ページ番号1009793 更新日 令和6年10月21日
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- スーダンでは2023年4月15日以降、スーダン国軍と準軍事組織RSFとの間で武力衝突が続いている。これにより石油市場ではスーダン並びに南スーダンの石油輸出が途絶えることが懸念されている。
- スーダンと南スーダンの石油部門は両国の経済において重要な役割を果たしており、経済に密接に結びついている。石油輸出パイプライン、製油所、港湾などの出荷インフラは全てスーダンに位置していることから、南スーダンは石油の出荷についてスーダンの出荷設備に依存している。加えて、南スーダンは、油田の操業を維持するための各種物資の輸入をスーダンの港に依存している。一方でスーダンはパイプライン施設使用料等(加工料、輸送料、通過料)収入と移行財政措置(TFA)という金銭面だけでなく、製油所と発電所などを稼働させるための原油を南スーダンに依存しており、南スーダン産原油の主要な消費国である。
- 現在スーダンでは武力衝突による流通経路確保の問題により燃料危機、スーダン・南スーダン産原油の敬遠や値引きに直面している。また、武力衝突が長引くと、パイプライン損傷や輸出関連施設を巡る争いの発生により石油生産・輸出停止のリスクが高まることになる。そこで南スーダンは、紛争が長引けば、原油関連インフラが狙われることを懸念し、武力衝突解決の仲介を試みているとみられる。
- 4月28日に南スーダンのプオット・カン・チョル石油相は武力衝突によると、貨物のトラック輸送による代替ルートを検討しているという。一方、今後は長期的な視点からスーダン以外を経由する方法を検討する可能性がある。特に、現在若干の下落傾向にある原油価格の中で多くの輸送コストを要するスーダンを経由するルートは南スーダンの収入幅を抑制している。そのため、今回の武力衝突はリスク並びに金銭的観点からも南スーダンがスーダン以外の輸出ルートをより真剣かつ現実的に検討するきっかけとなる可能性がある。過去に検討された経緯もあり有力な候補は(1)ウガンダ経由、(2)エチオピア経由、(3)ケニア経由であるが、これらは南スーダン発の新規パイプライン建設が必要である。そのため、相応の投資額を準備する必要があると考えられるところ、南スーダンには資金調達繰りに関する課題が構想の実現を阻んでいると考えられる。
1. はじめに
スーダンでは2023年4月15日以降、スーダン国軍と準軍事組織RSFとの間で武力衝突が続いている。なお、これまでサウジアラビアや米国、隣国南スーダン等の仲介により停戦合意がなされるも、以降も首都ハルツームなどで戦闘が続いていると報じられている。これにより石油市場ではスーダン並びに南スーダンの石油輸出が途絶えることが懸念されている。
2. スーダンと南スーダンの関係性
分離独立以前の旧スーダンでは1999年に石油生産を開始し、その結果10年間で1人当たりのGDPを約4倍に増加させた。しかし、2011年の分離独立後は油田の75%が南スーダン側に位置したことから、南スーダンの分離独立はスーダンの経済に大きな影響を与えた(図1)。2023年3月時点のスーダンの原油生産量は5.6万b/dと南スーダンの分離独立以前の原油生産量から1/8程度で推移している(図2)。一方で、南スーダンの原油生産量は12.4万b/dと独立直後の1/2程度で推移している。油田の成熟をはじめとして、Covid-19や洪水の影響などによりスーダンと南スーダンの石油生産量は低水準で推移しており、加えて、南スーダンの分離独立後、両国内の政治的不安定さや紛争により、南スーダンは幾度か石油生産・輸出の停止を経験した。特に、石油輸送(パイプライン使用料の支払い)等を巡り両国の関係が悪化したことで、分離独立後の2012年3月から2013年3月までの期間、原油の生産は停止した(図3)。
