ページ番号1009699 更新日 令和5年4月17日

原油市場他:一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産措置発表等により急反発する原油価格

レポート属性
レポートID 1009699
作成日 2023-04-17 00:00:00 +0900
更新日 2023-04-17 13:20:41 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 34
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
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地域6
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地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2023/04/17 野神 隆之
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概要

  1. 米国では、2023年の春場の製油所メンテナンス作業が大規模に実施されているうえ、一部製油所で装置の不具合が発生したことにより、製油所の稼働が低下するとともに石油製品製造活動が不活発化したこともあり、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となったが、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年並みの、それぞれ量となっている。他方、輸出が比較的活発であったこともあり、原油在庫も減少傾向となったものの平年幅上限を超過する状態は維持されている。
  2. 2023年3月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では3月6日に開始されたフランス各所でのストライキの影響で製油所の稼働が停止したことにより原油精製処理活動が滞ったことから原油在庫は若干ながら増加したものの、米国では減少した他、日本においても一部製油所において春場のメンテナンス作業が実施されつつあることもあり、それに併せて原油在庫水準を引き下げる動きが発生したと見られることにより、原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリン及び留出油を中心として在庫が減少した他、欧州においても、フランスのストライキの影響等で製油所の稼働が低下したことに伴い石油製品製造活動が相対的に不活発化したこともあり石油製品在庫が減少した。また、日本においては個人の外出が促されたことによりガソリン需要が上向くとともに当該製品在庫が減少したことに加え、年度末を控え工事実施のために稼働する重機類向けの軽油需要が増加したと見られることから当該製品の在庫が減少したことにより石油製品全体の在庫水準も低下した。このようなことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少したものの平年幅上限付近に位置する量となっている。
  3. 2023年3月下旬から4月中旬にかけての原油市場においては、一部OPECプラス産油国が5月1日から12月末にかけ合計で日量116万バレルの自主的な追加減産を実施する旨4月2~3日に明らかになったこと、4月12日に米国労働省から発表された3月の同国消費者物価指数(CPI)上昇率が2月から低下したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、3月20日にWTIで1バレル当たり67.64ドルであった原油価格は上昇傾向となり、4月12日には83.26ドルと終値ベースで2022年11月16日以来の高水準に到達する場面も見られた。
  4. 今後は、一部OPECプラス産油国による追加減産実施等の原油相場下落抑制への先制的な行動の可能性に対する市場関係者の認識が原油相場を下支えする中、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入が市場で意識され始めることによる季節的な石油需給の引き締まり感の増大、及び厳格な新型コロナ感染抑制策の事実上の撤廃に伴う中国経済の回復等による石油需要の増加への期待が原油相場に上方圧力を加えやすいものと考えられる。そのような中、米国の金融政策を巡る同国金融当局者の発言や次回の米国連邦公開市場委員会(FOMC)での決定事項等に基づく米国株式相場や米ドルの動向、イラクのクルド人自治区からトルコに向けた原油輸送の再開を巡る状況、中国の実際の経済回復等を巡る情報、自主的な追加減産実施を発表した一部OPECプラス産油国による実際の減産遵守状況等が原油相場に影響するものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2023年1月の米国ガソリン需要(確定値)は日量828万バレル、前年同月比で3.8%程度の増加となり(図1参照)、2022年12月の当該需要である同857万バレルからは需要量が下振れしたものの、12月の前年同月比3.5%程度の減少からは増加に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比2.1%程度増加の日量815万バレル)から上方修正されている。12月のクリスマスを含む年末の休暇シーズンが終了したことに伴い個人の行楽や帰省等を目的とする外出が不活発化したことにより、1月の同国自動車運転距離数は1日当たり80億マイルと12月の同83億マイルから減少したことが1月の当該需要の前月比での減少となって現れた一方、2023年1月は米国が前年同月に比べ総じて温暖であったこともあり個人の外出が前年同月よりも促された結果、同国の自動車運転距離数が前年同月比で5.6%程度の増加となったことが、ガソリン需要の前年同月比での伸びに反映されたものと見られる。なお、2023年1月の米国ガソリン需要は2020年1月の当該需要(日量872万バレル)(確定値)を5.1%程度下回っている。他方、2023年3月の同国ガソリン需要(速報値)は日量897万バレル、前年同月比で1.3%程度の増加となっており、2月の当該需要である同871万バレル(速報値)から需要量は拡大したものの2月の前年同月比1.2%程度の増加からは増加率はほぼ横這いとなった。ただ、2023年3月の気温は前年同月と概ね同水準となったことから、この面で個人の外出が促されるとともにガソリン需要が前年同月比で増加したわけではないものと見られる。むしろ、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻したこともあり、その直後の2022年3月は原油価格とともに全米平均ガソリン小売価格が大幅に上昇した(1ガロン当たり3.611ドルであった2022年2月の全米平均ガソリン小売価格は同年3月には同4.322ドルと20%近く上昇した)一方、2023年3月の全米平均ガソリン小売価格は同3.535ドルと前月(同3.501ドル)比で1%弱の上昇にとどまった他、前年同月比では18%程度割安になったことが、2023年3月の個人の外出を促す(2023年3月の同国推定自動車運転距離数は1日当たり88億マイルと前年同月(同87億マイル)比で1%程度の増加となっている)とともにガソリン需要が前年同月比で増加した背景となっているものと考えられる。なお、2023年3月の米国ガソリン需要は2019年3月の当該需要(日量908万バレル)(確定値)を2.4%程度下回っている。また、3月に入り、米国の一部製油所では春場のメンテナンス作業が終了するとともに操業を再開したことにより、製油所での原油精製処理量も上向いたものの、なお相当数の製油所が春場のメンテナンス作業を実施していた(2020~22年は新型コロナウイルス感染防止に伴う労働力不足等により製油所での春場のメンテナンス作業が限定的な規模にとどまった分、2023年春場の製油所メンテナンス作業が大規模に実施されていると指摘する向きもある)他、一部製油所において装置の不具合が発生したこともあり、原油精製処理量の増加ペースが緩やかなものになるとともに、当該精製処理量が前年同期を下回ったままの状態となった(図2参照)。このようなこともあり、混合基材を中心として製油所での生産が必ずしも活発にならなかったものと見られることから、3月上旬から4月上旬にかけ米国ガソリン混合基材在庫が減少した他、生産は必ずしも不調ではなかった(図3参照)ものの需要が堅調であったこともあり、ガソリン最終製品在庫も減少したことから、ガソリン全体としても在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2006~23年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~23年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~23年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~23年)

2023年1月の米国留出油需要(確定値)は日量390万バレルと前年同月比で4.4%程度の減少となり(図5参照)、2022年12月の同372万バレル(前年同月比5.9%程度の減少)から需要量が増加した他、前年同月比での減少幅も縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比5.9%程度減少の日量384万バレル)から上方修正されている。1月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量106万バレル程度と推定されたところ確定値では同94万バレルへと下方修正されたことで、この分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと見られる。12月はクリスマス及び年末の休暇シーズンに突入したことにより経済活動が減速したことが同国の留出油需要を抑制する形になったが、1月に入り年末の休暇シーズンが終了するとともに経済活動が回復したことが留出油需要を前月比で増加させた背景にあるものと見られる。他方、2023年1月の米国北東部(同国の暖房用留出油需要の中心地域)は前年同月に比べ温暖であった(2022年12月は前年同月に比べ寒冷であった)他、2023年1月の物流活動が前年同月比で1.4%の低下となっている(12月は前年同月比で横這いであった)など、2023年1月の米国留出油需要は2022年12月に比べ前年同月比での減少率を拡大させるような条件が見られたものの、2023年1月の同国鉱工業生産が前年同月比で1.4%の増加と12月の同0.6%の増加から増加率が拡大した(もっともこれは、2022年1月は米国において新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染が流行したことにより、鉱工業部門の活動が不活発化した反動が2023年1月に現れていることによるものと考えられる)ことから、これが一因となって2023年1月の同国留出油需要の前年同月比での減少率が2022年12月よりも縮小したものと考えられる。なお、2023年1月の米国留出油需要は2020年同月の当該需要(日量402万バレル)(確定値)を3.0%程度下回っている。他方、2023年3月の留出油需要(速報値)は日量389万バレルと前年同月比で6.6%程度の減少となり、2月の当該需要量(速報値)の日量377万バレル、前年同月比9.7%程度の減少から需要量が上振れしたうえ前年同月比の減少率も縮小した。2023年3月は米国の暖房用留出油需要の中心地である北東部は前年同月比では多少なりとも寒冷であったものの、2023年3月の同国鉱工業生産は前年同月比で0.5%の増加となった(因みに2月は同0.9%の増加であった)他、物流活動も不活発化した(3月の米国輸送担当者指数(LMI: Logistics Manager Index、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は51.1と2月の54.7から低下している他前年同月の76.2を相当程度下回っている(因みに2022年2月は75.2であったため、2023年3月のLMIの前年同月を下回る幅は2023年2月に比べ拡大している)ことから、2023年3月の方が2023年2月よりも留出油需要の前年同月比での減少率が大きくなっても違和感のないところ、むしろ2023年2月の留出油需要(実際には出荷量を需要と見做して計上しており、厳密な意味での「需要」もしくは「消費」とは異なる側面がある)が大幅に落ち込んでしまったことから、その反動が2023年3月に現れた可能性もある。なお、2023年2月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量418万バレル)(確定値)を7.3%程度下回っている。また、春場のメンテナンス作業の実施や装置の不具合の発生等もあり米国の製油所の稼働が抑制された他、製油所では夏場のドライブシーズンに伴う需要期を控えてガソリン製造を優先しつつあった反面留出油製造が相対的に劣後したものと見られることもあり(図6参照)、3月上旬から4月上旬にかけての米国留出油在庫は減少傾向を示したが、平年並みの量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2006~23年)

