ページ番号1009942 更新日 令和5年11月20日
原油市場他:中東地域の石油供給途絶懸念の後退に加え米国の政策金利引き上げ継続観測増大等により2023年7月以来の低水準にまで下落する原油価格
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概要
- 米国では、秋場の製油所メンテナンス作業実施等に伴う石油製品製造活動不活発化もありガソリン及び留出油量在庫は減少傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅下限を割り込む、それぞれ量となった。他方、国内生産が拡大した一方精製処理や輸出がもたつき気味となったこともあり、原油在庫は増加傾向となった他平年幅上限を上回る状態は継続している。
- 2023年10月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本では一部の製油所における秋場のメンテナンス作業実施に伴う操業停止を控え原油在庫が削減されたと見られることから当該在庫は減少した一方、欧州の原油在庫は横這いであった。しかしながら、米国で在庫が増加したことから、OECD諸国全体では原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、日本では灯油在庫が積み上がったこと等もあり製品在庫は増加となった一方、欧州では当該在庫は横這いとなった。しかしながら、米国では、ガソリン、留出油、プロパン及びその他の石油製品を中心として石油製品在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となり平年並みの量となっている。
- 2023年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、10月中旬には、イスラエルとハマスとの戦闘状態の激化による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念の増大が原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格は10月19日には1バレル当たり89.37ドルと9月29日以来の高水準の終値に到達した。しかしながら、その後は、イスラエルとハマスの戦闘状態の継続によっても中東地域の石油供給に支障が発生しなかったこと等もあり同地域における石油供給途絶に対する懸念が後退した他、物価上昇抑制のために金融引き締め政策継続が必要である旨複数の米国金融当局関係者が示唆したこと等が、原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格は11月16日には1バレル当たり72.90ドルと7月6日以来の低水準に到達した。
- 米国で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、今後暖房用石油製品製造のために製油所での原油精製処理量が増加するとともに原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。他方、米国金融当局による政策金利引き上げ、もしくは相当程度の期間に渡る維持への観測が強まりやすく、また、中国においては、経済回復過程が不安定であることから、この面で原油相場の上昇が抑制される可能性があるが、これについては、米国金融当局関係者による発言や中国政府等による大型景気刺激策に関する動き、そして米国及び中国の経済指標類の内容等に原油価格が左右される側面もあるものと考えられる。さらに11月26日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合において減産の強化が決定される可能性もあり、同会合における原油生産方針を巡る決定事項やその前後の動向等も原油相場に影響を与えるものと考えられる。加えて、イスラエル等の中東情勢については、市場関係者による中東地域からの石油供給途絶懸念は後退しつつあるが、今後戦闘が激化したり、関係国間の対立が先鋭化したりするようであれば、再び石油供給途絶懸念が増大することにより原油相場に上方圧力を加えると言った展開となることも否定できないので注意する必要があろう。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2023年8月の米国ガソリン需要(確定値)は日量930万バレル、前年同月比で2.0%程度の増加となり(図1参照)、7月の当該需要である同901万バレルから需要量が上振れしたものの同月の前年同月比の増加率である2.3%程度の増加からは増加率が縮小した。ただ、当該需要は速報値(前年同月比0.6%程度増加の日量906万バレル)からは上方修正されている。8月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量90万バレル程度と推定されたところ確定値では同73万バレルへと下方修正されたことで、この部分が同国ガソリン需要の速報値から確定値への移行段階で輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正の一因となったものと見られる。7月初頭以降原油価格が上昇基調となったことから米国でも7月後半以降ガソリン小売価格が上昇し始めたこともあり、同国消費者がガソリン小売価格の上昇が進む前にガソリンを購入しようとしたことが、同月のガソリン需要の前月比での増加に繋がったものと考えられる。ただ、2023年8月の全米平均ガソリン小売価格は1ガロン当たり3.954ドルと前年同月(同4.087ドル)に比べればなお低水準であったことから、2023年8月の米国ガソリン需要は前年同月を上回ることとなったものと見られる。なお、8月の米国自動車運転距離数は1日当たり93億マイルと7月(同93億マイル)から微増にとどまっているにもかかわらず7月から8月にかけ米国ガソリン需要が増加したことに加え、9月18日には全米ガソリン小売価格が1ガロン当たり4.001ドルと2023年初頭以降で最高水準に到達したこと、及び9月は米国では粗方夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了していること等を考慮すると、8月の比較的堅調なガソリン需要の反動と併せ、9月の同国ガソリン需要が抑制されている確率がそれなりにあるものと考えられる。なお、2023年8月の米国ガソリン需要は新型コロナウイルス感染流行前の2019年8月の当該需要(日量983万バレル)(確定値)を5.4%程度下回っている。他方、2023年10月の米国ガソリン需要(速報値)は日量890万バレル、前年同月比で1.1%程度の増加となっており、9月の当該需要(速報値)である日量835万バレルから需要量が増加した他同月の前年同月比5.6%程度の減少から増加に転じた。9月29日の週の同国ガソリン需要が日量801万バレルとこの時期としては2000年(9月29日の週において日量782万バレル)以来の低水準に到達した(熱帯性低気圧「オフェリア(Ophelia)」衰退後の低気圧により9月下旬に同国北東部に大雨がもたらされるとともに一部地域で洪水等が発生たことに伴う個人の外出の敬遠が影響したと示唆する向きもある)こともあり、9月の同国ガソリン需要が大きく落ち込んだ反動に加え、2023年10月は全米ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.742ドルと前月(同3.958ドル)及び前年同月(同3.935ドル)を下回ったことにより、同国においてガソリン需要が喚起される格好となったことが、10月の当該需要を上振れさせるとともに同需要の前月比及び前年同月比での増加をもたらしたものと考えられる。なお、2023年10月の米国ガソリン需要は2019年10月の当該需要(日量931万バレル)(確定値)を4.4%程度下回っている。また、米国では秋場のメンテナンス作業実施が峠を越え始めるとともに、11月1日の冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期突入に向け製油所が稼働を上昇させたものと見られる反面、メキシコ国営石油会社ペメックスの操業するディア・パーク(Deer Park)製油所(テキサス州、原油精製処理能力日量31.25万バレル)において常圧蒸留装置1基(同27万バレル)が10月14~26日において計画外の操業停止となったことを含め複数の製油所において装置の不具合が発生したこともあり製油所の原油精製処理活動がもたつき気味となる(図2参照)とともにガソリンの製造活動が抑制されることとなった(但し10月以降ガソリン需要は回復基調となったこともありガソリン最終製品生産は必ずしも低迷していたわけではなかった(図3参照))。他方、一時期低迷していた米国ガソリン需要は回復基調となったことから、10月上旬から11月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は混合基材を中心として減少傾向となったが、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2023年8月の米国留出油需要(確定値)は日量413万バレルと前年同月比で4.9%程度の増加となり(図5参照)、7月の同365万バレル(前年同月比2.0%程度の減少)から需要量が増加した他前年同月比では増加に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比4.5%減少の日量376万バレル)から相当程度上方修正されている。米国では秋場の穀物収穫シーズン到来に伴う穀物収穫のための農機具稼働のための軽油等の需要が視野に入り始めたことが、留出油需要を喚起した結果、同需要が前月比で増加した側面はあるが、原油価格が上昇基調となったこともあり7月下旬頃から9月中旬頃にかけ全米平均軽油小売価格が上昇傾向となった(7月17日時点では1ガロン当たり3.806ドルであった当該価格は9月18日には同4.633ドルと2023年初頭以降では最高水準に到達した)ことから、軽油価格の上昇が進む前に駆け込みで軽油を調達しようとする動きが発生したことが、8月の当該需要を押し上げたものと考えられる。なお、8月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量403万バレル)(確定値)を2.6%程度上回っている。他方、2023年10月の米国留出油需要(速報値)は日量403万バレルと前年同月比で3.2%程度の減少となり、9月の当該需要量(速報値)の日量387万バレル(前年同月比5.3%程度の減少)から需要量が増加したうえ前年同月比の減少率も縮小した。10月も9月と同様米国で穀物の収穫が実施されつつあったこともあり農機具稼働のための軽油需要が喚起されたものと見られることが10月の留出油需要を下支えする格好となった他、9月18日時点では1ガロン当たり4.633ドルであった全米平均軽油小売価格は10月中旬頃以降同4.4~4.5ドル程度へと下落する傾向を示したことが、10月の留出油需要の前月比での増加に寄与したうえ、10月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり4.507ドルと前年同月(同5.211ドル)を相当程度(13.5%程度)下回った他、前年同月比での下落率が9月(同8.6%程度)から拡大したことが、10月の当該需要の前年同月比での減少率を9月のそれに比べ縮小させているものと考えられる。しかしながら、10月の米国鉱工業生産が前年同月比で0.7%程度の低下となったことが産業部門における軽油需要を抑制する形で作用したことが10月の当該需要を前年割れとさせる形で作用したものと見られる。なお、2023年10月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量422万バレル)(確定値)を4.5%程度下回っている。ただ、10月の同国留出油需要が前月比で増加した反面、製油所の稼働がもたつき気味であったこともあり同国製油所等における留出油生産が抑制された(図6参照)ことから、10月上旬から11月上旬にかけ米国留出油在庫は減少傾向となったうえ、平年幅下限を割り込む量となっている(図7参照)。
