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原油市場他:一部のOPECプラス産油国が2024年第1四半期において自主的な追加減産を拡大(速報)

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レポートID 1009954
作成日 2023-12-01 00:00:00 +0900
更新日 2023-12-01 11:05:32 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 13
抽出データ
地域1 グローバル
国1
地域2
国2
地域3
国3
地域4
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地域5
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地域6
国6
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地域8
国8
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地域10
国10
国・地域 グローバル
2023/12/01 野神 隆之
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概要

  1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2023年11月30日に閣僚級会合を開催した結果、一部のOPECプラス産油国が、2024年1~3月において自主的な追加減産を拡大する旨事実上決定した。
  2. 自主的な追加減産の規模は、OPEC事務局の声明を通じた公式な発表によるものではなく、追加減産を拡大する一部の産油国から個別に発表される形となった。
  3. 次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2024年6月1日に開催される予定である。
  4. 2023年6月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、中国経済が底打ちしつつあることを示唆する指標類や7月1日より実施されていたサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産の2023年末までの延長の発表等に伴い、世界石油需給の引き締まり感を市場が意識したことにより、原油価格は上昇基調となり、9月27日には原油価格(WTI)が1バレル当たり93.68ドルの終値と、2022年8月29日以来の高水準の終値に到達する場面も見られた。
  5. しかしながら、その後は中国経済の回復が不安定であることを示唆する経済指標類が発表されたことや米国原油在庫が増加したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、11月16日には原油価格は1バレル当たり72.90ドルと7月6日以来の低水準の終値に到達した他、9月27日の終値から22%程度の下落となった。
  6. 加えて、サウジアラビアが日量100万バレルの自主的な追加減産を2023年末で終了した場合、2024年前半は日量160~170万バレル程度の供給過剰となる可能性があることが示唆されたため、2024年に向け原油価格の下落が加速する恐れがあることが懸念された。
  7. このようなこともあり、特に2024年前半の世界石油需給緩和懸念を払拭すべく、サウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産の延長を併せ、日量100万バレル程度の公式な原油生産目標引き下げを実施することで、OPECプラス産油国は世界石油需給の引き締まり感を市場で醸成させるとともに原油価格の持ち直しを図ろうとしたものと考えられる。
  8. しかしながら、前回のOPECプラス産油国以降原油生産目標を引き下げられた西アフリカの一部OPECプラス産油国がさらなる目標の引き上げに抵抗したものと見られることにより、協議が収束しなかった結果、OPECプラス全体としての公式の原油生産目標引き下げは見送られることになったものと思われる。
  9. 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合に際してサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産の延長に加え日量100万バレル程度の公式な原油生産目標引き下げ決定への期待から11月30日の午前中(米国東部時間)に上昇していた原油価格は、公式な原油生産目標引き下げが見送られる方向となったことにより下落に転じた結果、11月30日の終値は1バレル当たり75.96ドル(前日末終値比同1.90ドル程度の下落)となった。

(OPEC、IEA、EIA他)

 

