ページ番号1009958 更新日 令和6年10月17日
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概要
- ベネズエラの与野党が、次回の大統領選挙を2024年末までに自由で公正に実施するための協定を結んだことを受けて、米国財務省外国資産管理局(Department of the Treasury’s Office of Foreign Assets Control:OFAC)は2023年10月18日に一般許可証44号(General License No. 44:GL44)を発効し、2024年4月18日までの6ヶ月間、ベネズエラの石油・ガス部門のほぼ全ての事業に課されていた制裁を実質的に停止した。
- OFACは2022年11月にGL41を発効、Chevronに対してベネズエラでの原油生産や生産された原油の米国向け輸出、希釈剤等の米国からの輸入等を認めていたが、GL44によりChevron以外の石油会社も、米国から個別に許可を得ずにベネズエラで新たに投資を行い、原油を生産し、これを輸出できるようになった。
- GL41により、米国から希釈剤が輸入されるようになったこともあり、ベネズエラの原油生産量はわずかではあるが増加し、2023年4月以降は日量80万バレル前後で推移している。さらに、GL44により、ベネズエラで原油、ガスの生産を増やす、あるいは減少した生産を回復させようとする企業が現れている。しかし、ベネズエラでは、長年にわたり投資や技術者が不足しており、また、制裁解除期間は更新の可能性はあるが6か月と短く、石油会社はベネズエラでの投資に慎重にならざるを得ないと考えられ、急激なベネズエラの原油生産増は難しいと見られている。
- 米国による制裁の解除により、インドがベネズエラ産原油の輸入を再開しており、またRepsolとPetroChinaがカナダ産重質原油の一部をベネズエラ産重質原油に代替する可能性がある。ただし、原油生産の伸びは大きくないと考えられ、また、ベネズエラ産原油増産分のほとんどが米国メキシコ湾岸で利用される可能性が高いことから、当面の間、ベネズエラ産原油が欧州やアジアに大量に流入する可能性は低いと考えられる。
- Maduro政権は、野党の大統領選挙予備選挙の結果を差し止めたり、政治犯等の釈放を進めていなかったりと、野党との協定に反する行動をとっている。また、ガイアナ西部Esequiboを自国領とし、Esequiboをベネズエラに併合することの賛否を問う国民投票を実施した。ベネズエラ、ガイアナ間で軍事衝突が起きる可能性や米国がベネズエラに制裁を再発動する可能性が高まっている。
1. ベネズエラ与野党の協定締結を受け、米国は制裁を一時解除
Maduro政権とベネズエラの野党の国会議員で構成された政治同盟Plataforma Unitaria(PU)の代表は、2023年10月16日、ノルウェーの仲介、バルバドスの主催により、次回の大統領選挙等についての協議を行った。両者は翌17日に、次期大統領選挙を2024年末までに自由で公正に実施するための協定に署名した。協定には大統領選挙の日程を2024年下半期とすること、国際的な選挙監視団を受け入れること、全ての候補者と政党に大統領選挙への参加を認めること、全ての候補者がメディアへアクセスできるようにすること、不当に拘束されている米国人とベネズエラの政治犯の釈放を開始すること等が盛り込まれている。
米国財務省外国資産管理局(Department of the Treasury’s Office of Foreign Assets Control:OFAC)はこの協定を確認後、翌18日に一般許可証44号(General License No. 44:GL44)を発効、ベネズエラに対する既存の経済制裁を緩和し、2024年4月18日までの6ヶ月間、ベネズエラの石油・ガス部門の以下の活動を許可した。
- ベネズエラの石油・ガスの生産、販売、輸出、および関連商品とサービスの供給
- 石油・ガス部門運営に関連する商品およびサービスの請求書の支払い
- 債務返済の一環として、政府やベネズエラの国営石油会社PDVSAの債権者へのベネズエラからの石油およびガスの輸送
- 石油・ガス部門への新たな投資
- 封鎖されているベネズエラ中央銀行やベネズエラ銀行等一部の銀行との取引
OFACによると、GL44は、ベネズエラから米国およびその他地域への石油・ガスの販売、石油・ガス部門の運営に関連する税金、ロイヤルティ、コスト、手数料、配当、利益の支払い、PDVSAに関係する取引等、ベネズエラの石油・ガス部門のほぼ全ての事業に課されていた制裁を実質的に停止するものである。
