ページ番号1009997 更新日 令和6年1月12日

Wintershall及びOMVが保有する西シベリア上流資産を事実上接収することを意味する新たなロシア大統領令第965号及び第966号を発出

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レポートID 1009997
作成日 2024-01-12 00:00:00 +0900
更新日 2024-01-12 09:52:03 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG基礎情報
著者 原田 大輔
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 12
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 欧州
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア欧州
2024/01/12 原田 大輔
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概要

  • 2023年12月19日、ロシア大統領府はWintershall Dea(独)及びOMV(墺)がガスプロムと進めてきた上流開発(南ルスコエ鉱床及びウレンゴイ鉱床におけるアチモフ層開発)に関するプロジェクト会社の株式のロシア企業への譲渡を命令する2つの新たな大統領令(第965号及び第966号)を発表。
  • 上記該当プロジェクト会社の権利・義務は新たに設立される有限責任会社に移管され、ロシア企業株主(ガスプロム)はその有限責任会社において同じシェアを確保できる一方、Wintershall Dea及びOMVの株式はロシア政府がその対価を決定し、特定のロシア企業に売却されることを定めている。Wintershall Dea及びOMVは売却される資産の対価を受け取ることにはなっているが、ロシア国内のC(エス)タイプの口座で凍結されることになる。
  • 株式売却先となる特定のロシア企業は既に定められている。南ルスコエ鉱床の開発を行っているセヴェルネフチェガスプロムにおけるWintershall Dea及びOMVの株式(各34.99%・24.99%=59.98%)は、ガスプロム傘下の保険会社である株式会社SOGAZに譲渡され、ウレンゴイ鉱床におけるアチモフ層開発を行っているアチム・ディヴェロップメント(Wintershall Dea:25.01%)、アチムガス(Wintershall Dea:50%)についてはこれまで無名だった有限責任会社Gas Technologiesに譲渡されることとなる。
  • Wintershall Deaは「大統領令はロシアがもはや信頼できる経済パートナーではなく、あらゆる点で予測不可能だということをさらに裏付けるものだ」と述べ、OMVは「同大統領令の内容を精査しており、権利を守るためにさらなる措置を講じる可能性がある」と発表。
  • 大統領令はその前日(18日)に発動された欧州による新たな第12次対露制裁パッケージに対する対抗措置と見られるタイミングで出されている。ロシア側は「非友好国」の資産没収に乗り出したことを意味するものではないとしているが、ロシア政府による不透明な評価や決定プロセスは事実上の接収と見做されるだろう。
  • これら西シベリア上流資産は欧州企業が保有する資産という条件の他に、生産物についてはガスプロムが販売権を有しており、パイプラインで輸出されたとしても事実上これら対象鉱区からの生産物として紐づくことなく、諸外国企業との販売契約を持っておらず、訴訟・係争リスクや契約上の問題が少ないという点が挙げられる。一方サハリン1及び2は新たなロシア法人への移管が進められているが、生産物の輸出権や第三国での係争処理による公平な株主の権利保護を規定しているという点において、ロシア政府が今回のようには容易に手を出せない状況にあるという点が指摘できる。
  • 今回のロシア政府による強権発動に対して、Wintershall Dea及びOMVが起こすことができるアクションは限定的。対象プロジェクト会社は全てロシア登記の会社であることが推察され、株主間協定の中で、係争が生じた場合の調停方法についてロシア連邦司法下での解決を規定している可能性がある。もしそうだとすれば、係争提起を行ったとしても公平で透明性のある第三者的視点での裁判が行われるかどうかは不明。両社の動きはいずれにしても今後のロシア政府の同様の措置に対する外資の対抗策を考える上で重要な示唆を与えるものとなるだろう。

 

1. 大統領令の内容

2023年12月19日夜遅く、ロシア大統領府は欧州企業が保有する西シベリア上流資産に関する2つの新たな大統領令(第965号及び第966号)を発表した(抄訳は巻末参照)。

内容は、Wintershall Dea(独)及びOMV(墺)がガスプロムと進めてきた上流開発(南ルスコエ鉱床及びウレンゴイ鉱床におけるアチモフ層開発)に関するプロジェクト会社の株式のロシア企業への譲渡を命令するものである。この動きを受けて、コメルサントは、「ロシア政権が初めて公式の手順を踏んだ上で、非友好国の所有者から資産を剥奪しようとしている」と報じている[1]。これまでロシア政府は、ケースバイケースで外部管理制度を適用するという措置や、配当等をC(エス)タイプの口座を新たに設定し留保する等、非友好国の資産所有者が利益を獲得する権利を剥奪するという措置を講じてきた。しかし、今回は外資が保有する資産そのものをロシア政府が査定し、特定のロシア企業に売却することを規定している。

