ページ番号1009832 更新日 令和6年8月16日

豪州連邦政府政権交代後のエネルギー関連規制の動き

レポート属性
レポートID 1009832
作成日 2023-07-11 00:00:00 +0900
更新日 2024-08-16 13:07:03 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG基礎情報
著者
著者直接入力 片山 弘行
年度 2023
Vol
No
ページ数 8
抽出データ
地域1 大洋州
国1 オーストラリア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 大洋州,オーストラリア
2023/07/11 片山 弘行
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概要

  • 2022年5月の連邦選挙による政権交代以降、労働党政権は気候変動への取り組みを政策の柱に据え、主なエネルギー関連法/規制に大きな変更を加えている。
  • セーフガードメカニズムは、施設ごとのベースライン(排出上限)を厳格化するとともに、年毎に4.9%低減させることを規定。未達の場合はクレジットによるオフセットが認められるものの、将来的なクレジットの入手性など懸念も残る。さらに新規ガス田に対しては、低CO2ガス田やCCS技術の存在を背景にベースラインがゼロに設定されるなど、新規ガス開発には厳しい制度。
  • 豪州国内ガス安全保障メカニズム(ADGSM)は、四半期ごとの検討により機動的な発動が可能となるよう改正。また従来は自社生産量よりも国内からガスを調達し、輸出に充てていた量の方が多いLNG事業者のみに輸出規制が課される制度であったが、全LNG事業者に規制が課される制度に改正。
  • ガス生産者行動規範は、豪州東海岸のガス不足の解消及び価格高騰を抑制することを目的にガス生産者に義務として課される規範であり、事実上、2022年12月に課された1年限定措置の価格上限を2025年6月末まで延長するもの。
  • 石油資源利用税の改正では、探鉱費などの控除の利用に制限が設けられ、課税の可能性が高まる。ただし、ガス移転価格の決定方法が従来通りとなったことから比較的穏健な改正に留まる。
  • 先住民の地位を明文化する憲法改正法案が議会で可決。今後、憲法改正を問う国民投票を実施予定。先住民代表機関(Voice)を設置することで先住民の意見を政策に反映するためのメカニズムが整備。

 

はじめに

オーストラリア連邦政府は2022年5月に連邦議会総選挙を実施し、2013年以来8年8か月政権を担ってきた自由党と国民党による保守連合から、労働党に政権が移り、アルバニージー首相が同年6月1日付で就任した。労働党は下院では単独過半数の77席を獲得したが、上院では26席を占めるにとどまり、12席を獲得したオーストラリアン・グリーンズ(グリーンズ)と政策協定により安定政権を目指している。したがってエネルギー関連法案、規制の採否にグリーンズの意向が反映されることがある。本稿では政権交代以降の豪州連邦政府の主なエネルギーや排出規制の動きを整理した。

 

1. セーフガードメカニズム(排出規制)改正

セーフガードメカニズムは年10万t-CO2の排出施設を対象に排出上限(ベースライン)を設ける制度で、根拠法は「National Greenhouse and Energy Reporting Act 2007(NGER Act)」及び「National Greenhouse and Energy Reporting(Safeguard Mechanism)Rule 2015」である。従来制度ではベースラインの設定が甘く、排出削減に寄与していないとの批判があった。

豪州連邦政府(労働党)はセーフガードメカニズムの改定を選挙公約に掲げており、グリーンズの提案を一部取り入れた改正法案「Safeguard Mechanism(Crediting)Amendment Act 2023」について同党の合意を取り付け、2023年3月30日に議会で可決した。4月11日に施行、7月1日から適用される。

また、本改正に基づき詳細を定めた「National Greenhouse and Energy Reporting(Safeguard Mechanism)Amendment(Reforms)Rules 2023」が2023年5月3日付で発布され、7月1日から運用を開始した。主な内容は以下の通りである。