スーダンと南スーダンの石油部門は両国の経済において重要な役割を果たしており、経済に密接に結びついている。石油輸出パイプライン・製油所・港湾などの出荷インフラは全てスーダンに位置しており、南スーダンは石油の出荷についてスーダンの出荷設備に依存している。加えて、南スーダンは、油田の操業を維持するための各種物資の輸入をスーダンの港に依存している。一方でスーダンはパイプライン施設使用料等(加工料、輸送料、通過料)収入と移行財政措置(TFA)という金銭面だけでなく、製油所と発電所などを稼働させるための原油を南スーダンに依存しており、南スーダン産原油の主要な消費国として位置づけられる。スーダン政府は南スーダンからの石油を1バレル販売するごとに約25ドルを受け取っているとされる。南スーダンにとって石油は政府収入並びにGDPの大部分を占めており、2021年度の総収入約7,248億南スーダンポンド(SSP)の内(約56億米ドル)、石油による収入は約5,891億SSP(約45億米ドル)であり、総支出の約8,025億SSP(約62億米ドル)の内、スーダンへの輸出に係る費用(関税、輸送、加工)は約638億SSP(約4.9億米ドル)が計上されている。
また、スーダンでの戦闘激化は南スーダンだけでなく、チャド、中央アフリカ共和国といった他の内陸国にも影響を及ぼす。これらの国にとってスーダンの港は商業的な海の玄関口でもあり、同国港で大きな障害が発生した場合、これらの国々のスーダン経由の貿易に影響が及ぶことが考えられる。

出所:南スーダン国営石油会社Nilepet
(https://nilepet.com/(外部リンク))

出所:IEAのデータを参考にJOGMEC作成

出所:IEAのデータを参考にJOGMEC作成
3. スーダン国軍と準軍事組織RSFとの武力紛争による影響
現在、スーダンでは燃料危機、スーダン・南スーダン産原油の敬遠や値引きに直面している。4月28日時点で、スーダンでは製油所はフル稼働が続いているものの、流通経路確保の問題により燃料危機が発生している。報道によると、武力衝突が始まって以来、燃料価格は2倍以上に上昇し、燃料ステーションには車の列が見られるようになったという。なお、同国は2023年第1四半期には総燃料輸入の60%近くを中東に依存している。一方で、南スーダンの精製品の輸入は、ケニア経由がほとんどであり供給は比較的安定しているものとみられる。また、スーダンでは石油タンカーの沖合滞留が確認されており、スーダンの武力衝突後は、一部船主が出荷設備のある港湾に入ることを拒否又は高いレートを要求していることが確認されている。これが、スーダンと南スーダンの油種(NileとDar)の値引きにつながっている。なお、2023年1月3日時点のBrent(先物)価格は82.10ドル/bbl、Dar Blendは82.28ドル/bbl、Nile Blendは82.43ドル/bblであり、ロジスティクス上の支障やリスクが存在しない場合、BrentとDar BlendおよびNile Blendの価格はほぼ同水準である。4月26日、南スーダンのマイケル・マクエイ情報相は、バイヤーがポートスーダンでの積み込みのリスクを懸念しており、同国の原油価格が70ドル/bblを割り込んでいると述べた。また、同氏は70ドル/bbl以下での交渉も可能であると述べた。スーダン・南スーダン産原油は最大の原油輸出相手国である中国が中東・米国・ロシア産等の原油輸入を増加させたことに伴い、需要が低迷していた。特に、昨今は輸送コストが低く、大幅にディスカウントされているロシア産原油により同国の原油、特に性質が近いNile Blendに対する需要がさらに軟化しているとみられる(表1)。そのため、現在の中国の精製業者はスーダン産・南スーダン産原油への買い意欲は非常に限定的であるとみられるが、足元でBrent比7~8ドル程度のディスカウントで推移しているとみられることから、南スーダン産原油のディスカウント幅によっては一時的にスーダン・南およびダン産原油が中国に流れる可能性も考えられる(図4)。