2023年8月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比3.0%程度増加の日量2,088万バレルとなり(図8参照)、7月の同2,012万バレルから需要量が増加した他、同月の前年同月比1.0%程度の増加から増加率が拡大した。ガソリン需要が前月比及び前年同月比で増加した他、留出油需要も前月比で増加したうえ前年同月比では7月の減少から8月には増加に転じたしたことが、8月の同国石油需要が前月比で増加したうえ前年同月比での伸びが拡大したことに反映されている。また、2022年8月22日には米国天然ガス価格が100万Btu当たり9.680ドルの終値と2008年7月23日(この日の終値は同9.788ドル)以来の高水準の終値に到達するなど2022年5月から8月にかけ一部期間を除き同国天然ガス価格が高騰した(2022年2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻に伴う西側諸国等による対ロシア制裁と事実上のロシアからの報復措置としての欧州方面へのパイプライン経由での天然ガス供給の削減もあり、欧州における天然ガス需給引き締まり感が強まったことにより、米国から欧州方面等へのLNG輸出が活発化する結果米国の天然ガス需給が引き締まるのではないかとの観測が市場で高まったことが一因であるものと見られる)影響で、同国のエタン価格も同時期上昇した(2022年6月9日には1バレル当たり推定28.8ドルの終値と2012年1月13日(この日の終値は同28.8ドル)以来の高水準に到達した)こともあり2022年8月の同国エタン需要が落ち込んだ反動で、2023年8月の米国エタン需要が前年同月比で日量16万バレル(8.6%)程度の増加となったことが影響し、その他の石油製品の需要が前年同月比で日量15万バレル(3.4%)程度増加したことも、2023年8月の米国石油需要の前年同月比の伸びに寄与する格好となっている。ただ、その他の石油製品の需要が速報値(日量539万バレル)から確定値(同449万バレル)に移行する段階で相当程度下方修正されたことにより、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比4.0%程度増加の日量2,108万バレル)から下方修正されている。なお、2023年8月の米国石油需要は2019年8月の当該需要(日量2,116万バレル)(確定値)を1.3%程度下回っている。他方、2023年10月の米国石油需要(速報値)は日量2,065万バレル、前年同月比で3.2%程度の増加となっており、9月の同国石油需要(速報値)である日量2,026万バレル、前年同月比0.6%程度の増加から、需要量が増加した他前年同月比での増加率も拡大した。暖房用需要が発生し始めたプロパン需要が前月比で増加したものと見られることに加え、ガソリン及び留出油需要が前月比で増加したことが、10月の同国石油需要の前月比での増加に反映されている。また、前年同月比でプロパン/プロピレン、ガソリン、ジェット燃料その他の石油製品の需要がそれぞれ小幅に増加したことが前年同月比での増加幅の拡大に影響する格好となっている。なお、10月のその他の石油製品の需要は日量477万バレルと9月の当該需要(速報値)である同540万バレルからは減少しているものの2022年9月~2023年8月の当該需要(確定値)である日量373~467万バレルに比べても高水準であることから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正される可能性があるので注意が必要であろう。また、2023年10月の米国石油需要は、2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル)(確定値)を0.3%程度下回っている。
10月上旬から11月上旬にかけての米国における国内原油生産量は日量1,320万バレルで横這いであった一方、製油所における原油精製処理量はもたつき気味であった他、原油輸出入も概ね限られた範囲内で変動した(政策金利引き上げにより経済が減速した欧州において石油需要が抑制されたものと見られる他米国においても夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことにより石油需要が低下したことが一因となっているものと考えられる)。このようなことから、10月上旬から11月上旬にかけての同国の原油在庫は増加傾向を示した他、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年幅下限を割り込む量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2023年10月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、日本において一部の製油所で秋場のメンテナンス作業実施に伴う製油所の操業停止を控え原油在庫が削減されたと見られることから当該在庫は減少した。また、欧州においては、秋場の製油所のメンテナンス作業実施に伴う製油所の操業停止を控え原油在庫を削減する動きが発生したものの、製油所において一部装置の不具合が発生したことに伴う稼働停止が発生したことがかえって原油在庫を拡大させる方向で作用したと見られることから、同地域の原油在庫は横這いであった。しかしながら、米国では秋場の製油所メンテナンス作業が本格化したことにより原油精製処理量が減少した一方で同国原油生産が拡大したこともあり原油在庫は増加した。結果として、OECD諸国全体の原油在庫は増加となり、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、日本においては気温が総じて高く暖房用石油製品の需要が軟調であったこともあり灯油の在庫が積み上がったこと等から石油製品在庫は増加となった。また、欧州においては、製油所の稼働低下により石油製品製造活動が鈍化したことが地域の石油製品在庫を押し下げる方向で作用した一方、一連の政策金利引き上げにより地域経済が減速するとともに産業部門等における需要が抑制される格好となったことが石油製品在庫を押し上げる方向で作用した結果、当該在庫は横這いとなった。しかしながら、米国では、ガソリン、留出油、プロパン(気温の低下に伴い暖房用需要が発生したことが一因であるものと見られる)及びその他の石油製品(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあることによるものと見られる)を中心として在庫は減少した。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となったが平年幅上方付近に位置する量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する一方、石油製品在庫が平年幅上方付近に位置する量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2023年10月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.6日と9月末の推定在庫日数(61.3日)から増加している。
10月11日に1,200万バレル台前半程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、10月18日には1,300万バレル弱程度の量へと増加したものの、10月25日には1,100万バレル台前半程度の量へと減少した。11月1日には1,200万バレル台前半程度の水準に回復した後、11月8日には1,200万バレル台前半程度の量ではあったものの前週比で若干ながら減少した。ただ、11月15日には1,300万バレル台半ば程度の量へと増加しており、10月11日の水準を上回る状態となっている。10月までは秋場のメンテナンス作業実施時期に突入していたことから製油所での石油製品の製造活動が不活発であったこともあり、アジア消費国等においては国外等へのガソリンを含む軽質留分の輸出が抑制される一方国外等からの軽質留分の輸入が促進される格好となった。このため、シンガポールからの軽質留分輸出はそれなりに行なわれた一方シンガポールの軽質留分輸入はもたつき気味となったこともあり、10月中旬から下旬にかけてはシンガポールにおける軽質留分在庫は多少なりとも減少傾向を示したものと見られる。しかしながら、11月初頭前後以降になると、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期到来を控え秋場のメンテナンス作業を完了した製油所が稼働を上昇させるとともに軽質留分を含む石油製品の製造を活発化させたことから、同時期シンガポールにおける軽質留分輸入が拡大するとともに当該留分在庫が増加したものと考えられる。そして、10月4日にEIAにより発表された米国石油統計(9月29日の週分)における過去4週間平均同国ガソリン需要が日量834万バレルとこの時期としては1998年(10月2日までの過去4週間平均で同825万バレル)以来の低水準に到達した影響を引きずったことにより、米国におけるガソリン需給の緩和感が市場で意識されたことが世界的にガソリン価格に下方圧力を加えたこともあり、10月上旬から中旬にかけてはアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(従来ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っていた)は縮小傾向となったうえ、一時はガソリン価格がドバイ原油価格を下回る場面も見られた。しかしながら、その後10月下旬頃にかけては、シンガポールにおける軽質留分在庫減少によりガソリン需給の引き締まり感が市場で発生したことに加え、石油製品輸出枠(中国石油会社7社に対し2023年第3回の石油製品(低硫黄重油を除く)輸出枠1,200万トン(これとは別に低硫黄重油輸出枠300万トン)が付与されたと9月1日に伝えられた)の消化が進むとともに利用可能な輸出枠が低減しつつあったことにより、この先同国からのガソリン輸出が減少するのではないかとの観測が市場で発生したことが、アジア市場におけるガソリン相場に上方圧力を加えたこともあり、ガソリンとドバイ原油との価格差は拡大する傾向を示した。さらに11月初頭前後以降は、シンガポールにおける軽質留分在庫は増加し始めたものの、原油価格の下落にガソリン価格の下落が追い付かなかったうえ、インドにおいてディワリ(Diwali)の休日(11月12日)に伴う休暇期間(11月10~15日)を控え同国でガソリン等の燃料需要が盛り上がりつつあったことや夏場のドライブシーズン(12月半ば~1月末)が視野に入りつつある豪州においてガソリン需要拡大期待が市場で増大しつつあったことが、アジア市場のガソリン相場に上方圧力を加えたこともあり、11月中旬にかけ、ガソリンとドバイ原油との価格差はさらに拡大することとなっている。
他方、2023年に入り中国国内におけるナフサ分解装置(及びプロパン脱水素化装置(PDH))の稼働率が上昇しつつある(ナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入等した原油を精製することにより製造されているものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入が限定される格好となっている(2023年9月の同国のエチレン輸入量は約17万トンと直近のピーク時である2019年1月(約29万トン)の約6割程度の規模となっている)こともあり、(中国を除く)アジア地域における石油化学製品需給が軟調気味に推移しているうえ、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了に加え米国石油統計では9月末時点でのガソリン需要が低迷している旨示されたこともあり、ガソリン需要の不振感が市場で広がるとともにガソリンに混入するナフサの需要減退観測が市場で発生したことが、アジア市場におけるナフサ価格に下方圧力を加えた結果、10月上旬から下旬初頭頃にかけては、同市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、アジア各国等に加え中東地域における秋場のメンテナンス作業実施や装置の不具合発生等に伴う製油所における石油製品製造活動の不活発化がナフサ供給に影響を与えたと見られることが、ナフサ価格を下支えする格好となった他、ドバイ原油価格の下落にナフサ価格の下落が追い付かなかったこともあり、10月下旬初頭頃から11月中旬にかけては、アジア市場におけるナフサとドバイ原油と価格差は縮小する傾向を示している。
