ページ番号1009883 更新日 令和5年11月13日
原油市場他:サウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産の2023年末までの延長発表等で2022年11月上旬以来の高水準に到達する原油価格
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概要
- 米国では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了でガソリン需要が落ち込んだことからガソリン在庫は増加、平年幅上限を超過する量となった一方、7月下旬を中心とした時期の米国留出油在庫減少による採算性の改善により留出油生産が上向き気味となったことで留出油在庫も増加したが平年幅下方付近に位置する量となっている。また、高水準の原油輸出が継続したこともあり、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を上回る状態は維持されている。
- 2023年8月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、ブレントがWTIに対し価格面で割高になったこともあり、欧州への米国等からの原油の流入が活発化したものと見られることもあり、欧州での在庫は増加となった。しかしながら、米国や一部製油所が操業停止に向かいつつあった日本において、原油在庫が減少したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では製油所の原油精製処理活動が活発化するとともに石油製品の製造が促進されたこともあり石油製品在庫は若干ながらではあるが増加した。また、日本においては暖房シーズンに伴う需要期ではなかったことから灯油の在庫が積み上がったこと等もあり石油製品在庫は増加となった。さらに、米国においても暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加等により、石油製品全体の在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている。
- 2023年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場においては、8月中旬から下旬にかけては、中国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念等が原油相場に下方圧力を加えた反面、中国政府等による景気刺激策実施の動きが見られるようになったことによる同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待等が原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格(WTI)は1バレル当たり78~83ドル程度の比較的限られた範囲で方向感のない展開となった。しかしながら、サウジアラビアが自主的な原油追加減産を2023年末まで3ヶ月間延長する旨9月5日に報じられたことで、この先の石油需給引き締まりを市場が意識したこと等から、8月末以降原油価格は上昇基調となり、9月15日は1バレル当たり90.77ドルと2022年11月7日以来の高水準に到達した。
- 夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要が意識されるには時期尚早であることから、当面原油相場には下方圧力が加わりやすいものの、冬場の暖房シーズンを控えて在庫が低水準となっている留出油の需給引き締まり感が市場で強まることがありうることに加え、サウジアラビア等が先制的に石油需給の引き締めを実施しようとするとの観測も市場で根強いことや、中国政府等による景気刺激策の実施による同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が増大すること等が原油相場に上方圧力を加える可能性がある。このような中、米国金融当局による政策金利を巡る判断もしくは考え方に加え、米国主要企業の2023年7~9月期等の業績と米国株式相場の変動具合、西側諸国等とイランとの関係を巡る動向とイランの原油生産状況等の要因が原油相場に影響を与えるものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2023年6月の米国ガソリン需要(確定値)は日量928万バレル、前年同月比で2.3%程度の増加となり(図1参照)、5月の当該需要である同911万バレルから需要量は上振れした他同月の前年同月比の増加率である0.2%程度の減少から増加に転じた。ただ、当該需要は速報値(前年同月比3.0%程度増加の日量934万バレル)からは若干ながら下方修正されている。5月29日の戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴う連休(5月27~29日)を以て米国は夏場のドライブシーズンに突入したこともあり6月は前月比で個人の外出が活発化、6月の同国自動車運転距離数は1日当たり94億マイルと5月の同93億マイルから拡大したことが、6月の同国ガソリン需要の前月比での増加をもたらしたものと見られる。また、2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻により、原油価格とともに米国ガソリン小売価格が上昇、2022年6月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり5.032ドルと1993年4月以降の米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)全米平均ガソリン小売統計史上最高水準に到達したことが、同月の同国における個人の乗用車を利用した外出を敬遠させる形で作用した一方、2023年6月の全米平均ガソリン小売価格は同3.684ドルと前月(同3.666ドル)とほぼ同水準となった他前年同月の水準を31%程度下回るなどガソリン小売価格が割安となったことから、同国の自動車による個人の外出が喚起されるとともに同月の米国自動車運転距離数が前年同月比で3.0%の伸びとなったことが、6月の米国ガソリン需要の前年同月比の増加率に反映されているものと考えられる。なお、2023年6月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染流行前の2019年6月の当該需要(日量970万バレル)(確定値)を4.4%程度下回っている。他方、2023年8月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量906万バレル、前年同月比で0.6%程度の減少となっており、7月の当該需要(速報値)である日量891万バレルから需要量は増加したものの同月の前年同月比1.1%程度の増加から一転して減少した。7月の米国自動車運転距離数は1日当たり93億マイルと6月から1.8%程度の減少となった一方7月のガソリン需要は6月から4.7%程度の減少と、7月の米国自動車運転距離数の前月比での減少率に比べガソリン需要の前月比での減少率が大きくなった反動が、8月のガソリン需要が7月比で増加した格好となって現れているものと見られる。しかしながら、8月のガソリン小売価格は1ガロン当たり3.954ドルと7月の同3.712ドルから上昇した他、前年同月の水準(同4.087ドル)に接近するなど、同国ガソリン小売価格の割安感が薄れ始めた(一方で、2022年8月はガソリン小売価格が前月(同4.668ドル)から大幅に下落したこともあり、かえって自動車による運転が促進される格好となった)ことが、8月の同国ガソリン需要を抑制した結果、当該需要が前年同月比で減少したものと考えられる。なお、2023年8月の米国ガソリン需要は2019年8月の当該需要(日量983万バレル)(確定値)を7.8%程度下回っている。また、米国では8月25日朝(現地時間)に米国中堅石油会社マラソン・オイルの操業するゲーリービル(Garyville)製油所(原油精製処理能力日量59.6万バレル)の貯蔵タンクで火災が発生したことに加え一部製油所において措置の不具合が発生したことにより操業に支障が生じた結果、原油精製処理活動がもたつき気味となる(図2参照)場面が見られた。このため、そのような製油所における原油精製処理活動にガソリン製造も影響を受けたものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ことに加え、特に9月4日の同国労働者の日(レイバー・デー)に伴う連休(9月2~4日)を控えた8月下旬から9月初頭にかけてはガソリンの自動車への給油が活発化したものと見られることによりガソリンの出荷が促されたこともあり、8月上旬から9月初頭にかけての同国におけるガソリン在庫は減少傾向となった。しかしながら、9月2~4日の連休後は、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、同国のガソリン出荷が落ち込んだこともあり、ガソリン在庫が相当程度増加したことから、9月上旬後半時点の米国ガソリン在庫は8月上旬時点の水準を超過する状態となった他、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2023年6月の米国留出油需要(確定値)は日量396万バレルと前年同月比で2.3%程度の減少となり(図5参照)、5月の同393万バレル(前年同月比1.4%程度の増加)から需要量はほぼ同水準であったが前年同月比では減少となった。ただ、当該需要は速報値(前年同月比横這いの日量365万バレル)からは上方修正されている。2022年6月は全米平均軽油価格が1ガロン当たり5.754ドルと、1994年4月以降のEIA全米平均軽油小売価格統計史上最高水準に到達したことが同月の同国の軽油需要を抑制した側面はあるものの、むしろ米国における物価上昇の継続及び金融当局による一連の金融引き締め政策が経済活動に影響を及ぼした結果、2022年11月以降同国の物流活動が大半の月において前年同月比で減少となった他、2023年6月の同国鉱工業生産も前年同月比で0.3%の減少となった(同年5月は同0.0%の増加であった)ことが、2023年6月の同国留出油需要の前年同月比での減少に織り込まれているものと考えられる。なお、6月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量399万バレル)(確定値)を0.9%程度下回っている。他方、2023年8月の米国留出油需要(速報値)は日量376万バレルと前年同月比で4.5%程度の減少となり、7月の当該需要量(速報値)の日量359万バレル(前年同月比3.5%程度の減少)から需要量は増加したものの、前年同月比の減少率は拡大した。8月は米国で一部穀物の収穫が開始されつつあったこともあり農機具稼働のための軽油需要が喚起され始めていると見られることが8月の留出油需要が前月比で増加した背景にあるものと考えられる。ただ、8月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり4.370ドルと7月の同3.882ドルから大幅(12.6%)に上昇、前年同月(同5.013ドル)の水準を下回る割合も12.8%と7月の29.2%から相当程度縮小したことが軽油需要を抑制しているものと見られることが8月の同国軽油需要の前年同月比での減少に寄与している部分があるものと考えられる。もっとも、8月の米国鉱工業生産は前年同月比0.2%の増加と6~7月の前年同月比での減少から増加に転じていることもあり、この面では同国の産業部門での留出油需要を押し上げる方向で作用している可能性があることから、8月の米国留出油需要は速報値から確定値に移行する際に上方修正されるか、ないしは反動で9月の当該需要が底上げされると言った展開となることもありうる。なお、2023年8月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量403万バレル)(確定値)を6.6%程度下回っている。また、7月前半から8月前半にかけ米国留出油在庫が減少傾向となったこともあり、製油所における留出油製造を巡る採算性が改善したことにより、製油所での留出油生産も若干ながら上向き気味となった(図6参照)ことから、8月上旬から9月上旬にかけての米国留出油在庫は増加傾向となったが、平年幅下方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2023年6月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.4%程度増加の日量2,072万バレルとなり(図8参照)、5月の同2,040万バレルから需要量は増加したが、同月の前年同月比2.8%程度の増加から増加率は縮小した。夏場の行楽シーズン突入に伴い個人の外出が活発化したことから、6月のガソリン及びジェット燃料需要が前月比で増加したことが同月の同国石油需要の前月比での増加に寄与している。しかしながら、6月の留出油需要が前年同月比で減少(5月は増加)していたことが同月の同国石油需要の前年同月比での伸びの縮小をもたらした一因となったものと考えられる。ただ、留出油需要が速報値から確定値に移行する際に上方修正されたこともあり、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比0.8%程度増加の日量2,060万バレル)から上方修正されている。なお、2023年6月の米国石油需要は2019年6月の当該需要(日量2,065万バレル)(確定値)を0.3%程度上回っている。