ページ番号1009870 更新日 令和5年8月29日

メタンハイドレートの長期安定生産を目指したラボの活用

レポート属性
レポートID 1009870
作成日 2023-08-29 00:00:00 +0900
更新日 2023-08-29 11:08:44 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 技術
著者
著者直接入力 安部 俊吾
年度 2023
Vol
No
ページ数 8
抽出データ
地域1 アジア
国1 日本
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アジア,日本
2023/08/29 安部 俊吾
Global Disclaimer(免責事項)

このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.

PDFダウンロード1.1MB ( 8ページ )

概要

日本周辺海域の海底面下数百メートルの砂層中において、砂層型メタンハイドレートの存在が確認されています。砂層型メタンハイドレート層から長期間、安定的にガスを取り出すことを考える上で、生産阻害要因への対策は重要な技術課題と認識されています。懸念される阻害要因には、出砂(ハイドレートの分解によって生じるガスや水と共に、地層を構成する砂粒子も生産)や、出水(想定以上の過剰な水生産)等の発生が挙げられます。機構では、これら安定的なガス生産の阻害要因への対策に関する研究を進めており、本コラムでは、ラボを活用した実験的研究を中心に、その取り組み概要をご紹介します。

 

1. メタンハイドレートの生産手法と技術課題

メタンハイドレートは、「燃える氷」と形容されるように氷のような外見をしており、低温・高圧環境下(「メタンハイドレート安定領域」という)において水分子の構成する、かご状構造の中にメタンガスを内包する結晶構造を形成し、地層中に固体として存在しています(図1)。そのため、一般的な石油・天然ガス(地層中に流体として存在)の生産とは異なり、砂層型メタンハイドレートからメタンガスを取り出すためには、メタンハイドレートをメタンガス(気体)と水(液体)に分解させ、流れる状態にする必要があります。そのためには、熱を人為的に加える、または地層の圧力を低下させるなどの手法により、メタンハイドレート安定領域から温度・圧力条件をずらすことで、ハイドレートの分解を促すことが必要になります(図2)。これまでの研究で、砂層型メタンハイドレートからガスを生産するためには、坑井を掘削した後、ポンプを用いて坑井内の水をくみ上げることで坑底圧(≒地層の圧力)を低下させ、ハイドレートを分解させる手法、すなわち「減圧法」がエネルギー効率の面からも有効であると考えられています(図3)[1]。

(図1・左)メタンハイドレート結晶構造イメージ(赤丸:水、緑三角:メタン) (図2・右)メタンハイドレートの相平衡曲線
(図1・左)メタンハイドレート結晶構造イメージ(赤丸:水、緑三角:メタン)(出所:MH21-Sホームページ)
(図2・右)メタンハイドレートの相平衡曲線(出所:MH21-Sホームページ)
(図3)減圧法イメージ
(図3)減圧法イメージ(出所:MH21-Sホームページ)

砂層型メタンハイドレートの存在する砂層は、比較的海底面からの深度も浅く未固結(ガチガチの硬い岩石になりきっていない状態)であることから、減圧法を用いて坑井内の圧力を低下させると、分解したガス・水と共に地層を構成する砂粒子も坑井に向かって流れようとします。また、メタンハイドレート層と周辺の帯水層等に存在する水が断層等何らかの流路を通じて坑井に多く流入することも考えられます。実際に、過去の砂層型メタンハイドレート生産試験において、砂粒子の坑内への流入(出砂)によりポンプでの水のくみ上げが阻害された事例や、ポンプのくみ上げ能力以上に水が坑内に流入(出水)し、充分な減圧が困難となった事例も発生しました。つまり、ガス生産量を増加させるためには基本的に減圧量を大きくすべきですが、それによる出砂・出水のリスクも考慮し、適切な設備を用いるのと同時にバランスの取れるレートでガス生産を行う必要があります[2]。

機構では、出砂・出水のメカニズムを理解するための実験や、それらにうまく対処するための研究を進めていますが、検討中の技術の現場適用に向けては、対象フィールド(有望濃集帯)の地層・温度・圧力等の条件を再現した上での実験的研究により、事前にその効果を検証することが重要です。本コラムでは、現在ラボを活用して実施している、砂層型メタンハイドレートの長期安定生産を目指した取り組みについて、ご紹介します。

 