1. 協議内容等

  1. OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国は2023年11月30日に閣僚級会合をオンライン形式で開催した(巻末参考1参照)。
  2. 同会合は当初11月26日に対面形式で開催される予定であったが、11月22日午後(ウイーン時間)になり開催が11月30日に延期される旨OPEC事務局が発表した(後述)。
  3. また、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合に際しては会合後の記者会見は開催されなかった。
  4. 協議の結果、2024年1月1日以降のOPECプラス産油国全体に適用される公式な減産拡大(原油生産目標のさらなる引き下げ)に関する発表は見送られる格好となった。
  5. 代わりに、個別の産油国から2024年1月1日から2024年3月31日にかけての自主的な追加供給削減を発表する形となった(表1参照)。
  6. 例えば、サウジアラビアは2023年7月1日から12月31日まで実施予定であった日量100万バレルの自主的な追加減産を2024年3月31日まで延長する旨11月30日に国営サウジ通信が発表した。
  7. また、アルジェリア(日量5.1万バレル)、イラク(同22.3万バレル)、クウェート(同13.5万バレル)、アラブ首長国連邦(UAE)(同16.3万バレル)、カザフスタン(同8.2万バレル)及びオマーン(同4.2万バレル)が2024年1月1日から3月31日にかけ追加減産を実施するとした。
  8. さらに、ロシアは従来日量30万バレルであった原油及び石油製品輸出の削減(2023年5~6月を基準とする)を同50万バレルに拡大して2024年1~3月に実施する旨11月30日にノバク副首相が発表した。
  9. また、6月4日に開催された前回のOPECプラス閣僚級会合時に検討課題とされた、ナイジェリア、アンゴラ及びコンゴに対する2024年の原油生産目標(6月4日時点ではナイジェリア日量138万バレル、アンゴラ同128万バレル及びコンゴ同27.6万バレル)については、その後独立した専門機関3機関(IHS(S&Pグローバル)、ウッド・マッケンジー、ライスタット・エナジー)による評価の結果、2024年に到達しうる原油生産量(つまりこれが事実上の原油生産目標と解釈される)は、ナイジェリア日量150万バレル、アンゴラ同111万バレル及びコンゴ同27.7万バレルとされた。
  10. しかしながら、アンゴラはこの評価を不服とし、日量111万バレルの原油生産目標に固執することなく、足元の水準である日量118万バレルで原油を生産する意向である旨11月30日に同国のOPEC理事であるペドロ(Pedro)氏が明らかにした。
  11. 他方、今回のOPECプラス閣僚級会合においては、ブラジルが2024年1月よりOPECプラスに合流するとして歓迎する意を表するとともに、同国のシルベイラ(Silveira)鉱山・エネルギー相がOPECプラスへの招請内容を検討した後2024年にOPECプラスに参加することを希望する旨11月30日に発言した(なお、同日ブラジル大統領府は同国がOPECプラスへの招請を受けているものの現在検討中でありOPECプラスに対し正式な回答は行なっていない旨11月30日に明らかにしている(また、OPECプラス産油国減産措置には参加する意向はない旨11月30日に伝えられる))。
  12. なお、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合は2024年6月1日に開催される予定である。

表1 OPECプラス産油国減産幅


2. 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

  1. 2022年12月4日に開催された前々回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、米国中堅金融機関の破綻や同国金融当局の政策金利引き上げ等による経済減速と石油需要の伸びの鈍化への懸念が市場で強まったこともあり、原油相場に下方圧力が加わった結果、2023年3月17日には原油価格が1バレル当たり66.74ドルの終値と2021年12月3日(この日の終値は同66.26ドル)以来の低水準に到達する場面も見られた(図1参照)。
  2. このようなこともあり、サウジアラビアを含む一部OPECプラス産油国は2023年5月1日から12月31日にかけ日量115.7万バレルの自主的な追加減産を実施する旨4月2~3日に伝えられた他、ロシアも当初3月のみに適用する予定であった日量50万バレルの自主的な追加減産を12月末まで実施する旨4月2日に同国のノバク副首相が明らかにした。

図1 原油価格の推移(2022~23年)