GL44は、Maduro政権がPUとの協定を順守した場合に限り、6ヶ月の期間終了時に更新される。
一方、Maduro政権が協定を守らない場合には、OFACは、米国の外交政策と国家安全保障の優先事項を支援するために、これらを取り消す、すなわち、制裁が再開される可能性があるとしている。ただし、制裁再開をどのように行うかについて詳細は示されていない。
今回の制裁緩和により、6ヶ月間という期間限定ではあるが、Chevron以外の石油会社も、米国から個別に許可を得なくとも、PDVSAと協力して、ベネズエラで新たに投資を行い、原油を生産し、これを輸出できるようになった。
2. 米国による対ベネズエラ制裁の経緯
米国は、2018年5月に実施されたベネズエラ大統領選挙が野党を排除して行われたものであり、Maduro政権は公正な選挙を経ていない政権であるとして、Maduro政権への資金流入を阻止し、民主的な選挙で選ばれた政権にベネズエラの石油産業を引き渡せるよう保護するとともに、Maduro政権が存続した場合にはMaduro大統領が石油産業を運営することを困難にすることを狙って、2019年1月28日にPDVSAを経済制裁の対象に指定した。Chevronおよび大手サービス会社Halliburton、Schlumberger、Baker Hughes、Weatherfordは、資産の維持や設備のメンテナンス等のみを許可された。2020年、2021年には、PDVSAが米国の制裁を回避するのを幇助したとして、石油会社や海運会社だけでなく個人にも制裁が科されるようになった。
そのような中、2022年11月26日にノルウェー外務省の仲介により、メキシコシティでベネズエラ与野党の協議が実施され、両者は、国連が管理するプログラムのもと、制裁により凍結されていた数十億ドルの資産を教育や健康、食料安全保障、洪水対策などの人道的な支援とインフラ整備に使うことや2024年の大統領選挙実施に向けて協議を継続することで合意した。これを受けて、OFACはGL41を発効、Chevronに対して2023年5月26日までベネズエラで原油と石油製品を生産することを許可した。生産された原油の米国向け輸出や希釈剤等の米国からの輸入も認められたが、PDVSAは石油輸出による売却益を受け取ることはできず、収益はChevronに対する債務の返済に充てられることとなった。大手サービス会社もベネズエラでの作業を再開することが認められた[1]。OFACは2023年5月23日、Chevronと大手サービス会社に同国での事業継続を同年11月19日まで認めた。
3. 最近のベネズエラでの探鉱・開発・生産動向
IEAによると、2023年10月のベネズエラの原油生産量は前月比増減なしの日量77万バレルであった。
2022年11月にOFACがベネズエラに対する経済制裁を一部緩和し、Chevronにベネズエラでの原油と石油製品の生産を許可し、米国から希釈剤が輸入されるようになったことで、2022年に入ってから日量70万バレル前後で推移していたベネズエラの原油生産量は、わずかではあるが増加し、2023年4月以降は日量80万バレル前後となっている。原油生産は引き続き、停電や機材の故障などに左右されているが、希釈剤が入手できるか否かが原油生産に最も影響を与えており、米国から希釈剤の供給を受けるPetropiar(PDVSA70%、Chevron30%)は生産量が日量8万バレルで安定しているのに対し、Sinovensaは希釈材不足で11月に入り生産量が減少しているという。
以下に石油会社や産油国による探鉱・開発の状況をまとめた。いずれの石油会社もベネズエラで原油、ガスの生産を増やしたり、減少した生産を回復させたりするとしている。
しかし、ベネズエラでは、長年にわたり、原油生産設備や輸送インフラ、発電設備等に対して十分な投資が行われず、これらの設備が故障したり老朽化したりしたまま放置されてきた。また、チャベス前政権以降、多くの石油関連技術者が国外に脱出してしまい、技術者不足の問題にも直面している。これらの問題を解決し、原油生産量を増加させるには、多額の投資と一定の時間が必要となろう。
一方、米国の制裁解除期間は6か月で、ベネズエラが公正な大統領選挙を実施できるよう合意を実行する場合にのみ更新されることになっている。また、Maduro大統領が容易に権力を手放す可能性は低いと見られており、公正な選挙が行われるとの確信が持てないため、新たにベネズエラに参入する石油会社はもちろん、すでにベネズエラで活動中の企業もベネズエラで投資を行うこと慎重にならざるを得ないだろう。
