ページ番号1009937 更新日 令和5年11月15日
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概要
- 今期のBrent原油価格は、期中平均で86.8ドル/バレルと、前期の78.1ドル/バレルから11.1%上昇したほか、天然ガス価格についても、米国Henry Hub価格は今期平均で2.5ドル/MMBtu(前期の2.1ドル/MMBtuから19%上昇)となり、各社はエネルギー価格の上昇に支援されつつ、化石燃料の開発と低炭素事業の両立を据えた事業方針を維持し、堅調な決算を記録した。
- 各社とも、配当と自社株買いの継続により、株主への還元を重視する姿勢は変わらない。ExxonMobilは、第4四半期の配当について、0.95ドル/株と約4%増額。Shellは前期同様0.331ドル/株(前年同期比32%増)で配当を行うとともに、次期中に追加で35億ドルの自社株買いを実施する。bpも、前期と同様の配当を維持し、次期決算発表までに追加で15億ドルの自社株買いを実施予定。TotalEnergiesは、今期中間配当について前年より7.25%引き上げ、0.74ユーロ/株とするほか、2023年中に合計90億ドルの自社株買いを実施し、株主への還元を継続する方針。
- 各社の事業戦略を概観すると、各社とも既存の化石燃料需要は引き続き堅調であると認識。これを手ごろな価格で安定的に供給するための投資を行いつつ、気候変動問題対応のため低炭素化に努める方針に回帰。同時に、低炭素エネルギー事業にも積極的に投資を行う姿勢は共通。
- そのうえで今期及び直近の主な事業実績をみると、欧州系企業は中期的な石油・天然ガス追加埋蔵量及び生産量確保のため、既存資産の周辺における追加開発・生産事業への投資決定に注力している。また、今後も需要が見込まれるLNG事業について、長期オフテイク契約の締結や自社事業の拡張などを通じ、自社ポートフォリオの充実にも積極的に取り組んでいる。
- 他方米国系企業は、国内及びコアエリアを中心に投資を行う手堅い戦略を継続。ExxonMobilは、EOR事業及びCO2管理を専門とするDenbury Inc.や、シェール開発企業のPioneer Natural Resourcesなど大規模な企業買収を実施し、事業基盤の確立を目指す。また、Chevronについても中堅企業のHessを買収し、事業パフォーマンスを強化する狙いがあるとみられる。
- 国際通貨基金(IMF)が10月10日に世界経済見通し(WEO)を公表し、2023年の世界国内総生産(GDP)成長率予測を3.0%に据え置き、2024年は3.0%から2.9%に鈍化する見込みと発表。こうした世界経済成長見通しを背景に、2023年第4四半期以降の原油価格は、中東情勢による地政学リスクが引き続き意識されているほか、OPECプラスによる減産措置及び一部加盟国の自主的な減産等から下支えされるとみられる。また天然ガスについては、経済活動の回復と北半球の気象条件が平年並みに戻るとの見通しから、2024年の天然ガス需要は前年比2%程度の緩やかな増加となると見込まれる。よって、資源価格に下支えされ、各社の次期四半期決算は今期と同様に推移する可能性が高いと考えられる。
1. ExxonMobil
2023年第3四半期決算において、純利益は前期の79億ドルから15%増となる91億ドルを達成した。主な増益要因は、石油精製の処理量の増加、原油価格および精製マージンの上昇であった。今期の事業キャッシュフローは160億ドル、フリーキャッシュフローは88億ドルに達し、それぞれ前期の94億ドル、70億ドルを大幅に上回ったものの、エネルギー価格が高騰した前年同期のそれぞれ244億ドル、210億ドルを大幅に下回った。
上流部門について、2023年第3四半期の純利益は61億ドルとなり、前期より15億ドルの増益であった。主に、原油・天然ガス価格の上昇、計画メンテナンスの縮小等が好影響を与えた。前年同期との比較においては、天然ガス価格がおよそ60%、原油価格がおよそ14%低下したことを受け、純利益は減少した。その他の財務実績は、エネルギー製品部門は、精製マージン及び精製量の増加で前期比1億ドル増の24億ドルの増益。さらに石化部門はフィードストックのコスト増によって前期8.3億ドルから減少し2.4億ドルの黒字であった[1]。
