ページ番号1009799 更新日 令和5年6月5日

未承認国家ソマリランドで初の石油発見、岐路に立つソマリア連邦共和国との関係性

レポート属性
レポートID 1009799
作成日 2023-06-05 00:00:00 +0900
更新日 2023-06-05 13:07:04 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場探鉱開発
著者 野口 洋佑
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 7
抽出データ
地域1 アフリカ
国1 ソマリア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アフリカ,ソマリア
2023/06/05 野口 洋佑
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概要

本稿において「ソマリランド」とは1991年5月に一方的に独立を宣言したものの、国際的な認知が得られなかったソマリア連邦共和国北部地域を指す。

  • ソマリランドは2023年1月8日、当該地域内で初めて原油を発見した。これは、同地域のMohammad Abdullahiエネルギー鉱物資源相がFacebookに投稿したビデオ声明で、Marodi-Jeh地域Sallahey付近の水井戸の掘削現場で黒い液体が滲出しているとの報告を受け、調査を行った結果、石油が確認されたと発表したことで明らかとなった。今後は英国に本拠を置き、イラク・クルディスタンなどで石油探鉱開発活動を行っており、2005年にはソマリランドとPS契約(Odewayne)を結んでいるGenel Energyがさらに調査を進める予定であるという。なお、Genel Energyは作業開始時期については明らかにしていない。
  • ソマリランドのGenel Energyへの当該エリアにおける探鉱活動の働きかけについてソマリア連邦政府は否定的な反応を示している。今回の石油発見の発表以前、2022年12月下旬にはGenel Energyの地質調査終了後、ソマリア連邦政府は同社に対して、ソマリア連邦政府の許可なくソマリランドで石油探鉱を行うことは主権を損なうとして警告した。また、同声明の中で「ソマリアの領土保全という憲法上の使命の一環として、あらゆる手段を講じ、あらゆる法的手段を追求する」意向であると述べる。なお、ソマリア連邦政府はソマリランドへの主権を主張するものの、ソマリランドは非公式ながら政府、通貨、法律を有し、独立国家として運営されている。
  • ソマリア連邦政府はトルコや隣国ジブチ、エチオピア、ケニアなどの仲介・介入により以前からソマリランドとの和解を目指してきたが、どちらの主張も平行線であった。なお、ソマリア連邦政府は現在のところソマリランドへの実質的な主権が及んでおらず、探鉱活動等に対しても、意味のある協定を結ぶことができていない。
  • ソマリアはエネルギーセキュリティの高まりを受け、ソマリランド側の炭化水素ポテンシャルに関与するためにソマリランドとの和解の動きを加速させる可能性がある一方で、ソマリランド側は経済的な独立性を確保する手段を見いだしたことで経済的独立性を確保する手段となり、ソマリアとの溝をさらに深め、軍事的な軋轢につながる懸念がある。両国の資源調査や関係性は地政学的変化の岐路に立っており、今後も注視が必要である。

 

1. はじめに

本稿において「ソマリランド」とは1991年5月に一方的に独立を宣言したものの、国際的な承認が得られていないソマリア連邦共和国北部地域を指す(以下、ソマリランド)。ソマリランドは2023年1月8日、当該地域内で初めて原油を発見した。これは、同地域のMohammad Abdullahiエネルギー鉱物資源相が省のFacebookに投稿したビデオ声明で、Marodi-Jeh地域のSallahey付近の水井戸掘削現場で黒い液体が滲出しているとの報告を受け、調査を開始した結果、石油の発見が確認されたと発表したことで明らかとなった。なお、当該井戸はGenel Energyソマリア堆積盆地、Odewayne PS契約エリア(BlockSL6、SL7、SL10)の南西部においてソマリランドの水資源開発省が掘削したものであり、深度約340メートルの地点で炭化水素の存在が確認されたと報告されている。今後は英国に本拠を置き、イラク・クルディスタンなどで石油探鉱開発活動を行っており、2005年にはソマリランドとPS契約(Odewayne)を結んでいるGenel Energyが更なる探鉱活動を行う予定であるという。なお、Genel Energyからは、いつ探鉱作業を開始するかについて明らかにしていない。

今回の発見は、探鉱開発活動による結果ではなく、採水時に偶然に石油滲出を確認したものである。商業規模の埋蔵量が確認される可能性も考えられるが、全貌を把握するためには、より広範な地質調査や探鉱活動が必要である。

 

2. ソマリランドの石油概況

ソマリランドの陸上は、その多くが未開発の地域であり、探鉱活動や坑井の掘削もほとんど行われていない。鉱区の総面積は約40,300㎢とイラクのクルディスタン地域(40,640㎢)に匹敵する。ソマリア・ソマリランドにおける資源量はカザフスタン(約300億バレル)とほぼ同レベルという見方がある。2020年、ノルウェーの地震探鉱開発会社TGSは、ソマリ盆地(Somali basin)には石油換算約300億バレルの資源量(prospective resources)が存在する可能性があるとしており、一部コンサルタントはソマリランドには約50億boeの経済開発が可能な資源(economic resources)があると試算している。また、ソマリア・ソマリランドの陸上鉱区は地質学的には隣国イエメンと類似しているとされる[1]。なお、ソマリランドは独自の政府、通貨、法制度を持つものの、資源に関する法律の整備が追いついていないことが指摘されている。

