ページ番号1009838 更新日 令和5年7月20日
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概要
- 中国のエネルギー産業の強みはエネルギー・鉱物資源の賦存と世界最大の市場、風力や太陽光設備の適地を有し、熾烈な競争を勝ち抜いたトップサプライヤーが存在することにある。国家が産業政策を統制していることも有利に働くことがある。
- 中国はエネルギー安全保障に配慮した脱炭素への移行を進めており、自立自強、製造業大国化を支えるエネルギー産業の確立を目指している。30年の排出ピークアウト目標年が近付く頃中央と地方政府の方針に齟齬が生じ、地方政府がキャンペーン型の排出削減策を強行し、21年のようなエネルギー需給の混乱が生じると世界のエネルギー需給や経済にも影響が生じる可能性があると懸念している。
- 国有石油企業は石油・天然ガス探鉱開発について国内シフトと増産を進めており、海外における石油・天然ガス開発投資については慎重な取り組み姿勢(中東、南米、ロシアなどでメジャーズ発見・開発鉱区、長期契約・権益・資機材・役務提供、複数企業での進出)が目立つ。
- 政府は石油・ガス産業の事業活動に伴う低炭素化・排出削減(Scope1、2)に関する2025年までのアクションプランを公表。(1)電化(再生可能エネルギー電源との統合開発)、(2)自家消費抑制、EOR、CCUSなどによる増産とメタン抑制政策を展開。3社はそれぞれの強み(CCS、EV、水素、洋上風力、バイオ燃料など)を活用した「新エネルギー事業」を展開。
- 「戦略的新興産業」対象のEV(世界最大シェア;自動車販売の25%、保有の4%)についてSinopecとPetroChinaは全国5万か所を超える給油所ネットワークを活用し、EV充電・モジュール式電池交換ステーションの新増設を進めている。
- 「戦略的新興産業」対象の水素(生産の8割はグレー、精製改質などで利用)についてSinopecは生産~輸送~販売に至るサプライチェーン展開を実施。
- CCUSはPetroChinaが国家能源集団(CEIC)と中国最大規模の年300万トンのCCUS実証を着工。
- CNOOCは自社油ガス田周辺で洋上風力・浮体式洋上風力を展開。
はじめに
中国はエネルギー安全保障に配慮した脱炭素への移行を進めている。国有石油企業は忠実な政策の遂行者としてエネルギー安全保障政策に基づく国内原油・天然ガスの生産維持・増加と低炭素事業の双方に取り組んでいる。本稿では中国で進行中のエネルギー関連政策を概観し、エネルギー安全保障政策に即した国有石油企業の取り組み、次いで中国の低炭素化関連政策と国有石油企業の取り組み、注目プロジェクトについて整理する。
1. 中国のエネルギー政策概観
1-1. 中国のエネルギー消費・電源構成
中国は大気汚染やGHG排出抑制のため過去10年以上石炭抑制・合理化政策を進め、石炭消費がエネルギー消費に占める比率は2010年の69%から21年には56%に減少した。
2020年9月に習近平国家主席が2030年のCO2排出ピークアウト、2060年のカーボンニュートラルを国際社会に宣言した。翌21年10月には国務院が「2030年排出ピークアウトに向けたアクションプラン」を公表した。
急速に低炭素化が進むと思われた中国だがエネルギー安全保障、石炭への揺り戻しが起きている。22年10月、習近平国家主席は国の重要方針を決定する中国共産党大会の場で、風力・太陽光、原子力など代替エネルギーへの移行が確立するまで自給率の高い石炭を維持すると宣言した。政府は石炭生産企業と発電企業に対し増産(輸入)と貯蔵の増強を促しており、石炭(22年消費の56.2%)は10年ぶりに増加に転じ23年も高温による需要増加が見込まれるが高在庫で需給は比較的安定している。自給率は9割超を維持している。
石油消費(22年17.9%)はゼロコロナ後の経済・輸送燃料需要の回復により伸びており、足元では世界の原油市場価格を下支えしているが、EVの普及や燃料転換で2025年頃に輸送燃料がピークを迎え、石化需要は残るが需要は徐々に低下する見通しである。原油生産は自然減退が進んでいるが政府は国有石油企業に生産の維持・安定を働きかけている。国有石油企業が探鉱開発投資を増加させたことで原油生産は2019年以降4年連続増加し22年は2016年以来の日量400万バレル超となったが自給率は3割を維持するのがやっとである。
天然ガス(22年消費の8.5%)は大気汚染改善の観点から石炭からの燃料転換政策(Coal to Gas)が展開され過去10年来シェアを伸ばしてきた。しかし21年半ば以降の市場価格上昇によりCoal to Gasは棚上げされた。政府は2030年に天然ガス消費を15%とする目標を設定しているが、石炭回帰が続けば目標未達となる可能性がある。政府は国有石油企業に天然ガスの増産や長期契約による確保、輸送・貯蔵インフラの増強を促しており、国有石油企業各社は低炭素化戦略も念頭にガスシフトを進めている。天然ガスは5割強の自給率を維持している。
中国の年発電量(22年8,849TWh)の34%を原子力と再生可能エネルギーが占める。残り66%を占める火力は主に石炭で天然ガス火力は電源の5%未満である。中国では低炭素化・排出抑制政策のもとで原子力および再生可能エネルギー発電設備増強が続いており、22年は発電設備新設の7割、発電量増加(前年比3.7%、314TWh増加)の4分の3が原子力・再生可能エネルギーによるものであった。(中国のエネルギー需給については中国のエネルギー需給・調達の現状と今後の方向性 ―「保供」(供給確保)政策のもと、石炭とクリーンエネルギーを増強、不足は「長期契約」で確保し、「自立自強」へ邁進―をご参照下さい)。

