ページ番号1009863 更新日 令和5年10月18日
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概要
- かつて米国は、石油消費の6割を国外からの輸入に依存していたが、その後のシェールの増産によって、2020年に石油の純輸出国に転じ、2022年には日量130万バレルの純輸出となった。最新データでは、2023年5月現在、原油及び石油製品輸入量は日量855万バレル、同輸出量は日量965万バレル、LNGを含む天然ガス輸入量は216bcf(0.59bcf/d)、また同輸出量は634bcf(20bcf/d)、世界最大の石油・天然ガスの貿易量を誇る。
- 2015年、米国はそれまで40年間続いた国産原油の禁輸措置を解禁、またLNGに関しても2016年に48州の本土から初めて輸出され、その後も石油およびLNGともに輸出が増大している。2022年の原油の輸出先は韓国、オランダ、英国がトップ3、LNGのトップ3は仏、英国、オランダといずれも欧州諸国が上位を占めた。
- その特徴は、石油に関してはかつて輸入に依存していたメキシコ湾岸の地域において、開発が近年相次いだカナダのオイルサンド由来の原油が北部から流入し、加えて、域内のシェールオイルが増産(Permian、Eagle Ford)したことで輸入が減少し、余剰原油がアジアや欧州に輸出されている。サウジアラビアからの原油輸入量も一時期の日量150万バレルから3分の1に減少した。
- LNG輸出に関しては、現在のLNG生産能力8,700万トン/年のうち、東海岸に位置する中規模のElba IslandとCove Pointの2基地(能力計780万トン)を除き、生産能力7,900万トン/年がメキシコ湾岸に位置する。現在建設中の輸出基地(能力計8700万トン/年)もすべてメキシコ湾岸に集中し輸出増加が見込まれる。
1. はじめに
かつて原油日量1,000万バレル以上を輸入していた米国は、2000年代の半ば以降、シェールガスやシェールオイルが出現し、国内の生産量が急増した(図1)。2015年末に国産原油の輸出が解禁され、またその翌年、メキシコ湾岸からLNGも生産が開始[1]、現在、石油また天然ガスともに世界一の輸出入貿易を誇る。
本稿では、米国発表の統計データを利用して米国の石油・ガスの輸出入状況を概観する。
2. 輸出国かつ輸入国
米国は石油および天然ガスの輸出国に変貌したという印象もあるが、実際には、石油及び天然ガスともに隣国(カナダ、メキシコ)との陸上の貿易量も多く、また海上輸送では、中南米、アジアや欧州との貿易も多い。2022年現在のStatistical Review統計(2023、旧BP統計)によれば、原油・石油製品合計で輸入量日量約800万バレル、同輸出量日量約900万バレル、貿易総量は日量約1,700万バレルに達する(図2)。
天然ガスに関しても、上記統計によれば、パイプラインで2,900bcfを輸入する一方でパイプライン及びLNGであわせて6,600bcfを輸出、ロシアや中国を上回る天然ガスの輸出入量である。(図3)
米国は、カナダ、メキシコを含めた北米大陸内の石油・天然ガスの輸送インフラ網が広範囲に整備されているものの、例えば、生産の中心地であるメキシコ湾岸からの幹線ネットワークは限られ、東海岸や西海岸の需要地の一部では経済上、海上輸入に依然依存している。
3. 石油・天然ガスの基礎データ
石油の消費量は、おおむね過去20年間において大きな変動はないものの、生産量がシェール革命によって2005年の日量690万バレルから2022年は2.5倍の日量1,780万バレルに増加。天然ガスの消費量は、安価のため石炭からの代替が進み、2022年は2005年比で1.5倍に増加し、あわせて生産量も2005年比で8割増の2022年35,800bcf(98bcf/d)に伸びている(表1、表2)。
米国エネルギー省の統計によれば、原油及び石油製品を含む石油の貿易量は、2005年時点の輸入量は日量1,370万バレル、輸出量は日量120万バレルと日量1,000万バレル超の純輸入国であったが、2010年以降のシェールオイル生産拡大により、2020年には輸出量が輸入量を上回り、純輸出国に転じた(図4)。
天然ガスは、2005年時点で主にカナダ・メキシコからのパイプライン経由で年間約4,300bcfの天然ガスが輸入されていたが、LNG生産の開始とともに輸出量が増大し、2017年に輸出量が輸入量を上回り純輸出に転じた。2022年現在、隣国を中心に主にパイプライン経由で3,000bcfの天然ガスを輸入する傍ら、パイプライン及びLNGを通じて約7,000bcfを輸出する(表2)。
4. 2010年代、政策的にも大転換(原油、LNG)
米国は原油に関して2015年までは国産原油の輸出は禁止されていた。それまでは、アラスカ原油等の経済的に供給できる製油所がない場合やカナダ向けのごく一部の原油を除き、国内供給を優先する政策が堅持されており、原則、メキシコ湾や陸上で生産された国産原油の輸出は禁止されていた[2]。2010年代にシェールが増大していく中で、共和党や産油州を通じて余剰分の原油の輸出要請が高まり、民主党のオバマ政権下でねじれ議会となっていた多数派の共和党との交渉の中で、40年間続いてきた国内供給義務が撤廃され、2015年末、国産原油の輸出が解禁された。