具体的な対象となる資産(対象となるプロジェクト会社及びその株式)は、次の通りである。

表1 大統領令(第965号及び第966号)で規定された外国企業の譲渡対象資産及び譲渡先
表1 大統領令(第965号及び第966号)で規定された外国企業の譲渡対象資産及び譲渡先
(赤字下線は表2で示す各鉱床ライセンスホルダーであるプロジェクト会社)

注1:Wintershall Dea GmbH及びOMV Exploration & Production GmbHでドイツ登記。

注2:SOGAZ:ガスプロム傘下の保険会社。

注3:ガスプロムYuRGMトレーディング及びガスプロムYuRGMデベロップエメントはセヴェルネフチェガスプロム又はガスプロムの子会社、アチム・セールスはアチム・ディヴェロップメント及びアチムガスの子会社と考えられているが、シェアや資本構造は明らかになっていない。

注4:Gas Technologiesについては現時点で出資者等の情報はないが、ガスプロムに何らかの形で関係する会社と想定されている。

出所:JOGMEC

 

大統領令では、上記該当プロジェクト会社の権利・義務は新たに設立される有限責任会社に移管され、ロシア企業株主(ガスプロム)はその有限責任会社において同じシェアを確保できる一方、ガスプロム以外の残りの株主、即ちWintershall Dea及びOMVの株式はロシア政府がその対価を決定し、特定のロシア企業に売却されることを定めている。Wintershall Dea及びOMVは売却される資産の対価を受け取ることにはなっているが、ロシア国内のC(エス)タイプの口座で凍結されることになる。

株式売却先となる特定のロシア企業は既に定められている。南ルスコエ鉱床の開発を行っているセヴェルネフチェガスプロムにおけるWintershall Dea及びOMVの株式(各34.99%・24.99%=59.98%)は、ガスプロム傘下の保険会社である株式会社SOCAZに譲渡され、ウレンゴイ鉱床におけるアチモフ層開発を行っているアチム・ディヴェロップメント(Wintershall Dea:25.01%)、アチムガス(Wintershall Dea:50%)についてはこれまで全く情報露出のない有限責任会社Gas Technologiesに譲渡されることとなる。

表2 南ルスコエ鉱床及びウレンゴイ鉱床におけるアチモフ層開発について 1

表2 南ルスコエ鉱床及びウレンゴイ鉱床におけるアチモフ層開発について 2
表2 南ルスコエ鉱床及びウレンゴイ鉱床におけるアチモフ層開発について
出所:JOGMEC

2. Wintershall及びOMVの反応

Wintershall Deaはロイターの問い合わせに対する書面回答として、「大統領令はロシアがもはや信頼できる経済パートナーではなく、あらゆる点で予測不可能だということをさらに裏付けるものだ」と述べている[2]。OMVはプレスリリースを翌20日出し(Wintershall Deaは出さず)、同社が「現在大統領令の内容を精査しており、権利を守るためにさらなる措置を講じる可能性がある」と発表した[3]。また、2022年に西シベリアのガス田保有権益24.99%の価値を調整しており、業績へのさらなる悪影響はないと予想しているとも付記している。

両社は2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻直後から、既にロシア事業の見直しを行ってきた。Wintershall Deaは2023年1月17日にロシアから完全に撤退することを決定したことを発表。メーレンCEOは「ウクライナに対するロシアの侵略戦争は、自社の価値観と相容れず、ロシアと欧州の協力を破壊した」と述べ、減損として53億EURを既に計上していた[4]。他方、OMVの方針は「撤退も選択肢」としたままで、完全撤退や損金計上に対しては他欧州企業に比べてこれまでも温度差があった。

図1 Wintershall Dea及びOMVによるロシアによるウクライナ侵攻を受けた対応
図1 Wintershall Dea及びOMVによるロシアによるウクライナ侵攻を受けた対応
出所:各社公開情報からJOGMEC取り纏め

