ページ番号1009866 更新日 令和5年8月24日

天然ガス・LNG最新動向 ―窮地を脱する欧州とLNG利用を拡大するアジア新興需要国(大手ガス3社の活躍)―/Latest Trends in Natural Gas and LNG - Europe is out of a tight spot and emerging Asian countries are expanding their use of LNG (Activities of the three major Japanese gas companies) -

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レポートID 1009866
作成日 2023-08-24 00:00:00 +0900
更新日 2023-08-24 14:21:03 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 白川 裕
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 72
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
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地域6
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地域8
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地域9
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2023/08/24 白川 裕
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概要

欧州の脆弱なエネルギーセキュリティー政策は、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとして世界のエネルギー価格の高騰を招いた。欧州ガスと世界のスポットLNG価格は一時と比較すれば落ち着いたものの、ボラティリティーは依然として高いままである。

脱炭素を自らの産業に有利な政策として首唱してきた欧州にも、ついにガス高価格による神の見えざる手が及び需要が大きく減少。幸いにも、向こう2年間は地下ガス貯蔵在庫払底によるガス危機の恐れは小さくなったものの、ガス消費量は大きく減退し、今度は皮肉にも、その経済の足元が掬われようとしている。

一方、東南・南アジアの国々は、欧州のLNG爆買いの副作用によって廉価にLNGが調達できず、長期にわたる大規模な停電や、LNGプロジェクトの遅延に見舞われている。さらに、鮮明化した石炭回帰が、石炭火力からガス火力への転換によるこの地域の現実的な脱炭素を推進する上での大きな阻害要因となっている。

それでもアジアの新興需要国は、着々とLNG導入を進めており、日本企業も、これまで蓄積してきた知識と経験・ノウハウを存分に提供し、リニューアブル拡大に必要不可欠なガス・LNGの普及に貢献している。

ここでは、まず、2023年のこれまでの世界のガス・LNGの需給・価格実績についてまとめ、次に、それらの今後の展望について論ずる。最後に、LNGのデマンドセンターとなるアジア新興需要国における大手ガス3社の活躍(大阪ガス:インド都市ガス事業、東邦ガス:ベトナムCNG事業、東京ガス:フィリピンLNG受入基地)についてまとめる。

 

Europe's weak energy security policy led to a spike in global energy prices in the wake of Russia's invasion of Ukraine. While European gas and global spot LNG prices have calmed, volatility remains high.

Even Europe, which has championed decarbonization as a policy favorable to its own industry, has been hit by the invisible hand of God of high gas prices, and demand has fallen sharply. Fortunately, the threat of a gas crisis due to the exhaustion of underground gas storage stocks over the next two years has diminished, but gas consumption has fallen dramatically, and now, ironically, its economy is about to be caught flat-footed.

Meanwhile, countries in Southeast and South Asia have been unable to procure LNG at low prices due to the side effects of Europe's explosive LNG buying, resulting in prolonged and massive power outages and delays in LNG projects. In addition, the clear reversion to coal is a major impediment to promoting realistic decarbonization in the region through a shift from coal-fired to gas-fired power generation.

Nevertheless, emerging Asian demand countries are steadily introducing LNG, and Japanese companies are fully contributing their accumulated knowledge, experience, and expertise to the diffusion of gas and LNG, which are indispensable for renewable expansion.

In this section, we first summarize the global gas and LNG supply, demand, and price performance to date in 2023, and then discuss their future prospects. Finally, we summarize the activities of the three major gas companies in emerging Asian demand countries that will become LNG demand centers (Osaka Gas: city gas business in India, Toho Gas: CNG business in Vietnam, Tokyo Gas: LNG receiving terminal in the Philippines).

 

1. 世界のガス・LNG価格と欧州地下ガス貯蔵在庫

(1) 世界のガス・LNG価格実績[1]

世界のガス・LNG市場とそれを代表する価格指標は3つに大別される。

まず、欧州パイプラインガス価格(代表的な指標はTTF:Title Transfer Facility)と、それとの相関が強い世界のスポットLNG価格(代表的な指標はJKM:Platts Japan Korea Marker(北東アジアスポットLNG価格指標))である。両者は、LNGのコモデティー化の象徴であるスポットLNGの取引量の増加とともに、これまで相関を強めてきた。

次に、米国内パイプラインガス価格はHH(Henry Hub)を指標とする。HHは、メキシコ湾岸に集積するLNG液化設備能力がボトルネックとなっているため、TTFやスポットLNG価格との相関は低く、米国内パイプラインガスの需給によって決定される。

最後に、JCC(Japan Crude Cocktail:全日本平均原油輸入CIF価格)やブレント等、原油価格にリンクする長期契約LNG価格である。日本平均LNG輸入価格は長期契約LNG価格とスポットLNG価格を輸入割合で按分したものとなる。

以下に最近の3つのガス・LNG価格の推移についてまとめる。

 

TTF、JKM

2022年3月7日、TTFは、ロシアパイプラインガス供給中断の懸念により$72/MMBtuを記録。JKMも、$85/MMBtuまで急騰した。6月以降、ノルドストリームの減量によって、TTFが上昇。8月26日には、$99/MMBtuをつけた。10月以降、欧州は在庫が順調に積み上がり2022-23年冬期を無事越せる可能性が高まり、2023年1月以降、TTF、そして、JKMも下落に転じた。

2023年5月、欧州にとって今や最大の供給源となったノルウェーパイプラインガスの4分の1を処理するNyhamnaガスプラント等でのメンテナンスの延長が発表されると、6月中旬、TTFは、$13/MMBtu台まで上昇したが、7月15日に修理を終え復帰した後は$8/MMBtu台まで低下した。8月9日に豪州3プロジェクトでのストライキの可能性が伝えられると、一時$12/MMBtuを超えたが、現在は$11/MMBtu台で推移している。JKMも$12/MMBtu程度となっている。

ここで、一時と比べ、TTF・JKMは大きく低下しているものの、なお、例年の2倍のレベルで高止まりしている点に注意が必要で、これはもともと長期的に、2025年を谷とした世界のLNG供給余力が最も低下する時期に差し掛かっていることに加え、今回の欧州向けロシアパイプラインガス供給が減量していることがベースとなっている。また、JKM-TTFプレミアムは、欧州地下ガス貯蔵在庫の充足に伴い、現状ほぼ$2/MMBtuと例年並みのレベルに戻っている。

 

HH

2022年8月、HHは、地下ガス貯蔵在庫が5年平均を下回ったことを主因として、$10/MMBtuを14年ぶりに突破したが、その後、生産が順調に増加したところに、暖冬も重なり、更に下落した。

2023年2月、一時$1.9/MMBtu台と2年半ぶりの安値をつけたが、7月時点で、$2/MMBtu台半ばを推移している。

6月、EIA(U.S. Energy Information Administration: 米国エネルギー情報局)は、ガス価格が低下しているにもかかわらず、2023年以降のガス生産量の見通しを上方修正し、2024年までの大半の期間で103Bcf/dと、記録的なレベルを維持すると述べた。これは、原油価格予測の上昇によるPermianにおける随伴ガス生産の増加等と、HH低下を反映したその他の地域のガス生産量減少が相殺されるとの見方による。

 

日本平均LNG輸入価格

原油価格にリンクする長期契約が8割を占める日本平均LNG輸入価格は、ポストコロナの原油価格上昇に伴って徐々に上昇し、2022年8月、$20/MMBtuに達したが、その後、原油価格の落ち着きとともに下落し、6月時点で$12.05/MMBtuとなった。

図1.世界のガス・LNG価格実績 
図1.世界のガス・LNG価格実績 (出典:Platts、IMF、ICE他よりJOGMEC作成)
図2.TTF(月平均)の推移 
図2.TTF(月平均)の推移 (出典:Platts、IMF、ICE他よりJOGMEC作成)

(2) 欧州地下ガス貯蔵在庫実績

欧州地下ガス貯蔵在庫レベルは、欧州ガス価格に大きな影響を与える。さらに、世界のスポットLNG価格にも大きな影響を及ぼしている。

2022年11月15日、欧州地下ガス貯蔵在庫の充填率は95.5%と過去最高レベルまで上昇。それ以降、ようやく減少モードに入った。

2023年に入ってからは、高在庫であった2020年のレベルをなぞるように推移し、8月16日時点で、11月1日におけるEU地下ガス貯蔵在庫目標90%を達成した。今後10月末にかけて100%近くまで充填されるとみられる。

図3.欧州地下ガス貯蔵在庫推移
図3.欧州地下ガス貯蔵在庫推移 (出典:AGSI+他よりJOGMEC作成)

(3) 欧州ガス消費量実績[2][3]

最近のTTF、JKMの動きにある程度の安定感をもたらしている主な要因は、欧州ガス消費量の大幅な減少である。

2023年1-4月の欧州ガス消費量は、2022年と比べ23Bcm(10%)も減少した。なお、この減少の要因は、気温が1割、残る9割が高ガス価格等によるものと考えられ、これが欧州地下ガス貯蔵在庫の順調な充填と高在庫につながっている。ここで図中のmin、maxとは、過去5年間の各月の最大値と最小値を示している。

ただし、TTFは、それでも例年の2倍の高レベルにある。過去2年間の供給安定性に対する懸念とガス価格高騰の経験から、フォワードカーブを見ると、今後冬に向かって、ガス価格の上昇はあっても、下落する可能性は小さいと市場が見ていることがわかる。

今後しばらくの間、工業需要家を中心とした、他燃料への転換、稼働制限、工場の停止・移転などが続き、現在のガス消費量の減少がしばらく継続する可能性が高い。燃料は計画的に調達するものであり、変更する際は設備改造等も必要な場合が多いため、従来の価格レベルでの安定的な供給が見通せるようになるまでは、ガス消費は十分には回復せず、また、ガス価格が従来のレベルで安定した後であっても、移転などの影響で過去の消費レベルまでには復活しない可能性がある。

図4.欧州ガス消費量実績 
図4.欧州ガス消費量実績 (出典:JODI他よりJOGMEC作成)

7月、化学大手BASFは、2023年第2四半期のWebcastの中で、2023年のドイツの化学工業の生産高は17%減少し、欧州全体では13%減少したとコメントした。これは、2022年の対前年5-6%減に引き続くもので、欧州生産量の20-25%が減少したことになると述べた。

また、EU内のガスを主要な原料とする窒素肥料等の生産量は、2022年夏前から大きく減少し、2023年に入ってからは、さらに大きく減少している。

欧州ガス消費量の傾向について、今後も注視していきたい。

図5.欧州窒素肥料等の生産量(指数表示、2017-20年平均:100)
図5.欧州窒素肥料等の生産量(指数表示、2017-20年平均:100) (出典:Lambert Energy Advisory)