このような状況から、米国エネルギー情報局(EIA)は、ベネズエラの原油生産量の伸びは2024年末までに日量20万バレル未満に留まるとしており、コンサルタント等も、制裁緩和により、ベネズエラの原油生産は非常に落ち込んだ水準から引き上げられるが、10年前の水準に戻るには巨額の投資が必要で、短期的には市場が経験している不足には影響しないだろうと、いずれも急激なベネズエラの原油生産増は難しいとの見方をしている。
(1) Chevron:2023年末までに原油生産量を日量15万バレルとする計画
Chevronは、OFACからのGL41発効とその延長を受けて、依然として一部制限はあるものの、坑井と施設の修理を行いながら事業を維持している。Chevronは、ベネズエラの原油生産量を2023年初めの日量6万バレルから11月初旬には日量13万バレルへ増加させ、さらに、2023年末までには日量15万バレルまで増やす計画だ。ただし、大統領選挙等の地政学的な不確実性が存在することもあり、このような短期間のライセンスでは大規模な投資を行うことはなく、ベネズエラの原油生産量の伸びには限界があるとしている。
(2) Maurel & Prom:PDVSAと原油増産に関する契約を締結
PDVSAとフランスの石油開発会社Maurel & Prom(M&P)は、ベネズエラ西部の両社のジョイントベンチャー事業に関し探鉱・開発を拡大し、原油・ガス生産を増加させるとする契約に署名した。
この契約には、マラカイボ湖のUrdaneta Oeste油田の再開発が含まれており、同油田の原油生産量を現在の日量16,000バレルから2023年末までに日量25,000バレルまで引き上げる計画となっている。M&Pは今回の契約の一環として、ベネズエラZulia州での現在の生産量を日量5万バレルに引き上げることを目指しており、2024年にも同油田の生産量を増やす計画であるという。
また、今回、PDVSAとM&Pが締結した契約には、ベネズエラの事業の収益の一部をM&Pの現地子会社M&P Iberoamericaの未払い債務9億1,400万ドルの回収に充当することも含まれている。
M&Pは2018年に、Shellが保有していたUrdaneta Oeste油田の権益40%を取得した。同油田の契約は、契約期限が2041年までとなっており、2022年末時点で4億2,200万バレルの原油の開発が承認されている。
(3) Repsol:長年にわたる原油生産減少を回復させることを期待
RepsolのCEO、Josu Jon Imaz氏は、米国の制裁一時解除を受けて、ベネズエラでの同社の事業を拡大する余地があるとの見方を示した。
Repsolは、ベネズエラの8鉱区(Perla、Quiriquire Gas、Petrocarabobo、Petroquiriquire、Ypergas、Quiriquire EM、Mene Grande、Barúa Motatán)の権益を保有している。
このうち、PetroquiriquireとPetrocaraboboについては生産量が日量2.2万~2.3万バレルまで減少しているが、Imaz氏はこれを反転させる機会があるとした。
天然ガスについて、RepsolはEniとともに、2009年9月にベネズエラ湾Cardón IV鉱区でPerlaガス田を発見し、2015年7月に生産を開始した。現在、同ガス田で生産されるガス、日量4.5億~5億立方フィートはベネズエラ市場に供給されているが、近い将来に生産量増加分を輸出する可能性があるとした。
米国の制裁により中断されていたベネズエラ産原油の両社への供給は2022年6月に再開された。現在、ベネズエラのRepsolに対する負債は約40億ドルとなっているが、Repsolは今後、債務返済速度を速める余地があるとした。
このように、RepsolはEniとともに米国の制裁緩和を歓迎し、ベネズエラ産原油の生産、輸出増を望んでいるが、政治的な安定がなければ大規模な投資が行われる可能性は低く、短期的な原油生産量の増加はわずかとなる可能性が高いと見る向きが多い。また、ベネズエラ産原油のフローの変化の見通しについては後述するが、ベネズエラ産原油の増産分の多くが米国メキシコ湾岸に供給される可能性が高く、この観点からも欧州勢によるベネズエラ産原油追加輸入量は少ない可能性が高いと見られている。
(4) Maha Energy:Maracaibo湖西岸3油田の開発に参画、増産の可能性