他方、2023年8月の米国石油需要(速報値)は日量2,108万バレル、前年同月比で4.0%程度の増加となっており、7月の同国石油需要(速報値)である日量2,031万バレル、前年同月比1.9%程度の増加から、需要量及び前年同月比での増加率が拡大している。ガソリン、留出油及びその他の石油製品需要が前月比で増加したことが米国石油需要の前月比での増加の一因となった一方、その他の石油製品の前年同月比での増加が相当程度拡大したことが8月の米国石油需要の前年同月比での増加率拡大に影響した格好となっている。もっとも、8月のその他の石油製品は日量539万バレルと2022年7月~2023年6月の当該需要(確定値)である日量373~467万バレルと比較しても突出して多いことから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正される可能性があるので注意が必要であろう。なお、2023年8月の米国石油需要は、2019年8月の当該需要(日量2,116万バレル)(確定値)を0.4%程度下回っている。また、8月上旬から9月上旬にかけ米国の原油生産量は日量1,260万バレルから同1,290万バレルへと増加した一方で同国製油所の原油精製処理量は概ね限られた範囲内で推移したが、7月1日から8月末の予定で実施されていたサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産を9月も実施する旨8月3日に国営サウジ通信が報じた他、当該減産実施を12月末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が伝えたこともあり、OPECプラス産油国からの原油供給変動の影響を米国より受けやすい欧州において石油需給引き締まり感が強まったことで、欧州の指標原油であるブレントが米国の指標原油であるWTIよりも相対的に割高となる状態が継続したこともあり、米国からの原油輸出が概ね高水準の状態を保ったことから、8月上旬から9月上旬にかけての同国の原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年幅下方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2023年8月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、6月4日にサウジアラビアが7月1日から1ヶ月間に渡る日量100万バレルの自主的な原油の追加減産実施を表明した他7月3日は当該措置を8月に延長する旨報じられたことに加え、7月3日にロシアのノバク副首相が8月に日量50万バレルの石油輸出の削減を表明したことで、米国等に比べ欧州の石油需給引き締まり感が強まったことにより、欧州の指標原油であるブレントの価格が米国の指標原油であるWTIの価格に対し割高な状態が継続したこともあり、欧州への米国等からの原油の流入が活発化したものと見られることから、8月の同地域の製油所における原油精製処理量が前月比で増加したにもかかわらず、欧州では在庫は増加となった。しかしながら、原油が相当程度輸出された米国や秋場のメンテナンス作業実施によるものを含め一部製油所が操業停止に向かいつつあった日本で原油在庫が減少したことにより相殺されて余りあったことから、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州では夏場のドライブシーズンに伴う乗用車向けのガソリンや軽油の需要が季節的に盛り上がったものの、製油所の原油精製処理活動が活発化するとともに石油製品の製造が促進されたこともあり、ガソリンや中間留分を中心として石油製品在庫は若干ながらではあるが増加した。また、日本においては、暖房シーズンに伴う需要期ではなかったことから灯油の在庫が積み上がったこと等もあり石油製品在庫は増加となった。さらに、米国においても、暖房シーズンが終了したことによるプロパン需要の低下に伴う当該製品在庫の増加や、冬用ガソリンの利用時期終了に伴う、当該製品に混入していたブタンの需要減少による、その他の石油製品在庫の増加により、石油製品全体の在庫は増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2023年8月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.2日と7月末の推定在庫日数(61.1日)から若干ながら増加している。
8月9日に1,300万バレル強程度の水準であった、シンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は8月16日には1,300万バレル弱程度、8月23日には1,200万バレル台後半程度の、それぞれ量へと減少、前年同期の水準を相当程度下回ることとなった。しかしながら、8月30日には1,300万バレル弱程度、9月6日には1,300万バレル台後半程度の、それぞれ水準へと回復した。ただ、9月13日には1,200万バレル台前半程度の量へと減少した結果、8月9日の水準を下回る状態となっている。春場のメンテナンス作業を実施していたアジア地域の製油所の大部分が作業を終了し稼働を再開したことにより夏場においてはガソリン製造活動が活発化したこともあり、アジア地域においてガソリンを含む軽質留分の供給が拡大した一方、8月末頃までは同地域に夏場のドライブシーズンが到来していたことによりガソリン需要が季節的に増加したことで、また、9月初頭以降は秋場の製油所メンテナンス実施時期に突入しつつあったことから国外からのガソリン輸入等が活発化するとともに国外へのガソリン輸出等が不活発となったものと見られることで、それぞれ相殺されたことが、シンガポールの軽質留分在庫の変動をもたらすとともに在庫増減に関し明確な方向感を創出しない格好となったものと考えられる。そして8月中旬から下旬にかけシンガポールの軽質留分在庫が低迷したことに加え、当初8月中旬にも800~900万トン程度の量が付与されると言われていた中国石油会社に対する2023年第3回の石油製品輸出枠がなかなか付与されなかったこともあり、中国から国外に向けたガソリン供給が抑制されることに伴うアジア市場におけるガソリン需給引き締まり感が市場で意識されるとともに当該製品価格に上方圧力が加わったうえ、米国で製油所の装置の不具合等により操業に支障が発生したことに伴いガソリン製造に影響が生じるとの懸念が市場で強まったことにより同国ガソリン価格が上昇した影響がアジア市場のガソリン価格にも及んだこと等から、同時期ガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、9月に入ると夏場のドライブシーズンが終了するとともに季節的なガソリン需給の緩和感を市場が意識し始めたことに加え、中国石油会社7社に対し2023年第3回の石油製品(低硫黄重油を除く)輸出枠1,200万トン(これとは別に低硫黄重油輸出枠300万トン)が付与された(9月1日に伝えられる)ことにより、今後中国からのガソリンを含む石油製品の輸出が活発化するとの観測が市場で広がったことがガソリン価格に下方圧力を加えたことから、ガソリンとドバイ原油の価格差は縮小している。
他方、2022年終盤に厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が事実上解除された中国では、製造業回復のもたつきが継続する一方感染抑制策解除からしばらくの間は好調であった非製造業も失速しつつあるうえ、住宅建設等の際に石油化学製品を多用するとされる不動産開発が停滞しているように見受けられるなど、同国経済が伸び悩み気味であることが、同国における石油化学製品需要を抑制する一方、2023年に入り中国国内におけるナフサ分解装置(及びプロパン脱水素化装置(PDH))の稼働率が上昇しつつある(ナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入した原油を精製することにより製造されているものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入を限定する格好となっている(2023年7月の同国のエチレン輸入量は約18万トンと直近のピーク時である2019年1月(約29万トン)の約3分の2程度の規模となっている)。このようなこともあり、アジアにおける石油化学部門の原料としてのナフサ需要が盛り上がらないことが、アジア市場のナフサ価格に下方圧力を加えた。しかしながら、シンガポールの軽質留分在庫が低迷するとともに夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期においてガソリンに混入するナフサの需要は比較的堅調であった一方、中東やインドにおいて製油所の装置に不具合が発生したとされることから、ナフサの供給低下懸念が市場で増大するとともにアジア市場のナフサ価格が下支えされる格好となった。このような中、8月中旬から下旬にかけては、原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かなかったこともあり、アジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、9月に入ると、原油価格の上昇にナフサ価格の上昇が追い付かなかったうえ、夏場のドライブシーズンが終了したことにより、ガソリンに混入するナフサの需要も減退し始めたことが、ナフサ価格に下方圧力を加え始めたことから、ナフサとドバイ原油の価格差は拡大している。
8月9日には700万バレル程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、8月16日には、700万バレル台半ば程度、8月23日には800万バレル台後半程度の、それぞれ水準へと上昇した。8月30日には800万バレル弱程度の量へと減少したものの、9月6日は800万バレル台後半程度、9月13日には900万バレル強程度の水準へと、それぞれ回復している。アジア諸国における春場の製油所のメンテナンス作業は概ね終了したことにより、製油所での中間留分の生産は活発化した。また、減少傾向となっていた欧州軽油在庫が7月後半以降下げ止まったことにより同地域での軽油需給の引き締まり感が後退した一方、シンガポールの中間留分在庫は8月上旬末頃まで減少傾向が継続したこともあり、欧州における軽油価格のアジアの軽油価格に対する割高感が低下するとともに、アジア諸国・地域から欧州方面への軽油の流出が不活発となった一方、シンガポール方面に軽油が流入し始めたことが、シンガポールにおける中間留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そして、このような在庫増加がアジア市場の軽油価格に下方圧力を加え始めた。しかしながら、8月中旬から下旬にかけては、欧州、中東及びインド等において製油所の措置不具合等が発生したことに伴い中間留分供給への支障に対する懸念が市場で増大したうえ、中国における第3回の石油製品輸出枠の付与がなかなかなされない状況となっていたことにより中間留分需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、原油価格の下落に軽油価格の下落が追い付かなかったこともあり、軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)拡大する場面が見られた。それでも9月上旬に入るとシンガポールにおける中間留分在庫増加に伴う軽油価格への下方圧力の増大に加え、中東等において空調のための電力供給向けの発電部門における軽油需要の低下に伴う同地域からの軽油輸出増加観測が市場で発生した他、中国石油会社に対し2023年第3回の石油製品輸出枠が付与されたうえ、原油価格の上昇に軽油価格の上昇が追い付かなかったこともあり、軽油とドバイ原油との価格差は縮小する傾向を示した。それでも、9月中旬には秋場のアジア諸国のメンテナンス作業実施に伴い製油所の軽油生産減少に備えた国外等からの軽油購入の関心が高まったことが、アジア市場での軽油需給引き締まり感を醸成させるとともに軽油価格に上方圧力を加えたことから、軽油とドバイ原油の価格差は拡大する様相を呈している。
