ページ番号1009798 更新日 令和5年12月1日
原油市場他:OPECプラス産油国が既存の減産措置に加え2024年の原油生産目標を設定した他、サウジアラビアは7月1日より自主的な追加減産を日量100万バレル拡大へ(速報)
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概要
- OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2023年6月4日に閣僚級会合を開催し、既存の減産措置(2023年末にかけ2022年8月比で日量200万バレル減産)に加え、新たに2024年の原油生産目標を設定する旨決定した。
- 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2023年11月26日に開催される予定である。
- また、サウジアラビアは既存の日量50万バレルの自主的な追加減産を7月につき日量100万バレル拡大し同150万バレルとする他当該減産拡大期間を延長する可能性もある旨明らかにした。
- 2022年12月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、米国等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で強まったこともあり、2023年3月17日には原油価格が1バレル当たり66.74ドルと2021年12月3日以来の低水準に到達する場面も見られた。
- このようなこともあり、サウジアラビアを含む一部OPECプラス産油国は2023年5月1日から12月31日にかけ日量116万バレル程度の自主的な追加減産を実施する旨4月2~3日に伝えられた他、ロシアも当初3月のみに適用する予定であった日量50万バレルの自主的な追加減産を12月末まで実施する旨4月2日に表明した。
- この結果、原油価格は一時的に持ち直したものの、その後再び下落し始め、今回の閣僚級会合直前の5月31日には1バレル当たり68.09ドルと3月20日以来の低水準の終値に到達した。
- このようなことから、2023年の財政収支均衡価格が1バレル当たり80ドル超とされるサウジアラビアは、同国の構造改革を含む今後の経済発展に支障が生ずる恐れがあることを危惧し、減産を強化することを通じ原油価格の立て直しを図ろうとしたものと考えられる。
- しかしながら、消費国による自国産原油購入敬遠等の可能性のため原油価格を十分に引き上げられない結果かえって石油販売収入が抑制される恐れのあるロシアは追加の減産措置の実施には消極的であったものと見られる。
- このように、OPECプラス産油各国の石油収入を拡大させるための条件が異なっていたこともあり、今回の閣僚級会合では2023年のOPECプラス産油国全体としての減産措置の強化は見送りとなった一方、2024年の原油生産目標を設定することで、長期の石油需給引き締まり感と原油価格の先高感を市場関係者間で醸成させるとともに、サウジアラビアが自主的な追加減産拡大を実施することにより、原油価格の浮揚を図ろうとしたものと考えられる。
- 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際に明らかになった、サウジアラビアの自主的な追加減産規模拡大は、現状通りの減産措置を決定するとの大半の市場関係者の予想を覆す格好となり、石油需給引き締まり感が市場で強まるとともに原油相場に上方圧力を加えたことから、日本時間6月5日午前7時30分現在原油価格は1バレル当たり73.95ドル(前週末終値比同2.20ドル程度の上昇)近辺で推移している。
(OPEC、IEA、EIA他)
1. 協議内容等
- OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2023年6月4日に閣僚級会合を対面形式で開催し、2022年10月5日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合において決定された、OPECプラス産油国原油生産目標を2022年11月から2023年12月において2022年8月(及び10月)比で日量200万バレル削減する旨の方針を維持したうえ、2024年1月から同年12月にかけ新たに減産措置(原油生産目標日量4,046万バレル)を実施することで合意した(表1及び巻末参考1参照)。
- なお、2024年6月末までに、減産措置に参加する全てのOPEC及び非OPEC参加国は、2025年の基準原油生産水準に使用されるべき自国の生産能力を算出するため、石油上流(探鉱・開発)部門情報に特化した独立した3機関(IHS、ウッドマッケンジー、及びライスタッドエナジー)による評価を受け、OPEC事務局はこれら3機関の独立性を維持しながら当該評価を調整することとした。
- なお、アンゴラの2024年の原油生産目標は、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合までに前述の3機関による検証の対象となり、これが確認された場合当該原油生産目標を維持することとした。
