ページ番号1009836 更新日 令和5年7月18日

原油市場他:米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が後退したこともあり、4月下旬以来の高水準にまで上昇する原油価格

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レポートID 1009836
作成日 2023-07-18 00:00:00 +0900
更新日 2023-07-18 12:05:49 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 36
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
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地域3
国3
地域4
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地域6
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地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2023/07/18 野神 隆之
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概要

  1. 米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入によりガソリン需要が季節的に堅調となった一方同国経済減速等もあり留出油需要は軟調に推移したが、製油所での稼働が比較的高水準を保ったうえガソリン製造が優先された一方留出油製造が劣後したこともあり、ガソリン及び留出油両在庫は比較的限られた範囲内で変動した他、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅下方付近に位置する、それぞれ量となった。また、製油所の稼働に加え原油輸出が概して高水準であったことから、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する量となっている。
  2. 2023年6月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本では装置の不具合の発生により製油所の稼働が停止したことに伴い在庫は増加した一方、欧州では横這い、米国では減少となった。結果としてOECD諸国全体では原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州ではガソリンや軽油を中心として在庫は微減となった。他方、日本においては暖房用の需要が低下した灯油の在庫が増加したこともあり石油製品在庫は増加した。また、米国でも、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加等により、石油製品全体の在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている。
  3. 2023年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場においては、7月1日より実施されているサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産を8月についても実施する旨7月3日に報じられたこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、欧州各国及び地域における政策金利引き上げ決定や引き上げ継続方針の表明等が原油相場に下方圧力を加えたことから、6月中旬から7月上旬にかけては、原油価格(WTI)は終値ベースで1バレル当たり概ね67~73ドルの範囲で上昇及び下落の傾向を示すことなく推移した。しかしながら、7月7日に発表された米国非農業部門雇用者数や7月12日に発表された米国消費者物価指数(CPI)の伸びが鈍化している旨示されたことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が後退したことから、原油価格は上昇傾向となり、7月13日の原油価格の終値は1バレル当たり76.89ドルと4月25日以来の高水準に到達した。
  4. 今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。しかしながら、サウジアラビア等による原油価格浮揚を見据えた減産措置実施に対する確固たる姿勢が原油相場の下落を抑制する形で作用しやすいものと考えられる。そのような中、米国等の物価上昇を含めた経済指標類や金融当局による政策金利引き上げ等の金融引き締め政策を巡る動向、及び米国メキシコ湾沖合周辺での暴風雨発生や進路等を巡る状況、一部産油国における原油生産停止状況等が原油価格に影響を与えるものと見られる。また、ロシアの減産等を巡る動向にも原油価格は反応する可能性があるものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2023年4月の米国ガソリン需要(確定値)は日量900万バレル、前年同月比で2.8%程度の増加となり(図1参照)、3月の当該需要である同900万バレルとほぼ同水準となった一方、3月の前年同月比の増加率である1.7%程度から増加率が拡大した。また、当該需要は速報値(前年同月比2.1%程度増加の日量894万バレル)から上方修正されている。4月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量82万バレル程度と推定されたところ確定値では同73万バレルへと下方修正されたことで、この部分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと見られる。2023年4月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.711ドルと前年同月の同4.213ドルから大幅に低下していることが、同国におけるガソリンの需要を喚起した格好となっているものの、同月の米国自動車運転距離数は1日当たり85億マイルと3月の同88億マイルから低下した他前年同月(同85億マイル)とほぼ同水準にとどまった。これは、3月10日に同国中堅金融機関シリコンバレー銀行が破綻して以降、複数の同国金融機関が破綻したり、預金量が減少する旨伝えられたりするなど経営不安が拡大した(4月24日には同国中堅金融機関であるファースト・リパブリック銀行の預金量が2023年1~3月期に40%程度減少した旨明らかになったうえ5月1日に同行は破綻した)ことにより、米国金融不安とその同国経済への影響に対する懸念が消費者の間で広がったことが一因であるものと考えられる。このため、4月の需要(出荷)が全て消費に回ったわけではない(つまりガソリンスタンド等における在庫としてとどまっている)ものと見られることから、それが5月の同国ガソリン需要(出荷)を抑制する形で作用する可能性がある(因みに5月の米国自動車運転距離数は1日当たり93億マイル、前年同月比で2.5%の増加と4月に比べ自動車運転距離数が増加したうえ前年同月比での増加率も拡大したが、5月の同国ガソリン需要(速報値)は日量918万バレルで前年同月比0.8%の増加と4月からは前年同月比の増加率が縮小している)。なお、2023年4月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染流行前の2019年4月の当該需要(日量941万バレル)(確定値)を4.4%程度下回っている。他方、2023年6月の同国ガソリン需要(速報値)は推定日量936万バレル、前年同月比で2.5%程度の増加となっており、5月の当該需要(速報値)である日量918万バレルから需要量が増加した他5月の前年同月比0.8%程度の増加から増加率が拡大した。5月29日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴う連休(5月27~29日)を以て米国は夏場のドライブシーズンに突入した(同国のドライブシーズンは9月4日の労働者の日(レイバー・デー)の休日に伴う連休(9月2~4日)まで続く)こともあり、6月は5月に比べ個人の外出が活発化、6月の同国自動車運転距離数が1日当たり推定94億マイルと5月の同93億マイルから拡大したことが、6月の同国ガソリン需要の前月比での増加をもたらしたものと見られる。また、2022年6月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり5.032ドルと1993年前半以降の米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)による全米平均ガソリン小売価格統計史上最高水準に到達するなど高騰したことにより、同月のガソリン需要が抑制された一方、2023年6月の同小売価格は同3.684ドルと前年同月を27%程度下回ったことにより、同月の個人の外出が前年同月に比べ活発になるともにガソリン需要が(前年同月に比べ)堅調となったものと考えられる。なお、2023年6月の米国ガソリン需要は2019年6月の当該需要(日量970万バレル)(確定値)を3.6%程度下回っている。また、米国の製油所で春場のメンテナンス作業は概ね終了したものの、一部製油所では装置の不具合発生に伴い操業が停止したことにより原油精製処理量が減少する(図2参照)場面が見られた。それでも、同国製油所の精製稼働率は比較的高水準に保たれたうえ、製油所ではガソリン生産が優先された(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ことから、6月上旬から7月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は比較的限られた範囲内で変動した他、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~23年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~23年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~23年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~23年)

2023年4月の米国留出油需要(確定値)は日量390万バレルと前年同月比で2.4%程度の増加となり(図5参照)、3月の同410万バレル(前年同月比1.4%程度の減少)から需要量が減少した一方前年同月比では減少から増加に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比横這いの日量381万バレル)から上方修正されている。4月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量112万バレル程度と推定されたところ確定値では同102万バレルへと下方修正されたことで、この部分が同国留出油需要の速報値から確定値への移行段階で輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと見られる。また、2023年4月は米国の暖房用留出油需要の中心地である北東部における気温が前月比で上昇したことに伴い暖房向け需要が減退したこともあり同国の留出油需要は前月比で減少した。ただ、2022年3月及び4月は全米平均軽油価格がそれぞれ1ガロン当たり5.105ドル及び同5.120ドルと、当時としては1994年前半以降のEIAによる全米平均軽油小売価格統計史上最高水準に到達したこともあり、同年3月及び4月の米国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で8.6%及び8.3%の、それぞれ上昇率に到達した(因みに2022年3月のCPI上昇率は1981年12月(この時は同8.9%の上昇率)以来の高水準のものであった)他、3月及び4月の実質個人可処分所得が前年同月比で21.6%及び7.4%の、それぞれ減少となった(因みに2022年3月の実質個人可処分所得の前年同月比での減少率は当該統計の前年同月比の増減データが入手可能な1960年以降では最大の減少率となった)こと等により、個人の財の購買力が影響を受けた結果、2022年4月の留出油需要が前年同月比で5.9%の減少となった反動が、2023年4月の米国留出油需要の前年同月比の伸び率の拡大となって現れたものと考えられる。なお、2023年4月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量412万バレル)(確定値)を5.3%程度下回っている。他方、2023年6月の留出油需要(速報値)は推定日量368万バレルと前年同月比で7.9%程度の減少となり、5月の当該需要量(速報値)の日量387万バレル(前年同月比横這い)から需要量及び前年同月比の伸び率が下振れした。5月の同国鉱工業生産が前年同月比で0.2%程度の増加にとどまった(因みに2023年1月の米国鉱工業生産は前年同月比1.5%の増加であった)他、物流活動も前月から不活発化した(5月の米国輸送担当者指数(LMI: Logistics Manager Index、50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は47.3と当該部門の活動が縮小していることが示唆された)にもかかわらず、5月の留出油需要が横這いとなった影響が6月の留出油需要に及んだ他、6月の米国鉱工業生産も前年同月比で0.2%程度の増加にとどまった他同月の同国LMIも45.6と5月からさらに低下したことが、6月の留出油需要の前年同月比での減少に反映されているものと考えられる。なお、2023年6月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量399万バレル)(確定値)を7.9%程度下回っている。このように、米国の留出油需要が低調であったことから、製油所の稼働が低下したうえ、夏場のドライブシーズンに伴う需要期に突入したこともあり製油所はガソリン製造を優先した反面留出油製造を劣後した結果、留出油の生産はもたつき気味となった(図6参照)ものの、6月上旬から7月上旬にかけての米国留出油在庫は限られた範囲内での変動となった他、平年幅下方付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~23年)

