ページ番号1009683 更新日 令和5年5月9日

CERAWeek2023報告 ―トランジションに向けた新たな方向性を模索するエネルギー業界―

レポート属性
レポートID 1009683
作成日 2023-03-29 00:00:00 +0900
更新日 2023-05-09 15:33:11 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場CCS
著者 鑓田 真崇
著者直接入力
年度 2022
Vol
No
ページ数 10
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2023/03/29 鑓田 真崇
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概要

  1. 第41回となるCERAWeek 2023は3月6日から10日にかけて米国ヒューストンで開催された。今回は「Navigating a Turbulent World: Energy, Climate and Security」をテーマに、安定的なエネルギー供給と低炭素・脱炭素化社会の実現、地政学とエネルギー市場、技術革新、ファイナンスなどの観点から、複数のプレナリーセッションやパネル形式の対話が実施された。背景としては、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰とエネルギー安全保障の重要性、エネルギートランジションや環境負荷低減・ネットゼロ達成に向けた社会的要請が急速に高まっていることが挙げられる。
  2. 昨年2月下旬からのロシアによるウクライナ侵攻をふまえた「Energy security」や地政学的論点を取り扱ったセッションが引き続き多かったことに加え、今後人口増加が見込まれ、エネルギー需要が増える新興国を中心に、手ごろな価格でエネルギーを供給するという「Energy affordability」への関心が高かった。そうしたなか、「Decarbonization」を追求するのは世界共通の認識であるが、各国・地域の経済状況やエネルギー賦存状況は異なるため、各国のエネルギー事情を考慮した方法で取り組むべきであるという認識が拡大し、アジア、アフリカを対象としたセッションも多くみられた。
  3. 脱炭素化に向けた議論は、化石燃料とCCSを組み合わせたブルー水素の取り組みや、水素に比べて輸送面でのメリットがあるアンモニア、再生可能エネルギーを利用した合成燃料製造など、既存のインフラを活用したエネルギー源に対する期待の高まりがみられ、2050年カーボンニュートラルに向けて、如何に事業化していくのかという「Realization」に関する発言も多かった。また、天然ガス及びLNGは、トランジションエネルギーとして引き続き重要であるとの共通認識がみられた。
  4. こうしたCERAWeekで発信されたメッセージと同様に、世界最大の投資会社であるBlackRockのLarry Fink CEOが公開した投資家向け書簡において、低炭素社会への移行は、「秩序立てた脱炭素化(orderly decarbonization)により、安定していて、信頼でき、手ごろな価格のエネルギーニーズに対するバランス」を取ることが重要であり、「様々な国と産業において、低炭素社会への移行は異なるペースで進捗し、世界のエネルギー需要を満たすために、排出削減策を講じた上で石油・天然ガスは重要な役割を担う」と指摘している。
  5. 2023年はCOP28が新興国・エネルギー生産国であるUAEで行われることで、エネルギー・気候変動問題の議論の重心が、先進国から新興国や途上国に移り変わり、今後も人口増加とそれに伴うエネルギー需要増加に直面するこれらの国々が、「Energy affordability」の重要性を強く主張することになるだろう。よって、「エネルギートリレンマ」を巡る議論の方向性もまた、それを反映し移り変わることになるとみられることから、今後もエネルギー業界の投資動向に注目したい。

 

1. CERAWeek 2023概要

本稿の読者の多くは、エネルギー業界に関連する方々であることが想像され、CERAWeek(セラウィーク)の概要について改めて説明する必要はないと考えられるが、より幅広い読者を想定し、その位置づけや開催の経緯などについて簡単に記すことにする。

