ページ番号1009697 更新日 令和5年4月12日

(短報)中国CNOOC、TotalEnergiesとLNG取引で初の人民元建てクロスボーダー決済

レポート属性
レポートID 1009697
作成日 2023-04-12 00:00:00 +0900
更新日 2023-04-12 10:00:03 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG基礎情報
著者 竹原 美佳
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 3
抽出データ
地域1 アジア
国1 中国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,中国
2023/04/12 竹原 美佳
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概要

  • 2023年3月、中国最大のLNG事業者であるCNOOCとTotalEnergiesは石油天然ガス取引所(SHPGX)を通じLNG取引で初の人民元建てクロスボーダー決済を行った。
  • 原油やLNGの貿易決済は通常米ドルで行われるため、今回のような人民元建てのクロスボーダー決済が急増することや標準化することは考えにくいが、エネルギー貿易における非ドル決済の動きは欧米を中心に対露金融制裁が実施されている中、インドでも生じている。
  • 中国政府はクロスボーダーの投資の枠組を段階的に整備、人民元建てのクロスボーダー決済は着実に増加している。
  • 中国は政治的・経済的に自らをドル基盤から切り離し、欧米の制裁を先回りして回避しようとしているように見える。今後も様々な手段によりエネルギー貿易を含む人民元建て決済を追求すると思われる。

 

1. CNOOCとTotalEnergiesはLNG取引で初の人民元建てクロスボーダー決済

2023年3月28日、中国海洋石油集団有限公司(CNOOC)傘下の中海石油気電集団有限責任公司(CNOOC Gas &Power)とTotalEnergiesは上海石油天然ガス取引所(SHPGX)を通じ、LNG取引で初の人民元建てによるクロスボーダー決済を行った。UAEのLNG約65,000トンが対象で取引額は未公表である。

CNOOCの兪進(Yu Jin)副総経理は「人民元建て決済によるLNG調達はエネルギー取引のグローバル化を促し、LNG取引の多様化に向けた有用な実践である」と指摘した。SHPGXの郭旭(Guo Xu)会長は「本取引はマルチカレンシーによる価格設定とクロスボーダー決済を促進する試みである。中国は世界のLNG市場における主要な買い手の一角を占める。取引参加者の増加とともに貿易サービスに対する要求が高まっており、SHPGXはプラットフォームの構築とより使い勝手の良いチャンネルの提供に取り組んでいる」と述べた。また郭会長は「人民元は近年国際化が進展している。現在世界5位の決済通貨、3位の貿易通貨、5位の国際準備通貨となっている。世界における人民元の外国為替取引の市場シェアは7%まで上昇し、過去3年間で最も急速に成長した通貨である」と指摘した。

22年に中国は63.4MMtのLNGを輸入したがCNOOCはそのうち3割、20MMt程度を輸入する同国最大のLNG輸入事業者である。これまでSHPGXを通じたLNG受入基地の第三者への開放などLNG市場化に向けた先行的な取り組みはCNOOCが手掛けている。

TotalEnergiesはCNOOCに対し自社LNGポートフォリオから年1.5MMtを2030年まで20年間供給する契約を結んでおり、今回のUAEカーゴの供給はその契約に基づいている。TotalEnergiesの関係者は業界紙Energy Intelligenceの取材に対し「この取引はCNOOCのために行った」と語った。コンサルタントのSIA EnergyはCNOOCとの協力関係強化はTotalEnergiesにとりプラスとなる他、同社は中国国内で石油・天然ガス上流から下流に至る事業を展開しており、為替変動リスクへの対応が容易であると指摘している。

 

2. 中国政府はクロスボーダーの投資の枠組みを段階的に整備、人民元建てのクロスボーダー決済は着実に増加

国際金融情報センター(JCIF)によると、2022年の中国本土と海外とのクロスボーダー決済のうち、人民元建ての決済は前年比15%増の42.1兆元(約800兆円)に増加した。2015年に運用が開始された「人民元クロスボーダー決済システム(CIPS)」は22年末時点で世界109か国・地域をカバーするネットワークに発展している。米ドルやユーロと比較すると人民元の取引額ははるかに小さく、たとえばSWIFT利用額は米ドルの20分の1程度にすぎない。しかし人民元建てのクロスボーダー決済は着実に増加しており、21年12月単月のSWIFT利用額では初めて日本円を上回り、米ドル・ユーロ・英ポンドに続く4位となった。JCIFは中国政府がクロスボーダーの投資の枠組みを段階的に整備し、資本市場の対外開放を進めてきたことが人民元建てクロスボーダー決済の増加に直結していると指摘している。

