ページ番号1009864 更新日 令和5年8月21日
台湾:総統選挙とLNG拡大路線の行方 ―国民党は石炭全廃と原発回帰を提起、現政権が進める脱原発・LNG拡大路線転換の可能性?LNG拡大の脅威への備えとは―
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概要
- 台湾は2021年4月に2050年のカーボンニュートラルを宣言した。現在エネルギー消費の9割、発電の8割を化石燃料(石炭、石油、ガス)の輸入に依存しているが現政権は2025年までの脱原発と石炭低減、それを太陽光や洋上風力を中心とする再エネとガス火力の増強で補い、安定供給と大気汚染低減ならびに排出削減を図ろうとしており、日本以上に野心的なエネルギー政策を遂行中と言える。
- ガス火力の比率を2025年までに50%に引き上げる計画で2022年から29年までに931万kW増強させる見通しであり、LNG受入基地も稼働中2基地の増強に加え、新設計画を進めている。LNG受入基地や洋上風力の新増設には複数の日本企業が参画。
- 2024年1月の総統選挙に出馬している国民党の侯友宜・新北市長は排出削減と原発回帰は国際的な風潮として2040年の石炭全廃ならびに原子力発電の再稼働や運転延長を表明。政権交代が起きても直ちにエネルギー政策が転換されるかは未知数だが、LNG拡大路線にも影響が生じる可能性がある。
- 2022年8月にペロシ下院議長の訪台後中国が台湾を囲む海域と空域で実弾射撃を伴う大規模な軍事演習を行い地域の緊張が高まった。LNG船の通航は演習地域の迂回で済んだが、当時中国のSNSでは偶発リスクや賠償責任、演習長期化による経済封鎖、途絶リスクが指摘された。
- 台湾経済部はLNG輸入拡大に対する最大の脅威は中国による封鎖や妨害との見方を示した上で、天候や“偶発的なアクシデント”によりLNG輸入に支障が生じた場合の対応策として需給調整と緊急時備蓄の増強を行うとしている。
- 日本と台湾の置かれた状況は異なり、日本向けのLNG船が封鎖により通航不可能となる可能性は極めて低いと思われるが迂回による経済的損失や“偶発的なアクシデント”、あるいは近傍で起きた有事による市場価格の変動はいつ、どこでも起こり得ることであり、調達の多角化、緊急時の需給調整や備蓄を含む備えと、状況の変化に合わせた柔軟な見直しを行っていく必要性があると痛感する。
台湾のエネルギー概況とエネルギー転換 ―2050年カーボンニュートラル、2025年脱原子力発電・再エネとガス増強、石炭低減―
台湾の2022年のエネルギー消費は4.8Exajoules(石油換算約1億1,400万トン)である。エネルギー消費の9割は化石燃料(石油37%、天然ガス21%、石炭33%)が占める(図1)。また化石燃料のほぼ100%を輸入(全て海上輸送)に依存している。天然ガス消費における国産ガス比率は0.4%で2022年にはLNG1,996万トンを輸入した(2022年の世界のLNG貿易量3億8920万トンのうち台湾は5%を占める)。最大の輸入相手先は豪州で輸入の37%、次いでカタールが26%、米国が11%となっている(図2)。
ガス消費の8割は発電向けで現在のところLNGの輸入ならびに受入基地の操業は全て台湾中油公司(CPC)が行っている。LNG受入基地は高雄市永安(Yung’an)受入基地(受入能力744万トン)、台中市台中(Taichung)受入基地(受入能力600万トン)の2か所計1,344万トンが操業中である(図3、表1)。この他CPCは桃園市観塘(Guantang)や高雄市洲際(Zhouji)受入基地の新設ならびに台中など既存基地の拡張を進めている。日本企業が基本設計(FEED)や建設(EPCC)を受注している。さらに台湾電力公司(TaiPower)が台中と基隆市・基隆(Keelung)のLNG受入基地新設を計画している。これらの建設が順調に進んだ場合2030年までに台湾のLNG受入能力は大幅に増加する見通しである。
CPCは長期契約(年1,930万トン)をベースに短・中期契約により供給の安定を図っている(表2)。LNGプロジェクトの権益取得も行っており、カタールRasGas II、豪Prelude LNGとIchthysの一部権益を保有している。