図6 米国の留出油生産量(2009~23年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~23年)

2023年4月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比2.5%程度増加の日量2,045万バレルとなり(図8参照)、3月の同2,045万バレルとほぼ同水準となったが、同月の前年同月比0.3%程度の減少から増加に転じた。4月のガソリン需要が前月比でほぼ横這いとなった他、同月のガソリン及び留出油両需要が前年同月比で増加となったことが影響する格好となっている。また、ガソリン及び留出油の各需要が速報値から確定値に移行する際に上方修正されたこともあり、同国石油需要は速報値(前年同月比1.4%程度減少の日量1,967万バレル)から確定値に移行する段階で上方修正されている。なお、2023年4月の米国石油需要は、2019年4月の当該需要(日量2,033万バレル)(確定値)を0.6%程度上回っている。他方、2023年6月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,062万バレル、前年同月比で0.7%程度の減少となっており、5月の同国石油需要(速報値)である日量1,980万バレル、前年同月比1.4%程度の減少から、需要量は増加したうえ前年同月比での減少率は縮小した。ガソリン需要が前月比で増加したことが米国石油需要の前月比での増加の一因となった一方、ガソリン需要が前年同月比で増加したことが6月の米国石油需要の前年同月比での減少率を縮小する方向で作用したものの、留出油需要が前年同月比での相当程度減少したことで相殺されて余りあったことが、同国石油需要の前年同月比での減少に反映されているものと考えられる。なお、2023年6月の米国石油需要は、2019年6月の当該需要(日量2,065万バレル)(確定値)を0.2%程度下回っている。また、6月上旬から7月上旬にかけ、米国では原油生産量がほぼ横這いとなった一方、同国製油所での原油精製処理量は減少する場面が見られたものの5月上旬から6月上旬の状況に比べれば総じて高水準であったこと、5月1日にサウジアラビアを初めとする一部OPECプラス産油国が日量約116万バレルの自主的な追加減産を開始したことにより、OPECプラス産油国からの原油供給変動の影響をより受けやすい欧州において石油需給引き締まり感が米国に比べ強まったことで、欧州の指標原油であるブレントが米国の指標原油であるWTIよりも相対的に割高となったこともあり、米国からの原油輸出が比較的高水準の状態を保ったことから、6月上旬から7月上旬にかけての同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~23年)

図9 米国原油在庫推移(2003~23年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~23年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~23年)

2023年6月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本では装置の不具合の発生により製油所の稼働が停止したことに伴い原油精製処理が停滞したこともあり在庫は増加となった。また、欧州においては製油所のメンテナンス作業実施により原油精製処理量が前月比で小幅に減少したものの、それに併せて原油供給が調整されたものと見られることから在庫は横這いとなった。ただ、米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期突入もあり製油所での原油精製処理活動が比較的活発であったことに加え国外向けの原油輸出も行なわれたこともあり在庫が減少した。結果としてOECD諸国全体では原油在庫は減少となったが平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州では、製油所の原油精製処理活動が若干ながら低下するとともに石油製品生産活動も僅かながらではあるが不活発になったと見られる一方、気温が上昇したこともあり個人の自動車による外出が促進された(また気温が上昇したため自動車の空調稼働も活発化した)ものと見られることもあり、ガソリンや軽油を中心として在庫は微減となった。他方、日本においては気温の上昇とともに自動車の空調稼働が活発化したことが一因となりガソリン需要が喚起されたことから当該製品在庫が減少したものの、暖房用の需要が低下した灯油の在庫が増加したことで相殺されて余りあった結果石油製品在庫は増加した。また、米国でも、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や冬用ガソリンの利用時期終了に伴い当該製品に混入していたブタンの需要減少によるその他の石油製品在庫の増加により、石油製品全体の在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する状態となっている(図14参照)。なお、2023年6月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は59.8日と5月末の推定在庫日数(60.4日)から減少している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~23年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~23年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~23年)

6月14日に1,500万バレル台前半程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は6月21日及び27日には1,400万バレル台後半程度、7月5日には1,300万バレル台半ば程度、そして7月12日には1,300万バレル強程度の、それぞれ量へと減少するなど、当該在庫は減少傾向を示した。2月5日を以てEU加盟国がロシア産石油製品の輸入を事実上禁止したことにより、ロシア産ガソリン及びナフサが(欧州方面に向かう代わりに)シンガポールに到着したことが、シンガポールにおける軽質製品在庫を押し上げる方向で作用したものの、6月1日からメンテナンス作業を実施している(また、6月6日にはコンプレッサーにおいて不具合が発生した)豪州のジーロング(Geelong)製油所(操業者:ビバ・エナジー(Viva Energy)、原油精製処理能力日量12.0万バレル)の操業が停止したこともあり、シンガポールから豪州方面へのガソリン輸出が活発化したことが、シンガポールにおける軽質留分在庫減少の一因となったものと考えられる。しかしながら、ジーロング製油所は6月30日に製油所メンテナンス作業を完了した他、3月末より装置の不具合により操業を停止していた豪州のリットン(Lytton)製油所(操業者:アンポール(Ampol)、原油精製能力日量10.9万バレル)も操業を再開した旨7月3日に伝えられたうえ、日本や韓国等で実施されている春場の製油所メンテナンス作業の多くが間もなく完了する結果それら製油所からのガソリン等の供給が拡大するとの観測が市場で発生した一方、インドネシア等の東南アジア諸国のガソリン需要が十分に堅調であるとは言い切れない状況であったこともあり、ガソリン需給の緩和感が市場で広がったことが、アジア市場でのガソリン価格に下方圧力を加えた他、特に7月上旬には原油価格の上昇にガソリン価格の上昇が追い付かなかったことから、6月中旬から7月中旬にかけアジア市場のガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は概して縮小する傾向を示した。

他方、厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が事実上解除された中国において製造業の回復がもたつき気味である一方、感染抑制策解除からしばらくの間は好調であった非製造業もその勢いが失われつつあるように見受けられるなど、同国経済が伸び悩み気味であることもあり、アジアにおける石油化学部門の原料としてのナフサ需要が盛り上がらない一方、ロシアからシンガポール方面にナフサが流入したことに加え、この先アジア諸国において春場の製油所メンテナンス作業が終了に向かうとともに石油製品製造活動が活発化する結果、ナフサ供給が増加すると予想されること、さらに、冬場の暖房シーズンが終了したこともあり、これまで暖房向けに消費されてきた液化石油ガス(LPG)の需要が低下するとともに当該製品価格が下落、石油化学製品製造のための原料面でナフサと競合するようになってきたこと等の要因が、アジア市場でのナフサ価格に下方圧力を加えたうえ、特に7月上旬において原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかった結果、6月中旬から7月中旬にかけてのアジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大傾向となった。

6月14日には800万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、6月21日には700万バレル台後半程度の量へと減少した。6月27日には800万バレル弱程度の量へと回復したものの、7月5日及び12日には再び700万バレル台後半程度の量へと減少した結果、7月12日の在庫水準は6月14日を下回る状態となった。アジア諸国で春場の製油所のメンテナンス作業が実施されつつあることに加え、ロシアからの石油製品輸入が事実上停止しているEU加盟国を含む欧州において夏場のドライブシーズンに伴う軽油需要期(欧州では乗用車に占めるディーゼル車の割合が高い)を控え5月以降軽油在庫が減少傾向となっていることから、欧州の軽油価格がアジアの当該製品価格よりも総じて割高になっていることにより、インドや中東諸国から欧州方面により多くの軽油が流出する反面、シンガポール方面への軽油の輸出が抑制される結果となったことが、シンガポールにおける中間留分在庫を減少させているものと考えられる。そして、シンガポールにおける中間留分在庫が減少していることに伴いアジア市場で足元中間留分需給の引き締まり感が意識されていることが同市場における軽油価格を下支えする一方、6月初頭から7月初頭にかけインドが雨季(モンスーン)に突入したことにより軽油需要が抑制される(灌漑用に稼働させるポンプ向けのエネルギー源が、モンスーン到来前に燃料として使用されていた軽油から水力発電由来の電力へと切り替わることに加え、雨天に伴い道路や建設工事の進捗が減速することにより、物流や製造業での軽油の利用が鈍化することによる)こと、この先北東アジア等の製油所のメンテナンス作業が終了するとともに、石油製品製造活動が活発化することにより軽油供給が増加することや、製造業等の活動が緩慢な状態のままである中国から軽油が輸出されるとの見方が市場で発生したことが、アジア市場での軽油価格に下方圧力を加える格好となったことから、6月中旬から7月中旬にかけてのアジア市場における軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は概ね比較的限られた範囲で変動した。