  • 「Policy Intent(政策意図)」として、年間排出量10万トン以上の215社の排出事業者と新規参入者による排出量を2030年までに1.4億トンから1億トンに削減することを明記
  • 労働党の選挙公約では年5万トンの排出施設を対象とすることを掲げるも引き下げは見送り、従来通り年10万トン以上の施設が対象
  • ベースラインは2029/30年度までは年4.9%低減。2030/31年度以降は年3.285%
  • 既存施設に対するベースラインは、産業平均排出原単位(EIindustry)と対象施設の過去の排出原単位(EIsite specific)から求めるハイブリッド形式。経過措置として当初は対象施設の過去5年の排出原単位平均を90%、産業平均を10%分とし、徐々に産業平均の比率を高め、最終的には産業平均の排出原単位に移行
(表1)排出強度の計算方法が確立されている既存施設に対する排出量ベースライン
豪州会計年度 排出量ベースライン
2023/24 0.951 × ((0.1 × EIindusry + 0.9 × EIsite_specific)× 生産数量)
2024/25 0.902 × ((0.2 × EIindusry + 0.8 × EIsite_specific)× 生産数量)
2025/26 0.853 × ((0.3 × EIindusry + 0.7 × EIsite_specific)× 生産数量)
2026/27 0.804 × ((0.4 × EIindusry + 0.6 × EIsite_specific)× 生産数量)
2027/28 0.755 × ((0.6 × EIindusry + 0.4 × EIsite_specific)× 生産数量)
2028/29 0.706 × ((0.8 × EIindusry + 0.2 × EIsite_specific)× 生産数量)
2029/30 0.657 × ((  1  × EIindusry +   0  × EIsite_specific)× 生産数量)

(出所:「National Greenhouse and Energy Reporting (Safeguard Mechanism) Amendment (Reforms) Rules 2023」
を基にJOGMEC作成)

 

  • ベースラインを下回った量については監督官庁のClean Energy Regulatorに申請することでSafeguard Mechanism Credit(SMC)を取得。SMCは豪州炭素クレジット(ACCUs)と同様金融商品としての取り扱いが可能であり、他社への売却も可能。また自己の将来の利用のためのreserveも可能。SMCはSafeguardのオフセットにしか利用できない一方、ACCUsは事業者のゼロカーボン認証等にも利用が可能
  • SMCはACCUsのような政府によるリバースオークションによる単位削減量当たりの価格が存在しない代わりに毎年6月30日までに政府が次年度の「Safeguard Mechanism default prescribed unit price」について公表(豪州政府は総額A$25.5億規模の排出削減基金(Emissions Reduction Fund;ERF)を2014年から実施、リバースオークションにより公募された省エネ・低炭素プロジェクトの削減量を買い取っている。同制度継続のため2019年2月にはA$20億規模の気候解決ファンド(Climate Solutions Fund)造成方針を発表)
  • 高排出輸出産業施設(Emissions Intensive Trade Exposed industries(EITEs)facilities)に対しては、排出上限値の年平均削減率を他産業よりも優遇。製造業は1%、非製造業は2%(非製造業はエネルギー・鉱物資源関連としてrun-of-mine coal、iron ore、manganese ore、bauxite、run-of-mine metal ore、extracted oil & gas、 stabilised crude oil or condensate、processed natural gas、liquefied natural gas、ethane、 liquefied petroleum gasが記載)
  • 炭素リーケージ防止のための炭素国境調整メカニズムの検討を開始
  • ACCUsの使用に制限はない。ただし削減量の30%以上をカーボンオフセットに依存している施設は監督機関Clean Energy Regulatorに対して直接的な排出削減ができない理由を説明
  • 新規施設のベースラインは国際的なベストプラクティス(ベンチマーク)を豪州の事情に合わせて設定
  • LNGバックフィルプロジェクトは「新規プロジェクト」として分類。新規ガス田には国際的なベストプラクティスに基づいたベースラインが設定されるが、低CO2ガス田の存在やCCSの機会を考慮し、このベストプラクティスをゼロと設定(reservoir carbon dioxideをゼロ)。またシェールガス開発もベストプラクティスをゼロと設定。したがって、バックフィルを含む新規ガス田は最初の日からCO2排出量をゼロにする必要あり
  • 未達の場合罰則規定あり(従来も罰則規定はあったが、ベースラインが余裕をもって設定されていたこともありほぼ機能せず)
  • ACCUsの高騰を抑えるため、価格高騰時には連邦政府が保有のACCUsを上限A$75/t-CO2(2024/25年度以降はCPI+2%で上昇予定)にて市場に放出する用意あり(参考:2023年7月時点のACCUsスポット価格はA$30/t-CO2程度だが、2022年1月にA$50を超えたことがある)。

