ページ番号1009987 更新日 令和6年10月17日
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概要
- ベネズエラは、2023年12月3日に、ガイアナのEssequibo(Guayana Esequiba)地域をベネズエラに併合することへの賛否を問う国民投票を実施、1,050万票以上の票が投じられ、その95%以上が賛成票であった。国民投票の結果を受けて、Maduro大統領はEssequibo地域に関する戦略的行動計画を発表、Essequibo地域を併合し、ベネズエラの新たな州とし、同地域に国営石油会社PDVSAの子会社を設立し、石油、ガスの操業ライセンスを付与するとする一方、同地域ですでに探鉱・開発中の企業には3カ月以内に撤退するよう求めた。ベネズエラがガイアナに侵攻するのではないかと懸念されたが、12月14日に両国大統領が会談し、ガイアナとベネズエラは、直接的または間接的に、いかなる状況下でも、相互に脅迫したり、武力を行使したりしないとする共同宣言を発表した。
- 今回のMaduro政権の一連の動きの背景には、政治的な要因が多分にあると考えられるが、ガイアナ沖合での油田開発も影響していると思われる。ガイアナでは、ExxonMobilによりStabroek鉱区の開発が進んでいる。同鉱区の可採埋蔵量は110億バレル超で、原油確認埋蔵量が3,000億バレル以上と世界一を誇るベネズエラに比べると少ない。しかし、かつて日量300万バレルを超えていた原油生産量が減少、現在では日量80万バレル程度で推移しているベネズエラとは対照的に、ガイアナは、2024年上半期に日量62万バレル、2027年末までに日量120万バレルと、今後、急激に原油生産量を増やす見通しである。また、ガイアナで生産される原油のAPI比重は30度前後の中質原油であるのに対し、ベネズエラで主に生産されている原油はAPI比重が10度前後の超重質油で生産や輸送に手間と費用がかかり、売却価格も安い。このような点から、ベネズエラはガイアナ沖合での油田開発に興味を示したと考えられる。
- 両国大統領の会談により、当面、ベネズエラがガイアナに侵攻する可能性は低下し、ガイアナの原油生産は計画通りに増加していくと考えられる。ExxonMobil等同国で活動する外国企業も撤退に関する憶測を否定した。しかし、両国の国境に関する基本的な考え方に変化はなく、解決の糸口は見出されていない。次回の両大統領による会談を含め今後の両国の動向を注視していく必要があろう。
1. Maduro大統領、国民投票を受けガイアナ西部併合に動くも、両国大統領会談で対話継続へ
ベネズエラは、2023年12月3日に、ガイアナのEssequibo(Guayana Esequiba)地域をベネズエラに併合することへの賛否を問う国民投票を実施した。
Essequibo地域は、ガイアナのEssequibo川よりも西側のほぼ密林に覆われたエリアで、面積は16万平方キロメートルと、ガイアナの国土の約70%を占めている。ここに、ガイアナの人口約80万人のうち12.5万人が居住している。

各種資料を基にJOGMEC作成
このEssequibo地域をめぐるベネズエラとガイアナの争いは19世紀初頭から続いている。ベネズエラは、ガイアナが英国領となる前のオランダ支配下の時代には、Essequibo地域はスペイン統治下のベネズエラに属していたと主張している。1899年にはパリ仲裁裁定が、Essequibo地域を当時英国領であったガイアナ(英領ギアナ)の領土と認め、ベネズエラは不承不承これを受け入れた。ガイアナは1966年5月26日に英国から独立したが、その直前の同年2月17日に英国、ベネズエラ、英領ギアナが、Essequibo地域に関してベネズエラとガイアナの双方が互いの主張を認め、平和的で満足のいく解決に向けて取り組むことで合意し、ジュネーブ協定を結んだ。その後、ガイアナは1899年の仲裁裁定によって定められた国境を最終的に決定されたものとして遵守しているが、ベネズエラはこの裁定を無効とみなし、ジュネーブ協定のみを有効と認めている。
米国による制裁の解除を目指して、ベネズエラ与野党は2023年10月17日、次回の大統領選挙を2024年末までに自由で公正に実施することに合意し、協定を締結した[1]が、この際に、与野党間では、同年12月3日に国民投票を実施し、Essequibo地域に関して以下5つの質問を行うことでも合意が成立、こちらについても協定が締結された。
- 我々のGuayana Esequibaを我々から剥奪しようとする1899年のパリ仲裁裁定によって、不正に設定された境界線を、あらゆる法的手段を通じて拒否することに同意しますか。
- あなたは、Guayana Esequibaの領土をめぐる論争に関して、ベネズエラとガイアナにとって現実的かつ満足のいく解決に達する唯一の有効な法的文書として、1966年のジュネーブ協定を支持しますか。
