ページ番号1010004 更新日 令和6年1月16日
原油市場他:中東情勢の不安定化懸念とサウジアラビアによる原油販売価格引き下げ等に挟まれ、上下に変動するも上昇及び下落傾向が不明確な原油価格
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概要
- 米国では、秋場のメンテナンス作業が終了した他不具合が発生した装置の改修が完了した後製油所の稼働が上昇、石油製品製造活動を活発化させた一方、年末年始を中心としてガソリンの出荷が低迷したことや、温暖な冬であったことに伴い暖房向け需要が低調であったことにより留出油需要が軟調であったことから、両製品在庫は増加傾向となり、ガソリン在庫は平年幅上限を超過する、留出油在庫は平年幅上方付近に位置する、それぞれ量となっている。また、課税回避目的で年末に向け在庫削減努力が行なわれたものと見られることにより、原油在庫は減少傾向となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。
- 2023年12月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では製油所の原油精製処理活動は活発化したものの、併せて製油所への原油供給も拡大したものと見られることにより、在庫は横這いであった。しかしながら、米国では減少となった他、日本においても年末に向け原油輸入が鈍化する場面が見られたこともあり当該在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している。石油製品については、米国ではガソリン及び留出油両在庫は増加となったものの、プロパン及びその他の石油製品の両在庫が減少したことにより相殺されて余りあったことから、石油製品在庫は微減となった。また、欧州においても冬場の気温低下に伴い暖房向け軽油需要が増加したものと見られることから中間留分在庫が減少したことが一因となり石油製品在庫は若干ながら減少した。さらに、日本においても気温が低下するとともに暖房向け需要が喚起されたこともあり灯油在庫が減少したこと等から石油製品在庫は減少となった。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となり平年並みの量となっている。
- 2023年12月中旬から2024年1月中旬にかけての原油市場においては、紅海を航行する船舶に対するイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃、及び米国等によるフーシ派武装勢力の拠点への攻撃、インド洋における船舶に対する攻撃やオマーン沖合における石油タンカーのイランによる拿捕等が、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念を市場で増大させたことに伴い、原油相場に上方圧力を加えた反面、アンゴラのOPEC脱退やサウジアラビアによる原油販売価格引き下げが原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は概ね1バレル当たり70~76ドルを中心とする範囲内で上下に変動したものの、上昇及び下落の傾向は明確にはならなかった。
- 今後は、不安定な中東情勢に伴う同地域からの石油供給途絶懸念、及び米国金融当局による政策金利引き下げ期待が原油相場を下支えする一方、冬場の暖房シーズンの終了が視野に入り始めるとともに春場の石油不需要期が意識されることが原油相場に下方圧力を加えやすくするものと考えられる。そしてそのような中で、米国金融当局関係者の発言や次回FOMCでの決定内容、経済指標類、米国の寒波の来襲状況、中国経済情勢、OPECプラス産油国による減産措置を巡る動向、リビアの原油生産停止状況等が原油価格変動要因として作用していくものと考えられる。
(出所 IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)
1. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2023年10月の米国ガソリン需要(確定値)は日量909万バレル、前年同月比で3.3%程度の増加となり(図1参照)、9月の当該需要である同883万バレルから需要量が上振れした他同月の前年同月比の増加率である0.2%程度の減少から増加に転じた。また、当該需要は速報値(前年同月比1.1%程度増加の日量890万バレル)から上方修正されている。10月の同国からのガソリン最終製品輸出量が速報値段階では日量98万バレル程度と推定されたところ確定値では同82万バレルへと下方修正されたことにより、同国ガソリン需要が速報値から確定値へと移行する段階でこの部分が輸出から国内需要に振り替えられたことが、当該需要の上方修正に部分的にせよ寄与しているものと見られる。9月29日の週の同国ガソリン需要が日量801万バレルとこの時期としては2000年(9月29日の週において日量782万バレル)以来の低水準に到達した(熱帯性低気圧「オフェリア(Ophelia)」衰退後の低気圧により9月下旬に同国北東部に大雨がもたらされるとともに一部地域で洪水等が発生したことに伴う個人の外出の敬遠が影響したと示唆する向きもある)こともあり、9月の同国ガソリン需要が大きく落ち込んだ反動に加え、2023年10月は全米ガソリン小売価格が1ガロン当たり3.742ドルと前月(同3.958ドル)及び前年同月(同3.935ドル)を下回ったことにより、ガソリン需要が喚起される格好となったことが、10月の当該需要を上振れさせるとともに同需要の前月比及び前年同月比での増加をもたらしたものと考えられる。なお、2023年10月の米国ガソリン需要は2019年10月の当該需要(日量931万バレル)(確定値)を2.3%程度下回っている。他方、2023年12月の米国ガソリン需要(速報値)は推定日量865万バレル、前年同月比で0.7%程度の増加と、11月の当該需要(速報値)である日量859万バレルから需要量はほぼ横這いとなった他同月の前年同月比2.7%程度の減少から増加に転じた。2022年12月は前月及び前年同月比で冷え込んだ他一部地域には大雪がもたらされた(12月下旬頃には同国南部にまで大寒波「エリオット(Elliott)」が来襲した)こともあり、道路往来に支障が発生するとともに個人の外出が敬遠されたことから同月のガソリン需要が前年同月比で3.2%程度減少した一方、2023年12月は概して温暖に推移した他大雪に見舞われることもなかったこともあり、2022年12月の抑制されたガソリン需要の反動から、12月の米国ガソリン需要量が前年同月比で増加したものと考えられる。なお、2023年12月の米国ガソリン需要は2019年12月の当該需要(日量897万バレル)(確定値)を3.5%程度下回っている。また、米国では秋場のメンテナンス作業が終了したり、不具合が発生した装置の改修が完了したりするとともに、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期、そしてクリスマス及び年末年始の休暇シーズンを控えた個人の往来の活発化に伴うガソリン需要期突入により製油所が稼働を上昇させたことから、製油所の原油精製処理量が増加傾向となる(図2参照)とともにガソリンを含む石油製品製造活動が活発化した(ガソリン最終製品生産量は図3参照)ものの、実際の休暇シーズン中は、個人の往来が鈍化するとともにガソリン出荷ももたつき気味となったこともあり、12月上旬から1月上旬にかけての同国におけるガソリン在庫は混合基材を中心として増加傾向となったうえ、平年幅上限を超過する量となっている(図4参照)。
2023年10月の米国留出油需要(確定値)は日量407万バレルと前年同月比で2.3%程度の減少となり(図5参照)、9月の同392万バレル(前年同月比4.1%程度の減少)から需要量が増加した他前年同月比では減少率は縮小した。また、当該需要は速報値(前年同月比3.2%程度減少の日量403万バレル)とほぼ同水準となっている。10月も9月と同様米国で穀物の収穫が実施されつつあったこともあり農機具稼働のための軽油需要が喚起されたものと見られることが10月の留出油需要を下支えする格好となった他、9月18日時点では1ガロン当たり4.633ドルであった全米平均軽油小売価格は10月中旬頃以降同4.4~4.5ドル程度へと下落する傾向を示したことが、10月の留出油需要の前月比での増加に寄与したうえ、10月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり4.507ドルと前年同月(同5.211ドル)を相当程度(13.5%程度)下回った他、前年同月比での下落率が9月(同8.6%程度)から拡大したことが、10月の当該需要を喚起する格好となった(併せて2023年10月の米国の物流活動は前年同月比で0.1%程度の増加となっており、9月の同1.8%の減少から増加に転じた)結果、前年同月比での減少率を9月のそれに比べ縮小させているものと考えられる。なお、10月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量422万バレル)(確定値)を3.7%程度下回っている。他方、2023年12月の米国留出油需要(速報値)は推定日量356万バレルと前年同月比で6.3%程度の減少となり、11月の当該需要量(速報値)の日量378万バレル(前年同月比6.8%程度の減少)から需要量が減少した一方前年同月比の減少率は若干ながら縮小した。12月はクリスマス及び年末の休暇シーズンに突入することから経済活動が前月に比べ不活発化することが、同国の12月の留出油需要が前月比で減少する一因となっているものと考えられる。ただ、12月の全米平均軽油小売価格が1ガロン当たり3.972ドルと11月の同4.254ドル及び前年同月(同4.714ドル)を下回った他、12月の同国鉱工業生産が前年同月比で1.1%の増加と11月の同0.5%の減少から増加に転じるなどした(2022年12月は米国に寒波が来襲、南部にまでその影響が及んだことから経済活動に支障が発生した結果、同月の米国鉱工業生産は前年同月比で0.6%程度の増加と11月の同1.9%の増加から伸び率が3分の1程度に縮小したことにより、その反動が2023年12月に現れているものと考えられる)ことが、留出油需要の前年同月比での減少率を縮小させた一方で、2023年12月の米国北東部が前年同月程寒冷ではなかった(2023年12月は猛烈な寒波は来襲しなかった)ことから暖房向けの留出油需要が喚起されなかったことで、当該需要は前年同月比で減少したままとなった。なお、2023年12月の米国留出油需要は2019年同月の当該需要(日量393万バレル)(確定値)を9.5%程度下回っている。このように、同国の留出油需要が必ずしも堅調であるとは言い切れなかった反面、製油所の稼働上昇とともに留出油を含む石油製品製造活動が活発化した(図6参照)結果、12月上旬から1月上旬にかけ米国留出油在庫は増加傾向となった他、平年幅上方付近に位置する量となっている(図7参照)。