  1. この結果、原油価格は一時的に持ち直したものの、その後再び下落し始め、前回の閣僚級会合開催直前の5月31日には1バレル当たり68.09ドルと3月20日(この日の終値は同67.64ドル)以来の低水準の終値に到達した。
  2. このようなことから、2023年の財政収支均衡価格が1バレル当たり80ドル超(当時)とされたサウジアラビアは、同国の社会構造改革等を含む今後の経済発展に支障が生ずる恐れがあることを危惧し、減産を強化することを通じ原油価格の立て直しを図ろうとしたものと考えられる。
  3. しかしながら、少なくともこの時点では消費国による自国産原油購入敬遠等の可能性のため原油価格を十分に引き上げられない結果かえって石油販売収入が抑制される恐れのあるロシアは追加減産措置の実施には消極的であったものと見られる。
  4. また、この時点で既に原油生産目標を相当程度下回る状態で原油を生産するOPECプラス産油国もあったことから、OPECプラス産油国全体を対象とする公式な原油生産目標の引き下げでは、表面上の減産規模の達成が困難となることが予想された。
  5. このように、OPECプラス産油各国の石油収入を維持もしくは拡大するための条件や、減産目標達成状況が異なっていたこともあり、2023年6月4日に開催された閣僚級会合では2023年のOPECプラス産油国全体としての公式な減産措置の強化は見送りとなった。
  6. ただ、閣僚級会合においては、2024年につきOPECプラス産油国全体としての公式な原油生産目標を新たに設定することで、より長期の石油需給引き締まり感と原油価格の先高感を市場関係者間で醸成させるとともに、サウジアラビアが7月1日より日量100万バレルの自主的な追加減産(当初は7月末までの実施)を実施することにより、原油価格の浮揚を図ろうとしたものと考えられる。
  7. なお、サウジアラビアによるはその後7月3日には日量100万バレルの自主的な追加減産を8月末まで、8月3日には9月末まで、それぞれ延長する旨国営サウジ通信が報じた。
  8. 2023年6月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合以降、米国の雇用の伸びの鈍化や失業率の上昇、中国経済が底打ちしつつあることを示唆する指標類、9月5日に明らかになったサウジアラビアの日量100万バレルの自主的な追加減産の2023年末までの延長等に伴い、2023年後半を中心として世界石油需給が引き締まるとの観測が市場で強まったことにより、原油価格は特に7月初頭以降上昇基調となり、9月27日にはWTIで1バレル当たり93.68ドルの終値と、2022年8月29日(この日の終値は1バレル当たり97.01ドル)の高水準の終値に到達する場面も見られた。
  9. しかしながら、その後は中国経済の回復が不安定であることを示唆する経済指標類が明らかになったことや、米国金融当局関係者による政策金利引き上げ継続観測が市場で発生したこと、米国原油在庫が増加したこと等が、原油相場に下方圧力を加えた結果、11月16日には原油価格は1バレル当たり72.90ドルの終値と7月6日(この日の終値は同71.80ドル)以来の低水準に到達した他、9月27日の終値から22%程度の下落となるなど、原油価格は下落傾向を示すようになった。
  10. 加えて、サウジアラビアが7月1日より実施している日量100万バレルの自主的な追加減産を2023年末で終了した場合、2024年は通年で日量101万バレル程度石油供給が需要を上回る(表2参照)他、特に同年第1四半期は日量170万バレル程度、第2四半期は同159万バレル程度、それぞれ供給が需要を上回る(つまり供給過剰となる)可能性があることが示唆されたため、2024年に向け原油価格の下落が加速する恐れがあることが懸念された。

表2 世界石油需給バランスシナリオ(2024)(2023年11月29日時点)

  1. このようなこともあり、特に2024年前半の世界石油供給過剰観測を払拭すべく、今次OPECプラス産油国閣僚級会合においてOPECプラス産油国の公式原油生産目標の引き下げとサウジアラビアの自主的な追加減産措置の延長を併せて実施することで、日量200万バレル相当の原油供給を市場から排除することにより、原油価格の持ち直しを試みたものと見られる。
  2. この流れは、2023年5月23日に(積極的な原油先物契約の空売りを行なうことにより原油価格を押し下げようとするのであれば)痛い目に遭うので注意する必要がある旨サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が石油市場の空売り投機筋に対して行なった警告に沿ったものでもあった。
  3. ただ、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、ナイジェリア、アンゴラ及びコンゴといった西アフリカの一部OPECプラス産油国がさらなる原油生産目標引き下げに異議を唱えたことから、当初11月26日に開催される予定であった閣僚級会合が11月30日に延期される格好となった。
  4. 6月4日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合において、西アフリカの一部OPECプラス産油国3ヶ国は原油生産目標が引き下げられた。
  5. その際、これら3産油国の原油生産可能量を外部の専門3機関(IHS(S&P グローバル)、ウッド・マッケンジー及びライスタッド・エナジー)が精査し、妥当であると判断される場合には、原油生産目標を引き上げる旨の条件が付されていた。
  6. 例えば、ナイジェリアは日量157.8万バレルを2024年の原油生産目標として検証の対象とし、これが確認された場合、当該水準が2024年の原油生産目標に反映されるとしていた。
  7. 前回閣僚級会合開催に際し原油生産目標の引き下げをサウジアラビア等から持ちかけられた3ヶ国は今後の原油生産能力拡大のための石油開発投資促進上の障害となる(原油生産目標を理由に生産を制限される可能性があることから外国石油会社がこれら産油国における石油開発投資を敬遠するようになる)等を理由として受け入れに難色を示したとされる。
  8. それでも、自国の原油生産目標の妥当性を精査すべく、第三者機関に検討を依頼し、妥当と認められるのであれば原油生産目標を再度引き上げるとしたことから、これら産油国の2024年の原油生産目標の引き下げにつき関係産油国間で合意に至ったとされる。
  9. その後、原油生産目標再検討のための精査結果が提示されたものの、3ヶ国は当該結果の受入を拒否した旨11月22日にブルームバーグ通信により伝えられており、これら3ヶ国には自国が満足いくような原油生産目標の上方修正が提案されなかったうえ、2024年初頭からは一層の原油生産目標が引き下げられる可能性が高まったことに不満を持ったため、当初開催予定であった11月26日の閣僚級会合においての2024年における減産のさらなる強化(つまり、原油生産目標のさらなる引き下げ)を巡る合意が困難になった結果、同会合の開催が延期されたものと見られる。
  10. その後も、西アフリカの一部OPECプラス産油国との間での協議は継続したとされるが、結果的に合意に至らなかったこともあり、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、一部産油国による自主的な追加減産等の延長及び拡大という形を採用することとなり、OPECプラス産油国全体に適用される公式な原油生産目標の引き下げ(つまり減産措置の拡大)は見送られることとなった。