スウェーデンのエネルギー会社Maha Energyは、ベネズエラの石油・ガス会社PetroUrdanetaの株式の40%を取得する可能性があると2023年10月19日に発表した。ブラジルのNovonor Latinvest Energyとの独占契約により、Novonor Latinvest Energyの100%子会社で、PetroUrdanetaの株式の40%を保有するOdebrecht E&P Españaの株式の60%を取得する権利がMaha Energyに付与される。Maha Energyは、490万ドルを支払い、最大9ヶ月の独占期間を確保しデューデリジェンスを実施する。デューデリジェンスを継続する場合、Maha Energyは追加で490万ドルを支払い、独占期間を12ヶ月間延長するとされている。その後、Maha EnergyはOdebrecht E&P Españaの株式の60%を1,910万ドルの分割払いで取得するコールオプションを取得することになる。この契約には、Maha Energyが残り40%の株式を取得するオプションも含まれている。
PetroUrdanetaは、Maracaibo湖西岸陸上の3油田(La Paz、Mara Este、Mara Oeste)の権益100%を保有し、操業を行っている。現在の原油生産量は日量1,000バレルであるが、2~3年後にはこれを日量2万~4万バレルに増加させる計画であるという。なお、PetroUrdanetaの株式の残り60%はPDVSAが保有している。
(5) 南米の国営石油会社:ベネズエラでの探鉱・開発に関心
2023年10月24日、ボリビア国営石油会社YPFBはPDVSAとベネズエラでの炭化水素開発に関する協定を締結した。両社共同で炭化水素の探鉱、開発、精製のための研究とプロジェクト開発を行うことが可能になる。
YPFBは、これまで、ボリビア国内での天然ガスの探鉱・開発を主な業務としてきたが、ボリビア国内で思うように探鉱成果が上がらず、天然ガス生産量が減少を続けている。炭化水素生産のためにベネズエラに投資を行うことで、国際化の第一歩としたいと考えている。YPFBは、ベネズエラでの探鉱・開発に資金を投じるだけでなく、長年にわたって蓄積されてきたポテンシャル、経験、知識を有するボリビアの人材をもベネズエラに投入するとしている。
ブラジル国営石油会社PetrobrasのCEO、Jean Paul Prates氏は、石油が豊富な国での存在感を再確立することを検討しており、石油とガスの大きなポテンシャルを考慮して、隣国ベネズエラ等での機会を模索していると発言した。
ブラジルは、プレソルトの増産により、2023年9月の原油・天然ガス生産量が石油換算で日量467万バレル(うち、原油が日量367万バレル)と過去最高を記録する等、現時点では生産量が増加を続けている。しかし、新たな埋蔵量が発見されない限り、ブラジル国内の原油・天然ガス生産量は今後10年以内に減少すると予想されている。Petrobrasは近年、プレソルトでの探鉱成果が思わしくなく、また、環境面で課題があることから、有望と見られている赤道部沿岸域での探鉱を実施できない状態が続いている。また、2023年1月にLula Da Silva氏が大統領の座に返り咲いたことで、それまでのブラジル国外や中下流の資産を売却し、プレソルトでの探鉱・開発に注力するというPetrobrasの方針が変更され、ブラジル国外や中下流の事業にも再度、目を向けるようになっている。このような状況から、Petrobrasはベネズエラでの探鉱・開発を検討し始めたと考えられる。Petrobrasは、2022年11月、米国による制裁緩和後のベネズエラでのChevronの操業に着目、これが順調に進んでいることについて慎重に検討しているという。
コロンビアのGustavo Petro大統領は2023年11月、ベネズエラを訪問しMaduro大統領と会談したが、その後、コロンビアの国営石油会社Ecopetrolがベネズエラのガス田や油田の開発においてPDVSAのパートナーとなる可能性は非常に高いと発言した。
Petro大統領は、ベネズエラ訪問時には、Ecopetrolがベネズエラでどのような取り組みを行う予定なのか詳細について明らかにしなかったが、その後、PDVSAとの提携により、Barrancabermeja製油所近郊までベネズエラ産の安価な原油を、La GuajiraのBallenaまでベネズエラ産天然ガスを持ち込むことが可能になると語った。一方、Maduro大統領は、コロンビアの電力が間もなくAmazonas州、Tachira州、Zulia州に送られる可能性があると示唆した。