今回対象となったこれら外資2社がロシア事業では侵攻前までは相対的に親露的であったことも注目される点である。Wintershall Deaはドイツの世界最大の総合化学メーカーであるBASF(72.7%)とロシア人オリガルヒであるミハイル・フリードマンが保有する投資会社Letter One(27.3%)が出資するエネルギー企業である。また、オーストリア政府が現在も株式を保有するOMVはソ連時代の1968年に最初にガス売買契約を結んだ当事者であり、2018年にはその半世紀に亘る「信頼関係」を祝し、讃えるリリースを行っている[5]。図1の通り、OMVが撤退の判断に至っていないこともロシアと長年築いてきた関係の深さが影響を与えているとも考えられる。それだけに今回これらある意味長年ロシア事業に携わってきた関係の深い欧州企業の資産を事実上接収する大統領令が出されたことは驚きと共に、ロシア政府が覚悟を決め、制裁を課す西側諸国の資産を接収していくプロセスが始まったという見方も為された。

しかし、ペスコフ大統領府報道官は大統領令の翌日にはそのような見方を否定し、この大統領令はロシアがいわゆる「非友好国」の資産没収に乗り出したことを意味するものではないと述べている。「所有権の『ロシア化』とガスプロム合弁会社の売却に関する大統領令は、ロシアが非友好的な国の投資家の資産を没収し始めたことを意味するものではない。ロシアは非友好国の投資家の資産を没収する手続きを開始していない」としながらも「市場から撤退する企業は資産を売却するか譲渡するかのいずれかである。全ては交渉次第である。資産を没収する手続きは存在しなかったし、現在も存在していない」と述べている[6]

 

3. なぜこのタイミングで出されたのか/なぜ当該プロジェクトが選ばれたのか

当該大統領令がなぜこのタイミングで出されたのか。その前日(18日)に発動された欧州による新たな対露制裁パッケージに対するカウンターアクションと見ることが自然だろう。Wintershall Dea及びOMVという欧州企業をターゲットとしていることとも符合する。

欧州委員会は11月から調整に時間を掛けてきた、(1)ロシア産非工業ダイヤモンドの輸入禁止、(2)ロシア産鉄鋼生産用の原材料、アルミニウム加工品、その他の金属製品の輸入禁止、(3)石油価格上限設定措置の厳格化、(4)ロシア産液化石油ガス(LPG)の輸入禁止等を柱とする第12次制裁パッケージに12月中旬に漸く合意に至り、発動した。

図2 欧州委員会による第12次対露制裁パッケージ
図2 欧州委員会による第12次対露制裁パッケージ
出所:JOGMEC取り纏め

これら西シベリア上流資産が選ばれた理由は欧州企業が保有する資産という条件の他に、次の特徴も挙げられる。まず、生産物についてはガスプロムが販売権を有しており、パイプラインで輸出されたとしても事実上これら対象鉱区からの生産物として紐づくことなく、諸外国企業との販売契約を持っておらず、訴訟・係争リスクや契約上の問題が少ないという点である。この点はプロジェクト事業会社が生産物を海上輸送で直接輸出できるサハリン1及び2プロジェクトとの違いともなる。

ペスコフ報道官は「接収ではない」と述べているが、売却手続きを執ったとしても、その額の決定がロシア政府にあり、不透明な評価額はそのままロシア国内に留め置かれるのであれば、冒頭コメルサントが指摘しているように事実上の接収と見做されるだろう。問題はこのようなロシア政府の強権発動に対して、Wintershall Dea及びOMVがどのようなアクションを起こすことができるのかどうかである。大統領令を見る通り、対象プロジェクト会社は全てロシア登記の会社であることが推察される。このことは株主間協定の中で、係争が生じた場合の調停方法についてロシア連邦司法下での解決を規定している可能性が高いことを示しており、係争提起を行ったとしても公平で透明性のある第三者的視点での裁判が行われるかどうかは分からない。もしそうだとすれば、Wintershall Dea又はOMVが株主としての利益を守るべく訴訟を起こしたとしても、様々な理由を付け、いかようにも退けることができるという判断からこれらプロジェクトが選ばれた可能性がある。この点もロシア以外の司法制度下での係争処理を規定しているサハリン1及びサハリン2との違いと言えるだろう(但し、現在、両プロジェクトともロシア法人に移管され、新会社における協定では全てロシア法が適用されることとなっている)。

 

