ページ番号1009825 更新日 令和5年7月4日

原油生産量が伸び悩むメキシコで新規油田開発プロジェクト進展

レポート属性
レポートID 1009825
作成日 2023-07-04 00:00:00 +0900
更新日 2023-07-04 15:02:36 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 11
抽出データ
地域1 中南米
国1 メキシコ
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,メキシコ
2023/07/04 舩木 弥和子
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概要

  • AMLO政権は、Pemex中心にメキシコの探鉱・開発を進める方針を示し、Enrique Peña Nieto前政権下で実施されていた鉱区入札を中止した。Pemexは探鉱・開発の重点を浅海と陸上とし、優先開発油田を中心に開発を行っている。しかし、同社の探鉱・開発は全体として計画通りに進んでいない。一方、鉱区入札でメキシコに参入した企業は、大水深や浅海で探鉱・開発を進め、原油生産量を増加させている。ただし、これらの企業の生産量は少量で、メキシコの原油生産量は伸び悩んでいる。
  • Woodsideは2023年6月に、メキシコ湾大水深Trion油田開発の最終投資決定を行った。2028年に生産を開始し、2029年にピーク生産、日量約10万バレルに達する計画だ。また、Pemexは2023年後半にZama油田の最終投資決定を実施、2025年後半に生産を開始、日量18万バレルの生産を目指すという。探鉱についても、EniがYatzilプロスペクトで、Wintershall DeaがKanプロスペクトで有望な試掘結果を得ている。ShellとChevronは商業規模の油田を発見できず、大水深2鉱区から撤退したが複数鉱区は引き続き保有。
  • Pemexは優先開発油田では増産に成功しているが、それ以外の生産は減少しており、優先開発油田の生産の増加分でPemex全体の減少を補うことはできていない。2023年はCAPEXを2,400億ペソ(134億ドル)に増やし、原油とコンデンセートの生産量を日量193万バレル、天然ガス生産量を日量49.4億立方フィート以上に引き上げることを計画している。
  • このまま鉱区入札が行われなければ、2010年代後半に付与された鉱区の探鉱期間終了により、それ以降、Pemex以外の企業による探鉱が行われなくなり、新たな油田が発見されず、生産減退に拍車をかけることになりかねない。新たな鉱区入札の実施は、2024年の大統領選挙でどのような大統領が選出されるのかにかかってくることになると思料され、探鉱・開発の動向と併せて、大統領選挙の結果にも注目してゆく必要があると考える。

 

1. 2022年までの探鉱・開発概況 ―AMLO政権下で伸び悩む原油生産量―

メキシコの炭化水素資源については、浅海は低コストで開発が可能、大水深は膨大な未開発のポテンシャルがあるとされており、高い競争力を持つと考えられてきた。

Enrique Peña Nieto前政権下で、エネルギー改革が実施され、天然資源は全て国家に帰属すると規定した憲法が部分改正され、2013年12月に公布された。これにより、80年近く国家が独占してきた石油・ガス等エネルギーの開発に民間の資本や技術が導入されることになった。2015年7月から2018年3月にかけて鉱区入札が計9回実施され(表1)、国営石油会社Pemex以外の企業も鉱区を落札し、メキシコでの探鉱・開発に権益を保有して参加できるようになった[1]

表1メキシコの鉱区入札の状況
ラウンド 実施日 エリア他 対象鉱区数 落札鉱区数
1.1 2015/7/15 浅海、探鉱 14 2
1.2 2015/9/30 浅海、生産 5 2
1.3 2015/12/15 陸上、生産 25 25
1.4 2016/12/5 大水深、探鉱 10 8
2.1 2017/6/19 浅海、探鉱・生産 15 10
2.2 2017/7/12 陸上、探鉱・生産 10 7
2.3 2017/7/12 陸上、探鉱・生産 14 14
2.4 2018/1/31 大水深、探鉱・生産 29 19
3.1 2018/3/27 浅海、探鉱・生産 35 16
3.2 2018/7/25 陸上、探鉱・生産 37
3.3 2018/9/5 陸上、非在来型 9