原油やLNGの貿易決済は通常米ドルで行われるため、今回のような人民元建てのクロスボーダー決済が急増することや標準化することは考えにくいが、エネルギー貿易における非ドル決済の動きは欧米を中心に対露金融制裁が実施されている中、インドでも生じている。インドの精製事業者はロシア原油貿易決済をルピー、ディルハム、ルーブルなどドル以外の通貨で行うことが増えているという。インドの精製事業者は22年4月以降、制裁により値引きされたロシア原油の輸入を拡大しており、23年2月には同国からの輸入量が200万b/dに達した模様である。3月初頭にはインド財務省次官が国内外60の金融機関に対し「ボストロ口座」(決済通貨としてルピーを保有するためにインド国内銀行に設ける決済口座)を開設する権限を与えたと国会で述べた。ロシアSberbank、VTB Bank、Gazprombankなどがルピーのボストロ口座を開設したという。もっともロシア企業はルピーでの決済には慎重であり、ディルハムによる決済を志向している模様である。

 

3. 中国は今後も様々な手段によりエネルギー貿易を含む人民元建て決済を追求か

中国はイランやロシアとの原油や天然ガス貿易決済の一部を人民元で行っていると言われている。3月の習近平国家主席訪露の際、プーチン大統領は22年第1~3四半期の二国間商取引におけるルーブルと人民元のシェアが65%に達したと述べた。CNPCとロシアGazpromは最近Power of Siberiaパイプラインを通じた天然ガス取引契約を修正し、決済の一部をルーブルと人民元で行っていると報じられている。

中国は湾岸産油国とのエネルギー貿易においても人民元建て決済を志向している。22年12月、習近平国家主席はサウジアラビアを訪問した際、湾岸諸国からの原油輸入を今後も拡大するとして原油を含む二国間貿易決済を人民元で行うことを求めた。また上海石油天然ガス取引所(SHPGX)をプラットフォームとして人民元建て決済に活用することを提案した模様である。中国では上海国際エネルギー取引所(INE)が2018年に中東原油先物取引を開始したが、主な参加者は中国の短期投資家であり、指標価格となるには力不足である。SHPGXはガスとLNGの現物のみで石油は行っていない。習主席の発言は同取引所を現物決済に使うのではなく、取引をヘッジするための人民元建ての契約を開発し同取引所を利用することを意味しているのではないかという見方がある。

サウジアラビアを含む湾岸諸国の通貨はドルペッグで人民元の取引量は限られており、石油以外の貿易における部分的な切り替えはあっても、ドルから大きく離れることはないという見方が一般的である。一方でサウジアラビアがドル以外の通貨で貿易決済を行うことは米国に対し「選択肢がある」ことを示すことになるという見方がある。

中国は政治的・経済的に自らをドル基盤から切り離し、欧米の制裁を先回りして回避しようとしているように見える。今後も様々な手段によりエネルギー貿易を含む人民元建て決済を追及すると思われる。

 

主な情報源

气电集团与道达尔能源完成首单液化天然气跨境人民币结算交易(外部リンク)新しいウィンドウで開きます(CNOOC Gas &Power 2023年3月29日)

上海石油天然气交易中心联手中国海油完成我国首单LNG跨境人民币结算交易(外部リンク)新しいウィンドウで開きます(SHPGX 2023年3月28日)

資本市場の対外開放と「人民元の国際化」(JCIF2023年3月13日)

“CNOOC and TotalEnergies complete first Yuan-settled LNG deal”(SIA Energy 2023年4月6日)

中国のエネルギー需給・調達の現状と今後の方向性 ―「保供」(供給確保)政策のもと、石炭とクリーンエネルギーを増強、不足は「長期契約」で確保し、「自立自強」へ邁進―(石油・天然ガス資源情報2023年3月)

 

以上

(この報告は2023年4月11日時点のものです)

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