2. 出砂への対策

坑井内への砂の流入(出砂)を防ぐため、これまでの海洋産出試験においては形状記憶ポリマーを用いたGeoFORM™や金属製のスクリーン等の出砂対策装置が設置され(図4)、一定の効果は確認されているものの出砂の発生を経験しているほか、対策装置の周辺に粒径の細かい砂粒子が集積することでメタンガスの流路を塞ぎ、ガス生産量を低下させてしまう可能性も考えられます。地層中から坑井内への砂粒子の流動挙動は、ガス生産にも大きな影響を及ぼし得るため、機構では砂粒子挙動を計算する数値シミュレータ(出砂シミュレータ)の開発を進めています(図5)[3]。砂粒子の挙動は、対象とする地層の地質性状や力学的な条件等により大きく違いが生じます。そのため、構築するシミュレータを一般化することは難しく、一部のパラメータ(変数)を対象のエリアに合わせて調整する必要があります。そこで機構では、同数値シミュレーション中で使用する力学的なパラメータを、実験的に導出すべく、対象地層の温度・圧力条件を模擬し、砂粒子の挙動を測定可能な実験装置を準備しました(図6)[4]。

図4 出砂対策装置の例
(図4)出砂対策装置の例

(出所:Baker Hughes社ホームページ:https://www.bakerhughes.com/production/sand-control/geoform-conformable-sand-management-system(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

(図5・左)出砂シミュレータ概念図 (図6・右)出砂実験装置
(図5・左)出砂シミュレータ概念図(出所:参考文献[3]中の図を加工)
(図6・右)出砂実験装置(出所:機構撮影)

対象とするフィールド(有望濃集帯)の地質的性状を模擬するためには、本来であれば実際に現場で採取した試料を活用することが効果的ですが、一般的に採取される試料の量は限定的で、他分析等にも利用されるため、力学的実験に充分な量を確保することは困難です。そこで本実験では、市販の砂を複数種類調合し、対象地層の粒度分布(どのサイズ(粒子径)の粒子が、どの割合で存在するかを示す指標)を再現することとしました。そのために、まずは採取された試料の一部について、レーザ回折式の粒度分析計(図7)を用い、その粒度分布を測定しました。本計測装置は、超音波で分散させた粒子群にレーザ光を照射させることで、回折・散乱光の強さより粒度分布を推定する仕組みです。その後、事前に用意した複数種類の砂についても、同様に粒度分析を行い計算することで、対象地層に近い粒度分布とするためにどの種類の砂をどのくらいの割合で調合すべきかを算出します。また、必要に応じて砂のふるい分けを行い、一定以下の粒子径をふるい落とすことで、より精緻に調合することが可能となります(図8)。このような作業を踏まえ、実際の試料の粒度分布を模擬した、模擬供試体の作製に必要な調合比を決定しました(図9)。

(図7・左)レーザ回折式の粒度分析計 (図8・右)振とう機
(図7・左)レーザ回折式の粒度分析計(出所:機構撮影)
(図8・右)振とう機(出所:機構撮影)
(図9)模擬供試体の調合比例
(図9)模擬供試体の調合比例(出所:実験データより機構作成)

次に、調合した砂を用いて、ゴムスリーブの中に人工的な供試体を作製します。本作業においては、一定の位置よりおもりを一定回数スライドさせる、スライドハンマーという器具を用いて作製する突き固め法同じ目開きのふるいを6段並べ、低速度でふるい落とす多重ふるい法(図10)を実験条件により使い分け、実験者に依らず近い性状の人工供試体を作製できるよう、工夫をしています。

(図10)人工供試体作製方法(左:突き固め法、右:多重ふるい法)
(図10)人工供試体作製方法(左:突き固め法、右:多重ふるい法)(出所:機構撮影)

供試体を詰めたゴムスリーブを圧力容器にセットし、通水試験を実施します。この実験装置では、最終的な目標が数値シミュレーションで使用するパラメータ導出であることを踏まえ、実験装置中の流体挙動を単純化する(簡便な物理式で表現)構成となるよう、工夫しています。また、ポンプを用いて圧力容器へ水を圧入し、ゴムスリーブの外側から供試体へ圧力を加え、またその外側に温度制御された塩水を循環させることが可能であるため、圧力と温度をそれぞれ制御することができます。このように対象地層の地下環境を実験装置内で再現した後、別のポンプを用いて、供試体内に水を圧入します。この時、水の出口側には砂回収用のボトルを設置することで砂産出量を経時的に計測可能であるほか、入口側と出口側の流体圧力についても測定しています。最初は水を低流速で送り、徐々にその流速を上昇させることで、供試体内部に生じる圧力差が次第に大きくなり、ある瞬間に砂の流動が開始します。この結果から、対象とする地層において、どの程度の圧力差が生じた時にどのくらいの量の砂が流動するのか等、数値シミュレーションにおいて重要な指標を得ることができます(図11)。さらに、試験後の供試体をX線CTスキャナ(図12)にて撮影し、供試体内部の様子を観察することで、供試体中のどの部分にて砂の流動が生じたか等の考察を加えることができます。このような室内実験を通じ、出砂シミュレータの改良を進めるほか、出砂対策に資する知見をさらに深められるよう、取り組みを継続いたします。