- また、コンゴとナイジェリアの2024年の原油生産目標は次回のOPECプラス産油国閣僚級会合までに前述の3機関によって評価された2024年に到達しうる平均生産量と同等の水準に更新される可能性があり、ナイジェリアは日量157.8万バレルを2024年の原油生産目標として検証の対象とし、これが確認された場合、当該水準が2024年の原油生産目標に反映されることに留意するとした。
- さらに、今回定められたロシアの2024年の原油生産目標は、二次情報源による平均として評価された2023年2月時点の原油生産水準であり、同国は現在二次情報源と協力して生産量の更新に取り組んでいるため、当該目標は2023年6月までに改定される可能性があるとした。
- 他方、共同技術委員会(JTC: Joint Technical Committee)及びOPEC事務局の支援を受け、世界石油市場の状況及び石油生産水準、そしてOPECプラス産油国の原油生産目標遵守状況を綿密に検討するため共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)とその委員の権限を再確認し拡張することとした(なお、JMMCは2ヶ月毎に開催される)。
- また、OPECプラス産油国閣僚級会合をOPEC通常総会とともに6ヶ月毎に開催する旨決定した。
- さらに、(従来通り)必要に応じて市場の展開に対処するために、いつ何時でも追加会合を開催したり、OPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請したりする権限をJMMCに与えることも確認した。
- 加えて、原油生産目標遵守は二次情報源からの情報に基づく原油生産量を考慮しOPEC加盟国に適用される方法論に従って監視されることを再確認した。
- そして、原油生産目標を完全に遵守することが重要である旨繰り返し表明し、既存の原油生産目標に加え新たに設定された原油生産目標を超過する産油国は(原油生産目標達成に向けた)調整を行なうことに合意した。
- なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2023年11月26日に開催される予定である。
- また、サウジアラビアは5月1日より実施している日量50万バレルの自主的な追加減産を7月については日量100万バレル拡大し同150万バレルとする他(必要であれば)当該減産期間を延長する可能性もある旨同国エネルギー省が明らかにしたと6月4日に国営サウジ通信から報じられた(巻末参考2参照)
- さらに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、イラク、アルジェリア、オマーン及びカザフスタンに加え、ロシアは2023年5月1日より実施中の自主的な追加減産(後述)をそれまでの期限であった2023年末から延長し2024年末まで実施する旨明らかになった(世界経済成長懸念が石油需要に影響すると見られることが理由とされる)。
2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等
- 中国の新型コロナウイルス感染者数が史上最多に到達したこと等により、前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催日(2022年10月5日)直前の2022年10月3日には1バレル当たり83.63ドルであった原油価格(WTI)は下落傾向となり、同年11月25日には76.28ドルと2022年1月3日以来の低水準に到達した。
- また、この時点においては、2022年第2四半期から2023年第2四半期にかけては、世界石油市場は供給過剰となるか、供給不足となるにしても限定的な規模にとどまるものと予想された他、中国での新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で拡大すれば、原油価格がさらに下振れするリスクを抱えていた。
- しかしながら、2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国で新型コロナウイルス感染抑制措置緩和の兆しが見られ始めたことに加え、2022年12月5日には欧州連合(EU)によるロシア産原油購入が原則禁止されたり、同日には主要7ヶ国政府(G7)とEU等により同国産原油に対する事実上の販売価格上限が設定されたりしたうえ、2023年2月5日にはEUによるロシア産石油製品購入の原則禁止やG7及びEU等によるロシア産石油製品に対する事実上の販売価格上限の設定が予定されるなど、石油需給を引き締めうる不透明要因が複数存在したため、これら要因の原油価格への影響を見極めるべく、2022年12月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、従来の減産措置方針(2022年11月から2023年12月にかけ2022年8月比で日量200万バレルの減産措置の実施)を維持することにしたものと考えられる。
- 前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、米国中堅金融機関の破綻や、米国等の金融当局による政策金利引き上げに伴う経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で広がったこともあり、2023年3月17日には原油価格は1バレル当たり66.74ドルと2021年12月3日以来の低水準に下落する場面も見られた(図1参照)。