8月9日に2,000万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、8月16日には2,000万バレル台強程度の量へと減少した。8月23日には2,200万バレル台強程度の水準へと回復したものの、8月30日には2,000万バレル弱程度、9月6日には1,900万バレル台半ば程度の量へと、それぞれ減少した。しかしながら、9月13日には2,000万バレル台後半程度の水準へと回復した結果、8月9日の量を上回る状態となっている。アジア地域で夏場の気温上昇に伴う空調のための電力供給向けの発電部門における重油需要が拡大する一方、7月1日以降サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な原油の追加減産を実施し始めたことから採算性の劣後する(そして重油を相対的に多く製造するとされる)重質高硫黄原油の供給が削減されたものと見られることにより、7月に入り欧州における重油在庫が減少し始めたこともあり、欧州の重油価格がシンガポールの重油価格に比べ割高感が発生したことにより、欧州方面からシンガポール方面への重油の供給が抑制されたことが、8月上旬から9月上旬にかけてのシンガポールでの重油在庫減少の一因となったものと考えられる。しかしながら、9月に入ると気温が低下し始める結果空調のための電力供給向けの発電部門における重油需要が減退するとの展望が市場で開けるとともに、シンガポールからの重油輸出が不活発になり始めたことが、9月中旬の同地での重油在庫を押し上げる格好となっている。そして8月上旬から下旬にかけては、シンガポールにおける重油在庫が減少したことがアジア市場における重油価格に上方圧力を加えたうえ、ドバイ原油価格の下落に重油価格の下落が追い付かなかったことから、アジア市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は縮小する傾向を示した。しかしながら、9月に入ると中東での空調向けの電力供給のための発電部門での重油需要が峠を越えたとの観測が市場で広がったうえ、ドバイ原油の上昇に重油価格の上昇が追い付かなかったこともあり、高硫黄重油とドバイ原油との価格差は拡大する傾向を示した。また、低硫黄重油については、8月においては、クウェートのアル・ジュール(Al Zour)製油所(原油精製処理能力日量61.5万バレル)からの当該製品受入がシンガポールでほぼ皆無となった(装置の不具合発生に加え気温上昇に伴う水不足等の影響で製油所の稼働が低下した他、国内の空調のための電力供給向けに発電部門での低硫黄重油需要が拡大したことによるものと見る向きもある)こともあり、需給の引き締まり感を市場が意識したうえ、ドバイ原油価格の下落に低硫黄重油価格の下落が追い付かなかったこともあり、8月中旬から下旬にかけてのアジア市場での低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大傾向となった。しかしながら、9月初頭にはクウェートのアル・ジュール製油所からの低硫黄重油がシンガポールに到着し始めるなど、供給が行なわれ始めた他、ドバイ原油の上昇に低硫黄重油価格の上昇が追い付かなかったこともあり、低硫黄重油とドバイ原油の価格差は縮小する傾向を示した。
2. 2023年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場等の状況
2023年8月中旬から9月中旬にかけての原油市場においては、8月中旬から下旬にかけては、軟調な経済指標類や中国不動産会社の経営不振の情報により欧米諸国及び中国経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念等が原油相場に下方圧力を加えた反面、中国政府等による景気刺激策実施の動きが見られるようになったことによる同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待等が原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格(WTI)は1バレル当たり78~83ドル程度の比較的限られた範囲で方向感のない展開となった。しかしながら、8月末にはOPECプラス産油国が新たな減産措置の実施で合意した旨の情報が流れた他、7月から9月末の予定で実施されていたサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な原油追加減産を2023年末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が報じたことで、この先の石油需給引き締まりを市場が意識したこと、9月15日に発表された8月の中国の鉱工業生産、小売売上高が市場の事前予想を上回って増加していた他同月の同国製油所の原油精製処理量が史上最高水準に到達したことにより同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で発生したこと等が原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格は上昇基調となり、9月15日は1バレル当たり90.77ドルと2022年11月7日以来の高水準に到達した(図15参照)。
8月14日は、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、中国大手不動産会社碧桂園(2023年1~6月期純利益が450~550億元(約9,000億~1.1兆円)の損失となったものと見られる旨8月10日に発表していた)が9月2日償還予定の社債の償還期限の3年延長を一部保有者に要請している旨この日報じられたことにより、同国の不動産部門を中心とした経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したこと、中国経済に対する不安から安全資産である米ドルの購入が進んだ他、8月11日に米国労働省から発表された7月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比0.8%の上昇と6月の0.2%(改定値)から上昇率が拡大した他、市場の事前予想(同0.7%上昇)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大した流れを8月14日の市場が引き継いだこともあり、米ドルが上昇したこと、7月13日に原油漏洩の恐れから原油の出荷を見合わせていたナイジェリアのフォルカドス(Forcados)原油ターミナル(原油出荷能力日量22.5万バレル)からの原油の出荷が8月13日に再開された旨8月14日に操業者のシェルが発表したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.68ドル下落し、終値は82.51ドルとなった。また、8月15日も、この日中国国家統計局から発表された7月の同国鉱工業生産が前年同月比3.7%の増加と6月の同4.4%増加から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同4.3~4.4%の増加)を下回ったうえ、7月の同国小売売上高が同2.5%の増加と6月の同3.1%の増加から伸びが縮小した他市場の事前予想(同4.0~4.5%の増加)を下回ったこと、2023年1~7月の同国固定資産投資が前年同期比3.4%の増加と市場の事前予想(同3.7~3.8%の増加)を下回ったこと、米国大手金融機関JPモルガン及び英国大手金融機関バークレイズが2023年の中国経済成長見通しを従来の5.0%及び4.9%から引き下げ、それぞれ4.8%及び4.5%とした旨8月15日に明らかにしたこともあり、同国経済減速と石油需要伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、8月15日に米国商務省から発表された7月の同国小売売上高が前月比で0.7%の増加と6月の同0.3%増加(改定値)から伸びが拡大した他、市場の事前予想(同0.4%の増加)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き下げ期待が市場で後退したうえ、8月15日に米国格付け会社フィッチ・ソリューションズがJPモルガン等の一部米国大手金融機関の格付けを引き下げる可能性がある旨示唆したこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.99ドルと前日終値比で1.52ドル下落した。さらに、8月15日に中国国家統計局から発表された7月の同国鉱工業生産や小売売上高の前年同月比の増加率が6月から縮小した他市場の事前予想を下回ったうえ、2023年1~7月の同国固定資産投資の増加率が市場の事前予想を下回ったこと、米国大手金融機関JPモルガン及び英国大手金融機関バークレイズが2023年の中国経済成長見通しを下方修正した旨8月15日に明らかにしたこともあり、同国経済減速と石油需要伸びの鈍化懸念が増大した流れを8月16日の市場が引き継いだことに加え、8月16日に公表された米国連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(7月25~26日開催分)において、物価上昇加速のリスクが相当程度あり、さらなる金融引き締めの実施が必要となる可能性がある旨多くの委員が認識していた旨明らかになったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大したことにより米ドルが上昇した他、政策金利引き上げに伴う同国経済減速懸念が市場で増大したこともあり同国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.61ドル下落し、終値は79.38ドルとなった。この結果原油価格は8月14~16日の3日間で1バレル当たり合計3.81ドル下落した。しかしながら、8月17日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、中国の不動産業界に対する政策を最適化するとともに、消費の促進及び安定した投資の実施等のための金融政策を実施する方針である旨8月17日に中国人民銀行が明らかにしたことにより、同国金融当局による政策を通じ同国経済が回復するとともに石油需要の伸びが加速することに対する期待が市場で増大したこと、これまでの上昇に対する利益確定の動きから米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.01ドル上昇し、終値は80.39ドルとなった。また、8月18日も、この日米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働が同日時点で520基と前週比5基減少、2022年3月4日(この時は519基)以来の低水準に到達(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は508基と前週比4基減少、2022年3月18日(この時は507基)以来の低水準に到達)している旨判明したことにより、この先の同国原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.25ドルと前日終値比で0.86ドル上昇した。この結果原油価格は8月17~18日の2日間で1バレル当たり合計1.87ドルの上昇となった。
ただ、8月21日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、8月1~20日のイランの原油輸出量が日量220万バレルと2023年初頭以降で最高水準に到達した旨8月21日にブルームバーグ通信が報じたことにより同国の原油輸出活発化に伴う世界石油需給緩和感を市場が意識したこと、8月21日に中国人民銀行(中央銀行)が8月の1年物最優遇貸出金利を7月の3.55%から0.10%引き上げ3.45%にした一方5年物最優遇貸出金利を4.20%と据え置く旨発表したものの市場の事前予想(5年物最優遇貸出金利を0.15%引き下げ、一部市場関係者は1年物最優遇貸出金利も0.15%引き下げと予想)程引き下げられなかったことにより、同国の景気刺激方針を疑問視する見方が市場で増大するとともに同国石油需要の伸びの鈍化観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり80.72ドルと前週末終値比で0.53ドル下落した。また、8月22日も、この日の米国原油先物9月渡し契約取引終了を控えた持ち高調整が市場で発生したことに加え、米国格付け会社S&Pグローバルが資金調達費用の増大を理由としてキーコープを含む同国中堅銀行5行の格付けを引き下げたこともあり米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.37ドル下落し終値は80.35ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2023年9月渡し原油先物契約は取引を終了したが、10月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり79.64ドル(前日終値比同0.48ドルの下落)であった)。さらに、8月23日も、この日S&Pグローバルから発表された8月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)(50が域内経済拡大及び縮小の分岐点)が47.0と7月の48.6から低下、2020年11月(この時は45.3)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(48.5~48.6)を下回ったことうえ、同日S&Pグローバルから発表された8月の米国総合PMIが50.4と7月の52.0から低下、2023年2月(この時は50.1)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(51.5)を下回ったことにより、欧米諸国の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことに加え、8月23日にEIAから発表された米国石油統計(8月18日の週分)でガソリン在庫が前週比147万バレルの増加と市場の事前予想(同90万バレル程度の減少)に反し増加している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.89ドルと前日終値比で1.46ドル下落した。この結果原油価格は8月21~23日の3日間で1バレル当たり合計2.36ドルの下落となった。しかしながら、8月24日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、同日時点のアムステルダム、ロッテルダム及びアントワープ(ARA)地区の軽油在庫が前週比で3%減少した旨オランダ石油産業調査会社インサイト・グローバルが発表した旨同日報じられたことにより欧州の石油需給引き締まり感が市場で意識されたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり79.05ドルと前日終値比で0.16ドル上昇した。8月25日も、中国における住宅購入のための規制を緩和する旨同国住宅都市農村建設省等が明らかにした旨この日国営新華社通信が報じたことにより、同国不動産市場及び経済の回復とともに石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことに加え、8月25日朝(現地時間)に米国中堅石油会社マラソン・オイルの操業する同国ルイジアナ州にあるゲーリービル(Garyville)製油所(原油精製処理能力日量59.6万バレル)の貯蔵タンクで火災が発生したことに伴い同製油所が操業を停止しつつある旨伝えられたことにより石油製品生産減少懸念が市場で強まるとともに同国ガソリン及び暖房油両先物価格が上昇したこと、8月25日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズから発表された同国石油坑井掘削装置稼働が同日時点で512基と前週比8基減少、2022年2月4日(この時は497基)以来の低水準に到達(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は502基と前週比6基減少、2022年3月4日(この時は498基)以来の低水準に到達)している旨判明したことにより、この先の同国原油生産の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.78ドル上昇し終値は79.83ドルとなった。この結果原油価格は8月24~25日の2日間で1バレル当たり合計0.94ドル上昇した。
