ページ番号1009689 更新日 令和5年5月30日

チリの電力市場(2023年現在)

レポート属性
レポートID 1009689
作成日 2023-04-06 00:00:00 +0900
更新日 2023-05-30 13:07:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報水素・アンモニア等
著者
著者直接入力 兵土 大輔 岸 蒼代香
年度 2023
Vol
No
ページ数 35
抽出データ
地域1 中南米
国1 チリ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,チリ
2023/04/06 兵土 大輔 岸 蒼代香
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JOGMECサンチャゴ事務所兵土副所長、岸職員が2023年3月30日にJOGMEC金属資源情報に寄稿したレポート(https://mric.jogmec.go.jp/reports/mr/20230330/176081/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます)を先方了承のもと掲載する。

 

はじめに

チリは、1982年に電気通信法(General Telecommunications Law 1982、法律第18168号)により電力の民営化・自由化が進められて以降、民間資本により投資が行われてきた。2013年から10年間においては、2014年に南米初となる炭素税を導入し2017年から課税を開始、技術革新による太陽光発電及び風力発電の普及、さらに2040年までにチリ国内の石炭火力発電所を廃止する脱炭素化に向けた政策等、様々な取り組みに並行して電力市場も変化している。また、チリの主要産業である鉱業においては、銅生産における鉱石処理量の増加及び海水利用等により、電力消費量が年々増加傾向にある。世界第1位の産銅国であるチリにとって、持続可能な電力の安定供給は極めて重要と言える。

本稿は、2022年までのチリの電力市場について情報収集を行い取りまとめたものである。

なお、2013年までのチリの電力市場に関する資料については、2014年9月30日付けにて公開された金属資源レポート「チリの電力市場」を参照されたい(https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2014-09/vol44_N3_02.pdf(外部リンク)新しいウィンドウで開きます)。

 

1. チリの電力市場の概要

チリ政府は、パリ協定に基づく「長期気候戦略(Estrategia Climática de Largo Plazo: ECLP)」を発表し、2025年までにチリ国内の石炭火力発電所の65%を廃止、2040年までに同発電所を全て廃止する目標を設定した。その代替として、2030年までに電力構成全体の80%を再生可能エネルギー(再エネ)由来にする方針とし、再エネの普及促進を行っている。また、2021年11月24日に開催された上院鉱業エネルギー委員会では、2030年以降再エネを利用する発電所のみ運転を認める法案が承認された。このように脱炭素化に向け政策を講じる一方で、一部の専門家からは、石炭火力発電所等の廃止により電力を安定供給できるのか懸念の声が上がっている。チリの電力市場及びエネルギー構成は、今後数年間で目まぐるしく変化することが予測される。

チリは2010年以降、10年以上にわたり深刻な干ばつに直面し水不足に陥っている。鉱業も水不足の影響を受けており、近年では多くの銅鉱山会社が大陸水から海水利用に切り替える傾向にあり、海水淡水化プロジェクトが増加している。Cochilco[1]によると、2020年の銅鉱山における大陸水と海水の利用比率が70:30であったことに対し、2032年には32:68とほぼ逆転すると予測されている。海水淡水化に関する電力消費量は、2021年が1.5TWh(銅鉱業全体の6%)に対し、2032年には4.5TWh(同13%)へ増加することが予測されている。

チリは、電力消費量の増加予測に対し、主要エネルギーである石炭火力発電所(電力構成のうち20%を占める[2])の廃止を受け、将来の電力需給バランス、価格変動、またエネルギートランジションで直面する課題等に注目が集まる。

 

2. チリの電力市場

2-1. チリの電力システム

現在、チリには5系統の電力供給システムが存在している(図1)。

図1.チリの電力供給システム
図1. チリの電力供給システム

全国供給システム(Sistema Eléctrico Nacional: SEN)

SENは、相互接続されたシステムであり、その設備容量は2021年12月の時点で国内総出力の98%に相当する30,862MWに及ぶ。その他のシステムは比較的小規模であり、SENとは相互接続されていない単一のシステムになっている。

2019年に北部供給システム(Sistema Interconectado del Norte Grande: SING)と中央供給システム(Sistema Interconectado Central: SIC)の2つの独立した系統が統合しSENとなった。SICは当時Atacama州からLos Lagos州までをカバーし、1940~1950年代に国営ENDESA Chile(現:Enel Generacion Chile)社により整備され、運営は1985年設立の中央相互接続システム給電指令所(CDEC-SIC)により行われた。

一方、SINGは、Arica y Parinacota州からAntofagasta州までの北部地方を網羅し、運営は1993年より大北部給電指令所(CDEC-SING)が担った。

SICとSINGの統合プロジェクトは2017年11月に始まり、第一段階としてLos Changos変電所とNueva Cardones変電所間の交流500kVの2導体送電で行われ、相互接続とその結果としてのSENの設立は2019年5月29日に実現し、Nueva Cardones変電所とPolpaico変電所を結ぶ交流500kVの2導体送電の操業が開始された。SENの運用は、Coordinador Eléctrico Nacional(全国電力調整協会:CEN)により行われている。

Los Lagosシステム(Sistema de Los Lagos)

Los Lagosシステムは、Sociedad Austral de Generación y Energía社(SAGESA)とEnergía de la Patagonia y Aysén 社(EPA)が保有しており、ディーゼル発電16MW、風力発電1MWの計17MWからなる。

アイセンシステム(Sistema de Aysén: SEA)

SEAは、Empresa Eléctrica de Aysén社(EDELAYSEN)が保有しており、電力構成はディーゼル発電40MW、水力発電(流れ込み式)23MW、風力発電3MWの計66MWからなる。

Magallanesシステム(Sistema de Magallanes: SEM)

SEMの所有者はEmpresa Eléctrica de Magallanes 社(EDELMAG)で、その電力構成は天然ガス発電97MW、ディーゼル発電16MW、水力発電(流れ込み式)23MW、風力発電3MWの計139MWからなる。

イースター島システム(Sistema de Isla de Pascua)

イースター島システムは、Empresa Sociedad Agrícola y Servicios Isla de Pascua社(SASIPA SPA)が保有しており、発電容量はディーゼル発電による8MWからなる[3]

なお、SEA、SEM、Los Lagosシステム及びイースター島システムの4系統は、いずれも小規模かつ僻地にあり、供給範囲もチリ全人口の1.5%に過ぎないため、本稿ではSENに焦点を当てて言及する。

 

2-2. SENにおける発電設備容量の発展

SENはArica y Parinacota地域(北部)からLos Lagos地域(南部)までに及ぶ範囲を網羅する発電、送電及び配電設備を有している(Chiloé島を含む)。南北3,100kmに亘るエリア内に36,647kmの送電及び配電線が走り、30,862MWの発電設備容量、人口にして約97%(2022年3月時点)をカバーする供給量を保有する[4]。SENにおける電力構成は火力発電(石炭、ガス、石油)が43.4%と大半を占め、再エネ(太陽光、風力、地熱)が31.9%、水力発電が23%を占める(表1)。

表1.SENにおける電力構成[5]
発電種類 発電容量(MW) 発電容量の割合(%)
水力発電 7,112.9 23.0
再エネ(太陽光、風力、地熱) 9,812.2 31.9
火力発電(石炭、ガス、石油) 13,401 43.4
その他 535.8 1.7
合計 30,861.9 100

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

 

2013~2022年にかけての設備容量は、太陽光発電及び風力発電等の伸びにより再エネの設備容量が増加していることがわかる(図2)。2013年と2022年の電力構成別に設備容量を比較すると、2013年に対し2022年の設備容量が11,601.9MW増加、そのうち再エネが50.8%(太陽光28.6%、風力22.2%)となっている(表2)。