2023年10月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比3.4%程度増加の日量2,068万バレルとなり(図8参照)、9月の同2,009万バレルから需要量が増加したうえ、同月の前年同月比0.2%程度の減少から増加に転じた。ガソリン及び留出油両需要が前月比で増加した他、ガソリン需要が前年同月比で増加したことに加え、10月の留出油需要の前年同月比での減少率が9月に比べ縮小したことが、10月の同国石油需要の前月比及び前年同月比の増加に影響しているものと考えられる。また、その他の石油製品の需要が速報値(日量477万バレル)から確定値(同443万バレル)に移行する段階で相当程度下方修正された反面、ガソリン及び留出油の両需要が速報値から確定値に移行する段階で上方修正されたことにより、同国石油需要(確定値)は速報値(前年同月比3.2%程度増加の日量2,065万バレル)とほぼ同水準となっている。なお、2023年10月の米国石油需要は2019年10月の当該需要(日量2,071万バレル)(確定値)を0.2%程度下回っている。他方、2023年12月の米国石油需要(速報値)は推定日量2,049万バレル、前年同月比で6.0%程度の増加となっており、11月の同国石油需要(速報値)である日量1,980万バレル、前年同月比2.0%程度の減少から、需要量が増加した他前年同月比でも減少から増加に転じた。12月の同国ガソリン需要が前月比で増加した他前年同月比でも11月の減少から増加に転じたうえ、その他の石油製品の需要が日量506万バレルと前月(同448万バレル)及び前年同月(同373万バレル)から相当程度増加していることが寄与する格好となっている。しかしながら、同月のその他の石油製品需要は2022年11月~2023年10月の当該需要(確定値)である日量373~467万バレルに比べても高水準であることから、当該需要は速報値から確定値に移行する段階で下方修正される可能性があるので注意が必要であろう。なお、2023年12月の米国石油需要は、2019年12月の当該需要(日量2,044万バレル)(確定値)を0.2%程度上回っている。また、12月上旬から1月上旬にかけての米国における国内原油生産量は日量1,310~1,330万バレルで概ね横這いであった一方、秋場のメンテナンス作業が終了したり不具合が発生していた装置の改修が完了したりしたうえ、冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油需要期突入に伴い精製利幅が好転したこともあり製油所における原油精製処理活動が上向きとなった他、米国のテキサス州やルイジアナ州では年末時点の陸上石油在庫評価額に対し固定資産税等が課税されることから、課税額を低減させるために精製業者等は必要以上の陸上在庫保有を敬遠することにより、原油輸入が抑制されたり輸出が促進されたりした結果、同国の原油在庫は特に12月末に向けた期間を中心として減少傾向を示したが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図9参照)。そして、原油及びガソリン在庫が平年幅上限を超過する量、そして留出油在庫が平年幅上方付近に位置する量となったこともあり、原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅上限を超過する状態となっている(図10及び11参照)。
2023年12月末のOECD諸国推定石油在庫の対前月末比での増減は、原油については、欧州では製油所の原油精製処理活動は活発化したものの、併せて製油所への原油供給も拡大したものと見られることにより、在庫は横這いであった。しかしながら、米国では減少となった他、日本においても年末に向け原油輸入が鈍化する場面が見られたこともあり当該在庫は減少した。結果として、OECD諸国全体では原油在庫は減少となったが、平年幅上限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、米国ではガソリン及び留出油両在庫は増加となったものの、プロパン(気温の低下に伴い暖房用需要が発生したことが一因であるものと見られる)及びその他の石油製品(冬用ガソリンに混入するブタンの需要が増加しつつあることによるものと見られる)の両在庫が減少したことにより相殺されて余りあったことから、石油製品在庫は微減となった。また、欧州においても冬場の気温低下に伴い暖房向け軽油需要が増加したものと見られることから、中間留分在庫が減少したことが一因となり石油製品在庫は若干ながら減少した。さらに、日本においても気温が低下するとともに暖房向け需要が喚起されたこともあり灯油在庫が減少したこと等から石油製品在庫は減少となった。この結果、OECD諸国全体では石油製品在庫は減少となり平年並みの量となっている(図13参照)。そして、原油在庫が平年幅上限を超過する量となっている一方、石油製品在庫が平年並みの量となったことから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅上限付近に位置する量となっている(図14参照)。なお、2023年12月末時点のOECD諸国推定石油在庫日数は61.3日と11月末の推定在庫日数(61.8日)から減少している。
12月13日に1,100万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールにおけるガソリンを含む軽質留分在庫は、12月20日及び27日には1,300万バレル台前半程度の量へと増加した。そして、1月3日は1,300万バレル、1月10日は1,200万バレル台前半程度の、それぞれ水準へと低下したものの、12月13日の水準を上回るなど、当該在庫は概して増加傾向を示した。中国石油会社7社に対し1,200万トンの規模で付与された(9月1日に伝えられる)2023年第3回の石油製品(低硫黄重油を除く)輸出枠(これとは別に低硫黄重油輸出枠300万トンが付与された)が消化されつつあったことにより、同国からのガソリン輸出が12月に入り低調となったことがシンガポールでの軽質留分在庫を減少させる方向で作用した一方、アジアの一部諸国及び地域における製油所が実施していた秋場のメンテナンス作業が完了し稼働を再開したことにより石油製品の製造活動が活発化したこともあり、それら諸国もしくは地域による国外もしくは域外からのガソリン輸入が抑制された反面それら諸国もしくは地域からのガソリン輸出が促されたものと見られることが、かえってシンガポールからのガソリン流出を抑制するとともに同国における当該製品在庫を上振れされる格好となった結果、在庫が増加傾向となったものと考えられる。そしてアジア市場では、春節(旧正月、2024年は2月10日であり、このため中国では2月10~17日が休日になるとされるが、国及び地域により若干異なる場合がある)を控え帰省等のためのガソリン需要が東南アジアを中心として発生しつつあること、2024年1月以降中東諸国における一部製油所においてメンテナンス作業が実施される予定となっていることから、当該作業実施に伴い中東からアジア方面へのガソリン輸出が減少するとの観測が市場で発生していることが、アジア市場におけるガソリン価格に上方圧力を加えたものの、アジア一部地域における気温低下により個人の外出が不活発となりつつあったことによりガソリン需要が振るわなかったことに加え、シンガポールの軽質留分在庫が増減しながらも増加傾向となっていたこと、2024年第1回の中国石油製品輸出枠1,900万トンが付与された(因みに2023年第1回は1,899万トンであった)(別途低硫黄重油輸出枠も前年比同水準の800万トンで付与された)旨12月29日に報じられた(実際中国当局は12月29日に当該輸出枠付与を発表したとされる)こと、米国においてガソリン在庫が大幅に増加したことにより同国ガソリン価格が下落したこともあり、需給が緩和気味の米国からアジアに向けガソリンが輸出されつつある旨伝えられたことが、アジア市場におけるガソリン価格に下方圧力を加えたことから、12月中旬から1月中旬にかけてはアジア市場におけるガソリンとドバイ原油との価格差(従来ガソリン価格がドバイ原油価格を上回っていた)は上下に変動したものの総じて縮小する傾向を示した。
他方、2023年に入り中国国内におけるナフサ分解装置(及びプロパン脱水素化装置(PDH))の稼働率が上昇しつつある(ナフサ分解装置に投入される原料であるナフサは中国が輸入等した原油を精製することにより製造されているものと推測される)ことが示唆される旨指摘されており、同国の石油化学製品輸入が限定される格好となっている(2023年11月の同国のエチレン輸入量は約16万トンと直近のピーク時である2019年1月(約29万トン)の半分強の規模となっている)こともあり、(中国を除く)アジア地域における石油化学製品需要が好調でないことに伴い、原料となるナフサの需要も堅調ではないものと見られる。他方、冬場の暖房シーズンに突入するとともに暖房向け需要が旺盛となったことにより、石油化学部門向け原料として競合する液化石油ガス(LPG)の価格が上昇した(また、渇水のためパナマ運河を通航する船舶数が制限されたため、米国メキシコ湾岸地域等から太平洋圏へのLPG供給が低下するとの懸念が増大していることもLPG価格に上方圧力を加える格好となっていると見る向きもある)ことや、2024年1月以降中東諸国の一部製油所においてメンテナンス作業が実施される予定となっていることから、当該作業実施に伴い中東からアジア方面へのナフサ輸出減少観測が市場で発生したことが、アジア市場でのナフサ価格に上方圧力を加えたものの、アジアの石油化学製品市場における軟調なナフサ需要を相殺しきれなかった結果、12月中旬から1月中旬にかけての同市場におけるナフサとドバイ原油と価格差(この場合ナフサ価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向を示した。
12月13日には800万バレル台後半程度の水準であったシンガポールにおける軽油やジェット燃料といった中間留分在庫は、12月20日及び27日には800万バレル強程度、1月3日には700万バレル台前半程度、1月10日には700万バレル強程度の、それぞれ量へと低下した結果、12月13日の水準を下回る状態となった。2023年分の石油製品輸出枠を消化しつつあった中国からシンガポールに向け軽油輸出が低調になったことに加え、欧州においても秋場から冬場にかけ軽油在庫が減少した後低水準の状態で推移したこともあり、アジアに比べ欧州の軽油価格が総じて割高となったことにより、アジア諸国及び地域から欧州方面に軽油が流出した反面シンガポールへの軽油供給が鈍化したものと見られることがシンガポールにおける中間留分在庫減少の背景にあるものと考えられる。このようにシンガポールにおける中間留分在庫減少に伴い軽油需給の引き締まり感を市場が意識したことがアジア市場の軽油価格に上方圧力を加えたものの、中国の2024年第1回の石油製品輸出枠付与に伴い同国からの軽油供給増加観測が市場で広がったことや、アジアの一部諸国及び地域の経済がもたつき気味となっていることに伴い軽油需要が抑制されるとの観測が発生していることが、アジア市場における軽油価格に下方圧力を加える格好となったことから、12月中旬から1月中旬にかけての同市場における軽油とドバイ原油の価格差(この場合軽油価格がドバイ原油価格を上回っている)は比較的限られた範囲内で推移した。
12月13日に2,100万バレル台半ば程度の量であったシンガポールの重油在庫は、12月20日には2,000万バレル台半ば程度の水準へと低下した。しかしながら、12月27日には2,100万バレル強程度、1月3日には2,200万バレル台前半程度、そして1月10日には2,300万バレル強程度の、それぞれ量へと増加した結果、12月13日の水準を上回る状態となっている。ロシアの黒海沿岸地域における荒天やクウェートにおける一部製油所の装置不具合発生等によりシンガポール方面への重油供給が軟調となったものの、欧州において秋場の製油所メンテナンス作業が終了しつつあったことに伴い、同地域の製油所で製造された重油がシンガポール方面に流入したことが、シンガポールにおける重油在庫を押し上げる格好となったものと考えられる。そして、このようにシンガポールにおいて重油在庫が増加したことが、アジア市場における重油価格に下方圧力を加えた。また、12月下旬初頭頃においては原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付いかない場面が見られた。このようなこともあり、この時期アジア市場における高硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合高硫黄重油価格がドバイ原油価格を下回っている)は拡大する傾向を示した。しかしながら、その後は原油価格が下落傾向となったことに対し重油価格の下落が追い付かなかい場面が見られた。加えて、11月30日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合において決定された、2024年第1四半期のOPECプラス産油国による減産強化は自主的なものではあったものの、中東湾岸産油国等において重質高硫黄原油を中心に生産が削減されることに伴い高硫黄原油の供給が減少するとの観測が発生したことが、アジア市場における高硫黄重油価格に上方圧力を加えた。結果として、12月下旬から1月上旬にかけ高硫黄重油と原油との価格差は縮小する傾向を示した。