ページ番号1009844 更新日 令和5年7月27日

原油増産に邁進する新たな産油国ガイアナ

レポート属性
レポートID 1009844
作成日 2023-07-27 00:00:00 +0900
更新日 2023-07-27 12:25:30 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 12
抽出データ
地域1 中南米
国1 ガイアナ
地域2
国2 スリナム
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,ガイアナ,スリナム
2023/07/27 舩木 弥和子
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概要

  1. ガイアナ沖合のStabroek鉱区では、2015年にExxonMobilがLiza油田を発見して以降、30以上の油田が発見され、2022年4月には、同鉱区の可採埋蔵量が110億バレルを上回ることが明らかにされた。同鉱区では、現在、Liza油田開発フェーズ1、フェーズ2が生産中で、原油生産量は生産能力、日量34万バレルを上回っている。続いて、Payara油田(生産能力日量22万バレル)が2023年に、Yellowtail油田(同日量25万バレル)が2025年に、Uaru/Snoek/Mako油田(同日量25万バレル)が2026年に生産を開始する計画だ。その後も、Whiptail/Pinktail/Tilapia油田が2027年末から2028年初頭に生産を開始する予定となっており、Stabroek鉱区の原油生産量は、2027年から2030年には日量120万バレルに達すると見られている。
  2. ガイアナには製油所がなく、Stabroek鉱区で生産された原油は欧州、中国、米国等に輸出されている。2021年は日量100,645バレル、2022年は日量265,963バレルの原油を輸出した。
  3. Lizaフェーズ1、2で生産される随伴ガスをパイプラインで陸上のガス処理施設へ送り、発電や化学製品の生産に利用するプロジェクトの準備が進められている。Jagdeo副大統領は、スリナムと共同でガス開発を行う可能性について言及した。
  4. Stabroek鉱区以外では、Corentyne鉱区でCGX Energyが2坑目のWei-1号井でも原油を確認したが、Kanuku鉱区でRepsolが掘削した2坑目の探鉱井はドライであった。
  5. ガイアナは2022年12月に沖合14鉱区(浅海11鉱区、深海3鉱区)を対象としたライセンスラウンドを開始した。ガイアナはライセンスラウンドに合わせて、生産物分与契約(PSA)の条件の変更とそれを含む石油法の改正を行っている。Stabroek以外の鉱区について、契約条件は石油会社側に厳しいものとなる見通しだ。
  6. 石油輸出国機構(OPEC)がガイアナにOPECへの加盟を打診したとの報道があったが、これに対して、OPEC側はガイアナをOPEC加盟国として招待していないとの声明を発表した。OPECがガイアナに加盟を促したか否かは明らかではないが、この情報の意味するところは、ガイアナが誰もが注目する産油国に急成長してきたということだろう。ガイアナ(Stabroek鉱区)の開発、生産見通しに関しては、盤石との見方が多いが、ライセンスラウンドの入札状況や石油法案の行方を含め、今後の状況に注目していきたい。

 

1. 進展を続けるStabroek鉱区での探鉱・開発

ガイアナの沖合約200キロメートルの海域に広がるStabroek鉱区(総面積26,820平方キロメートル)では、ExxonMobil(権益保有比率45%)、Hess(同30%)およびCNOOC(同25%)により組成されるコンソーシアムが2015年にLiza油田を発見して以降、30以上の油田が発見された。2022年4月には、同鉱区の可採埋蔵量が110億バレルを上回ることが明らかにされた[1]

2022年後半には、Banjo-1号井で商業規模の炭化水素を発見できず、2023年に入ってからは、Tarpon-1号井の掘削が2022年6月に続き2度目の中断に追い込まれるという事例はあったものの、同鉱区での探鉱、油田発見は着実に続いている。