また、米軍用の耳栓の不具合に関する訴訟につき暫定的に和解に到達した旨8月28日に伝えられた米国日用品及び工業製品製造会社3M、及び投資顧問事業の売却を8月28日に発表した米国大手金融機関ゴールドマン・サックスの株価が上昇した他、8月28日より中国株式取引により発生する印紙税(0.1%)を50%引き下げる旨8月27日に中国財務省が発表したことにより、米国株式市場に上場する中国企業の株価が上昇したことにより牽引され、8月28日の米国株式相場が上昇するとともに投資家のリスク許容度が拡大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.27ドル上昇し終値は80.10ドルとなった。さらに、8月29日には、中国の大手国有銀行が既存の住宅向け融資金利を引き下げる方針である他早ければ9月1日にも預金金利を引き下げる(これにより同国での消費が刺激されると見られている)べく検討している旨8月28日にブルームバーグ通信が報じたこともあり、中国経済回復と同国の石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したことに加え、8月29日に米国労働省から発表された7月の同国雇用動態調査(JOLTS:Job Openings and Labor Turnover Survey)において求人件数が882.7万件と6月の916.5万件(改定値)から減少、2021年3月(この時は839.9万件)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(946.5~950.0万件)を下回ったうえ、同日米国非営利調査機関コンファレンス・ボードから発表された8月の米国消費者信頼感指数(1985年=100)が106.1と7月の114.0(改定値)から低下した他市場の事前予想(116.0)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が後退したこともあり、米ドルが下落するとともに米国経済回復期待が市場で増大したことにより同国株式相場が上昇したことから、この日(8月29日)の原油価格の終値は1バレル当たり81.16ドルと前日終値比で1.06ドル上昇した。8月30日にはEIAから発表された米国石油統計(8月25日の週分)で原油在庫が前週比1,058万バレル減少し4.23億バレルと2022年12月30日(この時は4.21億バレル)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(同219~330万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.47ドル上昇し終値は81.63ドルとなった。そして、8月31日にはOPECプラス産油国が新たな減産措置の実施で合意し、それを来週発表する予定である旨この日ロシアのノバク副首相が示唆したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.63ドルと前日終値比で2.00ドル上昇した。9月1日も、OPECプラス産油国が新たな減産措置の実施で合意した旨8月31日にロシアのノバク副首相が示唆したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、7月1日から9月30日まで実施される予定であるサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産が10月に延長される可能性が高いと市場関係者が予想している旨8月30日にブルームバーグ通信が報じた流れを引き継いだこと、9月1日に米国労働省から発表された8月の同国失業率が3.8%と7月の3.5%から上昇した他市場の事前予想(3.5%)を上回った旨判明したことに伴い同国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で後退したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.92ドル上昇し終値は85.55ドルとなった。この結果原油価格は8月28日~9月1日の5日間で1バレル当たり合計5.72ドル上昇した。
9月4日は米国労働者の日(レイバー・デー)の休日によりこの日の終値は計上されなかったが、7月から9月末の予定で実施されていたサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な原油追加減産を2023年末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が報じたことで、市場の事前予想(自主的な追加減産の10月末までの延長)を上回る減産規模となっている旨判明したことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、9月に実施しているロシアの日量30万バレルの石油輸出削減を12月末まで実施する意向である旨9月5日に同国のノバク副首相が表明したことにより、世界石油市場へのロシア産石油の供給低下継続観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.14ドル上昇し終値は86.69ドルとなった。9月6日も、サウジアラビアによる自主的な原油追加減産を2023年末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が報じたことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを引き継いだことに加え、ロシアの石油輸出削減を12月末まで実施する意向である旨9月5日に同国のノバク副首相が表明したことにより、世界石油市場への同国産石油供給低下継続観測が市場で増大した流れを引き継いだこと、サウジアラビア国営石油会社サウジ・アラムコが10月の米国及びアジア向け原油販売価格を引き上げる旨9月6日に伝えられたことにより原油価格の先高感を市場が意識したこと、9月7日にEIAから発表される予定である米国石油統計(9月1日の週分)で原油及びガソリン在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり87.54ドルと前日終値比で0.85ドル上昇した。この結果原油価格は9月5~6日の2日間で1バレル当たり合計1.99ドルの上昇となった(また、原油価格は8月24日以降9取引日連続前取引日終値比で上昇と、2018年12月28日~2019年1月10日の9取引日連続前取引日終値比での上昇以来の長期に渡る上昇となった他、上昇幅は合計で1バレル当たり8.65ドルとなった)他、9月6日の終値は2022年11月11日(この日の終値は1バレル当たり88.96ドル)以来の高水準に到達した。ただ、9月7日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、9月7日に欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)から発表された2023年4~6月期のユーロ圏域内総生産(GDP)(確定値)が前期比0.1%の増加と8月16日に発表された改定値(0.3%の増加)から下方修正された他市場の事前予想(同0.3%の増加)を下回ったことによりユーロが下落したうえ、同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(9月2日の週分)が21.6万件と前週比で1.3万件減少した他市場の事前予想(23.3~23.4万件)を下回ったことにより米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で強まったこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり86.87ドルと前日終値比で0.67ドル下落した。それでも、製油所メンテナンス作業実施等によりロシアが9月の同国西部港湾からの軽油輸出を25%削減する予定である旨9月8日にブルームバーグ通信が報じたことにより軽油需給の引き締まり感を市場が意識したこともあり米国暖房油先物価格が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.64ドル上昇し、終値は87.51ドルとなった。
9月11日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり87.29ドルと前週末終値比で0.22ドル下落した。ただ、リビア東部に暴風雨「ダニエル(Daniel)」が来襲した結果、9月9日に同国のラス・ラヌフ(Ras Lanuf)(原油出荷能力日量22万バレル)、ズエイティナ(Zueitina)(同7万バレル)、ブレガ(Brega)(同6万バレル)及びエス・シデル(Es Sider)(同32万バレル)の各石油出荷ターミナルの操業が停止した(出荷能力合計日量67万バレルで2023年8月の同国の原油生産量日量116万バレルの60%弱を占める)ことにより、同国産原油供給を巡る懸念が増大した流れを9月12日の市場が引き継いだことに加え、9月12日に発表されたOPEC月刊オイル・マーケット・レポートにおいて、政策金利の引き上げや物価の上昇に対し世界主要国の経済は耐久力があるとしてOPECが2023年の世界石油需要を前月から据え置いたことにより、7月1日から12月末まで実施される予定であるサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加原油減産等と併せると同年第4四半期は日量330万バレル程度の供給不足となる旨示唆されると報じられたことにより、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、9月12日にEIAから発表された短期エネルギー見通し(STEO: Short-term Energy Outlook)において、サウジアラビアによる自主的な追加減産等により世界石油需給が引き締まるとして、EIAが2023年のWTI原油価格見通しを従来の1バレル当たり77.79ドルから同79.65ドルへ、2024年の見通しを1バレル当たり81.48ドルから同83.22ドルへと、それぞれ上方修正したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.55ドル上昇し、終値は88.84ドルとなった。それでも、9月13日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、9月13日にEIAから発表された米国石油統計(9月8日の週分)で原油在庫が前週比395万バレル、ガソリン在庫が同556万バレル、留出油在庫が同393万バレルの、それぞれ増加と、市場の事前予想(原油在庫同190万バレル程度の減少、ガソリン在庫同20万バレル程度の増加、留出油在庫同130万バレルの増加)を上回って増加している旨判明したこと、リビア東部の石油出荷ターミナル4ヶ所が暴風雨「ダニエル」の被害を受けていなかったため操業を再開した旨9月13日に報じられたことにより、同国産原油供給を巡る懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり88.52ドルと前日終値比で0.32ドル下落した。しかしながら、9月13日に国際エネルギー機関(IEA)が発表したオイル・マーケット・レポートにおいて、(経済面では逆風が吹いている)中国等の石油需要が堅調である一方、サウジアラビアによる原油供給削減等により2023年第4四半期は相当程度の世界石油供給不足に陥る結果、石油在庫が異常な低水準に到達するとともに原油価格の乱高下が発生する可能性がある旨IEAが警告したことにより、石油需給引き締まり感を市場が意識した流れを9月14日の市場が引き継いだことに加え、市中銀行の預金準備率を9月15日から0.25%引き下げる旨9月14日に中国人民銀行(中央銀行)が発表したことにより、同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したこと、9月14日に米国商務省から発表された8月の同国小売売上高が前月比0.6%の増加と市場の事前予想(同0.1~0.2%の増加)を上回ったことにより同国経済成長に対する楽観的な見方が市場で広がったうえ同日米国ナスダック市場に上場した英国半導体設計会社アーム・ホールディングズの株価が堅調に推移したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.64ドル上昇し、終値は90.16ドルとなるとともに、この日の終値は2022年11月7日(この日の終値は91.79ドル)以来の高水準に到達した。また、9月15日も、この日中国国家統計局から発表された8月の同国鉱工業生産及び小売売上高が前年同月比でそれぞれ4.5%及び4.6%の増加と、7月(鉱工業生産同3.7%、小売売上高同2.5%の、それぞれ増加)から増加率が拡大した他、市場の事前予想(鉱工業生産同3.9%、小売売上高同3.0%の、それぞれ増加)を上回っている旨判明したことにより、同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で拡大したうえ、同月の同国製油所における原油精製処理量が6,470万トン(推定日量1,528万バレル)と前年同月(5,366万トン(同1,267万バレル))を相当程度上回るとともに史上最高水準に到達した旨判明したことにより、同国の石油需要の堅調さを市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり90.77ドルと前日終値比で0.61ドル上昇した。この結果原油価格は9月14~15日の2日間で1バレル当たり合計2.25ドルの上昇となった。