(4) 世界・欧州の中長期予報[4][5][6][7][8]

ガス消費量は気温の影響を受け、高緯度地域では気温が低下するほど暖房等に使用する消費量が増加する。また、低緯度地域では、夏期の冷房用電力需要に対応し火力発電用ガス消費量が増加する。

6月の世界の平均気温は、過去30年間の平均気温を0.5℃上回って過去最高となった。さらに、7月の気温も過去最高を記録した。

6月、パナマ運河庁は、前例のない旱魃によりネオパナマックス閘門を通過できる最大喫水を制限した。LNG船は喫水が浅いため直接影響を受けることはないが、喫水の深いコンテナ船など他の船種が影響を受けた玉突きで、今後、LNG船の運航枠などに悪影響を及ぼす懸念がある。さらに7月末には、2024年9月までの1日に通航できる船舶数を旧型のパナマックス閘門で22隻、ネオパナマックス閘門で10隻に減らすと発表。アジア向けLNG船の通航予約枠は1隻/日程度で、影響はまだ顕在化していないが、今後の状況に留意が必要である。

7月、EDF(Electricite de France:フランス電力)は、ローヌ川の水温上昇により稼動中の原発1-2基が停止する可能性があると警告した。また、熱波の影響により、ライン川などの水位が低下し、はしけによる輸送に支障が出たため、火力発電用の石炭の消費量が減少したことも報じられた。これを代替する火力発電所のガス消費量が、今後、増加する可能性がある。

なお、2022年までのラニーニャに代わって、2023年はエルニーニョの発生が予測されている。

エルニーニョとは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年にわたり続く現象のことをいう。地球全体の平均気温を押し上げる効果があり、温暖化との組み合わせにより、今後5年の間に世界の気温は史上最高を更新するといわれている。

WMO(World Meteorological Organization:世界気象機関)によると、エルニーニョが発生する年は、東南・南アジア、オーストラリア、アフリカ南部・中部、南米の北半分が乾燥・高温化する。ガス需要の大きな欧州や北東アジアへの影響は、

夏: 欧州中部で高温、東アジアで低温、欧州西部で多雨

秋: 欧州中部で高温

冬: 欧州北部で少雨

春: 日本で高温

となっている。

図6.エルニーニョ発生時の12-2月の天候の特徴
図6.エルニーニョ発生時の12-2月の天候の特徴 (出典:気象庁)

EUコペルニクス気候変動サービスによると、今後、2023年12月にかけての欧州の気温は、例年より0.25-2.0℃高めと予報されている。

図7.欧州気温予測(2023年7-12月)
図7.欧州気温予測(2023年7-12月) (出典:コペルニクス気候変動サービス)

(5) 欧州地下ガス貯蔵在庫予測

以上の状況を踏まえ、払底が懸念されている欧州地下ガス貯蔵在庫について、2025年3月までの状況を予測した。ここで、上記の通り、2023年は温暖との予報であるため、7-12月の気温は同様に温暖であった2022年と同レベルと想定した。

2024年については、1)2022年並みに温暖なケース、2)2021年並みに寒冷なケースに分けて、欧州地下ガス貯蔵在庫の推移を推算した。その結果、

  1. 温暖なケースでは、2024年3月末在庫が49%、2025年3月末在庫が35%となり、欧州は、今後2年間、冬期の在庫不足を回避できる予測となった。この時、欧州LNG輸入量は2023年123MT/y、2024年119MT/yと2022年並みのレベルとなる。
  2. 寒冷なケースでも、2024年3月末在庫が40%、2025年3月末在庫が26%の予測となった。ここで、欧州LNG輸入量は、2023年は125MT/yと2022年並みとなるが、2024年は146MT/yと大幅に増加する。

なお、両予測において、欧州向けウクライナ経由ロシアパイプラインガス供給は、2025年1月から停止することを前提としている。現在の膠着した戦況においては、今後、ロシア-ウクライナ間でのガス輸送契約の更改交渉が始まるとは考えにくく、ウクライナ経由ロシアパイプラインガス輸送は、契約通り2024年12月末をもって終了する可能性が高い。ただし、このパイプラインガスが停止されても、LNG受入基地の能力の範囲内でLNG輸入を拡大させれば、欧州地下ガス貯蔵在庫の払底は発生しない。

欧州ガス不足の危機は、ここ2年間は回避された可能性が高いが、需給の逼迫を反映して、世界のガス・LNG価格は依然として高止まっている点は忘れてはいけない。この傾向は今後しばらく継続するとみられるが、特に、アジアを中心とした新興需要国へのLNG導入が停滞する懸念がある。

翻って、天候の変化が、ここまで大きく世界のエネルギーセキュリティーの命運を分ける現在の状況は、はたして許容されるものであろうか?今回の欧州発世界のガス・LNG逼迫を教訓として、今後、世界的なガス・LNGセキュリティー対策の強化が必要であろう。

図8.欧州地下ガス貯蔵在庫予測
図8.欧州地下ガス貯蔵在庫予測 (出典:各種資料によりJOGMEC作成)

(6) 今後のTTF・JKM価格イメージ

2025年3月までのTTF・JKM価格イメージを以下に示す。

現状、欧州は地下ガス貯蔵在庫が十分に高く、秋に向けてLNG輸入量が抑制されていく段階にある。北東アジアのLNG在庫も十分に高く、TTF・JKMは、それぞれ、$11/MMBtu、$12/MMBtu程度を推移している。

今後、冬期向け調達が始まり、さらに11月以降、欧州地下ガス貯蔵在庫の引き出し量が注入量を上回り、それを補完するためのLNG輸入量が大きく増加する時点でTTF・JKM価格は上昇する。

2024年のTTF・JKMは、気温が温暖なケースであれば、2023年並みのレベルで推移する。一方、寒冷なケースとなれば、欧州ガス需要が増加し、TTF・JKMとも大きく上昇する可能性がある。

図9.TTF・JKM価格イメージ
図9.TTF・JKM価格イメージ (出典:各種資料によりJOGMEC作成)

(7) ノーマル市場への復帰はいつか?

欧州ガス消費量の減退を考慮しない場合、欧州追加LNG輸入量と世界の新規供給LNG量は2032年ごろバランスする。そのため、欧州ガス市場と世界のスポットLNG市場が、ウクライナ侵攻前のノーマルな価格レベルに戻るのは、2032年ごろと予測された。さらに、2023-30年にかけて、欧州ではLNG受入能力の不足によってガス不足が発生することが懸念されていた。

今回、2023年の実績を考慮し、今後の欧州ガス消費量が、このレベルで抑制され続けると想定する場合、欧州ガス価格と世界のスポットLNG価格がノーマルなレベルに戻る時期は、2028年ごろに早まる予測となった。同時に、需要減退なしの場合に懸念されていた欧州のLNG受入能力不足に起因するガス不足と地下ガス貯蔵在庫払底のリスクは小さくなった。逆に、2028年以降、マーケットは急速に緩み、新興需要国を中心にLNG需要が大きく喚起される可能性がみえてきた。ただし、この場合でも、2025年を底とした、いわゆるLNG供給余力の谷は変わらず、しばらくは小さなトラブル等でも市場に大きな影響を与える時期が継続する点に注意が必要である。ここで、スポットLNG価格が低下するにつれ、欧州ガス需要の一部が徐々に復活してくることも見込まれるため、この時期は、実際は多少後年にずれ込む可能性がある。また、中長期的には、液化プラントのFIDがスポットLNG価格の低下によって抑制され後年のLNG供給不足を誘発する、いわゆるブーム・アンド・バストの再来が懸念される。

図10.欧州ガスソース別需給バランス
図10.欧州ガスソース別需給バランス (出典:各種資料によりJOGMEC作成)
図11.世界のLNG供給余力(ピーク月:1月)
図11.世界のLNG供給余力(ピーク月:1月) (出典:各種資料によりJOGMEC作成)

2. 2023年LNG需給バランス実績と予測

(1) LNG輸入[9], [10], [11], [12], [13], [14], [15], [16]

2023年上期の主要国のLNG輸入実績をベースに、以下に2023年の世界のLNG需給バランスを検討した。その結果、2022年と比べ、

  • 中国は、5MT/yの増加(2023年3月予測とほぼ変わらず)。
  • 日本は、9MT/yの減少(2023年3月予測から7MT/yの減少)。
  • タイは、3MT/yの増加。
  • 欧州は、2MT/の増加(2023年3月予測から13MT/yの減少)。
  • パキスタン・バングラデシュは、前年並み。

となることが予測された。需要サイドからみた2023年のLNG貿易量は、397MT/yと、対前年3MT/y、0.7%増に留まる試算となった。

図12.世界のLNG需給バランス(2023年)試算 
図12.世界のLNG需給バランス(2023年)試算 (出典:各種資料によりJOGMEC作成)

中国

1-5月の中国国内ガス生産は97.3Bcm(71.5MT)と対前年同期比5.3%増となった。LNG輸入量は、27.5MTと、対前年同期比4.0%増。パイプラインガス輸入量は、18.8MTと、対前年同期比2.3%増となった。

2023年のLNG輸入量は、新たに始まる長期契約による供給を中心に、対前年5MT/y増の69MT/yを想定している。

JKMは低下してきたが、まだ、パイプラインガスの方が安価で、国産ガス・石炭の増産も好調である。COVID-19の影響から中国経済が回復するにはまだ時間がかかるというのが現在のコンセンサスであり、従来懸念されていたような大量のスポットLNGを調達する地合いにはない。なお、3月、2nd Tiersが、PipeChinaから借用した受入基地の利用実績を作るために、スポットLNG調達を活発化。また、5月、夏期需要対応でスポットLNGが調達された。

このような状況にあっても、中国は、長期的な視点に立って、LNG長期売買契約や受入能力の整備を着実に進めている。

4月、2022年11月の4MT/y、27年間のカタールとのSPA(Sales and Purchase Agreement:売買契約書)締結に続き、Sinopecは、NFE(North Field East)拡張プロジェクト1.25%の権益を取得。6月、CNPCも同様のスキームでSPAを締結し権益を取得した。

5月、オランダ・Gate LNG受入基地の拡張工事に伴い、PetroChinaはBPとともに、それぞれ2Bcm/yの受入容量(20年間、2026年10月より)を確保した。今後のトレーディングへの活用が期待される。

同月、香港LNGプロジェクトがスタートアップした。沖合のバースに係留されたFSRUから陸上の2発電所にガスを送出する。プロジェクトを牽引するCLPパワーは、Shellと、2020年から10年間、1.2MT/yの長期LNG売買契約を締結済みで、7月からの商業運転開始を予定している。