CERAは、世界的なエネルギー問題の権威として知られるDaniel Yergin氏及びJames Rosenfield氏が、1983年に設立した研究・コンサルティング団体であるCambridge Energy Research Associates(CERA)の略称である。同団体の設立以来、エネルギー業界に関する意見交換や同業者のネットワーキングの場としてCERAのクライアントが米国ヒューストンに集まり、数日間の会議が開催されていた。年々その規模は拡大し、国際企業の役員や政府関係機関、アカデミア、技術者など幅広い参加者が登壇し、エネルギー市場、地政学や技術などをテーマに、意見を交わす国際会議の場として5日間にわたるCERAWeekが開催されるようになり、エネルギー業界最大規模のプラットフォームへと成長した。2017年には、エネルギー産業の新たな道筋を作る新興技術に特化し、技術者、投資家、思想的指導者(thought leader)、政府関係者などの対話の機会を提供するAgoraも併設し、盛況を博している[1]。昨年よりS&P Globalが主催者となり、第41回となるCERAWeek 2023は8,000人近い参加者、1,000人を超える登壇者が集う規模となったが、共同議長を務めるRosenfield氏によれば、初回CERAWeekの参加者は50人程度とのことであった。これだけ多くの耳目を集める会議は、さながらエネルギー業界の「ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)」とも形容でき、世界の経済活動・社会活動の根幹を担いつつ、気候変動問題への対応も求められるエネルギー業界の英知を結集する場として広く浸透している。

今回のCERAWeek 2023は3月6日から10日にかけて米国ヒューストンで開催された。今回は「Navigating a Turbulent World: Energy, Climate and Security」をテーマに、安定的なエネルギー供給と低炭素・脱炭素化社会の実現、地政学とエネルギー市場、技術革新、ファイナンスなどの観点から、複数のプレナリーセッションやパネル形式の対話が実施された。背景としては、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰とエネルギー安全保障の重要性、エネルギートランジションや環境負荷低減・ネットゼロ達成に向けた社会的要請が急速に高まっていることが挙げられる。次項では、現在の世界エネルギー情勢が直面する「エネルギートリレンマ」の概念を捉えつつ、CERAWeek 2023における個別のセッションにおける発言概要などを紹介する。

 

2. エネルギーを巡る議論の3軸とCERAWeek 2023におけるメッセージ

(1) 「エネルギートリレンマ」のなかで揺れ動く世界

「エネルギートリレンマ」という概念が人口に膾炙するようになり久しいが、エネルギーを取り巻く3つの要素である「Energy affordability(エネルギーが手ごろな価格であること)」、「Energy security(適切な量のエネルギーが安定して供給されること)」、「Decarbonization(脱炭素化)」のなかで揺れ動く世界を理解することが重要である。

まず、「エネルギートリレンマ」とはなにか。エネルギーは様々なものに形を変え、今日の社会を支えている。これを手ごろな価格で安定的に、かつ気候変動問題にも配慮しつつ利用する必要があり、これらのバランスを取ることが重要である。これを詳細に分析・解説することは本稿の趣旨から外れるため割愛するが、「エネルギートリレンマ」は次の3つの概念から構成される。「Energy affordability」は、人々が必要とするエネルギー(輸送用燃料としての需要のほか、暖房、冷房、その他のエネルギーサービスを含む)を、他の基本的ニーズを充足するための能力を制約することなく満たすことである。また、「Energy security」は、社会活動を支えるために常に適切な量のエネルギーが供給され、地政学的要因や自然災害に対してもそれが安定していることである。これに加え、気候変動問題への対応から、現在のエネルギーシステムの大宗を占める石油・天然ガス・石炭などの化石燃料の利用に際しては、将来における供給や気候に対する負の影響(気候変動による災害の増加など)をはじめ、将来世代の不利益にならないようにエネルギーサービスが提供され消費されることが重要であり、「Decarbonization」(あるいはSustainability)の観点も併せて、「エネルギートリレンマ」を構成する[2]

図 1は、「エネルギートリレンマ」を構成する概念を図示したものである。3つの概念をすべて包含し、手ごろで安定的で気候変動問題にも配慮したエネルギーを供給することが、持続可能なエネルギー政策であり、これを目指すことが重要であるとの認識が世界全体で形成されつつある。図においては、便宜上3つの概念を同面積の円として描き、それぞれの重複する面積も等しくなるように図示しているが、国の経済状況によっては「Energy affordability」の面積は大きく縮小することも想定されるほか、「Energy security」を追求し国産エネルギー資源の開発を再生可能エネルギーに求めることで「Decarbonization」との重複面積が大きくなることも想定される。要するに、この概念図は様々な内部・外部要因や時間軸とともにその形が変わるものであり、かつ、国や地域により状況が大きく異なる点が持続可能なエネルギー政策の実現を難しくしているのである。