ACCUsをはじめクレジットの流動性については業界でも懸念の一つとなっている。特に今後ベースライン引き下げに伴いクレジットによるオフセットを必要とする施設が増えることが想定されるが、クレジットを必要とするときに果たして入手が可能なのか、また政府が放出するACCUs以外のクレジットで適正な価格による入手が可能なのか、現時点では懸念が残る。

Safeguard mechanismの改定に対してグリーンズは新規ガス・石炭開発プロジェクトの全面禁止を改定案賛成の条件としていたが、全面禁止の主張は取り下げた。ただしBandt党首はこの変更により116ほどある化石燃料プロジェクトのうち半分は停止させることができると言及。メディアがあげる開発困難が予想されるガスプロジェクトとして、Barossa、Beetaloo、Browse、Scarborough、Crux、Narrabriを例示した。

 

2. 豪州国内ガス安全保障メカニズムADGSM(LNG輸出制限)

Australian Domestic Gas Security Mechanism(ADGSM)は国内へのガス供給を優先させることを目的にLNG事業者に対して輸出制限を課すことを可能とする制度である。根拠法は「Customs (Prohibited Exports)Regulations 1958」のDivision 6 - Liquefied natural gasである。

2022年に発動検討を行ったADGSMについて、かねてから機動性に乏しいとの批判があり改定について議論されてきた。2023年2月9日に連邦政府はガイドラインを公表、4月1日から実施された。

ガイドラインの主な内容は以下の通りである。

  • 発動の検討は四半期ごとに行う。国内ガス不足が予想される四半期の3か月前に連邦資源大臣がADGSM発動検討に関する通知を発出(従来は1年に1回)
  • 豪州全体が対象であることを明確化
  • 大臣による通知後30日間、LNG事業者と不足に係る影響や事業者側の解決策の提案などについて協議。通知後、45日以内に輸出規制を発動するかどうかを決定
  • 輸出規制が発動された場合、LNG事業者には2種類の許可が付与される。無制限に輸出が可能なUnlimited volume permission(UV permission)と輸出可能量が規定されたAllowable volume permission(AV permission)であり、それぞれのpermissionは不足が懸念される四半期に効力を有する。
  • UV permissionはガス不足の影響を受けないガス市場におけるLNG事業者に付与(例えば東部ガス市場での不足の際の西豪州や北部準州のLNGプロジェクトなど)
  • AV permissionで規定される輸出可能量は、当該四半期におけるガス供給量から既に国内供給を確約している量と不足分を緩和するために国内供給へと割り当てられる量を差し引いたもの
  • 国内供給へ割り当てられる量は、不足分をAV permissionの数で除したもの。すなわち全LNG事業者に輸出規制が課される(長期契約を満たすために国内ガス市場からガスを調達しているLNG事業者、特に自社生産量よりも市場からの調達量の方が多いnet-deficitの事業者のみに規制を課すという従来の方針から変更)
  • 監督官庁への事前通知によりAV permissionの全部、または一部を他事業者と取引可能だが、UV permissionは取引不可
  • AV permissionで規定された輸出枠が長期契約の数量より少ない場合、資源大臣に輸出枠の拡大を申請可能。ただしここでの長期契約とは、当該LNGプロジェクトのFID前、もしくはFID後12か月以内に締結されたもの。更新された長期契約については大臣の判断(The Minister may consider)
  • LNG事業者は、安定性を高めるために1年単位での輸出枠を大臣に申請可能。大臣は申請受領後60日以内に判断
  • 大臣による輸出枠拡大の認可に当たり、LNG事業者がとり得るべき対応を行ったかどうか(例えば長期契約の数量を満たすための国内ガス市場以外でのLNG調達など)について考慮

 

