ページ番号1009906 更新日 令和5年11月17日
中国のLNG動向 ―LNG長期契約・受入基地新増設ラッシュ、LNG事業者増加の陰で進む国有大手のポートフォリオプレイヤー化とTier-2の凋落―
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概要
- 中国は21年以降米国、カタールなどと計61MTのLNG長期契約を締結した。締結済の契約数量を積み上げると、30年時点の契約数量は100MT超となる。ただし米国は柔軟性に富むが輸送距離の長さとパナマ運河の滞船リスクがある。カタールは供給安定性に優れ、転売はできないが、長期に亘り大量の購入をコミットすれば割安で権益も入手可能となる。豪州は政策変更に伴うリスクがあり、ロシアは制裁リスクを抱える。契約数量の多寡ではなく、ポートフォリオの分散、拡充が最大のリスクヘッジということになる。
- LNG契約数量や取扱量の多い国有石油企業3社(PetroChina、CNOOC、Sinopec)と輸入インフラや販売網を有するShenergy、ENNなど一部のTier-2大手はLNGポートフォリオの分散、拡充を進めている。欧州LNG受入基地使用権やTier-2へのLNG販売などを含めポートフォリオプレイヤー化が進んでいる。
- LNG輸入に占めるスポットLNGのシェアは21年の40%から半減した。中国におけるスポットLNG輸入減少はTier-2の凋落が影響している。Tier-2は20~21年に積極的にスポットLNGを輸入し、21年はLNG輸入の18%を占める存在となったが22年は10%に低下した。
- 国有3社と一部の大手Tier-2による寡占が進んでいる。特に国有3社は潤沢な在庫とオフテーク契約や受入基地から出荷するトラックLNGの値下げなどの手段を弄しLNG市場の確保を図っている。
- LNG市場価格が割安でもTier-2がスポットLNG輸入を急激に増やす余地は殆どなく、当面中国がスポットLNGを爆買いし、世界のLNG市場をかく乱させる蓋然性は当面低い。
1. 中国の天然ガス需給の現状と短期需給見通し
1-1. 22年の天然ガス消費は前年割れ、LNG輸入は前年比15.5MT減の63.4MT
中国の22年の天然ガス消費は前年比1.7%減の365Bcm(267MT)で初の前年割れとなった(1次エネルギー消費の8.4%)。生産は前年比6.4%増の218Bcm(159MT)、輸入は前年比9.9%減の150Bcm(110MT)、LNG輸入は19.5%(15.5MT)減の87Bcm(63.4MT)、パイプラインガス輸入は23%(3.4MT)増の63Bcm(45.8MT)であった(図1)。長期契約に基づくロシアのパイプラインとカタールからのLNG輸入が増加した(図2)。天然ガス輸入の首位はトルクメニスタンで前年比7%増の25.8MT(輸入の24%)であった。LNG輸入の首位は豪州だが、前年比30%減の21.9MT(輸入の20%)であった。カタールからのLNG輸入は同1.7倍の15.7MT(輸入の14%)に増加した。ロシアからの天然ガス輸入はパイプライン(11MT)とLNG(6.5MT)を合わせ同45%増の17.5MT(輸入の16%)、3位の輸入国に成長した。
中国では大気汚染改善や低炭素化を目的とした一連の政策により産業用燃料や集中暖房の石炭から天然ガスへの転換が進み、天然ガスの消費は過去10年以上増加していた。
21年の天然ガス消費はコロナからの景気回復により工業、発電用の需要が大きく増加した。石炭逼迫や水力発電の出力低下も加わり過去最高の伸び(前年比12.7%増の373Bcm(272MT)となった。ガス消費の6割を占める国内生産は政府の探鉱開発強化・増産指示により増加しているが、需要の急増を満たすには十分ではなかった。LNGは急増する天然ガス需要を満たし21年のLNG輸入量は前年比18%増(12MT)の109Bcm(79MT)となり、通年で初めて日本を抜き世界首位のLNG輸入国となった。しかし22年は一転、LNG輸入量が前年比19.5%(15.5MT)減の87Bcm(63.4MT)となった。
1-2. 工業用、発電向け天然ガス需要低迷
