ページ番号1009907 更新日 令和6年8月21日

原油市場他:ロシアによる軽油等の輸出禁止及び米国オクラホマ州クッシングの原油在庫減少で2022年8月以来の高水準に到達する原油価格

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レポートID 1009907
作成日 2023-10-16 00:00:00 +0900
更新日 2024-08-21 09:52:02 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 34
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
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地域3
国3
地域4
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地域5
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地域6
国6
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地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 グローバル
2023/10/16 野神 隆之
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概要

  1. 米国では秋場の製油所メンテナンス作業の活発化に伴い石油製品生産活動が鈍化したことにより、留出油在庫は減少傾向となった結果、平年幅の下限付近に位置する量となったが、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了によりガソリン需要が減少したことから、ガソリン在庫は増加傾向となり、平年幅上限を超過する量となっている。また、精製活動の鈍化とともに国内原油生産が増加したこともあり、同国原油在庫は増加となった他平年幅上限を超過する状態は維持されている。
  2. 2023年9月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した。しかしながら、日本においては一部製油所での秋場のメンテナンス作業実施に伴い製油所の稼働が停止することを控えて原油在庫が削減されたと見られることから、また、欧州においては、留出油製造を巡る採算性が良好であったこともあり、製油所での原油精製処理量が増加したことから、それぞれ原油在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。また、石油製品については、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり各地域でガソリン在庫が増加したことが一因となり、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている。
  3. 2023年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、9月21日にロシアが軽油輸出を原則禁止したことに加え、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が2022年7月8日以来の低水準にまで減少したことが、原油相場に上方圧力を加えた結果、9月27日には原油価格は1バレル当たり96.68ドルの終値と2022年8月29日以来の高水準に到達した。しかしながら、ロシアが軽油輸出の禁止を解除する旨検討していると10月4日に報じられたうえ、実際に10月6日には当該輸出が原則解除されたこと、米国ガソリン在庫が市場の事前予想を相当程度上回って増加したことにより同国ガソリン需要不振を市場が意識したことが、原油相場に下方圧力を加えたことにより、10月5日には原油価格は1バレル当たり82.31ドルの終値と8月31日以来の低水準に到達した。それでも、10月7日以降ハマスとイスラエルとの間で戦闘状態となったことに伴う中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給途絶懸念の増大が原油相場に上方圧力を加えたことにより、10月13日には原油価格は1バレル当たり87.69ドルの終値へと再び上昇している。
  4. この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることが、石油製品及び原油の価格に上方圧力を加えるものと見られる。また、イスラエルとハマスの戦闘激化に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念も原油価格を下支えしたり押し上げたりする方向で作用する可能性がある。さらに、中国経済底打ちに対する期待等も、原油相場にとって支援材料となりうるものと考えられる。他方、米国金融当局による政策金利の引き上げや高水準での維持に伴う同国経済減速と石油需要の伸びの鈍化観測等が原油価格のさらなる上昇を抑制する方向で作用する可能性があるものと考えられる。

(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

 

1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2023年7月の米国ガソリン需要(確定値)は日量901万バレル、前年同月比で2.3%程度の増加となり(図1参照)、6月の当該需要である同928万バレルから需要量が下振れした一方同月の前年同月比の増加率である2.3%程度の増加と増加率はほぼ同水準であった。ただ、当該需要は速報値(前年同月比1.1%程度増加の日量891万バレル)から上方修正されている。7月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量100万バレル程度と推定されたところ確定値では同84万バレルへと下方修正されたことで、この部分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと見られる。米国では7月4日の独立記念日(インディペンデンス・デー)(この時期が米国では最もガソリン需要が盛り上がるとされる)に向け夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要が旺盛となったものの、独立記念日以降はガソリン需要が一服したこともあり、7月の同国自動車運転距離数は1日当たり93億マイルと6月の同94億マイルから縮小したことが、7月の同国ガソリン需要の前月比での減少をもたらしたものと見られる。ただ、2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻により、原油価格とともに米国ガソリン小売価格が上昇、2022年7月の全米平均ガソリン小売価格が1ガロン当たり4.668ドルと、同年6月の同5.032ドル(この月の全米平均ガソリン小売価格は1993年4月以降の米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)全米平均ガソリン小売統計史上最高水準に到達した)からは下落したものの、なお高水準であった反面、2023年7月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.712ドルと前年同月比で20%程度の下落となったことが、7月の同国ガソリン需要が前年同月比で増加した一因であるものと考えられる(なお、7月の米国自動車運転距離数は前年比2.9%の増加と6月の同3.0%の増加と増加率はほぼ同水準であった)。また、2023年7月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染流行前の2019年7月の当該需要(日量953万バレル)(確定値)を5.5%程度下回っている。他方、2023年9月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量835万バレル、前年同月比で5.6%程度の減少となっており、8月の当該需要(速報値)である日量906万バレルから需要量が減少した他同月の前年同月比0.6%程度の減少から減少率も拡大した。米国労働者の日(レイバー・デー)(9月4日)に伴う連休(9月2~4日)を以て同国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、9月の米国自動車運転距離数は1日当たり88億マイルと8月の同91億マイルから減少したことが、9月の同国ガソリン需要が前月比で減少した背景にあるものと考えられる。また、9月のガソリン小売価格は1ガロン当たり3.958ドルと8月の同3.954ドルとほぼ同水準ではあったものの、前年同月の水準(同3.817ドル)を上回る状況となったことが、同国のガソリン需要を抑制する格好となった結果、9月の米国ガソリン需要の前年同月比の減少率が8月から拡大したものと見られる。なお、2023年9月の米国ガソリン需要は2019年9月の当該需要(日量920万バレル)(確定値)を9.2%程度下回っている。また、米国において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともあり、同国の製油所で秋場のメンテナンス作業実施が本格化したことにより、製油所の原油精製処理量が減少傾向になる(図2参照)とともにガソリンの製造活動も不活発化したものと見られる(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ものの、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了とともに同国のガソリン需要も減少傾向となったことにより相殺されて余りあったことから、9月上旬から10月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は増加傾向となったうえ、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。

図1 米国ガソリン需要の伸び(2015~23年)

図2 米国の原油精製処理量(2009~23年)

図3 米国のガソリン(最終製品)生産量(2009~23年)

図4 米国ガソリン在庫推移(2003~23年)

2023年7月の米国留出油需要(確定値)は日量365万バレルと前年同月比で2.0%程度の減少となり(図5参照)、6月の同396万バレル(前年同月比2.3%程度の減少)から需要量が減少したが前年同月比では減少率が縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比3.5%減少の日量359万バレル)からは上方修正されている。米国での主要な穀物の作付けが概ね完了する一方、収穫には時期尚早であったことが、農機具稼働のための軽油等の需要を抑制した結果、7月の留出油需要が前月比で減少する格好となっている。また、米国における物価上昇の継続及び金融当局による一連の金融引き締め政策が同国の経済活動に影響を及ぼした結果、2023年7月の同国鉱工業生産が前年同月比で0.0%の減少と6月の同0.3%の減少からは減少率は縮小したものの、依然として若干ではあるが減少となった他、2023年7月の同国の物流活動も前年同月比で1.1%の減少と6月の同2.7%の減少からは減少率が縮小したもののなお減少となっていたことが、2023年7月の同国留出油需要の前年同月比での減少率に影響しているものと考えられる。なお、7月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量391万バレル)(確定値)を6.7%程度下回っている。他方、2023年9月の米国留出油需要(速報値)は日量387万バレルと前年同月比で5.5%程度の減少となり、8月の当該需要量(速報値)の日量376万バレル(前年同月比4.5%程度の減少)から需要量は増加したものの、前年同月比の減少率は拡大した。9月も8月と同様米国で一部穀物の収穫が実施されつつあったこともあり農機具稼働のための軽油需要が喚起されたものと見られることが9月の留出油需要を下支えする格好となっている。しかしながら、9月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり4.563ドルと前月から大幅(12.6%程度)に上昇した8月の同4.370ドルからさらにそれなり(4.4%程度)に上昇、前年同月(同4.993ドル)の水準を下回る割合も8.6%と8月の12.8%から相当程度縮小するなど、軽油価格の割安感が薄れたことが軽油需要を抑制しているものと見られることに加え、9月の米国鉱工業生産は前年同月比推定0.9%の減少と8月の同0.2%の増加から減少に転じていることから、これらの面で9月の同国軽油需要を前年同月比で減少させる方向で作用しているものと見られる。なお、2023年9月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量392万バレル)(確定値)を1.3%程度下回っている。また、7月前半から8月前半にかけ米国留出油在庫が減少傾向となったこと等もあり、製油所における留出油製造を巡る採算性が改善したことが、秋場のメンテナンス作業実施により石油製品製造活動が不活発化する中でも製油所での留出油生産の減退を抑制する形で作用したものと見られる(図6参照)ことから、9月上旬から10月上旬にかけ米国留出油在庫は増加傾向となったが、平年幅下限付近に位置する量となっている(図7参照)。

図5 米国留出油需要の伸び(2015~23年)

図6 米国の留出油生産量(2009~23年)

図7 米国留出油在庫推移(2003~23年)