2022年7月には、水深1,421メートルの海域でドリルシップStena Carronを用い掘削されたSeabob-1号井で、40メートルの高品質の砂岩の炭化水素層を確認、水深1,756メートルの海域にてドリルシップStena DrillMAXを用い掘削されたKiru-Kiru-1号井にて、30メートルに及ぶ高品質の砂岩の炭化水素層に遭遇したとの発表があった。

さらに、2022年10月には、ドリルシップStena Carronを用いて水深1,407メートルの海域で掘削したSailfin-1号井で95メートルの砂岩の炭化水素層を確認、水深1,085メートルの海域で掘削したYarrow-1号井で23メートルの砂岩の炭化水素層を確認したとの発表があった。

2023年1月には、2022年1月に発見されたFangtooth井の南東13キロメートルに位置する水深約1,645メートルの海域でFangtooth SE-1号井を掘削し、61メートルの砂岩の炭化水素層を確認したことが明らかにされた。

そして、同年4月には、水深1,768メートルの海域で掘削したLancetfish-1号井で28メートルの砂岩の炭化水素層を確認したことが報告された。

図1 Stabroek鉱区での油田発見状況
図1 Stabroek鉱区での油田発見状況
各種資料を基にJOGMEC作成
表1 Stabroek鉱区での油田発見状況
  発表時期 油田 水深(m) 掘削長(m) 結果
1 2015/5 Liza 1,743 5,433 90mの砂岩の油層を確認
2 2017/1 Payara 2,030 5,512 29m以上の油層を確認
3 2017/1 Liza Deep N.A. 5,700 Liza油田直下の油層を確認
4 2017/3 Snoek 1,563 5,175 25mの油層を確認
5 2017/10 Turbot 1,802 5,622 23mの砂岩の油層を確認
6 2018/1 Ranger 2,735 6,450 70mの油層を確認。
7 2018/2 Pacora 2,067 5,597 20mの砂岩の油層を確認
8 2018/6 Longtail 1,940 5,504 78mの砂岩の油層を確認
9 2018/8 Hammerhead 1,150 4,225 60mの砂岩の油層を確認
10 2018/12 Pluma 1,018 5,013 37mの砂岩の炭化水素層を確認
11 2019/2 Tilapia 1,783 5,726 93mの砂岩の油層を確認
12 2019/2 Haimara 1,399 5,575 63mの砂岩のガス・コンデンセート層を確認
13 2019/4 Yellowtail 1,843 5,622 89mの砂岩の油層を確認
14 2019/9 Tripletail 2,003 N.A. 33mの砂岩の油層を確認
15 2019/12 Mako 1,620 N.A. 50mの砂岩の油層を確認
16 2020/1 Uaru 1,933 N.A. 29mの砂岩の油層を確認
17 2020/7 Yellowtail-2 N.A. N.A. 21mの砂岩の油層を確認
18 2020/9 Redtail 1,878 N.A. 70mの砂岩の油層を確認
19 2021/7 Whiptail 1,795 N.A. 75mの砂岩の油層を確認
20 2021/9 Pinktail 1,810 N.A. 67mの砂岩の炭化水素層を確認
21 2021/10 Cataback 1,807 N.A. 74mの砂岩の炭化水素層を確認
22 2022/1 Fangtooth 1,838 N.A. 50mの砂岩の油層を確認
23 2022/1 Lau Lau 1,461 N.A. 96mの砂岩の炭化水素層を確認
24 2022/4 Barreleye-1 1,170 N.A. 70mの砂岩の炭化水素層を確認
25 2022/4 Patwa-1 1,925 N.A. 33mの砂岩の炭化水素層を確認
26 2022/4 Lukanani-1 1,240 N.A. 35mの砂岩の炭化水素層を確認
27 2022/7 Seabob-1 1,421 N.A. 40mの砂岩の炭化水素層を確認
28 2022/7 Kiru-Kiru-1 1,756 N.A. 30mの砂岩の炭化水素層を確認
29 2022/10 Sailfin-1 1,407 N.A. 95mの砂岩の炭化水素層を確認
30 2022/10 Yarrow-1 1,085 N.A. 23mの砂岩の炭化水素層を確認
31 2023/1 Fangtooth SE-1 1,645 N.A. 61mの砂岩の炭化水素層を確認
32 2023/4 Lancetfish-1 1,768 N.A. 28mの砂岩の炭化水素層を確認

https://corporate.exxonmobil.com/locations/guyana/guyana-project-overview#DiscoveriesintheStabroekBlock他を基に作成