図6 米国の留出油生産量(2009~23年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~23年)

2023年1月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.0%程度減少の日量1,954万バレルとなり(図8参照)、2022年12月の同1,949万バレルから需要量がほぼ横這いとなったが、12月の前年同月比5.6%程度の減少から減少率が縮小した。留出油需要の前月比での増加をガソリン需要の前月比での減少で相殺したことが同国石油需要の前月比での増減に影響する格好となっている。他方、ガソリン需要が前年同月比で増加した反面、留出油需要に加え米国が前年同月に比べ温暖であった影響からプロパン需要が前年同月比で減少した結果、同国の石油需要全体では前年同月比で若干ながら減少となった。また、ガソリン及び留出油の両需要が速報値から確定値に移行する際に上方修正されたものの、その他の石油製品の需要が速報値(日量451万バレル)から確定値(同421万バレル)に移行する際に下方修正されたことから、当該石油需要の確定値は速報値(前年同月比0.3%程度減少の日量1,967万バレル)から確定値に移行する段階で若干ながら下方修正されている。なお、2023年1月の米国石油需要は、2020年1月の当該需要(日量1,993万バレル)を2.0%程度下回っている。他方、2023年3月の米国石油需要(速報値)は日量1,996万バレルと前年同月比で2.7%程度の減少となり、2月の同国石油需要(速報値)である日量1,985万バレルから需要量が増加した反面、前年同月比での減少率は2月(同2.9%程度の減少)から若干ながら縮小している。ガソリン及び留出油の両需要が前月比で増加した他留出油需要の前年同月比の減少率が2023年2月の同減少率から縮小していること、及び2023年2月の米国が前年同月に比べ温暖であった反面2023年3月は米国が前年同月に比べほぼ同様の寒さとなったこともあり、暖房向けに利用されるプロパンについて2023年3月の方が同年2月に比べ前年同月比での落ち込みが軽微であったことが影響する格好となっている。なお、2023年3月の米国石油需要は、2019年3月の当該需要(日量2,018万バレル)(確定値)を1.1%程度下回っている。また、3月上旬から4月上旬にかけ、春場のメンテナンス作業実施等に伴い製油所の原油精製処理量が低迷した続けたものの、原油輸出が比較的活発であった(ロシアからの海上輸送経由等による原油購入を禁止したEU加盟国や厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を事実上撤廃した結果、個人の外出が活発化するとともにガソリンを中心として需要が回復しつつあると見られる中国に向け原油が輸出されている旨指摘する向きもある)ことから、同時期同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、留出油在庫が平年並みの量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2006~23年)

図9 米国原油在庫推移(2003~23年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~23年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~23年)

2023年3月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州ではフランスにおける政府の年金支給開始年齢引き上げ(62歳から64歳へ)政策に対する抗議により3月6日開始された国内各所でのストライキの影響で製油所の稼働が停止した(一時は同国の精製能力日量115万バレルのうち少なくとも同90万バレルの能力相当分が稼働を停止したとされる)ことにより原油精製処理活動が滞ったことから原油在庫は若干ながら増加したものの、米国では減少した他、日本においても一部製油所において春場のメンテナンス作業が実施されつつあることもあり、それに併せて原油在庫水準を引き下げる動きが発生したと見られることにより、原油在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国ではガソリン及び留出油を中心として在庫が減少した他、欧州においてもフランスのストライキの影響等で製油所の稼働が低下したことに伴い石油製品製造活動が相対的に不活発化したこともあり石油製品在庫が減少した。また、日本においては、3月は気温が上昇したこともあり、冬場の暖房向け灯油需要が低迷したことにより当該製品在庫が増加したものの、個人の外出が促されたことによりガソリン需要が上向くとともに当該製品在庫が減少したことに加え、年度末を控え工事実施のために稼働する重機類向けの軽油需要が増加したと見られることから当該製品の在庫が減少したことで相殺されて余りあったことにより、同国の石油製品全体の在庫水準も低下した。このようなことから、OECD諸国全体の石油製品在庫は減少したものの平年幅上限付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する一方、石油製品在庫が平年幅上限付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2023年3月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は60.9日と2月末の推定在庫日数(62.1日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~23年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~23年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~23年)

3月15日に1,700万バレル弱程度の水準であったシンガポールのガソリンを含む軽質留分在庫は3月22日には1,700万バレル台前半程度の量へと増加したものの、3月29日には1,500万バレル台後半程度、4月5日には1,500万バレル弱程度の量へと、それぞれ減少した。4月12日には1,600万バレル弱の水準へと回復したものの、3月15日時点の量を下回っており、全体としての当該在庫は減少傾向となった。東南アジアにおける主要ガソリン消費国であるインドネシアで断食月(ラマダン、2023年は3月22日~4月21日)及び断食月明け大祭(レバラン、2023年は4月22~23日であるが、4月21~26日が事実上の休暇期間となる)における個人の帰省等に伴う往来の活発化を控えた同国のガソリン調達活動の盛り上がりに伴うシンガポールから同国等へのガソリン輸出は、断食月開始後は一服した様に見受けられる。しかしながら、2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことから、個人の外出が促進されるとともに自動車用燃料であるガソリンの需要が増加しつつあると見られることもあり、その需要を満たすべく同国からのガソリン輸出が抑制され始めたことによりシンガポールのガソリン等の流入が低調となったことが、シンガポールの軽質留分在庫を押し下げる方向で作用したものと見られる。そしてこのようなシンガポールにおける軽質留分在庫の減少に加え、世界最大のガソリン消費国である米国において夏場のドライブシーズン(2023年は5月29日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月27~29日)から9月4日の労働者の日(レイバー・デー)に伴う連休(9月2~4日)まで)に伴うガソリン需要期が視野に入りつつある中、米国のガソリン在庫が減少し続けていることにより、米国、及び米国にガソリンを輸出する欧州においてガソリン需給の引き締まり感が強まり始めていることがアジアのガソリン市場にも影響を与えていることに加え、韓国等において製油所が春場のメンテナンス作業実施シーズンに突入しつつあることにより同国からのガソリン供給が減少するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えたこともあり、3月下旬においてはアジア市場のガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、3月末頃から4月中旬にかけては、原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かなかったこともあり、同市場におけるガソリンとドバイ原油の価格差は縮小する傾向を示した。

また、中国において厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されたことに伴い、同国の経済活動が上向くことにより、石油化学製品製造のためのナフサ分解装置の稼働が上昇するとともに原料となるナフサの投入が活発化することに加え、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期を控えガソリンを製造するためのナフサの混入が拡大しつつあることもあり、ナフサ需要が回復するとの観測が市場で発生したことが、アジア市場におけるナフサ価格を下支えする格好となった一方、第2四半期を中心して日本及び韓国等で石油化学製品製造用のナフサ分解装置のメンテナンス作業が実施される方向であることに加え、冬場の暖房シーズンが終了しつつあったこともあり、これまで暖房向けに消費されてきた液化石油ガス(LPG)の需要が後退するとともに当該製品価格が下落、石油化学製品製造原料の面でナフサと競合するようになってきたことが、ナフサ価格に下方圧力を加えたこと、そして特に4月に入ってからは原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかったことにより、3月下旬から4月中旬にかけては、同市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大傾向となった。

3月15日には900万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの中間留分在庫は、3月22日及び29日には900万バレル台後半程度の量へと増加した。しかしながら、4月5日には900万バレル強程度、4月12日には800万バレル台後半程度の量へと減少しており、この結果、4月12日の当該在庫は3月15日時点の水準を下回る状態となっている。ガソリンと異なり中国からシンガポールに向けた軽油輸出は当初は堅調な状態が維持された(厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の事実上の撤廃後、中国において個人の外出は活発化したものの、製造業を含む産業活動の回復がまだら模様であることもあり、軽油需要が伸び悩み気味であったことが影響しているものと考えられる)他、輸出の減速や政策金利の引き上げ等により産業活動が軟調であった韓国からもシンガポールに向け軽油が流入する場面が見られたことが、シンガポールにおける中間留分在庫を増加させる形で作用した。しかしながら、韓国等において春場の製油所メンテナンス作業実施時期に突入しつつあることに加え、中国において製造業や物流の活動が回復し始めるとともに当該部門向けの軽油需要が増加する兆候が見られ始めたことが、その後の韓国や中国等からシンガポールへの中間留分の流入を抑制する格好となった結果、当該製品在庫が減少したものと見られる。ただ、韓国等における製油所のメンテナンス作業実施に伴う軽油供給減少観測がアジア市場での軽油価格を下支えしたものの、中国製造業における活動は拡大しつつあるものの、そのペースが比較的緩やかなものであるとの市場の認識は根強く(3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が51.9と2月の52.6から低下した他、4月3日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された3月の同国製造業PMIが50.0と2月の51.6から低下するなど、同国製造業活動の回復が紆余曲折を経つつあることが示唆される)他、2023年2月5日を以て海上輸送経由等のロシア産石油製品の購入を事実上禁止したEU加盟国において軽油在庫が維持されたこと、特に4月に入ってからは原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かなかったこと等から、3月下旬から4月中旬にかけては、アジア市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)はむしろ縮小傾向となった。