2023年7月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比1.0%程度増加の日量2,012万バレルとなり(図8参照)、6月の同2,072万バレルから需要量が減少した他、同月の前年同月比1.4%程度の増加から増加率が縮小した。ガソリン及び留出油両需要が前月から減少したことが同国石油需要の前月比での減少に反映されている。また、7月のその他の石油製品の需要の前年同月比での伸び(日量2万バレル、0.5%の、それぞれ増加)が6月(日量12万バレル、2.7%の、それぞれ増加)に比べ鈍化していることが、7月の同国石油需要の前年同月比での増加率が6月に比べ縮小している一因となっている(特に7月の石油コークスの需要の前年同月比での減少幅(日量23万バレル、63%の、それぞれ減少)が6月(日量5万バレル、21%の、それぞれ減少)に比べ相当程度拡大していることから、同国鉱工業生産のもたつきが影響している可能性があることが示唆される)。また、その他の石油製品の需要が速報値(日量505万バレル)から確定値(同460万バレル)に移行する段階で相当程度下方修正されたことにより、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比1.9%程度増加の日量2,031万バレル)から下方修正されている。なお、2023年7月の米国石油需要は2019年7月の当該需要(日量2,074万バレル)(確定値)を2.9%程度下回っている。他方、2023年9月の米国石油需要(速報値)は日量2,026万バレル、前年同月比で0.6%程度の増加となっており、8月の同国石油需要(速報値)である日量2,108万バレル、前年同月比4.0%程度の増加から、需要量が減少した他前年同月比での増加率も縮小している。9月に入り夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことによりガソリン需要が前月比で減少した他、前年同月比での減少率が拡大したことが、米国石油需要の前月比での減少及び前年同月比での増加率の縮小に反映されているものと考えられる。なお、9月のその他の石油製品の需要は日540万バレルと2022年8月~2023年7月の当該需要(確定値)である日量373~467万バレルを相当程度上回っていることから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正される可能性があるので注意が必要であろう。また、2023年9月の米国石油需要は、2019年9月の当該需要(日量2,025万バレル)(確定値)を0.0%程度上回っている。そして、7月1日から8月末の予定で実施されていたサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産を9月も実施する旨8月3日に国営サウジ通信が報じた他、当該減産実施を12月末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が伝えたこともあり、OPECプラス産油国からの原油供給変動の影響を米国より受けやすい欧州において石油需給引き締まり感が強まったことにより、欧州の指標原油であるブレントが米国の指標原油であるWTIよりも相対的に割高となる状態が継続したこともあり、米国からの原油輸出は概ね高水準の状態を保ったものの、9月上旬から10月上旬にかけ米国の原油生産量は日量日量1,290万バレルから同1,320万バレルへと増加となった(そして、これは2020年2月28日及び3月13日の週の同1,310万バレルを上回り、1983年初頭以降の同国週間原油生産統計史上最高水準に到達した)うえ、秋場のメンテナンス作業実施が本格化したこともあり同国製油所の原油精製処理量が減少傾向となったことから、9月上旬から10月上旬にかけての同国の原油在庫は増加傾向となった他、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年幅下限付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。

図8 米国石油需要の伸び(2015~23年)

図9 米国原油在庫推移(2003~23年)

図10 米国原油+ガソリン在庫推移(2003~23年)

図11 米国原油+ガソリン+留出油在庫推移(2003~23年)

2023年9月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、米国では増加した。しかしながら、日本においては一部の製油所で秋場のメンテナンス作業実施に伴い製油所の稼働が停止することにより原油在庫が削減されたと見られることから、原油在庫は減少した。また、欧州においては、秋場の製油所のメンテナンス作業実施時期に突入したものの、留出油製造を巡る採算性が良好であったこともあり、メンテナンス作業を当初予定よりも軽度なものにしたと言われていることにより、かえって製油所での原油精製処理量が増加したことから、原油在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体の原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国では、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したこともありガソリン在庫が増加したことが一因となり石油製品全体の在庫も増加した。また、日本においても、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了によりガソリン在庫が増加した他、気温が総じて高く暖房用石油製品の需要が軟調であったこともあり灯油の在庫が積み上がったこと等から石油製品在庫は増加となった。他方、欧州では夏場のドライブシーズンに伴う乗用車向けのガソリンや軽油の需要期が終了した一方で、製油所の原油精製処理活動が活発化したこともあり、ガソリンや中間留分を中心として石油製品在庫は若干ながらではあるが増加した。この結果、OECD諸国全体の石油製品在庫は増加したうえ平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限を超過する量となっている(図14参照)。なお、2023年9月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.6日と8月末の推定在庫日数(61.2日)から増加している。

図12 OECD諸国原油在庫推移(2005~23年)

図13 OECD諸国石油製品在庫推移(2005~23年)

図14 OECD諸国石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~23年)

9月13日に1,200万バレル台前半程度の水準であった、シンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は9月20日には1,300万バレル台前半程度の量へと増加したものの、9月27日には1,300万バレル弱程度の量へと減少した。10月4日は増加したものの依然1,300万バレル弱程度の水準にとどまった他、10月11日には1,200万バレル台前半程度の量へと減少しており、結果として9月20日の水準を下回るなど、減少傾向となっている。北半球を中心とする地域において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより、ガソリン需要が減少したことがシンガポールからの軽質製品輸出を抑制したものの、アジア各国等においては秋場のメンテナンス作業実施に伴う製油所の稼働低下により石油製品輸出を抑制する反面輸入を活発化させたと見られることに加え、中国が中秋節及び国慶節の休日による国内の個人往来の活発化を控えガソリン輸出を削減したと見られる結果シンガポールの軽質製品輸入が減少する格好となったことが、シンガポールの軽質留分在庫の減少傾向の背景にあるものと考えられる。ただ、欧米諸国等においても夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことによりガソリン需要が減退したことが同地域におけるガソリン価格に下方圧力を加えたことが、アジア地域のガソリン価格にも影響を及ぼしたこともあり、9月中旬から10月中旬にかけてのアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(この場合ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示したうえ、10月上旬には一時ガソリン価格がドバイ原油価格を下回る場面も見られた。

他方、2023年に入り中国国内におけるナフサ分解装置(及びプロパン脱水素化装置(PDH))の稼働率が上昇しつつある(ナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入等した原油を精製することにより製造されているものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入が限定される格好となっている(2023年7月の同国のエチレン輸入量は約18万トンと直近のピーク時である2019年1月(約29万トン)の約3分の2程度の規模となっている)こともあり、(中国を除く)アジア地域における石油化学製品需給が軟調気味に推移しているうえに、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了によりガソリンに混入するナフサの需要も減退したことが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた。反面、アジア各国等における秋場のメンテナンス実施に伴い製油所における石油製品製造活動の不活発化がナフサ供給に影響を与える格好となったものと見られることが、アジア市場におけるナフサ価格を下支えした。この結果、9月中旬から10月中旬にかけては、アジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は概ね限られた範囲内での変動となったが、8月中旬から9月中旬にかけての時期に比べると当該価格差は拡大している。

9月13日には900万バレル強程度の量であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、9月20日は前週比で減少したものの900万バレル強程度の水準を維持したうえ、9月27日には900万バレル台前半程度、10月4日には1,000万バレル弱の量へと増加した。10月11日には900万バレル台半ば程度の水準へと低下しているものの、9月13日の量は上回る状態となるなど、当該在庫は増加傾向となっている。アジア各国等における秋場のメンテナンス作業実施に伴い製油所における中間留分製造活動は不活発化しているものと見られるものの、中国石油会社7社に対し2023年第3回の石油製品(低硫黄重油を除く)輸出枠1,200万トン(これとは別に低硫黄重油輸出枠300万トン)が付与された(9月1日に伝えられる)後、中国からシンガポール方面への軽油輸出が活発化したことが、シンガポールにおける中間留分在庫を押し上げる格好となった。そして、シンガポールにおける中間留分在庫が増加傾向となったことが、例えばアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)の拡大を抑制する形で作用した。しかしながら、夏場において欧州や米国の製油所で装置に不具合が発生したことにより石油製品製造活動に支障が生じたことや、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来により製油所ではガソリンの製造が優先される一方で軽油の製造が劣後気味となった結果、欧米諸国の軽油在庫が総じて減少傾向を示した。また、北半球の製油所が秋場のメンテンナンス作業を実施することにより、軽油等の製造が不活発化していることで、冬場の暖房シーズンの到来に伴う暖房用軽油需要期を控えた軽油の需給の引き締まり感が市場で意識されやすくなった。さらに、国内の需給引き締まりへの対策として、9月21日以降ロシアがベラルーシ、カザフスタン、アルメニア及びキルギスタンへの輸出を除き、軽油(8月時点において海上輸送経由で日量88万バレル)及びガソリン(同8万バレル)の輸出を禁止する旨ロシアが9月21日に発表した(この時点では終了予定日未定であった)。このようなことから、欧州諸国を中心として足元の軽油需給の引き締まり感が一層強まった。このような軽油需給引き締まり感の増大の影響がアジア市場にも及んだ結果、9月中旬から9月下旬にかけての同市場における軽油とドバイ原油との価格差はどちらかというと拡大する傾向を示した。それでも、ロシアが9月21日より実施している軽油輸出禁止措置を部分的に緩和することを検討している旨10月4日に同国のコメルサント紙が報じたことに加え、10月6日にはロシア政府が軽油輸出禁止を基本的に解除する旨発表したこともあり、世界的に軽油需給の相対的な緩和感が市場で醸成されたことがアジア市場での軽油価格に下方圧力を加えたことが一因となり、10月上旬から中旬にかけては同市場での軽油とドバイ原油との価格差は縮小傾向となった。

9月13日に2,000万バレル台後半程度の水準であったシンガポールの重油在庫は、9月20日には2,100万バレル台後半程度の量へと増加したものの、9月27日には1,900万バレル台後半程度、10月4日には1,900万バレル台前半程度、10月11日には1,800万バレル弱程度の量へと、それぞれ減少した結果、9月13日の水準を下回る状態となるなど、減少傾向となった。秋場のメンテナンス作業実施に伴う製油所の稼働低下により重油の製造が不活発化したことに加え、3基目の常圧蒸留装置(原油精製能力日量20.5万バレル)が稼働を開始した(7月6日に操業者であるKIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)発表)クウェートのアル・ズール(Al-Zour)製油所(原油精製能力同61.5万バレル)からの重油供給が低迷している(実際10月9日にはKIPIが数日中に同製油所での原油精製処理量が日量61.5万バレルに到達する旨発表していることから、それまでは稼働が不十分であった結果同製油所での重油製造が制限されていた可能性がある)ことが、シンガポールへの重油の流入を抑制する形で作用した。このため、中東や南アジア諸国等において夏場の高温期が峠を越えつつあったことから空調のための電力供給向けの発電部門での重油(高硫黄重油が中心であるとされる)の需要が減少傾向となったものと見られることがシンガポールへの重油の流入を促す反面シンガポールからの重油の流出を抑制する格好となったものの、全体としては、シンガポールにおける重油在庫は減少傾向となっているものと考えられる。このようにシンガポールにおける重油在庫が減少傾向となったものの、中東や南アジア諸国等において夏場の空調のための電力供給向けの発電部門における高硫黄重油の需要が減退したことにより、アジア市場における高硫黄重要価格に下方圧力が加わったことから、9月中旬から10月中旬にかけてのアジア市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)はどちらかというと拡大する傾向を示した。しかしながら、クウェートからの重油(低硫黄のものが中心と言われている)供給の低下に加えシンガポールにおける重油在庫減少を反映し低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油価格を上回っている)は、9月中旬から10月中旬にかけどちらかというと拡大する傾向を示した。