3. ガス生産者行動規範Mandatory Code of Conduct

Mandatory Code of Conductは豪州東海岸のガス不足の解消及び価格高騰を抑制することを目的に定めたもので、西豪州(WA州)を除くすべてのガス生産者に義務として課される行動規範である。事実上、2022年12月に課された1年限定措置の価格上限A$12/GJ(US$7.6/MMBtu)を2025年6月末まで延長するものとなっている(2025年7月に見直し予定)。基本的には豪州国内へガスを適正な価格にて供給されるよう促すもので、LNGはじめ既存契約にはほぼ影響は生じないと評価されるが、従来の「Code of Conduct」はボランタリーベースであったのに対して今回は強制であり、市場介入の度合いが高まっている。業界からは投資減退の可能性が指摘されている。

2023年5月のコンサルテーション時に公開された内容は以下の通り(最終版は7月7日公開予定)

  • ガス生産者は、以下の手続きにより国内供給可能なガスについて需要家と交渉
  • ガス生産者は、需要家の購入意思確認を目的に関心表明gas EOI(Expression of Interest) を公開。EOIには年間供給量、供給期間、デリバリーポイント、ガスフィールド情報等を明示
  • ガス生産者は、EOIののち、ガス供給契約のベースとなる基本条件gas initial offerを需要家と協議。gas initial offerには供給量、供給期間、デリバリーポイントの他、価格、供給量を決定する際のフレキシビリティの度合い(Take or Pay条項など)を明示
  • ガス生産者は、gas EOI、gas initial offerののち、gas final offerを協議。上記に加え支払い条件、紛争解決方法等を明示
  • ガス生産者は、gas final offerののち、上記に加え需要家側からの契約解除条項、契約違反等についても取り決めた契約を需要家と締結
  • ガス生産者は必ずしもgas EOI、gas initial offer等の手順を経なくても構わないが、gas EOIと同様の情報、すなわち12か月間で購入可能な未契約ガスの量を開示する必要あり
  • 上限価格は「reasonable price」に基づき2025年7月までA$12/GJ。小規模ガス生産者(<100PJ≒89Bcf)は、国内市場にガスを供給している限り価格上限を免除
  • 対象ガスにはLNGは含まない
  • 物理的に東部市場と接続されている地域が対象、WA州は対象外
  • 本規範制定の2年以内に豪州競争消費者委員会(ACCC)が「reasonable price」の決定方法について制定予定(生産コストと適切なマージンを勘案して、パブリックコンサルテーションを経て決定)
  • 違反者には罰金
  • 本規範の有効日以前に契約、またはEOIなどで条件が定められた契約は対象外(既存契約には影響なし)

 

4. 石油資源利用税(Petroleum Resource Rent Tax;PRRT)

2023年5月7日、かねてから豪州国民への還元が十分ではないと批判の対象となっていた石油資源利用税(Petroleum Resource Rent Tax; PRRT)について改正することを連邦政府が発表した。

2020/2021年度PRRT納付額報告書によると、LNGプロジェクトのうちPRRTを納めているのはNorth West ShelfプロジェクトのBHPのみである。PRRTは石油・ガスの販売から得られる利益に対して40%課税されるもので、探鉱費や開発費などを控除でき、未控除分は翌年度以降に長期国債利回り(Long-Term Bond Rate;LTBR)+ 5%の複利にて繰り越し可能。2020/21年度時点の繰越控除額(Carry forward expenditure)はA$283,742mである。

今回の改正点はこの控除の利用に制限を設ける、具体的には控除により相殺できる所得の割合を90%に制限するというもの。これにより従来、全額控除で納税免除となっていたプロジェクトについてもPRRT納付の必要性が発生する可能性が高くなり、各LNGプロジェクトの収益性に影響が及ぶことが考えられる。ただし納税額の総額には大きな変化はなく、業界では納税のタイミングが早まっただけとの見解である。

LNGプロジェクトに供給されるガスの移転価格の算定方法(Gas Transfer Pricing)に関しては、2017年4月のレビュー報告書「Callaghan Review」の勧告で示されたNetback Priceのみの評価は採用せず、従来と同じNetback PriceとWellhead Priceの中間値を採用する。業界からは、PRRT改正は避けられないと見ていたところ、ガス移転価格の決定方法に際してより大きな課税となる恐れのあったNetback Priceのみの採用については見送られ、全体として穏健な改正点で終わったことから安堵の意見が大半である。