図2.2013~2022年における設備容量の推移
図2. 2013~2022年における設備容量の推移
出典:CEN
表2.2013年と2022年における設備容量の比較
電源別 設備容量(MW) 設備容量増加量
(MW)
電力量増加比率
(%)
2013 2022
水力発電 6,383.6 7,112.9 729.3 6.3
石油火力発電 735.3 3,305.9 2,570.6 22.2
石炭火力発電 2,852.5 5,064.4 2,212.0 19.1
ガス火力発電 4,086.1 5,030.7 944.6 8.1
風力発電 222.1 3,536.4 3,314.3 28.6
太陽光発電 4,516.7 6,197.9 1,681.2 14.5
地熱発電 463.8 77.9 -385.9 -3.3
その他 0 535.8 535.8 4.6
合計 19,260.1

30,862.0

11,601.9 100

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

 

SENにおける2021年の各発電総量は81,492GWhであり、太陽光発電と風力発電はそれぞれ13%と9%を占める(図3)。太陽光発電及び風力発電が主に北部に集中しており、Arica y Parinacota州からCoquimbo州にかけて太陽光発電が77%及び風力発電が65%の割合を占める(図4)。

図3.SENにおける発電別の割合
図3. SENにおける発電別の割合
出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成
表3.NCRE設備容量(MW)
  太陽光発電 風力発電
1 Arica y Parinacota 8 0
2 Tarapacá 416 0
3 Antofagasta 1,687 795
4 Atacama 1,394 931
5 Coquimbo 303 689
6 Valparaíso 220 0
7 Metropolitana 422 0
8 O'Higgins 264 67
9 Maule 189 0
10 Bío Bío 26 361
11 La Araucanía 0 644
12 Los Lagos 0 228
  Total 4,929 3,715
図4.SENの非在来型再エネ(NCRE)の地理的分布
図4. SENの非在来型再エネ(NCRE)の地理的分布
出典:国家エネルギー委員会(CNE)の情報を基にJOGMECにて作成

2-3. エネルギーマトリックスの推移

チリの電力生産は、歴史的に水力発電と輸入された化石燃料による火力発電に依存してきた。化石燃料による火力発電は電力構成の70%を占めており、特に石炭火力発電は温室効果ガス(GHG)排出原因の約8割に相当した。石炭火力発電の設備容量は、2019年に5,637MWであった。同発電設備のうち85%が主に銅等の鉱業で電力消費の多いTarapacá州からValparaíso州にかけての北部に存在する(図5)。2019年以降は、目下進行中の脱炭素計画の結果として石炭火力発電の設備容量は著しい減少傾向にある。

表4. 石炭火力発電所一覧
地域 ユニット 容量(MW) 事業者 州別割合(%)
Tarapacá Patache Tarapacá 158 ENEL 2.8
Antofagasta Tocopilla U12 85 Engie 51.4
U13 86 Engie
U14 136 Engie
U15 132 Engie
NTO1 142 Engie
NTO2 141 Engie
Mejillones CTM1 162 Engie
CTM2 172 Engie
CTA 177 Engie
CTH 178 Engie
ANG1 277 AES
ANG2 281 AES
CHRN1 275 AES
CHRN2 275 AES
EM1 377 Engie
Atacama Huasco Guacolda1 154 AES 15.6
Guacolda2 145 AES
Guacolda3 154 AES
Guacolda4 154 AES
Guacolda5 270 AES
Valparaíso Puchuncavi Ventanas1 114 AES 15.2
Ventanas2 298 AES
Nueva Ventanas 267 AES
Campiche 270 AES
Bio bío Coronel Bocamina1 130 ENEL 15.0
Bocamina2 348 ENEL
Santa María 370 Colbón
    Total 5,637   100
図5.石炭火力発電所割合分布図
図5. 石炭火力発電所割合分布図

出典:チリ・エネルギー省、inodu社の情報を基にJOGMECにて作成[6]

 

チリは2030年までにGDPあたりのCO2排出量を30%削減することをパリ協定で約束しており、政府・業界間の合意のもと石炭火力発電の廃止・転換計画を策定するためのプロセスが開始された。その結果、次のように石炭火力発電による発電ユニットがSENから廃止された。また将来的に石炭火力発電の廃止・転換計画が順次進められる予定である(表5)。なお、現在SENが有する石炭火力発電の設備容量を表6に示す。

 

石炭火力発電の廃止・転換

  • 2019年、Engie社は、Tocopillaにある石炭火力発電所の12号機及び13号機(計171MW)をSENから切り離し、またMejillonesの3ユニット(計732MW)について2025年までに停止することを発表した。その対象となるInfraestructura Energética Mejillones発電所(377MW)は、天然ガス発電所に、Central Térmica Andina火力発電所(177MW)とCentral Térmica Hornitos火力発電所(178MW)は、それぞれバイオマス発電所となる。
  • ENEL社は、CoronelにあるBocamina I火力発電所とIquique近郊のTarapacá火力発電所(計288MW)を電気供給システムから撤廃した。
  • AES社は、PuchuncaviにあるVentanas I火力発電所(114MW)を停止した。
表5. 脱炭素化に向けた発電ユニットの廃止と転換計画
発電所 日付 廃止・転換
Bocamina2 2022年5月 廃止
Ventanas2 2022年8月 廃止
Tocopilla U14 2022年6月 廃止
Tocopilla U15 2022年6月 廃止
Mejillones1 2024年12月 廃止
Mejillones2 2024年12月 廃止
IEM 2025年12月 GNへ転換
Andina 2025年12月 バイオマス発電所へ転換
Hornitos 2025年12月 バイオマス発電所へ転換
Angamos1 2029年9月 廃止
Angamos2 2029年9月 廃止
Nueva Ventanas 2029年9月 廃止
Campiche 2029年9月 廃止

出典:CNEの情報を基にJOGMECにて作成[7]

表6. 現在の石炭火力発電所の設備容量
地域 ユニット 設備容量(MW) 事業者
Antofagasta Tocopilla U14 136 Engie
U15 132 Engie
NTO1 142 Engie
NTO2 141 Engie
Mejillones CTM1 162 Engie
CTM2 172 Engie
CTA 177 Engie
CTH 178 Engie
ANG1 277 AES
ANG2 281 AES
CHRN1 275 AES
CHEN2 275 AES
EM1 377 Engie
Atacama Huasco Guacolda1 154 AES
Guacolda2 145 AES
Guacolda3 154 AES
Guacolda4 154 AES
Guacolda5 270 AES
Valparaíso Puchuncavi Ventanas2 208 AES
Nueva Ventanas 267 AES
Campiche 270 AES
Bocamina2 348 ENEL
Bio bío Coronel Santa María 370 Colbón
    Total 5,065  

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

チリにおけるエネルギートランジションは、国が誇る豊かな再エネにより促進されており、特に北部及び南部の再エネ生産は世界的にトップクラスである。Antofagasta州の太陽光発電(世界一の日射量)とMagallanes州の風力発電という両地域の圧倒的な再エネポテンシャルにより、歴史的な火力発電依存から脱却しつつある。また、北部は太陽光エネルギーに恵まれているため、集光型太陽光発電(CSP)を電力供給に組み込むことに成功している。Antofagasta州では、210MWの容量を持つCerro Dominador太陽熱複合発電施設が建設され、稼働を開始した。集光型太陽光発電は、溶融塩を利用することで17時間熱を保持できるため、出力100MWの太陽光発電プラントと110MWの太陽熱プラントを組み合わせ、24時間年中無休での発電が可能になっている。また、Antofagasta州には、南米初かつ国内唯一のCerro Pabellón地熱発電所(総発電量81MW)がある。

 

2-4. 送電システムの変換(相互接続、拡張計画)

SENには36,651kmの送電線があり、Transelec社、CGE社、Interchile社が送電線全体の約44%を所有している(表7)。

表7. 2022年SENの事業者別送電線状況
事業者 送電線の長さ(kms) 送電線の比率(%)
Transelec 10,213.6 27.9
CGE 3,886.4 10.6
Interchile 1,964.7 5.4
TEN 1,841.9 5.0
ALFA 1,511.5 4.1
AES 1,232.0 3.4
Chilquinta 900.5 2.5
Enel 878.9 2.4
Eletrans 465.6 1.3
Transchile 416.0 1.1
MLP 367.9 1.0
その他 12,973.0 35.4
Total 36,651.9 100