4. 今回の大統領令が持つ意味と余波

まず注目されるのは、サハリン1及び2プロジェクトへの影響である。サハリン1については2022年10月7日に大統領令第723号が出され、新たなロシア法人への移管が進められている状況にある[7]。また、サハリン2についてはサハリン1よりも先んじて大統領令第416号で、同様に新ロシア法人への移管状況が依然続いている[8]。両プロジェクトともにプロジェクト推進の中心的役割を果たしてきたメジャー(サハリン1はExxonMobil、サハリン2はシェル)が撤退を表明し、その他外資株主は新たなロシア法人への参画を申請している状況にある。サハリン2についてはシェルの権益(27.5%マイナス1株)について、NOVATEKが取得する意思表明を2023年4月に行っているが[9]、その後大きな動きが見られていない(注:2024年1月3日に大統領令第416号を改正する大統領令第2号が発出され、NOVATEKが享受する利益拡大が図られている/別途短報予定)。

サハリン1及び2プロジェクトも今回のWintershall Dea及びOMVのプロジェクトのような運命を辿っていくのかという懸念があるが、前項で触れたように、(1)生産物の輸出権、(2)係争処理に関する株主の権利という点において、サハリン1及び2はロシア政府が簡単には手を出せない状況を生み出していると考えられる。特に新ロシア法人への移管申請を行わず、撤退方針を堅持したExxonMobil及びシェルが求めるのは、自らの権益に対する正当対価である。関連する大統領令では両者が行った義務違反に対して罰金を科し、事実上売却益を相殺することを示唆しているが、その場合にはExxonMobil及びシェルはそれぞれ既存契約に基づいて、ロシア政府及び関係会社(新ロシア法人等)を相手取り、第三国での訴訟を提起し、プロジェクト自体を国際係争に巻き込んでいくことになる。そうなると、NOVATEKの参画や、可能性として中国やインドといった「友好国」が同プロジェクト権益に関心を持ったとしても、国際訴訟が終わらない限り、当該プロジェクトの権益移譲は難しい状況に陥っていく。その状況は長期に亘って続くことになり、プロジェクトの運営にも影響を与えていくことになる。

今回の大統領令については、次の段階として、OMVが述べている通り、「権利を守るためにさらなる措置を講じる」べく、Wintershall Dea及びOMVがどのようなアクションを取るのか(取らない/取ることができない)という点に焦点が移る。どのような動きであっても、彼ら外資の動きは今後のロシア政府の同様の措置を占い、その対抗策を考える上でも重要な示唆を与えるものとなるだろう。

 

<参考1>大統領令(第965号)[10]抄訳南ルスコエ鉱床に関するもの

「複数の外国及び国際機関の非友好的行為と関連する燃料エネルギー分野での特別経済措置について」

(注)太字は筆者加筆。

ロシア連邦国民とロシアの法人に対する制限措置の導入を念頭に置いたアメリカ合衆国と同国に賛同する複数の外国及び国際機関の国際法に違反した非友好的行為を受け、ロシア連邦の国家の利益を保護することを目的とし、2006年12月30日付ロシア連邦法N281-FZ「特別経済措置と強制措置について」、2010年12月28日付のロシア連邦法N390-FZ「安全性について」、2018年6月4日付ロシア連邦法N127-FZ「アメリカ合衆国と同国に賛同する複数の外国の非友好的行為に対する対応(対抗)措置について」に従って、以下を定める:

  1. 南ルスコエ・石油ガスコンデンセート鉱床の開発と同鉱床の生産物の販売と関連する、自然環境面の問題及び技術的問題に起因する非常事態の発生の脅威、ロシア連邦の国家的利益と経済安全性に対する脅威を踏まえ、以下に示す特別経済措置が講じられる:
    1. ロシア連邦政府はロシアに登記された複数の有限責任会社(以下、総称する場合には諸有限責任会社、個別の会社を指す場合には有限責任会社と称す)を設立し、本大統領に基づき諸有限責任会社に、
          公開型株式会社「セヴェルネフチェガスプロム」(Севернефтегазпром)、
          株式会社「ガスプロムYuRGMトレーディング」(Газпром ЮРГМ Трейдинг)、
          株式会社「ガスプロムYuRGMデベロップエメント」(Газпром ЮРГМ Девелопмент)