(図1)Gas Transfer Price算定方法
(図1)Gas Transfer Price算定方法
(出所:Petroleum Resource Rent Tax: Review of Gas Transfer Pricing Arrangements - Final report to the Treasurer; Australian Government; May 2023)

5. 廃坑(Decommissioning)

Northern Endeavour油田におけるNorthern Oil and Gas Australia社(NOGA)の倒産に伴い、連邦政府が廃坑作業を実施、その費用をLaminaria and Corallina Decommissioning Cost Recovery Levyとして石油生産ライセンス保有者に課すものである。根拠法は「Offshore Petroleum(Laminaria and Corallina Decommissioning Cost Recovery Levy) Act 2022」で前政権の国民党/自由党政権時に導入され2021年7月1日から実施している。2021年7月1日から2029年7月1日までの1年ごとに適用。連邦の費用が回収され次第終了予定(賦課金は2023年6月30日まではA$0.48/boe)。

 

6. ロンドン議定書第6条改正に係る国内法整備

豪州連邦政府はCCSを目的とするCO2の例外的輸出を可能とするためのロンドン議定書第6条改正に対応する国内法「Environment Protection(Sea Dumping)Act 1981」を改正するための法案「Environment Protection(Sea Dumping)Amendment(Using New Technologies to Fight Climate Change)Bill 2023」を2023年6月22日に議会に提出した。

本法案によりCCSを目的とするCO2の豪州への越境輸送が可能となる。本改正法は豪州政府がロンドン議定書第6条改正の暫定的適用に関する宣言を寄託する日を施行日として規定している。

本法案は、下院に設けられた気候変動・エネルギー・環境・水常設委員会においてロンドン議定書第6条改正に関する調査レポートが今月公開され、そのレポートにおいてロンドン議定書第6条改正(2009年及び2013年改正)の批准を提言していることに基づいている。本法案は現在、上院環境・通信常設委員会に審議が付託され、7月6日までパブリックコメントを受け付け、7月27日に委員会としての勧告を記載した報告書が提出される予定である。

 

7. エネルギー価格救済支援策によるGas Price Cap(ガス価格上限)

豪州東部における電力・ガス価格の高騰を受けて、2022年12月8日に開催されたエネルギー大臣会合及びその翌日9日の国家内閣(National Cabinet)において連邦、各州は「エネルギー価格救済支援策(Energy Price Relief Plan)」に合意した。Energy Price Relief Planではガス価格ならびに石炭価格を制限するための措置を講じること、家庭と企業を対象としたエネルギー料金の軽減を行うこと、将来に向けて、よりクリーンで安価な信頼できるエネルギーに投資することが示された。

この方針を受け2022年12月5日に「Treasury Laws Amendment(Energy Price Relief Plan)Bill 2022」を上程、翌16日に上下院で可決した。連邦法「Competition and Consumer Act 2010(競争消費者法)」の改正によりガス価格上限設定が実現した。ガス価格上限の概要は以下の通りである。

  • ガス価格にはA$12/GJの上限を12か月間にわたって設ける。ただし既存契約分やビクトリア州ガス市場(Victorian Declare Wholesale Gas Market)及びShort Term Trading Mechanismのスポット市場については価格上限の対象とはしない。
  • ガス生産者行動規範(Mandatory Code of Conduct)の導入によりガス価格上限は実質2025年6月末まで導入。

 

8. エネルギー価格救済支援策によるCoal Price Cap(石炭価格上限)

Energy Price Relief Planにおける石炭価格抑制のための措置として、石炭火力発電所向け一般炭を対象にA$125/tの価格上限を設けることとし、具体的な方策は石炭産出州であるニューサウスウェールズ州(NSW州)とクイーンズランド州(QLD州)がそれぞれ規則等を導入した。

NSW州政府は、2022年12月22日、州内の石炭火力発電所への石炭の十分かつ安価な供給を確保するため、石炭生産者に対して石炭を州内向けに一定量留保させるとともに石炭火力発電所への販売価格を制限する法律「Energy and Utilities Administration Act 1987」を即日可決、施行した。