中国の天然ガス消費を分野別で見ると工場の熱源(ボイラー)など工業用が最も多く全体の4割、次いで都市ガスが3割、発電が2割、化学・肥料が1割であり、経済状況がガス需要に大きく影響する。
CNPC経済技術研究院(CNPC-ETRI)が23年4月に発表した「2022年国内外石油・天然ガス産業発展報告」における分野別消費推計(図3)を見ると、22年の工業用消費は前年比0.2%増の145Bcm(39.7%)にとどまった(21年は前年比14.4%増加)。ゼロコロナによる経済の低迷やガス価格の高騰で需要が落ち込み、石炭への回帰が起きた。ガスの主要消費産業である鉄鋼、ガラス製品の生産がそれぞれ2.1%、3.7%減少した。発電は前年比1.7%減の65Bcm(17.7%)であった。ガス火力発電設備容量は500万kW増え1.14億kWとなったが、風力や太陽光など再エネの発電が順調に伸びた一方で、前年と異なり石炭の供給が潤沢であったことや、発電向けのガス価格が高騰したことで調整電源としてのガス火力需要は伸び悩んだ(割高なガス火力は中国において調整電源であり、設備容量の5%、発電量の3%程度)。都市ガスの需要は1.3%増の118Bcm(32%)であった。中国の都市ガス利用人口は28百万人増加の4.7億人と安定的に伸びているが、圧縮天然ガス(CNG)自動車など交通輸送向けの需要が前年より減少した。船舶燃料向けLNG(バンカリング)需要が伸びる一方で、好調なEVに押され、CNG自動車保有台数(約600万台)や1台あたりのCNG消費量は伸び悩んでいる。
1-3. 短期天然ガス需給見通し(23年・24年)
23年上半期の天然ガス消費は前年同期比5%増の190Bcm(139MT)であった。9月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.2で6か月ぶりに50を上回り、足元では景気浮揚の兆しが見えるが、上半期の時点では不動産や輸出の低迷などにより穏やかな回復にとどまった。また石炭回帰や風力・太陽光などの再エネ振興策の影響で天然ガスはこれらに比べ穏やかな回復ペースである。
23年上半期の天然ガス生産は前年同期比5.4%増の115.5Bcm(84MT)、輸入は同5.8%増の78Bcm(56.6MT)、LNG輸入は同7.2%増33.4MT、パイプラインガス輸入は同3.9%増の23.2MTであった。
自動車向けの需要が増加したことや気温上昇に対し中国西南部の水力発電が渇水により出力が低下したことでガス火力発電向けの需要が伸びており、23年下半期は上半期より需要が上向くと見られる。
23年8月のLNG輸入は前年同月比33.4%増の6.3MTと7か月連続で増加しており、LNG輸入量は上半期の時点で日本を上回った。23年通年のLNG輸入量は70MTに達し、日本(64MT程度と見込まれる)を上回ると見られる。
コンサルタントのSIA Energyによると、23年通年の天然ガス需要は前年比8%増(28Bcm≒20MT増)の363Bcm(265MT)。生産は同6%増(13Bcm増)の231Bcm(169MT)、パイプラインガス輸入は同6%増(4Bcm増)の67Bcm(49MT)、LNGは同13%増(11Bcm≒8MT増)の99Bcm(71.5MT)の見通しである(図4)。
パイプラインガス供給はロシアからの供給のみ増加、中央アジアとミャンマーはいずれも減少の見通しである。カザフスタンとの契約は23年10月終了し更新はない。ミャンマーは生産減少や設備故障、ミャンマー国内の電力需要増加で中国向けの輸出が減少している。LNGは下半期に熱波と価格下落による電力需要増加で伸びるが、長期契約により需要増加分の大半をまかなえる見通しである。
24年通年の天然ガス需要は前年比6%増(24Bcm≒18MT増)の414Bcm(302MT)、生産は同6%増(14Bcm増)の245Bcm(179MT)、パイプラインガス輸入は同7%増(4Bcm増)の72Bcm(53MT)、LNG輸入は同7%増(7Bcm≒5MT増)の105Bcm(76.5MT)の見通しである。パイプラインガスはロシアからの供給のみ増加すると見込まれる。Power of Siberiaの契約に基づく増量に加え、中央アジア経由でロシアからのガスが一部中国に供給される可能性がある。LNGは主に長期契約に基づく供給の増加が見込まれる。
