ページ番号1009957 更新日 令和5年12月5日
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概要
- 2023年11月30日、アラブ首長国連邦ドバイにおいて第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が開幕した。200以上の国と地域が参加し、12月12日までの予定で開催される。エネルギー産出国であるアラブ首長国連邦が開催国を務め、同国国営石油会社であるADNOCのCEOを務めるスルタン・ジャーベル氏が議長に就き議論を主導することから、世界が直面するエネルギートリレンマと気候変動問題にどのように対応するのか、注目されている。
- 国際エネルギー機関(IEA)はCOP28に先立ち、11月23日に「ネットゼロ移行における石油ガス産業」レポートを発表。ファティ・ビロルIEA事務局長は、「石油ガス産業は、ドバイで開催されるCOP28で正念場を迎えている」とし、世界全体でのネットゼロへの移行と、「パリ協定」が定める1.5℃目標の達成に向けて、石油ガス産業の投資・姿勢が不足している点を指摘。(1)短期の対応として、操業に伴う排出削減(2030年までに6割減)を求めるとともに、(2)中長期の対応として、追加的な石油ガス事業への投資はリスクが存在する点を指摘し、同産業の持つクリーンエネルギー分野での強みを示しつつ、再生可能エネルギーや低炭素燃料などへの投資を促した。
- また、移行期の石油ガス産業について生産的な議論をするためには、二つの一般的な誤解(two common misconceptions)を避ける必要があるとIEAは指摘する。第一の誤解は、エネルギートランジションは需要側の変化のみによってもたらされるという考えであり、「エネルギーの世界が変われば、我々も変わる(“When the energy world changes, so will we”)」というのは、目の前に壮大な挑戦がある現状に対する適切な対応とは言えないとした。第二の誤解は、二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)に過度の期待と依存をすることである。CCUSは、特定の分野や環境において、ネットゼロ達成に不可欠な技術であるが、石油ガス産業の現状を維持する道ではないとした。
- IEAのレポートを受け、石油輸出国機構(OPEC)は11月27日に、「Whose ‘moment of truth’?(誰の「正念場」だ?)」と題する2ページの論考をホームページに掲載した。「石油ガス産業は『気候変動を煽るか、クリーンエネルギーへの移行を受け入れるかの選択を迫られている(“choose between fueling the climate crisis or embracing the shift to clean energy”)』と言われてきた。これは、我々の目の前にある課題の非常に狭い枠組みを提示しているに過ぎず、おそらく、エネルギー安全保障、エネルギーアクセス、エネルギーの手ごろな価格による供給の問題を軽視している。」と問題を提起する。また、IPCCの評価報告書で気候変動問題への解決策の一部として支持されているCCUSなどの技術を「幻想」と呼んでいることを「残念なこと」であると批判した。
- アル・ガイスOPEC事務局長が、「排出量を削減し、人々が快適な生活を送るために必要なエネルギー製品やサービスを確実に利用できるよう、協力して決意を持って行動することが重要である」と論考で指摘するように、石油ガス産業が気候変動の議論に当事者として参加することの意義が試されるCOP28となる。今後も議論の行方に注目したい。
1. はじめに
2023年11月30日、アラブ首長国連邦ドバイにおいて第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が開幕した。200以上の国と地域が参加し、12月12日までの予定で開催される。今回のCOPでは、「パリ協定」の目的及び長期的な目標の達成に向けた世界全体の進捗状況を定期的に確認し、各国がそれぞれの取組を強化するための情報提供を行う仕組みである「グローバル・ストック・テイク」の成果物の検証が初めて行われる。
国連環境計画(UNEP)はCOP28に先立ち、11月20日に「各国は現行のパリ協定より更なる排出削減を行わなければ、2.5から2.9°Cの気温上昇に直面する(Nations must go further than current Paris pledges or face global warming of 2.5-2.9°C)」とした報告書を公表した[1]。これによれば、現在各国が表明している排出削減の目標では、「パリ協定」が目指す1.5℃目標には不十分であり、再生可能エネルギーの拡大や化石燃料の段階的な廃止などが議論される見通しである。