- Guayana Esequibaの領土紛争を解決するための国際司法裁判所の管轄権を認めないというベネズエラの歴史的立場に同意しますか。
- あなたは、国際法に違反して、境界画定保留中の海域を不法に処分しようとするガイアナの一方的な試みに、あらゆる法的手段を通じて反対することに同意しますか。
- Guayana Esequiba州の創設と、その領土の現在および将来の住民に対する包括的なケア促進計画の策定に同意しますか。これには、ジュネーブ協定と国際法に従って市民権とベネズエラの身分証明書を付与し、それによってこの州をベネズエラ領土の地図に組み込むことが含まれます。
選挙管理当局によると、この国民投票では1,050万票以上の票が投じられ、その95%以上が賛成票であった。
国民投票の結果を受けて、Maduro大統領は同年12月4日、Essequibo地域の領有権獲得へ「あらゆる行動をとる」と宣言、5日には国民投票の決定を実行するためにEssequibo地域に関する戦略的行動計画を発表した。この計画には、Essequibo地域保護のための委員会の設置、Essequibo地域保護のための組織法に関する国会審議の開始、Essequibo地域を領土に含む新たな国土地図の発行および配布、Essequibo地域にベネズエラの国営石油会社PDVSAと国営金属生産会社CVGの子会社創設、ガイアナによる許可により境界未画定水域で操業・協力する企業との契約を禁じる規程の策定などが含まれている。Maduro大統領は、これにより、Essequibo地域を併合し、ベネズエラの新たな州を創設するとした。そして、Essequibo地域における石油、ガス、鉱業の探鉱と生産のための操業ライセンスの付与を直ちに進めるとする一方、同地域ですでに事業を展開している企業には撤退するために3カ月の猶予が与えられると述べた。
ガイアナはベネズエラの国民投票前に、国際司法裁判所(ICJ)に対し、生存権への脅威だとして投票の実施を阻止するよう要請した。ICJは12月1日、ベネズエラに対し、「係争地の現状変更につながる行動を控えるべきだ」と言い渡したものの、ガイアナからの緊急介入要請は受け入れず、国民投票が実施されることになった。
ガイアナは、国民投票後のベネズエラの動きを受けて、同地域をめぐりベネズエラ側に新たな動きが認められれば国連安全保障理事会に訴え、国連憲章第41条に基づく制裁、もしくは第42条に基づく軍事行動を要請するとした。
ガイアナ沖での石油開発に関しては、Irfaan Ali大統領が、ガイアナ沖で操業中の石油会社は「積極的にプロジェクトを進めている」とコメント、石油生産計画に「絶対に減速はない」と述べた。また、Bharrat Jagdeo副大統領は、Maduro大統領には国際法上、ガイアナの問題を決定する権利はないと述べ、ベネズエラがガイアナの石油開発を妨げることはないとした。
石油会社もExxonMobilが12月11日に、ガイアナでの事業継続に引き続き取り組んでいると強調し、撤退に関する憶測を払拭した。Hessを買収しガイアナに参入することになるChevronのMike Wirth CEOは、ベネズエラとガイアナの国境紛争が軍事衝突に発展する可能性は低いとコメント、こうした問題は通常、軍事行動ではなく交渉と妥協によって解決されると強調した。
ベネズエラによるガイアナ侵攻の可能性からブラジル軍が厳戒態勢を敷いたり、ベネズエラがガイアナ侵攻のための道路建設を開始したり、米軍がガイアナへの協力を表明したりする等、ベネズエラ、ガイアナ間で軍事衝突が起きる可能性や米国がベネズエラに制裁を再発動する可能性が高まった。Maduro大統領は無期限に権力を維持するために、ガイアナのEssequibo地域への軍事侵攻を開始し、戒厳令や国家非常事態を宣言し、予定されている2024年の大統領選挙を延期する戦略なのではないかといった憶測が飛び交った。しかし、その一方で、時間が経過するにつれ、一連の動きは、2024年の大統領選挙に向けたMaduro大統領の政治的駆け引きであり、ベネズエラがガイアナに侵攻することはないのではないかとの見方が強まっていった。
12月14日には、Maduro大統領とAli大統領がセントビンセント・グレナディーンの首都Kingstownで本件について会談を行った。会談後の共同声明によると、ベネズエラとガイアナは、Essequibo地域をめぐる対話を継続し、この問題に対処するための共同委員会を設置することで合意した。共同宣言には、ガイアナとベネズエラは、直接的または間接的に、いかなる状況下でも、相互に脅迫したり、武力を行使したりしないことが盛り込まれた。そして、ベネズエラとガイアナは「両国間のいかなる紛争も、1966年のジュネーブ協定を含む国際法に従って解決される」ことに同意したという。共同宣言では、ガイアナが付与した沖合の探鉱・開発に関する権益について言及はなかった。次回の両大統領による会談は3か月以内、または「その他の合意された時期」に行われる予定とされている。