 

2. 2023年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場等の状況

2023年9月中旬から10月中旬にかけての原油市場においては、9月21日にロシアが軽油輸出を原則禁止したことに加え、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が2022年7月8日以来の低水準にまで減少したことが、原油相場に上方圧力を加えた結果、9月27日には原油価格は1バレル当たり96.68ドルの終値と2022年8月29日以来の高水準に到達した。しかしながら、ロシアが軽油輸出の禁止を解除する旨検討していると10月4日に報じられたうえ、実際に10月6日には当該輸出が原則解除されたこと、米国ガソリン在庫が市場の事前予想を相当程度上回って増加したことにより、同国ガソリン需要不振を市場が意識したことが、原油相場に下方圧力を加えたことにより、10月5日には原油価格は1バレル当たり82.31ドルの終値と8月31日以来の低水準に到達した。それでも、10月7日以降ハマスとイスラエルとの間で戦闘状態となったことに伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念の増大が原油相場に上方圧力を加えたことにより、10月13日には原油価格は1バレル当たり87.69ドルへと再び上昇している(図15参照)。

図15 原油価格の推移(2003~23年)

9月18日には、この日EIAから発表された「掘削生産性報告(DPR: Drilling Productivity Report)」において、8月の同国主要7シェール地域における原油生産が前月比で減少していた他、9~10月においても前月比で減少する見込みであるとともに、10月の生産量が日量939万バレルと5月(この時は同937万バレル)以来の低水準に到達する旨示されていたことにより、この先の米国原油生産減少に伴う石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.71ドル上昇し、終値は91.48ドルとなった。しかしながら、9月19日には、これまでの原油価格上昇に対し利益確定の動きが市場で発生したことに加え、9月19~20日に開催されている米国連邦公開市場委員会(FOMC)の9月20日の政策決定発表等を控えた持ち高調整もあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり91.20ドルと前日終値比で0.28ドル下落した。また、9月20日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが続いたことに加え、9月19~20日に開催されていたFOMCにおいて政策金利を従来通りの5.25~5.50%で据え置きとする旨決定されたものの、併せて明らかになった政策金利見通しが2023年末時点で5.6%と2023年末までにあと1回の政策金利引き上げが実施される旨金融当局関係者が予想していると示唆していた他、2024年末の政策金利見通しが5.1%と6月13~14日に開催された前回のFOMCの際に明らかになった見通し(同4.6%)から上方修正されていたことにより高水準の政策金利が従来見込んでいた期間よりも継続するとの観測が市場で発生したこともあり、同国経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増加したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル下落し、終値は90.28ドルとなった(なお、この日を以てNYMEXの2023年10月渡し原油先物契約は取引を終了したが、11月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり89.66ドル(前日終値比同0.82ドル下落)であった)。この結果原油価格は9月19~20日の2日間で1バレル当たり合計1.20ドル下落した。9月21日の原油価格の終値は1バレル当たり89.63ドルと前日終値比で0.65ドルの下落となったが、米国原油先物契約11月渡し間では同0.03ドルの下落にとどまった。これは、9月19~20日に開催されたFOMCの際に明らかになったこの先の政策金利見通しが2023年末までにあと1回の政策金利引き上げが実施されると金融当局関係者により予想されている旨示唆していた他、2024年末の政策金利見通しが前回のFOMCの際に明らかになった見通しから引き上げられていたことにより従来の予想よりも高水準の政策金利が継続するとの観測が市場で発生したこともあり、同国経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で拡大した流れを引き継いだことが、原油相場に下方圧力を加えた一方、国内の需給引き締まりへの対策として、9月21日以降(終了予定日未定)ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア及びキルギスタンを除き、軽油及びガソリンの輸出を禁止する旨9月21日にロシアが発表したことにより、この先の世界の軽油需給引き締まり感を市場が意識した結果、米国暖房油先物が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えることによる。そして、ロシア国国営石油輸送会社トランスネフチ(Transneft)が同国バルト海沿岸港プリモルスク(Primorsk)及び黒海沿岸港ノボロシイスク(Novorossiysk)からの軽油輸出を停止した旨9月22日に同国タス通信が報じたことにより、この先の世界の軽油需給引き締まり感を市場が意識したことに加え、9月22日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働が同日時点で507基と前週比8基減少、2022年2月4日(この時は497基)以来の低水準に到達(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は495基と前週比7基減少、2022年2月11日(この時は493基)以来の低水準に到達)している旨判明したことにより、この先の米国原油生産の伸びの鈍化観測が市場で増大したことから、9月22日の原油価格の終値は1バレル当たり90.03ドルと前日終値比で0.40ドル上昇した。

ただ、一部旧ソ連諸国を除き軽油等の輸出を全面禁止する旨9月21日に発表したロシアが船舶用燃料及び高硫黄軽油の輸出は認める旨9月25日に報じられたことにより世界軽油需給の引き締まり感が市場で後退したこともあり米国暖房油先物価格が下落したことに加え、9月25日にシカゴ連邦準備銀行のグールスビー総裁が経済減速よりも物価上昇沈静化を重視する旨示唆したことにより米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大したこともあり米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.35ドル下落し、終値は89.68ドルとなった。しかしながら、部分的には緩和したものの、なおロシアが相当部分の軽油輸出を禁止したままとしていることにより、世界軽油需給の引き締まり感が市場で継続したことから、9月26日の原油価格の終値は1バレル当たり90.39ドルと前日終値比で0.71ドル上昇した。また、9月27日も、この日EIAから発表された米国石油統計(9月22日の週分)で原油在庫が前週比で217万バレルの減少と市場の事前予想(同32~90万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明した他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で94万バレル減少し2,196万バレルと、2022年7月8日(この時は2,165万バレル)以来の低水準に到達したことにより、米国原油先物契約受渡地点における原油需給の引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり3.29ドル上昇し、終値は93.68ドルとなった他、この日の原油価格の終値は2022年8月29日(この日の終値は1バレル当たり97.01ドル)以来の高水準に到達した。また、この結果原油価格は9月26~27日の2日間で1バレル当たり合計4.00ドルの上昇となった。それでも、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、9月28日の原油価格の終値は1バレル当たり91.71ドルと前日終値比で1.97ドル下落した。9月29日も、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生した流れを引き継いだことに加え、米国連邦議会下院において1ヶ月間の連邦政府つなぎ予算案が否決されたことにより、9月30日までに連邦政府予算が成立しないことに伴い、10月1日から一部政府機関が閉鎖されることにより同国経済に負の影響が及ぶ可能性があるとの懸念が市場で強まったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.92ドル下落し、終値は90.79ドルとなった。この結果原油価格は9月28~29日の2日間で1バレル当たり合計2.89ドル下落した。

10月2日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生した流れを引き継いだことに加え、9月30日に米国連邦議会が11月17日までの同国連邦政府つなぎ予算案を可決、同日バイデン大統領が署名し成立したことにより、同国連邦政府の閉鎖が回避されたうえ、10月2日に米国供給管理協会(ISM)から発表された9月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.0と8月の47.6から上昇した他市場の事前予想(47.7~47.9)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で拡大したこともあり、米ドルが上昇したこと、不動産業界不振のため10月1日に世界銀行が2024年の中国経済成長率見通しを4.4%と3月30日時点の4.8%から下方修正する旨発表したことにより同国経済成長減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.97ドル下落し、終値は88.82ドルとなった。ただ、10月3日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり89.23ドルと前日終値比で0.41ドル上昇した。しかしながら、ロシアが9月21日より実施している軽油輸出禁止措置を部分的に緩和することを検討している旨10月4日に同国のコメルサント紙が報じたことにより同国からの軽油供給増加に伴う同製品の需給緩和期待が市場で発生したことに加え、10月4日のOPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)開催に際し、サウジアラビアが7月1日より実施中の日量100万バレルの追加減産を2023年末まで継続することやロシアが8月1日以降実施している自主的な原油輸出削減(5~6月比で8月は日量50万バレル、9月以降同30万バレル)を2023年末まで実施する旨明らかにしたものの、それらを含めOPECプラス産油国の原油供給方針が従来通りである旨判明したことで、市場関係者にとって驚くに当たらなかったこと、10月4日にEIAから発表された米国石油統計(9月29日の週分)でガソリン在庫が前週比648万バレルの増加と市場の事前予想(16万バレル程度の増加)を相当程度上回って増加していた他、当該在庫が2022年1月7日(この時は前週比796万バレルの増加)以来の大幅増加になったうえ、9月29日の週の同国ガソリン需要が日量801万バレルとこの時期としては2000年(この時は同782万バレル)以来の低水準に到達したこともあり、同国石油需要低迷を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり5.01ドル下落し、終値は84.22ドルとなった。また、10月4日の原油価格下落の流れは10月5日の市場に引き継がれる格好となったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり82.31ドルと前日終値比で1.91ドル下落した。この結果原油価格は10月4~5日の2日間で1バレル当たり合計6.92ドルの下落となった。ただ、10月6日には、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、10月6日に米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働が同日時点で497基と前週比5基減少、2022年2月4日(この時は497基)以来の低水準に到達(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は487基と前週比3基減少、2022年2月4日(この時は476基)以来の低水準に到達)している旨判明したことにより、この先の米国原油生産の伸びの鈍化観測が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.48ドル上昇し、終値は82.79ドルとなった。