この他にファームアウト入札を実施(2016年12月Triton油田等)。

各種資料を基にJOGMEC作成

 

2004年から2018年にかけて、PemexはSabinas-Rio Grande(Perdido)BasinとSalinas-Surest Basinで掘削キャンペーンを行い、探鉱井57坑を掘削し、20件の油・ガス田の発見に成功していた。これらの油田のうち、規模の大きいTrion、Maximino-Nobilis油田についても、Pemexが民間企業とジョイントベンチャーを組み開発を行うことが提案され、Enrique Peña Nieto前政権下で、ファームアウトのために行われる鉱区入札にかけられることとなった。

ところが、2018年12月に左派のAndrés Manuel López Obrador(AMLO)氏が大統領に就任することが決まると、ラウンド3.2以降の鉱区入札は中止されることになった。Pemexによるファームアウトのための鉱区入札についても、Trion油田に関しては実施されたが、Maximino-Nobilis油田は事前資格審査期間中にオファーを受けられず、キャンセルされた。

AMLO政権は、Pemex中心にメキシコの探鉱・開発を進める方針を示した。政府は、Pemexに対する税負担軽減、公的資金注入などを主軸とした支援策をとったり、Pemexの探鉱・開発の重点を浅海と陸上に移し、優先的に開発を進めさせる油田を決めたりした。しかし、同社の探鉱・開発は計画通りに進まなかった。

一方、大水深での探鉱については鉱区入札で参入した企業が中心となり進められている。2020年に新型コロナウイルス感染拡大による経済の減速や石油需要の減少に対する懸念が高まった際にも、Repsol、Shell、CNOOCは、スケジュール通りに探鉱を実施、試掘を進めた。Murphy Oilは、一部の掘削を延期することとしたが、追加で掘削を行う計画を発表する等、メキシコでの探鉱に積極的な姿勢を崩さなかった。ただし、TotalとExxonMobilのように、試掘結果を精査した結果、Centurion Plegado PerdidoのBlock2から撤退する企業もあった。

Pemex以外の企業はメキシコ湾浅海でも、BPの関連会社Hokchi Energyが予定よりも早くHokchi油田の生産を開始したり、EniがMizton油田等の生産を増やしたりしようと、積極的に動いている。しかし、Talos EnergyのZama油田開発については、Pemexとのユニタイゼーションの交渉に時間がかかり、思うような進展が見られずにいた[2]

このように、Pemex以外の企業による探鉱・開発は一定の進展が見られ、これらの企業による原油生産量は増加している。これらの企業の原油生産量は合計で、2021年は日量6万バレル程度であったが、2022年には日量10万バレル超にほぼ倍増した。主な企業の生産状況を見てみると、Hokchi Energyが日量22,000バレル、Eniが日量18,000バレルとなっている。

ただし、これらの企業の生産量は、これまでのところ、まだ、絶対量が少なく、メキシコの原油生産量は、開発停滞により減退するPemexの生産減に引きずられ伸び悩んでいる。2016年1月には日量225.1万バレルあったメキシコの原油生産量は、AMLO大統領が就任した2018年12月にはすでに日量170.7万バレルまで減少していたが、ここからさらに減少、もしくは、横ばいを続け、2022年は1月を除いて日量160万バレル台前半で推移した。

 

図1メキシコの原油生産量推移(単位:日量千バレル)
図1メキシコの原油生産量推移(単位:日量千バレル)
出所:https://produccion.hidrocarburos.gob.mx/

2. 新規プロジェクト進展

ところが、2023年に入り原油生産量はわずかではあるが、増加傾向にある。2023年4月の原油生産量は、前年同月比3.7%増の日量166.7万バレルとなった。これは、Pemex以外の石油会社による生産が引き続き増加していること等によるものだ。