3月15日に2,100万バレル強程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、3月22日には2,300万バレル強程度の量へと増加した。3月29日には2,200万バレル半ば程度の量へと減少したものの、4月5日には2,300万バレル台後半程度の水準へと回復した。また、4月12日は若干減少したものの、それでも2,300万バレル半ば程度の量と、3月15日の水準を相当程度上回る状態となっている。韓国等の製油所の春場のメンテナンス作業実施に伴い重油製造活動が不活発化していることがシンガポールにおける重油在庫を抑制する形で作用している側面はあるものの、冬場の空調向けの電力供給のための発電部門における重油需要が気温の上昇とともに低下した他、船舶用の重油需要が盛り上がらない状態となっている(厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を緩和した後も、春節(旧正月)等もあり、中国の製造業活動の回復が緩やかなものとなっていた他、物価上昇等もあり世界経済がもたつき気味となっていたことにより物品の貿易が影響を受けたことが背景にあるものと考えられる)と言われており、このような要因がシンガポールにおける重油在庫を増加させた背景にあるものと見られる。ただ、インド等南アジア地域において雨季(モンスーン)を前にした気温上昇に伴い空調向けの電力供給のための発電部門での高硫黄重油の需要が増加するとの観測が市場で増大し始めたうえ、中東でも気温が上昇することに伴う発電所向けの需要増加が意識され始めたこと、中国の一部製油所が石油製品製造のため高硫黄重油を調達し続ける(十分な原油輸入枠を政府により付与されない同国一部製油所は代替として高硫黄重油を原料としていると指摘する向きもある)との見方が市場で発生したこと等が、アジア市場における高硫黄重油価格に上方圧力を加えた結果、3月下旬においては同市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は多少なりとも縮小する傾向を示した。それでも、4月に入ると原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かなかったこともあり、高硫黄重油とドバイ原油との価格差は拡大する場面が見られた。他方、船舶向けの需要が低調であったことがアジア市場における低硫黄重油価格に下方圧力を加えたうえ、4月に入ってからは原油価格の上昇に低硫黄重油価格の上昇が追い付かなかったこともあり、3月下旬から4月中旬にかけては低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向となった。

 

2. 2023年3月下旬から4月中旬にかけての原油市場等の状況

2023年3月下旬から4月中旬にかけての原油市場においては、一部の欧米諸国金融機関に対する経営不安や信用不安が市場で後退したこと、イラクのクルド人自治区からトルコへの原油輸送パイプラインが3月25日以降操業を停止したこと、一部OPECプラス産油国が5月1日から12月末にかけ合計で日量116万バレルの自主的な追加減産を実施する旨4月2~3日に明らかになったうえ、6月末まで日量50万バレルの自主的減産を実施する旨表明していたロシアも当該減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日に表明したこと、4月12日に米国労働省から発表された3月の同国消費者物価指数(CPI)上昇率が2月から低下したこと等が、原油相場に上方圧力を加えた結果、3月20日にWTIで1バレル当たり67.64ドルであった原油価格は上昇傾向となり、4月12日には83.26ドルと終値ベースで2022年11月16日以来の高水準に到達する場面も見られた(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~23年)

3月19日にスイス大手金融機関UBSが同じく同国大手金融機関クレディ・スイスを30億スイスフラン(32.3億ドル)で買収する旨発表するとともに、中央銀行6行(米国連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行、スイス国立銀行、カナダ銀行及び日本銀行)が流動性の供給で協力する方針である旨3月19日にFRBが発表したこともあり、クレディ・スイスを巡る信用不安が市場で後退したことにより、3月20日にユーロが上昇した反面米ドルが下落した他、米国株式相場が上昇したことから、3月20日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.90ドル上昇し、終値は67.64ドルとなった。また、米国金融システムの健全性を巡る状況は安定しつつあるが、今後も小規模金融機関が預金流出拡大の可能性に直面した場合には、預金全額保護の措置を実施する方針である旨3月21日に米国のイエレン財務長官が明らかにしたことにより、米国金融部門を巡る信用不安が市場で後退したこともあり、米国株式相場が上昇したこと、足元の市場の状態を考慮した結果、ロシアは3月に実施中であるとされる日量50万バレルの減産措置を6月末まで延長する旨3月21日に同国のノバク副首相が表明したことにより、世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日(3月21日)の原油価格の終値は1バレル当たり69.33ドルと前日終値比で1.69ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2023年4月渡し原油先物契約は取引を終了したが、5月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり69.67ドル(前日終値比同1.85ドルの上昇)であった)。さらに、3月22日には、この日米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(3月17日の週分)において、ガソリン在庫が前週比で640万バレルの減少と2021年9月3日の週(この時は同722万バレルの減少)以来の大幅な減少となった他市場の事前予想(同170~236万バレルの減少)を相当程度上回ったことにより、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期をそう遠くない時期に控えガソリン需給の引き締まり感を市場が意識したことに加え、3月21~22日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)において、0.25%の政策金利引き上げが決定されたものの、これまでのFOMCの声明で示されてきた「継続的に金利を引き上げる」旨の文言が「もう幾分かの金融引き締めが適切になる可能性があると予想する」旨の文言に置き換えられたことにより、この先米国金融当局が政策金利引き上げを休止する方向であるとの観測が市場で発生したこともあり、米ドルが下落したことから、3月22日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.57ドル上昇し、終値は70.90ドルとなった。この結果原油価格は3月20~22日の3日間で1バレル当たり合計4.16ドル上昇した。しかしながら、2023年において1バレル当たり70ドルの原油価格での米国戦略石油備蓄(SPR)再充填実施は困難である他再充填には数年を要するであろう(WTI原油価格1バレル当たり67~72ドル以下になればSPRを再充填する意向である旨米国バイデン政権関係者が2022年10月18日に示唆していた)旨3月23日に米国エネルギー省のグランホルム長官が発言したことにより、米国SPR再充填に伴う石油需給引き締まり観測が市場で後退したことから、3月23日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.94ドル下落し、終値は69.96ドルとなった。3月24日も、2023年において1バレル当たり70ドルの原油価格での米国SPR再充填実施は困難であろう他再充填には数年を要する旨3月23日に米国エネルギー省のグランホルム長官が発言したことにより、米国SPR再充填に伴う石油需給引き締まり観測が市場で後退した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.26ドルと前日終値比で0.70ドル下落した。この結果原油価格は3月23~24日の2日間で1バレル当たり合計1.64ドルの下落となった。

しかしながら、イラクのクルド人自治区からのパイプラインによるトルコへの原油輸送につき、1973年に締結したトルコとイラクの間での合意(同自治区からのトルコへの原油輸送に際してはイラク共和国政府の承認を必要とするとの内容が含まれているとされる)に違反しているとのイラクの訴えを3月23日に国際商業会議所(ICC: International Chamber of Commerce)国際仲裁裁判所(International Court of Arbitration)が認めたことで、同自治区からの原油輸送(日量40~45万バレル程度とされる)が3月25日に停止したことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、3月10日に破綻した米国中堅金融機関シリコンバレー銀行(SVB)を、同国中堅金融機関ファースト・シチズンズ銀行が買収することにより、SVBの預金等が継承される旨3月27日にファースト・シチズンズ銀行が発表したうえ、米国連邦準備制度理事会(FRB)のバー副議長(金融部門管理担当)が、金融システム安定を確保するために必要とされる方策を全ての規模の銀行に対し実施する意向である旨明らかにしたと3月27日に報じられたこともあり、米国銀行の信用不安が市場で後退したこと、ファースト・シチズンズ銀行のSVB買収発表もあり、金融部門を中心として米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、3月27日の原油価格の終値は1バレル当たり72.81ドルと前週末終値比で3.55ドル上昇した。また、3月28日も、イラクのクルド人自治区からトルコへの原油輸送が3月25日に停止したことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、SVBをファースト・シチズンズ銀行が買収する旨3月27日に発表されたうえ、米国の金融システム安定を確保するため必要とされる方策を全ての規模の金融機関に対して実施する意向である旨FRBのバー副議長が示唆したと3月27日に報じられたこともあり、米国金融機関の信用不安が市場で後退した流れを引き継いだことから、3月28日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.39ドル上昇し、終値は73.20ドルとなった。この結果原油価格は3月27~28日の2日間で1バレル当たり合計3.94ドル上昇した。3月29日には、これまでの原油価格下落に対し利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.23ドル下落し、終値は72.97ドルとなった。しかしながら、3月29日にEIAから発表された米国石油統計(3月24日の週分)において、原油在庫が前週比で748万バレル、ガソリン在庫が同290万バレルの、それぞれ減少と、市場の事前予想(原油在庫同10~175万バレル程度の増加、ガソリン在庫同160~225万バレル程度の減少)に反し、もしくは事前予想を上回って減少している旨判明した流れを3月30日の市場が引き継いだことに加え、イラクのクルド人自治区からトルコへの原油輸送が停止したこともあり、同自治区で原油を生産するノルウェー石油会社DNOが操業するタウケ(Tawke)及びペシュカビル(Peshkabir)両油田(2022年時点で日量10.7万バレルの原油生産量)の生産が停止し始めた旨3月29日にDNOが明らかにしたことにより、当該地域からの原油供給停止長期化に対する懸念が市場で増大した流れを引き継いだこと、3月30日にドイツ連邦統計庁から発表された3月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で7.8%の上昇と市場の事前予想(同7.5%の上昇)を上回ったことにより、欧州中央銀行(ECB)によるさらなる金融引き締め策推進観測が市場で強まったこともあり、ユーロが上昇した反面米ドルが下落したことから、この日(3月30日)の原油価格の終値は1バレル当たり74.37ドルと前日終値比で1.40ドル上昇した。また、3月31日も、イラクのクルド人自治区で生産される原油のトルコへの輸送が停止したこともあり、当該自治区で原油を生産する米国石油会社HKNエナジー(HKN Energy)(原油生産量日量3万バレルとされる)の原油生産が減少し始めた他、同じく同自治区で原油を生産する英国石油会社ガルフ・キーストーン・ペトロリアム(Gulf Keystone Petroleum)(原油生産量日量4.5万バレルとされる)が3月31日にも原油生産を削減し始める可能性がある旨示唆したうえ、英国石油会社ジェネル・エナジー(Genel Energy)もこの週末にサルタ(Sarta)油田(原油生産量日量5,000バレルとされる)での原油生産を停止する方向である旨発表したと3月31日に報じられたことにより、当該地域からの原油供給停止拡大に対する懸念が市場で増大したことに加え、3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が51.9と2月の52.6から低下したものの市場の事前予想(51.5~51.6)を上回った他、同日中国国家統計局から発表された3月の同国非製造業PMIが58.2と2月の56.3から上昇、2011年5月(この時は58.7)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(55.0)を上回ったことにより、同国経済及び石油需要の回復期待が市場で増大したこと、3月31日に米国商務省から発表された2月の同国個人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)価格指数(食品及びエネルギー除く)が前年同月比で4.6%の上昇と1月の同4.7%の上昇から伸びが鈍化している旨判明した他、同日米国ミシガン大学から発表された1年先期待物価上昇率(確定値)が3.6%と3月17日に発表された速報値である3.8%から下方修正された他、2月の同4.1%の上昇から伸びが鈍化、2021年4月(この時は同3.4%の上昇)以来の低水準となった旨示されたことにより、米国金融当局による金融引き締め政策減速観測が市場で増大した一方米国経済減速懸念が市場で後退したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.30ドル上昇し、終値は75.67ドルとなった。この結果原油価格は3月30~31日の2日間で1バレル当たり合計2.70ドル上昇した。