Stabroek鉱区での探鉱は、今後も少なくとも5年程度は続けられる見通しだ。

ExxonMobilとStabroek鉱区のパートナーは、ガイアナ環境保護庁(EPA)に対して、同鉱区で試掘井と評価井を合わせて35坑を掘削することについて申請を行っていたが、2023年7月にこれが認められた。掘削は2023年第3四半期に開始される予定で、2028年まで続く可能性があるという。ExxonMobilは、35坑の掘削キャンペーンで掘削する坑井、全ての場所をまだ特定していない。ただ、同社によると、以前の探鉱地点の近くに数本の評価井を掘削する計画はあるが、新規坑井の大半は探鉱目的で掘削されるため、その多くが過去に発見された油田に近接することはないとしている。

ガイアナはもともと、原油、天然ガスともに生産を行っていなかったが、2019年12月にLiza油田開発フェーズ1が、2022年2月に同油田開発フェーズ2が生産を開始し、一躍、産油国の仲間入りをした。

Lizaフェーズ1の浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備(Floating Production Storage and Offloading System:FPSO)Liza Destinyは、沖合約190キロメートル、水深1,500~1,900メートルの海上に係留されており、生産井8坑、水圧入井6坑、ガス圧入井3坑の合計17坑が繋ぎこまれている。原油生産能力は日量12万バレル、原油貯蔵能力は160万バレルとなっている。

一方、Lizaフェーズ2のFPSO Liza Destinyは、水深1,600メートルの海上に係留され、生産井15坑、水圧入井9坑、ガス圧入井6坑の合計30坑が繋ぎこまれており、原油生産能力が日量22万バレル、原油貯蔵能力が200万バレルとなっている。

当初、原油生産量が伸び悩んだ時期もあったが、現在、Lizaフェーズ1、2はFPSOの生産能力の合計である日量34万バレルを上回る生産を行っている。2023年2月には、ExxonMobilが、Liza1、2のFPSOの生産能力を増強し、ボトルネックを解消することで、原油生産量を間もなく日量40万バレルに引き上げる計画であることを明らかにした。この時点で2基のFPSOは日量38万バレルの生産を行っており、生産量をさらに日量2万バレル増加させるための措置をとっているとした。

3隻目のFPSO Prosperityは2023年4月にシンガポールのKeppel造船所からガイアナに到着した。原油生産能力が日量22万バレル、ガス生産能力が日量4億立方フィート、原油貯蔵能力が200万バレルとなっている。同鉱区内3番目の開発となるPayara油田で当初予定よりも早く2023年後半に生産を開始する予定とされている。

同鉱区内4番目の開発となるYellowtail油田は、2022年4月に最終投資決定(FID)を行った。2025年に生産開始予定とされており、生産能力が日量25万バレルのFPSO One Guyanaの建造が進められている。

ExxonMobilはStabroek鉱区5番目となるUaru油田およびSnoek油田、Mako油田の開発について、2023年1月に環境影響評価書(EIA)を環境保護庁(EPA)に提出した。ExxonMobilは126億ドルを投じて、開発井38〜63坑を掘削、FPSOと海底パイプライン、ライザー、フローライン等を設置し、2026年から2027年に生産開始予定としていた。

そして、同年4月に、ガイアナ政府からUaru油田開発について承認を受け、最終投資決定を行った。生産井、圧入井を最大で40坑掘削し、原油生産能力25万バレル、ガス生産能力日量5.4億立方フィート、原油貯蔵能力200万バレルで、水深約1,690メートルの海上に係留されるFPSO Errea Wittuを用いて、2026年に生産を開始する。