2. 中国のLNG長期契約ラッシュ、LNG事業者の増加(Tier-2台頭)、調達多角化によるリスクヘッジ
2-1. LNG長期契約ラッシュと調達多角化によるリスクヘッジ
中国は21年以降米国、カタール、ロシアなどと計61MTのLNG長期契約(21年27MT、22年24MT、23年上半期10MT)を締結した(図5)。22年の世界における新規LNG契約の3割程度が中国である。また、現在締結済の契約数量を積み上げると、30年時点の契約数量は100MT超となる。30年から35年にかけてカタールは長期契約の20%前後を維持、米国は23年の8%から30年に25%、35年には30%前後に拡大し、豪州は23年の25%から30年に12%に減少の見込みである(図6)。豪中関係の悪化で豪州とのLNG契約交渉は凍結、17年以降新規契約は締結されていない。
米国のLNG契約は柔軟性に富むが輸送距離の長さ(約1か月)とパナマ運河の混雑・滞船リスクがある、カタールは供給安定性に優れ、長期間大量の購入をコミットすれば割安だが転売はできない。本稿では詳述しないが豪州はエネルギー政策の変更に伴うリスクがあり、ロシアは制裁リスクを抱える。契約数量の多寡ではなく、ポートフォリオの分散が最大のリスクヘッジということになる。
2-1-1. LNG長期契約ラッシュ(1)米国
中国の米国とのLNG契約数量は現在最多の27MTで21年以降計25.8MTの長期契約を締結している。契約期間20年、仕向け地フリー(転売可能)の契約が多い。
米国とのLNG長期契約第1号はPetroChinaがCheniereと結び18年に供給を開始した。しかし米中関係の悪化により18年8月に中国政府が米国から輸入するLNGに10%の追加関税を課し(20年5月以降免除)、新規の長期LNG売買契約交渉は中断した(民間のENNは2018年に東芝とFreeport LNGの委託加工契約(LTA)2.2MT、20年間の譲渡について交渉を行ったがENNは米中貿易摩擦の影響で買収を断念し、Totalenergiesが取得した[1])。
国有企業は中国政府の方針が定まるまで、米国との新規契約交渉を控えていたようだが、20~21年冬季のエネルギー安定供給に対する意識の高まりやLNG市況の引き締まり(価格高騰)を受けて、政府から企業にエネルギー確保指示が出され、21年9月にSinopecとVenture GlobalがLNG売買契約を締結し、以降Tier-2を含むその他の契約締結が加速した模様である。
中国のLNG事業者が米LNGを選好する理由はその柔軟性にある。米国のLNGは仕向け地制限を伴わない液化加工委託契約を締結することが可能で、多くの契約が市況に合わせキャンセルすることが可能である。またFOB引き渡しの場合は販売先の柔軟な変更も可能である。ただし米LNGの課題として輸送距離の長さ(約1か月)とパナマ運河の混雑・滞船リスクがあげられる。中国は既に契約しているので問題ないが、今後の契約分については建設コストの上昇も懸念要因となっている。
2-1-2. LNG長期契約ラッシュ(2)カタール
中国のカタールとのLNG契約量は米国に次ぐ多さ、23MTであり、21年以降の契約数量は計15.5MTである。
22年にSinopecが、23年にPetroChinaがそれぞれQatarEnergyとNorth Field East拡張LNGについて業界最長27年間(年4MT)の契約を締結し、拡張トレイン8MT×4基のうち1基(8MT)に相当する5%の権益を取得した。