6月末に運転を開始した唐山LNG受入基地を含め、中国国内のLNG受入基地数は25ヶ所、受入能力は、120MT/yに達した。ただし、ここ数年は輸入量がそこまで増加せず、低稼働率が続く予測となっている。

図13.中国LNG輸入実績
図13.中国LNG輸入実績 (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)
図14.中国国内ガス生産・PL・LNG輸入実績
図14.中国国内ガス生産・PL・LNG輸入実績 (出典:中国国家統計局他よりJOGMEC作成)

日本

2022年夏から継続する高在庫と、穏やかな天候、好調な原発稼働、そして低調なガス需要の影響によって、2023年上期のLNG輸入量は大きく減少した。年ベースでは、対前年-9MT/yと、2023年のLNG輸入量は64MT/yと大幅減を予測している(2022年は73MT/y)。これは、第6次エネルギー基本計画の2030年LNG需要量55MT/yに一気に近づく勢いとなる。

エルニーニョが発生する年の7-9月の気温は、平年より低くなる傾向があるが、今年は、2022年までのラニーニャの影響がまだ残るため、気温は平年並みから高くなるといわれている。

さらに、7-8月、高浜原発1、2号機(各82.6万kW)の稼働が再開される予定である。

ガス需要減少要因の詳細については、今後の各社からの報告を待ちたい。

ちなみに、5月の日本の瀝青炭平均輸入単価は33,300円/tと、ピークをつけた2022年11月の59,300円/tからは大きく値下がりしたもののまだ高く、発電用燃料のコストとしてはLNGが有利な状況にあり、石炭回帰がガス消費量減少の要因とは考えにくい。

図15.発電用LNG在庫実績
図15.発電用LNG在庫実績 (出典:METI他よりJOGMEC作成)
図16.日本LNG輸入実績(地域別)
図16.日本LNG輸入実績(地域別) (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)

韓国

5月、ガス料金が値上げされたため、今後の家庭・工業需要家向けガス販売量は、減少する見通し。また、電力向けガス需要も、2022年12月のShin Hanul-1(140万kW)運転開始と、2023年9月からのShin Hanul-2(140万kW)稼働の影響で低下する見通し。2023年のLNG輸入量は、対前年では、若干量(対前年-1MT/y)の減少を予測している。

 

台湾

2023年3月、国聖原発2号機(985MW)が運転を停止し、その代替として石炭火力の稼動が増加した。

2023年LNG輸入量は、2022年並みとなる予測だが、それ以降、脱原発、石炭削減政策の影響でLNG輸入量が増加する見込みである。

 

インド

国内ガス生産の増加、石炭・石油への回帰が起こっており、スポットLNG調達の減少が続いている。

3月以降、元Gazprom子会社SMTS(SEFE Marketing and Trading Singapore、旧Gazprom Marketing and Trading Singapore)が、インドへのLNG供給(主にYamal LNGから)を再開したとの情報もある。なお、2022年5月、ドイツ政府信託下に置かれたSEFE(Secure Energy for Europe:旧Gazprom Germania)はウクライナ紛争を理由にFM(Force Majeure:不可抗力)を宣言し、インドへのLNG供給を停止していた。4月、東海岸Dhamra LNG受入基地(5MT/y)が運転開始。

2023年LNG輸入量は、前年並みを予測。

図17.インドLNG輸入実績
図17.インドLNG輸入実績 (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)

パキスタン

国内ガス生産量の低下によりLNGを導入したが、昨年来のエネルギー価格等の高騰により外貨準備高が大幅に減少。6月、スポットLNG価格が低下する中、入札を開いたが、支払いを懸念する売主からはオファーがなかった。国内の広範囲で停電が継続中である。

2023年LNG輸入量は、前年並みを予測。

 

バングラデシュ

バングラデシュにおいても大停電は継続中である。BPDB(Bangladesh Power development Board:バングラデシュ電源開発公社)からの未払いと外貨不足のため、ガス火力のほか、石炭・石油火力発電所も、十分な燃料を買えていない。

外貨準備高不足が深刻化するなか、7月末、バングラデシュの鉱物資源大臣は、LNG供給会社等への未払い金を清算するため、今後毎月10億ドルを支払う予定であると述べた。2024年1月に予定されている次期総選挙を前に、混乱を避けるため国際的な金融機関と交渉中であるという。

一方、受入基地の整備や契約の締結等は進められている。

6月、3基目のFSRUの建設計画が承認された。さらに、既存モヘシカリFSRUの拡張も進んでおり、これが完了すればLNG受入能力が2MT/y増加する。同月、既存契約に加え、オマーンと10年間、1.5MT/y(支払ウィンドウ25日間)、カタールと15年間、1.8MT/y(支払ウィンドウ15日間)の長期LNG売買契約が新たに締結された。さらに、マレーシアから1MT/y、3年間の調達について交渉中といわれている。

2023年LNG輸入は、前年並みの予測。

 

タイ

2020年以降、主力のErawanガス田からの生産量が7割も減少し、国内ガス生産は急激に低下している。また、ミャンマーからのパイプラインガス輸入に関しても、人権問題に対する国際的な批判から削減が求められている。そのため、今後もLNG輸入量の大幅な拡大が予測されている。

2023年上期のLNG輸入量は、対前年同期比27%増加しており、年間のLNG輸入量は、対前年3MT/y増加と予測される。

なお、タイの電力需要は、着実な経済成長を背景に、ここしばらく2-5%/年で増加しており、2022年には3.5%増の197.3TWhとなった。発電用燃料は、ガスが半分以上、石炭15%、輸入電力20%、再生可能エネルギー10%以下程度で構成されている。他のアジアの国々とは異なり石炭への依存が小さいのが特徴で、ガスソース内訳は、国産ガスが63%、ミャンマーからのパイプラインガスが16%、LNGが22%となっている。

図18.タイLNG輸入実績
図18.タイLNG輸入実績 (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)

欧州

LNG輸入量は、2023年上期に9.2%増加した。ただし、地下ガス貯蔵設備在庫が既に十分充填されているため、今後、10月までのLNG輸入量は、侵攻前並みレベルまで大きく低下する。

11月以降は冬期の需要増加に合わせ、LNG輸入量は大きく増加する見込み。

2023年LNG輸入量は、当初予測されていた136MT/yから13MT/yも減少して、対前年2MT/yの増加にとどまる見込みである。

なお、LNG以外では、2022年10月、イギリス・Centricaが、Rough地下ガス貯蔵所(30Bcf)を再開した。第3者アクセスの適用除外が認められたCentricaが、最大54Bcfを貯蔵できるように容量を拡張する。

2023年6月末、オランダ・Groningenガス田(2022年10月-2023年9月生産枠2.8Bcm/y)の10月からの生産停止が決定された。ただし、例外的な状況においては、一時的にガス田の生産再開が認められる可能性がある。

図19.欧州LNG輸入実績
図19.欧州LNG輸入実績 (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)

(2) LNG輸出[17]

2023年の世界のLNG輸出は、これまでのところ大きな液化プラントのトラブルは発生しておらず、比較的順調な生産を継続している。今後実施される定期修理等の進捗を注視したい。

 

米国

5月、Freeport LNG(15MTPA)がトラブルから復帰。また、5-6月に集中した他の米国内LNG液化設備の定期修理が順次終了し、今後、フィードガス流量は6月の11Bcf/d台から13Bcf/d台に復帰する見込み。国内ガス生産も順調である。

ただし、Calcasieu Pass LNG(10MTPA)では、発電設備の不具合が継続しており、1年以上商業運転に移行できておらず、複数の買主と係争が発生している。

米国LNGの輸出先は、欧州地下ガス貯蔵在庫の順調な積み上がりとLNG需要の低下により、一時は8割を超えた欧州向け出荷が大きく減少し、6月、アジア他向けが5割まで復活した。

2023年上期の欧州向け米国LNGの輸入国は、1位イギリス6.6MT、2位オランダ5.8MT、3位フランス4.8MT、4位スペイン2.6MT(2022年上期は、1位フランス5.7MT、2位スペイン5.2MT、3位イギリス4.8MT、4位オランダ3.0MT)となった。フランスの輸入量が減少したのは、3-4月、LNG受入基地でストライキが実施された影響が大きい。

3月、Plaquemines LNGフェーズ2(6.7MTPA)とPort Arthur LNGフェーズ1(13MTPA)がFIDした。6月、NextDecadeは、Totalenergiesと5.4MT/y、20年間の長期契約を締結するとともに、プロジェクトのシェア16.7%と自社株17.5%を売却し、7月、Rio Grande LNGフェーズ1(17.5MTPA)をFIDした。

6月、商船三井は、米国・Delfin Midstreamの洋上LNG液化設備(FLNG)への出資を発表した。2027年からルイジアナ沖FLNG(3.7MTPA)の操業を開始する計画。

図20.米国LNG輸出実績(地域別、輸入量ベース)
図20.米国LNG輸出実績(地域別、輸入量ベース) (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)

豪州

2022年の政権交代以降、矢継ぎ早に、卸売ガス上限価格設定、ガス安全保障ガイドラインが施行された。それに加え、2023年7月、豪州セーフガードメカニズムが施行され、CO2発生量10万t/年以上の215設備に対し、4.9%/年の削減、または、豪州カーボンクレジット(Australian Carbon Credit Units:ACCUs)の使用が義務付けられた。新規ガス田開発については、排出ネットゼロが求められている。

2023年6月、ACCC(Australian Competition and Consumer Commission:オーストラリア競争・消費者委員会)は、ガス安全保障ガイドラインの発動に関連し、2024年、豪州東部は十分なガス供給量を確保し回避できる見込みであるが、南部はクイーンズランドの余剰ガスに依存するため、ガス輸送と貯蔵量に余裕があることが不可欠と発表した。

8月、オーストラリアの3つのLNG液化設備(North West Shelf、Gorgon、Wheatstone)でストライキが発生する可能性が報道され、一時TTFも3割上昇した。これらは、豪州のLNG生産能力の半分近く、また、世界のLNG生産能力の1割に相当する。オペレーターであるChevronとWoodside Energyは、誠実に労働組合と話し合いを行っているとコメントしている。

 

カタール

5月、Saad al-Kaabiエネルギー相は、適切な時期に技術的に可能であれば、NFE(North Field East)、NFS(North Field South)拡張プロジェクト完了後の126MT/yを超えて、生産を拡大する可能性について言及した。なお、サウスパースガス田の推定埋蔵量は、1,810Tcf(LNG 36,200MT相当)にのぼる。

 