ExxonMobilは2023年1月に、Stabroek鉱区の6番目のプロジェクト、Whiptail油田、Pinktail油田、Tilapia油田の開発の概要をEPAに提出した。水深1,600〜2,000メートルの海域で生産井と圧入井を合計で40〜65坑掘削し、原油を日量22万〜27万バレル、天然ガスを日量4億〜6億立方フィート生産することができ、原油貯蔵能力が200万バレルのFPSOの建造、設置等が想定されている。生産開始は2027年末から2028年初頭を計画している。ExxonMobilはWhiptail油田群の開発についてEPAにEIAを提出することを求められている。

このような開発状況、生産計画から、Stabroek鉱区の原油生産量については、2027年から2030年には日量120万バレルの原油を生産することができるとの見方がなされている。

Stabroek鉱区の7番目の開発については、2023年2月ごろにはExxonMobilからFangtooth油田の名前がその候補として挙げられていたが、同年6月にHessが、パートナー3社は2023年には、同鉱区内で発見された約30の油田のうち、いずれを7番目の開発対象とするかを決定する作業を進める計画であると発表した。

表2 Stabroek鉱区の開発計画
油田 FID 生産開始 FPSO 生産能力 開発コスト 損益分岐点
Lizaフェーズ1 2017年6月 2019年12月 Liza Destiny 12万b/d 35億ドル $35/b
Lizaフェーズ2 2019年5月 2022年2月 Liza Unity 22万b/d 60億ドル $25/b
Payara 2020年9月 2023年末 Prosperity 22万b/d 90億ドル $32/b
Yellowtail 2022年4月 2025年末 One Guyana 25万b/d 100億ドル $29/b
Uaru/Snoek/Mako 2023年4月 2026年 Errea Wittu 25万b/d 126億ドル
Whiptail/Pinktail/Tilapia 2027~28年 22~27万b/d

各種資料を基にJOGMEC作成

2016年にExxonMobilとガイアナが締結したStabroek鉱区の生産物分与契約では、探鉱期間は2026年までで、ExxonMobilは2023年10月までに同鉱区の20%を返還することになっていた。ExxonMobilは、新型コロナウイルス感染拡大により探鉱計画が遅れているという理由で、ガイアナ政府にこれらの期限を1年延期するよう要請していた。2023年6月、Bharrat Jagdeo副大統領は、この要請が認められたことを明らかにした。これにより、ExxonMobilとそのパートナーは、探鉱期間終了を2027年まで、鉱区放棄を2024年10月まで延期することが可能になった。ExxonMobilと政府は、鉱区返還について協議を行っているという。

 

2. 生産された原油を全て輸出、2022年は原油輸出量の49%が欧州向け

ガイアナ国内には製油所がなく、そのためStabroek鉱区で生産された原油は全て輸出されている。

ガイアナの原油輸出量は、2021年の日量100,645バレルから2022年には日量265,963バレルに164%増加した。2023年に入ってからは、原油輸出量は日量34万バレル、あるいは、それ以上まで増加しているという。

2022年は、制裁を受け、供給量が減少したロシア産原油の代替として、ガイアナ産原油の欧州向けの供給量が増加し、ガイアナの原油輸出量の49%、日量13万バレル強が欧州に向かった。Kplerによると、オランダ、イタリア、英国、スペイン、ドイツが、ガイアナ産原油の欧州の買い手上位5カ国であった。2023年には、ガイアナ産原油、日量20万バレル以上が欧州に送られているという。

ガイアナ産原油は、欧州以外では、中国や米国、ブラジル等に輸出されている。米国に輸出されたガイアナ産原油の多くは、Trans-Panamaパイプライン(輸送能力、日量86万バレル)で太平洋岸のBocas del Toroのターミナルまで運ばれ、そこから米国西海岸の製油所に供給されている。また、ブラジルには2022年に600万バレル(日量16,400バレル)以上が供給された。