また、10月7日にイスラエル南部のガザにあるパレスチナ自治区を実質的に支配するイスラム武装勢力ハマスがイスラエルに対し大規模な攻撃を実施、イスラエル治安部隊との間で戦闘状態となった他、ハマスの大規模攻撃にイランが関与していることが示唆される旨10月8月にウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた(但し米国のブリンケン国務長官はイランが関与した証拠を確認していない旨10月8日明らかにした)こともあり、今回の攻撃により、米国及びイスラエル等とイランとの関係が悪化するとともに、中東情勢不安定化の拡大による同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、10月9日の原油価格の終値は1バレル当たり86.38ドルと前週末終値比で3.59ドル上昇した。しかしながら、10月10日には、前日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.41ドル下落し、終値は85.97ドルとなった。また、10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃実施に対しイランが驚いていた旨米国政府情報機関が初期報告を行なっていたと10月11日に報じられたこともあり、今回の攻撃にイランが関与していることにより米国等がイランに対しさらなる制裁を実施する等中東情勢混乱の拡大に対する懸念が市場で後退したことから、10月11日の原油価格の終値は1バレル当たり83.49ドルと前日終値比で2.48ドル下落した。さらに、10月12日も、この日IEAから発表されたオイル・マーケット・レポートでIEAが2024年の世界石油需要増加見通しを日量11万バレル下方修正したことに加え、10月12日にEIAから発表された米国石油統計(10月6日の週分)で原油在庫が前週比1,018万バレルの増加と、2023年2月10日(この時は同1,628万バレルの増加)以来の大幅増加となった他、市場の事前予想(同50万バレル程度の増加)を上回って増加している旨判明したこと、10月12日に米国労働省から発表された9月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.7%の上昇と市場の事前予想(同3.6%の上昇)を上回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が下落するとともに米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.58ドル下落し、終値は82.91ドルとなった。この結果原油価格は10月10~12日の3日間で1バレル当たり合計3.47ドル下落した。それでも、イスラエルのガザ地区北部の住民に対し24時間以内に退避するよう10月13日にイスラエル軍が勧告したことにより、近いうちにガザ地区においてイスラエル軍が地上戦を開始するとの観測が発生するとともに、中東情勢の不安定化による同地域からの石油供給への影響に対する懸念が市場で増大したことから、10月13日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり4.78ドル上昇し、終値は87.69ドルとなった。

 

3. 原油市場における主な注目点等

9月18日に、米国は自国が拘束しているイラン人5人を、同日イランは自国が拘束している米国人5人を、お互いに解放した。また、解放前に米国は韓国で凍結されている60億ドル程度のイラン資金の凍結を解除するとともにカタールに同資金を送付した(同資金は人道用途での使用に限定され、逸脱した場合米国はイラン資金を再び凍結する方針であるとされる)。ただ、同日米国バイデン大統領は、米国人拘束に関係したとしてイランのアフマディネジャド元大統領及び同国情報省に対し制裁を発動する旨発表した。また、9月19日にはロシアのショイグ国防省がイランを訪問し同国軍のバゲリ参謀総長と会談、軍事面等両国関係の強化を図りつつある旨示唆される。一方、イランとサウジアラビアとの間では外交関係等が改善しつつあるものの、イランが核兵器を保有するのであればサウジアラビアも同様の行動を取る旨9月20日にサウジアラビアのムハンマド皇太子が表明した。また、9月22日にはイスラエルのネタニヤフ首相が近いうちにサウジアラビアとの外交関係が回復に向かうことを確信している旨明らかにしたが、イランのライシ大統領はそのような外交関係樹立を牽制した旨9月25日に報じられる。また、イランによる60%の濃縮度の濃縮ウラン(六フッ化ウラン)の保有量が8月19日時点で121.6キログラムと5月31日の報告(5月13日時点)から7.5キログラム増加した旨の報告書を国際原子力機関(IAEA)が9月4日に取り纏めるなど、イランの60%の濃縮度の濃縮ウラン保有量は、伸びは鈍化している(2月12日から5月13日にかけては26.6キログラム増加していた)ものの増加が継続するなど、イラン核合意からのイランの逸脱行為は継続している(核合意で規定されているイランの濃縮ウラン保有上限は3.67%のものを300キログラムとされる)。また、2023年4月には米国の対イラン制裁に違反した原油取引(イラン革命防衛隊が関与しているものとされる)を摘発しイラン産原油98万バレルを差し押さえた旨9月8日に米国司法省が明らかにしている。さらに、英国、フランス及びドイツはイランが核合意から逸脱してウラン濃縮活動を行なっているとして、イラン核合意で定められていた、2023年10月18日を以て解除する予定であったイランの個人や事業者等に対する制裁を維持する方針である旨の共同声明を9月14日に発表した。その後、イランがIAEAの査察官の3分の1程度について受入を拒否しているとして非難する旨声明を9月16日にIAEAが発表した。これに対しイランのライシ大統領は、IAEA査察官の受け入れ拒否は英国、フランス及びドイツの共同声明を受けての行動である旨9月20日に明らかにするとともに、IAEAがイランの核関連施設を査察すること自体は問題ない旨表明した。他方、イエメンでサウジアラビアが支援しているハディ暫定大統領派勢力と敵対するフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)の幹部がサウジラビアを訪問、9月14~18日においてイエメン和平に向けフーシ派武装勢力とサウジアラビアが協議を行なった旨9月20日にサウジアラビア外務省が発表した。

しかしながら、10月7日にはイスラエル南部のガザにあるパレスチナ自治区を実質的に支配するイスラム武装勢力である「ハマス」がイスラエルへの大規模攻撃を実施、10月8日にはイスラエルも報復措置としてガザ地区を攻撃した他、同日にはハマス戦闘員とイスラエル治安部隊との間での衝突が発生している。また、イスラエルのガザ地区北部の住民に対し24時間以内に退避するよう10月13日にイスラエル軍が勧告したことにより、近いうちにガザ地区においてイスラエル軍が地上戦を開始するとの観測が増大している。今般のハマスのイスラエル攻撃準備に際してはイランが関与していた旨10月8日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じられるが、米国のブリンケン国務長官は今回の攻撃に際しイランが指示したり関与したりした証拠は持ち合わせていない旨明らかにしたと10月8日にCNNが報じている。

ガザ地区を含めイスラエルは基本的には産油国ではない(2023年9月の同国の原油生産量は日量9,000バレルであった)ので、ハマスとイスラエルが戦闘状態になったことにより、大量の石油供給が途絶するという事態が差し迫っているわけではない。ただ、今回のハマスのイスラエル攻撃がサウジアラビアとイスラエルとの外交関係改善防止を目的としたものと言われているうえ、ハマスのイスラエル攻撃の背後にイランの関与が指摘されている(10月10日イランの最高指導者ハメネイ師は関与を否定しているうえ、米国のブリンケン国務長官もイランが関与したとの証拠は持ち合わせていない旨10月8日に明らかにしているが、米国とイランの囚人交換の際に凍結が解除されたイラン資産をイランが利用できないようになっている旨10月12日に米国が明らかにしており、この面では米国はイランに対し疑義を持っていることが示唆される他、イスラエルが攻撃を停止しなければイランは何らかの方策を実施する方針である旨10月14日にイランが明らかにしたうえ、イランが支援するレバノンの武装勢力ヒズボラが参戦する可能性がある旨10月14日にイランのアブドラヒアン外相が示唆した)。

このようなことから、イラン等と米国、イスラエルに接近しつつあったサウジアラビア等との関係が悪化するとともにイエメンにおいて再び内戦が激化、フーシ派武装勢力がサウジアラビアに向けミサイルや無人機を発射、石油関連施設等を攻撃したり、ペルシャ湾におけるサウジアラビア等で産出される原油を積載するタンカー等への(イラン革命防衛隊関連組織等による)攻撃等が行なわれたりすると言った懸念が市場で増大することが、原油相場に上方圧力を加える可能性がある。また、ハマスの攻撃にイランの関与が疑われると言う流れに沿って、これまで(ロシアからの石油供給制限の影響を緩和すべく)米国はイランに対し制裁の運用を事実上緩和する格好とすることで、イランの原油生産量は増加してきた(2022年9月の日量248万バレルから2023年9月は同314バレルへと日量70万バレル弱増産)が、米国が再び対イラン制裁の運用を強化することにより、イランの原油供給が削減されるとともに世界石油需給が引き締まるという不安感も市場で煽られる格好となっており、これも原油相場に上方圧力を加えやすくするものと考えられる。さらに、米国等とイランとの対立先鋭化により、イランがホルムズ海峡を封鎖(2018年時点で原油及びコンデンセート日量1,730万バレル、石油製品同330万バレル、合計同2,070万バレルが通過)する結果、相当量の石油供給が途絶する恐れがあるとの懸念も発生しやすく、これも原油相場に影響しうるものと考えられる(イランの石油積出港の相当数もホルムズ海峡内にあるため、イランが同海峡を封鎖する確率は高くないとは認識されているが、実際封鎖されると世界石油需要の20%程度が影響を受けるなどするため、それなりの懸念が市場で発生しやすいものと考えられる)。加えて、ハマスとイスラエルによりミサイル攻撃が行なわれると見られるガザ地区からそう遠くないところにスエズ運河が位置しており、中東方面と欧州方面との間で石油タンカー等が頻繁に往来していることから、そのようなミサイル等の飛来が同地域のタンカーの航行に影響を与える結果、世界石油供給が不安定になる可能性に対する懸念が発生することにより、原油相場にその影響が織り込まれやすくなっている。このように、中東では一部諸国間における関係改善が図られるなどの動きはあったものの、かえって地域情勢が不安定化する兆候が見られることから、この面で中東からの石油供給途絶懸念が市場で増大する結果、原油価格が押し上げられるといった展開となる可能性がある。また、ハマスとイスラエルの衝突を巡る今後の展開に不透明感が強いうえ、たとえガザ地区等を巡るハマスとイスラエルの衝突が沈静化したとしても、イスラエル、米国、サウジアラビアとイラン等の関係が正常化した旨石油市場関係者が確信を持つまでには時間を要すると見られることから、中東情勢不安定化と同地域からの石油供給への影響を巡る懸念はこの先少なくとも当面は市場関係者の心理に残存する可能性があり、そのような心理が原油相場に影響しうるものと考えられる。