ロシア

液化設備の運用方針が、ピークロードシナリオからリニアスケジュールに運用が変更されたことにより、2023年は対前年5%の生産量減少が予測されている。

2023年7月1日、サハリンII LNG(9.6MTPA)が定期修理のために停止。今後、定修明けに順調に稼動を再開できるか、状況を注視したい。

2023年上期のヤマルLNGの輸入は、1位がベルギー2.9MT、2位スペイン2.7MT、3位フランス1.5MT(2022年は、1位がフランス2.9MT、2位ベルギー1.8MT、3位スペイン1.6MT)となった。フランス受入量が減少したのは、米国LNG輸入量と同じく、受入基地でストライキが実施された影響が大きい。

2023年上期のサハリンII LNGの輸入は、1位が日本2.7MT、2位中国1.4MT、3位韓国0.9MT(2022年は、1位が日本6.7MT、2位中国2.0MT、3位韓国1.8MT)となった。

なお、2023年3月、ECは、EU加盟国と企業はロシアLNGの新規購入契約を締結すべきではないと発言。ロシアのスポットLNG調達に圧力をかける法案を検討中との情報もある。

図21.ロシアLNG輸出実績(輸入量ベース)
図21.ロシアLNG輸出実績(輸入量ベース) (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)

ナイジェリア

2022年10月の洪水によるFMと、2023年に入ってからのパイプラインの破壊行為などにより、ナイジェリアLNG(22MTPA)へのフィードガス供給は引き続き不調。2023年の生産量は対前年2MT/y減少の見込み。

図22.ナイジェリアLNG輸出実績(輸入量ベース)
図22.ナイジェリアLNG輸出実績(輸入量ベース) (出典:Kpler他よりJOGMEC作成)

 

エジプト

発電用国内ガス需要が増加したため、7月からSEGASLNG(5MTPA)、ELNG(7.2MTPA)からのLNG輸出を停止。秋以降、生産を開始するとの一報が入った。

 

ブルネイ

6月12-15日、トラブルによりブルネイLNG(7.2MTPA)が一時停止した。

ノルウェー

5月、Hammerfest LNG(4.2MTPA)で、熱交換器、および、バルブ不具合により1か月間稼働が停止した。

 

モーリタニア・セネガル

GTA FLNGプロジェクト(2.5MTPA)のスタートが、2024年に遅延する可能性。オペレーターBPと、パートナーのKosmos Energy間のLNG販売に関する係争のため。

 

参考 GIIGNL2023速報[18]

2023年7月に発表されたGIIGNL(International Group of Liquefied Natural Gas Importers:LNG輸入者国際グループ)アニュアルレポート2023によると、2022年の世界のLNG輸入量は389.2MT/yに達し、前年比16.9MT/y、4.5%増となった。

LNG輸出国は20カ国、LNG輸入国は45カ国と、それぞれ1カ国増加した。

各国のLNG輸出量は、カタールが79.0MT/y、オーストラリアが78.5MT/y、米国が75.4MT/yとなり、3か国合計で世界のLNG供給量の59.9%を占めた。4位はロシア32.1MT/y、次いでマレーシア27.6MT/y、ナイジェリア14.4MT/yとなった。米国からの輸出量は、対前年8.4MT/y、12.6%増加し、そのうち69%が欧州に輸出された。

各国のLNG輸入量は、日本が72.2MT/y、中国が63.3MT/y、韓国が47.2MT/y、台湾が20.0MT/y、インドが19.9MT/y、地域としては、欧州が119.7MT/yとなった。欧州のLNG輸入量は、対前年44.7MT/y、59.5%増加し、米国からの輸入が43.2%を占めた。アジアのLNG輸入量は、対前年20.6MT/y、7.6%減少して251.9MT/y、世界のLNG輸入量に占める割合も、2022年の73.2%から64.7%に減少した。主な輸入の減少は、中国が15.9MT/y、20.1%減、インドが4.1MT/y、17.2%減、パキスタンが1.3MT/y、15.7%減、バングラデシュが0.7MT/y、13.1%減となった。

2022年のスポット・短期取引(取引日から4年以内に引き渡された数量)は134.8MT/y(前年比-1.5MT、-1.1%)となった。これは取引全体の34.6%を占め、2021年の36.6%に続き低いレベルにとどまった。このうち、真のスポット取引(取引日から3か月以内に引き渡された数量)は、108MT、28%となった。これは、2021年の116MTから6%の減少となった。各国のスポット・短期割合は、日本が18.7%(2021年21.6%)、中国が34.7%(2021年46.5%)、韓国が28.4%(2021年35.4%)、台湾が31.3%(2021年32.0%)、インドが35.9%(2021年31.2%)、地域としては、欧州が47.4%(2021年39.0%)となった。

図23.世界のLNG貿易量とスポット・短期比率の推移
図23.世界のLNG貿易量とスポット・短期比率の推移 (出典:GIIGNL他よりJOGMEC作成)
図24.主要国・地域別LNG輸入量とスポット・短期比率
図24.主要国・地域別LNG輸入量とスポット・短期比率 (出典:GIIGNL他よりJOGMEC作成)

3. LNG利用を拡大するアジア新興需要国

今後、脱炭素の流れでリニューアブルの導入が拡大すると同時に、世界のLNG貿易量も増加する。特に、経済成長の続く東南・南アジアがLNGデマンドセンターとなる。

その間欠性を補う火力発電所の導入も増加。現在、一部で石炭回帰が広がるが、脱炭素を推進していく上では、かつて米国で実績を上げたガス・LNG火力発電の導入がアジアでの現実的な方法となろう。

メジャー各社も、一辺倒の脱化石燃料から転換し、環境負荷の少ないLNGの増産に舵を切り始めている。

 

(1) 世界のLNG需要予測

各社の中長期LNG需要予測を比較すると、IEAを除き、すべての予測が右肩上がりに2%/yから6%/yの増加を示し、2030年時点で500-600MT/yに達する見込みである。また、Rystad Energyのみ2037年にLNG需要はピークアウトするとみている。

次に、地域別に確認すると、ロシアパイプラインガス供給を代替するために、大量のLNG輸入を開始した欧州の全LNG貿易に占める割合は、2023年は3割を占めるが、その後、リニューアブル導入の増加とともに、徐々に減少。東アジアの割合も、現在の5割から、2050年には3割に減少する。

一方、東南・南アジアは、今後のLNGデマンドセンターとなる。これは、経済の拡大が継続し、再生可能エネルギーの導入を支援するための蓄電池の普及が他地域より遅れる可能性があるためである。2050年には、両地域合わせて世界のLNGの半分を輸入すると予測される。

図25.各社長期LNG需要見通し(MT/y)
図25.各社長期LNG需要見通し(MT/y) (出典:各種資料によりJOGMEC作成)
図26.世界のLNG需要予測(地域別)
図26.世界のLNG需要予測(地域別) (出典:Rystad他よりJOGMEC作成)

(2) IEA リニューアブルの季節・年次変動の管理[19]

2023年4月、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)は、リニューアブルの季節・年次変動の管理(Managing Seasonal and Interannual Variability of Renewables)を発表した。

それによると、今後、世界の発電量は大きく増加するが、エネルギーセキュリティーの改善、排出削減目標の達成等が求められる中、2025年には、リニューアブル(Variable Renewables:VRE)が石炭を抜いて世界最大の発電源となる。

2027年までに、2,400GWの新たな発電容量が追加されるが、これは、この間の世界の発電容量拡大の90%以上を占め、過去20年間のリニューアブル拡大に匹敵する量となる。リニューアブルによる発電量は38%に達する見込み。

図27.今後の発電ソース
図27.今後の発電ソース (出典:IEA)

将来、リニューアブルによる発電が発電量の70%を超える高VREモデルについて、4つの異なる気候システムに焦点をあてて検討したところ、リニューアブル発電出力の季節変動に対応するために、年間を通じて柔軟性(Flexibility)を補う必要があることが明らかとなった。

なお、温帯(乾期型/暑い夏型)、乾燥(寒冷型)、熱帯、大陸(暖かい夏型)システムの検討には、それぞれ、スペイン/日本、ペルー、コスタリカ、ポーランドのデータが用いられている。また、需要等には上記各社の予測と比べ大幅に減少するIEAのAnnounced Pledges Scenario(ネットゼロやエネルギーアクセスを含む各国の目標がすべて予定通り、かつ、完全に達成されるとした場合のシナリオ=発表済み誓約シナリオ:APS)にリンクしていることに注意が必要である。

下記赤線で示される需要と、その下の帯グラフで示されるリニューアブル発電量間のギャップ(白地)は、火力・水力発電で補完しなければならない。なかでも熱帯システムでは、雨期の発電量低下が大きく、大きな柔軟性が必要であることが示されている。

  • 温帯(暑い夏型)システムは、電力需要のピークが、夏期は冷房需要、冬期は暖房需要によってもたらされる。夏期は、太陽光発電と水力発電の利用率が高い。冬期は、平均風速が高く、電力需要のピークを満たすのに役立つ。
  • 乾燥(寒冷型)システムでは、季節ごとの電力需要は比較的平坦で、最低の月でもピーク月の88%にとどまる。太陽光発電の月間発電量は年間を通じて平準化されているが、風力発電は、年初にピークの57%まで落ち込む。
  • 熱帯システムでは、季節ごとの電力需要は比較的平準化されているが、季節風の影響が大きく、乾期には大きな余剰が生じる一方、雨期には発電量が低下し、火力発電や水力発電によってギャップを補う必要がある。
  • 大陸(暖かい夏型)システムでは、風力が冬に、太陽光が夏にピークを迎え、2つを合わせた月間発電量は、一年を通してピーク時の85%を下回ることはなく、比較的容易に季節変動を管理できる。
図28.リニューアブルからの発電ポテンシャル比較
図28.リニューアブルからの発電ポテンシャル比較 (出典:IEA)

将来の高VREモデルにおいて、従来型の火力発電所からの発電量は、全体の5-15%と小さくなるが、リニューアブルによる発電の間欠性を補う柔軟性の主な供給源となる。システムによっては、季節的柔軟性の半分から3分の2が火力発電によって供給される。

今後の火力発電設備の容量は、既存レベルで十分であるが、その稼動時間は、現在の4,000時間から、気候システムに応じて、500-2,000時間に大幅に低下する。火力発電所の平均稼働率は、大陸システムでは24%、熱帯システムでは17%、温帯システム(暑い夏)では13%、乾燥システム(寒冷)と温帯システム(乾期)では6%と低いが、電力システムに対して即座に柔軟性を供給するためには、ピーク時の需要ギャップを満たす火力発電が依然として必要である。つまり、将来の火力発電所の主な役割は、ベースロード発電ではなく、柔軟性の提供となることがわかる。