引き続きExxonMobilは株主還元策の拡大及びポートフォリオ改善に努めている。第4四半期の配当(12月11日支払予定)については、0.95ドル/株と現行の0.91ドル/株から約4%増額し、41年連続の増配を達成。2023年第3四半期の株主還元として総額81億ドルを充当し、うち配当額は37億ドル、自社株買いは44億ドルを実施した(2023年に計画する自社株買いの上限である175億ドルのうち累計131億ドルを達成)。
経営面では、組織構造のスリム化等によりコスト削減を継続し、2023年は2019年比で90億ドルの削減目標をすでに達成しており、年内中に更なる削減を実施すると発表している。また、タイの製油所を売却する等のポートフォリオ強化を継続中であり、今期は資産売却により9億ドルのキャッシュを創出し、第3四半期までに31億ドルの売却益を得ている。2023年第3四半期の設備投資は60億ドルとなり、今期までの累計で186億ドル、年次計画の230~250億ドルに沿った水準であると発表した。
今期の石油換算生産量は日量368.8万バレルとなり、前年同期の日量371.6万バレルと比べて2.8万バレルの減少となった。ダイベストメントや政府指示による生産削減を除き、米国Permian盆地及びガイアナからの生産増分は、石油換算で日量およそ8万バレルに達した。
低炭素エネルギー事業関連としては、7月13日に二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)及び石油増進回収(EOR)事業を手掛けるDenbury Inc.を全株株式交換により買収する契約を締結したと発表[2]。この買収により、両社が保有する資産と事業遂行能力を統合し、ExxonMobilの低炭素事業をさらに加速させ、顧客に対しより説得力のある脱炭素化提案を可能にするとしている。買収は7月12日のExxonMobil株式終値89.45ドル/株に基づき、約49億ドルとなり、Denbury Inc.の株主は1株あたり0.84株のExxonMobil株を受領することになる。また、9月19日には、英領北海において二酸化炭素の潜在的な貯留層を調査するためのライセンス4件を取得したと発表し、うち3件についてはShellと、残り1件についてはNeptune Energyと協業のうえ、調査を実施する[3]。
また10月11日には、シェール開発企業のPioneer Natural Resourcesを買収することで合意したと発表した[4]。Pioneerはテキサス州及びニューメキシコ州に広がるPermian盆地の一部Midland Basinに85万エーカー(net)を保有する上流専業のシェール企業である。買収は10月5日のPioneer株価終値に対し18%のプレミアムを支払う全株株式交換によって行われ、総額は595億ドル(負債額を含め645億ドル)となった[5]。取引は2024年第1四半期に完了する予定である。
2. Shell
2023年第3四半期は、堅調な操業パフォーマンスと、前期に比べて原油及び天然ガス価格が上昇したことのほか、精製マージンが回復したことから、当期純利益は前期及び前年同期を上回る結果となった。今期の事業キャッシュフローは123億ドル、純利益は70億ドルを達成し(2023年第2四半期は、事業キャッシュフロー151億ドル、純利益31億ドル)、フリーキャッシュフローは75億ドルとなった。ワエル・サワンCEOは、「Shellは変動の激しいコモディティ市場における機会を捉え、強力な操業及び財務パフォーマンスを記録した四半期を達成した」とプレスリリースで述べ、前年同期と比べ32%の増配となる0.331ドル/株(前期同様)で配当を行うとともに、2023年第4四半期中に追加で35億ドル、2023年下半期では65億ドルに達する自社株買いを実施する旨、発表した[6]。これにより、同社の2023年間自社株買いは230億ドル程度となる見込みである。
今期の石油換算生産量は日量270.5万バレルとなり、前期(日量273.1万バレル)比1%程度の減少となった。豪州及びトリニダードトバゴ事業におけるメンテナンスの増加に伴い、天然ガスの生産がおよそ9%減少したが、大水深を中心とする石油生産の増加が一部を相殺した。