なお、2023年に入ると、ガイアナ政府とインドの精製業者がガイアナ産原油のインドへの供給について協議を行っているとの報道が見られるようになった。インドは長期契約を締結し、今後、急激に原油生産量が増加する見通しのガイアナ産原油を調達することについて興味を示しているという。

ガイアナは現在、LizaとLiza Unity Goldの2油種を市場に供給している。Liza原油はAPI比重が32度、硫黄分が0.58%で、全酸価が低いため、製油所では配管やプロセスユニットを汚すことなく運転することが可能となっている。Liza Unity Gold原油は、API比重が35.3度、硫黄分が0.39%と、北海のBrent原油と類似した性状の軽質低硫黄原油となっている。

なお、政府は、Berbice川河口、Crab島近郊にモジュール式製油所(精製能力:日量3万バレル)を建設することを計画している。

Bharrat Jagdeo副大統領は2023年6月末に、この製油所の設計、資金調達、建設についての提案依頼書に11の提案を受け、評価を行った結果、そのうち4社がこのプロジェクトの最終選考に残ったことを明らかにした。Jagdeo副大統領は、最終選考に残った4社の特定や、製油所建設に関する提案についての情報は明らかにしなかったが、今後、これら4社に順位をつけ、最も高い順位の企業と協議を開始するとした。

この製油所は民間所有となるが、政府は、石油製品の輸入依存度を低減することで同国のエネルギー安全保障を強化するために同プロジェクトへの支援を行うこととしている。具体的には、建設用地として約30エーカー(12ヘクタール)を提供するほか、10年間の税制優遇措置、政府取り分原油から市場価格での原油供給保証、希望があれば石油製品の販売で国内市場にアクセスする機会等の優遇措置を提供するという。

政府は、当初、2023年前半までにこの製油所に着工し、2年以内に完成させることを想定していた。

 

3. Stabroek鉱区のガス開発が前進

ExxonMobilとパートナーは、これまで、Stabroek鉱区の原油開発に注力してきた。しかし、Stabroek鉱区の天然ガス資源は豊富である。ExxonMobilによると、同鉱区の天然ガス可採埋蔵量は、同鉱区の炭化水素可採埋蔵量の約25%に相当する17兆立方フィート(4,810億立方メートル)であるという。このような点から、同鉱区のガス開発に対する関心が高まり、ExxonMobilはガイアナ政府と協力して、その一部を利用できるように動き始めた。

具体的には、Lizaフェーズ1、2で生産される随伴ガスを海底に設置するパイプラインで、陸上Demerara川西岸のWalesのガス処理施設へ送り、発電(300メガワット)や化学製品の生産に利用するというGTE(gas-to-energy)プロジェクトの準備を進めている。ExxonMobilがフレアさせている随伴ガスの量を削減し、これをガイアナ経済の発展に役立てるというコンセプトで、投資額は12億ドルとされ、大規模なガス開発というよりは地元志向のプロジェクトとなっている。

2023年7月には、政府がKalpataru Projects International Limited(KPIL)と、コンバインドサイクル発電所稼働に必要な送電線と変電所の設置のためにエンジニアリング、調達、建設(EPC)サービス契約を締結した。契約金額は約1億5,900万ドルで、2024年の完成を予定しているという。

一方で、2023年5月下旬に、Jagdeo副大統領は、新しいガス戦略では、政府は、隣国と協力してPlumaのような油・ガス田を開発する可能性を検討すると述べた。「ガイアナにはPlumaのようにガスが多く、石油が少ない油・ガス田があり、国境を越えたスリナムでもガス田が発見されている。これらを共同開発する可能性を検討することも調査の一部だ。我々は、これらの資源を最大限に活用し、国にとっての価値を最大化しようとしている。」と語った。