なお、稼動パターンが大きく変化するため、火力発電が提供する低コストの柔軟性を維持するために、メンテナンスやスタッフのコストを含む適切な報酬を考慮する必要がある。

最終的にネットゼロを達成するためには、化石燃料に替えて水素やアンモニアなどを使用していかなければならないが、高コストがその普及を阻んでいる。

高VREモデルにおける年間グリッド排出量は、15g-CO2/kWh(大陸)から50g-CO2/kWh(熱帯)であり、これは、現在の世界平均グリッド排出量460g-CO2/kWhと比べ、いずれのシステムでも90-97%の削減となる。温帯システムと大陸システムの変動は小さく、月別の炭素原単位はほとんど25g-CO2/kWh以下にとどまる。一方、乾燥システムでは、年初に炭素原単位の急激なピークが発生する。熱帯システムでは、雨期が長く、火力発電の負荷が大きいことや、石炭発電の比率が高いこともあり、全体の排出量が最も多くなる。

図29.電力炭素強度(月平均)比較
図29.電力炭素強度(月平均)比較 (出典:IEA)

水力発電は、火力発電に次いで、季節的柔軟性の3分の1から半分を提供する。

改造などによる発電容量の拡大も可能であるが、降水量は大きな経年変動にさらされる。数年にわたる渇水が発生した場合、これを完全に相殺することはできず、発電量の不足につながる可能性がある。最も大きな年次間変動が観測されるのは、大陸(暖かい夏型)システムの水力である。水力発電は年間発電量の14%を占め、年次変動IAV(Interannual Variability)は62%である。このシステムの水力発電は、非常に顕著な複数年のパターンを持っている。12年間のデータのうち、最初の3年間は長期平均を大きく上回る高い発電量を示したが、その後2年間は平均的な発電量に戻り、残りの7年間は連続で平均を下回る発電量となった。

図30.大陸(暖かい夏型)システムにおける水力発電量の差
図30.大陸(暖かい夏型)システムにおける水力発電量の差 (出典:IEA)

(3) 米国のCO2排出量削減(電力部門の石炭→ガス転換)[20], [21]

2007-2020年の間、米国では、9割以上が発電に使用される石炭消費をガスに転換することによって、13億tにのぼる最も多くのCO2排出量の削減がもたらされた。

この間ガスによる発電量は倍増し、総発電量の40%を占めるに至ったのに対して、石炭による発電量は48%から19%まで低下した。これは、シェールガス採掘技術の進歩によるガス価格の低下とオバマ政権の火力発電所温室効果ガス排出に対する規制により石炭火力発電コストの競争優位性がなくなったためとされている。

図31.エネルギー源別消費量割合とガス価格
図31.エネルギー源別消費量割合とガス価格 (出典:立命館大学)

ただし、2023年3月、EIAは、米国のエネルギー関連CO2排出削減量は、2030年までに2005年比で3割にとどまると予測した。パリ協定での米国の国別決定貢献量(Nationally Determined Contribution:NDC)は、GHG排出量を2030年までに2005年比で50-52%を削減する目標であった。

米国はこの遅れを、昨年施行されたインフレ削減法案(Inflation Reduction Act:IRA)によって挽回し、さらなるCO2排出量削減につなげようとしている。EIAによると、リファレンスケースにおいて、エネルギー関連CO2排出量は、2050年までに2005年比34%削減、うち電力部門からは72%の削減が可能としている。

図32.米国エネルギー関連CO2排出量
図32.米国エネルギー関連CO2排出量 (出典:EIA)

太陽光と風力による発電量はともに、2022年の15%から、リファレンスケースで、2050年までに56%に増加する。ガス火力発電量の割合は、リファレンスケースにおいて、2022年の39%から2050年には22%に減少する。一方、システムの信頼性を確保するために使用されるガスタービンは新設が目立ち、リファレンスケースのガスタービン新設容量は179GWに達する。

図33.米国発電量と発電容量(燃料別)
図33.米国発電量と発電容量(燃料別) (出典:EIA)

(4) アジアの脱炭素にはLNGが必須[22], [23], [24], [25]

地球規模での喫緊の課題である脱炭素を推進していく上では、その国その地域に最適な方法・スケジュールでの現実的なアプローチが必須である。自らを利する画一的なアプローチを強要しても非効率を生むのみであり受け入れられるものではない。アジアの国々は、まだ石炭への依存度が高いが、シェール革命後、安価に生産されるガスを最大限利用して石炭火力発電割合を大きく減らし脱炭素を進める米国の経験は、アジアにとっても有益となろう。

図34.アジア各国の1次エネルギー消費(2021年)
図34.アジア各国の1次エネルギー消費(2021年) (出典:BP他よりJOGMEC作成)

2023年4月15-16日、G7気候・エネルギー・環境相会合が札幌で開催された。会合後、西村経済産業相は、「各国にはそれぞれのエネルギーと経済の事情があり、脱炭素化への道筋は多様であると認めながら、共通のゴールを目指すことを確認できた」と述べた。さらに、5月19-21日のG7広島サミットの共同声明においては、エネルギー需給逼迫対策として、LNGへの投資が適切であることが確認された。日本はG7議長国として、これまでの一地域の部分最適をグローバルサウスを含む多くの国に画一的に求める非効率な脱炭素を脱し、今回多様で現実的な脱炭素への方向性を示す成果を上げることができたといえよう。

ここに、スポットLNG価格の高騰が暗い影を落としている。

5月、IEAは、世界エネルギー投資2023の中で、2023年の世界の石炭生産・供給への投資は、2022年の1,350億ドルから10%上昇し、この投資の90%近くはアジア太平洋地域で行われる可能性が高いと発表。特に中国とインドは、石炭生産の拡大や新しい炭鉱の開発を目指しているとした。2022年のガス・LNGをはじめとしたエネルギー価格の高騰が、安価な石炭の需要と開発を誘発したとしている。さらに、7月、2023年上期の世界の石炭需要は対前年1.5%増の47億tとなり、2023年通年の石炭消費量は過去最高を記録するだろうと発表した。

一方、メジャー各社は、環境負荷の低いLNGへの新規投資に乗り出している。

6月、Totalenergiesは、米国・Rio Grande LNGを推進するNextDecadeへの出資を決めたが、この出資により、「欧州のガス供給の安全保障が確保しやすくなるとともに、アジア顧客に石炭に代わる燃料を提供することにつながる。」と述べた。

7月、Permianベースンにおいてトップクラスの生産量を誇るChevronは、「我々はLNGビジネスを構築している最中であり、LNGは、エクイティーガス収益化に大きく貢献する。グローバルなポートフォリオプレーヤーを目指している。」と述べた。ExxonMobilは、2030年のLNG取扱量を現在の2倍の40MT/y以上に拡大し、温暖化ガス排出が少ないLNGを成長の柱に据えると述べた。Shellも2030年までにLNG生産量を11MT増やす方針で、クリーンエネルギーとして投資家にアピールしやすい側面があるという。

 

(5) 三菱重工 インドネシアとの最適電力需給シミュレーション共同研究[26]

今後、リニューアブルが増加していく段階で送電系統に大きな負荷がかかる。これは従来電力各社の専門分野ではあるが、ガスタービンを供給する三菱重工もアジアで最適電力需給シミュレーションの共同研究を実施している。

三菱重工は、インドネシア・バンドン工科大学(Institut Teknologi Bandung: ITB)と共同で、インドネシアの電力システムに関する共同研究を実施。インドネシアの電力セクターにおける脱炭素化に伴う潜在的な課題を抽出し、発電資産の最適化や代替技術の導入など、解決策を提案している。2023年7月経済産業省の質の高いインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業費補助金に応募中で、予備検討の結果は以下の通りである。

  1. 地域間送電線制約を考慮した容量計画モデルをスマトラ島とジャワ・バリ島について開発し、2060年までの脱炭素化目標(ITB案)を達成するための将来の電力エネルギーミックス案を算出。
  2. 上記案と比べ、石炭のバイオ混焼への転換やCCS技術の導入による脱炭素化加速案を提案。
  3. CCSやバイオマスの導入量上限を設定した場合、その代わりに、アンモニアや水素を導入する可能性を示唆。

三菱重工は、この経験のアジア各国への展開を計画中であるという。

図35.エネルギーミックス比較(スマトラ+ジャワ+バリ)
図35.エネルギーミックス比較(スマトラ+ジャワ+バリ) (出典:MHI)

参考 最適電力需給シミュレーションとは?

最適電力需給シミュレーションとは、電力需要を満たすための社会コストを最小化する設備構成・稼働パターンを求める計算手法である。発電設備の価値として、供給力(kW)、電力量(kWh)、調整力(ΔkW)をそれぞれ定量的に評価する。

Step1では、将来の電力需要を満たすための必要設備容量に対して、新旧技術の価格動向や各市場参加者の事業性・投資回収性、停電コスト等を考慮した総コスト最小化計算により将来の電源構成を計画する。

Step2では、Step1で導出した将来電源構成に基づき、起動停止・経済負荷配分を最適化することで、kWh・ΔkW市場価格を算出する。

Step3では、Step2で得られた電力価格に対して、収益を最大化する稼働スケジュールを求める。

最終的に、Step3の収益と、Step1で算出したkW収入を加えた将来予想収益と初期費用との比較により、投資回収性に及ぼす影響を評価する。

図36.電力市場・系統シミュレーションにおける評価フロー
図36.電力市場・系統シミュレーションにおける評価フロー (出典:MHI)
図37.電源運用シミュレーションの評価例
図37.電源運用シミュレーションの評価例 (出典:MHI)

4. 大手ガス3社の活躍

これまで日本各社は、LNGのパイオニアとして、バリューチェーンの中下流領域の省エネや効率化、脱炭素対策を含めたエネルギー・環境分野における、知識や経験・ノウハウ等を蓄積してきた。

電力・商社はもとより、ガス会社も、ガス事業の導入やLNG火力発電プロジェクトの推進において、インド・ベトナム・フィリピンなど各国で活躍中である。ここでは、以下に、大手ガス3社のアジアでのガス・LNGプロジェクト推進について、現地視察の様子をまとめる。

 

(1) 大阪ガス インド都市ガス事業にチャレンジ[27][28]

2022年11月、Osaka Gas India Private Limited(チェンナイ)を訪問。インドにおける都市ガス事業についてヒアリングするとともに、チェンナイにおけるCNGステーション、中央指令室を見学した。

 