 

3. 原油価格の動きと石油市場における今後の注目点等

  1. 今回のOPECプラス産油国閣僚級会合開催に際しては、サウジアラビアによる日量100万バレルの自主的な追加減産の延長に加え、OPECプラス産油国全体で日量100万バレルの原油生産目標の引き下げ(減産強化)を実施することが検討されている旨の情報が流れたこともあり、原油価格は11月30日午前の早い時間(米国東部時間)頃までは前日終値比で上昇して推移しており、一時は1バレル当たり79.60ドル(前日終値比同1.76ドルの上昇)に到達する場面が見られた。
  2. しかしながら、当該閣僚級会合においてOPECプラス産油国全体による原油生産目標の引き下げ(減産強化)が見送られるとともに一部産油国による自主的な追加減産等を実施する方向となったうえ、自主的な追加減産幅については追って産油各国から発表される予定である旨伝えられたことから、当該減産規模に関する不透明感(つまり、減産規模が世界石油需給を引き締めるのに十分なのかという懸念)が市場で強まったことが、原油相場に下方圧力を加えるようになった結果、原油価格は下落し始め、この日正午前(同)には1バレル当たり75.05ドル(前日終値比同2.81ドル)に到達する場面も見られた。
  3. ただ、その後一部OPECプラス産油国から自主的な追加減産幅が発表され始めた結果、少なくとも2024年第1四半期においては、大規模な供給過剰には至らない旨示唆された(表3参照)ことから、原油相場の下落は抑制されることとなった。

表3 世界石油需給バランスシナリオ(2024年)(2023年11月30日時点)

