ページ番号1009823 更新日 令和5年6月28日

地下で造成した亀裂を知るための試み

レポート属性
レポートID 1009823
作成日 2023-06-28 00:00:00 +0900
更新日 2023-06-28 09:52:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 技術
著者
著者直接入力 竹内 傳 藤本 暁 井上 涼平
年度 2023
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 アジア
国1 日本
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,日本
2023/06/28 竹内 傳 藤本 暁 井上 涼平
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概要

JOGMECは、北米のシェールガス・オイル開発プロジェクトに参画する本邦企業との共同研究を進める中で、開発の効率化に必要な技術として、坑井デザイン・生産操業の最適化の研究が必要と考え、それらの研究を実施してきました。その中でも特に水圧破砕亀裂の伸展メカニズムの解明を目的に、伸展する亀裂の可視化と微小地震発生位置の推定から得られた現象を数値計算で再現することに取り組んでいます。亀裂の伸展メカニズム解明は、坑井の生産性および圧入性改善効果の最大化だけでなく、亀裂発生の際の圧力/応力を評価することにつながります。昨今のカーボンニュートラルやエネルギー貯蔵の必要性に伴い様々な流体を地下に圧入して保持することが検討されている状況下、圧入量の最大化やリスク評価を行う際に有用になると期待しています。

本記事では、2022年度に実施した、実験室からより現場の規模に近付けた露頭水圧破砕試験について紹介します。この成果から、数値計算による現象の解明に有益なデータを獲得することができると考えられています。

 

1. 地下への流体圧入とその課題

シェールガス・オイルの開発の現場では、地下1,500-3,000メートルに眠るシェールガス・オイルを含む岩盤に流体を高い圧力で押し込み、人工的に亀裂を生成させることで岩盤の浸透性(流体の流れやすさ)を向上させて、炭化水素を回収しやすくしています。どの程度の大きさの亀裂ができているかを知る方法として、人工亀裂を生成した際に発生する微小地震(マグニチュード約-3から-1の規模を持つものをMicroseismic: MS、または、より規模が小さいものをAcoustic Emission: AEとする)を観測する方法が用いられており、微小地震(MS)の発生場所を特定することで3次元(幅・長さ・高さ)的におおよその亀裂の範囲が推定できます。亀裂が生成されている範囲の体積はStimulated Reservoir Volume(SRV)と呼ばれ、生産量の初期予測に用いられますが、微小地震(MS)から想定された範囲は実際の生産量から推定される値と合わないという報告もあり、亀裂の伸展メカニズムの理解やその現象を精度よく予測する方法は確立されているとはいえません。

また流体を地下に押し込む作業は、脱炭素社会に向けて検討が進められている二酸化炭素回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage、CCS)や資源を一時的に保管する天然ガスの地下貯留でも行われます。地下貯留において圧入圧力が過剰な場合、岩盤に亀裂が生じ圧入流体の漏洩リスクが伴います。岩盤に亀裂を発生させず流体の貯留量を最大化することおよび漏洩リスク評価を行うためにも、亀裂の伸展メカニズムの解明と予測方法を確立することが重要になると期待しています。

JOGMECでは、室内実験で岩石試料に発生させた亀裂を熱硬化性蛍光樹脂によって可視化し、同試料に発生する微小地震(AE)と亀裂の位置を比較してきましたが、2022年度は実際の現場規模に近づけるため、より大きな実験規模で亀裂の特徴を可視化すること、微小地震の発生位置と比較可能か検討することを目的として鉱山にて露頭水圧破砕実験を実施いたしました。

 