また、サウジアラビアが5月1日より2023年末にかけ日量50万バレルの自主的な減産を実施するうえ、他の一部OPECプラス産油国も5月1日から12月末にかけ自主的な追加減産(イラク日量21.1万バレル、UAE同14.4万バレル、クウェート同12.8万バレル、アルジェリア同4.8万バレル、オマーン同4.0万バレル、カザフスタン同7.8万バレル、ガボン同0.8万バレル、合計日量約66万バレル)を実施する旨4月2~3日に報じられた他、従来6月末まで日量50万バレルの自主的な追加減産を実施する旨明らかにしていた(3月21日ノバク副首相発表)ロシアも当該減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が表明したこともあり、この先の世界石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、4月3日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり4.75ドル上昇し、終値は80.42ドルとなった。4月4日も、OPECプラス産油国が5月1日より自主的な追加減産措置を実施する旨発表した等の流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.71ドルと前日終値比で0.29ドル上昇した。この結果原油価格は4月3~4日の2日間で1バレル当たり合計5.04ドルの上昇となった。4月5日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、この日米国企業向け給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された3月の同国民間雇用者数が前月比で14.5万人の増加と市場の事前予想(同20.0~21.0万人の増加)を下回ったうえ、同日米国供給管理協会(ISM)から発表された3月の同国非製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が51.2と2月の55.1から低下、2022年12月(この時は49.2)以来の低水準となった他、市場の事前予想(54.4~54.5)を下回ったこともあり、米国経済減速懸念が市場で拡大したことにより、米国の一部株式相場(スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500種株価指数及びナスダック総合指数)が下落するとともに、安全資産に対する需要が増加したこともあり米ドル購入が進むとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.61ドルと、前日終値比で0.10ドル下落した。4月6日は、4月7日の米国労働省による3月の同国雇用統計発表を前にした持ち高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.09ドルの上昇にとどまり、終値は80.70ドルとなった。なお、4月7日は、米国聖金曜日(グッド・フライデー)に伴う休日により米国原油先物市場は休場であった。

4月10日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、4月7日に米国労働省から発表された3月の同国非農業部門雇用者数が前月比で23.6万人の増加と市場の事前予想(同23.0~23.9万人の増加)とほぼ同水準であったものの、前月比で20万人の増加を上回ったことで堅調に雇用が拡大しているとの認識が市場で増大した他、失業率が3.5%と前月の3.6%から低下した他市場の事前予想(3.6%)を下回ったこともあり、米国金融当局による政策金利引き上げ継続の観測が強まったうえ、4月10日に就任した日本銀行の植田総裁が当面現在の大規模緩和策を継続する意向を示唆したことにより日本円が下落したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.74ドルと前週末終値比で0.96ドル下落した。しかしながら、4月11日には、この日EIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)において、2023年の世界石油供給を日量17万バレル下方修正した一方世界石油需要を据え置いたこともあり、EIAが2023年のWTI原油価格見通しを1バレル当たり79.24ドルと3月7日に発表された前回のSTEOにおける見通しである同77.10ドルから上方修正したことにより、この先のより堅調な原油価格を市場が意識したことに加え、今後発表される経済指標の内容次第ではあるものの、2023年末までにもう1回だけ0.25%の政策金利引き上げを実施したうえで当該金利引き上げを停止することは適切な出発点になるであろう旨4月11日にニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が明らかにしたことにより、米国金融当局による金融引き締め政策の減速に対する観測が市場で増大したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.79ドル上昇し、終値は81.53ドルとなった。また、4月12日も、この日米国労働省から発表された3月の同国消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比5.0%と2月の同6.0%から低下した他、2021年5月(この時は同5.0%)以来の低水準に到達、市場の事前予想(同5.1~5.2%)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ終了が間近に迫っているとの見方が市場で強まったこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.26ドルと前日終値比で1.73ドル上昇した他、この日の終値は2022年11月16日(この時は85.59ドル)以来の高水準のものとなった。また、この結果原油価格は4月11~12日の2日間で1バレル当たり合計3.52ドル上昇した。ただ、4月13日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、米国金融当局による金融引き締め政策により夏場の同国石油需要の伸びが鈍化する恐れがある他、最近の中国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の事実上の終了も世界石油需要の回復には不十分である旨4月13日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートで示唆されていたことにより、世界石油需要の堅調な増加に対する楽観的な見方が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.10ドル下落し、終値は82.16ドルとなった。それでも、4月14日には、この日国際エネルギー機関(IEA)事務局から発表されたオイル・マーケット・レポートで、4月2日に発表されたOPECプラス産油国による自主的な追加減産措置の実施により、2023年後半は世界石油供給不足が悪化するとともに石油価格が上昇するリスクが高まる旨IEAが警告したことで原油価格の先高感を市場が意識したことに加え、4月14日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で591基と前回発表時より2基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は572基と前回発表時より7基減少)したことにより、この先の米国原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.52ドルと前日終値比で0.36ドル上昇した。

 

3. 原油市場における主な注目点等

2022年12月5日のロシアからの海上輸送経由等による原油購入の禁止に続き、欧州連合(EU)加盟国は2023年2月5日を以てロシアからの海上輸送経由等による石油製品購入を禁止するとともに、主要7ヶ国政府(G7)及びEU等は、ロシアから輸出される石油製品の購入価格につき重油及びナフサに対し1バレル当たり45ドル、ガソリン、ジェット燃料及び軽油等に対し1バレル当たり100ドルの、それぞれ上限価格を設定した。これらの上限価格を超過した場合、保険付保を含む輸送サービスをG7及びEU加盟国等の企業から受けられなくなる。しかしながら、これまでのところ、ロシアからの石油製品の輸出はEU加盟国(そして米国及び英国等)以外の諸国に向かうとともに、米国やEU加盟国は石油製品の代替調達を進めつつあることもあり(後述)、この面で世界石油製品供給に大きな混乱は発生しておらず、従ってこの面で世界石油製品(及び原油)相場に上方圧力が加わると言った展開とはなっていない。それでも、ロシア産の石油製品及び原油の輸送に際し、ロシア産原油及び石油製品を積載したタンカー等の通過沿岸国が、保険付保に不備がないかどうかを確認するために関連書類を点検すべく、当該タンカー航行の一時停止を指示するといった展開となることも否定できない(実際、12月5日に原油価格上限が設定された際には、トルコ海運当局がボスポラス(及び近隣のダーダネルス)海峡を通過する石油タンカーに対し保険付保に関するより大幅に詳細な書類の提出を要求したことに伴い、2022年11月29日以降同海峡付近で石油タンカーの航行が停止、12月10日時点では27隻の石油タンカーが滞船した(西側諸国等の政府がトルコ政府と協議した後、滞船は解消に向かった)ことにより、石油流通の混乱に対する懸念が市場で発生する場面が見られた)ことから、G7及びEU加盟国等による購入価格上限の設定等に伴うロシア産原油及び石油製品の流通を巡る状況に関しては注意し続ける必要があろう。