事業ヒアリング

2019年7月、大阪ガスは、シンガポール・AG&P International Holdings Pte. Ltd(AGP・IH)と資本提携。その後AGP・IHは、政府入札を通じ、インド南部を中心に、日本の国土面積の4分の3に相当する12のエリアで、排他的なガス販売権・インフラ占有権を獲得した。2021年12月、大阪ガスは日本企業として初めてインドの都市ガス事業に参入した。

世界第3位のエネルギー消費国であるインドのエネルギー需要は今後さらに増加する見込み。インドのカーボンニュートラルは2070年目標だが、まずは2030年までの非化石電源比率40%を目指している。政府はクリーンなガスの利用拡大を推進しており、用途別に、自動車向けのCNGが7割、残りが家庭用・業務用・工業用となっている。

政府統制ガス価格は国際ガス価格ベンチマークの加重平均。4月と10月に見直される。2022年10-3月の国産ガス卸価格上限について、在来型は$6.1/MMBtuから$8.6/MMBtu、深海・高温高圧等は$9.9/MMBtuから$12.5/MMBtuへと50%引き上げられた。価格フォーミュラではさらに高くなるはずであったが、不満を呈した都市ガス事業者が委員会に働きかけ、上記価格で妥結。

事業計画が実現すれば、ガス販売量は、大阪ガス本社の半分に達する見込みである。インド経済の成長は著しい。ちょうど日本の高度経済成長時代のデジャブーを日々目の当たりにしているようで、日本のガス事業で培った知識と経験・ノウハウを有効に活用することができる。変化が激しいインドでは、臨機応変の対応が好まれ、まずはやってみる、という気質があるが、手堅さの必要な都市ガスの保安業務などには、きめ細やかな日本のPDCAサイクルが適していることが、現地でも広く認識されるに至っている。

 

CNGステーション、中央指令室見学

CNGステーションは、ガソリンスタンド併設型、自社CNGステーションの2種類に分類される。都市部では土地代が高く、ガソリンスタンド併設型となる傾向が強い。CNGの価格は基本的に自由に設定をすることができるが、競合するディーゼルの価格動向見合いで決定される(当日のCNG料金は77ルピー/kg)。

LNGは、主にインド南岸Kochi LNG受入基地(IOCL運営)からローリーで輸送。LNGアンローディングホースとBOGホースを接続し、LNGをCEタンク(56.8kl、0.4MPa)に受け入れる。その後、LNGは以下の3系統(CNG、高圧都市ガス、低圧都市ガス)で供給される。

  • プランジャーポンプ3基でLNGを25MPaに昇圧後、エアフィン型気化器によって気化しタンクに貯蔵したガスをCNGとして供給。
  • 上記25MPaガスを減圧し、TBM(tert-Butyl Mercaptan:ターシャリーブチルメルカプタン)で付臭後、4MPaガスとして幹線に送出。
  • CEタンク内LNGを気化し、近隣にガス供給(0.4MPa)。

中央指令室からSCADAで各地のステーションを遠隔監視・操作する(現地操作も可能)。現場の機器異常ログがリストアップされるが、トラブルはレベルごとに分類され、予め対応が決まっているといい、日本よりシステム化されていると感じた。各ステーションのCNG料金も近隣の燃料価格を参考に本社マーケティング部門から遠隔で入力する。LNGローリードライバーの運転状況も常時監視されており、インドにおけるデジタルの浸透を実感させられた。

図38.中央指令室全景
図38.中央指令室全景(大阪ガス現地駐在阿曽沼氏、冨田氏、AGP・IH技術部長らと)
図39 CNG供給設備
図39.CNG供給設備

参考 インドのガス・LNG事情

エネルギー利用状況
  • インドのエネルギー消費は、国内産の石炭に大きく依存。
  • 1次エネルギー消費(2021年)は、石油換算8億4,600万tで、石炭が57%、石油が27%、ガスが6%、原子力とリニューアブル合計が10%。
  • 発電設備容量(2022年末)は410GWで、石炭火力50.5%、水力11.6%、ガス火力6.1%、原子力1.7%、軽油0.1%、その他29.9%。
  • 発電電力量(2022年)は1,610TWhで、火力73.9%、水力(小型含む)10.9%、太陽光6.4%、風力4.6%、原子力2.9%、その他再エネ1.3%。
  • 輸入比率は、石炭2割、石油8割、ガスは5割。

 

ガス・LNG需要
  • 2015年から2021年にかけて、ガス消費量は3%/年で増加。LNGのシェアは、44%から52%に増加。
  • 今後、インド全土で都市ガス配給網が急速に拡大し、輸送部門のガス需要は2030年までに倍増する。
  • 産業部門のLNG使用量は着実に伸びていき、2030年には30MT/yに増加する予測。
  • 一方、家庭用・商業用需要の伸びは、配給網の最終的な接続成否に大きく依存する。
  • 石炭や再生可能エネルギーとの競合により、電力セクターのガス消費量はそれほど増加しない見込み。
  • 政府は、ガス消費について、2030年の全エネルギー消費の15%に拡大する目標を設定し、パイプライン網、LNG受入基地、CNGステーション等関連インフラを整備・拡充中。

 

国内ガス生産
  • インドのガス確認埋蔵量は1.3Tcm。2021年の生産量は対前年比20.1%増の28.5Bcm、消費量は同2.8%増の62.2Bcmである。
  • 石油・ガス輸入依存度を下げるため、価格改革や探査活動へのインセンティブなどを導入し、国産ガス増産を目指している。
  • ガス生産量は、2010年にピークアウトしいったん減少に転じたが、政府が深海や非在来など技術的難易度の高い油ガス田の販売価格引き上げなどの優遇措置を設けたことで下げ止まった。2021年にガス生産量が増加した要因は、リライアンスとBPのインド東岸ベンガル湾沖合Krishna Godavari堆積盆地の開発の影響が大きい。
  • 今後、インドの国内生産は、2025年までに3割増加しピークを迎え、その後2030年にかけて急速に減少すると予想される。
図40.インドガス生産量・LNG輸入量・ガス消費量
図40.インドガス生産量・LNG輸入量・ガス消費量 (出典:Kpler、Rystad Energy他よりJOGMEC作成)
図41.インドLNG輸入量予測
図41.インドLNG輸入量予測 (出典:Rystad Energy他よりJOGMEC作成)

 

普及エリア
  • インドでは都市ガスを普及させるために、石油天然ガス規制委員会(Petroleum and Natural Gas Regulatory Board: PNGRB) が普及エリア(Geographical Area: GA)を設定。都市ガス事業権(導管接続、CNGステーション設置)入札を複数回実施し、人口と国土面積の9割をカバーする27州および連合地域の513地区で、都市ガスネットワークを構築するライセンスを授与した。
  • 国営石油会社ではGAIL、IOC、Bharat他が、民間・外資ではAdani、AGP、IRM、Torrent等が事業権を得ている。
インフラ
  • ガスインフラの大半は、インドの西部と北部に集中し、22,000キロメートルのガスパイプラインが運用中。さらに19,000キロメートルが敷設中で、2026年にはすべての地域でガスパイプラインが接続される。
  • インドでは7つのLNG受入基地が稼動しており、受入能力は合計48MT/y。新規ターミナルも提案されている。
  • この10年で、ガスパイプラインの他、再ガス化ターミナルや国内ガス田など複数の供給源も整備され、最終的にガスグリッドが完成する予定。

 

課題
  • 石炭、電力、再生可能エネルギー、石油・天然ガス、肥料、原子力など、さまざまな省庁がエネルギー政策にかかわっているため、見解や政策が矛盾することが多い。
  • 中央政府と州からなる連邦制のため、国家レベルでのエネルギー政策や重要なエネルギー問題での合意形成が難しい。
  • 石炭埋蔵量が豊富で、安価な石炭を産出。太陽光発電の設置費用も低い。

 

大阪ガスとAGP・IH:報道より
  • 2019年7月、大阪ガスは、子会社のOsaka Gas Singapore Pte. Ltd.を通じ、AGP・IHと資本提携し、日本の官民ファンド海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)と共同で出資。
  • 2021年12月、大阪ガスは、AGP・IHがインドで行う都市ガス事業に参画し、JOINと共同でAGP持ち株会社に最大6,500万ドルを出資すると報じられた。
  • 2022年7月、資本参加したAGP・IHが現地で自動車や工場向け販売を開始し、大阪ガスがインドでのガス販売事業を本格化したと報じられた。2030年までに150カ所のガス中継基地を建設するなどインフラを整備してガス販売を増やし、総投資額は30億ドルを見込む。
図42.インド国内ガス田・ガスインフラ
図42.インド国内ガス田・ガスインフラ (出典:各種資料によりJOGMEC作成)
表1.インドLNG受入基地
表1.インドLNG受入基地 (出典:各種資料によりJOGMEC作成)

(2) 東邦ガス ベトナムCNG事業に進出[29]

2023年6月、東邦ガスと協業するPSEを訪問。ベトナムにおけるCNG事業について、現地視察、および、ヒアリングを実施した。

 

PSE

ベトナムでは今後もガスの利用拡大が見込まれている。東邦ガスは日本の都市ガス事業のノウハウを活用してPSEを通しベトナムのガス利用拡大を進める計画であり、2023年2月、40%の出資を完了した。

PSE(Phuc Sang Minh Trade Engineering Services JSC、2006年設立)は、ホーチミンを拠点として産業用需要家向けにCNG・LPGの販売、ガス設備の設計・製作・販売を行っている。100%子会社として、ガスパイプライン・減圧設備等の設計・施工・O&Mを実施するJPS(2007年設立)を保有。

従業員数150名。年間売り上げ$50M。CNG販売エリアはホーチミン・ハノイ周辺。ガス販売量70Mcm/y(2022年実績)。

2022年のベトナムの天然ガス消費量は、7.8Bcm。内訳は、発電用が5.6Bcm(72%)、工業用が1Bcm(13%)、肥料工業用が1.2Bcm(15%)。工業用のうちCNGが42%を占め、その中でのPSEのシェアは17%。

CNG価格は、FO(Fuel Oil:燃料油)リンクが多い。価格変動はLPGより小さく、夏冬差は3-5%程度。今後のガス価格について、リンクさせるFOの種類を変更する案と、ブレントとリンクさせる案、および、半年毎に改定する方向性が検討されている。

ベトナム内で操業する外国企業は、2024年から、商工省へのエネルギー使用量・CO2排出量の提出が義務化される。ベトナム企業は2026年から義務化。この他、資源環境省から、新設工場の石炭利用の禁止とガス利用の促進が通達されている。