加えて、AMLO政権の政策や新型コロナウイルスの感染拡大、世界的なエネルギー転換の動き等によって、ここ数年薄れていたメキシコでの探鉱・開発に対する石油会社の関心が、ロシアによるウクライナ侵攻以降、再び高まっているとの見方がある。Trion油田やZama油田の開発や沖合での探鉱が進みつつあり、数年後のメキシコの原油生産量に影響を及ぼす可能性が出てきた。

 

(1) Trion油田:2028年に生産開始、生産量日量10万バレルを目指す

Woodsideは、2023年6月20日、メキシコ湾の大水深プロジェクト、Trion油田の開発を承認、最終投資決定を行ったことを明らかにした。

Trion油田は、メキシコの海岸線から約180キロメートル、米国とメキシコの海洋上の国境から30キロメートル南の水深2,500メートルのPerdido褶曲帯の海域に位置している(図5)。

Trion油田は、2012年にPemexにより発見された。2016年12月にPemexがファームアウトするために実施した鉱区入札にかけられ、BHP PetroleumとBPが入札し、BHP Petroleumが落札した。そして、2017年にBHP Petroleumが60%、Pemexが40%の権益を持ち、同油田の開発を行うことで契約が締結された。Pemexは、Trion油田の可採埋蔵量は4億8,500万バレルであるとしていた。

2022年にWoodsideとBHP Petroleumの石油部門が合併した後は、WoodsideがPemexとのこの契約を引き継ぎ、権益の60%を保有し、オペレーターを務めてきた。

Woodsideは、BHP Petroleumとの合併直後には、Trion油田の開発について見通しを明らかにしていなかったが、2023年に入ってからは、2023年中の最終投資決定を目指すとしていた。

Woodsideは、72億ドルを投じ、当初、生産井9坑、水圧入井7坑、ガス圧入井2坑の合計18坑の坑井を掘削、第2フェーズではさらに6坑の坑井を掘削、生産能力日量約10万バレルの半潜水式浮遊式生産設備と貯蔵能力95万バレルの浮遊式貯蔵・積出設備を用い、2028年に生産を開始し、2029年にピーク生産、日量約10万バレルに達することを計画しているという。再圧入されなかったり、生産設備で使用されなかったりしたガスは、メキシコ市場へ出荷される。将来的には周囲で発見された油田をTrion油田の設備に繋ぎこむ可能性があるという。

Woodsideによると、このプロジェクトは経済的な観点からも、16%以上の投資収益率が期待できるという。また、投資回収期間が4年以内と短く、開発コストも低いため、損益分岐価格は1バレルあたり50ドル以下、生産開始から10年以内に生産予定の埋蔵量の3分の2を生産することができるとしている。

同油田の開発はメキシコ初の大水深の油田開発プロジェクトとなり、その点でも注目を集めている。

さらに、Woodsideは、Trion油田には、温室効果ガスである二酸化炭素の含有が少ないことや二硫化水素を含まないことを強調している。Trion油田の炭素強度は、プロジェクト期間中平均で石油換算1バレル当たり二酸化炭素換算で11.8キログラムとなり、世界の深海油田の平均である15キログラムより低くなるとしている。

ただし、豪州の環境保護団体Australasian Centre for Corporate Responsibility(ACCR)は、Trion油田を欠陥のある、利益率の低いプロジェクトであり、最初の10年間でTrion油田の生産予定の埋蔵量の3分の2を生産するというWoodsideの計画は、このプロジェクトが抱える様々なリスクを考慮すると、疑問であるとしている。(Friends of the Earthの関連団体である)豪州環境NGOのMarket Forcesも、Trion油田で生産される原油から、オーストラリアの年間総排出量のほぼ半分に相当する2億トンの二酸化炭素が放出されるとしている。