また、2022年2月24日以降のロシアのウクライナ侵攻に伴う欧州諸国との対立の激化に伴う、EU加盟国等による対ロシア制裁へのロシアによる事実上の報復措置として、パイプライン経由のロシアからの天然ガス輸送が削減される格好となった。現時点では、ロシアからのLNGによる欧州諸国向け天然ガス輸出は全体としては従来通り実施されている形となっており、実際相当量のLNGが欧州天然ガス消費国に流入している(2022年時点で欧州諸国は日量17億立方フィートのロシア産LNGを輸入しているとされており、これは2021年の同16億立方フィートから7%程度の増加となっている他、2022年の同地域のLNG輸入総量の約10%に相当する)。しかしながら、3月9日にはEUのエネルギー担当委員であるシムソン氏が、欧州企業に対しロシアからのLNG購入に関する新規契約を締結すべきではない旨表明した他、スペイン政府は国内のLNG輸入者等に対しロシアのLNG販売収入抑制のため、ロシア産LNGの新規購入契約を差し控えるよう呼びかけた旨3月24日に伝えられた(但しEU及びスペイン政府の呼びかけはLNG輸入者が厳格に遵守すべき義務となっているわけではなく、従って遵守しない企業に対して罰則を科すこともないものとされる)。また、オランダ政府も公式発表なくロシアからの新規LNG購入契約の調印を停止したのみならず、長期契約及び随時(スポット)契約を含めロシアからの全てのLNG輸入を終了させるべく検討している旨同国のイェッテン気候エネルギー政策相が明らかにしたと4月12日に伝えられる。他方、3月28日には、EU加盟国がロシア産LNGの購入を停止するための法的措置を検討する(ロシア企業がEU諸国のLNG受入基地を使用することを防止することが選択肢にある旨示唆される)ことで合意した。このため、これまで影響を受けてこなかったロシア産LNGのEU加盟国等に対する供給が制限を受ける可能性が生じている。本件は今後EU議会での議論を経る必要があるが、当該決議にはEUの27加盟国による全会一致が必要となることもあり、議論は紆余曲折を経つつ数ヶ月間を要することも想定される。しかしながら、議論の進捗具合によっては、一時的にせよ欧州を中心とする地域の天然ガス供給混乱を招く可能性がある他、ロシアがEU加盟国向けのLNG供給を削減すると言った事実上の報復措置を実施する結果、欧州地域のLNGを含む天然ガス需給の引き締まり懸念が市場で増大するとともに天然ガス価格が上昇することにより、相対的に安価となる可能性のある石油の需要が増加するとの観測が市場で発生するとともに、その思惑から石油の購入が進むことにより原油価格に上方圧力が加わるといった場面が見られるといったことも否定しきれない。

他方、2016年1月3日以降断交状態(サウジアラビアが2016年1月2日にテロ行為に関与した等の理由によりイスラム教シーア派指導者ニムル師の処刑を執行したことに対し、イランでデモ隊が抗議行動として在テヘランサウジアラビア大使館を襲撃したことが理由とされる)であるサウジアラビアとイランが、今後2ヶ月以内に大使館を再開させることを含め外交関係を回復させる旨3月10日に合意した(中国等の仲介努力によるものとされる)。4月6日には、中国の北京においてサウジアラビアのファイサル外相とイランのアブドラヒアン外相が正式な会談を実施した(断交後初めて実施された外相級会談であったとされる)。加えて、イエメンにおける、ハディ暫定大統領派勢力(サウジアラビアが主導する有志連合軍が支援)と、対立するフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)との間での事実上の内戦の終結に向けた協議を実施するため、サウジアラビアと仲介役を担うオマーンから交渉団がイエメンの首都であるサヌアに派遣され、4月9日によりフーシ派武装勢力との間で協議を行なっており、4月下旬にも内戦終結に向けた合意がなされる可能性がある旨4月7日に伝えられる他、4月14日から3日間の予定でハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で900人近くの同国の事実上の内戦に伴う捕虜の交換を実施している。従って、2019年9月14日(現地時間午前3時30~40分頃と伝えられる)にサウジアラビア東部にあるアブカイク(Abqaiq)原油処理施設(原油処理能力日量700万バレル超とされる)及びクライス(Khurais)油田(原油生産能力日量120万バレル程度と伝えられる)が攻撃され(9月14日にイエメンのフーシ派武装勢力が犯行声明を発表しているが、同日米国はイランが関与している旨示唆した)、施設が一部破壊された結果、日量570万バレル相当の原油供給に支障が発生するなどしたことにより、世界石油需給の引き締まり感が強まるなどしたが、このようなフーシ派武装勢力によるサウジアラビアの石油関連施設攻撃実施に伴う同国からの石油供給途絶の可能性に対する懸念が市場で後退することにより、この面では原油相場への上方圧力が低下する可能性もあるものと考えられる。しかしながら、関係者が停戦で合意できないようであれば、再びフーシ派武装勢力からサウジアラビア等の石油関連施設に向けミサイルや無人攻撃機が発射されることになり、それによって中東地域を巡る石油供給途絶懸念が市場で高まるとともに、原油相場に影響を与えるといったことも想定されるため、停戦協議の成り行きにつき注目する必要があろう。

また、3月23日にはシリア北部において米軍が駐留する基地(イスラム国(IS)掃討のためのものとされる)が無人機による攻撃を受け米国民間人1人が死亡、米国軍事関係者等6人が負傷、これを受け米軍はシリア東部にあるイラン革命防衛隊が関与しているとされる施設に対し報復措置として空爆を実施した旨同日米国国防省が発表した。また、3月31日未明(現地時間)には、シリアの首都ダマスカス近郊がミサイルにより攻撃された結果、イラン革命防衛隊の構成員が死亡したが、革命防衛隊はイスラエルが攻撃を実施したとして非難するとともに、イスラエルに対し報復措置を実施する旨表明した。さらに、イランは既に濃縮度60%の濃縮ウランを製造している他、国際原子力機関(IAEA)が同国フォルドゥにある核開発関連施設で濃縮度83.7%の濃縮ウランの存在を確認した旨2月28日に報じられた(濃縮度90%の濃縮ウランを用いれば核兵器が製造可能とされるが、イラン側は83.7%の濃縮度のウランは意図して製造したものではないと主張した旨2月28日に伝えられる)が、これについても、少なくとも現時点までにおいては60%濃縮度の濃縮ウランの製造を中止すると言った決定をイラン側が下したと言った状況でもない。このように、米国とイランとの関係は必ずしも顕著に改善しているようには見受けられないこともあり、今後も米国(もしくはイランと対立するイスラエル)がシリア等にあるイラン革命防衛隊の関与する施設を攻撃する一方、ペルシャ湾沖合を航行する等する石油タンカーが攻撃される(声明が発表されないこともあり犯行者が判然としないことがあるが、イランの革命防衛隊が関与していると推測されることもある)等、米国等とイランとの間での対立が激化することにより、中東情勢が不安定化するとともに、当該地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油価格が上振れすると言った展開となることが依然としてありうることに注意を要する。

また、3月23日に国際商業会議所(ICC: International Chamber of Commerce)国際仲裁裁判所(International Court of Arbitration)が、トルコがイラクのクルド人自治区からのパイプライン経由での原油輸送につき、1973年に締結したトルコとイラクの当該パイプライン輸送に関する合意に違反しているとのイラク連邦政府の訴えを認めたうえ、3月26日にはトルコに対し当該違反により15億ドルの損害賠償金をイラク連邦政府に対し支払うよう命じた(2014年から2018年にかけてのクルド人自治区からトルコへの原油輸送がイラク国営石油販売会社(SOMO: State Organization for Marketing of Oil)を通じたものでなければならないとの両国の合意内容から逸脱している旨イラク連邦政府が提訴したとされる)ことで、当該パイプライン経由でのクルド人自治区からの原油輸出(日量40~45万バレル程度とされる)が3月25日に停止した。イラクのクルド人自治区で生産される原油のトルコへの輸送が停止したこともあり、当該地域で原油を生産する米国石油会社HKNエナジー(HKN Energy)(原油生産量日量3万バレルとされる)の原油生産が減少し始めた他、同じく同地域で原油を生産する英国石油会社ガルフ・キーストーン・ペトロリアム(Gulf Keystone Petroleum)(原油生産量日量4.5万バレルとされる)が3月31日にも原油生産を削減し始める可能性がある旨示唆したうえ、英国石油会社ジェネル・エナジー(Genel Energy)も週末(4月1~2日)に同自治区にあるサルタ(Sarta)油田(原油生産量日量5,000バレルとされる)の生産を停止する方向である旨発表したと3月31日に報じられた。4月4日にはイラク連邦政府とクルド人自治区政府との間で石油輸出の再開につき暫定的な合意に到達した(併せてイラク連邦政府は米国のワシントン特別区連邦地方裁判所に対し当該仲裁をトルコに対して執行するよう申し立てを行なった)。しかしながら、トルコ側は2018年以降のクルド人自治区からの原油輸送に関する仲裁が決着していないこと、及び2014~18年の同自治区からの原油輸送に関する仲裁に基づくトルコからイラク連邦政府への損害賠償額につきさらなる協議を希望することを理由として、クルド人自治区において生産された原油の輸送を再開させていないと4月6日に報じられるとともに、当該パイプラインの操業者は4月14日時点においても操業再開指示を受けていないと伝えられる。このようなことから、この先北半球が夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入する(後述)中、より強い世界石油需給引き締まり感を市場が意識することにより、原油相場に上方圧力が加わりやすくなる可能性がある。