2. これまでの取り組み

地下に生じる亀裂を実際に目で見る、ということは大変難しく、室内実験、シミュレーション、微小地震(MSまたはAE)の観察などを組み合わせて、亀裂進展メカニズムを解明するとともに、実フィールドのスケールに拡張していく必要があります。JOGMECと京都大学は2014年度より小規模な直方体の岩石試料(縦6.5 センチメートル×横6.5 センチメートル×高さ13.0 センチメートル)を題材として亀裂の可視化の研究を進め[1]-[7]、蛍光塗料入りの熱硬化性樹脂(破砕流体)を圧入して岩石試料を水圧破砕し、試料をヒーターで加熱して亀裂に充填された樹脂を固め、破砕後試料の薄片を紫外線照射することで水圧破砕による亀裂を観察するという手法を考案しました[8]。この手法を用いてこれまで様々な岩種で水圧破砕による亀裂を観察するとともに水圧破砕と同時に取得したAEデータを解析し、震源位置・震源メカニズムと亀裂の関係性を調べてきました。

しかし、室内実験用の岩石試料の大きさでは、一瞬で亀裂が岩石試料の縁に到達してしまうために、亀裂伸展の経時変化を観測することが難しいことが判明しました。そこで現場スケールと実験室スケールの差を埋めるべく、より現場の規模に近づけた露頭スケール(地表付近での小規模な水圧破砕)で可視化実験を試みることにしました。

2018年度から2019年度に露頭での実験地として秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸を選定し、水圧破砕試験を実施しました。鵜ノ崎海岸は国内の代表的なシェール層準である女川層が露出していることから、国内非在来型資源開発への貢献も期待して選びました。しかし、2018年度の試験では、本来対象としていた女川層珪質泥岩部では水圧破砕による亀裂の生成ができませんでした。2019年に再度水圧破砕成功の条件を把握することを目的とした水圧破砕試験を行いましたが、事前予測で天然亀裂等が存在しないと考えていた均質な岩石の区間(健岩区間)で、水圧破砕による亀裂の生成が確認できなかった区間があるなど、地層条件が複雑な女川層においては、事前に水圧破砕試験に最適な区間を推定することが難しい事をあらためて確認しました。以上から女川層での実験の継続を断念し、岩石の割れやすさや地層の均質さを考慮して最適な実験地を探すこととなりました。[5]-[6]

 

3. 樹脂圧入システムの開発

実験地の選定と並行して、地下に硬化性樹脂を圧入するシステムの開発も進めてきました。京都大学の室内実験では、先に述べたように熱硬化性樹脂を用いたものでしたが、露頭での実験では岩盤を加熱することはできないため、別の硬化性樹脂を用いる必要がありました。樹脂を供給している東亞合成株式会社と議論を重ね、2種類の樹脂を混ぜることで硬化が始まる樹脂を用いることにしました。ただし、圧入の際に樹脂をどの時点で混ぜるかということが問題となりました。地上で混ぜてから圧入する場合、送液ラインはシンプルになりますが、実験中に配管内で硬化が始まってしまうリスクが生じます。一方、2つの液体を別々に送って地下で混合する場合は配管で固まるリスクはなくなるものの、システムが複雑となり製作が難しくなります。樹脂の硬化時間などを検証し、実験中に配管内で固まるリスクが拭えないことから、別々に送る手法を採りました。2020年度から2つの樹脂を混合して圧入を行えるパッカー[1]の設計・製作、樹脂の硬化特性を調べる室内実験を開始しました。樹脂が金属に触れた際の可使時間の変化を調べて送液機材の材質を決定し、2021年度にパッカーおよび樹脂を送るための高圧容器を作成しました。[9]

 