- このようなこともあり、サウジアラビアが2023年5月1日から2023年末にかけ日量50万バレルの自主的な原油の追加減産を実施する他、他の一部OPECプラス産油国も5月1日から12月末にかけ、自主的な追加減産(イラク日量21.1万バレル、UAE同14.4万バレル、クウェート同12.8万バレル、アルジェリア同4.8万バレル、オマーン同4万バレル、カザフスタン同7.8万バレル、ガボン同0.8万バレル、合計日量約66万バレル)を実施する旨4月2~3日に報じられた一方、当初は3月のみの実施(2月10日にロシアのノバク副首相が発表)であったものの、その後6月末へと実施期間を延長した(3月21日にノバク副首相が発表)日量50万バレルの自主的な追加減産(2023年2月を基準とするものとされる)を表明していたロシアも当該減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が明らかにした。
- 一部OPECプラス産油国が自主的な追加減産を実施することにより、従来世界の石油供給が需要を上回ると見られていた2023年第2四半期は需要が供給を上回る状態へと転換した他、2023年後半においては日量200万バレル程度かそれ以上需要が供給を上回る状態となるなど、世界石油需給の引き締まりが強まることが予想された(表2参照)。
- 一部OPECプラス産油国による自主的な追加減産実施の情報を受け、3月31日には1バレル当たり75.67ドルであった原油価格は翌取引日である4月3日には同80.42ドルへと急反発した他、4月12日には同83.26ドルと2022年11月16日(この時は同85.59ドル)以来の高水準の終値に到達した。
- しかしながら、米国連邦政府の債務上限引き上げを巡る米国バイデン政権と同国連邦議会共和党との対立により、同国が債務不履行の事態に陥ることにより同国等の経済が混乱する結果、石油需要に負の影響を与えるとの懸念が市場で増大したことから、原油価格は下落し始めた。
- 5月27日には米国連邦政府の債務上限引き上げにつき同国のバイデン大統領と連邦議会下院のマッカーシー議長(共和党)の間で基本合意に到達したことにより、同国が債務不履行に陥ることにより経済が混乱するとともに石油需要が減退する可能性に対する懸念が市場で後退したことが、原油相場に上方圧力を加えたものの、併せて今回の合意により米国連邦政府の支出が削減される結果同国経済が減速するとともに石油需要の伸びが鈍化するのではないかとの見方が市場で発生したことから、原油相場の反発は限られたものとなった。
- そのような中で、5月31日に中国国家統計局から発表された5月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が48.8と4月の49.2から低下、2022年12月(この時は47.0)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(49.4~49.5)を下回ったうえ、5月の同国非製造業PMI(50が当該部門の拡大と縮小の分岐点)が54.5と4月の56.4から低下した他市場の事前予想(55.2)を下回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大した結果、この日の原油価格の終値は1バレル当たり68.09ドルと3月20日以来の低水準の終値に到達した。
- 他方、サウジアラビアは大規模な開発プロジェクトを含め自国の改造計画を実施しつつあることもあり、その費用を捻出しなければならない状況下で、国家の歳入及び歳出を均衡させるには、2023年時点で1バレル当たり80.90ドルの原油価格が必要であるとされた(IMFによる推定)。
- これに対し前述の通り5月31日には原油価格が1バレル当たり68.09ドルにまで下落してしまう(IMFが使用している原油価格はWTI、ブレント及びドバイの単純平均価格とされており、5月31日の終値時点の推定当該原油価格は1バレル当たり70.95ドル程度となる)など、サウジアラビアの国家財政収支均衡原油価格から乖離して下落しつつある状態となった。
- このため、OPECプラス産油国の減産規模を拡大することにより自国の財政収支均衡価格へと実際の原油価格を接近させることをサウジアラビアは所望したものと考えられる。
- しかしながら、ロシアにとって見れば減産を強化することにより自国産原油価格が上昇することを通じて自国の石油収入が拡大するという保証はなかった。
- ロシアの場合EU加盟国等が原油及び石油製品の購入を原則禁止している他、原油及び石油製品販売価格に事実上の上限価格が設定されている。
- このため、EU加盟国を含む西側諸国等によるロシア産石油購入が事実上停止し、販売先が限定される中、原油価格が上昇し上限価格に接近するようであれば、西側諸国等以外の消費国はロシア産石油価格に対し能動的もしくはロシア産石油の購入を敬遠することを通じ受動的に値下げ圧力を強めることが予想された。
- この結果、減産された石油を抑制された原油(もしくは石油製品)価格で販売するにようになることから、かえってロシアの石油収入が減少するリスクに直面することになる。
- このような要因もあり、ロシアは少なくとも自国の原油生産をさらに削減することについては消極的であった。