3月10日に米国中堅金融機関シリコンバレー銀行(SVB)、3月12日には同国シグネチャー銀行が、それぞれ破綻した後、3月21~22日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては、政策金利を0.25%引き上げる旨決定したものの、これまでのFOMCの声明で示されてきた「継続的な金利引き上げる」旨の文言が「もう幾分かの金融引き締めが適切になる可能性があると予想する」旨の文言に置き換えられたことにより、近いうちに米国金融当局が政策金利引き上げを休止するとの観測が市場で発生したことから、米ドルが下落基調となったこともあり、この面で原油相場に上方圧力が加わる格好となっている。その後、破綻したSVBを同国中堅金融機関ファースト・シチズンズ銀行が買収することにより、SVBの預金等が継承される旨3月27日にファースト・シチズンズ銀行が発表したうえ、米国連邦準備制度理事会(FRB)のバー副議長(金融部門管理担当)が、金融システム安定を確保するために必要とされる方策を全ての規模の銀行に対し実施する意向である旨明らかにしたと3月27日に報じられたことにより、米国金融機関を巡る信用不安が後退したこともあり、米国株式相場が回復するとともに原油相場が押し上げられる格好となった。そのような中、4月7日に米国労働省から発表された3月の同国非農業部門雇用者数が前月比で23.6万人の増加と市場の事前予想(同23.0~23.9万人の増加)とほぼ同水準であった他、2月の前月比32.6万人の増加からは雇用者数の伸びが鈍化している旨示された。ただ依然として前月比での雇用者数の増加が20万人を上回ったことで、堅調に雇用は拡大していると市場が受け止めた他、失業率が3.5%と前月の3.6%から低下した他市場の事前予想(3.6%)を下回ったこともあり、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が根強く存在している(5月2~3日に開催される予定である次回FOMCで0.25%の政策金利引き上げが決定される確率は4月16日時点で78.0%、政策金利据え置きが決定される確率は同日時点で22.0%であった)。従来から米国金融当局者の一部は政策金利を引き上げ続けるべきである旨主張しており(3月30日に、ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁、ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁及びリッチモンド銀行のバーキン総裁、4月4日にクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁、4月6日にセントルイス連邦準備銀行のブラード総裁が、それぞれ物価上昇抑制のために政策金利引き上げ継続が望ましい旨発言もしくは示唆した)。また、4月12日に米国労働省から発表された3月の同国消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比5.0%と2月の同6.0%から低下した他、2021年5月(この時は同5.0%)以来の低水準に到達、市場の事前予想(同5.1~5.2%)を下回った一方、同国の食品及びエネルギーを除くCPI上昇率が前年同月比5.6%と2月の同5.5%から拡大したうえ、4月14日に米国ミシガン大学から発表された1年先の期待物価上昇率が年率4.6%と3月31日発表時点の同3.6%から拡大している旨判明するなど、同国の物価上昇を巡る指標類はまちまちな状況である。このようなこともあり、米国物価上昇圧力は根強いことからさらなる金融引き締め政策が必要である旨米国FRBのウォラー理事が4月14日に主張した一方、米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が4月12日に、米国シカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が4月14日に、それぞれさらなる政策金利引き上げに対し消極的な姿勢を示唆した。また、今後発表される経済指標結果次第ではあるものの、2023年末までにもう1回だけ0.25%の政策金利引き上げを実施したうえで当該金利引き上げを停止することは適切な出発点になるであろう旨4月11日にニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が明らかにしている。このように、米国の物価上昇を巡る指標類や米国金融当局関係者の発言が、今後の米国政策金利引き上げ方針に関する方向性を示しているとは言えない状況にある他、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が接近しつつあるうえ、5月1日からは一部OPECプラス産油国が自主的な追加減産を実施する予定であること(後述)もあり、この面でこの先原油及びガソリン小売価格が上昇する可能性もあると見られるなど、さらに物価上昇を巡る環境が複雑化する様相を呈している中、今後米国経済指標類の内容等や米国金融当局関係者の発言等によって次回FOMCにおいて予想される政策金利を含む金融政策の決定内容に関する市場の見方が変化する結果、米ドル及び米国株式相場が変動するとともに、その影響が原油相場に及ぶ可能性がある。また、5月2~3日のFOMCにおける決定事項、そして5月3日のFOMC終了後のパウエルFRB議長の米国の物価を含む経済情勢に関する見解等が米ドル及び米国株式相場とともに原油相場に影響を与えるものと考えられる。また、4月中旬以降米国主要企業等の2023年1~3月期業績等が発表され始めており、これは当面継続する予定であることから、業績(もしくは業績見通し)の内容等によって株式相場が変動するとともに、それが石油需要増加ペースに対する市場の見解に反映されることを通じ原油相場にその影響が織り込まれるといった展開も想定される。

中国では2023年1月以降ガソリン輸出が低迷する傾向を示している。これは、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制及び経済活動制限が事実上撤廃されたことにより、個人の外出が促されるとともに往来が活発化したこともあり、乗用車向けのガソリン需要が喚起されたことが背景にあるものと見られる。また、個人の外出が活発化したこともあり、サービス業を中心として中国経済が拡大する格好にもなった。例えば、3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国非製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が58.2と2月の56.3から上昇、2011年5月(この時は58.7)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(55.0)を上回ったうえ、4月6日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された3月の同国サービス業PMIが57.8と2月の55.0から上昇、2020年11月(この時は57.8)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(55.0)を上回るなど、3月は当該部門の経済活動が相当程度拡大した旨示唆される。しかしながら、過去1年程度実施されてきた厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を事実上撤廃したことに伴う反動により、個人の外出が急激に旺盛になるとともに飲食や宿泊を含む非製造業の活動が活発化した側面もあり、3月下旬時点では飲食及び宿泊部門での経済活動の拡大は一巡しつつある旨3月27日に伝えられる(ただ、金融、不動産及び情報技術(IT)と非製造業の他の部門の活動は上向きつつあるとの指摘もなされる)。他方、同国の製造業については、3月31日に中国国家統計局から発表された3月の同国製造業PMIが51.9と市場の事前予想(51.5~51.6)を上回ったものの2月の52.6から低下したうえ、4月3日に財新伝媒から発表された3月の同国製造業PMIが50.0と2月の51.6から低下した他、市場の事前予想(51.4)を下回るなど、同国の製造業の活動の回復はもたつき気味であることが示唆される。ただ、4月13日に中国税関総署から発表された3月の同国輸出額(米ドルベース)が前年同月比で14.8%の増加となった他市場の事前予想(同7.0%の減少)に反し増加していたうえ、同国輸入額(同)が同1.4%の減少と市場の事前予想(同5.0%の減少)ほど減少していなかった旨判明したこともあり、現時点ではいずれにしても今後中国経済が回復に向かうことに伴い同国の石油需要が上振れする結果世界石油需給が引き締まるとの見方が石油市場関係者間で根強く、この面では足元原油相場を持続的に下落させるは至っておらず、今後も同国経済が順調に回復していることを示唆しない経済指標類等が明らかになっても、原油相場への下方圧力が限定的なものにとどまるといった展開となることもありうる。しかしながら、欧米諸国等の政策金利引き上げ等により当該地域の金融機関に対する経営不安や信用不安が再燃することを含め当該地域の経済減速が深刻化する兆候が見られるようであれば、欧米諸国等との貿易関係を通じ中国経済も減速するとの不安感が市場で拡大することにより、同国の石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で増大する結果、原油相場の上昇が抑制されると言った場面が見られることも否定できない。

米国では、今後夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が市場関係者の視野に入るとともに、製油所が春場のメンテナンス作業を終了し稼働を上昇、原油精製処理量を増加させるとともに原油購入を活発化させることから、季節的に石油需給の引き締まり感が強まる。その結果、原油相場に上方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。

また、フランスでは、年金受給開始年齢を従来の62歳から64歳に引き上げることに抗議し、3月6日より各地でストライキが実施されており、この結果、製油所、LNG受入ターミナル(3月6日にモントワール(Montoir)(LNG受入能力年間800万トン)、フォス・トンカン(Fos Tonkin)(同240万トン)、フォス・カバウ(Fos Cavau)(同660万トン)が操業を停止、3月7日にドゥンケルク(Dunkerque)(同960万トン)が操業を停止しており、このうちドゥンケルクは3月17日に操業を再開したものの、3月23日にはストライキにより再び10%程度の稼働率となったものと推測される)、原子力を含む発電所の操業が停止した(これにより1,350万kW相当の発電能力が利用不可能となった旨3月22日に伝えられる)。また、一時は同国の原油精製能力日量約115万バレル中少なくとも日量90万バレル相当分の能力が稼働停止に追い込まれた。現在一部製油所(トタル・エナジーズのフェイザン(Feyzin)製油所(原油精製処理量日量10.9万バレル)及びエクソンモービルのポール・ジェローム・グラヴァンション(Port Jerome Gravenchon)(同23.6万バレル))は操業を再開させつつある(フェイザン製油所は操業が完全に回復した他、ポール・ジェローム製油所も操業再開作業を開始した旨4月5日に報じられる)とされるものの、年金問題は根本的に解決していないところからすると、今後再びストライキが拡大することにより、例えば物流活動に支障が発生する(もしくはそもそも製油所の労働者が再びストライキに突入する)等の理由より製油所の操業が停止する結果、欧州の石油製品需給引き締まり感が市場で発生することにより石油製品相場に上方圧力が加わるとともに原油価格もその影響を受けるといった展開もありうるため注意する必要があろう。また、英領北海において作業に従事する石油・ガスサービス産業労働者が賃金を含めよりよい労働条件を求め、3月29日から6月7日にかけ、24~72時間のストライキを予定していると3月23日に伝えられる(4月24日から48時間に渡り1,300人の沖合油・ガス田労働者がストライキに突入する予定であると4月9日に伝えられる)が、これにより英領北海油田からの原油供給に支障が発生するようであれば、北半球が夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しつつある時期に原油を含む石油需給引き締まり感が市場で強まる結果、石油製品及び原油相場に上方圧力が加わるといった場面が見られることもありうる。