4. 露頭水圧破砕実験

2022年度に岐阜県飛騨市の神岡鉱山栃洞坑(図1)にて樹脂を用いた水圧破砕試験を実施しました。当初の目的を鑑みるとシェールオイルなどの貯留層となる地層を対象とすることが望ましいのですが、水圧破砕に適した堆積岩層を探すことが困難であったことから、先ずは開発した樹脂圧入システムが露頭条件で機能することを確認するとともに、樹脂破砕試験の手順を確立することを目的として、地層の性質に関する情報が揃い作業も可能な神岡鉱山で実施することを決めました。神岡鉱山はかつて亜鉛・鉛・銀などの採掘を行ってきた国内有数の鉱山です。飛騨変成帯の中央岩体に位置し、主要な岩相は片麻岩類などの変成岩、伊西岩と呼ばれるこの地域特有の混成岩から成ります。女川層と異なり地層が固いものの弾力性が低い(砕けやすい)ことに加えて、地下の応力状態になるべく近づけるために必要な土被り圧を見込める廃坑道が存在し、現在も廃坑道の地下利用を行うために拡掘を行っているため、機材などが揃っていることから実験がしやすい場所です。変成岩とシェールは全く異なるものの、以下の点で変成岩での実験がシェールへ展開していくにあたって活用できると考えています。シェールは堆積面に沿って割れやすい性質を持っています。一方で片麻岩は変成を受ける過程でせん断応力を受け、応力方向に沿った縞状構造が割れ目とともに発達しています。成因は異なるものの、片麻岩の割れ目をシェールでの層理面の代わりと考えることで、水圧破砕亀裂が割れやすい面に到達した際の伸展の仕方を知る手掛かりになると考えられます。

(図1)試験実施場所(出所:国土地理院の地図に加筆)
(図1)試験実施場所(出所:国土地理院の地図(注)に加筆)

水圧破砕試験は(1)水道水を用いた通常の水圧破砕試験と(2)硬化性樹脂を用いた水圧破砕試験(樹脂破砕試験)の2つに分けて行いました。水圧破砕試験では水圧破砕孔(HF1’)からそれぞれ異なる距離で3つのAE観測孔を配置して水圧破砕を行い、それぞれのAE観測孔で観測されるAEの数を確認しました(図2)。亀裂が岩盤を進むにつれてAEは減衰するため震源から遠い位置ほど観測できるAEが少なくので、多くのAE震源決定するためには水圧破砕孔とAE観測孔の距離を小さくする必要があります。一方で、なるべく広範囲で亀裂の伸展を捉えるためにはAE観測孔を破砕孔からできるだけ離して配置する必要があります。十分な数のAEを観測したうえで可能な限り水圧破砕孔から離した、最適なAE観測孔の距離を知るために事前の水圧破砕試験を行いました。この試験によって本番である樹脂破砕試験でのAE観測孔の距離を決定し孔の配置を決定しました。樹脂破砕試験では樹脂破砕孔(RF1)を中心に半径1.2メートルの円周上に5本のAE観測孔を等間隔で配置しました。各孔は孔径76ミリメートルのコアバレル[2]で垂直に8メートル掘削されています。樹脂破砕試験はRF1の深度2.1メートルと3.3メートルの2地点で実施しました。それぞれ、樹脂の圧入中に破砕を示す送液圧力の急降下(ブレークダウン)が確認され、亀裂の形成が示唆されました。樹脂破砕試験の後、RF1孔を中心として周囲をさらに大きな孔径(205ミリメートル)のコアで掘削することで、樹脂が圧入されている周囲の岩盤を採り出しました。コアの側面にブラックライトを照射すると、樹脂に含まれる蛍光塗料が反応し(図3)、樹脂が圧入された亀裂を観察できました。深度2.1メートルでは横方向に割れた亀裂が、深度3.3メートルでは縦方向に割れた亀裂が形成されたことが判りました。採取したコアは、コア側面上に確認できる亀裂に直交する方向に切断(2.1メートルの部分は垂直に、3.3メートルの部分は水平に切断することに相当)して、その断面を見ることで亀裂の伸び方を観察しました(図4)。深度3.3メートル付近で切断したコアの断面では、破砕により生じた人工亀裂が北東-南西方向に伸び、既存亀裂に達するとそれに沿って方向が変化する様子が観察されました。