それでも、1月中旬に入ると原油価格の上昇に重油価格の上昇が追い付かなかったことから、原油と重油の価格差は再び拡大する傾向を示している。他方、3基目の常圧蒸留装置(原油精製能力日量20.5万バレル)が稼働を開始した(7月6日に操業者であるKIPI(Kuwait Integrated Petroleum Industries)が発表)とされるクウェートのアル・ズール(Al-Zour)製油所(原油精製能力同61.5万バレル)については、数日中に同製油所での原油精製処理量が日量61.5万バレルの名目能力水準での稼働に到達する旨10月9日にKIPIが発表したものの、その後暫くの間クウェートからの低硫黄重油の国外販売が拡大しているようには見受けられなかった(クウェートの既存のミナ・アルアマディ(Mina Al Ahmadi)製油所(原油精製処理能力日量46.6万バレル)及びミナ・アブドラ(Mina Abdullah)製油所(同27万バレル))において、どちらか、もしくは双方の脱硫装置に不具合が発生した一方、クウェート国内の電力供給を賄うための発電所や同国内の塩水淡水化装置において利用される重油について、環境規制に適合させるため低硫黄のものを出荷する必要があったことや、11月12日には装置の不具合によりアル・ズール製油所の稼働がほぼ停止した他、11月16日には同製油所で火災が発生したことが影響しているものと見られる)ことがアジア市場における低硫黄重油価格を下支えしたものの、同製油所がほぼ完全な操業状態に到達した旨KIPIが12月3日に声明を発表した後、1月に入り同製油所からの低硫黄重油販売の動きが見られるようになったうえ、北東アジア諸国及び地域においては発電用燃料として低硫黄重油よりも石炭及びLNGが需要家により所望されていることが、アジア市場における低硫黄重油価格に下方圧力を加えた。このようなことから、12月中旬から1月中旬にかけての同市場における低硫黄重油とドバイ原油との価格差(この場合低硫黄重油の価格がドバイ原油価格を上回っている)は縮小する傾向を示した。
2. 2023年12月中旬から2024年1月中旬にかけての原油市場等の状況
2023年12月中旬から2024年1月中旬にかけての原油市場においては、紅海を航行する船舶に対するイエメンのフーシ派武装勢力による攻撃、及び米国等によるフーシ派武装勢力の拠点への攻撃、インド洋における船舶に対する攻撃やオマーン沖合における石油タンカーのイランによる拿捕等が、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念を市場で増大させたことに伴い原油相場に上方圧力を加えた反面、アンゴラのOPEC脱退やサウジアラビアによる原油販売価格引き下げが原油相場に下方圧力を加えた結果、原油価格(WTI)は概ね1バレル当たり70~76ドルを中心とする範囲内で上下に変動したものの、上昇及び下落の傾向は明確にはならなかった(図15参照)。
イエメン沖合の紅海において「スワン・アトランティック」(ノルウェー船籍)及び「MSCクララ」(パナマ船籍)の商業船舶2隻を無人機により攻撃した旨イエメンのフーシ派武装勢力が12月18日に発表した他、大手国際石油会社BPが紅海における石油輸送を一時全面的に見合わせる旨同日発表したことにより、世界石油供給を巡り混乱が拡大するとの懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.04ドル上昇し、終値は72.47ドルとなった。また、12月19日も、複数の石油会社や海運会社が紅海への進入を見合わせつつあることにより、世界石油供給を巡り混乱が拡大するとの懸念が市場で増大した流れを引き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.44ドルと前日終値比で0.97ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの2024年1月渡し原油先物契約は取引を終了したが、2024年2月渡し原油先物契約のこの日の終値は1バレル当たり73.94ドル(前日終値比同1.12ドルの上昇)であった)。さらに、紅海を航行する商業船舶の安全を確保すべく有志国連合が取り組む旨12月19日に米国が表明したことに対し、米国がイエメン情勢に対する介入を強めたり、フーシ派武装勢力を標的としたりするのであれば、フーシ派武装勢力は米国軍用艦への攻撃を実施する方針である旨12月20日にフーシ派武装勢力の指導者フーシ(Houthi)氏が表明したことにより、紅海を含む中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.78ドル上昇し、終値は74.22ドルとなった。この結果原油価格は12月18~20日の3日間で1バレル当たり合計2.79ドル上昇した。ただ、自国の利益に合致しないとしてOPECを脱退する旨12月21日にアンゴラが表明したことにより、OPECプラス産油国間の結束に対し不安視する向きが市場で発生したことから、12月21日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.33ドル下落し、終値は73.89ドルとなった。また、12月22日も、12月25日の米国クリスマスの休日(この結果、12月23~25日が連休になる)に伴い米国原油先物市場が休場になることを控えた持ち高調整が発生したことに加え、OPECを脱退する旨12月21日にアンゴラが表明したことにより、今後同国からの石油供給が増加する結果世界石油需給が相対的に緩和する可能性があるとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.56ドルと前日終値比で0.33ドル下落した。この結果原油価格は12月21~22日の2日間で1バレル当たり合計0.66ドルの下落となった。
12月25日はクリスマスの休日に伴い米国原油先物市場は休場であったが、インド洋で日本が所有するとされる(運航はオランダの会社とされる)のケミカルタンカー「ケム・プルート(Chem Pluto)」(リベリア船籍)がイランからの無人機により攻撃を受けたと12月23日に米国国防省が明らかにした(イラン外務省は12月25日に否定した)ことに加え、米国及び同盟国がパレスチナ自治区ガザ地区に対するイスラエルの攻撃に関与を継続すればジブラルタル海峡を封鎖する可能性がある旨イラン革命防衛隊のナクディ(Naqdi)調整司令官が示唆した旨12月24日に伝えられたこと、12月25日にイスラエルがシリアのダマスカス郊外を空爆した結果イラン革命防衛隊のムサビ(Mousavi)上級軍事顧問が死亡したことに対しイランのライシ大統領は報復することを示唆する声明を同日発表したこと、スイス大手海運会社MSCの運航する貨物船「MSCユナイテッド」をミサイルで攻撃した他今後もイスラエルの船舶やイスラエルに向かう船舶を標的にし続けるとイエメンのフーシ派武装勢力が表明した旨12月26日に報じられた(MSCもコンテナ船「MSCユナイテッド Ⅷ」(リベリア船籍)が紅海で攻撃を受けたと認めた旨同日報道される)うえ、それ以外にもイエメン沖合の紅海において弾道ミサイル、巡航ミサイル及び無人機等を米国軍やイスラエル軍が迎撃した旨12月26日に伝えられたことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、12月26日の原油価格の終値は1バレル当たり75.57ドルと前週末終値比で2.01ドル上昇した。ただ、12月26日の原油価格上昇に対する利益確定の動きが12月27日の市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり1.46ドル下落し、終値は74.11ドルとなった。また、12月28日も、(米国と中心とする有志国による紅海周辺の船舶の安全確保に向けた体制(12月19日に米国が計画を発表していた)の発足に伴い)今後欧州とアジアを結ぶ船舶の大部分を紅海及びスエズ運河経由とすることをデンマーク海運大手マースクが予定している旨示唆されると12月28日にロイター通信が報じたことにより、スエズ運河経由での石油輸送を巡る懸念が市場で後退したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり71.77ドルと前日終値比で2.34ドル下落した。さらに、12月29日も、この日米国石油サービス会社ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で500基と前週比2基増加(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は490基と同2基増加)している旨判明したことにより、この先の米国原油生産の伸びの加速期待が市場で増大したことに加え、これまでの上昇に対する利益確定の動きが発生したこともあり米国株式相場が下落したから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.12ドル下落し、終値は71.65ドルとなった。この結果原油価格は12月27~29日の3日間で1バレル当たり合計3.92ドル下落した。
1月1日は、米国での新年の休日に伴い同国原油先物市場は休場であったが、1月2日には、これまでの下落に対する持ち高調整が発生したこともあり米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.27ドル下落し、終値は70.38ドルとなった。しかしながら、1月3日には、これまでの下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが発生したことに加え、地域公共サービスの拡充や若年層の雇用拡大等を求めた地域住民による抗議行動実施に伴いリビア南西部のシャララ(Sharara)油田の原油生産が停止した(停止前の同油田の原油生産量は日量30万バレル程度であった)ことにより石油需給引き締まり感を市場が意識したこと、フランス海運会社CMA-CGMが運航するコンテナ船の紅海での航行中に攻撃を加えた旨1月3日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表した他、1月3日のイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官(2020年1月3日に米軍による空爆により殺害された)の命日に伴いイラン南部ケルマン(Kerman)で開催された追悼式典会場近隣の地点において2度の爆発が発生したことにより84人が死亡(当初発表された103人から訂正)、同日イランのバヒディ(Vadhi)内相が、当該爆発がテロ行為によるものである旨非難したこともあり、中東情勢の不安定化と同地域からの石油供給途絶懸念が増大したこと、OPECプラス産油国間の結束を再確認する旨1月3日にOPECが声明を発表したことにより、今後のOPECプラス産油国による減産強化に伴う石油需給引き締まり観測が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.70ドルと前日終値比で2.32ドル上昇した。ただ、1月4日には、この日EIAから発表された米国石油統計(12月29日の週分)において、ガソリン在庫が前週比1,090万バレルの増加と市場の事前予想(同22万バレル程度の減少)に反して増加していたうえ、1993年5月28日(この時は同1,146万バレル増加)以来の大幅増加となっている旨判明したことにより、米国ガソリン先物価格が下落したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.51ドル下落し、終値は72.19ドルとなった。それでも、1月5日には、米軍等が駐留するイラクのハリール(al-Harir)空軍基地が無人機により攻撃された旨この日イラクのクルド人自治区のテロ対策当局が明らかにした他、1月2日夜(現地時間)にレバノンのベイルート近郊における無人機による攻撃に伴いイスラム武装勢力ハマスのアルーリ(Arouri)副政治局長が殺害されたことからイスラエルに対し報復措置を実施する旨1月5日にレバノンの親イラン武装勢力であるヒズボラの指導者ナスララ(Nasrallah)師が表明したこと、米国が主導する紅海における有志連合と関係を持つ者は(イエメンのフーシ派武装勢力の攻撃の)対象となる旨1月5日にフーシ派武装勢力の指導者であるフーシ氏が警告したことにより、中東情勢の不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり73.81ドルと前日終値比で1.62ドル上昇した。
