ページ番号1009795 更新日 令和5年6月2日

(短報)ベトナム:第8次国家電力開発基本計画(PDP 8)決定、2050年に再生可能エネルギー約70%、石炭火力を全廃し移行期にガス火力の展開を図る野心的な目標

レポート属性
レポートID 1009795
作成日 2023-06-02 00:00:00 +0900
更新日 2023-06-02 09:52:03 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 基礎情報エネルギー一般
著者 加藤 望
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 5
抽出データ
地域1 アジア
国1 ベトナム
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,ベトナム
2023/06/02 加藤 望
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※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.

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概要

  • ベトナム政府は、2023年5月15日に2021年から2030年までをカバーする第8次国家電力開発基本計画(PDP 8)を当初予定から2年半遅れて、首相決定第500号にて最終決定し、即時発効した。石炭火力発電を中止した後および減退している国内天然ガスの代わりとなるエネルギー源を何に求めるのか、議論が続き最終決定が遅れた模様である。
  • PDP 8ではCOP26において2050年にカーボンニュートラルを達成するという国際公約を達成するため、2030年までの計画のみならず2050年までの目標値を一定の範囲で示している。また、経済成長により総発電設備能力を2050年に2020年比で7倍~9倍とする他、石炭火力を全廃し再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電およびバイオマス)の発電能力構成に占める比率を2030年時点の28.6%から洋上風力と太陽光発電の開発を加速し2050年に約70%にするという野心的な目標を示した。
  • また2030年のガス火力発電は、2020年から2030年にかけて4倍の37.3GWとなっており、輸入LNGを含むガス火力発電所が13プロジェクト(計22.5 GW)で稼働する計画である。
  • 今回の商工省の発表は、数値が主であり、今後より内容および根拠について説明がなされることが期待される。

 

1. 現状

ベトナムの国土は、南北1,650キロメートル、東西600キロメートルに広がっており南北に細長い形状をしているが、中部において東西50キロメートルと狭い地域がある。面積は33万1,200平方キロメートルと日本の約88%であるが、人口は2022年国家統計局の発表によると9,946万人であるが、2023年に入り1億人を超えているとみられている。北部と南部に人口は稠密している。ベトナムの2022年における発電設備容量を図1で示し、図2で電源構成を示す。

左:図1 2022年発電設備容量、右:図2 2022年電源構成
出所 ベトナム商工省のデータを基にJOGMEC作成

石炭火力発電所については、PDP 7(2011年~2020年)において承認された発電所は現在も建設中のものがある。石炭火力発電は、北部に集中しているが国内産の石炭の品質は低いため、大きなCO2排出源となっている。水力発電は、電源構成において35.4%を占めている。

 

2. PDP 8

ベトナム商工省(MOIT: Ministry of Industry and Trade)が作成し、チン首相が最終決定したPDP 8は、以下のとおりである。2030年における計画と合わせ2050年の目標を示している。

表1のとおりPDP 7の最終年である2020年と比較し、2030年時点での発電設備容量の計画値を示す。2050年に関しては目標をレンジで示している。

表1 PDP 8

表1 PDP 8
出所 ベトナム商工省のデータを基にJOGMEC作成

注: 公表されているPDP 8は電源構成ではなく発電設備容量を示しているため、ピーク需要に合わせ発電量を確保するには再生可能エネルギーを主要電力とすると発電効率の低い太陽光発電(16%~20%)および風力発電(30%~40%)の比重が高くなる。

 

3. PDP 8 に関する考察

  1. PDP 8は、PDP 7(2011年~2020年)を受け、作成が急がれていた。最初のドラフトは、2021年3月に商工省より公表されたが、それから6回に亘る改訂を経て、今回の決定に漕ぎついた。2023年3月においてチョン・ベトナム共産党書記長が決定は急がないと述べたのを踏まえ秋以降決定されるのではないかとの観測が出ていた。PDP 7終了から約2年半も空白期間が生じたが、その間新型コロナもあり、2021年秋のCOP26における2050年カーボンニュートラル達成表明、またPDP 7との整合性の審査およびエネルギーに恵まれないベトナムにおいて石炭火力発電を中止した後および減退している国内天然ガスの代わりとなるエネルギー源を何に求めるのか、議論が続き最終決定が遅れたようである。PDP 7の積み残し案件に関わるプロジェクトは2021年以降も継続して遂行されているものの、新規電源案件については、政府計画の裏付けがなく軒並み遅れが生じていた。
  2. 更に、PDP 8は、表2のとおり、経済成長率の見通しについて、2023年1月に策定された国家基本計画(National Master Plan)より低い水準をベースとしている。チン首相も、PDP 8の作成は慎重に行うよう指示をした経緯がある。