6月14日に2,100万バレル台前半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、6月21日は1,800万バレル台半ば程度の量へと減少した。ただ、6月27日及び7月5日には同在庫は2,000万バレル台半ば程度の水準へと回復した。それでも、7月12日には1,800万バレル台前半程度の量へと再び減少、6月14日の水準を下回る状態となっている。EU加盟国により輸入が原則禁止となったロシア産重油がシンガポールに流入していることが、シンガポールの重油在庫を押し上げる形で作用しているものの、日本及び韓国等の製油所が春場のメンテナンス作業を実施していることにより、それら諸国からシンガポールへの重油の流れが低調となっていることが、シンガポールの重油在庫を減少させる格好となった。ただ、7月12日のシンガポールの重油在庫が6月14日の水準を下回っているとはいえ、6月中旬から7月中にかけ当該在庫が明確な増加もしくは減少傾向を示したわけではなかったこともあり、6月中旬から7月中旬にかけてのアジア市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は比較的限られた範囲内で変動した。しかしながら、クウェートで操業を開始したアル・ズール(Al Zour)製油所(2022年11月6日に操業者であるKuwait Integrated Petroleum Industries Company(KIPIC)が第1段階(原油精製処理能力日量20.5万バレルの原油精製処理装置1基)の商業運転開始を発表した)が3基目(そして最後)の原油精製処理装置(原油精製処理能力日量20.5万バレル)の操業を開始した(これにより同製油所の原油精製処理能力は同61.5万バレルとなった)旨7月6日に明らかになった(それに先立つ6月下旬には同製油所から2023年7~12月において新たに低硫黄重油を供給する意向が示された)こともあり、今後同製油所からアジアに向け低硫黄重油供給が増加されるとの観測が市場で強まったことが、アジア市場での低硫黄重油価格に下方圧力を加えたことにより、6月中旬から7月中旬にかけての当該市場での低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小傾向となった。

 

2. 2023年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場等の状況

2023年6月中旬から7月中旬にかけての原油市場においては、7月1日より実施されているサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産を8月についても実施する旨7月3日に報じられたことや同日ロシアも8月につき日量50万バレルの石油輸出削減を実施する旨表明したこと、7月5日にイランがホルムズ海峡付近でタンカー2隻を拿捕しようとしたこと等が原油相場に上方圧力を加えた反面、欧州各国及び地域における政策金利引き上げ決定や引き上げ継続方針の表明に加え欧州及び中国の経済が減速しつつあることを示唆する指標類が明らかになったこと等が、原油相場に下方圧力を加えたことから、6月中旬から7月上旬にかけては、原油価格(WTI)は終値ベースで1バレル当たり概ね67~73ドルの範囲で上昇及び下落の傾向を示すことなく推移した。しかしながら、7月7日に発表された米国非農業部門雇用者数や7月12日に発表された米国消費者物価指数(CPI)の伸びが鈍化している旨示されたことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が後退したことから、原油価格は上昇傾向となり、7月13日の原油価格の終値は1バレル当たり76.89ドルと4月25日以来の高水準に到達した(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~23年)

6月19日には、米国奴隷解放記念日(ジュンティーンス)の休日に伴いこの日の終値は計上されなかったが、6月20日には、低調な不動産市場に対する懸念から、2023年の中国経済成長率見通しを従来の6.0%から5.4%へ、2024年の同国経済成長率を4.6%から4.5%へ、それぞれ下方修正する旨米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが6月18日付の報告書で明らかにしたと6月19日に伝えられたうえ、6月20日に中国人民銀行が1年物及び5年物の最優遇貸出金利をそれぞれ0.1%引き下げる旨発表したものの、5年物の金利引き下げ幅が市場の一部事前予想である0.15%を下回っていたことにより、中国経済回復と石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で後退したことに加え、電気自動車に対する堅調な需要がガソリン需要を抑制するため2023年の中国石油需要は以前見込んでいたほどには増加しないことにより、同年の同国石油需要を7.40億トン(推定日量1,484万バレル)と従来の見通しである7.43億トン(同1,490万バレル)から下方修正した旨中国石油天然ガス集団(CNPC)経済技術研究院(ETRI)が6月20日に明らかにしたことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.28ドル下落し、終値は70.50ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2023年7月渡し原油先物契約は取引を終了したが、8月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり71.19ドル(前日終値比同0.74ドルの下落)であった)。ただ、6月21日には、前日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、中国の製造業の安定した成長と非製造業の回復により、中国経済は改善しつつある旨同国の何立峰副首相が明らかにしたと6月21日に報じられたことにより、同国経済拡大と石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で増大したこと、乾燥した気候の影響を受け、米国のトウモロコシの作柄が優良もしくは良好である割合が6月18日時点で55%と6月11日時点から6%低下した他、この時期としては1992年以来の低水準となった旨6月20日夕方(米国東部時間)に米国農務省が示唆したことにより、6月21日の同国トウモロコシ先物価格が前日終値比で5.2%上昇したこともあり、割高となるトウモロコシ由来のバイオ燃料の石油製品への混入が減少するとともに原油への需要が増加するとの観測が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.53ドルと前日終値比で2.03ドル上昇した。それでも、6月22日には、この日開催された英国イングランド銀行(中央銀行)金融政策委員会において市場の事前予想(0.25%の引き上げ)を上回る0.5%の政策金利引き上げが決定されたうえ、同日ノルウェー銀行(中央銀行)が0.5%、スイス国立銀行(同)が0.25%の、それぞれ政策金利引き上げを決定したことにより、これら諸国を含む地域の経済減速と石油需要の伸びの鈍化を巡る懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.02ドル下落し、終値は69.51ドルとなった。また、6月23日も、この日S&Pグローバルから発表された6月のユーロ圏製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が43.6と5月の44.8から低下した他市場の事前予想(44.8)を下回ったことにより、同地域の経済減速懸念が市場で増大したこともあり、ユーロが下落した反面米ドルが上昇したことに加え、これまでの上昇に対する利益確定の動きが発生したうえ6月23日にS&Pグローバルから発表された6月の米国製造業PMI(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が46.3と5月の48.4から低下した他市場の事前予想(48.5)を下回ったことにより、同国経済減速懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.16ドルと前日終値比で0.35ドル下落した。この結果原油価格は6月22~23日の2日間で1バレル当たり合計3.37ドルの下落となった。

6月26日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、ウクライナに駐留していたロシアの民間軍事会社ワグネルの部隊がロシア南部を占領したうえ、さらに同国の首都モスクワに向け進軍しつつある旨6月24日に同社の創業者であるプリゴジン氏が表明したこともあり、ロシア情勢の不安定化と同国の原油等の供給への影響に対する懸念が市場で増大したこと、6月26~28日にポルトガルのシントラで開催されている欧州中央銀行(ECB)フォーラムにおける米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長及びECBのラガルド総裁の発言を前にした持ち高調整が発生したことにより米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.37ドルと前週末終値比で0.21ドル上昇した。ただ、物価上昇が根強いこともありECBが政策金利引き上げを終了する可能性は低く、この先の見通しが大きく変化しなければ7月においても政策金利引き上げを継続する旨6月27日にECBのラガルド総裁が明らかにしたことにより、当該地域等の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.67ドル下落し、終値は67.70ドルとなった。それでも、6月28日には、この日EIAから発表された米国石油統計(6月23日の週分)で、原油在庫が前週比960万バレルの減少と2023年5月19日(この時は同1,246万バレルの減少)以来の大幅な減少となった他市場の事前予想(同180万バレル程度の減少)を相当程度上回っている旨判明したことにより、同国の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり69.56ドルと前日終値比で1.86ドル上昇した。また、6月29日も、この日米国商務省から発表された2023年第1四半期の同国国内総生産(GDP)(確定値)が年率換算で前期比2.0%の増加と5月25日に発表された改定値(同1.3%の増加)から上方修正された他市場の事前予想(同1.4%の増加)を上回ったうえ、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(6月24日の週分)が23.9万件と前週比で2.6万件の減少となった他市場の事前予想(26.5万件)を相当程度下回ったことにより、米国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.30ドル上昇し、終値は69.86ドルとなった。さらに、6月30日も、この日米国商務省から発表された5月の同国個人消費支出(PCE:Personal Consumption Expenditure)価格指数が前年同月比3.8%の上昇と4月の同4.3%の上昇から伸びが鈍化した他2021年4月(この時は同3.6%の上昇)以来の低水準に到達したことで、米国金融当局による政策金利引き上げペースが減速するとの観測が市場で発生したことにより米ドルが下落するとともに、米国が景気後退に陥るとの懸念が市場で後退したこともあり同国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり70.64ドルと前日終値比で0.78ドル上昇した。この結果原油価格は6月28~30日の3日間で1バレル当たり合計2.94ドルの上昇となった。