主要な石油・天然ガス関連事業の進捗としては、8月28日にマレーシアのSK318生産物分与契約に基づきTimiプラットフォームから天然ガス生産を開始したと発表[7]。最大で石油換算日量5万バレルのガス生産を処理し、80キロメートルの新設パイプラインによりF23生産ハブに出荷する。同社子会社であるSarawak Shell Berhad(SSB)が75%権益を保有するオペレーターとして、パートナーのPETRONAS Carigali Sdn Bhd(15%権益保有)及びBrunei Energy Exploration(10%権益保有)とともに事業を推進しており、特にShellのエンジニアリングの経験により、既存のプラットフォームより60%の軽量化を達成したとしている。また、7月25日には、同社子会社がインドネシアのMasela生産物分与契約で保有する35%権益をPT Pertamina Hulu Energi(PHE)及びPETRONAS Masela Sdn. Bhd(Petronas Masela)に売却すると発表[8]。政府当局の認可取得を条件に、権益譲渡は2023年1月1日に遡及して発効する。譲渡対価は3.25億ドルであり、Abadiガス田の最終投資決定が行われた場合には、追加で3.25億ドルを支払う。Petronasによれば、同社子会社のPetronas Maselaが15%権益を取得、PHEは20%を保有し、INPEX Masela Ltd.が65%権益を保有するオペレーターとして事業を実施する[9]。Shellの統合ガス・上流事業部門長を務めるZoë Yujnovich氏は、「Masela生産物分与契約の参加権益売却という決定は、規律ある資本配分に重点を置くという方針と一致している」と述べた。
3. bp
2023年第3四半期において、bpは87億ドルの事業キャッシュフローを創出した(前期の63億ドルから増加)。純利益については、18億ドルとなった前期を上回る49億ドルの黒字を記録(アンダーライイング・リプレースメント・コスト利益では、33億ドルと前期(26億ドル)を上回った)。2023年第2四半期に比べ、精製マージンが拡大したほか、施設修繕の影響が軽微であったこと、石油部門のトレーディングが好調であったこと、石油天然ガスの生産量が増加したことが今期の決算につながった。こうした四半期決算状況のなか、同社は前期と同様7.27セント/株で配当を行うとともに、第4四半期決算発表までに追加で15億ドルの自社株買いを実施すると発表した[10]。
今期の石油換算生産量は日量232.8万バレルとなり、前期の日量227.2万バレルと比べ2.5%程度の増加となった。2023年においては、米国メキシコ湾の中核事業であるMad Dog Phase 2の中核であるArgosプラットフォームからの生産開始、インド沖のKGD6-MJ事業の最終的なコミッショニング作業を上半期に完了しているほか、今期にはTangguh LNG拡張施設により年産およそ380万トンの液化能力を追加。このほか、bpxを通じて実施する米国陸上石油ガス開発において、Permian盆地における2番目の中央処理施設であるBingoを8月に稼働させるなど、今後同社の石油換算生産量は増加傾向となるとみられる。
最近の石油天然ガス関連事業の進捗としては、7月28日にオーストリアのOMVと2026年から10年間、年100万トンを上限とするLNGをbpのポートフォリオから供給する契約を締結したと発表[11]。OMVのアルフレッド・スターンCEOは、「自国産ガスに加え、ノルウェー産のほか、追加的にLNG供給を確保し多様化を図ることは、OMVの最優先事項の一つである」と述べ、bpのジョンティ・シェパードLNGトレーディング部門Vice Presidentは本契約を歓迎し、「欧州は重要なLNG市場であり、OMVとの本契約は、この地域における当社のLNG供給能力を実証し、欧州の顧客に対するエネルギー安定供給をサポートする」とした。また、9月5日にはカナダ ブリティッシュコロンビア州のWoodfibre LNGとの間で、年45万トン15年間のLNGオフテイク契約を締結したと発表[12]。これにより、同事業からのLNG生産量年195万トンの全量をbpが引き取ることとなった。bpはLNGをエネルギートランジションにおける重要な部分と捉えており、2030年までに年3,000万トンのLNGポートフォリオを保有することを目標としている。Woodfibre LNGは2027年までに、風力発電を利用した電気駆動の液化装置によりネットゼロLNGの生産を目指すとしている[13]。