2. ガイアナの油田開発状況
今回のMaduro政権の一連の動きの背景には、政治的な要因が多分にあると考えられる。しかし、ベネズエラ政府はこれまでも2度にわたり、ガイアナ沖合で実施されていた探鉱を阻止している[2]。また、ガイアナは2023年9月12日を入札提出期限として、沖合14鉱区を対象とする初の鉱区入札を実施したが、この直後にベネズエラは、両国間の境界画定が待たれる海域で鉱区入札を実施したとしてこれに反対を表明、国民投票の実施を呼びかけている。やはり、その視野にはガイアナ沖合での油田開発が入っているのだろう。
ガイアナの油田開発はどの程度進んでおり、なぜ、ベネズエラはガイアナの原油を狙うのだろうか。
鉱区 | 企業、コンソーシアム |
---|---|
S3 | Sispro Inc |
S4 | TotalEnergies、Qatar Energy、Petronas |
S5 | International Group Investment Inc |
S7 | Liberty Petroleum Corporation、Cybele Energy Limited |
S8 | ExxonMobil、Hess、CNOOC |
S10 | International Group Investment Inc |
D1 | Delcorp Incorporated、Watad Energy and Communications Ltd、Arabian Drilling Company |
D2 | Sispro Inc |
各種資料を基にJOGMEC作成
現在、ガイアナで開発が進み、生産を行っているのはStabroek鉱区のみである。Stabroek鉱区は、ガイアナの沖合約200キロメートルの海域に東西に長く広がる鉱区で、総面積が26,820平方キロメートルと広大な鉱区である。2015年にExxonMobilがLiza油田を発見して以降、30以上の油田が発見され、同鉱区の可採埋蔵量は110億バレルを上回るとされている。

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油田 | FID | 生産開始 | FPSO | 生産能力 | 開発コスト | 損益分岐点 |
---|---|---|---|---|---|---|
Lizaフェーズ1 | 2017年6月 | 2019年12月 | Liza Destiny | 12万b/d | 35億ドル | $35/bbl |
Lizaフェーズ2 | 2019年5月 | 2022年2月 | Liza Unity | 22万b/d | 60億ドル | $25/bbl |
Payara | 2020年9月 | 2023年11月 | Prosperity | 22万b/d | 90億ドル | $32/bbl |
Yellowtail | 2022年4月 | 2025年末 | One Guyana | 25万b/d | 100億ドル | $29/bbl |
Uaru/Snoek/Mako | 2023年4月 | 2026年 | Errea Wittu | 25万b/d | 126億ドル | ― |
Whiptail/Pinktail/Tilapia | ― | 2027年 | Jaguar | 27.5万b/d | 129.3億ドル | ― |
各種資料を基にJOGMEC作成
2019年末に同鉱区で最初に発見されたLiza油田の浮体式生産貯蔵積出設備(Floating Production Storage and Offloading: FPSO)Liza Destinyが、2022年2月には同油田のFPSO Liza Unityが生産を開始し、原油生産量は合計で日量40万バレル弱となっていた。
同鉱区3番目の開発となるPayara油田のFPSO Prosperityが、2023年11月14日に生産を開始し、2024年上半期には同油田の原油生産量が日量22万バレル、同鉱区全体の原油生産量が日量62万バレルとなる見通しだ。Payara油田で生産されるPayara Gold原油の性状は、API比重28度、硫黄分の割合が0.58%と、ガイアナで生産される他の原油と比較すると重質となる。現時点でのPayara油田の生産量は明らかにされていないが、生産は順調に増加しているようで、2024年2月のガイアナからの原油輸出は、Payara Gold原油が6カーゴ(各カーゴはそれぞれ約100万バレル)、FPSO Liza Unityで生産されるUnity Gold原油が5カーゴ、FPSO Liza Destinyで生産されるLiza原油が3カーゴと、生産開始直後のPayara油田で生産される原油の輸出量が最大となる見通しであるという。
FPSO | 生産能力 | 油種 | API比重 | 硫黄分 | 2024年2月輸出予定 |