- 5月24日にはロシアのプーチン大統領が、(足元の)エネルギー価格は経済的に正当化される水準に接近しつつある旨明らかにした。
- また、5月25日にはロシアのノバク副首相が、6月4日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合においては、新規の原油生産目標は発表されないものと予想している旨明らかにしたと報じられた。
- 加えて、足元で減産を一層強化することはロシアの利益に反するとして、6月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、原油生産目標を据え置きとすることを希望する旨の意向を固めつつある旨関係筋が明らかにしたと5月26日に伝えられる。
- 以上のようなロシア政府幹部の発言からも、ロシアが原油生産のさらなる削減に対し積極的ではないことが覗われた。
- このように、減産強化による石油需給の引き締まりを追求することにより、足元よりもさらに高水準の原油価格を希望するサウジアラビアと減産強化を望まないロシアとの間で、足並みの乱れが露呈した。
- また、サウジアラビアは定められた減産措置を遵守するようロシアに対し不満を表明した旨5月27日に伝えられている。
- このように、さらなる減産の実施により自国産原油価格が上昇すれば、石油収入拡大の道が開ける可能性のあるサウジアラビアと、減産を実施しても自国産原油価格が上昇せず石油収入が縮小する恐れのあるロシアとの間では、石油収入拡大を巡る条件が異なる部分があった。
- このため、OPECプラス産油国全体による減産強化では、そのような状況に対応し切れないと判断したサウジアラビアは、2023年末までの公式な減産規模は据え置きとする反面、自国が自主的に追加減産を拡大することにより、原油価格に引き上げを試みようとしたものと考えられる。
- さらに、2024年において新たに原油生産目標(減産措置)を設定することにより、OPECプラス産油国がより長期的に世界石油需給バランスの調整に関与していく姿勢を明確にするとともに、同年の石油市場関係者間で石油需給引き締まり感と原油の先高感を醸成させることにより、併せて足元の原油価格の浮揚を図ったものと考えられる。
- なお、2024年の原油生産目標に関しては、UAEの原油生産目標が2023年12月末までの既存の目標から引き上げられた反面、アンゴラ、コンゴ、赤道ギニア及びナイジェリアといった西アフリカのOPEC産油国に加え、アゼルバイジャン、ロシア、マレーシア、ブルネイ及びスーダンといった非OPEC産油国の原油生産目標が引き下げられている。
- 従来からUAEはOPEC加盟が同国の長期的利害(将来の世界石油需要見通しに関する不透明感が強まる中、早期に原油を生産し収入を確保しておく必要性があるかもしれないと同国が認識していることが背景にあると見る向きもある)に合致しているかどうか検討していた(その際OPEC脱退といった選択肢も含まれていたとされる)と2020年11月17日に伝えられていた。
- そのような背景もあり、2021年7月1日に開催されたOPECプラス産油国JMMCの際、2018年10月時点での自国の原油生産能力日量316.8万バレルがこの時点で同384万バレルへと増強されたことにより、減産措置の基準となる原油生産量(この時点では2018年10月の原油生産量が採用されていた)を引き上げることをUAEは要求した。
- この結果、同年7月18日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、2022年5月1日よりUAEの基準原油生産量をそれまでの日量316.8万バレルから同350万バレルへと引き上げる旨決定した(その他、サウジアラビア、イラク、クウェート及びロシアも併せて基準原油生産量を引き上げた)。
- また、最近外交面等においてサウジアラビアとUAEとの関係が必ずしも良好あるとは言い切れなくなっていることもありUAEはOPEC脱退につき内部で検討している旨3月3日朝(米国東部時間)にウォールストリート・ジャーナルが報じる(しかし、ウォールストリート・ジャーナルの報道は真実から大きく乖離している旨UAE関係筋が明らかにしたと、ウォールストリート・ジャーナルによる報道の1時間程度後にロイター通信が報じるなど、情報が錯綜した)など、2023年に入ってUAEは再び自国の原油生産目標の引き上げをサウジアラビア等に要望していた可能性がある。
- サウジアラビアはUAEの原油生産目標を引き上げる反面、長期間原油生産目標を下回る(法制等が外国石油会社にとって厳しいものであったこともあり石油開発投資が促進されない結果原油生産が減退したことが一因であるとされる)西アフリカのOPEC産油国やロシア等の原油生産目標を引き下げるべく対象国に対し説得を図った。
- しかしながら、2022年5月1日にUAEの基準原油生産量が引き上げられた際も自国の基準原油生産量の引き上げが見送られたうえ今般原油生産目標の引き下げをサウジアラビア等から持ちかけられた西アフリカの一部OPECプラス産油国等は今後の原油生産能力拡大のための石油開発投資推進上の障害となる(原油生産目標を理由に生産を制限される可能性があることから外国石油会社が石油開発投資を敬遠する)等を理由として受け入れに難色を示したものと見られる(アンゴラ及びナイジェリアが強く抵抗した旨6月4日に伝えられる)。