Petro大統領は、大統領就任前から、コロンビアは資源開発と化石燃料消費に基づく経済モデルから脱却すべきだと主張し、既存の油田、ガス田での生産は続けるものの、新規の探鉱や鉱区付与は行わず、これにより、約12年をかけてコロンビアは化石燃料からの脱却を図るとしてきた。このようにコロンビア国内での新たな探鉱は停止するとしているにもかかわらず、Ecopetrolにベネズエラで探鉱・開発を実施させるというのは、論理性、一貫性に欠けていると批判を受けており、今後の動向が注目される。
トリニダード・トバゴのYoungエネルギー相によると、2023年10月、トリニダード・トバゴはベネズエラ沖合Dragonガス田の共同開発に関してベネズエラとの交渉を進めるため、米国財務省から修正免除(waiver)の発効を受けた。
これは、PDVSAやShell、トリニダード・トバゴが協力して、ベネズエラ北東部沖合のDragonガス田を開発し、トリニダード・トバゴのHibiscusガス田経由でAtlantic LNG(ALNG)の液化プラントに輸送し、液化、輸出するというプロジェクトに関するものである。OFACは2023年1月に、Dragonガス田開発プロジェクトについて2年間にわたり制裁を免除し、トリニダード・トバゴがPDVSAやShellとともに同ガス田を開発することを許可した。しかし、この際には、トリニダード・トバゴがMaduro政権に対して現金による支払いを行うことは認められず、トリニダード・トバゴはDragonガス田から供給されるガスについて、薬や食料などの人道的物資を現物支給する等の現金以外の具体的な支払い方法を検討していると伝えられていた。今回、トリニダード・トバゴの国営ガス会社NGCおよびShellは米ドルまたはボリバルを含む法定通貨でベネズエラ政府に支払いを行うことが許可された。
トリニダード・トバゴに対して発行されたwaiverは、2023年10月18日にベネズエラに関連してOFAC によって発効され、2024年4月18日に期限切れとなるGL44とは別のものであり、2025年10月末まで有効である。
Youngエネルギー相率いるトリニダード・トバゴ代表団は、Dragonガス田開発プロジェクトに関するベネズエラ政府との交渉を完了させるため、間もなくベネズエラのカラカスを訪問する予定であるという。
(6) ロシア:ベネズエラと政府間協力協定を締結
ロシアとベネズエラは、2023年10月中旬にモスクワで開催された「ロシア・ベネズエラハイレベル政府間委員会」で、エネルギー、石油、観光、文化、教育の分野に関する16件の協力協定を締結した。石油・ガス関連では、PDVSAが、ODK Engineeringとの間で揚水タービンのメンテナンスに関する覚書を、Rosgueologiaとの間でベネズエラでの新規探鉱に関する覚書を、PDVSAはKarpinski地質研究所と地質調査、技術相談、および従業員研修についての覚書を、それぞれ締結した。
ロシアのAlexander Novak副首相は、ロシアとベネズエラが石油輸出国機構(OPEC)+に参加していることを踏まえ、ロシアとベネズエラが石油に関して協力することの重要性を強調、「OPEC+を含め、世界のエネルギー市場を安定させるための共同作業を継続することが重要であることに留意する」と述べた。Novak副首相は、多くのロシア企業がエネルギー施設や輸送機器の近代化と建設、そしてベネズエラの低迷する石油・ガス産業の復興支援に関心を表明していると語った。
4. 原油フローへの影響
米国による制裁の解除により、ベネズエラ産原油の輸出先に変化が生じ、原油流通ルートの再編につながる可能性が高いと見られている。
米国による制裁解除直後から、インドはベネズエラ産原油の輸入再開に向け検討を始めた。米国による制裁が科されるまで、民間のReliance Industries等がベネズエラ産原油をインドに供給していた。インドは、2013年から2016年には日量約40万バレル、2017年から2019年にかけては日量30万バレル強のベネズエラ産原油を輸入していた。また、インド政府は、特に石油に関しエネルギー源の多様化を図りたいという考えがあるという。
2023年12月初めの報道では、Reliance Industriesがインド西部Sikka港までベネズエラ産原油を輸送するために少なくとも2隻のVLCCをチャーターする等により、12月には、それぞれ200万バレルのベネズエラ産原油を積み込んだ少なくとも4隻のタンカーがインドに向かっている。ベネズエラは1月にさらに600万バレルのベネズエラ産原油をインドに供給する可能性があるという。(国営IOCなど複数の精製事業者がトレーダーを介して2月渡しのベネズエラ原油計400万バレルを買い入れたとも報じられている。)
