ページ番号1009705 更新日 令和5年5月9日

(続報)ExxonMobilのトランジション戦略

レポート属性
レポートID 1009705
作成日 2023-04-21 00:00:00 +0900
更新日 2023-05-09 15:33:11 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 企業CCS
著者 高木 路子
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 北米
国1 米国
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 北米,米国
2023/04/21 高木 路子
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概要

  • 米系メジャーのExxonMobilは、2023年4月4日、エネルギートランジション戦略を公表した。
  • 株主総会のシーズンを控え、気候変動問題に対する積極姿勢をアピール、同社は2050年のネットゼロを推進し、新たなビジネス分野の創出を目指すと表明した。一方で、上流の石油・天然ガスの生産目標や投資額等に類する発言は一切なかった。
  • 発表内容は、2021年に立ち上げた低炭素ソリューション(Low Carbon Solutions)についてすでに発表済みの投資方針を踏襲するもので特段の目新しさはなかったものの、どのようにアプローチをしようとしているのか、その投資戦略や戦術の一端が明らかになった。

 

米系メジャーのExxonMobilは、2023年4月4日、エネルギートランジション戦略の公表を行った。昨今、各国政府が協調して2050年ネットゼロを目指すにあたり、バックキャスト的な捉え方から脱し、より現実的にどのようにアプローチすべきかの模索が続いている。欧州の石油天然ガスメジャー企業が域内のエネルギー危機に直面して戸惑う中で、インフレ削減法(IRA)の支援が受けられる米国メジャー筆頭としてカーボンニュートラルの先頭に躍り出た感のあるExxonMobilが、今般どんな内容を発表したのかダイジェスト版で紹介する。脱炭素分野の商業化に向けてどのような戦略を立てているのかという観点でピックアップした。

本稿は、ExxonMobilのトランジション戦略(2023年2月掲載)の続報。


1. ネットゼロへの道

ExxonMobilはネットゼロに向け依然として慎重な姿勢は崩していないようにみられるが、この難題をどのように捉え、いかに現実的に導こうとしているのか。

CEOであるDarren Woods氏の発言は、以下のようである。

  • 2050年まで継続的に排出量を削減していくには、思慮深くも包括的なアプローチが必要である。それには、人々の「ベネフィット(受益)」と「コスト(負担)」のバランスをみること。人々のニーズに敏感であることが必要であり、人々の負担となるような経済的な困難、エネルギー市場の混乱あるいは供給不足といった事態を回避していくことが重要だと説明。
  • 過去100年間において、持続的な経済成長によりGHGの排出がもたらされたが、今後、ネットゼロへの道を歩むには、政府、企業、大学などの間で前例のないイノベーションとコラボレーションが必要で、気候変動問題の課題は計り知れないが、他方でそれが生み出す投資の機会も計り知れないと説明。
  • ExxonMobilは世界のネットゼロへの道のりを加速させ、同時に、新しいビジネスを構築していく。それにはネットゼロへの道を早急に見つける必要があると同時に、実行可能な経済的な道でなければならないとした。
  • この変化は、大規模な地球規模のエネルギーシステムの変更である。その変化の道のりがどれほど速いか、どの方向に向かっているかは不明である。常に同社が焦点を当てているのは、市場を推測することではなく、この変化を起こすために何が必要なのかに焦点を当て、進めている。その進化に呼応しながら、社会の要求を満たすためにいかに自らを組織化させ、自らをどこに位置づけるかを思考している。
  • 2050年までにGHG排出枠(カーボン・クレジット)市場は14兆ドルに達すると試算するが、ExxonMobilはこの市場の主導的な地位を確保するための競争的な優位を目指し、低炭素ソリューション(ExxonMobil Low Carbon Solutions)が目指す3つのターゲット(CCS、水素、バイオ燃料)で6兆ドルの規模の可能性があると評価する。

 

2. 目標と戦略について

  • ExxonMobilは、技術革新、市場創出のほか、一貫性のある政府の政策を持ってScope1およびScope2の2050年ネットゼロを追求する。
  • 同社は、2023年‐2027年までの5年間でLow Carbon Solutions事業に170億ドルを投資する計画で、CCS、水素およびバイオ燃料の3つのセクターを当面の脱炭素の投資先に位置づける。これらの予算は、米国のインフレ削減法(IRA: Inflation Reduction Act of 2022)の支援があるため、多くは米国に振り向ける(世界中を投資機会と捉えつつも、米国がIRAによって最も活発なエリアだと認識、アジア太平洋地域はエネルギー顧客の活動が活発なエリアと捉える)。また、そのLow Carbon Solutions投資のうち60%は自社操業における排出削減に割り当てられ、残りは第3社へのCO2削減サービスの提供のため。
  • ExxonMobilは、世界のCO2排出量の8割を占める「発電」、「産業用輸送」および「重工業」からのCO2排出を削減のターゲットとする。

 

3. 成長目標とする3つのフェーズについて

同社の発表では、脱炭素の事業化に向けて成長目標を3つのフェーズに分けたと説明(図1)。

第1フェーズは、今後数年間で展開していくもので、優先事項はファンデーションとなる事業を構築することである。現状、脱炭素の分野においてMOUや提携のプレスリリースは数多いものの最終的なプロジェクト契約はほとんどない。現行政策、現行技術、および現行インフラでもうまく機能するような事業であり、これらの事業が顧客を魅了し、確実な収益を見込めることを証明していく。このフェーズでは、市場規模は数百億ドルに達成する可能性があり、ExxonMobilとしても数十億ドルを見込む。並行して、コスト削減に寄与するような新しい技術にも投資していく計画。