10月11日には900万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、10月18日には800万バレル台前半程度の量へと減少した。しかしながら、10月25日には800万バレル台半ば程度、11月1日には900万バレル台半ば程度、11月8日には1,000万バレル弱程度、11月15日には1,000万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと増加した結果、11月15日の在庫水準は10月11日を超過する状態となっている。秋場のメンテナンス作業実施に伴う欧州における製油所の稼働低下(但し少なくとも秋口においては軽油在庫の減少傾向もあり軽油製造利幅が拡大しつつあったことから製油所はメンテナンス作業規模を当初予定よりも縮小する傾向になったと指摘する向きもあった)により、軽油を初めとする石油製品の製造活動が不活発となったこともあり、ARA(アムステルダム、ロッテルダム及びアントワープの欧州大陸の石油精製産業の中心地域)における軽油在庫が減少傾向となるなど、同地域においてはむしろ軽油需給の引き締まり感が強まる状況であったことから、インド等のアジアや中東から欧州方面へと軽油が流出する反面、シンガポールに流入する軽油が抑制される格好となったことが、10月中旬にかけシンガポールにおける中間留分在庫を減少させる形で作用した。しかしながらその後は、温暖な気候の中物価上昇抑制のための金融当局による政策金利引き上げ継続により、欧州においては民生部門(暖房向け)や産業部門を中心に軽油需要が低迷しているとの観測が市場で発生したうえ、秋場の穀物等収穫シーズンが終了に接近するとともに穀物等収穫のために稼働させる農機具向けの軽油需要が減退しつつあった米国において、暖房向けの軽油の消費中心地である北東部の暖冬予報が明らかになったことから、暖房向けの軽油需要が盛り上がりに欠けたこと、欧米諸国等において秋場のメンテナンス作業後製油所が稼働を上昇させるとともに軽油を含む石油製品の製造活動を活発化させるものとの観測が市場で広がったことから、この先の軽油需給の緩和観測が市場で広がったこと等が、欧米諸国における軽油価格に下方圧力を加え始めた。この結果、欧州に向かう軽油の流れが鈍化する代わりに、アジアや中東において製造された軽油がシンガポールに向け流れ始めたことが、11月初頭前後以降のシンガポールにおける中間留分在庫増加の背景にあるものと考えられる。そして、中国において石油製品輸出枠の未使用部分が減少しつつあることにより、同国からの軽油輸出が減少するのではないかとの懸念が市場で発生したことが、アジア市場において軽油価格を下支えする形で作用したものの、欧米地域における軽油需給緩和観測に伴い軽油相場への下方圧力が増大したのみならず、シンガポールにおける中間留分在庫の増加に伴いアジア市場の軽油需給の緩和感が意識されるようになったことが、同市場における軽油相場に影響を及ぼした結果、例えばアジア市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。
10月11日に1,800万バレル弱程度の量であったシンガポールの重油在庫は、10月18日、25日及び11月1日には1,900万バレル台半ば程度の水準となった。ただ、11月8日には1,800万バレル台半ば程度、11月15日には1,700万バレル台半ば程度の、それぞれ量へと減少した。この結果、11月15日の在庫水準は10月11日を若干下回る状態となるなど、当該在庫増減は方向感のない展開となった。中東や南アジア諸国等における夏場の空調向けの電力供給のための発電部門の重油(高硫黄重油が中心であるとされる)需要が気温の低下とともに減少したことが、シンガポールへの重油流入を促進する、もしくはシンガポールからの重油流出を抑制する格好となったものの、秋場のメンテナンス作業実施に伴う製油所の稼働低下により重油製造が不活発化したことがシンガポールへの重油の流入を抑制する形で作用したことが、シンガポールにおける重油在庫増減に影響しているものと考えられる。そして、シンガポールの重油在庫が増加した10月中旬においては、需給緩和感が市場で醸成された結果アジア市場における重油価格に下方圧力を加えたことにより、同時期同市場の高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)はどちらかというと拡大する傾向を示した。しかしながら、その後はシンガポールの重油在庫が減少するとともに、ドバイ原油価格の下落に重油価格の下落が追い付かなかったこともあり、高硫黄重油とドバイ原油の価格差は若干ながら縮小する傾向を示した。他方、3基目の常圧蒸留装置(原油精製能力日量20.5万バレル)が稼働を開始した(7月6日に操業者であるKIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)発表)とされるクウェートのアル・ズール(Al-Zour)製油所(原油精製能力同61.5万バレル)については、数日中に同製油所での原油精製処理量が日量61.5万バレルの名目能力水準での稼働に到達する旨10月9日にKIPIが発表していたものの、その後もクウェートからの低硫黄重油の国外販売が拡大しているようには見受けられなかった(クウェートの既存のミナ・アルアマディ(Mina Al Ahmadi)製油所(原油精製処理能力日量46.6万バレル)及びミナ・アブドラ(Mina Abdullah)製油所(同27万バレル))において、どちらか、もしくは双方の脱硫装置に不具合が発生した一方、クウェート国内の電力供給を賄うための発電所や同国内の塩水淡水化装置において利用される重油について、環境規制に適合させるため低硫黄のものを出荷する必要があったことが影響している他、そもそもアル・ズール製油所の稼働が安定していないと示唆する向きもある)ことがアジア市場における低硫黄重油価格を下支えした一方、同時期ドバイ原油価格は下落傾向となったことから、10月中旬から11月中旬にかけての同市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油価格を上回っている)は拡大する傾向を示した。
2. 2023年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場等の状況
2023年10月中旬から11月中旬にかけての原油市場においては、10月中旬においては、イスラエルとハマスとの戦闘状態の激化による中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念の増大が原油相場に上方圧力を加えたことから、原油価格は10月19日には1バレル当たり89.37ドルと9月29日以来の高水準の終値に到達した。しかしながら、その後は、イスラエルとハマスの戦闘状態継続等が原油相場に上方圧力を加える場面が見られたものの、中東地域からの石油供給に支障が発生しなかったこと等もあり同地域における石油供給途絶に対する懸念が後退したことに加え、中国経済が減速しつつあることを示唆する経済指標類が発表されたこと、米国物価上昇抑制のために金融引き締め政策継続が必要である旨複数の同国金融当局関係者が示唆したこと、米国原油在庫が大幅に増加したこと等が、原油相場に下方圧力を加えたことから、原油価格(WTI)は11月16日には1バレル当たり72.90ドルと7月6日以来の低水準に到達した(図15参照)。
ベネズエラが2024年に実施する予定である大統領選挙につき国際的に監視された公正なものとすると同時に米国がベネズエラ石油産業に対する制裁を緩和する旨米国バイデン政権とベネズエラのマドゥロ政権が基本的に合意、10月17日のバルバドスでの会議開催時に米国政権幹部出席のもと合意書に調印する予定である旨10月16日にワシントン・ポストが報じたことにより、ベネズエラからの原油供給拡大期待が市場で発生したことから、10月16日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.03ドル下落し、終値は86.66ドルとなった。また、10月17日は、10月18日の米国バイデン大統領のイスラエル訪問を控えて市場が様子見となったことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり86.66ドルと前日終値比で横這いであった。ただ、イスラエルのガザ地区にある病院で10月17日夜(現地時間)に爆発があり、471人が死亡したことに対し、イスラエルのガザ地区を実質的に支配するイスラム武装勢力ハマスはイスラエル軍による空爆であると主張した他、10月18日に予定されていた米国バイデン大統領とヨルダンのアブドラ国王、エジプトのシシ大統領及びパレスチナ自治政府のアッバス議長との間での首脳会談が中止となる一方、イスラエルの石油禁輸をイランのアブドラヒアン外相がイスラム諸国に対し呼びかけた(但し直ちに対応する意向はない旨OPEC及び湾岸協力会議(GCC)関係筋は明らかにしている)旨10月18日に報じられるなど、イスラエル等を巡る混乱が拡大しつつあったこともあり、中東情勢不安定化と同地域からの石油供給途絶の可能性に対する懸念が市場で拡大したことに加え、10月18日に中国国家統計局から発表された2023年7~9月の同国国内総生産(GDP)が前年同期比4.9%の増加と市場の事前予想(同4.4~4.5%の増加)を上回った他、9月の同国小売売上高が前年同月比5.5%、鉱工業生産が同4.5%の、それぞれ増加と市場の事前予想(小売売上高同4.9%、鉱工業生産同4.3~4.4%の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したうえ、同日国家統計局から発表された9月の同国製油所の原油精製処理量が6,362万トン(推定日量1,552万バレル)と日量ベースでは史上最高水準に到達したこともあり、同国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で増大したこと、10月18日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された米国石油統計(10月13日の週分)で、原油在庫が前週比449万バレル、ガソリン在庫が同237万バレル、留出油在庫が同319万バレルの、それぞれ減少と市場の事前予想(原油在庫同30万バレル程度、ガソリン在庫同110万バレル程度、留出油在庫同140万バレル程度の、それぞれ減少)を上回って減少している旨判明した他、同国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比76万バレル減少の2,101万バレルと2014年10月31日(この時は2,082万バレル)以来の低水準に到達したことにより、米国原油先物契約受渡地点を含め同国の石油需給引き締まり感を市場が意識したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.66ドル上昇し、終値は88.32ドルとなった。また、10月19日も、間もなくイスラエルはガザ地区を内側から見ることになるであろう旨10月19日にイスラエルのガラント国防相がガザ地区の境界に配備されたイスラエル軍部隊に対し発言したことにより、イスラエルのガザ地区に対する地上攻撃の期日が接近しつつある旨示唆されたことにより、中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給の不安定化に対する懸念が市場で拡大したことに加え、10月19日夜(現地時間)にイラクに駐留する米軍基地が無人機及びミサイルで攻撃された旨同日ロイター通信が報じた他、シリアの米軍駐留基地に無人機2機が飛来したため米国側が迎撃した旨10月19日に米国政府関係者が明らかにしたことにより、イスラエルを巡る紛争に伴う中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶の可能性に対する懸念が増大したこと、米国金融政策を巡る意思決定に際しては慎重に対応する意向である旨10月19日に米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が明らかにしたことにより同国金融当局による政策金利引き上げペース鈍化期待が市場で増大したこともあり米ドルが下落したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり89.37ドルと前日終値比で1.05ドル上昇するとともに、この日の終値は9月29日(この日の終値は90.79ドル)以来の高水準に到達した。また、原油価格は10月18~19日の2日間で1バレル当たり合計2.71ドルの上昇となった。しかしながら、10月20日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したことに加え、カタールの仲介により、人質となっていた米国人母娘2人を人道的な理由で解放する旨10月20日にハマスが発表したことにより、イスラエルを含む中東情勢悪化と同地域からの石油供給途絶の可能性に対する悲観的な見方が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり88.75ドルと前日終値比で0.62ドル下落した(なお、この日を以てNYMEXの2023年11月渡し原油先物契約は取引を終了したが、12月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり88.08ドル(前日終値比同0.29ドルの下落)であった)。