(出所:NDRC、Energy Intelligence、中国電力企業連合会に基づきJOGMEC作成)
1-2. 中国で進行中の主なエネルギー関連政策
中国における最近の主なエネルギー政策を図2に示した。進行中のものは破線で囲い、エネルギー需給・産業に大きな影響を与える中長期の政策は青字で示した。概略は以下の通りである。

(出所:各種情報を基にJOGMEC作成、2023年5月時点)
「戦略的新興産業の育成と発展に関する決定」(国務院2010年10月公表)
国務院が2010年に公表した「戦略的新興産業」の発展を図る政策文書である。対象産業が2015年にGDPの8%、2020年に同15%に到達することを目指している。12年7月には第12次五か年規画でこれらの戦略的新興産業について20年までのロードマップが示された。対象産業は以下の通りである。
- 省エネ環境保護
- 次世代情報通信技術
- バイオ医薬・高性能医療機器
- ハイテク設備製造(航空・宇宙、交通軌道、資源開発向け海洋作業設備など)
- 新エネルギー(次世代原発、太陽光、風力)
- 新材料
- 新エネルギー自動車(バッテリー、モーター、電子制御、EV・PHEVの産業化、FCVの技術開発)
エネルギー関連産業では省エネ環境保護、資源開発向け海洋作業設備、新エネルギー(発電)、新エネルギー自動車が含まれる。中国における新エネルギー自動車(NEV)はバッテリーEVとプラグインハイブリッド(PHEV)、燃料電池車(FCV)である。ハイブリッド自動車は環境車というカテゴリーである。
「中国製造2025(2015~49年)」(国務院2015年5月公表)
国務院による製造業大国(製造強国)を目指す政策文書である。2025年、2035年、2049年を最終年とした3期を設定し、25年に製造強国に名を連ね、35年に製造業中位国入り、中華人民共和国建国100周年となる49年に上位国を目指している。対象産業は以下の通りである。
- 次世代情報通信技術産業
- 先端デジタル制御工作機械とロボット
- 航空・宇宙設備
- 海洋建設機械・ハイテク船舶(資源開発向け海洋作業設備、LNG船などを含む)
- 先進軌道交通設備
- 省エネ・新エネルギー自動車
- 電力設備
- 農業用機械設備
- 新材料
- バイオ医薬・高性能医療機器
エネルギー関連では戦略的新興産業と同様に海洋建設機械・ハイテク船舶、省エネ・新エネルギー自動車、電力設備が含まれる。
「エネルギー生産・消費革命戦略(2016~30年)」(国務院2017年4月公表)
国務院は2016年に低炭素化を推進するエネルギー中長期戦略「エネルギー生産・消費革命戦略」を発表した。同戦略の最終目標年は2030年でエネルギー消費を石油換算42億トン以内に抑制すること、エネルギー自給率(現状9割)を高い水準で維持することを目指している。低炭素化の目標としてエネルギー消費に占める原子力・再生可能エネルギー比率を20%前後、天然ガスを15%前後とする目標が設定されている(図3)。また排出抑制についてはGDP単位(1万元創出)あたりのCO2排出を2005年比60~65%削減し、CO2排出を2030年頃ピークに到達させる目標が設定された。

(出所:「エネルギー生産・消費革命戦略」に基づきJOGMEC作成)
「2030年排出ピークアウトに向けた行動計画(2021~30年)」(国務院2021年10月公表)と22年共産党大会における習近平国家主席の石炭容認
中国は2020年に国際社会に向けて「30年排出ピークアウト、60年ネットゼロ」を表明した。翌21年10月に国務院はその実現に向けて電化、再エネ・原子力増強、クリーンコール、EV促進などの低炭素化を推進する2030年までのアクションプランを示した(図4)。
2030年にエネルギー消費の25%を原子力・再生可能エネルギー(非化石燃料)とする目標について、22年時点の原子力・再エネ比率は17%である。再エネ拡大は風力・太陽光を中心に行われており、2030年までに風力・太陽光発電の設備容量を1,200GW以上とする目標が設定されている。22年の発電設備容量は風力が365GW、太陽光393GW(合計758GW)、23年には風力が430GW、太陽光が490GW(合計920GW)に増強される見込みであり30年の1,200GW目標に向けて前倒しで増強が進んでいる。
なお、30年にエネルギー消費の原子力・再エネ比率を25%とする目標は必達であり、このまま石炭の利用を許容する政策が続けば、天然ガスへの転換は停滞し、現状9%の天然ガスが15%に到達することは難しいと思われる。新エネルギー車の新車販売に占める比率は減税終了の駆け込み需要もあったが22年は25%に増加、早晩40%に到達するとの強気の見方がある。