---|---|---|---|---|---|
Liza Destiny | 12万b/d | Liza | 32度 | 0.58% | ExxonMobil2カーゴ、ガイアナ政府1カーゴ |
Liza Unity | 22万b/d | Liza Unity Gold | 34.5度 | 0.41% | ExxonMobi2カーゴ、CNOOC2カーゴ、Hess1カーゴ |
Prosperity | 22万b/d | Payara Gold | 28度 | 0.58% | ExxonMobil3カーゴ、CNOOC2カーゴ、Hess1カーゴ |
各種資料を基にJOGMEC作成
Stabroek鉱区の4番目のYellowtail油田の開発、5番目のUaru油田等の開発については、すでに最終投資決定(FID)済みで、いずれも生産能力が日量25万バレルのFPSOを用いて、2025年末と2026年に生産開始予定とされている。
同鉱区6番目のWhiptail油田等の開発については、ExxonMobilがすでに開発計画をガイアナ政府に提出し、承認を待っている状況だ。
現在、ExxonMobilはStabroek鉱区の7番目の開発となる可能性のあるFangtooth油田の調査を進めているという。
ExxonMobilによると、2027年末までにはStabroek鉱区でFPSO6基により日量120万バレルの原油を生産する計画であるという。
同鉱区の権益保有比率はExxonMobilが45%、Hessが30%、CNOOCが25%となっているが、先にも記した通り、2023年10月にChevronがHessを買収すると発表、Hessに取って代わりガイアナに参入することとなった。
Stabroek鉱区以外では、同鉱区の南に位置するCorentyne鉱区で、カナダのCGX Energyとその親会社Frontera Energyが、2021年より試掘井Kawa-1号井を掘削、2023年にはWei-1号井等を掘削し、炭化水素層を確認した。CGX EnergyとFrontera Energyは2023年12月に、Corentyne鉱区のFIDを2026年に、生産開始を2030年に予定していると発表した。推定資源量は石油換算で5.14億~6.28億バレルであるという。2030年以降、Stabroek鉱区の生産にCorentyne鉱区の生産が加わる可能性が出てきた。

出所:chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://cgxenergy.com/wp-content/uploads/2022/08/Corentyne-Presentation-2022-28Aug2022.pdf
このようにガイアナの原油は可採埋蔵量が110億バレルで、原油確認埋蔵量が3,000億バレル以上と世界一を誇るベネズエラに比べると少ない。しかし、チャベス政権以降の失政と米国による制裁の影響を受け、資金、技術、人材、資機材が不足しており、かつて日量300万バレルを超えていた原油生産量が減少、現在では日量80万バレル程度で推移しているベネズエラとは対照的に、今後、急激に原油生産量を増やす可能性がある。
また、ガイアナで生産される原油のAPI比重は30度前後の中質原油であるのに対し、ベネズエラの主要産油地帯であるOrinoco Oil Beltで生産される原油はAPI比重が10度未満の超重質油で生産や輸送に手間と費用がかかり、売却価格も安い。
このような点から、ベネズエラはガイアナ沖合での油田開発に興味を示したと考えられる。

IEA統計を基にJOGMEC作成
終わりに
両国の大統領が会談し、脅迫や武力行使を行わないことで合意したことで、当面、ベネズエラがガイアナに侵攻する可能性は低下し、ガイアナの原油生産は計画通りに増加していくと考えられる。ExxonMobilなど同国で活動する企業も撤退に関する憶測を否定した。しかし、両国の国境に関する基本的な考え方に変化はなく、この問題の解決の糸口は見出されていない。次回の両大統領による会談を含め、今後の両国の動向を注視していく必要があろう。
[1] 石油・天然ガス資源情報2023/12/7「米国制裁一時解除も、ベネズエラの急激な原油生産増は期待薄」参照
[2] 2012年6月にガイアナよりRoraima鉱区を付与されたAnadarkoが、翌2013年に同鉱区で2D地震探査を開始しようとしたところ、ベネズエラがAnadarkoの船舶を押収した。また、2019年12月には、ExxonMobilがStabroek 鉱区の北西側で、Petroleum Geo-Services(PGS)の船舶Ramform AtlasとRamform Tethysを用いて3D地震探鉱を実施していたところ、ベネズエラ海軍艦艇から停止させられ、作業を中止し、同鉱区の東側に移動している。
以上
(この報告は2023年12月22日時点のものです)