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

2013年、SINGとSICの送電システムは合計24,167kmで構成されていた。現在、SENの送電線は、2013~2022年の間に12,484km増加、約52%拡張している(表8)。電圧別で見ると220kVの電圧が6,006kmと大きく伸び、それに続き500kVの電線が3,822km拡張している。送電線の事業者に関しては、比較的短い送電線を有する企業(「その他」のグループ)の間で4,634kmと最大の増加が見られた。これは、SENの北部における再エネプラントの大規模な設備開発の結果であり、発電ユニットを電力システムネットワークに接続するために短距離の延線が大幅に増加した結果と考えられる。

表8. 2013~2022年までのSENの事業者別送電線の拡大状況
事業者 送電線の長さ
(kms)
送電線の比率
(%)
その他 4,633.8 37.1
Transelec 2,264.8 18.1
Interchile 1,964.7 15.7
TEN 1,503.4 12.0
CGE 765.7 6.1
ALFA 37.0 4.3
Eletrans 335.8 2.7
Transchile 193.4 1.5
Enel 166.4 1.3
AES 67.3 0.5
Chilquinta 52.5 0.4
Total 12,484.8 100

 

電圧(kV) 送電線の長さ
(kms)
500 3,822.6
345 0.0
220 6,006.0
154 81.7
110 1,178.1
100 0.0
69 109.9
66 1,167.0
44 24.1
33 34.9
23 54.0
13.8 6.6
13.2 0.0
11 0.0
Total 12,484.8

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

発電技術の転換目標を期限までに達成する傍らで、送電プロジェクトの手続きに関する根本的な問題があったために重要な作業が遅延傾向にあった。Interchile社のNueva Cardones変電所とPolpaico変電所間の500kVの送電線が代表的な例であり、地元コミュニティの反対と、建設に行政援助が不十分であったために18か月遅れて操業開始した。この問題に対処するため電気事業法(第20936号)が改正され、国が必要とする主要な送電プロジェクトの建設地区を策定するためにエネルギー省が実施する「対象区域調査(Estudios de Franjas)」等が導入された。法律の改正により、新しい送電線を配置する区域を制定する権限が行政に与えられた。最良の区域を選択するために、エネルギー省は環境、社会、技術及び経済的側面を考慮に入れた調査を実施する必要がある。この調査で得られた情報に基づき、エネルギー省は持続可能な閣僚委員会による承認を受けた一区域を推奨する。さらに、「CNEによる策定」、「エネルギー省による拡張計画に関する発令」、「CENによる送電網工事の入札」、という3つのプロセスに展開された。

500kVの送電設備が大きく拡大した理由は、主にSINGとSICの相互接続の結果、2017年末にSENが始動したことによる。この相互接続は、Transmisora Eléctrica del Norte(TEN)社により建設されたが、その所有構造はEngie Energía Chile社(Engie社の子会社)とRed Eléctrica Chile社(Red Eléctrica Internacional社の子会社)間で均等に二分されている。回線あたり1,500MWの容量の交流500kVの2導体送電線で構成され、投資額は860mUS$に上る。送電は全長600kmで、Mejillones(Antofagasta州)にあるLos Changos変電所とCopiapó(Atacama州)のNueva Cardones変電所を繋ぐ(図6)。

図6.SINGとSICの相互接続概略図(Los changos及びPolaico変電所 / 500kV)
図6. SINGとSICの相互接続概略図(Los changos及びPolaico変電所 / 500kV)
出典:CEN

このようにインフラ投資が進んでいる中、北部における再エネの普及拡大と更なる発展可能性により、チリ中部の多大な電力消費を賄うため送電容量をさらに高める必要が出てくる。そのため、2021年に入札にかけられたKimal変電所及びLo Aguirre変電所間を結ぶ2030年操業開始予定の500kVの送電工事が極めて重要になる(図7)。このプロジェクトでは、Antofagasta州からRegión Metropolitana de Santiago州にかけての高圧直流送電線(HVDC)建設によって北部と中央部間における相互接続が強化され、電線は約2,000kmにわたり、最低でも2,000MWの容量、500kVの送電電圧を備えることになる。

図7.Kimal変電所及びLo Aguirre変電所間の相互接続概要
図7. Kimal変電所及びLo Aguirre変電所間の相互接続概要
出典:CNE

2-5. 発電、送電、配電システムの事業者とその主な資本及び構成

SENはArica y Parinacota州からChiloé島までをカバーし、発電、送電、配電の3つの独立した部門で構成される。発電は現行の規制が遵守される場合、参入が自由であるが、送電は規制当局により管理されており、また配電は自然独占の状態にある。

発電は、主にEnel社、AES社、Colbún社、Engie社の4社により行われており、4社が現在の総設備容量の半分を占める(表9)。

送電線は、主にTranselec社、CGE社、Interchile社、TEN社から構成されており、4社が全体の約半分を占める(表10)。また、送電設備を保有する上位11企業は、合計でSEN全体の約65%に相当する23,679kmを有している。

電力販売シェアに関しては、Enel社が30.7%で市場をリードし、続いてAES社が18.6%と続く。Enel社、AES社、Engie社、Colbún社の合計がSENの総売上高の約77%を占めている(表11)。

配電市場は、CGE社、SAESA社、Chilquinta社、Enel社の4社で構成されている(表12)。そのうち、CGEグループはチリの配電市場をリードしている(表13)。

表9. SENにおける発電事業者別設備容量
事業者 電源 Total
水力発電 太陽光
発電
風力発電 石炭火力
発電
ガス火力
発電
石油火力
発電
地熱発電 その他
Enel 3,507 573 552 348 1,793 78 78   6,929
AES 258     2,730 380       3,368
Colbún 1,757     370 980 108     3,215
Engie   109 215 1,616 640 14     2,594
La Confluencia 163               163
Acciona   260             260
Aela     331           331
Sagesa         46       46
Prime Energía Quickstart           491     491
その他 1,427 5,255 2,439   1,191 2,616   536 13,464
Total 7,112 6,197 3,537 5,064 5,030 3,307 78 536 30,861

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

表10. SENにおける事業者の送電設備状況
事業者 電圧(kV) Total
500 345 220 154 110 100 69 66 44 33 23 13.8 13.2 11
Transelec 1,339.0   6,490.2 1,292.5 543.9     513.8     34.2       10,213.6
CGE     22.2 58.7 1,107.1     2,671.8   23.4 3.3       3,886.5
Interchile 1,509.2   455.5                       1,964.7
TEN 1,177.9   295.1   369.0                   1,842.0
ALFA     1,148.0   158.5     140.3 63.9         0.8 1,511.5
AES   408.0 635.1   174.1     14.4     0.3       1,231.9
Chilquinta     70.0   274.8     161.8 393.9           900.5
Enel     295.6   467.7     86.6 29.1           879.0
Eletrans     465.6                       465.6
Transchile     416.0                       416.0
MLP     367.9                       367.9
その他 720.8   6,697.2 75.3 2,893.7 63.9 303.2 1,760.4 69.6 184.5 193.2 11.2 0.1   12,973.1
Total 4,746.9 408.0 17,358.4 1,426.5 5,988.8 63.9 303.2 5,349.1 556.5 207.9 231.0 11.2 0.1 0.8 36,652.3

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

表11. 2021年の電力販売会社
会社 電力販売量(GWh) 電力販売シェア(%)
Enel 23,031 30.7%
AES 13,944 18.6%
Engie 11,571 15.4%
Colbún 9,759 13.0%
Tamakaya 3,409 4.5%
Acciona 1,179 1.6%
その他 12,197 16.2%
Total 75,090 100%

