ページ番号1010030 更新日 令和6年2月1日

トルクメニスタンがイラン経由で天然ガスの新たな輸出先を追求

レポート属性
レポートID 1010030
作成日 2024-02-01 00:00:00 +0900
更新日 2024-02-01 14:22:11 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガス資源情報
分野 天然ガス・LNG
著者 四津 啓
著者直接入力
年度 2023
Vol
No
ページ数 6
抽出データ
地域1 旧ソ連
国1 トルクメニスタン
地域2
国2 アゼルバイジャン
地域3 中東
国3 イラン
地域4
国4 トルコ
地域5
国5 イラク
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,トルクメニスタン,アゼルバイジャン中東,イラン,トルコ,イラク
2024/02/01 四津 啓
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概要

  • 世界第4位の天然ガス埋蔵量を誇るトルクメニスタンが、中国に偏っている天然ガス輸出先を従来とは異なる方法で増やそうとしている。南の隣国イランに天然ガスを送り、それに応じた量をイランから第三国に送るという、イラン経由のスワップ(交換)取引である。
  • この方法でトルクメニスタンはアゼルバイジャン向けの新たな輸出を2022年から開始し、さらに2023年以降はイラク向け、トルコ向けの輸出も計画・検討している。
  • トルクメニスタンが長年追求している新たなパイプラインの敷設計画(TAPIパイプラインとカスピ海横断パイプライン)が前進しない中、イランの天然ガス輸送インフラを利用することで、新規インフラ投資を伴わずに、トルクメニスタンが国境を直接共有しない国にも輸出先を拡大することができる点で、イラン経由スワップは画期的である。
  • トルクメニスタンからイランへ天然ガスを輸送するパイプラインは2本あり、輸送能力は年間20BCM程度。イランへの直接輸出とスワップ取引を合わせて年間最大20BCM程度までこのルートで天然ガスを輸出することがありうる。ただしスワップ取引では仲介国を挟むことで輸出国が関与できない輸送の不確実性や仲介コストが上昇するリスクが伴う。輸出ルート分散を目指し、従来通りの新パイプライン建設の実現を追求するトルクメニスタンの基本姿勢は変わらない。

 

1. トルクメニスタンの天然ガス輸出先の分散構想

天然ガスの輸出先が中国に大きく偏っているトルクメニスタン(図1)の輸出ルート分散構想には、TAPIパイプライン、TCPがある(図2)。[1]

TAPI(トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタン・インド)パイプラインは、トルクメニスタン東部の大ガス田ガルキニシュの開発第3フェーズを供給源として、アフガニスタン、パキスタンを通りインド北部まで天然ガスを輸送するという計画である。輸送能力は年間33BCM(billion cubic metres)で想定され、トルクメニスタン国内部分はすでに敷設されている。アフガニスタン、パキスタン、インド各国で十分な需要が見込まれる一方、アフガニスタンの情勢不安を主な原因として工事事業者と建設資金の確保が行き詰まり、停滞が長年続いている。

TCP(カスピ海横断パイプライン)は、トルクメニスタンで生産された天然ガスを、カスピ海を横断して対岸のアゼルバイジャン経由で欧州向けに輸出するパイプライン構想で、年間輸送能力10BCMから30BCM程度の規模で建設することが長年議論されている。2018年にカスピ海沿岸5か国間で締結された「カスピ海の法的地位に関する条約」により、パイプラインの建設自体は通過当事国(トルクメニスタンとアゼルバイジャン)同士の合意で可能となっているが、建設のための環境影響調査には他の沿岸国の同意が必要であり、建設に否定的なロシアとイランから同意を得る必要がある。また、対岸のアゼルバイジャンも、2020年末に全面開通した「南ガス回廊」(南コーカサスパイプライン(SCP)、アナトリア横断パイプライン(TANAP)、アドリア横断パイプライン(TAP)からなる、アゼルバイジャンから欧州向けに天然ガスを供給するパイプラインルート)の唯一の天然ガス供給国として戦略的に重要な立場を確立しつつあり、TCPを建設することでその立場と「南ガス回廊」のインフラをトルクメニスタンと共有することに積極的な関心はない。アゼルバイジャンは、TCPは自国のプロジェクトではなく、資金調達の見通しが立たない限り実現することはないという立場を示している。