  1. それでも、与えられた目標に固執することなく原油生産を行なう旨アンゴラが表明するなどしたことにより、OPECプラス産油国間での結束の乱れを不安視する向きが市場で発生したことや、イラン等のOPECプラス産油国減産措置の枠外の産油国が増産した(後述)場合には、2024年第1四半期であっても、供給過剰に傾く可能性がある他、同じく供給過剰となる可能性のある同年第2四半期(日量159万バレル程度の供給過剰になることが示唆される)においては、今回の閣僚級会合に際しては追加減産等による手当がなされなかったことにより、同時期の世界石油需給緩和感を払拭し切れなかったことが、原油相場を抑制し続けた結果、11月30日の原油価格の終値は1バレル当たり75.96ドル(前日末終値比同1.90ドル程度の下落)となった。
  2. 今回のOPEC会合においては、前半を中心として供給が需要を上回ることが予想される2024年に向け、相対的に強制力が強いと見込まれるOPECプラス産油国全体への公式な原油生産目標引き下げ(減産強化)が講じられず、各産油国の自主性に委ねられる自主的な追加減産という形になったことから、今後実際にどの程度各国が表明した減産を実施できるかにつき市場関係者が確信を持ちにくくなるものと考えられる。
  3. 実際、2023年10月時点では、イラクやUAEが、現在実施されている公式減産措置に加え自主的な追加減産を考慮した原油生産目標を超過している旨判明している。
  4. 今後も、今回定められた自主的な追加減産を併せた原油生産目標を超過する産油国が出てくるようだと、当初企図した通りには世界石油需給が引き締まらないとの観測が市場で広がる結果、原油相場が下振れしやすくなるものとも見られる。
  5. 加えて、今回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、産油国間の結束の乱れが露呈する格好となった。
  6. 今後、このような乱れが拡大する結果、2024年第2四半期以降の公式原油生産目標の設定や自主的な追加減産方針等の決定等にOPECプラス産油国が苦慮するのではないかとの観測も市場で発生しやすくなる結果、この面でも原油相場を抑制しやすくなるものと考えられる。
  7. さらに、2024年において石油需給バランスや原油価格を含め世界石油市場に影響を与えうる要因が複数存在する。
  8. まず、米国金融政策が挙げられるが、10月31日~11月1日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)においては政策金利の据え置きが決定された他、不透明性やリスク等を考慮しつつ金融政策につき慎重に検討する旨11月1日のFOMC開催後の記者会見において同国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が表明したことにより、米国金融当局による政策金利引き上げ局面が終了に接近しつつあるとの認識が市場で広がった。
  9. しかしながら、その後パウエルFRB議長を初めとして複数の米国金融当局関係者が、物価上昇抑制が重要であり必要であれば政策金利を引き上げる意向である旨表明するなどしている(また、11月21日午後(米国東部時間)に明らかになったFOMC議事録(10月31日~11月1日の週分)においては、物価上昇の伸びの鈍化が不十分と判断できるような情報が得られた場合にのみ政策金利を引き上げるべきである旨委員間で認識が一致した一方、物価上昇の伸びの鈍化が持続的となるまで高水準の政策金利を維持しなければならない可能性がある旨示唆されていたこともあり、今後さらに政策金利が引き上げられるか高水準で維持される、もしくはこれまで実施されてきた政策金利引き上げの影響が時間差を以て経済に影響を及ぼす結果、米国のみならず世界経済が減速に向かうことに伴い、石油需要の伸びが当初見込みよりも下振れすることにより需給緩和感が市場で醸成されることが、原油相場に下方圧力を加える可能性がある。
  10. 他方、足元の政策金利は物価上昇率を目標である年率2%に接近させるためには適切であるとの確信を持ちつつあることに加え、物価上昇が沈静化する方向に向かい続ければ数ヶ月後には政策金利引き下げの途が開ける旨11月28日にFRBのウォラー理事(同理事は金融引き締め支持派として知られる)が明らかにしたうえ、早ければ2024年4月30日~5月1日に開催されるFOMCにおいて政策金利の引き下げが決定されるとの観測が高まっている(11月30日時点で政策金利が0.25%引き下げられる確率が49.1%と他のどの選択肢よりも高くなっている)。
  11. そして、2023年12月12~13日に開催される予定である次回FOMCでの議論内容や、この先の米国金融当局関係者による発言等により当局による政策金利引き下げの観測が市場で強まったり、実際に政策金利引き下げが実施されたりした場合、米国経済回復と石油需要の伸びの加速期待が市場で強まる結果、同国株式相場上昇や米ドル下落を通じる等して原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。
  12. もっとも、2024年に向け原油相場の上昇が継続した場合、再びガソリン小売価格等が上振れすることに伴い米国等の物価の上昇が加速することにより、同国等の金融当局による政策金利引き下げ開始局面が遠のく可能性も否定できない。
  13. その場合は米国経済等に少なからず負の影響を与えることにより石油需要の伸びが下振れすることに伴い一時的には上昇するかもしれない原油相場にはやがて下方圧力が加わるようになる可能性があろう。
  14. また、中国においては、購買担当者指数(PMI)、国内総生産(GDP)、小売売上高、鉱工業生産、工業企業利益及び輸出入等の経済指標類や原油輸入量及び製油所の原油精製処理量と言った石油市場関連統計を見る限り、同国の経済回復及び見做し石油需要(同国は公式な石油需要を発表していない)が不安定である旨示唆される他、同国の不動産業界の不振も伝えられる。
  15. そして、2023年の中国の経済成長率を5.0%と2022年の3.0%から成長が加速すると見込んでいる国際通貨基金(IMF)は2024年の同国経済成長率は4.2%へと減速する旨予想している。
  16. ただ、中国政府が1兆元(約1,370億ドル、約20.5兆円)規模の国債発行を含めGDPの3.8%にまで2023年の財政赤字を認める(従来は3.0%)方針である旨10月24日に同国国営新華社通信が報じるなど、同国政府による大規模景気刺激策実施への期待も高まりやすい状況になっている。
  17. このように、2024年に向けた中国経済を巡る状況も不透明感が強い状態であり、中国政府による景気刺激策が奏功すれば、中国経済が回復軌道に乗り始めるとともに同国石油需要の伸びの上振れ期待が市場で強まる結果原油価格が押し上げられる場面が見られる一方、景気刺激策が十分な効果を発揮できない等により同国経済がもたつき気味になるようであれば、石油需要の伸びの下振れ懸念が市場で強まる結果、原油価格が下落する場面が見られる可能性がある。