図 1:エネルギートリレンマと持続可能なエネルギー政策への道筋(概念図)
図 1:エネルギートリレンマと持続可能なエネルギー政策への道筋(概念図)
出所:Equinor 2022 Energy Perspectivesを基にJOGMEC改編

2015年12月にフランスのパリで開催されたCOP21において、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして「パリ協定」が採択された。これは、1997年12月に京都で開催されたCOP3において採択された2020年までの枠組みである「京都議定書」に代わるものであり、歴史上はじめてすべての国が温室効果ガス排出削減等の気候変動の取り組みに参加する枠組みとなった点で画期的である。そして、2021年に英国のグラスゴーで開催されたCOP26では、今世紀末までの気温上昇を1.5度に抑える努力目標追求の決意を確認しつつ、今世紀半ばのカーボンニュートラル及びその経過点である2030年に向けて野心的な気候変動対策を締約国に求めることに合意。こうした流れから、気候変動対策の観点からエネルギーの脱炭素化を目指すことが各国の野心的目標となり、エネルギー開発企業も自社の操業や自社製品からの炭素排出を相殺し、ネットゼロの達成を目指した事業計画を策定することとなった。

国際エネルギー情勢を取り巻く環境が大きく変化したのは、2022年2月。ロシアがウクライナを侵攻したことにより、エネルギーの供給に物理的な障害が発生するのではないかとの懸念が発生し、エネルギーの安定供給が注目された。加えて、国際社会がロシアに対して経済制裁や同国産石油に対して禁輸や価格上限設定を行うことにより、同国からのエネルギー供給が制約を受けるとの懸念が市場で拡大したほか、特にこれまで安価なロシア産パイプラインガスに依存してきた欧州が、他に供給源を求め、LNG市場からの調達を加速させたことにより、エネルギー価格が高騰した。こうして、前述のCOP26によって脱炭素化の機運が高まっていた2021年から、エネルギーセキュリティに大きく舵を切ったのが2022年であった。

 

(2) CERAWeek 2023における議論

前項で概観したように、脱炭素化に向けた機運の高まりからエネルギーセキュリティに議論の重心が大きく移り変わってきているなか、今年のCERAWeek 2023における議論はどのようなものであったか、その概要を紹介したい。図 2は、Executive ConferenceにおけるAgendaから755語を抽出し、その出現頻度と関連性を示している。単語の色は品詞の種類で異なっており、青色が名詞、赤色が動詞、緑色が形容詞である。これによれば、引き続きエネルギートランジション(transition)を追求する方向性は変わらず、これを加速する(accelerate)必要があるなか、エネルギーセキュリティ(security, secure)と持続可能性(sustainability)の均衡(balance)を取り、新たな道筋(pathway)を進んでいく(navigate)エネルギー業界を俯瞰する多くのセッションが実施されたことがわかる。

図 2:CERAWeek 2023 Executive Conference Agenda頻出語と関連性
図 2:CERAWeek 2023 Executive Conference Agenda頻出語と関連性
出所:ユーザーローカルAIテキストマイニングツールを用いJOGMEC作成