他方、サウジアラビアが5月1日より2023年末にかけ日量50万バレルの自主的な減産を実施する他、他の一部OPECプラス産油国も5月1日から12月末にかけ、自主的な減産(イラク日量21.1万バレル、UAE同14.4万バレル、クウェート同12.8万バレル、アルジェリア同4.8万バレル、オマーン同4万バレル、カザフスタン同7.8万バレル、ガボン同0.8万バレル、合計日量約66万バレル)を実施する旨4月2~3日に報じられた他、従来3月から6月にかけ日量50万バレルの自主的減産を実施する旨表明していた(3月21日ノバク副首相発表)ロシアも当該減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が表明した。3月20日にブレント原油価格が1バレル当たり70.12ドルと2021年12月20日(この時は同69.28ドル)以来の低水準に到達した時点で、OPECプラス産油国の一部は生産政策の再調整を意識し始めたとされる。3月10~12日には米国中堅金融機関が破綻した他、3月15日にはスイス大手金融機関クレディ・スイスの経営不安が拡大したことにより、原油価格が下落し始めたが、このままOPECプラス産油国が静観したままとなるようであれば、OPECプラス産油国は原油価格の下落を容認しているものとの市場関係者の認識が強まることにより、原油先物契約の売却が拡大するとともに、原油価格の下落が加速することになり、そのような下落が加速した時点で原油相場の立て直しを図ろうとOPECプラス産油国が行動しても、原油価格が制御不能の状態となっている恐れがあることをOPECプラス産油国が危惧するとともに、原油価格の下落(の加速)を先制的に防止しようとしたことが、今回の一部OPECプラス産油国の追加減産措置の決定の背景にある他、実際に減産が可能な産油国に対し可能な限り機動的に減産措置につき決定すべく行動した結果一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産という形式を採用するに至ったものと考えられる(なお、4月13日にOPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートでは、物価上昇、金融引き締め及び金融市場の安定性の問題を世界経済が抱える中、中国の厳格な新型コロナウイルス感染抑制策の事実上の終了も、春場のメンテナンス作業実施やフランスでのストライキに伴う製油所の原油精製処理量の減少を相殺するには不十分であるうえ、OECD諸国の石油在庫が最近数ヶ月積み上がりつつあるなど、石油需給が前年同期に比べ緩和しつつあるといった、世界石油市場をめぐる不透明感が、今回の一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産に繋がった旨示唆されている)。それでも、3月20日にブレント原油価格が1年3ヶ月ぶりの低水準に到達してから、一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産の実施が発表された4月2日までには2週間程度を要した一方、4月1日にはブレント原油価格が1バレル当たり79.77ドルの終値に到達するなど、多少なりとも持ち直したことから、OPECプラス産油国の自主的な追加減産措置実施の発表は原油相場の下落を防止するというよりは、原油価格の上昇を加速する形で作用した。このようなこともあり、従来から、米国一部金融機関が破綻するなど同国等の経済減速を巡る懸念が市場で広がる(つまりこれは米国金融当局に対し政策金利引き上げ停止(もしくは引き下げの開始)への圧力を増大させる)一方、依然として米国の物価上昇率は目標とする年率2%を相当程度上回っている(つまりこれは米国金融当局に対し政策金利引き上げ継続への圧力が根強いことを意味する)ことから、米国金融当局としては、政策金利を含む金融政策実施の方向性を巡り板挟みの状態となっているところに、一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産実施発表以前の段階で既に2023年後半は世界石油需給が引き締まる方向に向かうと予想される(表1参照)中でのOPECプラス産油国による自主的な追加減産実施の発表により、2023年は第2四半期以降世界石油需要が石油供給を上回る可能性が高まる(表2参照)とともに、世界石油需給の一層の引き締まり観測から原油相場及びガソリン小売価格に上方圧力が加わることが、物価上昇に対する圧力をさらに強めることに伴い、米国金融当局による金融政策決定を巡る環境が一層複雑化したものと考えられる。このようなことから、OPECプラス産油国の自主的な追加減産発表後、米国国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、4月3日に当該追加減産の実施は賢明ではない旨示唆した(なお、米国に対しては事前にOPECプラス産油国側から当該追加減産措置の実施方針を示唆する向きがあった旨同氏は明らかにしている)。今回のOPECプラス産油国の追加減産は原油価格の下落局面が若干ながら修正された段階で表明されるなど、時宜を得えたようには見えない側面もあるものの、OPECプラス産油国は原油価格下落加速の兆候に対し(可能な限り)先制的に行動することを示した例となったこともあり、今後はこの面で原油価格の下落がより抑制されやすくなるものと考えられる(なお、4月3日にはOPECプラス産油国協働閣僚監視委員会(JMMC)が開催されたが、一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産措置(2023年末にかけてのロシアの日量50万バレルに加え、サウジアラビアを初めとするOPECプラス産油8ヶ国による同116万バレルの自主減産による、合計同166万バレルの減産)に対し、石油市場安定を支援するために先制的な方策であるものと認識するとの声明を発表したが、従来から実施されている2022年8月比での日量200万バレルの減産措置については事実上据え置きとなった)。他方、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが一部の北東アジア石油会社に対し5月の原油供給数量を契約通りとする他、UAEのアブダビ国営石油会社(ADNOC)も少なくともアジア石油会社3社に対し6月の原油供給数量を契約通りとする旨通知したと4月10日に伝えられるが、このような産油国を含め自主的な追加減産実施を表明した一部OPECプラス産油国が実際にどの程度原油生産を削減できるか、ということに今後の市場の注目が集まるとともに、自主的な追加減産の遵守状況を巡る状況が原油相場に織り込まれる可能性がある。また、ロシアについても、2023年2月比で日量50万バレルの原油生産削減を3月から2023年末まで実施する方針である旨表明しており、特に3月は前月比で日量70万バレルの減産を実施した旨同国エネルギー省が明らかにしたと4月7日に報じられるが、3月の同国の海上輸送経由による原油輸出量は前月比で日量7万バレル程度増加したと推定されるなど、減産を巡る数値の整合性に疑問が残るなどしており(なお同国の製油所の原油精製処理活動が春場のメンテナンス作業に伴い4月は2~3月比で日量42.5~45.5万バレル減少すると3月24日に伝えられるが、3月はこのようなメンテナンス作業実施前に当たると見られることから、この面からのロシアでの原油生産削減の説明も困難なものと考えられる)、今後明らかになるであろう、同国の原油生産を巡る情報等によって、同国の減産遵守状況がより明確になるとともに、そのような状況が原油相場に織り込まれる場面が見られる可能性もある。

表1 世界石油需給バランスシナリオ(2023年)(2023年3月19日時点)

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2023年)(2023年4月16日時点)

全体としては、一部OPECプラス産油国による追加減産実施等の原油相場下落抑制への先制的な行動の可能性に対する市場関係者の認識が原油相場を下支えする中、北半球の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入が市場で意識され始めることによる季節的な石油需給の引き締まり感の増大、及び厳格な新型コロナ感染抑制策の事実上の撤廃に伴う中国経済の回復等による石油需要の増加への期待が原油相場に上方圧力を加えやすいものと考えられる。そのような中、米国の金融政策を巡る同国金融当局者の発言や次回FOMCでの決定事項等に基づく米国株式相場や米ドルの動向、イラクのクルド人自治区からトルコに向けた原油輸送の再開を巡る状況、中国の実際の経済回復等を巡る情報、自主的な追加減産実施を発表した一部OPECプラス産油国による実際の減産遵守状況等が原油相場に影響するものと考えられる。

 

4. ロシアの石油製品輸出を巡る状況等に関する一考察

2021年時点ではロシアから日量153万バレルの石油製品が欧州に向け輸出されており、これはロシアの石油製品輸出の全体量である日量283万バレルの54%を占めていた(図16参照)。また、2021年の欧州の石油製品輸入量全体(日量400万バレル)の38%をロシア産石油製品が占めていた(図17参照)。このようにロシア及び欧州は相当程度の石油製品輸出入の相互依存状態となっていた。しかしながら、2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始したことを受け、2023年2月5日を以てロシアからの海上輸送等による石油製品購入を禁止する旨の対ロシア制裁を2022年6月3日にEUが発動した。そしてこれ以降、ロシア産石油製品の輸出や欧州等における石油製品の動きに変化が見られるようになった。ここでは、2022年初頭から現在に至る期間を中心として、ロシアからの石油製品輸出、及び欧州の石油製品輸入等に関する動向につき説明することとしたい。

図16 ロシアからの石油製品輸出量(2021年)(日量万バレル)

図17 欧州の石油製品由修(2021年)(日量万バレル)

まず、ロシアからの石油製品全体の輸出について見てみるが、2022年1月以降多少の変動はあるものの、概ね日量230~320万バレルの範囲で推移しており、EUが海上輸送経由等のロシア産石油製品輸入を禁止した2023年2月5日以降2023年3月に至るまでの期間を含めても、当該輸出量に増加もしくは減少の傾向は認められない(図18参照)。ただ石油製品の輸出先には変化が見られる。それぞれ日量20~30万バレル程度であったロシアから米国及び英国向けの石油製品輸出(米国は精製原料(後述)、英国は軽油が中心であった)は、ロシアがウクライナへの侵攻を開始して間もない3月には日量10万バレルへと減少したうえ、4月以降現在に至るまでほぼ皆無となった。また、アジア太平洋OECD諸国(日本、韓国、豪州及びニュージーランド)については、従来ロシアは韓国に向け軽油やナフサ等日量10~20万バレル程度の石油製品を輸出していたが、ナフサについては2022年5月以降輸出が皆無となったものの、軽油についてはロシアの極東沿岸港「ハバロフスク」から日量数万バレル程度ではあるが韓国に向け輸出する場面が見られる。ナフサについては、韓国に変わりシンガポール及びインド等といった他のアジア諸国への輸出が拡大しているが、2022年12月5日にG7及びEU等がロシア産ナフサに対し1バレル当たり45ドルの購入価格上限を設定したこともあり、ナフサを他の製品と混合したうえでガソリンの類いとして輸出することにより、ナフサの購入価格上限超過を回避していると見る向きもある(G7及びEU等によるロシア産ガソリンの購入上限価格は1バレル当たり100ドルとなっているため、ナフサに比べ相対的に販売が容易であると指摘する向きもある)。

図18 ロシアの石油製品輸出(2022~23年)