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

表12.配電会社とその設備容量
会社 トランスミッション
(MVA)
送電線距離
(MVA)
Total
(MVA)
割合
(%)
CGE 8,965 9,026 17,991 45.1%
Enel 8,496 5,107 13,603 34.1%
Chilquinta 2,032 2,146 4,178 10.5%
SAESA 2,901 1,254 4,155 10.4%
Total 22,394 17,533 39,927 100%

出典:Empresas Eléctricas AGの情報を基にJOGMECにて作成

表13.配電会社別の売上高
会社 クライアント
(GWh)
販売量
(GWh)
割合
(%)
CGE 2,008,018 16,481 48.7%
Enel 3,066,920 10,876 32.1%
Chilquinta 921,560 3,767 11.1%
SAESA 758,739 2,743 8.1%
Total 6,755,237 33,867 100%

出典:Empresas Eléctricas AGの情報を基にJOGMECにて作成

 

2-6. 電力システムの成長トレンドと拡張計画

現在、SENの電力システムは再エネと従来型エネルギーが混在しており、太陽光発電や風力発電を中心とした再エネによる発電の開発が進んでいる。中長期的な開発計画としては、直流500kVのKimal‐Lo Aguirre間送電線(HVDC)相互接続の事業等が代表的である。同事業により、電力業界と政府間で交わされた脱石炭火力発電に関する合意に従い、チリの電力構造における脱炭素プロセスを具体化させるためのエネルギートランジションが促進されている。

SENは、2022~2024年にかけて稼働予定の発電所建設プロジェクト(合計4,877.4MW)が複数ある(表14)[8]。発電所建設プロジェクトは98.5%が再エネ(太陽光54.8%、風力36.5%、水力7.2%)によるものである。大規模な発電所建設プロジェクトの中でも、Enel社は1,248MWで全体の25.6%を占め、次に電力会社のColbún社が16%でそれに続く。また、Engie社及びAES社のように再エネを用いてチリの電力市場に新たに参入した企業も大きな割合を占めていることがわかる。

表14.発電所建設プロジェクトの発電容量(MW)
会社 発電容量(MW) 発電容量割合(%)
Enel 1,248.0 25.6%
Colbún 778.0 16.0%
Mainstream 721.6 14.8%
Generadora Metropolitana 390.0 8.0%
Engie 279.9 5.7%
Iberolica – Repsol 270.0 5.5%
AES 251.6 5.2%
Statkraft 151.2 3.1%
Eléctrica Puntilla 136.0 2.8%
その他 651.1 13.3%
Total 4,877.4 100%

出典:エネルギー省、チリ政府の情報を基にJOGMECにて作成

表15に送電システムに関する建設中の設備とその稼働予定日を示す。間もなく全国送電システムに組み込まれる建設中の送電線は計993kmに上り、その中でもEletrans社のプロジェクトは計322kmで全体の32.4%を占め、次にREDENOR社が277kmと続く。

表15. 建設中の送電プロジェクト
プロジェクト名 会社 システム 電圧
(KV)
投資額
(mUS$)
送電距離
(km)
操業開始日
Línea de Transmisión Pichirropulli- Tineo Transelec Los Lagos Nacional 500 138.0 142 2022年4月
Línea de Transmisión Lo Aguirre – Alto Melipilla – Rapel ELETRANS Metropolitana Nacional 220 129.0 125 2022年4月
Nueva Línea Nueva Maitencillo – Punta Colorada– Nueva Pan de Azúcar ELETRANS Atacama Nacional 500 106.9 197 2022年4月
Nuevas Líneas 2×220 kV Parinacota – Cóndores REDENOR Tarapacá Nacional 220 101.0 277 2022年4月
Nueva Línea Transmisión 2×220 kV Nueva Pan
de Azúcar-Punta Sierra-Centella
Ferrovial Coquimbo Nacional 220 140.0 252 2022年11月
Nueva Línea 2×66 kV Los Varones – El Avellano Besalco Biobío Zonal 66 0.3 1 2022年8月
Línea de Transmisión Chiloé – Gamboa SAESA Los Lagos Zonal 220 41.0 45 2022年12月
Nueva Línea 2×66 kV Hualqui – Chiguayante Celeo Redes Biobío Zonal 66 0.6 5 2024年8月
Nueva Línea 2×66 kV Dichato – Tomé Celeo Redes Biobío Zonal 66 0.2 5 2024年8月
Nueva Línea 2×66 kV Nueva Cauquenes – Parral Celeo Redes Maule Zonal 66 1.2 51 2024年8月
Nueva Línea 2×66 kV Nueva Cauquenes – Cauquenes Celeo Redes Maule Zonal 66 0.1 1 2024年8月
Total 658.3 1,101  

出典:エネルギー省、チリ政府の情報を基にJOGMECにて作成

 

3. チリの電力消費量と価格

3-1. 過去及び近年の需要の特徴

2014~2021年にかけてSENにおける電力需要は16%増え、大規模需要家(エネルギー価格をサプライヤーと直接交渉)は60%近く増加した半面、配電業者から供給される需要家(指定価格での取引)は18.6%減少した。

2015年に当局は規制を変更し、電力契約が500kW以上5,000kW未満の需要家は、指定価格または自由価格を選択できるようになった。この法改定は、価格規制の対象となる需要家向けに電力供給の入札制度が整ったことと総じて、配電会社のための電力供給の入札で平均落札価格の大幅な引き下げをもたらした。2013年の入札平均価格は128.9US$/MWhに対し、2017年には32.5US$/MWhまで下がった。

2017年に入札にかけられた計2,200GWhの電力は、2024~2041年まで指定された発電会社から供給される。将来の料金引き下げとなったこのシナリオは、指定価格対象の需要家の多くに自由価格の交渉を促した。2015年には需要家の指定価格から自由価格への移行が18件確認され、2018年には1,129件まで増えた。その結果、2017年以降は自由価格の需要家に対する販売額は指定価格を上回っている(図8)。

図8.2014~2022年におけるSENの価格別電力販売量(GWh)
図8. 2014~2022年におけるSENの価格別電力販売量(GWh)
出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

3-2. 鉱業界における電力消費動向

2021年のSENの総電力消費量(75,090GWh、図8)のうち、鉱業による同消費量は38.5%である。鉱業で最も電力消費量の割合が大きい地域はAntofagasta州であり、2021年の同消費量は16,614.1GWhで全体の57%に相当する(図9)。

図9.2021年における州別鉱山会社への電力消費量の割合
図9. 2021年における州別鉱山会社への電力消費量の割合
出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

3-3. 鉱業における再エネへの取り組み

鉱業において、ESG(環境、社会、ガバナンス)の中でも環境は益々重要なテーマになっている。チリには再エネポテンシャルがあり、ほとんどの鉱山分布域は日射量の多い地域または風力のポテンシャルが高い北部地域にある。従って、近年鉱業界は、利害関係者及び社会の要件に応えるため、新技術の開発・導入、また再エネの推進によりGHG排出削減に努めてきた。鉱業における再エネの使用率は2019年の3.6%から2021年には36.2%にまで増加しており、2022年には47.5%に達すると予測されている(図10)[9]

図10.鉱業における再エネの普及率
図10. 鉱業における再エネの普及率
出典:エネルギー省、チリ政府の情報を基にJOGMECにて作成

再エネは、鉱山会社が直接再エネプロジェクトへの投資家として関与するもの、クライアントとして発電会社と再エネ供給契約を結ぶという2つの方法で鉱業に取り入れられており、後者が一般的である。