      (以下、総称する場合には諸株式会社、個別の会社を指す場合には株式会社と称す)の全ての権利と義務を移行させる。すなわち、
      公開型株式会社「セヴェルネフチェガスプロム」に関しては、有限責任会社「セヴェルネフチェガスプロム」に;
      株式会社「ガスプロムYuRGMトレーディング」に関しては、有限責任会社「ガスプロムYuRGMトレーディング」に;
      株式会社「ガスプロムYuRGMデベロップメント」に関しては、有限責任会社「ガスプロムYuRGMデベロップメント」に、それぞれ全ての権利と義務を移行させる;
    2. 諸有限責任会社は、ロシア連邦政府が定める方式に従い設立される。ロシア政府は、諸有限責任会社の設立者(資本参加者)とはならない;
    3. 諸株式会社の資産は、即座に当該の有限責任会社に譲渡されなければならない;
    4. 諸有限責任会社の定款資本の規模は、譲渡元の株式会社の定款資本額に匹敵するものとなるが、既に全額支払い済みと見做される。その際、定款資本におけるシェアは以下のような形で分配される;
      有限責任会社「セヴェルネフチェガスプロム」の場合;
      公開型株式会社「セヴェルネフチェガスプロム」の株主であったロシア企業には、保有していた公開型株式会社「セヴェルネフチェガスプロム」の普通株の比率に応じ有限責任会社の定款資本におけるシェアが供与される;
      公開型株式会社「セヴェルネフチェガスプロム」の残りの株主が保有していた同社の定款資本の普通株は、有限責任会社「セヴェルネフチェガスプロム」に譲渡される