また、10月23日においても、イスラエル軍によるガザ地区への地上攻撃が実施されていないこともあり、欧米諸国等による外交努力によりイスラエルがガザ地区への地上攻撃を巡る方針を再検討しているのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.26ドル下落し、終値は85.49ドルとなった。さらに、10月24日も、この日米国格付け会社S&Pグローバルから発表された9月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)(速報値)(50が景気拡大及び縮小の分岐点)が46.5と2020年11月(この時は45.3)以来の低水準となった他市場の事前予想(47.4)を下回ったことによりユーロが下落したうえ、同日S&Pグローバルから発表された米国総合PMI(速報値)が51.0と市場の事前予想(50.0)を上回ったこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり83.74ドルと前日終値比で1.75ドル下落した。この結果原油価格は10月20~24日の3取引日で1バレル当たり合計5.63ドルの下落となった。しかしながら、ガザ地区に対する地上攻撃を準備している旨10月25日にイスラエルのネタニヤフ首相が表明したことにより、中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念が市場で再燃したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり85.39ドルと前日終値比で1.65ドル上昇した。それでも、10月25日夕方(米国東部時間)に米国情報技術(IT)大手メタ・プラットフォームズの業績が発表された際、経済情勢を理由として2024年の収入見通しが不透明である旨同社が明らかにしたことから、業績に対する失望が投資家間で広がったことにより同社及び関連業種の株式価格が下落したうえ、10月26日に発表された米国の2023年7~9月期国内総生産(GDP)が前期比年率4.9%の増加と4~6月期の同2.1%増加から増加率が大幅に拡大した他、市場の事前予想(同4.5%の増加)を上回ったことにより、米国金融当局による金融引き締め政策継続観測が市場で強まったこともあり、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.18ドル下落し、終値は83.21ドルとなった。ただ、イラン革命防衛隊とその関連団体が使用しているシリア東部の2施設を10月26日に攻撃した旨米国国防省が明らかにしたと同日夜(米国東部時間)に伝えられたことにより、米国とイランとの対立の先鋭化により中東地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことに加え、ガザ地区への地上攻撃を拡大する旨10月27日にイスラエル軍が表明したことにより、中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念が市場で一層増大したことから、10月27日の原油価格の終値は1バレル当たり85.54ドルと前日終値比で2.33ドル上昇した。
しかしながら、10月29日に実施されたイスラエルのネタニヤフ首相との間での電話会談の際、米国のバイデン大統領がガザ地区においてイスラエルが人道支援を直ちに拡大することや民間人を保護することを要請したこともあり、イスラエルのガザ地区に対する地上攻撃が抑制されるとの観測が市場で広がったことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.23ドル下落し、終値は82.31ドルとなった。また、拘束されている外国人の人質を数日中に解放する意向である旨仲介者に伝えたとハマスの報道官が10月31日に発表したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことに加え、10月31日に中国国家統計局から発表された10月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が49.5と9月の50.2から低下した他市場の事前予想(50.2)を下回ったうえ、同月の同国非製造業PMIが50.6と9月の51.7から低下した他市場の事前予想(52.0)を下回ったことにより、同国経済減速に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生したこと、ナイジェリアやアンゴラの原油生産が増加したことが一因となり、10月のOPEC産油国原油生産量が前月比で日量18万バレル増加した旨10月31日にロイター通信が明らかにした他、8月の米国原油生産量が日量1,305万バレルと史上最高水準に到達した旨10月31日にEIAが明らかにしたことにより、世界石油需給緩和感を市場が意識したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり81.02ドルと前日終値比で1.29ドル下落した。さらに、11月1日には、イスラエルが攻撃を開始して以来初めてガザ地区から外国籍保有者等がエジプトに避難できるようになったことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.58ドル下落し、終値は80.44ドルとなった。この結果原油価格は10月30日~11月1日の3日間で1バレル当たり合計5.10ドル下落した。ただ、10月31日~11月1日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)開催後、不透明性やリスク等を考慮しつつ金融政策については慎重に検討する旨11月1日に同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が表明した流れを11月2日の市場が引き継いだうえ、11月2日に米国労働省から発表された2023年7~9月期の単位当り人件費が前期比で0.8%の下落と市場の事前予想(同0.3~0.7%の上昇)に反し下落していたこと、同じく同日米国労働省から発表された同国新規失業保険申請件数(10月28日の週分)が21.7万件と市場の事前予想(21.0万件)を上回ったこともあり、米国金融当局による政策金利引き上げ局面が終了に接近しつつあるとの認識が市場で広がったことにより、米ドルが下落するとともに米国株式相場が上昇したことに加え、レバノンの武装勢力ヒズボラに対しロシアの民間軍事会社ワグネルが防空システムを供与する可能性がある旨米国当局者が明らかにしたと11月2日にウォール・ストリート・ジャーナルが報じたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、11月2日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.02ドル上昇し、終値は82.46ドルとなった。それでも、レバノンとイスラエルとの間での戦線の可能性に対しあらゆる事態を想定して準備している旨レバノンの武装勢力ヒズボラの指導者ナスララ師が11月3日に表明したものの、直ちにイスラエルに対する戦闘を開始するとは明言しなかったことにより、イスラエルを中心とする中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で後退したことから、11月3日の原油価格の終値は1バレル当たり80.51ドルと前日終値比で1.95ドル下落した。
ただ、これまでの原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが11月6日の市場で発生したことに加え、7月1日より実施中のサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産、及び9月1日より実施しているロシアの日量30万バレルの原油及び石油製品の輸出削減を、ともに12月末まで実施する旨、それぞれ11月5日に両国政府が明らかにしたことにより、両国の石油需給引き締めに対する姿勢を市場が改めて意識したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり0.31ドル上昇し、終値は80.82ドルとなった。しかしながら、これまでの米ドルの下落が行き過ぎであるとの観測が市場で広がった他、米国の物価上昇率を目標の年率2%にまで低下させるための金融引き締め策は不足となるよりも過剰となった方が望ましい旨ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにしたと11月6日夕方(米国東部時間)に報じられたうえ、11月7日にもカシュカリ氏が米国の物価上昇率を2%に低下させる必要がある旨主張したこと、同日シカゴ連邦準備銀行のグールスビー総裁も物価上昇抑制が最も優先される課題である旨表明した他、同日同国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁も、米国の物価上昇率は高すぎるため金融引き締め策継続が必要である旨指摘、さらに同日FRBのボウマン理事も物価上昇抑制のためにはさらなる政策金利引き上げが必要となるであろうとの考えを明らかにしたにより、同国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり77.37ドルと前日終値比で3.45ドル下落した。さらに、11月7日午後4時半(米国東部時間)に米国石油協会(API)から発表された米国石油統計(11月3日の週分)で、原油在庫が前週比1,190万バレルの増加、ガソリン在庫が同40万バレルの減少、留出油在庫が同100万バレルの増加と、市場の事前予想(原油在庫同30万バレル程度、ガソリン在庫同80万バレル程度、留出油在庫同150万バレル程度の、それぞれ減少)に反し増加していた、もしくは事前予想ほど減少していなかった他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が前週比で110万バレルの増加となっていた旨判明したことにより、米国石油需給緩和感を市場が意識したことに加え、米国金融当局による金融引き締め政策継続を示唆する発言が相次いだこともあり、これまでの下落に対し米ドルを買い戻す動きが市場で継続したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり2.04ドル下落し終値は75.33ドルと、7月17日(この日の終値は同74.15ドル)以来の低水準に到達した。また、この結果原油価格は11月7~8日の2日間で1バレル当たり合計5.49ドル下落した。それでも、11月9日には、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことに加え、11月9日に米国労働省から発表された同国失業保険継続受給者数(11月4日の週分)が前週比2.2万人増加の183.4万人と2023年4月14日の週(この時は184.3万人)以来の高水準に到達した他市場の事前予想(182万人)を上回ったことにより、同国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で後退したこと、足元の石油需要は健全であり、最近の原油価格下落は投機家によるものである旨サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が発言したと11月9日に報じられたことにより、原油価格下落防衛のためにサウジアラビア等が減産強化等に向け行動するのではないかとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.74ドルと前日終値比で0.41ドル上昇した。また、11月10日も、これまでの原油価格の下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生した流れを引き継いだことに加え、これまでの米国長期債券金利の上昇に対する持ち高調整が発生したことにより同金利が一時低下したこともあり米国株式相場が上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.43ドル上昇し、終値は77.17ドルとなった。この結果原油価格は11月9~10日の2日間で1バレル当たり合計1.84ドル上昇した。