しかしながら、1月7日にサウジアラビアが2月の原油販売価格を明らかにした際、主要消費地域向けの全ての油種の原油価格を引き下げたうえ、アジア向けアラブ・ライト原油を1バレル当たり2ドル引き下げ(市場の事前予想は同1.25ドルの引き下げ)と2023年1月(この時は同2.20ドルの引き下げ)以来の大幅な引き下げを行なった結果、同原油価格は中東指標原油(ドバイ原油とオマーン原油の平均価格)に1バレル当たり1.5ドルの上乗せと2021年11月(この時は同1.3ドルの上乗せ)以来の低水準となったため、サウジアラビアがアジア等の石油需給緩和感を意識しているとの観測が市場で発生したことから、1月8日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり3.04ドル下落し、終値は70.77ドルとなった。ただ、1月8日の原油価格下落に対し値頃感から原油を買い戻す動きが1月9日市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.24ドルと前日終値比で1.47ドル上昇した。しかしながら、1月10日には、この日EIAから発表された米国石油統計(1月5日の週分)において、原油在庫が前週比134万バレル、ガソリン在庫が同803万バレル、留出油在庫が同653万バレルの、それぞれ増加と市場の事前予想(原油在庫同70万バレル程度の減少、ガソリン在庫同250万バレル程度、留出油在庫同240万バレル程度の、それぞれ増加)に反し、もしくは事前予想を上回って増加している旨判明したことにより、米国石油需給の緩和感を市場が意識したことに加え、欧州は2023年第4四半期に景気後退に突入した可能性がある他、今後も景気低迷が継続する恐れがあるとの認識を、1月10日に欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁が明らかにしたことにより、欧州経済減速と同地域の石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.87ドル下落し、終値は71.37ドルとなった。それでも、1月11日にオマーン沖で原油タンカー「セント・ニコラス(St. Nikolas)」(マーシャル諸島船籍)(14万トンのイラク産原油をトルコのアリアガに輸送中であったとされる)が拿捕されイラン領海内に連行されつつあったこと(後述)により、中東情勢の不安定化の拡大に伴う同地域からの石油供給途絶に対する懸念が増大したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり72.02ドルと前日終値比で0.65ドル上昇した。また、1月11日夜間の早い時間(同)に米国及び英国を含む有志連合軍がフーシ派武装勢力の軍事拠点に対し空爆するなどの攻撃を実施したことにより、中東情勢のさらなる不安定化に伴う同地域からの石油供給途絶懸念が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終値比で1バレル当たり0.66ドル上昇し、終値は72.68ドルとなった。この結果原油価格は1月11~12日の2日間で1バレル当たり合計1.31ドル上昇した。
3. 原油市場における主な注目点等
地政学的リスク要因面における石油市場を見る上での注目点としては、まず、中東情勢が挙げられよう。イエメン沖合の紅海においてデンマーク海運会社ユニ・タンカーズ(Uni-Tankers)が運航する「スワン・アトランティック(Swan Atlantic)」(ノルウェー船籍)及びスイス大手海運会社MSCが運航する「MSCクララ(MSC Clara)」(パナマ船籍)の商業船舶2隻を無人機により攻撃した旨イエメンのフーシ派武装勢力が12月18日に発表した他、大手国際石油会社BPが紅海における石油輸送を一時全面的に見合わせる旨同日発表した。また、紅海を航行する商業船舶の安全を確保すべく有志国連合が取り組む旨12月19日に米国が表明したことに対し、米国がイエメン情勢への介入を強めたり、フーシ派武装勢力を標的としたりするのであれば、フーシ派武装勢力は米国軍用艦への攻撃を実施する方針である旨12月20日にフーシ派武装勢力の指導者フーシ氏が表明した。そして、イエメンのフーシ派武装勢力による船舶への攻撃に対する懸念から、船舶がスエズ運河及び紅海を敬遠して航行しつつある旨12月22日に報じられる(12月22日の週において紅海南部のバブ・エル・マンデブ海峡に進入した、タンカーを含む船舶はそれまでの3週間平均を40%程度下回る旨12月22日にブルームバーグ通信が報じている)。さらに、インド洋において日本の海運会社が運航するとされる船舶(リベリア船籍)の「ケム・プルート」がイラン方面から飛来した無人機の攻撃を受けたと12月23日に米国国防省が明らかにした(ただ、12月25日にイラン外務省は米国による指摘を否定している)ことに加え、米国及びその同盟国がパレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラエルの攻撃への関与を継続すれば、ジブラルタル海峡を封鎖する可能性がある旨イラン革命防衛隊のナクディ調整司令官が示唆した旨12月24日に伝えられた他、12月25日にイスラエルがシリアのダマスカス郊外を空爆した結果イラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問が死亡したことに対しイランのライシ大統領が報復することを示唆する声明を同日発表したうえ、MSCの運航する貨物船「MSCユナイテッド」をミサイルで攻撃した他今後もイスラエルの船舶やイスラエルに向かう船舶を標的にし続けるとイエメンのフーシ派武装勢力が主張した旨12月26日に報じられた(MSCもコンテナ船「MSCユナイテッド Ⅷ(MSC United Ⅷ)」(リベリア船籍)が紅海で攻撃を受けたと認めた旨同日報道された)。ただ、米国が主導する有志連合国による紅海航行船舶への安全確保への取り組みもあり、フランス大手海運会社CMA・CGMは紅海を経由して航行する自社の船舶数が増加しつつある旨12月26日に明らかにしたうえ、デンマーク大手海運会社マースクが欧州とアジアを結ぶ船舶の大部分を今後紅海及びスエズ運河を経由させる方向で行う予定である旨示唆されると12月28日にロイター通信が報じた(ただ、ドイツ大手海運会社ハパック・ロイド(Hapag-Lloyd)や日本海運大手日本郵船及び商船三井は、安全上の理由から紅海及びスエズ運河での船舶航行を回避し続ける方針である旨示唆したと12月29日に報じられた)。しかしながら、マースクのコンテナ船がミサイルによる攻撃を受けた(12月30日夜(現地時間)にその旨通報があったと米国中央軍が明らかにした)ことに伴い、48時間に渡り紅海での航行を見合わせる旨12月31日にマースクが発表した。また、12月29日夜から30日にかけてシリア東部のアブ・カマル(Abu Kamal)等にある親イラン組織の関与する施設が空爆された旨12月30日に伝えられる。12月30日にはイスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラム武装組織ハマスとの戦闘はさらに数ヶ月間継続するものと考えている旨明らかにした。さらに、紅海においてマースクの運航する「マースク・ハンツォウ(Maersk Hangzhou)」(シンガポール船籍)がイエメンのフーシ派武装勢力により攻撃を受けたとして遭難信号を発進したことに対し、米軍ヘリコプターが出動、フーシ派武装勢力が乗船する船舶との間で交戦状態となった後、米軍はフーシ派武装勢力の船舶3隻を沈没させるなどして撃退した旨12月31日に報じられたのに対し、1月1日にイランの軍用艦がバブ・エル・マンデブ海峡を通過し紅海に進入した旨同日イランの半公式通信社タスニム通信が報じたことにより、紅海周辺を巡る緊張が高まったことに伴い、マースクは当面紅海の通航を見合わせる旨明らかにしたと1月2日に報じられた。また、紅海を航行中のCMA-CGMが運航するコンテナ船に対し攻撃を実施した旨1月3日にイエメンのフーシ派武装勢力が発表した。1月4日にはマースクが既にスエズ運河から紅海に進入している船舶についても、アフリカ経由に変更すべく船舶を引き返させる方針である旨表明した。さらに、米軍がイラクのバグダッドにおける空爆により親イラン武装勢力指導者を殺害したと米国当局関係者が明らかにした(イラク駐留米軍への攻撃を計画していたことに伴うものとしている)旨1月4日に報じられた。また、米軍等が駐留するイラクのハリール(Harir)空軍基地が無人機により攻撃された旨1月5日にイラクのクルド人自治区のテロ対策当局が明らかにした他、1月2日夜(現地時間)にレバノンのベイルート近郊で無人機による攻撃によりイスラム武装勢力ハマスのアルーリ(Arouri)副政治局長が殺害されたことから、イスラエルに対し報復措置を実施する旨1月5日にレバノンの親イラン武装勢力であるヒズボラの指導者ナスララ(Nasrallah)師が表明した。そして、米国が主導する紅海における有志連合と関係を持つ者は(イエメンのフーシ派武装による)標的となる旨1月5日にフーシ派武装勢力の指導者であるフーシ氏が改めて警告した。加えて、イスラエルがレバノン南部を攻撃した結果、レバノン拠点のイスラム武装勢力ヒズボラのタウィル(Tawil)司令官が死亡した旨1月8日に報じられた。これに対し1月9日にヒズボラはイスラエル北部の都市サフェド(Safed)にある軍事基地を報復攻撃した旨明らかにした。
1月9日には、イエメンのフーシ派武装勢力が発射した巡航ミサイル2発、弾道ミサイル1発、及び無人機18機を米国及び英国の軍隊が迎撃した旨同日米国中央軍が発表した(英国のシャップス国防相によれば、これはこれまでのフーシ派武装勢力による攻撃としては最大規模であるとされる)ことを受け、米国国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が、イスラエルと関係のない船舶が標的にされるなどフーシ派武装勢力による紅海における攻撃が激化しつつあり、このような状態が継続するようであれば、米国はさらなる措置につき他の有志連合参加国と協議することになるであろう旨明らかにしたと1月10日に報じられた。また、1月11日にオマーン沖合においてギリシャ海運会社エンパイア・ナビゲーション(Empire Navigation)が運航する原油タンカー「セント・ニコラス(St. Nikolas)」(マーシャル諸島船籍)(トルコ石油精製会社トゥプラス(Tupras)が購入した14万トンのイラク産原油をトルコのアリアガに輸送中であった)が拿捕され、イラン領海内に連行されつつある様に見受けられた(同タンカーは1月13日現在ホルムズ海峡に近いイランのケシュム(Qeshm)島東部付近に位置している旨同日伝えられる)。「セント・ニコラス」の旧船名は「スエズ・ラジャン(Suez Rajan)」であり、イラン革命防衛隊が手配したイラン産原油を中国に輸送しようとして米国に拿捕され(2023年4月28日に報じられる)同国のヒューストン沖合まで連行されたうえ、2023年5月30日以降同地に停泊、8月20日に原油を米国に陸揚げしたが、それに対し、米国がイラン産原油を窃盗したとして報復措置を実施した旨イランが明らかにしたとイラン国営メヘル通信が1月11日に示唆した。さらに、1月11日夕方遅く(米国東部時間)に英国のスナク首相が、米国が主導する有志連合軍によるイエメンにあるフーシ派武装勢力の軍事拠点への攻撃実施を承認した旨伝えられた後、同日夜間の早い時間(同)に米国及び英国を含む有志連合軍がフーシ派武装勢力の16ヶ所(その後28ヶ所に訂正)の軍事拠点の60ヶ所の標的に対し150発以上の爆弾を用いて空爆するなどの攻撃を実施、米国のバイデン大統領は攻撃が成功した旨表明した。これに対し、米国が(フーシ派武装勢力を)攻撃するのであれば、フーシ派武装勢力は従来よりも大規模に反撃する旨フーシ派武装勢力の指導者フーシ氏が1月11日に警告した。1月12日には米軍が再びイエメンのフーシ派武装勢力の拠点を攻撃(空爆)した旨同日夜に伝えられた(米国及び英国は1月14日にもイエメンの都市ホデイダ(Hodeidah)を空爆した旨フーシ派武装勢力は主張している)。そして同日フーシ派武装勢力はイスラエルと関係を持つ船舶を攻撃し続ける旨表明した他、イラン外務省も同日米国及び英国等によるフーシ派武装勢力への攻撃を非難した。そして、1月12日にフーシ派武装勢力はミサイルを発射、紅海洋上に着弾した。これについては、ロシア産原油を輸送するタンカーを英国関連船舶と誤認しミサイル攻撃の対象とした可能性があると英国海上警備会社アンブリー(Ambrey)が指摘している。また、米国が主導する有志連合軍が船舶に対し紅海の入り口にあるバブ・エル・マンデブ海峡の通航を回避するよう勧告した旨米国独立系タンカー業界団体インタータンコ(Intertanko: International Association of Independent Tanker Owners)が加盟船主に通告した旨1月12日に伝えられた。そして、デンマーク大手石油製品タンカー会社トーム(Torm)、シンガポール大手石油製品タンカー会社ハフニア(Hafnia)、及びスウェーデンタンカー会社ステナ・バルク(Stena Bulk)の各社が紅海南部における船舶の航行を停止する旨1月12日に報じられた。なお、11月19日に開始されたフーシ派武装勢力による紅海周辺の攻撃は1月11日時点で27回に達していると同日米軍が発表している。
