ページ番号1009909 更新日 令和5年10月23日

フィンランドとエストニアを結ぶ天然ガスパイプラインBalticconnectorが損傷・送ガス停止

レポート属性
レポートID 1009909
作成日 2023-10-19 00:00:00 +0900
更新日 2023-10-23 10:34:05 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場基礎情報
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 北米
国2 米国
地域3 欧州
国3 エストニア
地域4
国4 フィンランド
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア北米,米国欧州,エストニア,フィンランド
2023/10/19 原田 大輔
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概要

  • 10月8日、フィンランドとエストニアの送ガスシステム運営会社であるガスグリッド・フィンランド(Gasgrid Finland)とエレリング(Elering)は、両社が運営している両国を結ぶ海底天然ガスパイプライン・Balticconnectorで、午前2時前にパイプライン内の圧力が異常に低下していることが判明し、漏洩リスクのため、一時的に同パイプラインによる送ガスを停止したことを発表。
  • 6日(金)、11.8ドル/MMBTUだった欧州TTFは週明けの9日(月)には15%上昇し13.6ドル、13日(金)には16.7ドルに。8カ月ぶりのレベルに到達したが、現在は15ドル前後で推移。
  • オペレータ等が確認したパイプラインに対する物理的検査の結果、外部から何らかの機械的な力がかかり、漏洩が生じた可能性を示唆している。ガスグリッド・フィンランドはBalticconnectorの修理には少なくとも5カ月はかかることを明らかにし、最も早い稼働は2024年4月という見通しを示している。
  • ガスグリッド・フィンランドは、同パイプライン停止でもフィンランドのガス市場の状況は安定しており、ガスの供給はインクーLNG受入ターミナル(FSRU)を通じて確保されていると述べている。同ターミナルはFSRU・Exempler号を米国から10年間リースし、2023年1月設置・4月からLNG受入開始したもので、LNG受入容量は年間5BCMであり、Balticconnectorの2倍程度の容量を持つ。
  • エレリングは、天然ガスは現在ラトヴィアの天然ガス貯蔵施設からエストニアに届いており、今回の事件がエストニアの消費者へのガス供給に影響は出ていないと述べている。また、ラトヴィアのコネクサス・バルティック・グリッド(Conexus Baltic Grid)も、自国のインチュカルンス(Incukalns)天然ガス貯蔵施設には現在約2BCMのガスが貯蔵されており、ラトヴィアの今冬のガス需要を賄うのに十分であるとしている。
  • フィンランドの年間天然ガス消費量は1.1BCM(2022年)、エストニアは同0.4BCM、ラトヴィアは同0.8BCM程度。インクーLNGターミナル、EUのガスグリッドに接続されているラトヴィア、そして、同様にLNGターミナルを有するリトアニアからの双方向での供給が可能なことが同パイプラインの突然の停止にも関わらず、関係国への危機感緩和に繋がっていると言えるだろう。
  • フィンランド政府は今回の原因に関し、意図的な「外部活動(outside activity)」の可能性によりガスパイプライン(及び通信ケーブル)が損傷したと公式に発表。プーチン大統領は、Balticconnectorに対する被害に「ロシアの関与」を見出そうとする動きはNord Streamに対するテロ攻撃から注意をそらす試みであると述べた。EUのフォンデアライエン委員長は域内インフラへの脅威に対するEUの強靭化を約束し、損傷したパイプラインに関する進行中の調査が、「意図的な行為の可能性」を想定して行われていることを明らかにした。フィンランドのオルポ首相は、パイプラインの損傷が「通常の使用」の結果や圧力変動の結果として発生した可能性はないが、原因について性急に結論を出さないことが重要だと述べている。
  • 現時点では今回の損傷が悪意を以て為されたものなのか、人為的も含む偶発的な事故が原因なのかどうかは判明していない。暴風雨に晒された中で、停泊していた4隻の船舶のいずれかの錨がパイプラインを引っ掛けたということも想定される。又は、当該海域は第二次世界大戦時の機雷が沈んでおり、海流による地形変化に伴う機雷の移動や錨等の人為的な作用によって爆発事故が起きたという可能性も考えられる。

 