本稿は、気候変動問題について本質的に論じるものではなく、これまでのCOPの成果等に関する詳細な説明に紙幅を割くことはしないが、中東地域でのCOP開催であること、エネルギー産出国であるアラブ首長国連邦が開催国を務め、同国国営石油会社であるADNOCのCEOを務めるスルタン・ジャーベル氏が議長に就き議論を主導することから、世界が直面するエネルギートリレンマと気候変動問題にどのように対応するのか、エネルギー業界の視点から捉えることを目的としている。
はじめに、COP28までの軌跡について、世界共通の長期目標として2℃目標を設定し1.5℃に抑える努力を追求すること等を合意したCOP21の「パリ協定」、その努力目標追求の確認と今世紀半ばのカーボンニュートラルを目指しネットゼロ宣言が相次いだCOP26、エジプトでの開催となりロス&ダメージ基金の設置等に合意をしたCOP27を概観する。そして、COP28を前にした11月23日に国際エネルギー機関(IEA)から発表された「ネットゼロ移行における石油ガス産業」レポート[2]の概要、これに対する石油輸出国機構(OPEC)の論考「誰の『正念場』か?」[3]を紹介し、エネルギー業界へのインプリケーションを抽出したい。
なお、特段注記のない場合、3. ネットゼロ移行における石油ガス産業(IEA報告)及び4. 誰の「正念場」か?(OPEC論考)は、両機関がそれぞれ11月23日、11月27日に発表した内容に基づくものであり、原典と本稿の解釈に齟齬が生じる場合は読者自身の見解に基づき原典を優先していただきたい。
2. COP28までの軌跡
(1) 2015年COP21における「パリ協定」と1.5℃目標
気候変動問題への対応が注目されるにつれ、国際社会では1992年に採択された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に基づき、1995年より毎年COPが開催され、世界レベルで実効的な温室効果ガス排出量削減の実行に向けた議論が行われてきた。
こうした中、2015年12月にフランスのパリで開催されたCOP21において、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして「パリ協定」が採択された。これは、1997年12月に京都で開催されたCOP3において採択された2020年までの枠組みである「京都議定書」に代わるものであり、歴史上はじめて全ての国が温室効果ガス排出削減等の気候変動の取組に参加する枠組みとなった点で画期的である。
2021年に英国のグラスゴーで開催されたCOP26では、今世紀末までの気温上昇を1.5℃に抑える努力目標追求の決意を確認しつつ、今世紀半ばのカーボンニュートラル及びその経過点である2030年に向けて野心的な気候変動対策を締約国に求めることに合意。また、2018年のCOP24からの継続議題となっていたパリ協定6条(市場メカニズム)の実施指針、第13条(透明性枠組み)の報告様式、温室効果ガス排出削減に関するNDC(Nationally Determined Contribution:各国が決定する貢献)実施の共通の期間(共通時間枠)等の重要議題で合意に至り、パリルールブックが完成した[4]。こうした流れから、2021年には気候変動対策の観点からエネルギーの脱炭素化を目指すことが各国の野心的目標となり、エネルギー開発企業も自社の操業や自社製品からの炭素排出を相殺し、ネットゼロの達成を目指した事業計画を策定する契機となった。
(2) エネルギーセキュリティへの覚醒とCOP27
2022年2月、国際エネルギー情勢を取り巻く環境が大きく変化した。ロシアがウクライナを侵攻したことにより、エネルギーの供給に物理的な障害が発生するのではないかとの懸念が発生し、エネルギーの安定供給が注目された。加えて、国際社会がロシアに対して経済制裁や同国産石油に対して禁輸や価格上限設定を行うことにより、同国からのエネルギー供給が制約を受けるとの懸念が市場で拡大したほか、特にこれまで安価なロシア産パイプラインガスに依存してきた欧州が、他に供給源を求め、LNG市場からの調達を加速させたことにより、世界的なエネルギー価格の高騰をもたらした。こうして、前述のCOP26によって脱炭素化の機運が高まっていた2021年から、エネルギーセキュリティに大きく舵を切ったのが2022年であった。