南スーダンの石油生産への影響は現在までに特段見られていない。4月28日に南スーダンのプオット・カン・チョル石油相は同国の石油生産は現在、影響を受けておらず、約16.9万b/dに達していると述べている。一方で、今後状況が悪化し続ければ、スーダンおよび南スーダンの原油輸出が停止する可能性もある。そこで石油市場はスーダン国軍と準軍事組織RSFとの権力闘争における戦略的拠点並びに重要インフラの支配権争いの動向を注視している。5月16日のロイター報道によると、スーダン国軍はRSFの補給線を遮断するとともに、ハルツーム中心部の空港やバーリに位置するAl-Jaili製油所などの確保を図っているとされる[1]。このことから現在、両軍の狙いが戦略的拠点並びに重要インフラに移っていると考えられ、今後、RSFがスーダン国軍の収入源を断つために他の製油所並びに港湾の支配を巡る争いが勃発する可能性も考えられる。その場合、南スーダンからの石油生産・輸出が途絶える可能性がある。加えて、本衝突によるパイプライン損傷による石油輸出停止のリスクが存在している。そこで南スーダンは、紛争が長引けば、原油関連インフラが狙われることを懸念し、武力衝突解決の仲介を試みているとみられる。
数々の政情不安を経て、スーダンで油田開発を進める中国のエネルギー企業が今後活動を継続することは難しくなっていると考えられる(表2)。政情不安期間中の操業停止やプロジェクト稼働の延期などは、プロジェクトコストの増加につながることから、中国からスーダンへの直接投資の中でも特に投資額の大きい石油プロジェクトが減少していく可能性も考えられる。2021年版の中国商務部の「对外投资合作国别(地区)指南」によると、2020年の中国のスーダンへの直接投資額は283万米ドルであり、その多くを石油開発とインフラ建設に充てているとされる。また、2011年の南スーダン独立以前、中国は累計200億ドル以上をスーダンに投資してきた。一方で、2011年の南スーダンの独立により中国のスーダンの石油産業に対する関心は低下しているとみられている。なお、同国企業の進出、生産開始時期は1990年代であり、累計生産量から見ると既存投資額は回収できている可能性もある。このほか、サウジアラビアは、2010年代、特にイエメン戦争以来スーダンとの関係性を深め、UAEは2018年までの間に76億ドル以上の資金提供を行っている[2]が、スーダンの石油産業は投資余地が限られており、事業規模の発展に制約があると考えられている。

出所:各種資料に基づきJOGMEC作成
油種 | API比重 | 硫黄分 |
Dar(スーダン・南スーダン) | 26.4 | 0.12 |
Nile(スーダン・南スーダン) | 32.8 | 0.05 |
ESPO(ロシア) | 36.0 | 0.50 |
Sakhalin Blend(ロシア) | 44.7 |
0.16 |
Siberian Light(ロシア) | 34.8 | 0.57 |
Sokol(ロシア) | 35.6 | 0.27 |
Urals(ロシア) | 350.6 | 1.48 |
出所:McKinsey & Companyの資料を参考にJOGMEC作成
(https://www.mckinseyenergyinsights.com/resources/refinery-reference-desk/crude-grades/(外部リンク))
(表2:スーダン、南スーダンで活動する主な企業[3])
出所:EIAを参考にJOGMEC作成
4. 新たな輸出方法の模索
4月28日に南スーダンのプオット・カン・チョル石油相は武力衝突により新たな輸出ルートを模索すると発言した。同氏によると、代替ルートで貨物のトラック輸送を検討しているという。
また、長期的な観点からも南スーダンはスーダン経由以外の方法を検討する可能性がある。特に、南スーダンにとっては、スーダン経由の輸出ルートでは最大35万b/d程度の輸出が可能であるが、それを超える場合は新たな輸出ルートが必要となるため過去にもいくつかの輸出ルートが検討されてきた。また、現在若干の下落傾向にある原油価格の中で多くの輸送コストを要するスーダンを経由するルートは南スーダンの収入幅を抑制している。そのため、度重なる政情不安はリスク並びに金銭的観点からも南スーダンがスーダン以外の輸出ルートをより真剣かつ現実的に検討するきっかけとなる可能性がある。