3. 原油市場における主な注目点等
7月18日を以てウクライナ、ロシア、トルコ及び国連の間で締結されていた黒海からの穀物輸送合意(2022年7月22日合意)からロシアが離脱するとともに、ロシアは7月20日午前0時(モスクワ時間)以降黒海を航行しウクライナに向かう船舶は軍事関連物資を積載している可能性があるものと見做し攻撃対象とする可能性がある旨7月19日にロシア国防省が発表するとともに、オデーサ(オデッサ)を含むウクライナの黒海沿岸都市を攻撃し始めた。これに対しウクライナも7月21日午前0時(キーウ(キエフ)時間)以降、ロシアもしくはロシアが支配するウクライナの港湾に向かう船舶については軍事関連物資を積載しているものと見做し攻撃対象とする可能性がある旨7月20日に発表した。そして、8月3日夜から4日未明(現地時間)にかけては、ロシアの黒海沿岸にあるノボロシイスク港が水上無人機による攻撃を受けたことにより、同港の操業が数時間停止した(また、ロシアの揚陸艦(「オレネゴルスキー・ゴルニャク(Olenegorsky Gornyak)」とされる)がこの攻撃により損傷したとの情報もある)旨8月4日に伝えられた他、8月5日未明(同)にも、黒海のクリミア半島沖合でロシアのタンカー(「シグ(Sig)」とされる)が水上無人機により攻撃された(タンカーは損傷したとされる)。また、ロシアの黒海沿岸に位置する6ヶ所の港湾を含む洋上地域に対し軍事行動を実施する可能性がある旨ウクライナ政府が示唆したと8月5日に伝えられる。さらに、ロシアが黒海においてウクライナを攻撃すれば、ウクライナは黒海においてロシアを攻撃する旨ウクライナのゼレンスキー大統領が表明したと8月8日に明らかになった。
それ以降しばらくの間は黒海を航行するロシア方面から、もしくはロシア方面へのタンカーを含む船舶や、ロシアの黒海沿岸港等が大規模な攻撃を受けたとの報告はなされていない。しかしながら、ウクライナの黒海沿岸都市においては穀物供給関連施設等がロシアによる攻撃をしばしば受けている他、8月24日にはロシア軍がミサイルを使用して黒海における民間の貨物船を攻撃しようとした(ウクライナ軍により迎撃された)旨9月11日に英国政府が明らかにした。このようなこともあり、今後再び黒海を航行するロシア方面からのタンカー等が攻撃を受けると言った展開となることも排除しきれない。黒海はロシアのノボロシイスク等にある港湾からロシア産及びカザフスタン産の原油等がボスポラス海峡を経由して地中海方面へと輸出されるための経路となっている(8月時点ではノボロシイスク港からロシア産原油が日量43万バレル、カザフスタン産原油が同125万バレル、それぞれ輸出されたものと推定される)ことから、今後も船舶等への攻撃が行なわれるようであれば、船舶保険料が高騰する、もしくは船舶保険の付保が困難になることを含めタンカー等が黒海への進入を敬遠するようになる結果、同地域からの石油供給に支障が生ずるといったことに対する懸念が増大するとともに、世界石油需給引き締まり感が市場で意識されることによって、原油相場に上方圧力が加わる可能性があるので、同地域を巡る動向には注意する必要があろう。
イランのアブドラヒアン外相はサウジアラビアのジェッダを訪問し、8月18日にサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談した。また、新たに任命されたイランの駐サウジアラビア大使が9月5日にリヤドに到着した旨同日国営イラン通信が報じた他、新たに任命されたサウジアラビアの駐イラン大使が9月5日にテヘランに到着した旨同日国営サウジ通信が伝えた。このように一時断交状態であった両国は外交関係の修復に向け前進しつつある。また、韓国における60億ドルのイラン資産の凍結解除と米国で拘束中のイラン人の解放を条件として、これまでイランの刑務所で拘束されていた5人の米国人を解放する可能性がある旨8月10日に伝えられたが、解放を巡る交渉は進展しつつある旨8月22日に米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が明らかにした。その後米国のブリンケン国務長官が韓国におけるイラン資産の凍結解除を承認した旨9月11日に報じられた他、イランで拘束される米国人5人の解放と引き換えに韓国におけるイラン資産の凍結解除(但し人道的使途に限るとされる)及び米国で拘束されるイラン人5人の解放につき米国とイランの政府間で合意した旨9月13日に米国国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官が発表した。さらに、イエメンでサウジアラビアが支援しているハディ暫定大統領派勢力と敵対するフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)の幹部がサウジラビアを訪問する意向である旨9月14日に報じられた。他方、2023年8月のイランの原油生産量は日量314万バレルと前年同月の同267万バレルから大幅に増加するなどしている。今後も米国とイランとの関係が改善するとともにイランからの原油生産量がさらに増加する(2018年5月8日に米国のトランプ大統領(当時)がイラン核合意から離脱する直前の2018年4月のイランの原油生産量は日量385万バレルであった)ことにより世界石油需給がさらに緩和する可能性もある。もっとも、イランによる60%の濃縮度の濃縮ウラン(六フッ化ウラン)の保有量が8月19日時点で121.6キログラムと5月31日の報告(5月13日時点)から7.5キログラム増加した旨の報告書を国際原子力機関(IAEA)が9月4日に取り纏めるなど、イランの60%濃縮度の濃縮ウラン保有量は、伸びは鈍化している(2月12日から5月13日にかけては26.6キログラム増加していた)ものの増加が継続するなど、イラン核合意からのイランの逸脱行為は継続している(核合意で規定されているイランの濃縮ウラン保有上限は3.67%のものを300キログラムとされる)。また、2023年4月には米国の対イラン制裁に違反した原油取引(イラン革命防衛隊が関与しているものとされる)を摘発しイラン産原油98万バレルを差し押さえた旨9月8日に米国司法省が明らかにしている。さらに、英国、フランス、ドイツはイランが核合意から逸脱してウラン濃縮活動を行なっているとして、2023年10月18日を以て解除する予定であったイランの個人や事業者等に対する制裁を維持する旨の共同声明を9月14日に発表した。その後、イランがIAEAの査察官の3分の1程度について受入を拒否しているとして非難する旨声明を9月16日にIAEAが発表した(英国等による共同声明を受けてのことであると見る向きもある)。このように、米国等とイランとの関係は良好な方向に進みつつあるように見受けられる部分と、そうでないように見受けられる部分が混在している。このため、今後も、当時者間の関係がさらに改善するとともに、イランからの原油生産が拡大する可能性がある一方、イラン核合意正常化に向けた交渉次第では関係国間での対立が再び強まるとともに、イランの原油生産に負の影響が及ぶ場面が見られる可能性があるので注意が必要であろう。
3月23日に国際商業会議所(ICC: International Chamber of Commerce)国際仲裁裁判所(International Court of Arbitration)が、イラクのクルド人自治区からのパイプライン経由での原油輸送につき、1973年に締結したトルコとイラクの当該パイプライン輸送に関する合意にトルコが違反しているとのイラク連邦政府の訴えを認めたうえ、3月26日にはトルコに対し当該違反により15億ドルの損害賠償金をイラク連邦政府に対し支払うよう命じた(2014年から2018年にかけてのクルド人自治区からトルコへの原油輸送がイラク国営石油販売会社(SOMO: State Organization for Marketing of Oil)を通じたものでなければならないとの両国の合意内容から逸脱している旨イラク連邦政府が提訴していたとされる)。これに伴い、当該パイプライン経由でのクルド人自治区からの原油輸出(日量40~45万バレル程度とされる)は3月25日に停止した。それ以降の当該案件に関する両国による交渉の進展は遅く、イラクからの原油輸出再開は、現時点では早くても10月に予定されるトルコのエルドアン大統領のイラク訪問時になると見る向きもある(トルコからイラク連邦政府に支払うべきとされる15億ドルの損害賠償金はクルド人自治区政府が支払うべきものであり、トルコとしては支払う意志はない旨トルコ側は主張していると9月16日に伝えられる)。このため、少なくともその時点まではイラク北部からの地中海方面への原油供給は停止したままとなるものと見られる(なお、3月25日の操業停止後同パイプラインではメンテナンス作業が実施されるとともに洪水により被害を受けた箇所の修復が進んだことにより、間もなく技術的には操業可能な状態になる旨9月15日に報じられる)が、両国がイラク産原油の輸出再開で合意すれば、イラクの原油生産が拡大する結果、世界石油需給の緩和感が市場で醸成されるとともに、原油相場に下方圧力を加えると言った展開となることもありうる。
経済要因面では、中国及び米国の動向が中心となろう。2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことにより、それまでの反動で個人の外出が促進されるとともに旅行業や宿泊業を含む非製造業の活動が活発化したものの、その動きも最近では一巡してきた一方、中国の製造業は回復が緩慢なままであった。しかしながら、8月31日に中国国家統計局から発表された8月の同国製造業購買担当者指数(PMI)は49.7と当該部門の拡大と縮小の分岐点である50を5ヶ月連続で下回ったものの7月の49.3から上昇した他市場の事前予想(49.2~49.4)を上回った。また、9月1日に中国独立系報道機関財新伝媒及び米国格付け会社S&Pグローバルから発表された8月の同国製造業PMIは51.0と7月の49.2から上昇し当該部門拡大と縮小の分岐点である50を超過、2023年2月(この時は51.6)以来の高水準に到達した他、市場の事前予想(49.3)を上回った。さらに、中国工商銀行等の同国大手国有銀行5行が9月1日より預金金利を引き下げる旨同日発表したことにより同国内で消費が刺激されるとの観測が市場で発生した他、中国の北京市及び上海市が住宅取得のための融資条件を緩和する旨9月1日に発表したことで、同国不動産業界の底入れに対する期待が市場で強まった。加えて、9月7日に中国税関総署から発表された8月の同国輸出(米ドル建)が前年同月比8.8%、輸入(同)が同7.3%の、それぞれ減少となったものの、市場の事前予想(輸出が同9.2%、輸入が同9.0%の、それぞれ減少)程減少していなかったうえ、8月の同国原油輸入量が5,280万トン(推定日量1,247万バレル)と前月の4,369万トン(同1,032万バレル)から増加、日量ベースでは2020年6月(同1,298万バレル)及び2023年6月(同1,270万バレル)に次ぐ史上3番目の高水準となった他前年同月比で30.9%の増加となっている旨判明した。そして、9月9日に中国国家統計局から発表された8月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で0.1%の上昇と7月の同0.3%の下落から上昇に転換した他、同月の同国生産者物価指数(PPI)が前年同月比で3.0%の下落と7月の同4.4%の下落から下落率が縮小するなどしている旨明らかになっており、同国経済が物価下落(デフレ)から脱却する兆候が見られる旨示唆されるとの認識が市場で増大した。加えて、市中銀行の預金準備率を9月15日から0.25%引き下げる旨9月14日に中国人民銀行が発表した。また、9月15日に中国国家統計局から発表された8月の同国鉱工業生産及び小売売上高が前年同月比でそれぞれ4.5%及び4.6%の増加と、7月(鉱工業生産同3.7%、小売売上高同2.5%の、それぞれ増加)から増加率が拡大した他、市場の事前予想(鉱工業生産同3.9%、小売売上高同3.0%の、それぞれ増加)を上回っている旨判明したうえ、同月の同国製油所における原油精製処理量が6,470万トン(推定日量1,528万バレル)と前年同月(5,366万トン(同1,267万バレル))を相当程度上回るとともに史上最高水準に到達した旨明らかになった。このように、中国の製造業が回復する兆しが見られるとともに、不動産業等に対する支援策を含め景気刺激策が中国政府等から実施されるとの期待が市場で根強くなりつつあるうえ、中国の原油輸入や製油所の原油精製処理量が概ね高水準を維持していることもあり、この面では、中国経済回復と石油需要の伸びの加速観測が市場で強まることにより原油相場に上方圧力を加える場面は見られることはあっても、原油相場に持続的に下方圧力を加える場面が見られる可能性は当面それほど高くないものと考えられる。