また、中国を含む世界石油需要の伸びの鈍化の可能性を巡る市場の観測にもかかわらず、石油市場は堅調であるとして2023年及び2024年の世界石油需要を上方修正した旨11月13日にOPECが月刊オイル・マーケット・レポートで示唆したことにより、世界石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.09ドル上昇し、終値は78.26ドルとなった。また、11月14日には、この日国際エネルギー機関(IEA)から発表されたオイル・マーケット・レポートで、IEAが米国や中国の堅調な需要を背景に2023年の世界石油需要見通しを上方修正した反面、米国、ブラジル及びガイアナの原油生産が堅調であるとして同年の非OPEC産油国石油供給も上方修正した結果、2023年第4四半期は従来ほど石油需給が引き締まらない旨示唆したことが原油相場に下方圧力を加えた反面、11月14日に米国労働省から発表された10月の同国消費者物価指数(CPI)が前年同月比で3.2%の上昇と9月の同3.7%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同3.3%の上昇)を下回ったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ局面が終了する結果米国が景気後退を免れるとの観測が市場で増大したこともあり、米国株式相場が上昇するとともに米ドルが下落したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり78.26ドルと前日終値比で横這いであった。しかしながら、11月15日には、この日EIAから発表された米国石油統計(11月3日及び10日の週分)で、11月3日時点の原油在庫が前週比で1,387万バレルの増加と市場の事前予想(同30万バレル程度の減少)に反し増加していた他、11月10日時点の同在庫が同359万バレルの増加と市場の事前予想(同180~200万バレル程度の増加)を上回る増加となっていたうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が11月3日時点で前週比159万バレル、11月10日時点で同193万バレル、それぞれ増加していた旨判明したことに加え、11月15日に米国商務省から発表された10月の同国小売売上高が前月比0.1%の減少と9月(同0.9%増加(改定値))から減少に転じたものの市場の事前予想(同0.3%減少)程減少していなかった旨判明した他、政策金利引き上げ政策の終了には慎重であるべきである旨米国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示唆したと11月15日にフィナンシャル・タイムスが報じたことにより、同国金融当局による政策金利引き上げ局面終了期待が市場で後退したことにより、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.60ドル下落し、終値は76.66ドルとなった。また、11月16日も、11月15日にEIAから発表された米国石油統計で、原油在庫が市場の事前予想に反し、もしくは市場の事前予想を上回って増加していたうえ、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が増加していた旨判明した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.90ドルと、7月6日(この日の終値は71.80ドル)以来の低水準に到達した他、前日終値比で3.76ドル下落した。そして、この結果原油価格は11月15~16日の2日間で1バレル当たり合計5.36ドルの下落となった。ただ、11月17日には、これまでの価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり75.89ドルと前日終値比で2.99ドル上昇した。
3. 原油市場における主な注目点等
10月7日以降イスラエルのガザ地区を実質的に支配するイスラム武装勢力ハマスとの間で戦闘状態となっているイスラエルは、10月25日夜(現地時間)にガザ地区への地上攻撃を事実上開始した。他方、10月17日以降イラク及びシリアにおける米軍駐留基地等が攻撃されるようになったことに対し、米軍はシリアにあるイラン関連施設を複数回にわたり空爆した。また、イエメンのフーシ派武装勢力(イランが支援しているとされる)が10月19日にイスラエルに向け紅海上空経由等で巡航ミサイルや無人機を発射した(米軍やサウジアラビア軍により迎撃されたとされる)他、その後もしばしばフーシ派武装勢力はミサイルや無人機をイスラエル方面に向け発射している(イスラエルによるガザ地区への地上攻撃が継続する限り攻撃を実施する旨10月31日にフーシ派武装勢力は表明している)。また、サウジアラビア南部のイエメンとの国境付近においてフーシ派武装勢力とサウジアラビア軍との間で衝突が発生しサウジアラビア軍兵士4人が犠牲になった旨10月30日に伝えられる。また、米国がイスラエルを支援するのであれば、米国に対する新たな戦線が発生する旨イランのアブドラヒアン外相が警告した旨10月27日に伝えられたうえ、イスラエルに対し食料や石油の輸出を禁止するよう11月1日にイランの最高指導者ハメネイ師がイスラム諸国に対し呼びかけた他、レバノンとイスラエルとの間での戦線に対しあらゆる可能性を想定して準備している旨11月3日にレバノンの武装勢力ヒズボラの指導者ナスララ師が表明した。そして、ヒズボラはイスラエルの軍事拠点等8箇所に対しにミサイルを発射した旨11月16日に明らかにする一方、イスラエルは応戦した旨同日伝えられた。
しかしながら、イスラエルとハマスとの間での戦闘が、イスラエル、米国及びサウジアラビアとイラン、ハマス及びヒズボラ等との間での対立の先鋭化と戦闘の大幅拡大に繋がっている訳では必ずしもなく、イスラエルの東地中海沖合に位置するタマル(Tamar)ガス田がイスラエルとハマスとの間での戦闘に伴い予防的に操業を停止したこともありイスラエルからエジプトへの天然ガス輸出が停止した(後述)ものの、中東における石油生産が大きく脅かされることもなく同地域からの石油供給に支障は発生していない。このようなことから、戦闘状態突入前の10月6日には1バレル当たり82.79ドルの終値であった原油価格は10月19日には1バレル当たり89.37ドルの終値と9月29日(この時の終値は同90.79ドル)以来の高水準にまで上昇したものの、その後原油価格は下落し始め、11月16日には原油価格は1バレル当たり72.90ドルの終値とイスラエルとハマスの戦闘状態突入の相当前の時点である7月6日(この時の終値は同71.80ドル)以来の低水準に到達した。
しかしながら、イスラエルとハマスとの間での戦闘状態は終結したわけではない。このため、イラン等と米国、そしてイスラエルに接近しつつあったサウジアラビア等との関係が悪化するとともに中東情勢がさらに悪化することに伴い同地域からの石油供給が脅かされるといった事例が発生しないとは限らない。例えば、サウジアラビア等が支援するハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で和平交渉開始に向けた模索が続いていたイエメンにおいて両者の対立が再び高まるとともに内戦状態が再開、フーシ派武装勢力がサウジアラビアに向けミサイルや無人機を発射、石油関連施設等を攻撃しようとするといった展開となることも否定できない。加えて、ペルシャ湾においてサウジアラビア等で産出される原油を積載するタンカー等への(イラン革命防衛隊関連組織等による)攻撃等が行なわれたりすると言った懸念が市場で増大する可能性もある。また、これまで(西側諸国等による制裁に伴うロシアからの石油供給制約の影響を緩和すべく)米国はイランに対し制裁の運用を事実上緩和する格好とすることで、イランの原油生産量は増加してきた(2022年9月の日量248万バレルから2023年9月には同314バレルへと日量70万バレル弱増産)が、ハマスの攻撃にイランの関与が疑われると言う流れに沿って米国が再び対イラン制裁の運用を強化することにより、イランの原油供給が削減されるとともに世界石油需給が引き締まるという不安感も市場で煽られやすくなっている(実際に、米国がイランに対する制裁を強化する結果、足元で日量100万バレルを超過するイランからの原油輸出は減少することになるであろう旨米国国務省のホクスタイン(Hochstein)エネルギー安全保障担当特別大統領調整官が明らかにしたと11月15日午後の遅い時間(米国東部時間)に報じられている)。これらの要因がこの先も原油相場を下支えしたり、原油相場に上方圧力を加えたりすることもありえよう。さらに、米国等とイランとの対立先鋭化により、イランがホルムズ海峡を封鎖する(2018年時点で原油及びコンデンセート日量1,730万バレル、石油製品同330万バレル、合計同2,070万バレルが通過する)結果、相当量の石油供給が途絶する恐れがあるとの懸念も発生しやすく、これも原油相場に影響しうるものと考えられる(カーグ島を含めイランの主力石油積出港がホルムズ海峡内のペルシャ湾岸地帯に位置することもあり、イランが同海峡を封鎖する確率は高くないとは認識されているが、実際封鎖された場合世界石油需要の20%程度が影響を受けるなどするため、市場では懸念が発生しやすい)。加えて、ハマスとイスラエル等により発射されたミサイルや無人機が飛来する可能性の高まっているガザ地区を含むイスラエルからそう遠くないところにスエズ運河が位置しており、中東方面と欧州方面との間で石油タンカー等が頻繁に往来していることから、そのようなミサイル等の飛来が同地域のタンカーの航行に影響を与える結果、世界石油供給が不安定になる可能性に対する懸念が発生することにより、原油相場にその影響が織り込まれやすくなっている。以上のような状況に加え、イスラエルとハマスの戦闘を巡っては関係者が複数存在することもあり、時として想定していない方向に事態が展開する結果、この先も中東からの石油供給等に影響が生じる、もしくは生じるとの懸念が市場で増大する可能性も排除し切れないことから、関連動向については注視し続けていく必要があろう。
他方、国際的な監視の下で2024年後半に公正な大統領選挙を実施することで、10月17日にベネズエラのマドゥロ政権と同政権に反対してきた野党勢力が合意したことを受け、米国バイデン政権がベネズエラ石油部門に対する制裁を緩和した(半年間にわたる同国石油・天然ガス部門における取引を許可する他同国国営石油会社PDVSAの株式や社債の取引の禁止を解除することが含まれる)旨10月18日午後遅く(米国東部時間)に米国財務省が発表した。このため、ベネズエラからの石油供給が拡大するとの期待が市場で広がったことから、原油相場に下方圧力が加わる場面が見られた。しかしながら、同国では、既にマドゥロ現政権の前のチャベス政権時代から石油産業に対する投資不足が発生していた(チャベス前大統領は貧困層からの支持を獲得するために石油収入の相当部分を社会対策に支出した)結果、2005年には日量279万バレルであった同国の原油生産量は2019年8月5日に米国のトランプ大統領(当時)による対ベネズエラ制裁の強化(米国人に対しPDVSAを含む同国政府との取引関与が禁止された他、非米国人であっても、同様の取引に関与した場合には米国政府により制裁を科せられる可能性があるとされる)直前である同年7月の時点で既に日量81万バレルへと減少していた。このように、同国では従来から石油産業に対する投資が不足していた他、2019年の米国による対ベネズエラ制裁の強化により同産業に対する投資が一層不足するとともに施設の老朽化が進んだ。このため、同国の石油生産を大幅に伸ばすには、老朽化した石油生産及び出荷関連施設を更新するとともに、油田等の保守作業を実施する、もしくは新規石油開発を推進する必要があり、多額の費用に加えそれなりの期間が必要となるものと考えられることから、短期的には同国の石油生産拡大規模は限られたものになると見られる(このようなこともあり、ベネズエラの原油生産は急激には拡大しないものと見ている旨10月19日にOPECプラス産油国関係者が明らかにしている)こともあり、この面では原油相場への影響も限定的なものとなるものと考えられる。むしろ、10月22日に野党側の大統領予備選挙が実施されマチャド(Machado)元国会議員が選出されたが、10月30日にベネズエラ最高裁判所(マドゥロ大統領に近いとされる)が、この予備選挙で不正行為があったとしたうえで、結果の効力を停止する旨発表したことから、米国はベネズエラに対する制裁を強化する構えを見せている。このため、今後のベネズエラを巡る政治情勢次第では、再び米国による制裁が強化されること等により、ベネズエラの石油生産増加期待が市場で後退する結果、原油相場に上方圧力を加える場面が見られる可能性もある。