これまでのところ、ガイアナとスリナムが共同でガスを開発するという具体的な計画はなく、また、スリナムやスリナム沖合で探鉱中の石油会社がガスの共同開発についてどのように考えているのかは明らかではない。

ガイアナでは、現在審議中の石油活動法草案で、炭化水素貯留層がガイアナ沖合の境界を越えて他国の領域に及ぶ場合、ガイアナ政府はその国の政府と協議し、国境を越えてユニタイゼーションを行うことについて協議すべきであるとされている。また、意思決定を促進するために必要な場合、両国間で関連情報を共有することも規定されている。しかし、スリナムでは、1991年に施行された石油法のもとで操業が行われており、国境を越えたユニタイゼーションに関する規定がなく、両国が共同でガス開発を行うのであれば、新たに法的基盤を築いていくことが必要になろう。

 

4. Stabroek鉱区以外での探鉱状況

(1) Corentyne鉱区 ―2坑目のWei-1号井でも原油を確認―

CGX EnergyとFrontera Energyは、Stabroek鉱区の南に位置するCorentyne鉱区の水深355メートルの海域で2021年8月より試掘井Kawa-1号井の掘削を開始、2022年1月末に掘削長6,578メートルまで掘削し、69メートルの炭化水素層を確認したことを明らかにした。両社は、このKawa-1号井での良好な結果を踏まえ、Kawa-1号井の北西14キロメートル、水深1,912メートルの海域で同鉱区2坑目の試掘井となるWei-1号井を掘削することを計画した。

しかし、リグの到着が遅れのため、Wei-1号井の掘削は延期を余儀なくされた。両社は、2022年11月27日までに2本目の坑井を掘削しなければ、鉱区の一部を返還することになっていたが、政府を説得し、この期限を2023年1月31日まで延長することを認められた。

そして、2023年1月末に、Wei-1号の掘削を開始、同年5月3日に掘削長5,834メートルまで掘削し、API比重24.9度の原油を確認したと発表した。商業規模の埋蔵を確認できたかについてはコメントせず、6,250メートルまで掘削を続け、多少の遅れはあるものの、掘削開始後4〜5ヶ月という当初予定されていた期間内に坑井を完成させる予定であるとした。

CGX EnergyとFrontera Energyは、同年6月13日に、Corentyne鉱区で進めていたバイパス探鉱・評価井Wei-1BP1号井の掘削が、Wei-1号井よりも深く、掘削長6,233メートルまで到達したと発表した。Wei-1号井では21.61メートルの油層を確認していたが、Wei-1BP1号井から収集されたデータによりさらに複数の炭化水素層が確認されたという。

CGX Energyは、Corentyne鉱区の北部とそれに隣接するStabroek鉱区の南側には多くのガスが賦存しているとしており、これらの鉱区で生産されるガスをパイプラインでスリナムの液化プラントへ輸送し、輸出することができるのではないかとの見方もある。

Corentyne鉱区の権益保有比率は、カナダのCGX Energyが32%、同社の親会社であるFrontera Energyが残りの68%となっている。

なお、CGX EnergyとFrontera Energyは2022年6月、Corentyne鉱区の探鉱のみに集中するため、Demerara鉱区を放棄するとした。CGX EnergyとFrontera Energyは、2023年2月までにDemerara鉱区で試掘井2坑を掘削する義務が残っており、Jagdeo副大統領は、CGX Energyが掘削を行わない場合、Demerara鉱区の契約を取り消す用意があると示唆していた。CGX EnergyとFrontera EnergyはKawa-1号井で原油を確認したことから、Corentyne鉱区に探鉱努力を集中するために、2022年にはDemerara鉱区で坑井を掘削しないと主張していた。ガイアナ政府との議論を経て、Demerara鉱区を放棄することで政府と合意に至った。

図2 Corentyne鉱区
図2 Corentyne鉱区
出所:chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://cgxenergy.com/wp-content/uploads/2022/08/Corentyne-Presentation-2022-28Aug2022.pdf