今回発見があった地域は、ソマリランドが実質的に支配するBerbera港から約150キロメートルの距離にあり、国際市場へのアクセスに優れている。同港については、ドバイ国有港湾運営会社DP Worldがアフリカ経済の足掛かりとしており、また、シンガポールの大手資源商社Trafigura による石油製品供給のハブとしても注目が集まる。

図1 ソマリランドの鉱区図
図1:ソマリランドの鉱区図

出所:Republic of Somaliland Ministry of Energy and Minerals(MOEM)[2]

 

3. Genel Energyのソマリランドでの活動

Genel Energyはソマリランドにおいて2005年にはPS契約を結び、探鉱活動を続けている。同社はイラク・クルディスタン地域での生産不調、ライセンス失効、法廷闘争により新たな収益源を模索しているところであり、ソマリランドでの活動に意欲を見せている。Odewayneライセンスに加えて、SL10B/13ライセンスにおける権益を保有している(表1)。なお、ソマリランドの PSCにおける無形資産の簿価は2022年6月30日時点で1,100万ドルと計上している。また、SL10B/13ライセンスは台湾国営石油会社のCPCが49%の権益を保有している。なお、台湾は2009年以降ソマリランドとの協力関係を構築しており、2020年8月17日には「台湾駐ソマリランド共和国代表処」が設置されている[3]

ソマリランドのGenel Energyへの当該エリアにおける探鉱活動の働きかけについてソマリア連邦政府は否定的な反応を示している。今回の石油発見の発表以前、2022年12月下旬にはGenel Energyの地質調査終了後、ソマリア連邦政府は同社に対して、ソマリア連邦政府の許可なくソマリランドで石油探鉱を行うことは主権を損なうとして警告した。また、同声明の中で「ソマリアの領土保全という憲法上の使命の一環として、あらゆる手段を講じ、あらゆる法的手段を追求する」意向であると述べる。一方、ソマリランドの政府関係者は、ソマリア連邦政府の同地域での主権を否定し、要求を退けている。

他方、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーセキュリティの高まりからソマリアの探鉱活動にも若干の動きがみられる。2022年に米Coastline Explorationがソマリア連邦政府から7つの沖合鉱区を獲得した。同社によると、2023年11月に3D地震探鉱を実施し、2025年半ばに探鉱井掘削を計画しているという。また、ソマリア石油鉱物資源省によると、2020年に同国はExxonMobilとShellのJVとの間で将来の海上石油・天然ガス鉱区の探鉱開発にかかる協定に署名[4]している。ソマリア連邦政府はトルコや隣国ジブチ、エチオピア、ケニアなどの仲介・介入により以前からソマリランドとの和解を目指してきたが、どちらの主張も平行線であった。エネルギーセキュリティの高まりを受け、ソマリランド側の炭化水素ポテンシャルに関与するために和解に向けた動きを加速させる可能性がある。一方、ソマリランド側は経済的な独立性を確保する手段を見いだしたことで新たな社会的・経済的・政治的な軋轢を生みだす可能性があり、両国の関係性は地政学的変化の岐路に立っているといえるだろう。

 

Genel Energyは2024年の中頃までにはSL10B/13内のToosanプロスペクトにおいて試掘井の掘削を計画中であると述べる。SL10B/13では1958年にBur Dab1号井が油層を発見しており、2015年には炭化水素システムの存在が確認されている。同社は2018年にOdewayneライセンス、SL10B/13ライセンスにおいて探鉱開発用2Dデータを取得しており、Toosan プロスペクトのそれぞれの貯留層には1億から2億バレルの資源が存在する可能性があると推測している(図2)。

(表1:Genel Energyの保有鉱区)

(表1:Genel Energyの保有鉱区)
出所:各種資料を参考にJOGMEC作成

(図2:Toosanプロスペクトの位置図)
(図2:Toosanプロスペクトの位置図)
(出所:Genel Energy ・ Africa Oil Week 2019)