南スーダンにとっては(1)ウガンダ経由、(2)エチオピア経由、(3)ケニア経由の代替輸出ルートが考えられる(図5)。(1)について、過去には東アフリカ原油パイプライン(EACOP)に接続するためにウガンダに向けて約600kmのパイプラインを建設する構想が存在した。EACOPについては、国際的な金融機関が融資に消極的になっている[4]。その中で、中国の金融機関による融資やコンゴ民主共和国とのパイプライン共用につき交渉が行われているとされる。一方で、未だ目標金額に達しておらず、かつ、資金調達難が続いていると考えられるところ、資金融資にかかる条件次第ではEACOPに接続することができる可能性も考えられる。特に、ウガンダのエネルギー省関係者は、EACOPはコンゴや南スーダンを含むウガンダの隣国が利用する可能性を考慮して設計されていると述べている。(2)について、スーダンからエチオピアを経由し、ジブチの港までパイプラインを建設する計画も存在する。なお、南スーダンは2022年9月にエチオピアと共同インフラプロジェクト実施(道路、エネルギー、通信、水運等)につき合意しており、新たな輸出ターミナル建設のため、ジブチの土地を購入している。(3)について、南スーダンのジュバ(南スーダン)からロキチャル(ケニア)までのパイプライン並びにロキチャルから(ケニア)からラム港(ケニア)回廊プロジェクト(LAPSSET)[5]によるパイプライン建設が検討されていた。なお、本プロジェクトはパイプライン建設並びにケニアの上流開発を含むTurkana Oilプロジェクトにおいて、2023年5月23日にTotalEnergiesやAfrica Oilが撤退し、Tullow Oilが権益100%を保有[6]することになったことが報じられたことで同プロジェクトの進展は懐疑的なものとなっている。今後、Tullow Oilは同プロジェクト進展に向けてパートナー探しを加速させることが想像される。なお、現在はIndia Oil Corp.やONGC Videshと何らかの協議がなされているとされており、また、SINOPECが本権益に興味を有している可能性があるとの報道がなされている。
上記は南スーダン発の新規パイプライン建設による輸送方法の確保であり、相応の投資額を準備する必要があると考えられるところ、南スーダンには資金調達繰りに関する課題が構想の実現を阻んでいると考えられる。

出所:各種資料によりJOGMEC作成
5. さいごに
スーダンでの武力衝突は隣国南スーダンのみならず、その他の内陸国であるチャド、中央アフリカ共和国にも影響が及ぶ可能性がある。南スーダンにとってスーダンは唯一の石油輸出のルートであり、武力衝突激化により同国の石油生産・輸出が停止する恐れがある。度重なる政情不安はスーダン経由のリスクを改めて認識し、他の輸出ルートを再度真剣に検討するきっかけとなり、スーダンにおける歳入を大きく減らす可能性もある。
今後もスーダン、南スーダンの動向に注目したい。
[1] https://jp.reuters.com/article/sudan-politics-idAFKBN2X70D1(外部リンク)
“Air strikes, artillery fire escalate as factions battle in Sudan capital”, Reuters, 16 May,2023
[2] https://www.khaleejtimes.com/africa/uae-pumps-in-dh28b-for-sudans-development-fiscal-stability(外部リンク)
“UAE pumps in Dh28b for Sudan's development, fiscal stability”, Khaleej Times, 14 March, 2018
[3] Sudapet:スーダン国営石油会社
[4] https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009640.html
“EU vs アルバート湖開発プロジェクト”, JOGMEC, 21 February, 2023
[5] https://www.lapsset.go.ke/index.php/projects/crude-oil-pipeline/(外部リンク)
“CRUDE OIL PIPELINE”, LAPSSET, 25 May, 2023閲覧
[6] https://www.tullowoil.com/media/press-releases/kenya-update/(外部リンク)
“Kenya Update”, Tullow Oil, 23 May, 2023
以上
(この報告は2023年5月25日時点のものです)