電力事業においては、7月12日にドイツ領北海における洋上風力発電入札の結果、2か所における事業権を付与された(離岸距離はそれぞれ130キロメートルと150キロメートル、水深はおよそ40メートル)。着床式発電設備の導入により、潜在的に合計で4ギガワットの発電容量となる見込みであり、ドイツにおけるbp初の洋上風力発電事業となる[14]。9月26日には、米国テキサス州において187メガワットのPeacock太陽光発電所の建設を開始したと発表[15]。運転開始は2024年下半期を見込み、発電電力の全量をExxonMobilとSABICのJV企業であるGulf Coast Growth Venturesに販売し、同事業からの温室効果ガス排出削減に寄与する。
低炭素エネルギー事業関連では、水素製造向けの電解装置開発事業者であるAdvanced Ionicsに対する1,250万ドルの出資をbp ventures(bpのベンチャーキャピタル子会社)が主導し、他投資家であるClean Energy Ventures、三菱重工業、GVP Climateとともに実施したと8月15日に発表した[16]。Advaced Ionicsの低温水蒸気電解装置は、100℃程度の低温水蒸気を利用することで、従来の水電解装置より消費電力を30%以上抑えて水素製造を可能とすることを目指しており、工業排熱を用いて鉄鋼、アンモニア製造、製油所などにおける地産地消型ソリューションへの活用が期待される[17]。
4. Chevron
2023年第3四半期の決算は97億ドルの事業キャッシュフローを創出、純利益は65億ドルであった。前期60億ドルの純利益に対して増益となったが、前年同期112億ドルに対し大幅な減益となった。原油・天然ガス価格及び製品販売のマージンの低下が減益に影響した。売上高は、製品価格の低下により前年同期の635億ドルから519億ドルに減少した。上流部門について、2023年第3四半期の収益は前期49億ドルを上回る58億ドルとなったが、前年同期の93億ドルを大幅に下回った[18]。
2023年第3四半期の設備投資額は、前年同期の48億ドルから15%増の55億ドルとなった。2023年はこれまでの9か月間に142億ドルを投資し、前年同期間の105億ドルを上回るペースである。戦略的な投資の成果として、米国シェール事業者のPDC Energyの買収を8月7日に完了し[19]、米国におけるシェールポジションを高めDJ Basinでトップ5の生産プレイヤーに仲間入りを果たした。他方で、米国最大のグリーン水素の生産者であるACES Delta(Advanced Clean Energy Storage project, Delta)の主要権益を9月12日に取得し、強靭な財務基盤を維持しながらも従来分野と新たなエネルギー事業分野の双方に投資をしている。
今期のフリーキャッシュフローは43億ドルと、前期の60億ドルに比べて減少した。エネルギー価格が高騰した2022年第3四半期の109億ドルに比べると大幅な減少となった。今期の株主還元は総額62億ドル、このうち配当に29億ドル(1.51ドル/株、前期据え置き)、自社株買いに34億ドルを充てた。PDC Energyの買収により自社株買いの規模は抑制されたと説明したものの、当期までの株主還元の累計は200億ドルに達し、最高水準であった昨年をさらに27%上回る規模と強調する。
今期の石油換算生産量は、PDC Energyの買収手続き完了により日量18万バレル分が追加されたほか、Permian盆地での生産量が増加したことで前年同期の日量295.9万バレルに比べ20%増の日量314.6万バレルとなった。