2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27においては、気候変動対策の各分野における取組の強化を求めるCOP27全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、そして2030年までの緩和の野心と実施を向上するための「緩和作業計画」が採択された。加えて、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)支援のための措置を講じること及びその一環としてロス&ダメージ基金(仮称)を設置することを決定するとともに、この資金面での措置(基金を含む)の運用化に関してCOP28に向けて勧告を作成するため、移行委員会の設置が決定された[5]。一連の議論により、主にこれまで先進国の経済発展に伴い排出してきた二酸化炭素等の温室効果ガスによる気候変動の負の影響とこれに伴う損失と損害を補填することを新興国や途上国が求め、その声が高まったことは明らかである。
また、今後も人口増加とこれに伴う経済成長が見込まれる新興国や途上国において、エネルギーへのアクセスを手ごろな価格で確保することの重要性も強調されている。「just energy transition(公正なエネルギートランジション)」が必要であること、各国や地域の経済状況や再生可能エネルギーの導入制約となる気象条件などに配慮したネットゼロに向けた「various pathways(多様な道筋)」への認識が広まったことも、COPの議論が先進国から拡大していることの証左であろう。
(3) エネルギートリレンマと気候変動
エネルギーは様々なものに形を変え、今日の社会を支えている。これを手ごろな価格で安定的に、かつ気候変動問題にも配慮しつつ利用する必要があり、これらのバランスを取ることが重要である。気候変動問題はエネルギー問題であり、地球温暖化が人為的な温室効果ガスの排出によるものであるとの科学的見地に基づけば、エネルギー利用の在り方が気候変動問題の解決に向け果たす役割は大きい。
「エネルギートリレンマ」という概念が注目されるようになり久しいが、エネルギーを取り巻く3つの要素である「Energy affordability(エネルギーが手ごろな価格であること)」、「Energy security(適切な量なエネルギーが安定して供給されること)」、「Decarbonization(脱炭素化)」のなかで揺れ動く世界を理解することが重要である。
「Energy affordability」は、人々が必要とするエネルギー(輸送用燃料としての需要のほか、暖房、冷房、その他のエネルギーサービスを含む)を、他の基本的ニーズを充足するための能力を制約することなく満たすことである。また、「Energy security」は、社会活動を支えるために常に適切な量のエネルギーが供給され、地政学的要因や自然災害に対してもそれが安定していることである。これに加え、気候変動問題への対応から、現在のエネルギーシステムの大宗を占める石油・天然ガス・石炭などの化石燃料の利用に際しては、将来における供給や気候に対する負の影響(気候変動による災害の増加など)をはじめ、将来世代の不利益にならないようにエネルギーサービスが提供され消費されることが重要であり、「Decarbonization」(あるいはSustainability)の観点も併せて、「エネルギートリレンマ」を構成する。3つの概念をすべて包含し、手ごろで安定的で気候変動問題にも配慮したエネルギーを供給することが、持続可能なエネルギー政策であり、これを目指すことが重要であるとの認識が世界全体で形成されつつある。
3. ネットゼロ移行における石油ガス産業(IEA報告)
(1) 報告の背景
「石油ガス産業は、ドバイで開催されるCOP28で正念場を迎えている。世界が深刻化する気候危機の影響に苦しんでいる中、通常通りビジネスを続けることは社会的にも環境的にも無責任である。」
ファティ・ビロルIEA事務局長は、11月23日に同機関が発表した「ネットゼロ移行における石油ガス産業(The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions)」(IEA報告)のニュースリリースにおいてこのように述べた。また、「石油ガス産業の有無にかかわらず、クリーンエネルギーの進歩は続くだろう。しかし、この業界が同意しなければ、ネットゼロ排出への道のりはよりコストがかかり、舵取りが困難になるだろう。」と述べ、「石油ガス産業は今、厳しい選択を下さなければならない」とした[6]。