カタールのLNGは油価連動で仕向け地条項により転売はできないが、なぜ中国企業は相次いでカタールと大量の契約を結んだのかと質問されたことがあった。カタールの供給安定性と調達の多角化によるリスクヘッジがその理由であると考えている(イスラエルとハマスの紛争が起き、中東地域の地政学リスクが高まってはいるが、カタールのLNG供給に影響が出るとの見方は現時点では存在しない)。40年頃まで天然ガス需要が伸びるとされる中国においてSinopecとPetroChinaは27年間かつ年4MTという大量の契約を結ぶことが可能であり、また長期大量契約と引き換えに権益を取得した。またロシアのウクライナ侵攻を受けて欧州でLNG受入基地の整備が進み需要が増加するなか、新規のLNG長期契約は売り手市場であり、油価連動の契約はスロープが13%台でピークに達したと囁かれるなか、SinopecとPetroChinaはカタールと12%台で契約を結んだと言われている[2]。日本企業は市場化や原発政策によるLNG長期需要の不確実性やカーボンニュートラルの目標に縛られ、中国と同等の条件で交渉を行うことは難しい。余談だがUAE国営ADNOCとPetroChinaが23年9月に締結したLNG売買契約は油価連動だが少量(0.5MT)で契約期間が5年未満と短く、カタールよりもスロープは高い(割高)が、取引柔軟性がある契約とされる。いつも長期、大量の契約を行っている訳ではなく、ポートフォリオの拡充を図っている証左と言えよう。
2-1-3. LNG長期契約ラッシュ(3)ロシア
中国とロシアのLNG長期契約量は9MTで21年以降計5.76MTの契約を行っている。いずれもNovatekのArctic LNG2(PetroChina、CNOOCは出資に伴うオフテーク)である。Arctic LNG2のトレイン1は現在コミッショニング中で1stカーゴは2024年第1四半期を予定している。トレイン2は欧米の制裁により機材が不足し、稼働が遅れるという見方があるが、Novatekの関係者によるとトレイン2も予定通りトレイン1の1年後に稼働するそうである。
中国は評判リスクから敬遠されるロシアのスポットLNGを“友好国”として積極的に引き受けている。23年1~8月にロシアから5.5MTのLNGを輸入した。前年同期比で59.7%増加しており、中国のLNG輸入の12%を占め豪州、カタールに次ぐ3位のLNG輸入国に浮上している。9月にはGazpromがバルト海のPortovaya LNG(22年9月稼働、液化能力年150万トン)から北極海航路(NSR)経由で中国に初めてスポットLNGを供給。これまでPortovaya LNGはトルコ、ギリシャなど欧州向けに供給していたが初めてのアジア向けの供給であった。8月中旬にPortovaya LNGを出航したLNG船は約1か月後の9月14日に河北・唐山(Tangshan)港に到着、北京ガスやPetroChinaなどに販売された模様である。
2-2. LNG事業者の増加(Tier-2の自社受入基地・直接契約)
中国のLNG長期契約ラッシュは長期的な需要の増加が見込まれるからだけではなく、政府のエネルギーセキュリティ強化(冬季集中暖房期間への対応を含む)から企業に在庫積み増しを含め必要量の確保が求めたことなど複数の要因がある。22年時点の天然ガス貯蔵可能量(ワーキングガス)は18Bcm程度で天然ガス消費量の5%未満だが、貯蔵容量と貯蔵量は年々拡大している。政府は「現代エネルギー発展14次五か年規画」(国家エネルギー局23年3月公表)において天然ガス貯蔵容量を25年に55~60Bcm(20年43Bcm)とする目標を設定している。SIA Energyによると23年4月から8月にかけて前年同期比1.7Bcm増の16.9Bcmが貯蔵されている。
この他中国におけるLNG長期契約数量の増加の要因としてLNG事業者の増加に見られるサプライチェーンの変化があげられる。中国のLNGサプライチェーンは元々大手国有石油会社3社(CNOOC、PetroChina、SINOPEC)が外資サプライヤーあるいはマレーシアPetronasなどの産ガス国企業とLNG売買契約を締結し、LNG受入基地を操業、発電・都市ガス事業者にガスを卸販売することが一般的であった。しかし16年頃から地方政府系の深圳燃気(Shenzhen Gas)、佛然能源(Foran Energy)他民間の都市ガス事業者の新奥(ENN)、九豊(Jovo)等、そして地域グリッド(ガス・電力)事業者の申能(Shenergy)、浙江能源(Zhejiang Energy)などいわゆるTier-2(図7)による出資者としての受入基地利用(TUA)や自社LNG受入基地建設、サプライヤーとの直接契約を通じたLNGの輸入が増加した。