9月21日以降ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア及びキルギスタンへの輸出を除き、軽油(8月時点で海上経由のものが推定日量88万バレル)及びガソリン(同8万バレル)の輸出を禁止する旨ロシアが9月21日に発表した後、同国国営石油輸送会社トランスネフチ(Transneft)が同国バルト海沿岸港プリモルスク(Primorsk)及び黒海沿岸港ノボロシイスク(Novorossiysk)からの軽油輸出を停止した旨9月22日に同国タス通信が報じた(貿易協定を締結する一部諸国に対する輸出等は対象外であるとされた)。発表時点で同国の軽油及びガソリン輸出禁止の終了日は未定となっていた。また、国内の需給引き締まりへの対応が輸出禁止の理由となっており、秋場のロシア国内の穀物収穫のための農機具稼働のための軽油需要が発生したり(しかしこれは通常毎年秋場に発生するため今回例外的に発生したと言うことにはならない)、秋場のウクライナ侵攻のための軍事用資機材向けの軽油需要が増加したりしている可能性があったり、また国外市場の方が国内市場に比べ軽油等の販売を巡る採算性が良好であることから、ロシアの石油会社が石油製品輸出に注力したりしたことにより、国内の需給が引き締まった、と言ったことが今回のロシアによる軽油及びガソリン輸出禁輸措置実施の背景にあるとの指摘はあるが、例えば同国を含む独立国家共同体(CIS、旧ソ連からエストニア、ラトビア及びリトアニアのバルト3国を除く12ヶ国)の2022年の軽油需要は日量138万バレル程度となることから、8月時点においてロシアで行なわれていた海上経由の軽油輸出が全面的に停止するということは、ロシアで相当深刻な軽油供給不足が発生していることを意味することになり、輸出を突然全量停止しなければならないほど突発的な情勢の変化が発生したと言うことを意味している可能性が高いが、そのような大規模な混乱がロシアで発生している様には見受けられない。

他方、北半球における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来により、特に欧米地域等の製油所においてガソリンの製造を優先した反面軽油製造が劣後したことに加え、2020年以降の新型コロナウイルス感染流行時や新型コロナウイルス感染収束の際に発生した労働力不足や資機材不足等に伴う物価上昇等もあり、石油会社は製油所のメンテナンス作業等を先送りしたり当初計画していたよりも小規模のメンテナンス作業等を実施したりした結果、その歪みが装置の不具合等になって顕在化した可能性がある他、2023年の夏場は世界的に気温が上昇したことにより製油所で利用する工業用水の不足を含め施設の温度管理に支障が発生した結果製油所等の稼働が低下した例が見られたこともあり、世界的に留出油在庫が低迷し(米国では10月6日時点の留出油在庫が過去5年平均を9.3%程度下回っている)、従来から当該製品の需給引き締まり感が発生していたうえ、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品(欧米諸国等は特に軽油を暖房用に使用する)需要期を控えるとともに秋場の製油所のメンテナンス作業実施時期に突入しつつあったことから、さらなる軽油需給の引き締まり懸念が市場で発生しつつあった。

このような状況下で、ロシアが軽油の輸出を全面的に停止すれば、軽油の需給の引き締まり感が市場で一層強まる結果、軽油価格が上昇するとともに、原油価格が軽油価格に引きずられて上昇することにより、ロシアの石油収入が拡大する確率が高まることになるため、ロシアの軽油輸出禁止はこのような動機により実施された可能性があることも排除し切れない。もっとも、これまでロシア産軽油を輸入してきたトルコやエジプト、チュニジア、リビアを含む北アフリカ諸国等の消費国では、ロシア産軽油の代替供給源を急遽開拓しなければならなくなることからそれら諸国経済等の混乱が激化する他、輸出禁止となった軽油が需要の限られるロシアに国内に全量回るとも考えにくいことからロシア国内の製油所の稼働が輸出禁止とともに大幅に低下したり、貯蔵タンクが軽油で満杯となったり(実際トランスネフチの運用する貯蔵タンクは軽油で満杯となりつつあった旨10月4日に伝えられた)することにより、ロシア国内石油会社の経営に大きな影響を与える可能性があることから、ロシアの軽油輸出禁止は数ヶ月間ではなく数週間の期間にとどまるのではないかとの見方も市場では見受けられた。実際ロシア政府は9月5日に船舶燃料及び高硫黄軽油の輸出は認め(これは同国から海上経由で輸出される軽油の最大3分の1程度と見られる)旨9月25日に報じられた他、10月6日にはロシア政府が軽油輸出禁止を基本的に解除する(製油所が生産する軽油の少なくとも半分は国内に供給することを条件としているが、これはロシアの従来の国内需要や輸出状況から判断すると左程同国軽油輸出上の支障にはならないものと考えられる)旨発表した。ただ、このような軽油輸出禁止の解除は、軽油や原油価格の上昇に伴い2023年9月のロシアの石油収入が拡大した(10月5日に明らかになっていた)ことによるものである可能性があると示唆する向きもある。従って、需給の引き締まっている軽油市場等において、今後もロシアがこのように輸出禁止を含め世界石油需給を引き締める方向で作用する可能性のある措置を実施する(もしくは実施を発表する)ようだと、ロシアは自国の石油需給状況ではなく世界の石油価格の引き上げと自国の石油収入拡大を理由に石油供給の削減を行なっているという認識が市場で広がるとともに、世界市場において軽油を含む石油需給の引き締まり感が強まるとともに、原油を含む石油価格に上方圧力が加わる可能性が高まるので、注意する必要があろう。

10月1日に発表された中国独立系報道機関財新伝媒と米国格付け会社S&Pグローバルによる9月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は50.6と8月の51.0から低下し市場の事前予想(51.2)を下回ったうえ、同月の非製造業PMIも50.2と2022年12月(この時は48.0)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(52.0)を下回るなどした。しかしながら、9月30日に中国国家統計局から発表された9月の同国製造業PMIは50.2と2023年3月(この時は51.9)以来の50越えとなった他市場の事前予想(50.0~50.1)を上回ったうえ、9月の同国非製造業PMIも51.7と8月の51.0から上昇、市場の事前予想(51.6)を上回った。また、9月27日に中国国家統計局から発表された8月の同国工業企業利益は前年同月比17.2%の増加と7月の同6.7%の減少から増加に転じた。さらに、10月13日に中国税関総署から発表された9月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比で6.2%減少と8月の同8.8%減少から減少率が低下した他市場の事前予想(同8.0%減少)を下回ったうえ、輸入(同)が同6.2%減少と8月の同7.3%の減少から減少率が低下した他市場の事前予想(同6.3%減少)を下回ったことに加え、9月の同国原油輸入量は4,574万トン(推定日量1,116万バレル)と前年同月比で13.7%増加している旨判明した。また、中国の中秋節と国慶節の休日期間(9月29日~10月6日)中の個人の旅行は前年比で71.3%、新型コロナウイルス感染流行前の2019年比で4.1%の、それぞれ増加となったことに加え、同期間の中国国内の観光収入は2022年の約2.3倍となったうえ2019年を1.5%上回った旨10月6日に報じられた。ただ、足元の不動産販売状況が予想を下回っていることから、中国不動産開発大手恒大集団が9月25日に開催する予定であった債権者集会を開催できない(再建計画を策定できない)状態になっている旨9月22日夜(現地時間)に明らかになったうえ、国内不動産部門における当局の捜査により同社の新規債券の発行が困難となっている旨9月24日に示唆された。さらに、中国恒大集団が中国国内債券の元利払いが出来なかった旨9月25日に明らかになったことや、同社幹部(最高経営責任者(CEO))が当局に事実上拘束されるなどしており、経営の指揮命令系統を巡る不透明感が強まるとともに、同社の清算の可能性が高まっているとの観測も発生し始めた。このように、中国経済が依然まだら模様ながらも底打ちする兆しが見られるとともに個人の往来も活発化する兆しが見られる他、中国の原油輸入が概ね高水準を維持していることもあり、今後発表される予定の経済指標の内容や中国政府等による同国景気刺激策実施に向けた動き等によっては、中国経済回復と同国石油需要の伸びの加速に対する期待が市場で強まることにより原油相場に上方圧力が加わる場面が見られる可能性がある一方、同国不動産業界の不振による経済混乱により同国石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生することにより、原油価格がもたつく場面が見られるリスクも存在する。

9月19~20日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては政策金利を従来通り5.25~5.50%で据え置きとする旨決定したものの、併せて明らかになったこの先の政策金利見通しが2023年末時点で5.6%と2023年末までにあと1回の政策金利引き上げが実施される旨金融当局関係者が予想していると示唆された他、2024年末の政策金利見通しが5.1%と6月13~14日に開催されたFOMCの際に明らかになった同見通し(同4.6%)から上方修正されていたこともあり、高水準の政策金利が従来の予想よりも継続するとの観測が市場で発生したことにより、米国金融当局がさらに政策金利引き上げるとともにより長期に渡り高水準の政策金利を維持するとの観測が市場で増大するとともに同国経済減速及び石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増加した。また、9月22日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事が、米国の物価上昇率は依然として非常に高水準であり、目標である年率2%に回復させるには、政策金利を引き上げたうえで当面経済活動を抑制するような水準を維持することが適切であろう旨発言した(10月2日、8日及び11日にも改めて同趣の発言を行なった)他、同日同国ボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁も、米国で物価上昇が明らかに沈静化しているわけではないことから、政策金利をさらに引き上げる選択肢も排除出来ない旨明らかにした(10月11~12日にも同趣の発言を行なった)。また、9月26日には米国ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が2023年内にもう1回政策金利を引き上げたうえで、2024年は政策金利が維持されると予想する旨発言した。さらに10月2日にはバーFRB副議長が物価上昇目標を達成するために政策金利を当面高水準で維持する必要がある旨明らかにした。10月3日にはクリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁も米国経済が現状のままであれば2023年10月31日~11月1日に開催される次回FOMCにおいて政策金利引き上げを支持する旨発言した。そして、10月4日にはアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が年率2%の物価上昇目標を達成するために長期間高水準の政策金利を維持すべきである旨発言した(10月10日に改めて同趣を発言した)他、10月5日にはサンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が労働市場の引き締まりが緩和し続け物価の伸びが鈍化するようであれば、政策金利の据え置きが可能となる旨示唆した。また、10月9日にはダラス連邦準備銀行のローガン総裁が、物価上昇沈静化のためには金融引き締めの継続が必要となる可能性がある旨示唆した。他方、フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁は政策金利を横這いとすることを支持する姿勢を示している旨10月13日に明らかにした。