商工省は、これまでベトナム国内563の工業団地を認可し、その内、398が既に完成。地域的には、Dong Nai、Binh Duong、Long An、Ho Chi Minh、Bac Ninhに多く、業種は、鉄鋼、科学、繊維、セラミック、食品など。今後も大きな伸びが予測されている。

CNG自動車の普及率は低く、一部バスのみ。

図43 PSE・東邦ガスとJOGMEC打ち合わせ
図43.PSE・東邦ガスとJOGMEC打ち合わせ
図44 CNG減圧装置(PSE製)
図44.CNG減圧装置(PSE製)
図45.ベトナム工業団地 
図45.ベトナム工業団地 (出典:PSE)
図46 ベトナムCNGバス(ホーチミン市内)
図46.ベトナムCNGバス(ホーチミン市内)

CNGベトナム

CNGベトナムは、国営ペトロベトナム傘下で2007年設立。これまで、ベトナム国産ガスをCNGとして周辺の工業需要家を中心に販売。PSEへもガスを供給。

2021年売り上げ275Mm3/y。2016-21年平均売り上げ増加率18%/y。顧客数120以上。

CNGマザーステーションは、ここPhu Myのほか、北部Thai Binhにもう1カ所ある。この基地では、シリンダー(韓国、中国、米国、ドイツ、日本製)121本、トレーラー(FUSO製)45台を保有。充填用アイランドは11口。コンプレッサー(イタリア、カナダ製)11台。コンプレッサー能力合計360Mm3/y、輸送能力425Mm3/y。

CNGシリンダー(6-12本1組)にガスを充填した後、トレーラー(20ft、40ft)で牽引して需要家に届け、代わりに空シリンダーを持ち帰るスキーム。250barまで充填し、20bar程度で回収する。1回のガス輸送容量は、18-40立方メートル。24時間稼働で最遠250キロメールまで日帰りで輸送。

LNG輸入後は、既設パイプライン等よるLCNG(LNGを気化したCNG)販売を計画中。

図47 CNGトレーラー
図47.CNGトレーラー
図48 CNGトレーラー充填所
図48.CNGトレーラー充填所

参考 ベトナムのガス・LNG事情

ベトナムガス概要
  • ベトナムは、過去20年間、外国企業の投資・技術導入、市場・経済改革により探鉱活動が活発化し、東南アジア有数の原油・ガス生産国となった。特にガス生産量は大幅に増加し、2015年に10.3Bcm/yを記録した。
  • ガスは8割が火力発電所向け。ベトナムの電力需要は8%/年の成長が予測されており、力強い伸びを続けるベトナム経済を支えている。
  • 2021年のガス生産量は、7.1Bcm/yまで減少。新たなガス火力発電の稼働も予定されている一方、ガス生産量は減少し新規開発も遅々として進まない中、LNGを輸入するニーズが高まっている。
  • ちなみに、ベトナムの電力系統は、北部、中部、南部の3つに分けられる。電力の90%超が北部および南部で消費され、北部では石炭火力および水力発電所が、中部では水力発電所が、南部ではガス火力発電所がそれぞれ中心となっている。

 

PDP8

2023年5月15日、ベトナムの第8次国家電力開発計画(PDP8)が承認された。2050年までに炭素排出量ネットゼロを達成することを目指すベトナムが、ガスを強力に推進することが示されている。

  • 2030年までにLNGを燃料とする電力の割合を総設備容量の14.9%以上にする。
  • 2030年までに合計22.4GW、13基のLNG発電所を新設し、2035年までにさらに2基、各3,000MWの発電所を稼動させる。
  • 運転開始後20年経過した石炭発電所をアンモニアやバイオマス混焼とする。
表2.PDP8概要
表2.PDP8概要 (出典:各種資料によりJOGMEC作成)

 

国内ガス田開発
  • 現在、南東部のCuu Long堆積盆地のBach Ho油田等からの随伴ガスと、Nam Con Son堆積盆地のLan Tayガス田等から生産されるガスが、Ba Ria Phu My発電所と工業団地での発電と肥料生産に使用されている。2020年代半ばから減退する見込み。
  • マレーシアとベトナムに跨る南西沖のPM3 CAA(Commercial Arrangement Area)で生産されるガスは、Ca Mau 電力および肥料コンビナートで使用されている。また、北部Song Hong堆積盆地Thai Binhガス田等からのガスは、Tien Hai工業地帯で利用されている。
  • 新規開発案件としては、ベトナム中部Da Nang市東南東沖80キロメートルのCa Voi Xanhガス田(オペレーター:ExxonMobil、水深240メートル、高CO2)から発電所へのガス供給と、ベトナム南西沖300キロメートルのMalay Basinに位置するBlock 52/97 とBlock 48/95 & Bの両鉱区(オペレーター:PetroVietnam、水深70-80メートル、可採埋蔵量5Tcf)の開発が計画されている。
  • ただし、新たな国内ガス田開発は、ガス販売価格が低く開発コストに見合わない他、九弾線による中国の圧力があり停滞中。
図49.ベトナムガス生産/消費量 
図49.ベトナムガス生産/消費量 (出典:Rystad Energy他よりJOGMEC作成)
LNG火力発電プロジェクト
  • ガス田開発には時間がかかる中、電力需要の大幅な伸びに対応するためにLNGの受入に期待がかかっている。現在、構想段階のものも含め、20余りのLNG受入プロジェクトが進行している。
  • 日本企業(JERA、丸紅・東京ガス、JAPEX等)もプロジェクトの実現に注力中。
  • 2020年6月、Hai Linh LNG受入基地が完成。ガス供給先であるHiep Phuoc発電所の完成を待って稼動する予定。
  • 2023年7月10日、LNG船がThi Vai LNG受入基地に着桟しスタートアップが開始。25日間で完了する予定。再ガス化ガスは、パイプラインを通じて輸送され、国内の発電所に供給される。また、CNGトレーラーによって産業用需要家にも供給される。
  • 今後の課題としては、ベトナムには、燃料費調整制度がなく、短期的にはスポットLNG等が高騰した場合の高コストが懸念される。ちなみに、長期LNG売買契約は、まだ締結されていない。また、LNG輸入ターミナルの建設、参加、運営に関する明確な法的枠組みがない点も改善が望まれる。
図50.Thi Vai LNGスタートアップ用LNG船着桟(7月10日)
図50.Thi Vai LNGスタートアップ用LNG船着桟(7月10日) (出典:PSE)
図51.ベトナムLNG輸入予測
図51.ベトナムLNG輸入予測 (出典:Rystad Energy他よりJOGMEC作成)
図52.ベトナムガス田・LNG火力プロジェクト
図52.ベトナムガス田・LNG火力プロジェクト (出典:各種資料によりJOGMEC作成)
表3.ベトナムLNG火力発電プロジェクト
表3.ベトナムLNG火力発電プロジェクト (出典:各種資料によりJOGMEC作成)
韓国のトップセールス
  • 2023年6月、韓国・Yoon大統領は、Samsung、SK、LG、Lotteを含むエネルギー複合企業の大規模な代表団を引き連れ訪越。重要鉱物の確保とエネルギー資源の共同開発に合意。
  • エネルギー部門では、GS EnergyとVinaCapitalグループが、韓国輸出入銀行(KEXIM)との間で、共同で所有するベトナムのLong An LNG-to-Powerプロジェクトに対する金融支援に関する覚書に調印するなど、ベトナムでの太陽光発電、風力発電、アンモニア混焼発電所、LNGベースの発電所を対象とした17件の予備契約が締結された。
  • この他、KOGASは、ベトナム・T&Tグループ、PV PowerとLNG火力発電プロジェクト等についての覚書を交わした。SK E &SはPetroVietnamと水素事業立ち上げについて合意した。
  • なお、ベトナムは、韓国にとって第3の貿易相手国。

 

(3) 東京ガス フィリピンLNG受入基地に参画[30][31]

2023年2月、東京ガスと協業するFirst Gen LNG受入基地他を視察。今後のエネルギー需給についてヒアリングを実施した。

First Genと東京ガスは、首都ManilaがあるLuzon島南部のBatangas市にLNG受入基地を建設した。フェーズ1ではFSRUを採用し、工期の短縮とコスト低減を達成。ガス需要が増加した段階で、陸上基地への移行も想定している。LNGローリーや小型船輸送などのスモールスケールLNGによる市場開拓も視野に入れている。主なマイルストンは以下の通り。

  • 2020年9月、DOE(エネルギー省)から建設許可を取得。
  • 2020年10月、First Gen・東京ガスが相互協力契約を締結。
  • 2021年4月、BW LNGとの間で5年間のFSRUチャーター契約を締結。
  • 2023年6月16日、FSRU BW Batangas着桟。
  • 8月1日から9月30日にかけて、スタートアップ用LNGカーゴ調達。

 

PHLNG

なお、これに先立つ4月8日、PHLNG(Philippines LNG)は、スタートアップ用LNGを受け入れた。

PHLNGは、AGP・IH(大阪ガスと国際協力銀行が出資)が建設・運営するLNG受入基地。フェーズ1は、FSU(Floating Storage Unit)と陸上再ガス化設備で構成。FSUは、タンク容量13.8万立方メートル、11年間のチャーター契約(4年間のオプション付き)。フェーズ2では、6万立方メートル x 2基の地上タンクを建設し、最終的なLNG受入能力は3MT/y。

Malampayaガス田からのガス供給契約は、2022年6月に期限を迎え停止していたが、PHLNGスタートアップ後、San MiguelのIlijanガス火力発電所(128万kW)へのガス送出を再開した。

 

First Gen LNG受入基地

First Genは、従来、火力発電で、首都Manilaの位置するLuzon島向け電力の2割を送出していた。燃料となるMalampayaガス田からのパイプラインガス供給契約は2024年までで、その後、ガス生産は大きく減退する見込みで、今回、燃料不足を補完すべく、LNG輸入プロジェクトが始動した。当初、安価であったスポットLNG市場からを想定していたが、2021年からの高騰を受け、現在、長期契約も交渉中である。

フェーズ1では、FSRUとそれに横付けするLNG船の荷重に耐えられるよう、既設液体燃料用バースに増杭、ならびに、新規プラットフォームを建設した(ドルフィン・フェンダー6基、ガスアーム3本)。その他、コントロールセンター、ガス配管、メータリングステーション等を建設。