図2ラウンド1.4とPemexファームアウト入札鉱区図
図2ラウンド1.4とPemexファームアウト入札鉱区図
各種資料を基にJOGMEC作成

(2) Zama油田:2025年後半に生産を開始、日量18万バレルの生産を目指す

国家炭化水素委員会(CNH)は、2023年6月1日、Pemexが提出していたZama油田の開発計画を承認した。

Talos Energyは、2015年9月に実施されたラウンド1.1で、Sureste BasinのArea 7を落札、2017年7月にBlock 7で掘削したZama 1SON号井でZama油田を発見した(図3)。ところが、このZama油田は、隣接するPemexのAE-0152-Uchukil鉱区にまで広がっていることが判明し、ユニタイゼーションが行われることになった。しかし、いずれの企業がオペレーターを務めるかについて合意ができず、2021年にエネルギー事務局(SENER)がPemexを同鉱区のオペレーターにすることを決定した。

Pemexは2023年後半に最終投資決定を実施、90億ドルを投じ、坑井45坑(うち、17坑は水圧入井)を掘削、プラットフォームとパイプラインを建設し、2025年後半に生産を開始する計画であるという。そして、2029年または2030年までに、原油が日量18万バレル、ガスが日量7,000万立方フィートのピーク生産に達する見通しであるという。Pemexは、2049年までに原油6億バレルとガス2,400億立方フィートを生産する計画だ。原油の性状は、API比重38~39度、硫黄分0.75%程度で、メキシコで最も軽質なOlmeca原油として市場に出荷される。そして、同油田の埋蔵量(3P)、石油換算8億5,000万バレル(原油6億7,500万バレル、ガス2,620億立方フィート)のうち、2049年までに約6億バレルの原油と2,400億立方フィートのガスを生産することが計画されている。

ただし、Zama油田の水深は168メートルと比較的浅い海域に位置するが、これはメキシコ沖合でこれまでに開発された他の油田よりも深い海域ということになる。Pemexにはこの水深で開発を行った経験がなく、オペレーターとしてZama油田の開発を進めることができるのか疑問視されている。

また、PemexはZama油田の権益の50.4%、Trion油田の権益の40%を保有しているが、資金繰りに苦しむ同社がこの開発費をどのように捻出、管理するのかという点についても懸念を示す向きがある。

Zama油田開発のコンソーシアムは、Wintershall Dea(権益保有比率19.8%)、Talos Energy(同17.4%)、Harbour Energy(同12.4%)、およびPemex(同50.4%)で構成されている。

なお、Talos Energyは5月25日、メキシコの有力実業家Carlos Slim氏が所有するメキシコのコングロマリットGrupo Carsoの子会社Zamajalが、Zama油田の権益17.4%を保有するTalos Energy子会社、Talos Mexicoの49.9%の株式を1億2,475万ドルで取得することに同意したと発表した。さらに、6月上旬には、Harbour EnergyがTalos Energyとの合併の可能性について議論していると報じられている。

図3 Sureste Basin主要鉱区図
図3 Sureste Basin主要鉱区図
各種資料を基にJOGMEC作成

(3) Eni、Yatzilプロスペクトにおいて有望な試掘結果を得る

Eniは2023年3月17日、Sureste Basin、Cuenca Salina、Block 7の水深284メートルの海域で、セミサブマーシブルリグValaris DPS-5を用いてYatzil-1 EXP井を掘削長2,441メートルまで掘削、ネットペイ40メートル以上の砂岩層を確認したと発表した。Eniは、石油換算約2億バレルの原油が埋蔵されているとしている。EniはこのBlock7を2017年6月実施のラウンド2.1で落札した。同鉱区の権益保有比率はオペレーターのEniが45%、英国のCapricornが30%、メキシコのCitla Energyが25%となっている。

Eniにとってメキシコはコアエリアである。Sureste Basinの8鉱区に権益を保有し、うち、6鉱区でオペレーターを務めている。特に、ラウンド1.2で落札したCampeche湾のArea 1(CNH-R01-L02-A1/2015)では、2019年7月にMiztón油田の生産を開始、その後も開発を進めている。2023年5月には、ここ数カ月低迷傾向にあったMiztón油田の生産が回復、さらにAmoca油田の生産量が増加したため、同鉱区の生産量は日量34,945バレルに達した。Area 1には、他にTecoalli油田があり、Eniは、日量100,000バレルを生産する計画で、今後さらに生産量が増える可能性がある。