このように、米国金融当局関係者による金融政策を巡る発言等の内容は政策金利引き上げもしくは高水準の政策金利の維持が主流である一方、10月14日時点では、2023年10月31日~11月1日に開催される次回FOMCでは政策金利が据え置かれる確率が93.8%、引き上げられる確率が6.2%となっている他、政策金利引き下げ確率が他の選択肢を上回るのは早くても2024年6月11~12日に実施されるFOMCの際となっている。他方、10月6日に米国労働省から発表された9月の同国非農業部門雇用者数が前月比で33.6万人の増加と市場の事前予想(同17.0万人の増加)を上回って増加していたことに加え、10月12日に米国労働省から発表された9月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.7%の上昇と市場の事前予想(同3.6%の上昇)を上回ったうえ、10月13日にミシガン大学から発表された1年先の期待物価上昇率が3.8%と9月時点の3.2%から上昇するとともに、2023年5月(この時は4.2%)以来の高水準に到達するなど、同国の労働市場の引き締まりと物価上昇加速の兆候が見られる。このため、米国金融当局による政策金利引き上げ継続もしくは高水準の政策金利維持の可能性の増大が市場関係者の心理に織り込まれるとともに原油価格上昇が抑制される可能性がある他、今後も雇用を含め米国経済活動が活発化したり物価上昇の伸びが加速したりすることを示唆する指標類が発表されるようであれば、さらに米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が拡大するともに原油相場に下方圧力を加えると言った展開となることも想定される。また、次回FOMCにおける政策金利を含む金融政策上の決定事項、及び11月1日のFOMC終了後のパウエルFRB議長による米国等の経済状況や展望、及び政策金利引き上げを含む今後の金融政策に関する発言が、米国経済及び石油需要の伸びに対する市場の見方に影響を与えるとともに、原油価格を変動させる可能性がある。

他方、10月中旬より主要米国主要企業の2023年7~9月期等の業績(及び今後の業績見通し)が発表され始めているが、今後も当面企業による業績発表等が継続する予定であり、それら発表内容等が株式相場とともに原油相場に影響を及ぼすと言った場面が見られることもありうる。

米国では、この先冬場の暖房シーズン(11月1日~翌年3月31日)を控え、製油所が秋場のメンテナンス作業等を終了するとともに稼働を上昇、原油精製処理が進むとともに、原油の購入を活発化させてくる。このため季節的な石油需給の引き締まり感が市場で強まると考えられる。従って、この面で原油相場に上方圧力が加わりやすくなる。そして、ここで市場が注目するのは、足元の気温状況及び冬場の気温予報であろう。現在のところ、2023年末にかけ米国の暖房用石油製品消費の中心地である北東部は概ね平年に比べ温暖になると見られているようであるが、そのような予報は突然変更される可能性もある。また、秋場の後半及び冬場の前半での、厳冬予想や実際の気温の低下は、市場関係者間での暖房用石油製品需要の長期的な増加観測と需給引き締まり懸念を拡大させ、それが原油相場に上方圧力を加えることに繋がりやすい。その意味では、米国北東部等での気温予報や実際の気温の状況には注意する必要があろう。

また、大西洋圏において1年間で最もハリケーン等の暴風雨が発生しやすい時期(8月後半~10月前半)は過ぎつつあることから、ハリケーン等の暴風雨が米国メキシコ湾沖合の石油生産関連施設や陸上の製油所等の施設に影響を及ぼすことに伴う石油供給途絶懸念は市場では低下していくと見られる。それでも11月末まで大西洋圏の暴風雨シーズンは続く。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に影響を与えたり、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動、そしてタンカーの航行に支障を発生させたり(実際に製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることにより、製油所への電力供給が途絶することを通じ操業が停止するといった事態も想定される)、さらにはメキシコの沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国のメキシコからの原油輸入に影響を与えたりする(2022年において米国メキシコ湾岸地域はメキシコから日量53万バレル程度の原油を輸入した)。最近では米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾沖合でもそれなりの量の原油が生産されている(2022年は当該地域で日量174万バレルの原油を生産しており、同年の米国の原油生産量全体(同1,189万バレル)の約15%を占めた)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国における精製活動の中心地域である(2022年の当該地域の原油精製処理能力は日量846万バレルと米国原油精製処理能力全体(同1,779万バレル)の約48%を占めた)こともあり、今後のハリケーンを含む暴風雨の実際の発生状況やその進路、そして予報等によっては石油市場関係者間で石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込まれるといった場面が見られることもありうる。

カナダで開催されていた世界石油会議(World Petroleum Congress)において、9月18日にサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は、中国の石油需要についてまだ悪い状態ではないものの最終的には判断が付いていない他、欧州経済成長及び物価上昇への各国及び地域の中央銀行の対処方法等を巡る不透明感が継続していることや、石油需給見通しが常時信用できるものではないこともあり、OPECプラス産油国としては石油市場の安定を維持するために積極的、先制的かつ予防的に対応する一方、石油需給引き締まり感を示す証拠が得られた後で(減産措置緩和に向け)行動する旨示唆した。このようなこともあり、10月4日に開催されたOPECプラス産油国協働閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee)では、自主的に実施しているものを含め既存の減産措置に対し変更は加えられなかったが、引き続きサウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国は、この先も世界石油需給展望に関わらず、例えば原油価格が下落し続ける、もしくは下落が加速する兆候が見られる(併せて石油市場において投機筋が空売り規模を拡大しつつある)等の状況となった場合には、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合(11月26日開催予定)の機会を捉え、もしくは緊急を要する場合には次回会合の開催を待たずして、まずは自主的なものを含め追加減産の実施可能性等につき警告を発し(いわゆる口先介入を行ない)、それでも原油価格の下落が抑制されない等OPECプラス産油国の希望するような状況にならない場合には、実際に追加減産を検討したり決定したりすること等により、原油価格の下落防止を図ろうとするものと考えられる。ただ、原油価格が大幅に上昇した場合でも、OPECプラス産油国は(原油価格ではなく)石油需給引き締まりの持続性を慎重に判断することになる結果、直ちに減産措置を緩和する等の方策を実施するといった展開とはなりにくいものと考えられる(実際OPECプラス産油国は短期的な石油市場の問題には対応しない意向である旨10月12日にイラク外務省が発表している)。

他方、サウジアラビアは、イスラエルとの外交関係を樹立するとともに米国がサウジアラビアの防衛体制強化を支援する一方、原油価格が高騰した場合には2024年初頭に原油生産を拡大する用意がある旨10月6日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。ただ、原油価格がどの水準にまで上昇した場合に原油供給を引き上げるか等の諸条件は明らかになっていないことから、原油価格が現水準から持続的に下落していくかどうかについては不透明である。また、10月7日以降のイスラエルとハマスとの戦闘状態に伴い、サウジアラビアはイスラエルと対立するパレスチナ人を支持する旨10月10日にサウジアラビア外務省が発表するなどしていることから、これまで接近しつつあったサウジアラビアとイスラエルとの関係に溝が出来る(実際サウジアラビアはイスラエルとの間での外交関係改善に向けた交渉を中断した(米国にもその旨報告した)と10月14日に伝えられる)ことにより、サウジアラビアが原油生産を拡大する機会が延期されると言った展開となることもありうるため、サウジアラビアとイスラエル及び米国との関係の推移につき注目し続ける必要があろう。

また、2023年2月には日量987万バレルであったロシアの原油生産量(コンデンセートを除く)は同年9月には同948万バレルになるなど、同国の日量50万バレルの自主的な追加原油減産(2023年2月の原油生産量が基準となっているとされる)は表明した水準に近い規模で実施され続けられる格好となっている。それでも、ロシアで生産される主力原油であるウラルの価格はブレント等他の原油価格に比べ割安なままとなっていることもあり、中国やインドと言った消費国からの需要が根強いことから、ウラル原油価格は7月11日以降ほぼ継続的に、主要7ヶ国政府(G7)及び欧州連合(EU)により2022年12月5日に設定された1バレル当たり60ドルの上限価格を超過、9月19日には推定同87.92ドルと上限価格を相当程度上回る状態となった。このような状況では、ロシア産原油を海上輸送経由で輸出するための西側諸国等を拠点とする企業による輸送及び保険サービスの付保が困難になるとされる。しかしながら、それでもロシア産原油価格が1バレル当たり60ドルを超過する状態を維持している様相を呈しており、これはロシア産石油輸出に際し西側諸国等を拠点としない(つまり原油価格上限による制約を受けない)輸送及び保険サービスの付保等を含めた用役の提供が円滑になることにより、価格上限を超過しても原油輸出の際の輸送及び保険等のサービス面での支障が低減しつつあることを示唆している可能性がある(実際、ロシアは西側諸国等の輸送及び保険サービスに大きく依存することなく自国産原油を販売する手法を確立しつつある旨9月6日にロイター通信が伝えた他、9月24日にはフィナンシャル・タイムスも、8月の海上輸送経由でのロシア産原油輸出の4分の3近くが西側諸国等の企業の提供する保険を付保せずに行なわれており、この比率は2023年春時点の半分程度から上昇している旨指摘している)。そしてその場合、ロシアにとっては原油供給を削減することにより原油価格の引き上げを図るとともに収入を拡大する途が開けることになるため、この面でOPECプラス産油国間での足並みが相対的に揃うとともに石油市場支配に向けた結束力が強まる結果、原油相場により上方圧力が加わりやすくなる旨示唆されることから、この先の同国の原油(及び石油製品)輸出状況、及び同国産原油価格等については注意する必要があろう。

また、米国大手金融機関バンク・オブ・アメリカが9月12日付報告書で2023年末までにブレント価格が1バレル当たり100ドルを超過する可能性がある旨との展望を示した旨9月13日に伝えられる他、9月18日に大手国際石油会社シェブロンのワース(Wirth)最高経営責任者CEOも供給引き締まりにより間もなく原油価格は1バレル当たり100ドルを目指すと発言、米国大手金融機関シティグループも原油価格が間もなく同100ドルに到達する旨の報告書を9月18日に発表している。また、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスも9月20日の報告書で2024年にはブレント価格が1バレル当たり105ドルに到達すると予想している。さらに、長期的に1バレル当たり100ドルが視野に入りつつある旨米国大手金融機関JPモルガンが9月22日付け報告書で報告している。このように、市場関係者間ではこの先原油価格が100ドルに到達するとの観測が強まっていることも、市場の強気心理を強めるとともに原油価格の先高感を醸成することにより、原油相場への上方圧力を加えやすくするものと考えられる。

全体としては、この先冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期接近を市場関係者が意識し始めることが、石油製品及び原油の価格に上方圧力を加える可能性がある。また、イスラエルとハマスの戦闘激化に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念も原油相場を下支えするとともに、展開によっては原油価格を押し上げる方向で作用する可能性がある。さらに、中国経済底打ち期待や1バレル当たり100ドルへと原油価格が上昇するとの米国大手金融機関等の予想等も、原油押す場にとって支援材料となりうるものと考えられる。他方、米国金融当局による政策金利の引き上げ、もしくは高水準での維持による、米国経済減速と石油需要の伸びの鈍化観測等が原油価格のさらなる上昇を抑制する方向で作用する可能性があるものと考えられる。