      有限責任会社「ガスプロムYuRGMトレーディング」及び有限責任会社「ガスプロムYuRGMデベロップメント」の場合;
      それぞれの会社の株主であったロシア企業に、それらの有限責任会社の定款資本の株式の99.99%が譲渡される。残りの0.01%はそれぞれの有限責任会社に譲渡される;
    5. 有限責任会社の資本参加者は、株式会社の株主が保有していた権利と義務を引き継ぐことになるが、その際、本大統領で示されているその他の規定、組織及び法律上の形態の変化も考慮されなければならない;
    6. 本項の小項d. の規定に従い、それぞれの有限責任会社に帰属することになった自社保有株は、評価を受けた後、ロシア連邦政府が定める方式に従い市場価格にて次の購入者に売却されなければならない;
      有限責任会社「セヴェルネフチェガスプロム」の自社保有株は株式会社「SOGAZ」に売却される:
      有限責任会社「ガスプロムYuRGMトレーディング」の自社保有株は株式会社「SOGAZ」に売却される;
      有限責任会社「ガスプロムYuRGMデベロップメント」の自社保有株は株式会社「SOGAZ」に売却される;
    7. 本項の小項f)に従い行われたそれぞれの有限責任会社の自社保有株の売却により得られた資金は、2022年3月5日付けロシア連邦大統領令「複数の外国の債権者に対する義務遂行の暫定的方式について」に基づき当該の株式会社の株主の名義でそれぞれの有限責任会社により開設されたC(エス)タイプの口座に、当該の株式会社の当該の株主が保有していた株式の比率に応じ振り込まれる。当該の株式会社の当該の株主による売上金の処分の方式は、ロシア連邦政府がロシア連邦中央銀行と共同で決定することとする。
  2. ロシア連邦政府は、本大統領令の発効時点で各株式会社の社長だった人物をそれぞれの有限責任会社の社長に任命する。当該の人物は、当該の有限責任会社が設立された日から当該の有限責任会社の統一執行組織が選定される日まで、当該の統一執行組織としての任務を果たす。本大統領令が発効した時点で株式会社の社長であった人物が有限責任会社の社長になることを拒否していた場合、ロシア連邦政府は株式会社の副社長の中から有限責任会社の社長を選ぶことになる。副社長が社長になることを拒否した場合には、ロシア連邦政府は他の人物を社長に任命する。その際、ロシア連邦国民だけが社長の職に就くことができる。
  3. 有限責任会社の社長は、当該の会社の従業員を全員、当該の有限責任会社に異動させる義務を負う。
  4. それぞれの有限責任会社の設立にあたりロシア連邦政府はそれらの有限責任会社の定款を承認する。当該の定款は、有限責任会社の資本参加者により新しい定款が承認されるまで有効となる。それぞれの有限責任会社の資本参加は、当該の有限責任会社及び株式会社「SOGAZ」に帰属する全ての株式に対する所有権が移行した日から1カ月以内に新しい定款を承認しなければならない。
  5. 当該の有限責任会社と株式会社「SOGAZ」に帰属する全ての株式に対する所有権の移行が完了した日から1カ月以内に、当該の諸株式会社はロシア連邦政府が定める方式に従い清算される。
  6. 本大統領令が発効した日より、株式会社の株主間の会社に関連する全ての契約と協定が失効する。
  7. 株式会社が関与する協定と契約に関する権利及び義務は、本大統領第6項で示されたケースを除き全て当該の有限責任会社が引き継ぐ。その際、2023年10月1日から2024年12月31日まで燃料用天然ガスの販売価格は、2022年12月22日付ロシア大統領令第943号「複数の国家と国際機関の非友好的行為と関連する天然ガスの供給部門における特別経済措置の適用について」に従い、ロシア連邦政府が定めた上限値を超えないこととする。さらに、2025年1月1日以降は、燃料用天然ガスの価格は、ガスの販売が行われているロシア連邦構成主体別に定められる卸売り価格の水準を超えてはならない。
  8. 株式会社の定款に、株主の権利及び義務を定める会社レベルでの契約及びその他の文書に関する規定が存在する場合には、有限責任会社の資本参加者間の会社レベルでの新しい契約、定款もしくはその他の文書において当該の権利及び義務が同じ規模で定められなければならない。また、その際には、本大統領で定められたその他の規則、並びに、組織上・法律上の形態の変化が考慮されなければならない。当該の会社レベルでの新しい契約及びその他の文書は、当該の有限責任会社と株式会社「SOGAZ」に帰属する全ての株式に対する所有権の移行が完了した日から1カ月以内に締結(署名)されなければならない。
  9. 株式会社に帰属していた地下資源鉱区の利用権は当該の有限責任会社に移行する。
  10. 本大統領令の第1項の小項d. に基づいて諸有限責任会社が行う諸株式会社の全ての権利、債務、資産(財産及び財産権を含む)の移行に関連する業務、並びに、諸有限責任会社の株式に関連する業務を実施する際には、一般的な権利継承規則と、ロシア税法典第39条第3項第2小項、第50条、第162.1条、第277条第3項と第4項の規定が適用される。
  11. 諸有限責任会社の定款資本の株式の株式会社「SOGAZ」への売却の際、そこから得られる益は諸有限責任会社の収入とは見做されない。その資産の50%以上がロシア連邦領内に所在する諸有限責任会社の定款資本の株式の取得に関連し支払われた資金に対する税金は、当該の資金をCタイプの口座に振り込む法人・自然人が(支払い金額から税金分を控除し、その分を)ロシア連邦予算に納付するという形で支払われる。
  12. 以下の組織に(所与の問題についての)公式の説明を行う権利を供与する。
    1. ロシア連邦中央銀行(Cタイプの口座に関する取引に係わる本大統領令の適用に関する諸問題について)
    2. ロシア連邦政府(本大統領令の適用に関するその他の諸問題について)
  13. 本大統領令は、公布された日より発効する。

ロシア連邦大統領 V.プーチン

モスクワ、クレムリン
2023年12月19日
第965号

<参考2>大統領令(第966号)[11]抄訳アチモフ層に関するもの

「複数の外国及び国際機関の非友好的行為と関連する燃料エネルギー分野での追加の特別経済措置について」

(注)太字は筆者加筆。

ロシア連邦国民とロシアの法人に対する制限措置の導入を念頭に置いたアメリカ合衆国と同国に賛同する複数の外国及び国際機関の国際法に違反した非友好的行為を受け、ロシア連邦の国家の利益を保護することを目的とし、2006年12月30日付ロシア連邦法N281-FZ「特別経済措置と強制措置について」、2010年12月28日付のロシア連邦法N390-FZ「安全性について」、2018年6月4日付ロシア連邦法N127-FZ「アメリカ合衆国と同国に賛同する複数の外国の非友好的行為に対する対応(対抗)措置について」に従って、以下を定める:

