催等に際し、再びUAEが自国の基準原油生産量の引き上げ(もしくは自国原油生産枠の事実上の引き上げ)等を要求するといった展開となる可能性までは排除しきれないものと考えられる。
全体としては、4. この先夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が市場関係者の視野に入り始める他、中国の経済と石油需要の回復期待、OPECプラス産油国の慎重な原油生産方針の維持等が原油相場を支持する方向で作用するものの、欧米金融機関等の信用不安がさらに広がり続けるようであれば、米国株式相場が下落すること等を通じ原油相場に下方圧力を加える可能性があるため、注意する必要があろう。そのような中、2月5日に実施されたEUによるロシア産石油製品の事実上の購入禁止措置等に伴うロシアから欧州方面等への軽油等石油製品供給の減少に対し、どの程度円滑に供給が再配分されるとともに需給が平準化されるかといったこと等が、原油相場に影響を与えることになろう。
4. 世界液化石油ガス(LPG)市場動向
2020年初頭以降新型コロナウイルス感染が流行したことが世界各国及び地域の個人の外出及び経済に大きな影響を与えた他、2022年においてはロシアのウクライナ侵攻に伴い西側諸国等による対ロシア制裁やロシアによる報復措置等が実施されたこともあり、石油製品等の市場の動きに変化が見られる側面があった。ここでは、新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻実施といった要因によるものを含め、2020年から現在に至るまでの世界の液化石油ガス(LPG:Liquified Petroleum Gas、米国ではエタンも含むとされる(後述)が、ここではLPGは基本的にはプロパン及びブタンを指すものとする)に関する動向につき説明することとしたい。
米国では、2020年の新型コロナウイルス感染流行に伴い世界経済及び石油需要への影響に対する懸念が市場で広がったこともあり、原油相場が下落するとともに石油及び天然ガス探鉱・開発のための掘削装置の稼働数が減少した。それとともに、それまで増加傾向であった米国のシェールオイル及びシェールガスの生産(図16及び17参照)を含め油・ガス田において原油及び天然ガスの生産に随伴して生産される天然ガス液(NGL:Natural Gas Liquids、主成分はエタンに加えプロパン及びブタンと言ったLPG及びガソリン等)の生産がもたつく場面が見られた(図18参照)(因みに2020年から2022年にかけては米国の油・ガス田(もしくは天然ガス処理施設)で生産されるLPGと製油所で生産されるLPGの比率は概ね90:10であった)。しかしながら、2022年のロシアのウクライナへの侵攻実施に伴う世界石油供給上の混乱と石油需給の引き締まりの可能性を巡る市場での不安感の増大により、同年3月8日には原油価格の終値が1バレル当たり123.70ドルと2008年8月1日(この時は同125.10ドル)以来の高水準に到達した他、7月20日に至るまで原油価格は軒並み同100ドルを超過する状態となった。このようなこともあり、米国では掘削装置稼働数が回復するとともに、油・ガス田(もしく天然ガス処理施設)においてLPG生産が加速することとなった。それでも、2022年後半から2023年3月にかけては原油価格が概ね下落傾向となったこともあり、掘削装置稼働数が伸び悩み気味になるとともに、油・ガス田(もしくは天然ガス処理施設)におけるLPGの生産の伸びも緩やかになっている。なお、近年米国ではテキサス州内陸部におけるLPG生産が、同国のLPG生産全体を牽引する格好となっている(図19参照)が、これは同州パーミアン盆地におけるシェールオイル等の生産と概ね軌を一にしているものと推察される。
他方、米国では、LPGと同様シェールガスやシェールオイルの生産に伴いLPGと同様に随伴で生産されるエタンの生産も好調であったが、米国外諸国及び地域におけるエタン需要は中国やインド等(エチレン等の石油化学製品製造のためとされる)に限られた他、米国からのエタン輸出規模も2022年全体で日量45万バレルと低水準であった。これは、タンカーによるエタンの米国外への輸送がLPGに比べ容易ではないことが一因であるものと考えられる。このように特に従来から米国外のエタン需要が不十分であったことが一因となり、米国におけるエタン価格はLPG価格に比べ抑制される形となっていた(2022年の米国エタンスポット価格は1バレル当たり20ドル程度であったものと推定されるのに対し同年の同国プロパンスポット価格は同45ドル程度であった)こともあり、米国においてエタン分解装置の建設が近年進む(表2参照)とともに、エタンは同国内でエチレン等の石油化学製品製造のために投入されており、需要も延びつつある(図20参照)。他方、石油化学部門においてLPGは中国等に比べ人件費を要する等競争力を確保しにくかったこともあり、LPGの利用が促進されず(このようなこともあり、米国においては、例えばプロパン脱水素化装置(PDH: Propane Dehydrogenation)の建設はそれほど活発化しなかった、表3参照)、むしろLPGはタンカーによる輸送が比較的容易である他、米国国外の方が国内に比べ相対的に高価で販売が可能であった(図21参照)こともあり、米国産LPGは輸出に活路を見出すこととなり、当該輸出は増加傾向を示した(図22参照)。輸出先は欧州及び日本、韓国及び中国等のアジアである(図23参照)。また、民生部門での暖房用途等においては、米国ではLPGもそれなりに消費されているものの、同国では相対的に価格が低水準である天然ガスの利用がむしろ主流であった。このような要因が、LPG需要を抑制することとなり、近年当該需要はほぼ横這いで推移した(なお、米国のLPG需要は主に暖房のための民生向けと石油化学製品製造のための原料向けがほぼ同水準であると推定される他、天然ガスに比べれば限定的ではあるものの、それなりの量のLPGが暖房のために消費されることもあり、同国のLPG需要は冬場の暖房シーズンに盛り上がる一方夏場は低迷する)。