IEA報告は、同機関の旗艦刊行物であるWorld Energy Outlook(WEO)のSpecial Reportとして公表され、各国が公言する気候変動対策に関する誓約がすべて実施された場合のAnnounced Pledges Scenario(APS)及び2050年に世界がネットゼロを達成することを前提としたNet Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)を中心に論理が構成されている。そのため、世界全体でのネットゼロへの移行と、「パリ協定」が定める1.5℃目標の達成に向けて、石油ガス産業の投資・姿勢が不足している点を指摘し、(1)短期の対応として、操業に伴う排出削減(2030年までに6割減)を求めるとともに、(2)中長期の対応として、追加的な石油ガス事業への投資はリスクが存在する点を指摘し、同産業の持つクリーンエネルギー分野での強みを示しつつ、再生可能エネルギーや低炭素燃料などへの投資を促す内容となっている。次項以降で、IEA報告を概観する。
(2) クリーンエネルギーへの投資拡大を喚起
2018~2022年における石油ガス産業の平均収益は約3.5兆ドルであり、このうち50%は政府取り分、40%は資本投資と操業費、残り10%は株主還元と借入金の償還に充当されている(図 1)。他方、クリーンエネルギーへの投資は資本投資の3%程度に過ぎず、世界全体のクリーンエネルギーに対する投資のわずか1%となっている。ロシア侵攻後、エネルギー価格の高騰により巨額の利益を得たにも関わらず、その資金を十分にクリーンエネルギー投資に使用していないことへの批判が高まる石油ガス産業に対して、エネルギートランジションに対する貢献のための具体的行動を促すメッセージを送ることが、COP28を前にしたIEA報告の目的である。
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 1.3
(3) 石油ガス事業への投資 -誰もが「the last ones standing」にはなれず-
IEAがWEOで想定するすべてのシナリオにおいて、石油ガス事業への投資は必要であるとされている。代表的な化石燃料である石油ガスについて、その需要がピークに達したのちもただちに減退するのではなく、一定程度の時間をかけて低下していく。供給の減退が需要のそれを上回ることになれば、需給の不均衡を市場で生じ、価格が不安定化するなどの問題が発生するからである。
APSにおいては新規の探鉱は不要としつつも、既存資産及び一部資産については追加開発投資が必要であるとされる。NZEにおいては、開発投資は既存事業及び投資決定済事業に限定され、新規の長期・大型事業は不要。一部既存資産も、生産限界に達する前に閉鎖される見通しが示されている(図 2及び図 3)。
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 1.11
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 1.13
シナリオ別により、需要に基づき供給が必要とされる石油ガス量には差異があり、供給が需要を上回れば、生産コスト、供給多様性確保の観点、操業に伴う温室効果ガス排出削減等の要因に基づき、競争力が失われた供給者は市場から退出することとなる。誰もが「the last ones standing(最後まで供給を続けることが出来る者の意)」になることはできず、自然体では生産コストの低い地域からの供給を志向するため、中東など現在の資源保有国への高い集中をもたらす。地域別原油輸入と輸出元の割合の推移をシナリオ別でみると、供給全体に占める中東地域の割合は増加傾向にあることから(図 4)、地政学リスクに対する脆弱性が高まることが懸念される。
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 1.17
(4) 排出削減の必要性と投資の多角化
IEA報告において、「パリ協定」における1.5℃目標と整合するには、石油ガス開発企業が2030年までにメタン等の排出削減の投資に加えて、エネルギー産業で培った知見や強みを活かし50%の資本支出をクリーンエネルギー事業に向ける必要があるとしている。他方、多角化を進めない場合は、時間をかけて競争力を失う従来の石油ガス事業を縮小することが求められる。
石油ガス事業への投資を継続する場合には、操業に伴う排出量を2030年までに60%削減するとともに、排出原単位を2040年代前半までにゼロにする必要があると指摘している。温室効果ガスのうちメタンは操業に伴う排出の半分を占め、その削減は最もコスト効率性が高く、優先的に取り組むべきであるとしている(図 5)。