1-3. 安全保障意識の高まりと石炭回帰
習近平国家主席が20年9月の国連総会で「二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、CO2排出と吸収を均衡させ実質ゼロとするカーボンニュートラルを2060年までに実現するよう努力する」と表明し、中国は国をあげて“3060(30年排出ピークアウト・60年カーボンニュートラル)”実現に向けて低炭素化を推進してきた。しかし21年に猛暑による電力需要増加に対しバッファーの不足と地方政府のキャンペーン型低炭素化政策の強行などにより中国全土で電力危機が発生した。続く22年には中国はゼロコロナ政策下であったものの世界的なエネルギー危機に直面した。米国との関係も緊張が続いている。このような状況のもとでエネルギー安全保障意識が一層高まっている。
習近平国家主席は22年10月に国の重要方針を決定する中国共産党大会の場で「中国のエネルギーと資源の賦存に立脚し、古いもの(石炭)を廃棄する前に新しいもの(自然エネルギー、水力、原子力)を確立させる方針を堅持し、二酸化炭素排出量のピークアウトを計画的に実施する」と発言し、過去10年来進めてきた石炭抑制政策を転換し、風力・太陽光、原子力など代替エネルギーへの移行が確立するまで自給率の高い石炭を維持し、エネルギー安全保障に配慮した脱炭素への移行を進めることを内外に示した。またエネルギー・資源、重要産業のサプライチェーンの安全確保を進めると表明している。党大会で表明されたエネルギー関連のポイントは以下の通りである。
- 石炭:クリーン・高効率利用を強化
- 石油・天然ガス探鉱開発:埋蔵量・生産量の増加
- 水力:電源開発と生態保護の統一的な計画
- 原子力:積極的かつ安全と秩序のある発展
- 安全保障:生産、供給、備蓄、販売に至るサプライチェーンの整備
- GHG:CO2排出算定制度、排出権取引制度の整備。生態系のCO2吸収能力向上
- 国際協調:国際的な気候変動対策に積極的に参与
「エネルギー生産・消費革命戦略」まではエネルギー消費総量や消費構成目標が示されており、石炭・石油の比率目標は示されていないもののある程度はエネルギーミックスを数字でイメージすることが可能であった。しかし同戦略以降は体系的な数値目標のあるエネルギー戦略は示されていない。各エネルギーの整合がつかず、国際社会の批判をかわすためにあえて出さないのか、あるいは技術革新や水素・新エネルギー開発の状況を見ながら目標達成の目途がたってから示すつもりなのか定かではない。30年の排出ピークアウト目標年が近付く頃に帳尻合わせのために中央と地方政府の方針に齟齬が生じ、地方政府がキャンペーン型の排出削減策を強行し、21年のようなエネルギー需給の混乱が生じはしないかと懸念している。
1-4. 中国のエネルギー産業が目指す姿
中国のエネルギー産業の強みと現在位置、目指す姿を考察した。IEEJ小山常務理事は「エネルギーの地政学」(朝日新書、22年8月)においてエネルギー安全保障を「市民生活や経済活動、国家運営などに必要十分な量のエネルギーを合理的で手頃な価格で確保すること、そのために国家や経済主体が意思決定や外交の自由度を失わないこと」と定義された。米国との関係悪化やロシアへの金融制裁による危機感を募らせた中国は、大国の意向に左右されない自立自強ならびに製造業大国化を急いでおり、エネルギー産業の目指す姿はそれを支えることと安全保障に配慮した脱炭素への移行にあると思われる(図5)。また水素産業チェーンの形成は、脱炭素化の潮流を新興産業で主導権を取り得るチャンスと捉えた動きであると思われる。

(出所:各種情報に基づきJOGMEC作成、2023年5月時点)
中国のエネルギー産業の強みはエネルギー・鉱物資源の賦存と世界最大の市場、風力や太陽光設備の適地を有し、熾烈な競争を勝ち抜いたトップサプライヤーが存在することにある。国家が産業政策を統制していることも有利に働くことがある。
中国は石炭をほぼ自給している他、自動車の電動化を支えるリチウムやニッケルの精製・精錬プロセス(海外を含む)をおさえている。そして、太陽光パネルメーカーのジンコソーラーや太陽電池モジュールメーカーのJAソーラー、EV車載蓄電池のCATLなどを輩出している。
1-2で紹介した通り、中国政府は2010年の時点で太陽光発電やEVを戦略的新興産業と設定し、優遇政策や補助金の支給によりこれを支援してきた。中国における産業育成の一つのパターンとして、初めに政府が補助金や支援策を大盤振る舞いし、過当競争・過剰能力となったところで、支援策や補助金を絞り、統合や合理化を迫る政策に転じ、多くの企業の屍の上に世界に通用する強い企業が形成されることがある。例えば2010年に世界首位となった太陽電池メーカーのサンテックは2012年の米国アンチダンピング税と補助金相殺関税、2013年の欧州における最低輸入価格と数量制限を契機に経営破綻した。政府はサンテックを救済しなかったが、2012年以降国内の太陽光発電設備容量導入目標を数次にわたり引き上げ、輸出主体であった太陽光発電の内需創出による転換を図った。この結果JAソーラー(昌澳太陽能)やジンコソーラー(昌科能源)が生き残った。現在中国は世界の太陽光設備生産の7割を占め、JAソーラーはベトナムやマレーシアなど東南アジアで工場を立ち上げ、アンチダンピング税を回避し米国市場への輸出を行っている。
またEV車載電池最大手のCATLはドイツをはじめ欧州・アジアに複数の生産拠点を有しており、米国への進出を計画していたが、インフレ抑制法(IRA)のEV税額控除に阻まれ米国に生産拠点を設ける計画は頓挫した(IRAにおけるEV購入者の税額控除(最大7,500ドル)はバッテリーの一定割合が国産で、北米における最終組み立て要件を満たした車両(モデル)が対象)。しかし23年2月にはフォードがミシガン州に建設するバッテリー工場に技術支援を行うことで規制を回避し米国のバッテリー市場に乗り出そうとしている。
中国の電力・再生可能エネルギーへの投資額は22年だけで2位米国の3倍以上の5,000億米ドルを超えており、他国を寄せ付けない(図6)。そして国内のみならず再生可能エネルギー発電設備について世界有数のサプライヤーである。23年2月に中国国家エネルギー局長はプレス発表で太陽光発電モジュール、風力発電機、ギアボックスなどコア部品の中国製品の世界シェアは7割に達しており、世界のCO2約5億7000万トンの削減に貢献したと述べ石炭への依存や世界最大の排出国であることへの国際的な批判をかわそうとしているようだ。欧米は過度の中国依存やコロナ期のサプライチェーンの混乱を警戒し、生産の現地化やサプライチェーンの多様化を進めているが、中国依存脱却には一定の時間を要すると思われる。