7月3日には、この日中国独立系報道機関財新伝媒から発表された6月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が50.5と5月の50.9から低下したことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、7月3日に米国格付け会社S&Pグローバルから発表された6月のユーロ圏製造業PMI(改定値)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が43.4と6月23日に発表された速報値の43.6から下方修正されたうえ、5月の44.8から低下したことにより、当該地域の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、7月3日に米国供給管理協会(ISM)から発表された6月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が46.0と前月から低下、2020年5月(この時は43.5)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(47.1)を下回ったことにより、同国経済の減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.85ドル下落し、終値は69.79ドルとなった。また、7月4日は米国独立記念日(インディペンデンス・デー)に伴う休日により米国原油先物契約の終値は非計上であったが、サウジアラビアが7月1日より実施中である日量100万バレルの自主的な追加減産を8月についても実施する旨7月3日に国営サウジ通信が報じた他、世界石油需給を均衡させるべくロシアは8月の石油輸出量を自主的に日量50万バレル削減する旨7月3日に同国のノバク副首相が明らかにしたうえ、アルジェリアも8月につき日量2万バレル減産幅を拡大する旨明らかにしたと同日伝えられたことにより、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識した流れを7月5日も引き継いだことに加え、7月5日にイラン海軍の軍艦がホルムズ海峡付近でタンカー2隻(1隻は大手国際石油会社シェブロンが運航する「リッチモンド・ボイジャー(Richmond Voyager)」、もう1隻は「TRFモス(Moss)」(シンガポールタンカー運航会社Navig 8 Chemicals Asiaの運航と登録されるものの同社は当該タンカーとは無関係である旨明らかにしたと7月5日に報じられる))を拿捕しようとした(米国海軍の軍艦が現場に急行したことにより、拿捕は未遂に終わり、タンカーは航行を継続したとされる)旨同日報じられたことにより、中東からの石油供給の支障を巡る懸念が市場で増大したことから、7月5日の原油価格の終値は1バレル当たり71.79ドルと前取引日終値比で2.00ドル上昇した。7月6日には、サウジアラビアが、米国、北西欧州及び地中海向けの全ての油種につき、またアジア向けの大半の油種につき、それぞれ8月の原油販売価格を引き上げた旨7月6日に明らかになったことにより、原油価格の先高感を市場が意識したことが、原油相場に上方圧力を加えた反面、7月6日に米国企業向け給与計算サービス会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)から発表された6月の米国民間雇用者数が前月比で49.7万人の増加と5月の26.7万人の増加から大幅に増加幅が拡大した他、市場の事前予想(22.5~22.8万人の増加)を相当程度上回ったうえ、7月6日に米国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁が、物価上昇の沈静化のためにはさらに政策金利を引き上げる必要があると認識している旨明らかにしたこともあり、米ドルが上昇するとともに、米国の政策金利引き上げ継続に伴う同国経済減速懸念が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落したことが、原油相場に下方圧力を加えたことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.01ドルの上昇にとどまり、終値は71.80ドルとなった。ただ、7月7日には、この日米国労働省から発表された6月の同国非農業部門雇用者数が前月比で20.9万人の増加と5月の同30.6万人の増加から増加幅が縮小、2022年12月(この時は同26.8万人の減少)以来の低水準の増加となった他、市場の事前予想(同22.5~23.0万人の増加)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で後退した結果米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.86ドルと前日終値比で2.06ドル上昇した。

ただ、7月10日には、これまでの原油価格の上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、米国の物価上昇率がなお極めて高水準であることもあり景気後退リスクがなくなったと言うには時期尚早である旨7月9日に米国のイエレン財務長官が発言したことにより米国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で再燃したこと、7月10日に中国国家統計局から発表された6月の同国消費者信頼感指数(CPI)が前年同月比横這いと5月の同0.2%の上昇から伸びが縮小した他市場の事前予想(同0.2%の上昇)を下回ったうえ、6月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比5.4%の下落と2015年12月(この時は同5.9%の下落)以来の大幅下落となった他市場の事前予想(同5.0%の下落)を上回ったことにより、同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、物価上昇抑制のために、さらなる政策金利の引き上げが必要である旨7月10日に米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁及びサンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにしたことにより、この先の米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.87ドル下落し、終値は72.99ドルとなった。しかしながら、7月11日には、この日EIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)において、EIAが2023年及び2024年の世界石油需要見通しを上方修正する一方同期間の世界石油供給見通しを下方修正したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、7月11日に英国政府統計局(ONS: Office for National Statistics)から発表された2023年3~5月の週間平均賃金上昇率が7.3%と、2023年2~4月及び2021年4~6月と並び過去最高水準の伸び率となった他市場の事前予想(7.1%の上昇)を上回ったことにより、英国金融当局による政策金利引き上げ観測が市場で発生したこともあり、英ポンドが上昇した反面米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり74.83ドルと前日終値比で1.84ドル上昇した他、この日の原油価格の終値は5月1日(この日の終値は同75.66ドル)以来の高水準に到達した。また、7月12日も、この日米国労働省から発表された6月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.0%の上昇と5月の同4.1%の上昇から伸びが低下、2021年3月(この時は同2.6%の上昇)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同3.1%の上昇)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で後退したこともあり、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル上昇し、終値は75.75ドルとなった。さらに、7月13日も、この日OPEC事務局から発表された月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、2023年の世界石油需要見通しが日量9万バレル上方修正されたうえ、今般初めて明らかになった2024年の世界石油需要見通しが2023年比2.2%の増加と伸び率が2023年(前年比2.4%の増加)を若干下回るにとどまる旨の見解を明らかにしたことにより、この先の世界石油需要の堅調な増加を市場が意識したことに加え、地域部族の抗議行動によりリビアのエル・フィール(El Feel)油田(原油生産量日量7万バレル)が生産を停止した他、シャララ(Sharara)油田(原油生産量日量25~30万バレル程度)も原油生産を停止しつつある旨7月13日に報じられたことにより、同国の原油供給減少を巡る不安感が市場で発生したこと、ナイジェリアのフォルカドス(Forcados)石油ターミナル(原油出荷能力日量22.5万バレル)が7月13日に操業を停止した(原油漏洩の疑いに対する調査実施に伴うものと7月13日夕方(米国東部時間)操業者のシェルが明らかにしている)ことにより、同国からの原油供給減少懸念が市場で発生したこと、7月13日に米国労働省から発表された6月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比0.1%の上昇と5月の同0.9%の上昇から伸びが鈍化、2020年8月(この時は同0.3%の低下)以来の低水準に到達したうえ、市場の事前予想(同0.4%の上昇)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で後退したこともあり、米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり76.89ドルと前日終値比で1.14ドル上昇した他、この日の終値は4月25日(この日の終値は同77.07ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は7月11~13日の3日間で1バレル当たり合計3.80ドルの上昇となった。ただ、7月14日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.42ドルと前日終値比で1.47ドル下落した。

 

3. 原油市場における主な注目点等

足元の地政学的リスク要因面での注目点はイランであろう。イランは核合意正常化に向け米国との間で暫定合意(イランが濃縮度60%以上の濃縮ウラン製造を停止するとともに国際原子力機関(IAEA)との協力を継続する代わりに、米国がイランに対し最大日量100万バレルの原油輸出に加え凍結中の資産等の利用を認めることを主な内容とするとされる)に接近しつつある旨6月8日に報じられた。同日米国国務省のパテル首席副報道官及びイランの国連代表部双方は当該協議を否定したものの、双方の間で何かしら協議が行なわれているとの観測が市場で継続したことが、6月8~9日の原油相場に下方圧力を加えた(実際、2022年に米国のイラン担当特使であるマレー氏がニューヨークにおいてイランのイールヴァーニー(Iravani)国連大使との間で協議を行なっていた他、2023年においても、少なくとも2、3及び5月にオマーンの首都マスカットにおいてオマーンを仲介者としてイラン核合意正常化問題等につき米国バイデン政権幹部とイラン政府関係者(同国国家安全保障会議(NSC)のマクガーク中東政策調整官とイラン外務省のバゲリ次官とされる)が協議していた旨6月14日及び16日に報じられる)。また、6月20~21日に、欧州連合(EU)欧州対外活動庁のモラ事務局次長とイラン外務省のバゲリ次官(両者ともイラン核合意正常化を巡る交渉を担当してきた)が、カタールのドーハで協議を実施、議論の中にはイラン核合意正常化に伴う対イラン制裁解除が含まれていた旨6月21日にバゲリ次官が明らかにした。さらに、6月17日にはサウジアラビアのファイサル外相がイランのアブドラヒアン外相とテヘランで会談(サウジアラビア外相のテヘラン訪問は2006年以来とされる)を実施、ファイサル外相は近いうちに在テヘラン大使館を再開する意向である旨発言した。

他方、7月5日にはイラン海軍の軍艦がホルムズ海峡付近のオマーン湾においてタンカー2隻(1隻は大手国際石油会社シェブロンが運航する「リッチモンド・ボイジャー(Richmond Voyager)」、もう1隻は「TRFモス(Moss)」(シンガポールタンカー運航会社Navig8 Chemicals Asiaの運航と登録されるが同社は当該タンカーとは無関係である旨明らかにしたと7月5日に報じられる)を拿捕しようとした(米国海軍の軍艦が現場に急行したことにより、拿捕は未遂に終わり、当該タンカーは航行を継続したとされるが、米国海軍の軍艦到着前にイランの軍艦が「リッチモンド・ボイジャー」に対し発砲した結果同船舶は被弾したと伝えられる)旨同日報じられた。このうち「リッチモンド・ボイジャー」はイラン船籍の船舶と衝突した(このためイラン船舶の乗組員5人が負傷した)後逃走したことが、イラン海軍の軍艦が「リッチモンド・ボイジャー」を拿捕しようとした理由である旨イラン海事当局が7月6日に示唆した。

このように、従来断交状態であったイランとサウジアラビアは外交関係回復に向け進みつつある他、欧米諸国等とイランとの間ではイランの核合意正常化に向けた交渉は事実上実施されてはいるようである。しかし、イラン核合意正常化のためのイランと西側諸国等による協議は停滞している旨7月7日にIAEAのグロッシ事務局長が明らかにするなど、交渉は必ずしも順調に進展しているわけではない旨示唆される。そのような中、ホルムズ海峡付近では、イランによるタンカーへの発砲と拿捕未遂が発生するなど、中東からの石油供給に影響を与える可能性のある事象が見受けられる。今後も、イランの核合意を巡る同国と西側諸国等の協議が紆余曲折を経る中、ペルシャ湾等の中東海域におけるタンカーの拿捕や攻撃(もしくは未遂)が発生することに加え、イラン革命防衛隊が駐留するイランの友好国であるシリアから敵対関係にあるイスラエルもしくは同じくイスラム国(IS)掃討のためシリアに駐留する米軍基地に向け、あるいはイスラエルそしてシリアに駐留する米軍基地からシリア国内のイラン革命防衛隊の拠点等に向け、ミサイル等の発射が行なわれる結果、中東情勢の不安定化が市場関係者間で意識されるとともに当該地域からの石油供給途絶懸念が増大する結果、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となることも否定できない。

