ページ番号1009835 更新日 令和5年7月12日
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概要
- UAEは7月3日、新たな国家エネルギー戦略、国家水素戦略、国家EV政策、第2次NDCの更新や投資省の設立など、エネルギー関連の重要政策を閣議決定した。
- 新国家エネルギー戦略では、クリーンで持続可能なエネルギーの供給能力強化を目指し、2030年までに1,500億~2,000億ディルハム(約400億~545億ドル)を投資して、再生可能エネルギーの容量を3倍にするとともに、2031年までにエネルギーミックス全体に占めるクリーンエネルギーの割合を30%まで引き上げる。
- 国家水素戦略では、低炭素地場産業の支援、投資の誘致等により、カーボンニュートラル達成に貢献し、2031年までにUAEが水素の最大生産国の仲間入りをすることを目標とする。サプライチェーンの開発、クリーン電力を供給する水素オアシスの設立、国立研究開発センターの設立などが含まれている。
- 「第2次NDC」の更新により、UAEは2030年までに温室効果ガス排出量を1億8,200万トン(CO2換算)まで削減することを目標とする。2030年の排出量削減レベルは、BAU(business as usual)のシナリオ比40%(22年9月NDC改定でのBAUシナリオ比31%から引き上げ)となる。
1. はじめに
UAEは7月3日、シェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アル・マクトゥームUAE副大統領兼首相兼ドバイ首長が議長を務めるUAE閣僚会議にて、新たな国家エネルギー戦略、国家水素戦略、国家EV政策、第2次NDCの更新や投資省の設立など、エネルギー関連の重要政策を閣議決定した。
閣僚会議には、シェイク・マンスール・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン副大統領兼副首相兼大統領府大臣、シェイク・マクトゥーム・ビン・ムハンマド・ドバイ副首長兼副首相兼財務大臣、シェイク・サイフ・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン副首相兼内務大臣(中将)等が出席した。
ムハンマド副大統領は閣議決定を受け、「経済成長が加速する中、我々はUAE国家エネルギー戦略の更新を承認した。この戦略では、今後7年間で再生可能エネルギーの貢献度を3倍にし、同期間に1,500億ディルハム(約400億ドル)から2,000億ディルハム(約545億ドル)を投資し、エネルギー需要の増加に対応することを目指している。」と語った。
ムハンマド副大統領はさらに、「我々はまた、最近最も重要なクリーンエネルギーのひとつとして浮上している水素に関する国家戦略も承認した。この戦略は、サプライチェーンの開発、水素オアシスの設立、国立研究開発センターの設立などを通じて、今後8年間でUAEが低排出ガス水素の生産・輸出国としての地位を確立することを目的としている。」と述べた。
2. 閣議決定の概要
今回、閣議で承認された国家エネルギー戦略、国家水素戦略等の全容は明らかになっていないが、WAM(UAE国営通信)によるプレス発表等、現時点の情報に基づき、今回承認された戦略等の概要を以下に整理する。
(1) UAE国家エネルギー戦略
- 再生可能エネルギーへの依存を高め、エネルギー効率を改善し、クリーンエネルギーの利用を促進することを目的としたUAE国家エネルギー戦略2050の更新が閣議決定された。同戦略は、エネルギー部門における技術革新と投資を奨励することに加え、エネルギー技術の研究開発プログラムを支援する。
- 国家エネルギー戦略は、クリーンで持続可能なエネルギーの供給能力を強化し、エネルギー部門における国際競争力を高め、同部門における技術革新と投資を最も誘致している国のひとつとしての地位を固めることに取り組む。
- この戦略は、再生可能エネルギーへの新たな投資機会を提供し、エネルギー部門における持続可能性の目標達成に向けた国際パートナーとの協力強化の取り組みを支援し、エネルギー需要の充足と天然資源の将来世代への持続可能性の確保を両立させるための長期的な国家プログラムの一環となる。
- 新国家エネルギー戦略では、気候変動の影響を軽減し、気候中立性を達成することを目指し、2030年までに1,500億~2,000億ディルハム(約400億~545億ドル)を投資して、再生可能エネルギーの容量を3倍にするとともに、2031年までにエネルギーミックス全体に占めるクリーンエネルギーの割合を30%まで引き上げる。
- 二酸化炭素排出量を削減し、環境の持続可能性を高めるために、個人や組織のエネルギー消費効率を向上させる。これにより、2030年までに1,000億ディルハムの財政節約と50,000人の雇用創出が可能になる。