Eniは、今回のYatzil-1 EXP井での油層の確認は、Block 10で発見されたSaasken、Sayulita油田に続くもので、同社のメキシコ資産ポートフォリオの価値を確認し、また、近隣に位置する複数のプロスペクトの相乗的な開発の可能性に貢献するものであるとしている。

 

(4) Wintershall Dea、Kanプロスペクトにおいて有望な試掘結果を得る

Wintershall Deaは2023年4月25日、タバスコ州の沖合約25キロメートル、水深約50メートルの海域、Sureste Basin、Cuenca SalinaのBlock 30でBorr Ranリグを用いて掘削を行い、Kanプロスペクトで原油の埋蔵を確認したと発表した(図4)。同社にとって、オペレーターとして初めてのメキシコ沖合での油田発見となる。ネットペイは170メートル以上あり、同社の予備的な推定によれば、今回発見されたプロスペクトには石油換算2億バレルから3億バレルの炭化水素が含まれている可能性があるという。

Block 30は2018年3月実施のラウンド3.1で7件と最も入札数が多かった鉱区である。Block 30の権益保有比率は、Wintershall Deaが40%、パートナーのHarbour EnergyとSapura OMVがそれぞれ30%となっている。同コンソーシアムは、7月末までに規制当局にこの評価計画を提出する予定だ。

Wintershall Deaは、Kan井掘削後、Borr RanリグをKan井の北東約20キロメートルに位置するIxプロスペクトに移動、掘削を行う予定である。

図4 Wintershall DeaがSureste Basinに保有する鉱区の図
図4 Wintershall DeaがSureste Basinに保有する鉱区の図
出所:https://wintershalldea.com/en/newsroom/pi-23-10

(5) ShellとChevronは商業規模の油田を発見できず大水深2鉱区から撤退したが複数鉱区は引き続き保有

ShellとChevronは2023年5月、商業規模の油・ガス田を発見できなかったことを理由に、メキシコ湾の大水深域に位置する2鉱区から撤退することを決定したと発表した。

ShellとChevronは、Tabasco州とCampeche州の沖合にあるCuenca Salinaに位置するBlock 21でMax-1XP井を掘削したが、炭化水素の可能性が限定的であり、石油・ガスの生産は経済的に不可能であるとした。また、Block 21の南東に位置するBlock23で掘削したAlux-1EXPでも同様の結果が見られたという。両鉱区の契約期間は35年で、両社は両鉱区に約2億ドルを投資してきた(図5)。

Shellは上記2鉱区から撤退したとはいえ、メキシコで9鉱区の権益を、Chevronも3鉱区の権益を保有している。

図5ラウンド2.4鉱区図(緑:落札鉱区、オレンジ:応札なし)
図5ラウンド2.4鉱区図(緑:落札鉱区、オレンジ:応札なし)
出所:CNH websiteにJOGMEC加筆

3. Pemex、優先開発油田では増産に成功も総生産量は伸びず

2018年10月、AMLO政権への移行チームが優先開発油田(Accelerated Development Fields: ADF)の計画を発表した。その後、Pemexはこの優先開発油田を次第に追加し、数を増やすようになった。

優先開発油田の原油生産量は2022年5月の日量18.5万バレルから2023年2月には日量26.8万バレルに、天然ガス生産量は日量10.8億立方フィートから日量14.1億立方フィートに、コンデンセート生産量は日量18.6万バレルから日量25.5万バレルに着実に増加している。一方、この間に、Pemexの原油生産量は日量151.5万バレルから日量154.2万バレルに、天然ガス生産量は日量37.5億立方フィートから日量40.7億立方フィートに、コンデンセート生産量は日量22万バレルから日量28.7万バレルに増加している。原油、天然ガス、コンデンセートのいずれを見ても、優先開発油田の生産の伸びが、Pemexの生産の伸びを上回っており、Pemexの優先開発油田以外の生産は減少しており、優先開発油田の生産の増加分でPemex全体の減少を補うことはできていないことがわかる。