このように、紅海周辺を巡りイエメンのフーシ派武装勢力と西側諸国等都の対立が先鋭化、実際に攻撃が拡大する様相を呈していることもあり、今後より多くの石油タンカーが紅海を迂回し南アフリカ沖合の喜望峰を経由して航行する経路に変更する可能性があるが、喜望峰経由は紅海及びスエズ運河経由に比べ中東と北西欧州との間の航行日数が10日間程度長くなることから、その分だけタンカーが石油を輸送する(つまりタンカーが使用中である)期間が長期化することにより、利用可能なタンカーの供給が減少することを通じタンカー需給が引き締まることにより、船舶運賃が上昇したり、円滑な石油供給が行なわれにくくなったりすることにより、遠隔地から供給される石油の代替として短中距離に位置する産油国等から供給される石油への需要が高まるなど、石油市場が混乱するとともに石油製品及び原油相場に上方圧力が加わる可能性がある。また、イスラエルとハマスの対立がさらに強まるとともに、イスラエル、イスラエルを支援する米国、及びイスラエルとの外交関係改善に向かいつつあったサウジアラビアと、ハマス、ハマスを支援するとされるイラン、同じくイランが支援するとされるレバノンの武装勢力ヒズボラ、イエメンのフーシ派武装勢力、及びイラクやシリア等を拠点とする親イラン武装勢力等との間での対立が先鋭化することにより、2023年3月10日に発表されたサウジアラビアとイランとの間での外交関係正常化の合意(サウジアラビアが2016年1月2日にテロ行為に関与した等の理由によりイスラム教シーア派指導者ニムル師の処刑を執行したことに対し、イランでデモ隊が抗議行動として在テヘランサウジアラビア大使館を襲撃したことから両国は2016年1月3日以降断交状態となっていた)後、それまでサウジアラビアが支援するハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態となっていたイエメンにおいて両勢力間での和平の機運が相対的に高まりつつあったものの、再びハディ暫定大統領派勢力とフーシ派武装勢力との間で内戦状態に戻るとともに、フーシ派武装勢力によりサウジアラビアの石油関連施設へミサイルや無人機が発射される等する(なお、1月13日にフーシ派武装勢力はサウジアラビアの国境に近いサーダ(Saada)州で軍事演習を実施した旨伝えられる)結果、サウジアラビアからの石油供給に支障が発生したり、紅海のみならずペルシャ湾等他の地域においてタンカーを含む船舶が拿捕されたり、もしくは攻撃を受けたりすることにより、中東産油国等からの石油供給を巡る懸念が一層拡大したり、さらにはイランがホルムズ海峡(2023年前半時点で原油及びコンデンセート日量1,470万バレル、石油製品同580万バレル、合計同2,050万バレル相当分の石油を積載したタンカーが通過する)を封鎖したりする結果、相当量の石油供給が途絶する恐れがあるとの懸念が増大したりする(カーグ島を含めイランの主力石油積出港がホルムズ海峡内のペルシャ湾岸地帯に位置することもあり、イランが同海峡を封鎖する確率は高くないものと認識されてはいるが、実際封鎖された場合世界石油需要の20%程度が影響を受けるなどするため、市場では懸念が発生しやすい)ことにより、原油価格が影響を受けるといった展開となる可能性があるので、注意する必要があろう。
また、11月末以降イランが月間約9キログラムのペースで60%の濃縮ウラン製造を行なっている(それ以前は同3キログラム)旨国際原子力機関(IAEA)が12月26日に明らかにしたことを受け、12月28日には米国、英国、フランス及びドイツの4ヶ国がイランを非難する旨の共同声明を発表した。このようなことから、今後も、核開発問題を巡るイランと西側諸国等の間での対立が高まることに対し石油市場での懸念が増大する結果、原油相場にその懸念が織り込まれると言った場面が見られることもありうる。
リビアにおいては、地域公共サービスの拡充や若年層の雇用拡大を求めた地域住民による抗議行動に伴い同国南西部に位置するシャララ(Sharara)油田関連施設が閉鎖されたため、同油田の原油生産が停止した(停止前の同油田の原油生産量は日量30万バレル程度であった)。また、同じくリビア南西部にあるエル・フィール(El Feel)油田(原油生産量日量6.5万バレルとされる)も地域住民による抗議行動により停止した旨1月3日夜(米国東部時間)に報じられた。1月7日にはシャララ油田の出荷に関し不可抗力条項の適用をリビア国営石油会社NOCが宣言した。また、法に抵触する行為を理由としてNOCのベングダラ(Bengadara)会長の解任を求める他、石油関連施設における地域住民の雇用促進、環境保護等を要求して、抗議団体がリビアの首都トリポリ郊外のメリタ(Mellitah)にある石油・天然ガス関連施設封鎖2ヶ所を閉鎖する意向である(これにより同地にある処理施設による天然ガス供給が停止すると警告)と主張した(1月12日午後(現地時間)を期限とする)旨1月12日に伝えられた(但し抗議団体は1月12日に期限を1日延長し1月13日午後とした)。従来リビアでは、首都トリポリを拠点とする、国連及びトルコが支援する国民合意政府(GNA: Government of National Accord)及びGNAと行動をともにする暫定国民統一政府(GNU: Government of National Unity))と、エジプト、UAE及びロシア等が支援する、東部トブルクを拠点とする代表議会(HoR: House of Representative)及びHoRを支援するリビア国民軍(LNA: Libya National Army)との間での対立から、内戦状態となったことに伴い石油生産及び出荷関連施設の操業が停止するとともに原油生産が大幅に低下する場面が見られたが、今回はそのような内戦に伴うものとは状況が異なっており、労働条件等に関し政府等と合意できれば、油田関連施設等の閉鎖(当該施設に物理的な被害は発生していないものと見られる)が解除されるとともに、速やかに原油供給等が再開されるものと考えられるが、交渉が複雑化することにより油田関連施設等の閉鎖が長引くようだと、原油供給等が再開されないことにより石油需給引き締まり感を徐々に市場関係者が意識するとともに、原油相場に上方圧力が加わるといった展開となる可能性も否定できない。
経済面では、米国と中国の情勢が中心となろう。米国金融当局による政策金利引き下げに対し市場は前のめりになっている旨同国クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁が発言した旨12月18日にフィナンシャル・タイムスが報じた他、12月13日の米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長による前回の米国連邦公開市場委員会(FOMC)(12月12~13日開催)における政策金利引き下げ検討に関する発言により早期の政策金利引き下げ実施への期待が市場で高まっていることに対しシカゴ連邦準備銀行のグールズビー総裁は若干困惑している旨12月18日に明らかにした(同氏は1月12日にも金融市場が米国金融当局よりも先走って2024年の政策金利引き下げを見込んでいる旨発言している)。また、米国金融当局による政策金利引き下げは喫緊の課題ではない旨12月19日にアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにしたが、物価上昇率が低下すれば、2024年の政策金利引き下げの展望が開ける旨12月19日にリッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が示唆した。そして、1月3日に明らかになったFOMC議事録(12月12~13日開催分)においては、当面景気を抑制させるような政策姿勢を維持することが妥当である旨委員間の認識が一致していた旨明らかになった一方、政策金利は局所的な最高水準かその近辺にある可能性が高く2024年末までに引き下げが開始されると見られる旨の見解が示されていた。それでも、米国経済は軟着陸する方向に向かいつつある様に見えるものの確実というわけでもなく、政策金利のさらなる引き上げの可能性は残存している旨1月3日にリッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が明らかにした。また、さらなる政策金利引き上げの可能性は依然排除できない旨1月6日にダラス連邦準備銀行のローガン総裁が明らかにした他、米国の物価上昇は抑制されつつあるものの、なお、金融引き締め政策推進姿勢を堅持している旨1月8日にアトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁が明らかにした。さらに、1月5日に発表された米国非農業部門雇用者数が市場の事前予想を上回って増加している旨判明したこと(後述)を受け、リッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁は雇用が堅調であることから米国金融当局は物価上昇抑制に注力し続ける可能性がある旨同日示唆した。そして、1月11日に発表された米国消費者物価指数(CPI)(後述)を受け、クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁は、3月19~20日に開催される予定である次々回のFOMCにおける政策金利引き下げ決定は時期として早い旨表明した。また、1月11日にはリッチモンド連邦準備銀行のバーキン総裁が米国の物価上昇安定に対し確信が持ちきれない旨示唆している。