再エネを導入した主な鉱山会社を表16に示す[10]。直接利用により再エネを取り入れた鉱山会社は、CODELCOのGabriela Mistral部門のPampa Elvira太陽熱発電所(54GWh/年)やAnglo AmericanのLos Bronces銅鉱山尾鉱ダムのLas Tórtolas太陽光発電所(150MWh/年)等がある。また、Candelaria銅鉱山は、AES Gener社と契約を締結し、2023年から18年間において1,100GWh/年の再エネが供給されることになっている。さらに、Escondida銅鉱山及びSpence銅鉱山では、Colbún社と10年契約、Enel社との15年契約を締結したことにより、6.6TWh/年の再エネ供給を受ける。

表16.チリの銅鉱山における再エネ利用
鉱山名 再エネプロジェクト名 契約等
Gabriela Mistral Planta Termo Solar Pampa Elvira 自社
Centinela(Ex-El Tesoro) Planta Termo Solar 自社
Los Bronces Planta Fotovoltaica sobre relaves, Las Tórtolas 自社
Los Pelambres Planta Fotovoltaica Javiera 電力供給契約(PPA)
Los Pelambres Planta Fotovoltaica Conejo Solar PPA
Los Pelambres Parque Eólico, El Arrayán PPA
Zaldívar Energías Renovables Colbún S.A PPA 10年
Centinela Energías Renovables Engie Energy PPA
Antucoya Energías Renovables Engie Energy PPA 11年
Collahuasi Planta Photovoltaica Pozo Almonte 1,2,3 PPA 20年
Energías Renovables Enel PPA 10年
Energías Renovable no Convencional Sonnedix PPA
Quebrada Blanca Planta Photovoltaica Andes Solar AES Gener PPA 20年
Quebrada Blanca 2 Energías Renovables AES Gener PPA
Carmen de Andacollo Energías Renovables AES GENER PPA 11年
Candelaria Energías Renovables AES Gener PPA 18年
BHP Escondida – Spence Energías Renovables ENEL y Colbún PPA 10年 ENEL
       15年 Colbún
Anglo American Energías Renovables ENEL PPA 10年
ENAMI ACCIONA PPA
CAP Group Planta Photovoltaica Amanecer Solar PPA
División Chuquicamata Energías Renovables ENGIE PPA 11年
Caserones Energías Renovables ENEL PPA 17年
Sierra Gorda Energías Renovables AES GENER PPA 18年
Manto Verde Extensión Energías Renovables PPA
Cemin Energías Renovables Engie PPA 4年
Lomas Bayas Energías Renovables Engie PPA 18年
El Abra Energías Renovables Engie PPA 7年
Altonorte Energías Renovables Engie PPA
Pampa Camarones Energías Renovables Engie PPA 20年

出典:Cochilcoの情報を基にJOGMECにて作成

 

3-4. 鉱業(操業・拡張計画等)を中心とする将来の電力需要予測

Cochilcoの「チリの鉱業投資プロジェクトポートフォリオ2021~2030」[11]によると、2028年までに予想されているプロジェクト51件の鉱業投資額は68,925mUS$と見込まれている。鉱業投資の中で銅の割合が87%と最大となっており、鉄、金、リチウムが続く(図11)。

図11.鉱種別の投資予測の割合
図11. 鉱種別の投資予測の割合
出典:Cochilcoの情報を基にJOGMECにて作成

2022~2031年までの銅鉱山における電力需要予測は、SEN北部での鉱業プロジェクトの操業開始に関連して、2025年にかけて需要の堅調な伸びが見られる(図12)。銅鉱山で電力消費量が大きく増加する要因として以下が挙げられる。

  • 既存操業鉱山での鉱石品位低下及び低品位の新規鉱床での操業着手により、生産量維持のため処理する鉱石の量が増加する。
  • 干ばつの影響及び水資源利用の増加により、海水淡水化プラントの設置とその後の採掘地までのポンプ輸送の必要性が生じる。
  • 鉱床の深部化に伴う、鉱石の高硬度化が生じる。
図12.2022~2031年の銅鉱山における電力需要予測
図12. 2022~2031年の銅鉱山における電力需要予測
出典:Cochilco

2031年における地域別に見た鉱業の電力需要予測では、Antofagasta州の割合が最も高く、次にAtacama州が続く(図13)。

図13.州別の銅鉱山における電力エネルギー需要量予測
図13. 州別の銅鉱山における電力エネルギー需要量予測
出典:Cochilcoの情報を基にJOGMECにて作成

3-5. グリーン水素及びその化合物に関する将来の電力需要

グリーン水素は、再エネの電力を利用し、電解槽を用いて水を電気分解することで作られる。チリは北部に太陽光発電、また南部に風力発電のポテンシャルがあり、再エネから生産される電力の平準化エネルギーコストは、世界でも非常に競争力があると試算されている(図14)。

図14.再生エネ電力の平準化エネルギーコスト(US$/MWh)
図14. 再生エネ電力の平準化エネルギーコスト(US$/MWh)
出典:エネルギー省、チリ政府、グリーン水素戦略(National Green Hydrogen Strategy)

グリーン水素の生産には相当量の電力を必要とする。2021年、CNEは「2021~2041年の需要の予測に関する予備報告書」を作成する目的で、グリーン水素生産のための電力需要の予測を行っている(表17)。2030年以降は、グリーン水素生産のための電力需要が堅調に伸びることが予測されている。

表17. グリーン水素生産のための電力需要の予測
2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030 2031
電力需要
(GWh)
0 199 253 459 741 1,038 1,339 1,706 3,377 8,571
2032 2033 2034 2035 2036 2037 2038 2039 2040 2041
電力需要
(GWh)
13,481 18,406 23,192 27,979 29,952 31,933 33,851 35,600 37,396 40,636

出典:CNE 2021の情報を基にJOGMECにて作成

 

3-6. 電力価格

チリの電力市場は、電力を製造する発電部門、高圧電線を用いて電力を輸送する送電部門、低圧線で最終需要家への電力の販売・供給する配電部門の3つで構成されており、それぞれが独自の価格を設定している。

電力会社に支払われる価格は、需要家の種類により異なる。電力消費量が小規模(500kW未満)である場合は、規制市場需要家と呼ばれ、当局により定められた価格が配電会社に支払われる。電力消費量が大規模(5MW以上)である場合は、自由市場需要家と呼ばれ、発電会社や配電会社等の契約相手に対して、当事者間で自由に合意された価格を支払う。消費量が500kW以上5MW未満の需要家は、規制市場需要家か自由市場需要家になるかを選択することができる。

一方、送電部門では、全国、地方、専用、開発地区、国際の5つのシステムで構成されている。システム利用に対する支払い(専用送電システムに関しては、料金規制の対象となるユーザーの利用分も含む)は、それぞれの「単一使用料金(CU)」で構成され、自由価格と規制価格の両者の最終需要家が支払う電力供給料から徴収される。

発電部門では、商業活動に自然独占の性質が見られないため、競争原理のもと運営されている。発電会社は、常に電力供給が需要と等しくなければならないという原則に準拠し電力を販売する。これは価格を考慮する上で重要な2つの概念を定義する。1つ目はエネルギー(需要家が必要とする電流)の供給で、2つ目は電圧(発電ユニットの設備容量)の供給である。需要の要件を満たすには、この両方が常に利用可能な状態であることが必要である。図15に電力需要量と時間に関するAとBのケースを示す。期間内の総電力需要量は同じであるが、ケースBではケースAよりも特定の時間に需要が大きくなる。

図15.電力供給における電力需要が時間で異なるケースの比較
図15. 電力供給における電力需要が時間で異なるケースの比較

これらの概念は電力規制にも含まれる。発電及び送電レベルでの電力供給の価格は限界費用であり、半年ごとにCNEが算出し「短期間の基本料金に関する報告書」に公表する基本電気料金とピーク時の料金の2つの要素で構成される。

短期の基本料金は発電及び送電レベルでの供給の限界費用の平均を反映している。今日では、主に電力供給契約における料金設定や、発電会社間の電力融通、配電会社の電力供給入札における上限価格の制定等に利用されている。短期の基本料金は2つの要素で構成されている。