第2フェーズは、今後5年後以降を想定し、事業環境としては炭素コスト(削減する価値)が1~2倍に上昇し実際のCO2を除去する単価も10%~20%削減され、相乗的にコストが下がることを想定する。コスト削減には、技術改善とスケールアップが大きく寄与する。市場規模は数千億ドルに成長する可能性がある。このフェーズではExxonMobilの収益としては年間数十億ドルの可能性を見込む。

第3フェーズは、一桁大きく成長する段階で今後10年後以降を想定し、事業環境としては現在より炭素コストが2~3倍に上昇し、技術面のブレークスルーと大規模なスケールアップによってコストは現在よりも30%から70%削減する段階を想定する。市場規模は数兆ドルになる可能性があり、ExxonMobilのビジネス規模は潜在的に数千億ドルである。

図1.ExxonMobilがターゲットとする3つのフェーズ
図1.ExxonMobilがターゲットとする3つのフェーズ
出所:ExxonMobil“Low Carbon Solutions Spotlight”の発表資料

4. 脱炭素ビジネスに向けた戦術について

そのアプローチ(図2)としては、技術を成熟度別に分ける。

まず、第1に、自社がリソースを有しているものの技術的に未成熟(Early Stage)かつ多くの技術ポテンシャルがあるような分野、具体的には、DAC(直接空気回収法)や水素製造の先進的な代替技術、また、炭素貯留に関する地下の豊富な知見が梃子となるような分野である。ExxonMobilはこの分野をリードしていく一方で、他の企業や研究機関との連携を深めて独自の価値を見出していく。

図2.ExxonMobilが示す分野別のアプローチ
図2.ExxonMobilが示す分野別のアプローチ
出所:ExxonMobil“Low Carbon Solutions Spotlight”の発表資料

第2のアプローチは、自社とってあまり優位性はないが、遂行上は不可欠な技術に対してするもの。この分野では、パートナーシップを模索する。例えば、三菱重工業との回収にかかわるパートナーシップである。三菱重工業の既存技術を、ExxonMobilのCCSのワンストップショップサービスに統合できるよう、コストダウンに向けたさらなる技術開発を共同で実施している。

第3のアプローチは、生産技術が成熟した分野に対して。ExxonMobilが優位な競争力を持たず、他社からライセンスを購入して、生産を行う分野。例としてはアンモニアの生産技術、また再生エネルギーの分野である。成熟された分野であり、ExxonMobilは炭素強度(CI)の削減の一環として関与する。

発表の中では、2050年のネットゼロに向けて人々が過小評価している点として2分野を挙げた。1つは既存のインフラの利用、そのまま再利用する方法を見つけることが必要だとした。2つ目は真にCO2を削減するようなDAC等の技術の必要性を挙げた。

 

5. 自社の優位性と事業の収益化について

ExxonMobilの優位性とは何かについては、(1)技術の優位性(technology advantage)、(2)事業遂行の優位性(project execution advantage)、(3)統合されたバリューチェーン(integrated low carbon value chains)であり、(3)は高いアドバンテージが得られると期待。自らが、水素、バイオ燃料やCCSといった数多くの可能性を保有することで、地域ごとのコスト構造、周辺インフラの状況や政府や自治体のインセンティブに応じ最適なソリューションを提供する。

図3.ExxonMobilが示す、ワンストップショップ
図3.ExxonMobilが示す、ワンストップショップ
出所:ExxonMobil“Low Carbon Solutions Spotlight”の発表資料

先行モデルとしては、米国のメキシコ湾沿岸を例示。LNGバイヤーや天然ガスバイヤーは自社で排出するCO2を削減したいとのニーズが高い。それに対してExxonMobilは回収から貯留までのCO2削減のソリューションを顧客のニーズにあわせて提供することが可能である。その統合されたバリューチェーンがメキシコ湾岸には構築されていると紹介し、この地域は、排出源が集中し、ExxonMobilのCCSにアクセスでき、さらにIRAによる政策インセンティブが後押ししていることがメリットとした。

図4.ExxonMobilおよび関連の既存インフラが集中する米国メキシコ湾岸
図4.ExxonMobilおよび関連の既存インフラが集中する米国メキシコ湾岸
出所:ExxonMobil“Low Carbon Solutions Spotlight”の発表資料

ExxonMobilが目指すビジネスモデルについても触れているので簡単に紹介する。これまでの市場循環的な石油・天然ガスのビジネスとは趣が異なり、脱炭素分野のビジネスモデルは、(1)自社の高い優位性を活かし、(2)成長する市場であって、(3)長期契約をベースに安定した収入が見込まれ、(4)10%以上の高収益性を期待されるビジネスとした。自社の優位性を活かして事業遂行すれば、自らのスケールアップやインテグレーションで一層優位に立ち、それが次の収益基盤につながることも示唆した。

図5.ExxonMobil のエネルギートランジション
図5.ExxonMobil のエネルギートランジション
出所:ExxonMobilの発表資料よりJOGMEC作成

最後に、事業化のための評価基準(クライテリア)について、1つ目は優位性があるかどうか、次に収益性である。産業の中でその事業がどこまで優勢な競争力を持つのか、コストカーブのどこに位置づけられるのか。収益性については高い収益を生むのか、それが戦略的に全社的に積み上げられればさらに収益増大につながるのかである。

 

6. 終わりに

本稿では、4月初めにExxonMobilが発表した低炭素ソリューション事業(Low Carbon Solutions)戦略について概略を紹介した。発表内容としては、すでに表明している脱炭素事業の方向性や投資規模に変更はなく目新しさは感じられないものの、実際にどのようにアプローチをしようとしているのか、その投資戦略や戦術の一端が垣間見られる内容であった。脱炭素への取り組みについてご参考になれば幸いである。

 

参考: https://corporate.exxonmobil.com/

 

以上

(この報告は2023年4月21日時点のものです)

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