他方、12月21日米国商務省発表の2023年第3四半期国内総生産(GDP)は前期比年率4.9%の増加と市場の事前予想(同5.2%増加)を下回った他、併せて発表された第3四半期の食料及びエネルギーを除くコア個人消費支出(PCE:Personal Consumption Expenditures)価格指数が前期比で2.0%の上昇と11月29日に発表された改定値(同2.3%の上昇)から下方修正された他2020年第4四半期(この時は同1.8%上昇)以来の低水準となったうえ、12月21日にフィラデルフィア連邦準備銀行から発表された12月のフィラデルフィア地区製造業景況感指数(ゼロが当該部門拡大と縮小の分岐点)がマイナス10.5と11月のマイナス5.9から低下した他市場の事前予想(マイナス3.0)を下回った。また、12月22日に米国商務省から発表された11月の同国コア個人消費支出(PCE)価格指数が前年同月比で3.2%の上昇と市場の事前予想(同3.3%の上昇)を下回った他、同日米国ミシガン大学から発表された1年先の物価上昇予想が3.1%と2021年3月(この時は同3.1%の上昇)以来の低水準に到達している旨判明した。さらに、1月3日に米国労働省から発表された11月の雇用動態調査(JOLT: Job Openings and Labor Turnover Survey)において、求人件数が879万件と前月比で6.2万件減少、2021年3月(この時は840件)以来の低水準に到達した他市場の事前予想(882.1~885万件)を下回ったうえ、同日米国供給管理協会(ISM)から発表された12月の同国製造業景況感指数(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)が47.4と14ヶ月連続で50を割り込むなど、2000年8月から2002年1月にかけて以来の長期間当該部門が縮小していることが示唆された。加えて、1月8日に米国ニューヨーク連邦準備銀行から発表された12月調査時点の1年先の物価上昇予想が3.01%と、2020年12月調査時点(この時は3.00%)以来の低水準となった。しかしながら、1月5日に米国労働省から発表された12月の同国非農業部門雇用者数は前月比で21.6万人の増加と市場の事前予想(同17.0~17.5万人の増加)を上回った。また、1月11日に米国労働省から発表された12月の同国CPIは前年同月比3.4%の上昇と11月の同3.1%から伸びが加速した他市場の事前予想(同3.2%上昇)を上回ったうえ、1月12日に同国労働省から発表された12月の同国生産者物価指数(PPI)は年同月比で1.0%の上昇と11月(同0.8%の上昇)から延びが加速するなど、物価上昇が加速する様相を呈している。
このように、米国における金融当局関係者の発言や、経済指標類は、同国金融当局の政策金利を巡る方針に関し、まちまちな状況となっており、必ずしも一貫しているわけではない。それでも、3月に開催される予定である次々回FOMCにおいては0.25%の政策金利引き下げが決定される確率が1月12日現在で76.9%と、直近の最高水準であった2023年12月22日時点の75.6%(その後一旦確率は低下した)を超過して上昇傾向にあるなど、市場関係者による政策金利引き下げ期待が強まりつつあることから、この面では米国経済回復に伴う石油需要の伸びの加速期待が市場で発生しやすいことにより、原油相場が下支えされやすいものと考えられる。そのような中、米国金融当局関係者による物価の趨勢を含む同国経済の動向を巡る発言及び今後発表される予定である米国経済指標類の内容等によって原油相場が変動する可能性があるものと見られる。また、1月30~31日に開催される予定である次回FOMCにおける決定事項や、FOMC開催後の記者会見等におけるパウエルFRB議長の発言によっては、米国金融当局による政策金利を巡る方針に対する観測を市場で発生させることにより、その影響が原油相場に織り込まれると言った展開となることもありうる。
さらに、1月11日以降、主要米国企業等の2023年10~12月期等の業績が発表されつつあるので、このような業績、及び一部企業から明らかにされる可能性のあるこの先の業績見通し等によっても米国株式相場とともに原油相場がその影響を受ける場面が見られることもありうる。
12月27日に中国国家統計局から発表された11月の同国工業企業利益は前年同月比29.5%の増加と10月の同2.7%の増加から増加率が拡大した。ただ、12月31日に同国国家統計局から発表された12月の同国製造業購買担当者指数(PMI)(50が当該部門拡大と縮小の分岐点)は49.0と11月の49.4から低下、3ヶ月連続で50割れとなった他2023年6月(この月は49.0)以来の低水準に到達したうえ市場の事前予想(49.5~49.6)も下回った。それでも1月2日に中国独立系報道機関財新伝媒から発表された12月の同国製造業PMIは50.8と11月の50.7から上昇したうえ、2023年8月(この時は51.0)以来の高水準となった他、市場の事前予想(50.3~50.4)を上回った。また、1月12日に中国税関総署から発表された12月の同国輸出(米ドル建)は前年同月比2.3%の増加と11月の同0.5%の増加から伸びが拡大した他市場の事前予想(同1.5~1.7%の増加)を上回った。さらに、1月12日に中国税関総署から発表された12月の同国原油輸入が4,836万トン(推定日量1,142万バレル)と11月(4,245万トン)(同1,036万バレル)から増加した他、前年同月(4,807万トン、同1,135万バレル)を上回ったうえ、2023年の同国原油輸入量が5,640万トン(推定日量1,131万バレル)と史上最高水準に到達した。ただ、1月12日に中国国家統計局から発表された12月の同国CPIは前年同月比で0.3%、同月の同国PPIは同2.7%の、それぞれ下落と、CPIは3ヶ月連続、PPIは15ヶ月連続で下落となっている旨判明した。このように、中国経済指標類は同国経済の回復が不安定であることを示唆している。中国政府等は景気刺激策を実施する意向をかねてから表明してはいるものの、それによって足元で中国経済が回復途上にあるかどうかについては市場関係者の確信を持ちきれない状態であり、今後も、中国政府等による景気刺激策を巡る発言を含む動向に加え同国経済指標類の内容によって原油相場が左右される場面が見られるものと考えられる。
米国では1月後半以降も最終消費段階では冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要期はなお続く(暖房シーズンは概ね11月1日から翌年3月31日までである)ものの、製油所の段階では、既にある程度暖房用石油製品の製造が完了しつつあり、むしろ間もなく春場の石油不需要期(冬場の暖房用石油製品需要期が終了に向かう反面、夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期にはまだ早い)に突入するとともに、メンテナンス作業実施が視野に入ることで製油所は稼働を引き下げ始め、原油の購入を不活発化する。このため、原油に対する需要がこの先低下するとの観測を含め、季節的な石油需給の緩和感が市場で醸成されやすくなることから、この面で原油相場に下方圧力が加わる可能性がある。ただ、暖房用石油製品需要の中心地である米国北東部において、この先平年を割り込む気温が長期化したり、気温が平年を大きく割り込む旨の予報が発表されたりすると、一時的であれ、市場での暖房油を含む暖房用石油製品需給の引き締まり感の強まりから、暖房油価格が上昇するとともに、その影響で原油価格も上昇する場面が見られることもありうる。また、冬場の期間中、寒波が南下することにより、製油所の操業に支障が発生したり、石油・天然ガス生産関連施設や製油所等においてパイプ等の資機材に凍結が発生したり、もしくは電力需給逼迫等の影響で生産関連施設や製油所等向けの電力供給が停止することにより、原油、天然ガスもしくは石油製品等の供給が減少する結果、原油価格等に上方圧力が加わるといった事象が発生する可能性も否定できない。他方、寒波の来襲に伴い、個人の外出が敬遠されるようだと、乗用車等向けのガソリンの需要が低迷すると言った展開となることもありうる。1月13~14日を中心とする時期においては、テキサス州等の南部を含め米国の大部分に記録的な寒波が来襲するものと予想されており、北東部の暖房用石油製品需要が喚起されると観測が発生しやすい一方、テキサス州等の油田における原油等の生産や製油所等における石油製品の生産を含む石油供給への影響が懸念されるところであり(米国ではそれまで100万Btu当たり3ドル程度であったスポット天然ガス価格が寒波来襲に対する懸念を織り込んで1月12日には同15~17ドル程度にまで跳ね上がったと伝えられる他、同国ノースダコタ州では寒波来襲により州内の原油生産が日量25~28万バレル減少した旨同州パイプライン当局(North Dakota Pipeline Authority)が明らかにしたと1月14日に報じられる)、寒波の石油市場等への影響につき注視する必要があろう。
OPECプラス産油国は2月1日に共同閣僚監視委員会(JMMC: Joint Ministerial Monitoring Committee、約2ヶ月に1回の割合で開催され、原油生産方針につき進言を行う等する他、石油市場の展開に対処するために、必要に応じていつ何時でも追加会合を開催したり、OPECプラス産油国閣僚級会合の開催を要請したりする権限を持つ)を開催する予定である。11月30日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、第1四半期において自主的な追加減産を実施する旨事実上決定したが、次回JMMCにおいては、第2四半期以降の追加減産実施につき協議される可能性がある。前回のOPECプラス産油国閣僚級会合においては、原油生産目標設定を巡りアンゴラが同意しなかったこともあり、公式な減産措置を巡る合意が見送られるとともに、自主的な減産の実施を事実上決定するにとどまったことにより、OPECプラス産油国の結束や減産の遵守に対する市場の懐疑的な見方を誘発した結果、会合後に原油相場が下落することとなった。その後、自国の利益に合致しないとしてアンゴラがOPECを脱退した(12月21日にアンゴラが表明した)ことにより、OPECプラス産油国全般に渡る公式な減産措置を巡る合意は相対的には得られやすくなったものと見られるが、前回のOPECプラス産油国閣僚級会合において事実上決定された自主的な減産に参加していない産油国も依然見られることから、そのような産油国を含め公式な減産措置の実施で合意できるかどうかが市場の注目点となるであろう。JMMCにおいて公式な減産措置の実施で合意できるようであれば、OPECプラス産油国間での結束と減産遵守に対する市場の懸念はひとまず後退することにより、原油価格が持ち直す場面が見られることもありうる。しかしながら、公式な減産措置の実施決定が見送られたり、自主的な減産の継続を事実上決定するにとどまったりするようであれば、OPECプラス産油国間で意見の相違が発生しているとの観測が市場で増大するとともに、OPECプラス産油国の結束と減産遵守を巡る懐疑的な見方が市場で拡大する結果、原油相場に下方圧力が加わる可能性もある。そして、JMMC開催が接近する時点におけるOPECプラス産油国関係者による発言や動き、及びJMMCにおける決定事項やそれを巡る関係者の発言等が、原油相場に影響を与えるものと考えられる。
また、1月7日にサウジアラビアが2月の原油販売価格を明らかにしたが、米国、欧州及びアジアと言った主要消費市場に向け原油価格を引き下げたうえ、アジア向けアラブ・ライト原油を1バレル当たり2ドル引き下げ(市場の事前予想は同1.25ドルの引き下げであった)、2023年1月(この時は同2.20ドルの引き下げ)以来の大幅引き下げとなった他、中東指標原油(ドバイ原油とオマーン原油の平均価格)に1バレル当たり1.5ドルの上乗せと2021年11月(この時は同1.3ドルの上乗せ)以来の低水準の上乗せ幅となった。2月は冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製品需要の終了が視野に入り始めることから、季節的に石油需給が緩和しやすいこともあり、この時期サウジアラビア等の産油国が原油販売価格を引き下げる場面が見られることはあるが、前述のように原油販売価格を大幅に引き下げるとともにしばらくの間見られなかったような低水準の価格設定を行っていることから、世界最大の原油輸入国である中国を含め世界的に石油需給が緩和状態になっていることに伴いサウジアラビアもそれに従って価格を引き下げざるをえなくなったといった観測や、OPECプラス産油国間での合意を通じ減産を強化することにより原油価格の維持を図ってきたサウジアラビアがそのような方針の遂行継続において困難な状態に遭遇しているといった観測が市場で発生しやすくなる結果、少なくとも原油相場の上昇が抑制されやすくものと考えられる。
全体としては、今後は、不安定な中東情勢に伴う同地域からの石油供給途絶懸念、及び米国金融当局による政策金利引き下げ期待が原油相場を下支えする一方、冬場の暖房シーズンの終了が視野に入り始めるとともに春場の石油不需要期が意識されることが原油相場に下方圧力を加えやすくするものと考えられる。そしてそのような中で、米国金融当局関係者の発言や次回FOMCでの決定内容、経済指標類、米国の寒波の来襲状況、中国経済情勢、OPECプラス産油国による第2四半期以降の減産措置を巡る動向、リビアの原油生産停止状況等が原油価格変動要因として作用していくものと考えられる。