(a) 基本電気料金

一定期間内において電力システムの推定限界費用の平均を考慮して計算され、その時点での運営及び配電の最小コストを用いる。基本電気料金PBEnrefは次の式で計算される。

式:基本電気料金PBEnref

CMginref=標準的な変電所におけるi月の1か月の限界費用
nref=基本電気料金に対する標準的な変電所の全国送電価格
Einref=標準的な変電所におけるi月の1か月の電力
i=Energía mensual en elm es i asociada a la subestacíon básica de energía
i=1月
r=チェックレート(実質年率10%
N=計算対象の月数

 

(b) 電力ピークの基本料金

1年間で需要が最大になる時間帯に追加電力を供給するため、最も安価になる発電ユニットで設備容量を増やすための年間限界費用を用いる。一方、発電会社は、「大規模需要家向けの自由価格(規制なし)」、「入札プロセスを通じて確立される配電会社への規制価格」、「他の発電会社向けの電力及び電力ピークの実質限界費用」の3種類の販売方法により電力を供給する。要するに、発電会社には従来型の発電ユニット、再エネ、あるいは発電設備が小規模(PMG-PMGD)のいずれであっても、契約市場とスポット市場という2種類の市場が存在する。前者は自由価格の需要家及び配電会社に対し各供給契約で定められた価格での販売に限られ、後者は電力システムの実際の運用の結果として起こる発電会社間の取引であり、電力の実際の限界費用や半年毎にCNEが算出する基本料金で定められる価格で行われる(図16)。

図16.発電会社の市場
図16. 発電会社の市場

3-7. スポット市場における電力の供給

スポット市場は、システム内で作られる電力の出入りのバランスをリアルタイムで取引する。回収量とは、発電会社が最終需要家と交わした契約上の消費電力量のことであり、供給は発電ユニットが実際に稼働した結果の電力量となる。電力の供給と回収は、それぞれ時間単位の限界費用と電力ピークの限界費用により価格が決まる。

 

4. 政府の方針・政策、鉱山会社の取り組み

4-1. ゼロエミッションに向けた取り組み

2016年、チリはパリ協定に署名し、2050年までに地球温暖化、GHG排出量及び気候変動の影響を削減するためのガイドラインを示した。これに関連して、チリ政府は電力市場に関する中長期的な政策を確立している。エネルギートランジションにも必要な調和と持続可能な発展を促進するために、エネルギーがもたらす新たな機会を活用することが目的である。これにより、GHG排出量削減政策として、石炭火力発電設備の撤廃計画が打ち出されることになった。またチリ政府は、再エネを利用したグリーン水素とその化合物の生産及び輸出の促進を提案し、チリがCO2排出量の少ないクリーンエネルギーに基づく、地球上で最も競争力のあるエネルギー輸出国になるための戦略を策定している[12]

一方、政府は技術的な変化や再エネの利用可能性に対応できるように電力規制を調整している。また、民間企業とともに、CO2排出削減を促進するための革新的な取り組みを推進している。技術革新の一例として、CENが開発したブロックチェーン技術がある。この技術は、再エネの電力を生産しSENに接続してから、その電力を購入した顧客が消費するまで、会計、認証、追跡が可能になる。目的は、その顧客の生産プロセスに再エネが使われたことを認定することである。また、再エネによる発電を更に後押しするものとして、分散型発電の推進がある。政府は、NCREを促進・深化させるために小規模企業や個人による自家発電を推進しており、その発展を阻む可能性のある障壁を取り除いている。

 

4-2. 銅鉱山におけるクリーンエネルギーの重要性

銅の生産・開発は、チリのGHG排出量の15%を占めており、Scope 1が5.4%、Scope 2が9.6%で構成されている[13]。鉱山操業における化石燃料の消費に関与する主なプロセスは、露天掘りの鉱石を採掘して輸送するために利用されるトラック(ディーゼル燃料)である。鉱山会社は、このGHG排出源を削減するために、エレクトロモビリティの導入ならびにグリーン水素を燃料として使用できるようにトラックを適応させる取り組みを行っている。Scope 1削減のもう1つの例は、鉱物浸出溶液の加熱プロセスにおいて、化石燃料を再エネに置き換えることである。Scope 2においても、銅鉱山では、購入する電力が再エネから得られる電力であることを保証するPPAを締結する等、積極的に削減を進めている。

チリは世界最大の銅の生産・輸出国であり、約560万t/年、世界の生産量の約28%を生産している。銅は電気自動車(EV)の普及、クリーンテクノロジー開発の鍵となる重要な金属として、今後も需要の拡大が見込まれる。しかし、銅鉱山会社はステークフォルダーないし市場から、採掘プロセスにおけるCO2排出量を最小限に抑えるようにという圧力がかかっている。世界中の銅鉱山会社は、責任ある生産方式に基づく経営により、エネルギー消費に関連する事業持続可能性指標(KPI)を用いてプロセスを認証している。この目的のため、「Copper Mark」[14]と呼ばれる認証システムが国際的に作成された。この取り組みにより、高い持続可能性基準を満たすプロセスによって銅が生産されていることが裏付けられる。この認証枠組みは、GHG排出量の削減や生物多様性の保護等、一連の課題を検証する独立監査で構成されている。また、Copper Markは、3年毎に認証基準の達成状況に関するモニタリングと再評価を実施する。現在、チリでは11の鉱山会社がこのプログラムに参加していて、クリーンエネルギーを利用して社会・環境への影響を低減することがいかに重要であるかを示している。

 

5. 電力関連法令(現行の電気事業法とその改正)

チリの電力市場を統治する主要な法律は、1982年に鉱業省の法令第1号として制定された電力事業一般法(LGSE)である。この法令の改正は、2006年5月12日に制定された法令第4/20,018号[15]に反映され、LGSEの統合、調整、体系化された文章が確立された。この同法令は、その後複数回改正されているが、最新の改正は2019年12月21日に法律第21,194号によって導入された。

電気事業一般法の主な改正点は、2016年7月20日の法律第20,936号(通称「送電法」)によって定められた。この法令により、新たに国家送電システムとCENが創設された。CENの法的任務は、(1)電力系統のサービスの安全性を維持すること、(2)電力系統の設備全体として最も経済的な運用を保障すること、(3)法律及びその他の現行の規則に従い、全ての送電系統へのオープンアクセスを保障すること、である。