(出所:Statistical Review of World Energy Data 2023に基づきJOGMEC作成)

(出所:経済部に基づきJOGMEC作成)

(出所:各種情報源に基づきJOGMEC作成)

(出所:各種情報源に基づきJOGMEC作成)

台湾の電源構成は火力に依存している。2022年の発電量(2,882億kWh)のうち石炭火力が42%、ガス火力が39%、石油火力が2%を占める。再エネは9%、原子力は8%である(図4)。発電事業はTaiPowerが発電設備(2022年6,194.4万kW)の5割強、発電量の7割を占める。
蔡英文総統は2021年4月に2050年のカーボンニュートラルを宣言した。2022年4月には立法院(国会)で「温室気体減量及管理法」(温室効果ガス削減及び管理法)の改正案が可決された。2050年の排出ネットゼロ目標が明文化された他、炭素費の徴収や輸入製品に対する炭素国境調整措置、温室効果ガス削減額の移転、取引又は競売などが規定された[1]。
エネルギートランジションについて「展緑、増気、減煤、非核」を基本原則として電力の安定供給、大気汚染低下、排出削減を図ろうとしている(表3)。
「展緑」は再生可能エネルギーの拡大を意味し、発電に占める再エネ比率を2025年までに20%に高める目標を設定している。2022年3月に国家発展委員会が発表した「2050年のカーボンニュートラル実現に向けたロードマップ」では2050年に発電に占める再生可能エネルギーの比率を60~70%に引き上げるとしている。特に太陽光と洋上風力発電の増強を進めている。洋上風力発電事業には複数の日本企業が参画している。
「増気」はガスの増強を意味し、発電量に占めるガス火力の比率を2025年までに50%に引き上げる。また大気汚染低減や排出削減の観点から工業ボイラー燃料のガス転換を進める。需要増加に対しLNG受入基地ならびに貯蔵タンクの新増設を進め、安定供給ならびに緊急時備蓄の増強を図る方針である。
「減煤」は石炭低減を意味し、石炭火力の発電量に占める比率を2025年までに30%に低減し、2025年以降は石炭火力の新増設を行わず、また運転停止後はガス火力に転換する方針である。
「非核」は脱原発を意味し、2025年5月までに全ての原子力発電の運転を停止する方針である。台湾は日本に次いでアジアで2番目に早く原子力発電を導入した。1978年12月に稼働した第1原子力発電(金山1号)から1985年5月に稼働した第3原子力発電(馬鞍山2号)まで6基(計514.4万kW)が運転を行っていた(図5、表4)。しかし2015年4月に原子力発電の新設や既存原子力発電の運転期間(40年)の延長を認めない「非核家園(脱原発)推進法」が立法院で可決された。2021年までに3基が運転期間40年に達し運転を停止した。2017年に電気事業法が改正され、2025年5月までに全原子力発電の運転を停止させると規定された。2018年11月の国民投票により同規定は削除されたが、現政権は運転期間の延長を認めず、2023年3月に国聖2号機が運転期間40年に達し運転を停止した。残りの2基も2025年5月までに順次運転期間満了により停止する予定である。なお1981年に立法院で建設予算が承認され、1999年に着工した新北市の第4原子力発電(1・2号計127万kW)は建設中断・再開を繰り返し2021年12月の国民投票で建設再開が否決され、建設は凍結されている。

(出所:経済部統計を基にJOGMEC作成)

(出所:経済部を基にJOGMEC作成)

(出所:各種情報に基づきJOGMEC作成)