表2 国家基本計画とPDP 8が想定するGDP成長率の差

表2 国家基本計画とPDP 8が想定するGDP成長率の差
出所 各種資料よりJOGMEC作成
  1. 2030年のガス発電は、LNGを含め2020年から2030年にかけて4倍の37.3GWとなっている。このためLNGからのガスを燃料とする発電所が13プロジェクト(計22.5 GW)稼働する計画だ。LNG受入基地については、ペトロベトナムグループのPVガスが南部バリアブンタウ省にThi Vai受入ターミナルのPhase 1(受入能力年間100万トン)を建設し、2023年5月に完成した。同年7月にベトナム初のLNGの輸入が開始される予定だ。その他、LNGの受入基地計画は、Thi VaiのPhase 2を含み、2030年までに全部で17プロジェクトが実現する見込みだが、建設段階のプロジェクトはなく現時点では計画段階に留まっている。公表されている受入能力を合計すると年間5,160万トン~5,290万トンとなる。

 

4. 2050年目標について

  1. 2050年レンジ目標については、下限と上限で約20%の開きがある。再生可能エネルギー全体で 7割弱を占め、2030年から2050年にかけての伸び率は7倍から9倍と見込んでいるが、これはベトナムのエネルギー移行に海外からの支援がどの程度見込めるかによるものと思われる。
  2. 石炭火力発電は、2050年までに全廃される計画である。国産天然ガスは、一部水素製造に移行するが、ガス火力発電所の燃料は輸入LNGに置き換えられる。
  3. 再生可能エネルギーでは、風力発電の伸びが著しい。2050年時点で2030年の約4倍である。南部メコンデルタはメコン川から流入する砂によって遠浅であり、干潮時には海底面が露出するため、陸上の風力発電と変わらないか、もしくは沖合まで遠浅が続くことから、より安価なコストで風力発電を多数設置することが可能と言われている。
  4. 太陽光発電も2030年は2020年より発電能力は下がる(理由は述べられていない)が、2030年から2050年にかけての伸びは13倍から15倍の伸びを示す。太陽光については人口1億人を超えたベトナムにおいて設置場所が確保できるのかが問題となっており、屋根置き太陽光パネルの設置が進んでいる。
  5. ベトナムの送電線網は、古く脆弱であり、これらをアップグレードし地域間を結ぶ送電網を築くと共に再生可能エネルギーを基幹グリッドに繋ぐ必要がある。
  6. 水素やその他の新エネルギーについては、制度面も含め、これからであり更なる開発と導入が望まれる。
  7. 原子力発電の導入については、これを否定してはいないようだ。
  8. 2020年11月のG20会合後、ベトナムは、JETP(Just Energy Transition Partnership)に南アフリカ、インドネシアに次いで3番目に選ばれた。これによってIPG(International Partners Group)Members(EU、英国、フランス、ドイツ、米国、イタリア、カナダ、日本、ノルウェーおよびデンマーク)より当初3年から5年間に亘り公的および私的な財政支援155億米ドルを受けることになった。

全体として、2030年までのPDP 8期間においてベトナム政府は、ガス火力発電所の建設や送電の整備等で1,347億ドルの資金が必要だと見積もっている。

 

5. おわりに

今回のPDP 8は、特に2050年目標において野心的であり、反対にその実現可能性について疑問を持たれるのは当然だろう。安定的で協力的な法的な枠組みや、迅速な許認可、外国投資の誘致に必要なインセンティブ政策など取り組むべき課題は山積している。しかしながら、ベトナムがエネルギー移行に積極的に取り組む姿勢を表明したことは大いに評価すべきだと思われる。

 

以上

(この報告は2023年6月1日時点のものです)

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