表18. 2014年以降に公布された電力関連の規制、法律及び法令の概要
規制 公布日 概要
規則令第 71号 2014年9月6日 家庭用発電機の電気料金の支払いを規制する法律第 20,571号の規則を承認する。
規則令第 29号 2014年12月6日 NCRE発電による、年間エネルギー供給に関する入札規制を承認する。
法律第 20,805号 2015年1月29日 規制価格の対象となる顧客に対する電力供給の入札制度を改善する。
規則令第 6号 2015年5月25日 効率的なコージェネレーション設備が満たすべき要件を定めた規則を承認する。
規則令第 20号 2015年8月3日 LGSE第225条a項7に定めるその他のNCRE発電手段の決定手順を定める規則を承認する。
規則令第 23号 2015年10月23日 LGSEに定める「中規模システム運用管理規程」を承認する。
規則令第 62号 2016年6月16日 2006年の経済・開発・観光省の最高令第62号「LGSEに定められた発電企業間の融通に関する規制の承認」。
規則令第 106号 2016年6月16日 公共配電サービスのコンセッショナリー企業の規制顧客の消費を満たすためのエネルギー供給入札に関する規則を承認し、経済・開発・観光省の2008年最高令第4号を廃止する。
法律第 20,936号 2016年7月20日 LGSEの改正。新しい国家送電システムとCENを創設する。
規則令第 128号 2016年10月12日 水文学的に変動のない揚水発電所に関する規制を承認する。
規則令第 134号 2017年1月5日 長期エネルギー計画の規則を承認する。
規則令第 142号 2017年3月15日 国際電力融通の申請に適用される要件及び手続を定める規則を承認する。
規則令第 139号 2017年3月22日 送電システムの新案件用の候補地の決定に関する規則を承認する。
規則令第 31号 2017年7月21日 電気の供給ができない場合の補償金の決定及び支払いに関する規則を承認する。
規則令第 11号 2017年9月28日 電力セクターの運営に関する技術、安全、調整、品質、情報、経済的側面を管理する技術基準の作成に関する規則を承認する。
規則令第 44号 2018年1月5日 LGSEに制定された専門家審議会に関する規則を承認し、2004年の経済・開発・観光省の最高令第181号を廃止し、そこに示された政令の改正を導入する。
規則令第 52号 2018年4月3日 国家電力システムの独立調整機関に関する規則を承認する。
規則令第 109号 2018年6月12日 電気エネルギーの生産、輸送、補完サービスの提供、貯蔵システム及び配電のための電気設備に関する安全規則を承認する。
法律第 21,118号 2018年11月17日 家庭用発電装置の開発を促進するため、LGSEを改正する。
法令第 21,194号 2019年6月25日 配電企業の収益性を低下させ、配電料金プロセスを改善する。
法令第 21,185号 2019年12月2日 料金規制の対象となる顧客に対して、暫定的な電気料金安定化メカニズムを構築する。
法令第 21,305号 2021年2月13日 第1次国家エネルギー効率化計画を策定し、5年毎に更新する。
法令第 21,249号 2022年2月11日 衛生、電気、ガスサービスのエンドユーザーに有利な措置を例外的に定める。
法令第 21,423号 2022年2月11日 COVID-19大流行時に滞納した飲料水と電気料金の分割払いや返済を規制し、脆弱な顧客に対する補助金を確立する。

 

設備の建設宣言

電力システムに相互接続する新規の発電・送電設備は、CNEから建設中であるという宣言を受ける必要がある。その設備の所有者または運営者は、設備を建設中であると宣言するための申請書をCNEに提出しなければならない。また申請と同時に、電力システムへの相互接続の予定日をCNE、CEN及びSECに通知する必要がある。相互接続の通知は、相互接続日の少なくとも3か月前に行わなければならない。

試運転段階とは、CENからの事前認可を受け、設備の相互接続と通電から始まり、各試験の終了までとしている。CNEから建設中と宣言され、CENから通電の認可を受けた設備のみが試運転を開始することができる。試運転開始時に、その設備の所有者または運営者は被調整者のステータスを取得する。

設備の稼働宣言

試運転の終了後、その施設の被調整者は、現行の規則を忠実に遵守していることを宣誓してCENに提出するものとし、CENはこの状況を検証する権限を持つ。その後、CENは技術基準で定められた期限内に、そのプロジェクトの稼働開始を承認する。

設備の廃止、変更、接続の切断

発電ユニット及び送電系統設備の故障または定期保守点検の目的以外の設備の廃止、重大な変更、接続の切断、運転停止をする場合は、CEN、CNE及びSECに事前に書面で通知しなければならない。発電ユニットの場合は24か月以上前、送電設備の場合は36か月以上前の通知が必要になる。

全国、地方及び開発潜在地域の送電系統設備の場合、故障や定期保守点検の目的以外の設備の撤廃、重大な変更、接続の切断、運転停止は、前項で示した義務や期間遵守に加えて、CENからの安全報告に従って、CNEから事前に承認を受ける必要がある。

重大ではない設備の変更に関しては、現行の規則に従って、30日以上前にCENに書面で通知しなければならない。小規模分散型発電の場合は、経済・開発・観光省の2005年最高令第244号又はこれに代わるものが定める規定が適用される。

 

6. 電力市場が直面する課題

チリの電力市場が直面する今後の主な課題は、石炭火力発電の撤廃と再エネの普及に伴うエネルギーマトリックスの変化を供給安定性と価格競争力を維持する形で実現することである。チリは現在、エネルギー市場と鉱業に不確実性をもたらすような重要な社会・政治的変化の真っただ中にある。

 

6-1. 脱炭素化に向けた持続可能な電力供給と将来コスト

石炭火力発電所の廃止を考慮し、持続可能な電力供給と予想される限界費用にとって最も致命的なシナリオは、水不足または天然ガスで稼働するコンバインドサイクル発電所が使用できない場合であろう。天然ガスによるコンバインドサイクル発電所の運用において、脱炭素化を促進するために考慮すべき側面、特に技術的側面の重要性を後で述べる。

大規模鉱山の自由市場需要家は、現在の需要の大部分を長期的に契約している。しかし、世界的な排出量削減政策に基づき、現在及び将来の電力供給契約の脱炭素化に関心を持っている。上述のように、太陽光発電及び風力発電等のNCREのコスト低下により、配電企業の最新の入札での落札価格が大幅に低下し、市場に重要な影響を及ぼしている。

鉱業活動は、電力供給が長期的に十分であること、つまり、競争力のある価格で、1日24時間、週7日、持続可能な電力供給されることを要する。今後導入される発電設備の特性や石炭火力発電所の廃止計画を考慮すると、プラントファクターの高い技術(ダムの水力発電や天然ガス複合発電)のエネルギー量はほぼ一定、つまり需要増に比例して増加することはない。増加するエネルギー供給は、主にプラントファクターの低い太陽光発電等の変動型または不連続な電源からとなる。

実際、数年前まで従来型の技術に基づいたポートフォリオの開発を行っていた主要な発電会社(ENEL、AES、Colbún、Engie)は、新たな開発をNCREに向けている。2018年、これら4社の発電資産の97.1%が従来技術(石炭、ディーゼル、水力、ガス、石油)、2.9%がNCRE(バイオマス、風力、太陽光、地熱)に相当していた。2021年末には、割合がそれぞれ90.5%と9.5%となっている。今後は、NCREプロジェクトの購入等によってさらに促進されるだろう。またこれら4社は、CO2回収・貯留システムまたは同等の技術を持たない石炭火力発電所プロジェクトを今後開発しないことを公約している。

石炭火力発電所の廃止に伴うコスト試算については、「2025年までに石炭火力発電所を全廃するシナリオにおけるチリ国家電力システムの運用・供給の分析」[16]及び「石炭火力発電所なしのSENの運用・発展に関する研究」[17]をCENが実施している。本稿では、石炭火力発電所の所有者が、計画的かつ段階的に発電所の運転を停止または再変換するためのスケジュールと条件を設定できるようにすることを目的とした、後者について言及する。

本調査では、基本シナリオとして「石炭火力発電設備を廃止しない場合」を設定し、2020年から時系列で、耐用年数満了によるからの除却を考慮した6つの「石炭火力発電設備の廃止」分析シナリオと比較している。最も古いユニットについては、20年の技術的耐用年数を考慮し(40年の期間で定義)、過去10年間に使用開始したユニットについては、経済的耐用年数の満了を考慮し(25年で定義)、使用年数に応じて順番に廃止していく。分析したシナリオは、エネルギー省、CNE、CENが発表した参考情報を入力データとして使用している。また、新しい発電・送電インフラへの投資と電力システムの運用に関わるコストを考慮し、脱炭素化プロセスに関わるコストを試算している。脱炭素化するシナリオとしないシナリオの間では、システム運用と発電・送電投資の年間コストで1,200~2000mUS$の差が出た(図17)。

図17.シナリオA1における、脱炭素化する場合(上)としない場合(下)の運用コストと発電・送電投資の年間コスト
図17. シナリオA1における、脱炭素化する場合(上)としない場合(下)の運用コストと発電・送電投資の年間コスト
出典:CEN