22年末時点で中国の稼働中受入基地は24基地、受入能力は計107MTあるがPipeChinaが24%、CNOOC24%、PetroChina19%、Sinopec16%と国有3社が59%を占め、Tier-2は17%を占めている(図8)。例えば民間のENNは浙江・舟山(Zhoushan)LNG受入基地(5MT)を操業中で、ChevronやCheniereなどと締結した長期契約のLNGを輸入、自社船建造や欧州との裁定取引など取引最適化も進めている。ENN関係者によるとCNOOCのLNGトレーディング部門や日本からの転職組が活躍しているとのことである。
同じく民間のGuanghuiは江蘇・啓東(Jidong)LNG受入基地(0.65MT)を操業中でTotalenergiesと長期契約を締結しLNGを輸入している。
3. 中国のLNG受入基地新増設ラッシュと保税タンクの増加(バンカリング、リロード対応)
3-1. LNG受入基地の新増設ラッシュと稼働率の低下(ユーザーを巡る競争激化)
近年中国ではLNG受入基地の新増設が進んでいる。23年は、6月にSuntienの河北・曹妃甸(Caofeidian)受入基地(5MT)、8月に広州ガスの広東・南沙(Nansha)受入基地(1MT)、浙江能源の浙江・温州(Wenzhou)受入基地(3MT)、9月に北京ガスの天津南港(5MT)とTier-2の4基地計14MTが稼働、稼働中受入基地は28基地、受入能力は計128MTとなった。LNG受入基地は2025年にかけてなお複数の新増設計画があり、順調に建設が進展した場合、2025年に中国の受入能力は180MTを超える可能性が高い。
新増設が進む一方で、22年に中国のLNG受入基地の年間平均稼働率は高ガス価格と国内需要の軟化により6割に低下した。LNG受入基地の新増設が進む25年以降も長期に亘り年間稼働率が5~6割で推移することが見込まれる。SIA Energyによると、政府は受け入れ基地の投資承認を行うが、その操業や収益性について規制や干渉は行わない。受入基地の増加に伴いユーザーを巡る競争が激化していき、地理的優位性に劣る基地や出荷容量、出入港可能船舶に制限のある基地、上流(国内外ガス田との契約)や下流市場を確保できていない基地は苦戦を強いられることになると思われる。
3-2. 中国のLNG受入基地における保税タンクの増加(リロード、バンカリング)
中国ではLNG受入基地貯蔵タンクの保税タンク化が進んでいる。PipeChina、国有3社、Tier-2を問わず保税貯蔵タンクの申請、承認が相次いでいる(図10)。保税タンクとすることにより、船舶燃料供給(LNGバンカリング)や再出荷、内外市場への転売(リロード)、ブレークバルク(小型船やISOコンテナに積み替える分配輸送)が免税となる。LNG契約量・取扱量の多い国有3社は保税タンクを活用し、LNG取引の最適化を図ることが可能となる。また、国家石油天然気管網公司(PipeChina)は保税タンクを増やすことでリロードやLNGバンカリング、ブレークバルク等による基地の利用を増やし、稼働率向上を図ろうとしていると思われる。PipeChinaは政府が供給の多角化、設備利用向上を目的に国有石油企業の資産を統合して19年12月に設立したLNG受入基地・パイプライングリッド会社であり、LNG受入基地の開放を進めてはいるもののTier-2のLNG取扱量拡大にそれほど貢献できておらず、稼働率が低迷している基地が存在する。
中国では海運の排出削減や水質改善対策について低硫黄重油(VLSFO)への転換が進んでいるが、20年5月に交通運輸部が「河川海運整備要綱」を発表、同要綱ではクリーンエネルギーの普及・活用の拡大として、LNGの省エネ・環境対応型船舶の推進、内陸水路の水質改善、内陸水路の整備の推進などが示された。国有大手は広東省周辺で地方政府と協力しLNGバンカリング事業を進めている。