  18. また、11月13日に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)から発表された「掘削生産性報告(DRP: Drilling Productivity Report)」では、同国主要7シェール地域における原油生産量は2023年11~12月は前月比で日量1,200~4,100バレル程度減少するとの見通しが明らかになった。
  19. もっとも、過去のDPRデータと比較すると、2023年8月14日に発表されたDPRでは同年9月の当該生産量は日量941万バレル(そして前月比日量1.9万バレル減少、2022年12月比では日量62万バレル増加)と見込まれていたが、11月13日に発表された最新のDPRによれば同月の原油生産量は日量965万バレル(そして前月比で日量1.6万バレルの増加、2022年12月比では同79万バレル増加)となるなど、当該原油生産量は当初見込みよりも上方修正される傾向が認められる。
  20. このようなことから、現在予想される2024年の米国原油生産が時間の経過とともに上振れする結果、非OPEC産油国の原油生産もその分だけ押し上げられることにより、世界石油需給の緩和感が市場で増大することにより、原油相場に下方圧力を加える可能性も否定できない。
  21. また、これまで(西側諸国等による制裁に伴うロシアからの石油供給等の制約への影響を緩和すべく)米国はイランに対し制裁の運用を事実上緩和する格好とすることで、2022年9月に日量248万バレルであったイランの原油生産量は2023年9月には同314バレルへと日量70万バレル弱増加した。
  22. 今後も、イランの原油生産が増加を持続する(既にイランの原油生産量が日量340万バレルに到達した旨イランのオウジ(Owji)石油相が明らかにしたと2023年11月1日に報じられたうえ、2024年3月20日までに同国の原油生産量が360万バレルに、さらに同日から開始されるイランの次年度には日量400万バレルの原油生産量を目指す旨2023年11月21日に同石油相は明らかにしている)。
  23. しなしながら、2023年10月7日に行なわれたガザ地区を実質的に支配するイスラム武装勢力ハマスによるイスラエルへの攻撃にイランの関与が疑われると言う流れに沿って、今後米国が再び対イラン制裁の運用を強化することにより、イランの原油供給が削減されるとともに世界石油需給が引き締まるという不安感も市場で煽られやすくなっている(米国がイランに対する制裁を強化する結果、足元で日量100万バレルを超過するイランからの原油輸出は減少することになるであろう旨米国国務省のホクスタイン(Hochstein)エネルギー安全保障担当特別大統領調整官が明らかにしたと11月15日午後の遅い時間(米国東部時間)に報じられる)。
  24. このように、イランの今後の原油生産見通しについても、それを増加させる要因と減少させる要因が混在する状態にある。
  25. 以上のような要因から、2024年の世界石油需給バランスが今回のOPECプラス産油国による減産強化に伴い想定されるシナリオから乖離するとともに、その乖離が織り込まれる結果原油価格が上昇、もしくは下落するといったリスクを抱えているものと考えられる。
  26. そしてこのようなリスクに対し、もし原油価格の下落が継続する結果例えば1バレル当たり70ドルを割り込みつつあるような場合、あるいは原油価格は1バレル当たり70ドルを相当程度上回っているものの急落する兆候を示しているような場合には、投機筋による原油先物契約の空売りの勢いが拡大する結果原油価格の下落が加速することにより、その時点でOPECプラス産油国が減産強化等により石油市場へ介入しようとしても既に原油相場が制御不能の事態に陥っている前の段階で、OPECプラス産油国は、予防的かつ先制的に、原油価格の下落を防止すべく行動する可能性があるものと考えられる。
  27. そしてその場合、OPECプラス産油国は、まずは自主的なものを含め追加減産の実施可能性等につき警告を発し(いわゆる口先介入を行ない)、それでも原油価格の下落が抑制されない場合には、次回のOPECプラス産油国閣僚級会合、ないしは緊急を要する場合には、次回の閣僚級会合の開催を待たずして、OPECプラス産油国共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、約2ヶ月に1回の割合で開催され、原油生産方針につき進言を行なう等する他、必要に応じて石油市場の展開に対処するために、いつ何時でも追加会合を開催したり、OPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請したりする権限を持つ)開催の機会を捉えるか、もしくは臨時の閣僚級会合を開催するなどして、実際に追加減産を検討したりするものと見られる。
  28. 反面、原油価格が上昇した場合には、それが実際に足元の石油需給の引き締まりの証拠を伴うものであれば、OPECプラス産油国は直ちに減産の緩和を決定することもありうるが、原油価格の上昇が、市場の石油需給引き締まり懸念によるものである様相を呈しており、足元の実際の石油需給引き締まりの証拠を伴ったものであるとの判断が困難な状況では、OPECプラス産油国は証拠が入手できるまで様子見となる結果、原油価格の上昇局面が長引くといった展開もありえよう。
  29. 例えば、イスラエルとハマスの戦闘が激化するとともに、関係者(米国、欧州、サウジアラビア、イラン、レバノン武装勢力ヒズボラ、イエメン武装勢力フーシ派等)間での対立が高まったり、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に対し、西側諸国等が対ロシア制裁を強化したりすることにより、中東湾岸諸国等の原油生産、ペルシャ湾及び紅海等を通過するタンカーによる石油輸送、もしくはロシア原油輸出等に影響が及ぶとの懸念等が市場で増大するようであれば、原油価格が上昇する可能性があろうが、その場合でも原油相場の上昇が石油市場関係者の懸念に伴うものであり、実際の供給途絶等による需給の引き締まりに伴うものでなければ、減産を緩和等することによりかえって石油供給過剰感を市場で増大させる結果原油価格の急落を招く恐れがあることを懸念するOPECプラス産油国は減産緩和に対し消極的な姿勢(「(石油供給が脅かされていても)足元石油供給が途絶していないので減産を緩和する必要はない」等の主張を行なう)を示す結果、原油価格が上昇し続ける、ないしは高水準を維持することもありうる。
  30. このように、米国や中国を含む世界経済情勢と石油需要を巡る状況及び観測、米国やイランを含む産油国の原油生産状況、中東及びロシア等を巡る地政学的リスク要因、そしてOPECプラス産油国の原油生産調整を含む姿勢が、2024年においても原油相場を左右するものと見られる。
  31. ただ、今回の閣僚級会合においては、OPECプラス産油国間での意見の相違を容易に解消できないことも判明した。
  32. 今後OPECプラス産油国がさらに減産を強化しなければならない場面に遭遇した場合、相対的に拘束力が強いと市場で見做される公式な原油生産目標の引き下げ(減産強化)の決定に苦慮したり、公式な原油生産目標の設定が困難であることにより自主的な減産措置を設定したものの、遵守率が低下したりするなど、産油国間の結束力が弱まることにより、原油相場に下方圧力が加わると言った展開にならないとも限らないことにも注意する必要があろう。