また、ナイジェリアのフォルカドス(Forcados)石油ターミナル(原油出荷能力日量22.5万バレル)が7月13日に操業を停止した(原油漏洩の疑いに対する調査実施に伴うものと7月13日夕方(米国東部時間)に操業者のシェルが明らかにしており、7月17日朝(同)の時点でも複数のタンカーが同ターミナル周辺で待機中と伝えられる)。さらに、リビアでは、ブマタリ(Bumatari)元財務相(現在は次期同国中央銀行総裁候補とされる)が誘拐されたことに抗議して7月13日に地方部族(アル・ザウィ(Al-Zawi)部族)が同国のエル・フィール(El Feel)油田(原油生産量日量7万バレル)及びシャララ(Sharara)油田(同30万バレル程度)の原油生産を停止させたことにより、従来の同国原油生産(2023年6月時点で日量112万バレル)の3分の1程度に当たる量の生産が停止することとなった。その後ブマタリ氏が解放されたことにより地方部族による抗議行動が終了したことに伴い停止していた油田の操業は回復しつつある旨7月15日に伝えられる。それでも、ナイジェリアやリビアで発生した原油供給停止は産油国の原油供給が突然停止する恐れがあることを市場関係者に喚起する格好となったことから、OPECプラス産油国による減産と相俟って当面石油需給引き締まりの可能性を巡る懸念を市場で発生させ続ける結果、原油相場を下支えさせる形で作用しうるものと考えられる。

経済面での主な注目点は、中国及び米国であろう。6月30日に中国国家統計局から発表された6月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.0と5月の48.8から若干の改善にとどまった(市場の事前予想(49.0)とは一致した)一方、6月の同国非製造業PMI(50が当該部門拡大拡大と縮小の分岐点)は53.2と5月の54.5から低下した他市場の事前予想(53.5)を下回った。また、7月3日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された6月の同国製造業PMIは50.5と5月の50.9から低下したうえ、7月5日に財新伝媒から発表された6月の同国非製造業PMIは53.9と5月の57.1から低下、2023年1月(この時は52.9)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(56.2)を下回った。さらに、6月10日に中国国家統計局から発表された6月の同国消費者信頼感指数(CPI)は前年同月比横這いと5月の同0.2%の上昇から伸びが縮小した他市場の事前予想(同0.2%の上昇)を下回ったうえ、6月の同国生産者物価指数(PPI)は前年同月比5.4%の下落と2015年12月(この時は同5.9%の下落)以来の大幅下落となった他市場の事前予想(同5.0%の下落)を上回った。加えて、7月13日に中国税関総署から発表された6月の同国輸出は前年同月比12.4%、輸入は同6.8%の、それぞれ減少と市場の事前予想(輸出同9.5~10.0%、輸入同4.0~4.1%の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明した。このように、足元で発表されている中国経済指標類は同国経済がもたつき気味であることを示唆する状況となっている。他方、7月6日には中国の李強首相が新型コロナウイルス流行抑制のための厳格な規制の終了後の同国経済回復を達成するため一連の的を絞った方策を速やかに実施する意向である旨表明した。しかしながら、これまでの経緯を見ている限り、同国政府は「的を絞った(つまり大規模ではない)」経済対策の実施を表明し続けている様に見受けられるところからすると、引き続き従来通りの景気対策実施姿勢を継続する結果、同国の経済回復と石油需要の伸びが比較的緩やかな過程を経る結果、世界石油需給の引き締まり感が市場で増大せず、従って、この面では原油相場への上方圧力が限定的なものとなったり、今後発表される予定である同国経済指標の内容次第では下方圧力が加わったりする可能性がある。ただ、実際に中国経済が上向きつつあることを示唆する経済指標類が連続して発表される場面が見られるようであれば、同国石油需要拡大の証拠が現れ始めたものと市場が受け取る結果、原油相場に上方圧力が加わり続けたり、中国政府等が大規模な景気刺激策を実施する意向を示すようであれば、それに原油相場が反応したりするといった展開となることもありうる。また、7月13日に中国税関総署から発表された6月の同国原油輸入量が5,206万トン(推定日量1,270万バレル)と日量ベースでは2020年6月(5,318万トン、同1,297万バレル)に次ぐ高水準に到達した(製油所による在庫積み増しに伴うものと同日伝えられる)ことから、同国の堅調な石油需要を市場が意識したことが原油相場に上昇圧力を加える場面が見られたが、同国の原油輸入が高水準であることを示す様であれば、この先の同国経済回復と石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で増大する結果、原油相場に上方圧力が加わる場面が見られることもあろう。

6月13~14日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利の据え置きが決定された。しかしながら、7月5日に公表されたFOMC議事録では、複数の委員が0.25%の政策金利引き上げを容認する姿勢を示していた他、ほぼ全委員が2023年末までにさらなる政策金利の引き上げが適切であると考えている旨明らかになった。また、6月21日に実施された米国連邦議会下院金融委員会における同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長による証言では、物価上昇率を2%へと抑制するためさらに政策金利を引き上げる必要がある旨同氏が明らかにした他、6月22日に実施された米国連邦議会上院銀行委員会においては、恐らく2023年の残りの期間においてもう1回もしくは2回の政策金利引き上げを実施することが適切であると考える旨パウエルFRB議長が示唆した他、同日ボウマンFRB理事も物価上昇抑制のために政策金利の追加引き上げが必要である旨表明した。加えて、7月7日にはシカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁が2023年末までの2~3回の政策金利追加引き上げを事実上支持する旨明らかにした他、7月5日にはニューヨーク連邦準備銀行のウィリアムズ総裁、及び7月6日にはダラス連邦準備銀行のローガン総裁も物価上昇抑制のためには追加の政策金利引き上げが必要となる可能性が高い旨示唆した。また、物価上昇抑制のために、さらなる政策金利の引き上げが必要である旨7月10日に米国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁及びサンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が明らかにした。さらに、7月12日には米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が、物価上昇率が(2%の)目標に回帰している旨確認できなければ、さらなる金融引き締め政策の実施を支持する旨示唆した他、7月13日には米国CPI上昇率が鈍化を示した(後述)ものの、伸びの鈍化が継続している旨確認できることが必要であるとして、2023年末までに0.25%の政策金利引き上げを2回実施する必要がある旨FRBのウォラー理事が明らかにした。このように、米国金融当局関係者の間では2023年の政策金利の追加引き上げに関し肯定的な姿勢を示唆する向きが散見されるとともに、7月25~26日に開催される予定である次回FOMCでは0.25%の政策金利引き上げ確率が7月15日時点で93.0%となっている。

しかしながら、7月7日に米国労働省から発表された6月の同国非農業部門雇用者数が前月比で20.9万人の増加と5月の同30.6万人の増加から増加幅が縮小した他、市場の事前予想(同22.5~23.0万人の増加)を下回った。また、7月12日に米国労働省から発表された6月の同国CPIが前年同月比3.0%の上昇と5月の同4.1%から低下、2021年3月(この時は同2.6%の上昇)以来の低水準に到達した他、市場の事前予想(同3.1%の上昇)を下回った。さらに、7月13日に同国労働省から発表された6月の同国PPIが前年同月比0.1%の上昇と5月の同0.9%の上昇から伸びが鈍化、2020年8月(この時は同0.3%の低下)以来の低水準に到達したうえ、市場の事前予想(同0.4%の上昇)を下回った。このため、今後の米国金融当局関係者による政策金利引き上げ継続観測が市場で後退したことにより米ドルが下落傾向となるとともに原油相場に上方圧力が加わる場面が見られた。今後も7月25~26日の次回FOMC開催に向け、米国金融当局関係者による政策金利引き上げペース減速に対する期待が市場で維持されることにより、原油相場が下支えされる可能性があるが、その後は次回FOMCにおける実際の政策金利等に関する決定事項やFOMC開催後に行なわれる予定である記者会見時におけるパウエルFRB議長による米国等の経済情勢及び今後の政策金利引き上げ展望に関する発言等が米ドルとともに原油相場を左右することとなろう。

他方、6月15日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会において0.25%の政策金利引き上げが決定されたが、同理事会開催後の記者会見において、ラガルドECB総裁は、7月27日に開催される予定の次回理事会においても政策金利引き上げを継続する可能性が極めて高い他政策金利引き上げの停止は検討すらしていない旨明らかにしたうえ、6月15日の理事会開催の際にECBは2023年の物価上昇見通しをそれまでの5.3%から5.4%へ、2024年の見通しを2.9%から3.0%へ、2025年の見通しを2.1%から2.2%へと、それぞれ引き上げた。このように、米国では政策金利引き上げ継続観測が後退している反面、ユーロ圏では政策金利引き上げが継続するとの観測が維持されていることにより、ユーロが上昇しやすいことから、この面でも米ドルが下落しやすい状況になっており、例えば、7月27日に開催される予定である次回ECB理事会における決定事項及び理事会後の記者会見におけるラガルド総裁の今後の政策金利の引き上げ方針等に関する発言によっては、さらにユーロが上昇する反面米ドルが下落することにより原油相場に上方圧力が加わる一方、政策金利の引き上げにより欧州経済が減速することを通じ石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で発生することにより原油相場に下方圧力加わる可能性があるなど、原油価格が乱高下するといった展開も想定される。