脱炭素化する場合としない場合の大きな違いは、「発電投資」という要素に現れている。これは、太陽光発電や風力発電等の技術だけでなく、集光型太陽熱発電(CSP)、揚水発電、天然ガス及びLNG等、SENの運転予備力を維持するための技術投資の必要性から正当化されている。国家送電システムへの投資に関しては、脱炭素化には、送電計画調査で現在決定されている送電工事を早める必要があると指摘されている。図18は、発電コストに関連して、システムの代表的な3つの母線(Crucero 220 [kV], Quillota 220 [kV], Charrúa 220 [kV] )について、石炭火力発電を撤廃する場合(A1)と撤廃しない場合の電力の限界コストの年平均値を示したものである。限界費用は、分析期間の最初の数年間は同じような値を示しているが、2030年頃から石炭火力発電がより変動コストの低い発電ユニットに置き換わるため、電力の限界コストの年平均値が減少傾向になる。

図18.石炭火力発電を撤廃する場合(上)と撤廃しない場合(下)の年間限界コスト
図18. 石炭火力発電を撤廃する場合(上)と撤廃しない場合(下)の年間限界コスト
出典:CEN

電力供給の継続性の観点から、不確実性の高い将来を見据えて、SENを強化しコスト超過のリスクを軽減するために、分析した全てのシナリオにおいて、チリの北部と中部地域(KimalとLo Aguirre変電所)を容量2,000MWのHVDC送電ラインにより相互接続するという現行の送電システムプロジェクトの建設が必要であることが確認されている。さらに、ほとんどのシナリオで、2035年以降、北部と中部のS/E Nueva Taltal(Parinas)とLo Aguirreの間に、2,000〜3,000MWの第2のHVDCリンクが必要になることが明らかになっている。

 

6-2. 鉱業発展に向けて安全で質の高い電力供給のために考慮すべき側面

将来の鉱山開発を可能にする安全で質の高い電力供給のためには、石炭火力発電所の廃止計画がもたらす影響を考慮する必要がある。特に、慣性力及び短絡電流の容量やレベルが最終的に低下することによる影響である。

石炭火力発電所の撤退によって、慣性のレベルに最も影響を受けるのは、Tarapacá州、Antofagasta州、Atacama州、Coquimbo州の各地域、つまり鉱山が多く稼働している地域である。変動性のNCREの普及率が高いため、最大の影響や慣性力の欠如が生じるのは日中になる。NCREが発展する一方で、電源及び送電線の切断に備えたバックアップが不可欠になっている。特に、蒸気タービンや水力タービン(火力、石炭、石油、ガスに加え、地熱、原子力、集光型太陽熱、水力)によって同期オルタネーターを駆動する発電ユニットによるバックアップである。同期発電技術の慣性力への貢献は、電力システムの安定性、特に一次周波数調整で使用する予備電源や、系統の同期性維持のために非常に重要な技術的側面である。

石炭火力発電の廃止に関するもう一つの重要な課題は、石炭火力発電に代わるベースロード発電が将来的にないということである。環境評価局(SEA:Servicio De Evaluación Ambiental)によると、現在環境アセスメント中の発電プロジェクトのうち、そのほとんどがNCREの太陽光発電または風力発電であることがわかる(表19)。電力貯蔵システムは、太陽光発電の余剰時に貯蔵し、不足時に電力注入を行うことで、電力システムの柔軟な運用に貢献することを目的としている。貯蔵システムには、熱、揚水発電、電池等様々なものがあり、いずれも開発を進めているが、コストが高く実用には時間を要する。

表19. 2022年3月現在、環境アセスメント中のプロジェクト
電源 設備容量(MW) 設備容量シェア(%)
太陽光発電 5,440 55
風力発電 3,120 31.5
太陽光発電-風力発電 807 8.2
太陽光発電-蓄電 309 3.1
水力発電 154 1.6
蓄電 50 0.5
火力発電 10 0.1
合計 9,890 100

出典:SEAの情報を基にJOGMECにて作成

結果として、石炭火力発電所の廃止から蓄電技術が商業的に実現可能になるまでの間は、コンバインドサイクル発電や貯水池式水力発電が重要な役割を果たすことになると考えられる。しかし、近年は干ばつが増え、貯水池式水力発電の稼働率が低下していることから、天然ガスで稼働するコンバインドサイクル発電が重要になる。しかし、チリは天然ガスのほとんどを輸入に依存しているため、価格や供給リスクによって柔軟性が欠けることを考慮する必要がある。

 

おわりに

今後、チリの電力市場でキーワードとなるのは、「持続可能な電力の安定供給」であろう。銅鉱山の電力需要予測において、2031年には対2022年比で25%増加すると予想されているとおり、チリ国内の電力需要は堅調に増加する。一方で、政府の目標どおり2040年までに石炭火力発電所を全て廃止する間、エネルギートランジションが円滑に進むのか不透明な状況である。現在、SENで進められている発電所建設プロジェクトの合計設備容量が約4,800MW(太陽光54.8%、風力36.5%、水力7.2%)であり、2022年の石炭火力発電所の設備容量約5,000MWと同程度である。しかしながら、その多くが変動型または不連続な電源に依存することから、持続可能な電力供給のためにさらなる再エネ導入を行うとともに、天然ガスによるコンバインドサイクル発電等の予備電源が必要になるだろう。

チリ北部には太陽及び風力ポテンシャルがあるが、中部の膨大な需要を満たすためには2030年創業開始予定のAntofagasta州からRegión Metropolitana de Santiago州にかけてのインフラ整備が一つの希望と言える。このように、持続可能な電力供給を目指すには再エネを普及拡大すれば問題解決というわけではなく、同時にインフラ強化が強いられている状況である。

チリはエネルギートランジションの重要な節目にかかっており、電力市場が著しい変化を迎えつつある昨今、本稿によってチリの電力市場の現状について理解する一助けになれば幸いである。

 

参考文献


[1] https://www.cochilco.cl/Presentaciones/Presentacion%20Global%20Water%20Summit%20mayo%202022.pdf

[2] https://investchile.gob.cl/wp-content/uploads/2021/04/03ebook-energia-eng-.pdf

[3] http://energiaabierta.cl/categorias-estadistica/electricidad/?_sf_s=capacidad

[4] https://www.coordinador.cl/sistema-electrico/

[5] https://infotecnica.coordinador.cl/instalaciones/unidades-generadoras

[6] https://energia.gob.cl/sites/default/files/12_2018_inodu_variables_ambientales_y_sociales.pdf

[7] https://www.cne.cl/wp-content/uploads/2022/02/ITD-PNCP-Ene22.pdf

[8] https://energia.gob.cl/sites/default/files/documentos/reporte_de_proyectos_-_marzo_2022.pdf

[9] https://eae.mma.gob.cl/storage/documents/02_IA_Pol%C3%ADtica_Nacional_Minera_2050.pdf.pdf

[10] https://www.cochilco.cl/Mercado%20de%20Metales/Las%20energias%20renovables%20en%20la%20mineria%20chilena%20del%20cobre%202021.pdf

[11] https://www.cochilco.cl/Listado%20Temtico/2021%2010%2028%20Inversi%C3%B3n%20en%20la%20miner%C3%ADa%20chilena%20-%20cartera%20de%20proyectos%202021%20-%202030%20VFinal.pdf

[12] https://energia.gob.cl/sites/default/files/documentos/pen_2050_-_actualizado_marzo_2022_0.pdf

[13] https://www.cochilco.cl/Listado%20Temtico/Informe%20GEI%20Directos%20e%20Indirectos%20%202019%20Final%20con%20RPI.pdf

[14] https://coppermark.org/

[15] https://www.bcn.cl/leychile/navegar?idNorma=258171&idVersion=2019-12-21&idParte=8721667

[16] https://www.coordinador.cl/wp-content/old-docs/2019/01/20190102-Estudio_OPyDES-Sin-carb%C3%B3n_Informe_Principal.pdf

[17] https://www.coordinador.cl/wp-content/uploads/2020/09/Informe_An%C3%A1lisis_de_Escenarios_Descarbonizaci%C3%B3n_ver_20200917.pdf

以上

(この報告は2023年3月30日時点のものです)

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