上述のテキストマイニングの結果に加え、今年のCERAWeek 2023における議論を総括すれば、以下のとおりである。

  • 昨年2月下旬からのロシアによるウクライナ侵攻をふまえた「Energy security」や地政学的論点、ウクライナ侵攻の石油・ガス市場への影響等を取り扱ったセッションが引き続き多かった。
  • 今後人口増加が見込まれ、エネルギー需要が増える新興国を中心に、手ごろな価格でエネルギーを供給するという「Energy affordability」への関心が高かった。
  • そうしたなか、「Decarbonization」を追求するのは世界共通の認識であるが、各国・地域の経済状況やエネルギー賦存状況は異なるため、各国のエネルギー事情を考慮した方法で取り組むべきであるという認識が拡大し、アジア、アフリカを対象としたセッションも多くみられた。
  • また、天然ガス及びLNGは、トランジションエネルギーとして引き続き重要である。ガス危機をふまえたサプライチェーン全体の強化や脱炭素化に関する議論が活発に行われた。
  • 脱炭素化に向けた議論は、石油ガス部門でのメタン漏出削減の取り組み、化石燃料とCCSを組み合わせたブルー水素の取り組みや、水素に比べて輸送面でのメリットがあるアンモニア、再生可能エネルギーその他を利用した合成燃料製造など、既存のインフラを活用したエネルギー源に対する期待の高まりがみられ、2050年カーボンニュートラルに向けて、如何に事業化していくのかという「Realization」に関する発言も多かった。

 

(3) 主要セッション概要

本項では主要セッションにおけるメジャー企業CEOや国営企業CEO、政府要人の発言を中心に、主要セッションの概要を紹介する。

Executive Conferenceに登壇したメジャー企業CEOは、今後も人口増加に伴い増大するエネルギー需要に応えるため、石油・天然ガスは引き続き重要とのメッセージを強調。炭素強度低下のための対策を実施した上で、安定供給を継続する構えを示した。過去数年にわたり、再生可能エネルギーや低炭素投資に注力してきたメジャー企業が、石油・天然ガスに対する投資と生産継続の重要性を示しているのは、直近の決算と事業方針の発表でも明らかである[3]

  • 石油・天然ガスといった伝統的なエネルギーについて、CCSを利用し排出削減策を講じ利用を継続する。併せて、再生可能エネルギーや地熱、バイオ燃料などの新しいエネルギーを導入する。〈Mike Wirth, CEO, Chevron〉
  • 世界の人口が増加するなかで更なるエネルギーが必要となる。特に新興国にとって天然ガスは重要でありLNG事業に引き続き注力する。エネルギーの安定供給とトランジションの両立が重要であり、太陽光、風力、ガス火力、バッテリー等の統合化した電力事業にも取り組んでいく。〈Patrick Pouyanné, CEO, TotalEnergies〉
  • 石油・天然ガスの役割は今後も重要であり変わらない。実際に欧州の冬のエネルギー危機を救ったのはLNGであった。スコープ1、2におけるGHG排出ゼロ達成に向けてCCS等を推進するほか、既存の老朽設備の閉鎖などを着実に進めていく。〈Wael Sawan, CEO, Shell〉

このほか、注目度の高いセッションとしては、米国エネルギー省やCOP28議長国であるアラブ首長国連邦から脱炭素化に向けた積極的かつ具体的な方針が示され、立ち見が出るほど活況を呈した。国営企業のなかでは特にマレーシアPetronasの登壇が多く、脱炭素化を推進していく姿勢が目立った。

  • エネルギートランジションに必要な主要技術であるクリーン水素、先進原子力、炭素管理、長期貯蔵の大規模展開を阻む技術、商業、規制上の障壁はなにかを明らかにすることを目的に、「Pathways to Commercial Liftoff」を開始する。産業界の脱炭素化プロジェクトに60億ドルの資金提供を行う。〈Hon. Jennifer M. Granholm, Secretary of Energy, United States Department of Energy〉
  • 石油ガス事業では操業を電化し、CCS設備を設置し、利用可能なあらゆる技術を駆使して全体の効率化を図り、ネットゼロを目指す。COP28においては、合意形成と対話のスペースを形成し、「結果主導、行動志向(Results driven and action oriented)」を追求する。〈H.E. Dr. Sultan Ahmed Al Jaber, COP28 President-Designate, United Arab Emirates Minister of Industry and Advanced Technology, Chairman of Masdar Group CEO & Managing Director of ADNOC〉
  • (特にアジアにおける)カーボンプライシングに関する課題、二酸化炭素の輸送や処理の方法に関する課題については、各国協力して対処する必要がある。各国が課題をオープンに議論するプラットフォームを創設する。〈Tengku Muhammad Taufik, President & Group CEO, PETRONAS〉