また、7月に入り米国主要企業等の2023年4~6月等の業績が発表され始めているが、それら企業の業績もしくは2023年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。

米国では、9月4日の労働祭(レイバー・デー)に伴う連休(9月2~4日)まで、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が最終消費段階では継続する。しかしながら、製油所の段階では7月後半以降は秋場の石油不需要期が徐々に視野に入ってくることもあり、メンテナンス作業実施等に向け稼働を引き下げるとともに原油精製処理量を減少させ始める。それに従い原油の購入も不活発になってくるとともに、市場でも季節的な需給の緩和感が醸成され始める。このためこの面では、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと見られる。

また、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態も想定される)、さらには、メキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2022年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量53万バレル程度の原油を輸入した)。7月1日時点の米国コロラド州立大学の見通しによると、2023年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平年よりも活発な暴風雨の発生が予想されており(表1参照)、これは6月1日の同大学の予想から上方修正されている。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2022年は当該地域で日量174万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,189万バレル)の約15%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国における精製活動の中心地域である(2022年の当該地域の原油精製処理能力は日量846万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,779万バレル)の約48%を占めた)こともあり、今後のハリケーンを含む暴風雨の実際の発生状況やその進路、そして予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれる場面が見られることもありうる。

表1 2023年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

また、7月7日午前5時25分頃(現地時間)にはメキシコのメキシコ湾沖合にあるカンタレル油田の天然ガス生産プラットフォームで火災が発生したが、それにより、同国の原油生産が減少した(事故発生現場周辺の石油坑井を事実上全て閉鎖したことにより、一時日量70万バレルの原油生産が減少したものの7月8日午後(現地時間)までにうち同60万バレル程度が回復した旨7月8日にメキシコ国営石油会社ペメックス(Pemex)のロメロ(Romero)最高経営責任者(CEO)が明らかにしたが、日量10万バレル程度の減産は8月初頭まで継続する可能性がある旨7月11日に伝えられる)。今回のメキシコの原油及び天然ガス生産関連施設での事故と直接関連しているかどうかは明確ではないが、新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制や経済活動制限が強化された結果、2020年に世界石油需要が落ち込むとともに原油価格が大幅に下落したことや、その後の労働費用を含む物価上昇等もあり、石油会社等の中にはコストを低減させるべく石油・天然ガス生産及び出荷関連施設のメンテナンス作業を含む管理費用を削減する場合があるものと見られることもあり、結果として当該施設において故障や事故が発生する頻度が上昇することも想定されることにより、今後もそのような故障や事故により石油及び天然ガス供給に支障が発生することを通じ、原油相場にその影響が織り込まれる可能性があるので、注意する必要があろう。

サウジアラビアは7月1日より実施中である日量100万バレルの自主的な追加減産を8月についても実施する旨7月3日に国営サウジ通信が報じた他、世界石油需給を均衡させるべくロシアは8月の石油輸出量を自主的に日量50万バレル削減する旨7月3日に同国のノバク副首相が明らかにしたうえ、アルジェリアも8月につき自主的な追加減産幅を日量2万バレル拡大する旨明らかにしたと同日伝えられた。このようなこともあり、原油価格は、例えばWTIで1バレル当たり70ドルを割る場面が見られにくくなってきているように見受けられる。また、サウジアラビアは、今後においても、中国経済回復のもたつきや欧米諸国等の金融当局による政策金利引き上げによる経済減速を含め、石油需要を巡る不透明感に対する懸念が市場で強まる兆候が見られるようであれば、原油価格のさらなる下落を抑制すべく予防的かつ先制的に行動することが予想され、例えば、まずは自主的なものを含め追加減産の実施可能性等につき警告を発し(いわゆる口先介入を行ない)、それでも原油価格下落の恐れに対する市場の懸念が払拭できないようであれば、OPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)開催の機会(前回6月4日に開催されたJMMCは2ヶ月毎の開催となっており、次回のJMMC開催は8月3日になるものと7月14日に伝えられる)を捉えるなどして、実際に減産の強化を検討したり決定したりする(減産措置の規模を拡大することもあろうが、減産期間の延長等も選択肢に含まれるものと見られる)こと等により、原油価格下落防止を図ろうとするものと考えられる。

また、ロシアは2023年3月の原油生産量を(2023年2月比で)日量50万バレル自主的に追加で削減する旨2月10日に同国のノバク副首相が発表した他、3月21日には同副首相が当該減産実施を6月末まで延長する旨明らかにしたうえ、一部のOPECプラス産油国による自主的な追加減産の実施と併せ、ロシアも自主的な減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が表明した。これに対し、2023年6月のロシアの原油生産量(コンデンセートを除く)は日量945万バレルと2月比で同45万バレルの減少となっている。もっとも、6月のロシアの原油輸出量は日量470万バレルと2月(同490万バレル)比で同20万バレルの減少、同国の石油製品輸出量は同260万バレルと2月(同270万バレル)比で同10万バレルの減少と、原油と石油製品を合計すると日量30万バレルの減少にとどまっている。6月のロシアの石油製品輸出減少はメンテナンス作業実施に伴う製油所での石油製品製造活動の不活発化によるものと見られるが、ロシアにおける製油所のメンテナンスは既に峠を越えつつあるとされることから、今後製油所での石油製品製造活動活発化に伴い同国の原油生産が回復するかどうかが市場の注目点となろう。

また、世界石油需給を均衡させるべくロシアは8月の石油輸出量を自主的に日量50万バレル削減する旨7月3日に同国のノバク副首相が明らかにしたが、同国の原油生産には影響がない旨7月7日に同国政府関係者が明らかにした一方、8月の同国の海上輸送経由での原油輸出は7月比で日量10~20万バレル程度減少する方向である旨関係者が明らかにした旨7月14日に伝えられる。このようなこともあり、今後は、4月2日にノバク副首相が表明した、2023年2月比での日量50万バレルの自主的な追加減産に加え、7月3日に同首相が発表した8月における日量50万バレルの石油輸出削減の実施状況が、世界石油需給状況を巡る市場関係者の心理に影響するとともに原油相場にそれが織り込まれるものと考えられる。

他方、7月11~12日以降主力ロシア産原油であるウラル(Urals)の価格が2022年12月5日に主要7ヶ国政府(G7)及びEU等が設定した上限価格(1バレル当たり60ドル)を超過した状況となっており、このような状態では、ロシア産原油を海上輸送経由で輸出する際に西側諸国等を拠点とする輸送及び保険サービスの付保が困難になるとされている。ロシア産原油価格の上昇は、5月1日より実施されているサウジアラビア等による自主的な追加減産に伴う世界石油需給引き締まり展望の増大等に伴いロシア産以外の原油の価格が上昇していることに加え、他の原油に比べ割安であるロシア産原油に対しインドの需要家が購入を活発化しており、その際複数の需要家が個別にロシア産原油購入を行なおうとする結果、インドの需要家間でロシア産原油を巡り競争が強まった結果、原油価格が競り上がってしまったことによるものであると指摘する向きもある。ただ、ロシア産原油の自主的な追加減産の表明から既に5ヶ月が経過していることもあり、ロシア産原油輸出に関しては、西側諸国等を拠点としない(つまり原油価格上限による制約を受けない)輸送及び保険サービスの付保等を含め取引がより円滑となりつつある可能性もあり、その場合、これまでは原油価格上限等の問題により原油価格の引き上げが事実上困難であったことから原油販売量を維持することにより原油収入を確保せざるをえなかったロシアにとって、価格上限を超過しても原油輸出への支障が低減することから、原油供給を削減することにより原油価格の引き上げを図るとともに収入を拡大する途が開けることになるため、この面でOPECプラス産油国間での結束が相対的に強まる結果、原油相場により上方圧力が加わりやすくなるものと見られることから、この先の同国の原油(及び石油製品)輸出状況、及び同国産原油価格等についてはより注意して見る必要があろう。

全体としては、今後米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めることにより、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されることを通じ、原油相場に下方圧力が加わりやすくなるものと考えられる。しかしながら、サウジアラビア等による原油価格浮揚を見据えた減産措置実施に対する確固たる姿勢が原油相場の下落を抑制する形で作用しやすいものと考えられる。そのような中、米国等の物価上昇を含めた経済指標類や金融当局による政策金利引き上げ等の金融引き締め政策を巡る動向、及び米国メキシコ湾沖合周辺での暴風雨発生や進路等を巡る状況、一部産油国における原油生産停止状況等が原油価格に影響を与えるものと見られる。また、ロシアの減産等を巡る動向にも原油価格は反応する可能性があるものと考えられる。

 

4. エネルギー研究所が発表した2023年版世界エネルギー統計報告が示唆する2022年の世界エネルギー市場に関する一考察

2023年6月26日にエネルギー研究所(EI: Energy Institute、英国を本拠地とする非営利団体)は、KPMG及びカーニーの両コンサルタント会社と協力し、「2023年版世界エネルギー統計報告」(「Statistical Review of World Energy 2023」、以降「EI統計」とする)を発表した。同報告は1952年の創刊以来2022年に至るまでは大手国際石油会社であるBPが発行していたが、2023年は発行元がBPからエネルギー研究所に移行した。ここではEI統計が示唆するところの2022年の世界エネルギー市場における特徴につき考察を加えることとしたい。