図1 バルト海諸国と稼働してきた国際天然ガスパイプライン
図1 バルト海諸国と稼働してきた国際天然ガスパイプライン
左下:Nord Stream及びNord Stream 2破壊工作位置 右下:今回のBalticconnector圧力低下位置
出所:JOGMEC取り纏め

1. これまでの経緯

(1) 圧力の低下と送ガスの停止

NORSAR(地震・核爆発を検知するために米国及びノルウェー間の協定で設立された財団。現在は独立研究機関として活動)が、フィンランドに設置された高感度地震観測器が10月8日午前1時20分、バルト海で発生した「爆発の可能性」を示す地震波を受信したと公表した。マグニチュード約1と低く、NORSARは天然ガスパイプラインの突然の破断とガスの放出、または爆発物の爆発のいずれかによって引き起こされた可能性があるという可能性を示唆した。その規模はTNT火薬100キロ未満に相当し、1年前に発生したNord Stream爆破工作で検出された大規模な爆発(マグニチュード2.3)よりも小さいものだった[1]

同日、フィンランドとエストニアの送ガスシステム運営会社であるガスグリッド・フィンランド(Gasgrid Finland)とエレリング(Elering)は、両社が運営している両国を結ぶ海底天然ガスパイプライン・Balticconnectorで、午前2時前にパイプライン内の圧力が異常に低下していることが判明し、漏洩リスクのため、一時的に同パイプラインによる送ガスを停止したことを発表した[2]。また、両社はガス漏れの可能性がある原因と場所を解明する準備が進められていること、そして、修復作業は損傷の内容によっては数カ月かかる可能性があることを明らかにした。

表1 Balticconnectorの諸元 出所:エレリング社公開資料
表1 Balticconnectorの諸元

出所:エレリング社公開資料[3]

一方、ラトビアの送ガス運営会社であるコネクサス・バルティック・グリッド(Conexus Baltic Grid)は、漏洩はこの地域の激しい嵐の後に起こったとも指摘している。エストニアの船舶交通管理局によれば、AISのデータから、当該海域には10月8日当日深夜には4隻の船が停泊しており、その内1隻は2日間停泊していた老朽化したロシアの鉱石・バルク・石油運搬船SGVフロート(IMO 8033089)であることが分かっている。サンクトペテルブルクを母港とする当該船は、船が確かに現場海域にいたことを確認したが、単に天気が改善するのを待っていただけだったと述べている。確かに週末にかけて暴風雨がその地域を吹き抜けていたことが確認されている。

10月11日、フィンランド当局は天然ガスパイプラインの損傷はフィンランド海域で発生したとみられ、加えて、通信ケーブルの損傷がエストニア海域で発生していることを発表した[4]

10月16日、エストニアのメディア(日刊紙Postimees/1857年創刊)が報じたところによると、同パイプラインに損害を与えたのは中国船の可能性があるという。船舶追跡ウェブサイトであるMarine Trafficのデータによると、中国企業が所有し、香港船籍で当時バルト海を航行していたコンテナ船「Newnew Polar Bear号」が、損傷が生じた同時刻に同パイプライン上を航行していたことが判明したとしている。同船は、上海を出発し、途中カリーニングラードに立ち寄り、10月8日にサンクトペテルブルク港に到着している。バルト海域では通常は約11ノットで航行するが、10月8日午前1時19分にBalticconnectorの上を通過する際、速度が9.5ノットに低下し、その後、午前1時24分に再び11ノットに戻ったという航跡データが残っている模様[5]。同船は既にサンクトペテルブルクを出航し、天津に向けて、本日時点でノルウェー沖を北極海航路に向けて北上している[6]

 