(図1)トルクメニスタンの天然ガス輸出先推移(単位:BCM)
(図1)トルクメニスタンの天然ガス輸出先推移(単位:BCM)
(データ出典 BP、Oxford Institute for Energy Studies、Gazprom Export、Interfax)
(図2)トルクメニスタンの天然ガス輸出ルート構想図 ((1)	TAPI(Turkmenistan-Afghanistan-Pakistan-India)パイプライン、(2)TCP(Trans-Caspian Pipeline)、(3)イランスワップ)
(図2)トルクメニスタンの天然ガス輸出ルート構想図 ((1)TAPI(Turkmenistan-Afghanistan-Pakistan-India)パイプライン、
(2)TCP(Trans-Caspian Pipeline)、(3)イランスワップ)
(各種情報からJOGMEC作成)

2. イラン経由のスワップ取引

従来のパイプライン構想に進捗が見られない中で、トルクメニスタンはさらに新しい方法で輸出ルートの開拓を進めている。それが、イラン経由のスワップ(交換)取引である。これはトルクメニスタンからイランの北部に天然ガスを送り、それに基づいてイランが国境を接する第三国に天然ガスを引き渡すという取引で、トルクメニスタンから輸出相手国までつながるパイプラインシステムが存在しなくてもイランが国境を接しパイプラインで接続している国向けであればトルクメニスタンから輸出できるというものである。

 

(1) スワップ取引のイラン側の背景

イランは世界2位(トルクメニスタンは世界4位)の天然ガス確認埋蔵量を抱え、生産量もトルクメニスタンの3倍以上に上る。しかし生産地域が南部のペルシャ湾とその周辺に集中し、北部と東部には生産拠点がなく輸送インフラも不足する(図3)。トルクメニスタンとはKorpedje-Kordkuyパイプライン(イラン北部)とDauletabad-Serakhs-Khangiranパイプライン(イラン北東部)がつながっていて、これによりトルクメニスタンからの天然ガスを受け入れることができる。

以前、イランはトルクメニスタンの主要な天然ガス輸出先の一つだったが、2000年代から価格をめぐって対立しイランからの輸入代金の支払いが滞ったため、2018年1月にトルクメニスタンはイラン向け天然ガス輸出を停止した。その後イラン国内の需要の高まりで北部エリアのガス・電力不足が深刻化し、トルクメニスタンからの輸入再開を求める声が強くなった結果、不払い問題に解決の兆しが見られ[2]、2022年に輸入が再開している。

(図3)イランの主な天然ガスパイプラインイメージ
(図3)イランの主な天然ガスパイプラインイメージ
(各種情報からJOGMEC作成)

(2) アゼルバイジャン向け

スワップによるトルクメニスタンからアゼルバイジャンへの天然ガス輸出について、関係3か国は2021年11月に合意し、2022年1月に輸出が開始された。合意済みの取引量は年間1.5BCMから2BCMとされ、さらに2022年6月には、イランとアゼルバイジャンが取引量を2倍に増やすことで基本合意している。[3]

アゼルバイジャンは「南ガス回廊」による西向けの輸出量を増やしていて、自国産の天然ガスを輸出に集中させるため、国内の天然ガス需要をトルクメニスタンからの輸入で賄おうとしている構図がうかがえる。

なお、アゼルバイジャンは飛び地であるナヒチェバンに天然ガスを供給するためにイランとスワップ取引を行っている。これはアゼルバイジャン本土からイランに天然ガスを送り、それに見合う量をイランがナヒチェバンに送るというもので、契約量は年間2BCM程度である。この取引では、イランが手数料としてアゼルバイジャンからの受取量の2割弱(15%)を差し引いているとされている。トルクメニスタンからアゼルバイジャンへの供給取引でイランが設定している手数料の水準は不明だが、同様に15%程度である可能性がある。