  1. ウレンゴイ・石油ガスコンデンセート鉱床におけるアチモフ層の開発と同鉱床の生産物の販売と関連する、自然環境面の問題及び技術的問題に起因する非常事態の発生の脅威、ロシア連邦の国家的利益と経済安全性に対する脅威を踏まえ、以下に示す特別経済措置が講じられる:
    1. ロシア連邦政府はロシアに登記された複数の有限責任会社(以下、総称する場合には諸有限責任会社、個別の会社を指す場合には有限責任会社と称す)を設立し、本大統領に基づき諸有限責任会社に、
          有限責任会社「アチム・ディヴェロップメント」(Ачим Девелопмент)
          株式会社「アチムガス」(Ачимгаз)
          株式会社「アチム・セールス」(Ачим сбыт)
      (以下、総称する場合には諸株式会社、個別の会社を指す場合には株式会社と称す)の全ての権利と義務を移行させる。すなわち、
      有限責任会社「アチム・ディヴェロップメント」に関しては、有限責任会社「アチム・ディヴェロップメント」に;
      株式会社「アチムガス」に関しては、有限責任会社「アチムガス」に;
      株式会社「アチム・セールス」に関しては、有限責任会社「アチム・セールス」に、
      それぞれ全ての権利と義務を移行させる;
    2. 諸有限責任会社は、ロシア連邦政府が定める方式に従い設立される。ロシア政府は、諸有限責任会社の設立者(資本参加者)とはならない;
    3. 諸株式会社の資産は、即座に当該の有限責任会社に譲渡されなければならない;
    4. 諸有限責任会社の定款資本の規模は、譲渡元の株式会社の定款資本額に匹敵するものとなるが、既に全額支払い済みと見做される。その際、定款資本におけるシェアは以下のような形で分配される;
      当該会社の授権資本のうちロシアの株主(参加者)が所有する普通株式の数(授権資本の株式シェア)に応じた割合。
      当該会社の残りの株主(参加者)が所有する当該会社の授権資本の普通株式の数(授権資本の株式の規模)に応じて当該会社に分配される
    5. 有限責任会社の資本参加者は、株式会社の株主が保有していた権利と義務を引き継ぐことになるが、その際、本大統領で示されているその他の規定、組織及び法律上の形態の変化も考慮されなければならない;
    6. 本項の小項d)の規定に従い、それぞれの有限責任会社に帰属することになった自社保有株は、評価を受けた後、ロシア連邦政府が定める方式に従い市場価格にて次の購入者に売却されなければならない;
      有限責任会社「アチム・ディヴェロップメント」の自社保有株は有限責任会社「Gas Technologies」に売却される:
      有限責任会社「アチムガス」の自社保有株は有限責任会社「Gas Technologies」に売却される;
      有限責任会社「アチム・セールス」の自社保有株は有限責任会社「Gas Technologies」に売却される;
    7. 本項の小項f)に従い行われたそれぞれの有限責任会社の自社保有株の売却により得られた資金は、2022年3月5日付けロシア連邦大統領令「複数の外国の債権者に対する義務遂行の暫定的方式について」に基づき当該の株式会社の株主の名義でそれぞれの有限責任会社により開設されたC(エス)タイプの口座に、当該の株式会社の当該の株主が保有していた株式の比率に応じ振り込まれる。当該の株式会社の当該の株主による売上金の処分の方式は、ロシア連邦政府がロシア連邦中央銀行と共同で決定することとする。
  2. ロシア連邦政府は、本大統領令の発効時点で各株式会社の社長だった人物をそれぞれの有限責任会社の社長に任命する。当該の人物は、当該の有限責任会社が設立された日から当該の有限責任会社の統一執行組織が選定される日まで、当該の統一執行組織としての任務を果たす。本大統領令が発効した時点で株式会社の社長であった人物が有限責任会社の社長になることを拒否していた場合、ロシア連邦政府は株式会社の副社長の中から有限責任会社の社長を選ぶことになる。副社長が社長になることを拒否した場合には、ロシア連邦政府は他の人物を社長に任命する。その際、ロシア連邦国民だけが社長の職に就くことができる。
  3. 有限責任会社の社長は、当該の会社の従業員を全員、当該の有限責任会社に異動させる義務を負う。
  4. それぞれの有限責任会社の設立にあたりロシア連邦政府はそれらの有限責任会社の定款を承認する。当該の定款は、有限責任会社の資本参加者により新しい定款が承認されるまで有効となる。それぞれの有限責任会社の資本参加は、当該会社及び有限責任会社「Gas Technologies」に帰属する全ての株式に対する所有権が移行した日から1カ月以内に新しい定款を承認しなければならない。
  5. 当該会社と有限責任会社「Gas Technologies」に帰属する全ての株式に対する所有権の移行が完了した日から1カ月以内に、当該の諸株式会社はロシア連邦政府が定める方式に従い清算される。
  6. 本大統領令が発効した日より、株式会社の株主間の会社に関連する全ての契約と協定が失効する。
  7. 株式会社が関与する協定と契約に関する権利及び義務は、本大統領第6項で示されたケースを除き全て当該の有限責任会社が引き継ぐ。その際、2023年10月1日から2024年12月31日まで燃料用天然ガスの販売価格は、2022年12月22日付ロシア大統領令第943号「複数の国家と国際機関の非友好的行為と関連する天然ガスの供給部門における特別経済措置の適用について」に従い、ロシア連邦政府が定めた上限値を超えないこととする。さらに、2025年1月1日以降は、燃料用天然ガスの価格は、ガスの販売が行われているロシア連邦構成主体別に定められる卸売り価格の水準を超えてはならない。
  8. 株式会社の定款に、株主の権利及び義務を定める会社レベルでの契約及びその他の文書に関する規定が存在する場合には、有限責任会社の資本参加者間の会社レベルでの新しい契約、定款もしくはその他の文書において当該の権利及び義務が同じ規模で定められなければならない。また、その際には、本大統領で定められたその他の規則、並びに、組織上・法律上の形態の変化が考慮されなければならない。当該の会社レベルでの新しい契約及びその他の文書は、当該会社と有限責任会社「Gas Technologies」に帰属する全ての株式に対する所有権の移行が完了した日から1カ月以内に締結(署名)されなければならない。
  9. 株式会社に帰属していた地下資源鉱区の利用権は当該の有限責任会社に移行する。
  10. 本大統領令の第1項の小項d. に基づいて諸有限責任会社が行う諸株式会社の全ての権利、債務、資産(財産及び財産権を含む)の移行に関連する業務、並びに、諸有限責任会社の株式に関連する業務を実施する際には、一般的な権利継承規則と、ロシア税法典第39条第3項第2小項、第50条、第162.1条、第277条第3項と第4項の規定が適用される。
  11. 諸有限責任会社の定款資本の株式の有限責任会社「Gas Technologies」への売却の際、そこから得られる益は諸有限責任会社の収入とは見做されない。その資産の50%以上がロシア連邦領内に所在する諸有限責任会社の定款資本の株式の取得に関連し支払われた資金に対する税金は、当該の資金をCタイプの口座に振り込む法人・自然人が(支払い金額から税金分を控除し、その分を)ロシア連邦予算に納付するという形で支払われる。
  12. 以下の組織に(所与の問題についての)公式の説明を行う権利を供与する。
    1. ロシア連邦中央銀行(Cタイプの口座に関する取引に係わる本大統領令の適用に関する諸問題について)
    2. ロシア連邦政府(本大統領令の適用に関するその他の諸問題について)
  13. 本大統領令は、公布された日より発効する。