(2) UAE国家水素戦略
- 国家水素戦略では、新たなクリーンエネルギー源への投資に関するUAEのイニシアティブやプロジェクトの中で、またCOP28開催に向けた準備の一環として、UAEは、10の主要な取り組みを通じて、低炭素地場産業の支援、投資の誘致により、カーボンニュートラル達成に貢献し、2031年までにUAEが水素の最大生産国の仲間入りをすることを目標とする。
- 国家水素戦略には、サプライチェーンの開発、クリーン電力を供給する水素オアシスの設立、国立研究開発センターの設立などが含まれている。
(コメント)
UAEの過去の戦略(2021年11月発表の「水素リーダーシップロードマップ」等)では、「2030年までに世界の主要な水素市場で25%のシェア獲得」「2050年までに年間1,400~2,200万トンのクリーン水素を生産」等の具体的な数値目標が設定されていたが、今回の国家水素戦略では、「2031年までにUAEが水素の最大生産国の仲間入りをすることを目的とする」といった定性的な目標設定にとどまっている。ただし、今回承認された水素戦略の詳細内容は明らかになっておらず、今後、確認する必要がある。
(3) 国家電気自動車(EV)政策
- 国家EV政策は、UAE政府および地元パートナー、民間セクターとの協力関係を発展させ、電気自動車所有者のニーズをサポートするEV充電の全国ネットワークを構築し、UAEにおける電気自動車市場を管理することを目的としている。
- 同政策のグリーン・モビリティ・プロジェクトを通じて、2050年までに二酸化炭素排出量を削減し、運輸部門のエネルギー消費を20%削減することに貢献する。
- 中国の自動運転開発会社WeRide社の自動運転プロジェクトが予備承認された。この承認は、持続可能な輸送分野における技術開発を支援し、二酸化炭素排出量を削減するためのものである。
(4) 「第2次NDC」の更新
- 2020年12月に国が決定する貢献(NDC)として提出された第2次排出削減目標の更新が決定。UAEは2030年までに温室効果ガス排出量を1億8,200万トン(二酸化炭素換算、MtCO2e)まで削減することを目標とするが、これは基準年2019年のレベルと比較して19%の減少となる。2030年の排出量削減レベルは、BAU(business as usual)のシナリオ比40%となる。
- NDCは、国連の持続可能な開発目標およびパリ協定とUAEの国家貢献を整合させるものであり、排出量を削減し、今世紀の世界の気温上昇を2℃に抑えるために、UAEが積極的に貢献することを示している。
(コメント)
UAEの2030年の排出量削減レベルは、2020年のNDCではBAU比23.5%であったが、2022年9月には同31%に見直され、今回のNDC改定ではBAU比40%に引き上げられた。
(5) 投資省の設置
- UAE内閣は投資省の設立を承認し、モハメド・ハサン・アル・スウェイディ氏を大臣に任命。
- 同省は、UAEの投資政策を連邦レベルで管理・支援し、国内外の様々な分野への投資を促進するためのインフラ整備を目的とする。
- 同省は、UAEの投資環境を整備し競争力を強化するための戦略、法律、計画、プロジェクト、国家プログラムを準備することに加え、関連当局と連携してUAEの一般的な投資政策を立案する責任を負う。
3. エネルギー戦略、水素戦略の閣議決定を受けた関係閣僚の反応等
The National によると、UAEエネルギー戦略2050の更新と国家水素戦略の策定は、持続可能な経済・社会発展の達成に向けたUAEのコミットメントを後押しすると、UAE産業・先端技術大臣でCOP28議長に指名されたスルタン・アル・ジャーベル氏(博士)は述べた。
「過去10年間で、UAEは世界のどの国よりも再生可能エネルギーの容量を増やしてきた。2030年までに、この容量をさらに3倍以上にして、合計14.2ギガワットにすることを目指している。」と、ADNOCの社長兼グループCEOで、再生可能エネルギー会社Masdarの会長でもあるジャーベル氏は語った。
ジャーベル氏はさらに、「UAEは、エネルギー分野での専門知識を生かし、水素を輸出することで、世界経済の脱炭素化を加速させる上で重要な役割を果たしていく。UAEはまた、2031年までに低炭素水素の主要生産国になることを目指している。」と述べた。
一方、スハイル・アル・マズルーイ・エネルギー・インフラ相は7月4日、国家水素戦略は、2031年までにUAEを「低炭素水素の主要かつ信頼できる生産・供給国」にするための長期計画であると述べた。