他方、ロシアからEU加盟国向けには軽油を中心として2022年初頭に日量140~160万バレルの石油製品が輸出されていたが、ロシアのウクライナへの侵攻開始後の2022年3月以降は一時減少傾向となり、同年8~12月には日量100万バレル程度の水準へと落ち込んだ。これは、EU加盟国のロシアとの石油製品に関する取引が西側諸国等による対ロシア制裁に抵触する可能性が生じたことや、ロシアとの石油製品の取引を行なう企業の石油製品購入代金が最終的にはロシアのウクライナ侵攻に伴う戦費として利用されることにより、結果としてロシアに協力しているとして可能性があるとして、株主等から批判されるという、いわゆる企業の「評判リスク」に対する懸念から、ロシアとの石油製品売買を敬遠する動きが見られたことが背景にあったものと見られる(特に対ロシア制裁発動直後は制裁内容の運用面での詳細が把握しきれなかったこともあり、ロシア産石油製品取引に携わっていた企業はロシア産石油製品購入に一層慎重になったものと考えられる)。しかしながら、西側諸国等による対ロシア制裁の運用を巡る不透明感の後退し始める中、2023年2月5日のEU加盟国の海上輸送経由等のロシア産石油製品の購入禁止の実施を控え、石油製品供給不足の発生を回避すべくEU加盟国において予め石油製品在庫を積み上げておこうとする動きが発生したことから、2022年11~12月にはロシアからのEU加盟国向け石油製品輸出量は日量120~130万バレルへと持ち直す場面が見られた。それでも、2月5日のロシア産石油製品購入禁止日が迫り始めた2023年1月にはロシアからのEU加盟国向け石油製品輸出量は減少し始め、2023年3月のロシアのEU加盟国向け石油製品輸出は日量30万バレルと2022年初頭に比べ5分の1程度の規模になるなど大幅に減少している。

ただ、米国、英国、アジア太平洋OECD諸国及びEU加盟国への石油製品輸出が減少した反面、ロシアは他の諸国への輸出を拡大した。例えば、チュニジア、アルジェリア、モロッコ及びガーナといったアフリカ諸国やトルコに向け軽油の輸出が、ナイジェリア、リビア及びチュニジア等に向けガソリンの輸出が、それぞれ活発化したことから、2022年1月には日量10万バレルであったロシアのアフリカ諸国への石油製品輸出は2023年3月には日量50万バレルに増加した他、同じく2022年1月には日量10万バレルであったトルコへの石油製品輸出も2023年3月には日量40万バレルに到達した。加えてUAEやオマーンを含む中東諸国に向けてもロシアからのガソリン、軽油及び重油等を中心とした石油製品の輸出が活発化したこともあり、2022年1月には日量10万バレルであったロシアの中東諸国向け石油製品輸出は2023年3月には同40万バレルへと増加した。なお、中東諸国はロシアから重油を割安(西側諸国等によるロシア産石油製品購入意欲の低下により、販売先の限られた石油製品は、販売先の限られない石油製品に比べ割安で販売されやすい)で輸入し、自国において発電用燃料として利用する一方、従来製油所で処理して重油を製造し発電部門で消費していた中東産油国は自国産原油を国際販売価格(つまりロシア産原油よりも割高の価格)で輸出することにより利鞘を確保していたと指摘する向きもある。また、シンガポールを含むアジア非OECD諸国へは主に重油及びナフサ等の輸出が拡大したこともあり、2022年1月には日量10万バレルであった、ロシアからアジア非OECD諸国への石油製品輸出量は2023年3月には日量40万バレルへと増加した。また、2022年初頭時点ではロシアから中国及びインドに向けた石油製品輸出は限定的であったが、2023年3月時点では両国向けの石油製品輸出(重油及びナフサが中心となっている)はそれぞれ日量10万バレル超程度へと多少なりとも拡大している。

他方、従来米国はロシアから精製原料(Refinery Feedstocks:さらなる精製のために利用される石油半製品)を主に輸入していたが、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻に伴うロシアからの石油を含むエネルギー製品の輸入の禁止を内容とする対ロシア制裁の実施(2022年3月8日に同国のバイデン大統領が発表した)に伴い、2022年4月を以てロシアからの精製原料の輸入をほぼ停止した。その代わり、カナダやメキシコといった近隣諸国、イラク、UAE及びサウジアラビア、そしてアルジェリアといった中東及び北アフリカのOPEC産油国やブラジル、エクアドル及びマレーシア等と言ったその他の諸国からの精製原料の輸入を拡大したことにより、同国の精製原料輸入は2022年5月以降も概ね一定の水準を維持した(図19参照)。

図19 米国の精製原料輸入(2022~23年)

また、アジア太平洋OECD諸国は特に韓国(そして若干量日本)がロシアから主にナフサを輸入していたが、これも2022年6月を最後に輸入されていない。そしてそれに代わりアルジェリア、クウェートUAE、カタール、インド等からのナフサを含む石油製品調達を活発化させている。

そしてここからは、ロシアからの石油製品の輸入を削減したEU加盟国が代替としてどの国から石油製品輸入を拡大したのかにつき見ることにするが、ここではベルギー、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、オランダ、ポーランド及びスペインの主要EU8加盟国につき、従来ロシアからの石油製品輸入の中心であった軽油の輸入動向を考察することとする。まず、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻後もEU8加盟国のロシアからの輸入は継続したが、2023年2月5日にロシアからの海上輸送等による石油製品の購入禁止期日を控え、2023年1月にはEU8加盟国によるロシアからの軽油輸入が拡大する場面が見られた(これは2022年11~12月に増加したロシアからEU加盟国に向けた軽油輸出の増加に対応するものと考えられる)。ただ、その後はEU8加盟国のロシアから軽油輸入は急減、2023年2月は2022年12月に比べほぼ4分の1、同年3月は前月比で若干増加したものの12月比ではなお半分程度にとどまった(図20参照)。そして、2023年2~3月のEU8加盟国のロシアからの海上輸送経由に等よる軽油輸入の減少分はサウジアラビアやUAEといった中東諸国に加え、中国、インド及びマレーシアと言ったアジア諸国が代替する格好となっている。これはEU加盟国による海上輸送経由等でのロシア産石油製品購入禁止を2023年2月5日に控えEU加盟国を含む欧州地域の軽油需給引き締まり観測が市場で強まったことを一因として欧州の軽油相場に上方圧力が加わった一方、11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国で新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたものの、中国は2023年1月22日の春節(旧正月)を控えていたこともあり、同国の鉱工業及び物流活動が軟調に推移したと見られることを一因として、アジア地域の軽油需給の緩和感が市場で意識されるとともに、当該地域の軽油相場に下方圧力が加わった結果、欧州軽油価格のアジア軽油価格に対する割高感が強まったことにより、中東及びアジアから欧州方面に向け軽油が輸出された(このため、中国の軽油輸出量は2022年後半を中心として活発化した)ことが背景にあるものと考えられる。それでも、EU8加盟国の域外からの軽油輸入量全体を見ると、2023年2~3月は2023年1月に比べ減少している。これは2023年2月5日のEU諸国による海上輸送経由等によるロシア産石油製品輸入の事実上禁止を控え2022年12月から2023年1月にかけ軽油調達が活発化した一方、物価上昇等に伴う欧州中央銀行(ECB)による政策金利引き上げもあり、特に域内の製造業の活動が不活発化したうえ、2022~23年の冬場の欧州が温暖であったことにより、産業部門及び民生部門(暖房用)向け軽油需要が低調であったこともあり、2022年10月時点では1,200万バレル台であったARA(アムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ)地域の軽油在庫が増加し、2023年2月23日には1,900万バレル台前半程度の水準にまで拡大した他、欧州OECD諸国の軽油を含む中間留分在庫水準も2022年から暫くの間は平年(過去5年平均)を相当程度下回っていたが、2023年に入ってからは急速に平年水準との差を縮小させる(図21参照)など、欧州地域での軽油在庫が積み上がったことに伴い当該地域の軽油需給の緩和感が市場で増大した(このようなことから欧州軽油価格のアジア軽油価格に対する割高感も縮小した、図22参照)ことが影響しているものと考えられる(このため、当該地域製油所における軽油製造利幅が縮小する格好となった)。また、従来からそれなりの量のロシア産軽油が海上輸送経由でギリシャに向かっていたが、2023年2~3月については、EU8加盟国が海上輸送経由で輸入したロシア産軽油の相当部分をギリシャが占める状態になっている。従来からギリシャは国内製油所で生産される軽油(2022年は日量21万バレルとされる)により国内需要(2022年は同10万バレル)を賄える体制となっていたこともあり、同国のロシアからの実質的な軽油輸入規模は限定的であったことからすると、ギリシャに到着したロシア産軽油の相当部分は直接的もしくは間接的にさらに第三国に向かった可能性も排除しきれないものと考えられる。なお、ギリシャがロシアから海上輸送経由で輸入した軽油を輸送した船舶とギリシャが第三国向けに輸出する軽油を輸送した船舶は基本的に異なるものであり、ギリシャによる軽油の仕向先はサウジアラビア、トルコ、ジブラルタル及びトーゴ等となっている。また、EU諸国が海上輸送経由のロシア産軽油の輸入を停止した反面、トルコのロシアからの軽油輸入は拡大しているが、トルコはその一方で、イタリアやギリシャと言ったEU諸国及びインドといった国からの軽油輸入を削減する傾向が見られる。

図20 主要EU8加盟国の経由輸入(2022~23年)

図21 欧州中間留分在庫(2022~23年)

図22 欧州とシンガポールの軽油価格差(2022~23年)

以上

(この報告は2023年4月17日時点のものです)

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