(2) 送ガス停止による影響

10月9日、フィンランドとエストニアは、両国のガス供給は今回のパイプライン停止による影響を受けていないと述べ、ラトヴィアのコネクサス・バルティック・グリッドも同国のガス供給には影響がないと述べた。ガスグリッド・フィンランドは、「フィンランドのガス市場の状況は安定しており、ガスの供給はインクー LNG受入ターミナルを通じて確保されている」と述べた。同ターミナルはFSRU・Exempler号を米国から10年間リースし、2023年1月設置・4月からLNG受入開始したもので、LNG受入容量は年間5BCMであり、Balticconnectorの2倍程度の容量を持つ。ニーニスト大統領もフィンランドのガス市場は安定しており、「通常、冬季にはガス消費量が多くなるが、インクーLNG受入ターミナルには今冬も含めてフィンランドが必要とするガスを供給する能力と能力がある」としている。フィンランドの総ガス需要は一次エネルギー供給の5%程度で約45%を電力と熱供給が占めているが、電力会社であるフィングリッドもBalticconnectorの損傷はこの冬の電力供給に影響を及ぼさないという見解を出している。

エレリングは、天然ガスはラトヴィアの天然ガス貯蔵施設からエストニアに届いており、今回の事件がエストニアの消費者へのガス供給に影響は出ていないと述べ、ラトヴィアのコネクサス・バルティック・グリッドも、自国のインチュカルンス(Incukalns)天然ガス貯蔵施設には現在約2BCMのガスが貯蔵されており、ラトヴィアの今冬のガス需要を賄うのに十分であるとしている。

なお、フィンランドの年間天然ガス消費量は1.1BCM(2022年)、エストニアは同0.4BCM、ラトヴィアは同0.8BCM程度である。インクーLNGターミナル、EUのガスグリッドに接続されているラトヴィア、そして、同様にLNGターミナルを有するリトアニアからの双方向での供給が可能なことが同パイプラインの突然の停止にも関わらず、関係国への危機感緩和に繋がっていると言えるだろう。

 

(3) 調査の進捗

オペレータ等が確認したパイプラインに対する物理的検査の結果、外部から何らかの機械的な力がかかり、漏洩が生じたという可能性を示唆している。エストニアのペブクル国防相は、「機械的衝撃」がパイプライン損傷の原因となった可能性があると述べている。また、エストニアのサスカ海軍司令官は、パイプラインはコンクリートで覆われており、損傷の様子から「誰かが横から引き裂いた」ことが示唆されると公共放送で語っている。フィンランド国家捜査局もパイプライン脇の海底で発見された痕跡から、船舶の錨が損傷を与えた可能性があると発表した。

NORSARのリッケCEOは「地震ではないことは分かっており、爆発があったことも分かっているが、爆発の実際の原因はさらに調査されるべきだ。何かの船がパイプラインを引きずり、(これにより)穴が開き、その後爆発が起きたのではないかという憶測もあるが、それを判断するのは現時点では時期尚早である」と語っている。また、Balticconnectorは海底でNord Stream及びNord Stream 2を跨いでおり、Balticconnectorの損傷箇所はNord Streamから5キロメートルの範囲にある可能性が高く、「Nord Streamにさらなる被害を与えなかったのは幸運だったのかもしれない」とも指摘している。

ガスグリッド・フィンランドはBalticconnectorの修理には少なくとも5カ月はかかることを明らかにし、最も早い稼働は2024年4月という見通しを示した[7]

 

2. 各国の反応

今回の事件の直後では、例えば、フィンランド外交政策研究所(Finnish Institute for Foreign Policy)がドイツメディアに対し、「この地域でこのようなことを実行する機会、動機、能力を持つ国家のリストは非常に少ない。ロシアしかない」と語ったということが取り上げられ、2023年4月にNATO加盟国となったフィンランド、そして既加盟国であるエストニアに対し、ストルテンベルグNATO事務総長も10日に、調査の結果、意図的な攻撃が明らかになればNATOは一致団結して断固たる対応を取るだろうと警告を発している。フィンランド政府もまた意図的な行為の可能性、「外部活動(outside activity)」によりガスパイプライン及び通信ケーブルが損傷したと公式に発表している。ニーニスト大統領は、「ガスパイプラインと通信ケーブルの損傷は外部活動の結果である可能性が高い。損傷の原因はまだ明らかではないが、フィンランドとエストニアの協力で調査が続いている」と述べている。