(出所:Lambert Energy, 2023年3月)
22年の中国の原子力発電の設備容量は56GW(発電設備の2%)、発電量は418TWh(発電量の4.7%)であり、電源における存在感は大きくない。中国では22年に太陽光の発電量が原発に並んだことが注目を集めたが、中国は原発強国化を着々と進めている。
中国の原子力発電事業は国家経済と国民生活に係わる重要な国有企業である中央企業約100社の一角を占める中国核工業集団(CNNC)、中国広核集団(CGN)、中国電力投資集団(SPIC)が主に担っている。フランスやロシアから設備を購入する代わりに再処理技術やウラン濃縮、高速炉技術を獲得し、主要設備の国産化率は9割を超えた。CNPCなどの国有石油企業と同様傘下に原子力発電会社やエンジニアリング会社、研究所を有し、上海電気やハルビン電気などのプラントメーカーが建設を支える強固なチェーンが確立している。ウランは事業者レベルで海外権益確保を進めており、高温ガス炉やモジュール式小型炉(SMR)実証の他、高レベル放射性廃棄物(HLW)の深地層処分も進めている。2019年8月に米国が中国広核集団を安全保障上懸念のあるエンティティー・リストに加えたことで米国やその同盟国への原発輸出計画は減速したが、原発輸出国ロシアがウクライナ侵攻で弱体化した場合、ロシアと中国の協働あるいは輸出国としての中国の存在感が高まる可能性は否定できない。
2. 中国のエネルギー安全保障政策と国有石油企業の取り組み
2-1. 14次五か年計画(~2025年)期間中のエネルギー安全保障政策
22年3月に国家エネルギー局が25年までのエネルギー14次五か年計画を発表した。国内に立脚し、安定的な発展を目指すとあり、エネルギー安全保障と低炭素化(エネルギー移行)の両立を図る内容である(詳細は中国、LNG長期契約ラッシュとエネルギー14次五か年計画に見る天然ガスサプライチェーン強化戦略をご参照下さい)。前五か年計画時は全人代後1年以内にエネルギー全体とエネルギー源別の計画が発表され、数値目標が示されていたが、今回数値目標は部分的であり増産と低炭素化の整合性に苦しんでいるのではないかと推察される。
国内エネルギー生産について原油は日量400万バレルの生産維持、天然ガスは22年の218Bcm(159MT)から230Bcm(168MT)への増産を図る目標が設定されている。石炭は生産目標が示されていないが前述の通り増産・輸入を容認する政策が進行中である。
サプライチェーン安定化とリスク対応能力については輸送・貯蔵インフラの拡充とピーク調整能力の増強が示されている。
2-2. 中国国有石油企業の国内上流事業の傾向
2-2-1. 鮮明な国内シフト
国有石油企業3社(PetroChina、Sinopec、CNOOC)は2018年に習近平国家主席から直接国内原油・天然ガスの増産指示を受け、2018年から25年まで「国内探鉱開発強化七年アクションプラン」のもと増産を図っている。天然ガスは元々増産が続いていたが、特に陸上で成熟化が進んだ原油は3社が探鉱開発投資を増加させたことで原油生産は2019年以降4年連続で増加し22年は2016年以来の日量400万バレル超に回復した。
PetroChinaの原油・天然ガス生産を見ると、2018年から2022年にかけて国内は石油換算日量616千バレル(boed)増加したが、海外は85千boed減少した。2013年から2017年は増加の9割、144千boedが海外であり、開発の重点が国内に移ったことがわかる(図7)。ちなみに2000年のPetroChina海外上場の際、CNPCに海外の探鉱開発権益の大半が残され、グループ全体の海外生産の8割はCNPCによるものである。CNPCグループの海外生産(2021年2,050千boed)のうちPetroChinaの生産は459千boedでグループ全体の海外生産の22%に過ぎない。CNPCグループの原油・天然ガス生産の伸びを確認したところ2018年から2021年にかけて国内は500千boed増加、同期間の増加の9割を占めるが、海外は81千boedの増加にとどまっている。2013年から2017年は海外が599千boedと伸びの9割を占めていた。CNPCグループ全体で見てもやはり開発の重点が国内に移っていることがわかる。
Sinopecは2018年から2022年にかけて国内は石油換算日量616千バレル(boed)増加したが、海外は85千boed減少した。2013年から2017年は増加の9割、144千boedが海外であり、企業の開発の重点が国内に移ったことがわかる。
CNOOCは2013年から17年、2018年から22年のいずれも期間においても国内・海外がそれぞれ増加している。ただしいずれの期間とも国内が増加の6割超を占めており開発の重点は国内といえる。

(出所:各社年報に基づきJOGMEC作成)
2-2-2. 原油は海洋、天然ガスは西部陸上における増産が顕著
中国の原油と天然ガスの主な生産地域・生産量(石油換算日量万バレル)を図7に示した。中国の原油・天然ガス生産の8割が陸上だが、2018年以降の原油生産増加の伸びの3分の2は海洋である。渤海(天津沖合)と南シナ海東部(香港沖合)の生産が伸びている。
天然ガスについては生産増加の6割を西部陸上(四川、オルドス盆地長慶、新疆タリム盆地)が占める。CNPC傘下のシンクタンク中国石油経済技術研究院CNPC-ETRIの「2022年国内外油ガス産業発展報告」によると、シェールガスの生産は前年比4%増の23Bcmで国内ガス生産の11%、消費の6%である。前年21年は生産が13%伸びたが22年はやや伸び悩んでいる。主に四川盆地で生産されているが、複雑な地質や人口密度など地上の要因により伸びは緩慢である。またシェールオイルの開発は実証段階にあり、米国のようなシェールオイル増産に伴うガスの増加も当面期待できない。