(出所:東西貿易通信社東アジアの石油産業と石油化学工業他各種情報を基にJOGMEC作成)
TaiPowerの2029年までの長期電源計画によると石炭火力発電設備の低減とガス火力の増強が顕著である。2022年から2029年にかけて発電設備は244万kW増えるが、石炭火力は2023年の高雄市興達(Hsinta)1・2(計100万kW)、2025年の台中市台中(Taichung)1・2(計110万kW)および興達(Hsinta)4(55万kW)などの退役で2021年に比べ28%(320万kW)減少する(図6)。
一方、ガス火力は若干の退役はあるがそれを上回る新増設により2021年に比べ71%(931万kW)増加する。特に2024年から25年にかけて興達(Hsinta)1・2・3、桃園市大潭(Datan)7・9、台中(Taichung)1(計724万kW)の新増設が完了する見通しである。
石油火力は2024年の基隆市協和(Hsiehho)3・4(計100万kW)などの退役(ガス火力への転換)で2029年までに80%(128万kW)減少し31万kWしか残らない。原子力発電は2024年と25年に第3原子力発電(馬鞍山)1・2(計289万kW)が運転を停止しゼロとなる。

(出所:経済部2022年度全国電力資源需給報告ならびにTaiPowerに基づき作成)
2.LNG受入基地トラブルで一部電源喪失、総統選を控え与野党舌戦、国民党候補は「2040年の脱石炭」、排出削減と原発回帰は国際的な潮流と表明
2023年7月21日、CPCの台中市台中(Taichung)LNG受入基地で技術的なトラブルが発生しLNGの供給が低下した(発生pm8:10、全面復旧11:29pm)した。そのためTaiPowerの桃園市大潭(Datan)発電所(498万kW)のうちガス火力250万kWならびにIPP事業者Ever Powerの海湖(Haihu)発電所における90万kWの電源が喪失した(図7)。
TaiPowerは基隆市協和(Hsieh-he)石炭火力(50万kW)、国聖原子力発電の出力増加、水力・揚水発電等で対応し停電は回避された。TaiPowerはトラブルの間も電力予備率は15%程度を維持しており、電力供給は安定していたと述べた。台湾政府は2012年以降電力予備率について15%の目標を設定しており、TaiPowerは2015~18年にかけて予備率が10%前後に低迷したが、その後2019~20年は15%を超え、2021~22年は12~13%前後と再び目標を下回っている状況である(図8)。

(出所:TaiPower)(外部リンク)