10月12日、プーチン大統領は、Balticconnectorに対する被害に「ロシアの関与」を見出そうとする動きはNord Streamに対するテロ攻撃から注意をそらす試みであると述べた。「送ガス容量の点で非常に小さい。ポンプの流量は正確には分からないが、Nord Streamが55BCMであるとすれば、Balticconnectorは5~10BCMだろう(筆者注:正確には2.6BCM)。Gazpromから聞いた限りでは、BalticconnectorはNord Stream,のように十分に保護されていないため、そこでは何かが常に起こる可能性があり、技術的なダメージが発生する可能性が元々あった」と語っている[8]

フィンランド安全保障情報局(SUPO)は、ロシアとの関係の大幅な悪化を受けて、フィンランドのエネルギー部門がロシアの「影響力」作戦の標的になっているという報告書を発表した。その中で、ロシアによる影響力行使の主な目的は、NATOとEUの結束を損なうことと、ウクライナに対する西側諸国の支援を減らすことだと分析している。

EUのフォンデアライエン委員長は域内インフラへの脅威に対するEUの強靭化を約束し、損傷したパイプラインに関する進行中の調査が、「意図的な行為の可能性」を想定して行われていると述べている。「フィンランドとエストニアの首相に対し、欧州委員会が加盟国と協力し続けることを保証した。Balticconnectorのような重要なインフラが損傷するのは、この1年余りで2度目である。重要なインフラを意図的に破壊するあらゆる行為を強く非難する」という声明を発表している。

フィンランドのオルポ首相は、パイプラインの損傷が「通常の使用」の結果や圧力変動の結果として発生した可能性はなく、この種の出来事は誰にとっても「驚くべきことではない」が、原因について性急に結論を出さないことが重要だと述べている。

 

3. 現状認識

現時点では今回の損傷が悪意を以て為されたものなのか、人為的も含む偶発的な事故が原因なのかどうかは判明していない。

暴風雨に晒された中で、停泊していた4隻の船舶のいずれかの錨がパイプラインを引っ掛けたということも想定される。又は、当該海域はNord Stream敷設時にも環境調査で指摘されているが、第二次世界大戦時の機雷が沈んでおり、そのリスクも抱えている。Balticconnector建設時にもルート選定からパイプライン敷設時の海底地形の養生を含め適切に対応が為されているだろうが、海流による地形変化に伴う機雷の移動や錨等によって爆発事故が起きたという可能性も考えられる。

重要な点は、今回の送ガス停止によってフィンランド及びエストニアが今冬に向けて、大きな危機に見舞われる見通しではないということである。この点は昨年発生したNord Stream及びNord Stream 2破壊工作とは異なっている。Nord Stream及びNord Stream 2の喪失はドイツにとってはエネルギー安全保障を根底から変えざるを得ない、経済的な損失を求める外圧となり、ロシアにとっては半世紀以上に亘って築かれた欧露エネルギー協力関係の破壊にも繋がった。他方、米国は欧州にLNG市場を見出し、ロシアを除く世界の産ガス国は一時的とはいえ、高ガス価を謳歌することができた。LNGの調達ができず石炭に回帰したり停電に陥る新興LNG消費国も出現した。

今回のBalticconnectorを巡る事件では、同パイプラインが破壊されたから、再びロシアからの天然ガス輸入を復活するという地合いにはなく、フィンランド及びバルト三国が脱ロシアを加速した結果、既にフィンランドはLNG輸入にシフトし、バルト三国もロシア産パイプラインガスから脱却していたことも事態の深刻化を避けるのに役立っていると見ることもできる。

修復には5カ月程度しかかからないということも、今回の損傷がNord Stream及びNord Stream 2爆破に比べて軽微であることを示している。欧州TTFは10月6日(金)の11.8ドル/MMBTUから、送ガス停止後の週明け、9日(月)には15%上昇し13.6ドル、13日(金)には16.7ドルと8カ月ぶりのレベルに到達したが、その後、現在は15ドル前後で比較的落ち着いて推移していることにも市場の認識が表れていると言えるだろう。

 

 

[3] エレリング社によるBalticconnector・FEED資料:https://elering.ee/en/balticconnector#tab1(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[4] ロイター(2023年10月11日)

[5] Interfax(2023年10月16日)

[7] PlattsEGD(2023年10月11日)

[8] Interfax(2023年10月13日)

以上

(この報告は2023年10月19日時点のものです)

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