 

(3) イラク向け

2023年8月には、トルクメニスタンがイラク向けの天然ガス輸出についてイラクと初期的に合意したと発表され[4]、11月にはTurkmengazとイラク電力省が、トルクメニスタンからイラクへの天然ガス販売に関する文書を締結した。この文書では、トルクメニスタンがイラクに対し、イラン経由のスワップ取引で天然ガスを年間9BCM、5年間供給することとされた[5]。ただし供給開始時期は未定である。

イラクは石油の生産量で世界5位に位置するが、ガスの処理施設が足りず、随伴ガスの多くがフレアされるか地下に再圧入されている。国内消費量の伸びに対して販売用の天然ガス生産量は少なく、ガスの活用が遅れている状況にある(図4)。国内の生産だけでは不足するガスをイランから輸入しているが、国際的な対イラン制裁によりイランへのガス料金の支払いで問題が生じ、さらにイラン国内の需要増加も影響して、イランからイラクへのガス供給は不安定になっている。そこでトルクメニスタンから新たに輸入することで、イラン以外からのガス調達を確保しようとしている。イランからイラクに対しては2本のパイプラインで天然ガスの輸送が可能である。

(図4)イラクのガス消費量と生産量(単位:BCM)
(図4)イラクのガス消費量と生産量(単位:BCM)
(データ出典 Energy Institute Statistical Review of World Energy 2023(EI2023))

(4) トルコ向け

またトルクメニスタンからトルコに対しても、従来はカスピ海を横断しアゼルバイジャンを経由して天然ガスを輸送することが協議されてきたが、2023年12月にアシガバードで開かれたトルクメニスタンとトルコの経済協力に関する政府間会議ではイラン経由による輸送が言及され[6]、その実現に向け交渉が実施されている模様である。イランからトルコ向けには輸送能力年間14BCMの天然ガスパイプライン(Tabriz-Ankara)があり、現状では年間10BCM弱が輸出されている。

トルコの国内天然ガス需要は大きくかつ増加傾向にあるが、調達は順調であり、輸入元もうまく分散している(図5)。さらに2023年には黒海沖の大型ガス田サカルヤから生産が始まったとされていて、計画通り年間約15BCMの生産を達成すれば、天然ガス需要の3割程度を自国生産で賄えるようになる。その状況下でトルコがトルクメニスタンからも天然ガスの輸入を検討するのは、輸入元に対するバーゲニングパワーを強め、ガス調達価格の引き上げを牽制する狙いがあると考えられる。

(図5)トルコの天然ガス輸入の国別内訳(単位:BCM)
(図5)トルコの天然ガス輸入の国別内訳(単位:BCM)
(データ出典 BP統計、EI2023、Republic of Türkiye Energy Market Regulatory Authority)

3. 潜在的な輸出先

イランと国境を共有する国は他にアルメニア、パキスタン、アフガニスタンがある。このうちアルメニアに対してはイランから天然ガスを輸出するパイプライン(年間輸送能力2.3BCM)があり、現在はアルメニアからの電力供給と交換で天然ガスを年間0.4BCM程度輸送している。パキスタン向けのガスパイプラインは2013年から建設計画があって、イランでは建設を進めたものの、対イラン制裁の観点から米国がパキスタンに圧力をかけているためパキスタン区間が敷設されず実現していない。アフガニスタン向けパイプラインの建設も構想としては存在し、2国間で協議されている模様だが、実現の見通しは立っていない。したがってトルクメニスタンにとって、イラン経由スワップ取引による天然ガスの輸出先としては既存インフラのあるアルメニアが次の候補となりうる。