- このため、アンゴラ、コンゴ、ナイジェリア及びロシアについては、自国の原油生産目標の妥当性を精査すべく、第三者機関に検討を依頼することになったものと考えられる。
3. 原油価格の動き等
- 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催の際に明らかになった、サウジアラビアの自主的な追加減産規模拡大は、現状通りの減産措置が決定されるとする大半の市場関係者の予想(23人の石油市場関係者中17人が閣僚級会合において減産規模の据え置きが決定されると予想している旨5月24日に伝えられていた)を覆すと格好となり、足元の世界石油需給引き締まり感が市場で一層強まった結果、原油相場に上方圧力が加わったこともあり、日本時間6月5日午前7時30分現在原油価格は1バレル当たり73.95ドル(前週末終値比同2.20ドル程度の上昇)近辺で推移している。
- OPECのガイス事務局長はOPEC産油国の原油生産調整の目的は(原油価格を引き上げることではなく)世界石油需給を均衡させることにある旨示唆したと5月29日に報じられている。
- しかしながら、厳格な新型コロナウイルス感染抑制策を事実上終了した中国の経済回復に伴う石油需要の増加が見込まれることから、2023年は第2四半期以降世界石油需給が引き締まるとの見方が市場で根強かったにもかかわらず、3月中旬に原油価格が下落したことが、一部のOPECプラス産油国に自主的な追加減産の実施を決断させたものと4月4日に伝えられる。
- また、5月23日には(積極的な原油先物契約の空売りを行なうことにより原油価格を押し下げようとすれば)損失を被る目に遭うので注意する必要がある旨5月23日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が石油市場の空売り投機筋に対し警告するなどしている。
- このように、OPECプラス産油国、特にサウジアラビアは世界石油需給の現状もしくは見通し自体よりも、足元の原油価格の動向(特に下落の兆候)を重視する姿勢を明確にさせつつあることが示唆される。
- 従って、この先も世界石油需給展望に関わらず、原油価格がWTIで1バレル当たり70ドルを割り込んで下落し続ける、もしくは70ドルは割り込んではいないものの70ドル割れに向け下落が加速する兆候が見られる(併せて石油市場において空売り投機筋が空売り規模を拡大しつつある)等の状況となった場合には、次回のOPECプラス産油国の開催を待たずして、まず自主的なものを含め追加減産の実施可能性等につき警告を発し(いわゆる口先介入を行ない)、それでも原油価格の下落が抑制されない場合には、OPECプラス産油国JMMC開催の機会を捉えるなどして、自主的な追加減産を含め、実際に減産を検討したり決定したりすること等により、原油価格下落防止を図ろうとするものと考えられる。
- 他方、ロシアは2023年3月の原油生産量を(2023年2月比で)日量50万バレル自主的に追加で削減する旨2月10日に同国のノバク副首相が発表した他、3月21日には同副首相が、自主的な追加減産実施を6月末まで延長する旨明らかにしたうえ、一部のOPECプラス産油国による2023年5月1日から12月31日にかけての自主的な追加減産の実施と併せ、ロシアも自主的な減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が表明した。
- ロシアは3月に日量70万バレル原油生産を削減した旨同国エネルギー省が明らかにしたと4月7日に報じられるが、国際エネルギー機関(IEA)によれば2023年3月の原油生産量(コンデンセート除く)は日量958万バレルと2月(同987万バレル)比で同29万バレルの減産にとどまっている。
- また、4月の同国原油生産量も日量960万バレルと2月比で同27万バレルの減少にとどまっている。
- さらに、5月の同国の海上輸送経由の原油輸出量は推定日量369万バレルと4月の水準(同360万バレル)から増加していることが示唆される。
- このようなこともあり、ロシアが表明した日量50万バレルの原油生産削減を実際に実行に移しているかどうかにつき疑問視する向きが市場で発生しており、これが、原油相場の上方圧力を削ぐ形で作用した。
- 前述の通り、ロシアは他の減産参加OPECプラス産油国と異なり、自国産石油販売価格の引き上げを事実上制限されている環境にあることもあり、減産を強化しても石油収入が増加しにくい構造となっていることから、減産に対するインセンティブが働きにくく、この結果、定められた(もしくは表明された)減産(自主的な追加減産を含む)を忠実に実行するかどうかが不透明な状況にあるものと見受けられる。
- 今後もロシアの原油減産遵守状況に市場の注目が集まるものと見られ、同国が表明した日量50万バレルの減産が遵守されていることが示唆されると言うことであれば、石油需給引き締まり感を市場が意識する結果、原油相場が支持されるものと考えられるが、減産が遵守されていない旨示唆される時期が続けば続くほど、ロシアの原油生産削減方針に対する市場の信用が低減するとともに、原油相場を抑制する作用が強まるものと考えられる。