20年6月PetroChina傘下の中国石油天然気販売広東分公司は広東省深圳市塩田区政府、塩田港集団、深圳燃気(Shenzhen Gas)、と広東・香港・澳門大湾区(通称「大湾区」)初となるLNGバンカリングセンターを建設することで合意した。8,000~10,000立方メートルの船舶にLNGを供給する。まず年0.23MTを供給する能力を持ち、将来的に年2MTに拡張する計画である。
CNOOCは20年5月広東省政府と造船大手中国船舶集団(CSSC)と広東省内陸部河川におけるLNGバンカリングを推進することで合意した。25年までに内陸河川向けLNG燃料船1,500隻(改造船)、LNG充填ステーション19か所を建造する計画である。全面完成後LNGの船舶向け需要は年0.4MTになるとしている。
参考 IMO規制の強化とLNGバンカリング
近年欧州の複数の海運大手が中国の港湾管理企業とLNGバンカリング契約を締結している。上海国際港務集団(SIPG)は22年3月に仏海運大手のCMA CGMと、23年9月にスイスの海運大手MSEとLNGバンカリング契約を締結した。SIPG傘下のShanghai SIPG Energy Service(SSES)は世界最大級となる2万TEUの新造LNG供給船「海港未来」(Hai Gang Wei Lai)を運航しており、CMAやMSEのLNGを燃料とするコンテナ船にLNGを供給する。
欧州の海運大手が相次いで中国の港湾管理企業とLNGバンカリング契約を締結したことはIMOの国際海運における排出規制と無関係ではない。
23年7月に国際海事機関(IMO)は国際海運の排出削減目標強化(50年について08年比で50%削減からネットゼロ)で合意、2018年に定めた「GHG削減戦略」を改定した。[3]08年を基準年とし、30年までにGHG排出を20%~30%削減、輸送量あたりCO2排出40%削減、ゼロエミッション燃料の使用割合を5~10%とすることが定められている。また40年には排出GHGを70%~80%削減する目標が定められている(図9)。加盟各国は25年までに目標達成に向けた方策を取りまとめ、27年から実施する。EUや中国は燃料のGHG強度を規制し、新たなGHG削減目標と整合させようとしている。
ゼロエミッション燃料としてメタノール、バイオ燃料、電気、アンモニアや水素に至るまで様々な方策が検討されているが、LNGは他の代替燃料への「橋渡し燃料(bridge fuel)」の筆頭として広く認識されている。稼働中または発注済みのLNG燃料船は2021年6月時点で500隻を超えており(LNG運搬船は除く)、既に世界の船舶の一部を占めている[4]。日本でも日本郵船がLNG燃料をゼロエミッション船が実現するまでのブリッジソリューションの一つと位置付け、2028年までに合計20隻の新造LNG燃料自動車専用船の竣工を進めるとしている[5]。
(出所:国際海運「2050年頃までにGHG排出ゼロ」目標に合意、国土交通省2023年7月)(外部リンク)
3-2-1. 国有PipeChinaの保税タンク・申請
23年7月、深圳税関はPipeChinaの広東・迭福(Diefu)LNG受入基地(4MT)における既設16万立方メートル貯蔵タンク4基のうち1基を保税タンクとすることを承認した。PipeChinaは既に海南(Hainan)LNG受入基地(3MT)は16万立方メートルの貯蔵タンク2基のいずれも保税タンクの承認を得ており迭福は2基地目である。PipeChinaはこれらの保税タンクを活用しLNGバンカリングを実施している。PipeChinaは天津LNG受入基地においても保税タンクの申請を行っている。
3-2-2. 国有大手3社の保税タンク承認・申請
CNOOCは浙江・寧波(Ningbo)LNG受入基地(6MT)における16万立方メートルの貯蔵タンク2基を保税タンクとする承認を得ており、23年6月に仏海運大手CMAのLNGを燃料とするコンテナ船向けに初の船舶間(STS)LNGバンカリングを実施した。また同年9月には大阪ガス姫路LNG受入基地向けにLNG7万トンの再出荷(リロード)を行った。CNOOCは23年9月に天津・濱海(Binhai)LNG受入基地(MT)の22万立方メートルの貯蔵タンクについて保税タンクの承認を得た。この他国有大手ではPetroChinaが大連LNG受入基地(6MT)で保税タンクを申請している。