8月24~26日に開催された米国カンザスシティ連邦準備銀行主催の年次シンポジウム(於ワイオミング州ジャクソンホール)においては、8月25日午前(現地時間)に同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、米国の物価上昇率は依然として高いことから、物価上昇沈静化を確信できるまでは必要と見做されるのであれば政策金利を引き上げる用意がある旨表明したことから、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で強まった一方、9月1日に米国労働省から発表された8月の同国失業率が3.8%と7月の3.5%から上昇した他市場の事前予想(3.5%)を上回った旨判明したことから米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で後退するなど、米国の政策金利引き上げを巡る情勢はまちまちな状況となっている。このような中、9月19~20日に開催される予定である次回米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては、政策金利を5.00~5.25%に据え置く確率が9月17日現在98.0%と極めて高くなっているが、実際のFOMCにおける政策金利を含む金融政策上の決定事項、及び9月20日のFOMC終了後のパウエルFRB議長による米国等の経済状況や展望、及び政策金利引き上げを含む今後の金融政策(9月17日時点では2024年6月11~12日に開催されるFOMCにおいて0.25%の政策金利引き下げを行なう確率が36.3%と選択肢の中では最も高くなっている)に関する発言が、米国経済及び石油需要の伸びに対する市場の見方に影響を与えるとともに、原油相場に圧力を加える可能性がある。そして、10月に入ると米国主要企業等の2023年7~9月等の業績が発表される予定であるので、それら業績もしくは2023年以降の業績見通し(もしくは見通しの修正)等の内容によっては米国株式相場が変動する結果、原油相場に影響を及ぼすこともありうる。
米国では、9月5日の労働者の日の休日を以て夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したが、通常冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期が市場の視野に入り始めるのは10月中旬頃以降となるため、それまではガソリン需要が低下する反面、暖房用のLPG及び留出油等の需要期にはまだ早いとの意識が市場関係者の心理を支配する他、秋場のメンテナンス作業の実施に伴い製油所の稼働及び原油精製処理活動が低下する結果原油の購入が不活発となることにより、季節的な需給の緩和感が市場で意識されることを通じ、例年この時期は原油相場に下方圧力が加わりやすい。しかしながら、8月25日朝(現地時間)に米国中堅石油会社マラソン・オイルの操業するゲーリービル(Garyville)製油所(ルイジアナ州、原油精製処理能力日量59.6万バレル)の貯蔵タンクで火災が発生したことが同製油所の操業に影響を及ぼした他、同社のガルベストン・ベイ(Galveston Bay)製油所(テキサス州、原油精製処理量日量59.3万バレル)のガソリン製造のための流動接触分解装置(FCC:Fluid Catalytic Cracking)(処理能力日量14万バレル)において火災が発生した旨9月7日夜遅く(米国東部時間)に伝えられるなど、最近米国を初めとする地域において製油所における装置の不具合や故障及び事故等の報告が散見される。これについては、2020年以降の新型コロナウイルス感染流行時や新型コロナウイルス感染収束時に発生した労働力不足や資機材不足等に伴う物価上昇等もあり、石油会社は製油所のメンテナンス作業等を先送りしたり当初計画していたよりも小規模のメンテナンス作業等を実施したりした結果、その歪みが装置の不具合等になって顕在化した可能性がある。また、2023年の夏場は世界的に気温が上昇した結果製油所で利用する工業用水の不足を含め施設の温度管理に支障が発生した結果製油所等の稼働が低下した例が見られた。このようなこともあり、米国等では主要な石油製品の在庫が減少傾向となった他、特に夏場のドライブシーズン到来に伴い製油所においてガソリンの製造が優先されたこともあり製造が劣後した留出油の在庫が低迷、米国では9月8日現在当該在庫が5年平均を10.5%程度下回る状態となっている。そして、この先製油所のメンテナンス作業実施により留出油の生産が低下することに加え、さらに製油所の不具合等の発生により石油製品製造活動が不活発化したりするようだと、暖房シーズンの開始時期であるとされる11月1日を控え留出油在庫が十分に積み上がっていない旨判明することにより、冬場の暖房用留出油需要期到来に向け当該製品の需給引き締まり感が一層強まるとともに米国暖房油先物価格に上方圧力が加わり、その影響が原油相場に及ぶと言った展開となる可能性もある。
他方、大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入している(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30日である)。特に8月後半から10月前半にかけては1年で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期となる。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動、そしてタンカーの航行に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態も想定される)、さらにはメキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2022年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量53万バレル程度の原油を輸入した)。米国国立海洋大気庁(NOAA)やコロラド州立大学による2023年の暴風雨発生予報では概ね平年並みから平年を上回る暴風雨の発生頻度が予想されている(表1参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2022年は当該地域で日量174万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,189万バレル)の約15%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国における精製活動の中心地域である(2022年の当該地域の原油精製処理能力は日量846万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,779万バレル)の約48%を占めた)こともあり、今後のハリケーンを含む暴風雨の実際の発生状況やその進路、そして予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれるといった場面が見られることもありうる。
サウジアラビアは7月から9月末の予定で実施していた日量100万バレルの自主的な原油追加減産を2023年末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が報じたが、それが市場の事前予想(自主的な追加減産の10月末までの延長)を上回る減産規模となっている旨判明した他、ロシアが9月に実施している日量30万バレルの石油輸出削減を12月末まで実施する意向である旨9月5日に同国のノバク副首相が表明したことから、この先の石油需給引き締まり感を市場が意識したことにより、原油相場に上方圧力が加わった結果、この日のブレント原油価格の終値は1バレル当たり90.04ドルと2022年11月16日(この日の終値は同92.86ドル)以来の高値でかつ90ドル超の終値となった。WTIも6月12日に1バレル当たり67.12ドルの終値で底を打って以降9月1日には同85.55ドルと原油価格は上昇基調であったうえ、この時点で2023年4四半期は需要が供給を日量100万バレル程度上回ると見込まれていたが、それにもかかわらずサウジアラビア(及びロシア)は原油減産(及び輸出削減)措置を緩和しなかったどころか、むしろそれまで1ヶ月間毎の延長を行なっていた自主的な追加原油減産(及び輸出削減)を9月5日には12月末までと3ヶ月間に拡大して延長する旨発表するなど、石油需給の一層の引き締めを図ろうとしているように見受けられる。このようにサウジアラビア(及びロシア)は以前に比べてより先制的かつ予防的に石油需給の引き締めに動いている旨覗われることから、この面では石油市場関係者(特に原油先物契約に対し「空売り」を仕掛けることにより原油価格の下落を引き起こして利益を獲得する投機筋等)による原油先物契約売却の実施がより困難になる結果原油相場が下落しにくくなる他、今後もサウジアラビア等が先制的かつ予防的に石油需給の引き締めを図ろうとするとの観測が市場で発生する(OPECプラス産油国は10月4日に共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)を開催する予定であるため、その機会を捉えて新たな減産強化策がOPECプラス産油国から発表されるのではないかとの観測が市場で発生することも想定される)ことを通じ、原油相場が支持されやすくなるものと考えられる。
また2023年2月には日量987万バレルであったロシアの原油生産量(コンデンセートを除く)は同年8月には同947万バレルになるなど、同国の日量50万バレルの自主的な追加原油減産(2023年2月の原油生産量が基準となっているとされる)は表明した水準に近い規模で実施され続けられる格好となっている。それでも、ロシアで生産される主力原油であるウラルの価格はブレント等他の原油価格に比べ割安なままとなっていることもあり、中国やインドと言った消費国からの需要は根強いことから、ウラル原油価格は7月11日以降ほぼ継続的に、主要7ヶ国政府(G7)及び欧州連合(EU)により2022年12月5日に設定された1バレル当たり60ドルの上限価格を超過、9月15日には推定同81.24ドルと上限価格を相当程度上回る状態となっている。このような状況では、ロシア産原油を海上輸送経由で輸出するための西側諸国等を拠点とする輸送及び保険サービスの付保が困難になるとされる。しかしながら、それでもロシア産原油価格が1バレル当たり60ドルを超過する状態を維持している様相を呈しており、これはロシア産石油輸出に際し西側諸国等を拠点としない(つまり原油価格上限による制約を受けない)輸送及び保険サービスの付保等を含めた用役の提供が円滑になることにより、価格上限を超過しても原油輸出の際の輸送及び保険等のサービス面での支障が低減しつつあることを示唆している可能性がある(実際、ロシアは西側諸国等の輸送及び保険サービスに大きく依存することなく自国産原油を販売する手法を確立しつつある旨9月6日にロイター通信が指摘したところである)。そしてその場合、ロシアにとっては原油供給を削減することにより原油価格の引き上げを図るとともに収入を拡大する途が開けることになるため、この面でOPECプラス産油国間での足並みが相対的に揃うとともに石油市場支配に向けた結束力が強まる結果、原油相場により上方圧力が加わりやすくなる旨示唆されることから、この先の同国の原油(及び石油製品)輸出状況、及び同国産原油価格等については注意する必要があろう。
豪州にある主要天然ガス液化施設であるゴーゴン(Gorgon、天然ガス液化能力年産1,560万トン)、ウィートストーン(Wheatstone、同890万トン)及びノース・ウェスト・シェルフ(NWS: North West Shelf、同1,630万トン)の関連施設の操業に従事する大手国際石油会社シェブロン(Chevron)(ゴーゴン及びウィートストーン)及び豪州大手石油会社ウッドサイド(Woodside)(NWS)の労働者は8月9日にストライキの実施方針を決議した(会社経営陣との間での労働条件の協議が決裂した場合、労働者は翌週以降7日前の通知で以て施設の操業を停止するとしている)。ウッドサイドと労働組合は8月23日にストライキ回避で事実上合意したが、シェブロンと労働組合との協議は9月8日午前(豪州パース時間)に事実上決裂した結果、同日午後1時(同)にゴーゴン及びウィートストーンの各LNG関連施設においてストライキが開始された。当初ストライキは残業実施の拒否等部分的なものにとどまるとされたが、9月16日には24時間のストライキを実施する旨労働組合が表明した。労働組合による労働条件に関する要求は労働市場の標準を上回るものであると主張するシェブロンは9月11日に豪州公正労働委員会に対し労使間での裁定を行なうよう要請、委員会は9月22日に意見聴取を行なう旨同委員会が9月12日に明らかにした。今後全面シェブロンの操業する天然ガス液化施設において全面的なストライキが実施されることにより、これら施設(合計の天然ガス液化能力は年産2,450万トンで世界全体(天然ガス液化能力年産4.76億トン、2022年のLNG貿易量3.89億トン)の5~6%程度を占める)の操業が停止した場合、既にロシアからのパイプライン経由での天然ガス供給が事実上削減されていることからLNGへの依存を強めている欧州を初めとして、冬場の暖房用燃料需要期を控えて世界的にLNG需給が引き締まるとの懸念が強まるとともに、天然ガス価格が上昇することにより、天然ガスを代替する燃料として発電部門で重油、民生部門(暖房用)で軽油等の需要が高まるとの観測が市場で強まることから、これら石油製品価格に上方圧力が加わるとともに、原油価格がその影響を受ける可能性がある。