一方、天然ガスに関しては、シェールガスの増産を受けて、LNG開発第1号のSabine Pass LNG基地の事業者Cheniere社がエネルギー省にLNGを輸出する権利の取得を申請、根拠となる「天然ガス法(Natural Gas Act of 1938)」の第3条(a)「公共の利益(public interest)」に合致するのかどうかの議論が1年近く(2010年-2011年)続いたのち、最終的にFTA非締結国(全世界)へのLNG輸出権が認可された。その後のLNG開発ラッシュの突破口となった。
5. メキシコ湾岸からの輸出急増
米国では国内の石油管理については、現在、第2次世界大戦中に設置されたガソリン配給のための地域区分PADD(Petroleum Administration for Defense District (PADD))がそのまま利用されている。国内をPADD1~PADD5の5地域に分けて、首都圏の東海岸をPADD1、五大湖の西側の中西部をPADD2、テキサス州やルイジアナ州のあるメキシコ湾岸をPADD3、ロッキーマウンテン地域をPADD4、西海岸・アラスカ・ハワイをPADD5と定め、PADD別の輸出入及びPADD間の流入・流出が公表されている。
現在、これらの石油統計や天然ガス・LNGデータを集約すると、カナダやメキシコとの大陸内での輸出入を除けば、メキシコ湾岸からの輸出が大幅に増加している。かつて原油輸入に依存してきたメキシコ湾岸地域においてPermianやEagle Fordなどで原油の生産が増加し、さらに近年開発が相次いだオイルサンド由来の原油[3]がカナダから中西部(PADD2)に日量260万バレルが流れ、中西部(PADD2)からメキシコ湾岸地域(PADD3)への原油流入が急増する。10年前ほぼゼロであったその流入量(PADD2→PADD3)は現在日量170万バレルまでに達する。メキシコ湾湾岸域では北米大陸産の原油に置き換えが進み、さらに余剰となった原油が海上から輸出されている(図5)。
したがって、メキシコ湾岸(PADD3)では、石油製品の輸出量が2010年代に急増し、原油輸出の解禁が後押しとなり、2022年には米国全体の88%がメキシコ湾岸から主に輸出(日量840万バレル)されている(図6、図7)。
天然ガスに関しても同様の傾向であり、テキサス州やルイジアナ州で生産された天然ガスが新設されたLNG基地に供給され、LNGとしてアジアや欧州に輸出されている(後述)。
6. 原油の輸出先は韓国、オランダ、英国が上位
原油の輸出先別の上位国(表3)は、2022年の統計では、韓国が日量37万バレルでトップ、次に欧州のオランダ、イギリス、隣国のカナダと続き、さらにアジアのインド、シンガポール、中国、台湾と続く。ロシアのウクライナ侵攻に起因する制裁によりロシア産原油の輸出先が欧州からインドや中国のアジア方面に変化したことから、2021年に比べると米国産は欧州に向かい、アジア向けが減少している。石油製品の輸出先に関しては、隣国のメキシコとカナダの2か国が3割のシェアを占め、3位に日量48万バレルの日本、次に日量40万バレルの中国が続いた。日本向けの輸出はプロパン日量38万バレル、ブタン日量3万バレル、計日量41万バレルのLPGが大半を占める。
7. カナダ原油にシフト、サウジアラビア原油大幅減
次に、輸入原油の供給元の変遷をみると、近年はカナダからの流入増が際立っている(図8)。2005年時点では原油輸入量日量約1,000万バレルのうち、カナダ、メキシコ、サウジアラビア、ベネズエラ、ナイジェリアからそれぞれ日量100万バレル以上の輸入を行っており、輸入相手国は分散されていたが、現在はカナダ産の原油輸入が急増、2022年には同国からの輸入は日量380万バレルまで増加している(表4)。
遠方の中東サウジアラビア(航海日数約1か月)は2005年時点と同順位の第3位であるが数量的には日量150万バレルから3分の1以下の日量46万バレルに減少、イラクも半減し日量24万バレル、また、シェールに原油の性状の面で競合しやすいナイジェリアやアンゴラ(航海日数約20日)からの輸入量は大幅に減少した(図8)。2019年以降、輸入が停止されていたベネズエラ原油は米国制裁の一部緩和[4]で2023年以降、(主にChevronが生産した原油について)僅少の輸入が認められる。
石油製品の輸入元に関してはカナダからの輸入が最大で、次にメキシコである。韓国やサウジアラビアからの石油製品の輸入量が現在増えており、上位に位置する(表5)。2022年実績第3位であったロシアからの石油製品の輸入はすでに米国の制裁により停止されている。
8. LNG輸出量
天然ガスに関しては、前述のように、メキシコ及びカナダとの間でのパイプライン輸入及び輸出が多く、その一方で、近年はLNG生産基地の新設が相次ぎ、生産量が増加している(図9)。