事業業績としては、前述通り、PDC Energyの買収により、DJ Basin及びPermian盆地でのポジションを高めたこと、またACES Deltaに投資していたMagnum DevelopmentをファンドのHaddington Venturesを通じて買収し[20]、ユタ州でのグリーン水素生産及び貯蔵ハブの開発に参画したこと、またカリフォルニア州のEl Segundo製油所において水素精製装置をリニューアブルディーゼルにプロセス処理できるよう転換したこと、さらにニューメキシコ州ではPermian盆地に低炭素エネルギーの供給を行うため太陽光事業の操業を開始したこと等、米国での活動が目立った。
また、同社は10月23日、新たなM&Aとして米国シェール及び南米ガイアナでの生産を行っている中堅企業のHess(米)を530億ドル(負債額含む600億ドル)で買収することで合意したと発表し[21]、世界クラスの資産と人材を取り込むことでChevronの長期的なパフォーマンスを増強させる狙いがある。Hess(2022年実績)は、石油換算確認埋蔵量13億バレル(主に米国9億バレル、ガイアナ3億バレル)を有し、石油換算生産量は日量34.4万バレル(うち米国18.5万バレル、その他15.8万バレル)に達する規模である。同年の投資額は27億ドルであり、主な資産として(1)米国Bakkenシェールにおける47万エーカーの上・中流アセット、(2)メキシコ湾と東南アジアの生産資産、(3)ガイアナで発見された可採資源量110億バレル超の権益30%(オペレーターExxonMobil)を保有する。
5. TotalEnergies
TotalEnergiesの2023年第3四半期決算は資源価格に支えられ、前期並みの95億ドルの事業キャッシュフローを創出、フリーキャッシュフローは57億ドルとなった(前期はそれぞれ99億ドル、38億ドル)。今期においては、67億ドルの純利益(前期は41億ドル)を達成した。パトリック・プヤンネCEOは決算発表において、「石油ガス(Oil and Gas)と統合電力(Integrated Power)の組み合わせによるバランスの取れたトランジション戦略を実施する」なか、TotalEnergiesは支援的な価格環境を活用して今期の結果を生み出す能力を示したと語った。また、2023年第3回の中間配当について前年より7.25%引き上げ、0.74ユーロ/株とするほか、2023年中に合計90億ドルの自社株買いを実施し、株主への還元を継続することを発表した[22]。
今期の石油換算生産量は日量247.6万バレルとなり、前期の日量247.1万バレルと同水準を維持した。Novatekの株式を持分法適用外とし、当該埋蔵量及び生産量の計上を取りやめたことによる減少要因を除いては、前年比で5%の増加となった。主な要因は、アゼルバイジャンにおけるAbsheronガスコンデンセート田からの生産開始、ノルウェーのJohan Sverdrup Phase 2事業、ブラジルにおけるMero 1事業、ナイジェリアにおけるIkike事業及びオマーンBlock 10における生産増加が寄与している。
今期における石油・天然ガス上流事業の進捗としては、以下が挙げられる。新たな油ガス田の開発や生産開始など、今後の供給増加に寄与することが期待できる新たな事業を積極的に展開している。
- 7月10日:アルジェリア国営石油会社Sonatrachとの間で複数のMOUを締結(7月9日)したことを発表。Tin Fouyé Tabankortガス田における増産、欧州エネルギー安全保障に資する年200万トンのLNG追加供給の延長(~2024年)、アルジェリアにおける再生可能エネルギーの開発(アルジェリア国内の石油ガス生産施設の太陽光発電化、再生可能エネルギー及び輸出向け低炭素水素開発のポテンシャルスタディ、低炭素エネルギー及びエネルギートランジションに係るR&Dプログラムを対象)が含まれる[23]。
- 7月10日:アゼルバイジャンにおいて同国国営石油会社であるSOCARと実施するAbsheronガス田事業において生産を開始。両者は50%権益をそれぞれ保有し、オペレーターは共同操業会社が務める。生産容量は最大で天然ガスが日量400万立方メートル、コンデンセートが日量1.2万バレルであり、天然ガスはアゼルバイジャン国内向けに供給される[24]。