(図11・左)差圧と出砂量の経時変化(一例) (図12・右)X線CTスキャナ
(図11・左)差圧と出砂量の経時変化(一例)(出所:実験データより機構作成)
(図12・右)X線CTスキャナ(出所:機構撮影)

3. 出水への対策

図3の減圧法を適用することで、ハイドレート胚胎層のみならず、減圧の影響が周辺の帯水層等へも及び、過剰に水が生産される現象(出水)についても対策が必要です。機構では、出水に対しても、いくつかの対策技術について研究を進めています[2][5]。本コラムでは、水ガラス系化合物を活用した遮水技術の適用性検討についてご紹介します。水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)は、酸と反応することでゲル状に化学変化する特性が知られています。この特性を活用し、地盤の浸透率(流体の流れやすさ)を低下させたり、強度を改良することが期待され、建設業界でも利用されているほか、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)におけるCO2の漏洩対策の一つとしても検討されています[6]。機構では、水ガラスのメタンハイドレート開発における遮水剤(帯水層等からの水を流れにくくし出水を軽減するための添加剤)としての適用性を検討するため、実験的研究と数値シミュレーションの両面から評価を進めています。

実験は、人工的に作製した供試体中にゲルを発生させる前後で、浸透率がどの程度低下するかを測定することが目的です。また、ゲル化の進行状況等をリアルタイムに把握するため、X線CTスキャナの寝台上に圧力容器を設置し、浸透率の測定を行うこととしました(図13)。CT撮影を行いながら測定を行うことで、①供試体中に水ガラスが圧入され、②水で奥へ押しこみ、③酸としてCO2ガスを圧入し、供試体内部で化学反応が生じる様子を観察することができました(図14)。また、浸透率についても、メタンハイドレート対象地層の温度・圧力条件を模擬した試験において1/100程度まで低下する結果が得られたことから、メタンハイドレート開発における水ガラス系遮水剤の適用性が示唆されたと考えています[7]。引き続き、水ガラスの濃度等条件を変化させた実験を重ね、また数値シミュレーションも並行して実施することで、実現場での最適な条件等について検討を進める予定です。

(図13)X線CTスキャナ上での圧入実験の様子
(図13)X線CTスキャナ上での圧入実験の様子(出所:機構撮影)
(図14)水ガラス圧入・固化過程のCT写真
(図14)水ガラス圧入・固化過程のCT写真(出所:実験データから機構作成)

4. おわりに

本コラムでは、砂層型メタンハイドレートの長期安定生産に向けた課題と、その対策技術開発のために機構TRCのラボを活用し実施している実験的研究について紹介しました。技術開発において、数値シミュレーションでは長期的な挙動を短時間かつ様々な条件に対して計算することができますが、ラボでの実験は、現象の可視化や、新たな課題の発見、シミュレーション結果の検証等に役立つため、シミュレーションと並行して実施することが非常に有効です。機構では引き続きラボを活用しながら、効果的に研究を進めてまいります。

また、MH21-S研究開発コンソーシアムでは、国の「第4期海洋基本計画」(令和5年4月28日閣議決定)および経済産業省の令和5年度改定見込みの「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」に基づき、将来の商業生産を目指した技術開発を進めていきます。2030年度までに民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトが開始されることを目指して、2019年度に始まった「フェーズ4」の研究開発事業を引き続き実施していく予定です。

 

参考文献

[1] MH21-S研究開発コンソーシアム: https://www.mh21japan.gr.jp/

[2] 安部俊吾, 2022: ジオメカニクス及び出砂対策の検討, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構令和3年度石油天然ガス開発技術本部年報, 105-108

[3] Uchida S, et al., 2016: Sand production model in gas hydrate-bearing sediments, International Journal of Rock Mechanics & Mining Sciences, 86, 303–316

[4] Abe S. et al., 2023: Experimental study on sand production from confined sand specimen under one-dimensional flow condition, 10th International Conference on Gas Hydrates (ICGH10)

[5] 有馬雄太郎 他, 2022: 遮水剤を用いた出水対策スタディ, 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構令和3年度石油天然ガス開発技術本部年報, 109-111

[6] Ito T, et al.,2014: Possibility to remedy CO2 leakage from geological reservoir using CO2 reactive grout, Int. J. Greenhouse Gas Control, 20, 310-323

[7] 安部俊吾 他, 2023: メタンハイドレート生産中の出水トラブルに対する水ガラス系遮水剤の適用性検討, 石油技術協会誌2023, 88(1), 48-54

 

以上

(この報告は2023年8月29日時点のものです)

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。