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 2.5
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 2.18
また、2050年ネットゼロ社会が実現する場合においても、最終エネルギー消費のおよそ30%は水素や水素系燃料のほか、石油ガス産業の技術や資源の恩恵を受ける二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)、洋上風力、液体バイオ燃料、バイオメタン及び地熱などにより供給される見通しである(図 6)。これらは、石油ガス産業が知見を有する技術を活用できる事業分野であり、従来の石油ガス事業に集中している投資を各社の強みを生かせる分野に多角化させ、需要減少に伴い価格が低下する化石燃料に依存した収益構造から段階的に移行することを求めている。
(5) 石油ガス産業の将来に関する議論における二つの誤解
移行期の石油ガス産業について生産的な議論をするためには、二つの一般的な誤解(two common misconceptions)を避ける必要があるとIEA報告は指摘する。
第一の誤解は、移行は需要側の変化のみによってもたらされるという考えである。「エネルギーの世界が変われば、我々も変わる(“When the energy world changes, so will we”)」というのは、目の前に壮大な挑戦がある現状に対する適切な対応とは言えない。同様に、不均衡な供給削減だけに集中することも非生産的であり、価格高騰と市場混乱を招くことが懸念される。実践的に考え、誰かが動くのを待つべきではない。秩序ある移行を成功させるには、供給者は、消費者や政府と協力し、低排出な生産物やサービスを供給するために新しい市場を開拓すべきであるとしている。
第二の誤解は、CCUSに過度の期待と依存をすることである。CCUSは、特定の分野や環境において、ネットゼロ達成に不可欠な技術であるが、石油ガス産業の現状を維持する道ではない。仮に石油ガスの消費が現行政策に基づくStated Policies Scenario(STEPS)に沿って推移する場合、1.5℃目標の達成のために、2050年までに320億トン分(このうち直接二酸化炭素・回収・貯留(DACCS)230億トン分含む)のCCUSが必要である。そのためには、2050年に2.6万テラワット時の電力を消費するが、これは2022年の世界総電力需要を上回るものであり、また2050年までに毎年3.5兆ドルの投資が必要と見積もられることがその理由である。
CCUSについて、IEA報告のニュースリリースにおいてファティ・ビロル事務局長は、「石油ガス産業は、世界がエネルギー需要と気候変動目標を達成できるよう真に貢献することに取り組む必要がある。これは、信じられないほど大量の二酸化炭素を回収することが解決策であるという幻想を手放すことを意味する(letting go of the illusion that implausibly large amounts of carbon capture are the solution)」と述べている[7]。
(6) 産油・産ガス国へのインプリケーション
IEA報告は、石油ガス産業のみならず、産油・産ガス国の国営企業や政府に対して、将来の炭化水素需要減に伴う収入減を見越し、来るべき変化に対応するための準備を進めることを推奨している。これはCOP28が伝統的エネルギー生産国であるアラブ首長国連邦において開催されることに加え、同国国営石油会社であるADNOCのCEOを務めるスルタン・ジャーベル氏が議長に就き議論を主導し、エネルギー業界をCOPの議論に包含することに対し、前項で紹介したような「エネルギーの世界が変われば、我々も変わる」のではなく、当事者として能動的にそして実践的に取り組むことの必要性を訴えるものである。
NZEシナリオにおいては、資源価格の低下によりその収入に依存する国々の収入を悪化させる(図 7)。しかし低コスト炭化水素の主要生産者は豊富で未使用の低排出資源を有しており、これらは将来のクリーンエネルギーバリューチェーンや低炭素産業において重要な価値を持つ(図 8)。伝統的なエネルギー供給からの排出を減らすこと、非効率な燃料補助金等を廃止し、クリーンエネルギー導入を加速化することで国内エネルギーシステムをよりクリーンにすること、低排出製品やサービスを発展させるバリューチェーンを構築することが重要であると指摘している。
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 4.10