 

4. 原油価格差及び原油の期間価格差を巡る一考察

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、2023年10月に至る間に、ロシアを含めた産油国の石油供給や消費国の石油需要等を巡り様々な動きが見られた。そして、そのような石油市場における動向がしばしば特定の原油価格に織り込まれることにより、他の原油に対する価格差が拡大したり縮小したりする場面が見られたり、原油先物価格の期間価格差(後述)が変動したりした。ここでは、2022年初頭から2023年現時点にかけての原油価格差や原油先物価格の期間価格差等を巡る主な状況につき説明するとともに、その背景につき考察を加えることとしたい。

まず、WTI(API比重40.80度、硫黄含有分0.42%とされる)及びブレント(API比重37.50度、硫黄含有分0.40%とされる)両原油価格について見ることとする。ロシアがウクライナに侵攻して以降、米国を含む西側諸国等によるエネルギーの禁輸を含む対ロシア制裁の実施に伴うロシア産石油等の事実上の輸入制限や、ロシアによる西側諸国等に対する事実上の報復措置の一環としてのエネルギー供給の削減を巡る懸念が市場で強まった結果、従来ロシアの主要石油輸出先であった欧州においてロシアからの石油を含むエネルギー供給に支障が生ずるとの不安感が増大するとともに、ロシア産原油等を引き取ることを巡り、その支払代金が最終的にはロシアのウクライナ侵攻において戦費として利用されるのではないかとの観測から、従来ロシア産原油等を引き取っていた需要家がそのような「評判リスク(Reputation Risks)」の高まりを憂慮するようになった結果、少なくともロシアのウクライナ侵攻直後の時点ではロシア産原油の引き取りが敬遠されるようになった。このようなことから、欧州の石油需給が引き締まるとの見方が市場で高まるとともに、欧州の指標原油であるブレントの価格に上方圧力が加わった。一方、従来米国はロシア産原油や石油製品を輸入していなかったわけではなかったが、欧州に比べるとその規模は圧倒的に小さく(2021年の欧州のロシアからの原油輸入は日量279万バレル、石油製品は同153万バレルであったのに対し、米国のロシアからの原油輸入は同28万バレル、石油製品は同46万バレルであった)、この結果、ロシアのウクライナ侵攻に伴う制裁により米国はロシア産石油等の輸入禁止を実施(3月8日に米国のバイデン大統領が発表)したものの、米国の石油需給への影響は限定的であった。この結果、WTIへの上方圧力が相対的に限定的となったことから、2022年3~4月の時期を中心としてブレント価格がWTI価格を上回る幅が拡大傾向を示した(図16参照)。それでも、時間の経過とともにロシアのウクライナ侵攻開始当初の欧州石油需要家における「評判リスク」を懸念する向きは一旦落ち着く格好になるとともに、(米国や英国がロシアの石油等の輸入禁止措置を実施した後も)欧州はロシア産原油等の輸入を継続したため、5月にはブレントのWTIに対する割高感は薄らいだものと見られた。しかしながら、2022年3月31日には、米国のバイデン大統領が、米国ガソリン小売価格を引き下げるべく4月1日から半年間の予定で合計1.8億バレルの戦略石油備蓄(SPR)を市場に供給する旨発表した。これにより、従来から米国ではトランプ大統領(当時)時代に財政収入確保のためSPR原油放出を実施していた(2018年2月9日米国連邦議会承認、2018年3月から2022年3月にかけ日量7万バレル程度のペースで放出)が、2022年5月から10月にかけてはSPR原油の市場への供給ペースは1日当たり70万バレル程度へと拡大した。他方、4月1日には国際エネルギー機関(IEA)も加盟国の緊急時石油備蓄から石油を供給する旨発表した。ただ、欧州のIEA加盟国の緊急時石油備蓄放出ペースは推定日量6万バレル程度、アジア太平洋IEA加盟国の放出ペースは同11万バレル程度と、米国に比べ放出ペースは緩やかなものであった。このようにSPRからの原油供給もあり、米国原油在庫は増加傾向となった(4.17億バレルであった2021年12月31日時点の同在庫量は2023年3月17日には4.81億バレルに到達した)ことにより、WTI価格に下方圧力が加わるようになった。また、米国メキシコ湾岸で貯蔵されるSPRから市場に供給された原油は主に中質高硫黄原油であると言われたことから、米国メキシコ湾沖合において生産される同品質の原油であるマーズ・ブレンド(Mars Blend、API比重29.70度、硫黄含有分1.92%)の原油価格がWTIに比べても割安になる場面が見られた(図17参照)。このようにブレントの価格がWTI(及びマーズ・ブレンド)の価格に対し割高になったこともあり、米国から欧州等に向けた原油輸出が2022年半ば以降を中心として活発化した(2022年1~6月における同国原油輸出量は日320~351万バレルであったが、2022年7月以降は同351~481万バレルとなった)。また、6月3日に欧州連合(EU)において、12月5日を以てロシア産原油の、2023年2月5日を以てロシア産石油製品の、それぞれ輸入を事実上禁止する旨の制裁を発動した。このため、再び欧州における石油需給の引き締まり観測が市場で拡大したこともあり、この面でも2022年6月以降ブレント価格がWTI価格を上回る幅が拡大した。他方、ロシアのウクライナ侵攻による世界石油需給引き締まり観測もあり、2022年は前半を中心として原油価格が全体的に上昇、2021年12月31日には1バレル当たり75.21ドルの終値であったWTI価格は2022年3月8日には同123.70ドルの終値と2008年8月1日(この日の終値は同125.10ドル)以来の高水準へと上昇した他、同年7月20日まではしばしばWTI価格が終値ベースで1バレル当たり100ドルを超過する場面が見られた。このようなことから、米国のシェールオイルを含む原油生産を巡る採算性が改善したため、2021年12月31日には480基であった同国の石油坑井掘削装置稼働数は2022年11月23日には627基へと増加するとともに、2022年6月には日量1,180万バレルであった米国原油生産量は2023年1月には同1,257万バレル(この間の月間増加率0.9%)へと拡大基調となった。このようなことも、特に2023年第1四半期を中心としてWTI価格に下方圧力を加えた結果、ブレント価格との差が開いたまま維持される格好となった。しかしながら、2022年後半以降は原油価格が下落基調となり2023年3月17日には1バレル当たり66.74ドルの終値とロシアのウクライナ侵攻以前の時点である2021年12月3日(この日の終値は同66.26ドル)以来の低水準に到達したこともあり、米国においてシェールオイルを含む原油生産を巡る採算性が悪化したことにより、同国における石油坑井掘削装置稼働数は減少傾向となった(2023年10月6日には497基と2022年2月4日(この時は497基)以来の低水準に到達した)。それとともに、2023年1月以降同国のシェールオイルを含む原油生産ペースは鈍化し始めた(2023年1月から7月(原油生産量日量1,299万バレル)にかけての同国月間原油生産増加率は0.6%であった)。また、米国のSPRから市場への原油供給も2023年1月13日に一旦ほぼ完全に停止した後、2023年4月1日から6月30日にかけ2,600万バレルのSPR低硫黄原油の放出を行なう旨2023年2月13日に米国エネルギー省が発表する(財政収入確保を目的とした2015年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2015)(2015年11月2日成立)等に伴い予め2023年会計年度に放出を行なう予定であった)とともに、実際にSPR原油が放出されたが、それも2023年7月14日以降はこの放出もほぼ完全に停止した。このようなことから、米国の原油在庫は減少傾向となり2023年9月29日には4.14億バレルと2022年12月2日以来の低水準に到達した。また、併せて米国原油先物契約受渡地点であるクッシングの原油在庫も減少、2023年10月6日には2,177万バレルと2022年7月8日(この時は2,165万バレル)時点以来の低水準となった。このようなことから、WTIの価格に上方圧力が加わるようになった結果、ブレントとWTIの価格差は縮小傾向を示している。また、2022年11月1日から実施されているOPECプラス産油国による日量200万バレルの減産拡大に加え、2023年5月1日からサウジアラビアを初めとする一部OPECプラス産油国が日量116万バレルの自主的な追加減産の実施を開始した。加えて、同年7月1日からサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産の実施を開始したうえ、当該追加減産は当初7月のみの実施であったものが、2023年末まで延長する旨9月5日に国営サウジ通信が伝えた。OPECプラス産油国による減産措置が実施される場合、しばしば品質が相対的に劣後することにより価格が割安になりやすい重質(もしくは中質)高硫黄原油の供給削減が優先されることになる。このため、同品質の原油の供給が減少するとの観測のもと、重質(もしくは中質)高硫黄原油の需給の引き締まり感が市場で強まった結果、米国でもマーズ・ブレントの価格が相対的に上昇するともに、WTI(そしてブレント)の価格差が縮小する格好となった。このようなこともあり、ロシアのウクライナ侵攻開始以降ブレントの価格がWTIの価格を相当程度上回る(つまりWTIの割安感が強まる)ことにより米国から相当量の原油が欧州方面に向け輸出されるようになるとともに現在でもその状況は継続しているように見受けられるものの、今後欧州産原油と米国産原油の価格差が縮小した状態が持続するようであれば、今後ある時点では米国から欧州方面への原油輸出を抑制する形で作用するものと考えられる。

図16 ブレントの対WTI価格差(2022~23年)

図17 マーズ・ブレンド対WTI価格差(2022~23年)