- 8月4日:アゼルバイジャンにおいて同国国営石油会社であるSOCARと実施するAbsheronガス田事業権益の15%をそれぞれADNOCに売却することで合意。関係当局の承認を条件に、TotalEnergies及びSOCALが各35%、ADNOCが30%の権益を取得し事業を実施する[25]。
- 8月21日:TotalEnergies及びINPEXは両社子会社を通じ、PTTEP Australasia(Ashmore Cartier)Pty Ltdが保有する豪州AC/RL7鉱区の事業権益をそれぞれ26%、74%取得することに合意し、権益譲渡契約を締結。同鉱区は既に天然ガス・コンデンセート田が発見されており、イクシスLNGプロジェクトへの安定供給に資することが期待される[26]。
- 9月13日:スリナム沖合Block 58において8月に評価井3坑の掘削及びテストを完了した結果、Sapakara South及びKrabdaguの2構造の回収可能資源は7億バレル程度と確認されたことを受け、浮体式生産貯蔵出荷設備(FPSO)を用いた開発により最大で日量20万バレル程度の生産を行う事業計画を発表。今後2023年末までに詳細なFEEDを実施し、2024年末までに最終投資決定、2028年に生産開始を見込む[27]。
- 9月28日:アンゴラ沖合Block 20でオペレーターとして推進するCameia及びGolfinho既発見構造の開発に先立ち、Petronas子会社に対し40%事業権益の売却を完了した[28]。これにより、TotalEnergies及びPetronasがそれぞれ子会社を通じ40%の権益を保有し、国営石油会社であるSonangolが20%権益を保持する。
LNG事業関連においては、6月14日に米国のLNG生産事業者であるNextDecade及びGlobal Infrastructure Partners(GIP)とフレームワーク契約(framework agreement)を締結し、米国テキサス州南部におけるRio Grande LNG(RGLNG)の開発に参画すると発表[29]、7月13日に最終投資決定を行った[30]。これにより、TotalEnergiesは以下の権利を取得する。
- 11億ドルの資金負担により、RGLNG第1フェーズ(液化系統3系列、液化能力年1,750万トン)の事業権益16.7%
- NextDecade株式の17.5%を3回に分割し総額2.19億ドルで取得する権利(初回分5.06%は4,000万ドルで6月13日に取得済、年末までに取得を完了する予定)
- 第1フェーズから供給されるLNGのうち年540万トンの20年間オフテイク権
- RGLNG追加フェーズ及びRGLNGにおける排出削減のためにNextDecadeが計画する二酸化炭素回収・貯留(CCS)事業への参加権
また、精製事業の脱炭素化を加速するために、TotalEnergiesは年間50万トンのグリーン水素を調達することを9月14日に発表、これにより2030年までに同社が保有する欧州域内6製油所の二酸化炭素排出を年間約5百万トン削減することを目指す[31]。これに加え同日、Air Liquideとの間でフランスノルマンディー地方のTotalEnergies製油所及び石油化学プラットフォームにおける脱炭素化を推進するために、2026年下期から年1万トンのグリーン水素及び年5千トンを上限とする低炭素水素を供給することで合意した[32]。
低炭素エネルギー事業関連では、8月4日にBaker Hughes、Technip Energies、Azimut及びその他出資者とともに、Zhero Europeへの投資により欧州及びアフリカにおける再生可能エネルギー開発、電力システム統合及びグリーン水素製造の大規模事業開発を行うための覚書を締結した[33]。
また、8月22日には、CapeOmega Carbon Storage ASとの間で、同社が保有するノルウェーにおける二酸化炭素貯留探査ライセンスExL004(Lunaプロジェクト)の参加権益40%を取得することで合意し、同ライセンスを保有するWintershall DEA Norge AS(60%権益保有、オペレーター)とともに事業を推進する。同ライセンスは、TotalEnergiesが33%の事業権益を保有しているNorthern Lights CCS事業に隣接しており、貯留容量の追加に資することが期待されている[34]。