3-2-3. Tier-2による保税タンク承認・申請
Tier-2では上海Shenergyが上海・洋山(Yangshan)LNG受入基地(3MT)の20万立方メートル貯蔵タンク1基について保税タンクの承認を受けており、ENNが浙江・舟山LNG受入基地において保税タンクの申請中である。
3-3. 国有大手、欧州LNG受入基地の使用権獲得、取引最適化へ
国有大手は国内LNG受入基地の保税タンク化だけでなく、海外のLNG受入基地を活用し、LNG取引の最適化を図ろうとしている。
23年5月、PetroChinaは欧州のLNGハブであるオランダ・ロッテルダムにあるGate LNG受入基地の使用権(年2Bcm、20年)を予約した。Gate LNG受入基地はオランダGasunieとVopakの合弁会社で2011年稼働、処理能力は年12Bcm(8.8MT)、貯蔵容量は54万立方メートル(18万立方メートルタンク3基)である(図11)。23年9月に拡張工事(第4タンク増設、処理能力年20Bcmに増強)の最終投資決定を行い、26年Q3稼働を目指している。PetroChinaの使用権はFIDを条件として26年10月に発効する。
(出所: 天然ガス・最新動向-LNG需給実績・予測、契約トレンドと多極化の未来に迫る10大リスク-
JOGMEC石油・天然ガスレビュー2023年5月)
4. 中国におけるスポットLNG輸入の減少とTier-2の凋落
4-1. 低迷するアジアのスポットLNG取引
22年の世界のLNG市場はウクライナ危機後の地政学的緊張と欧州における低在庫により、リスクプレミアムが高まり、欧州のガス価格(TTF)が高騰、北東アジアスポット価格(JKM)も欧州ガス価格に引きずられる形で高騰した。23年は欧州での在庫積み上がりにより欧州ガス価格は沈静化、JKMも歴史的水準から比べると依然として高いが10月6日時点で12ドル後半と沈静化している。
このような状況のもと、アジアにおけるスポットLNG取引は概して低調である。JOGMEC調査部では日本入着スポットLNG月次価格の調査、公表を行っている。事業者が特定できないよう、2社以上2つ以上の取引が行われている場合のみ公表することとしているが、23年9月(速報ベース)に22年11月以来10か月ぶりで入着ベースを公表することとなった。
スポットLNG調査とは別にある日本の関係者に話を聞いたところ、大手のように取引で最適化を図る余力はなく、スポットLNGのエクスポージャーを低下させ、契約分も他社とのスワップや先送りによる調整を図っているという。
4-2. 中国のスポットLNG輸入急減
中国の22年のスポットLNG輸入量は11.8MT(前年21年の31.5MTから19MT減少)と大きく減少した。22年はLNGに比べ安価な国産ガスやパイプラインガスの輸入が選好された。中国のLNG輸入におけるスポットLNGの比率は21年の40%から18.5%へと半減した。23年上半期のスポットLNG輸入量は7MTでLNG輸入の20%と少し上向いてはいるが21年の水準には及ばない。
Tier-2は20年から21年にかけて積極的にスポットLNGの輸入を行い21年はLNG輸入の18%(15MT)を占める存在となったが22年は10%(7.6MT)に低下しており、中国におけるスポットLNG輸入の減少はTier-2の凋落が影響しているといえる。石油産業では山東省などに位置する地方製油所が政府から輸入原油使用権を得て2016年以降原油輸入の3割超を占め、サウジアラビアAramcoが出資する企業も現れるなど存在感が高まっている。しかしLNG事業は上流の供給、輸入インフラ、販売網を保有する国有石油企業3社(PetroChina、CNOOC、Sinopec)と輸入インフラや販売網を有するShenergy、ENNなど一部の大手Tier-2による寡占が進んでいる。
4-3. スポットLNGを巡る国有とTier-2の攻防