また、2020年5月1日に日量970万バレルの規模の減産措置を開始して以降2022年9月にかけOPECプラス産油国は概ね減産措置を緩和する(つまり増産する)方向へと原油生産政策を推進し続けてきた。OPECプラス産油国の中心は中東湾岸産油国であることから、減産措置強化の場合には同地域で大量に生産されており、かつ相対的に安価になりやすい重質(もしくは中質)高硫黄原油の供給が優先して削減されやすいが、減産措置緩和の場合には反対に重質(もしくは中質)高硫黄原油の供給が増加しやすい。このようなことから、OPECプラス産油国の減産措置緩和の際に重質(もしくは中質)高硫黄原油の供給が拡大するとの観測が市場で強まった結果、中東の指標原油でありかつ中質高硫黄原油であるドバイ(API比重:30.40度、硫黄含有分2.13%)の価格に下方圧力が加わったことから、ブレントに比べドバイの価格は概ね割安感が強まる方向で推移した(図18参照)。しかしながら、2022年6月に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、当初想定されていたと見られる7~9月の期間における毎月比で日量43.2万バレルの減産措置の縮小(5~6月の減産措置縮小規模と同水準)を7~8月に前倒しして実施すべく、7月は日量64.8万バレル減産措置を縮小する旨決定した他、6月30日に開催された閣僚級会合においても8月の減産措置縮小規模を7月と同様同64.8万バレルとする旨決定したものの、当初9月に実施予定であったの減産規模の縮小が7~8月に前倒しされたことにより、9月は減産措置の縮小は見送られるのではないかという観測が発生したこと、そして2022年8月3日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合においては、9月の減産措置が前月比で日量10万バレルの縮小と、縮小自体が見送られることはなかったものの、規模が8月から大幅に低下したことが、かえってOPECプラス産油国による原油供給拡大観測が市場で後退する格好となったことから、ドバイ価格に上方圧力が加わるとともにブレント価格に対する割安感が低減し始めた。さらに、9月5日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合では、2022年10月の原油生産目標につき、日量10万バレルではあるが、2020年5月1日に現行の減産体制を実施して以降で初めて公式原油生産目標の削減を決定した。このため、市場関係者間でOPECプラス産油国が減産措置緩和から減産措置強化へと方針を転換することに伴い、特に中東産の中質及び重質原油供給が減少し始めるとの観測が市場で広がったものと見られる結果、2022年9月は中東の代表的な指標原油であるドバイ価格が他の原油に比べ顕著に割高になる場面が見られた。それでも、総じて2022年は中東産原油の主な輸出先の一つである中国において新型コロナウイルス感染の流行に対し厳格な抑制策を実施したことにより、同国の石油需要が低迷し続けていたこともあり、2020年10月には再びドバイ価格はブレントに比べ割安な状態に戻っている。ただ、2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことにより、それまでの反動で個人の外出が促進されるとともに旅行業や宿泊業を含む非製造業の活動が活発化したこともあり、ガソリンを中心として中国石油需要が伸び始めた他、その後も同国の原油輸入は旺盛な状態となった。このため、中東とともにアジアの主要原油指標であるドバイの価格に上方圧力が加わるとともに、ブレントやWTIの価格に対してドバイの価格が相対的に割高となる場面が見られた。加えて、2023年5月以降一部OPECプラス産油国が自主的な追加減産を実施したこと、さらに、7月1日以降はサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を実施し始めたことに伴い、それら諸国からの原油生産量が減少し始めたことにより、特に中東湾岸OPEC産油国からの重質(中質)高硫黄原油供給削減観測が市場で広がるとともに、重質(中質)高硫黄原油の需給引き締まり感が強まったことから、中質高硫黄原油であるドバイの価格に上方圧力が加わった結果、2023年7月以降はドバイの価格はブレントの価格に対しさらに相対的に割高な状態が見られるようになってきている。

図18 ドバイの対ブレント価格差(2022~23年)

また、2022年1~2月にかけては、ロシアのウクライナへの侵攻と西側諸国等によるロシアに対する制裁発動等に伴うロシア産石油供給削減の可能性への懸念が市場で強まったこともあり、そうなる前にロシア産石油を購入しようとする動きが市場で発生したとみられることから、ウラル(API比重:29.92度、硫黄含有分:1.58%)の価格が他の原油価格に比べ割高な状態で推移した(図19参照)。しかしながら、2022年2月24日にロシアがウクライナへの事実上の侵攻を開始して以降、西側諸国等による対ロシア制裁の発動や西側諸国等の石油会社等がロシア産石油を購入することに伴う当該石油会社等に対する評判リスク発生への懸念からそれら石油会社がロシア産石油購入を敬遠するようになったことに伴い、ロシア産石油に対する需要が減少したことにより、ロシア産原油が他の原油に比べ相当程度割安になる場面が見られるようになった。しかしながら、ロシア産原油の割安感が強まったことにより、西側諸国等でない消費国、つまり中国やインド等がロシア産原油を大量に購入し始めた。このため、ロシア産原油に対する需要が回復する格好となったことが、同国産原油価格を下支えするとともに、他の原油価格との格差もこれ以上拡大しないどころか、むしろ2023年9月に向け縮小する傾向を示した。一方、2022年12月5日には先進7ヶ国政府(G7)及びEU等によりロシア産原油価格に1バレル当たり60ドルの上限価格が設定された。このため、設定当初は上限価格を超過すると西側諸国等を拠点とする企業による提供が主流であるタンカー等の輸送や保険等のサービスの付保に支障が生ずることもあり、しばらくの間ロシア産原油は1バレル当たり60ドルの上限価格を相当程度下回る状況が継続していた。2023年7月以降には米国の労働市場が緩和し始めるとともに物価上昇率も鈍化し始めたことと併せ、サウジアラビアが日量100万バレルの新たな自主的な追加減産を実施し始めたことや、中国経済に底打ちする兆しが見えるとともに同国の石油需要の伸びが加速することへの期待が市場で拡大したことにより、ブレントやWTIといった原油価格が上昇傾向となったが、そのようなブレントやWTIの価格の上昇に沿って、ウラルの価格(バルト海積み価格)も上昇、7月11日前後以降には1バレル当たり60ドルを超過した他、その後もブレントやWTIの原油価格の上昇と同様に、ウラルの価格が上昇し続けた結果、9月19日には、1バレル当たり推定87.92ドルと上限価格を相当程度上回る状況となっている。このような状況では、ロシア産原油を海上輸送経由で輸出するための西側諸国等を拠点とする企業による輸送及び保険サービスの付保が困難になるとされるが、それでもロシア産原油価格が1バレル当たり60ドルを超過する状態を維持している様相を呈しており、これはロシア産石油輸出に際し西側諸国等を拠点としない(つまり原油価格上限による制約を受けない)輸送及び保険サービスの付保等を含めた用役の提供が相対的に円滑になることにより、価格上限を超過しても原油輸出の際の輸送及び保険等のサービス面での支障が低減しつつあることを示唆している可能性がある(前述)。

図19 ウラルの対ブレント価格差(2022~23年)

また、2022年初頭から2023年後半にかけては、例えば米国原油先物契約における期間価格差にも変化が見られた。2021年1月31日時点ではWTIの直近の受渡月(第1限月)における価格とその次に直近となる受渡月(第2限月)の原油価格差は第1限月が第2限月を1バレル当たり0.33ドル上回る状態(終値ベース、以下同様)であった(図20参照)。しかしながら、2022年に入り西側諸国等が事実上支援するウクライナとロシアとの対立が先鋭化してきたことから、ロシアのウクライナ侵攻に伴い世界石油供給が混乱する結果足元の石油需給が引き締まるとの懸念が市場で強まったうえ、2022年2月24日にはロシアが実際にウクライナへの侵攻を開始したことに加え、3月7日には米国がロシア産原油を含むエネルギーの輸入を禁止することを見当している旨明らかになったこともあり、石油需給引き締まり懸念が市場で強まったことにより、2022年3月8日にはWTIの第1限月価格が第2限月価格を4.05ドル上回る状態にまで拡大した。ただ、その後3月31日に米国バイデン政権がSPRから原油を市場に供給する旨発表した他4月1日にはIEAも加盟国が保有する緊急時石油備蓄から石油を放出する旨発表したこともあり、足元の石油需給引き締まり感が市場で後退したことから、4月11日には第1限月価格が第2限月価格を上回る幅が1バレル当たり0.37ドルとなるなどWTIの期間価格差(第1限月価格-第2限月価格)は縮小した。しかしながら、その後はロシアによる欧州一部諸国向けの天然ガス供給の事実上の削減による天然ガスやLNG価格の上昇により代替として石油需要が拡大するとの観測が市場で発生したことや、EUによるロシア産石油輸入禁止措置実施に向けた動き等が現れたこと、2022年5月28~30日の米国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)(5月30日)に伴う連休を以て米国が夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入したこと等により、再び足元の石油需給引き締まり感が強まったことから、原油の期間価格差は再び拡大、7月6日には再び第1限月価格が第2限月価格を1バレル当たり3.55ドル上回る状態となった。それでもその後は夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が市場関係者間での視野に入ったこと、中国において厳格な新型コロナウイルス感染抑制策が継続したうえ、2022年11月30日以降は同国では新型コロナウイルス感染抑制策が緩和され始めたものの、引き続き同国の製造業の回復がもたつき気味となったことにより、足元の同国経済及び石油需要に対する懸念が市場で増大したこと、米国においてSPRから原油が市場に供給されるとともに同国原油生産が好調となったこともあり、米国の原油在庫が増加基調となったことが、特に第1限月価格に下方圧力を加えた結果、原油価格の期間価格差が縮小するとともに、2022年11月18日以降は第1限月価格が第2限月価格を下回る状態が出現するようになり、特に2023年2月6日には第1限月価格が第2限月価格を1バレル当たり0.35ドル下回る場面も見られた。しかしながら、2023年7月14日以降米国SPRから市場への原油供給が停止した他2023年7月1日にサウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を開始したこと、及び中国経済の原油輸入や製油所の原油精製処理量が好調である旨示された(2023年6月の同国原油輸入は推定日量1,270万バレルと史上2番目の高水準となった他、2023年8月の同国原油精製処理量は同1,528万バレルと史上最高水準に到達した)ことにより、堅調な同国石油需要の観測が市場で強まったことが、足元の石油需給の引き締まり感を市場に意識させた結果、WTIは2023年7月6日以降再び第1限月価格が第2限月価格を上回る状態に転換、さらに国内の需給引き締まりへの対策として、9月21日以降ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア及びキルギスタンへの輸出を除き、軽油及びガソリンの輸出を禁止する旨ロシアが9月21日に発表したことにより、世界の軽油需給引き締まり感を市場が意識したことが特に第1限月の原油価格に上方圧力を加えた結果、WTIの期間価格差は9月27日には1バレル当たり2.38ドルにまで拡大した。

図20 WTI期間価格差(第1限月ー第2限月)(2022~23年)

以上

(この報告は2023年10月16日時点のものです)

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