また、石油輸出国機構(OPEC)の事務局長は、S&P GlobalのSenior Vice PresidentであるCarlos Pascual氏と対談し、世界のエネルギー供給の安定化を担うOPECの基本原則を示し、今後も増加するエネルギー需要に対して責任ある供給を継続する方針を説明した。また同氏は、OPECへの環境部門の新設を公表し、持続可能性を追求しつつもすべての人々へのエネルギーへのアクセスを確保していくことを主張した。

  • 世界的なエネルギー危機に直面し、石油市場の安定、変動の抑制(less volatility)という1960年のOPEC創設に遡る基本的な原則に立ち返る。化石燃料埋蔵量の維持、環境に配慮した生産量の最大化が重要。人口増加とこれに伴う需要増加に対して、OPECはグローバルサウスに対する責任ある供給を継続する。エネルギートランジションの過程における問題は温室効果ガスの排出削減であり、(再生可能エネルギーに偏ることなく)すべてのエネルギー源の利用が検討されるべき。唯一のエネルギートランジションの道は存在しない。〈H.E. Haitham Al Ghais, Secretary General, OPEC〉

さらに、Pascual氏がモデレーターを務めたアジアにおけるエネルギーセキュリティとエネルギートランジションのバランスを問う閣僚級セッションでは、経済産業省資源エネルギー庁長官のほか、インドネシアエネルギー・鉱物資源省大臣及びシンガポール貿易産業大臣が、各国の状況に鑑みた見解を披露した。

  • エネルギートリレンマには実利的(pragmatic)に取り組まなければいけない。日本はもともと資源がない国で、太陽光発電や風力発電に適した土地も限られる。脱炭素化に関する事業の技術開発は民間企業のみでは実施できない。政府は2030年までに脱炭素化目標の実現のため20兆円規模の基金を新設する。2021年に経済産業省は「アジア・エネルギートランジション・イニシアティブ(AETI)」を公表した。その取り組みの一つとして、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」会合を3月3日~4日に実施した。アジアにおいて協力のプラットフォームを立ち上げた。各国においてエネルギー事情は違うが、相互に協力しエネルギートリレンマに対応していく。このプラットフォームを使い、今後様々な協力を実施していく予定。どの国も取り残さない。〈Shin Hosaka, Commissioner, Agency for natural Resources and Energy, Ministry of Economy Trade and Industry (METI)〉
  • 脱炭素化に向けた取り組みは天然ガスも含めてバランスが大事。今後需要が見込まれるインドネシア東部では、ディーゼル燃料をLNGに転換していく方針。新しいエネルギー源に対して、減税するなどのインセンティブを付与し普及を促進。技術開発については他国と協力している。特に水素の国際基準や枠組みを先進国と協力して作成している。〈H.E. Arifin Tasrif, Ministry of Energy and Mineral Resources, Indonesia〉
  • 2050年までにゼロエミッションを目指す。バランスが取れたトランジションにしていく。目標達成までの道のりは各国それぞれ違う。トランジションエネルギーの普及にはパートナーシップが重要。太陽光・風力・水力発電などの新しい技術の開発や、地熱発電についても増やしていく。天然ガスはそこにたどり着くまでの重要なトランジションエネルギー。シンガポールは、独自の国家水素戦略を立ち上げた。これをシグナル伝達のメカニズムとして使用すると同時に、低炭素化事業の研究に投資をしていく。同時にテストを行い、商業的な実現可能性を見極めていく。〈Dr. Tan See Leng, Ministry of Trade and Industry (MTI), Singapore〉

 