経済面では、まず、米国の金融政策が挙げられる。10月31日~11月1日に開催されたFOMCにおいては政策金利の据え置きが決定されたものの、不透明性やリスク等を考慮しつつ金融政策について慎重に検討する旨11月1日のFOMC開催後の記者会見において同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が表明したことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ局面が終了に接近しつつあるとの認識が市場で広がった。しかしながら、米国の物価上昇率を目標の年率2%にまで低下させるため、金融引き締め策は過小となるよりも過大となった方が望ましい旨ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁が明らかにしたと11月6日夕方(米国東部時間)に報じられたうえ、11月7日にもカシュカリ総裁は米国の物価上昇率を2%に低下させる必要がある旨主張した。また、同日シカゴ連邦準備銀行のグールスビー総裁も物価上昇抑制が最も優先される課題である旨表明した他、同日同国ダラス連邦準備銀行のローガン総裁も米国の物価上昇率は高すぎるため金融引き締め策継続が必要である旨指摘、そして同日ボウマンFRB理事も物価上昇抑制のためにはさらなる政策金利引き上げが必要となるであろうとの考えを明らかにした。さらに、パウエルFRB議長が、適切な場合には政策金利を躊躇なく引き上げる意向である他、米国金融政策が経済に対し十分に制約的であるとは確信が持てないうえ、この先も物価安定までには相当程度の期間を必要とすると認識している旨11月9日午後半ば頃(米国東部時間)に明らかになったことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ継続観測が市場で強まった。11月10日には、米国はさらなる政策金利の引き上げを行なわなくても物価上昇目標の達成が可能であるが、それには時間を要する旨米国アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした一方、政策金利が同国経済を抑制するのに十分かどう確信が持てない旨同日同国サンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁が示唆した。また、11月10日にミシガン大学から発表された1年先物価上昇率予想が年率4.4%と2023年4月(この時は同4.7%)以来の、5~10年先物価上昇率予想が同3.2%と2011年3月(この時は同3.2%)以来の、それぞれ高水準に到達した。一方、11月14日に米国労働省から発表された10月の同国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.2%の上昇と9月の同3.7%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同3.3%の上昇)を下回った。また、11月15日に同国労働省から発表された10月の同国生産者物価指数(PPI)は前年同月比で1.3%の上昇と9月の同2.2%の上昇から伸びが鈍化した他市場の事前予想(同1.9%の上昇)も下回った。それでも、11月14日(CPI発表後)には米国リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が、物価上昇率が目標の2%達成に向け順調に低下しているかどうか確信を持てない旨明らかにした他、同国シカゴ連邦準備銀行のグールスビー総裁も2%の物価上昇率目標達成までには時間を要する旨示唆した。また、米国の物価上昇率は鈍化しつつあるものの年率2%の物価上昇目標に完全に到達するまでには時間を要する旨11月16日に同国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が明らかにした。さらに、11月17日にもサンフランシスコ連邦準備銀行のデーリー総裁及びボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が、物価上昇率を年率2%の目標に回帰させるため辛抱強く待つ必要がある旨示唆した他、シカゴ連邦準備銀行のグールスビー総裁が物価上昇率目標達成のために必要とされるあらゆる方策を実施する必要がある旨明らかにしている。このように、一時は米国政策金利の引き上げは終了間近との認識が市場で広がったことが、原油相場に上方圧力を加えたものの、その後は米国金融当局関係者による発言等が、政策金利引き下げまでにはなお相当程度の期間を要するのみならず、さらなる政策金利引き上げの可能性も否定されない旨示唆したことから、米国の経済がさらに減速する結果石油需要の伸びが鈍化するとの観測が市場で広がったことにより、原油相場に下方圧力が加わることとなった。今後も当面は政策金利引き上げもしくは高水準の政策金利の維持に対する観測が市場で発生しやすく、この面で原油相場の上昇が抑制されやすい状況となるものと見られる(12月12~13日に開催される予定である次回FOMCにおいては政策金利が据え置きとなる確率が11月18日現在100%となっている)。そのような中で、CPIを含む米国経済指標類の結果等や同国金融当局関係者による発言によって原油相場がその影響を受ける場面が見られることがありうる。
次に中国の経済情勢が挙げられる。10月18日に中国国家統計局から発表された2023年7~9月の同国国内総生産(GDP)は前年同月比4.9%の増加と市場の事前予想(同4.4~4.5%の増加)を上回った他、9月の同国小売売上高が同5.5%、鉱工業生産が同4.5%の、それぞれ増加と市場の事前予想(小売売上高同4.9%、鉱工業生産同4.3~4.4%の、それぞれ増加)を上回って増加している旨判明したうえ、同日国家統計局から発表された9月の同国製油所の原油精製処理量が6,362万トン(推定日量1,552万バレル)と日量ベースでは史上最高水準に到達した。また、10月27日に中国国家統計局から発表された9月の同国工業企業利益が前年同月比で11.9%の増加と8月に続き前年同月比で増加を示している旨判明したこともあり、同国経済回復と石油需要の伸びの加速への期待が市場で増大した。しかしながら、10月31日に中国国家統計局から発表された10月の同国製造業PMIは49.5と9月の50.2から低下した他市場の事前予想(50.2)を下回ったうえ、同月の同国非製造業PMIが50.6と9月の51.7から低下した他市場の事前予想(52.0)を下回った。また、11月1日に中国独立系報道機関財新伝媒及び米国格付け会社S&Pグローバルから発表された10月の同国製造業PMIは49.5と9月の50.6から低下した他、市場の事前予想(50.8)を下回った。加えて、11月3日に財新伝媒及びS&Pグローバルから発表された10月の同国非製造業PMIが50.4と9月の50.2からは上昇したものの市場の事前予想(51.0)を下回った。ただ、11月7日に中国国家統計局から発表された10月の同国輸入(米ドル建)は前年同月比で3.0%の増加と市場の事前予想(同4.8~5.0%の減少)に反し増加していた一方、同月の同国輸出(同)が同6.4%の減少と市場の事前予想(同3.3~3.5%の減少)を上回って減少している旨判明するなど、まちまちな内容となった。さらに、11月9日に中国国家統計局から発表された10月の同国CPIは前年同月比で0.2%の下落と9月(同横這い)から下振れした他市場の事前予想(同0.1%の下落)を上回ったうえ、同国PPIも前年同月比で2.6%の下落と13ヶ月連続前年同月比で下落となった。ただ、11月15日に中国国家統計局から発表された10月の同国鉱工業生産は、前年同月比で4.6%増加と9月の同4.5%の増加から増加率が拡大、2023年4月(この時は同5.6%増加)以来の高い伸び率となった他市場の事前予想(同4.4%増加)を上回ったうえ、小売売上高も同7.6%の増加と9月の同5.5%の増加から増加率が拡大した他市場の事前予想(同7.0%増加)を上回った。しかしながら、同時に発表された10月の同国原油精製処理量は6,392万トン(推定日量1,509万バレル)と日量ベースでは9月から減少している旨判明したことにより、同国石油需要の伸びの鈍化を巡る懸念が市場で発生した(同国の産業部門での需要が低迷していることにより石油製品製造利幅が圧迫されていることが背景にある旨示唆されている)。このように、同国経済指標類は同国経済が加速しつつあることを示唆する内容と減速しつつあることを示唆する内容が混在する格好となっているなど、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な規制が緩和された後の同国の経済回復状況は不安定である。もっとも、中国政府が1兆元(約1,370億ドル、約20.5兆円)規模の国債発行を含め国内総生産(GDP)の3.8%にまで2023年の財政赤字を認める(従来は3.0%)方針である旨10月24日に同国国営新華社通信が報じるなど、同国政府による大規模景気刺激策実施への期待も高まりやすい状況になっており、今後このような施策実施を通じた同国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速への期待が市場で広がることにより、原油価格が上昇すると言った展開となることも否定できないため、この先の同国経済指標類の内容(あるいは不振となっている同国不動産業界の動向)に加え、中国政府等による大型景気刺激策検討や実施に向けた動き等を含めた同国経済情勢に注目していく必要があろう。
米国では、冬場の暖房シーズンに突入し(暖房シーズンは通常11月1日~翌年3月31日である)、製油所の稼働が上昇するとともに原油精製処理量が増加、その結果原油購入が活発化するとともに季節的な石油需給の引き締まり感が市場で増大する方向に向かうことにより、原油相場が下支えされやすくなるものと思われる。その際市場が考慮するのは足元の気温(特に米国の暖房用石油製品需要の中心地である北東部の気温)及び気温予報である。例えば、足元の気温が大幅に低下する、もしくは今後3ヶ月間の気温が平年を下回る寒冷なものとなる旨の予報が発表される(なお、現時点における2023年12月~2024年2月の3ヶ月予報では米国北東部では平年を上回る気温となることが予想されている)ということになれば、暖房用石油製品需要が盛り上がるとの認識が市場で強まることにより、軽油及び暖房油等の価格が上昇、それに原油価格が引きずられる、といった展開となることもありうる。
さらに、12月末にかけ、米国メキシコ湾岸の主要製油所に通じるヒューストン運河(Houston Ship Channel)周辺地域等における濃霧発生の影響で原油輸送タンカーの航行にしばしば支障が生じることに伴い当該地域に点在する製油所での原油在庫の積み上げに影響が及ぶことにより、結果として原油相場が変動することがありうる。また、年末の課税対策から精製業者等が原油在庫等を相当程度減少させる可能性がある(米国のテキサス州やルイジアナ州では年末の石油在庫評価額に対し固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるため精製業者等が必要以上の在庫保有を敬遠することに伴い在庫が減少に向かいやすくなるとされる)。このようなことから、年末にかけて発表される米国石油統計で同国メキシコ湾岸地域での原油在庫等が相当程度減少する傾向を示す場面が見られることにより、これが市場で石油需給の引き締まりの兆候と受け取られ、原油相場に上方圧力が加わる、といった展開となることも予想される。ただ、このような在庫減少が見られた場合、1月以降は製油所等での原油等の受け入れが再開されることから、反動で相当程度原油在庫等が増加する可能性もあり、これにより原油相場が押し下げられる場面が見られることもありうる。
OPECプラス産油国は11月26日に閣僚級会合を開催する予定である。現時点では2023年第4四半期は世界石油供給が世界石油需要を日量75万バレル程度下回る(つまり供給不足となる)ものと見込まれる(表1参照)ものの、7月1日より実施中のサウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産が2023年12月末を以て終了した場合、2024年は通年で供給が需要を日量101万バレル上回る(つまり供給過剰となる)ものと予想される(表2参照)。また、現時点においても、WTI、ブレント及びドバイの各原油価格は1バレル当たり80ドル前後かそれ以下となっており、サウジアラビアの財政収支均衡価格である1バレル当たり85.8ドル(IMFによる)を相当程度下回っているが、OPECプラス産油国が何も減産強化等の対策を実施しなければ、2024年に向け原油価格はさらに下落する結果、サウジアラビアの財政収支均衡価格から実際の原油価格がさらに乖離するとともに、同国の財政収入の確保がより困難になる恐れがある。このため、原油価格の下落を防止する(そして原油価格を反発させる)ため、閣僚級会合等においてはサウジアラビアを含むOPECプラス産油国は減産強化を検討する可能性があるものと考えられる。特に2024年前半は日量160~170万バレル程度供給が需要を上回るものと見られることから、例えばサウジアラビアが現在2023年末まで実施する予定である日量100万バレルの自主的な追加減産を2024年前半まで延長したとしても、なお供給過剰感が払拭できない状態となる。このため、石油需給引き締まり感を市場で醸成すべく少なくとも2024年前半においてはさらに日量100万バレル程度減産を追加する必要に迫られることになろう。なお、減産に参加する相当数のOPECプラス産油国は原油生産目標を相当程度下回っている側面があることにより、公式原油生産目標を引き下げても(つまり公式減産の規模を拡大しても)実質的な減産効果はそれを相当程度下回ることが予想され、従って市場関係者間における石油需給引き締まり感誘発効果は数字上の減産規模程には得られない恐れがある。このため、減産に参加する全OPECプラス産油国による公式減産措置の強化ではなく、一部のOPECプラス産油国による自主的な追加減産の拡大と言った形で減産を強化する、といった方法が採用される可能性もある。但し、米国がサウジアラビアの防衛体制強化を支援する(また、サウジアラビアがイスラエルとの間での外交関係を改善させる)一方、原油価格が高騰した場合にはサウジアラビアは2024年初頭に原油生産を拡大する(ただ、原油価格がどの水準にまで上昇した場合に原油供給を引き上げるか等の諸条件は明らかになっていない)方向で協議がなされていた旨10月6日にウォール・ストリート・ジャーナルが示唆していた。10月7日以降のイスラエルとハマスとの間での戦闘実施により、当該協議は事実上凍結状態となっているものと考えられるが、以前と比べ米国とサウジアラビアとの関係が接近しつつあるものと見受けられる他、2024年11月5日には米国大統領選挙の投票が予定されることもあり、バイデン大統領は自身の支持を低下させるような国内ガソリン小売価格の上昇を回避させるべく、サウジアラビアと原油生産方針につき協議する結果、サウジアラビアも米国の意向を部分的であれ受け入れることにより、減産強化規模を一部圧縮する可能性も否定できない。このように、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合を巡る情勢はこれまでの会合に比べ複雑となっていることから、当該会合前後のサウジアラビアを初めとするOPECプラス産油国等の動向については注目する必要があろう。