(2) Kanuku鉱区 ―2坑目の探鉱井はドライ―

Repsolは2020年1月初めに、Stabroek鉱区の南に位置するKanuku鉱区(面積4,154平方キロメートル)で探鉱井Carapa-1号井を掘削(掘削長3,290メートル)し、ネットペイ4メートルの油層を確認した。そして、2022年には、ジャッキアップリグNoble Regina Allenを用いてCarapa-1号井の北北東約16キロメートル、水深71メートルの海域で探鉱井Beebei-Potaro-1号井を掘削長4,325メートルまで掘削した。しかし、Beebei-Potaro 1号井はドライであった。

同鉱区の権益保有比率はオペレーターのRepsolが37.5%、Tullow Oilが37.5%、TOQAP(Total 60%、Qatar Petroleum 40%)が25%となっている。

 

(3) Kaieteur鉱区およびCanje鉱区 ―掘削キャンペーンは延期か―

Stabroek鉱区の北に隣接するKaieteur鉱区および北東に隣接するCanje鉱区は、海洋船舶サービス企業Bourbonが石油換算で50億バレルの油・ガスが確認される可能性があるとする等、注目を集めている鉱区だ。

両鉱区のオペレーターを務めるExxonMobilは、2020年にKaieteur鉱区で試掘井1坑、2020年から2021年にかけてCanje鉱区で試掘井3坑を掘削した。しかし、いずれの坑井でも商業規模の油・ガスを確認できなかった。

試掘結果が期待外れであったにもかかわらず、その後、ExxonMobilは、2022年よりKaieteur鉱区とCanje鉱区でそれぞれ12坑の探鉱井を掘削する計画を打ち立てていた。ところが、2022年8月、EPAは、これまでの判断を覆し、ExxonMobilに対して、CanjeおよびKaieteur鉱区で掘削キャンペーンを進める前に環境影響評価を実施するよう求めることとした。その後、両鉱区での環境影響評価の実施状況や掘削開始の情報はなく、掘削キャンペーンの実施は遅れていると考えられる。

権益保有比率は、Kaieteur鉱区がExxonMobil 35%、Cataleya Energy 20%、Ratio Guyana 25%、Hess 20%、Canje鉱区がExxonMobil 35%、TotalEnergies 35%、JHI 17.5%、Mid-Atlantic Oil & Gas 12.5%となっている。

図3 ガイアナ、スリナム沖合鉱区図
図3 ガイアナ、スリナム沖合鉱区図
各種資料を基にJOGMEC作成

5. 沖合鉱区入札を実施、生産物分与契約条件を変更し石油法を改正

ガイアナは2022年12月9日に沖合の14鉱区を対象としたライセンスラウンドを開始した。

14鉱区のうち、11鉱区は、Oreo地区と呼ばれる浅海に位置し、CGX EnergyとFrontera Energyが放棄したDemerara鉱区を分割した鉱区(S1~S11)になる。残りの3鉱区(D1~D3)は、北東部のスリナムとの国境に接した深海C鉱区を分割した鉱区である。鉱区面積はそれぞれ1,000〜3,000平方キロメートルとなっている。入札受け付けは2023年4月14日までとされた。

ガイアナはこのライセンスラウンドに合わせ、生産物分与契約(PSA)の条件を変更するとしている。ライセンスラウンド発表時には、PSAの最終条件はまだ議論中であることを強調しながらも、政府は、ロイヤリティの2%から10%への引き上げ、法人税10%の導入、コスト回収上限の75%から65%への引き下げ、政府と鉱区権益保有者の利益配分比率を現行の50:50に維持することを決定したと発表した。これらの条件は、今回のライセンスラウンドの対象鉱区だけでなく、現在探鉱が行われているStabroek鉱区以外の鉱区で油田が発見され生産に移行した場合にも適用される。