 

(1) 石油

まず、石油需要について考察することとする。2022年の世界石油需要(石油製品に混入されているバイオ燃料は除く、以下同様)は日量9,731万バレルと前年比で3.1%の増加となっている。製品別に見ると、ガソリン及び留出油(軽油及び暖房油)の需要は前年比でそれぞれ1.9%及び2.6%の増加にとどまっている(図16参照)。これは2022年2月24日にロシアがウクライナに事実上侵攻したことに伴い、西側諸国等による対ロシア制裁の実施とロシアによる報復措置の実施に伴いロシアからの石油供給に支障が生ずるとの観測が市場で発生したこともあり、3月8日に原油価格(WTI)が1バレル当たり123.70ドルの終値と2008年8月1日の終値(この時は同125.10ドル)以来の高水準に到達した他、以降7月20日に至るまでの大半の期間原油価格が1バレル当たり100ドルを超過したこともあり、世界各国及び地域のガソリン小売価格が高騰した(例えば全米平均ガソリン小売価格が同年6月13日に1ガロン当たり5.107ドルと1993年4月以降の同国統計史上最高水準に到達した)ことにより、オミクロン変異株を含む新型コロナウイルス感染が終息しつつあったにもかかわらず個人の外出が敬遠されたことが、自動車運転距離数及びガソリン需要を抑制したものと考えられる。また、原油価格高騰に伴う軽油小売価格の上昇も欧州を中心として軽油需要の伸びに負の影響を与えた結果当該製品需要が抑制されたものの、2022年時点ではまだ世界各国及び地域において、物価上昇や金融当局の政策金利引き上げによる、物流を含む経済への影響が十分に広がっていなかったこともあり、軽油需要の伸びはガソリンの需要の伸びを上回ったものと考えられる。他方、石油製品価格の上昇による旅行費用の増大に伴う個人の空路での旅行の敬遠よりも、新型コロナウイルス感染流行により抑制されていた反動で個人等が空路での旅行を積極化させたことの方が優勢であったこともあり、2022年は航空機を利用した個人等の旅行が回復基調となったこと(図17参照)から、2022年はジェット燃料が前年比17.2%の増加と石油製品の中では最も伸びが顕著であった。また、重油の需要も前年比で5.8%増加しているが、これは、2022年に世界的に天然ガス(及びLNG)価格が高騰した(後述)ことにより、アジアなどの一部諸国等の発電部門等においてコストが割高であった天然ガスからコストが相対的に割安であった重油へと燃料が転換した他、中東諸国等において原油価格高騰に伴い原油収入が拡大するとともに経済が成長した(後述)ことにより産業部門等での重油需要が旺盛になったことが背景にあるものと考えられる。

図16 2022年主要石油製品別需要増減

図17 航空旅客キロ数減少率(2019年同月比)(2020~23年)

また、地域別に見れば、2022年の中東の石油需要増加率が前年比で8.9%と世界平均(同3.1%)を相当程度上回っているが、これは2022年に原油価格が大幅に上昇する場面が見られたこともあり、例えば中東最大の産油国であるサウジアラビアの経済成長率が2022年は8.7%と前年の3.9%から伸びが大幅に拡大するなど経済が顕著に成長していたことが影響しているものと考えられる。さらに、中国においては、2022年の石油需要が前年比で4.0%の減少となるなど、他の地域が軒並み前年比で増加する中対照的な状況となった(また、中国の石油需要が前年比で減少した影響で、アジア太平洋の2022年の石油需要増加率が前年比で0.5%と世界平均(同3.1%)を相当程度下回る格好となっている)。中国では、2022年3月28日以降上海市が都市封鎖されるなど主要各都市等において厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が実施されるとともに個人の外出規制や経済活動の制限が強化されたことから、ガソリン、ジェット燃料及び軽油と言った石油製品の需要が前年を割り込むこととなった(特にジェット燃料は前年比34.9%の減少と大幅な落ち込みを見せた)。反面同国のナフサ需要は前年比で12.1%の増加となっており、これは新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療機器等向けのプラスチックのための原料需要が盛り上がったことが背景にあるものと考えられるが、経済減速やガソリン価格の高騰もあり石油化学向けもしくはガソリン混入向けナフサ需要が低迷したものと思われる中国以外の国及び地域も見られたこととから、世界全体としては2022年のナフサ需要は前年比で1.9%の減少となった。

次に原油(コンデンセート等を含む)及び石油製品の供給につき考察することとする。2022年2月24日にロシアがウクライナへの事実上の侵攻を開始した当初は、西側諸国等が対ロシア制裁を実施することに対し報復措置としてロシアが石油供給を削減する恐れがあったことや、西側諸国の石油企業等の一部にロシア産石油を引き取ることによる企業の評判リスク(Reputation Risks)の発生を回避する動きが出てきたことによりロシア産石油の購入を敬遠等することを通じロシア産石油販売が不振になる可能性があったことにより、同国の石油生産が落ち込むものと市場関係者は予想していた。例えば国際エネルギー機関(IEA)は同年3月16日に発表したオイル・マーケット・レポートにおいて同年4月以降ロシアからの石油供給はそれまでに比べ日量300万バレル近く下振れするとの見通しを明らかにした。しかしながら、実際ロシアから欧州(及び米国)方面への原油輸出は減少したものの、中国及びインドといった消費国向けの輸出が増加する(特に2021年には日量9万バレルであったロシアのインド向け原油輸出は2022年には同75万バレルへと拡大した)ことで相殺される格好となった(図18及び19参照)。また、EUによるロシア産石油製品の事実上の輸入禁止やG7及びEUによるロシア産石油製品に対する上限価格の設定は2023年2月5日であったことに加え、同日のロシア産石油製品に対する事実上の輸入禁止を前にして欧州の一部諸国では軽油等の石油製品在庫を積み増そうとする動きが見られたこともあり、2022年のロシア産石油製品の欧州への輸出量は2021年比でほぼ横這いとなったことから、2022年のロシア産石油製品輸出量は2021年比で限定的な減少幅にとどまった(図20及び21参照)。このようにロシアの原油及び石油製品輸出が大幅に減少したわけではなかったこともあり、2022年のロシアの石油生産は日量1,102万バレルと2021年(同1,100万バレル)とほぼ同水準となった。反面、2022年の欧州の原油及び石油製品の輸入を見るとロシアからの輸入が前年から減少した分が他の産油国等からの輸入増加で補充される格好となっており、輸入量全体としても2021年から増加している(図22、23、24及び25参照)。そして、これは石油が常圧常温で液体であることから輸送が容易であったこともあり世界的に供給基盤が整備済であったことにより、一部の消費国で受け入れられなかった石油が他の消費国に回り込むなど、石油供給を巡る流動性の高さといった特性を遺憾なく発揮した結果、供給が平準化したことが一因となっているものと考えられる。

図18 ロシアの原油輸出(2021年)(日量万バレル)

図19 ロシアの原油輸出(2022年)(日量万バレル)

図20 ロシアの石油製品輸出(2021年)(日量万バレル)

図21 ロシアの石油製品輸出(2022年)(日量万バレル)

図22 欧州の域外からの原油輸入(2021年)(日量万バレル)

図23 欧州の域外からの原油輸入(2022年)(日量万バレル)

図24 欧州の域外からのせいきゅ製品輸入(2021年)(日量万バレル)

図25 欧州の域外からの石油製品輸入(2022年n)(日量万バレル)

他方、2022年は前半を中心として原油価格が1バレル当たり100ドルを超過して上昇したことにより、米国のシェールオイル開発・生産を巡る採算性が改善したこともあり、同年の同国の石油生産量は日量1,777万バレルと前年比同109万バレル(6.5%)増加、それまでの史上最高水準である2019年(同1,714万バレル)を超過し史上最高記録を更新した。

なお、ブレントとWTI及びドバイの各原油価格を見てみると、2021年のブレントとWTIの価格差は1バレル当たり2.82ドル、ブレントとドバイの価格差は同2.00ドルであったが、2022年にはブレントとWTIの価格差が同6.74ドル、ブレントとドバイの価格差が同4.94ドルとなるなど、価格差が拡大している旨判明する。これは、2022年2月24日に開始したロシアのウクライナへの事実上の侵攻により、西側諸国等による対ロシア制裁の実施及びロシアによる報復措置によりロシアから欧州方面への石油供給が削減される可能性があったことへの懸念から、欧州での石油需給引き締まり観測が市場で強まるとともに、欧州の代表的な原油指標であるブレントの価格に上方圧力が加わった結果他の原油に比べ割高となったものと考えられる。

 