出所:IEA The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions Figure 4.19
4. 誰の「正念場」か?(OPEC論考)
(1) 石油ガス産業は「正念場」を迎えるのか
11月23日に発表されたIEA報告を受け、OPECは11月27日に、「Whose ‘moment of truth’?(誰の「正念場」だ?)」と題する2ページの論考をホームページに掲載した(図 9)。石油ガス産業が「正念場」を迎えるとするIEA報告に対し、これを真っ向から否定した格好だ。
OPEC論考の冒頭、IEAの規範的なネットゼロ2050シナリオ(NZEシナリオ)を背景に、「石油ガス産業は『気候変動を煽るか、クリーンエネルギーへの移行を受け入れるかの選択を迫られている(“choose between fueling the climate crisis or embracing the shift to clean energy”)』と言われてきた。これは、我々の目の前にある課題の非常に狭い枠組みを提示しているに過ぎず、おそらく、エネルギー安全保障、エネルギーアクセス、エネルギーの手ごろな価格による供給の問題を軽視している」と問題を提起する。
OPECのアル・ガイス事務局長は、「私たちが直面するエネルギーの課題は巨大かつ複雑であり、二者択一の質問に限定できるものではない」、「エネルギー安全保障、エネルギーアクセス、そしてすべての人にとっての手ごろな価格のエネルギーは、排出削減と密接に関係しなければならない。これには、すべてのエネルギー、すべての技術への大規模な投資、そしてすべての人々のニーズの理解が必要であり、OPECでは、世界はエネルギー源の選択ではなく、排出削減の課題に集中しなければならないと信じていると繰り返す」と同氏は付け加えた。
OPEC加盟諸国をはじめ、石油ガス産業は再生可能エネルギーを受け入れ、大規模な投資を既に開始しているほか、CCUS、DACCS、二酸化炭素除去、クリーン水素製造などの排出量を削減する技術に投資しており、実際、一部のOPEC加盟国はこの点で世界のリーダーであるとし、きわめて実利的にエネルギー気候変動対策に取り組んでいる。それ故、石油ガス産業が「正念場」迎えているなどという指摘には当たらないという認識である。
出所:OPEC
(2) IEA報告に対する反論
OPECはまた、IEAが提案する「企業目標とNZEシナリオの整合性を評価する枠組み」(IEA報告P.145~P.151参照)は、国営石油会社への圧力を通じ、石油ガスを生産する途上国の主権的行動と選択を抑制することを目的とした手段であると主張する。この枠組みは、各国がそれぞれの能力や状況に基づいて世界の温室効果ガス排出削減への貢献手段を決定するパリ協定の「ボトムアップ」アプローチとも矛盾しており、投資の削減や、IEAの重要な義務の一つである供給の安全性の侵害につながる可能性が高いとも指摘している。
また、「3.(5) 石油ガス産業の将来に関する議論における二つの誤解」において示したとおり、CCUSに対する過度の期待と依存をすべきではないというIEAの主張に対し、IPCCの評価報告書で気候変動問題への解決策の一部として支持されているCCUSなどの技術を「幻想」と呼んでいることを「残念なこと」であると批判した。CCUSがすべての問題を解決する特効薬ではなく、技術的・経済的制約のなかから、有効な手段を選択して適用するべきであり、選択肢を排除すべきではないというのがOPECの主張である。
さらに、IEA報告の内容に関わるものではないが、「IEAが残念なことにここ数日ソーシャルメディアを活用して石油ガス産業を批判したり、指導したりしているやり方は、控えめに言って(to say the least)非外交的である。OPEC自身は、他人に何をすべきかを指示するような組織ではない」とも論考の中で述べている。
(3) OPECの使命
巨大かつ複雑なエネルギー気候変動対策には、より多くの対話が必要とされており、指差しによる指摘(finger pointing)は建設的なアプローチではないことをOPECは主張している。加盟国に途上国や新興国も含まれるなか、手ごろな価格で安定的なエネルギーアクセスが必要であるというグローバルサウスの声を代弁するように、「排出量を削減し、人々が快適な生活を送るために必要なエネルギー製品やサービスを確実に利用できるよう、協力して決意を持って行動することが重要である」としている。