(出所:各社年報に基づきJOGMEC作成)
2-2-3. 国内ガスシフト、海洋で操業するCNOOCは苦戦
ガスシフト低炭素化に有効であり特に欧州系メジャーズはScope3のネットゼロを視野にガスシフトを進めている(図9)。主に中国陸上で操業するPetroChinaとSinopecは2013年と22年を比較するとガス生産比率が3割から5割前後に増加しガスシフトが進んでいる(図10)。

(出所:Woodmac ”Global upstream and corporate trends” June, 2023)
PetroChinaは西部オルドス盆地に位置する長慶のタイトガス、Sinopecは四川盆地に位置する重慶涪陵(Fuling)シェールガスが増産に貢献した。中国の天然ガス開発は90年代後半以降生産地から北京や上海など消費地向けのパイプライン整備が進んだことで加速した。ガスは石油に比べ後発で増産余地があり、大気汚染や排出削減の観点で大気汚染防止行動計画(2013~17年)など導入目標のあるCoal to Gas政策など一連の低炭素化政策が追い風となり、需要が急速に成長し、開発が進んだ。
海洋で主に操業するCNOOCは21年にガスの生産比率を25年までに35%に引き上げる目標を設定したが現状は22%にとどまっている。中国海洋は小規模の油田が散在していることが特徴で、原油の生産比率が高くガスシフトは容易ではないようだ。

(出所:各社年報に基づきJOGMEC作成)
2-3. 中国国有石油企業の海外上流事業の傾向
国有3社の海外原油・天然ガス生産(2021年)は323万boedで6割205万boedがCNPCである。このうち原油が75%(日量245万バレル)で石油消費の16%、原油輸入の24%相当である。中国の海外進出は1990年代と後発であったが2000年前後の海外上場を経て投資が活発化、特に2009~13年は海外資産・企業買収が3社を合わせて年150~250億ドル(世界の1割)と活況を呈していた。しかし2014年以降の低油価や国内の汚職取り締まりキャンペーンで海外事業責任者を含む幹部が失脚・拘束されたことで新規事業は減速した。2020年以降上流のみの新規契約はなく、保有資産の成熟化で生産は横ばいから減少傾向にある(図11)。
中国国有石油企業の最近の海外進出事例を表1に示したが、近年は政策に沿った安全・慎重な取り組み姿勢(中東、南米、ロシアなどでメジャーズ発見・開発鉱区、長期契約・権益・資機材・役務提供、複数企業による進出)が目立つ。

(出所:各社年報に基づきJOGMEC作成)

(出所:各種情報に基づきJOGMEC作成、2023年5月時点)
一帯一路(BRI)に伴う産油ガス国との関係強化や人民元国際化など政策に沿った動きもある。
産油ガス国との関係強化の例ではサウジアラビアがあげられる。22年12月、習国家主席のサウジアラビア訪問時に34件計300億ドル相当の予備投資協定に調印した。23年4月にはアラムコが国有軍需企業Norinco傘下のPanjing Xinchengと遼寧省精製石化JVと最大日量21万バレルの原油供給で合意した。またアラムコは浙江省地方政府傘下ZPCへの資本参加と最大日量48万バレルの原油供給で合意した。
23年5月にはアラムコが中国鉄鋼大手宝鋼(Bao Steel)とRas al-Khair製鉄所における天然ガス(将来は水素)直接還元鉄炉(DRI)と電炉(鋼板生産能力年1.5MT)の投資協定を結んだ。
エネルギー取引の人民元決済(人民元国際化)についてはLNGで2件行われた。23年3月、CNOOCとTotalEnergiesは上海石油天然ガス取引所(SHPGX)プラットフォーム上で初のLNG人民元建てクロスボーダー決済を行った。23年4月にはPetroChinaがADNOCとSHPGXでLNGの人民元クロスボーダー決済取引を行った。
ただしエネルギー取引の人民元決済は人民元の国際化だけではなく、ロシアへの金融制裁を念頭にオプションを試しており、ドル決済にとってかわるようなことはないと考えている。
3. 中国の低炭素化政策と国有石油企業の取り組み
3-1. 14次五か年計画期間中の低炭素化政策と水素中長期発展戦略
国家エネルギー局は23年3月に2025年までの石油・ガス産業の事業活動に伴う低炭素化・排出削減(Scope1・2)に関するアクションプラン(「石油ガス探鉱開発と新エネルギー統合加速アクションプラン」)を公表した。油ガス田開発の低炭素化、再エネ電源との統合開発、原油のCO2圧入(EOR)活用などによる増産が示され、天然ガスは自家消費抑制によるマネタイズ(累計4.5Bcm)、加圧開発による増産(累計3Bcm)目標が設定されている。原油は低コストのグリーン電力を活用し、CO2・重質油熱攻法などの増進回収法(EOR)による増産(累計1,500万バレル以上)目標が示された。