一方、RepsolとPetroChinaは、米国メキシコ湾岸経由でカナダ産重質原油を輸入しているが、現在、両社はPDVSAと協議を進めており、このうちの一部をベネズエラ産の重質原油に代替する可能性があるという。
PetroChinaの掲陽製油所の精製能力は日量40万バレルで、従来、ベネズエラ産Merey原油を優先的に処理していたが、米国の対ベネズエラ制裁によりこれをカナダ産重質原油に切り替えた。PetroChinaは今後、PDVSAから日量約26万~30万バレルの原油を確保する見込みで、2023年1月から8月に同製油所が調達したカナダ重質原油31.9万バレルのほぼ全量を置き換える可能性があるとしている。
RepsolのスペインCartagena製油所の精製能力は日量22万バレルで、2023年1月から8月には日量24.1万バレルの原油を処理したが、このうちカナダ産重質原油が17.5%を占めた。RepsolはPDVSAと協力して、ベネズエラのジョイントベンチャーでの石油とガスの生産を強化している。RepsolのJosu Jon Imaz最高経営責任者(CEO)によると、米国の制裁緩和により「製油所向けの重質原油の利用可能性が高まる」と予想されるが、増加の程度については不透明だという。
このように、ベネズエラ産原油がインド、中国や欧州により多く供給されるようになる可能性はあるが、前述した通り、政治的な安定がなければベネズエラの石油産業への大規模な投資は行われず、短期的には原油生産の増加はわずかとなる可能性が高い。また、米国メキシコ湾岸にはベネズエラ産原油を処理するのに適した製油所が多くあり、ベネズエラ産原油増産分のほとんどが米国メキシコ湾岸で利用される可能性が高い。この点からも、当面の間、ベネズエラ産原油が欧州やアジアに大量に流入する可能性は低いと考えられる。
5. 終わりに
制裁が解除されたことにより、ベネズエラはこれまで割引価格で中国に販売していた原油を、正規の価格で米国メキシコ湾岸等に売却できるようになり、歳入増を図ることが可能となる。次期大統領選挙は2024年の11月または12月に行われる可能性が高いので、ベネズエラは制裁解除期間6か月経過後にライセンスを延長し、大統領選挙に必要な資金を確保するだろう。しかし、Maduro大統領が権力を手放すとは考えにくく、公平な選挙は行われず、米国は再度、ベネズエラに制裁を課す等の措置をとることになるだろう。制裁が解除された当初より、このような見方がなされていた。
ベネズエラでは、2023年10月22日に、大統領選挙に向けて野党候補を選ぶ予備選挙が行われた。事前の予想を上回る240万人が投票を行い、María Corina Machado氏が開票率91%の時点で92%の票を獲得して野党の大統領候補に選出された。Machado氏は、米国による経済制裁を支持した等の理由で、Maduro政権が選挙へ立候補することを禁止する措置をとっていた人物である。選挙結果に不満を持つMaduro大統領はこの大統領予備選挙を詐欺等と主張、政府は選挙違反や金融犯罪の疑いがあるとして捜査を開始、10月30日には最高裁判所がこの予備選挙の結果を差し止めるとした。
また、Maduro政権は、PUとの合意を受けて、当初5人の政治犯を釈放したが、それ以降、政治犯等の釈放は行われていない。
このようなベネズエラの動きに対して、米国は11月7日、ベネズエラが民主的選挙に向けて前進し、11月30日までに追加の政治犯釈放を進めない限り、ベネズエラの石油セクターを標的とした制裁を再導入する可能性があるとした。
さらに、11月末には、ベネズエラ石油セクターに対する制裁の一時的緩和は、本格的な操業再開を支持するものとみなされるべきではないと米財務省当局者が警告を発したとの報道がなされた。
12月1日、政治犯の釈放に関して、米国は、我々はこれらの問題について積極的な外交的関与を継続しており、状況を考慮して次のステップについて数日以内にさらに発言する予定だとコメントしている。
さらに、ベネズエラは以前より、ガイアナのおよそ7割を占める西部Esequibo地域の領有権を主張していたが、12月3日に、Esequiboをベネズエラに併合することへの賛否を問う国民投票を実施した。選挙管理当局によると、95%以上がこれに賛成したという。これを受けて、ベネズエラ、ガイアナ間で軍事衝突が起きる可能性や米国がベネズエラに制裁を再発動する可能性が高まっており、ガイアナを含め状況を注視していく必要があろう。
[1] 石油・天然ガス資源情報2022/11/30「米国はベネズエラに対する制裁を一部緩和、Chevronに原油生産と米国向け輸出を許可」参照
以上
(この報告は2023年12月7日時点のものです)