全体としては、米国で冬場の暖房シーズンに突入したことにより、暖房用石油製品製造のために製油所での原油精製処理量が増加するとともに原油購入が活発化することで、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるとともに、原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。他方、米国金融当局による政策金利引き上げ、もしくは相当程度の期間に渡る維持への観測が強まりやすく、また、中国においては、経済回復過程が不安定であることから、この面で原油相場の上昇が抑制される可能性があるが、これについては、米国金融当局関係者による発言や中国政府等による大型景気刺激策に関する動き、そして米国及び中国の経済指標類の内容等に原油価格が左右される側面もあるものと考えられる。さらに11月26日に開催される予定であるOPECプラス産油国閣僚級会合において減産の強化が決定される可能性もあり、同会合における原油生産方針を巡る決定事項やその前後の動向等も原油相場に影響を与えるものと考えられる。加えて、イスラエル等の中東情勢については、市場関係者による中東地域からの石油供給途絶懸念は後退しつつあるが、今後戦闘が激化したり、関係国間の対立が先鋭化したりするようであれば、再び石油供給途絶懸念が増大することにより原油相場に上方圧力を加えると言った展開となることも否定できないので注意する必要があろう。
4. 世界天然ガス市場動向
米国では、2023年8~9月の天然ガス先物価格(月間平均値)が前年同月を65~70%程度下回るなどした(図16参照)こともあり、同部門での天然ガス小売価格も下落したことから、同期間の部門の民生用天然ガス需要が喚起される格好となったことにより、この期間の同部門の天然ガス需要は前年同月比で1.8~3.8%程度の増加を示した(図17参照)。ただ、2023年10月においても同国では天然ガス先物価格(同)が前年同月を48%程度下回ったものの、同月の気温は前年同月に比べ温暖であった(図18参照)ことが暖房向け天然ガス需要を抑制する形で作用したことから、この月の同国民生部門における天然ガス需要は前年同月を0.4%下回ることとなった。他方、2023年8~10月の同国鉱工業生産は前年同月比で0.7%程度の減少~0.1%程度の増加と必ずしも好調ではなかったものの、この時期の同部門における天然ガス販売価格が前年同月比で相当程度下落していたこともあり、同期間の産業部門における天然ガス需要も前年同月比0.5~1.6%程度増加した。また、同国では老朽化した石炭火力発電に代わり天然ガス火力発電が建設されるとともに稼働しつつあったことから、2023年8~9月の発電部門における天然ガス需要は前年同月を5.5~6.3%程度上回ったものの、同年10月においては、風力及び太陽光発電が比較的好調であったこと(図19参照)が、天然ガス火力発電量を抑制する格好となった結果、発電部門での天然ガス需要は前年比で1.3%程度の増加にとどまった。このように同国においては民生部門の天然ガス需要が前年を割り込む場面が見られたものの、産業部門や発電部門における天然ガス需要が保持されていたことにより相殺されて余りあったことから、この時期同国の天然ガス需要は前年同月比で増加することとなった。もっとも、9~10月にかけては気温が低下傾向となったことに伴い夏場の空調向けの電力需要が減少に向かったこともあり、8月の同国発電部門の天然ガス需要は前月とほぼ同水準となった反面、9~10月は前月比で減少した。それに伴い同国の天然ガス需要も8月は前月比で同水準であったものの、9~10月は前月比で減少となった。
また、米国からの天然ガスパイプラインが整備されつつあるメキシコでは、夏場の気温上昇に伴い発電部門での天然ガス消費が盛り上がったこともあり、米国からの天然ガス輸出も増加傾向となった(図20参照)が、9月以降は徐々にではあるが気温が低下してきたこともあり、空調向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要が減少傾向となったことから、米国からメキシコへの天然ガス輸出も減少し始めた。さらに、2022年8~10月は米国ではフリーポートにある天然ガス液化施設(天然ガス液化能力年間1,500万トン(日量約20億立方フィート))が全面的に停止中であったものの、2023年8~10月の時点では操業が完全に回復していたこともあり、同国からのLNG輸出(一部推定)は前年同月の水準を概ね日量16~24億立方フィート(同14~23%)程度上回る状態となった(図21参照)。
他方、2022年後半以降原油価格が沈静化してきたこともあり、米国ではシェールオイル開発・生産活動が鈍化した他、2023年に入ると同国の天然ガス価格も前年同期を相当程度下回る状態となったこともあり、同国ではシェールオイル等の生産に伴い随伴で生産される天然ガスを含め天然ガス生産が鈍化してきた(図22参照)。
このようなことから、特に8~9月にかけては、メキシコ向けのパイプライン経由の天然ガス輸出及びLNGによる輸出が堅調であったことが、米国の天然ガス需給を引き締める方向で作用したこともあり、8月4日には平年(過去5年平均)水準を11.2%上回っていた同国の天然ガス在庫は10月6日には上回る率が4.8%へと低下した(図23参照)。しかしながら、それ以降は発電向け天然ガス需要が減少したこともあり、天然ガス需給が相対的に緩和した結果、11月10日の同国天然ガス在庫は平年水準を5.6%上回るなど、平年水準を上回る率が概して拡大する傾向となった(ただ、平年を下回る気温の到来に伴い暖房向けの民生部門、及び暖房のための空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門での天然ガス需要が増加したものと見られることから、11月3日の同国天然ガス在庫は前週比で60億立方フィートの減少となり、2023~24年の冬場において初めての在庫引き出しを記録した他、11月3日の同国天然ガス在庫の平年水準を上回る率が4.5%にまで急低下する場面も見られた(因みに前週(10月27日)の当該在庫は平年水準を5.7%上回っていた)。そして、8月から9月にかけては、天然ガス需給の引き締まり感の相対的な強まりが天然ガス価格を下支えした一方、冷房のための空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要が夏の終わりとともに減退するとの観測が市場で発生したことが天然ガス価格の上昇を抑制する形で作用したことから、この時期天然ガスは概ね100万Btu当たり2.50~3.00ドルを中心とする範囲で方向感のない展開となった。しかしながら、10月に入ると気温が低下するとの予報が発表されたり、実際に気温が低下したりしたことにより、暖房のため民生部門や発電部門等での天然ガス需要が拡大するとの観測が市場で増大したことが、同国天然ガス相場に上方圧力を加えたことから、10月から11月中旬にかけての米国天然ガス価格は概ね100万Btu当たり2.80~3.60ドルと、8~9月に比べ天然ガス変動領域を切り上げることとなった。
欧州では、ウクライナへの事実上の侵攻を実施するロシアから欧州へのパイプライン経由の天然ガス輸出が低迷したままとなった(図24参照)こともあり、冬場の暖房シーズン到来に伴う天然ガス需要期に向け早期から米国等からのLNGを中心として積極的な天然ガス輸入と貯蔵に励んだ(11月1日までに域内の天然ガス貯蔵を90%充填することをEU加盟国間の目標としていた(2022年6月27日EU欧州委員会(EC)が承認))(図25参照)。一方、欧州を含む北半球では夏場が峠を越えるととともに気温が低下傾向となった(図26参照)ことに伴い冷房のための空調機器稼働に向けた発電部門における天然ガス需要が減退した他、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻等が一因となり2022年8月26日にオランダTTF先物価格が100万Btu当たり100ドル近くに到達するなど天然ガス価格が高騰したこともあり、欧州においては肥料や石油化学産業等において採算性が悪化した他、その後も物価上昇抑制のため欧州金融当局が政策金利の引き上げを継続した結果地域経済が減速したこともあり、産業部門を中心として天然ガス需要が低迷したこと、さらには2022年の域内天然ガス価格高騰の際に消費者において電力及び天然ガスの節約行動が定着したこと、欧州の秋場の気候が概して温暖であったことや風力が強い場面が見られた(11月初頭前後には発達中の低気圧「キアラン(Ciaran)」が英国等を通過した結果、一部地域の風力発電が好調になったとされる)等により、民生部門及び発電部門においても天然ガス消費が抑制される格好となった(図27参照)。このため、11月1日までに天然ガス貯蔵率90%を達成するとのEU加盟国の目標を8月16日には達成した他、その後も貯蔵が進んだことにより、11月5日には域内の貯蔵充填率が99.6%程度とほぼ満杯な状況となった(なお、EU天然ガス在庫は11月7日に2023~24年の冬場としては初めて在庫の取り崩しが発生している)。
このように、欧州の天然ガス需給は引き締まり気味という訳ではなかったため、この面では欧州の天然ガス相場には下方圧力が加わることとなった。しかしながら、豪州にある主要天然ガス液化施設であるゴーゴン(Gorgon、天然ガス液化能力年産1,560万トン)、ウィートストーン(Wheatstone、同890万トン)及びノース・ウェスト・シェルフ(NWS: North West Shelf、同1,630万トン)の関連施設の操業に従事する大手国際石油会社シェブロン(Chevron)(ゴーゴン及びウィートストーン)及び豪州大手石油会社ウッドサイド(Woodside)(NWS)の労働者が8月9日にストライキの実施方針を決議した(会社経営陣との間での労働条件に関する協議が決裂した場合、労働者は翌週以降7日前の通知で以て施設の操業を停止するとした)。ウッドサイド経営陣と労働組合は8月23日にストライキ回避で事実上合意したが、シェブロン経営陣と労働組合との協議は9月8日午前(豪州パース時間)に事実上決裂した結果、同日午後1時(同)にゴーゴン及びウィートストーンの各LNG関連施設においてストライキが開始された。当初ストライキは残業実施の拒否等部分的なものにとどまるとされたが、9月16日には24時間のストライキを実施する旨労働組合が表明した。労働組合による労働条件に関する要求は労働市場の標準を上回るものであると主張するシェブロンは9月11日に豪州公正労働委員会(FWC: Fair Work Commission)に対し労使間での裁定を行なうよう要請、委員会は9月22日に意見聴取を行なう旨9月12日に明らかにした。そして、9月22日には労働組合がFWCの示した調停案を受け入れるとともにストライキを中止する旨発表した(シェブロン側は9月21日に既にFWCの調停案を受け入れる旨明らかにしていた)。しかしながら、調停案に対し労働組合員の間で不満が高まったことから、10月5~6日において同組合はストライキの再開を決定、10月9日には10月19日よりストライキを実施する旨表明するなどしたことにより、FWCの仲介によりシェブロンとの間での協議を実施した結果、10月18日に労働組合はストライキの中止を決定した。このように、豪州の液化天然ガス生産関連施設における労働組合によるストライキの動きは終結した他、シェブロンの液化天然ガス生産関連施設におけるストライキ実施中も非組合員等が対応した結果操業には殆ど影響が見られなかった(9月14日にはウィートストーン天然ガス液化施設において装置不具合が発生した結果LNG生産能力の約5分の1に当たる生産が停止したが9月18日には能力通りの操業に回復した)。それでも、労働組合によるストライキ実施に伴い豪州からの相当量のLNG供給が削減されるとの懸念が市場で発生したり増大したりしたことが、既にロシアからのパイプライン経由での天然ガス供給が事実上削減されていることによりLNGへの依存を強めていた欧州のLNGを含む天然ガス価格が上昇する場面が見られた(フランスにおいて年金受給開始年齢を従来の62歳から64歳に引き上げることに抗議し2023年3月6日より同国各地でストライキが実施された結果4月にかけての時期を中心としてLNG受入基地や製油所等の操業が停止するなどしたことにより同国経済等が混乱した経験もあり、欧州ではストライキ実施によるエネルギー供給への影響に対し神経質になっていたことが背景にあると見る向きもある)。