OPEC論考の最後、アル・ガイス事務局長は、「我々はこの先に『正念場』が訪れると確信している。私たちは、すべての国には独自の秩序あるエネルギートランジションの経路があることを理解する必要がある。選ばれた少数の人だけでなく、すべての声が届くという保証が必要である。エネルギートランジションが経済成長を可能にし、社会的流動性を高め、エネルギーアクセスを促進することを保証する必要がある。そして同時に排出量を削減することが必要である」とし、締めくくった。
5. おわりに
「誰の『正念場』だ?」とするOPEC論考の矛先はどこに向けられているのか。狭義にはIEA報告であり、石油ガス産業のクリーンエネルギー投資が十分でないとの指摘に対する反論である。しかし広義には、2015年のCOP21から8年が経過したにも関わらず、UNEPが指摘するように「各国は現行のパリ協定より更なる排出削減を行わなければ、2.5から2.9°Cの気温上昇に直面する」すべての当事者に向けられているのであろう。
今後もエネルギーシステムの大宗をしめる化石燃料需要の伸びに対し、OPECを中心とする産油ガス国においては、責任ある供給者として、安定的で安価にエネルギーを供給し、エネルギーセキュリティ、エネルギーアクセスを確保すべきだという自負と主張が強くある。「需要に対して責任ある供給を行う」という姿勢を否定し、「エネルギーの世界が変われば、我々も変わる」という態度の転換を石油ガス産業に促すのは、COPの議論に包含される石油ガス産業に対する期待と、役割の大きさの現れである。ファティ・ビロルIEA事務局長は、IEA報告のニュースリリースの最後を、「クリーンエネルギーの進歩は、石油ガス生産者の有無にかかわらず続くだろう。しかし、このセクターが同意しなければ、ネットゼロへの道のりはよりコストがかかり、舵取りが困難になるだろう」[8]と締めくくっているように、石油ガス産業が気候変動の議論に当事者として参加することの意義が試されるCOP28となる。今後も議論の行方に注目したい。
[1] 国連環境計画, Nations must go further than current Paris pledges or face global warming of 2.5-2.9°C, https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/nations-must-go-further-current-paris-pledges-or-face-global-warming(外部リンク)
2023年11月30日閲覧
[2] IEA, The Oil and Gas Industry in Net Zero Transitions, https://iea.blob.core.windows.net/assets/a6e9b926-2349-4bee-856e-4997aab5399f/TheOilandGasIndustryinNetZeroTransitions.pdf(外部リンク)
2023年11月23日閲覧
[3] OPEC, Whose ‘moment of truth’?, https://www.opec.org/opec_web/en/7262.htm(外部リンク)
2023年11月27日閲覧
[4] 外務省, 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)、京都議定書第16回締約国会合(CMP16)、パリ協定第3回締約国会合(CMA3)等, https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page24_001540.html(外部リンク)
2023年11月30日閲覧
[5] 外務省, 国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27) 結果概要, https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1_001420.html(外部リンク)
2023年11月30日閲覧
[6] IEA, Oil and gas industry faces moment of truth – and opportunity to adapt – as clean energy transitions advance, https://www.iea.org/news/oil-and-gas-industry-faces-moment-of-truth-and-opportunity-to-adapt-as-clean-energy-transitions-advance(外部リンク)
2023年11月30日閲覧
[7] 同上
[8] 同上
以上
(この報告は2023年12月1日時点のものです)