ロシア連邦大統領 V.プーチン

モスクワ、クレムリン
2023年12月19日
第966号

 

[1] コメルサント(2023年12月19日):https://www.kommersant.ru/doc/6412226(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[2] ロイター(2023年12月20日)

[3] OMVプレスリリース(2023年12月20日):https://www.omv.com/en/news/231220-omv-examines-decree-on-omv-assets-in-russia(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[4] Wintershall Deaプレスリリース(2023年1月17日):https://wintershalldea.com/en/investor-relations/ir-23-01(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[5] OMVプレスリリース(2018年6月1日):https://www.omv.com/en/news/50-years-of-reliable-supplies-of-Russian-gas-to-Austria(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[6] Interfax(2023年12月20日)

[7] 拙稿「(短報)ロシア:サハリン1に関する新ロシア法人設立の政府令を発出」(2022年10月18日)を参照されたい。https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009507.html

[8] 拙稿「サハリン2プロジェクトを対象にロシア法人への移管を求める大統領令を発出」(2022年7月6日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009403.html

[9] 拙稿「(短報)NOVATEKがサハリン2・シェルの権益に関する入札書類をロシア政府に提出」(2023年4月7日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009690.html

[10] ロシア大統領令第965号:http://publication.pravo.gov.ru/document/0001202312190048(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

[11] ロシア大統領令第966号:http://publication.pravo.gov.ru/document/0001202312190047?index=1(外部リンク)新しいウィンドウで開きます

 

以上

(この報告は2024年1月12日時点のものです)

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