2018年12月15日にAMLO大統領が発表した炭化水素生産計画では、Pemexは2024年末までに石油生産量を最低でも日量240万バレル、最大で日量265.4万バレルまで増やすとされているが、このような状況からその目標を達成することは難しいと考えられる。

このように生産を伸ばしている優先開発油田ではあるが、Pemexはその多くの油田で、試掘成功後に、急いで開発を行い、生産に移行している。すなわち、探鉱井や評価井を掘削するという一般的な方法はとられず、詳細な貯留層の特性や最適な掘削方法についての検討も行われず、完全な開発計画も策定されていない。そのため、通常の手順を踏んで開発が行われた場合に比べ、はるかに多い埋蔵量を残したり、坑井に不具合が発生したりする可能性があるとの指摘を受けている。

2023年についてPemexは同年5月に、CAPEXを2022年の1,620億ペソ(90.5億ドル)から2,400億ペソ(134億ドル)に増やし、原油とコンデンセートの生産量を日量193万バレル、天然ガス生産量を日量49.4億立方フィート以上に引き上げることを計画している。CAPEXのうち、444億ペソ(24.8億ドル)をKu-Maloob-Zap油田群に差し向けるとしているが、これは前年の同油田群のCAPEXのほぼ2倍に相当する。また、Ixachiガス田には前年の50億ペソ(2.87億ドル)から大幅増の190億ペソ(10.6億ドル)のCAPEXを割り当てるとしている。

なお、2023年初の報道では、Pemexは、2023年の生産目標を原油とコンデンセートが日量198万バレル、天然ガスが日量45.9億立方フィートとし、軽質原油と天然ガスの生産量を増加させるため、Ixachi、Quesqui、Tupilco Profundo等主要な沖合の油・ガス田に開発を集中するとされていた。Quesqui、Ixachi、Pokche、Tupilco Profundo等のガス田開発により、ガス、コンデンセートの生産が増加していることを反映した生産目標の変更と考えられる。

 

終わりに

メキシコでは、Pemex以外の企業については生産量が増加しており、国家炭化水素委員会(CNH)も、これらの企業は2028年までに原油生産量を日量50万バレル程度まで増加させると予想している。また、Trion油田やZama油田の開発に進展が見られ、EniやWintershall Deaが有望な試掘結果を得ている。

しかし、ピーク時の2003年には日量210万バレルを生産していたCantarell油田の生産量が減退し、さらに、2009年以降、Cantarell油田に取って代わって、メキシコの原油生産の中心となっているKu-Maloob-Zaap油田の生産も減退している。このまま鉱区入札が行われなければ、2010年代後半に付与された鉱区の探鉱期間終了により、それ以降、メキシコではPemex以外の企業による探鉱が行われないことになる。そうなれば、新たな油田が発見される可能性が低くなり、このメキシコの生産減退に拍車をかけることになりかねない。

メキシコでは、2024年に大統領選挙が実施される。新たな鉱区入札が実施されるか否かは、この選挙でAMLO大統領の後継にどのような大統領が選出されるのかにかかってくることになろう。したがって、メキシコの探鉱・開発については、その動向と併せて、大統領選挙の結果にも注目してゆく必要があると考える。

 

以上

(この報告は2023年6月30日時点のものです)


[1]JOGMEC石油・天然ガスレビュー(2018年5月21日)「メジャーズの新たなコアエリア中南米大西洋沖合大水深の探鉱・開発状況」参照

[2]JOGMEC石油・天然ガス資源情報(2021年7月8日)「メキシコ:Pemex中心に探鉱・開発を推進する政策が強まる可能性」参照

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