3. まとめに代えて

世界最大の投資会社であるBlackRockは2012年以降、毎年投資先企業のCEOに向けた書簡(通称「フィンク・レター」)を公開している。これまでの書簡は、同社の投資業界への影響力の大きさを背景に、ESG等に関する活発な議論を喚起してきたといえる。2023年3月15日に公開されたフィンク・レターでは、シリコンバレー銀行の破綻に端を発する金融システムの亀裂は、長年の金融緩和による代償であると述べ、これによる信用不安がドミノのように拡大する可能性を指摘した[4]。本稿において、金融システムの信用不安に関し詳述することは控えるが、同書簡において、「Helping clients navigate and invest in the global energy transition」と題した項目を設け、同社のクライアントが世界的なエネルギートランジションを進め、投資を行うことを支援する旨、記載している。Larry Fink CEOは、気候変動リスクが最大の投資リスクであり、米国カリフォルニア州やフロリダ州、パキスタン、欧州、豪州など、世界中で自然災害として気候変動の影響が誰の目にも見える形で表れていると指摘。低炭素社会への移行は我々の多くのクライアントの最重要事項であり、これに応える形でクライアントの投資目標を達成するよう、資産を管理していくとしている。そのなかで、低炭素社会への移行は、「秩序立てた脱炭素化(orderly decarbonization)により、安定していて、信頼でき、手ごろな価格のエネルギーニーズに対するバランス」を取ることが重要であり、「様々な国と産業において、低炭素社会への移行は異なるペースで進捗し、世界のエネルギー需要を満たすために、排出削減策を講じた上で石油・天然ガスは重要な役割を担う」と指摘している。

2021年に開催されたCOP26を契機に、世界的に石油・天然ガスをはじめとする化石燃料への投資に対する風当たりが非常に強くなり、金融機関が新規の化石燃料投資を停止することを相次いで発表した。そして、2022年のウクライナ危機により、国際エネルギー情勢を取り巻く環境が大きく変化。エネルギー安定供給の重要性を世界が認識し、また、同時多発的にエネルギー価格が高騰することで、特に「グローバルサウス」といわれる新興国・途上国における手ごろな価格でのエネルギー供給を求める声が格段に高まっていることも反映した書簡は、今回のCERAWeek 2023における議論とも方向性が一致するものである。

では、2023年において、「エネルギートリレンマ」を巡る議論の重心はどのように変化し、持続可能なエネルギー政策の実現を目指していくのであろうか。その方向性に影響を与えると考えられるのが、2023年11月から12月にかけて開催されるCOP28である。中東地域での初めての開催となるCOPであり、伝統的には化石燃料である石油・天然ガスの生産国、そして今日においては、再生可能エネルギーの開発、原子力エネルギーの利用を進めるエネルギー生産国としての側面を有するUAEがホストを務める。議長のDr. Sultan Ahmed Al Jaber同国産業・先端技術大臣兼国営石油会社ADNOC CEOはCERAWeek 2023にも登壇し、同氏の発言からは、エネルギー生産国として世界が必要とするエネルギーのニーズに応えつつ、排出削減を通じた気候変動対策への貢献も果たしていくという「責任あるエネルギー生産者(生産国)」像が見て取れる。

エジプトで開催されたCOP27に引き続き、COP28が新興国・エネルギー生産国であるUAEで行われることで、エネルギー・気候変動問題の議論の重心が、先進国から新興国や途上国に移り変わり、今後も人口増加とそれに伴うエネルギー需要増加に直面するこれらの国々が、「Energy affordability」の重要性を強く主張することになるだろう。よって、「エネルギートリレンマ」を巡る議論の方向性もまた、それを反映し移り変わることになるとみられることから、今後もエネルギー業界の投資動向に注目したい。

 

 

[1] CERAWeek by S&P Global, About CERAWeek, https://ceraweek.com/about/index.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます 2023年3月22日閲覧

[2] Equinor, Energy Perspectives 2022, https://www.equinor.com/sustainability/energy-perspectives(外部リンク)新しいウィンドウで開きます 2023年3月22日閲覧

[3] 鑓田真崇, 石油市場動向とメジャー企業決算 ―空前の好決算とエネルギートリレンマへの対応から見る今後の投資動向―, https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009650.html 2023年3月22日閲覧

[4] BlackRock, Larry Fink’s Annual Chairman’s Letter to Investors, https://www.blackrock.com/corporate/investor-relations/larry-fink-annual-chairmans-letter(外部リンク)新しいウィンドウで開きます 2023年3月22日閲覧

 

参考資料

以上

(この報告は2023年3月28日時点のものです)

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