ページ番号1009684 更新日 令和5年3月31日
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概要
オーストラリア連邦政府(労働党政権)は、2016年アボット政権時代に設けられた二酸化炭素(CO2)排出量に制限をかけるセーフガード・メカニズムをグリーンズ(緑の党)の提案を一部取り入れ改定し、3月27日に下院を通過し、3月30日に上院で可決、成立した。効力発生日は2023年7月1日となる。本改定は、アボット政権時代に設けられた規制のハードルが低く実質的に機能しなかったところ、今般Scope 1に区分される年間10万トンのCO2を排出する産業からのCO2排出量を今後年間4.9%の削減を求め、2030年までに2005年比でCO2排出量を43%減らす目的である(当初26~28%削減)。グリーンズが求めていた、新規ガス田や石炭プロジェクト開発停止は求めないものの厳しい規制によって約半分の開発計画が中断乃至廃止されることに追い込まれる可能性がある。以下シドニー事務所よりの報告を基に、改定の影響を見ることにする。
1. セーフガード・メカニズムの改定内容
セーフガード・メカニズム改正案(ベースラインの年毎の低減、セーフガード・メカニズム・クレジットの創設等)の主要点は以下の通り。
- 「Policy Intent(政策意図)」として、Scope 1で年間10万トンのCO2相当量を排出する215社の排出事業者と新規参入者による排出量を2030年までに1.4億トンから1億トンに削減することを明記。約30%が石油ガス上流および下流事業者が対象となる。残りは、鉱業、製造業、輸送業および廃棄物処理業者である。
- セメント、鉄鋼、アルミ産業などの脱炭素移行支援をA$600mからA$1bに引き上げる。
- 脱炭素移行が困難でかつ高付加価値製造業(hard-to-abate, value-added)に対してはセーフガード・メカニズムによる排出上限値の年平均削減率を他産業よりも低い1%に優遇設定。
- 炭素リーケージ防止のための炭素国境調整メカニズムの検討開始、具体的には排出規制の弱い国の製品と競合する企業を支援するため、国境炭素税の導入を検討する。
- 炭素クレジットACCUs(オーストラリア・カーボン・クレジット・ユニット)の使用に制限はなし。ただし、削減量の30%以上をカーボンオフセットに依存している施設は監督機関Clean Energy Regulatorに対して直接的な排出削減ができない理由を説明しなければならない。
- 新規施設のベースライン(排出上限値)は国際的なベストプラクティスを豪州の事情に合わせて設定する。
- LNGバックフィルプロジェクトは「新規プロジェクト」として分類。新規ガス田には国際的なベストプラクティスに基づいたベースラインが設定されるが、低CO2ガス田の存在やCCSの機会を考慮し、このベストプラクティスはゼロと設定。従って、バックフィル含む新規ガス田は操業初日からCO2排出量をゼロにすることが求められる。
- 以上が守られない場合は、罰金が科せられる。
2. 影響を被ることが予想されるガス田開発プロジェクト
上記(7)により生産開始初日より、ゼロCO2排出量を求められているガス田開発は次の通り。
- NT(Northern Territory)準州のBeetaloo Basinの新規シェールガス・プロジェクトは大型で8,000ペタジュール(PJ)の資源量(7 Tcf)あると言われ、現在の豪州東部のガス需要の14年分相当の量が期待されているが、開発が困難になるとの見方がある。一方、Beetaloo Basinのシェールガスに含まれるCO2量は1~3%と少量であり、処理可能もしくはCarbon Creditの購入で成り立つとの見方がある。
- SantosがFIDしたBarossaガス田(埋蔵量4.3Tcf)開発は、現在Darwinまでのパプラインが近くを通るKiwi島の先住民により環境評価が不十分だと裁判所に訴えられ、連邦裁判所はそれを支持したため工事が中断している。NOPSEMA(National Offshore Petroleum Safety and Environmental Management Authority)に環境評価を再提出しなければならない状況であるが、18%もの高濃度のCO2は、一旦、DarwinにてCO2分離回収が行われ、回収されたCO2はパイプラインで同社が東ティモールで進めているBayu-Undan CCS Hubに圧入する予定である。
- ShellのPrelude FLNGのバックフィルとしてのCruxガス田開発は(埋蔵量1.5Tcf, CO2 10.9%)、FID時にShellはFLNGの性質上CO2を大気中に放出し、その代わりCarbon Creditにてバランスを取る計画を立てていた。今後はCCSの導入を検討しなければならないだろう。CCS導入となった場合、どこでCO2の分離回収し圧入するのかにより、Floating LNGとしての利点が失われかねない。
- Pre-FEED段階の未開発のガス田開発プロジェクトでは、多くの場合既にCCS利用を考慮に入れているが、今後、CCSは選択というよりも使用しなければ成り立たなくなる。
- WoodsideがPluto LNG Train 2の供給ガス田として進めている、大型Scarboroughガス田(11.1Tcf)のCO2は1%以下と非常に低い。
- 同社は、North West Shelf LNGのバックアップとして巨大ガス田Browse(14Tcf)の開発を進める計画を有している。同ガス田は、8-12%のCO2を有している。
- INPEXが開発を進めるIchthysガス田の当初埋蔵量は9.5Tcfだったが、2023年1月においても依然埋蔵量は7.7Tcfある。ガス田は、CO2含量が8.5%-18%と豪州の中でも高い。現在、2024年にかけて掘削の第二段を行っている。
- New South Wales州内陸のNarrabri CSG(Coal Seam Gas)プロジェクトは、1Tcfの埋蔵量がある。地域住民及び環境団体から反対運動が起きたが、2020年と2022年に連邦政府と州政府の許認可が下りた。Santosは2023年中にFIDを計画している。
3. グリーンズのコメント、業界の反応他
- セーフガード・メカニズム改定に対してグリーンズは新規ガス/石炭プロジェクトの全面禁止を改定案賛成の条件としていたが、全面禁止自体は取り下げた。ただしバンド党首はこの変更により116ほどある化石燃料プロジェクトのうち半分は停止させることができると言及。メディアが挙げる開発困難が予想されるガスプロジェクトとして、Barossa、Beetaloo、Browse、Scarborough、Crux、Narrabriを例示。各開発に関するコメントは上記の通り。
- 業界団体のAPPEA(Australian Petroleum Production & Exploration Association)は再エネのバックアップとしてのガスの重要性を指摘するとともに、新規投資に対する新たな障壁を作るもので投資環境がさらに悪化する、CCSのような重要技術に対する政府の強力な方向付けが必要となったと指摘。
- 業界リーダーは豪州東海岸のガス不足に対処する方が優先度は高いはずと指摘。これによる東海岸における投資の減退を危惧。INPEXの上田社長も3月29日の業界リーダーの会合に参加すべくキャンベラ入りした。
- 豪州商工会は、企業が手ごろな価格で信頼できるエネルギーにアクセスできるか懸念を持っているとし、エネルギーの安定供給が損なわれないよう企業に保証するよう要請。
- 製造業団体は、炭素国境メカニズムの検討や低い低減率の適用など今回の修正を歓迎。
以上
(この報告は2023年3月31日時点のものです)