「国家水素戦略は、UAEが2050年までにネットゼロを達成し、世界的な水素経済を加速させるための重要なツールである。この2つの戦略を通じて、わが国の豊かで気候変動に左右されないエネルギー安定供給を確保すると同時に、環境持続可能性のためのグローバルなアジェンダに貢献する。COP28の開催に向けて準備を進めている今、この戦略の立ち上げはこれ以上ないほどタイムリーだ。」と、マズルーイ氏は語った。
UAEはクリーン・エネルギー・プロジェクトに多額の投資を行っており、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成することを目指し、いくつかのイニシアティブを発表した。
UAEのイニシアティブには、バラカ原子力発電所のような新しいクリーン・エネルギー・プロジェクトや、アブダビのアル・ダフラ地域にある総発電容量2GWの世界最大の太陽光発電所、ドバイにある5GWのムハンマド・ビン・ラーシド・アル・マクトゥーム(MBR)ソーラーパークなどの新しい太陽光発電プロジェクトなどが含まれている。
【参考】
UAEの再エネ・水素・CCS事業概要
プロジェクト | 発電容量 | 参加企業 |
ドバイMohammed bin Rashid Al Maktoum(MBR)Solar Park第1~5期 アブダビNoor Abu Dhabi 太陽光 アブダビAl Dhafra 太陽光 アブダビShams-1太陽熱 |
計5 GW(2030目標) 1.17 GW(19/4商業運転開始) 2.1 GW(23年央運転開始予定) 100 MW(稼働中) |
Masdar、Acwa Power他 TAQA、丸紅他 TAQA、Masdar他 Masdar、Total他 |
- 水素事業
- Ruwaisブルー水素・アンモニア事業
- TA’ZIZ、Fertiglobe、三井物産、GSエナジー(韓)により25年より年間100万トンのブルーアンモニアを生産
- KIZADグリーン水素・アンモニア事業
- TAQA、KIZAD、独Thyssenkruppにより年間20万トンのグリーンアンモニアを生産
- TAQA、Abu Dhabi Portにより2GW太陽光電力からグリーンアンモニアを生産
- 韓国のKepco、サムスン物産、西部発電とUAEのPetrolyn Chemieにより年間20万トンのグリーンアンモニアを生産
- Ruwaisブルー水素・アンモニア事業
- CCS(CO2分離・回収・貯留)
- Al Reyadahプロジェクト
- 中東初の商業生産規模のCCSプロジェクト。MussafahのEmirates Steelから年間80万トンのCO2を回収し、パイプラインで43キロメートル離れたRumaithaおよびBab油田にEOR目的で圧入。
- ADNOCは2030年までにCO2回収能力を現状の6倍以上となる年500万トンに引き上げる計画。Habshanガス処理プラントのCCS事業と、Ruwaisブルー水素・アンモニア事業で分離・回収されるCO2を圧入・貯留することを想定。
- Al Reyadahプロジェクト
4. まとめ(COP28への対応等)
11月末からドバイで開催されるCOP28のホスト国であるUAEは、同国が宣言している2050年のネットゼロ達成に向け、今回、国家エネルギー戦略の更新、国家水素戦略の策定等を行い、特に、再生可能エネルギーや水素等のクリーンエネルギーの開発および供給能力の強化を図る姿勢を鮮明にした。また、COP28の開催を控え、率先して気候変動対策を進めようとしているUAEの取り組み姿勢を国際社会に向けて積極的にアピールする動きとも考えられる。
COP28をめぐっては、5月に米国およびEU議会の100人以上の議員が、米大統領、欧州委員会委員長、国連事務総長等に、国営石油会社(ADNOC)のCEOを務めるスルタン・ジャーベルCOP28議長の交代を求める書簡を提出するなど、同氏の議長就任に対する批判がみられるが、今のところ、同氏の議長としての活動に支障は出ていない。再エネ会社Masdarのトップでもあるジャーベル氏は、UAEの長年にわたる気候変動対策やクリーンエネルギーへの取り組みにおける中心人物であり、ADNOCの「改革」に成功した同氏の実行力も評価されており、むしろ、COP28の議長として適任の人物であるとの評価も根強くある。
UAEは、エネルギー転換への「現実的」なアプローチを提唱しており、クリーンエネルギーへの投資を強化する一方で、化石燃料への投資を継続する方針であるが、6月にボンで開かれたCOP28関連会合で、スルタン・ジャーベル氏が、「化石燃料の段階的削減は避けられない」と発言して、注目を集めた。環境活動家や環境派の政治家はジャーベル氏の発言を評価した上で、今後、「全化石燃料の段階的削減・廃止」がCOP28の正式議題となるかどうかを注視していきたいとコメントしている。
以上
(この報告は2023年7月11日時点のものです)