- また、5月1日に自主的な追加減産を開始した一部OPECプラス産油国のうち、OPEC産油国分に関しては、日量103.9万バレルの減産目標に対し5月の実際の減産規模は日量70万バレル程度にとどまるものと推定される旨5月31日に明らかになるなど、当該減産が必ずしも完全に実施されているとは言えない状況であることも明らかになっている。
- さらに、2022年11月1日から実施している日量200万バレルの減産についても、2022年10月5日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合後の記者会見において、実際の減産規模は日量100~110万バレル程度となる旨認識しているとサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は明らかにしていたが、2022年11月から2023年4月にかけての実際の減産規模は日量38~115万バレル程度とまちまちである様に見受けられる。
- また、3月23日に国際商業会議所(ICC: International Chamber of Commerce)国際仲裁裁判所(International Court of Arbitration)が、イラクのクルド人自治区からのパイプライン経由での原油輸送につき、1973年に締結したトルコとイラクの当該パイプライン輸送に関する合意にトルコが違反しているとのイラク連邦政府の訴えを認めたうえ、3月26日にはトルコに対し当該違反により15億ドルの損害賠償金をイラク連邦政府に対し支払うよう命じた(2014年から2018年にかけてのクルド人自治区からトルコへの原油輸送がイラク国営石油販売会社(SOMO: State Organization for Marketing of Oil)を通じたものでなければならないとの両国の合意内容から逸脱している旨イラク連邦政府が提訴していたとされる)。
- これに伴い、当該パイプライン経由でのクルド人自治区からの原油輸出(日量40~45万バレル程度とされる)が3月25日に停止した。
- 4月4日にはイラク連邦政府とクルド人自治区政府との間で原油輸出の再開につき暫定的な合意に到達したが、トルコ側は2018年以降のクルド人自治区からの原油輸送に関する仲裁が決着していないこと、及び2014~18年の同自治区からの原油輸送に関する仲裁に基づくトルコからイラク連邦政府への損害賠償額につきさらなる協議を希望することを理由として、クルド人自治区において生産された原油の輸送を再開させていないと4月6日に報じられるとともに、当該パイプラインの操業者は4月14日時点においても操業再開指示を受けていないと伝えられた。
- 5月11日にはイラク連邦政府とクルド人自治区政府との間での原油輸出の再開につき最終的な合意に到達、イラクはトルコに対し5月13日にパイプラインの操業を再開するよう正式に要請したものの、6月2日にイラクのアブデルガニ石油相はクルド人自治区からトルコへの原油輸出再開については依然として交渉中である旨明らかにしている他、6月4日時点においても原油輸出が再開されたとは伝えられていない。
- このため、足元のイラクの原油生産は削減された格好となっているが、今後紛争解決に向けトルコとイラクとが合意に到達するとともにクルド人自治区等からトルコを経由して原油の輸出が再開するようであれば、イラクの原油生産が増加するといった展開も想定される。
- このようなイラクの原油生産状況を含め、今後もロシアのみならず他のOPECプラス産油国の原油生産削減の遵守状況にも市場は注目し続けるものと見られ、当該遵守状況が芳しくないようであれば、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が視野に入る7月後半以降には、原油価格がもたつく場面が見られやすくなるものと考えられる。
- もっとも、米国では5月27~29日の連休を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入しており、7月半ば頃までは同国でのガソリン需要の盛り上がり感が市場で継続するとともに(米国のガソリン需要のピークは7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)とされる)、製油所の稼働が上昇、原油精製処理が進むとともに製油所等による原油購入が活発化することにより、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で発生する結果、少なくとも原油価格はこの面では下支えされやすいものと考えられる。
- 他方、中国では、厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が事実上撤廃されて以降、個人の外出が活発化するとともに、経済活動が目覚ましく回復することを通じ同国の石油需要が相当程度拡大することに伴い、2023年後半に向け世界石油需給の引き締まり感が強まることにより、原油価格が上昇に向かうとの見方が市場心理に根強く存在してきており、これがこれまで原油相場を支持する形で作用していた。
- しかしながら、4月30日に中国国家統計局から発表された4月の同国製造業PMIが49.2と3月の51.9から低下、2022年12月(この時は47.0)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(51.4)を相当程度下回った一方、4月の同国非製造業PMIも56.4と3月の58.2から低下した他市場の事前予想(57.0)を下回るなど、中国経済が減速しつつある他、特に製造業の回復が低調である旨示された。