(図2)水圧破砕試験および樹脂破砕試験での孔の配置 (出所:JOGMEC作成)
(図2)水圧破砕試験および樹脂破砕試験での孔の配置(出所:JOGMEC作成)
(図3)大口径コアの側面にブラックライトを照射した様子 (出所:JOGMEC撮影)
(図3)大口径コアの側面にブラックライトを照射した様子(出所:JOGMEC撮影)
(図4)コア断面での亀裂観察 (出所:JOGMEC作成)
(図4)コア断面での亀裂観察(出所:JOGMEC作成)

5. まとめと今後の計画

JOGMECでは実際の亀裂を見るという試みを2013年度より続け、2022年度は樹脂圧入システムが露頭条件で機能することを確認し、露頭での水圧破砕試験で造成した亀裂を可視化することに成功しました。今後は亀裂が伸びている方向に追加の岩盤採取(コアリング)を行い亀裂の広がりを確認するとともに、破砕時に観測されたAEの震源と亀裂形状の関係についてさらなる解析を試みます。そして数値シミュレーションによって今回の実験結果の再現を試み、より大きなスケールにおける亀裂を正確に評価することを目指します。

当初この実験はタイトオイル・シェールガス開発技術向上のために始めました。もちろん今後も石油・天然ガス開発に必要な技術としてこの研究を進めていきたいと考えていますが、一方でカーボンニュートラルに役立つ技術が社会的に求められています。亀裂伸展メカニズムの解明は亀裂発生の精度向上につながると期待され、本来はリスクである亀裂発生を適切に扱うことにより坑井の圧入性改善と、亀裂発生リスクを抑制しながら行う地下貯留量の増加という複数の目的にも活かせるのではないかと考えています。

 

参考文献

[1] 長野優羽, 赤井崇嗣, 2015: 平成26年度シェールガス・オイルに関する研究委託事業, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成26年度石油開発技術本部年報, p. 125-128.

[2] 赤井崇嗣, 黒澤功, 2016: 平成27年度シェールガス・オイルに関する研究委託事業:頁岩内における水圧破砕亀裂可視化のための研究, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成27年度石油開発技術本部年報, p. 93-94.

[3] 赤井崇嗣, 黒澤功, 田中浩之, 2017: 水圧破砕の可視化実験, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成28年度石油開発技術本部年報, p. 41-42.

[4] 田中浩之, 有馬雄太郎,北村重浩, 兵藤大祐, 2018: 水圧破砕の可視化研究, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成29年度石油開発技術本部年報, p. 65-67.

[5] 有馬雄太郎, 伊藤義治, 田中浩之, 北村重浩, 兵藤大祐, 2019: 水圧破砕の可視化実験とAE観測, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成30年度石油開発技術本部年報, p. 87-90.

[6] 有馬雄太郎, 伊藤義治, 下田直之, 2020: 水圧破砕の可視化実験とAE観測, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構令和元年度石油開発技術本部年報, p. 47-48.

[7] 有馬雄太郎, 下田直之, 黒澤功, 竹内傳, 伊藤義治, 2021: モントニー露頭サンプル等を用いた水圧破砕の可視化実験とAE観測, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構令和2年度石油開発技術本部年報, p. 75-77.

[8] Chen, Y., Naoi, M., Tomonaga, Y., Akai, T., Tanaka, H., Takagi, S., and Ishida, T., 2018: Method for visualizing fractures induced by laboratory-based hydraulic fracturing and its application to shale samples, Energies, 11, p. 1976, doi:10.3390/en11081976.

[9] 竹内 傳, 倉本大輔, 黒澤 功, 加藤政史, 2022, 露頭試験に向けた準備作業について(パッカー・樹脂開発), 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構令和3年度石油開発技術本部年報、p. 94-96

 

[1] 孔内に設置し圧入区間の上下を硬質ゴムで閉塞することで、送液中に流体が漏れないようにして圧入区間の圧力を上げるための装置

[2] 掘削中、岩石を内部へ円筒状に取り込むことが可能な機器

以上

(この報告は2023年6月28日時点のものです)

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