再生可能エネルギー事業の関係では、ドイツ当局(連邦ネットワーク庁)から、北海及びバルト海における2つの大規模風力発電所建設に係る権利を取得したと7月12日に発表[35]。コンセッション契約の期間は25年間だが、35年間まで延長可能。発電容量はそれぞれ2ギガワットと1ギガワットを想定する。また、7月24日にはトルコにおける再生可能エネルギー開発を手掛けるRönesans Holdingと、同社子会社のRönesans Enerjiの株式50%を取得することを発表[36]。TotalEnergiesの陸上風力・太陽光発電事業の開発や電力取引のノウハウと、Rönesans Enerjiの国内電力市場の経験を活かし、2028年までに2ギガワットの再生可能エネルギー生産能力を目指すとしている。これに続き7月25日には、2012年に設立された再生可能エネルギー開発企業であるTotal Erenの出資比率を30%から100%に引き上げ、TotalEnergiesの再生可能エネルギー事業ユニットに統合した[37]。9月15日には、Petrobras及びCasa dos Ventosと3者で覚書を締結し、ブラジルにおける陸上風力、洋上風力、太陽光及び低炭素水素事業機会を検討する[38]ほか、9月20日にはEuropean EnergyとTotalEnergies65対35のジョイントベンチャーを設立し、複数地域で少なくとも4ギガワットの陸上再生可能エネルギー事業を開発することで合意した[39]。このほか、9月20日にはAdani Green Energy Limited (AGEL)とジョイントベンチャーを設立し、1,050メガワットの再生可能エネルギーポートフォリオを構築することで合意した[40]。
6. まとめ
今期のBrent原油価格は、期中平均で86.8ドル/バレルと、前期の78.1ドル/バレルから11.1%上昇したほか、天然ガス価格についても、米国Henry Hub価格は今期平均で2.5ドル/MMBtu(前期の2.1ドル/MMBtuから19%上昇)となり、各社決算は前期を概ね上回る状況となった。他方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響による地政学リスクの高まりと、ロシア産パイプラインガスを代替する動きが欧州を中心に活発になり、LNG調達への需要を高めたこと等で、世界的にエネルギー価格が高騰していた前年同期に比べ、期中平均のBrent原油価格は13.8%、Henry Hub価格は69.5%低下したことで、前年同期を大幅に下回る結果となった。
こうした状況下、各社はエネルギー価格の上昇に支援されつつ、化石燃料の開発と低炭素事業の両立を据えた事業方針を維持し、堅調な決算を記録したと認識している。Shellのワエル・サワンCEOは、「Shellは変動の激しいコモディティ市場における機会を捉え、強力な操業及び財務パフォーマンスを記録した四半期を達成した」とプレスリリースで述べたほか、TotalEnergiesのパトリック・プヤンネCEOは「石油ガス(Oil and Gas)と統合電力(Integrated Power)の組み合わせによるバランスの取れたトランジション戦略を実施する」なか、TotalEnergiesは支援的な価格環境を活用して今期の結果を生み出す能力を示したと語った。また、ExxonMobilのダレン・ウッズCEOは、組織構造のスリム化等によりコスト削減を継続し、2023年は2019年比で90億ドルの削減目標をすでに達成しており、年内中に更なる削減を実施すると発表したほか、ポートフォリオの最適化を継続することを強調し、収益力を強化している。
また各社とも、配当と自社株買いの継続により、株主への還元を重視する姿勢は変わらない。ExxonMobilは、第4四半期の配当(12月11日支払予定)について、0.95ドル/株と現行の0.91ドル/株から約4%増額し、41年連続の増配を達成。Shellは前期同様、前年同期比32%の増配となる0.331ドル/株で配当を行うとともに、2023年第4四半期中に追加で35億ドルの自社株買いを実施する。bpも、前期と同様7.27セント/株で配当を行うとともに、第4四半期決算発表までに追加で15億ドルの自社株買いを実施すると発表した。TotalEnergiesについても、2023年第3回の中間配当について前年より7.25%引き上げ、0.74ユーロ/株とするほか、2023年中に合計90億ドルの自社株買いを実施し、株主への還元を継続することを発表した。