4. 世界石油市場における石油製品と原油との価格差を巡る一考察(製油所の精製利幅及びガソリン)
2022年2月24日以降のロシアのウクライナへの事実上の侵攻は、新型コロナウイルス感染拡大による深刻な経済及び社会への影響の低減と相俟って、石油製品価格、そして製油所の精製利幅に影響を与えた。ここでは、2022年以降の製油所の精製利幅及び主要石油製品の一つであるガソリンの価格動向等について主に考察を加えることとしたいが、特に石油製品価格はその原料となる原油の価格に左右される側面も強いため、各石油製品と原油との価格差(そして世界の石油精製の中心である米国(メキシコ湾岸)、欧州(ロッテルダム)、アジア、(シンガポール)の各地域の価格差)を中心に説明することとする。なお、原油価格は米国がWTI、欧州がブレント、シンガポールがドバイを、それぞれ使用するため、WTIの価格が、原油の流動性が限定される米国内陸部に位置するオクラホマ州クッシングの石油需給を反映しやすい関係上、ブレント及びドバイの各価格に対して割安になりやすい分、米国の精製利幅や石油製品との価格差が欧州及びシンガポールのそれに比べ拡大しやすい点に留意されたい。
まず、石油製品製造をめぐる製油所での利幅(ここでは、ガソリン3、軽油2、原油1の比率を用いて算出した理論上の利幅(「3:2:1クラック」)を使用することとする)について説明することとする(図16参照)。2020年3月以降新型コロナウイルス感染が拡大したことにより、各国及び地域政府においては感染抑制のため都市封鎖等の個人の外出規制および経済活動制限を強化した。これにより、石油需要が低迷するとともに石油需給が緩和したことから、石油製品製造に伴う利幅が圧迫された。この状態は、2020年12月8日に英国から新型コロナウイルスワクチン接種が開始されたことにより新型コロナウイルス感染抑制のための個人の外出規制および経済活動制限等に伴う石油需要の伸びの鈍化懸念が後退し始めるまで継続した他、比較的高度化されていない製油所で割高な軽質低硫黄原油を中心に処理する結果、収益構造が脆弱である欧州の精製に伴う利幅に特に影響を与える格好となった。そして、その後は、感染力の強い新型コロナウイルスオミクロン変異株による感染拡大の兆候により個人の外出規制及び経済活動制限等に伴う石油需要の下振れ懸念が市場で強まったことが精製に伴う利幅を抑制する場面が見られたものの、概ね当該利幅は安定的に推移した。しかしながら、新型コロナウイルス感染抑制による個人の外出規制および経済活動制限等の緩和による石油需要の回復期待が市場で広がる中、2022年2月24日にロシアがウクライナへの事実上の侵攻を開始して以降は、ロシアからの原油及び石油製品の輸出に支障が発生することによりロシアから原油や石油製品を輸入している欧米諸国における石油需給が引き締まる可能性があることに対し市場で不安感が増大した他、夏場のドライブシーズンに伴うガソリンや軽油の需要期を迎えつつある欧米諸国やアジアにおいて、新型コロナウイルス感染によるサプライチェーン混乱等の影響で石油製品需要を満たすような精製能力が確保できないのではないかとの懸念が市場で広がったことが、石油製品価格を押し上げた結果、2022年2月から6月にかけては世界的に製油所の精製利幅が拡大したが、特にロシアの原油や石油製品取引関係の深かった欧州や欧州から距離が近くロシア産原油や石油製品の代替としての石油製品供給源となりうる米国において精製利幅の拡大が相当程度顕著であった一方、新型コロナウイルス感染拡大の兆候に対しいわゆる「ゼロコロナ政策」に伴う新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖を含む個人の外出規制及び経済活動制限等を徹底して実施したことにより中国を中心として石油需要の下振れ懸念が増大したことから、シンガポールでの精製利幅は他の地域に比べ伸び悩む場面が見られた。また、例えば2022年6月13日にはEIAが調査する米国ガソリン小売価格が1ガロン当たり5.107ドルと1993年4月以降の同国週間統計史上最高水準に到達する等した(なお、その後同月の全米平均ガソリン小売価格は同5.032ドルへと下方修正されたが、依然として統計史上最高水準であることに変わりはない)ことを含め、同国で物価上昇が加速した(2022年6月の同国CPIは前年同月比9.1%の上昇と1981年11月(このときは同9.6%の上昇)以来の高水準となった)ことにより、6月14~15日および7月26~27日に、それぞれ開催されたFOMCにおいて、各々0.75%の大幅な政策金利の引き上げが決定されたこともあり、7月以降米国のガソリン需要が大幅に減少するようになった。一方で、欧州でも物価上昇沈静化のため、9月8日に開催されたECB理事会において、史上初めて0.75%の政策金利の引き上げが決定される等した。このため、欧米諸国等では景気後退局面に突入するとともに石油需要が影響を受けるのではないかとの不安感が市場で増大した結果、石油製品価格に下方圧力が加わるとともに、石油製品の下落に原油価格の下落が追い付かなかったこともあり、精製に伴う利幅が縮小することとなった。また、中国における新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖を含む厳格な個人の外出規制及び経済活動制限の実施により、同国を中心としたアジア地域の経済減速と石油需要の伸びの鈍化懸念が市場で拡大したことに加え、中国において2022年第3回の石油製品輸出枠が付与された(ガソリン、ジェット燃料、軽油及び低硫黄重油で合計1,500万トン(うち175万トンが低硫黄重油と見られる)の輸出枠付与を中国政府が最終決定した旨9月30日に報じられた)こともあり、中国からの石油製品輸出活発化に伴いアジア地域で石油製品需給が緩和するとの観測が市場で発生したことから、2022年10月の同地域の精製利幅は他の地域の精製利幅に一層劣後する格好となった。
また、2022年9月の米国を含む北半球における夏場のドライブシーズンに伴うガソリン等の需要期終了に伴い、それが視野に入り始めた2022年8月からガソリン等の需要期が終了した9月にかけては米国、欧州及びシンガポールの各地域の精製利幅は縮小する傾向を示した。それでも冬場の暖房シーズン到来に伴う暖房用石油製品需要期が視野に入り始めた2022年10月にはロシアからのパイプライン経由での天然ガス供給が削減されたこと(注)により欧州等における天然ガス需給引き締まりに伴う暖房用石油製品への代替需要が発生する可能性があることに対する懸念から軽油価格が押し上げられた結果特に欧米諸国を中心として製油所の精製利幅が上振れする場面が見られた。しかしながら、ロシアにおける原油生産が当初見込み(2022年3月の時点では4月以降同年末にかけ同国原油生産は同年3月比で最大日量280万バレル程度減少するものと見込まれていた)程下振れしない旨明らかになった(2022年8月時点で同日量20万バレル程度の減少にとどまっていた)他、2022年第2四半期を中心とする時期においてガソリン小売価格を含む石油製品価格が高騰したこと(前述)に加え、欧州においては天然ガス価格を含めエネルギー価格が上昇したうえ、欧米諸国等において、新型コロナウイルス感染流行が沈静化しつつあるとともに、労働市場が引き締まりつつあったこともあり、欧米諸国等の金融当局が政策金利引き上げを含め金融引き締め政策を推進し続けたことが、2022年7月以降の石油製品需要を抑制し続ける格好となったことから、一部期間を除き(2022年12月下旬に米国南部にまで寒波「エリオット(Elliott)」が来襲した結果、製油所の稼働に一部不具合が発生したため、石油製品の製造活動が不活発化したこともあり、2023年1月は製油所の精製利幅が回復する場面が見られた)、精製利幅は2023年5月にかけ低下傾向となった。その後欧米諸国は(2023年の)夏場のドライブシーズンに伴うガソリン(米国)及び軽油(欧州)石油製品需要期が視野に入ったことにより、製油所の精製利幅も拡大したが、欧米諸国等における物価上昇に伴う金融当局による政策金利引き上げによる経済減速に加え、ロシアからの石油供給減少も比較的限定的な規模であった(2023年4月以降は2022年3月比で日量50万バレル前後の減少となっていた)こともあり、2022年同時期ほど石油製品(特にガソリン及び軽油)需給の引き締まり感は意識されなかったことから、精製利幅は前年同月を相当程度下回ることとなった。
(注) ロシアから欧州方面に天然ガスを輸送する「ノルド・ストリーム1」パイプライン(天然ガス輸送能力日量53億立方フィート)において、唯一稼働していた天然ガス送出用タービンのメンテナンス作業実施により、2022年8月31日から9月2日にかけ操業を停止する旨8月19日午後遅く(中央ヨーロッパ時間)にロシア国営ガス会社ガスプロムが発表した(メンテナンス作業終了時に、技術的な不具合が見当たらないようであれば、足元の天然ガス輸送量(輸送能力の約20%に当たる約12億立方フィート)の輸送を再開する意向である旨併せてガスプロムは明らかにした)が、メンテナンス作業実施中に同タービンでオイル漏洩が発見されたことにより、当該タービン改修のためパイプラインの操業再開を延期する(再開時期は未定であった)旨9月2日にガスプロムが明らかにしたことにより、欧州での天然ガス需給引き締まり観測が市場で増大した。その後9月26日にはノルド・ストリーム1パイプラインにおいて天然ガス漏洩が発生したことにより、同パイプラインは現在に至るまで稼働を停止したままとなっている。
他方、2022年11月30日に広東省広州市及び河南省鄭州市等において新型コロナウイルス感染抑制策が緩和されて以降、中国では、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制や経済活動制限が緩和され続けたことにより、個人の外出が促進されるとともに経済活動の回復に対する期待が広がったこともあり、2023年第1四半期にはアジアの製油所の精製利幅は持ち直す兆しを見せた。しかしながら、中国においては、新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な対策実施への反動から感染抑制策緩和後の春節(旧正月)の休暇シーズンを中心として個人の外出が活発化するとともにガソリン需要が一時的に回復したと見られるものの、その動きが一巡した後は、ガソリン需要の伸びが鈍化したと見られる一方、同国の製造業の回復が不安定であったこともあり、産業や物流部門における軽油需要はもたつく状態が継続することとなった。このため、2023年第2四半期以降はアジアの製油所における精製利幅は総じて欧米諸国のそれに劣後する形で推移している。