全体としては、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した一方、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要が意識されるには時期尚早であることから、この面では原油相場には下方圧力が加わりやすいものの、製油所での装置不具合等の発生により冬場の暖房シーズンを控え在庫が低水準となっている留出油需給引き締まり感が市場で強まることがありうることに加え、サウジアラビア等が先制的に石油需給の引き締めを実施しようとするとの観測も市場で根強いことや、中国政府等による景気刺激策の実施による同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が増大すること等が原油相場を下支え、もしくは原油相場に上方圧力を加える可能性がある。このような中、米国金融当局による同国の物価を含む経済情勢等に対する見方や展望及び政策金利を巡る判断もしくは考え方に加え、米国主要企業の2023年7~9月期等の業績と米国株式相場の変動具合、米国メキシコ湾周辺地域におけるハリケーン等暴風雨の来襲状況及び予報、西側諸国等とイランとの関係を巡る動向とイランの原油生産状況等の要因が原油相場に影響を与えるものと考えられる。
4. 2023年から2024年にかけての世界石油市場に対する市場関係者の見方等を巡る一考察
IEAは2023年6月13日に、OPECは7月13日に、それぞれ初めて2024年の世界石油需要及び供給見通しの詳細を発表した。ここでは、2023年1月10日に同様の見通しを初めて発表したEIAと併せ、2023年及び2024年の世界石油需要及び供給見通し等の特徴などにつき考察することとしたい(なお、データは原則、IEAが9月13日、EIA及びOPECが9月12日に、それぞれ発表したもの(つまり最新のもの)に基づくものとする)。
まず、需要面であるが、2023年の世界石油需要の前年比での増加は、日量181~244万バレル程度と予想されており(IEAが同224万バレル(前年比2.3%)、EIAは同181万バレル(同1.8%)、OPECが同244万バレル(同2.4%))の、それぞれ増加)(図16参照)、この結果、IEA、EIA及びOPECいずれも2023年の世界石油需要は新型コロナウイルス感染流行以前の2019年の水準を超過し史上最高に到達するものと見られている。2022年の世界石油需要の増加は日量201~249万バレル程度と見込まれていること(IEAが同201万バレル(前年比2.1%)、EIAが同202万バレル(同2.1%)、OPECが同249万バレル(同2.6%))の、それぞれ増加)から、現時点での2023年の世界石油需要の前年比での増減は、IEAは伸びが拡大すると考える一方EIA及びOPECは伸びが縮小する旨見ている。労働力需給の引き締まりやロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガスを含むエネルギー価格高騰による世界の多くの国及び地域における物価上昇に伴う金融当局による政策金利の引き上げによる経済減速から、2022年の3.5%の世界経済成長率(国際通貨基金(IMF)の推計による)に比べ2023年はIEAが2.7%となる旨認識しているものと示唆される他、EIAが2.8%、OPECが2.7%と、それぞれ成長が鈍化するものと考えている(図17参照)。ただ、2022年において厳格な新型コロナウイルス感染抑制策に伴い個人の外出が制限されたことにより石油需要が抑制された反動もあり、2023年の中国の石油需要はジェット燃料(新型コロナウイルス感染抑制策緩和に伴う航空機を利用した個人の往来の活発化が背景にあるものと見られる)に加え、ポリマーや合成繊維を含む石油化学製品製造能力の拡張に伴いエタン、LPG及びナフサと言った製造用原料(2023年はこれら石油製品需要の増加が同年の同国石油需要増加の半分超を占めるとIEAは分析している)を中心として堅調に伸びることが、2023年の世界石油需要の増加を牽引することになる結果、2023年は世界石油需要の伸びが加速する旨IEAは予想している。2023年の中国の石油需要は前年比で日量78~163万バレルの増加と見込まれている(IEAが同163万バレル(前年比11.1%)、EIAは同78万バレル(同5.1%)、OPECが同97万バレル(同6.5%))の、それぞれ増加)(図18参照)。IEAによれば中国は2023年の世界石油需要の伸びの70%超を占めることとなる(なおEIAは2023年の世界石油需要の伸びに占める中国の割合を40%強、OPECは40%弱と見ている)。他方、新型コロナウイルス感染抑制策の緩和による経済回復過程における石油需要の反発が一巡する中、物価上昇や金融当局による政策金利の引き上げ等もありOECD諸国経済が減速することにより米国では軽油を含む留出油需要が前年比で減少する恐れがある他、自動車の燃費基準の改善や電気自動車の導入が進むことを背景として、米国の石油需要の伸びは著しく鈍化すると見られるうえ、物価上昇や政策金利の引き上げ等もあり域内の製造活動が低迷することにより、2023年の欧州OECD諸国の石油需要が前年比で減少することに加え、2023年7月以降の原油価格の上昇が石油需要に負の影響をもたらすこともあり、IEAは、2023年のOECD諸国の石油需要が前年比日量9万バレルの増加と2022年の石油需要の前年比増加量である日量87万バレルから相当程度増加幅が縮小する(図19参照)と見込む他、この年がOECD諸国において石油需要が増加する最後の年となるであろう旨指摘している。
また、2024年の世界石油需要の前年比での増加は、日量99~225万バレル程度と予想されており(IEAが同99万バレル(前年比1.0%)、EIAは同135万バレル(同1.3%)、OPECが同225万バレル(同2.2%))の、それぞれ増加)、2024年の世界石油需要は2023年から伸びが鈍化するものと見られている。この年の世界経済成長率はIMFが前年比3.0%と前年と同水準のものとなると予想する一方、IEAが同2.6%と認識している旨示唆される他、EIA及びOPECも同2.6%と見込むなど、2023年から伸びが鈍化することが示されている。2022年から2023年にかけて実施されている世界の一部諸国及び地域における政策金利引き上げを含む金融引き締め方策の影響が時間差をおいて経済成長に影響を及ぼすようになることが、2024年の世界石油需要の増加ペースの鈍化に繋がるものとOPECは考えている。また、IEAは、2023年の原油価格上昇、自動車の燃費基準の改善、電気自動車の導入、在宅勤務体制の浸透による通勤等の個人の往来の不活発化等により、2024年のOECD諸国石油需要が前年比で36万バレル減少するものと予想している。他方、2023年の傾向が2024年にも継続する格好となっており、世界石油需要の伸びの60%超は中国によりもたらされる(それでも、中国経済が著しく成長するわけではないことと新型コロナウイルス感染抑制策緩和後の個人の往来活発化等の反動の影響が一巡することもあり、同国の石油需要の伸びは鈍化するものとIEAは見込んでいる旨示唆される)他、世界石油需要の伸びの60%超はエタン、LPG及びナフサと言った石油化学製品製造用原料によるものとIEAは見ている。ただ、燃費効率の改善と電気自動車の導入進展等を理由としてIEAは2024年の世界石油需要の伸びが2023年から大幅に鈍化するとの見通しを示しているが、今後の燃費効率の改善や電気自動車の導入進展具合等によっては世界石油需要が上振れすると言った展開となることも排除しきれない。
次に非OPEC産油国による石油供給についてであるが、2023年は前年比で日量158~207万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同197万バレル(前年比3.0%)、EIAが同207万バレル(同3.1%)、OPECが同158万バレル(同2.4%)の、それぞれ増加)(図20参照)。これは2022年の増加量及び増加率(IEAが同183万バレル(前年比2.9%)、EIAが同173万バレル(同2.7%)、OPECが同192万バレル(同3.0%)の、それぞれ増加)と比べ、IEA及びEIAは拡大、OPECは縮小と見込むなど、見方がまちまちではあるものの、2022年の伸びの趨勢からは概ねそう乖離しない水準であるものと見受けられる。また、石油供給拡大は主に米国、ガイアナ、ブラジル等によりもたらされるものと各機関は考えている。
各機関が予想する2023年の非OPEC産油国石油供給の伸びのうちの半分超は米国からのものである。2023年の米国石油供給は前年比で日量117~133万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同117万バレル(前年比6.5%)、EIAが同133万バレル(同6.5%)、OPECが同119万バレル(同6.2%)の、それぞれ増加)(図21参照)。2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻に伴う、欧米諸国等によるエネルギーを分野での対ロシア制裁実施とロシアによるエネルギー供給削減等の事実上の報復措置実施に伴う石油を含む世界エネルギー需給の引き締まり懸念から、2023年3月8日には原油価格が1バレル当たり123.70ドルと2008年8月1日(この時は同125.10ドル)以来の高水準に到達するなど高騰した。このようなことに加え、米国ではシェールオイルの生産拡大に際し輸送上等における隘路が少なかったこともあり、同国のシェールオイルの開発・生産を巡る採算性が改善したことにより、石油坑井掘削装置の稼働数が増加傾向となる(2022年11月23日には同国石油坑井掘削装置の稼働数が627基と2020年3月20日(この時は664基)以来の高水準に到達した)とともに時間差をおいてシェールオイルの生産が活発化したことが、2023年の同国の石油生産の伸びに繋がる格好となっている。なお、2022年11月23日以降米国石油坑井掘削装置稼働数は減少傾向に転じているが、坑井の生産性が向上していることが同国の石油生産の伸びの鈍化を抑制する形で作用しているとOPECは指摘している。
カナダでは、2023年5~7月を中心とする期間において同国のオイルサンドを含む石油生産の主要地域であるアルバータ州において大規模な山火事が発生したことにより、同国の石油生産が停止するなど大きな影響を受けた他、2023年は一部石油生産供給関連施設における隘路の解消を目的としたメンテナンス作業が実施されたこともあり、2023年の同国の石油生産の伸びは2022年のそれを下回るものと各機関は見込んでいる。2023年のカナダ石油供給は前年比で日量1~8万バレル程度の増加にとどまるものと見られている(IEAが同1万バレル(前年比0.2%)、EIAが同8万バレル(同1.4%)、OPECが同5万バレル(同0.9%)の、それぞれ増加)(図22参照)。
ブラジルでは、沖合サントス盆地にあるメロ(Mero)油田における浮遊式生産貯蔵出荷施設(FPSO)グアナバラ(Guanabara)が原油生産を開始(2022年5月3日に当該事業に携わるシェルが発表、生産能力は日量18万バレルとされる)して以降、同油田を含むリブラ(Libra)鉱区での生産が拡大しつつある他、2020年4月以降メンテナンス作業の実施により生産を停止していた(2020年4月16日に報じられていた)ペレグリノ(Peregrino)油田(原油生産能力日量11万バレルとされる)が2022年7月16日に生産を再開したこと(その後同油田の生産量が日量11万バレルに到達した旨操業者のエクイノールが2023年6月1日に発表している)、2022年12月21日に生産を開始した同国サントス盆地のイタプ(Itapu)油田におけるFPSOであるP-71からの原油生産開始(生産能力は日量15万バレルと推定される)に加え、2023年5月7日に生産を開始した同国カンポス盆地東部に位置するマリム(Marim)油田におけるFPSOであるアンナ・ネリー(Anna Nery)(原油生産能力日量7万バレルとされる)やサントス盆地に位置するブジオス(Buzios)油田におけるFPSOであるアルミランテ・バロッソ(Almirante Barroso)(原油生産能力日量15万バレルとされる)からの原油生産開始(2023年6月2日ブラジル国営石油会社ペトロブラスが発表)等を含め開発中の油田が生産開始したり増産しつつあったりすることにより、2023年の同国の石油生産量は前年比で日量29~30万バレル程度増加するものと見られている(IEAが同30万バレル(前年比9.5%)、EIAが同29万バレル(同7.6%)、OPECが同30万バレル(同8.0%)の、それぞれ増加)(図23参照)。