(出所:「石油ガス探鉱開発と新エネルギー統合加速アクションプラン」に基づきJOGMEC作成)
22年3月には国家発展改革委員会が「水素エネルギー産業発展中長期規画」を公表した。中央政府による初の水素中長期戦略であり、水素をエネルギー最終消費の低炭素移行における重要なキャリア、「戦略的新興産業」として将来の産業を支えるエネルギーと位置付けている。同アクションプランの目標や概要は以下の通りである。中国の水素生産能力は4,100万トン、生産量は約3,300万トンだが、その8割は化石燃料由来のグレー水素(石炭2,100万トン、天然ガス450万トン)であり、工場副生水素700万トン、水電解水素50万トンである。製油所の水素化精製などで使われているが、これをグリーン水素に転換し、交通輸送向けに利用し、国内の低炭素化を図ろうとしている。
目標
- 2025年までにFCV保有台数5万台
- グリーン水素製造年10~20万トン
- CO2排出削減年100~200万トン
- 2035年までに水素エネルギー産業システムを形成、交通輸送、エネルギー貯蔵、発電、工業などへの利用を図る
水素製造インフラの合理的な配置と研究開発
- コークス、クロルアルカリ、プロパン脱水素(PDH)工場が集中する地域では、工業副生物水素を利用、周辺で消費し供給コスト低減を図る
- 太陽光、風力、水力の豊富な地域ではグリーン水素実証を行い、徐々に拡大。季節的な貯蔵やグリッドのピーク調整を検討
- 固体高分子(PEM)型水電解装置、光触媒、海水、原子力(高温ガス炉)からの水素製造技術の研究開発を推進
- 大規模な水素エネルギー利用が可能な地域での水素製造拠点の設立を検討
- 精製や化学など炭素強度の高い産業で水素(合成アンモニア・メタノール)代替を図り低炭素化を促進
3-2. 国有石油企業の低炭素事業方針
国有石油企業3社(PetroChina、Sinopec、CNOOC)の低炭素事業方針と主な取り組みを表3に整理した。3社ともに政府より10年早い2050年カーボンニュートラルを表明している。3社は保有資産とそれぞれの強み(CCS、EV、水素、洋上風力、バイオ燃料など)を活用した「新エネルギー事業」を展開している。

(出所:各社年報等に基づきJOGMEC作成)
3-2-1. PetroChinaの低炭素事業方針
PetroChinaは2020年9月の業績発表において「2050年までにCO2排出量をゼロに近づけ、グリーンエネルギー(地熱、太陽光、水素エネルギーなど)への投資を強化する」と表明した。同社は2050年まで3期に分けてエネルギートランジションを進める計画である(図12)。1期(2021~25)年はクリーンエネルギー代替期と位置付け、2025年までにエネルギー生産能力の7%を新エネルギーに代替するとしている。2期(2026~35年)は戦略的置換期と位置付け、2035年までにグリーンまたはカーボンフリーエネルギー供給が化石燃料の自家消費を上回ること、新エネルギーと石油・ガス生産能力を各3分の1とし、石油・ガスの地熱、電力、水素への戦略的置換を図る。最終の3期(2036~50年)は2050年までの排出ネットゼロとエネルギー供給能力の5割を新エネルギーおよび新事業とすることを目指すとしている。

(出所PetroChina ESGレポートに基づきJOGMEC作成)
PetroChinaが行っている主な新エネルギー(低炭素化)事業はクリーン発電(風力・太陽光)、地熱(暖房)、CCS、水素、EVである。
国内油ガス田の7割を抱えるPetoChinaは、ガスシフトに加えCCSに注力している。また国内給油所数22,586(参考:日本の給油所21年度28,475)を擁するPetroChinaはEV・水素ステーションの拡充を進めている。燃料電池車向け水素ステーション数は35、EV充電・モジュール式電池交換ステーション数は416で水素の22年生産能力は3,000トンである。22年の風力・太陽光の設備容量は1,200MW、地熱暖房エリアは2,500万平方キロメートルである。
PetroChinaは新エネルギーを石油・ガスと同列に引き上げ探鉱・生産部門を"石油・ガス・新エネルギー"、精製・化学部門を"精製・化学・新素材"に変更した(図13)。新エネルギーを格上げしたとしているが、新エネルギーへの投資が見えにくくなる側面がある。

(出所:PetroChina22年年報20-F)
22年6月、PetroChinaは“Green and low-carbon development action plan3.0”(「グリーン・低炭素発展アクションプラン3.0」)を発表した。「循環型炭素経済」をコンセプトとし、3つの革新的なイニシアチブのもと10大プロジェクトを進める計画である(表4)。PetroChinaが示す「循環型炭素経済」コンセプトとは炭素削減、再利用、リサイクル、除去の4Rを原則とする。炭素排出量を削減し、資源として再利用しエネルギーと炭素の流れを最適化。新エネルギーと新素材を積極的に活用し、CCUSの産業チェーンを構築、炭素経済の規模拡大を図るものである。

(出所:PetroChina ESGレポート22年に基づきJOGMEC作成)
参考1:中国のEV・燃料電池車の状況
中国のEV・燃料電池車の現状について概観する。22年の中国の新エネルギー車(NEV)の販売台数は688.7万台で、自動車販売台数の25.6%であった(図14)。新エネルギー車の保有台数は1,310万台で自動車保有台数(22年4.17億台)の3%に達している。バッテリーEVが8割を占める。その他、フードデリバリーやシェアリング利用などで電動自転車(バイク)、小型三輪電動車、低速電動車などの「小型電動車両」が普及している。
EV充電器は約400万基ある。燃料電池車の保有台数は1万2000台で保有率は0.1%未満、バスやトラックなどの商用車が主体である。ただし政策で大きく動くのが中国であり、公共輸送機関、路線バスが過去にCNGやEVに急転換したように、公共輸送機関における燃料電池バスが伸びる可能性は否定できない。
燃料電池車向け水素ステーション数(22年11月)は日本や韓国の160前後に比べ2倍の329で6割が固定式、4割可動式(スキッドマウント)である。水素ステーションの圧力は主に35MPaで水素ステーション向け輸送は主に水素ボンベ(20MPa)によりトレーラーで短距離、小規模輸送が行われている。
3割(98)をSinopecが、1割(35)をPetroChinaが運営している。