フェーズ2では、陸上LNGタンクと極低温用アンローディングアーム等を設置する。

1-2回/年の台風が予測されるが、来襲時には、FSRUを離桟させる。避難は5日間を想定。

緊急時用として、コンデンセートやディーゼル等20日間分を備蓄しており、価格の安い燃料を選択して使用する。

Batangas港は天然の良港で、バース付近の深度は14メートル以上あり、浚渫は不要。LNG船、FSRUの離着桟用にタグボート4隻を調達。

現在、San Lorenzo(500MW)、Santa Rita(1,000MW)、Avion(97MW)、San Gabriel(414MW)の4か所のガス火力発電所が稼働中。電力需要の伸びが大きく、発電所新設を検討中。従来はピーク用であったが、電力需要の増加が著しく、現在、Avion以外はベースロード用として100%で稼動中。電力の需要変動は、市中の小型ディーゼル発電機のon/offで吸収している。

図53.First Gen LNG受入基地
図53.First Gen LNG受入基地 (出典:First Gen)

参考 フィリピンのガス・LNG事情

フィリピンのエネルギー事情
  • 2021年、石炭による発電量が最大で、62,052MWhと全体の58.5%を占める。ガスは18,675GWhと17.6%。再生可能エネルギーは23,771MWhと22.4%。
  • フィリピンの発電ソースは地域によって大きく異なっており、唯一Luzon島でガス火力発電がおこなわれている。Visayas地方とMindanao島は石炭とディーゼルに依存。
  • 2022年の川下電力契約のバスケット平均価格はPHP4.00/kWh以下。
  • DOEは、2020-40年のピーク電力需要の年間成長率を7%と予測。これを満たすためには、発電容量を2019年の22,317MWから、2040年にはその5倍以上の114,601MWへ引き上げる必要がある。
  • フィリピンでは、現在、1,060万kWの石炭火力発電が稼働中。2025年までに、さらに330万kWの石炭火力発電が稼働予定。2020年以降、石炭火力発電所の新設は停止されているが、石炭の割合は、2021年の58%から2025年には63%に拡大する見込み。2029年、石炭火力発電の出力がピークを迎え、2030年以降、ガス火力が増加していく予測。
  • 太陽光、風力、蓄電池など他の発電源も、2040年までに電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を35%にするという政府目標にあわせ拡大する見込み。

 

Malampayaガス田
  • Malampayaガス田は、Palawan沖北西50キロメートルにあるフィリピン最大のガス田。2002年生産開始。
  • Luzon島ガス火力発電所5か所(合計発電容量3,200MW)にガスを供給。
  • 20年にわたる生産の結果、残存埋蔵量が減少。生産量は2010年代前半の400MMscf/dから減少を続けており、2027年には枯渇する見込み。
  • 元々は、Shell Philippines Exploration(SPEX)とTexaco(Chevron)が各45%、Philippine National Oil Companyの上流部門PNOC-EXが10%の権益を保有し操業を継続してきたが、2019年10月、Chevronは、持ち分45%をUdenna Corpに$565Mで売却。その後、2021年11月、Prime Infra Holdingsが SPEXの経営権を取得した。
  • 鉱区ライセンスは2024年2月に失効し、その後、ガス生産量は急激に減少する見込みであったが、現参画SC38コンソーシアム(Prime Infra、Udenna、PNOC)は、上流権益の期限を延長。2027年以降も数年間は生産可能との見方を示している。
図54.Malampayaガス田生産量(実績対予測)
図54.Malampayaガス田生産量(実績対予測) (出典:DOE of Philippines他よりJOGMEC作成)

 

LNGプロジェクト
  • フィリピンには、7つのLNG輸入プロジェクトが存在。2023年、そのうち、PHLNGとFirstGen LNGが運転を開始した。
  • LNG輸入量は、徐々に増加し、2030年には3.5MT/yに達する予測。現状、LNGプロジェクトを規定する包括的な法律はなく、DOEが発行する通達のみ。2021年、上院エネルギー委員会は、LNGと中流ガス市場の規制を目的とした「Midstream Natural Gas Development Act」を提出したが、現在も審議中である。
  • スポットLNG高騰や安価な石炭火力とのコスト競争もLNG火力を拡大していく上での課題。なお、現在のMalampayaからのガス価格は、6ヶ月のラグでブレント12%連動といわれている。
図55.フィリピンLNG輸入量予測
図55.フィリピンLNG輸入量予測 (出典:Rystad Energy他よりJOGMEC作成)
表4.フィリピンLNG受入基地プロジェクト
表4.フィリピンLNG受入基地プロジェクト (出典:各種資料によりJOGMEC作成)
図56.Malampayaガス田とLNG受入基地プロジェクト
図56.Malampayaガス田とLNG受入基地プロジェクト (出典:East & West Report他よりJOGMEC作成)

参考 JOGMEC フィリピンDOE 世界のガス・LNG最新動向現地セミナーの開催

2023年2月、フィリピン・エネルギー省の依頼を受け、世界のガス・LNG最新動向セミナーを現地Manilaで開催した。フィリピンでは初受入を前に、LNGに対する関心が高まっていた。

グローバルサウスの国々は、その国の特性に合致した脱炭素の方法を模索中であるが、特に、東南・南アジアの国々にとっては、過去20年間米国で実績のあるガス、すなわち、LNG火力発電によって石炭火力への依存を低減し、CO2排出量を削減していくのが現実的な脱炭素の道筋であろう。

LNGの利用拡大は、デマンドクリエーションによってLNG供給セキュリティー向上を目指す日本のエネルギー政策の方向性と軌を一にする。

今後もアジアのLNG需要創出ビジネス、日本企業の関与につながる依頼があれば、現地でのセミナー開催を検討したい。

図57 JOGMEC現地セミナー
図57.JOGMEC現地セミナー
図58 DOE of Philippinesワークショップカリキュラム
図58.DOE of Philippinesワークショップカリキュラム

5. おわりに

今後、脱炭素の進展にともない世界の発電量は増加していく。特に、太陽光発電や風力発電等リニューアブルの導入は大きく増加し、それと同時に、その間欠性を補うガス火力発電の導入も拡大していく。

世界のLNG貿易量も増加を続ける。経済の拡大が継続する東南・南アジアは、今後LNGデマンドセンターとなり、2050年には、両地域合わせて世界のLNGの半分を輸入すると予測されている。すでにLNGを導入しているインドやパキスタン、バングラシュなどは輸入量をさらに増加させ、新たにフィリピンやベトナムなどがLNGを本格的に導入していく。

今回のロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰、特にスポットLNG価格の高騰は、アジアの新興需要国へのLNG導入を滞らせたが、米国やカタールを中心とした新規LNGの生産開始をベースとして、今回顕在化した欧州ガス需要の大幅な減退によって、いわゆるノーマルなガス・LNG市場への復帰時期は大幅に早まり、スポットLNG価格は、今後数年の内には侵攻前のレベルに落ち着く可能性が見えてきた。

好調な経済成長を続ける東南・南アジアの新興需要国にとって、脱炭素の要求に合致するLNG導入の未来は、この夏、一転明るさを増したといえよう。

これまで日本各社は、LNGのパイオニアとして、バリューチェーン中・下流領域の省エネや効率化、脱炭素対策を含めたエネルギー・環境分野における、知識や経験・ノウハウ等を蓄積してきた。一方、東南・南アジアでは、エネルギー使用量が急増する中、国内ガス生産が減退し新規開発もままならない状況にある。エネルギーの安定供給と脱炭素を同時に推進するには、日本企業の協力が必要不可欠となろう。

エネルギーセキュリティーを確保しながら、経済成長を継続し、地域に最適で現実的な脱炭素の方法を採用する基本的な考え方を守りつつ、今後は、成長著しい東南・南アジアのエネルギー市場に、環境負荷が低くリニューアブル拡大に必須となるLNGを如何に低廉・安定的に供給していけるかが問われている。

 

 

[1] 2023年6月、EIA、Short-Term Energy Outlook

[2] 2023年8月1日、Lambert Energy Advisory、European Energy Watch

[3] 2023年7月、Lambert Energy Advisory、EU gas demand fall: fair or foul?

[4] 2023年7月6日、Reuters、世界の6月平均気温過去最高更新エルニーニョで

[5] 2023年7月5日、BBC、世界の平均気温観測史上最高を記録

[6] 2023年7月25日、Platts LNG Dairy、パナマ運河7月30日より1日32隻の通過に制限

[7] 2023年7月10日、European Gas Daily、EDF河川水温上昇による原子炉制限を警告

[8] 気象庁、エルニーニョ現象発生時の世界の天候の特徴

[9] 2023年6月16日、Platts LNG Dairy、KOGASの5月のLNG販売量前年比15%減に

[10] 2023年6月19日、East & West Report、Novatek Yamal LNGからGAILへのLNG供給再開

[11] 2023年6月21日、Platts LNG Dairy、欧州市場が不安定な中アジアLNGは堅調

[12] 2023年7月4日、Platts LNG Dairy、バングラデシュFSRU政府要請でメンテナンス延期

[13] 2023年7月28日、Platts LNG Dairy、バングラデシュ選挙前にエネルギー料金を清算

[14] 2023年6月20日、NNA、タイ・ガス輸入拡大にリスク国際価格は正常化も先行き不透明

[15] 2023年6月30日、Platts LNG Dairy、オランダ当局がGroningen永久閉鎖を要請

[16] 2023年6月30日、Platts LNG Dairy、英国Rough貯蔵能力を増強

[17] 2023年5月23日、Platts LNG Dairy、カタール可能ならLNG生産量を126MT以上に

[18] 2023年7月、GIIGNL、GIIGNL Annual Report 2023

[19] 2023年4月、IEA、Managing Seasonal and Interannual Variability of Renewables

[20] 立命館大、アメリカのCO2排出量構造と排出削減に関する要因分析

[21] 2023年3月、EIA、Inflation Reduction Act Cases in the AEO2023

[22] 2023年5月、IEA、World Energy Investment 2023

[23] 2023年6月14日、Reuters、Totalenergies米LNG開発のNextDecadeに出資

[24] 2023年7月21日、Platts LNG Daily、Chevronは輸出プロジェクトより米国LNG購入を好む

[25] 2023年7月16日、ExxonMobil LNG事業拡大、30年に取扱量2倍40000万トン超

[26] 2021年、三菱重工技報No.1、電源運用シミュレーション技術を活用した発電設備の定量評価

[27] 2023年1月1日、ガスエネルギー新聞、インド成長市場でチャレンジ

[28] 2022年8月5日、JOGMEC、インドのガス・LNG需給利用促進策/日本企業等のサプライ参画

[29] 2023年7月12日、日本経済新聞、韓国ベトナム資源で連携強める

[30] 2023年7月12日、日本経済新聞、フィリピン大阪ガス出資企業がLNG燃料初輸入へ

[31] 2023年6月12日、East & West Report、フィリピンで2基のLNG輸入ターミナルが完成

 

以上

(この報告は2023年8月17日時点のものです)

 

参考資料

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