(2) 天然ガス

2022年2月24日のロシアによるウクライナへの事実上の侵攻開始以降、西側諸国等による対ロシア制裁実施に対するロシアによる事実上の報復措置として、ロシアからパイプライン経由で輸送される天然ガスの供給が削減される格好となった結果、2022年の同国のパイプラインによる天然ガス輸出量は前年比で37.7%、日量74億立方フィートの減少となった(図26及び27参照)。他方、ロシアにおいて天然ガスをLNGで輸出する施設はヤマルLNG(天然ガス液化能力年産1,650万トン、日量22億立方フィート)及びサハリン2(同960万トン、同13億立方フィート)があるが、いずれも施設も従来からLNGを出荷している状態であったことにより、LNGの増産余地に乏しかったこともあり、2022年の同国のLNG輸出量は前年比で1.6%、日量1億立方フィートの増加にとどまった。このようなことから、国外の販売先を失った2022年のロシアの天然ガス生産量は日量598億立方フィートと前年比で11.9%、81億立方フィートの減少となった。そしてこれが影響し、2022年の世界の天然ガス生産量も前年比で日量9億立方フィート(0.2%)の減少となるなど、世界天然ガス生産量は2020年の新型コロナウイルス感染拡大時期を除けば、2009年のリーマンショック時(この時は前年比83億立方フィート(2.8%)の減少)以来の前年比での減少を記録することとなった。また、これは、天然ガスが常圧常温では気体であるため、特に長距離での輸送はパイプライン(それでも例えば大陸間といったいわゆる超長距離の輸送は容易ではない)以外では、常圧常温で液体である石油のようにそのままの状態(つまり天然ガスの場合は気体)でタンカーに注入して海上輸送することは効率の面等から困難であり、従って、液化施設(及び消費国側では再ガス化施設)に加え保冷機能を有するタンカー等のLNG輸送関連インフラが別途必要になるものの、ロシアにおいては、そのようなインフラを巡る余剰能力が少なくとも現時点では限定的であったことが、2022年の世界的な石油と天然ガス供給状況に差が発生した一因となったものと考えられる。なお、2022年の欧州の域外からの天然ガス輸入を見てみると、ロシアからのパイプライン経由での天然ガス輸入が減少した反面、米国を中心としてLNGによる天然ガス輸入が増加したものの、天然ガス輸入量全体としては前年よりも減少している(図28及び29参照)。

図26 ロシアの天然ガス輸出(2021年)(日量10億立方フィート)

図27 ロシアの天然ガス輸出(2022年)(日量10億立方フィート)

図28 欧州の域外からの天然ガスりゅんゆう(2021年)(日量10億立方フィート)

図29 欧州の域外からの天然ガス輸入(2022年)(日量10億立方フィート)

そして、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴い、西側諸国等による対ロシア制裁の実施及びロシアによる報復措置の実施の中で、ロシアから欧州に向けたパイプライン経由での輸送による天然ガス供給が減少する反面同国のLNGによる天然ガス供給拡大余地が限られたこともあり、天然ガス消費国によるLNGの争奪戦が発生するとともに、世界的に天然ガス需給が相当程度引き締まる(もしくは供給不足が発生する)との観測が市場で増大したことを一因として、2022年にはオランダTTF天然ガススポット価格が100万Btu当たり37.48ドル、北東アジアLNGスポット価格が同33.98ドルと、同年の日本のLNG輸入価格である同17.36ドル(日本のLNG輸入の主要部分は原油価格連動型の価格体系となっているため、同年の原油価格(ブレント原油価格で100万Btu当たり17ドル程度)とほぼ同水準となっていた)を大きく上回るなど、高騰した。このように、世界的にスポットLNG価格が高騰したことにより、世界各国及び地域で産業部門を中心として天然ガスの需要が減退した(タイでは天然ガスから軽油へと燃料転換した他、欧州では天然ガス価格高騰に伴う採算性の悪化から肥料工場が稼働を停止したと伝えられた)。その結果、2022年の欧州の天然ガス消費は前年比で13%(日量72億立方フィート)減少した他、アジアでも、中国やインド等で天然ガス消費が前年比で減少したことにより、アジア全体としても天然ガス消費は前年比2.3%(同20億立方フィート)の減少となった。また、中国はLNGを輸入するよりも相対的に安価であったロシア等からのパイプライン経由での天然ガス輸入が前年比9.7%(日量5億立方フィート)増加した他、中国政府の指導により国内天然ガス開発・生産活動が促進された結果、2022年の同国の天然ガス生産量は日量214.6億立方フィートと前年比で12.2億立方フィート(6.0%)の増加となったうえ、インドでも国内天然ガス生産が前年比で日量1億立方フィート(4.4%)増加した。このようなことから、中国やインドと言ったアジア主要国の2022年のLNG輸入量は軒並み相当程度減少(中国が前年比15.2%、インドが同15.4%の、それぞれ減少)となった。また、欧州では、ロシアからのパイプライン経由での天然ガス輸入の減少(日量78億立方フィートの減少)の相当部分をLNGの輸入の増加(同61億立方フィートの増加)で補う形となった他、域内の天然ガス生産が増加(前年比日量9億バレルの増加)したうえ、前述の通り域内天然ガス消費が減少(日量72億立方フィート減少)した結果、欧州では、天然ガス供給が需要を上回る格好となった。また、世界全体で見ても、2021年の天然ガス市場は需要が日量3,935億立方フィート、供給が同3,922億立方フィートと需要が供給を上回っていた反面、2022年は需要が同3,813億立方フィート、供給が同3,913億立方フィートと供給が需要を上回る状態となっている。

なお、欧州やアジアにおいては2022~23年の冬場が温暖であったことが、暖房用の天然ガス需要を低迷させた結果、それら地域の天然ガス在庫が高水準を維持した側面もあるが、2022年のみを対象としている(つまり2022~23年の冬場において2023年1~3月は対象とされていない)EI統計においても、欧州及びアジアの天然ガス需要が下振れしていることから、2022年においては冬場の温暖な気候以外の要素(天然ガス価格高騰による産業部門向け天然ガス需要不振)も相当程度それら地域の天然ガス需要に負の影響を与えたものと考えられる。

 

(3) 石炭、原子力、再生可能エネルギー、電力、及び二酸化炭素排出量等

2022年に天然ガスのスポット価格が高騰した影響で、発電部門等における燃料として天然ガスと競合する石炭への代替需要が発生したこともあり、同年の石炭スポット価格は上昇したものの、天然ガス価格の上昇に比べ石炭価格の上昇は相対的に緩やかなものにとどまった(例えば、2022年の日本着の一般炭スポット価格は1トン当たり225.27ドルと前年比45%の上昇であった一方、同年の北東アジアLNGスポット価格は100万Btu当たり33.98ドルと前年比83%の上昇であった)こともあり、発電部門等において天然ガスから石炭への燃料転換が発生した側面があったことから、2022年の世界石炭需要は前年比で0.6%の増加となった他、中国(前年比1.0%の増加)及びインド(同4.1%の増加)において需要が堅調に伸びた。ただ、石炭価格が上昇したことにより石炭生産を巡る採算性が改善したこともあり、中国(前年比10.5%増加)、インド(同12.2%増加)及びインドネシア(同10.0%増加)等の一部諸国で石炭生産が拡大した結果、2022年の世界石炭生産量は前年比7.4%の増加と2004年(この時は同8.6%の増加)以来の大幅な伸びを示した。このように石炭生産が堅調であったこともあり、世界の石炭需給の引き締まり感がそれほど強まらなかったことが、かえって2022年の石炭価格が抑制された一因であったものと考えられる。

2022年の原子力発電による電力供給は2021年に比べ4.4%の減少となった。特に2022年に減少が顕著であったのが、フランス(前年比22.3%減少)、ドイツ(同49.8%減少)及びウクライナ(同28.0%減少)の3ヶ国である。従来からフランスにおいては原子力発電所の運転期間の延長と安全性の強化を目指し2014~25年の予定で大規模なメンテナンス作業を実施中であったが、2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大時にメンテナンスを延期した原子力発電所につき一層大規模なメンテナンス作業を実施したことに加え、一部原子炉の配管において腐食による亀裂が発生している旨判明したこと等により、2022年は同国の原子力発電所の相当分が操業を停止した(8月25日時点で同国の原子力発電総能力6,137万kWのうち3,600万kWの能力が稼働を停止した)。このため、同年のフランスにおける原子力発電量が低下したものと考えられる。ドイツについては、2011年7月8日に当時国内に17基存在した原子力発電所の稼働を2022年までに全て停止させる法律が成立した後、2021年12月31日を以てブロクドルフ(Brokdorf)(発電能力141万kW)、グローンデ(Grohnde)(同136万kW)及びグンドレンミンゲン(Gundremmingen)(同129万kW)の原子力発電所3基が稼働を停止した影響で、2022年の同国原子力発電量が前年比で減少することとなった。また、2022年3月4日にロシア軍がウクライナ南部にあるザポロジエ原子力発電所(100kWの発電能力を有する原子炉6基で発電能力は合計600万kW)を制圧した後、同発電所が稼働を停止した旨同年9月11日にウクライナが発表しており、これが2022年のウクライナの原子力発電量の減少の主要因となっている。

他方、2022年の風力及び太陽光といった再生可能エネルギー消費は発電部門を中心として前年比で13.0%と大幅に増加した他、北米、中南米、欧州及びアジアにおいて当該消費が顕著に伸びている。このため2022年の世界の発電量に占める再生可能エネルギーの割合は14.4%と2021年の12.8%から拡大した他、2022年の世界の一次エネルギー消費全体に染める再生可能エネルギーの割合も7.5%と2021年の6.7%から拡大している。ただ、2022年は化石燃料の中では二酸化炭素排出量が相対的に少ない天然ガスの消費が減少した反面、化石燃料の中では二酸化炭素排出量が相対的に多い石油及び石炭の消費が増加した(図30参照)ことにより同年の世界の二酸化炭素排出量は前年比で0.9%増加する結果となっている。

図30 2022年世界一次エネルギー別需要増減

 

以上

(この報告は2023年7月18日時点のものです)

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