米国エネルギー統計局のデータによれば、公式の生産能力は7基地あわせて約8,700万トン/年である。地域別では東海岸側のCove Point基地とElba Island基地の生産能力計780万トン/年を除き、石油・天然ガス産業の中心地でもあるメキシコ湾岸に残りの7,800万トン/年の能力が集中する。2022年のLNG輸出実績では、東海岸側の2基地からの輸出が353bcf(LNG換算年間741万トン)、メキシコ湾岸からの輸出がその10倍の5基地計3,507bcf(商業生産前のCalcasieu Pass LNG含まず、同換算年間7,365万トン)であった。現在建設中の6事業(生産能力計8,700万トン/年、表6)はすべてメキシコ湾岸域で今後も同地域からの輸出が増える見通し(図10)。輸出先としては、2022年実績では、こちらもロシア産ガスの減少分を補填するためフランス、英国、スペイン、オランダ等の欧州諸国に多くが流れたため、前年の東アジア勢が占めた状況から一転した(表7)。
LNG輸入に関しては、首都圏の需要を賄うために、北東部のEverett受け入れ基地、また不定期で洋上Northeast Gateway受け入れ施設において、それぞれトリニダード・トバゴからの輸入が行われている。
*Calcasieu Pass LNG基地は2022年3月にコミッショニングを開始し、2023年6月現在Train1-12は商業生産中であるがTrain13-18は商業運転をペンディング中。
基地 | 州 | トレイン | 生産能力 (万トン/年) |
生産開始 予定 |
受け入れ 併設 |
建設開始 (FID) |
---|---|---|---|---|---|---|
Golden Pass | テキサス州 | Trains 1-3 | 1,560 | 2024H2 | 有 | 2019年2月 |
Plaquemines(Ph1) | ルイジアナ州 | Trains 1-18 | 990 | 2024Q3 | 2022年5月 | |
Plaquemines(Ph2) | ルイジアナ州 | Trains 19-36 | 990 | 2025 | 2023年3月 | |
Corpus Christi拡張(Stage 3) | テキサス州 | Trains 1-14 | 1,145 | 2025 | 2022年6月 | |
Port Arthur LNG (Ph 1) | テキサス州 | Trains 1-2 | 1,350 | 2027 | 2023年3月 | |
Rio Grande LNG | テキサス州 | Trains 1-5 | 2,700 | 2027 | 2023年7月 | |
合計 | 8,735 |
出所:米国エネルギー省エネルギー統計局(U.S. liquefaction capacity)
その他、New Fortress Energy社によるメキシコ湾の浮遊式LNG(FLNG)が2023年の生産開始を予定。生産能力280万トン/年。https://www.nfelouisianaflng.com/
9. まとめ
かつて米国は、石油消費量の6割を国外からの輸入に依存していたが、その後のシェールの増産によって、2020年に石油純輸出国に転じ、2022年には日量130万バレルの純輸出となった。天然ガスに関しては、北米域内からのパイプライン輸入も多いものの、この10年間でLNG輸出能力を高めた結果、2017年に純輸出に転じた。
米国は、現政権下において世界の脱炭素化に向けた推進役を担いながらも、現時点、圧倒的な石油・天然ガスの消費大国であり、なおかつ世界最大の石油・天然ガスの貿易国である。
今後は、LNG輸出は国際価格次第ではあるものの、米国からの輸出増加は続くと見込まれるが、他方で、原油を含め石油の輸出増加は不透明である。良質なシェール開発対象が減少する中でどこまで国内原油を増産できるのか、また脱炭素政策に伴うエネルギー転換の効果はいつ頃あらわれるのか、中長期的には不透明である。
[1] 石油・天然ガス資源情報 「米国:まもなく米国産LNG輸出が開始する-LNG国際市場の転換点-」、高木、2015年9月、https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/6/6521/1509_out_c_k_shalegas_marcellus.pdf
[2] 石油・天然ガス資源情報 「米国:原油輸出解禁に関する議論の動向」、佐藤、2014年1月、
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/5/5151/1401_out_us_washington_monthly.pdf
石油・天然ガスレビュー 「米国の原油生産増と石油インフラの再整備」、須藤、2017年5月、
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/7/7953/201705_001a_2.pdf
[3] 石油・天然ガス資源情報 「カナダにおける原油パイプライン及びオイルサンド事業の最近の動き」、舩木、2019年12月、https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1007679/1007950.html
[4] 石油・天然ガス資源情報 「米国の制裁一部緩和によるベネズエラの探鉱・開発への影響」、舩木、2023年6月、
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009804.html
以上
(この報告は2023年8月17日時点のものです)