国有3社は潤沢な在庫とオフテーク契約の引き取り義務やトラックLNGの値下げにより市場確保を図っている。中国のガス供給を巡る国有3社とTier-2の攻防を図13に示す。23年上半期のガス供給139MTのうち国産が6割(84MT)、輸入が4割(56MT)である。輸入40%のうちロシアなど長期契約によるパイプラインが16%(23MT)、長期契約に基づくLNGが19%(26MT)、スポットLNGが5%(7MT)である。また国内の随伴ガスを利用、液化した国産LNG(事業者は多種多様)とLNG受入基地から販売するトラックLNGが供給の10%(14MT、国産9MT、輸入5MT)を占める。
国有3社は上流の供給、輸入インフラ、販売網を保有しており、民間や地方政府系事業者にガス(LNG)の卸販売を行う。工業ユーザーは安いスポットLNGへの購入意欲があるが、オフテーク契約は4月~3月で9割超の引き取り義務が存在する。
トラックLNGは主にCNOOCやTier-2大手のENNが工業ユーザーに相対、自由価格で販売することが可能だ。スポットLNGはJKMに連動しており到着時に1~2か月のタイムラグが生じるがトラックLNGは追加需要に対しスポットLNGより迅速に値下げを行うことが可能で価格優位性がある。
5. まとめ
中国の天然ガス消費は22年の前年割れから緩やかな回復基調にあり24年も同様の傾向が続く見通しである。
中国は21年以降米国、カタール、ロシアなどと計61MTのLNG長期契約を締結した。締結済の契約数量を積み上げると、30年時点の契約数量は100MT超となる。ただし米国は柔軟性に富むが輸送距離の長さ(約1か月)とパナマ運河の混雑・滞船リスクがある、カタールは供給安定性に優れ、長期間大量の購入をコミットすれば割安だが転売はできない。本稿では詳述しないが豪州はエネルギー政策の変更に伴うリスクがあり、ロシアは制裁リスクを抱える。契約数量の多寡ではなく、ポートフォリオの分散が最大のリスクヘッジということになる。
LNG長期契約ラッシュは長期的な需要の増加が見込まれるからだけではなく、政府のエネルギーセキュリティ強化やLNG事業者、受入基地の増加が背景にある。
稼働中のLNG受入基地は28基地(計128MT)となった。なお複数の新増設計画が進行中であり、順調に建設が進展した場合、25年に受入能力は180MTを超える可能性が高い。一方稼働率は低下しており、25年以降長期に亘り年間稼働率5~6割で推移することが見込まれる。
LNG受入基地の保税タンク化が進んでいる。国家石油天然気管網公司(PipeChina)や国有、Tier-2を問わず保税タンクによりLNGバンカリングやリロード、ブレークバルク(小型船やISOコンテナに積み替える分配輸送)による基地活用や稼働率向上を図ろうとしている模様である。
LNG契約量・取扱量の多い国有やTier-2大手は、LNGポートフォリオ拡充を進めており、欧州LNG受入基地使用権やTier-2とのLNG売買契約などを含めポートフォリオプレイヤー化が進んでいる。
中国の22年のスポットLNG輸入量は11.8MT(前年21年の31.5MTから19MT減少)と大きく減少した。LNG輸入に占めるスポットLNGのシェアは21年の40%から22年は18.5%、23年上半期は20%と半減した。Tier-2は20年から21年にかけて積極的にスポットLNGの輸入を行い21年はLNG輸入の18%(15MT)を占める存在となったが22年は10%(7.6MT)に低下しており、中国におけるスポットLNG輸入の減少はTier-2の凋落が影響しているといえる。
国有大手3社は潤沢な在庫とオフテーク契約の引き取り義務やトラックLNGの値下げで市場確保を図っており、3社とTier-2大手による寡占が進んでいる。市場価格が割安でもTier-2がスポットLNG輸入を急激に増やす余地は殆どなく、世界のLNG市場をかく乱させる蓋然性は低い。
[1] 中国、LNG長期契約ラッシュとエネルギー14次五か年計画に見る天然ガスサプライチェーン強化戦略(竹原、石油天然ガス資源情報2022年5月)
[2] Asian LNG Buyers Seek Oil-Indexed Deals Once Again(IOD2023/9/26)
以上
(この報告は2023年10月11日時点のものです)