(出所:中国自動車工業協会CAAMなどに基づきJOGMEC作成)
Sinopec・PetroChinaは全国にそれぞれ3万か所の給油所ネットワークを有しているが、EV充電ステーションおよびモジュール式電池交換ステーションの新増設を強化している。通常のEVは動力源の電池が車体に固定されているが、電池交換型EVはモジュール式電池交換式ステーションでフル充電された電池を載せ替えることが可能で交換の所要時間は3~5分と短い。電池交換式ステーション数は2021年時点で約1,300、電池交換型EV保有台数は約115万台である。2020年7月に自動車産業政策を所管する工業情報化部がEVの車体と電池の分離販売を認めたことで普及した。蓄電池世界最大手の寧徳時代(CATL)、NIO、テスラなどが定額、定期払い(サブスク)サービスを展開している。
3-2-2. SinopecとCNOOCの低炭素事業方針
国内最大の精製・石化企業であるSinopecは2021年2月の業績発表において2050年カーボンニュートラルを表明した。23年3月には23年の設備投資を前年比12%削減する。投資削減により収益を改善する一方、水素など新エネルギー分野の投資は拡大すると表明した。
Sinopecが行っている主な新エネルギー(低炭素化)事業は水素、EV、CCS、バイオ燃料、クリーン電力(太陽光)である。
Sinopecは自社精製・石化設備と連携した水素製造拠点、サプライチェーンの構築を進めている。水素生産能力は国内最大の390万トンで燃料電池車向け水素製造拠点9か所、生産能力は合計年16,500トンである。クリーン電力(太陽光)の設備容量は44.2MWである。
PetroChinaを上回る30,808か所の給油所を有しており、給油所の屋根をソーラーパネルにする“グリーン給油所”を展開する傍ら、EV・水素ステーション数の首位を維持する目標を設定している。EV充填・モジュール式電池交換ステーション数は2,299、燃料電池車向け水素ステーション数は98(充填能力日量45トン)である。
持続可能航空燃料(SAF)についても先行しており22年4月にはアジア初のSAF国際認証(RSB)を取得、エアバス社などに納入している。
CNOOCは2022年6月の業績発表において2050年カーボンニュートラルを表明した。2025年までCapexの年5~10%を新エネルギーに投資するとしている。
CNOOCが行っている主な新エネルギー(低炭素化)事業はクリーン電力(洋上風力、陸上風力・太陽光)、CCSである。海洋が主体のガスシフトやEVなどでは分が悪いが、洋上風力や海洋CCSの実証・スタディを進めている。
3-3. 国有石油企業の低炭素事業注目プロジェクト
3-3-1. 水素
水素の注目プロジェクトはSinopecによるグリーン水素と自社精製石化プラントの連携である(図15)。
2023年6月30日にSinopecによる新疆庫車(Kuqa)太陽光由来のグリーン水素実証プロジェクトが稼働した(21年11月着工)。事業費は30億元(4.1億ドル)で太陽光による電力(618MWh)、250MWの電解槽により年2万トンのグリーン水素を製造する。水素輸送パイプラインでSinopec塔河(Tahe)製油所に運ばれ、天然ガス由来のグレー水素をグリーン水素に代替する。水素貯蔵容量は21万立方メートル、水素輸送パイプラインの輸送能力は毎時2.8万立方メートルである。
Sinopecの長距離グリーン水素輸送パイプラインも注目に値する。Sinopecは内モンゴルにグリーン水素(風力・太陽光)製造プラントを建設し、北京燕山石化まで輸送する総延長400キロメートル、輸送能力年10万トンの水素輸送パイプラインを建設する。水素チェーン(製造~輸送~利用)の実証であり、「西氢東送」(西部の水素を東部に輸送する)パイプラインは全国パイプライン統合計画に含まれる。

(出所:各種情報に基づきJOGMEC作成)
3-3-2. CCUS
中国の石油ガス産業におけるCCUSの現状と展望について整理した。CCU(CCUS)プロジェクト数(22年末時点、稼働・建設中)は約40で圧入能力年は300万トン、うち180万トンがEOR向けである。
累計圧入量はCNPCが最大だが、プロジェクト単体規模は現状Sinopecがリードしており、CNOOCは海洋でCCSハブの実証を進めている。
CNPC-ETRIによるとCCSーEORは2030年時点で3,000万トン以上のポテンシャルがある。課題はコストの高さ、輸送パイプラインなどインフラの不足、規制・政策的インセンティブの不足にある。
CNPC関係者は「CCUSが現時点で化石燃料の低炭素化を可能とする唯一の選択肢」とし、CCS-EORへの政策支援強化の必要性を指摘している。
Sinopecの山東斉魯(Qilu)CCUSプロジェクト(CCS-EOR)は2021年に着工し、22年8月に稼働した。中国初の100万トン級CCUS事業である(図16)。傘下の中国石化(Sinopec)斉魯(Qilu)石油化工公司を通じ年間100万トンのCO2を回収し、勝利(Shengli)油田に圧入し原油の増進回収を図る。無人の圧入ステーション10か所、圧入井73坑に15年間で累計1,000万トンを圧入、原油2,200万バレルの増産、回収率12%の向上が期待されている。また22年11月には鉄鋼最大手宝武鋼鉄(Baowu)、Shellおよび独化学大手BASFと中国東部地域で オープンソースのCCUSプロジェクト(年1,000万トン規模)について拘束力のない覚書を締結した。
CNOOCは中国海洋最大年1,000万トンのCCUS実証を行う。2023年1月に広東省政府、Shell、ExxonMobilと広東省大亜湾(Daya Bay)でCCUSの共同スタディ契約を締結した。
PetroChinaは 2023年5月に国家能源集団(CEIC)と中国最大規模の年300万トンのCCUS実証プロジェクトに着工した。CEICは五大発電の1社の国電と石炭大手の神華が合併し17年11月に設立した中央企業である。CEICの寧夏石炭液化事業(年400万トン)から排出されるCO2を回収し、CO2-EORによりPetroChina長慶油田の原油増産を図る。総事業費は102億元で3期に分けて建設する。1期は13.7億元を投じ石炭液化から排出されるCO2年50万トンを回収し、このうち40万トンを長慶油田のCO2-EORに、10万トンを炭鉱総合利用プロジェクトで活用する。24年稼働予定である。2期は24年に着工、25年稼働予定で、28.6億元を投じCO2回収・EORの規模を年100万トンに増強する他、CO2長距離輸送パイプライン(輸送能力年300万トン)を建設する。3期は15次5か年計画期間(2026~30年)に着工、60億元を投じ年150万トンのCO2回収・EOR、50万トンのCCSを建設し、CO2削減規模が300万トンに達する。30年間の運転期間で累計7450万トンのCO2を圧入し原油1億2410万バレルの増産を図る。