(出所:TaiPower)、青線が政府目標予備率、オレンジ線がCPCの予備率、民国111年は2022年
7月24日、王経済相はCPCに対し台中LNG受入基地の設計・設備の更新と再発防止を指示した。また2025年6月に桃園市観塘LNG受入基地の稼働後はLNG供給が多様化し、北部の電力安定強化につながると述べた。
野党国民党のLai Shyh-bao議員は与党民進党のエネルギー政策の誤り(石炭からLNGへのシフト、原子力発電を自然エネルギーに置き換え)を非難した。台湾中央通訊社によると、民進党Hung Sen-han議員は、国民党は2021年12月の国民投票で桃園市・観塘(Guantang)LNG受入基地の建設中止を支持しており批判はお門違いと応酬した。
今回の総統選挙は与党民進党と野党国民党、民衆党の候補者が有力とされる。総統選挙に出馬している国民党の侯友宜・新北市長はエネルギー政策について公約を発表、排出削減と原発回帰は国際的な風潮であるとして2040年の石炭全廃ならびに原子力発電の再稼働や運転延長を認める方針を表明した。2030年の電源構成に占める原子力発電の割合を12%まで高める、再生可能エネルギーの導入を進め、石炭火力と石油火力の比率を14%まで下げると表明した。政権交代が起きても直ちにエネルギー政策が転換されるかは未知数だが、現政権が進める脱原発・LNG拡大路線にも影響が生じる可能性がある。
最近政権交代に伴いエネルギー政策が大きく転換する事例が続いている。韓国では2022年5月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が就任し、文在寅(ムン・ジェイン)前政権の脱原子力発電政策を見直した。文政権は原子力発電所の新たな建設を中止し、運転中原子力発電は段階的に廃止、2038年までに現在の24基から14基に削減する方針であった。しかし尹大統領は方針を転換し、2023年8月に産業通商資源部が公表した2036年までの「第10次電力需給基本計画」実務案では2030年の電源構成のうち原子力発電を第9次電力需給基本計画(2021年10月策定)に比べ23.9%から32.8%に引き上げ、再生可能エネルギーを30.2%から21.5%に下げた。廃炉が決まっていた12基(10.5GW)の運転延長ならびに建設が中断していた2基も2032年頃の商業運転開始が見込まれる。
3. 台湾のLNG拡大上脅威となる台湾海峡封鎖や妨害への対応
3-1. 2022年8月の中国人民解放軍演習時台湾のLNGについて語る中国のSNSやメディア
2022年8月2日から3日にかけて米国のペロシ下院議長が台湾を訪問した。中国はこれに強く反発し、8月4日から台湾を取り囲む形で航行制限海域を設定し、実弾射撃を伴う陸海空ロケット軍による実質7日間の大規模な演習を行った。地域の緊張は高まったが2022年8月当時の北東アジアスポット価格JKMは50ドル前後(現在は10ドル台)と高値で推移していたこともあり、この演習が市場に与える影響は顕在化していない。
中国のSNSでは1996年の軍事演習(第3次台湾海峡危機)と比べて規模が拡大しただけでなく、台湾を3日間実質的に封鎖できる形であり、台湾海峡を通航するLNG船の通航に支障が生じる恐れがあるとして台湾でエネルギー危機の懸念が高まっていると指摘した。台湾紙「中国時報」では8月4日から7日の間にLNG船が受入基地に入港する予定だが、入港できなければ天然ガスの緊急時在庫量は激減し、ガスが不足すれば電力供給に支障が出る恐れがあると報じた。

また、別の中国のSNSでは8月5日から6日にかけてそれぞれカタール、パプアニューギニア、豪州のLNGを積んだLNG船3隻が高雄沖わずか20キロに設定された演習地域を迂回し台中と永安受入基地にそれぞれ入港したことを示した(図10)。そして商船は自由に通航できるため演習地域を迂回すれば問題ないと考える人もいるが、港からわずか20kmに設定された演習地域はリスクが高く、何か起きた時に誰が賠償責任を負うのか、そして同様の演習が常態化し、期間が長期化した場合に台湾はガスと電力の供給途絶を回避することが難しくなると指摘している。
2022年8月の軍事演習を分析された笹川平和財団の河上氏は中間線を越え、台湾近傍まで軍用機、艦艇が侵入することを可能としたこと、通航制限地域を公示し米軍等の行動を制限した上で、突如実戦に変貌させることが可能であること、さらに本格的な武力行使を伴わない経済封鎖を見据えた演習であると指摘されている[2]。
小職は軍事や海運の知識が不十分であり、精緻な分析は行えていないが、中国は国内経済が低迷する中、台湾に進攻することはダメージが大きいとロシアを見て学んでおり、また海上貿易の要衝である太平洋側の封鎖や妨害(演習を含む)は周辺国の警戒を高めるため行わないという前提に立ち、台湾向けのLNG船がマラッカや南シナ海を通らず、太平洋からフィリピンの東側を通って北上、つまり豪州(台湾のLNG輸入の37%)、パプアニューギニア(同7%)から来る場合、もしくは太平洋を横断する米国(11%)からくる場合にはリスクは低減されると考えていた。しかし現在台湾で稼働、計画中のLNG受入基地は中国に面した台湾海峡側、あるいは台北付近に位置しており、2022年8月の演習設定海域と中国のSNSが指摘する演習が長期化し、妨害や経済封鎖につながるリスクを考えると供給に支障が出た場合の対応は必要であると思われる。