4. ソマリランドでの石油発見による波紋

ソマリア連邦政府は事実上5つの連邦加盟州が存在(プントランド、ガルムドゥグ、ハーシャベル、南西部ソマリア、ジュバランド)し、その他、1991年に独立を宣言したソマリランドが存在する。当該発見は、ソマリランドにとって、新たな収入源として経済的独立性を確保する手段となり、ソマリアとの溝をさらに深めるきっかけとなりうる。1991年以前はメジャーズを含む約12社がソマリアの探鉱ライセンスを取得していたが、以降は地域当局が同じ鉱区に対して独自ライセンスを付与することもあった。この点、国連は2014年の報告書において炭化水素の探鉱が紛争を助長する可能性があると指摘した。過去、プントランドのヌガール渓谷で油田が存在する可能性があるとして探鉱が行われていた際は治安上の懸念で開発を断念・撤退する企業もみられたが、今回石油の発見があった地域は、事実上独立国としてふるまっているソマリランド域内であり比較的政治的安定感があるとみられる。一方で、ソマリア連邦政府は、ソマリランドでの炭化水素資源の探鉱活動に一貫して反対してきたが、商業的な採掘に発展すれば、さらに強く反対することが考えられ、ソマリア連邦政府との関係にも留意する必要がある。なお、ソマリア連邦政府はソマリランドへの主権を主張するものの、ソマリランドは非公式ながら政府、通貨、法律を有し、独立国家として運営されている。そのため、ソマリア連邦共和国当局は、ソマリランドに対して実質的な主権が行使できず、探鉱開発や採掘に関して意味のある協定を結ぶことができていない。

他方、炭化水素の発見はソマリランド内での格差を助長する可能性がある。特に、炭化水素開発で得た収益をどのように分配するかには細心の注意を払う必要がある。ソマリランドは経済規模が小さいことに加え、新たな経済基盤の確立につながることから、資源量が少量であったとしても、社会・経済・政治的緊張が生じうると考えられる。また、ソマリランドは国際的な主権が認められていないため、大規模な投資を行うには資金調達を含め困難な環境下にあり、かつ、ソマリアの脅威を含んだ様々なリスクにより活動の進展は遅く、緩やかとなることが推測される。

同地域で商業性が確認された場合、隣国エチオピアのオガデン盆地の探鉱に再び注目が集まる可能性がある。結果、採掘を円滑に進めるために両国での非公式的な関係構築がさらに進む可能性がある。特にイスラム過激派組織は現在ソマリア南部で大規模攻撃が確認されているところ、北部進出が懸念されていることから安全保障上の関係構築が進む可能性が考えられる。

 

5. おわりに

ソマリランドでの原油発見宣言により同地域での炭化水素ポテンシャルが開発されるとの期待とともに、ソマリア連邦政府とソマリランドの関係性悪化による地域情勢の不安定化が懸念される。ソマリランドは国際的な承認が得られていない未承認国家であることから、仮に商業規模の埋蔵量が確認されたとしても開発に必要な資金調達の課題が残るとともにソマリランド内の格差を助長する可能性もあり「資源の呪い」に注意する必要がある。またソマリランドの開発においては国際企業の参入が不可欠だが、ソマリア連邦政府はソマリランドで活動を行うGenel Energyに対して、ソマリア連邦政府の許可なくソマリランドで探鉱活動を行うことは主権を損なうとして警告している。ソマリア連邦政府はソマリランドへの主権を主張するものの、ソマリランドは非公式ながら完全な独立国家として運営されている。そのため、ソマリア連邦共和国当局は、ソマリランドでの探鉱開発や採掘に関して主権が及ばず、意味のある協定を結ぶことができていないが、ソマリランドは国際的な主権が認められていないため、商業規模の埋蔵量が確認されたとしても大規模な投資を行うには資金調達等の課題があり、かつ、ソマリアの脅威を含んだ様々なリスクにより活動の進展は遅く、緩やかとなることが推測される。

ソマリア連邦政府は各国の仲介により以前からソマリランドとの和解を目指してきたが、エネルギーセキュリティの高まりを受け、ソマリランド側のポテンシャルへと拡大するためにソマリランドとの和解の動きを加速させる可能性がある一方で、ソマリランド側は経済的な独立性を確保する手段を見いだしたことでソマリアとの溝をさらに深め、軍事的な軋轢を生みだす懸念すらある。両国の資源調査や関係性は地政学的変化の岐路に立っており、今後も注視が必要である。

 

以上

(この報告は2023年5月30日時点のものです)

 

[1] https://www.tgs.com/press-releases/tgs-announces-the-availability-of-seismic-and-aeromagnetic-data-in-somaliland(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“TGS announces the availability of seismic and aeromagnetic data in Somaliland”, TGS, 30 May, 2023閲覧

[2] https://moem-sl.com/petroleum-dep/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Petroleum”, Ministry of Energy And Minerals Republic of Somaliland, 30 May, 2023閲覧

[3] https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/73278.html(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“中華民国(台湾)の代表機関がソマリランドに、初の二国間協定も締結”, 台北駐日経済文化代表処, 18 Aug, 2020

[4] https://hbs.gov.so/somalia-signs-shell-exxonmobil-ep-roadmap/(外部リンク)新しいウィンドウで開きます
“Somalia Signs Shell-ExxonMobil E&P Roadmap”, Somali Petroleum Authority, 28 Dec, 2020

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