(出所:各種情報に基づきJOGMEC作成)
3-3-3. 洋上風力
中国の風力発電設備容量(グリッド接続)は365GWである。このうち洋上風力の設備容量は30GWと急増している。World Forum Offshore Wind(WFO)が発表した「Global Offshore Wind Report 2022」によると2022年に世界で42件、計9.4GWの洋上風力発電所が稼働したが、中国がその内29件、計6.8GWを占め、全体をけん引し、累計でも全体の44%を占めるという。
注目プロジェクトはCNOOCによる浮体式洋上風力である(図17)。2023年5月、CNOOCは同社が操業するCNOOC南シナ海西部文昌(Wenchang)油田群海域(離岸距離136キロメートル、水深120メートル)に浮体式洋上風力CNOOC Guanlanを設置、稼働した。建造はCNOOC Engineeringで設備容量は7.25MW、年間発電量は2MWh、ローター直径は158メートル、ハブ高さ(海面上)は83メートルである。

(出所:CNOOCウェブサイトに基づきJOGMEC作成)
3-4. 水素関連国際協調(海外進出)の動き
中国の水素産業は基本的に国内のエネルギー代替が目的であり、国内産業チェーン形成に注力している。しかしブラジルやサウジアラビアなど産油ガス国との国際協調の動きも出始めている。
2023年5月には、ブラジル国営Petrobrasと中能建国際建設集団有限公司は再エネ発電とグリーン水素生産におけるビジネスチャンスについて分析・協力を行う。Petrobrasはグリーン水素プロジェクトについて中能建国際建設集団と多角的な協力を行うと発表した。中能建国際建設集団の呂沢翔総裁は、同社の海外投資予算200億ドルのうち大部分の資金をブラジル市場に配分し、再エネ発電およびグリーン水素・グリーンアンモニアの生産に注力する。
2023年5月、中国電建党委員会副書記・総経理の王斌氏はサウジアラビアACWA Power副会長と会談。双方はハイレベルかつ広範な分野における実務協力を強化するとし、戦略的協力協定に調印した。戦略的提携協定は電力・水道、新エネルギー、グリーン水素、エネルギー貯蔵などの分野における協力である。
水素関連の国際協調は産油国との原油貿易のつながりが将来低下しても関係を維持するツールという側面があると思われる。
4. まとめ
中国は2030年の排出ピークアウト、50年のカーボンニュートラルに取り組んでおり、急速に低炭素化が進むと思われたが、エネルギー安全保障意識の高まりから石炭への揺り戻しが起きている。エネルギー安全保障に配慮した脱炭素への移行、自立自強、製造業大国化を支えるエネルギー産業の確立を目指しているが30年の排出ピークアウト目標年が近付く頃に帳尻合わせのために中央と地方政府の方針に齟齬が生じ、地方政府がキャンペーン型の排出削減策を強行し、21年のようなエネルギー需給の混乱が生じると世界のエネルギーや経済にも影響が及ぶ可能性があり懸念している。
国有石油企業は石油・天然ガス探鉱開発について国内シフトを強めており、海外進出は安全・慎重な取り組み姿勢が目立つ。
政府は2025年までの石油・ガス産業の事業活動に伴う低炭素化・排出削減(Scope1・2)に関するアクションプランを示しており、国有石油企業3社は保有資産とそれぞれの強み(CCS、EV、水素、洋上風力、バイオ燃料など)を活用した「新エネルギー事業」を展開している。
国有石油企業は忠実な政策遂行者としてエネルギー安全保障と低炭素化の両立に腐心している。
主な参考資料
リチウムの需給動向と最近のトピックス(2023年4月JOGMEC金属資源セミナー)(外部リンク)
ニッケルの需給動向(インドネシアの生産動向)(2023年4月JOGMEC金属資源セミナー)(外部リンク)
エネルギートランジションへの動きが活発化する米国 ―インフレ削減法はその動きを加速するか―(2022年10月JOGMEC海外石油天然ガス動向ブリーフィング)
中国CATL、フォードのバッテリー新工場に技術提供 規制回避し米国進出へ(36KR Japan、2023年3月3日)(外部リンク)
再生可能エネルギー世界一への道-それは尻ぬぐいから始まった(「東亜」2023年2月、東京大学社会科学研究所丸川教授)
中国「電池交換式EV」ビジネスモデル模索の背景(東洋経済オンライン2021/3/25)(外部リンク)
「最前線の中国 EV 市場に学ぶ、電池交換モデルの現状と近未来(後半)Part1」(中国日本商会第12回SPEEDA China中国経済通信2022年8月11日)(外部リンク)
宁夏在全球首次实现现代煤化工和大型油气田开采之间的绿色减碳合作 300万吨/年CCUS示范项目全面开工建设(外部リンク)(中国日報2023年5月19日)
以上
(この報告は2023年7月18日時点のものです)