2023年はガイアナではリサ油田第1段階プロジェクト(操業者:エクソンモービル、2019年12月20日生産開始を発表、現在日量12万バレル超の原油を生産)及び同油田第2段階プロジェクト(操業者:同、2022年2月11日生産開始、現在22万バレル程度の原油を生産しているものと推定される)における原油生産が2023年も増加を継続する他、同油田第3段階プロジェクト(パヤラ(Payara)プロジェクト)(操業者:同)が2023年に生産を開始する予定である(最大日量22万バレルを生産するものと見込まれている)。ただ、現時点ではパヤラプロジェクトは原油生産を開始していないこともあり、2023年の増産のペースは2022年よりも鈍化するものと見られている。それでも、2023年の同国の石油生産量は前年比で日量10~12万バレル程度増加するものと見られている(IEAが同12万バレル(前年比42.4%)、EIAが同12万バレル(同46.8%)、OPECが同10万バレル(同34.9%)の、それぞれ増加)(図24参照)。
ノルウェーでは、2022年12月15日にヨハン・スベルドルップ(Johan Sverdrup)第2段階での原油生産が開始した(これによりヨハン・スベルドルップの最高原油生産量は従来の日量53.5万バレルから同72.0~75.5万バレル程度にまで拡大するとされる)ことが寄与し、2023年の同国の石油生産量は前年比で13~15万バレル程度増加すると各機関は見込んでいる(IEAが同13万バレル(前年比6.7%)、EIAが同13万バレル(同6.7%)、OPECが同15万バレル(同8.1%)の、それぞれ増加)(図25参照)。
他方、2022年11月から実施されているOPECプラス産油国による日量200万バレルの減産(同年8月比)の一環でロシアが同52.6万バレルの減産となった他、当初は3月のみの実施(2月10日にロシアのノバク副首相が発表)であったものの、その後6月末へと実施期間を延長した(3月21日にノバク副首相が発表)日量50万バレルの自主的な追加減産(2023年2月を基準とするものとされる)につき当該減産実施期間を12月末まで延長する旨4月2日にノバク副首相が明らかにした(さらにこの自主的な追加減産は2024年末まで実施される予定である旨6月4日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合の際に明らかになっている)が、このようなロシアの減産方針を2023年の同国石油生産見通しが織り込む格好となったことにより、OPECは2023年のロシアの石油生産を前年比日量58万バレル(前年比5.3%)の減少と見込んでいるが、IEA及びEIAは2023年のロシアの石油生産減少幅をそれぞれ前年比日量16万バレル(同1.4%)及び同30万バレル(同2.7%)と予想しており、OPECほどにはロシアの減産が厳格には実施されるとは考えていないように見受けられる(図26参照)。
他方、2024年の非OPEC産油国石油供給は前年比で日量122~138万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同122万バレル(前年比1.8%)、EIAが同128万バレル(同1.9%)、OPECが同138万バレル(同2.1%)の、それぞれ増加)。いずれの機関も2024年の非OEPC産油国石油供給の伸びは2023年から鈍化するものと認識している。これは概ね米国の石油供給の増加幅が縮小することによるものである。また、この年の石油供給拡大も主に米国、カナダ、ガイアナ、ブラジル等によりもたらされる旨各機関は見込んでいる。
米国石油供給は前年比で日量43~61万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同43万バレル(前年比2.3%)、EIAが同52万バレル(同2.4%)、OPECが同61万バレル(同3.0%)の、それぞれ増加)と2023年から伸びが半減するものと認識されている。2022年3月8日に15年近くぶりの高水準に到達した原油価格は同年7月21日以降恒常的に終値ベースで1バレル当たり100ドルを割り込んだ他、2023年3月17日には1バレル当たり66.74ドルとロシアのウクライナ侵攻以前の時点である2021年12月3日(この日の終値は同66.26ドル)以来の低水準に到達するなど、2022年前半を中心とした時期に見られた原油価格高騰局面は終了する格好となった。このように原油価格が下落するにつれ米国でのシェールオイル開発・生産を巡る採算性が悪化したこともあり、同国の石油坑井掘削装置の稼働数が減少に転じた(2023年8月25日時点の同国石油坑井掘削装置稼働数は512基と2022年2月4日(この時は497基)以来の低水準に到達した)ことにより、時間差をおいて、米国におけるシェールオイルを中心とする石油生産の伸びが鈍化、特に同国の石油生産は2023年第4四半期の同国石油生産が日量2,188万バレル、2024年第1四半期の同国の石油生産量が日量2,189万バレルと、2023年第3四半期(この時の石油生産量は同2,193万バレル)からほぼ横這いとなるものとEIAは考えている。それでも、この先世界石油需給が引き締まるとの認識のもと、EIAは2023年6月に1バレル当たり70ドル程度であった原油価格はから同年11月にかけ同88ドル程度へと上昇、2024年3月にかけその水準を概ね維持すると見ており、その結果、米国のシェールオイル開発・生産を巡る採算性が改善することにより、同国のシェールオイルを含む石油開発・生産活動が活発化するとともに、2024年3月以降は多少なりとも石油生産が再び増加し始めるものとEIAは予想している。
2024年のカナダ石油供給は前年比で日量14~36万バレル程度の増加になると見込まれている(IEAが同14万バレル(前年比2.5%)、EIAが同36万バレル(同6.2%)、OPECが同24万バレル(同4.3%)の、それぞれ増加)。同年は同国のモントニー(Montney)、カール(Kearl)、フォート・ヒルズ(Fort Hills)等におけるプロジェクトからの石油生産開始に加え2023年第3四半期に建設が完成し2024年の早い時期には操業を開始するトランスマウンテン(Transmountain)パイプライン(アルバータ州エドモントン~ブリティッシュコロンビア州ウエストリッジ・バーナビー(Westridge Burnaby)、操業者:トランスマウンテン・パイプライン)の拡張(これにより従来日量30万バレルの原油輸送能力が同89万バレルへと拡大することから、太平洋市場への供給拡大への展望が開ける)等による石油供給上の隘路の解消により生産が拡大することが寄与するとEIAやOPECは予想している。
ノルウェーでは、2024年はヨハン・スベルドルップ油田第2期開発による生産の拡大(この結果2024年には日量75万バレルの同油田としては最高生産水準に到達するとIEAは見ている)に加え、2022年12月27日に再開発事業が完了し生産を再開したニヨルド(Njord)油田からの生産が2024年も拡大するものと見られること、フェンヤ(Fenja)油田も生産を開始(2023年4月28日報道)したうえ、生産量を増加させると考えられること、ブライダブリック(Breidablikk)油田が2024年前半に生産を開始する予定であること等が、同年の同国の石油生産増加に寄与するものの、2023年に比べ同国の石油生産の伸びは鈍化すると各機関は見込んでおり、2024年のノルウェー石油供給は前年比で日量2~12万バレル程度の増加になると考えられている(IEAが同2万バレル(前年比0.8%)、EIAが同8万バレル(同3.8%)、OPECが同12万バレル(同5.9%)の、それぞれ増加)。
2024年のブラジル石油供給は前年比で日量12~29万バレル程度の増加になると考えられている(IEAが同29万バレル(前年比8.6%)、EIAが同17万バレル(同4.3%)、OPECが同12万バレル(同3.1%)の、それぞれ増加)。2023年に生産を拡大したメロ、ブジオス及びイタプ油田の生産拡大等が2024年も継続するものの、他の油田での生産減退で部分的に相殺されることから、2024年の同国の石油生産増加量は2023年とほぼ同水準か2023年を下回ると見られているようである。
ガイアナでは、2024年はリサ油田第1段階プロジェクト及び同油田第2段階プロジェクトの原油生産が2023年に到達した最高水準付近を維持する一方、2023年に生産を開始する同油田パヤラプロジェクトからの原油生産拡大が寄与する形になる結果、同年の同国石油生産量は前年比で日量15~20万バレル程度の増加と2023年から増加ペースが若干ながら加速する格好となるものと見られている(IEAが同19万バレル(前年比48.6%)、EIAが同20万バレル(同51.8%)、OPECが同15万バレル(同40.3%)の、それぞれ増加)。
2024年のロシア石油供給量は前年比で日量0~13万バレル程度の減少になると考えられている(IEAが同13万バレル(前年比1.2%)、EIAが同4万バレル(同0.4%)、OPECが同0万バレル(同0.0%)の、それぞれ減少)。OPECプラス産油国による減産措置の一環として実施しているロシアの原油減産が自主的な追加減産を含め2024年末まで継続することから、同国の石油供給が制約を受けることが2024年の同国の石油供給の伸びを限定するものと見られる。ただ、OPECは同時に(ウクライナ侵攻を巡る西側諸国等による制裁等の影響もあり)ロシアの石油供給見通しについては不透明感が強い旨指摘している。
そして、世界石油需要から非OPEC産油国石油供給とOPEC産油国のNGL供給等を差し引いた、いわゆる対OPEC産油国原油需要等(「Call on OPEC」、但しこれには在庫変動も含まれる)は、2023年については、IEAが日量2,873万バレル、EIAが同2,771万バレル、OPECが同2,923万バレルになると予想しており、これは2022年に比べるとIEAとOPECは増加、EIAは減少となっている(IEAが前年比で日量17万バレル、OPECが同81万バレルの、それぞれ増加、EIAが同18万バレルの減少)(図27参照)。2023年の世界石油需要につきEIAが他の2機関と比べ増加量が低いと見込んでいることを反映する格好となっている。IEA及びOPECのデータをもとに現在のOPECプラス産油国の減産措置が継続すると仮定した場合(7月1日より実施されているサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産は12月迄継続するものと仮定する)、2023年のOPEC産油国原油生産量は、IEAで日量2,853万バレル、OPECは同2,800万バレルと、それぞれ推定される一方、EIAは2023年のOPEC原油生産量を同2,793万バレルと見込んでいることから、IEAを基準にすれば2023年は日量20万バレル、OPECを基準とすれば同123万バレルの、それぞれ供給不足(つまり在庫取り崩し)となるのに対し、EIAを基準にすれば同10万バレルの供給過剰(つまり在庫積み上げ)となるなど、2023年の世界石油需給バランスは各機関によって見方がまちまちな状態となっている。
また、2024年の対OPEC産油国原油需要は、IEAが日量2,843万バレル、EIAが同2,774万バレル、OPECが同3,003万バレルになると予想しており、これは2023年に比べるとIEAが減少、EIAがほぼ横這い、OPECが増加となっている(IEAが前年比で日量30万バレルの減少、EIAが同3万バレル及びOPECが同80万バレルの、それぞれ増加)。IEAの2024年の世界石油需要の伸びが他の2機関に比べ抑制される見通しとなっていることが対OPEC産油国原油需要の増減に影響する格好となっている。IEA及びOPECデータをもとに現在の減産措置が継続すると仮定した場合(7月1日より実施されているサウジアラビアによる自主的な追加減産は2023年12月末を以て終了するものと仮定する)、2024年のOPEC産油国原油生産はIEAで日量2,918万バレル、OPECは同2,867万バレルと、それぞれ推定される一方、EIAは2024年のOPEC原油生産量を同2,830万バレルと見込んでいることから、IEAを基準にすれば2024年は日量75万バレル、EIAを基準にすれば同56万バレルの、それぞれ供給過剰(つまり在庫積み上げ)となる反面、OPECを基準とすれば同136万バレルの供給不足(つまり在庫取り崩し)となるなど、2024年の世界石油需給バランスも各機関によって見方がまちまちな状態となっている。このように、2023年及び2024年は機関によって世界石油需給が引き締まる、もしくは緩和するといったように見方が異なっているうえ、ウクライナ侵攻を巡る西側諸国等とロシアとの対立状況、西側諸国等における金融当局による政策金利引き上げを含む金融引き締め方針、及び中国の不動産業界を含む経済減速と政府等による景気刺激策の実施、そしてそれに対する市場の評価等を巡り不透明要因が存在することから、OPECプラス産油国も減産措置の実施を巡る方針等に対しては2024年末に向け慎重かつ保守的な姿勢を維持するものと考えられる(つまり、安易に減産の緩和を決定しない一方世界石油需給を巡る不透明感が強まる兆候が見られれば現状2023年末までの実施予定となっているサウジアラビアの日量100万バレルの追加原油減産の2024年への延長を含め先制的に減産を強化するといった展開となることも想定されうる)。
なお、2023年初頭以降のOPEC産油国原油生産能力は日量3,370~3,390万バレル程度の比較的限られた範囲で変動していることから、このような状態が年末まで継続すれば、OPEC産油国が現状の原油生産を継続した場合、2023年のOPEC産油国余剰原油生産能力は日量527~589万バレル程度(IEAで同527万バレル程度、OPECで同580万バレル程度、EIAで同589万バレル程度)となる。また2024年のOPEC産油国余剰原油生産能力は日量462~550万バレル程度(IEAで同462万バレル程度、OPECで同513万バレル程度、EIAで同550万バレル程度)となる。このため、OPEC産油国の余剰原油生産能力の観点からは、世界石油供給への余裕が低減する結果、原油相場に上方圧力が加わりやすくなると言った展開にはなりにくいものと考えられる。
以上
(この報告は2023年9月19日時点のものです)