さらに、その後の報道では、新しい契約には、鉱区の境界を超えて商業規模の油田が発見された場合、60日以内に天然資源省に通知するとともに、天然資源省にユニタイゼーションの計画を提出するか、当該鉱区を放棄することに同意しなければならないとするユニタイゼーションの条項が含まれるという。

また、新たな契約条件の発表により、政府が、少なくとも当面の間は天然ガスではなく石油を探鉱・開発の中心に据える意向であることも明らかになった。契約案では、鉱区内で原油を発見した場合、原油の開発に集中することが義務付けられている。ガスについては、ガス再圧入や発電など石油生産を強化する目的で利用されるべきだとし、完全に利用されるために政府に計画を提出することを求めている。また、ガスに余剰が生じた場合には、国が適切と判断した場合には天然資源省にガスを移送して処分するか、発見されたガスを政府に引き渡すか、石油と同等の条件でガスを販売できるような提案を行うかに同意しなくてはならない。

政府はまた、各鉱区のオペレーターに対して作業計画のコミットメントに関する条項を強化することを明らかにした。

2023年3月にはJagdeo副大統領が、ガイアナの石油・ガス産業への関心を持続させるために、早ければ2024年にも次の沖合ライセンスラウンドを実施する可能性があることを示唆した。次回のライセンスラウンドの対象鉱区は明らかにされなかったが、Chevron、Shell、Petrobrasを含む少なくとも10社の大手石油会社が2023年に実施されるライセンスラウンドへの参加に関心を示しており、ガイアナ沖合には、もう1度、入札を実施できるほど関心が集まっているとした。政府はインド企業にもライセンスラウンドへの参加を促しており、ONGC Videshが単独またはIOCと組んで入札に参加することに関心を示しているとのことであった。

なお、ExxonMobilは、2023年1月時点では、入札を検討するが、PSAの条件が確定する前の段階で結論を出すのは時期尚早だとしていた。6月になっても、ExxonMobilは、ライセンスラウンドに参加するか否かを明らかにしていなかったが、Stabroek鉱区のパートナーであるHessが、ガイアナにおけるExxonMobilの最優先事項はStabroek鉱区内での探鉱であると明らかにしたとの報道があった。

2023年4月中旬になると、天然資源省は、業界からのフィードバックを受けているところであり、また、石油・ガス規制の枠組みを修正していることから、ライセンスラウンドの入札提出期限を同年7月15日まで延期すると発表した。

さらに、2023年6月20日には、天然資源省が、1986年に制定された石油(探鉱・生産)法に代わる石油活動法の草案を公開し、7月3日までの2週間、公開協議を実施するとした。

 

おわりに

2023年6月26日、Wall Street Journalは、石油輸出国機構(Organization of the Petroleum Exporting Countries:OPEC)がガイアナにOPECへの加盟を打診したが、Jagdeo副大統領が、石油需要の減少が予想される中、ガイアナは石油生産と利益を最大化したいとコメントし、現時点では加盟を考えていないと、参加を見送ったと報じた。Jagdeo副大統領は、「今、私たちが考えているのは、将来の見通しが立たない中で、できるだけ早くこれらの資源を掘り出すことだ」と語ったという。

その後、OPECからは、OPECは、ガイアナが国際石油市場において重要な可能性を秘めた新興プレーヤーであることを認識しているが、OPECはガイアナをOPEC加盟国として招待していないとの声明が発表された。

OPECがガイアナに加盟を促したか否かは明らかではないが、この情報の意味するところは、ガイアナが誰もが注目する産油国に急成長してきたということだろう。また、ガイアナは今後も引き続き、原油生産量引き上げに注力していくことになろう。現在のStabroek鉱区の開発、生産見通しに関しては、盤石との見方が多いが、ライセンスラウンドの入札状況や石油活動法の草案については、その後報道がなく、今後の探鉱にどのような影響が生じるのか、状況を注視していきたい。

 

 

以上

(この報告は2023年7月25日時点のものです)

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