- さらに、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国輸出が前年同月比で8.5%の増加となり、市場の事前予想(同8.0%の増加)は上回ったものの、3月の同14.8%の増加からは伸びが鈍化した他、同国輸入は同7.9%の減少と市場の事前予想(同0.0~0.2%の減少)を相当程度上回った。
- 5月27日に中国国家統計局から発表された2023年4月の同国工業企業利益は前年同月比3.7%の増加となり、3月の同19.2%の減少からは増加に転じたものの、依然として回復の勢いが弱いことが示唆された。
- また、5月1日の中国の労働節に伴う休日(4月29日~5月3日)期間中の国内旅行は2019年の時点を19%程度上回った旨伝えられるなど、個人の外出は堅調であったものと見られるものの、旅行に伴う支出は必ずしも活発ではなかったと指摘する向きもある。
- 他方、4月13日に中国税関総署から発表された3月の同国原油輸入量は前年同月(4,271万トン、推定日量1,009万バレル)比22.5%増加の5,231万トン(推定日量1,235万バレル)に到達している旨判明した他、4月18日に中国国家統計局から発表された3月の同国の原油精製処理量は6,329万トン(日量1,494万バレル)と前年同月比8.8%の増加となり史上最高水準に到達した。
- これは同国国内需要が盛り返しつつあることを示している可能性もあるものの、併せて同国内では石油在庫が積み上がりつつある旨伝えられることもあり、春場のメンテナンス作業実施に伴う操業停止を控え製油所が稼働を引き上げて石油製品在庫を積み上げるべくロシア等から割安な原油を大量に購入したことが同国の原油輸入増加に反映されているとの観測も市場で発生している。
- 実際、5月9日に中国税関総署から発表された4月の同国原油輸入量は前年同月(4,303万トン、推定日量1,050万バレル)比1.4%減少の4,241万トン(推定日量1,035万バレル)にとどまった旨判明しており、中国国内石油在庫の積み上がりとメンテナンス作業実施に伴う製油所の稼働停止が影響している他国内経済及び石油需要の回復が順調でないことが背景にある旨報じられている。
- また、5月の中国製造業PMI及び同月の同国非製造業PMIが前月から低下した他市場の事前予想を下回った(前述)。
- このように中国の現在の経済回復状況がまだら模様の様相を呈している旨示唆されることに加え、今後欧米諸国等の政策金利引き上げ等により当該地域において金融機関に対する経営不安が拡大することを含め経済減速が深刻化する兆候が見られるようであれば、欧米諸国等との貿易関係を通じ中国経済も減速するとの不安感が市場で拡大するといった展開も想定される。
- 従来2023年の世界石油需要伸びの半分超は中国によるものと見られていたことから、中国経済及び石油需要の回復の過程が長期化しそうであるとの観測が市場で増大するようであれば、併せて世界石油需給の相対的な緩和感が市場で強まるとともに、原油価格が下振れする場面が見られる可能性もある。
- また、5月26日に米国商務省から発表された4月の同国個人消費支出(PCE:Personal Consumption Expenditures)価格指数が前月比で0.4%、前年同月比4.4%の、それぞれ上昇と、3月(前月比0.1%、前年同月比4.2%の、それぞれ上昇)から上昇ペースが加速している旨示されたことから、この先も米国金融当局が政策金利引き上げを継続する可能性が指摘されており(実際7月25~26日に開催される予定である次々回の同国連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%の政策金利引き上げが決定される確率が6月2日時点で53.5%ある)、米国経済がさらに減速する恐れもある。
- 他方、2023年1~3月期のドイツ経済が縮小(前期比0.3%減少)している旨5月25日に同国連邦統計局が発表したことにより、同国は2四半期連続で経済が縮小、景気後退入りしている旨判明した一方、欧州中央銀行(ECB)政策決定関係者間では政策金利引き上げを終了するという方針で意思統一がなされていないどころか、6月1日のラガルド総裁の発言を含め、なお政策金利引き上げの余地がある旨の主張も散見される。
- このような要因も、この先欧米諸国等による経済減速とともに石油需要の伸びの鈍化観測が市場で強めることにより、石油需給緩和感が市場で醸成されることを通じ原油相場に下方圧力を加えうるものと見られる。
- ただ、原油価格が下落し続けたり、急速に下落する兆候が見られたりするような場合、原油価格下落ペースが加速することによりOPECプラス産油国の減産強化措置等の実施を以てしても原油価格が制御不能な状況に陥る前に、先制的に石油市場における空売り投機筋等に対して警告を発することや、自主的な追加減産を含む減産措置強化の検討及び実施を含め、サウジアラビアを含むOPECプラス産油国は原油価格下落防止に向け行動するものと考えられる。
(参考1:2023年6月4日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)