トルクメニスタンからイランに天然ガスを輸送できる2本のルート、Korpedje-KordkuyパイプラインとDauletabad-Serakhs-Khangiranパイプラインの輸送能力は合わせて年間最大20-25BCM程度である。現状はその能力の3分の1以下でしか稼働していない。輸送量の増大には補修が必要かもしれないが、単純に考えれば、トルクメニスタンからイランへ直接輸出する量と、イラン経由スワップで第三国に輸出する量は年間20BCM程度まで拡大できる。この数字は、年間天然ガス輸出量約50BCMのうち8割以上が中国向けとなっている(図1参照)トルクメニスタンにとってかなり大きく、この輸出ルートをトルクメニスタンが有効活用しようとするのは不思議ではないだろう。

しかしスワップ取引には、輸出相手国への実際の天然ガス引き渡しを仲介国イランに委ねることになり、輸出国側が関与できないイラン国内の設備の不調、上流の生産状況、社会情勢の変化等の影響を受けるリスクを伴う。例えばイラン国内の天然ガス需要が高まってイランから輸出相手国向けの引き渡しが滞ったり、スワップ手数料(現状の水準は不明だが、トルクメニスタンからの輸送量の一部が差し引かれていると考えられる)の引き上げを求められたりすることがありうる。また、厳しい経済制裁が課されているイランを取引のパートナーとすることにもリスクがある。在トルクメニスタン米国大使のマシュー・クリモフ氏は、トルクメニスタンからアゼルバイジャンへの天然ガス輸出は制裁対象となっていないとする一方、制裁対象となるかは取引次第であると述べ[7]、トルクメニスタンからのイラン経由スワップによる輸出が全て制裁対象外になるとは限らないことを示した。

大規模な追加インフラ投資を伴わずに輸出先を拡大できる画期的なスワップ取引を追求しつつ、従来通りの新パイプラインプロジェクトの実現を目指すトルクメニスタンの基本姿勢は変わらないだろう。

 

 

[1] 四津啓「トルクメニスタンの天然ガス輸出戦略~上流事業とガス輸出状況~」『JOGMEC 石油・天然ガスレビュー』、2022年3月30日 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/review_reports/1009247/1009311.html

[2] トルクメニスタンとイランのガス代金問題について、トルクメニスタンが2016年に国際仲裁裁判所(ICA)に訴えを起こし、2020年にICAはイランに対しトルクメニスタンに合計18億ドルの支払いを妥当とする判決を下した。その後2021年9月に行われたイランとトルクメニスタンの首脳会談では両者が未払い問題と天然ガス供給再開で合意したと報じられている。次の記事も参照”Presidents of Turkmenistan and Iran hold a bilateral meeting in Dushanbe,” Orient, 18 Sep 2021, https://orient.tm/en/post/34497/presidents-turkmenistan-and-iran-hold-bilateral-meeting-dushanbe また ”Иран вернет Туркменистану старый долг за газ,” 15 Jun 2022, https://www.ng.ru/cis/2022-06-15/5_8461_turkmenistan.html

[3] 四津啓「南ガス回廊の輸送能力拡張に向けた現状」『JOGMEC石油・天然ガス資源情報』、2022年9月14日 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009226/1009463.html

[4] “Iraq Signs Preliminary Agreement with Turkmenistan to Import Gas,” BT, 25 Aug 2023, https://business.com.tm/post/10680/iraq-signs-preliminary-agreement-with-turkmenistan-to-import-gas

[5] “Turkmenistan to supply Iraq with 9 bcm of gas annually via Iran,” Interfax, 9 Nov 2023, https://interfax.com/newsroom/top-stories/96329/

[6] “A meeting of the Intergovernmental Turkmen-Turkish Commission on Economic Cooperation was held in Ashgabat,” Ministry of Foreign Affairs of Turkmenistan, 07 Dec 2023, https://www.mfa.gov.tm/en/news/4260

[7] “Swap supplies of Turkmen gas to Azerbaijan via Iran do not violate sanctions - U.S. ambassador,” Interfax, 12 Jan 2024, https://interfax.com/newsroom/top-stories/98367/

 

以上

(この報告は2024年1月29日時点のものです)

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