他方、欧州においては、暖房のための民生用、石油化学製品製造のための原料用に加え、特にトルコ、ポーランド、イタリアを中心として自動車向けにLPGが利用されている。ただ、2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大に伴う個人の外出規制の強化による往来の低迷、及び新型コロナウイルス感染流行に加えロシアのウクライナ侵攻実施に伴うエネルギー価格の上昇を一因とする経済減速、そして2022~23年は特に冬場が温暖に推移したこと等により、欧州におけるLPG需要はもたつき気味となった(図24参照)。ただ、LPG以上に高騰した(そして足元では価格が落ち着いているものの今後再び上昇傾向にならないとも限らない)天然ガスの代替としてLPGが着目される可能性があると見る向きもある。なお、欧州は米国、アルジェリア及びロシアから主にLPGを輸入している(図25参照)が、ロシアからの輸入量は2021年時点においても日量10万バレルにとどまっていたこともあり、ロシアのウクライナへの侵攻実施に伴う西側諸国等による対ロシア制裁とロシアによる報復措置の実施に伴う欧州のLPG供給への影響は限定的であった。
インドにおいては、同国のモディ首相が2016年5月1日より貧困層の家庭でのLPG普及活動を実施したこともあり、同国のLPG需要が相当程度伸びた時期が見られたが、そのような動きが一巡したこともあり、LPG需要は伸び悩み気味となった(図26参照)。なお、インドは米国からも若干量のLPGを輸入しているが、むしろ輸送距離の短いサウジアラビア、クウェート、UAE、カタール及びオマーンといった中東諸国からの輸入が主流であるものと推測される。
日本、韓国及び中国と言った北東アジア諸国においては、2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済減速が一因となりLPG需要が低迷した(図27参照)。2021年には、新型コロナウイルスワクチン接種普及の拡大により経済が回復する兆候を見せるとともにLPG需要も多少は回復したものの、特に中国では、2022年に新型コロナウイルス感染が拡大したこともあり、厳格な新型コロナウイルス抑制策の実施に伴い都市封鎖措置を含む個人の外出規制及び経済活動の制限を強化した結果、物流部門等の活動に支障が発生したことにより、LPGの配送が影響を受けたことから、民生部門におけるLPG需要が下振れしたと指摘する向きもある。また、中国経済が減速するとともに石油化学製品の需要が低迷したため、同国ではPDHの建設が進む(表4参照)とともにプロピレン生産能力が拡大しつつあったものの、それら施設の稼働が低迷するとともに、原料となるLPGの需要が抑制される場面が見られた(図28参照)。なお、米国と中国の貿易紛争の影響で中国が2018年8月23日に米国産LPGに対し25%の関税を賦課する措置を発動(同年8月8日に中国商務省が発表)したことから、2019年2月以降米国からの中国向けLPG輸出が低迷した反面、中国は米国の代わりにサウジアラビア、クウェート、UAE、カタール、オマーンといった中東諸国等からLPGを輸入するようになった。しかしながら、その後米国と中国との間で貿易条件につき協議が進められ、2019年12月13日には第1段階の合意を発表、2020年3月2日を以てLPGに賦課されていた関税を撤廃した(2020年2月19日発表)ことにより、2020年3月以降中国の米国からのLPG輸入は本格的に再開している。そして、北東アジア(日本、韓国及び中国)にとって米国はLPG供給の主要部分を占める状態となっている(図29参照)。
そして、このように特に北東アジア市場においてかつて主流であった中東産LPGに代わり、米国産LPGが大量に流入してきたことにより、同市場におけるLPG価格に対する米国のスポットLPG価格の影響力は強まったままとなっており、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが毎月設定する契約価格(CP:Contract Price)は米国スポットLPG価格からそう乖離しない水準で推移している(もっとも厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の事実上の撤廃に伴う中国経済回復によるLPG需要増加の兆候もあり、暖房用需要が後退し始めるため通常前月比で引き下げるところの2月積みLPGのCPを前月比で引き上げる旨サウジアラムコが需要家に通知したと1月31日に伝えられている)。
以上
(この報告は2023年3月20日時点のものです)