35th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting
No 08/2023
Vienna, Austria
4 June 2023
In light of the continued commitment of the OPEC and non-OPEC Participating Countries in the Declaration of Cooperation (DoC) to achieve and sustain a stable oil market, and to provide long-term guidance for the market, and in line with the successful approach of being precautious, proactive, and pre-emptive, which has been consistently adopted by OPEC and non-OPEC Participating Countries in the Declaration of Cooperation, the Participating Countries decided to:
- Reaffirm the Framework of the Declaration of Cooperation, signed on 10 December 2016 and further endorsed in subsequent meetings; as well as the Charter of Cooperation, signed on 2 July 2019.
- Adjust the level of overall crude oil production for OPEC and non-OPEC Participating Countries in the DoC to 40.46 mb/d, starting 1 January 2024 until 31 December 2024, which to be distributed as per the attached table.
- Reaffirm and extend the mandate of the Joint Ministerial Monitoring Committee (JMMC) and its membership, to closely review global oil market conditions, oil production levels, and the level of conformity with the DoC and this Statement, assisted by the Joint Technical Committee (JTC) and the OPEC Secretariat. The JMMC is to be held every two months.
- Hold the OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM) every six months in accordance with the ordinary OPEC scheduled conference.
- Grant the JMMC the authority to hold additional meetings, or to request an OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting at any time to address market developments, whenever deemed necessary.
- Reaffirm that the DoC conformity is to be monitored considering crude oil production, based on the information from secondary sources, and according to the methodology applied for OPEC Member Countries.
- Reiterate the critical importance of adhering to full conformity, and subscribe to the concept of compensation by those countries who produce above the required production level as per the attached table, in addition to their already decided production levels.
- Hold the 36th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting on Sunday 26 November 2023, in Vienna.
以上
(この報告は2023年6月5日時点のものです)