 

(参考1:2023年11月30日開催OPECプラス産油国閣僚級会合時声明)

36th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting

No 24/2023
Vienna, Austria
30 November 2023

The 36th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting (ONOMM), was held via videoconference, on Thursday November 30, 2023.

The Meeting welcomed HE Alexandre Silveira de Oliveira, Minister of Mines and Energy of the Federative Republic of Brazil, which will join the OPEC+ Charter of Cooperation starting January 2024.

The meeting reaffirmed the continued commitment of the Participating Countries in the Declaration of Cooperation (DoC) to ensure a stable and balanced oil market. In view of current oil market fundamentals, the Meeting:

  1. Reaffirmed the Framework of the Declaration of Cooperation, signed on 10 December 2016 and further endorsed in subsequent meetings including the 35th OPEC and Non-OPEC Ministerial Meeting on 4 June 2023; as well as the Charter of Cooperation, signed on 2 July 2019.
  2. Noted that, in accordance with the decision of the 35th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting, the completion of the assessment by the three independent sources (IHS, Wood Mackenzie and Rystad Energy) for production level that can be achieved in 2024 by Angola, Congo and Nigeria as follows: Angola at 1,110 t/bd, Congo at 277 t/bd and Nigeria at 1,500 t/bd.
  3. The 37th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting will be held on 1 June 2024 in Vienna.

 

以上

(この報告は2023年12月1日時点のものです)

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