NSW州政府は、翌日12月23日には本法に基づき需要者である石炭火力発電所に対して備蓄義務を課す通達「Coal Market Price Emergency (Directions for Power Stations) Notice 2022」を発出、州内の石炭火力発電事業者に対して発電に供される石炭30日分の備蓄及び調達義務を求めた。

NSW州政府は国内石炭生産者に対して価格上限を課す通達「Coal Market Price Emergency (Directions for Coal Mines) Notice 2022」を12月23日に発出し、2023年2月16日には新たな通達「Coal Market Price Emergency (Directions for Coal Mines) Notice 2023」を発出した。主な内容は以下の通りである。

  • 石炭火力発電に供する石炭(5,500kcal/kg)をA$125/t以上、もしくはA$0.002273/kcal/kg以上で販売してはならない。ただし、基準日より前に締結された既存契約、もしくは法的拘束力を有する契約の概要・主要条件を記したterm sheetを有するもの、12か月以上継続し、価格以外同じ条件にて更新予定の契約で規定されている量については免除、未契約の石炭に対して石炭火力発電事業者からの購入の申し出があった場合は、上記と同等以上(同じかもしくは安価)で供給契約を締結しなければならない。
  • 既存もしくは潜在的な石炭供給契約のために次期四半期の生産量の一部を留保しなければならない。留保すべき量は、事業者/炭鉱ごとに定めた割合、当該四半期の生産見込み量(既存契約量を除く)、通達に定める量のうちの少ない量とする
  • 石炭火力発電所へ供する石炭は必ずしも対象炭鉱から採掘されたものである必要はなく、他者から調達したものでも構わない
  • 石炭価格上限と一部生産量の国内留保義務は双方とも2024年6月30日までを期限
  • 日系100%のBoggabri炭鉱を操業するIdemitsu Australia社は、同炭鉱から産出する石炭は高熱量の一般炭で主として日本の顧客向けに輸出され、低熱量の石炭を利用するNSW州内の石炭火力発電所には不向きであることから、もし同炭鉱に留保義務が課された場合、他社から低熱量の一般炭を調達する必要が生じ、財務面の損失が生じる懸念を表明。なお、同炭鉱に関しては最終的に既存契約分が認められたことで国内向け留保義務は免除。

 

9. 先住民の地位を明文化する憲法改正法案成立

2023年6月19日、かねてから豪州連邦議会で議論されていた憲法改正法案「Constitution Alteration (Aboriginal and Torres Strait Islander Voice)2023」が成立した。本法案は、先住民のアボリジニおよびトレス海峡諸島民を「最初の豪州人」と認め、先住民の規定が存在しなかったオーストラリア憲法に先住民についての規定を加え、政府の政策決定プロセスに先住民の「声」を反映させるための代表機関(Voice)を創設することを定めるものである。本法案成立により、今後は憲法改正の是非を問う国民投票を実施する。アルバニージー首相は2023年10月に投票日を設定するとした。

憲法改正には国民投票による過半数の賛成票に加え、賛成過半票を得た州の数が過半数を超えること(6州のうち4州が賛成過半票を得たこと)が条件である(過去の改憲発議44件のうち、改憲に至ったのは8件のみ)。今までの世論調査では賛成が50%以上であったところ、直近の世論調査では賛成46%、反対43%と拮抗している(ただ、おそらくは改憲されるとの見方が多数)。

本法案について前与党の自由党/国民党は憲法への先住民の規定には賛成するもVoiceの設置には反対の立場を示していたが党議拘束は付けず、そのため同党の一部の議員は賛成に回った。先住民によるVoiceは独立した機関であり、議会及び行政府に対して先住民に関する事項について意見を述べる権限を有するがこれらの意見は拒否権ではなく、あくまで助言的なものと位置付けられている。憲法改正により「Voice」が設置されることで、先住民の意見を政策に反映するためのメカニズムが整備され、先住民政策の透明性、予見性が高まることが期待される。業界は概して賛成の立場であるが、一方でVoiceによる「助言」で行政府や規制当局の規制実施能力や決定能力が影響を受け、結果長期的な遅延につながり、プロジェクトが立ち行かなくなることが懸念されるとしている。

 

以上

(この報告は2023年7月6日時点のものです)

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