次に、ガソリン価格と原油との価格差(どの地域においても通常ガソリン価格が原油価格を上回る状態となっている)について見てみることとしたい(図17参照)。新型コロナウイルス感染抑制のための都市封鎖措置を含む個人の外出規制強化により通勤や行楽に使用される乗用車での移動が制限され、ガソリン需要減少に直結する格好となったことが、特に2020年3月以降世界的にガソリンと原油との価格差の縮小に寄与した。しかしながら、2020年12月~2021年1月以降は新型コロナウイルスワクチンの接種普及の進展とともに、個人の外出規制が緩和されたことにより、乗用車での往来が活発化するとともに、ガソリン需要が回復傾向となった他、更に新型コロナウイルス感染が収束することにより一層乗用車での移動が促進されるとともにガソリン需要が上振れするとの観測が市場で発生したことがガソリン価格を押し上げた結果、ガソリンと原油との価格差は拡大傾向を示した。また、2021年11月から2022年1月にかけてを中心とする時期においては、感染力の強い新型コロナウイルスのオミクロン変異株による感染流行により、個人の外出が抑制される結果ガソリン需要が低迷するとの懸念が市場で増大したことがガソリンと原油との価格差を圧迫したものの、やがて新型コロナウイルスのオミクロン変異株は、感染力は強いものの、重症化率、入院率及び死亡率はそれほど高くないということが判明するにつれ、個人の外出が促されることに伴うガソリン需要回復期待が市場で強まるとともに、ガソリンと原油との価格差は再び拡大し始めた。さらに、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻実施に伴い、夏場の消費国のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期突入を控えロシア産の原油や石油製品の欧米諸国等への供給を巡る混乱に伴うガソリン供給への支障に対する懸念が市場で増大したことが、ガソリン価格を押し上げた結果、2022年2月から6月にかけガソリンと原油との価格差は大幅に拡大した。しかしながら、ガソリン価格が上昇したこともあり、世界各国及び地域の消費者物価が上昇し続けたことにより、2022年7月以降米国においてガソリン需要が前年同期を大きく下回る等低迷するようになった他、8月に入ると夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の終了が市場関係者の視野に入るようになったことが、ガソリン価格を押し下げる方向で作用したことから、7月以降ガソリンと原油との価格差は縮小する傾向を示した。また、2022年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した(2022年の米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期は9月3~5日の連休を以て終了した)ことが、世界的にガソリン価格に一層の下方圧力を加えた結果、これがガソリンと原油との価格差を縮小させる形で作用した。しかしながら、メンテナンス作業実施等を含め製油所の稼働が低下したことに伴い石油製品製造活動が不活発化している時期において、9月22日以降フランスで給与水準引き上げ等の労働条件改善を要求した労働者によるストライキが拡大、10月4日時点で同国の原油精製能力(2022年時点で日量114万バレルとされる)の65%程度に相当する日量74万バレル程度の原油精製能力を保有する製油所の稼働が停止した(10月19日以降同国での製油所ストライキは終息に向かい初め、11月8日の同国フェイザン(Feyzin)製油所(操業者:トタル・エナジーズ、原油精製処理能力日量11万バレル)の操業再開を以て、全ての製油所でのストライキは終了したとされる)。このため、欧州や欧州からガソリンを輸入している側面のある米国において2022年10~11月にはガソリンと原油との価格差が拡大する場面が見られた。
他方、アジアにおいても、ロシアのウクライナへの事実上の侵攻に対する西側諸国等による対ロシア制裁の実施に伴う、ロシアからの原油及び石油製品供給上の支障と夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来によるガソリン需給の引き締まりの可能性に対する市場の懸念を反映し、2022年前半を中心とする時期においては、ガソリンと原油との価格差は拡大する傾向を示した。しかしながら、中国において新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な個人の外出規制が続いたことにより、同国のガソリン需要不振に対する懸念が市場で増大したこともあり、2022年後半にはアジアにおけるガソリンと原油との価格差は縮小するともに、その価格差は欧米諸国に比べ劣後するようになった。それでも、2022年12月以降中国では新型コロナウイルス感染抑制のための厳格な対策が緩和され始めるとともに春節(旧正月、2023年は1月22日となり、これに伴い中国では1月21~27日が休暇期間となったが国及び地域によって若干異なる場合がある)を控え個人の外出が活発化したことにより、ガソリン需要が盛り上がるとともに当該製品価格に上方圧力が加わった結果、アジアにおいてガソリンと原油との価格差が拡大する場面が見られた。
また、欧米諸国においても、2023年に入ると、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が意識され始めたことに加え、フランスにおいて、年金受給開始年齢を従来の62歳から64歳に引き上げることに抗議し、3月6日より各地でストライキが実施された結果、一時は同国の製油所の原油精製能力日量約114万バレル中少なくとも日量90万バレル相当分の能力が稼働停止に追い込まれた(その後ストライキが終息に向かったことにより4月16日までに同国の主な製油所の操業は再開した)。このため、2023年3~4月は欧米諸国におけるガソリン価格に上方圧力が加わった結果、ガソリンと原油との価格差が拡大する場面が見られた(なお、フランスのストライキ終息後の5月には価格差は縮小している)。さらに、米国が夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期に突入した(2023年の同国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期は5月29日の同国戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)に伴う連休(5月27~29日)から9月4日の同国労働者の日(レイバー・デー)に伴う連休(9月2~4日)までであった)後、オランダのパーニス(Pernis)製油所(操業者:シェル、原油精製処理量日量40.4万バレル)の漏洩による停止(6月6日同社発表)に続き、6月15日にドイツのゴドルフ(Godorf)製油所(操業者:シェル、原油精製処理能力日量19万バレル)の操業が停止した(装置の不具合発生によるものである可能性がある旨示唆される)旨6月16日に伝えられるなど、欧州の主要製油所の稼働停止が相次いだことにより、欧州から米国に向けたガソリンの輸出等に支障が発生する可能性があるとの観測が市場で増大するとともに欧米市場において当該製品価格が上昇した他、その影響をアジア市場も受けたことから、2023年6~8月においては世界の主要国及び地域においてガソリンと原油価格の価格差は拡大傾向を示した。さらに、ガソリン需給の引き締まり感は夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した後にも引き継がれたことにより、9月のガソリンと原油の価格差は縮小したとはいえ限定的な規模にとどまった。このようにガソリン製造を巡る採算性が比較的良好であったことから、秋場の製油所のメンテナンス作業実施時期に突入したものの、特に欧州においては製油所のメンテナンス作業を当初予定よりも軽度なものにしたと言われている(また、米国における製油所での原油精製処理量も概して底堅く推移した)ことにより、9月においてはかえって同地域における製油所での原油精製処理量が増加するなどしたが、その結果、米国では同月においてガソリン在庫がそれなりの増加した(2023年9月末の同国のガソリン在庫は2.30億バレルと前月末(2.21億バレル)比で4%近く増加した)ため、2023年10~11月の欧米(及びその影響を受けたアジア)のガソリンと原油との価格差は9月に比べ縮小する格好となった。
他方、2022年においては、米国の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期を控えた3~5月は米国のガソリン価格が欧州に比べ相対的に堅調に推移しやすい(欧州は自動車用燃料として軽油が使用される比率が高い反面、ガソリンが使用される比率が相対的に低い)ことを反映し、米国のガソリン価格が欧州のガソリン価格を上回る幅が拡大した(図18参照)。他方、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了する秋場及び冬場には米国のガソリン価格が下落することにより、欧州のガソリン価格との差が縮小する傾向が認められた。もっとも、2022年2月24日にロシアがウクライナに事実上の侵攻を開始した後、3月8日に米国や英国がロシア産原油等の輸入を禁止する旨発表して以降、大西洋圏を中心とした石油市場において夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期到来に向けガソリンを中心として石油需給が引き締まるとの観測が市場で発生したこともあり、米国へのガソリン輸入が低迷する反面、米国からのガソリン輸出が堅調に行なわれたこともあり、3月から5月にかけてを中心とする時期において同国のガソリン在庫は概ね低水準で推移したことから、米国のガソリン価格の欧州のガソリン価格を上回る幅が拡大した。このため、特に5月から6月にかけ欧州から米国に向けてのガソリン輸出が活発化したことが、欧州のガソリン在庫が減少させるとともに同地域のガソリン価格を押し上げた結果、同年6~7月には米国と欧州のガソリン価格差が縮小する場面が見られた。その後夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了した2022年9月から2023年2月にかけては、米国と欧州とのガソリン価格差が夏場の需要期と比べ相対的に縮小する格好となった。そして、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が視野に入り始めた2023年3月からは再び米国と欧州とのガソリン価格差は拡大したが、2023年6~8月の米国ガソリン需要は前年同月比で2.0~2.3%程度の増加と堅調であったことにより、米国ガソリン価格が欧州ガソリン価格を相当程度上回ったこともあり、欧州から米国方面にガソリンが活発に輸出された結果、かえって欧州のガソリン在庫が減少傾向となったことを反映し、8月は米国と欧州のガソリン価格差が縮小した。さらに、9月には夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了したことから、米国ガソリン価格に下方圧力が加わったこともあり、この月は欧州のガソリン価格が米国のガソリン価格を上回る場面が見られた他、10~11月においても米国がガソリン不需要期であったことを反映し、米国と欧州のガソリン価格差は縮小した状態が継続した。また、欧米地域とアジア地域のガソリン価格差(この場合多くの期間で欧米地域のガソリン価格がアジア地域のガソリン価格を上回っている)は、中国で流行し始めた新型コロナウイルス感染抑制のため上海市における都市封鎖が開始(2022年3月28日)される以前の段階で個人の自動車を利用した外出が行なわれていたことによりガソリン需要がある程度堅調であるものと市場で認識されていた2022年1~2月頃や、同国における新型コロナウイルス感染の厳格な抑制策が緩和された直後でそれまで厳しく制限されていた個人による自動車を利用した外出がこの先旺盛となることに伴いガソリン需要が喚起されるとの観測が市場で広がった2022年12月~2023年3月頃においては、欧米地域とアジア地域のガソリン価格が縮小する場面が見られた。しかしながら、2022年3~11月を中心とする期間は、米国(及び米国にガソリンを輸出する欧州)においては夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期の到来が意識された一方で、中国においては新型コロナウイルス感染の厳格な抑制策(いわゆるゼロコロナ政策)が実施されていたため個人の外出が厳しく規制されていたことにより、アジア地域のガソリン需要が低迷した(もしくは低迷するとの観測が市場で広がった)こと、2023年4~9月においても、欧米諸国においては夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が意識された一方、中国においては新型コロナウイルス感染に対する厳格な抑制策の緩和に対する反動としての個人の自動車を利用した外出の活発化が一巡した反面、同国製造業活動の回復がもたつき気味となったうえ、非製造業活動も減速気味となりつつあるなど、同国経済が軟調となる兆しが見られるようになったことから、同国を含むアジア市場でのガソリン需要の伸びの鈍化懸念が市場で発生した結果、アジア地域でのガソリン価格に下方圧力が加わったことから、欧米地域のガソリン価格がアジア地域のガソリン価格を上回る幅が拡大する場面が見られた。しかしながら、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が終了するとともに、米国のガソリン需要が季節的に減退した2023年10~11月を中心とする時期においては、米国(及び欧州)とアジアとの間のガソリン価格差は縮小する格好となっている。
以上
(この報告は2024年1月15日時点のものです)