各社の事業戦略を概観すると、各社とも既存の化石燃料需要は引き続き堅調であると認識しており、これを手ごろな価格で安定的に供給するための投資を行いつつ、気候変動問題に対応するために低炭素化に努める方針に回帰しながら、低炭素エネルギー事業への投資を積極的に行う姿勢は共通している(表7参照)。そのうえで今期及び直近の主な事業実績をみると、欧州系企業は中期的な石油・天然ガス追加埋蔵量及び生産量確保のため、既存資産の周辺における追加開発・生産事業への投資決定に注力している。このほか、特に今後も需要が見込まれるLNG事業について、自社ポートフォリオの充実化を図る長期オフテイク契約の締結(bp- Woodfibre LNG、TotalEnergies- Rio Grande LNG)や、自社事業の拡張(bp Tangguh LNG)などにも積極的に取り組んでいる。他方米国系企業は、国内及びコアエリアを中心に投資を行う手堅い戦略を継続している印象である。その中でもExxonMobilは、EOR事業及びCO2管理を専門とする米国企業Denbury Inc.を全株式取得により買収することで合意したほか、シェール開発企業のPioneer Natural Resourcesを買収するなど、大規模な企業買収を実施し優良資産と人員を含め自社に取り込むことで、事業基盤の確立を目指しているとみられる。また、Chevronについては、米国シェール及び南米ガイアナでの生産を行っている中堅企業のHessを買収することで、長期的な事業パフォーマンスを強化する狙いがある。
国際通貨基金(IMF)が10月10日に最新の世界経済見通し(WEO)を公表し、2023年の世界国内総生産(GDP)成長率予測を7月時点の3.0%に据え置いたものの、2024年は3.0%から2.9%に鈍化する見込みであり、2000年以降の歴史的な平均水準である3.8%を大きく下回ると指摘した。先進国の成長率は、政策の引き締めの影響が出始め、2022年の2.6%から2023年は1.5%、2024年は1.4%へ鈍化する見込みである。新興国及び途上国の成長率もやや鈍化し、2022年の4.1%から、2023年と2024年はともに4.0%となる見込みであると発表した[41]。
こうした世界経済成長見通しを背景に、2023年第4四半期以降の原油価格は、(1)イスラエル・ハマスの軍事衝突が継続し、市場において地政学リスクが依然として認識されていること、(2)OPECプラスが4月2日に開催した共同閣僚監視委員会(JMMC)により、5月から2023年末までの間、合計で日量115.7万バレルの減産に合意しこれを継続していること、(3)サウジアラビアが7月より自主的に実施している日量100万バレルの追加減産を年末まで継続するほか、ロシアも日量30万バレルの原油及び石油製品輸出削減を年末まで継続すると報じられた[42]こと等により、原油価格は下支えされるとみられる。他方、(4)主要中央銀行による金融政策の引き締めや、中国経済が想定を下回る状況が継続すれば、原油価格に下方圧力を加えることも想定される。
また、天然ガス価格については、2023年第1四半期を通して欧州の住宅・商業部門における需要が抑制されたこと、第2四半期には電力部門や個人消費が落ち込んだことに加え、アジアにおいて中国の需要増加を日本及び韓国の需要減少が相殺したことから、需給ファンダメンタルズは緩和してきた。他方、第4四半期以降については、経済活動の回復と北半球の気象条件が平年並みに戻る(昨冬は暖冬により天然ガス需要を抑制)との見通しから、2024年の天然ガス需要は前年比2%程度の緩やかな増加となると見込まれている[43]。よって、資源価格に下支えされ、各社の次期四半期決算は今期と同様に推移する可能性が高いと考えられる。
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以上
(この報告は2023年11月15日時点のものです)