また、当初8月26日から9月7日にかけ定期メンテナンス作業を実施していたノルウェーのトロル(Troll)ガス田の操業の一部停止の期間が延長を繰り返した(一連の作業が少なくとも一旦は終了したのは10月22日であった)他、同国の他のガス田等においてもメンテナンス期間が延長されたり、予期せぬ理由により操業を停止したりしたことにより、同国からの天然ガス供給に対し市場が不安視したことが、欧州での天然ガス相場に上方圧力を加える格好となった。
さらに、バルチックコネクター(Balticconnector)パイプライン(フィンランド~エストニアに敷設されている海底パイプライン、天然ガス輸送能力日量2.5億立方フィート)において異常な圧力低下が発生したことにより10月8日未明(現地時間)に操業を停止し点検を実施した結果、同パイプラインが破損しており、これが破壊行為によるものである可能性がある旨10月10日にフィンランドのオルポ首相が明らかにしたことから、欧州における他のパイプラインにおいても破壊行為により天然ガス供給に支障が発生するかもしれないとの懸念が市場で広がったことから、欧州天然ガス価格が上振れした(しかしながら、その後同海域を通過した中国のコンテナ船の錨がパイプライン破損の原因である可能性があると10月24日にフィンランド捜査当局が明らかにした(但し同時に断定には時期尚早である旨伝えられる)ことから、意図的な破壊行為によるパイプライン破損の可能性は低下したとの認識が市場で広がったことが、欧州天然ガス価格に下方圧力を加えることとなった)。
また、10月7日にイスラエル南部のガザにあるパレスチナ自治区を実質的に支配するイスラム武装勢力ハマスがイスラエルに対し大規模な攻撃を実施、イスラエルとの間で戦闘状態となったことに伴い、イスラエルの東地中海沖合にあるタマルガス田(天然ガス及びコンデンセート生産能力日量11億立方フィート(天然ガス換算)とされる)の操業が安全上の予防的措置により停止したと10月9日にイスラエルのエネルギー省が発表した。また、この影響によりエジプトのイスラエルからのパイプライン経由による天然ガス輸入(従来日量8億立方フィート)が停止した旨エジプト内閣が明らかにしたと10月30日に報じられた。エジプトが輸入したイスラエル産天然ガスは一部が国内で消費される一方、一部は液化されて欧州方面等に輸出される。このため、エジプトから欧州方面向けのLNG供給に影響が及ぶとの観測が市場で発生した結果、欧州の天然ガス価格が上昇する場面が見られた。
加えて、冬場の暖房シーズンに伴う暖房向け天然ガス需要期到来を控え、季節的な天然ガス需給の引き締まり感を市場が意識した(さらに、2023~24年の冬場の気温が平年を大幅に下回るような厳しいものとなるようであれば、急速に域内の天然ガス在庫が減少する可能性があることを市場が懸念した)ことが欧州天然ガス価格に上方圧力を加えた。
このような要因により、8月11日には100万Btu当たり推定11.327ドルの終値であったオランダTTF先物価格は概して上昇傾向となり、イスラエルとハマスとの戦闘が開始された後の10月13日(イスラエルのガザ地区北部の住民に対し24時間以内に退避するようこの日イスラエル軍が勧告したことにより、近いうちにガザ地区においてイスラエル軍が地上戦を開始することに伴う中東情勢の一層の不安定化と同地域からのエネルギー供給途絶への懸念が市場で増大した)には同16.627ドルの終値と2023年2月10日(この日の終値は同16.882ドル)以来の高値の終値に到達した。しかしながら、その後は欧州の天然ガス貯蔵がほぼ満杯であったことや、ノルウェー等の天然ガス供給が順調に推移するようになったこと、イスラエルとハマスとの戦闘は継続したもののさらなる大規模な天然ガス供給途絶が見られなかったこと(なお、11月13日にシェブロンはタマルガス田の操業を再開した旨明らかにしている)、域内の気温が総じて温暖であったことや温暖になるとの予報が発表されたことにより暖房向けの天然ガス需要が抑制されたことや抑制されるとの観測が市場で増大したこと、渇水状態となったパナマ運河における船舶の通航に支障が発生しつつあること(後述)から、太平洋方面の代わりに欧州方面にLNGタンカーが向かい始めたことにより、欧州におけるLNG供給拡大と需給緩和に対する観測が市場で発生したことが、欧州天然ガスに下方圧力を加えた結果、11月17日時点のオランダTTF先物価格は100万Btu当たり推定14.415ドルとなるなど、むしろ下落傾向となっている。
アジア地域においては、猛暑が10月初頭頃まで継続した(図28参照)ことにより、冷房のための空調機器稼働向けの電力供給のための発電部門における天然ガス需要が旺盛だったとされる日本においては大手電力会社が保有する天然ガス在庫が9月24日時点では156万トンと過去5年平均(9月末時点で206万トン)を24%程度下回る水準にまで減少する場面が見られた。しかしながら、その後は気温が低下するとともに発電部門における天然ガス需要が減退し始めた他、金利上昇に伴い企業の投資意欲が減退していると見られることにより鉱工業生産がもたつき気味となっていることや2022年以降価格が上昇したこともあり天然ガス利用節約の動きが広がったことが一因となって産業部門や民生部門の天然ガス需要が抑制される格好となったこと、西日本を中心として太陽光発電や原子力発電が稼働した(9月15日には関西電力の高浜原子力発電所2号機(発電能力82.6万kW)が操業を再開した)一方、東日本では相対的に安価であった卸電力市場での電力調達が行なわれたことが、天然ガス火力発電向けのLNG需要を抑制した。併せて冬場の暖房シーズンに伴う暖房用天然ガス需要期到来に向けたLNG調達が進んだこともあり、同国の天然ガス在庫は11月12日時点で過去5年平均(11月末時点で212万トン)を14%程度上回る242万トンに到達した。また、韓国においても夏場から気温が低下したことに伴い冷房のための空調機器稼働のための電力需要が減少したうえ、同国では2022年12月7日に新韓蔚(ハヌル)原子力発電所1号機(発電能力140万kW)が操業を開始したことにより、原子力発電による電力供給が相対的に堅調になった反面天然ガス火力発電向けの天然ガス需要が抑制される格好となったものと見られることから、同国の天然ガス在庫も85~90%程度充填された状態となるなど需給が緩和状態になっている旨11月17日に示唆される。さらに、2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことにより、個人の外出が活発化したこともあり、宿泊業や旅行業を含むサービス業の活動は大幅に回復したものの、その動きが一巡した後は同部門での活動は伸び悩み気味となったうえ、製造業の回復は不安定な状態が継続したことから、産業部門向けの天然ガス需要(中国の天然ガス需要の半分近くは産業部門向けであるとされる)がもたつき気味であったと見られるうえ、中国では相対的に価格の手頃な国内産を中心とする石炭(なお、中国石炭在庫水準も高い旨11月9日に伝えられる)に加え、増加傾向にある国内産天然ガス、そしてロシア及び中央アジア方面からパイプラインを経由して輸入される天然ガスの利用が優先される一方、価格が相対的に高いLNGの利用は劣後することにより、中国のLNG需要が抑制される格好となった(なお、2023年の中国のLNG輸入量は前年同月比で相当程度増加しているように見受けられるが、これは2022年に同国において都市封鎖などの厳格な新型コロナウイルス抑制策を実施したことに伴う経済低迷によるLNG需要減少の反動による側面がある)(図29参照)。さらに、インドにおいては、LNGは重油(もしくはナフサ)、石炭、国内産天然ガス等他の燃料を含めた選択肢の一つとなっており、価格が手頃でない場合には購入が敬遠されるなどしていた(因みにインドの需要家は100万Btu当たり13ドル前後以下でのLNG購入を希望していたと10月17日に伝えられた反面、この日のオランダTTF先物価格は100万Btu当たり推定で15.157ドル、北東アジアLNG先物価格は同17.645ドルであった)ことから、LNGに対する需要は旺盛な状況でもなかった。このように北東アジアを含むアジア地域では必ずしもLNG需要が堅調であったわけではなく、従って需給が引き締まっていたわけではなかった。しかしながら、豪州の一部LNG施設における労働組合のストライキに伴うLNG供給途絶の可能性等により多少なりとも地域のLNG価格が上振れする場面が見られた。また、8月中旬から11月中旬にかけアジアのLNG価格は欧州の天然ガス価格の影響を受けつつ(欧州の天然ガス価格が上昇すると価格が相対的に高い欧州方面に向けアジア、中東及び米国方面等からLNGが向かうとの観測が市場で発生しやすくなることが背景にある)、冬場の暖房シーズンに伴う暖房のための民生部門等における季節的な天然ガス需要増加観測が市場で発生したことが、アジア市場における天然ガス相場に上方圧力を加えた。この結果、8月11日には100万Btu当たり11.085ドルであった北東アジアLNG先物価格は10月23日には同18.585ドルに到達するなど、上昇傾向となった。しかしながら、その後は欧州の天然ガス価格が下落傾向となった影響を受け、北東アジアLNG先物価格も下落傾向となり、11月17日には同16.975ドルとなっている。
ただ、2023年に入りパナマ運河流域での降水量が少なくなったため、同年7月30日以降同運河の通航量が1日当たり32隻に削減されたが、降水量低迷の状態は継続したこと(2023年10月の降雨量は1950年以降の記録上最低水準となっている)、さらに年末まで低降水量の状態が継続すると予想されたことにより、2023年11月3~6日は通航量を1日当たり25隻、11月7~30日は同24隻、12月1~31日は同22隻、2024年1月1~31日は同20隻、2月1日から次の通知があるまでの期間においては18隻へと削減する旨10月30日にパナマ運河局が発表した。現在のところ、アジア市場ではLNG需給の引き締まり感が感じられないこともあり、パナマ運河の通航制限の影響は限定的であるように見受けられる(但し10月に入り一部の大手国際石油会社がスポットLNG調達を活発化させており、これは米国等からのパナマ運河経由のLNG調達に支障が発生していることが背景にあるのではないかと見る向きもある)。しかしながら、今後冬場に気温が大幅に低下するとともにスポットLNG需要等が高まった場合には、通航制限に伴い米国等からパナマ運河経由でのLNG輸送にアジア諸国等が苦慮することにより、米国産のLNGがスエズ運河(しかしながら、イスラエルとハマスとの戦闘状態突入に伴う中東情勢の複雑化により、タンカーのミサイル被弾(迎撃されているとはいえ、実際イエメンのフーシ派武装勢力が紅海の上空経由等でイスラエルに向けミサイル等を発射している)のリスクを負うことになる)及び喜望峰を経由するようになるとともにアジア諸国に到着するまでのLNG輸送日数が増大する可能性がある(米国メキシコ湾岸から日本にLNGを輸送する場合、パナマ運河経由では20日間程度を要するのに対し、スエズ運河経由では30日間超、喜望峰経由では40日間程度を要することになる)。また、11月17日時点において、米国メキシコ湾岸で出荷されるLNGを北アジア諸国等に輸送するコストは、パナマ運河経由で100万Btu当たり約4ドルであるのに対しスエズ運河及び喜望峰経由は同約6ドル前後と2ドル程度高くなっていることから、北アジア諸国等がスエズ運河もしくは喜望峰経由で米国産LNGを購入しようとした場合到着価格が欧州に比べ現在よりも100万Btu当たり2ドル程度割高となるといった展開となることもありうる。加えて、LNGを長期間輸送することに伴いLNGタンカーが長期間使用されるようになることもあり、利用可能なLNGタンカー隻数が減少することにより傭船料が上昇することを通じアジア市場でのスポットLNG相場が押し上げられる能性がある。一方、LNGタンカーがパナマ運河を経由して大西洋から太平洋方面に向かいにくくなる結果、大西洋圏にLNG供給がより多くとどまることにより、欧州におけるスポットLNGや天然ガスの相場に下方圧力が加わる可能性が発生することも想定される。
以上
(この報告は2023年11月20日時点のものです)