出所:中国SNS“军事实弹演习下的台湾LNG进口情况2022”(2022年8月8日)
3-2. LNG輸入拡大に対する最大の脅威は中国による封鎖や妨害(経済部)
台湾では中国空・海軍の演習激化により、エネルギー備蓄やインフラ整備など、安全保障上の備えを強化している。2023年6月に経済部副部長は「LNG輸入拡大に対する最大かつ直接の脅威は中国による封鎖の試みあるいはLNG船やその他の商業船舶の妨害」とエネルギー業界紙Energy Intelligenceに語った。そして天候や“偶発的なアクシデント”によりLNG輸入に支障が生じた場合の対応策として、まずLNG火力の使用を減らし、家庭用ガスの優先供給を確保するとしている(天然ガス事業法45条においてLNGが不足または価格が大きく変動し、天然ガスの安定供給や安全上影響がある場合政府が天然ガスの供給と価格をコントロールすることが出来ると定めている)。
また水力、石炭火力、再エネなどの発電を増やす(TaiPowerは現在50日分の石炭在庫を保有しており、IPP事業者も1~2か月分の在庫を保有)。この他LNG火力の適切な運転予備力を維持する。2030年までにガス火力の設備容量を910万kW増強する他LNG貯蔵タンクを増設する。LNG緊急備蓄日数を2027年までに現在の11日から14日分に増強する計画であると述べた(表5)。

出所:経済部“天然ガス供給安定”に基づきJOGMEC作成
4. おわりに
台湾は2050年カーボンニュートラルを表明している。日本と同様にエネルギー消費と電力を化石燃料(石炭、原油、LNG)の輸入に依存しているが2025年までの脱原発と石炭低減、それを太陽光や洋上風力を中心とする再エネとLNG火力の増強で補い、安定供給と大気汚染の低減ならびに排出削減を図ろうとしており、日本以上に野心的なエネルギー政策を遂行中と言える。
ガス火力の比率は2025年までに50%に引き上げる計画で、2022年から29年までに931万kW増強させる見通しであり、LNG受入基地も稼働中2基地の増強に加え新設計画が進行中である。LNG受入基地や洋上風力の増強には複数の日本企業が参画している。
2023年8月、総統選挙に出馬している国民党の侯友宜・新北市長は排出削減と原発回帰は国際的な風潮であるとして2040年の石炭全廃ならびに原子力発電の再稼働や運転延長を認める方針を表明した。政権交代が起きても直ちにエネルギー政策が転換されるかは未知数だが、LNG拡大路線にも影響が生じる可能性がある。
2022年8月にペロシ下院議長の訪台に反発した中国が台湾を囲む海域と空域で実弾射撃を伴う軍事演習を行い地域の緊張が高まった。懸念されたLNG船の通航は演習地域の迂回にとどまり、元々高水準で推移していたガス市場価格への影響も顕在化しなかった。当時中国のSNSでは港からわずか20キロ沖合に演習地域が設定されたことで偶発リスクや賠償責任の問題、さらに演習長期化による経済封鎖や供給途絶リスクが高まると指摘された。
台湾経済部は業界紙に対しLNG輸入拡大に対する最大の脅威は中国による封鎖や妨害であるという見方を示した上で、天候や“偶発的なアクシデント”によりLNG輸入に支障が生じた場合の対応策として緊急時の需給調整と備蓄の増強を示した。
日本と台湾の置かれた状況は異なり、日本向けのLNG船が封鎖により通航不可能となる可能性は極めて低いと思われるが、迂回による経済的損失や“偶発的なアクシデント”、あるいは近傍で起きた有事による市場価格の変動はいつ、どこでも起こり得ることであり、調達の多角化、緊急時の需給調整や備蓄を含む備えと、状況の変化に合わせた柔軟な見直しを行っていく必要性があると痛感する。
以上
(この報告は2023年8月18日時点のものです)